特許異議申立
2021-700893
シール材
- 審判番号
- 2021-700893
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-549227
- 登録番号
- 6843265
- 請求日
- 2021年09月16日
- 審決日
- 2021年12月23日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】NOK株式会社
- 【権利者代理人】吉田 俊夫
- 【権利者代理人】吉田 和子
- 【異議申立人】菅原 フミ
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 健史
- 審判官 近野 光知
- 審判官 土橋 敬介
- 分類
- P1652.121-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6843265号発明「シール材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6843265号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6843265号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、平成30年10月10日(優先権主張 平成29年10月17日 日本国)を国際出願日とする出願に係る特許であって、令和3年2月25日に設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年3月17日である。)。
その後、令和3年9月16日に、本件特許の請求項1に係る特許に対して、特許異議申立人である菅原フミ(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
請求項1~6に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明は以下のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「アクリロニトリル-ブタジエン2元共重合ゴムの水素化物である、アクリロニトリル含量15~22%の水素化NBR100重量部に対して、凝固点が-40℃以下でかつ分子量が500~1000のエステル系可塑剤10~40重量部および有機過酸化物1~10重量部を配合してなる水素化NBR組成物の架橋成形物である、低温弾性回復試験におけるTR-10値が-36℃以下であるシール材。」
第3 特許異議申立書に記載された申立ての理由
申立人は、本件発明1は下記のとおりの理由があるから、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであると主張し、証拠方法として、下記の甲第1号証及び甲第2号証(以下、順に「甲1」等という。)を提出した。
請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2003-268182号公報
甲第2号証:特開2005-285537号公報
参考資料:「可塑剤・ポリ塩化ビニル用安定剤 アデカサイザー アデカスタブ 製品一覧」、株式会社ADEKA、<https://www.adeka.co.jp/chemical/catalog/pdf/J01-1219C_No.5-6.pdf>
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 甲号証に記載された事項
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】フッ素ゴムは、高価ではあるが、非常に高い特性を持つため、使用条件の厳しい部位で汎用されている。フッ素ゴムの特徴としては耐熱性と耐薬品性が主に挙げられる。耐熱性についてみれば、他のエラストマーでは使用のできない200℃を超える高温下での使用が可能である。耐薬品性も一部の薬品を除きほぼ対応可能であり、このため、非常に広い範囲での使用が可能である。しかし、構造上の点から低温下での使用性(以下、「低温性」と言う)が非常に悪く、一般に、精々-20℃までの環境でしか使用できず、それよりも低温での使用が困難であった。フッ素ゴムの加工性が他のエラストマー(NBR、EPDM、Q等)のそれに比べて悪いことも否定できない。
【0003】自動車のように寒冷地での使用を必要とするなら、そこに使用されるゴム材料は、-30℃を下回る超寒冷下(例えば、-35℃の極低温下)での使用を可能とするものでなければならない。しかも、エンジン周りの高熱に耐え得るだけの耐熱性(例えば、150℃はクリア)も持つべきである。ATF・ギヤ油・ガソリンなどに対する耐性を持つ必要もある。低温性の優れたフッ素ゴムもごく少数ではあるが市場に存在している。これら低温性の優れたフッ素ゴムのうちで、もっとも優れた低温性(-50℃)を示すフッ素ゴムはパーフルオロポリエーテル単位を含む共重合フッ素ゴムである。しかし、パーフルオロポリエーテル単位を含む共重合フッ素ゴムは、非常に高価であるので、シール材等として量産するなど、通常の用途に使い難く、汎用性の面で劣る。」
イ 「【0013】本発明における、水素添加ニトリルゴム(B)は、これをフッ素系エラストマー(A)に配合することで、耐寒性と加工性の向上および高含油性の達成を可能とさせる。水素添加ニトリルゴム(B)は、ビニリデンフルオライド・テトラフルオロエチレン・パーフルオロメチルビニルエーテルより低温性が優れている必要があり、少なくともTR-10値が-35℃以下であることが好ましい。そのためには、水素添加ニトリルゴム(B)としては結合アクリロニトリル量30%以下のものを用いることが必要である。ただし、結合アクリロニトリル量が少なすぎると、耐油性が大幅に低下するため、結合アクリロニトリル量は15%以上が好ましい。ヨウ素価は低温性をあげるために高い方が良いが、高すぎると耐熱性が低下するため30(mg/100mg)以下であることが必要である。本発明において用いる水素添加ニトリルゴム(B)としては、例えば、日本ゼオン社製ゼットポール3310やゼットポール4310等が好ましい。
【0014】本発明においては、水素添加ニトリルゴム(B)をフッ素ゴム(A)に配合することで、フッ素ゴムに比較して高含油を行なうことが可能になる。フッ素ゴム(A)と水素添加ニトリルゴム(B)の配合比率はフッ素ゴム(A)/水素添加ニトリルゴム(B)=51/49~79/21であり、55/45~70/30が望ましい。水素添加ニトリルゴム(B)の比率が51/49よりも高くなると、耐油性と耐熱性に問題が生じるようになり、他方、79/21よりも少ないと、耐寒性と加工性に問題が生じるようになり、高含油も困難になる。本発明においては、可塑剤(C)を配合することで、低温性を一挙に下げる(例えば、-35℃以下)ことが可能となり、加工性の一層の向上を図ることができるようにもなる。本発明において用いる可塑剤(C)としては、フタレート系、アジペート系、セバケート系、ホスフェート系、ポリエーテル系、ポリエステル系、パラフィン系等が挙げられる。具体的には、サンソサイザーDOA(アジペート系)(新日本理化社製)、サンソサイザーDOS(セバケート系)(新日本理化社製)などが挙げられる。これらのうちで、耐熱性があり凝固点が-40℃以下の可塑剤を採用することが好ましい。可塑剤(C)の配合量は、フッ素ゴム(A)と水素添加ニトリルゴム(B)の合計100重量部に対し0.1~30重量部である。好ましくは、1~20重量部、より好ましくは4~10重量部である。」
ウ 「【0018】本発明にかかるフッ素系エラストマーは、一般のゴム組成物同様に、例えば、100~200℃の加熱温度、約0.5~120分程度の加熱時間で、加熱しつつ、加圧成形法、射出成形法等により成形することが可能である。本発明にかかるフッ素系エラストマーの使用可能部位として具体例をあげるなら、極寒地での駆動機器に用いられるギヤ油、ガソリンシール等である。
【0019】
【実施例】表1~4に示す配合処方に従い、配合することにより、実施例と比較例のフッ素系エラストマーを得て、各種物性を測定、評価した。表中の化合物名は以下の内容を指す。
フッ素ゴム:
FKM(VDF-TFE-PMVE):ダイエルLT302 ダイキン工業社製
水素添加ニトリルゴム:
耐寒性HNBR:ゼットポール4310〔ヨウ素価=5(mg/100mg)、結合アクリロニトリル量(ACN)=19(重量%)〕 日本ゼオン社製
汎用HNBR:ゼットポール2010〔ヨウ素価=11(mg/100mg)、結合アクリロニトリル量(ACN)=36(重量%)〕 日本ゼオン社製
NBR:ペルブナンNT1845〔ヨウ素価>100(mg/100mg)、結合アクリロニトリル量(ACN)=18(重量%)〕 バイエル社製
可塑剤:
CTFE:ダイフロイル#1 ダイキン工業社製
フッ化シリコーンオイル:FL100 信越化学社製
ジオクチルアジペート:サンソサイザーDOA 新日本理化社製
共架橋剤:
トリアリルイソシアヌレート:TAIC 日本化成社製
有機過酸化物加硫剤:
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン:パーヘキサ25B 日本油脂社製
充填剤:
FEFカーボン:シーストGSO 東海カーボン社製
MTカーボン:MTサーマックスFLOFORM N-990 昭和キャボット社製
ゴム薬品:
ステアリン酸:ルナックS-10 花王石鹸社製
酸化亜鉛:亜鉛華 堺化学社製
置換ジフェニルアミン:Naugard445 Uniroyal Chem社製
2-メルカプトベンズイミダゾール:ノクラックMBZ 大内新興社製
配合の仕方は、具体的には、フッ素ゴム(A)、水素添加ニトリルゴム(B)、可塑剤(C)、有機過酸化物加硫剤(D)および共架橋剤(E)を所定量秤量し、ロール混練り機で配合する。この時の混練り条件は、温度25℃、ロール回転速度20rpm、配合時間30分であった。
【0020】得られたフッ素系エラストマーから、加圧成形により2mm厚のシートを成形し、このシートから切出した試験片を以下の評価に供した。試験方法は以下のとおりである。
常態物性試験:25℃条件下、引張強さ、破断伸び、硬度を測定する。硬度はデュロメータタイプA硬さ試験で測定。JISK6251、6253に準拠。判定基準は、引張り強度9.8MPa以上、引張り伸び150%以上、引張り応力1.96MPa以上を合格とした。
浸せき試験:150℃×72時間(ガソリンのみ130℃×72時間)。試験油としてASTMNo1、IRM903、ガソリンを用いた引張強さ変化、伸び変化、引張応力変化および硬度変化を測定した。JISK6258準拠。
【0021】圧縮永久歪み試験:150℃×72時間、圧縮率25%、φ29×12.5ディスク使用。JISK6262準拠。耐熱性の判定は圧縮永久歪み率25%以下を合格とした。
低温弾性回復試験(TR試験):低温時のエラストマーの復元性を確認する。JISK6261準拠。低温性の判定はTR-10値-32℃以下を合格とした。」
エ「【0022】
【表1】
[図:0001384198000001.jpg]
(当審注:表2及び3は省略)
【0025】
【表4】
[図:0001384198000002.jpg]
」
オ 「【0028】水素添加ニトリルゴム(B)に可塑剤(C)を配合しただけの比較例12は耐寒性が-37℃程度と極めて低いが耐油性が全くない。共架橋剤(E)が配合されていない比較例13は、引張り強度が大幅に低下し、圧縮永久歪みが悪く、シール材としての特性が不十分であり、耐熱性、耐油性も劣る。」
甲1には、比較例12に着目して、次の発明が記載されている。
「耐寒性HNBR(ゼットポール4310〔ヨウ素価=5(mg/100mg)、結合アクリロニトリル量(ACN)=19(重量%)〕)100重量部、FEFカーボン(シーストGSO)60重量部、可塑剤であるジオクチルアジペート(サンソサイザーDOA)5重量部、共架橋剤であるトリアリルイソシアヌレート(TAIC)4重量部、有機過酸化物加硫剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B)2重量部、ステアリン酸(ルナックS-10)0.5重量部、酸化亜鉛(亜鉛華)5重量部、置換ジフェニルアミン(Naugard445)1.5重量部、2-メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩(ノクラックMBZ)1.5重量部を、ロール混練り機で配合し、温度25℃、ロール回転速度20rpm、配合時間30分の混練り条件で混練し、加圧成形により成形した2mm厚のシートであって、低温弾性回復試験(TR試験)においてJISK6261に準拠したTR-10値が-37℃である、上記シート」
(以下、「甲1発明A」という。)
また、比較例12のシートは、耐油性に劣るものの、耐寒性が-37℃程度と極めて低いものであることが確認されている(【0028】)。そして、比較例12が比較対象とする甲1の実施例で用いられたシートは、極寒地での駆動機器に用いられるシール材を想定した試験片であるし(甲1の【0018】)、比較例12の主成分である水素化ニトリルゴム(HNBR)が各種シール材として汎用されていることは、本件優先日時点の技術常識である(例えば、国際公開第2015/146862号(請求項1~6、【0058】及び【0060】)、特開2015-140357号公報(請求項1及び【0031】)を参照。)。
そうすると、甲1には、実施例のシートを用いたシール材との比較対象として、以下のとおり、比較例12のシートを用いたシール材も記載されているといえる。
「甲1発明Aのシートを用いたシール材」(以下、「甲1発明B」という。)
(2)甲2に記載された事項
甲2には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
総合アクリロニトリル含量が15~30重量%、よう素価が20(mg/100mg)以下である水素化ニトリルゴム(HNBR)100重量部あたり、10~100重量部のカーボンブラックを含有し、有機過酸化物で架橋されていることを特徴とする燃料電池用セパレータ用ゴムガスケット。
【請求項2】
前記水素化ニトリルゴム(HNBR)100重量部あたり、2~10重量部の可塑剤を含有することを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータ用ゴムガスケット。」
イ 「【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、シール性、抽出性、反力、耐久性等に優れ、かつ-30℃以下の低温でも十分なシール性を発現し得る燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットを提供することを目的とする。」
ウ 「【0017】
その他の添加剤として、可塑剤を添加することができる。その際、ゴム材料の耐寒性および流動性が良好になる可塑剤を選定する必要がある。可塑剤の種類、量によっては燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットの圧縮永久歪みが大きくなり、耐久性の悪化等が発生する場合もあれば、逆に耐久性が改善される場合もある。本発明で用いる可塑剤としては、例えばジ-(2-エチルヘキシル)セバケート、ジオクチルセバケート、ジブチルセバケート等のセバケート系の可塑剤が好ましい。またフタル酸ジエステル、アジピン酸ジエステル、アジピン酸エーテルエステル、イソフタル酸ジエステル、トリメリット酸トリエステル等のエステル系の可塑剤も適している。特に、オクチルトリメリテート、イソノニルトリメリテート、イソデシルトリメリテート等のトリメリテート系の可塑剤は高温時の揮発量が少なく、良好な耐熱性を示し、燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットの可塑剤には適している。それ以外にも、ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、アジピン酸ポリエーテルエステル系の低揮発性の可塑剤が好適に用いられる。可塑剤は、単独又は上記の中から2種以上組み合わせて用いられる。可塑剤量は、HNBR100重量部あたり2~10重量部が適している。可塑剤量が10重量部超では、耐フッ酸性が低下する。2重量部未満では、材料の流動性が低下し、ゴムの成形性が低下する。より好ましくはHNBR100重量部あたり4~8重量部の可塑剤を使用する。」
エ 「【0021】
このようにして得られる燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットは、低圧力、高耐久性の他、優れた耐寒性を示し、自動車用または家庭用の燃料電池用セパレータのゴムガスケットとして好適である。具体的には、JIS K6261に準じた低温弾性回復試験の結果であるTR10が-30℃、特に-35℃以下となる。従って、これら温度で、燃料等を十分にシールすることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0023】
[実施例1~6、比較例1~5]
表1に示す配合剤を、慣用の方法に従ってロール練りした。用いた原材料は次の通りである:
HNBR-1:日本ゼオン(株)製「ZETPOL4310(総合アクリルニトリル量19wt%、よう素価15)」
HNBR-2:日本ゼオン(株)製「ZETPOL3310(総合アクリルニトリル量24wt%、よう素価15)」
HNBR-3:日本ゼオン(株)製「ZETPOL2020L(総合アクリルニトリル量36wt%、よう素価28)」
シリコーン:信越化学工業(株)製ジメチルシリコーンゴム(白金触媒添加品)
EPDM:JSR(株)製「EP33」
過酸化物-1:日本油脂(株)「パーヘキサ25B(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)」
過酸化物-2:日本油脂(株)製「パーヘキシルC(t-ヘキシルクミルパーオキサイド)」
架橋助剤-1:新中村化学工業(株)製「NKエステルA-9300(イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート)」
架橋助剤-2:日本化成(株)製「TAIC(トリアリルイソシアヌレート)」
老化防止剤-1:大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジファニルアミン)」
老化防止剤-2:大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB(2-メルカプトベンゾイミダゾール)」
加工助剤-1:新日本理化(株)製ステアリン酸
加工助剤-2:エスアンドエスジャパン(株)製「ストラクトールWB222」
可塑剤-1:旭電化工業(株)製「C-9N(イソノニルトリメリテート)」
可塑剤-2:Morton International社製「TP-95(ジエステル)」
充填材-1(カーボンブラック):CANCARB社製「N-990MT」
充填材-2(カーボンブラック):旭カーボン(株)製「旭#60」
充填材-3(カーボンブラック):旭カーボン(株)製「旭#50G」
【0024】
得られた混練物を数時間後に再練りした後、熱プレスで架橋させて、シート(150×150×2t)、及び図1に示す断面形状を有するΦ30テストピース(ガスケット)を成形した。図示されるΦ30テストピース1は、2つの山2,3が積層して一体化したもので、各部の寸法は表2に示したとおりである。
【0025】
実施例1~4及び比較例1~7のシート及びテストピースについて、硬度、圧縮永久歪み、引張強さ、伸び、耐寒性、汚染性、反力、シール性等の物性及びガスケット破壊を外観で評価を行った。評価した項目を以下に記述するとともに、結果を表1に併記する。
<硬度>
高分子計器(株)製マイクロ硬度計MD-1型を用いて、測定した。
<圧縮永久歪み>
JIS K6262に準じて、150℃×22時間の条件で測定した。
<引張強さ・伸び>
JIS K6251に準じて測定した(テストピースは5号ダンベル、引張スピードは500mm/minである)。
<耐寒性>
耐寒性の評価はTR10の温度を使用した。TR10はJIS K6261(低温弾性回復試験)に準拠した。
・・・」
オ 「【0026】
【表1】
[図:0001384198000003.jpg]
」
2 本件発明について
(1)対比
本件発明と甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Bの「耐寒性HNBR(ゼットポール4310)」は、本件明細書の実施例1~3で用いられた水素化NBRと同じ商品であり、本件発明の「水素化NBR」の要件を満たすものであるから、本件発明の「アクリロニトリル-ブタジエン2元共重合ゴムの水素化物である、アクリロニトリル含量15~22%の水素化NBR」に相当する。
甲1発明Bの「有機過酸化物加硫剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン」は、本件発明の「有機過酸化物」に相当し、その含有量も本件発明の水素化NBR100重量部に対して1~10重量部を満たすものである。
そして、甲1発明Bでは、上記「有機過酸化物加硫剤」と共に「共架橋剤」を配合し「加圧成形」されたものであり、上記「加圧成形」は、甲1の【0018】に「例えば、100~200℃の加熱温度、約0.5~120分程度の加熱時間で、加熱しつつ、加圧成形法…により成形することが可能である」と記載されており、甲1発明Aの「シート」は、上記加圧成形の過程で架橋成形物になっているものと解される。これらのことから、甲1発明Aの「シート」を用いた甲1発明Bの「シール材」も、本件発明の「水素化NBR組成物の架橋成形物」に相当するといえる。
また、甲1発明Bの「可塑剤であるジオクチルアジペート」は、可塑剤である限りにおいて、本件発明の「凝固点が-40℃以下でかつ分子量が500~1000のエステル系可塑剤」に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明Bは、
「アクリロニトリル-ブタジエン2元共重合ゴムの水素化物である、アクリロニトリル含量15~22%の水素化NBR100重量部に対して、有機過酸化物1~10重量部を配合してなる水素化NBR組成物の架橋成形物である、シール材」の点で一致し、次の点で相違するといえる。
相違点1:上記水素化NBR100重量部に対して、本件発明は、「凝固点が-40℃以下でかつ分子量が500~1000のエステル系可塑剤10~40重量部」を配合するのに対して、甲1発明Bは、可塑剤であるジオクチルアジペート(サンソサイザーDOA)5重量部を配合する点
相違点2:シール材の「低温弾性回復試験におけるTR-10値」が、本件発明では、本件発明で特定される「水素化NBR組成物」の「架橋成形物」である「シール材」において「-36℃以下」であるのに対し、甲1発明Bでは、甲1発明Bで特定された成分を有する「シール材」において「-37℃」である点
(2)検討
相違点1について検討する。
甲1には、甲1に記載された発明に使用される可塑剤の具体例が記載されているが(【0014】)、本件発明のように、可塑剤の凝固点が-40℃以下であり、かつ分子量が500~1000であることの明示はない。
そこで、甲2をみると、甲2には、シール性、抽出性、反力、耐久性等に優れ、かつ-30℃以下の低温でも十分なシール性を発現し得る燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットの提供を課題とすること(【0009】)、及び、上記課題を解決するために、総合アクリロニトリル含量が15~30重量%、よう素価が20(mg/100mg)以下である水素化ニトリルゴム(HNBR)100重量部あたり、2~10重量部の可塑剤を含有すること(特許請求の範囲の請求項1及び2)が記載され、さらに、具体例である実施例2として、HNBRである「ZETPOL4310」100重量部、過酸化物である「パーヘキサ25B」(2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)4.8重量部、架橋助剤である「NKエステルA-9300」(イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート)2重量部、老化防止剤である「ノクラックCD」(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジファニルアミン)2重量部、可塑剤である「C-9N」(イソノニルトリメリテート)5重量部、カーボンブラックである「N-990MT」30重量部、カーボンブラックである「旭#60」10重量部を配合したテストピース(ガスケット)が記載され、耐寒性の指標であるJIS K6261(低温弾性回復試験)に準拠したTR10は-35℃であったことも記載されている。ここで、上記「C-9N」は、参考資料(公知日は不明)の「ゴム用可塑剤」(第8頁)に、分子量が約590、凝固点が-45℃のトリメリット酸イソノニルエステルであることが示されているから、本件発明の「凝固点が-40℃以下でかつ分子量が500~1000のエステル系可塑剤」に相当するものであるといえる。
しかしながら、甲1発明Bは、甲1の実施例の比較対象にすぎない比較例であって、甲1発明Bが解決しようとする課題も、効果や技術的意義も明らかでないものである。また、甲2に記載されたガスケットは燃料電池用であり、甲1発明Bとは耐寒性のシール材である点で共通するといえるものの、甲2に記載された事項は燃料電池用ガスケットに特有の課題を解決するものである。これらのことから、甲1における比較対象にすぎない甲1発明Bにおいて、甲2に記載された事項を適用することが動機付けられるとはいえない。
また、甲2の実施例におけるTR10は-35℃であり、甲1発明Bの-37℃より劣り、特に耐寒性に優れている(甲1の【0017】参照)甲1発明Bにおいて、甲2の実施例2で用いられる成分、例えば可塑剤として用いられる「C-9N」、を採用することが動機付けられるとはいえない。
さらに、可塑剤である「C-9N」の含有量は、HNBRである「ZETPOL4310」100重量部に対して5重量部であり、本件発明の「10~40重量部」を満たさないものであるし、甲2には、「可塑剤の種類、量によっては燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットの圧縮永久歪みが大きくなり、耐久性の悪化等が発生する場合もあれば、逆に耐久性が改善される場合もある。…可塑剤量は、HNBR100重量部あたり2~10重量部が適している。可塑剤量が10重量部超では、耐フッ酸性が低下する。2重量部未満では、材料の流動性が低下し、ゴムの成形性が低下する。より好ましくはHNBR100重量部あたり4~8重量部の可塑剤を使用する。」と記載されており(【0017】)、甲2には、水素化NBR100重量部に対して、「C-9N」を10~40重量部の量で配合することは記載されているとはいえない。
そうすると、甲2に接した当業者が、甲1発明Bにおいて、水素化NBR100重量部に対して、「凝固点が-40℃以下でかつ分子量が500~1000のエステル系可塑剤10~40重量部」を配合することを容易に想到し得たとはいえない。
(3)本件発明の効果について
本件発明は、「R32冷媒接触用途に使用可能であるとともに、すぐれた耐寒性と耐熱性とを両立させ、-40℃以下の低温環境下においてもシール性を十分に保ち得るシール材が提供される」(本件明細書の【0009】)という効果を奏するものであり、上記効果は、本件明細書の実施例1~3により具体的に確認することができる。
一方、甲1及び甲2は、甲1においては、比較例12に関して「耐寒性が-37℃程度と極めて低いが耐油性が全くない」(甲1の【0028】)という記載、甲2においては、「シール性、抽出性、反力、耐久性等に優れ、更には-30℃以下の低温でも十分なシール性を発現し得る耐寒性をも兼ね備えた燃料電池用セパレータ用ゴムガスケットが提供される」(甲2の【0011】)という効果の記載にとどまるものである。
そうすると、本件発明の上記効果は、当業者にとって予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるといえる。
(4)小括
したがって、上記(2)で述べたように、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲1に記載された発明、並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明、並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許異議申立書に記載した理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700893