特許異議申立
2021-700813
架橋ゴム組成物及びそれを用いたシール材
- 審判番号
- 2021-700813
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-103128
- 登録番号
- 6835770
- 請求日
- 2021年08月20日
- 審決日
- 2022年05月23日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱電線工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人前田特許事務所
- 【異議申立人】菅原 フミ
- 審判長/審判官
- 審判長 杉江 渉
- 審判官 土橋 敬介
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1652.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6835770号発明「架橋ゴム組成物及びそれを用いたシール材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6835770号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6835770号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6835770号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、平成30年5月30日を出願日とする特許出願(特願2018-103128号)に係る特許であって、令和3年2月8日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年2月24日である。)。その後、令和3年8月20日に、本件特許の請求項1に係る特許に対して、特許異議申立人である菅原フミ(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。
よって、本件特許異議の申立てに係る審理対象は、請求項1に係る特許のみであり、請求項2~6に係る特許については審理対象外である。
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和3年11月22日付け 取消理由通知
令和4年 1月20日 訂正請求、意見書(特許権者)の提出
同年 1月27日付け 訂正請求があった旨の通知
なお、当該通知に対し、申立人からの応答はなかった。
申立人が提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証:特開2010-31151号公報
甲第2号証:特開2001-343073号公報
甲第3号証:特公平6-24731号公報
(以下、上記甲第1号証~甲第3号証を、「甲1」~「甲3」という。)
第2 訂正の請求について
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和4年1月20日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり請求項1~6について以下の訂正をすることを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面を「本件明細書等」という。)。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「前記大粒径カーボンブラックは、FT及びMTのうちの1種又は2種を含む」と記載されているのを、
「前記大粒径カーボンブラックは、MTを含む」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~6も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項2に
「請求項1に記載された架橋ゴム組成物において、」と記載されているのを、
「水素化ニトリルゴムを主体とする分子間が架橋されたゴム成分と、相対的に粒子径の小さい小粒径カーボンブラックと、相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラックとを含有し、且つ硬さがA75以上である架橋ゴム組成物であって、
前記小粒径カーボンブラックは、SAF、ISAF、HAF、EPC、XCF、FEF、GPF、HMF、及びSRFのうちの1種又は2種以上を含み、
前記大粒径カーボンブラックは、FT及びMTのうちの1種又は2種を含み、」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~6も同様に訂正する)。
(3)一群の請求項
訂正前の請求項1、3~6について、請求項3~6は請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1によって請求項3~6の記載が、訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1、3~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正前の請求項2~6について、請求項3~6は請求項2を直接的又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項2によって請求項3~6の記載が、訂正される訂正前の請求項2に連動して訂正されるから、訂正前の請求項2~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
そして、共通する請求項3~6を有するこれら2つの一群の請求項は組み合わされて、訂正前の請求項1~6が特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否の検討
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「大粒径カーボンブラック」について選択肢を削除するものであり、具体的には、「FT及びMTのうちの1種又は2種を含む」との記載のうち、「FT」を含む態様を削除するものである。
してみると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項1によって「大粒径カーボンブラック」の選択肢が削除され、とりうる態様が減縮されているのだから、本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上の特許請求の範囲の拡張・変更に当たらないことは明らかである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2において、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1の記載を書き下して独立形式請求項へ改めたものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 独立特許要件の検討
訂正後の請求項1及び当該請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項3~6は、上述「1(1)」及び「2(1)」のとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正がされたものである。そして、訂正前の請求項3~6は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、請求項3~6についての訂正が認められるためには、これらの請求項について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件を満たすことが必要である。
そこで、訂正後の請求項3~6に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討したが、 独立特許要件を欠くとする事由を見いだすことができない。
よって、請求項3~6についての訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
4 別の訂正単位とする求めについて
特許権者からは、訂正後の請求項2~6について訂正が認められる場合には、他の請求項とは別途訂正するという求めがあったが、訂正後の請求項3~6は請求項1を引用する請求項であるから、本件訂正後であっても請求項1~6を一群の請求単位として扱う。
5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正を認める。
第3 特許請求の範囲の記載
上記のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1~6に係る発明を、項番順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の明細書を「本件明細書」という。)
「【請求項1】
水素化ニトリルゴムを主体とする分子間が架橋されたゴム成分と、相対的に粒子径の小さい小粒径カーボンブラックと、相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラックとを含有し、且つ硬さがA75以上である架橋ゴム組成物であって、
前記小粒径カーボンブラックは、SAF、ISAF、HAF、EPC、XCF、FEF、GPF、HMF、及びSRFのうちの1種又は2種以上を含み、
前記大粒径カーボンブラックは、MTを含む架橋ゴム組成物。
【請求項2】
水素化ニトリルゴムを主体とする分子間が架橋されたゴム成分と、相対的に粒子径の小さい小粒径カーボンブラックと、相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラックとを含有し、且つ硬さがA75以上である架橋ゴム組成物であって、
前記小粒径カーボンブラックは、SAF、ISAF、HAF、EPC、XCF、FEF、GPF、HMF、及びSRFのうちの1種又は2種以上を含み、
前記大粒径カーボンブラックは、FT及びMTのうちの1種又は2種を含み、
前記小粒径カーボンブラックの含有量と前記大粒径カーボンブラックの含有量との総和が、前記ゴム成分100質量部に対して80質量部以上である架橋ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された架橋ゴム組成物において、
前記小粒径カーボンブラックの前記ゴム成分100質量部に対する含有量が、前記大粒径カーボンブラックの含有量以上である架橋ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された架橋ゴム組成物において、
前記ゴム成分の分子間が共架橋剤によっても架橋されている架橋ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4に記載された架橋ゴム組成物において、
前記共架橋剤がマレイミド系共架橋剤を含む架橋ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された架橋ゴム組成物により形成されたシール材。」
第4 取消理由通知で示した取消理由及び特許異議申立理由
1 当審が通知した取消理由の概要
当審が令和3年11月22日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)取消理由1(進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2 特許異議申立理由の概要
申立人が特許異議申立書でした申立ての理由の概要は、以下に示すとおりである。
(1)申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
第5 当審の判断
当審は、取消理由1、申立理由1のいずれの理由によっても、本件発明1に係る特許を取り消すことができないと判断する。理由は以下のとおりである。
1 取消理由及び申立理由について
申立理由1は、甲1を主引用例とする進歩性欠如の理由であり、取消理由1とは主引用例が共通するので、両者を併せて判断する。
(1) 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
甲1a
「【0001】
本発明は、ゴム組成物、及び、そのゴム組成物を用いるシール材に関する。より詳しくは、耐高圧性・耐低温性を有するゴム組成物、及び、そのゴム組成物を使用するシール材に関する。」
甲1b
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、耐高圧性及び耐低温性において優れるシール材、及び、そのようなシール材を形成するために使用される耐高圧性及び耐低温性を有するゴム組成物を提供することを目的とする。」
甲1c
「【0042】
カーボンブラックは、例えば、ISAF(Intermediate Super Abrasion Furnace Black)、MAF(Medium Abrasion Furnace Black)、SAF(Super Abrasion Furnace Black)、SRF(Semi-Reinforcing Furnace Black)、GPF(General Purpose Furnace Black)、FT(Fine Thermal Furnace Black)、MT(Medium Thermal Furnace Black)、HAF(High Abrasion Furnace Black)、FEF(Fast Extruding Furnace Black)等の中から、粒径の異なる少なくとも2種類のものを使用することができる。
例えば、ISAF級とMAF級とを組み合わせてゴム組成物中に混合させることができる。
・・・
【0045】
カーボンブラックの平均粒径を下記に示す。カーボンブラックの平均粒径は、各製造会社によって異なる場合があるものの、例えば、ISAFは23nmで、MAFは38nmで、SAFは19nmで、SRFは66nmで、GPFは62nmで、FTは122nmで、HAFは28nmで、FEFは43nmである。
【0046】
そして、粒径の異なる2種類のカーボンブラックにおいて、大径のカーボンブラックの平均粒径と小径のカーボンブラックの平均粒径との差は、特に限定されるものではないが、例えば7nm以上100nm以下とすることができ、好適には15nm以上80nm以下とすることができる。」
甲1d
「【0048】
ゴム組成物には架橋剤(加硫剤)を含有させることができる。架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド、硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、ジチオジカプロラクタム、m-フェニレンジマレイミド等を用いることが可能である。
また、架橋剤として、脂肪族または脂環族系過酸化物を配合することができる。脂肪族または脂環族系過酸化物としては、たとえば3,3,5-トリメチルヘキサノンパーオキシド,ジイソブチリルパーオキシド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン,2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン,2,5-ジメチル2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3,n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレイト,ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0049】
架橋剤の含有量は、特に限定されるものではないが、柔軟性ゴム100重量部に対して、1重量部以上12重量部以下含有させることができる。架橋剤の含有量が1重量部よりも小さいと、ゴムの架橋に時間がかかることにより歩留まりを低下させる可能性がありうるからである。一方、架橋剤の含有量が12重量部よりも多いと、予期せぬ副反応が生じる可能性がありうるからである。
【0050】
本実施形態に係るゴム組成物には、さらに共架橋剤を含有させることができる。共架橋剤は、それ自身も架橋するとともに、ゴム成分とも反応して架橋し、全体を高分子化する働きをするものである。共架橋剤を含有させることで、ゴム組成物の耐油性、機械的強度、圧縮永久歪み等を向上させることができる。
【0051】
共架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)、トリメチル-プロパン・トリメタクリレート(TPTA)、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルトリメリテート(TAM)、テトラアリルテレフタルアミド、若しくは、これらの混合物を使用することができる。
【0052】
共架橋剤の含有量は、特に限定されるものではないが、柔軟性ゴム100重量部に対して、1重量部以上10重量部以下含有させることができる。共架橋剤の含有量が1重量部よりも小さいと、架橋の進行度が不十分となることで、例えシール材等に成形加工したとしても耐久性が不充分となる可能性がありうるからである。一方、共架橋剤の含有量が10重量部よりも多いと、ゴム組成物の破断伸びが低下する可能性があり、シール材等に成形加工したとしてもやはり耐久性が不充分となる可能性がありうるからである。」
甲1e
「【0055】
〔シール材〕
本実施形態に係るシール材900は、上述したゴム組成物を用いて形成される。シール材900の用途は特に限定されるものではないが、例えば、図2に示されるように、ガソリン直噴式エンジンの燃料噴射ポンプ800に使用されるポンププランジャ150のシールとして利用される。
【0056】
燃料噴射ポンプ800は、ポンプシリンダ130が内部に形成されたポンプハウジング120を有する。ポンプハウジング120内には搬送管路110が形成されており、搬送管路110の上方端部は図示されていないリザーバタンクに接続されている。ポンプシリンダ130内にはポンププランジャ150が軸方向に移動可能に配置されている。ポンププランジャ150の上方には高圧室140が形成される。楕円形カムであるカム伝導部160により、ポンププランジャ150がポンプシリンダ130内で昇降運動する。
【0057】
シール材900は、ポンプシリンダ130の先端部の内周面と、ポンププランジャ150の先端部近傍の外周面との間に設けられている。即ち、ポンププランジャ150の下端部近傍には、ポンププランジャ150の外周に円環状の嵌着溝が形成されており、その嵌着溝に、環状のシール材900が嵌め込まれている。シール材900は、ポンプシリンダ130と作動室170との間をシールする。」
甲1f
「【0060】
・・・カーボンブラックは、シーストG116(東海カーボン株式会社製:平均粒径38nm)を90重量部と、ショウブラックN220(キャボットジャパン社製:平均粒径23nm)を・・・」
甲1g
「【0066】
引張強さおよび伸びは、JIS K6251に基づいて測定をした。伸硬さは、JIS K6253のデュロA硬度にて測定をした。・・・」
甲1h
「【0074】
参考例1のゴム組成物においては、ゴム成分は、非油展の水素化ニトリルゴムを100重量部含有させた。カーボンブラックは、シーストG116を10重量部と、ショウブラックN220を60重量部と、を混合させた。加硫剤は、バルカップ40KE(ハーキュレス社製:1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピルベンゼン(有機過酸化物))を7重量部含有させた。共架橋剤は、アクリエステルTMP(三菱レイヨン株式会社製:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン)を3重量部含有させた。
【0075】
参考例2のゴム組成物においては、カーボンブラックは、シーストG116を30重量部と、ショウブラックN220を40重量部と、を混合させた。それ以外は、参考例1と同様の組成であった。
【0076】
参考例3のゴム組成物においては、カーボンブラックは、シーストG116を80重量部と、ショウブラックN220を10重量部と、を混合させた。それ以外は、参考例1と同様の組成であった。
【0077】
これら参考例1、参考例2、参考例3のそれぞれのゴム組成物において、引張強さ、伸び、硬さを測定した。
【0078】
参考例1では、引張強さは27.1MPaであり、伸びは250%であり、硬さは75であった。
また、参考例2では、引張強さは24.0MPaであり、伸びは210%であり、硬さは78であった。
また、参考例3では、引張強さは22.9MPaであり、伸びは140%であり、硬さは85であった。
【0079】
参考例1、参考例2、参考例3のゴム組成物の組成と、それぞれの引張強さ、伸び、硬さについて表3にまとめる。
【0080】
【表3】
[図:0001387497000001.jpg]
」
甲1i
「
[図:0001387497000002.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
甲1の【0060】、【0074】~【0080】(甲1f、甲1h)には、特に参考例3に着目すると、
「非油展の水素化ニトリルゴムを100重量部含有させ、カーボンブラックとしてのシーストG116(平均粒径38nm)を80重量部と、ショウブラックN220(平均粒径23nm)を10重量部とを混合させ、加硫剤としてバルカップ40KE(ハーキュレス社製:有機過酸化物)を7重量部含有させ、共架橋剤として、アクリエステルTMP(三菱レイヨン株式会社製:トリメタクリル酸トリメチロールプロパン)を3重量部含有させた、JIS K6253のデュロA硬度にて測定をした硬さ(DuroA)が85であるゴム組成物」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
甲2a
「【0016】本発明で使用できるカーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、一般に使用されているMTカーボンブラック、FTカーボンブラック、SRFカーボンブラック、FEFカーボンブラック、HAFカーボンブラック、ISAFカーボンブラック等各種のグレードのものが挙げられ、中でも、FEFカーボンブラック、MTカーボンブラック、SRFカーボンブラックが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、MTカーボンブラックはASTM1765-1987に従って測定した粒子径が200~500nm程度のものをいう。FTカーボンブラックは上記粒子径が100~200nm程度のものをいう。SRFカーボンブラックは上記粒子径が60~100nm程度のものをいう。FEFカーボンブラックは上記粒子径が40~50nm程度のものをいう。HAFカーボンブラックは上記粒子径が26~30nm程度のものをいう。ISAFカーボンブラックは上記粒子径が20~25nm程度のものをいう。カーボンブラックの含有量は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、好ましくは20~180重量部、より好ましくは30~150重量部である。当該含有量が20重量部未満であるとシール部材の耐磨耗性が劣り、逆に、180重量部を超えると、シール部材の製造が困難となる。」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
甲3a
「本発明に係る加硫用ブラダーを形成するゴム組成物に用いられる補強用カーボンブラックは、電子顕微鏡により測定された平均粒子径が1000Å以下、特に600Å以下であるものが好ましい。カーボンブラックの平均粒子径が1000Åを超えると、十分な補強効果が得にくくなる。平均粒子径が1000Å以下のカーボンブラックとしては、SRF、GPF、HMF、ACEF、FF、FEF、HAF、ISAF、SAF、EPC、MPC、HPC、CC、GERMAN、CF、SCF、XCF、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。」(第9欄第9~19行)
(2)対比・判断
ア 対比
甲1発明の「非油展の水素化ニトリルゴム」は、「硬さ(DuroA)が85であるゴム組成物」を構成し、「硬化」しているものであり、甲1の【0048】~【0052】(甲1d)の記載に照らすと、加硫剤及び共架橋剤が含有されることにより架橋されているものと認められる。してみると、甲1発明の「非油展の水素化ニトリルゴム」は、本件発明1の「水素化ニトリルゴムを主体とする分子間が架橋されたゴム成分」に相当する。
甲1発明の「JIS K6253のデュロA硬度にて測定をした硬さ(DuroA)が85であるゴム組成物」は、本件発明1の「硬さがA75以上である架橋ゴム組成物」に相当する。
甲1発明の「ショウブラックN220(平均粒径23nm)」は、ISAF級カーボンブラックとして知られている(例えば、特開2017-101159号公報の【0074】)ことから、本件発明1の「ISAF」である「相対的に粒子径の小さい小粒径カーボンブラック」に相当する。
甲1発明の「シーストG116(平均粒径38nm)」は、MAFカーボンブラックとして知られており(例えば、特開2009-084301号公報の【0032】)、「ショウブラックN220(平均粒径23nm)」より粒子径が大きいことを踏まえると、本件発明1の「相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラック」であって「前記大粒径カーボンブラックは、MTを含む」ものとは、「相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラック」である限りにおいて一致している。
そうすると、甲1発明と本件発明1とは
「水素化ニトリルゴムを主体とする分子間が架橋されたゴム成分と、相対的に粒子径の小さい小粒径カーボンブラックと、相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラックとを含有し、且つ硬さがA75以上である架橋ゴム組成物であって、
前記小粒径カーボンブラックは、SAF、ISAF、HAF、EPC、XCF、FEF、GPF、HMF、及びSRFのうちの1種又は2種以上を含む架橋ゴム組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
相対的に粒子径の大きい大粒径カーボンブラックが、本件発明1では「MTを含む」のに対し、甲1発明では「シーストG116(平均粒径38nm)」である点。
イ 判断
甲1には、使用可能なカーボンブラックが多数例示され、その中に「MT(Medium Thermal Furnace Black)」も挙げられている(甲1c、【0042】)ものの、大粒径カーボンブラックとしてMTを採用した具体的な組成物の記載はない。
また、甲1において「粒径の異なる2種類のカーボンブラックにおいて、大径のカーボンブラックの平均粒径と小径のカーボンブラックの平均粒径との差は、特に限定されるものではないが、例えば7nm以上100nm以下とすることができ、好適には15nm以上80nm以下とすることができる」との記載(【0046】、甲1c)があり、「大径のカーボンブラックの平均粒径」と「小径のカーボンブラックの平均粒径」との差は「7nm以上100nm以下とすることができ」るとされているところ、MTの平均粒径は200nm以上あることから(例えば甲2a、【0016】参照)、もし仮に甲1発明においてシーストG116に代えてMTを採用した場合には「ショウブラックN220(平均粒径23nm)」との平均粒径の差は当該記載による上限である100nmを優に超えてしまうため、甲1の上記記載を参酌しても、甲1発明において、「MAF」である「シーストG116(平均粒径38nm)」に代えて、「MT」を採用することを積極的に動機づけられるものではない。
また、甲2には水素化ニトリルゴムに対して使用可能なカーボンブラックの1つとして「MTカーボンブラック」が記載されているものの(甲2a、【0016】)、あくまで種々のカーボンブラックの一例として挙げられているに過ぎず、特定の小粒径のカーボンブラックとMTとの組み合わせが記載又は示唆されているとはいえない。また、甲3にはゴム組成物に用いられる平均粒子径が1000Å以下のカーボンブラックについて記載されているに過ぎず、MTについて何ら記載されていない。してみると、甲2、3の記載を参酌しても、甲1発明においてMTの採用は動機づけられるものでない。
さらに、本件発明1の奏する効果に関しても検討するに、本件明細書では「本発明によれば、優れた耐低温性と耐摩耗性を得ることができる。」(【0008】)と記載されており、実施例において小粒径カーボンブラックとしてN550(FEF)、大粒径カーボンブラックとしてN990(MT)を用いて調整された実施例組成物が、いずれか片方のカーボンブラックのみの比較例組成物と比べて特に耐摩耗性が顕著に向上していることが具体的に確認されている(表1)。一方、甲1~3には、大粒径カーボンブラックとしてMTを用いて小粒径カーボンブラックと組み合わせることによりこのような効果を奏することは何ら記載されていない。してみると、本件発明1の奏する効果が、甲1~3の記載から当業者が予測可能な程度のものとはいえない。
以上のとおり、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2、3に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものでない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)まとめ
よって、取消理由1及び申立理由1は、理由がない。
第6 むすび
特許第6835770号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
当審が通知した取消理由及び特許異議申立理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700813