特許異議申立
2021-700841
蓄電素子及び蓄電素子の製造方法
- 審判番号
- 2021-700841
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-174781
- 登録番号
- 6846490
- 請求日
- 2021年08月31日
- 審決日
- 2023年01月04日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】堀田 幸裕
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】金田 綾香
- 【異議申立人】鈴木 愛子
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 清水 稔
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6846490号発明「蓄電素子及び蓄電素子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6846490号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、〔11、12〕について訂正することを認める。
特許第6846490号の請求項1ないし10、11ないし12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6846490号の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、令和元年9月25日に出願され、令和3年3月3日にその特許権の設定登録がされ、令和3年3月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年8月31日に特許異議申立人金田綾香より特許異議の申立てがされ、令和3年9月22日に特許異議申立人鈴木愛子より特許異議の申立てがされ、令和3年11月24日付けで取消理由が通知され、令和4年1月28日に特許権者による意見書及び訂正請求書の提出がされ、令和4年4月5日に特許異議申立人鈴木愛子による意見書が提出され、令和4年4月6日に特許異議申立人金田綾香による意見書が提出され、令和4年6月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、令和4年8月5日に特許権者による意見書及び訂正請求書の提出がされ、令和4年10月21日に特許異議申立人金田綾香による意見書が提出され、令和4年10月24日に特許異議申立人鈴木愛子による意見書が提出されたものである。
なお、以下、令和4年8月5日の訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求により取り下げられたものとみなされる(特許法第120条の5第7項)令和4年1月28日の訂正請求を「前訂正請求」という。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子。」
と記載されているのを、
「第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、
前記収容空間に収容された電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、
前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子。」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2、3、5-10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記正極活物質層の平均面積Aは8400mm2以上756000mm2以下である、請求項1に記載の蓄電素子。」
と記載されているのを、
「前記正極活物質層の平均面積Aは8400mm2以上756000mm2以下であり、
前記電解液は環状炭酸エステルを含む、請求項1に記載の蓄電素子。」
に訂正する。
(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3、5-10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、
平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は1.50以上5.00以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電素子。」
と記載されているのを、
「第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、
前記収容空間に収容された電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上であり、
前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であり、
前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、
平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm]の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であり、
前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である、蓄電素子。」
に訂正する。
(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5-10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「密充電時」と記載されているのを、「満充電時」に訂正する。
(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6-10も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「密充電時」と記載されているのを、「満充電時」に訂正する。
(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7-10も同様に訂正する。)
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「密充電時」と記載されているのを、「満充電時」に訂正する。
(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9、10も同様に訂正する。)
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか一項に記載の蓄電素子の製造方法であって、」とあるうち、請求項1を引用するものについて独立記載形式に記載し直すものであり、具体的には、「請求項1~10のいずれか一項に記載の蓄電素子の製造方法であって、」と訂正前の請求項11に記載されているのを、
「第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子の製造方法であって、」
に訂正する。
(請求項11の記載を直接的に引用する請求項12も同様に訂正する。)
(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし12は、請求項2ないし12が、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的または間接的に引用しているから、本件訂正は、一群の請求項1ないし12について請求されたものである。
また、訂正後の請求項11、12に係る訂正について、特許権者は、当該訂正が認められるときに請求項1ないし10とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係るものであり、訂正前の請求項1に「前記収容空間に収容された電解液と、を備え、」および「前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し、」との限定を追加するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、明細書の段落【0026】、【0031】、【0044】、【0084】、及び【0085】に基づいて導き出される構成であるので新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2に係るものであり、「前記電解液は環状炭酸エステルを含む、」との限定を訂正前の請求項2に追加するものである。
したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、明細書の段落【0084】に基づいて導き出される構成であるので新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、
ア 訂正前の請求項4が請求項1-3のいずれか一項の記載を引用する記載であるところ、請求項2及び3を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項として記載し、
イ 訂正前の請求項4に、蓄電素子が「前記収容空間に収容された電解液と」を備えるとの限定を追加し、
ウ 訂正前の請求項4に「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であり、前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であり、前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である」との限定を追加するものである。
よって、訂正事項3は、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3は、明細書の段落【0026】、【0072】、【0076】、及び【0078】に基づいて導き出される構成であるので新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4、訂正事項5及び訂正事項6について
訂正事項4、訂正事項5及び訂正事項6は、明細書の段落【0079】、【0080】及び【0082】に「満充電時」と記載されていることから明らかなように、誤記を訂正するものであるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項11が請求項1ないし10のいずれか一項の記載を引用する記載であるところ、請求項2ないし10を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項に記載を訂正するものである。
したがって、訂正事項7は、他の請求項を引用する記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 小括
上記のとおり、訂正事項1ないし7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]、[11-12]について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、本件訂正請求に係る訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、
前記収容空間に収容された電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、
前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子。
【請求項2】
前記正極活物質層の平均面積Aは8400mm2以上756000mm2以下であり、
前記電解液は環状炭酸エステルを含む、請求項1に記載の蓄電素子。
【請求項3】
前記電極体の前記第1方向に沿った厚さは0.3mm以上10mm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【請求項4】
第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、
前記収容空間に収容された電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上であり、
前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であり、
前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、
平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であり、
前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である、蓄電素子。
【請求項5】
満充電時における電圧が4.0〔V〕以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電素子。
【請求項6】
満充電時における前記正極の平均反応電位は4.0〔VvsLi/Li+〕以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄電素子。
【請求項7】
前記正極活物質層はリン酸鉄リチウムを前記正極活物質として含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電素子。
【請求項8】
満充電時における前記負極の平均反応電位は1.5〔VvsLi/Li+〕以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の蓄電素子。
【請求項9】
前記負極活物質層はチタン酸リチウムを前記負極活物質として含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の蓄電素子。
【請求項10】
前記第1外装材及び前記第2外装材は、縁部に位置する接合部において接合している、請求項1~9のいずれか一項に記載の蓄電素子。
【請求項11】
第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子の製造方法であって、
前記正極および前記負極の間に絶縁シートを介在させるようにして前記電極体を作製する工程と、
前記電極体を前記外装体内に収容して前記外装体を封止する工程と、を備え、
前記電極体を作製する工程において、粘着性を有する前記絶縁シートによって、当該絶縁シートに隣接する前記正極および前記負極を当該絶縁シートに仮留めする、蓄電素子の製造方法。
【請求項12】
前記電極体を作製する工程において、前記正極及び前記負極に積層する前記絶縁シートに電解液が含浸している、請求項11に記載の蓄電素子の製造方法。
第4 取消理由の概要、及び、異議申立人の提出した証拠、当審での職権調査により発見した引用文献
1 当審が令和3年11月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「1(新規性)下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。
よって、これらの請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
2(進歩性)下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、これらの請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
3(明確性)下記の請求項に係る発明は不明確である。
よって、下記の請求項に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであり、取り消されるべきものである。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
(取消理由1)
・請求項1ないし3、10
・引用文献1または引用文献2
・請求項4
・引用文献1
(取消理由2)
・請求項4
・引用文献2
・請求項5ないし9
・引用文献1及び引用文献3
または、
引用文献2及び引用文献3
<引用文献等一覧>
引用文献1:国際公開第2019/156172号(特許異議申立人金田綾香の提出した甲第1号証)
引用文献2:特開2005-142149号公報(特許異議申立人鈴木愛子の提出した甲第3号証)
引用文献3:猿渡秀郷、阿佐美義明、江草 俊、「リチウムイオン電池概要と応用事例」、日本AEM学会誌、第24巻4号、日本AEM学会、平成28年12月10日発行、p.287-292(周知技術を示す文献)(特許異議申立人金田綾香の提出した甲第4号証及び甲第4号証の1)
(取消理由3)
・請求項5ないし12
請求項5、請求項6、請求項8に記載された「密充電」との用語は、正しい技術用語ではなく、意味が不明である。」
2 当審が令和4年1月28日の前訂正請求に係る訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る特許に対して、令和4年6月2日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「理由2(進歩性)下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、これらの請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
・請求項1ないし3、5ないし10について
・引用文献1、及び、引用文献3ないし5
または、
引用文献2、及び、引用文献3ないし5
・請求項4について
・引用文献2、及び引用文献4ないし5
<新たに追加された引用文献等一覧>
引用文献4:国際公開第2017/082418号(国際公開日2017年5月18日)(訂正により請求項4追加された事項に関して、当審における職権調査で発見した文献)
引用文献5:国際公開第2015/156168号(特許異議申立人金田綾香が提出した甲第2号証)」
3 異議申立人の提出した証拠
(1)特許異議申立人金田綾香の提出した証拠
ア 異議申立書に添付された文献
甲第1号証(引用文献1) 国際公開第2019/156172号
甲第2号証(引用文献5) 国際公開第2015/156168号
甲第3号証 国際公開2011/096469号
甲第4号証(引用文献3) 猿渡秀郷、阿佐美義明、江草 俊、「リチウムイオン電池概要と応用事例」、日本AEM学会誌、第24巻4号、日本AEM学会、平成28年12月10日発行、p.287-292
甲第4号証の1 猿渡秀郷、阿佐美義明、江草 俊、「リチウムイオン電池概要と応用事例」、日本AEM学会誌、第24巻4号、日本AEM学会、平成28年12月10日発行、表紙及び奥付
甲第5号証 特開2013-191439号公報
イ 令和4年4月6日の意見書に添付された文献
甲第6号証 特開平8-50917号公報
甲第7号証 特開2000-149994号公報
甲第8号証 特開2009-26480号公報
甲第9号証 特開2015-95329号公報
甲第10号証 特開2007-311264号公報
甲第11号証 国際公開第2015/064586号
甲第12号証 特開2008-235255号公報
甲第13号証 特開2012-234670号公報
甲第14号証 特開2014-72002号公報
甲第15号証 特開2004-342572号公報
甲第16号証 特開2018-6266号公報
甲第17号証 特開2018-133244号公報
甲第18号証 特開2018-133246号公報
(2)特許異議申立人鈴木愛子の提出した証拠
ア 異議申立書に添付された文献
甲第1号証 国際公開第2014/034708号
甲第2号証 特開2009-9947号公報
甲第3号証(引用文献2) 特開2005-142149号公報
甲第4号証 特表2016-522553号公報
甲第5号証 特開2015-50009号公報
甲第6号証 特開2014-187002号公報
甲第7号証 特開2008-186770号公報
甲第8号証 特開2011-222128号公報
甲第9号証 特開2011-204563号公報
イ 令和4年10月24日の意見書に添付された文献
甲第10号証 特開2002-134172号公報
甲第11号証 特開2013-182735号公報
甲第12号証 特開平11-204136号公報
甲第13号証 特開2005-93824号公報
4 当審での職権調査により発見した引用文献
引用文献4:国際公開第2017/082418号(国際公開日2017年5月18日)(前訂正請求により訂正特許請求の範囲の請求項4に新たに追加された事項に関して、当審における職権調査で発見した文献)
引用文献6:西 美緒著、「ポピュラー・サイエンス リチウムイオンニ次電池の話」、株式会社 裳華房、1997年5月20日 第1版発行、第66-67頁(本件訂正請求により訂正特許請求の範囲の請求項1、2に新たに追加された事項に関して、当審における職権調査で発見した文献)
引用文献7: 井上雅雄著、「図解入門 よくわかる最新 接着の基本と仕組み」、2011年2月20日、第1版第1刷、株式会社秀和システム発行、第56頁
第5 取消理由の新規性・進歩性についての当審の判断
1 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1について
ア 国際公開第2019/156172号(引用文献1)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「[0001] 本発明は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用負極構造体、及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。」
「[0002] ・・・(省略)・・・
例えば、特許文献1では、多孔性高分子基材からなるセパレータに電極接着層を設けて、リチウムイオン二次電池を製造する技術が開示されている。」
「[0004] しかしながら、接着層を用いた場合は、電極とセパレータ間の接着性が向上し、リチウムイオン二次電池を製造する際のセパレータの浮き等の密着不良に関わる不具合を防止することが可能となるものの、リチウムイオン二次電池の急速充電性が悪化する傾向にある。
そこで、本発明は、電極とセパレータ間の接着性及び急速充電性が共に良好で、かつエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
[0005] 本発明者らは、鋭意検討の結果、負極及び正極の少なくともいずれかの電極とセパレータの間に配置され、セパレータと電極とを接着させる接着層を設け、かつ負極活物質層の密度を特定範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。」
「[0008] <リチウムイオン二次電池>
以下、本発明のリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の一実施形態を示す概略断面図である。リチウムイオン二次電池10は、負極11、正極12、負極11と正極12との間に配置されるセパレータ13、セパレータ13と負極11との間に配置される接着層14とを備えている。
負極11は負極集電体11aと、負極集電体11aの上に積層された負極活物質層11bとを備えており、正極12も同様に、正極集電体12aと、正極集電体12aの上に積層された正極活物質層12bとを備えている。負極活物質層11bとセパレータ13との間には、両者に接触するように接着層14が設けられ、両者を接着させている。なお、図1では、接着層14は負極活物質層11bとセパレータ13との間に設けられているが、正極活物質層12bとセパレータ13との間に設けられていてもよい。接着層14は負極活物質層11bとセパレータ13との間、及び正極活物質層12bとセパレータ13との間の両方に設けられてもよいが、どちらか一方に設けられることが好ましい。該接着層により、電極とセパレータとの接着性が良好となり、リチウムイオン二次電池を組み立てる際に、セパレータの浮き等の不具合を防止することが可能となる。
[0009] [接着層]
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる接着層は、負極及び正極の少なくともいずれかの電極とセパレータの間に配置され、セパレータと電極とを接着させるものである。(・・・以下、省略・・・)」
[図:0001396253000001.jpg]
「[0017] (負極)
本発明のリチウムイオン二次電池における負極は、負極活物質層を有し、好ましくは負極集電体と、負極集電体上に積層された負極活物質層とを有する。(・・・以下、省略・・・)」
「[0024] (正極)
本発明のリチウムイオン二次電池における正極は、正極活物質層を有し、好ましくは正極集電体と、正極集電体上に積層された正極活物質層とを有する。正極活物質層は、典型的には、正極活物質と、正極用バインダーとを含む。
正極活物質としては、金属酸リチウム化合物が挙げられる。金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等が例示できる。また、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)などであってもよい。さらに、リチウム以外の金属を複数使用したものでもよく、三元系と呼ばれるNCM(ニッケルコバルトマンガン)系酸化物、NCA(ニッケルコバルトアルミニウム系)系酸化物などを使用してもよい。」
「[0027] (電解質)
本発明のリチウムイオン二次電池は、電解質を備える。電解質は特に限定されず、リチウムイオン二次電池で使用される公知の電解質を使用すればよい。電解質としては例えば電解液を使用する。
電解液としては、有機溶媒と、電解質塩を含む電解液が例示できる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトロヒドラフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテートなどの極性溶媒、又はこれら溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。電解質塩としては、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3CO2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF2CF3)2、LiN(COCF3)2及びLiN(COCF2CF3)2、リチウムビスオキサレートボラート(LiB(C2O4)2等のリチウムを含む塩が挙げられる。また、有機酸リチウム塩-三フッ化ホウ素錯体、LiBH4等の錯体水素化物等の錯体が挙げられる。これらの塩又は錯体は、1種単独で使用してもよいが、2種以上の混合物であってもよい。
また、電解質は、上記電解液に更に高分子化合物を含むゲル状電解質であってもよい。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリアクリル系ポリマーが挙げられる。なお、ゲル状電解質は、セパレータとして使用されてもよい。
電解質は、負極及び正極間に配置されればよく、例えば、電解質液は、上記した負極、正極、及びセパレータが内部に収納されたバッテリーセル内に充填される。また、電解質は、例えば、負極又は正極上に塗布されて負極及び正極間に配置されてもよい。」
「[0037] (エネルギー密度)
実施例、比較例で作製したリチウムイオン二次電池を下記条件で充放電し放電容量を計算し、該放電容量を用いて、下記式(1)でエネルギー密度を求めた。
10mAの定電流充電を行い、次いで4.2V到達次第電流を減少させ0.5mAとなった時点で充電完了する定電圧充電を行った。その後、10mAの定電流放電を行い、2.5Vまで放電させた時点で放電完了とする放電を行い、放電容量を計算した。
なお、各正極、負極、セパレータの面積及び厚さは以下のとおりである。
正極:20cm2,100μm
負極:20cm2,厚みは表1に記載のとおりである
セパレータ:20cm2、15μm
(エネルギー密度)=(放電容量)÷(正極、負極、セパレータの体積の合計)
(1)
得られたエネルギー密度を以下の評価基準で評価した。
A:181mAh/cm3以上
B:177mAh/cm3以上、181mAh/cm3未満
C:173mAh/cm3以上、177mAh/cm3未満
D:173mAh/cm3未満
[0038] [実施例1]
(正極の作製)
(・・・省略)・・・)この正極活物質層用組成物を、正極集電体としての厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。その後、両面に正極活物質層用組成物を塗布した正極集電体を、400kN/mで加圧プレスし、更に電極寸法の100mm×200mm角に打ち抜いて、両面に正極活物質層を有する正極とした。該寸法のうち、正極活物質が塗布された面積は100mm×180mmであった。
[0039] (負極の作製)
負極活物質としてグラファイト(平均粒子径10μm)100質量部と、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム1.5質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩を1.5質量部と、溶媒として水とを混合し、固形分50質量%に調整した負極活物質層用組成物を得た。この負極活物質層用組成物を、負極集電体としての厚さ15μmの銅箔の両面に塗布して100℃で真空乾燥した。その後、両面に負極活物質層用組成物を塗布した負極集電体を、線圧500kN/mで加圧プレスし負極とした。負極活物質層の密度は1.55g/ccであった。なお、負極の寸法は110mm×210mmであり、該寸法のうち、負極活物質層が塗布された面積は110mm×190mmであった。」
「[0040] (電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の体積比(EC:DEC)で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解して、電解液を調製した。」
「[0041] (接着層を有する電極の作製)
(・・・省略・・・)
得られた接着層用組成物を、バーコーターで、負極活物質層の表面全体に塗布した。組成物を塗布して形成した塗膜を60℃で乾燥することによって、負極活物質層の表面に接着層を形成し、接着層を有する負極(すなわち、リチウムイオン二次電池用負極構造体)を得た。接着層の厚みを測定したところ、4μmであった。
[0042] (リチウムイオン二次電池の製造)
上記で得た接着層を有する負極10枚と、正極9枚と、セパレータ18枚を積層し仮積層体を得た。ここで、負極と正極は交互に配置して、各負極と正極の間にセパレータを配置した。また、セパレータとしては、ポリエチレン製多孔質フィルムを用いた。平板型ホットプレス機を用いて、上記仮積層体を、80℃、0.6MPaの条件で1分間プレスし積層体を得た。
各正極の正極集電体の露出部の端部を纏めて超音波融着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。同様に、各負極の負極集電体の露出部の端部を纏めて超音波融着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。
次いで、アルミラミネートフィルムで上記積層体を挟み、端子用タブを外部に突出させ、三辺をラミネート加工によって封止した。封止せずに残した一辺から、上記で得た電解液を注入し、真空封止することによってラミネート型のセルを製造した。」
「[0052] [表1]
[図:0001396253000002.jpg]
」
段落[0052] [表1]には、「負極」について「実施例1」における「銅箔厚み」が「15μm」、「負極活物質層厚み」が「85μm」であることが記載されている。
イ 上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)段落[0001]より、引用文献1は、「リチウムイオン二次電池」に関するものであることがわかる。
(イ)段落[0008]より、「リチウムイオン二次電池10は、負極11、正極12、負極11と正極12との間に配置されるセパレータ13、セパレータ13と負極11との間に配置される接着層14とを備え」、「負極11は負極集電体11aと、負極集電体11aの上に積層された負極活物質層11bとを備え」、「正極12も同様に、正極集電体12aと、正極集電体12aの上に積層された正極活物質層12bとを備え」ているとの技術的事項を読み取ることができる。
(ウ)段落[0017]より、「負極は、」「負極集電体と、負極集電体上に積層された負極活物質層とを有」するとの技術的事項を読み取ることができる。
(エ)段落[0024]より、「正極は、」「正極集電体と、正極集電体上に積層された正極活物質層とを有」するとの技術的事項を読み取ることができる。
(オ)段落[0027]より、「リチウムイオン二次電池は、」「電解液を備える。」との技術的事項を読み取ることができる。
(カ)段落[0052] [表1]には、「負極」の厚みについて、「実施例1」における「銅箔厚み」が「15μm」、「負極活物質層厚み」が「85μm」であることが記載されているから、「実施例1」における負極の厚みは「100μm」(=85μm+15μm)であることがわかる。
よって、段落[0037]及び[0052] [表1]より、「各正極、負極、セパレータの」「厚さは」、「正極:」「100μm」、「負極:」「厚み」は「100μm」、「セパレータ:」「15μm」であるとの技術的事項を読み取ることができる。
(キ)段落[0038]及び[0041]より、[実施例1]における「正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm」、「接着層の厚み」は「4μmであ」るとの技術的事項を読み取ることができる。
(ク)段落[0042]より、「負極と正極は交互に配置して、各負極と正極の間にセパレータを配置し」、「接着層を有する負極10枚と、正極9枚と、セパレータ18枚を積層し仮積層体を得」、「上記仮積層体を、」「プレスし積層体を得」、「アルミラミネートフィルムで上記積層体を挟み、端子用タブを外部に突出させ、三辺をラミネート加工によって封止し」、「封止せずに残した一辺から、」「電解液を注入し、真空封止することによってラミネート型のセルを製造した」との技術的事項を読み取ることができる。
ウ 上記イ(ア)ないし(ク)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオン二次電池であって、
リチウムイオン二次電池10は、負極11、正極12、負極11と正極12との間に配置されるセパレータ13、セパレータ13と負極11との間に配置される接着層14と、電解液とを備え、負極11は負極集電体11aと、負極集電体11aの上に積層された負極活物質層11bとを備え、
正極12も同様に、正極集電体12aと、正極集電体12aの上に積層された正極活物質層12bとを備え、
各正極、負極、セパレータの厚さは、正極:100μm、負極:100μm、セパレータ:15μm、正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm、接着層の厚み4μmであり、
負極と正極は交互に配置して、各負極と正極の間にセパレータを配置し、接着層を有する負極10枚と、正極9枚と、セパレータ18枚を積層し仮積層体を得、上記仮積層体を、プレスし積層体を得、アルミラミネートフィルムで上記積層体を挟み、端子用タブを外部に突出させ、三辺をラミネート加工によって封止し、封止せずに残した一辺から、電解液を注入し、真空封止することによってラミネート型のセルを製造した、
リチウムイオン二次電池。」
(2)引用文献2について
ア 特開2005-142149号公報(引用文献2)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、電極板を含む発電要素が外装部材に収容されて封止され、外装部材の外周縁から電極端子が導出した薄型二次電池に関する。」
「【0015】
図1及び図2は一つの薄型電池10(単位電池、セル)を示し、この薄型電池10を複数積層して接続することにより所望の電圧、容量の組電池が構成される。
【0016】
本発明の実施形態に係る薄型電池10は、リチウム系、平板状、積層タイプの薄型二次電池であり、図1及び図2に示すように、3枚の正極板101と、5枚のセパレータ102と、3枚の負極板103と、正極端子104と、負極端子105と、上部外装部材106と、下部外装部材107と、特に図示しない電解質とから構成されている。
【0017】
このうちの正極板101、セパレータ102、負極板103及び電解質が本発明に係る発電要素108を構成し、また、正極板101、負極板103が本発明に係る電極板に相当し、上部外装部材106及び下部外装部材107が本発明に係る外装部材に相当する。
【0018】
発電要素108を構成する正極板101は、正極端子104まで伸びている正極側集電体101aと、正極側集電体101aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層101b、101cとを有している。なお、正極板101の正極層101b、101cは、正極側集電体101aの全体の両主面に亘って形成されているのではなく、図2に示すように、正極板101、セパレータ102及び負極板103を積層して発電要素108を構成する際に、正極板101においてセパレータ102に実質的に重なる部分のみに正極層101b、101cが形成されている。」
[図:0001396253000003.jpg]
[図:0001396253000004.jpg]
「【0020】
また、この正極板101の正極層101b、101cは、例えば、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、又は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム複合酸化物や、カルコゲン(S、Se、Te)化物等の正極活物質と、カーボンブラック等の導電剤と、ポリ四フッ化エチレンの水性ディスパージョン等の接着剤と、溶剤とを混合したものを、正極側集電体101aの一部の両主面に塗布し、乾燥及び圧延することにより形成される。
【0021】
発電要素108を構成する負極板103は、負極端子105まで伸びている負極側集電体103aと、当該負極側集電体103aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極層103b、103cとを有している。なお、負極板103の負極層103b、103cは、負極側集電体103aの全体の両主面に亘って形成されているのではなく、図2に示すように、正極板101、セパレータ102及び負極板103を積層して発電要素108を構成する際に、負極板103においてセパレータ102に実質的に重なる部分のみに負極層103b、103cが形成されている。」
「【0023】
また、この負極板103の負極層103b、103cは、例えば、非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、又は、黒鉛等のような上記の正極活物質のリチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質に、有機物焼成体の前駆体材料としてのスチレンブタジエンゴム樹脂粉末の水性ディスパージョンを混合し、乾燥させた後に粉砕することで、炭素粒子表面に炭化したスチレンブタジエンゴムを担持させたものを主材料とし、これにアクリル樹脂エマルジョン等の結着剤をさらに混合し、この混合物を負極側集電体103aの一部の両主面に塗布し、乾燥及び圧延させることにより形成される。
【0024】
特に、負極活物質として非晶質炭素や難黒鉛化炭素を用いると、充放電時における電位の平坦特性に乏しく放電量に伴って出力電圧も低下するので、通信機器や事務機器の電源には不向きであるが、電気自動車の電源として用いると急激な出力低下がないので有利である。」
「【0027】
以上の発電要素108は、セパレータ102を介して正極板101と負極板103とが交互に積層されている。そして、3枚の正極板101は、正極側集電体101aを介して、金属箔製の正極端子104にそれぞれ接続される一方で、3枚の負極板103は、負極側集電体103aを介して、同様に金属箔製の負極端子105にそれぞれ接続されている。
【0028】
なお、発電要素108の正極板101、セパレータ102、及び、負極板103は、本発明では上記の枚数に何ら限定されず、例えば、1枚の正極板101、3枚のセパレータ102、及び、1枚の負極板103でも発電要素108を構成することができ、必要に応じて正極板101、セパレータ102及び負極板103の枚数を選択して構成することができる。」
「【0031】
発電要素108は、上部外装部材106及び下部外装部材107に収容されて封止されている。(・・・以下、省略・・・)」
「【0034】
これらの外装部材106、107によって、上述した発電要素108、正極端子104の一部及び負極端子105の一部を包み込み、当該外装部材106、107により形成される空間に、有機液体溶媒に過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウムや六フッ化リン酸リチウム等のリチウム塩を溶質とした液体電解質を注入しながら、外装部材106、107により形成される空間を吸引して真空状態とした後に、外装部材106、107の外周縁を熱プレスにより熱融着して封止する。
【0035】
有機液体溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)やメチルエチルカーボネート等のエステル系溶媒を挙げることができるが、本発明の有機液体溶媒はこれに限定されることなく、エステル系溶媒に、γ-ブチラクトン(γ-BL)、ジエトシキエタン(DEE)等のエーテル系溶媒その他を混合、調合した有機液体溶媒を用いることもできる。」
「【0037】
(・・・省略・・・)また、「正極板の幅」とは、図1に示すように電極端子104,105が接続された辺(本発明に係る第1の辺に相当する。)のうち、実質的に正極層が形成された部分の長さをいい、「正極板の長さ」とは、同図に示すように電極端子104,105が接続されていない辺(本発明に係る第2の辺に相当する。)のうち、実質的に正極層が形成された部分の長さをいう。(・・・省略・・・)
【0038】
また、「負極板の長さ」及び「負極板の幅」も正極板と同様に、実質的に負極層が形成された部分の長さをいうが、電池10としての機能の点からは負極板は正極板と同じ形状か或いはこれより若干大きいものであれば良いので、体積出力密度を最大にするためには負極板と正極板とは同じ形状であるとして以下の検討を行うこととする。また、「電池以外の余白」とは、薄型電池を組電池として構成した場合に隣り合う薄型電池との間に存在する空間の三次元方向それぞれの寸法をいう。」
「【0070】
一方、上記(1)式における体積Lは、(7)式より体積L=(正極板の長さ+80mm+余白)×(正極板の幅+30mm+余白)×(電池の厚さ+余白)、(8)式より、電池の厚さ=正極層を含む正極板の厚さ(=100μm)×正極板の積層数+負極層を含む負極板の厚さ(=70μm)×負極板の積層数+セパレータの厚さ(=25μm)×セパレータの積層数+外装部材の厚さ(=100μm)×2である。
【0071】
以上の式を用いて(5)式における正極板の積層数を1層から順に変化させ、上記(9)式に示すパラメータをその変化量の範囲内で変化させ、各積層数における最大体積出力密度を算出する。この結果を図19に示す。この結果から、正極板の積層数が11層の場合に体積出力密度が最大値を示すことがわかる。
【0072】
次に、正極板の積層数を11層としたときの正極板の長さに対する体積出力密度の関係を図20に示す。この結果から正極板の長さが220mmのときに体積出力密度が最大になる。既述したように正極板の総面積は3600cm2であることから、正極板の幅の最適値は、3600cm2÷11層÷220mm=149mmとなる。
【0073】
これにより、正極板の長さを220mm、正極板の幅を149mm、電池の長さを220mm+40mm×2=300mm、電池の幅を149mm+15mm×2=179mm、電池の厚さを100μm×11層+70μm×11層+25μm×21層+100μm×2=2.5mmとした薄型電池を作成し、実際の体積出力密度を測定したところ、演算にて求められた6300W/Lとほぼ等しい結果が得られた。」
[図:0001396253000005.jpg]
[図:0001396253000006.jpg]
イ 上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)段落【0001】より、「電極板を含む発電要素が外装部材に収容されて封止され、外装部材の外周縁から電極端子が導出した薄型二次電池」との技術事項を読み取ることができる。
(イ)段落【0016】より、「薄型電池10は、」「正極板101と、」「セパレータ102と、」「負極板103と、正極端子104と、負極端子105と、上部外装部材106と、下部外装部材107と、」「電解質とから構成されている」との技術事項を読み取ることができる。
(ウ)段落【0017】より、「正極板101、セパレータ102、負極板103及び電解質が」「発電要素108を構成し、また、正極板101、負極板103が」「電極板に相当し、上部外装部材106及び下部外装部材107が」「外装部材に相当する」との技術事項を読み取ることができる。
また、段落【0034】、【0035】より上記「電解質」が、「当該外装部材106、107により形成される空間に」「注入」された「液体電解質」であることがわかる。
(エ)段落【0018】、【0020】より、「正極板101は、正極端子104まで伸びている正極側集電体101aと、正極側集電体101aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層101b、101cとを有し」、「この正極板101の正極層101b、101cは、」「正極活物質」を含むとの技術事項を読み取ることができる。
(オ)段落【0021】、【0023】より、「負極板103は、負極端子105まで伸びている負極側集電体103aと、当該負極側集電体103aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極層103b、103cとを有し」、「この負極板103の負極層103b、103cは、」「負極活物質」を含むとの技術事項を読み取ることができる。
(カ)段落【0027】より「セパレータ102を介して正極板101と負極板103とが交互に積層され」るとの技術事項を読み取ることができる。
(キ)段落【0031】、【0034】より「上部外装部材106及び下部外装部材107に」「よって、」「発電要素108、正極端子104の一部及び負極端子105の一部を包み込み、」「外装部材106、107の外周縁を熱プレスにより熱融着して封止する」との技術事項を読み取ることができる。
(ク)段落【0070】ないし【0073】より、「正極板の積層数を11層としたとき」、「正極板の総面積は3600cm2であることから」、「正極板の長さを220mm、正極板の幅を149mm、」「正極層を含む正極板の厚さ(=100μm)×正極板の積層数+負極層を含む負極板の厚さ(=70μm)×負極板の積層数+セパレータの厚さ(=25μm)×セパレータの積層数」は、「正極板の積層数を11層としたとき」、「100μm×11層+70μm×11層+25μm×21層」であるとの技術事項を読み取ることができる。
ウ 上記イ(ア)ないし(ク)から、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「電極板を含む発電要素が外装部材に収容されて封止され、外装部材の外周縁から電極端子が導出した薄型二次電池であって、
薄型電池10は、正極板101と、セパレータ102と、負極板103と、正極端子104と、負極端子105と、上部外装部材106と、下部外装部材107と、当該外装部材106、107により形成される空間に注入された液体電解質とから構成され、
正極板101、セパレータ102、負極板103及び電解質が発電要素108を構成し、また、正極板101、負極板103が電極板に相当し、上部外装部材106及び下部外装部材107が外装部材に相当し、
正極板101は、正極端子104まで伸びている正極側集電体101aと、正極側集電体101aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層101b、101cとを有し、この正極板101の正極層101b、101cは、正極活物質を含み、
負極板103は、負極端子105まで伸びている負極側集電体103aと、当該負極側集電体103aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極層103b、103cとを有し、この負極板103の負極層103b、103cは、負極活物質を含み、
セパレータ102を介して正極板101と負極板103とが交互に積層され、
上部外装部材106及び下部外装部材107によって、発電要素108、正極端子104の一部及び負極端子105の一部を包み込み、外装部材106、107の外周縁を熱プレスにより熱融着して封止し、
正極板の積層数を11層としたとき、正極板の総面積は3600cm2であることから、正極板の長さを220mm、正極板の幅を149mm、正極層を含む正極板の厚さ(=100μm)×正極板の積層数+負極層を含む負極板の厚さ(=70μm)×負極板の積層数+セパレータの厚さ(=25μm)×セパレータの積層数は、正極板の積層数を11層としたとき、100μm×11層+70μm×11層+25μm×21層である、
薄型二次電池。」
(3)引用文献3について
ア 猿渡秀郷、阿佐美義明、江草 俊、「リチウムイオン電池概要と応用事例」、日本AEM学会誌、第24巻4号、日本AEM学会、平成28年12月10日発行、p.287-292(引用文献3)には、次の記載がある(下線は、当審で付与した。)。
(ア)「代表的な正極材料の物性をTable1にまとめる。ここで示す平均反応電位とは,リチウムのインターカレーション反応が起こる電気的なポテンシャルエネルギーを表す概念であり,力学における位置エネルギーに対する位置に相当する。リチウムの酸化還元反応が起こるポテンシャルを基準としていることから,単位はV vs Li/Li+で表される。電池の電圧は,正極と負極の反応電位の差によって決定される。ゆえにエネルギー密度の観点から考えれば,正極の反応電位は高い方が好ましいということになる。」(第288頁右欄第27-36行)
(イ)
「
[図:0001396253000007.jpg]
」 (第289頁左欄)
(ウ)「これ以来リチウムイオン電池の負極材料には,一般的に炭素材料が用いられ,用途に合わせて結晶質系の黒鉛(グラファイト),非品質系のハードカーボンまたはソフトカーボンなどが選択される。これらの材料は,その層間にリチウムをイオンの状態で吸蔵することが可能であり,またその際の反応電位はリチウム金属の酸化還元電位に近い約 0.1V vs Li/Li+と低い。このことから,炭素材料を負極に用いることでリチウム金属の析出を避けつつ,リチウムイオン電池の特長である高い電圧を実現できるということになる。」(第289頁左欄第16-26行)
(エ)「酸化物系負極としてはチタン酸リチウム (LTO) がよく知られる。LTO を用いたリチウムイオン電池の特長については3項にて詳細に述べる。」(第289頁左欄下から1行-同頁右欄第2行)
(オ)「3 LTO 負極を用いたリチウムイオン電池(・・・省略・・・) 次に負極のリチウムイオン挿入脱離電位が 1.5V vs Li/Li+とリチウム金属析出電位である O.OV vs Li/Li+に対し十分高いことから,環境温度に関わらず急速充電が可能である。」(第290頁左欄第15-38行)
イ 「Table 1」には、「LiFePO4」の平均反応電位が、「3.4V vs Li/Li+」であることが記載されている。
ウ よって、上記ア(ア)ないし(オ)、イより、引用文献3には、次の技術事項が記載されているものと認められる。
「正極材料であるLiFePO4の平均反応電位は、3.4V vs Li/Li+であり、負極材料である炭素材料の反応電位は約 0.1V vs Li/Li+であり、酸化物系負極としてはチタン酸リチウム (LTO) がよく知られ、リチウムイオン挿入脱離電位が 1.5V vs Li/Li+である。」
(4)引用文献4について
ア 当審が職権で調査を行って発見した国際公開第2017/082418号(引用文献4)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
(ア)「[0010] 本発明の粘着テープは、2つの被着体を貼り合せるために用いられ得る。より具体的には、上記粘着テープを一方の被着体(例えば、セパレーター)に貼着した後、第1の基材を剥離することにより、粘着剤層を該被着体に転写する。このようにして転写された粘着剤層に他方の被着体(例えば、電極)を積層して、2つの被着体を貼り合せる。1つの実施形態においては、本発明の粘着テープは、2次電池(例えば、非水系2次電池)製造時に、セパレーター(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等から構成されるセパレーター)に貼着して用いられ、これにより、該セパレーターと電極(例えば、非水系電池用正極、負極等)とを貼り合せることができる。本発明の粘着テープによれば、粘着剤のコーティングによらずに被着体を貼り合せることができ、貼り合せ工程の簡略化が可能となる。」
(イ)「[0040] 1つの実施形態においては、上記粘着剤層を構成する粘着剤として、電解液(例えば、電解質としてLiPF6および/またはLiBF4を含み、溶媒としてエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルを任意の適切な割合で混合して得られた溶媒を含む電解液)に膨潤し得る粘着剤が用いられる。」
(ウ)「[0068] (I)試験体aの作製
実施例及び比較例で得られた粘着テープの粘着剤層側を、セパレーター(非水系電池用多孔質膜、ポリプロピレンセパレーター、Celgard社製、商品名「Celgard」、厚み25μm、空孔率41%)の表面に貼着し、粘着テープとセパレーターとから構成される試験体a(第1の基材/粘着剤層/セパレーター)を得た。なお、熱溶着型粘着剤で構成される粘着剤層を用いた実施例および比較例は70℃で、セパレーターと粘着テープとを圧着し、それ以外の実施例および比較例は25℃で圧着した。
(II)試験体Aの作製
上記試験体aから第1の基材を剥離し、露出した粘着剤層面に、非水系電池用電正極箔(パイオトレック(株)製、活物質:LiNiCoMnO2(1.5mAh/cm2))を貼着し、0.4MPaの圧力を2秒間負荷して、試験体A(正極箔/粘着剤層/セパレーター)を得た。なお、熱溶着型粘着剤で構成される粘着剤層を用いた実施例および比較例は70℃で圧着し、それ以外の実施例および比較例は25℃で圧着した。
(III)試験体Bの作製
非水系電池用電正極箔に代えて、活物質がグラファイト(1.6mAh/cm2)である負極箔を用い、上記(II)と同様の方法により試験体B(負極箔/粘着剤層/セパレーター)を作製した。」
イ よって、上記ア(ア)より、引用文献4には、次の技術(以下、「引用文献4に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「粘着テープを一方の被着体(セパレーター)に貼着した後、第1の基材を剥離することにより、粘着剤層を該被着体に転写し、このようにして転写された粘着剤層に他方の被着体(電極)を積層して、2つの被着体を貼り合せ、非水系2次電池製造時に、セパレーターと電極(非水系電池用正極、負極)とを貼り合せる」技術。
(5)引用文献5
特許異議申立人金田綾香が甲第2号証として提出した国際公開第2015/156168号(引用文献5)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付与した。)。
「[0011] 本実施形態に係る二次電池1は、リチウム系、平板状、積層タイプの扁平型(薄型)電池であり、図1及び図2に示すように、5枚の正極板11と、10枚のセパレータ12と、6枚の負極板13と、正極端子14と、負極端子15と、上部外装部材16と、下部外装部材17と、特に図示しない電解質とから構成されている。なお、正極板11、セパレータ12、及び負極板13の枚数は、一例にすぎず、他の枚数であってもよい。」
[図1]
[図:0001396253000008.jpg]
[図2]
[図:0001396253000009.jpg]
「[0041] さらに、矩形状の電極の積層面のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。なお、電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される。アスペクト比をこのような範囲とすることで、車両要求性能と搭載スペースを両立できるという利点がある。」
よって、上記記載より、引用文献5には「積層タイプの扁平型(薄型)電池において、矩形状の正極活物質層の縦横比は、要求性能と搭載スペースを両立できる、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい」技術が記載されている。
(6)引用文献6
西 美緒著、「ポピュラー・サイエンス リチウムイオンニ次電池の話」、株式会社 裳華房、1997年5月20日 第1版発行、第66-67頁(引用文献6)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。
「非水電解液用として重要な溶媒は高誘電率溶媒である.高誘電率溶媒中ではイオンの解離度が大きいので,多くのリチウム・イオンを存在させることができる.また,誘電率の高い溶媒はリチウム・イオンを溶媒和する力が大きいため,リチウム・イオンは溶媒にくるまれたような状態で存在するので陰イオンによる干渉が少なくなり,リチウム・イオンが安定的に存在できる.
高誘電率溶媒として使用されるものは,すでに述べたPC, EC,の他に,ジメチルスルホキシド,γ-プチルラクトン,スルホランなどがある.
しかし,高誘電率溶媒は一般に粘度が高いため,イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)という傾向がある.そこで通常は,低粘度溶媒を加えることによって電解液の粘度を下げることが行われる.ところが,低粘度溶媒は通常,イオン解離度が小さいので,イオンの移動度と解離度のバランスがうまく取れるような,高誘電率溶媒と低粘度溶媒の組み合わせおよびその配合比率が重要な要素となる.
低粘度溶媒としてしばしば使われるものには,1,2-ジメトキシエタン,テトラヒドロフラン,ジオキソラン,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジメチルカーボネートなどがある.」(第66頁第6行-第67頁第6行)
よって、上記記載より、引用文献6には、次の「周知の技術事項」が記載されているものと認められる。
「PC, EC, ジメチルスルホキシド,γ-プチルラクトン,スルホランなどの高誘電率溶媒は一般に粘度が高いため,イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)という傾向があり、通常は,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジメチルカーボネートなどの低粘度溶媒を加えることによって電解液の粘度を下げること.」
(7)引用文献7
井上雅雄著、「図解入門 よくわかる最新 接着の基本と仕組み」、2011年2月20日、第1版第1刷、株式会社秀和システム発行(引用文献7)には、次のとおり記載されている。
「通常、接着剤は水や溶剤が揮発したり、反応することで固まるわけですが、粘着剤はいつまでも固まらずネバネバしています。粘着剤と接着剤の違いは厳密には定義できませんが、粘着剤は感圧性を有し、いったんつけたものを比較的容易にはがすことができるのに対し、接着剤は接着強度が求められます。」(第56頁第上段第4-9行)
2 対比・判断
(1)引用文献1を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
a 引用発明1における「アルミラミネートフィルム」は、「積層体を挟」んで「ラミネート型のセルを製造」とするための2つの「フィルム」であるから、本件発明1における「第1外装材および第2外装材を含む外装体」に相当する。
b 引用発明1における「アルミラミネートフィルムで」「挟」まれ、「真空封止」される「積層体」は、「負極と正極」を「交互に配置し」たものであるから、本件発明1における「前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体」に相当する。
c 引用発明1では「電解液を注入し、真空封止することによってラミネート型のセルを製造し」ているから、引用発明1における「電解液」は、「アルミラミネートフィルムで」「挟」まれた空間に収容されていることは明らかであって、本件発明1における「前記収容空間に収容された電解液」に相当する。
d 引用発明1における「負極11は負極集電体11aと、負極集電体11aの上に積層された負極活物質層11bと」を「備えて」いることが、本件発明1における「前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し」ていることに相当する。
e 引用発明1における「正極12も同様に、正極集電体12aと、正極集電体12aの上に積層された正極活物質層12bとを備え」ることが、本件発明1における「前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し」ていることに相当する。
f 引用発明1における「負極11と正極12との間に配置されるセパレータ13」が、本件発明1における「前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シート」に相当する。
g 本件発明1では「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成が示されていない点で相違する。
h 本件発明1では、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明1では、(A/T2)がどのような値であるか、明記されていない点で相違する。
i 引用発明1における「接着層を有する負極10枚と、正極9枚と、セパレータ18枚を積層し」ていることが、本件発明1における「前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である」ことに相当する。
j 引用発明1における「リチウムイオン二次電池」が、本件発明1における「蓄電素子」に相当する。
(イ)一致点・相違点
上記(ア)aないしjより、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、
前記収容空間に収容された電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子。」
【相違点1-1-1】
本件発明1では、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明1では、(A/T2)がどのような値であるか、明記されていない点。
【相違点1-1-2】
本件発明1では「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのに対し、引用発明1では、そのような構成が示されていない点。
(ウ)判断
以下、相違点について検討する。
a 【相違点1-1-1】について
引用発明1では「正極:100μm、負極:100μm、セパレータ:15μm、正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm、接着層の厚み4μmであ」るから、「接着層を有する負極」の厚さは1枚あたり、104μmである。
また、「各正極」の「厚さ」は「100μm」、「負極」の「厚さ」は「100μm」、「セパレータ」の「厚さ」は「15μm」、「接着層の厚み」は「4μm」であるから、「接着層を有する負極10枚と、正極9枚と、セパレータ18枚を積層し」て得た「仮積層体」の厚みは、104μm×10枚+100μm×9枚+15μm×18枚=2210μm(2.21mm)である。
そして、「正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm」であって、該面積は正極9枚について同じであると認められるから、正極活物質層の平均面積Aは18000mm2である。
すると、引用発明1における(A/「仮積層体」の厚み」2)は3685となる。
引用発明1では、「仮積層体をプレスし積層体を得」ているから、「積層体」の厚みは、上記「仮積層体」より小さい値になるはずであるが、このことを考慮しても、引用発明1から推定される(A/T2)の値は、本件発明1で特定された条件(「100以上20000以下」)を満たしているものと考えるのが自然である。
よって、上記相違点1-1は、実質的な相違点ではない。
b 【相違点1-1-2】について
引用文献1の段落[0004] には「本発明は、電極とセパレータ間の接着性及び急速充電性が共に良好で、かつエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。」と記載され、引用文献1の段落[0005]には「本発明者らは、鋭意検討の結果、負極及び正極の少なくともいずれかの電極とセパレータの間に配置され、セパレータと電極とを接着させる接着層を設け、かつ負極活物質層の密度を特定範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。」と記載されている。
ここで、「粘着」とは、「ねばりつくこと」(広辞苑第7版)、「粘着性」とは「ねばりつく性質」(広辞苑第7版)を意味し、引用文献7に記載されてるとおり、「いつまでも固まらずネバネバしてい」て、「いったんつけたものを比較的容易にはがすことができる」点で、「水や溶剤が揮発したり、反応することで固ま」り、「接着強度が求められ」る「接着」とは異なる技術である。
すると、引用発明1における「負極11と正極12との間に配置されるセパレータ13、セパレータ13と負極11との間に配置される接着層14」を、本件発明1のように「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」するように変更することは、引用発明1における課題解決手段を滅却するに等しく、阻害要因がある。
また、仮に適用できたとしても、引用文献4に記載された技術は「粘着テープを一方の被着体(セパレーター)に貼着した後、第1の基材を剥離することにより、粘着剤層を該被着体に転写し、このようにして転写された粘着剤層に他方の被着体(電極)を積層して、2つの被着体を貼り合せ、非水系2次電池製造時に、セパレーターと電極(非水系電池用正極、負極)とを貼り合せる」技術であって、上記【相違点1-1-2】に係る「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」する技術ではない。
したがって、引用発明1に引用文献4に記載された技術を適用しても、上記【相違点1-1-2】に係る構成とはならない。
よって、【相違点1-1-2】は実質的な相違点である。
また、引用発明1において【相違点1-1-2】に係る構成とすることは、当業者であっても、容易になし得たことではない。
(エ)まとめ
本件発明1は引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載されてた発明及び引用文献4に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たことでもない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
イ 本件発明2ないし3について
本件発明2ないし3に係る請求項2ないし3は、本件発明1に係る請求項1を引用し、さらに所定の技術的事項による限定が付加されたものである。
よって、本件発明2ないし3は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明2ないし3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明2ないし3に係る特許は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
ウ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4は、本件発明1から、「前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」するという発明特定事項を削除し、「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であり、前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm]の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であり、前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である」という発明特定事項を付加した発明である。
上記の点を踏まえて、本件発明4と引用発明1とを対比すると、
k 引用発明1における「正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm」であることは、「正極活物質が塗布された面積」の短辺の長さが100mmであることを意味するから、本件発明1における「前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、」及び「前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である」ことに相当する。
すると、本件発明4と引用発明1とは、上記「ア」(ア)で述べた「a」ないし「e」、「h」ないし「j」、及び上記「k」より、次の【相違点4-1-1】、【相違点4-1-2】、及び【相違点4-1-3】の点で相違し、その他の点では一致する。
【相違点4-1-1】
本件発明4では、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明1では、(A/T2)がどのような値であるか、明記されていない点。
【相違点4-1-2】
本件発明4では、「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下である」のに対し、引用発明1では、そのような構成は示されていない点。
【相違点4-1-3】
本件発明4では、「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であ」るのに対し、引用発明1では、「正極活物質が塗布された面積」は「100mm×180mmである」から、平面視における「正極活物質層」の長辺の長さ〔mm〕の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は「1.8」である点。
(イ)判断
そこで、上記相違点について検討すると、
a 【相違点4-1-1】について
前記【相違点1-1-1】について述べたとおり、引用発明1では「正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm」であって、引用発明1における正極活物質層の平均面積Aは18000mm2であり、引用発明1における(A/「仮積層体」の厚み」2)は3685となる。
引用発明1では、「仮積層体をプレスし積層体を得」ているから、「積層体」の厚みは、上記「仮積層体」より小さい値になるはずであるが、このことを考慮しても、引用発明1から推定される(A/T2)の値は、本件発明1で特定された条件(「100以上20000以下」)を満たしているものと考えるのが自然である。
よって、上記【相違点4-1-1】は、実質的な相違点ではない。
b 【相違点4-1-2】、【相違点4-1-3】について
引用文献5に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「積層タイプの扁平型(薄型)電池において、矩形状の正極活物質層の縦横比は、要求性能と搭載スペースを両立できる、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい」技術。
上記「a 【相違点4-1-1】について」で述べたとおり、引用発明1では「正極活物質が塗布された面積は100mm×180mm」であって、正極活物質層の平均面積Aは18000mm2である。
また、引用発明1では、平面視における「正極活物質層」の長辺の長さ〔mm〕の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は「1.8」(=180mm/100mm)である。
したがって、引用発明1において本件発明1に規定された条件を満足させるためには、「正極活物質が塗布された面積」を、「18000mm2」から「60000mm2以上756000mm2以下」とし、平面視における「正極活物質層」の長辺の長さ〔mm〕の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値を「1.8」から「2.00以上5.00以下」とし、しかも同時に(A/T2)の値が依然として「100以上20000以下」の範囲に収まるような設計変更を行うことが必要であるが、引用文献1の記載や引用文献5に記載された技術をみても、そのような設計変更を行おうとする動機付けとなる記載は見いだせない。
また、本件発明4において、正極活物質層の平均面積A、平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値、及び、(A/T2)の値を所定の範囲とした理由は、本件特許明細書の段落【0070】に「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。」と記載されているとおりであるが、引用文献1の記載や引用文献5に記載された技術をみても、そのような具体的な設計思想を見出すことはできない。
よって、【相違点4-1-2】、【相違点4-1-3】は実質的な相違点である。
また、引用発明1において【相違点4-1-2】、【相違点4-1-3】に係る構成とすることは、当業者であっても、容易になし得たことではない。
(ウ)まとめ
本件発明4は引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献4、5に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たことでもない。
したがって、本件発明4は、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
エ 本件発明5ないし10ついて
本件発明5ないし10は、本件発明1に係る請求項1、または、本件発明4に係る請求項4を引用し、さらに所定の技術的事項による限定が付加されたものである。
そして、引用文献3に記載された技術は、「正極材料であるLiFePO4の平均反応電位は、3.4V vs Li/Li+であり、負極材料である炭素材料の反応電位は約 0.1V vs Li/Li+であり、酸化物系負極としてはチタン酸リチウム (LTO) がよく知られ、リチウムイオン挿入脱離電位が 1.5V vs Li/Li+である。」というものであって、前記【相違点1-1-2】に係る本件発明1の構成、及び、【相違点4-1-2】、【相違点4-1-3】に係る本件発明4の構成を示すものではない。
よって、本件発明5ないし10は、本件発明1、及び本件発明4について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明5ないし10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明5ないし10に係る特許は、本件発明1、及び本件発明4について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
(2)引用文献2を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明2とを対比する。
なお、以下の対比、判断は、引用文献2の段落【0037】、【0038】における「『正極板の幅』とは、実質的に正極層が形成された部分の長さをいい、『正極板の長さ』とは、実質的に正極層が形成された部分の長さをいう。」、「『負極板の長さ』及び『負極板の幅』も正極板と同様に、実質的に負極層が形成された部分の長さをいう」との記載を踏まえたものである。
a 引用発明2における「外装部材」は、「上部外装部材106及び下部外装部材107」を含むから、本件発明1における「第1外装材および第2外装材を含む外装体」に相当する。
b 引用発明2における「外装部材に収容されて封止され」る「電極板」は「交互に積層」された「正極板101と負極板103」を含むから、本件発明1における「前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体」に相当する。
c 引用発明2における「液体電解質」は、「当該外装部材106、107により形成される空間に注入され」ているから、本件発明1における「前記収容空間に収容された電解液」に相当する。
d 引用発明2における「負極板103は、負極端子105まで伸びている負極側集電体103aと、当該負極側集電体103aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極層103b、103cとを有し、この負極板103の負極層103b、103cは、負極活物質を含」むことが、本件発明1における「前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有」することに相当する。
e 引用発明2における「正極板101は、正極端子104まで伸びている正極側集電体101aと、正極側集電体101aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層101b、101cとを有し、この正極板101の正極層101b、101cは、正極活物質を含」むことが、本件発明1における「前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有」することに相当する。
f 引用発明2では「セパレータ102を介して正極板101と負極板103とが交互に積層され」ているから、引用発明2が「セパレータ102」を有することが、本件発明1における「前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有」することに相当する。
g 本件発明1では「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのに対し、引用発明2では、そのような構成が示されていない点で相違する。
h 引用発明2では「正極板の積層数を11層としたとき」、「負極板の積層数」は「11層」とされているから、正極板の積層数と負極板の積層数との合計枚数は22枚であって、本件発明1における「前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である」との要件を満たしている。
しかしながら、本件発明1では「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明2では(A/T2)がいかなる値であるかは、明示されていない点で相違する。
i 引用発明2における「電極板を含む発電要素が外装部材に収容されて封止され、外装部材の外周縁から電極端子が導出した薄型二次電池」が、本件発明1における「蓄電素子」に相当する。
(イ)上記(ア)aないしiより、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「第1外装材および第2外装材を含む外装体と、
前記第1外装材と前記第2外装材との間に形成される収容空間に収容され、第1方向に交互に積層された負極及び正極を含む電極体と、
前記収容空間に収容された電解液と、を備え、
前記負極は、負極集電箔と、負極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた負極活物質を含む負極活物質層と、を有し、
前記正極は、正極集電箔と、正極集電箔の少なくとも一方の面上に設けられた正極活物質を含む正極活物質層と、を有し、
前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、
前記負極と前記正極との合計枚数は10枚以上である、蓄電素子。」
【相違点1-2-1】
本件発明1では「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明2では(A/T2)がいかなる値であるかは、明示されていない点。
【相違点1-2-2】
本件発明1では「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのに対し、引用発明2では、そのような構成が示されていない点。
(ウ)判断
a 【相違点1-2-1】について
引用発明2において「正極板の積層数を11層としたとき」、「正極板の総面積は3600cm2である」(1層あたり(3600/11)cm2)とともに、「正極層を含む正極板の厚さ(=100μm)×正極板の積層数+負極層を含む負極板の厚さ(=70μm)×負極板の積層数+セパレータの厚さ(=25μm)×セパレータの積層数」である「100μm×11層+70μm×11層+25μm×21層」の値(本件発明1でいう、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚み」に相当する。)は、2395μm(=2.4mm)である。
よって、引用発明2おける(A/T2)の値は、5682(=(3600)/11/(2.5)2)であって、本件発明1における条件(100以上20000以下)との条件を満たしている。
したがって、上記【相違点1-2-1】は、実質的な相違点ではない。
b 【相違点1-2-2】について
(a) 本件特許明細書の段落【0084】、【0085】には次のとおり記載されている。
「【0084】
さらに、上述した蓄電素子1において、正極10X及び負極20Yの間に設けられた絶縁シート30が、正極10X及び負極20Yに粘着するようにしてもよい。このような蓄電素子1の電極体5において、正極10X及び負極20Yが隣接する絶縁シート30に対して相対移動することを効果的に抑制することができる。より具体的には、用いられる電解液の種類を調節したり、絶縁シート30の表面に粘着性樹脂を設けたりすることで、絶縁シート30にいくらかの粘着性を付与することができる。例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルの含有率を増やすと、電解液の粘度が上昇するため、絶縁シート30と正極10X及び20Yとの間にいくらかの粘着性が生じる。あるいは、アクリル系、シリコーン系、ゴム系などの粘着剤を溶剤に分散させて絶縁シート30の表面に塗布した後に溶剤を乾燥させることで、絶縁シート30の表面に粘着剤樹脂を設けることによっても、絶縁シート30と正極10X及び20Yとの間に粘着性が生じる。絶縁シート30が正極10X及び負極20Yに粘着することで、蓄電素子1及び電極体5に含まれる電極間の相対位置を安定して維持することができる。これにより、リチウムの析出を効果的に抑制することができる。
【0085】
また、上述した蓄電素子1の製造方法における電極体5の作製段階において、絶縁シート30が粘着性を有していることが有効である。すなわち、電極10X,20Yを積層して電極体5を作製する際に、絶縁シート30に電解液を含浸させておく。この例によれば、電極体5を作製する工程において、粘着性を有する絶縁シート30によって、当該絶縁シート30に隣接する正極10X及び負極20Yを当該絶縁シート30に仮留めすることができる。すなわち、粘着性を有した絶縁シート30と積層された電極10X,20Yを、絶縁シート30に対して位置決めした位置に維持することができる。結果として、絶縁シート30を介して対向する一対の電極10X,20Yの相対位置を、蓄電素子1の作製中や作製された蓄電素子1の使用中に維持することができる。これにより、蓄電素子1における意図しないリチウムの析出を効果的に抑制することができる。」
すると、上記【相違点1-2-2】に関して、本件発明1は、絶縁シートに含浸させる電解液の粘度を、通常用いられる電解液の粘度より上昇させ、絶縁シートに粘着性を付与した点に技術的な意義を有していると認められる。
(b) これに対し、引用文献6に記載された「周知の技術事項」を再掲すれば、次のとおりである(なお、「PC」は「プロピレンカーボネート」の略称であり、「EC」は「エチレンカーボネート」の略称である。)。
「PC, EC, ジメチルスルホキシド,γ-プチルラクトン,スルホランなどの高誘電率溶媒は一般に粘度が高いため,イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)という傾向があり、通常は,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジメチルカーボネートなどの低粘度溶媒を加えることによって電解液の粘度を下げること.」
(c)ここで、引用文献2には、「液体電解質」について、段落【0034】に「有機液体溶媒に過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウムや六フッ化リン酸リチウム等のリチウム塩を溶質とした液体電解質」と記載され、段落【0035】に「有機液体溶媒として、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)やメチルエチルカーボネート等のエステル系溶媒を挙げることができるが、本発明の有機液体溶媒はこれに限定されることなく、エステル系溶媒に、γ-ブチラクトン(γ-BL)、ジエトシキエタン(DEE)等のエーテル系溶媒その他を混合、調合した有機液体溶媒を用いることもできる。」と記載されている。
すると、引用文献2には、「液体電解質」について、引用文献6に記載された「粘度が高い」溶媒と、「低粘度溶媒」とが区別なく列挙されていることから、引用文献2における上記「液体電解質」の記載は、「液体電解質」の「粘度」に着目したものではなく、「液体電解質」に用いられる「溶質」と「有機液体溶媒」の化学名を単に列挙したに過ぎないものと認められる。
(d)したがって、引用文献2には、「液体電解質」の粘度を、セパレータ(絶縁シート)に含浸させることによってセパレータ(絶縁シート)が正極板101及び負極板103に粘着するほどの粘着性を付与し得る程度に高いものとする技術は開示されていないものと認められられる。
(e)また、引用文献6に記載された「周知の技術事項」によれば、引用発明2において「電解液」の粘度を上げることは、これによって「イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)」ことから、当業者にとって動機付けられないことである。
(f)また、引用文献4には「粘着剤層を該被着体に転写し、このようにして転写された粘着剤層に他方の被着体(電極)を積層して、2つの被着体を貼り合せ」、「セパレーターと電極(非水系電池用正極、負極)とを貼り合せる」技術が記載されているものの、上記【相違点1-2-2】に係る本件発明4のように「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」する構成は示されていない。
(g)よって、上記【相違点1-2-2】は、実質的な相違点であって、しかも当業者であっても、容易になし得たことではない。
(エ)まとめ
よって、本件発明1は引用文献2に記載されてた発明ではなく、また、引用文献2に記載された発明、及び引用文献4に記載された技術に基づいて当業者が容易になし得たことでもない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
イ 本件発明2ないし3について
本件発明2ないし3は、本件発明1に係る請求項1を引用し、さらに所定の技術的事項による限定が付加されたものである。
よって、本件発明2ないし3は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明2ないし3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明2ないし3に係る特許は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
ウ 本件発明4について
(ア)対比
本件発明4は、本件発明1から、「前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間に位置する絶縁シートを更に有し、前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」するという発明特定事項を削除し、「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であり、前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し、平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm]の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であり、前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である」という発明特定事項を付加した発明である。
上記の点を踏まえ、本件発明4と引用発明2とを対比すると、
j 引用発明2における「正極板の長さを220mm、正極板の幅を149mm」とすることと、本件発明4における「前記正極活物質層は平面視において矩形状を有し」、「前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上であ」り、「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下である」こととは「前記正極活物質層は平面視において矩形状を有」し、「前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上であ」る点で一致する。
しかしながら、本件発明1では「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」が「2.00以上5.00以下」である」のに対し、引用発明2では「1.48」(=220mm/149mm)であって、「2.00以上5.00以下」とする構成は示されていない点で相違する。
すると、本件発明4と引用発明2とは、上記「ア」(ア)で述べた「a」ないし「e」、「h」ないし「i」、及び上記「j」より、次の【相違点4-2-1】、【相違点4-2-2】、【相違点4-2-3】の点で相違し、その他の点では一致する。
【相違点4-2-1】
本件発明4では「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明2では(A/T2)がいかなる値であるかは、明示されていない点。
【相違点4-2-2】
本件発明4では、「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下である」のに対し、引用発明2では、そのような構成は示されていない点。
【相違点4-2-3】
本件発明4では「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は、2.00以上5.00以下」であるのに対し、引用発明2では「1.48」(=220mm/149mm)であって、「2.00以上5.00以下」とする構成は示されていない点。
(イ)判断
そこで、相違点について検討すると、
a 【相違点4-2-1】について
引用発明2において「正極板の積層数を11層としたとき」、「正極板の総面積は3600cm2である」(1層あたり(3600/11)cm2(=32727.27mm2)とともに、「正極層を含む正極板の厚さ(=100μm)×正極板の積層数+負極層を含む負極板の厚さ(=70μm)×負極板の積層数+セパレータの厚さ(=25μm)×セパレータの積層数」である「100μm×11層+70μm×11層+25μm×21層」の値(「前記電極体の前記第1方向に沿った厚み」)は、2395μm(=2.4mm)である。
よって、引用発明2おける(A/T2)の値は、5682(=(3600)/11/(2.5)2)であって、本件発明1における条件(100以上20000以下)との条件を満たしている。
したがって、上記【相違点4-2-1】は、実質的な相違点ではない。
b 【相違点4-2-2】、【相違点4-2-3】について
引用文献5に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「積層タイプの扁平型(薄型)電池において、矩形状の正極活物質層の縦横比は、要求性能と搭載スペースを両立できる、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい」技術。
上記「a 【相違点4-2-1】について」で述べたとおり、引用発明2における「正極板の総面積は3600cm2である」(1層あたり(3600/11)cm2(=32727.27mm2))。
また、引用発明2では、「正極板の長さを220mm、正極板の幅を149mm」としているから、本件発明4における「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」に相当する値は「1.48」(=220mm/149mm)である。
したがって、引用発明2において本件発明1に規定された条件を満足させるためには、正極板1層あたりの面積を32727.27mm2から「60000mm2以上756000mm2以下」とし、「正極板の長さ」の「正極板の幅」に対する比の値を「1.48」から「2.00以上5.00以下」とし、しかも同時に(A/T2)の値が依然として「100以上20000以下」の範囲に収まるような設計変更を行うことが必要であるが、引用文献2の記載や引用文献5に記載された技術をみても、そのような設計変更を行おうとする動機付けとなる記載は見いだせない。
また、本件発明4において、正極活物質層の平均面積A、平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値、及び、(A/T2)の値を所定の範囲とした理由は、本件特許明細書の段落【0070】に「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。」と記載されているとおりであるが、引用文献2の記載や引用文献5に記載された技術をみても、そのような具体的な設計思想を見出すこともできない。
よって、【相違点4-2-2】、【相違点4-2-3】は実質的な相違点である。
また、引用発明2において【相違点4-2-2】、【相違点4-2-3】に係る構成とすることは、当業者であっても、容易になし得たことではない。
(ウ)まとめ
よって、本件発明4は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明4に係る特許は、本件発明1、及び本件発明4について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
エ 本件発明5ないし10ついて
本件発明5ないし10は、本件発明1に係る請求項1、または、本件発明4に係る請求項4を引用し、さらに所定の技術的事項による限定が付加されたものである。
そして、引用文献3に記載された技術は、「正極材料であるLiFePO4の平均反応電位は、3.4V vs Li/Li+であり、負極材料である炭素材料の反応電位は約0.1V vs Li/Li+であり、酸化物系負極としてはチタン酸リチウム (LTO) がよく知られ、リチウムイオン挿入脱離電位が 1.5V vs Li/Li+である。」というものであって、前記【相違点1-2-2】に係る本件発明1の構成、及び【相違点4-2-2】、【相違点4-2-3】に係る本件発明4の構成を示すものではない。
よって、本件発明5ないし10は、本件発明1、及び本件発明4について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明5ないし10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
また、本件発明5ないし10に係る特許は、本件発明1、及び本件発明4について述べたのと同じ理由によって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるともいえない。
第6 取消理由の明確性についての当審の判断
本件訂正請求により、請求項5、請求項6、請求項8に記載された「密充電」との用語は、「満充電」と訂正され、正しい技術用語となった。
よって、本件発明5、6及び8は明確であり、本件発明5、6及び8に係る本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではない。
第7 取消理由通知において採用しなかった証拠及び特許異議申立ての理由について
1 異議申立人金田綾香の申立て理由について
(1)異議申立人金田綾香の提出した甲第2、3、5ないし18号証(取消理由通知において採用しなかった証拠)について
ア 甲第2号証(国際公開2015/156168号)(以下、「引用文献K-2」という。)について
引用文献K-2は、その一部の記載が引用文献5として取消理由通知で引用されているに過ぎないので、取消理由通知で引用されなかった記載個所を含めて改めて摘記する。
(ア)引用文献K-2に記載された事項について
引用文献K-2には、図面とともに、次の事項が記載されている([0011]、[0041] については、引用文献5についての摘記事項を再掲する。なお、下線は当審で付与した。)。
「[0001] 本発明は、扁平型二次電池に関するものである。」
「[0011] 本実施形態に係る二次電池1は、リチウム系、平板状、積層タイプの扁平型(薄型)電池であり、図1及び図2に示すように、5枚の正極板11と、10枚のセパレータ12と、6枚の負極板13と、正極端子14と、負極端子15と、上部外装部材16と、下部外装部材17と、特に図示しない電解質とから構成されている。なお、正極板11、セパレータ12、及び負極板13の枚数は、一例にすぎず、他の枚数であってもよい。」
[図1]
[図:0001396253000010.jpg]
[図2]
[図:0001396253000011.jpg]
「[0013] 発電要素18を構成する正極板11は、正極端子14まで伸びている正極側集電体11aと、正極側集電体11aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層11b、11cとを有する。なお、正極層11b、11cは、正極板11、セパレータ12及び負極板13を積層して発電要素18を構成する際に、正極板11においてセパレータ12を介して実質的に重なる部分のみに正極層11b、11cが形成されていてもよい。また、本例では正極板11と正極側集電体11aとが一枚の導電体で形成されているが、正極板11と正極側集電体11aとを別体で構成し、これらを接合してもよい。」
「[0015] 正極層11b、11cは、NMC複合酸化物を含む正極活物質に、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックの導電剤と、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)ポリ四フッ化エチレン(PTFE)の水性ディスパージョン等のバインダ(接着剤)と、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のスラリー粘度調整溶媒とを混合したものを、正極側集電体11aの両主面に塗布し、乾燥及び圧延することにより形成されている。
[0016] 発電要素18を構成する負極板13は、負極端子15まで伸びている負極側集電体13aと、当該負極側集電体13aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極層13b、13cとを有する。なお、負極板13の負極層13b、13cも、正極側と同様に、負極板13おいてセパレータ12を介して実質的に重なる部分のみに形成されていてもよい。また、本例では負極板13と負極側集電体13aとが一枚の導電体で形成されているが、負極板13と負極側集電体13aとを別体で構成し、これらを接合してもよい。」
「[0018] 負極層13b、13cは、人造グラファイトを含む負極性活物質に、バインダーとして、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩及びスチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを含みつつ、精製水中に分散させて負極活物質スラリーとしたものを、負極側集電体13aの両主面に塗布し、乾燥及び圧延することにより形成されている。負極活物質スラリーは、バインダーとして、PVdFを用い、NMP中に分散させたものを用いてもよい。」
「[0021] 以上の発電要素18は、セパレータ12を介して正極板11と負極板13とが交互に積層されて、積層側発電要素として構成されている。そして、5枚の正極板11は、正極側集電体11aを介して、金属箔製の正極端子14にそれぞれ接続される一方で、6枚の負極板13は、負極側集電体13aを介して、同様に金属箔製の負極端子15にそれぞれ接続されている。」
「[0024] 発電要素18は、電解質と共に上部外装部材16及び下部外装部材17に収容されて封止されている。なお、積層される電極板のうち、セパレータを介して正極及び負極が実質的に重なっている部分を発電要素としてもよい。上部外装部材16及び下部外装部材17は、一対の部材となり、発電要素18及び電解液を封止するケースであって、以下のように構成されている。」
「[0027] 封止部163、165は、外装部材17の封止部173、175と重なりつつ、密着している。封止部163、165は、z方向からみた外装部材16の平面視において、外装部材16の外周に位置しつつ、発電要素18を囲うように構成されている。封止部163、165は、z方向からみた外装部材16の平面視において、延在部162、164を介して、当接部161よりも外側に位置する。封止部163、165は、発電要素18の電極板の積層方向(z方向)の高さで、当接部161と当接部171との間に位置する。言い換えると、封止部163、165は、積層方向(z方向)の高さで、当接部161よりも低い高さに位置する。なお、図2の例では、封止部163、165は、積層方向(z方向)の高さで、当接部161と当接部171との間の中間部分に位置する。」
「[0041] さらに、矩形状の電極の積層面のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。なお、電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される。アスペクト比をこのような範囲とすることで、車両要求性能と搭載スペースを両立できるという利点がある。」
「[0075] <正極>
NMC複合酸化物(LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2(平均粒子径:10μm))を90重量%、導電助剤としてケッチェンブラックを5重量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を5重量%、およびスラリー粘度調整溶媒であるNMPを適量混合して、正極活物質スラリーを調整し、得られた正極活物質スラリーを集電体であるアルミニウム箔(厚さ20μm)に塗布し、120℃乾燥後、ロールプレス機で圧縮成型して、正極活物質層18mg/cm2の正極板11を作製した。裏面にも同様に正極活物質層を形成し、正極集電体の両面に正極活物質層が形成されてなる正極板11を作製した。なお、正極板11の主面の大きさは、長さ215mmとし、幅190mmとした。」
「[0077] <セル(二次電池1)の作製>
上記で作製した正極と、上記で作製した負極とを、セパレータを介して交互に積層(正極20層、負極21層)することによって発電要素18を作製した。セパレータの大きさは、長さ223mmとし、幅198mmとした。
[0078]
そして、得られた発電要素18を(4)をアルミラミネートシート製バックの中に積置し、電解液を注液した。電解液は1.0MLiPF6をエチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC):エチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(体積比1:1:1)に溶解した溶液を用いた。また、真空条件下にて、両電極に接続された電流取出しタブが導出するようにアルミラミネート製バックの開口部を封止することで、ラミネート型リチウムイオン二次電池を完成させた。」
「[0080] 積層型の発電要素18の大きさは、x方向長さ(図4のx1)を215mmとし、y方向の長さ(図4のy1)を190mmとし、z方向の長さ(図4のdを2倍にした長さ)を8mmとした。」
イ 引用文献K-2に記載された発明について
よって、引用文献K-2には、次の発明(以下、「引用発明K-2」という。)が記載されているものと認められる。
「扁平型(薄型)二次電池([0001]、 [0011])であって、
正極端子14と、負極端子15と、上部外装部材16と、下部外装部材17と、電解質とから構成され([0011])、
発電要素18を構成する正極板11は、正極側集電体11aと、正極側集電体11aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層11b、11cとを有し([0013])、
正極層11b、11cは、正極活物質を、正極側集電体11aの両主面に塗布して形成され([0015])、
負極層13b、13cは、負極性活物質を、負極側集電体13aの両主面に塗布して形成され([0018] )、
発電要素18は、セパレータ12を介して5枚の正極板11と6枚の負極板13とが交互に積層されて、積層側発電要素として構成され([0021])、
発電要素18は、電解質と共に上部外装部材16及び下部外装部材17に収容されて封止され、上部外装部材16及び下部外装部材17は、一対の部材となり([0024] )、
正極集電体の両面に正極活物質層が形成されてなる正極板11の主面の大きさは、長さ215mmとし、幅190mmとし([0075] )、
正極と負極とを、セパレータを介して交互に積層(正極20層、負極21層)することによって発電要素18を作製し([0077])、
積層型の発電要素18の大きさは、x方向長さを215mmとし、y方向の長さを190mmとし、z方向(発電要素18の電極板の積層方向)の長さを8mmとし([0027]、[0080])、
電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義され、矩形状の電極の積層面のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい([0041])、
二次電池([0001]、 [0011])。」
ウ 甲第3号証(国際公開2011/096469号)について
甲第3号証には、図面とともに、次の事項が記載されいる(下線は、当審で付与した。)。
「[0008] リチウムイオン電池の負極には、双方とも通常のグラファイト系の材料が用いられている。尚、説明の便宜上、以下では、正極活物質にマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を使用したリチウムイオン電池を単に「マンガン系電池」と称し、正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を使用したリチウムイオン電池を単に「鉄系電池」とも称する。
[0009] 図4には、マンガン系電池、及び、鉄系電池の充電特性が示されている。図4では、横軸に充電状態(SOC;以下、単に「SOC」と表記する場合もある。尚、SOCはState of Chargeの略記である。)が示され、縦軸に単電池の電池電圧(開放電圧)が示されている。ここで、充電状態(SOC)は、満充電時の二次電池の残存容量(いわゆる、電池容量)に対する各時点の二次電池の残存容量の比率をいう。また、マンガン系電池の充電特性が「LiMn2O4/Gr」と表記され、鉄系電池の充電特性が「LiFePO4/Gr」と表記されている。」
[図:0001396253000012.jpg]
よって、甲第3号証には「正極活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を使用したリチウムイオン電池」が記載されている。
エ 甲第5号証(特開2013-191439号公報)について
甲第5号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。」
「【0009】
ここでは、リチウムイオン二次電池の負極活物質として用いることが可能な代表的な酸化物材料として、チタン酸リチウムを例に挙げて説明する。チタン酸リチウムは、正極活物質として用いられるマンガン酸リチウムと同様のスピネル型の結晶構造を有する複合酸化物であり、可逆的にリチウムイオンを吸蔵放出することができる。ただし、マンガン酸リチウムとは異なり、約1.55V(vs.Li/Li+)と低い電位で可逆的にリチウムと反応するので、負極活物質として用いることができる。また、チタン酸リチウムをこの電位で用いる場合には、一般的な酸化物系材料と比較しても充放電反応時の体積変化が非常に小さい。したがって、チタン酸リチウムは、充放電を繰り返す二次電池用の電極材料としては特に優れた特性を有することが期待できる。」
「【0026】
図1(c)は電極群13の断面を拡大して示している。図1(c)に示すように、電極群13は、正極1と、負極2と、正極2と負極2との間に設けられたセパレータ3とを備えている。正極1は、例えば、アルミニウム箔からなる正極集電体1aと、正極集電体1aの表面に配置されたLiNi0.80Co0.15Al0.05O2を含有する正極合剤層1bとを有している。一方、負極2は、例えば、アルミニウム箔からなる負極集電体2aと、負極集電体2aの表面に配置されたチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)を含有する負極合剤層2bとを有している。セパレータ3は、例えばポリプロピレン製の不織布シートからなる。ただし、ポリプロピレン等のポリオレフィンを用いたセパレータと、プロピレンカーボネートを主成分とする非水溶媒とを組み合わせて用いる場合には、セパレータにコロナ放電処理およびプラズマ放電処理のような濡れ性改善の表面処理を施すことが好ましい。また、セパレータにセルロース繊維からなる紙状シートなどを用いることもでき、この場合には表面処理の必要はない。」
【図1】
[図:0001396253000013.jpg]
よって、甲第5号証には、「チタン酸リチウムを負極活物質として用いる」技術が記載されている。
オ 甲第6号証ないし甲第8号証について
甲第6ないし甲第8号証は、前訂正請求により、特許請求の範囲の請求項1に「前記負極活物質層は、前記正極活物質層を内包する大きさを有し」との要件が付加されたことに対して、「負極が正極よりも大きい、および/または、負極が正極を内包している点」(令和4年4月6日の金田綾香による意見書、第3頁9-15行)が周知の事項であることを立証するために提出された文献である。
しかし、本件訂正請求により前訂正請求は取り下げられたものとみなされ、本件訂正請求に係る特許請求の範囲では、いずれの請求項においても上記要件は発明特定事項とされていないから、甲第6号証ないし甲第8号証は、上記立証趣旨に関しては採用しない。
カ 甲第9号証(特開2015-95329号公報)について
甲第9号証は、前訂正請求により、特許請求の範囲の請求項1に追加された「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値は2.00以上5.00以下であ」るとの構成が周知の事項であることを立証するために提出された文献である」(令和4年4月6日の金田綾香による意見書、第8頁下から8行-同頁下から5行)。
甲第9号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0100】
また、電極の物理的な大きさの観点とは異なる、大型化電池の観点として、電池面積や電池容量の関係から電池の大型化を規定することもできる。たとえば、扁平積層型ラミネート電池の場合には、定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比の値が5cm2/Ah以上であり、かつ、定格容量が3Ah以上である電池においては、単位容量当たりの電池面積が大きいため、高出力条件下での放電に有利となる。したがって、非水電解質二次電池は、上述したような大型化された電池であることが、本願発明の作用効果の発現によるメリットと合わせて、より好ましい。また、本形態に係る非水電解質二次電池としては、自動車用大型リチウムイオン二次電池であることが、本願発明の作用効果の発現によるメリットと合わせて、さらにより好ましい。
【0101】
さらに、体積エネルギー密度や単セル定格容量などによって電池の大型化を規定することもできる。たとえば、一般的な電気自動車では、一回の充電による走行距離(航続距離)は100kmが市場要求である。かような航続距離を考慮すると、単セル定格容量は20Wh以上であることが好ましく、かつ、電池の体積エネルギー密度は153Wh/L以上であることが好ましい。なお、体積エネルギー密度および定格放電容量は下記実施例に記載の方法で測定される。さらに、矩形状の電極のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。なお、電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される。アスペクト比をかような範囲とすることで、充電時に発生したガスが面方向に均一に排出されることが可能となるため、好ましい。」
よって、 甲第9号証には、「矩形状の電極のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい」ことが記載されている。
キ 甲第10号証(特開2007-311264号公報)について
甲第10号証は、上記「カ」に記載した甲第9号証の立証趣旨と同じ趣旨で提出された文献である。
甲第10号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)
「【0038】
ここで、図2(B)に示すように、正極活物質層23と集電体21との正極活物質接触領域、または、負極活物質層25と集電体21との負極活物質接触領域(以下、「正極活物質接触領域」および「負極活物質接触領域」を「接触領域」と称する)における短辺の長さをbmm、接触領域Aの面積をSmm2、放熱部材30を除いた電池構造体(以下、「非放熱部材電池構造体」と称する)の厚さをcmmとした場合、
【0039】
[図:0001396253000014.jpg]
【0040】
の条件を満たすことが好ましい。ここで、接触領域Aの面積は実質的に矩形状であるため、接触領域Aの面積Sは、接触領域Aの長辺の長さaと接触領域の短辺の長さbとの積により求めることができる。」
【図2】
[図:0001396253000015.jpg]
「【0044】
また、接触領域Aの外周の長さLが750~1450mmであって、前記非放熱部材電池構造体の厚さcが2~10mmであることが好ましく、さらに好ましくは4~8mmである。接触領域Aの外周の長さLが1450mm以下であり、前記非放熱部材電池構造体の厚さcが2mm以上であると、剛性の確保の観点から好ましく、電極の外周Lが750mm以上であって、前記非放熱部材電池構造体の厚さcが10mm以下であると放熱性の観点から好ましい。
【0045】
また、接触領域Aの対角線の長さdが260~550mmであることが好ましい。接触領域Aの対角線の長さdが260mm以上であると放熱性の観点から好ましく、550mm以下であると剛性の確保の観点から好ましい。接触領域Aの対角線の長さdを制限しない場合、上述のように接触領域Aの外周の長さLを規定するだけでは、極端に細長い電池構造体も可能となる。このような電池構造体であっても本発明の目的を達成することができるが、より放熱性や防振性を向上させるためにはある程度の長方形状であることが好ましい。」
よって、甲第10号証には、「正極活物質接触領域および負極活物質接触領域を「接触領域A」と称すると、接触領域Aの外周の長さLが750~1450mm、接触領域Aの対角線の長さdが260~550mm」とすること、及び、「接触領域Aの対角線の長さdを制限しない場合、接触領域Aの外周の長さLを規定するだけでは、極端に細長い電池構造体も可能となるが、より放熱性や防振性を向上させるためにはある程度の長方形状であることが好ましい」ことが記載されている。
ク 甲第11号証(国際公開2015/064586号)について
甲第11号証の[0043]には「さらに、矩形状の電極のアスペクト比は1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。」と記載されている。
ケ 甲第12ないし14号証について
異議申立人金田綾香が提出した甲第12ないし14号証は、前訂正請求により、特許請求の範囲の請求項4に「前記電極体は、」「前記第1方向における前記負極又は前記正極と前記第1外装部材との間、並びに、前記第1方向における前記負極または前記正極と前記第2外装部材との間に位置する絶縁シートを更に有し」との要件が付加されたことに対して、上記の要件が周知の事項である(令和4年4月6日の金田綾香による意見書、第19頁9-13行)ことを立証するために提出された文献である。
しかし、本件訂正請求により前訂正請求は取り下げられたものとみとなされ、本件訂正請求に係る訂正特許請求の範囲では、上記要件は何れの請求項においても発明特定事項とされていないから、甲第12ないし14号証は採用しない。
コ 甲第15ないし甲第18号証について
異議申立人金田綾香が提出した甲第15ないし甲第18号は、前訂正請求により、特許請求の範囲の請求項4に「前記電極体は、前記第1方向における前記負極と前記正極との間」「に位置する絶縁シートを更に有し」、「前記絶縁シートは前記負極および前記正極に粘着し」との要件が付加されたことに対して、上記の要件が周知の事項である(令和4年4月6日の金田綾香による意見書、第21頁1-5行)ことを立証するために提出された文献である。
(ア)甲第15号証(特開2004-342572号公報)について
甲第15号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【請求項1】
分子内に官能基を有し、この官能基に対して反応性を有する多官能化合物と反応することによって架橋し得る反応性ポリマーを用意し、これに多官能化合物を反応させ、一部、架橋させてなる部分架橋接着剤を基材多孔質フィルムに担持させてなることを特徴とする、電池用セパレータのための部分架橋接着剤担持多孔質フィルム。」
「【0011】
更に、本発明によれば、上記電極/多孔質フィルム積層体中の部分架橋接着剤を反応性ポリマー中の未反応の官能基によって更に架橋させて、電極を多孔質フィルムに接着してなる電極/多孔質フィルム接合体が提供される。」
(イ)甲第16号証(特開2018-6266号公報)について
甲第16号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0029】
図4に、本実施形態に係る電池3の製造方法における電極板50およびセパレータ領域60の積層方法の一例を示す。図4に示す電極板50およびセパレータ領域60の積層方法では、少なくとも一方の表面に第1接着層611を有する第1セパレータ領域61を載置するステップ(第1ステップ)を行い(図4の(a))、第1セパレータ領域61に、第1電極板51を、第1セパレータ領域61の第1接着層611と第1電極板51とが接するように積層するステップ(第2ステップ)を行い(図4の(b))、第1電極板51に、第2セパレータ領域62を積層するステップ(第3ステップ)を行い(図4の(d))、第2セパレータ領域62に、第1電極板51とは反対の極性を有する第2電極板52を積層するステップ(第4ステップ)を行う(図4の(e))。
【0030】
ここで、第2セパレータ領域62を積層するステップよりも前に、第1電極板51の第1面と第1セパレータ領域61の第1接着層611とを接着させるステップ(接着ステップ)を行う(図4の(c))。」
「【0031】
本実施形態に係る電池3の製造方法では、電極板50およびセパレータ領域60の積層工程において、セパレータ領域60と電極板50とを接着させ、セパレータ領域60と電極板50との仮止めを行う。このように、電極板50を積層した後、セパレータ領域60と電極板50とを仮止めすることにより、電極体20の作製段階における積層ずれを抑制することができると考えられる。」
【図4】
[図:0001396253000016.jpg]
(ウ)甲第17号証(特開2018-133244号公報)について
甲第17号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0025】
[耐熱性多孔質層]
本開示の非水系二次電池用セパレータは、多孔質基材の上に耐熱性多孔質層を備えている。耐熱性多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面に配置され、(1)バインダ樹脂と、(2)酸化亜鉛の粒子と、(3)金属水酸化物及び酸化亜鉛以外の金属酸化物からなる群より選ばれる1種以上の耐熱フィラーと、を含む多孔質層である。
耐熱性多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、微細孔が互いに連結された構造をなして一方面から他方面へと気体あるいは液体が通過可能となっている。」
「【0032】
-ポリフッ化ビニリデン系樹脂-
本開示のバインダ樹脂は、電極との接着性により優れる点で、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有することにより、電極との接着性向上に伴って電池の強度(セル強度)がより高くなり、例えばソフトパック電池とした場合に必要とされる強度も確保され、品質安定性にも優れたものとなる。」
(エ)甲第18号証(特開2018-133246号公報)
甲第18号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0010】
本開示によれば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む接着性多孔質層を備えたセパレータであって、ドライヒートプレスによる電極との接着性が良好で、かつ、その後電解液浸漬後も電極との接着性に優れる非水系二次電池用セパレータが提供される。」
「【0017】
<非水系二次電池用セパレータ>
本開示の非水系二次電池用セパレータ(「セパレータ」ともいう。)は、多孔質基材と、多孔質基材の片面又は両面に設けられた接着性多孔質層とを備える。」
(2)取消理由通知を基礎とした主張について
ア 異議申立人金田綾香の主張
異議申立人金田綾香は、令和4年10月21日の意見書において、令和4年6月2日付けの取消理由通知に基づいて、次のように主張している。
(ア)本件発明1について
本件特許明細書の段落【0099】に開示されている電解液と、引用文献1の段落【0040】に開示されている電解液とでは、環状炭酸エステルであるエチレンカーボネートを含むとともに、環状炭酸エステルの含有率が30%という点で共通しているから、引用文献1に記載の発明(以下、引用発明1と称する)において、セパレータが保持する電解液によって粘着性が付与され、セパレータが正極および負極に粘着していると解釈できる。また、そうでなくても設計的事項である。
また、甲第7号証、甲第8号証、甲第11号証には、「環状炭酸エステルの含有量が30%以上である電解液が開示されている。
(イ)本件発明2について
引用文献1、2には、環状炭酸エステルを含むことが開示されており、本件発明2も、依然として特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない。
(ウ)本件発明4について
a 本件訂正により本件発明4に付加された「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であり」、「前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である」構成について、取消理由通知に記載されているとおり、電池の放電容量を大きくするには「正極活物質が塗布された面積」を大きくすればよいことは技術常識であり、外形サイズについての比例設計は一般的なことであるから、上記構成は、当業者が容易になし得たことである。
b 本件訂正により本件発明4に付加された「前記正極活物質層の前記短辺の長さは、100mm以上である」は、引用文献1及び引用文献2に記載されている。
c 本件発明4の奏する作用効果は、特許権者の意見書をみても、引用発明1及び引用発明2に対して異質な効果や際立って優れた効果ではない。
d よって、本件発明4は、依然として特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない。
イ 当審の判断
(ア)本件発明1について
a 本件発明1に関して本件特許明細書の段落【0084】には、「例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルの含有率を増やすと、電解液の粘度が上昇するため、絶縁シート30と正極10X及び20Yとの間にいくらかの粘着性が生じる。」と記載されている。
上記記載は、本件特許明細書の段落【0099】に記載された「電解液(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=3;7、LiPF6濃度1mol/L)160mL」において、さらに「エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルの含有率を増やす」と、電解液の粘度が上昇することを意味している。
よって、引用文献1の段落【0040】に記載された電解液と本件特許明細書の段落【0099】に記載された電解液の「エチレンカーボネート」の含有量が一致することは、本件特許明細書の段落【0084】記載の操作がなされていないこと、つまり、引用文献1の段落【0040】に記載された電解液では「電解液の粘度が上昇するため」の工夫がなされていないと解釈できることになる。
b また、引用文献2の段落【0035】には、電解液に用いることができる有機液体溶媒の化学名が単に羅列されているにすぎず、本件特許明細書の段落【0084】に記載された「エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルの含有率を増やすと、電解液の粘度が上昇するため、絶縁シート30と正極10X及び20Yとの間にいくらかの粘着性が生じる。」との技術的知見を何ら開示するものではない。
よって、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」する構成は、引用文献1、引用文献2に記載も示唆もされていない。また、設計的事項であるともいえない。
c また、異議申立人金田綾香の指摘するように、甲第7号証の段落【0055】、甲第8号証の段落【0062】、甲第11号証の段落[0076]に、引用文献1と同様に「環状炭酸エステルの含有量が30%以上である電解液」が開示されているとしても、上記aと同じ理由により、甲第7号証、甲第8号証、甲第11号証には、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」する構成は記載されていないといえる。
d よって、本件発明1は、引用文献1、引用文献2に記載された発明と同一ではなく、また、当業者であっても、引用文献1、引用文献2に記載された発明、及び甲第7号証、甲第8号証、甲第11号証に記載された技術に基づいて容易に発明をすることかできたものでもない。
したがって、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
e なお、念のため、異議申立人金田綾香の提出した甲第15ないし18号証に記載された事項と、本件発明1とを対比する。
(a)甲第15号証(特開2004-342572号公報)における「電池用セパレータのための部分架橋接着剤担持多孔質フィルム」は、「電極」と「接着」するものであって、「電解液」によってセパレータに「粘着性」を付与するものではない。よって、甲第15号証には、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ている構成(上記【相違点1-1-2】、【相違点1-2-2】に係る本件発明1の構成)は記載されていない。
(b)甲第16号証(特開2018-6266号公報)では、「セパレータ領域」と「電極板」「との仮止め」は、「セパレータ領域」の「表面」の「接着層」で行われているから、「電解液」によってセパレータに「粘着性」を付与するものではない。よって、甲第16号証には、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ている構成(上記【相違点1-1-2】、【相違点1-2-2】に係る本件発明1の構成)は記載されていない。
(c)甲第17号証(特開2018-133244号公報)では、「セパレータ」と「電極」とを、「セパレータ」の上に「配置」された「接着性」に「優れる」「バインダ樹脂」によって「接着」しており、「セパレータ」と「電極」とを「粘着」させるものではない。よって、甲第17号証には、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ている構成(上記【相違点1-1-2】、【相違点1-2-2】に係る本件発明1の構成)は記載されていない。
(d)甲第18号証(特開2018-133246号公報)では、「セパレータ」と「電極」とを「ドライヒートプレス」により「接着」しており、「セパレータ」と「電極」とを「粘着」させるものではない。よって、甲第18号証には、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ている構成(上記【相違点1-1-2】、【相違点1-2-2】に係る本件発明1の構成)は記載されていない。
よって、甲第15号証ないし甲第18号証に記載された事項を考慮しても、本件発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
(イ)本件発明2について
本件発明2に係る請求項2は、請求項1を引用しつつ、所定の発明特定事項を付加したものである。
よって、本件発明2は、上記(ア)で述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1、引用文献2に記載された発明、及び甲第7号証、甲第8号証、甲第11号証に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
(ウ)本件発明4について
本件発明4は、前訂正請求に係る訂正特許請求の範囲の請求項2に記載されていなかった「正極活物質層の短辺の長さを、100mm以上とする」との事項を新たに含むものである。
そして、本件発明4は、上記「正極活物質層の短辺の長さ」だけでなく、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)」、「正極活物質層の平均面積A」、「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」と相まって、本件特許明細書の段落【0070】に「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。」と記載されているような具体的な設計思想に基づいて発明されたものである。
したがって、引用文献1、または、引用文献2に、上記各構成の一部について、断片的に満足する数値が記載されているとしても、これらすべての構成を同時に満足するものではない以上、引用文献1、または、引用文献2に本件発明4に至る上記具体的な設計思想が記載されているとはいえない。
よって、本件訂正発明4は、当業者であっても、引用発明1、または引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4は、上記構成を同時に満足することにより、本件特許明細書の上記段落【0070】に記載されているとおり、格別顕著な作用効果を相するものである。
したがって、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
(エ)甲第9号証ないし甲第11号証について
念のため、本件発明4に関して、異議申立人金田綾香の提出した甲第9号証ないし甲第11号証に記載された技術を検討すると、甲第9号証及び甲第11号証には、本件発明1における【相違点4-1-1】、【相違点4-1-2】に係る構成、あるいは【相違点4-2-1】、【相違点4-2-2】に係る構成が示されていない。
また、甲第10号証には、【相違点4-1-3】、【相違点4-2-3】に係る本件発明1の構成である「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」については何ら記載されていない。
そして、本件発明4は「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)」、「正極活物質層の平均面積A」、「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」、及び、本件訂正請求により新たにに追加された「正極活物質層の短辺の長さ」についての各構成が相まって、本件特許明細書の段落【0070】に「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。」と記載されているような具体的な設計思想に基づいて発明されたものである
したがって、甲第9号証及び甲第11号証に上記各構成の一部について、断片的に満足する数値が記載されているとしても、これらすべての構成を同時に満足するものでない以上、本件発明4に至る上記具体的な設計思想が記載されていないのであるから、本件発明4は、甲第9号証及び甲第11号証に記載された技術を考慮しても、引用発明1、または引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)取消理由で採用しなかった主張について
ア 本件発明11、12について(甲第1号証(引用文献1)を主引用例とした場合)
異議申立人金田綾香は、異議申立書において、本件発明11、12は甲第1号証(引用文献1)に記載された発明であると主張しているので、この点について検討する。
(ア)引用文献1には、「セパレータに電極接着層を設けて、リチウムイオン二次電池を製造する技術」([0002])、「接着層14は負極活物質層11bとセパレータ13との間、及び正極活物質層12bとセパレータ13との間の両方に設けられてもよい」([0008])こと、「上記で得た接着層を有する負極10枚と、正極9枚と、セパレータ18枚を積層し仮積層体を得た。」([0042])ことが記載されている。
しかしながら、「粘着」とは、「ねばりつくこと」(広辞苑第7版)、「粘着性」とは「ねばりつく性質」(広辞苑第7版)を意味し、引用文献7に記載されてるとおり、「いつまでも固まらずネバネバしてい」て、「いったんつけたものを比較的容易にはがすことができる」点で、「水や溶剤が揮発したり、反応することで固ま」り、「接着強度が求められ」る「接着」とは異なる技術である。
よって、引用文献1に記載された上記各事項は、本件発明11における「前記電極体を作製する工程において、粘着性を有する前記絶縁シートによって、当該絶縁シートに隣接する前記正極および前記負極を当該絶縁シートに仮留めする」構成を開示していない。
したがって、本件発明11は、引用文献1に記載された発明ではない。
(イ)また、本件発明12に係る請求項12は、本件発明11に係る請求項11を引用し、さらに所定の技術的事項による限定が付加されたものであるから、本件発明12は、本件発明11について述べたのと同じ理由によって、引用文献1に記載された発明ではない。
(ウ)なお異議申立人金田綾香は、令和4年4月6日の意見書において、上記甲第15号証ないし甲第18号証を、本件発明11、12に対する周知技術を示す文献としても引用しているが、本件発明11は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項11を独立形式に書き換えたものであって、新たな構成が追加されているわけではなく、また、本件発明12も、本件訂正前の請求項11を引用する請求項12のままであって、実質的な訂正がなされているわけではない。
すると、甲第15号証ないし甲第18号証は、本件発明11、12に対しては異議申立期間経過後に提出された証拠であるから、異議申立期間を6ヶ月に制限した制度の趣旨に鑑み、採用しない。
また、同じ理由により、本件発明11、12に関し、甲第15号証ないし甲第18号証に基づく新たな主張も採用しない。
なお、上記甲第15ないし18号証には「セパレータ」と「電極」とを「接着」させる点が記載されているに過ぎず、本件発明11に係る「前記電極体を作製する工程において、粘着性を有する前記絶縁シートによって、当該絶縁シートに隣接する前記正極および前記負極を当該絶縁シートに仮留めする」構成は記載も示唆もされていないから、仮に採用したとしても、本件発明11、12に関する当審の判断は変わらない。
(エ)以上のとおり、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
(4)本件発明1ないし3、6、8ないし10について(甲第2号証(国際公開2015/156168号))を主引用例とした場合)
異議申立人金田綾香は、異議申立書において、甲第2号証に記載された発明(引用発明K-2)を主引用例として、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3、6、8ないし10は甲第2号証に記載された発明(引用発明K-2)と同一であると主張しているので、この点について検討する。
(ア)本件発明1について
本件発明1と引用発明K-2とを対比すると、引用発明K-2における負極板と正極板との合計枚数は11枚であるから、両者は次の点で相違し、その他の点では一致する。
【相違点1-K2-1】
本件発明1では、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明K-2では、(A/T2)の値が明記されていない点。
【相違点1-K2-2】
本件発明1では「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのに対し、引用発明K-2では、そのような構成は示されていない点。
そこで上記相違点について検討すると、
【相違点1-K2-1】について
引用発明K-2におけるA/T2の値を計算すると、639(=215mm×190mm/(8mm)2)であるから、「100以上20000以下」である。よって、【相違点1-K2-1】は実質的な相違点ではない。
【相違点1-K2-2】について
引用文献K-2の段落[0078]に「電解液は1.0M LiPF6をエチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC):エチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(体積比1:1:1)に溶解した溶液を用いた。」と記載されている。すると、引用文献6に「PC, EC, ジメチルスルホキシド,γ-プチルラクトン,スルホランなどの高誘電率溶媒は一般に粘度が高いため,イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)という傾向があり、通常は,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジメチルカーボネートなどの低粘度溶媒を加えることによって電解液の粘度を下げる」と記載されているとおり、引用文献K-2に記載された「電解液」は、粘度が高い溶媒であるエチレンカーボネート(EC)に、低粘度溶媒であるジエチルカーボネート(DEC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)を混合して電解液の粘度を下げていると考えるのが自然である。
すると、引用発明K-2における「電解液」の粘度は、低粘度溶媒を加えることによって下げられており、それを含浸したセパレータ(絶縁シート)が正極および負極に粘着するほどの粘性は有していないものと認められる。
よって、本件発明1は、甲第2号証(国際公開2015/156168号)に記載された発明と同一ではない。
(イ)本件発明2ないし3、6、8ないし10について
本件発明2ないし3に係る請求項2ないし3は、本件発明1に係る請求項1を引用し、所定の技術的事項を付加したものである。
よって、本件発明2ないし3は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、甲第2号証(国際公開2015/156168号)に記載された発明と同一ではない。
また、本件発明4は、本件訂正前の請求項4に更なる限定を付加したものであるが、異議申立書において、本件訂正前の請求項4に係る発明については、甲第2号証(国際公開2015/156168号)を主引用例とした取消理由は主張されていない。
さらに、本件発明5ないし10に係る請求項5ないし10は、本件発明1に係る請求項1、または、取消理由は主張されていない本件発明4に係る請求項4を引用し、所定の技術的事項を付加したものである。
よって、本件発明5ないし10は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、甲第2号証(国際公開2015/156168号)に記載された発明と同一ではない。
(4)記載不備について
ア 異議申立人金田綾香の申立て理由
(ア)サポート要件
a 「A/T2」の範囲に関して(異議申立書第53頁下から2行-第55頁最下行)
(a)本件発明1では「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり、」と規定され、その効果は、本件特許明細書の段落【0070】に「リチウムの析出が生じてしまうことを効果的に回避することができるとともに、更に体積エネルギーを向上させることができる。・・・(中略)・・・高容量の蓄電素子1を十分に薄型化して、蓄電素子1の設置の自由度を効果的に改善することができる。」と記載された点にあるとされている。
(b)しかし、一方で、上記効果の奏される「平均面積A」、「厚さT」に関して、本件特許明細書の段落【0072】には「この蓄電素子1において、正極活物質層12Xの平均面積Aは、8400mm2以上756000mm2以下であることが好ましく、・・・(中略)・・・・・。この蓄電素子1によれば、偏平形状を有し設置の自由度を改善された蓄電素子1を十分に高容量化することができ、これにより、優れた体積エネルギー密度を確保することができる。また、このような蓄電素子1によれば、リチウムの析出が生じてしまうことをより効果的に回避することができるとともに、更に体積エネルギー密度の低下をより効果的に回避することができる。」と記載され、本件特許明細書段落【0075】には、「このように電極体5の厚さT〔mm〕を調節して、薄型化による蓄電素子1の設置自由度の改善を図る観点から、蓄電素子1及び外装体7の第1方向d1に沿った厚さは、0.3mm以上10mm以下であることが好ましく、・・・(以下、省略)・・・」と記載されている。
(c)すると、段落【0072】及び【0075】の上記記載によれば、(A/T2)が「100以上20000以下」の範囲となる「平均面積A」、「厚みT」のうち、「8400mm2≦A≦756000mm2」かつ「0.3mm≦T≦10mm」の範囲においてのみ、効果が認められるのであって、請求項1に記載された「A/T2」の条件を満たす「平均面積A」、「厚みT」の全範囲で効果が奏されるわけではない。
よって、請求項1の記載は、効果の認められない範囲を含むので、発明の詳細な発明に開示された内容の範囲を超えている。
b 実施例のサポートに関して(異議申立書第56頁第1-14行)
本件特許明細書には、唯一の実施例として、段落【0100】に「電極体の第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、2924となった。」と記載されているにすぎず、それ以外の範囲において、段落【0070】の効果(上記a(a)参照)が奏されるか、不明である。
よって、請求項1の記載は、発明の詳細な説明に記載された内容を過度に拡張ないし一般化している。
(イ)明確性について
a 「絶縁シートに含浸した電解液によって付与された粘着性」に関して(令和4年10月21日の意見書、第5頁第5-11行、第10頁下から4行-第11頁第10行)
本件訂正請求により請求項1に追加された「絶縁シートに含浸した電解液によって付与された粘着性」に関して電解液の具体的な組成が特定されておらず、粘着性の度合いが不明である。また、「粘着性」とは定性的な用語であり、発明の詳細な説明に何ら定義されておらず、用語の意味が曖昧であるので、発明の範囲が不明確であり、また、本件発明1と従来の環状炭酸エステルを含む電解液を用いた蓄電素子との違いが不明確である。
b 本件発明4に関して(令和4年10月21日の意見書、第11頁第11-20行)
本件訂正請求により請求項4に規定された、正極活物質層の平均面積A、正極活物質層の「長辺の長さ」に対する「短辺の長さ」の比の値、及び正極活物質層の「短辺の長さ」の各種数値範囲は、首尾一貫していない。例えば、それら複数の数値範囲のいくつかは満たすが、全てを満たさない例が存在する。
イ 当審の判断
(ア)「ア(ア)a」について
本件特許明細書の段落【0072】、【0075】の記載は、正極活物質層の平均面積A〔mm2〕及び電極体の第1方向に沿った厚みT〔mm〕について「好ましい」範囲を記載したにすぎず、8400mm2≦A≦756000mm2」かつ「0.3mm≦T≦10mm」の範囲においてのみ本件特許明細書の段落【0070】に記載された「リチウムの析出が生じてしまうことを効果的に回避することができるとともに、更に体積エネルギー密度を向上させることができる。」及び「高容量の蓄電素子1を十分に薄型化して、蓄電素子1の設置の自由度を効果的に改善することができる。」という作用効果が認められることを記載しているのではない。
よって、異議申立人金田綾香の主張は、本件特許明細書の記載を正解するものではなく、採用できない。
(イ)「ア(ア)b」について
本件特許明細書の段落【0062】では「なお、本実施の形態においては、後述する理由から、電極体5の第1方向d1に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)が、100以上20000以下となるよう、・・・(中略)・・・電極体5を作製する。」と記載されている。
すると、実施例として段落【0100】に開示された(A/T2)の値は、本件発明1によって「後述する理由」、すなわち上記段落【0070】に記載された作用効果が奏されることを確認するための検証例の値にすぎない。かかる検証は、それ以外の(A/T2)の値では段落【0070】に記載された作用効果が奏されなくなることを証明するものではなく、また、発明に含まれる全ての範囲について検証が求められるものでもない。
よって、異議申立人金田綾香の主張は、本件特許明細書における実施例の意義を見誤っており、採用できない。
(ウ) ア(イ)aについて
本件特許明細書の段落【0084】、【0085】に記載されているとおり、本件発明1における「粘着性」とは、「正極10X及び負極20Yが隣接する絶縁シート30に対して相対移動することを効果的に抑制することができ」(段落【0084】)、「絶縁シート30と積層された電極10X,20Yを、絶縁シート30に対して位置決めした位置に維持することができ」(段落【0084】)、「該絶縁シート30に隣接する正極10X及び負極20Yを当該絶縁シート30に仮留めすることができる」(段落【0085】)程度の粘着性を意味しており、請求項1に記載された 「絶縁シートに含浸した電解液によって付与された粘着性」の技術的意味は明確である。
また、従来の環状炭酸エステルを含む電解液(例えば、引用文献6参照。)に比べ、「エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステルの含有率を増やす」(段落【0084】)ことで、「電解液の粘度」を「上昇」させたものであって、従来の環状炭酸エステルを含む電解液との差異も明確である。
よって、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
(エ)「ア(イ)b」について
特許請求の範囲の請求項4に規定された、正極活物質層の平均面積A、正極活物質層の「長辺の長さ」に対する「短辺の長さ」の比の値、及び正極活物質層の「短辺の長さ」の各数値範囲は、本件発明4における電極体が満たすべき条件として記載されているのであるから、それら複数の数値限定のいくつかは満たすが、全てを満たさない例が存在し得るとしても、そのような例は本件発明4における電極体ではない。
よって、複数の数値限定の全てを満たさない例があるからといって、本件発明4が不明確となるものではない。
したがって、異議申立人金田綾香の主張は採用できない。
2 異議申立人鈴木愛子の申立て理由について
(1)異議申立人鈴木愛子の提出した甲第1、2、4ないし15号証(取消理由通知において採用しなかった証拠)について
ア 甲第1号証(国際公開2014/034708号)について
(ア)甲第1号証に記載された事項について
甲第1号証(以下、「引用文献S-1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「[0001] 本発明は、正極板と負極板を交互に積層した積層型の電極群を有する二次電池に関し、特に、平面サイズの大きな大型の二次電池を構築するのに好適な電極板およびこの電極板を備えた二次電池に関する。」
「[0025] 本発明に係る二次電池として、例えば、リチウム二次電池を用いる。本実施形態に係る二次電池RBは、積層型のリチウム二次電池であって、図7に示すように、外装ケース11と蓋部材12とから構成される電池缶10内に、正極板と負極板とをセパレータを介して複数層積層した積層型の電極群1を収容し、電解液を充填している。また、極板の面積を大きくし、積層数を増やすことで比較的大容量の二次電池となり、電気自動車用蓄電池や電力貯蔵用蓄電池などに適用可能なものである。
[0026] 次に、積層型のリチウム二次電池RBと電極群1の具体的な構成について、図7~図10を用いて説明する。
[0027] 図7に示すように、積層型のリチウム二次電池RBは平面視矩形とされ、それぞれが矩形とされる正極板と負極板とセパレータとを積層した電極群1を備えている。また、底部11aと側部11b~11eを備えて箱型とされる外装ケース11と蓋部材12とから構成される電池缶10に収容して、外装ケース11の側面(例えば、側部11b、11cの対向する二側面)に設ける外部端子11fから充放電を行う構成としている。
[0028] 電極群1は、正極板と負極板とをセパレータを介して複数層積層した構成であって、図8に示すように、正極集電体2b(例えば、アルミニウム箔)の両面に正極活物質からなる正極活物質層2aが形成された正極板2と、負極集電体3b(例えば、銅箔)の両面に負極活物質からなる負極活物質層3aが形成された負極板3とがセパレータ4を介して積層されている。
[0029] セパレータ4により、正極板2と負極板3との絶縁が図られているが、外装ケース11に充填される電解液を介して正極板2と負極板3との間でリチウムイオンの移動が可能となっている。」
[図:0001396253000017.jpg]
[図:0001396253000018.jpg]
「[0042] また、電解液としては、有機電解液を用いることが好ましい。具体的には、有機電解液の有機溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ―ブチロラクトンなどのエステル類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタンなどのエーテル類、さらに、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチルなどが使用可能である。なお、これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
[0043] さらに、有機溶媒には電解質塩が含まれていてもよい。」
「[0084] (実施例)
[正極板の作製]
正極活物質としてのLiFePO4(90重量部)と、導電材としてのアセチレンブラック(5重量部)と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(5重量部)と、を混合し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドンを適宜加えて各材料を分散させてスラリーを調製し、このスラリーを正極集電体としてのアルミニウム箔(厚み20μm)の両面上に均一に塗布して乾燥させた後、ロールプレスで圧縮し、所定のサイズで切断して板状の正極板2を作製した。
[0085] また、所定厚みに活物質が塗工された発電領域と未塗工領域との間に、傾斜面状で幅4mmの第二の緩衝領域C3を設け、その先端に幅2mmの波状の凹凸形状を有する第一の緩衝領域C2を設けた。作製した正極板のサイズは、145mm×312mm(塗工領域は145mm×299mm)で、厚みは330μmであって、この正極板2を32枚用いた。
[0086] [負極板の作製]
負極活物質としての天然黒鉛(95重量部)と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(5重量部)と、を混合し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドンを適宜加えて各材料を分散させてスラリーを調製し、このスラリーを負極集電体としての銅箔(厚み10μm)の両面上に均一に塗布して乾燥させた後、ロールプレスで圧縮し、所定のサイズで切断して板状の負極板3を作製した。
[0087] また、所定厚みに活物質が塗工された発電領域と未塗工領域との間に、傾斜面状で幅4mmの第二の緩衝領域C3を設け、その先端に幅2mmの波状の凹凸形状を有する第一の緩衝領域C2を設けた。作製した負極板のサイズは、153mm×315mm(塗工領域は153mm×307mm)で、厚みは205μmであって、この負極板3を33枚用いた。
[0088] [セパレータの作製]
また、セパレータとして、サイズ153mm×311mmで、厚み25μmのポリエチレンフィルムを64枚作製した。
[0089] [非水電解液の作製]
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、30:70の容積比で混合した混合液(溶媒)に、LiPF6を1mol/L溶解して非水電解液を調整した。
[0090] [電池缶の作製]
電池缶を構成する外装ケースおよび蓋部材を、ニッケルメッキされた鉄板を用いてそれぞれ作製した。また、その寸法は、厚みは0.8mmを基準とし、缶のサイズは、長手方向×短手方向×深さ、がそれぞれ内寸で、380mm×160mm×45mmを基準としている。また、厚みが、0.8mmで、段付きの蓋部材を備えた角型電池缶を作製した。
[0091] [二次電池の組立]
正極板と負極板とをセパレータを介して交互に積層する。その際に、正極板に対して負極板が外側に位置するように、正極版32枚、負極板33枚、セパレータ64枚を積層し、この積層体をセパレータと同じ厚み25μmのポリエチレンフィルムを用いて捲回する構成として、電極群(積層体)を構築した。
[0092] 正負の極板間に介装するセパレータの大きさは前述したように、153mm×311mmであり、正極板の塗工領域(145×299)、および負極板の塗工領域(153×307)に形成された活物質層を確実に被覆することができる。また、正極板および負極板の未塗工領域に、集電部材(集電端子)を接続した。
[0093] 集電端子を接続した電極群を外装ケースに収容し、集電端子と外部端子とを接続し、蓋部材を取り付けて密封し、真空注液工程(注液工程とガス抜き工程)を介して注液口から非水電解液を減圧注液した。注液後に、注液口を封口して本実施形態の二次電池(実施例1)を作製した。」
(イ)引用文献S-1に記載された発明について
よって、引用文献S-1には、次の発明(以下、「引用発明S-1」という。)が記載されているものと認められる。
「積層型のリチウム二次電池であって、それぞれが矩形とされる正極板と負極板とセパレータとを積層した電極群1を備え、箱型とされる外装ケース11と蓋部材12とから構成される電池缶10に収容し([0027])、
電極群1は、正極板と負極板とをセパレータを介して複数層積層した構成であって、正極集電体2bの両面に正極活物質からなる正極活物質層2aが形成された正極板2と、負極集電体3bの両面に負極活物質からなる負極活物質層3aが形成された負極板3とがセパレータ4を介して積層され([0028])、
電解液としては、有機電解液を用い([0042])、
作製した正極板のサイズは、145mm×312mm(塗工領域は145mm×299mm)で、厚みは330μmであって、この正極板2を32枚用い([0085])、
作製した負極板のサイズは、153mm×315mm(塗工領域は153mm×307mm)で、厚みは205μmであって、この負極板3を33枚用い([0087])、
セパレータとして、サイズ153mm×311mmで、厚み25μmのポリエチレンフィルムを64枚作製し([0088])、
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、30:70の容積比で混合した混合液(溶媒)に、LiPF6を1mol/L溶解して非水電解液を調整し([0089])、
電池缶のサイズは、長手方向×短手方向×深さ、がそれぞれ内寸で、380mm×160mm×45mmを基準とし([0090])、
電極群を外装ケースに収容し、蓋部材を取り付けて密封し、注液口から非水電解液を減圧注液し、注液後に、注液口を封口して作製した([0093])、
二次電池([0027] )。」
イ 甲第2号証(特開2009-9947号公報)について
甲第2号証には、図面とともに、次のとおり記載されている(下線は、当審で付加した。)。
「【0035】
本発明に於いて、二次電池がセパレータを備えている場合には、次の構成のA型又はB型セパレータ又は電極ユニットの位置決め可能なセパレータを適用することが好ましい。
【0036】
(A型セパレータ)
2.5kg/cm2の圧力をセパレータの厚み方向に作用させたとき、セパレータの厚みAが、0.02mm以上0.15mm以下であり、且つ、セパレータの空隙率が40%以上であり、圧力(kg/cm2)をセパレータの厚み方向に作用させたときの圧力(kg/cm2)に対するセパレータの厚み(mm)の変化率の絶対値をB(mm/(kg/cm2))としたとき、B/A=1となる圧力Fが、0.05kg/cm2以上1kg/cm2以下であるセパレータ。
【0037】
(B型セパレータ)
セパレータは、第1のセパレータと、前記第1のセパレータと異なる第2のセパレータとを備え、前記第1のセパレータは、2.5kg/cm2の圧力をセパレータの厚み方向に作用させたとき、前記第1のセパレータの厚みAが、0.02mm以上0.15mm以下であり、且つ、前記第1のセパレータの空隙率が40%以上であり、さらに、圧力(kg/cm2)を前記第1のセパレータの厚み方向に作用させたときの圧力(kg/cm2)に対する前記第1のセパレータの厚み(mm)の変化率の絶対値をB(mm/(kg/cm2))としたとき、B/A=1となる圧力Fが、0.05kg/cm2以上1kg/cm2以下であり、
前記第2のセパレータは、厚さが0.05mm以下であり、孔径が5μm以下であり、空隙率が25%以上である微孔膜であるセパレータ。」
「【0177】
〔A型セパレータ〕
A型のセパレータ104について詳細に説明する。図7は、セパレータ104の厚み方向に圧力をかけながらセパレータ104の厚みを測定した結果を示す図である。なお、図7中、Xは、圧力に対するセパレータの厚み曲線の圧力Fにおける接線を示し、Yは、圧力に対するセパレータの厚み曲線を示す。」
FIG. 7
[図:0001396253000019.jpg]
よって、甲第2号証には、段落【0037】より、次の技術が記載されているものと認められる。
「セパレータは、第1のセパレータと、前記第1のセパレータと異なる第2のセパレータとを備え、前記第1のセパレータは、2.5kg/cm2の圧力をセパレータの厚み方向に作用させたとき、前記第1のセパレータの厚みAが、0.02mm以上0.15mm以下であり、且つ、前記第1のセパレータの空隙率が40%以上であり、さらに、圧力(kg/cm2)を前記第1のセパレータの厚み方向に作用させたときの圧力(kg/cm2)に対する前記第1のセパレータの厚み(mm)の変化率の絶対値をB(mm/(kg/cm2))としたとき、B/A=1となる圧力Fが、0.05kg/cm2以上1kg/cm2以下であり、前記第2のセパレータは、厚さが0.05mm以下であり、孔径が5μm以下であり、空隙率が25%以上である微孔膜であるセパレータ。」
ウ 甲第3号証(特開2005-142149号公報)について
甲第3号証は、取消理由通知における引用文献2であって、再掲すれば、次の技術が記載されている。
「電極板を含む発電要素が外装部材に収容されて封止され、外装部材の外周縁から電極端子が導出した薄型二次電池であって、
薄型電池10は、正極板101と、セパレータ102と、負極板103と、正極端子104と、負極端子105と、上部外装部材106と、下部外装部材107と、当該外装部材106、107により形成される空間に注入された液体電解質とから構成され、
正極板101、セパレータ102、負極板103及び電解質が発電要素108を構成し、また、正極板101、負極板103が電極板に相当し、上部外装部材106及び下部外装部材107が外装部材に相当し、
正極板101は、正極端子104まで伸びている正極側集電体101aと、正極側集電体101aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極層101b、101cとを有し、この正極板101の正極層101b、101cは、正極活物質を含み、
負極板103は、負極端子105まで伸びている負極側集電体103aと、当該負極側集電体103aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極層103b、103cとを有し、この負極板103の負極層103b、103cは、非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、又は、黒鉛等のような負極活物質を含み、
セパレータ102を介して正極板101と負極板103とが交互に積層され、
上部外装部材106及び下部外装部材107によって、発電要素108、正極端子104の一部及び負極端子105の一部を包み込み、外装部材106、107の外周縁を熱プレスにより熱融着して封止し、
正極板の積層数を11層としたとき、正極板の総面積は3600cm2であることから、正極板の長さを220mm、正極板の幅を149mm、正極層を含む正極板の厚さ(=100μm)×正極板の積層数+負極層を含む負極板の厚さ(=70μm)×負極板の積層数+セパレータの厚さ(=25μm)×セパレータの積層数は、正極板の積層数を11層としたとき、100μm×11層+70μm×11層+25μm×21層であり、
負極板は正極板と同じ形状か或いはこれより若干大きいものであれば良い、
薄型二次電池。」
エ 甲第4号証(特表2016-522553号公報)について
甲第4号証は、本件発明11に関して提出された証拠である。
甲第4号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0006】
リチウム二次電池は、一般的にアノード活物質を含むアノード、カソード活物質を含むカソード、アノードとカソードとの間に介されてこれらを電気的に絶縁するセパレーター、及び電解質塩と有機溶媒とをを含む非水電解質を含んでいる。」(当審注:「をを」とあるのは「を」の誤記と認められる。)
「【0008】
なお、セパレーターは、電極との接着力の向上または過充電時における溶融ショットダウン防止などの理由で、セパレーターの表面に電極接着層をさらに導入し得る。従来、電極接着層が導入されたセパレーターは、溶媒を含む高分子スラリーを多孔性高分子基材に塗布した後、乾燥する段階を行うことによって製造されていた。このような溶媒追加の目的は、流動性の確保、高分子粒子の適切な分散度及び粘度を得ることにある。」
よって、甲第4号証には、次の技術が記載されているものと認められる。
「アノード活物質を含むアノード、カソード活物質を含むカソード、アノードとカソードとの間に介されてこれらを電気的に絶縁するセパレーター、及び電解質塩と有機溶媒とを含む非水電解質を含んでいるリチウム二次電池において、
セパレーターは、電極との接着力の向上の理由で、セパレーターの表面に電極接着層をさらに導入し得る」技術。
オ 甲第5号証(特開2015-50009号公報)について
甲第5号証には、次のとおり記載されている。
「【0037】
リン酸鉄リチウムを正極活物質として使用するリン酸鉄リチウムイオン電池の場合、リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として使用する一般的なリチウムイオン電池より充電電圧が低く、サイクル特性等の電池特性への影響を考慮してリン酸鉄リチウムイオン電池の最大充電電圧(充電終止電圧)を3.5~4.0V(好ましくは3.6V~3.8V)の間に設定されることが多い。最大充電電圧は、電解液の分解が開始される電圧より低く設定される必要がある。電解液の分解が開始される電圧は溶媒の組み合わせによって調整できる。」
よって、甲第5号証には、「リン酸鉄リチウムを正極活物質として使用するリチウムイオン電池」が記載されている。
カ 甲第6号証(特開2014-187002号公報)について
甲第6号証には、図面とともに、次のとおり記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0018】
図3(A)に示すように、充電状態のバッテリー501において、正極では、式(1)の反応が起こる。
【0019】
LiFePO4 → FePO4 + Li+ + e- (1)」
【図3】
[図:0001396253000020.jpg]
「【0039】
正極活物質に用いられるリチウム化合物の電気化学平衡電位は、Li金属の電位を基準として知ることができる。例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)の電気化学平衡電位は、約3.5V(vs. Li/Li+)である。また、負極活物質の黒鉛のLiについての電気化学平衡電位は、約0.2V(vs. Li/Li+)である。」
よつて、甲第6号証には、「正極活物質に用いられるリン酸鉄リチウム(LiFePO4)の電気化学平衡電位は、約3.5V(vs. Li/Li+)であり、また、負極活物質の黒鉛の電気化学平衡電位は、約0.2V(vs. Li/Li+)である」ことが記載されている。
キ 甲第7号証(特開2008-186770号公報)について
甲第7号証には、図面とともに、次のとおり記載されている。
「【0019】
図1に、カーボンを含む負極、チタン酸リチウムを含む負極、満充電時の正極それぞれの金属リチウムに対する酸化還元電位と、セリウムイオンの金属リチウム電位に対する酸化還元電位との関係を示す。過充電により正極の酸化還元電位が4.25Vを超え、4.64Vに達すると、セリウムイオンは、3価から4価に酸化される。これにより、正極からのリチウム脱離反応が抑えられるため、過充電時の発熱による発火を防止することができる。」
図1
[図:0001396253000021.jpg]
図1には、チタン酸リチウム負極平均作動電圧が「1.55V」であることが記載されている。
よって、甲第7号証には「チタン酸リチウム負極平均作動電圧が1.55V」であることが記載されている。
ク 甲第8号証(特開2011-222128号公報)について
甲第8号証には、次のとおり記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0051】
負極活物質層22は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を含んで構成されている。負極活物質としては、たとえば、リチウムを含む物質、あるいは、リチウムの吸蔵・放出が可能な物質からなる。また、高エネルギー密度電池を構成するためには、リチウムの吸蔵/放出する電位が金属リチウムの析出/溶解電位に近いものが好ましい。その典型例としては、粒子状(鱗片状、塊状、繊維状、ウィスカー状、球状、粉砕粒子状など)の天然黒鉛もしくは人造黒鉛が挙げられる。なお、負極活物質として、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ粉末、等方性ピッチ粉末などを黒鉛化して得られる人造黒鉛を使用してもよい。また、非晶質炭素を表面付着させた黒鉛粒子を使用することもできる。さらに、リチウム遷移金属酸化物、リチウム遷移金属窒化物、遷移金属酸化物および酸化シリコンなども使用可能である。リチウム遷移金属酸化物としては、たとえば、Li4Ti5O12に代表されるチタン酸リチウムを使用すると、負極20の劣化が少なくなるため、電池の長寿命化を図ることが可能となる。」
よって、甲第8号証には「負極活物質としてチタン酸リチウムを使用する」ことが記載されている。
ケ 甲第9号証(特開2011-204563号公報)について
甲第9号証には、次のとおり記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0074】
負極活物質としては、上記Liと合金化する材料、リチウム金属及びリチウム合金、中でも上記した主要な負極活物質を単独で使用してもよいほか、さらに必要に応じて、従来公知の他の正極活物質を併用してもよい。他の負極活物質としては、リチウム-チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:Li4Ti5O12)等のリチウム-遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。」
よって、甲第9号証には、「リチウム-チタン複合酸化物を負極活物質に使用する」ことが記載されている
コ 甲第10号証(特開2002-134172号公報)について
甲第10号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は充電式リチウムバッテリに関するものであり、特に自己粘着性高分子電解質(self-adhesive polymer electrolyte)を有するリチウムバッテリの製造方法及びリチウムバッテリに関するものである。」
「【0012】本発明は、自己粘着性高分子電解質を含むリチウムバッテリの製造方法を提供することを目的とする。本方法は現在のリチウムバッテリの製造過程に近いだけでなく、スタック型ポリマーバッテリに応用することもできる。
【0013】また、本発明は、現在のバッテリの製造過程と互換性のあるポリマーバッテリの製造方法を提供することを他の目的とする。
【0014】更にまた、本発明は、粘着性の高分子電解質を含むバッテリ及び高いエネルギー密度を提供できるバッテリを提供することをさらなる目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するため、まず、電極板及びセパレータを有するバッテリにポリアクリロニトリル(PAN)溶液(polyacrylonitrile-based solution)を充填した後、有機溶剤を加えてポリアクリロニトリル溶液を相分離し、電極板とセパレータを接合する。
【0016】本発明の特徴的な工程は、溶液中のポリアクリロニトリルを加熱、溶解し、溶液が溶融状態で液体として流動性がある間にポリアクリロニトリル含有溶液をバッテリに注入することである。バッテリの充填方法は注入(pouring)に限らず、射出(injecting)や分配(dispensing)も応用できる。バッテリは電極板をロール状に巻いた構造に限らず、スタック型電極板も応用することができる。溶液を冷却した後、有機溶剤を加えてゲル状のポリアクリロニトリルを相分離する。ポリアクリロニトリルは分離して高分子膜又はバルク(bulk)を形成することにより、電極板とセパレータとをバッテリ内で接合する。この粘着工程は現在のリチウムバッテリの製造技術と互換性がある。
【0017】本発明で用いられる溶液は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン又はそれらを組み合わせたものが好ましい。
【0018】適した有機溶剤は、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸エチルメチル(EMC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ブチレン(BC)、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、炭酸ビニレン(VC)などから選択される。上述の化合物は単独であるいは2種類以上の溶剤を組み合わせて用いることができる。
【0019】バッテリに関する電気化学反応には大量のイオンが必要であるため、溶液又は有機溶剤のいずれかあるいは両者共にリチウム塩を含む。リチウム塩は、LiPF6、LiClO4又はLiBF4が好ましく、その濃度は0.5~3Mが好ましい。
【0020】本発明によれば、電極板とセパレータとの間の粘着性は優れており、必要なイオン濃度も達成する。このことは、製造されるバッテリが高いエネルギー密度を有することを意味する。」
よって、甲第10号証には、次の技術が記載されているものと認められる。
「自己粘着性高分子電解質を含むリチウムバッテリの製造方法において(【0012】、
バッテリはスタック型電極板及びセパレータを有し(【0015】、【0016】)、
粘着工程では、溶液中のポリアクリロニトリルを加熱、溶解し、溶液が溶融状態で液体として流動性がある間にポリアクリロニトリル含有溶液をバッテリに注入し、溶液を冷却した後、有機溶剤を加えてゲル状のポリアクリロニトリルを相分離し、ポリアクリロニトリルは分離して高分子膜又はバルク(bulk)を形成することにより、電極板とセパレータとをバッテリ内で接合し(【0016】)、
溶液又は有機溶剤のいずれかあるいは両者共にリチウム塩を含む(【0019】)」技術。
サ 甲第11号証(特開2013-182735号公報)について
甲第11号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、多層の膜電極接合体の製造方法及びリチウムイオン二次電池に関する。」
「【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態では、多層の膜電極接合体を用いたものの一例としてリチウムイオン二次電池を製造する方法について説明する。図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、端部から端子用タブ2を突出させた正極板3と、膜状に形成されたゲル状電解質4と、セパレータSと、端部から端子用タブ5を突出させた負極板6とを交互に積層し加熱プレスされて形成された多層の膜電極接合体9が、ラミネートフィルム等の筐体8によって包み封止されている。」
図1
[図:0001396253000022.jpg]
「【0016】
図1に示すゲル状電解質4は、ゲル化用電解液を正極板3及び負極板6の少なくともいずれか一方の板面に塗工してゲル化させたものである。
【0017】
ゲル化用電解液は、高分子マトリックスと非水電解液(すなわち、非水溶媒及び電解質塩)とを含み、ゲル化されて表面に粘着性を生じるものである(電解質が溶媒に完全に溶けていないものを含む)。
ゲル化用電解液は正極板3及び/又は負極板6に塗工された際に粘着性を有するものが用いられる。また、ゲル状電解質4は、正極板3及び/又は負極板6の板面から分離しない自立膜を形成するものであることが好ましい。」
「【0021】
セパレータSは、正極板3と負極板6とが短絡しないようにこれらを分離させるとともに、ゲル状電解質4を内部に保持し得る多数の孔(不図示)を有した不織布等のシート材により形成されている。セパレータSの材質としては、特に限定されないがポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン、ポリエチレン等)やポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂等が用いられる。
【0022】
次に、リチウムイオン二次電池1の製造方法の各工程(I),(II)について説明する。リチウムイオン二次電池1の製造方法は、(I)正極板3と負極板6とをこれらの間にゲル状電解質4及びセパレータSが介装されるように交互に積層し、積層体7を形成する工程と、(II)積層体7を加熱プレスし、ゲル状電解質4を昇温させるとともに押圧する工程とを有している。
【0023】
(I)正極板3と負極板6とをこれらの間にゲル状電解質4及びセパレータSが介装されるように交互に積層し、積層体7を形成する工程
まず、図2(a)に示すように、正極板3を形成するために、アルミ箔等の正極集電体10の両板面に正極活物質層11を形成しロール上に巻回しておいた正極板3を延伸させる。この正極板3は、予め所定寸法に切断されたものであってもよい。
図2(b)に示すように、負極板6は、銅箔等の負極集電体12の両板面に負極活物質層13を形成する他は正極板3と同様にして形成される。
なお、正極板3及び負極板6の板面には、必要に応じて非水電解液を塗工してもよい。塗工方法は、特に限定されないが、例えばディッピング法やスプレー法等が採用される。
【0024】
図3(a)に示すように、ゲル状電解質4は、ゲル状電解質4を50℃以上100℃以下、望ましくは50℃以上80℃以下の温度範囲で加熱して粘度を低下させ液体状にしたゲル化用電解液を、正極板3及び負極板6の板面に直接塗工し、塗工されたゲル化用電解液が50℃以下の雰囲気下におかれることで再度ゲル化して形成される。
ゲル化用電解液を塗工する前記板面は、同図に示すように、正極板3及び負極板6の各一方の板面3a,6aであっても、図4に示すように、正極板3又は負極板6の両方の板面であってもよく(図4においては負極板6の両面6a,6bに塗工している)、いずれにしても、積層された際に正極板3と負極板6との間に必ずゲル状電解質4が介装されるように塗工すればよい。
ゲル化用電解液の塗工方法としては、例えば、ドクターブレード法,ディッピング、グラビアコーター、コンマコーター、リップコーター等を用いる各種コーター方式が挙げられる。
【0025】
そして、図3(a)、図4に示すように、上記の工程で得られた正極板3及び負極板6を、これらの間にゲル状電解質4の層及びセパレータSが介装されるように交互に積層する。正極板3と負極板6とを積層すると、ゲル状電解質4は粘着性を有しているため、これら正極板3と負極板6とがゲル状電解質4により互いに貼着する。更に、正極板3及び/又は負極板6の板面に塗工されたゲル化用電解液は、ゲル化用電解液自身が漸次50℃未満に冷却されることによって粘度が高くなり、ゲル化する。
その後、所定枚数の正極板3及び負極板6を積層した後、正極板3及び負極板6の外方に突設させた端子用タブ2,5をそれぞれ超音波溶接等により接合し、図3(b)に示した積層体7を得る。
【0026】
(II)積層体7を加熱プレスし、ゲル状電解質4を昇温させるとともに押圧する工程
上記のようにして得られた積層体7を全体的に加熱して、ゲル状電解質4が流動性を保持し得る50℃以上100℃以下、望ましくは50℃以上80℃以下の温度になるようゲル状電解質4を加熱する。そして、ゲル状電解質4が50℃以上100℃以下(望ましくは50℃以上80℃以下)に昇温している間に、積層体7に積層方向の0.02kN~0.3kNの応力を加えてゲル状電解質4を押圧する。この加熱プレスによって、正極板3及び負極板6との間のセパレータSにゲル状電解質4を十分に含浸させるとともに、ゲル状電解質4の層の厚みを均一にして多層の膜電極接合体9を形成する。
なお、ゲル状電解質4が流動性を保持し得るとは、ゲル状電解質4の少なくとも一部が液化した状態をいい、具体的には、望ましくは30Pa・s以下、さらに望ましくは、10Pa・s以下となった状態をいう。
積層体7の加熱プレスには、ホットプレス機、ロールプレス機、恒温槽中にて積層体に重りを載せる等を用いる。
【0027】
上記のようにして得られた多層の膜電極接合体9は、円筒型、角型、又はラミネート型等の筐体8内に収容されるが、他の筐体に比べてエネルギー密度が高く、放熱性が良いラミネート型の電池構造とすることが好ましい。例えばラミネート型の筐体に収容した場合には、正極板3及び負極板6から突出させた端子用タブ2,5をアルミラミネートフィルムの外方に突出させて該フィルムの外周をラミネート加工して封止し、リチウムイオン二次電池1が完成する。」
【図2】
[図:0001396253000023.jpg]
【図3】
[図:0001396253000024.jpg]
【図4】
[図:0001396253000025.jpg]
よって、上記記載より、甲第11号証には、次の技術が記載されているものと認められる。
「リチウムイオン二次電池1は、正極板3と、膜状に形成されたゲル状電解質4と、セパレータSと、負極板6とを交互に積層し加熱プレスされて形成された多層の膜電極接合体9が、ラミネートフィルム等の筐体8によって包み封止され(【0011】)
ゲル化用電解液は、高分子マトリックスと非水電解液(すなわち、非水溶媒及び電解質塩)とを含み、ゲル化されて表面に粘着性を生じるものであり(【0017】)、
セパレータSは、正極板3と負極板6とが短絡しないようにこれらを分離させるとともに、ゲル状電解質4を内部に保持し得る多数の孔を有した不織布等のシート材により形成され(【0021】)、
ゲル化用電解液を塗工(【0024】)した正極板3及び負極板6を、これらの間にゲル状電解質4の層及びセパレータSが介装されるように交互に積層し、正極板3と負極板6とを積層すると、ゲル状電解質4は粘着性を有しているため、これら正極板3と負極板6とがゲル状電解質4により互いに貼着し、更に、正極板3及び/又は負極板6の板面に塗工されたゲル化用電解液は、ゲル化用電解液自身が漸次50℃未満に冷却されることによって粘度が高くなり、ゲル化し、その後、所定枚数の正極板3及び負極板6を積層した後、積層体7を得(【0025】)、
得られた積層体7を加熱プレスによって、正極板3及び負極板6との間のセパレータSにゲル状電解質4を十分に含浸させ、多層の膜電極接合体9を形成し(【0026】)、
得られた多層の膜電極接合体9を、ラミネート型の筐体に収容し、リチウムイオン二次電池1が完成する(【0027】)」技術。
シ 甲第12号証(特開平11-204136号公報)について
甲第12号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バイポーラ型リチウムイオン2次電池の構造の改良及びそのための製造方法の改良に関する。」
「【0016】また、この正極12及び負極14の各活物質側を対向配置し、ゲル電解質が含浸されたセパレータ10を挟み込んで電池単位とするが、これは以下の工程により製造する。すなわち、正極12及び負極14の各活物質を対向させ、通気性を有するセパレータとして不織布をその間に挟み込む。これを、LiPF6電解質を含むEC:DEC=1:1の電解液に、PVDF-HFP樹脂を15%分散させた混合液の中に浸漬する。このPVDF-HFPの代わりに、アクリルやPAN等の樹脂を使用することもできる。また、電解質としては、LiPF6のほかにLiBF4等も使用することができる。また、電解質を溶解する溶液としては、PC等も使用することができる。上記電解質が溶解した電解液と樹脂との混合液は、まだゲル状になっていないので、この工程により、不織布中に浸透していく。
【0017】以上のように、上記混合液中に上述した電池単位を浸漬した後、120℃の温度に加熱する。加熱後、混合液中から電池単位を取り出し、室温に冷却し、不織布中に含浸された混合液をゲル化する。この工程により、ゲル電解質が含浸されたセパレータ10の両面に正極12及び負極14が形成された電池単位を得ることができる。」
よって、甲第12号証には、次の技術が記載されているものと認められる。
「バイポーラ型リチウムイオン2次電池の構造の改良であって(【0001】)、
正極12及び負極14の各活物質側を対向配置し、ゲル電解質が含浸されたセパレータ10を挟み込んで電池単位とするが、正極12及び負極14の各活物質を対向させ、通気性を有するセパレータとして不織布をその間に挟み込み、これを、LiPF6電解質を含むEC:DEC=1:1の電解液に、PVDF-HFP樹脂を15%分散させた混合液の中に浸漬し、上記電解質が溶解した電解液と樹脂との混合液は、まだゲル状になっていないので、この工程により、不織布中に浸透していき(【0016】)、上記混合液中に上述した電池単位を浸漬した後、120℃の温度に加熱し、加熱後、混合液中から電池単位を取り出し、室温に冷却し、不織布中に含浸された混合液をゲル化し、ゲル電解質が含浸されたセパレータ10の両面に正極12及び負極14が形成された電池単位を得ることができる(【0017】)」技術。
(2)取消理由を基礎とした主張について
ア 異議申立人鈴木愛子の主張
(ア)本件発明1について
異議申立人鈴木愛子は、令和4年10月24日に提出した意見書の第3頁下から5行-第7頁第18行において、取消理由通知書に基づいて、次のように主張している。
a 本件発明1が、「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」という事項cを備えているのに対し、引用発明1、および、引用発明2に係る発明は、係る事項を備えているかどうか不明である点で相違するが、甲第10号証ないし甲第12号証は上記事項cを開示しているから、上記事項cは、周知の技術といえ、引用発明1、または、引用発明2において、電極体と絶縁シートの固定に、上記周知の技術を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、エチレンカーボネートやプロヒレンカーボネートは、引用文献1においても、引用文献2においても、電解液の有機溶媒として用いられているから、これらの有機溶媒を用いる場合は、多かれ少なかれ、電解液によって粘着性が生じるので、引用文献1、引用文献2は、上記事項cを開示している。
よって、本件発明1は、引用発明1、または、引用発明2と、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2ないし3について
引用文献1、2には、環状炭酸エステルを含むことが開示されており、本件訂正発明2ないし3も、引用発明1、または、引用発明2と、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)本件発明4
引用文献1に、短辺の長さが100mmのもの(段落0038)が、引用文献2に、短辺の長さが149mmのもの(正極板の幅、段落0073)が記載されていることから、正極活物質層の短辺の長さを、100mm以上とすることは、当業者が適宜設計し得ることであるので、本件発明4は、引用発明1、または引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 当審の判断
(ア)本件発明1について
a 甲第10号証では、「有機溶剤を加えてゲル状のポリアクリロニトリルを相分離」し、
「ポリアクリロニトリルは分離して高分子膜又はバルク(bulk)を形成することにより、電極板とセパレータとをバッテリ内で接合」している。すると、甲第10号証における「自己粘着性高分子電解質を含むリチウムバッテリの製造方法」では、相分離され、「高分子膜又はバルク(bulk)を形成」したゲル状の「ポリアクリロニトリル」が粘着性を示しているのであって、本件発明1のように「前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのではない。
b 次に、甲第11号証には、「ゲル化用電解液は、ゲル化用電解液自身が漸次50℃未満に冷却されることによって粘度が高くなり、ゲル化し、その後、所定枚数の正極板3及び負極板6を積層した後、積層体7を得」ること、つまり、「ゲル化用電解液」は、「ゲル化されて表面に粘着性を生じるものであり」、「ゲル状電解質4は粘着性を有しているため、これら正極板3と負極板6とがゲル状電解質4により互いに貼着」することが示されている。
しかし、甲第11号証における「ゲル化」された「ゲル状電解質4」は、液体ではないから、本件訂正発明1の「電解液」ではない。また、甲第11号証では、加熱された、「ゲル化」前の「電解液」が「正極板3及び負極板6との間のセパレータSに」「十分に含浸させ」ているとしても、「冷却され」、「ゲル化」することによって生じた「ゲル状電解質」の「粘着性」により「これら正極板3と負極板6とがゲル状電解質4により互いに貼着」しているのであって、本件発明1のように「絶縁シート」が「前記正極および前記負極に粘着」する構成とは異なっている。
c 次に、甲第12号証には、「室温に冷却し、不織布中に含浸された混合液をゲル化し、ゲル電解質が含浸されたセパレータ10の両面に正極12及び負極14が形成された電池単位を得ることができる」技術が示されているものの、「ゲル電解質」か「粘着性」を示すことはもとより、セパレータ10の両面に正極12及び負極14が「粘着」していることも、何ら示されていない。
d よって、甲第10ないし12号証によっては、本件発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」することが、周知技術であると認めることはできない。
e また、引用文献6に記載されているとおり、「PC, EC, ジメチルスルホキシド,γ-プチルラクトン,スルホランなどの高誘電率溶媒は一般に粘度が高いため,イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)という傾向があり、通常は,ジエチルカーボネート,メチルエチルカーボネート,ジメチルカーボネートなどの低粘度溶媒を加えることによって電解液の粘度を下げ」ているのであるから、引用発明1または引用発明2に、エチレンカーボネートやプロヒレンカーボネートが電解液の有機溶媒の一つとして記載ないし例示されているからといって、本件訂正発明1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」することが開示されていることにはならない。
f よって、本件訂正発明1は、引用発明1、または、引用発明2と、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
g したがって、異議申立人鈴木愛子の主張は採用できない。
(イ)本件発明2ないし3について
上記(ア)で述べたとおり、請求項2、3が引用する請求項1における「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着」することは、周知技術であると認めることはできない。
よって、本件発明2ないし3は、引用発明1、または、引用発明2と、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人鈴木愛子の主張は採用できない。
(ウ)本件発明4について
本件発明4は、前訂正請求に係る訂正特許請求の範囲の請求項2には記載されていなかった「正極活物質層の短辺の長さを、100mm以上とする」との事項を新たに含むものである。
そして、本件発明4は、上記「正極活物質層の短辺の長さ」だけでなく、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)」、「正極活物質層の平均面積A」、「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」と相まって、本件特許明細書の段落【0070】に「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。」と記載されているような具体的な設計思想に基づいて発明されたものである。
したがって、引用文献1、または、引用文献2に、上記各構成の一部について、断片的に満足する数値が記載されているとしても、これらすべての構成を同時に満足するものではない以上、引用文献1、または、引用文献2に本件発明4に至る上記具体的な設計思想が記載されているとはいえない。
よって、本件発明4は、引用発明1、または引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)取消理由通知で採用しなかった主張について
異議申立人鈴木愛子は、甲第1号証(国際公開2014/034708号)を主引用例とし甲第2号証(特開2009-9947号公報)ないし甲第9号証を副引用例として、本件訂正前の請求項1ないし12に係る発明の進歩性を否定する主張をしていたので、本件訂正後の本件発明1ないし12について、甲第1号証(国際公開2014/034708号)を主引用例として、改めて対比、判断する。
(ア)本件発明1について
a 対比
本件発明1と甲第1号証(国際公開2014/034708号)に記載された発明(引用発明S-1)とを対比する。
引用発明S-1では、「作製した正極板のサイズは、145mm×312mm(塗工領域は145mm×299mm)で、厚みは330μmであって、この正極板2を32枚用い([0084])、 作製した負極板のサイズは、153mm×315mm(塗工領域は153mm×307mm)で、厚みは205μmであって、この負極板3を33枚用い、セパレータとして、サイズ153mm×311mmで、厚み25μmのポリエチレンフィルムを64枚作製し」ているから、正極活物質の塗工領域の面積の計算値は、43355.0mm2(=145mm×299mm)、電極群1の厚みは、正極板、負極板、セパレータの厚みを形式的に積算すると、18.925mm(=0.33mm×32枚+0.205mm×33枚+0.025mm×64枚)であるが、この形式的な厚みの積算値は、電池缶の「深さ」の「内寸」である「45mm」の値の半分以下であって、両者は大幅に異なっている、引用発明S-1において、作製された積層型のリチウム二次電池における、電極群1の実際の厚みを具体的に推定することは困難である。
この点を踏まえると、本件発明1と引用発明S-1とは、次の点で一致し、その他の点では一致する。
【相違点1-S1-1】
本件発明1では「前記絶縁シートに含浸した前記電解液によって付与された粘着性により、前記絶縁シートが前記正極および前記負極に粘着し」ているのに対し、引用発明S-1では「セパレータ」(本件発明1における「絶縁シート」に相当する。)が、そのような構成を備えていることは示されていない点。
【相違点1-S1-2】
本件発明1では「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明S-1では、電極群1の厚みを具体的に推定することが困難であるため、上記構成を満足しているか、不明な点。
b 判断
(a)そこで、まず、上記【相違点1-S1-1】について検討すると、引用発明S-1では非水電解液として「エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、30:70の容積比で混合した混合液(溶媒)に、LiPF6を1mol/L溶解し」たものを用いているが、係る非水電解液は、例えば引用文献6に記載されているとおり、「イオンの移動抵抗が大きくなる(すなわち,イオン伝導率が小さくなる)」ことのないよう、「電解液の粘度を下げる」操作を「通常」のこととして行っているのであるから、電解液の粘度を敢えて増大させ、電解液によって付与された粘着性により、「セパレータ」が正極および負極に粘着し得るようにし、上記【相違点1-S1-1】に係る構成とすることは、当業者といえども、容易になし得たことではない。
(b)また、甲第2号証(特開2009-9947号公報)にも、甲第3号証(引用文献2)にも、上記【相違点1-S1-1】に係る本件発明1の構成は記載されていない。
よって、【相違点1-S1-2】について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、甲第1号証(国際公開2014/034708号)に記載された発明及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
(c)また、甲第4号証(特表2016-522553号公報)に記載された技術は、「セパレーター」と「電極」とを「接着」する技術であって、両者を「粘着」により「仮止め」する技術ではないから、甲第4号証には、本件発明1に係る「粘着性を有する前記絶縁シートによって、当該絶縁シートに隣接する前記正極および前記負極を当該絶縁シートに仮留めする」ことは記載も示唆もされていない。
さらに、甲第6ないし9号証のいずれにも、上記【相違点1-S1-1】に係る本件発明1の構成は示されていない。
また、異議申立人鈴木愛子の提出した他の甲号証も、上記判断に影響を与えるものではない。
(イ)本件発明4について
上記(ア)における対比を踏まえると、本件発明4と引用発明S-1は、次の点で相違し、その他の点では一致する。
【相違点4-S1-1】
本件発明4では「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明S-1では、電極群1の厚みを具体的に推定することが困難であるため、上記構成を満足しているか、不明である点。
【相違点4-S1-2】
本件発明4では「前記正極活物質層の平均面積Aは60000mm2以上756000mm2以下であ」るのに対し、引用発明S-1では、「43355.0mm2(=145mm×299mm)」である点。
そこで上記【相違点4-S1-1】及び【相違点4-S1-2】について併せて検討すると、本件発明4は、上記「正極活物質層の短辺の長さ」だけでなく、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)」、「正極活物質層の平均面積A」、「平面視における前記正極活物質層の長辺の長さ〔mm〕の前記正極活物質層の短辺の長さ〔mm〕に対する比の値」と相まって、本件特許明細書の段落【0070】に「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。」と記載されているような具体的な設計思想に基づいて発明されたものである。
したがって、引用発明S-1、甲第2号証、甲第3号証(引用文献2)に、【相違点4-S1-1】、【相違点4-S1-2】に係る上記各構成の一部について、断片的に満足する数値が記載されているとしても、これらすべての構成を同時に満足するものではない以上、引用発明S-1、甲第2号証、甲第3号証(引用文献2)に本件発明4に至る上記具体的な設計思想が記載されているとはいえない。
よって、本件発明4は、当業者であっても、甲第1号証(国際公開2014/034708号)に記載された発明、及び甲第2号証、甲第3号証(引用文献2)に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、異議申立人鈴木愛子の提出した他の甲号証も、上記判断に影響を与えるものではない。
(ウ)本件発明11について
本件発明11と引用発明S-1とを比較すると、両者は、次の点で相違し、その他の点で一致する。
【相違点11-S1-1】
本件発明11では、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であ」るのに対し、引用発明S-1では、かかる構成を満足しているか、不明である点。
【相違点11-S1-2】
本件発明11は「前記正極および前記負極の間に絶縁シートを介在させるようにして前記電極体を作製する工程と、前記電極体を前記外装体内に収容して前記外装体を封止する工程と、を備え、前記電極体を作製する工程において、粘着性を有する前記絶縁シートによって、当該絶縁シートに隣接する前記正極および前記負極を当該絶縁シートに仮留めする、蓄電素子の製造方法」であるのに対し、引用発明S-1ではかかる製造方法が示されていない点。
そこで、まず、【相違点11-S1-2】について検討すると、ここで、甲第4号証(特表2016-522553号公報)には「セパレーターは、電極との接着力の向上の理由で、セパレーターの表面に電極接着層をさらに導入し得る」技術が示されている。
しかし、「粘着」とは、「ねばりつくこと」(広辞苑第7版)、「粘着性」とは「ねばりつく性質」(広辞苑第7版)を意味し、引用文献7に記載されてるとおり、「いつまでも固まらずネバネバしてい」て、「いったんつけたものを比較的容易にはがすことができる」点で、「水や溶剤が揮発したり、反応することで固ま」り、「接着強度が求められ」る「接着」とは異なる技術であるから、甲第4号証に記載された「接着」技術は、本件発明11における「前記電極体を作製する工程において、粘着性を有する前記絶縁シートによって、当該絶縁シートに隣接する前記正極および前記負極を当該絶縁シートに仮留めする」構成を開示していない。
よって、【相違点11-S1-1】について検討するまでもなく、本件発明11は、当業者であっても、甲第1号証(国際公開2014/034708号)(引用文献S-1)に記載された発明、及び甲第4号証(特表2016-522553号公報)に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、異議申立人鈴木愛子の提出した他の甲号証も、上記判断に影響を与えるものではない。
(エ)本件発明2、3、5ないし10、12について
本件発明5ないし10に関して、異議申立人は甲第5ないし9号証を提出している。
しかしながら、甲第5ないし9号証には、本件発明1、4、11に係る上記各相違点について何ら記載されていない。
そして、本件発明2、3は、請求項1を引用しつつ、所定の発明特定事項を付加したものである。また、本件発明5ないし10は、請求項1または4を引用しつつ、所定の発明特定事項を付加したものである。さらに、本件発明12は、請求項11を引用しつつ、所定の発明特定事項を付加したものである。
よって、本件発明2、3、5ないし10、12は、上記(ア)、(イ)、及び(ウ)で述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、甲第1号証(国際公開2014/034708号)(引用文献S-1)に記載された発明、及び、甲第2号証ないし甲第9号証に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、異議申立人鈴木愛子の主張は採用できない。
(4)甲第13号証(特開2005-93824号公報)について
異議申立人鈴木愛子は、本件発明11、12に関し、令和4年10月24日の意見書にて、甲第13号証を新たに提出している。
しかし、本件発明11は、本件訂正前の請求項1を引用する請求項11を独立形式に書き換えたものであって、新たな構成が追加されているわけではないから、実質的な訂正がなされているわけではない。
すると、甲第13号証は、異議申立期間経過後に提出された証拠であるから、異議申立期間を6ヶ月に制限した制度の趣旨に鑑み、採用しない。
また、同じ理由により、本件発明11、12に関し、甲第13号証に基づく新たな主張も採用しない。
(5)記載不備について
ア 異議申立人鈴木愛子の主張
(ア)サポート要件違反について(異議申立書第26頁第3行-第28頁第2行)
請求項1には、「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)は、100以上20000以下であり」と記載されている。
ここで、請求項1には、正極活物質層の平均面積A、厚みTに対して上限、下限が特定されておらず、正極集電箔上の形状も規定されていないから、正極活物質層の形状は任意である。
これに対し、本件特許明細書の段落【0073】、【0074】、【0076】の記載をみても、発明の詳細な記載には、「平均面積A、厚みT正極活物質層の形状として、任意のものを含みうる」とは記載されていない。
よって、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0073】、【0074】、【0076】の記載を前提とした「薄型化」のための課題解決手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(イ)明確性について
a 請求項1(異議申立書第28頁第3行-第29頁第13行)
請求項1における「前記電極体の前記第1方向に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する前記正極活物質層の平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)」が、なぜ蓄電素子の「薄型化」の指標として選択されているのか、技術的意義が不明である。
よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項に係る発明は明確でない。
b 請求項5(異議申立書第29頁第14行-最下行)
請求項5に記載された「密充電」と、本件明細書の段落【0079】に記載された「満充電」との差異が不明である。
よって、請求項5及び請求項5を引用する請求項に係る発明は明確でない。
c 請求項6及び請求項8(異議申立書第30頁第1-14行)
請求項8は請求項6を引用しているから、請求項8に係る発明は、正極の平均反応電位が4.0以下で、負極の平均反応電位が1.5以上である点を発明特定事項として含むものとなり、論理上、負極の平均反応電位の値が正極の平均反応電位の値を上回り得る場合を含む。
よって、請求項6、8及びそれらを引用する請求項に係る発明は不明確である。
イ 当審の判断
(ア)サポート要件違反について
本件特許明細書の段落【0062】では「なお、本実施の形態においては、後述する理由から、電極体5の第1方向d1に沿った厚みT〔mm〕の2乗に対する正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕の比の値(A/T2)が、100以上20000以下となるよう、・・・(中略)・・・電極体5を作製する。」と記載されている。
これを受けて、本件特許明細書の段落【0070】では、上記「後述する理由」として、「すなわち、正極活物質層12X及び負極活物質層22Yの積層方向d1に直交する方向d2,d3への過度な相対位置ずれを引き起こさず、かつ高容量を実現可能な程度に、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕と電極枚数(負極と正極の合計枚数)を大きく設定しながら、様々な用途への適用に際して設置場所の制約を有効に軽減できる程度に電極体5の厚みT〔mm〕を薄くすることができる。したがって、正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕の電極体5の厚みT〔mm〕の2乗に対する比の値(A/T2)が調節された本実施の形態によれば、リチウムの析出が生じてしまうことを効果的に回避することができるとともに、更に体積エネルギー密度を向上させることができる。併せて、蓄電素子1が十分に薄型化されるので、僅かな隙間等に高容量の蓄電素子1を配置することができる。・・・(中略)・・・すなわち、高容量の蓄電素子1を十分に薄型化して、蓄電素子1の設置の自由度を効果的に改善することができる。」と記載されている。
よって、本件発明の課題解決手段は、「正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕の電極体5の厚みT〔mm〕の2乗に対する比の値(A/T2)」を「調節」することであって、請求項1には、(A/T2)の「調整」値が具体的数値範囲で特定されているのであるから、特許請求の範囲に、正極活物質層の「平均面積A、厚みT」に対する「上限、下限」や「形状」が特定されていないからといって、課題解決手段が反映されていないことにはならない。
したがって、異議申立人鈴木愛子の主張は採用できない。
(イ)明確性について
a 請求項1
請求項1に記載された「正極活物質層12Xの平均面積A〔mm2〕の電極体5の厚みT〔mm〕の2乗に対する比の値(A/T2)」の技術的意義は、上記「イ」「(ア)サポート要件違反について」で述べたとおり、明確である。
よって、異議申立人鈴木愛子の主張は採用できない。
b 請求項5
本件訂正請求により、請求項5の「密充電」は、「満充電」に訂正された。
よって、異議申立人鈴木愛子の指摘する不備は解消した。
c 請求項6及び請求項8
異議申立書第30頁第10-11行で異議申立人も指摘しているように、「反応電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶのが技術常識」であるから、「負極の平均反応電位の値が正極の平均反応電位の値を上回り得る」といった非常識な場合が請求項6、8から明示的に除外されていないからといって、発明が不明確となることはない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
第8 まとめ
よって、本件発明1ないし10、11ないし12に係る特許は、取消理由通知書の理由、及び、特許異議申立人金田綾香が特許異議申立書及び意見書に記載した特許異議申立理由、並びに、特許異議申立人鈴木愛子が特許異議申立書及び意見書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
さらに、他に本件発明1ないし10、11ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700841