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特許異議申立

2021-700825

冷凍凝固卵加工品

審判番号
2021-700825
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-126939外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6836681
請求日
2021年08月23日
審決日
2021年12月13日
公報発行日
2022年05月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.112-Y (A23L) / P1651.113-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6836681号発明「冷凍凝固卵加工品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6836681号の請求項1~2に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

本件特許第6836681号についての出願は、令和2年7月28日を出願日とする特願2020-126939号であって、令和3年2月9日にその発明について特許権の設定登録がなされ、令和3年3月3日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年8月23日に特許異議申立人近藤千賀子(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1~2に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
卵を含む調理品に用いられ容器内に収容された複数の凝固卵と、前記容器内における前記複数の凝固卵の周囲に収容された液部と、を含む冷凍凝固卵加工品であって、
前記複数の凝固卵は、液卵と、0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であり、
前記液部は、100質量部の前記複数の凝固卵に対して10質量部以上であり、
前記液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合から、前記スラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分が、1.5%以上20%以下である
冷凍凝固卵加工品。
【請求項2】
前記複数の凝固卵各々が、膜状である
請求項1に記載の冷凍凝固卵加工品。」

(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)

第3 申立理由の概要

申立人は、異議申立書において、証拠として次の甲第1号証~甲第3号証を提出し、次の申立ての理由を主張している。

理由1-A:本件特許発明1~2は、下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
理由1-B:本件特許発明1~2は、下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-A:本件特許発明1~2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に掲げる発明に該当するから、本件特許発明1~2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由2-B:本件特許発明1~2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明及び下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

理由2-A及び理由2-Bについて、申立人は、甲第2号証に示された写真の袋詰め冷凍食品が公然実施発明であるとし、該公然実施発明に基いて新規性欠如の主張を、また該公然実施発明及び下記の甲第1号証に記載された発明に基いて進歩性欠如の主張をしている。

記

甲第1号証: 特許第2956050号公報
甲第2号証: 業務用総合カタログ2011,キユーピー株式会社,120~125頁

申立人が、「甲第2号証に掲載の商品の分析表」と題して提出とした甲第3号証は、作成者、作成日及び公知日が不明なものであって、真正に成立した文書であるとは認められないから、参考資料として扱う。

第4 甲号証の記載

(1)甲第1号証

本願出願前の平成11年10月4日に発行された甲第1号証には、以下の記載がある。

記載(1a)

「【請求項1】 卵凝固物からなる卵加工品であって、該卵凝固物が、面積5~300mm2、厚さ2mm以下の薄膜状凝固卵からなり、かつ該卵凝固物として、少なくとも、黄色を呈する薄膜状凝固卵と、白色を呈する薄膜状凝固卵の2種が含有されていることを特徴とする卵加工品。
【請求項2】 卵凝固物中、面積5~300mm2、厚さ2mm以下の薄膜状凝固卵が、卵凝固物全体の固形分に対して70重量%以上である請求項1記載の卵加工品。
【請求項3】 薄膜状凝固卵がタレ中に分散している請求項1又は2記載の卵加工品。
【請求項4】 請求項1~3のいずれかに記載の卵加工品からなる丼物の素。」(特許請求の範囲)

記載(1b)

「本発明は以上のような従来技術の課題を解決しようとするものであり、弁当容器等に入れた飯の上にかけるだけで飯全体が卵を凝固させた具で覆われ、また、具を飯に載せる際にタレをかける工程を別途とらなくてもタレを飯にしみこませることができ、さらに卵液の凝固部分が、卵黄液の凝固である黄色と卵白液の凝固である白色とが入り混じった、彩りのよい手作り風となる卵加工品を提供することを目的とし、また、この卵加工品からなる丼物の素を提供することを目的とする。」(段落0007)

記載(1c)

「本発明の卵加工品は、面積5~300mm2、厚さ2mm以下という特定の大きさの卵凝固物、即ち、薄膜状凝固卵からなる。この薄膜状凝固卵を液状のタレと混合し、分散させたものは流動性を有するものとなる。」(段落0011)

記載(1d)

「本発明の丼物の素は、冷凍食品、チルド食品、レトルト食品等に加工することができる。」(段落0034)

記載(1e)

「【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
実施例1~10及び比較例1~3
第1の卵液、第2の卵液及び第3の卵液を、それぞれ表1~表3の配合成分を撹拌機にて撹拌混合することにより調製した。
水槽に95℃の清水を流速2m/分程度で流動させながら、この水槽中に各卵液をそれぞれ別々のノズルから1kg/分、1kg/分、2kg/分の速さで滴下し、約3分間経過させて厚さ0.5~1mm程度の比較的大面積の薄膜状に凝固させた。得られた各卵液の薄膜状の凝固物を金網にとり、水切りし、ニーダーに投入して撹拌することにより細切りした。この場合、ニーダーでの撹拌時間を調整することにより、表4に示すように、平均面積1~500mm2程度の薄膜状凝固卵を得た(実施例1~7及び比較例1,2)。 また、清水の流速と単位時間あたりの卵液の滴下量とを調整することにより、表5に示すように、平均面積100mm2で平均厚さ0.2~3mmの薄膜状凝固卵を得た(実施例8~10及び比較例3)。
続きを表示(全43行)
【表1】
第1の卵液(卵黄主成分)
卵黄液 90kg
デンプン 3kg
キサンタンガム 0.05kg
菜種油 8kg
β-カロチン 0.02kg
【表2】
第2の卵液(卵白主成分)
卵白液 92kg
デンプン 3kg
キサンタンガム 0.2kg
菜種油 5kg
【表3】
第3の卵液(全卵主成分)
全卵液 82kg
デンプン 3kg
キサンタンガム 0.2kg
菜種油 15kg
【表4】
[図:0001384180000001.jpg]
【表5】
[図:0001384180000002.jpg]
第1、第2及び第3の卵液からそれぞれ得た薄膜状凝固卵(合計60kg)と、次の表6の配合のタレ40kgとを混合し、1kgずつ袋詰めし、丼物の素とした。
【表6】
タレ
醤油 15kg
ミリン 15kg
砂糖 5kg
だし汁 65kg
評価
弁当用容器に飯200gを詰め、常法により作ったカツを飯の上に載せ、この上から、上述の実施例1~10及び比較例1~3で得た丼物の素をそれぞれ100gをかけて弁当を製造した。
弁当の製造30分後に、パネラーに弁当をそこから40~50cm離れた位置から外観観察させ、その結果を次の基準で判定させた。結果を表4及び表5に示す。
判定基準
◎:飯の上の薄膜状凝固卵の集合体に一体感があり、黄色の部分と白色の部分とが入りまじって彩りがよく、手作りの外観によく似ており、印象が大変よい。
○:手作りの外観に似ており、印象がよい。
△:従来の丼物のレトルト食品に入っている卵凝固物のブロックよりは手作り感がある。
×:彩りに欠ける。または、一体感がない。
表4及び表5の結果から、薄膜状凝固卵が面積5~300mm2、厚さ2mm以下である場合に、それを用いた丼物の素が手作りの丼物の具に似た外観を呈し、食する者に良好な印象を与えることがわかる。これに対して、薄膜状凝固卵の面積あるいは厚さがこの範囲外の丼物の素は、手作りの丼物の具の外観をなさず、印象の劣ることがわかる。特に、面積が1mm2の薄膜状凝固卵からなる丼物の素(比較例1)は、黄色の部分と白色の部分との区別がほとんどつかず、ほぼ均一な色に感じられ、彩りに欠け、べちゃべちゃした風合いとなった。また、面積が500mm2の薄膜状凝固卵からなる丼物の素(比較例2)は、個々の薄膜状凝固卵が目視されるようになり、薄膜状凝固物の集合物としての一体感に欠けた物となった。また、厚さが2mmを超える薄膜状凝固卵からなる丼物の素(比較例3)も薄膜状凝固物の集合物としての一体感に欠けた物となった。」(段落0040~0053)

(2)甲第2号証

‘食材カタログ キューピー株式会社’,[online],2012年9月7日更新,[令和3年12月13日検索],インターネット,<URL: https://web.archive.org/web/20121119214144/http://www.food-catalogue.com:80/maker02/kewpie.html>には、キユーピー株式会社の「業務用総合カタログ2011」が掲載されている。甲第2号証の裏表紙右下には「2011 2」との記載があることもあり、本願出願前の遅くとも2012年には作成され公開されたといえる甲第2号証には、以下の記載や商品の説明や写真がある。

記載(2a)

「業務用総合カタログ2011
・・・
キユーピー株式会社」(表紙)

記載(2b)

裏表紙には、「キューピー株式会社 フードサービス本部」との記載と、各支店又は各営業所の名前と日本国内である住所、電話番号、FAX番号の記載がある。

記載(2c)

「
[図:0001384180000003.jpg]
」(121頁右下欄)

記載(2d)

「
[図:0001384180000004.jpg]
」(123頁左上欄)

記載(2e)

「
[図:0001384180000005.jpg]
」(123頁左下欄)

記載(2f)

「
[図:0001384180000006.jpg]
」(124頁左上欄)

記載)(2g)

「
[図:0001384180000007.jpg]
」(124頁左下欄)

第5 当審の判断

1 異議申立理由1-A(新規性)及び1-B(進歩性)について

(1)甲第1号証に記載された発明

甲第1号証には、薄膜状凝固卵がタレ中に分散している卵加工品及び薄膜状凝固卵がタレ中に分散している卵加工品からなる丼物の素が記載されており(記載(1a)、(1c))、実施例として、卵黄液90kg、デンプン3kg、キサンタンガム0.05kg、菜種油8kg及びβ-カロチン0.02kgを撹拌混合して得られた第1の卵液、卵白液92kg、デンプン3kg、キサンタンガム0.2kg及び菜種油5kgを撹拌混合して得られた第2の卵液、並びに、全卵液82kg、デンプン3kg、キサンタンガム0.2kg及び菜種油15kgを撹拌混合して得られた第3の卵液を用意し、水槽に95℃の清水を流動させながら、この水槽中に各卵液を滴下して薄膜状に凝固させ、得られた凝固物を金網にとり、水切りし、細切りにして薄膜状凝固卵を得て、第1、第2、第3の卵液からそれぞれ得られた薄膜状凝固卵(合計60kg)と、醤油15kg、ミリン15kg、砂糖5kg及びだし汁65kgを混合して得られたタレ40kgを、混合し、1kgずつ袋詰めし、丼物の素としたことが記載されている(記載(1e))。

ここで、当該実施例のタレは、薄膜状凝固卵60kgに対して40kg用いられているから、薄膜状凝固卵100質量部に対して67質量部である。

よって、甲第1号証には、

「丼物に用いられ袋内に収容された複数の薄膜状凝固卵と、前記袋内における前記複数の凝固卵の周囲に収容されたタレと、を含む丼物の素であって、前記複数の凝固卵は、卵黄液90kg、デンプン3kg、キサンタンガム0.05kg、菜種油8kg及びβ-カロチン0.02kgを撹拌混合して得られた第1の卵液、卵白液92kg、デンプン3kg、キサンタンガム0.2kg及び菜種油5kgを撹拌混合して得られた第2の卵液、又は全卵液82kg、デンプン3kg、キサンタンガム0.2kg及び菜種油15kgを撹拌混合して得られた第3の卵液の加熱凝固物であり、前記タレは、100質量部の前記複数の凝固卵に対して67質量部である、丼物の素。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)対比・判断

ア 本件特許発明1について

(ア)対比

甲1発明の「袋」は本件特許発明1の「容器」に相当し、「タレ」は本件特許発明1の「液部」に相当し、甲1発明の「丼物の素」は本件特許発明1の「凝固卵加工品」に相当し、甲1発明の「卵黄液」、「卵白液」及び「全卵液」は、いずれも本件特許発明1の「液卵」に相当する。

そして、「デンプン」及び「キサンタンガム」は増粘多糖類であるから、第1の卵液は、3.0質量%増粘多糖類を含むものであり、第2及び第3の卵液は3.2質量%増粘多糖類を含むものであって、甲1発明の第1~3の「卵液」は、デンプンを含む配合成分を撹拌混合して得られたものであるから、デンプンが分散質である本件特許発明1の「スラリー」に相当する。

また、甲1発明の「丼物の素」は卵を含んでいることから、甲1発明の「丼物」は、本件特許発明1の「卵を含む調理品」に相当する。

したがって、本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は「卵を含む調理品に用いられ容器内に収容された複数の凝固卵と、前記容器内における前記複数の凝固卵の周囲に収容された液部と、を含む凝固卵加工品であって、前記複数の凝固卵は、液卵と0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であり、前記液部は、100質量部の前記複数の凝固卵に対して10質量部以上である、凝固卵加工品。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明1は「冷凍凝固卵加工品」であるのに対して、甲1発明は冷凍されたものではない点。
相違点1-2:本件特許発明1は液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合から、スラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分が、1.5%以上20%以下であると特定しているのに対して、甲1発明は液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合からスラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分を特定していない点。

(イ)相違点の判断(異議申立理由1-A(新規性)について)

a 上記相違点1-1について検討する。

甲1発明は冷凍されたものではなく、記載されているに等しい事項でもないことから、上記相違点1は実質的な相違点である。

b 上記相違点1-2について検討する。

甲1発明の液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合から、スラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分を算出するためには、液部における糖類の含有割合を算出する必要がある。

そこで、甲1発明の液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合を算出できるかについて検討する。

本件特許発明1の「糖類」とは、特許請求の範囲の記載のみでは一義的に決まらないため、発明の詳細な説明の記載を参照すると、本件明細書の段落0022に、糖類の例として食物繊維であるイヌリンやセルロースも挙げられていることから、炭水化物全般を意味すると解される。

そして、甲1発明の液部は、醤油15kg、ミリン15kg、砂糖5kg及びだし汁65kgを混合したものであるところ、配合成分の内、醤油、ミリン、砂糖に炭水化物が含まれ、種類によってはだし汁にも炭水化物が含まれる可能性があること、砂糖における炭水化物の含有割合は精製度合いにより多少異なるものの100質量%に近い値であることは技術常識であるとしても、甲1には、醤油、ミリン、だし汁として具体的にいかなるものを用いたかについての記載はなく、醤油、ミリン、だし汁に含まれる糖類が不明であることから、結局のところ、甲1発明の液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合は算出できないといえる。

よって、甲1発明の液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合から、スラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分が1.5%以上20%以下であるかどうかは不明であることから、上記相違点2は実質的な相違点である。

c 上記のとおり、相違点1-1及び1-2はいずれも実質的な相違点であるので、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(ウ)相違点の判断(異議申立理由1-B(進歩性)について)

a 上記相違点1-1について検討する。

甲第1号証には、丼物の素を冷凍食品に加工することができることが記載されているから(記載(1d))、甲1発明の丼物の素を冷凍食品とすることは、当業者が容易になし得たことである。

b 上記相違点1-2について検討する。

甲第1号証には、発明の解決しようとする課題は、弁当容器等に入れた飯の上にかけるだけで飯全体が卵を凝固させた具で覆われ、また、具を飯に載せる際にタレをかける工程を別途とらなくてもタレを飯にしみこませることができ、さらに卵液の凝固部分が、卵黄液の凝固である黄色と卵白液の凝固である白色とが入り混じった、彩りのよい手作り風となる卵加工品及び丼物の素の提供であることが記載されており(記載(1b))、卵液におけるデンプン及びキサンタンガムの含有量を調整することやタレにおける各成分の含有割合を調整することについての記載もないことから、上記課題に基づく甲1発明において、液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合から、スラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分に着目し、その値を1.5%以上20%以下の範囲内とする動機付けがない。

c 本件特許発明1の効果について検討すると、甲第1号証には、冷凍食品との特定はない卵加工品について、薄膜状凝固卵を液状のタレと混合し、分散させたものは流動性を有するものとなるとの記載はあるものの(記載(1c))、冷凍食品とした場合に、解凍後に凝固卵同士の結着が抑制されることについて記載も示唆もないことから、本願出願時の技術常識を加味して判断しても、解凍後に凝固卵同士の結着が抑制されるという効果は、当業者が予測し得ないものである。

d したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2について

本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに複数の凝固卵の各々が膜状であると限定するものであり、甲1発明は複数の薄膜状凝固卵を含むものであるから、当該限定は新たな相違点とはならない。

本件特許発明2と甲1発明を対比すると、両者は「卵を含む調理品に用いられ容器内に収容された複数の膜状凝固卵と、前記容器内における前記複数の凝固卵の周囲に収容された液部と、を含む凝固卵加工品であって、前記複数の凝固卵は、液卵と0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であり、前記液部は、100質量部の前記複数の凝固卵に対して10質量部以上である、凝固卵加工品。」である点で一致し、上記相違点1-1及び1-2が存在する。

そして、相違点1-1及び1-2についての検討は、上記ア(イ)、(ウ)で述べたのと同様であるから、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)小括

以上のとおり、本件特許発明1~2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、異議申立理由1-A及び1-Bには理由がない。

2 異議申立理由2-A(新規性)及び2-B(進歩性)について

(1)甲第2号証から把握される発明

甲第2号証は、表紙に「業務用総合カタログ2011」及び「キユーピー株式会社」との記載がある(記載(2a))。

そして、甲第2号証の120~125頁には、複数の商品が、複数の黄色い固形物が透明な容器に包装されているものと見える商品写真と共に掲載されている。

「スノーマン レア・スクランブルエッグ」の欄には、「冷凍」との表示があり、原材料名として、鶏卵、牛乳、食用油脂、バター、還元水あめ、食塩、でん粉発酵調味料、香辛料、加工でん粉、トレハロース、ピロリン酸Na、増粘多糖類、調味料(アミノ酸)、カロチノイド色素の記載がある(記載(2c))。

「スノーマン ふわふわエッグ」の欄には、冷凍との表示があり、原材料名として、鶏卵、植物油脂、食塩、乳たん白、でん粉発酵調味料、砂糖、チキンエキスパウダー、香辛料、加工でん粉、増粘多糖類、乳化剤、リン酸塩(Na)、酢酸Na、グリシン、調味料(アミノ酸等)、香辛料抽出物の記載がある(記載(2d))。

「スノーマン とろっとたまご プレーン」の欄には、冷凍との表示があり、原材料名として、鶏卵、植物油脂、チキンエキス、食塩、酵母エキスパウダー、砂糖、動物油脂、乳たん白、ほたてエキスパウダー、でん粉発酵調味料、加工でん粉、増粘多糖類、ピロリン酸Na、調味料(アミノ酸等)、カロチノイド色素の記載がある(記載(2e))。

「スノーマン とろっとたまご 和風」の欄には、冷凍との表示があり、原材料名として、鶏卵、植物油脂、しょうゆ加工品、かつお節だし、でん粉、砂糖、みりん、ソテーオニオンペースト、乳たん白、食塩、かつお節エキス、でん粉発酵調味料、加工でん粉、増粘剤(キサンタンガム)、調味料(アミノ酸等)、ポリリン酸Na、甘味料(甘草、ステビア)の記載がある(記載(2f))。

「スノーマン とろっとたまご 洋風」の欄には、冷凍との表示があり、原材料名として、鶏卵、植物油脂、脱脂粉乳加工品、チーズ、食塩、でん粉、バター、砂糖、チキンブイヨンパウダー、ほたてエキスパウダー、乳たん白、でん粉発酵調味料、加工でん粉、増粘剤(キサンタンガム)、ポリリン酸Na、カロチノイド色素、調味料(アミノ酸等)の記載がある(記載(2g))。

原材料に鶏卵が含まれていることから、商品写真の黄色い固形物は、凝固卵であると認められる。

よって、甲第2号証から、

「容器内に収容された複数の凝固卵を含む、鶏卵、牛乳、食用油脂、バター、還元水あめ、食塩、でん粉発酵調味料、香辛料、加工でん粉、トレハロース、ピロリン酸Na、増粘多糖類、調味料(アミノ酸)、カロチノイド色素を含有する冷凍凝固卵加工品。」の発明(以下、「甲2-1発明」という。)、

「容器内に収容された複数の凝固卵を含む、鶏卵、植物油脂、食塩、乳たん白、でん粉発酵調味料、砂糖、チキンエキスパウダー、香辛料、加工でん粉、増粘多糖類、乳化剤、リン酸塩(Na)、酢酸Na、グリシン、調味料(アミノ酸等)、香辛料抽出物を含有する冷凍凝固卵加工品。」の発明(以下、「甲2-2発明」という。)、

「容器内に収容された複数の凝固卵を含む、鶏卵、植物油脂、チキンエキス、食塩、酵母エキスパウダー、砂糖、動物油脂、乳たん白、ほたてエキスパウダー、でん粉発酵調味料、加工でん粉、増粘多糖類、ピロリン酸Na、調味料(アミノ酸等)、カロチノイド色素を含有する冷凍凝固卵加工品。」の発明(以下、「甲2-3発明」という。)、

「容器内に収容された複数の凝固卵を含む、鶏卵、植物油脂、しょうゆ加工品、かつお節だし、でん粉、砂糖、みりん、ソテーオニオンペースト、乳たん白、食塩、かつお節エキス、でん粉発酵調味料、加工でん粉、増粘剤(キサンタンガム)、調味料(アミノ酸等)、ポリリン酸Na、甘味料(甘草、ステビア)を含有する冷凍凝固卵加工品。」の発明(以下、「甲2-4発明」という。)及び

「容器内に収容された複数の凝固卵を含む、鶏卵、植物油脂、脱脂粉乳加工品、チーズ、食塩、でん粉、バター、砂糖、チキンブイヨンパウダー、ほたてエキスパウダー、乳たん白、でん粉発酵調味料、加工でん粉、増粘剤(キサンタンガム)、ポリリン酸Na、カロチノイド色素、調味料(アミノ酸等)を含有する冷凍凝固卵加工品。」の発明(以下、「甲2-5発明という。)が把握できるといえる。

(2)公然実施性について

甲第2号証は、表紙に「業務用総合カタログ2011」及び「キユーピー株式会社」との記載があり(記載(2a))、裏表紙に「キューピー株式会社 フードサービス本部」との記載と、各支店又は各営業所の名前と日本国内である住所、電話番号、FAX番号の記載があることから(記載(2b))、キユーピー株式会社が、業務用の商品の譲渡等の申出を行うことを目的として作成されたカタログであると認められる。

前記のとおり、‘食材カタログ キューピー株式会社’,[online],2012年9月7日更新,[令和3年12月13日検索],インターネット,<URL: https://web.archive.org/web/20121119214144/http://www.food-catalogue.com:80/maker02/kewpie.html>には、キユーピー株式会社の「業務用総合カタログ2011」が掲載されており、甲第2号証の裏表紙右下には「2011 2」との記載がある。

してみると、甲第2号証に掲載された商品が、本件特許出願前である遅くとも2012年には日本国内において譲渡等の申出がなされたことを把握することができるから、甲2-1~5発明は、本件特許出願前において公然実施された発明である。

(3)異議申立理由2-A(新規性)について

ア 本件特許発明1について

(ア)対比

本件特許発明1と甲2-1発明を対比すると、「容器内に収容された複数の凝固卵を含む冷凍凝固卵加工品。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:本件特許発明1は複数の凝固卵の周囲に収容された液部を含有し、液部は、100質量部の複数の凝固卵に対して10質量部以上であると特定されているのに対して、甲2-1発明は液部を含有するかが不明である点。
相違点2-2:本件特許発明1は複数の凝固卵が液卵と、0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であると特定されているのに対して、甲2-1発明は複数の凝固卵が液卵と、0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であるかが不明である点。
相違点2-3:本件特許発明1は液部における糖類(増粘多糖類を含む)の含有割合から、複数の凝固卵の加熱前の状態であるスラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分が、1.5%以上20%以下であると特定されているのに対して、甲2-1発明は、かかる差分が特定されていない点。

(イ)相違点の判断(異議申立理由2-A(新規性)について)

a 上記相違点2-1について検討する。

甲第2号証には、甲2-1発明が、液部を有するものであることを示す記載はない。また、甲第3号証は第3で述べたように参考資料であるから、証拠として、参照できない。

よって、甲2-1発明が液部を有するかは不明であるから、上記相違点2-1は実質的な相違点である。

b 上記相違点2-2について検討する。

甲第2号証には、複数の凝固卵がスラリーを加熱凝固することにより得られたものであることは記載も示唆もされておらず、複数の凝固卵中の増粘多糖類の含有量についての記載もないことから、甲2-1発明の複数の凝固卵が液卵と、0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であるかは不明である。

よって、上記相違点2-2は実質的な相違点である。

c 以上のことから、上記相違点2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1と甲2-1発明は同一ではない。

d また、本件特許発明1と甲2-2~5発明を対比すると、上記(ア)で述べたのと同様に、「容器内に収容された複数の凝固卵を含む冷凍凝固卵加工品。」である点で一致し、上記相違点2-1~2-3の点が存在する。そして、上記a、bで述べたのと同様に、上記相違点2-1及び2-2は実質的な相違点であるから、上記相違点2-3について検討するまでもなく、本件特許発明1と甲2-2~5発明は同一でない。

e したがって、本件特許発明1は、公然実施された発明ではない。

イ 本件特許発明2について

本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに複数の凝固卵の各々が膜状であると限定するものである。

本件特許発明2と甲2-1~5発明を対比すると、「容器内に収容された複数の凝固卵を含む冷凍凝固卵加工品。」である点で一致し、相違点として、上記相違点2-1~2-3に加えて、以下のものが存在する。

相違点2-4:本件特許発明2は複数の凝固卵の各々が膜状であると特定されているのに対して、甲2-1~5発明は複数の凝固卵が膜状であるかが不明である点。

そして、上記ア(イ)で述べたとおり、上記相違点2-1及び2-2は実質的な相違点であるから、本件特許発明2は、本件特許発明1と同様に、公然実施された発明ではない。

ウ 申立人の主張について

(ア)申立人は、異議申立書において、甲第2号証に掲載の商品を分析した甲第3号証に記載のとおり、甲第2号証に記載の卵加工品における液部は、100質量部の凝固卵に対して10質量部以上である旨主張している。

しかしながら、上述のように、甲第3号証は参考資料であるから、証拠として、参照できない。

仮に、甲第3号証を参照できたとしても、甲第3号証で分析されたとされる商品は、入手経路や製造ロット等が不明なものであり、甲第2号証に掲載の商品との関係が不明であることから、甲第2号証に掲載の商品の凝固部と液部の割合が、甲第3号証に記載されたものであるとすることはできない

よって、上記主張は採用できない。

(イ)また、申立人は、異議申立書において、凝固卵における液卵と増粘多糖類との割合、液部における糖類の含有割合から凝固卵中の増粘多糖類の含有割合を減じた差分についての記載は、甲第2号証のカタログには記載はないが、このカタログに掲載の卵加工品が製造販売される遙か前に公知になっている同種商品である甲第1号証に記載の卵加工品と同様に、凝固卵における液卵と増粘多糖類との割合、液部における糖類の含有割合から凝固卵中の増粘多糖類の含有割合を減じた差分の範囲は、本件特許発明1の範囲内であると思料される旨主張している。

しかしながら、甲第2号証に掲載の商品が、甲第1号証に記載の卵加工品と同様の組成であるという根拠は何ら示されておらず、上記1(2)で検討したとおり、そもそも甲第1号証に記載の卵加工品である丼物の素は、液部における糖類の含有割合から凝固卵中の増粘多糖類の含有割合を減じた差分が、本件特許発明1の数値範囲内であるかが不明なものであるから、上記主張は採用できない。

エ よって、上記ア~ウで検討したとおり、本件特許発明1~2は公然実施された発明ではないから、異議申立理由2-Aには理由がない。

(4)異議申立理由2-B(進歩性)について

ア 本件特許発明1について

(ア)対比

本件特許発明1と甲2-1発明との対比については、上記(3)ア(ア)と同様である。

(イ)相違点の判断

a 上記相違点2-1について検討する。

甲2-1発明は、商品であるから、液部を有するものに変更する動機付けはない。

また、甲第3号証は第3で述べたように参考資料であるから、証拠として、参照できない。

b 上記相違点2-2及び2-3について検討する。

甲2-1発明は、商品であるから、複数の凝固卵を、液卵と、0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であるものに変更する動機付けはなく、液部における糖類の含有割合から、複数の凝固卵の加熱前の状態であるスラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分を、1.5%以上20%以下とする動機付けもない。

c 仮に、甲2-1発明において、凝固卵100質量部に対して液部を10質量部以上有するものとすること、複数の凝固卵を、液卵と、0%より多く10%以下の増粘多糖類と、を含有するスラリーの加熱凝固物であるものとすること、液部における糖類の含有割合から、複数の凝固卵の加熱前の状態であるスラリーにおける増粘多糖類の含有割合を減じた差分を、1.5%以上20%以下とすることが当業者にとって容易に想到し得ることであったとしても、甲第2号証には、解凍後の凝固卵同士の結着を抑制することについての記載も示唆もないことから、本件特許発明1の解凍後の凝固卵同士の結着を抑制するという効果は、当業者が予測し得たものではない。

d 本件特許発明1と甲2-2~5発明との対比については、上記(3)ア(イ)で述べたとおりであり、本件特許発明1と甲2-2~5発明との間には、上記相違点2-1~2-3の点が存在する。そして、上記相違点2-1~2-3については、上記a~cで検討したとおりである。

e 以上のとおり、本件特許発明1は、甲第2号証から把握される発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2について

本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに複数の凝固卵の各々が膜状であると限定するものである。

本件特許発明2と甲2-1~5発明を対比は、上記(3)イで述べたとおりであり、本件特許発明2と甲2-1~5発明との間には、上記相違点2-1~2-4が存在する。

そして、上記相違点2-1~2-3については、上記ア(イ)で検討したとおりであるから、上記相違点2-4について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲第2号証から把握される発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立人の主張について

申立人は異議申立書において、凝固卵における液卵と増粘多糖類との割合、液部における糖類の含有割合から凝固卵中の増粘多糖類の含有割合を減じた差分の範囲は、甲第2号証に記載はないが、甲第2号証に掲載の卵加工品に対し甲第1号証に記載の成分割合を組み合わせることにより、本件特許発明1に記載の数値範囲のものとすることは当業者にとって容易である旨主張している。

しかしながら、甲第2号証に掲載の商品において、甲第1号証に記載の丼物の素の組成を採用する動機付けはないし、上記1(2)で検討したとおり、そもそも甲第1号証に記載の卵加工品である丼物の素は、液部における糖類の含有割合から凝固卵中の増粘多糖類の含有割合を減じた差分が、本件特許発明1の数値範囲内であるかが不明なものであるから、上記主張は採用できない。

エ よって、上記ア~ウで検討したとおり、本件特許発明1~2は、甲第2号証から把握される発明及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、異議申立理由2-Bには理由がない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

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2021-700825

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