2021-700718
油性抗菌ニス組成物
- 審判番号
- 2021-700718
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-124072外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6827141
- 請求日
- 2021年07月26日
- 審決日
- 2022年01月11日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サカタインクス株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】安藤 達也
- 【異議申立人】岡林 茂
- 【異議申立人代理人】特許業務法人太陽国際特許事務所
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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特許第6827141号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和2年7月20日の出願であって、令和3年1月20日にその特許権の設定登録がされ、同年2月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~3に係る特許に対し、令和3年7月26日に特許異議申立人岡林茂は特許異議の申立てを行い、当審は、令和3年9月29日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年10月14日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。この訂正請求に対し、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、指定された期間に意見書は提出されなかった。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1のとおりである。なお、訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1の記載を引用しているから、本件訂正は、一群の請求項1~3について請求されている。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「0.1~15.0質量%」と記載されているのを、「3.0~13.0質量%」に訂正する(請求項1を引用する請求項2及び3についても同様に訂正する。)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「平均粒子径10.0μm以下のワックス」の「全組成物中に」対する含有量について、「0.1~15.0質量%」を、「3.0~13.0質量%」に訂正するものであるところ、本件明細書の【0016】には、「ワックスの、油性抗菌ニス組成物中の含有量は、0.1質量%以上であり、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上であり、さらに好ましくは4.0質量%以上であり、最も好ましくは5.0質量%以上である。また好ましくは15.0質量%以下であり、より好ましくは13.0質量%以下であり、さらに好ましくは11.0質量%以下である。」と記載されており、訂正事項1は、本件明細書の【0016】の記載に基づいて、「平均粒子径10.0μm以下のワックス」の「全組成物中に」対する含有量を好ましい範囲に限定したものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
また、請求項1を引用する請求項2及び3についても、同様である。
(2)小括
以上のとおり、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1~3について訂正することを認めるので、本件の請求項1~3に係る発明は、令和3年10月14日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)である。
「【請求項1】銀含有リン酸ジルコニウム粒子、ロジン変性フェノール系樹脂、ドライヤー、植物油を含有し、さらに、平均粒子径10.0μm以下のワックスを全組成物中3.0~13.0質量%含有する油性抗菌ニス組成物。【請求項2】オクチル酸マンガン及び/又はオクチル酸コバルトを含有する請求項1に記載の油性抗菌ニス組成物。【請求項3】植物油が、大豆油、桐油、及びアマニ油から選ばれる2種以上である請求項1又は2に記載の油性抗菌ニス組成物。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~3に係る発明に対して、当審が令和3年9月29日付けで特許権者に通知した取消理由(サポート要件)の要旨は、次のとおりである。
「本件発明の課題は、本件明細書【0004】の記載からみて、『銀を担持した高い硬度のリン酸ジルコニウム粒子を含有する油性抗菌ニス組成物により印刷しても、耐版摩耗性に優れ、及び乾燥性を有し、かつ、得られた塗膜が、優れた耐摩擦性及び光沢を有する油性抗菌ニス組成物を提供すること』であると解されるところ、本件発明に含まれる比較例4、5に係る油性抗菌ニス組成物は、上記本件発明の課題を解決しないものであり、本件発明には、本件発明の課題を解決しないものが含まれることから、本件請求項1~3の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」
第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
本件訂正により、本件発明1~3は比較例4、5を含まないものとなった。
したがって、上記取消理由は解消した。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、次の理由(1)~(3)である。
(1)理由1(特許法第29条第2項)
本件発明1~3は、甲第1号証~甲第6号証(以下、甲各号証は、単に「甲1」などという。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)理由2(同第36条第4項第1号)
本件明細書に記載の比較例4は、耐版摩耗性及び耐摩耗性が劣る例であり、比較例5は、光沢性が劣る例であり、いずれも、本件発明1を満たしている。
そうすると、本件発明1~3は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
また、上述したように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、不備があり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
よって、本件発明1~3は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)理由3(同第36条第6項第1号)
ア 各成分の含有量について
本件発明1における銀含有リン酸ジルコニウム粒子、ロジン変性フェノール系樹脂、ドライヤー、及び、植物油の各成分は、含有量が何ら規定されていない。
よって、本件発明1の全ての権利範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
イ ロジン変性フェノール系樹脂について
本件明細書の実施例においては、樹脂ワニス1が使用されているが、本件明細書の実施例では、ロジン変性フェノール樹脂が変性された樹脂が使用されている蓋然性が高い。
よって、本件明細書には、本件発明1~3に該当する実施例が開示されておらず、本件発明1~3は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の植物油を、大豆油、桐油、及びアマニ油から選ばれる2種以上であることに限定した発明であるが、本件明細書には、本件発明3に該当する実施例が開示されていない。
したがって、本件発明3は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(4)理由4(同第36条第6項第2号)
本件明細書に記載された実施例では、ロジン変性フェノール樹脂が変性された樹脂が使用されている蓋然性が高く、本件明細書には、本件発明1~3に該当する実施例が記載されていないことから、本件発明1~3は、不明確なものとなっている。
2 特許異議申立人が提出した証拠は、次の甲1~甲6である。
第7 特許異議申立理由についての当審の判断
1 理由1について
(1)甲1~甲5の記載
ア 甲1の記載
甲1には、J-PlatPatに公開された日本語翻訳文として、次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項001】1.インクに用いる複合抗菌剤、その特徴は、無機-有機複合抗菌剤とロジン変性フェノール樹脂の混合物とする;前記の無機-有機複合抗菌剤は無機抗菌剤と有機系抗菌剤を含む;前記の無機抗菌剤は銀イオンに担持したこと、亜鉛イオンあるいは銀亜鉛複合イオンのリン酸塩あるいはガラス微粉とする;前記燐酸塩は正方晶型リン酸ジルコニウム、層状のリン酸ジルコニウムあるいはリン酸ナトリウムから選ぶ;前記の有機系抗菌剤はニパギンエステル類とする。」
(イ)「【請求項005】5.抗菌インクは、インクベースに重量パーセントを5-20%とする請求項1~4のいずれかの請求項に記載の複合抗菌剤を含む。【請求項006】6.前記の抗菌インクのその成分と重量パーセント含有量が以下を含むことを特徴とする請求項5に記載の抗菌インク:続きを表示(全17行)複合抗菌剤 5-20%連結して予測すること 30-55%充填物質 10-36%トナー 5-18%ワックス 2-8%溶媒 5-12%他の補助成分 1-10%以上の各成分の百分率の和は100%とする;前記であることは連結してフェノール樹脂とアルキド系とする混合物を予測する;前記の充填物質はアルカリ土類金属の炭酸塩あるいは硫酸塩、酸化物、シリカ中の一つまたは複数とする;前記のワックスは微結晶化ワックスとし、酸化ポリエチレンワックス、カルナバ蝋中の一種類又は二種類を含む;前記の溶媒はホワイトスピリット、アルコールエーテル類、直鎖炭化水素あるいはシクロパラフィンの1種類あるいはその混合物を含む;前記の他の補助成分はオクチル酸ジルコニウムあるいは硼酸マンガンあるいはアルキルベンゼンスルホン酸あるいはポリオキシエチレン中の一つまたは複数の混合物を含む。」
(ウ)「技術分野本発明はインクに関し、特に抗菌インクおよびその調製方法に関する。背景技術人々環境保護意識の向上につれて、環境保護が印刷される勃興は、人々が接触する印刷物は無毒であり、しかし、この類の印刷物は更に細菌を引き起こしやすく、カビの発生を変えることを保存する。印刷物は微生物に感染して、多くの病原性細菌を含み、容易に病原体になる伝搬媒体は、人体健康に潜在的脅威を持って来る。従って要点が印刷基材(用紙とプラスチックなど)に一定の抗菌処理を作ることを除いて、表面インクに印刷されることに同じく一定の抗菌処理を作る必要がある。日本特許JP9291243、JP9263725、JP8337078、中国特許CN1195120Cは抗菌インクに関して、以上に4個の特許は一般的に全て無機銀有りの抗細菌剤を用いる。単一の同伴ガス金属イオン無機抗菌剤はインクに添加して使用時抗細菌作用は著しくないかまたは、製品を変色させて、銀有りのイオンを用いるゼオライトあるいは酸化ケイ素系抗菌剤添加のようなインクに得るサンプル抗細菌作用再現性はあるいは著しくなくづらく、そしてインク製造プロセスに三本ロールなどの装置に対した摩耗は比較的に深刻であり、不快感はインクを閉じて作製する。日本特許JP10204353とJP9039369は無機-有機複合抗菌剤を用いて、ただ特許存在していた欠陥は、まだ複合抗菌剤の細度を実効支配することができなく、これはインクの印刷性と貯蔵安定性に明らかに影響する可能性があり、ひいては実際の印刷効果とインクの品質保証期間に影響する。発明の開示従来技術存在していた上記の欠陥を克服することで、本発明の目的は抗菌インクを提供することにある。」
(エ)「前記のワックスは微結晶化ワックスとし、酸化ポリエチレンワックス、カルバナ蝋中の一種類又は二種類を含み、その平均粒径は5-15μmとする;」
イ 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】抗菌性、抗カビ性を有する銀、亜鉛及びそれらの金属化合物からなる群の中から選ばれた少なくとも1種の化合物及び/又は複数の抗菌イオン源と該抗菌イオンを吸着担持するリン酸ジルコニウムセラミックス材である一群の抗菌性及び抗カビ性物質の少なくとも1種を主成分とする抗菌性及び抗カビ性成分(A成分)、平均粒子径3ミクロン以下のポリエチレンワックス微粒子(B成分)、ニトロセルローズとアルキド樹脂を少なくとも含む樹脂成分(C成分)、有機溶剤(D成分)、及びジメチルエーテル(DME)から構成され、かつ、0.05/1~1/1の範囲で使用され、A+B+Cの固形分に対し、A+B成分が20%以下含有することを特徴とする抗菌能を有するエアゾールスプレー塗料組成物。【請求項2】請求項1における組成物がエアゾールスプレー缶に充填されていることを特徴とする抗菌性、抗カビ性エアゾールスプレー塗料。【請求項3】請求項1における組成物がすでに塗装されている物品の上にエアゾールスプレーされ、表面が抗菌性、抗カビ性機能を有することを特徴とする表面処理物品。」
(イ)「【0006】本発明者らは上記2点の課題を解決する手段として次の2点に着目した。その一つはフィラーの沈降安定化機能を有するポリエチレンワックス分散液を活用すること、同時に該ワックスはマット化剤として塗面表面を粗にし、光反射率を下げる機能を有するので、結果として表面積を増加させうる効果を生ずることが活用できること、さらに既形成膜によく付着し、下地の風合いをそのまま保存し得て、かつワックス及び抗菌剤を分散した上で噴射剤と相溶しうるバインダーは何かについて選択すること。これらについて鋭意検討し本発明に到達した。【0007】【課題を解決するための手段】エアゾールスプレー組成物で大切な技術上の配慮事項のひとつは共存するフィラーの分散及び沈降安定性を安定な状態に保つことである。この点については微粒化されたポリエチレンワックスの分散液が沈降防止に効果を示すのでこれを利用するのが有効である。【0008】またポリエチレンワックスは微妙な風合を呈するツヤ消し剤として広く使用されている。本発明ではこの風合発現に効果のあるポリエチレンをツヤ消し剤として活用し、これを同時に抗菌機能を有するフィラーの沈降防止剤として活用させ一石二鳥の効果を発揮させることにある。続きを表示(全12行)【0009】活用できるポリエチレンワックスは直鎖あるいは分岐したもの、あるいは極性基を含有するものいずれでもよく、ただ風合を発揮させるか付着性等の物性上の選択から適度な硬さを示すものを選択すればよい。【0010】大切なことはワックスの粒度で、風合、ツヤ消し性および沈降防止能を発揮させるためには、少なくとも平均粒度が3ミクロン以下のものを用いるのが好ましい。これより大きな粒径の使用は不可というわけではないが目的とする機能をそこなう方向となる。【0011】B成分であるワックスの使用量は、抗菌剤(A成分)の量との関係において、A/Bが0.05/1~1/1の範囲で使用するのがもっとも沈降防止効果があり、好ましい結果を与える。また、ツヤ消しの程度はA+Bの量で加減すればよい。【0012】次に抗菌剤であるが、市販の抗菌能を有する化合物はいずれも使用しうるが、特に化学的に安定でかつ比較的マイルドである銀、亜鉛及びそれらの金属化合物からなる一群から選ばれる少なくとも1種及び/又は複数の抗菌イオン源と該抗菌イオンを吸着担持するリン酸ジルコニウムセラミックス材である一群の抗菌性及び抗カビ性物質の少なくとも1種を主成分とする抗菌性及び抗カビ性成分(A成分)を、ワックスの粒子径と同じ程度の粒子径(好ましくは1ミクロン以下の平均粒子)で利用するのがよい。【0012】これらの抗菌、抗カビ剤としては、コロイダル銀、コロイダル亜鉛、銀酸化物、酸化亜鉛、ハロゲン化銀、ハロゲン化亜鉛の他に銀、亜鉛イオンを担持したリン酸ジルコニウムセラミックスとして市販されている東亜合成株式会社製ノバロンAG300あるいはノバロンAGZ330が適している。バインダーとしては、エアゾールスプレー組成物として噴射剤との相溶性、塗布したあとの付着性を考えると、アルキド樹脂を主体にこれを硝化綿と組み合わせて使用するのが好ましい。アルキド樹脂は一般的に塗料用として用いられるものであれば何でも使用し得る。硝化綿は1秒~1/8秒のものを適当に組み合わせて使用すればよく、粘度調節とスプレー後の塗膜物性とを配慮して選択すればよい。選択の基準は肉持感とソフト性をアルキッドで持たせ、硬度、強靭性を硝化綿で受け持たせるわけである。【0013】またはバインダーとして、第3成分として少量のアクリル樹脂、セルロース系樹脂、ロジン、ロジンマレイン酸樹脂も添加し得る。【0014】エアゾールスプレー適性を賦与するためには更に有機溶剤としてこれらのバインダーを溶解させ、A、B成分を分散させ、かつ噴射剤と相溶せしめる仲立ちをさせるものが必要で、これらの溶剤に特定する必要はなく、このような性質を満たすものであれば何れでもよい。ただし、造膜性からは通常の塗料のシンナー構成の概念を利用して低沸点~高沸点と多用しバランスさせるのが好ましい。【0015】噴射剤としては、DME(ジメチルエーテル)、LPG(液状プロパン)を単独もしくは組合せ使用が可能であるが、本発明では特にDMEを単独使用するのが最適である。」
ウ 甲3の記載
甲3には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】AFソルベント6号の曇点が100℃以上210℃以下のロジン変性フェノール樹脂を含むワニスと、ドライヤーと、融点が80℃以下でありノルマルパラフィンを含む石油系ワックスと、を含み、続きを表示(全22行)前記ノルマルパラフィンの含有量が0.5質量%以上5質量%以下であることを特徴とするオーバープリントワニス組成物。【請求項2】平均粒子径D50が2μm以上7μm以下の粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載のオーバープリントワニス組成物。【請求項3】平均粒子径D50が10μm以上20μm以下のデンプンを含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載のオーバープリントワニス組成物。【請求項4】リン酸、リン酸のアンモニウム塩、リン酸のアルカリ金属塩、リン酸のアルカリ土類金属二水素塩、クエン酸、クエン酸のアンモニウム塩、クエン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のマグネシウム塩から成る群から選ばれる一つ以上の汚れ防止剤を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のオーバープリントワニス組成物。(イ)「【背景技術】【0002】平版オフセット印刷の一種である枚葉印刷では、酸化重合性の成分を含むオフセット印刷インキ組成物を用いて印刷を行う。紙などの基材に転写されたインキ塗膜中の酸化重合性の成分が空気中の酸素により重合して硬化被膜が形成される。酸化重合を促進させるために、オクチル酸などの有機酸と、コバルトやマンガンなどの遷移金属との金属塩のようなドライヤーが一般に配合されている。また、場合により熱乾燥方式を併用することもある。【0003】さらに、印刷物の表面を保護するために、また得られる印刷物の光沢を向上させるため、あるいは印刷物に艶消し効果を付与するために、印刷物の表面にインラインまたはオフラインでオーバープリントワニス組成物が塗工されることもある(特許文献1、2)。」(ウ)【発明を実施するための形態】【0010】<オーバープリントワニス組成物>本発明のオーバープリントワニス組成物は、ワニス、ドライヤー、石油系ワックスを含む。以下、本発明のオーバープリントワニス組成物について詳述する。【0011】本発明のオーバープリントワニス組成物に用いるワニスは、必須の成分としてAFソルベント6号の曇点が100℃以上210℃以下のロジン変性フェノール樹脂を含み、必要に応じて他の樹脂類、植物油類または脂肪酸エステル類またはそれらの混合物、石油系溶剤、キレート化剤、その他助剤等を加熱溶解させて得られる。なお、本明細書においてAFソルベント6号の曇点とは、NOBOMATICS社自動曇点測定器CHEMOTORONIC IIを使用し、AFソルベント6号(JXTGエネルギー株式会社製)180質量部と樹脂20質量部とを加熱混合した際の、白濁下限温度である。」
エ 甲4の記載
甲4には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】(A)ボイル又はスタンド処理された植物性の乾性油又は半乾性油、及び、(B)有機金属化合物を含有することを特徴とする木材用塗料。【請求項2】前記有機金属化合物の金属が、チタン又はジルコニウムであることを特徴とする、請求項1記載の木材用塗料。【請求項3】前記有機金属化合物が、金属キレートであることを特徴とする請求項1又は2記載の木材用塗料。」
(イ)「【0006】従って、本発明の目的は、深部硬化性に優れ、床暖房等により加温される木材の塗装にも好適に使用することのできる木材用塗料を提供することにある。また、本発明の目的は、深部硬化性に優れ、床暖房等、加温される場所にも好適に用いることのできる塗装木材を提供することにある。」
(ウ)「【0012】(木材用塗料)本発明の木材用塗料は、上述した(A)成分と(B)成分とを混合し、更に必要に応じて他の任意成分を配合するすることにより製造可能である。前記(A)成分と前記(B)成分の配合(混合)割合は、一概には規定できないが、前記(A)成分100質量部に対して、前記(B)成分の配合(混合)割合が、0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~30質量部であることがより好ましく、1~15質量部であることが更に好ましく、特に1~5質量部であることが好ましい。続きを表示(全11行)前記(B)成分としては、前述した有機金属化合物を所定の割合で含有する液状品(実施例で用いた市販品等)を用いることもできるが、その場合、当該液状品に含まれる他の成分を除いた有機金属化合物の実質的な量の前記(A)成分の質量に対する割合が上記の範囲であることが好ましい。【0013】本発明の木材用塗料には、乾燥性の向上の観点から、前記(A)成分及び前記(B)成分に加えて、脂肪酸金属塩等の乾燥剤を含有させることもできる。このような脂肪酸金属塩の一例としては、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸マンガン、オクチル酸マンガン、ナフテン酸鉛、オクチル醜鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ナフテン酸カルシウム、オクチル酸カルシウム、ナフテン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム等を例示することができる。これらの乾燥剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。脂肪酸金属塩等の乾燥剤の配合量は、例えば、前記(A)成分100質量部に対して、0.001~5質量部とすることができ、前記(A)成分100質量部に対して0.001~0.5質量部と微量とすることもできる。【0014】本発明の木材用塗料は、所望により、シランカップリング剤、グリコール類、ワックス、顔料、体質顔料、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤、光安定剤、硬化触媒、防虫剤、防腐剤、防徴剤等の種々の性能を向上させる第3成分を含んでいても良い。また、作業性や木材に対する浸透性の向上のために、前記(A)成分及び前記(B)成分並びに所望により混合される第3成分が、有機溶剤で希釈されていても良い。有機溶剤は、使用しないか、使用しても、前記(A)成分の質量に対して10倍量以下であることが好ましい。また、前記(A)成分及び前記(B)成分並びに所望により混合される第3成分の混合方法は、公知の方法を特に制限なく用いることができ、例えば、これらを一つの容器に入れて振っても良いし、攪拌装置で攪拌しても良い。」
オ 甲5の記載
甲5には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】脂肪酸金属塩を含有することを特徴とする木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物。【請求項2】脂肪酸金属塩の金属が、コバルト、マンガン、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物。【請求項3】脂肪酸金属塩の脂肪酸が、オクチル酸、ナフテン酸及びバーサチック酸から選ばれる少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物。」
(イ)「【発明を実施するための形態】【0012】本発明の木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物は、脂肪酸金属塩を含有する剤であって、この塗膜劣化防止組成物を添加した塗料を木材表面に処理を行うことによって強固な塗膜を形成する。【0013】続きを表示(全15行)本発明における木材保護塗料とは、防腐・防黴性、防虫性や撥水性を持ち、さらに通気性を持っており、一般的な塗料に比べて優れた保護効果を示す。一般的に木材保護塗料には、含浸タイプや造膜タイプの二種類があり、本発明は造膜タイプの塗料に効果を発揮するものである。【0014】本発明における木材保護塗料に混合する脂肪酸金属塩の製剤には様々な製剤型が考えられる。例えば、油剤、乳剤、エマルジョン剤、マイクロエマルジョン剤、フロアブル剤、サスポエマルジョン剤等が挙げられる。この製剤に用いられる溶剤は、木材保護塗料及び脂肪酸金属塩が溶解または分散するものであれば特に限定されるものではない。【0015】本発明の脂肪酸金属塩の製剤に用いられる溶剤としては、芳香族又は脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、ターペン、軽油、白灯油、ヘキサン、シクロヘキサンなど)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタンなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール)、グリコール類(エチレングリコールなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリルなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドンなど)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレンなど)、植物油(大豆油、綿実油など)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油など)、及び水が挙げられる。これらは単独もしくは2種以上を用いてもよい。【0016】本発明における塗膜形成成分としては、木材表面に塗膜を形成して木材を保護する成分であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、アミノアルキド樹脂などの合成樹脂などが挙げられる。特に好ましい合成樹脂としては、アルキド樹脂及びアクリル樹脂が挙げられる。【0017】塗膜形成成分としては水性および/または油性のどちらを使用してもよい。【0018】本発明の脂肪酸金属塩としては、オクチル酸コバルト、オクチル酸マンガン、オクチル酸亜鉛、オクチル酸銅、オクチル酸ジルコニウムなどのオクチル酸金属塩、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅などのナフテン酸金属塩が挙げられ、単独または2種類以上を用いても良い。特に好ましい脂肪酸金属塩としては、オクチル酸亜鉛である。」
カ 甲6の記載
甲6には、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】 平均粒径0.1~30μmの樹脂またはワックスの粒子表面に,前記粒子より小さい粒径を有する抗菌抗黴性金属または金属化合物の微粒子を,機械的衝撃力を用いて保持させてなることを特徴とする抗菌抗黴剤。【請求項2】抗菌抗黴性金属または金属化合物の微粒子が平均粒径0.05~5μmである請求項1記載の抗菌抗黴剤。【請求項3】 請求項1記載の抗菌抗黴剤を,被覆剤用ワニスに添加してなることを特徴とする被覆剤。」
(イ)「【0011】【実施例】以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。なお、実施例中「部」とは重量部を、%は重量%を示す。実施例1(抗菌抗黴剤の作製)高速気流中衝撃法を利用した粉体の表面改質装置(奈良機械製作所社製 ハイブリダイゼーション システム NHS-0)に融点110℃,平均粒径6μmのポリエチレンワックス80部と,ケイ酸アルミン酸マグネシウムに抗菌抗黴性金属(銀および亜鉛)を担持させた平均粒径2μmの抗菌剤(AIS,触媒化成工業者製)16部と,を仕込み、機械的衝撃によりポリエチレンワックス表面に抗菌抗黴剤を保持させた。抗菌抗黴剤が保持されていることは、走査型電子顕微鏡観察により確認した。すなわち,ポリエチレンワックスの表面に一部埋め込まれた状態で抗菌抗黴剤が保持されていることが観察できた。続きを表示(全15行)(抗菌抗黴剤の添加)東洋インキ製造社製オフセットインキ(CKウイン藍M)に前述の抗菌抗黴剤を3%添加し,3本ロールにて練肉して、インキを得た。(塗工物の作製)上記インキをマリーコート紙にRIテスターで展色した。実施例2(抗菌抗黴剤の作製)ホソカワミクロン社製メカノフュージョンシステムAM-15F型に平均粒径3μmのポリエチレンワックス80部と抗菌剤であるチオサリチル酸・銀イオン錯体(平均粒径0.3μm)16部を仕込み、30分間処理することにより、ポリエチレンワックス表面に抗菌剤を保持させた。抗菌剤が保持されていることは、走査型電子顕微鏡観察により確認した。(抗菌抗黴剤の添加)東洋インキ製造社製UV硬化型インキ(FDカルトンP藍インキ)に前述の抗菌抗黴剤を7%添加した。(塗工物の作製)上記インキをマリーコート紙にRIテスターで展色した。実施例3東洋インキ製造社製グラビアインキ(デュアレックスS)に実施例1の抗菌抗黴剤を1%添加して、実施例1と同様にしてインキを得た。【0012】このインキをNo.6バーコーターで未処理ポリプロピレンフィルムに塗工した。実施例4実施例2の抗菌抗黴剤をロジン変性フェノール樹脂,乾性油,ドライヤー,ポリテトラフルオロエチレン系コンパンウンドおよび溶剤を含むオーバープリントニス中に1%添加し,ハイスピードミキサーで混合して、塗料(オーバープリントニス)を得た。この塗料を,紙器用紙に塗装した。」
(2)甲1~甲6に記載された発明(甲1発明~甲6発明)
ア 甲1発明
甲1の、請求項1を引用する請求項5を引用する請求項6には、上記引用した翻訳文には不明確な記載があるものの、次のものが記載されていると認められる。
「インクベースに重量パーセントを5-20%とする複合抗菌剤を含む抗菌インクであって、前記複合抗菌剤の特徴は、無機-有機複合抗菌剤とロジン変性フェノール樹脂の混合物とする;前記の無機-有機複合抗菌剤は無機抗菌剤と有機系抗菌剤を含む;続きを表示(全21行)前記の無機抗菌剤は銀イオンに担持したこと、亜鉛イオンあるいは銀亜鉛複合イオンのリン酸塩あるいはガラス微粉とする;前記燐酸塩は正方晶型リン酸ジルコニウム、層状のリン酸ジルコニウムあるいはリン酸ナトリウムから選ぶ;前記の有機系抗菌剤はニパギンエステル類とするものであり、前記の抗菌インクのその成分と重量パーセント含有量が以下を含む抗菌インク:複合抗菌剤 5-20%連結して予測すること 30-55%充填物質 10-36%トナー 5-18%ワックス 2-8%溶媒 5-12%他の補助成分 1-10%以上の各成分の百分率の和は100%とする;前記であることは連結してフェノール樹脂とアルキド系とする混合物を予測する;前記の充填物質はアルカリ土類金属の炭酸塩あるいは硫酸塩、酸化物、シリカ中の一つまたは複数とする;前記のワックスは微結晶化ワックスとし、酸化ポリエチレンワックス、カルバナ蝋中の一種類又は二種類を含む;前記の溶媒はホワイトスピリット、アルコールエーテル類、直鎖炭化水素あるいはシクロパラフィンの1種類あるいはその混合物を含む;前記の他の補助成分はオクチル酸ジルコニウムあるいは硼酸マンガンあるいはアルキルベンゼンスルホン酸あるいはポリオキシエチレン中の一つまたは複数の混合物を含む。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2発明
甲2の請求項1には、次の発明が記載されていると認められる。
「抗菌性、抗カビ性を有する銀、亜鉛及びそれらの金属化合物からなる群の中から選ばれた少なくとも1種の化合物及び/又は複数の抗菌イオン源と該抗菌イオンを吸着担持するリン酸ジルコニウムセラミックス材である一群の抗菌性及び抗カビ性物質の少なくとも1種を主成分とする抗菌性及び抗カビ性成分(A成分)、平均粒子径3ミクロン以下のポリエチレンワックス微粒子(B成分)、ニトロセルローズとアルキド樹脂を少なくとも含む樹脂成分(C成分)、有機溶剤(D成分)、及びジメチルエーテル(DME)から構成され、かつ、0.05/1~1/1の範囲で使用され、A+B+Cの固形分に対し、A+B成分が20%以下含有する抗菌能を有するエアゾールスプレー塗料組成物。」(以下、「甲2発明」という。)
ウ 甲3発明
甲3には、その請求項1に、次の発明が記載されていると認められる。
「AFソルベント6号の曇点が100℃以上210℃以下のロジン変性フェノール樹脂を含むワニスと、ドライヤーと、融点が80℃以下でありノルマルパラフィンを含む石油系ワックスと、を含み、前記ノルマルパラフィンの含有量が0.5質量%以上5質量%以下であるオーバープリントワニス組成物。」
エ 甲4発明
甲4には、その請求項1に、次の発明が記載されていると認められる。
「(A)ボイル又はスタンド処理された植物性の乾性油又は半乾性油、及び、(B)有機金属化合物を含有する木材用塗料。」(以下、「甲4発明」という。)
オ 甲5発明
甲5の請求項1には、次の発明が記載されていると認められる。
「脂肪酸金属塩を含有する木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物。」(以下、「甲5発明」という。)
カ 甲6発明
甲6の実施例4には、実施例2の抗菌抗黴剤を用いた塗料について、次の発明が記載されていると認められる。
「ホソカワミクロン社製メカノフュージョンシステムAM-15F型に平均粒径3μmのポリエチレンワックス80部と抗菌剤であるチオサリチル酸・銀イオン錯体(平均粒径0.3μm)16部を仕込み、30分間処理することにより、ポリエチレンワックス表面に抗菌剤を保持させて抗菌抗黴剤を得て、該抗菌抗黴剤をロジン変性フェノール樹脂,乾性油,ドライヤー,ポリテトラフルオロエチレン系コンパンウンドおよび溶剤を含むオーバープリントニス中に1%添加し,ハイスピードミキサーで混合して得られた塗料(オーバープリントニス)」(以下、「甲6発明」という。)
(3)対比・判断
ア 甲1発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「無機-有機複合抗菌剤」に含まれる「無機抗菌剤」には、「銀亜鉛複合イオンのリン酸塩」が含まれ、「リン酸塩」(燐酸塩)として、「正方晶型リン酸ジルコニウム、層状のリン酸ジルコニウム」が用いられているところ、「正方晶型リン酸ジルコニウム、層状のリン酸ジルコニウム」は粒子と呼べるものであることから、甲1発明の「銀亜鉛複合イオンの」「正方晶型リン酸ジルコニウム、層状のリン酸ジルコニウム」である「無機抗菌剤」は、本件発明1の「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」に相当する。
また、甲1発明の「ロジン変性フェノール樹脂」は、本件発明1の「ロジン変性フェノール系樹脂」に相当する。
そして、甲1発明の「ワックス」は、本件発明1の「ワックス」に相当する。
また、甲1発明は、「抗菌インク」は組成物であるから、本件発明1の「油性抗菌ニス組成物」と甲1発明とは、組成物である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子、ロジン変性フェノール系樹脂を含有し、さらに、ワックスを含有する組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点1-1)
本件発明1は、「ドライヤー、植物油を含有」するのに対し、甲1発明は、「ドライヤー、植物油を含有」することは規定されていない点。
(相違点1-2)
「ワックス」について、本件発明1は、「平均粒子径10.0μm以下のワックスを全組成物中3.0~13.0質量%含有する」ことが特定されているのに対し、甲1発明の「ワックス」の粒径は不明であり、その含有量は、「抗菌インク」中「2-8重量%」である点。
(相違点1-3)
本件発明1は「油性抗菌ニス組成物」であるのに対し、甲1発明は、「抗菌インク」である点。
ここで、相違点について検討する。
相違点1-1について検討する。
本件発明1に含まれる「植物油」は、植物油に含まれる不飽和結合部分が酸化重合することで皮膜を形成するものであり、本件発明1に含まれる「ドライヤー」は、その「植物油」の酸化重合を促進するものであることは技術常識である。さらに、このような「油」の酸化重合を「乾く」又は「乾燥」と呼ぶことは技術常識である。
また、本件明細書の【0018】には、「植物油」について、「植物油類に含まれる不飽和結合部分が、油性抗菌ニス組成物塗布後の皮膜中で酸化重合することで油性抗菌ニス組成物が乾燥する。」と記載されていることからも、本件発明1に含まれる「ドライヤー」は植物油の酸化重合を促進するものであることは明らかである。
一方、甲1には、皮膜形成のために、「抗菌インク」に植物油等の酸化重合によって皮膜を形成する化合物を添加することは記載も示唆もされていない。
そして、甲1発明は、「ホワイトスピリット、アルコールエーテル類、直鎖炭化水素あるいはシクロパラフィンの1種類あるいはその混合物」の「溶媒」を含むものであることから、「ロジン変性フェノール樹脂」や「ワックス」が「溶媒」に溶解して、溶媒が揮発することで、「ロジン変性フェノール樹脂」や「ワックス」を含む皮膜が形成されるものであり、皮膜形成は酸化重合によるものではないと解される。
そうすると、甲1発明に、甲1発明の皮膜形成の機序とは異なる機序で皮膜を形成する植物油やドライヤーを、さらに含有させる動機付けがあるとはいえない。
これに対し、本件発明1は、「優れた耐版摩耗性及び乾燥性を有すると共に、それにより形成された塗膜が、優れた耐摩擦性及び光沢を有する油性抗菌ニス塗膜表面を有する効果を発揮できる。」という格別顕著な作用効果を奏するものであり、その作用効果は、本件明細書の実施例において確認されている。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
イ 甲2発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「抗菌性及び抗カビ性成分(A成分)」のうち、「抗菌性、抗カビ性を有する銀」「を吸着担持するリン酸ジルコニウムセラミックス材」は、【0012】の「抗菌性及び抗カビ性成分(A成分)を、ワックスの粒子径と同じ程度の粒子径(好ましくは1ミクロン以下の平均粒子)で利用するのがよい。」と記載されるように、粒子であることは明らかであるから、甲2発明の「抗菌性、抗カビ性を有する銀」「を吸着担持するリン酸ジルコニウムセラミックス材」は、本件発明1の「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」に相当する。
また、本件発明1の「ロジン変性フェノール系樹脂」と甲2発明の「ニトロセルローズとアルキド樹脂を少なくとも含む樹脂成分(C成分)」とは、「樹脂」である点で共通する。
そして、甲2発明の「平均粒子径3ミクロン以下のポリエチレンワックス微粒子」は、本件発明1の「平均粒子径10.0μm以下のワックス」に相当する。
また、本件発明1の「油性抗菌ニス組成物」と甲2発明の「エアゾールスプレー塗料組成物」とは、組成物である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子、樹脂を含有し、さらに、平均粒子径10.0μm以下のワックスを含有する組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点2-1)
本件発明1は、「ドライヤー、植物油を含有」するのに対し、甲2発明は、「ドライヤー、植物油を含有」することは規定されていない点。
(相違点2-2)
樹脂について、本件発明1は、「ロジン変性フェノール系樹脂」であるのに対し、甲2発明は、「ニトロセルローズとアルキド樹脂を少なくとも含む樹脂成分」である点。
(相違点2-3)
「ワックス」の含有量について、本件発明1は、「全組成物中3.0~13.0質量%含有する」ことが特定されているのに対し、甲2発明の「平均粒子径3ミクロン以下のポリエチレンワックス微粒子」の「エアゾールスプレー塗料組成物」中の含有量は不明な点。
(相違点2-4)
本件発明1は「油性抗菌ニス組成物」であるのに対し、甲2発明は、「エアゾールスプレー塗料組成物」である点。
ここで、相違点について検討する。
相違点2-1について検討する。
上記相違点1-1において述べたように、本件発明1に含まれる「植物油」は、植物油に含まれる不飽和結合部分が酸化重合することで皮膜を形成するために用いられているものであることは技術常識である。
一方、甲2には、植物油等の酸化重合する化合物を添加することは記載も示唆もされていない。むしろ、甲2発明は、「有機溶剤(D成分)」を含むことから、「ニトロセルローズとアルキド樹脂を少なくとも含む樹脂成分」や「ポリエチレンワックス微粒子」が「有機溶剤」に溶解して、溶剤が揮発することで、「ニトロセルローズとアルキド樹脂を少なくとも含む樹脂成分」や「ポリエチレンワックス微粒子」を含む皮膜が形成されるものであって、酸化重合によるものではないものと解される。
そうすると、甲2発明に、甲2発明の皮膜形成の機序とは異なる機序で皮膜を形成する植物油やドライヤーを、さらに含有させる動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
ウ 甲3発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「AFソルベント6号の曇点が100℃以上210℃以下のロジン変性フェノール樹脂」及び「ドライヤー」は、本件発明1の「ロジン変性フェノール系樹脂」及び「ドライヤー」にそれぞれ相当する。
また、甲3発明の「融点が80℃以下でありノルマルパラフィンを含む石油系ワックス」は、本件発明1の「ワックス」に相当する。
そして、本件発明1の「油性抗菌ニス組成物」と甲3発明の「オーバープリントワニス組成物」とは、組成物である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「ロジン変性フェノール系樹脂、ドライヤーを含有し、さらに、ワックスを含有する組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点3-1)
本件発明1は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」「を含有」するのに対し、甲3発明は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有することは規定されていない点。
(相違点3-2)
本件発明1は、「植物油を含有」するのに対し、甲3発明は、「植物油を含有」することは規定されていない点。
(相違点3-3)
「ワックス」について、本件発明1は、「平均粒子径10.0μm以下のワックスを全組成物中3.0~13.0質量%含有する」ことが特定されているのに対し、甲3発明の「オーバープリントワニス組成物」に含まれる「ノルマルパラフィン」の粒径については規定されず、その「含有量が0.5質量%以上5質量%以下である」点。
(相違点3-4)
本件発明1は「油性抗菌ニス組成物」であるのに対し、甲3発明は、「オーバープリントワニス組成物」である点。
ここで、相違点について検討する。
相違点3-1について検討する。
甲3発明の「オーバープリントワニス組成物」は、甲3の【0003】に「印刷物の表面を保護するために、また得られる印刷物の光沢を向上させるため、あるいは印刷物に艶消し効果を付与するために、印刷物の表面にインラインまたはオフラインでオーバープリントワニス組成物が塗工されることもある(特許文献1、2)。」と記載されるように、印刷物に、表面保護、光沢の向上、艶消しのための皮膜を形成するものとされる。
そうすると、甲3発明は、必ずしも、抗菌性を有する必要があるものではないし、むしろ、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有させた場合には、当該粒子によって、印刷物の光沢や艶消しの効果が変化することは明らかであるから、甲3発明に、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有させたものが、所望の光沢や艶消し効果を有するものとなるかどうかは明らかではない。
したがって、甲3発明に、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有させる動機付けがあるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
エ 甲4発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「ボイル又はスタンド処理された植物性の乾性油又は半乾性油」は、本件発明1の「植物油」に相当する。
また、本件発明1の「油性抗菌ニス組成物」と甲4発明の「木材用塗料」は、「組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、「植物油を含有する組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点4-1)
本件発明1は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」「を含有」するのに対し、甲4発明は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有することは規定されていない点。
(相違点4-2)
本件発明1は、「ロジン変性フェノール系樹脂」「を含有」するのに対し、甲4発明は、「ロジン変性フェノール系樹脂」をすることは規定されていない点。
(相違点4-3)
本件発明1は、「平均粒子径10.0μm以下のワックスを全組成物中3.0~13.0質量%含有する」ことが特定されているのに対し、甲4発明には、ワックスを含むことについては規定されていない点。
(相違点4-4)
本件発明1は「油性抗菌ニス組成物」であるのに対し、甲4発明は「木材用塗料」である点。
ここで、相違点について検討する。
相違点4-1について検討する。
甲4発明の「木材用塗料」は、【0006】に「本発明の目的は、深部硬化性に優れ、床暖房等により加温される木材の塗装にも好適に使用することのできる木材用塗料を提供することにある。」と記載されるように、床暖房等で加温される木材の塗装に用いられ、塗装された木材の深部まで浸透して硬化するものであり、必ずしも、抗菌性を有する必要があるものではない。むしろ、甲4発明に、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有させた場合には、当該粒子によって、塗料が木材の深部に浸透することが困難になり、深部硬化性に優れたものとはならないことは明らかである。
そうすると、甲4発明に、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有させる動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
オ 甲5発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲5発明とを対比する。
本件発明1の「油性抗菌ニス組成物」と甲5発明の「木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物」は、「組成物」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、「組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点5-1)
本件発明1は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」「を含有」するのに対し、甲5発明は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有することは規定されていない点。
(相違点5-2)
本件発明1は、「ロジン変性フェノール系樹脂」「を含有」するのに対し、甲5発明は、「ロジン変性フェノール系樹脂」をすることは規定されていない点。
(相違点5-3)
本件発明1は、「ドライヤー」「を含有」するのに対し、甲5発明は、「ドライヤー」をすることは規定されていない点。
(相違点5-4)
本件発明1は、「植物油」「を含有」するのに対し、甲5発明は、「植物油」をすることは規定されていない点。
(相違点5-5)
本件発明1は、「平均粒子径10.0μm以下のワックスを全組成物中3.0~13.0質量%含有する」ことが特定されているのに対し、甲5発明には、「ワックス」については規定されていない点。
(相違点5-6)
本件発明1は「油性抗菌ニス組成物」であるのに対し、甲5発明は、「木材保護塗料用塗膜劣化防止組成物」である点。
ここで、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点5-1~相違点5-6についてまとめて検討する。
甲5には、本件発明1の上記相違点5-1~相違点5-6に係る発明特定事項については、なんら記載されていない。また、甲5発明において、上記相違点5-1~相違点5-6に係る発明特定事項を備える動機付けは見いだせない。
そして、本件発明1は、本件発明1の上記相違点5-1~相違点5-6に係る発明特定事項を備えることで、「優れた耐版摩耗性及び乾燥性を有すると共に、それにより形成された塗膜が、優れた耐摩擦性及び光沢を有する油性抗菌ニス塗膜表面を有する効果を発揮できる。」という格別顕著な作用効果を奏するものであり、本件発明1は、甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
カ 甲6発明を主引用発明とした場合
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「ロジン変性フェノール樹脂」、「ドライヤー」及び「平均粒径3μmのポリエチレンワックス」は、本件発明1の「ロジン変性フェノール系樹脂」、「ドライヤー」及び「平均粒子径10.0μm以下のワックス」にそれぞれ相当する。
本件発明1の「植物油」と甲6発明の「乾性油」とは、「油」である点で共通する。
本件発明1の「油性抗菌ニス組成物」と甲6発明の「塗料(オーバープリントニス)」とは、組成物である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲6発明とは、「ロジン変性フェノール系樹脂、ドライヤー、油を含有し、さらに、平均粒子径10.0μm以下のワックスを含有する組成物。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点6-1)
本件発明1は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」「を含有」するのに対し、甲6発明は、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を含有することは規定されていない点。
(相違点6-2)
「油」について、本件発明1は、「植物油」であるのに対し、甲6発明は、「乾性油」である点。
(相違点6-3)
「平均粒子径10.0μm以下のワックス」の含有量について、本件発明1は、「全組成物中3.0~13.0質量%含有する」ことが特定されているのに対し、甲6発明の「平均粒径3μmのポリエチレンワックス」の「塗料(オーバープリントニス)」中の含有量は不明な点。
(相違点6-4)
本件発明1は「油性抗菌ニス組成物」であるのに対し、甲6発明は、「塗料(オーバープリントニス)」である点。
ここで、相違点について検討する。
相違点6-1について検討する。
甲6発明は「抗菌抗黴剤」を含有するものであり、「抗菌抗黴剤」と同様な作用効果を有する「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を、甲6発明の「塗料(オーバープリントニス)」に、さらに含有させる動機付けがあるとはいえない。
また、甲6発明の「抗菌抗黴剤」は、「ホソカワミクロン社製メカノフュージョンシステムAM-15F型に平均粒径3μmのポリエチレンワックス80部と抗菌剤であるチオサリチル酸・銀イオン錯体(平均粒径0.3μm)16部を仕込み、30分間処理することにより、ポリエチレンワックス表面に抗菌剤を保持させて抗菌抗黴剤」であって、「抗菌剤であるチオサリチル酸・銀イオン錯体(平均粒径0.3μm)」に替えて「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」を用いた場合についても、ポリエチレンワックス表面に保持させることができるかどうかは明らかではなく、甲6発明の「抗菌剤」を「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」に替える動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲6発明の「抗菌抗黴剤」を「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」に替えた場合には、甲6発明には、ポリエチレンワックスが含まれないものとなり、甲6発明の「塗料(オーバープリントニス)」の所望の特性が得られなくなることは明らかであるから、甲6発明の「抗菌抗黴剤」を「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」に替える動機付けがあるとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、さらに特定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲6発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。
キ まとめ
以上のとおり、特許異議申立人が主張する理由1には理由がない。
(2)理由2(同第36条第4項第1号)について
本件訂正により、本件明細書に記載の比較例4は、本件発明1に含まれなくなり、比較例4を根拠にして、本件明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。
(3)理由3(同第36条第6項第1号)について
ア 各成分の含有量について
(ア)本件発明の課題について
本件発明は、上記第3に記載したものであるところ、本件明細書の【0004】の記載からみて、本件発明の課題は、「銀を担持した高い硬度のリン酸ジルコニウム粒子を含有する油性抗菌ニス組成物により印刷しても、耐版摩耗性に優れ、及び乾燥性を有し、かつ、得られた塗膜が、優れた耐摩擦性及び光沢を有する油性抗菌ニス組成物を提供すること」と認められる。
(イ)本件明細書の記載について
本件明細書には、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」、「ロジン変性フェノール樹脂」(樹脂)、「ドライヤー」及び「植物油」の含有量について、それぞれ次の記載がある(下線は当審が付与した)。
「【0008】本発明の油性抗菌ニス組成物中の銀含有リン酸ジルコニウム粒子の濃度としては、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上であり、最も好ましくは2.0質量%以上である。また、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、さらに好ましくは8.0質量%以下、最も好ましくは5.0質量%以下である。0.2質量%未満であると十分な抗菌性を発揮できない可能性があり、20.0質量%を超えると、条件によるものの、安定性と耐摩擦性に劣る可能性がある。」
「【0011】本発明の油性抗菌ニス組成物中の樹脂の含有量は、好ましくは8.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上、さらに好ましくは15.0質量%以上、最も好ましくは17.0質量%以上である。また好ましくは50.0質量%以下、より好ましくは40.0質量%以下、さらに好ましくは30.0質量%以下であり、最も好ましくは25.0質量%以下である。8.0質量%未満であると、耐版摩耗性、乾燥性、耐摩擦性及び光沢に関する性質をバランス良く向上させることが困難になり、50.0質量%を超えると、他の成分を十分に配合できない可能性がある。」
「【0017】<ドライヤー>本発明の油性抗菌ニス組成物に含有されるドライヤーとしては、金属の脂肪酸塩(金属石鹸)が好ましく、中でもマンガンやコバルト、鉛、カルシウム、ジルコニウム、バリウム、ナトリウム、カリウム等の金属のナフテン酸やオクチル酸を使用できる。油性抗菌ニス組成物中のドライヤーの含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.4質量%以上であり、最も好ましくは0.5質量%以上である。また好ましくは2.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以下であり、最も好ましくは0.8質量%以下である。0.1質量%未満であると乾燥性に劣る可能性があり、2.0質量%を超えるとニス組成物としての取り扱い性に劣る可能性がある。」
「【0019】上記の通り、植物油、及び植物油の脂肪酸アルキルエステルを合わせた、油性抗菌ニス組成物中における含有量は、好ましくは20.0質量%以上であり、より好ましくは30.0質量%以上であり、さらに好ましくは40.0質量%以上である。また80.0質量%以下が好ましく、より好ましくは75.0質量%以下であり、さらに好ましくは70.0質量%以下である。」
これらの記載から、本件発明に係る「油性抗菌ニス組成物」において、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」は、抗菌性をもたらすものであり、「ロジン変性フェノール系樹脂」(樹脂)は、耐版摩耗性、乾燥性、耐摩擦性及び光沢をもたらすものであり、また、「油」の酸化重合を「乾く」又は「乾燥」と呼ぶことは技術常識であることから、「ドライヤー」は、「植物油」とともに用いられて、植物油の酸化重合を促進させて、植物油による皮膜を形成するものであることが理解できる。
そして、上記本件明細書の記載からは、本件発明は「油性抗菌ニス組成物」である限りにおいて、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」、「ロジン変性フェノール樹脂」、「ドライヤー」及び「植物油」の含有量は当業者によって適宜定められるものであって、それらが含まれている限り、本件発明の課題を解決するものであることが理解できる。
(ウ)本件発明の実施例について
本件発明の実施例に関して、次の記載がある(下線は当審が付与した)。
「【実施例】【0025】以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。以下の実施例、比較例で使用した材料は次の通りである。表中の各成分及び合計に関する欄の数値の単位は「質量%」である。続きを表示(全50行)・・・【0029】(実施例1~7及び比較例1~7)<油性抗菌ニス組成物の製造>表1の配合(各材料の配合比率は質量%である)に従い、各材料を混合し、三本ロールを用いて練肉することで実施例及び比較例の油性抗菌ニス組成物を得た。【0030】<評価方法及び評価基準>(塗工物の作成)下記の条件で実施例及び比較例の抗菌組成物を塗工した。印刷機:小森コーポレーション 小森LITHRONE LS-426版:平版用CTP版 XPF(富士フィルム社製)用紙:王子マテリア株式会社 UFコート印刷速度:12000部/時湿し水:富士フィルム社製 SUPERIA PRESSMAX S-Z1(湿し水中濃度 3容量%)【0031】(耐版摩耗性)全ベタの版を用いて連続50000部塗工した後に、版面と紙面の状態を確認、目視評価した。○:版面に摩耗が見られず、紙面のベタ形成に欠陥が見られない。△:版面に摩耗が見られたが、紙面のベタ形成には欠陥が見られない。×:版面に摩耗が見られ、紙面のベタ形成に欠陥が見られる。【0032】(乾燥性)JIS K 5701を参考に実施した。東洋精機製C型乾燥試験機のドラムの円周上に、得られた各塗工物に当て紙を重ねて巻き付け、この上に一定荷重の押し圧歯車を載せ、ドラムの回転とともにこれをドラムの軸方向に移動させ、当て紙に移る押し圧歯車の押し跡で試料の乾燥時間、裏移りの状態などを測定した。○:10時間で押し跡がつかなくなった。△:15時間で押し跡がつかなくなった。×:24時間たっても押し跡がついていた。【0033】(耐摩擦性)得られた各塗工物を、学振型摩擦堅牢度試験機を用いて評価した。評価条件:500g×50回、当紙:UFコート○:50回以上こすっても塗工面が取れなかった。△:10回~49回こすって塗工面が取れた。×:1回~9回こすって塗工面がとれた。【0034】(光沢)得られた各塗工物について、日本電色工業株式会社製光沢計で60°光沢値(Gs)を測定した。○:Gs(60°)=30%以上△:Gs(60°)=20%以上30%未満×:Gs(60°)=20%未満【0035】【表1】[図:0001384150000001.jpg]【0036】本発明に沿った例である実施例1~7によれば、油性抗菌ニス組成物による耐版摩耗性、油性抗菌ニス組成物による塗膜の乾燥性、耐摩擦性及び光沢性が良好であった。これに対して、銀含有リン酸ジルコニウム粒子を含有せず、銀担持結晶性アルミノ珪酸塩を含有した比較例1によれば、耐版摩耗性と耐摩擦性に劣り、樹脂ワニスを使用しない比較例2によれば、全ての性質の点で劣り、ワックスを含有しない比較例3とワックスを少量のみ含有する比較例4によれば、いずれも耐版摩耗性と耐摩擦性に劣り、ワックスを多量に含有する比較例5によれば、光沢性に劣り、ドライヤーを含有しない比較例6によれば特に乾燥性に劣り、平均粒子径が10μmを超えるワックスを含有する比較例7によれば塗膜の光沢性に劣っていた。上記の比較例のうち、耐版摩耗性と耐摩擦性に劣る比較例1における銀担持結晶性アルミノ珪酸塩(ゼオライト)に代えて、上記特許文献2によれば、粉砕装置の磨耗が起きやすいほど硬度が高いことがわかるリン酸ジルコニウム粒子を採用しても、耐版摩耗性、つまり版を摩耗しないという性質をはじめとする全ての効果において優れた効果を発揮できることがわかる。これは結晶性アルミノ珪酸塩自体が本来それほど硬度が高くないこと、それに対して上記のようにリン酸ジルコニウムは硬度がより高いことを考慮すると顕著な効果である。」
これらの記載から、油性抗菌ニス組成物による塗膜について、本件発明に含まれる実施例1~7は、油性抗菌ニス組成物による耐版摩耗性、油性抗菌ニス組成物による塗膜の乾燥性、耐摩擦性及び光沢性が良好であり、一方、銀含有リン酸ジルコニウム粒子を含有せず、銀担持結晶性アルミノ珪酸塩を含有した比較例1は耐版摩耗性と耐摩擦性に劣り、樹脂ワニスを含有しない比較例2は全ての性質の点で劣り、ドライヤーを含有しない比較例6は乾燥性に劣ることが理解できる。
また、ワックスを含有しない比較例3、及びワックスの含有量が本件発明の範囲よりも少ない比較例4は、いずれも耐版摩耗性と耐摩擦性に劣り、ワックスの含有量が本件発明の範囲よりも多い比較例5は、光沢性に劣り、ワックスの平均粒子径が本件発明よりも大きい比較例7は光沢性に劣るものとなることが理解できる。
そうすると、本件明細書の実施例について、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」、「ロジン変性フェノール樹脂」、「ドライヤー」及び「植物油」を含み、ワックスの含有量及び平均粒径が、本件発明で規定される範囲のものであれば、本件発明の課題を解決するものであることが理解できる。
(エ)まとめ
以上のことから、本件発明は、ワックスの含有量及び平均粒径が、本件発明で規定される範囲のものである点に特徴を有するものであり、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」、「ロジン変性フェノール樹脂」、「ドライヤー」及び「植物油」は、これらが含有されていれば、抗菌性、耐版摩耗性、乾燥性、耐摩擦性及び光沢をもたらし、植物油の酸化重合が促進させるものであることが理解できる。
そうすると、本件発明においては、「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」、「ロジン変性フェノール樹脂」、「ドライヤー」及び「植物油」の含有量について特定されていなくても、本件発明は、「得られた塗膜が、優れた耐摩擦性及び光沢を有する」ものとなり、本件発明の課題を解決するものであるというべきである。
以上のとおり、発明の詳細な説明に基づいて、本件発明は本件発明の課題を解決することが理解できることから、本件の請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない、ということはできない。
なお、特許異議申立人は、本件発明における「銀含有リン酸ジルコニウム粒子」、「ロジン変性フェノール樹脂」、「ドライヤー」及び「植物油」の含有量によって、本件発明が、本件発明の課題を解決しないものとなることについての具体的根拠は示していない。
イ ロジン変性フェノール系樹脂について
本件明細書に記載された実施例においては、ロジン変性フェノール樹脂は、大豆油に溶解されて用いられており、本件明細書の記載や技術常識に照らしても、当該実施例において、大豆油に溶解したロジン変性フェノール樹脂の全てが変性し、得られた油性抗菌ニス組成物にはロジン変性フェノール樹脂が全く含まれることがない、とまではいえないことから、当該実施例は本件発明の実施例ではない、ということはできない。
なお、特許異議申立人は、大豆油に溶解されたロジン変性フェノール樹脂が、全て変性することがあることについては、蓋然性があると述べるにとどまり、具体的根拠は何ら示していない。
ウ 本件発明3について
本件発明1の植物油は、それに含まれる不飽和結合部分が酸化重合することで皮膜を形成するために用いられるものであり、植物油の種類は特定のもの限られるものではなく、しかも、皮膜を形成する植物油として、大豆油、桐油、及びアマニ油はいずれも、本件出願前に当業者にとって周知であり、しかも、それらを混合して用いられることも、周知である。
そうすると、本件明細書には、本件発明3に該当する実施例が開示されていないとしても、本件発明3は、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない、ということはできない。
(4)理由4(同第36条第6項第2号)について
上記(3)イで述べたように、本件発明について、本件明細書には実施例がない、とまではいえないことから、本件発明3が不明確であるとはいえない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700718