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特許異議申立

2021-700667

熱処理用トレイ部材及び熱処理用積層構造体

審判番号
2021-700667
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-571771外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6814493
請求日
2021年07月12日
審決日
2021年11月26日
公報発行日
2022年03月25日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-Y (C21D) / P1651.537-Y (C21D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第113条、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6814493号発明「熱処理用トレイ部材及び熱処理用積層構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6814493号の請求項1~17に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 12項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6814493号(請求項の数17。以下,「本件特許」という。)は,2019年(令和1年)8月21日(優先権主張:平成30年8月21日)を国際出願日とする特許出願(特願2019-571771号)に係るものであって,令和2年12月23日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和3年1月20日である。)。

その後,令和3年7月12日に,本件特許の請求項1~17に係る特許に対して,特許異議申立人である金田綾香(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明

本件特許の請求項1~17に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】

トレイと,該トレイに着脱可能に搭載される複数の部品受けとで構成され,被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される部材であって,前記トレイは,前記部品受けを所定位置に搭載できる搭載部を複数有する基部を有し,前記基部が炭素複合材料で構成されており,前記部品受けが鋼材又はNi合金材で構成されている,ことを特徴とする熱処理用トレイ部材。

【請求項2】

前記搭載部が,枠と該枠で囲まれた空間とで構成される枠構造であり,該枠構造が,円形,楕円形,三角形,四角形,ハニカム形及びその類似形状から選ばれる,請求項1に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項3】

前記基部のコーナーにはコーナー支柱が設けられ,該コーナー支柱が炭素複合材料で構成されている,請求項1又は2に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項4】

前記基部の中央又は中央付近にはセンター支柱が1又は2以上設けられ,該センター支柱が炭素複合材料で構成されている,請求項3に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項5】

前記基部のコーナーにはコーナー支柱が設けられ,該コーナー支柱が鋼材又はNi合金材で構成されている,請求項1又は2に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項6】

前記基部の中央又は中央付近にはセンター支柱が1又は2以上設けられ,該センター支柱が鋼材又はNi合金材で構成されている,請求項5に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項7】

前記トレイが複数積み重ねられる場合において,

(a)前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部は,連結部材を介して他の支柱の上部と係合して前記基部に連結する下係合部を有し,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の上部は,他の連結部材を介して他の支柱の下部と係合して上段に積層される他のトレイに連結する上係合部を有する,

(b)前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部は,連結部材を介して他の支柱の上部と係合して前記基部に連結する下係合部を有し,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の上部は,連結部材を介さずに直接他の支柱の下部と係合して上段に積層される他のトレイに連結する上係合部を有する,

(c)前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部は,連結部材を介さずに直接他の支柱の上部と係合して前記基部に連結する下係合部を有し,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の上部は,連結部材を介して他の支柱の下部と係合して上段に積層される他のトレイに連結する上係合部を有する,及び,

(d)前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部は,連結部材を介さずに直接他の支柱の上部と係合して前記基部に連結する下係合部を有し,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の上部は,連結部材を介さずに直接他の支柱の下部と係合して上段に積層される他のトレイに連結する上係合部を有する,から選ばれる,請求項4又は6に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項8】

前記トレイが複数積み重ねられる場合において,前記コーナー支柱及び前記センター支柱は,上段の他の支柱の下部の係合部に係合して上段の他のトレイに連結する上係合部と,下段の他の支柱の上部の係合部に係合して下段の他のトレイに連結する下係合部とを有し,前記上係合部には,上段の他のトレイを載せて係合する肩部が形成されている,請求項7に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項9】

前記トレイが複数積み重ねられる場合において,前記連結部材は,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部と他の支柱の上部とを上下に連結してそれら支柱間に前記基部を挟んで前記トレイを複数積み重ねるための部材であって,

前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部の係合部に係合する連結部材上係合部と,前記他の支柱の上部の係合部に係合する連結部材下係合部とを有し,

前記連結部材下係合部は肩部を有し,該肩部に前記トレイが載った状態で前記基部が前記支柱間に挟まれる,請求項7に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項10】

前記トレイが複数積み重ねられる場合において,最下段に位置する連結部材は,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部に係合する突起と,該突起の下に位置した肩部を有する頭部とで構成され,前記コーナー支柱及び前記センター支柱の下部と前記頭部との間に最下段のトレイが挟まれる,請求項8又は9に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項11】

前記部品受けは,前記トレイに着脱可能に接触する台座と,該台座に設けられて前記台座を前記トレイに保持する係止部と,前記台座上に延びる部品受け部とを有する,請求項1~7,9,10のいずれか1項に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項12】

前記部品受け部は,枠状受け部と支柱部とを有する,請求項11に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項13】

前記トレイが複数積み重ねられる場合において,前記部品受けは,上段のトレイが備える他の部品受けの下係合部に係合して前記部品受けと前記上段のトレイとを連結する上係合部と,下段のトレイが備える他の部品受けの上係合部に係合して前記部品受けと前記下段のトレイとを連結する下係合部とを有し,前記上係合部は,前記上段の他のトレイを載せて支持する肩部を有する,請求項12に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項14】

前記トレイが複数積み重ねられる場合において,前記部品受けは,(ア)上段のトレイが備える他の部品受けの下係合部とは係合せずに前記上段のトレイを載せて保持する肩部を上部に有し,下段のトレイが備える他の部品受けの上部に係合してもしなくてもよい穴部を下部に有する,(イ)上段のトレイが備える他の部品受けの下係合部に係合する突起を上部に有し,下段のトレイが備える他の部品受けの突起に係合する穴部を下部に有する,(ウ)上段のトレイが備える他の部品受けの下係合部とは係合せずに前記上段のトレイを載せて保持するだけの肩部を有し,下段のトレイが備える他の部品受けの上係合部に係合する係合部を有する,(エ)上段のトレイが備える他の部品受けの下係合部に係合する上係合部だけを有し,下段のトレイが備える他の部品受けの上係合部に係合する係合部を有しない,から選ばれる,請求項12に記載の熱処理用トレイ部材。

【請求項15】

熱処理用トレイ部材が複数積み重ねられて被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される熱処理用積層構造体であって,

一段目の熱処理用トレイ部材は,鋼材又はNi合金材で構成されたベース部材であり,二段目以上の熱処理用トレイ部材は,請求項11~14のいずれか1項に記載の熱処理用トレイ部材である,ことを特徴とする熱処理用積層構造体。

【請求項16】

熱処理用トレイ部材が複数積み重ねられて被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される熱処理用積層構造体であって,

一段目の熱処理用トレイ部材は,基部とコーナー支柱及びセンター支柱とが鋼材又はNi合金材で一体に構成され,且つ該基部に複数の部品受けが着脱可能に搭載されたものであり,二段目以上の熱処理用トレイ部材は,請求項11~14のいずれか1項に記載の熱処理用トレイ部材である,ことを特徴とする熱処理用積層構造体。

【請求項17】

熱処理用トレイ部材が複数積み重ねられて被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される熱処理用積層構造体であって,

一段目の熱処理用トレイ部材は,基部とコーナー支柱及びセンター支柱と部品受けとが鋼材又はNi合金材で一体に構成されたものであり,二段目以上の熱処理用トレイ部材は,請求項11~14のいずれか1項に記載の熱処理用トレイ部材である,ことを特徴とする熱処理用積層構造体。

第3 特許異議の申立ての理由の概要

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本件特許の請求項1~17に係る特許は,下記1~3のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,甲第1号証~甲第7号証(以下,単に「甲1」等という。下記4を参照。)である。

1 申立理由1(進歩性)

本件発明1~17は,甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~17に係る特許は,同法113条2号に該当する。

2 申立理由2(サポート要件)

本件発明1~17については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~17に係る特許は,同法113条4号に該当する。

3 申立理由3(明確性要件)

本件発明12~17については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項12~17に係る特許は,同法113条4号に該当する。

4 証拠方法

・甲1 特開平6-221771号公報

・甲2 特開2004-107705号公報

・甲3 特開2001-123219号公報

・甲4 特開平5-98342号公報

・甲5 特開2002-226909号公報

・甲6 「CFC DESIGN 製品紹介」,株式会社CFCデザイン,2018年6月12日

・甲7 実願昭58-163564号(実開昭60-71657号)のマイクロフィルム

第4 当審の判断

以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)

(1)甲1に記載された発明

甲1の記載(請求項1,3,【0002】~【0012】,【0014】,【0016】~【0018】,【0022】~【0027】,図1~7)によれば,特に,請求項1,3,【0002】,【0014】,【0016】,図1に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「格子状枠体からなるユニットトレイの複数個を連結してなる連結トレイと,
角棒状基部の両端及び中間部1個所以上に柵を立て,全部又は一部の柵を上方で狭く下方で広くして,柵と柵の間は上方で広く下方で狭い,被処理材料を積載するための谷形凹部を形成して,材料の吊り上げ用抜き勾配のある複数のクレードルを形成したライダーとからなり,
連結トレイに形成した複数の垂直方向の穴に,ライダー下面に形成した棒状突起を嵌合させて,ライダーを連結トレイ上に炉長方向に直角の向きに,炉長方向に所定間隔をあけて複数載置し,
ユニットトレイが高Cr耐熱鋳鋼製であり,ライダーが高Cr耐熱鋳鋼製である,
被処理材料を搬送しつつ連続的に熱処理を行うローラーハース炉用搬送台。」(以下,「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「格子状枠体からなるユニットトレイの複数個を連結してなる連結トレイ」は,本件発明1における「トレイ」に相当する。

(イ)甲1発明における「ライダー」は,「角棒状基部の両端及び中間部1個所以上に柵を立て,全部又は一部の柵を上方で狭く下方で広くして,柵と柵の間は上方で広く下方で狭い」「谷形凹部を形成して」,そこに「被処理材料を積載する」ものであるから,本件発明1における「部品受け」に相当する。

(ウ)甲1発明においては,「連結トレイに形成した複数の垂直方向の穴に,ライダー下面に形成した棒状突起を嵌合させて,ライダーを連結トレイ上に炉長方向に直角の向きに,炉長方向に所定間隔をあけて複数載置し」ていることから,複数のライダーを連結トレイ上に着脱可能に載置しているといえる。

そうすると,甲1発明において,複数のライダーが連結トレイ上に着脱可能に載置されていることは,本件発明1において,「複数の部品受け」が「トレイに着脱可能に搭載される」ことに相当する。

(エ)甲1発明における「被処理材料を搬送しつつ連続的に熱処理を行うローラーハース炉用搬送台」は,「連結トレイ」と「ライダー」とからなるものであり,また,技術常識に照らして,繰り返し使用されるものであることは明らかであるから,本件発明1における「トレイ」と「部品受け」とで構成され,「被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される部材」である「熱処理用トレイ部材」に相当する。

(オ)甲1発明においては,「連結トレイに形成した複数の垂直方向の穴に,ライダー下面に形成した棒状突起を嵌合させて,ライダーを連結トレイ上に炉長方向に直角の向きに,炉長方向に所定間隔をあけて複数載置し」ていることから,ライダーを連結トレイ上の所定位置に複数載置しているといえる。

そうすると,甲1発明において,連結トレイが,ライダーを連結トレイ上の所定位置に載置できる位置が複数存在することは,本件発明1において,「トレイ」が有する「基部」が,「部品受けを所定位置に搭載できる搭載部を複数有する」ことに相当する。

(カ)甲1発明において,「ライダーが高Cr耐熱鋳鋼製である」ことは,本件発明1において,「部品受けが鋼材又はNi合金材で構成されている」ことに相当する。

(キ)以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,

「トレイと,該トレイに着脱可能に搭載される複数の部品受けとで構成され,被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される部材であって,前記トレイは,前記部品受けを所定位置に搭載できる搭載部を複数有する基部を有し,前記部品受けが鋼材又はNi合金材で構成されている,熱処理用トレイ部材。」

の点で一致し,以下の点で相違する。

・相違点1

本件発明1では,トレイが有する基部が,「炭素複合材料で構成されて」いるのに対して,甲1発明では,(高Cr耐熱鋳鋼製であるユニットトレイの複数個を連結してなる)連結トレイが,「高Cr耐熱鋳鋼製」である点。

イ 相違点1の検討

(ア)甲1には,被処理材料を搬送しつつ連続的に熱処理を行うローラーハース炉について記載されている(【0001】,【0002】)。

甲1には,無酸化炉の場合,一般に,搬送ローラ上にトレイを置き,トレイ上に材料を置いて搬送するところ,長尺の棒管用のトレイの形状としては,従来,トレイのベースの両端に柵棒を立てたものが多いが,積み込み時に材料が交錯して積まれ,曲がってしまう等のトラブルや,積荷の中と外側では,昇温や降温の速度に大きな差が生じる等の不具合があること(【0003】~【0006】,【0008】),また,従来のトレイは一体で大型のため,熱歪みを起こしやすく,寿命の点でも問題があったこと(【0007】)が記載されている。

しかしながら,甲1には,連結トレイを炭素複合材料で構成することについては,記載されていない。また,甲1には,連結トレイを高Cr耐熱鋳鋼製とすること以外に,どのような材料で構成することができるかについても,何ら記載されていない。

(イ)a 甲2には,真空浸炭炉について記載されている(【0001】)。

甲2には,連続式の真空浸炭炉では,被処理品をトレー上に載置して各室間に貫設したローラハース上等を搬送するようにしており,従来,トレーの材質としては耐熱鋼を使用しているが,真空浸炭炉での高温処理においては,トレー自体にも急速に浸炭が行われるため,トレーに歪みを生じたり,その靭性が低下して脆くなったりするという問題があったこと(【0002】,【0003】),被処理品を載せるトレーへの浸炭を防止してその寿命を大幅に延長するために,トレーを炭素系複合材料で成形すること(【0004】,【0005】),トレーと被処理品との間に難浸炭材製のスペーサ板を介在させることにより,炭素系複合材料に含まれる炭素分が被処理品に悪影響を与えることがないこと(【0006】)が記載されている。

そして,甲2には,具体例として,トレーは,長方形の板体で,炭素系複合材料であるC/Cコンポジットにより成形され,トレー上には,トレーと同形の長方形で,SUS310のような高ニッケル鋼やニッケル基合金等の難浸炭材により構成されたスペーサ板が重ねられ,スペーサ板上には,これと同材の,難浸炭材の線材によって角型の開放箱状に成形されたバスケットが載置され,このバスケット内に被処理品が収納されること(【0009】~【0013】,図2)が記載されている。

以上のとおり,甲2には,真空浸炭炉での高温処理において,トレーへの浸炭を防止してその寿命を大幅に延長するために,トレーを炭素系複合材料で成形することが記載されているといえる。

b これに対して,甲1には,上記(ア)で指摘した事項は記載されているものの,浸炭を行うことについては,何ら記載されていない。

また,甲1においては,ライダーは,材料を山積みに積載するものであるが(【0016】,図1),このような山積みの積載状態では,実質的に浸炭を行うことができないことは,当業者にとって明らかであるから(例えば,甲3の【0002】,【0003】を参照。),山積みの積載状態で熱処理を行うことを前提とする甲1においては,浸炭を行う意図があるとはいえない。

そうすると,甲1発明においては,甲2に記載されるような問題,すなわち,被処理材料に浸炭を行う際に,連結トレイを含む搬送台にも浸炭が行われるため,連結トレイを含む搬送台に歪みを生じたり,その靭性が低下して脆くなったりするという問題を解決するという課題が存在するとはいえない。

また,そうである以上,甲2の記載によっても,甲1発明において,連結トレイを含む搬送台への浸炭を防止してその寿命を大幅に延長するために,連結トレイを含む搬送台を炭素系複合材料で成形することが,動機付けられるとはいえない。

(ウ)a 甲3には,浸炭,浸炭窒化処理,焼入れ,溶体化処理等の各種熱処理において用いられる,トレーやバスケット等の熱処理用治具について記載されている(【0001】)。

甲3には,浸炭処理において,歯車,ギヤシャフト,カムシャフト等のワークは,トレーに載置された状態で,処理炉の加熱室への搬入,加熱室から焼入室への移動,焼入室内の油槽中への急冷等が行われ,このとき,複数のワークが炉内で転倒又は移動して,ワークどうしが重なったり,トレーに接触したりすることによって,温度や浸炭層の形成にむらが生じるようなことがないように,各ワークは,ワーク形状に応じた種々の構造,形状の治具によって,トレー上に所定間隔にセッティングされること(【0002】,【0003】),このような浸炭処理用治具の素材としては,従来,ステンレス鋼や耐熱鋳鋼が用いられてきたが,ワークと共に900~950℃の浸炭性雰囲気内で加熱された後,油中に急冷されることから,このような浸炭性雰囲気に繰り返し曝され,加熱-急冷の熱応力を繰り返し受けている間に,浸炭されて脆くなるとともに,熱変形(クリープ)が進み,焼入れ時の熱衝撃によって割れが発生することがあるため,耐用寿命が短いこと(【0004】,【0005】)が記載されている。

また,甲3には,高速度工具鋼の真空焼入れのように,焼入れ温度がさらに高温(1200~1300℃)となる熱処理において使用される,インコネルのような超合金材料やMoのような高融点金属材料からなる熱処理用治具においても,熱変形に基づく上記のような問題点を解消することはできず,基本的に上記浸炭処理用治具と同様の課題を有していたこと(【0007】)が記載されている。

そして,甲3には,上記のような課題を解決するために,熱処理用治具をC/Cコンポジットから形成すること(【0009】)が記載され,また,具体例として,図1に示されるような所定の升目を有するC/Cコンポジット製の熱処理用治具(【0019】,図1)が記載されている。

以上のとおり,甲3には,浸炭以外にも,高速度工具鋼の真空焼入れ等の熱処理においても,熱処理用治具の熱変形に基づく割れの発生等の課題を解決するために,熱処理用治具をC/Cコンポジットから形成することが記載されているといえる。

b しかしながら,甲3には,本件発明1における「部品受け」に相当するものを「鋼材又はNi合金材」で構成し,同「トレイ」が有する「基部」に相当するものを「炭素複合材料」で構成することについては記載されていないから,甲3の記載によっても,甲1発明において,ライダーを高Cr耐熱鋳鋼製としたままで,連結トレイのみをC/Cコンポジットから形成することが動機付けられるとはいえない。

(エ)甲6には,C/Cコンポジットとその使用例について記載されており,耐熱分野において,各種の炉材部品,搬送用トレー,熱処理治具として使用されること(7,10,12頁)が記載されている。

しかしながら,甲6の記載によっても,甲1発明において,ライダーを高Cr耐熱鋳鋼製としたままで,連結トレイのみをC/Cコンポジットで構成することが動機付けられるとはいえない。

(オ)また,甲4,5及び7にも,甲1発明において,ライダーを高Cr耐熱鋳鋼製としたままで,連結トレイのみを炭素複合材料で構成することを動機付ける記載は見当たらない。

(カ)以上によれば,甲1発明において,連結トレイを,「高Cr耐熱鋳鋼製」に代えて,「炭素複合材料」で構成することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小括

したがって,本件発明1は,甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2~17について

本件発明2~17は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~17についても同様に,甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ

以上のとおり,本件発明1~17は,甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって,申立理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件)

(1)申立人は,本件明細書の記載(【0010】~【0013】)によれば,本件発明1は,「部品を熱処理するために部品を載せて繰り返し熱処理炉の中に投入された場合であっても,変形や割れの発生を抑制して長期間使用でき」る熱処理用トレイ部材を提供すること(課題1)と,「被熱処理部品に均一で十分な浸炭処理を可能とする」熱処理用トレイ部材を提供すること(課題2)の両方を解決すべき課題としているところ,本件明細書の記載(【0065】~【0068】)によれば,被熱処理部品と部品受けとの接触を防ぎ,かつ,隣どうしの被熱処理部品どうしが触れることを防ぐことによって,被熱処理部品の十分で均一な浸炭処理を実現できるのであり,そのためには部品受けを高い寸法精度で製造する必要があるが,本件発明1においては,部品受け部を高い寸法精度で製造するための手段が何ら反映されていないから,本件発明1は,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであると主張する。また,本件発明2~17についても,同様に主張する。

以下,検討する。

(2)ア 本件明細書の記載(【0001】~【0015】)によれば,特に,申立人も指摘する【0013】の記載のほか,以下の記載によれば,本件発明1の課題は,部品を熱処理するために部品を載せて繰り返し熱処理炉の中に投入された場合であっても,変形や割れの発生を抑制して長期間使用できる熱処理用トレイ部材を提供すること(申立人が主張する「課題1」)であると認められる。

「本発明は,さらに詳しくは,部品を熱処理するために部品を載せて繰り返し熱処理炉の中に投入された場合であっても,変形や割れの発生を抑制して長期間使用できる熱処理用トレイ部材及びそれを積層してなる熱処理用積層構造体に関する。」(【0001】)(当審注:下線は強調のために付与した。以下同様。),

「(1)本発明に係る熱処理用トレイ部材は,トレイと,該トレイに着脱可能に搭載される複数の部品受けとで構成され,被熱処理部品とともに熱処理炉に繰り返し投入される部材であって,前記トレイは,前記部品受けを所定位置に搭載できる搭載部を複数有する基部を有し,前記基部が炭素複合材料で構成されており,前記部品受けが鋼材又はNi合金材で構成されている,ことを特徴とする。」(【0014】),

「この発明によれば,(a)トレイは,従来のように部品受けとの一体構造物ではなくて別部材としたので,基部の構造を単純化することができ,従来に比べて工数削減を達成でき,製造コストを低減できる。(b)部品受けと別部材にしたトレイを構成する基部が,耐熱性があって熱変形しにくい炭素複合材料で作製されているので,トレイを長期間繰り返して熱処理炉に投入した場合であっても,変形や割れ等が発生し難いので長期間繰り返し使用することができる。(c)トレイと別部材にした部品受けは,トレイの複数の搭載部に着脱可能に搭載できるので,複雑な形状であったり,熱処理によって長期間変形し難いものでなくても,直ぐに他の予備品と交換できる。特に好ましくは,別部材としての部品受けをロストワックス法で作製すれば,低コストで精度の高いものとすることができ,複雑な形状であっても1種又は多品種の被熱処理部品を数多く一度に熱処理することができる。」(【0015】),

イ この点,申立人は,「被熱処理部品に均一で十分な浸炭処理を可能とする」熱処理用トレイ部材を提供すること(課題2)も,本件発明1の課題であると主張するが,本件明細書の上記記載(【0001】,【0015】)からみて,「被熱処理部品に均一で十分な浸炭処理を可能とする」ことは,特に好ましい場合の発明に対応する説明と解されるから,本件発明1の課題であるとはいえない。

ウ そして,本件明細書の記載(【0014】,【0015】,【0034】,【0040】,【0043】,【0046】,【0064】,【0070】,【0111】~【0115】,表1,図1~5)によれば,本件発明1の課題は,本件発明1で特定されるとおりの熱処理用トレイ部材によって,解決できることが理解できる。

以上によれば,本件発明1について,特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものである。また,本件発明2~17についても,同様である。

エ よって,申立人の主張は採用できない。

(3)したがって,申立理由2(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由3(明確性要件)

(1)ア 申立人は,本件発明12において,「枠状受け部」及び「支柱部」が果たす役割について何ら規定されていないから,その技術的意味が明確ではないと主張する。また,本件発明13~17についても,同様に主張する。

イ しかしながら,本件発明12は,本件発明1~7,9,10のいずれかを引用する本件発明11を引用するものであるところ,本件発明11においては,本件発明1における「部品受け」について,「前記トレイに着脱可能に接触する台座と,該台座に設けられて前記台座を前記トレイに保持する係止部と,前記台座上に延びる部品受け部とを有する」ことを特定した上で,本件発明12において,上記「部品受け部」について,「枠状受け部と支柱部とを有する」ことを特定したものである。

すなわち,本件発明12は,本件発明1における「部品受け」を構成する「部品受け部」が,「枠状受け部と支柱部とを有する」ことを具体的に特定するものであり,その意味は明確であるから,本件発明12は明確である。

なお,申立人が主張する役割についても念のため検討すると,「枠状受け部」が,熱処理の対象である部品を実際に受ける部分が枠状になっていることを意味し,また,「支柱部」が,支柱によって当該部品を支えるものであることを意味することが,その文言からも明らかであり,その技術的意味は明確である。

申立人の主張は,所定の部材が果たす役割が請求項に明記されていない限り,当該請求項に係る発明は不明確であるとの認識を前提とするものと解されるが,独自の見解であり,採用できない。

ウ 以上によれば,本件発明12について,特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するものである。また,本件発明13~17についても,同様である。

(2)したがって,申立理由3(明確性要件)によっては,本件特許の請求項12~17に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび

以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すことはできない。

また,他に本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。

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2021-700667

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