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特許異議申立

2025-700353

方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法

審判番号
2025-700353
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-537572外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7561194
請求日
2025年03月27日
審決日
2026年02月20日
公報発行日
2026年03月27日
結論
維持
審判長/審判官
分類
P1651.537-Y (C21D) / P1651.121-Y (C21D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7561194号発明「方向性電磁鋼板およびその磁区微細化方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7561194号の請求項1~7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7561194号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、2020年(令和 2年)12月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2019年12月20日(KR)大韓民国)を国際出願日とする出願(特願2022-537572号。以下、「本願」という。)であって、令和 6年 9月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月 3日にその特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和 7年 3月27日に、請求項1~7(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である前田 洋志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 7年 3月27日提出 特許異議申立書 同年 8月12日付け 取消理由通知書 同年11月17日提出 意見書(特許権者) 令和 8年 2月 9日提出 上申書(申立人) 第2 本件発明 本件特許の請求項1~7に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~7に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明7」といい、これらを総称して「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本願明細書」という。)。 「【請求項1】 電磁鋼板の表面に存在するグルーブ、および 前記グルーブに当接した再結晶粒と前記グルーブに当接していないその他の再結晶粒を含み、 前記グルーブに当接した再結晶粒と前記その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、 前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み、グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在することを特徴とする方向性電磁鋼板。 【請求項2】 前記グルーブ上に当接した絶縁被膜をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。 【請求項3】 前記グルーブ深さは鋼板厚さの3~15%であり、グルーブ幅は10~50μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板。 【請求項4】 冷延鋼板を準備する段階、 前記冷延鋼板を一次再結晶焼鈍する段階、 前記冷延鋼板を二次再結晶焼鈍する段階、 前記二次再結晶焼鈍過程で一次再結晶焼鈍時形成された酸化層とMgOの反応による金属酸化物被膜にレーザーを照射してグルーブを形成する段階、および 前記グルーブが形成された鋼板上に絶縁被膜を形成する段階を含み、 前記レーザー照射時、レーザーのエネルギー密度は2.5~8.0J/mm2であり、 前記レーザービームの長さは100~450μmであり、前記レーザービームの幅は10~27μmであり、 前記グルーブに当接した再結晶粒と前記グルーブに当接していないその他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、 前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み、グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在することを特徴とする方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。 【請求項5】 前記レーザー出力が500W以上であり、レーザー走査速度が5m/s以上であり、レーザー走査距離が100mm以上であることを特徴とする請求項4に記載の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。 【請求項6】 前記レーザーの波長は1.06~10.6μmであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。 【請求項7】 前記絶縁被膜を形成する段階は750~950℃の温度で熱処理する段階を含むことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の磁区微細化方法。」 第3 申立理由、取消理由の概要 1 申立理由 申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証、甲第2号証を提出し、以下の理由により、本件請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものであると主張している。 (1)申立理由1(明確性要件、取消理由として採用) 本件特許の請求項1、4には、「前記グルーブに当接した再結晶粒と前記その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10°であり」、「グルーブに当接した再結晶粒」内に「亜結晶粒界」が形成されている、という構成が記載されているが、本願明細書のいずれを見ても、このような場合における「配向度差」の測定方法は、全く記載されておらず、明らかではない。 また、本件特許の請求項1、4には、「平均配向度差」が規定されているが、本願明細書には「平均」の定義が何ら記載されておらず、その意味内容を当業者が理解できないから不明確である。 これらは、本件特許の請求項1、4を引用する請求項2、3、5~7についても同様である。 したがって、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(進歩性、取消理由として不採用) 本件発明1~3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)証拠方法 甲第1号証:特開2019-147980号公報 甲第2号証:特開2008-111152号公報 (以下、甲第1号証、甲第2号証を、それぞれ「甲1」、「甲2」という。) 2 取消理由 当合議体は、職権により、以下の取消理由1-1を通知すると共に、上記1(1)の申立理由1を採用し、以下の取消理由1-2を通知した。 (1)取消理由1-1(明確性要件) 本件特許の請求項1、4には、「グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在する」との記載があるが、「再結晶粒」は立体物であるから、その「結晶粒」の界面である「粒界」は面であり、その「長さ」とは何を定義しているのかが定かでない。 また、本願明細書【0020】の記載を考慮しても、本件特許の請求項1、4の「グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在する」の意味は判然としないから、本件発明1、4について、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。また、請求項1、4の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5~7についても同様である。 よって、本件発明1~7については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)取消理由1-2(明確性要件) 本件特許の請求項1、4には、「前記グルーブに当接した再結晶粒と前記(グルーブに当接していない)その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み」と記載されている。ここで、「平均配向度差」を算出するためには、「グルーブに当接した再結晶粒」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度」を算出する必要がある。 ここで、本願明細書の【0017】、【図2】の記載からみて、「平均配向度」はTD面での断面観察において定義されるものであることが把握されるところ、このTD面での断面観察を行う際の観察範囲が不明であるから、「平均配向度」は一意に定まらず、不明瞭である。 また、本願明細書の【0020】の記載によれば、「亜結晶粒界」は「結晶方位」について「0.5~10°の差が現れる部分」と定義されているところ、そのように再結晶粒内部に結晶方位差が存在する場合における、個々の「二次再結晶31」の「配向度」がどのように定義されるのかが判然とせず、不明瞭である。 よって、本願明細書の記載を考慮しても、本願特許の請求項1、4の「前記グルーブに当接した再結晶粒と前記(グルーブに当接していない)その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み」との記載における「平均配向度差」を算出するための、「前記グルーブに当接した再結晶粒」及び「前記(グルーブに当接していない)その他の再結晶粒」の各「平均配向度」は不明瞭であるから、本件発明1、4について、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。また、請求項1、4の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5~7についても同様である。 よって、本件発明1~7については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 当合議体の判断 当合議体は、以下に示すとおり、上記第3の申立理由1、2及び取消理由1-1、1-2によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 明確性要件(取消理由1-1)について (1)本件特許の請求項1、4には、「グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在する」との記載がある。 ここで、「亜結晶粒界」について、「10μm~700μm長さ」と記載されているから、この「亜結晶粒界」は何らかの断面により観察されるものであることが推認されるものの、請求項1、4にはその定義がなされていない。 (2)この点について、本願明細書には、以下の記載がある。なお、「…」は記載の省略を表す。以下同様。 ア「【0017】 図2は、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。 図2に示したとおり、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は表面にグルーブ20が存在し、グルーブ20下部に当接した二次再結晶31を含む。本発明の一実施形態では、この二次再結晶31の配向度を制御することによって、グルーブ20形成による磁性劣化を最少化することができる。 グルーブ20下部に当接した二次再結晶31は、その他の再結晶32と区分される。その他の二次再結晶32はグルーブ20と当接しない二次再結晶32であって、グルーブ20が形成されない表面付近に形成された二次再結晶32または鋼板内部に形成された二次再結晶32である。 … 【0019】 二次再結晶が完了した鋼板にレーザーを照射する時、グルーブ20下部にはレーザー熱による衝撃が発生し、これらのうちの一部は亜結晶粒界(sub boundary)33として形成される。グルーブ20形成以後、絶縁被膜形成工程で熱処理時、この亜結晶粒界33が成長する。 亜結晶粒界(sub-boundary)33は熱あるいは機械的応力を局部的に印加することによって同一結晶粒内で電位あるいはツイン(twin)のような格子欠陥部密度が局部的に増加して発生した結晶粒内の欠陥発生部と定義し、結晶格子が限定された領域のみで現れるため、一般的な結晶粒界(grain boundary)とは異なる。 【0020】 亜結晶粒界は、グルーブ20と当接した二次再結晶31内でグルーブ1個当り10μm~700μmの連続あるいは不連続的な長さで存在する。基準面はグルーブ20の長さ方向を切断する面であり、SEMあるいはEBSD(Electron BackScatter Diffraction)で測定した写真でグルーブ20と当接した二次再結晶31分析時、結晶粒内に位置したグルーブ20下部近所で結晶方位が0.5~10°の差が現れる部分を亜結晶粒界33と判断し、これらの長さを測定して検出することができる。 亜結晶粒界33の長さが過度に長いか短い場合、グルーブ20と当接した二次再結晶31の配向度に悪影響を与え、窮極的に磁性が劣位になる。さらに具体的に、亜結晶粒界33の長さは300~700μmであることがよい。」 イ「【実施例】 … 【0034】 …圧延垂直方向断面(TD面)でグルーブ下部に当接した再結晶31およびその他の再結晶32粒径、配向度差、亜結晶粒界長さをEBSDで測定して下記表1に整理した。」 ウ「【図2】 [図:0001433093000001.jpg] 」 (3)ここで、上記(2)アの【0020】の記載によれば、「亜結晶粒界」は「グルーブ20の長さ方向を切断する面」を「基準面」とした断面観察において定義されるものであることが把握される。 (4)また、令和 7年11月17日に特許権者から提出された意見書には、以下のとおり記載されている。 「亜結晶粒界およびその長さに対する断面は、TD面であります。 亜結晶粒界は結晶粒内に存在する欠陥発生部(TwinまたはShear band)であって、結晶格子が限定された領域のみで線状に示されるため、閉鎖曲線状で存在する結晶粒界(grain boundary)とは異なります。 したがって、線状である亜結晶粒界の長さを特定することができます。」 (5)上記(4)の意見書の記載を踏まえ、また上記(2)イに記載されるように、本願明細書の実施例においてTD面で亜結晶粒界長さを測定していることを併せ鑑みれば、「亜結晶粒界」は「TD面」で観察されるものであることは明らかである。 (6)以上によれば、本件特許の請求項1、4の「亜結晶粒界」とは、TD面で観察されるものであることが明らかであるから、本件発明1、4は明確である。また、請求項1、4の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5~7についても同様である。 よって、本件発明1~7については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、同発明に係る特許は、取消理由1-1により取り消すことはできない。 2 明確性要件(申立理由1、取消理由1-2)について (1)本件特許の請求項1、4には、「前記グルーブに当接した再結晶粒と前記(グルーブに当接していない)その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み」と記載されている。ここで、「グルーブに当接した再結晶粒」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度差」を算出するためには、「グルーブに当接した再結晶粒」の「平均配向度」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度」をそれぞれ算出する必要がある。 (2)ここで、本願明細書には、以下の記載がある。 ア「【0017】 図2は、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の断面(TD面)の模式図である。 図2に示したとおり、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は表面にグルーブ20が存在し、グルーブ20下部に当接した二次再結晶31を含む。本発明の一実施形態では、この二次再結晶31の配向度を制御することによって、グルーブ20形成による磁性劣化を最少化することができる。 グルーブ20下部に当接した二次再結晶31は、その他の再結晶32と区分される。その他の二次再結晶32はグルーブ20と当接しない二次再結晶32であって、グルーブ20が形成されない表面付近に形成された二次再結晶32または鋼板内部に形成された二次再結晶32である。」 イ「【0020】 亜結晶粒界は、グルーブ20と当接した二次再結晶31内でグルーブ1個当り10μm~700μmの連続あるいは不連続的な長さで存在する。基準面はグルーブ20の長さ方向を切断する面であり、SEMあるいはEBSD(Electron BackScatter Diffraction)で測定した写真でグルーブ20と当接した二次再結晶31分析時、結晶粒内に位置したグルーブ20下部近所で結晶方位が0.5~10°の差が現れる部分を亜結晶粒界33と判断し、これらの長さを測定して検出することができる。」 ウ「【図2】 [図:0001433093000002.jpg] 」 (3)「平均」の定義について ア 上記(2)ア、ウの記載からみて、「平均配向度」はTD面での断面観察において定義されるものであることが把握される。 イ また、このTD面での断面観察を行う範囲について、令和 7年11月17日に特許権者から提出された意見書には、以下のとおり記載されている。 「十分な面積で十分な回数を通じてEBSD分析し、鋼板全体の厚さでの再結晶を求め、このとき、グルーブ下部に当接する再結晶(31)及びその他の再結晶(32)のそれぞれの算出平均配向度を求め、これらの差異を計算して求めることができます。 図2は一つのその他の再結晶(32)のみが存在しますが、これはグルーブ下部に当接する再結晶(31)および亜結晶粒界(33)を説明するための模式的な例示であり、実際は、グルーブ下部に当接する再結晶(31)および亜結晶粒界(33)が存在しないEBSD写真とともに鋼板全体の厚さでその他の再結晶(32)の配向度を求め、これらの算出平均を求めることになります。 このような算出平均配向を求める方法は、当業者にとって自明な事項であると思料致します。」 ウ 上記イの意見書の記載を踏まえると、「平均配向度」は、図2のように「グルーブに当接した再結晶粒」(再結晶31)が2つ、「その他の再結晶粒」(再結晶32)が1つ観察される範囲において平均を算出するものではなく、EBSD分析を十分な面積で十分な回数行い、「グルーブに当接した再結晶粒」及び「その他の再結晶粒」を鋼板全体で観察して平均を算出するものであることが把握される。 そして「方向性電磁鋼板」における「グルーブに当接した再結晶粒」の「平均配向度」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度」をそれぞれ算出する際に、鋼板全体を観察して多数の「グルーブに当接した再結晶粒」の配向度と「その他の再結晶粒」の配向度をそれぞれ測定し、これらそれぞれの平均を取ることにより算出することは、当業者にとって自明な事項であるといえる。 (4)「グルーブに当接した再結晶粒」の配向度について ア 上記(2)イの記載によれば、「亜結晶粒界」は「結晶方位」について「0.5~10°の差が現れる部分」と定義されており、上記(2)ア、ウの記載から「亜結晶粒界33」は「グルーブに当接した再結晶粒」(再結晶31)内部に存在することも把握される。 ここで、「グルーブに当接した再結晶粒」の配向度について、上記(3)の「平均」を取るためには、内部に「亜結晶粒界33」が存在するものも含めた個々の再結晶31について、配向度を測定し定める必要がある。 イ この個々の「グルーブに当接した再結晶粒」の配向度の測定、特に内部に「亜結晶粒界33」が存在する個々の再結晶31の配向度の測定について、令和 7年11月17日に特許権者から提出された意見書には、以下のとおり記載されている。 「亜結晶粒界は、結晶粒内に存在する欠陥発生部であり、結晶格子が限定された領域のみで線状で示されるために、全体の再結晶(31)における配向度に与える影響は極めて少ないのであります。 したがって、線状で示される亜結晶粒界を除外し、再結晶(31)の配向図を求めることになります。」 ウ 上記イの意見書の記載を踏まえると、内部に「亜結晶粒界33」が存在する個々の再結晶31の配向度の測定において、亜結晶粒界による局所的な欠陥は、除外して測定しても差し支えない程度のものであることが把握される。 そうすると、個々の「グルーブに当接した再結晶粒」(再結晶31)の配向度を測定し定めるにあたって、内部の「亜結晶粒界33」は除外して測定し得るものであり、個々の「グルーブに当接した再結晶粒」の配向度は明確である。 (5)上申書(申立人)について ア 申立人は、令和 8年 2月 9日提出の上申書において「3.2.6 反論事項」として、「亜結晶粒界においては、その周辺領域を含めて、結晶方位が連続的に変化しているのであるから…、「亜結晶粒界を除外」するとしても、その場合、亜結晶粒界の周辺について、どの程度の領域を除外すればよいか不明である。」(主張1)、「亜結晶粒界が形成されていない部分には、結晶方位の配向度に差は存在しないのであるから…、「結晶方位」について「0.5~10°の差が現れる部分」を全て除外してしまった場合、そもそも再結晶粒(31)の「配向度」(その他の再結晶粒(32)の配向度との差)という概念は生じず、不明である。」(主張2)としたうえで、これらのことから、依然として、「再結晶粒内部に結晶方位差が存在する場合における、個々の「二次再結晶(粒)31」の「配向度」がどのように定義されるのか判然とせず、不明瞭」である」と主張している(主張3)。 イ そこで、まず上記主張1について検討すると、上記(4)イ、ウで検討したとおり、再結晶31の内部の「亜結晶粒界33」は局所的な欠陥であり、除外しても差し支えない程度のものであることが把握される。 してみれば、「結晶方位が連続的に変化している」ような局所的な欠陥部位を除いて再結晶31の配向度を求めればよいことは明確であり、上記主張1は採用することができない。 ウ 次に、上記主張2について検討すると、結晶方位について0.5~10°の差が現れる局所的な欠陥部位である亜結晶粒界33を「全て除外」したとしても、再結晶31は「再結晶粒」である以上、隣接する再結晶粒との間に結晶粒界を定義し得る結晶の配向を当然に有しており、「配向度」は明確である。 したがって、上記主張2も採用することができない。 エ 以上より、主張1、主張2のいずれも採用することができないから、これらを前提とする主張3も採用することはできない。 (6)以上によれば、本願特許の請求項1、4の「前記グルーブに当接した再結晶粒と前記(グルーブに当接していない)その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み」との記載における「グルーブに当接した再結晶粒」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度差」は明確であるから、本件発明1、4は明確である。また、請求項1、4の記載を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5~7についても同様である。 よって、本件発明1~7については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、同発明に係る特許は、申立理由1、取消理由1-2により取り消すことはできない。 3 進歩性(申立理由2)について (1)甲1に記載された事項について 本願の優先日前に公知となった甲1には、「方向性電磁鋼板の製造方法」に関して、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が強調のために付した。 ア「【請求項1】 最終仕上げ焼鈍された方向性電磁鋼板の表面にレーザ加工によって溝を形成するレーザ溝形成工程と、 前記溝が形成された前記方向性電磁鋼板を900℃以上に加熱する熱処理工程と、 を備える方向性電磁鋼板の製造方法。」 イ「【0008】 第1態様に係る方向性電磁鋼板の製造方法によれば、レーザ溝形成工程と、熱処理工程とを備える。レーザ溝形成工程では、最終仕上げ焼鈍された方向性電磁鋼板の表面にレーザ加工によって溝を形成する。これにより、方向性電磁鋼板の磁区が分割され、方向性電磁鋼板の鉄損が低減される。 【0009】 次に、熱処理工程では、表面に溝が形成された方向性電磁鋼板を900℃以上に加熱する。ここで、例えば、第1態様に係る熱処理工程を経験していない方向性電磁鋼板によって形成された巻鉄心が、巻トランスの製造工程において約800℃でひずみ取り焼鈍されると、溝に対する方向性電磁鋼板の厚み方向の中央側に亜粒界が発生する。この結果、巻鉄心(方向性電磁鋼板)の鉄損が劣化する。なお、亜粒界とは、方位差(結晶方位差)が15°以下の小角粒界(low-angle grain boundary)を意味する。 【0010】 これに対して第1態様では、熱処理工程において、方向性電磁鋼板を900℃以上に加熱する。これにより、巻トランスの製造工程において、方向性電磁鋼板によって形成された巻鉄心が約800℃でひずみ取り焼鈍されても、溝に対する方向性電磁鋼板の厚み方向の中央側に亜粒界が発生することが抑制される。この結果、巻鉄心(方向性電磁鋼板)の鉄損の劣化が抑制される。」 ウ「【0065】 (レーザ溝の加工条件) また、レーザ溝形成工程において、方向性電磁鋼板の表面に形成する溝(レーザ溝)の加工条件は、次のとおりである。 レーザビームの種類:ファイバーレーザ レーザビームの波長:1080nm レーザビームの出力:1000W レーザビームの直径:0.1×0.3mm レーザビームの走査速度:30m/s 溝の間隔(ピッチ):3mm 溝の深さ:20μm 溝の幅:50μm … 【0080】 図4A、図4B、及び図4Cには、ひずみ取り焼鈍された巻鉄心20が示されている。なお、図4A~図4Cは、巻鉄心20を構成する方向性電磁鋼板10の表面10Aの溝12と直交する断面である。 … 【0082】 図4Aは、熱処理工程の熱処理温度が800℃の方向性電磁鋼板10によって形成され、ひずみ取り焼鈍された巻鉄心20である。この図4Aでは、溝12に対する方向性電磁鋼板10の中央側の点線で囲まれた領域Kに、亜粒界14が確認された。 【0083】 次に、図4Bは、熱処理工程の熱処理温度が850℃の方向性電磁鋼板10によって形成され、ひずみ取り焼鈍された巻鉄心20である。この図4Bでも、溝12に対する方向性電磁鋼板10の中央側の点線で囲まれた領域Kに、亜粒界14が確認された。 … 【0085】 このことから、熱処理工程の熱処理温度が900℃未満(800℃、850℃)の方向性電磁鋼板10によって形成された巻鉄心20をひずみ取り焼鈍すると、溝12に対する方向性電磁鋼板10の中央側に亜粒界14が発生し、巻鉄心20の鉄損が劣化することが分かる。 【0086】 一方、図4Cは、熱処理工程の熱処理温度が900℃の方向性電磁鋼板10によって形成され、ひずみ取り焼鈍された巻鉄心20である。この図4Cでは、溝12に対する方向性電磁鋼板10の中央側の領域に、亜粒界が確認されなかった。 … 【0088】 このことから、熱処理工程の熱処理温度が900℃以上(900℃、950℃、100℃、1100℃)の方向性電磁鋼板10によって形成された巻鉄心20は、ひずみ取り焼鈍しても、溝12に対する方向性電磁鋼板10の中央側に亜粒界が発生せず、方向性電磁鋼板10の鉄損の劣化が抑制されることが分かる。つまり、溝12に対する方向性電磁鋼板10の中央側の亜粒界の有無によって、ひずみ取り焼鈍された巻鉄心20の鉄損を評価することができる。」 エ「【図4A】 [図:0001433093000003.jpg] 【図4B】 [図:0001433093000004.jpg] 【図4C】 [図:0001433093000005.jpg] 」 (2)甲1に記載された発明 上記(1)アの請求項1、上記(1)イの【0009】、上記(1)ウの【0065】、【0082】、上記(1)エの【図4A】の記載を総合すると、甲1には以下の発明が記載されているといえる。 「最終仕上げ焼鈍された方向性電磁鋼板の表面にレーザ加工によって溝を形成するレーザ溝形成工程と、 前記溝が形成された前記方向性電磁鋼板を800℃に加熱する熱処理工程と、 を備える方向性電磁鋼板の製造方法によって製造された方向性電磁鋼板であって、 溝の深さが20μm、溝の幅が50μmであり、 溝に対する中央側の領域に、方位差(結晶方位差)が15°以下の小角粒界である亜粒界が確認された、 方向性電磁鋼板。」(以下「甲1発明」という。) (3)本件発明1について ア 対比 (ア)甲1発明における「方向性電磁鋼板の表面にレーザ加工によって」「形成」された「レーザ溝」は、本件発明1の「電磁鋼板の表面に存在するグルーブ」に相当する。 (イ)甲1発明における「溝に対する中央側の領域に」「確認された」方位差(結晶方位差)が15°以下の小角粒界である亜粒界」は、粒界を形成するに至らないものの所定以下の結晶方位差が存在する領域である限りにおいて、本件発明1の「亜結晶粒界」に相当する。 (ウ)以上(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下aの点で一致し、以下bの点で相違する。 a 一致点 電磁鋼板の表面に存在するグルーブ、および亜結晶粒界を含む、方向性電磁鋼板。 b 相違点 本件発明1は、「前記グルーブに当接した再結晶粒と前記グルーブに当接していないその他の再結晶粒を含み、前記グルーブに当接した再結晶粒と前記その他の再結晶粒の平均配向度差が0.5~10゜であり、前記グルーブに当接した再結晶粒は亜結晶粒界を含み、グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さの亜結晶粒界が存在する」のに対し、甲1発明は、そのような2種の再結晶粒を含むのか不明であり、これらの平均配向度差も不明であり、「亜結晶粒界」がそのうちの「グルーブに当接した再結晶粒」に含まれ、かつ「グルーブに当接する再結晶粒一つ当たり10μm~700μm長さ」であるのかも不明である点(相違点1)。 イ 判断 (ア)上記ア(ウ)bの相違点1について検討すると、甲1発明の認定の基礎とされた甲1の図4Aから亜粒界14があることは把握することができるものの、溝12に当接した再結晶粒と溝12に当接していないその他の再結晶粒があることは把握することができない。 また、仮に、図4Aの解像度や範囲において観察できないものの、そのような2種の再結晶粒が含まれていたとしても、両者の平均配向度差については甲1には何ら記載されておらず、不明である。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 (イ)また、上記(1)ア、イの【0010】、ウの【0086】、【0088】、エの【図4C】に記載されるように、甲1の実施例においては、亜粒界14は観察されていないところ、上記(2)で甲1発明として認定した亜粒界14が観察された態様は、甲1における比較例と解される。 したがって、甲1における比較例に基づいて認定した甲1発明において、亜粒界の発生を抑制することは動機付けられるとしても、それ以外の何らかの改変を施すこと、例えば、所定の2種の再結晶粒が形成されるようにすることやその平均配向度差を調節することが動機付けられるとはいえず、甲1に触れた当業者が容易に想到し得たこととはいえない。このことは、配向度について記載される甲2の記載を考慮しても変わるものではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書(第14頁最下行~第17頁第1行)において、本件発明1の「平均配向度差」が「亜結晶粒界」の「結晶方位差」そのものを規定している蓋然性が高いとし、そのような解釈の元で、甲1発明の「亜粒界」の「結晶方位差」を適正な範囲、すなわち、「0.5~10°」の範囲にすることは、当業者が適宜行う設計的事項に過ぎない、と主張している。 しかし、本件発明1における「グルーブに当接した再結晶粒」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度差」は、上記2で述べたとおり、「グルーブに当接した再結晶粒」の「平均配向度」と「その他の再結晶粒」の「平均配向度」の差であって、「亜結晶粒界」の「結晶方位差」そのものではない。 したがって、申立人の上記主張はその前提において誤りがあるから、採用することができない。 エ 本件発明1についてのむすび 以上より、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)本件発明2、3について 本件発明2、3と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも上記(3)ア(ウ)bの相違点1と同様の相違点で相違するところ、当該相違点は、上記(3)イ、ウにて判断したのと同様の理由により、実質的な相違点であり、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3は、甲1に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)小括 以上より、本件発明1~3は、甲1に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 よって、上記第3の申立理由2によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、上記第3の申立理由1、2及び取消理由1-1、1-2のいずれによっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700353

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