特許異議申立
2021-700638
液体洗剤包装用水溶性フィルム及び液体洗剤包装体
- 審判番号
- 2021-700638
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-556037
- 登録番号
- 6809227
- 請求日
- 2021年07月06日
- 審決日
- 2022年04月15日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【権利者代理人】寺尾 茂泰
- 【異議申立人】和栗 由莉菜
- 【異議申立人】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
- 【異議申立人代理人】中村 行孝
- 【異議申立人代理人】柏 延之
- 【異議申立人代理人】砂山 麗
- 審判長/審判官
- 審判長 大島 祥吾
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 奥田 雄介
- 分類
- P1651.16 -YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.113-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J) / P1651.536-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6809227号発明「液体洗剤包装用水溶性フィルム及び液体洗剤包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6809227号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。
特許第6809227号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6809227号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)9月7日(優先権主張 平成27年9月11日、同年12月7日)を国際出願日とする出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月6日に特許異議申立人 和栗 由莉菜(以下、「特許異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー(以下、「特許異議申立人B」という。)のそれぞれより特許異議の申立て(対象請求項:いずれも請求項1ないし8)がされ、同年9月27日付けで取消理由が通知されるとともに審尋がされ、同年11月26日に特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書及び回答書が提出され、同年12月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、令和4年1月7日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、同年同月27日に特許異議申立人Bから意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和3年11月26日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、かつ、多価アルコール(X)全体に対して、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)及び融点が50℃以下である多価アルコール(X2)の合計量が70重量%以上であり、」と記載されているのを、
「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、」
に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の【0009】に記載された「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、かつ、多価アルコール(X)全体に対して、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)及び融点が50℃以下である多価アルコール(X2)の合計量が70重量%以上であり、PVA系樹脂(A)」を「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、PVA系樹脂(A)」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の【0051】に記載された「多価アルコール(X)は、少なくとも2種を併用する。」を「多価アルコール(X)は、2種を併用する。」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の【0059】を削除する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の【0063】に記載された「更に、多価アルコール(X)全体に対して、多価アルコール(X1)及び多価アルコール(X2)の合計量が70重量%以上であり、更には80重量%以上、特には87重量%以上、殊には90重量%以上、更には95重量%以上であることが好ましい。殊に好ましくは多価アルコール(X)全体が上記多価アルコール(X1)及び多価アルコール(X2)のみからなる場合である。」を「本発明においては、多価アルコール(X)全体が上記多価アルコール(X1)及び多価アルコール(X2)のみからなるものである。」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の【0117】に記載された「<実施例2~13、比較例1~2>」を「<実施例2~12、比較例1~2>」に訂正する。
(7)訂正事項7
願書に添付した明細書の【0118】の【表1】から、実施例13を削除する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「多価アルコール(X)」が「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」及び「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」以外の多価アルコールを含むことを許容していたのを「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」と「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」のみからなるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2ないし8についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし8についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2ないし8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)明細書についての訂正について
訂正事項2ないし5による明細書についての訂正は、訂正事項1により請求項1を訂正したことに伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載の整合をとるためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項6及び7による明細書についての訂正は、同じであるはずの実施例7の評価結果と実施例13の評価結果が異なり、矛盾する記載となっていたのを解消するためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2ないし7による明細書についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、特許異議申立人Bは、令和4年1月27日に提出された意見書の第3ページ第5行ないし第5ページ第20行において、訂正事項6による明細書についての訂正は、誤記の訂正にも明瞭でない記載の釈明にも該当せず、訂正要件を充足しないことは明らかであり、本件訂正は認められない旨主張する。
そこで、検討するに、本件訂正前の明細書において、同じであるはずの実施例7の評価結果と実施例13の評価結果が異なる以上、実施例7及び13の記載は矛盾するものであり、実施例7及び13の記載は明瞭でない記載であったといえ、訂正事項6による明細書についての訂正後には、その矛盾が無くなっているのであるから、訂正事項6による明細書についての訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1による請求項1ないし8についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、訂正事項2ないし7による明細書についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし7による明細書についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
さらに、訂正事項2ないし7による明細書についての訂正に係る請求項の全てについて訂正の請求は行われているから、訂正事項2ないし7による明細書についての訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1による請求項1ないし8についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし8に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足することを特徴とする液体洗剤包装用水溶性フィルム。
x≧y ・・・(1)
【請求項2】
下式(5)を満足することを特徴とする請求項1記載の液体洗剤包装用水溶性フィルム。
12≧x-y≧2 ・・・(5)
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合(x)が25重量%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の液体洗剤包装用水溶性フィルム。
【請求項4】
液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合(y)が、5~50重量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の液体洗剤包装用水溶性フィルム。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有してなることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の液体洗剤包装用水溶性フィルム。
【請求項6】
水溶性フィルムの含水率が3~15重量%であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の液体洗剤包装用水溶性フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液体洗剤包装用水溶性フィルムで、多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤が包装されてなることを特徴とする液体洗剤包装体。
【請求項8】
液体洗剤が、水に溶解又は分散させた時のpH値が6~12で、水分量が15重量%以下であることを特徴とする請求項7記載の液体洗剤包装体。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年7月6日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第1-2号証に係る日本語特許出願に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする日本語特許出願であって、本件特許の優先日後に国際公開がされた日本語特許出願(特願2018-501135号、甲第1-2号証に係る日本語特許出願)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前を優先日とする日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)ものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(甲第6-1号証又は甲第6-2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6-1号証又は甲第6-2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由A4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)という構成で特定されているにすぎない。ところで、ポリビニルアルコール系樹脂には、様々な形態の樹脂が存在する。しかし、実施例で実証されたポリビニルアルコール系樹脂(PVA)は、実施例1の「カルボキシル基変性PVA」と実施例2~4、7~10、13の「カルボキシル基変性PVA及び未変性PVAの混合物」と実施例5~6、11~12の「未変性PVA」としか記載がない。PVAの種類次第で張りなどの物性が大きく左右されることは技術常識であるから、この実施例1~13に記載以外の如何なるポリビニルアルコール系樹脂(例えば、カチオン基変性PVAなど)が水溶性フィルムの張りを損なわないためのPVAとなり得るかは、当業者が過度の試行錯誤をしなければ見出すことができないものである。従って、本件特許発明1は当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。本件特許発明1に係る請求項1の従属請求項である本件特許発明2~8もポリビニルアルコール系樹脂が特定されておらず、本件特許発明5でさえポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有してなると記載されているに過ぎない。
よって、本件特許発明1~8は、所謂実施可能要件を満たしていない。
(5)申立理由A5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)と特定されたものであるが、実施例で実証されたポリビニルアルコール系樹脂(PVA)は、実施例1の「カルボキシル基変性PVA」と実施例2~4、7~10、13の「カルボキシル基変性PVA及び未変性PVAの混合物」と実施例5~6、11~12の「未変性PVA」としか記載がないから、それら実施例以外の如何なるポリビニルアルコール系樹脂が、所望の効果を奏するか、それら実施例から拡張乃至一般化することができない。本件特許発明1に係る請求項1の従属請求項である本件特許発明2~8もポリビニルアルコール系樹脂が特定されておらず、本件特許発明5でさえポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有してなると記載されているに過ぎない。
よって、本件特許発明1~8は、所謂サポート要件を満たしていない。
(6)申立理由A6(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許発明1は、液体洗剤包装用水溶性フィルムであるところ、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%と定義している。本件特許発明7のように液体洗剤包装体であれば液体洗剤を包装することは理解できるが、フィルム自体には液体洗剤が含有されるはずがなく、液体洗剤が構成要件となっているならばフィルムと液体洗剤との関係性が明らかでないため発明の外延が不明確である。一方、液体洗剤が構成要件でないならば式(1)を満足することができず発明が不明確である。
特定濃度の液体洗剤包装用という用途限定と解するならば、フィルムが液体洗剤包装用であると用途で規定されているということであるが、フィルムと直接関係のない液体洗剤中の多価アルコールを特定しているため、発明が不明確である点で変わりがない。
また、本件特許公報の【0010】に、「液体洗剤包装体によっては、経時において包装体を形成する水溶性フィルムの張りが失われる・・・その原因は、液体洗剤中の成分、主に多価アルコールが水溶性フィルム中に移行することで、水溶性フィルムが伸張し、張りを失ってしまう・・・これに対して、本発明において、水溶性フィルム中の可塑剤に含まれる多価アルコールの含有割合を液体洗剤中の多価アルコールの含有割合よりも大きくする(特許異議申立人注記:x>y)ことにより、液体洗剤から水溶性フィルムへ多価アルコールが移行せず、逆に水溶性フィルムから液体洗剤へ多価アルコールが移行することとなり、水溶性フィルムが収縮し、水溶性フィルムの張りが維持できる」と記載されているから、本件特許発明1の「x≧y」の構成と矛盾している。
なお、本件特許発明1に係る請求項1の従属項である本件特許発明2ないし8についても同様に不明確である。
(7)証拠方法
甲第1-1号証:国際公開第2016/160116号
甲第1-2号証:特表2018-517834号公報
甲第2号証:有機化合物辞典 1985年11月1日第1刷 株式会社講談社発行 第145頁、第252~253頁、第261~262頁
甲第3号証:特開平9-272772号公報
甲第4号証:特表2013-518009号公報
甲第5号証:特開2005-179390号公報
甲第6-1号証:特願2003-417980号(特開2005-179390号)の拒絶査定不服審判の審判請求書
甲第6-2号証:特願2003-417980号(特開2005-179390号)の特許メモ
甲第6-3号証:特許第4630396号公報(特願2003-417980号)
甲第7-1号証:特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第17版〕、社団法人発明協会 2008年5月30日第17版発行;第79~83頁
甲第7-2号証:特許法概説〔第13版〕、株式会社有斐閣 1998年12月10日第13版第1刷発行;第80~84頁
甲第7-3号証:注解特許法〔第三版〕【上巻】、株式会社青林書院 平成13年7月10日第三版第3刷発行;第234~240頁
甲第8号証:三菱ケミカルホールディングスグループ2018年10月11日 日本合成工業株式会社の合併について
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書Aの記載に従った。以下、順に「甲A-1-1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年7月6日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記アないしエの点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許明細書の実施例7と実施例13とでは、PVA系樹脂フィルムの組成及び液体洗剤中の多価アルコール含有割合といった本件特許発明に規定された条件が全く同じであるにも拘わらず、実施例7で張りの評価の値が「5」であるのに対し、実施例13ではその値が「3」となり、全く異なっている。
このような違いが生ずる原因としては、同じ条件でも全く再現性がないこと、または本件特許発明に規定されていない別の条件に大きく依存するかのいずれかが考えられるが、いずれにしても、かかる事実は、これらの実験データによって、本件特許発明の構成とその課題解決(作用効果)との関係を示すものとは言えないことを示す事実としては十分である。
また、実験データを基に作用効果の有無を示す場合には、実施例・比較例においてその効果に影響を与える要素について条件を揃えられていなければならないのは当然であるところ、本件特許明細書の【0062】に、多価アルコールの合計の含有量が、本件特許発明の課題解決にも影響することが示唆されている。然るところ、本件特許明細書の【表1】に示された実施例においては、PVA系樹脂フィルム中の多価アルコールの濃度がいずれも30~40%であるのに対し、本件特許明細書の【表2】に示された比較例ではいずれも20~26重量%であり、その条件が全く揃えられていない。
したがって、これらの表から読み取れることは、せいぜいソルビトールとグリセリンの合計の配合量が30~40%の場合に、張りの評価が好適な場合があり得るという程度であり、x-yの値が0以上であることに技術的意味を見出すことは到底不可能である。
以上のことから、本件特許明細書の試験例はいずれも本件特許発明のサポートとなり得ないものであるから、本件特許発明はいずれもサポート要件に違反することが明らかである。
イ 本件特許明細書の記載では、多価アルコール(X1)と(X2)の合計量について、なぜ「70重量%以上」が好ましいと言えるのか、本件特許発明の課題解決の観点からその技術的意味は不明であり、この数値に臨界的意義が存在しないことは明らかである。
加えて、本件特許明細書の実施例に開示されているのは「x―y」が0から12という極めて限定された場合のみである。その上、本件特許明細書の実施例・比較例の記載からは、「x≧y」の式を満たす場合の全てにおいて本件特許発明の技術的課題が解決できるとは到底認識できないし、本件特許明細書に示されているのは、PVA系樹脂中の多価アルコールの濃度が30~40%であり、液体洗剤中の多価アルコールの含有量が28~30%という極めて限られた範囲での結果に過ぎないのであるから、これらの濃度が大きく変わった場合においても「x≧y」の式を満たせば本件特許発明の技術的課題が解決できるとは到底認識できない。
以上のとおり、本件特許発明に規定する上記の各種パラメータについては、本件特許明細書の実施例をもって、その数値範囲全体にまで作用効果を一般化・抽象化し得ないものである。また、そもそも、上記の各種パラメータは、「経時での水溶性フィルムの張りを損なわない」という技術的課題の解決に関し、その技術的意味は不明という他ない。
よって、本件特許発明がいずれもサポート要件違反に該当することは明らかである。
ウ 本件特許発明のPVA系フィルム中の多価アルコールの種類について、本件特許明細書の実施例・比較例において裏付けがあるのは、多価アルコールがソルビトールとグリセリンのみからなる場合のみであって、その一部を多種多様に存在する融点50℃超え80℃未満のどの多価アルコールに置き換えた場合であっても、x-yと張り評価が実施例と同様の関係を示すとは到底認識し得ない。
加えて、そもそも本件特許発明においては、上記「x」の算定において、ソルビトール及びグリセリンが同列に扱われているが、言うまでもなく、これらは融点も構造も全く異なるアルコールであり、その種類を区別することなく単純にその合計でその物性を評価することは不可能である。
以上のことから、上記「x」について、ソルビトールとグリセリンとの違いを捨象して単純に、ソルビトールとグリセリン(及び融点50℃超え80℃未満の多価アルコール)の合計として算出し、式(1)「x≧y」を充足することで本件特許発明の課題を解決できると認識し得ない。
従って、PVA系フィルムの多価アルコールの種類の点からも、本件特許発明はサポート要件を充足しないことは明らかと言える。
エ 液体洗剤中の組成物に関し、多価アルコール(Y)の含有割合のみが該液体洗剤包装用水溶性フィルムの張りに影響するとはそもそも考えられず、そのpHや他の成分の種類や割合(腐食性の強い成分であればより該液体洗剤包装用水溶性フィルムの張りに悪影響を与えると考えられる)によっても相当に影響を受けることは明らかである。
その上、多価アルコール(Y)の種類に関し、本件特許明細書の実施例・比較例は、あくまで内容物として、【0115】記載の「P&G社製の「アリエールパワージェル」に包装された液体洗剤」を用いた場合に特有の試験結果を示すものに過ぎず、これを本件特許明細書に記載の「(x≧yを満たす)多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤」の範囲にまで、一般化・抽象化し得るとは到底認められない。
したがって、液体洗剤中の多価アルコールの点からも、本件特許発明はサポート要件を充足しないことは明らかと言える。
(2)申立理由B2(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり又は上記甲第1号証に記載された発明に基づいてその優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由B3(甲第2号証-2に係る日本語特許出願に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする日本語特許出願であって、本件特許の優先日後に国際公開がされた日本語特許出願(特願2017-518467号、甲第2号証-2に係る日本語特許出願)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前を優先日とする日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)ものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)証拠方法
甲第1号証:特開昭60-235899号公報
甲第2号証:国際公開第2016/061054号
甲第2号証-2:特表2017-533304号公報
甲第3号証:Chemical Book 「ソルビトール」、https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB7183649.htm
甲第4号証:Chemical Book 「グリセロール」、https://m.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_cb5339206.htm
甲第5号証:Chemical Book 「トリメチロールプロパン」、https://m.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_cb3725999.htm
甲第6号証:特開平7-18145号公報
甲第7号証:特開2015-78378号公報
甲第8号証:特開2004-161823号公報
甲第9号証:特開2004-307598号公報
甲第10号証:東京都クリーニング生活衛生同業組合のウェブサイト、https://web.archive.org/web/20120503124438/https://www.tokyo929.or.jp/column/washing_cleaning/post_49.php(インターネットアーカイブの日付:2012年5月3日)
甲第11号証:特開昭58-87145号公報
なお、甲第11号証は令和4年1月27日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書B及び上記意見書の記載に従った。以下、順に「甲B-1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和3年9月27日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲A-1-2に係る日本語特許出願に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする日本語特許出願であって、その優先日後に国際公開がされた日本語特許出願(特願2018-501135号、甲A-1-2に係る日本語特許出願)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)ものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は申立理由A1とおおむね同旨である。
2 取消理由2(甲B-1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲B-1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は申立理由B2のうちの進歩性とおおむね同旨である。
3 取消理由3(甲第B-2-2に係る日本語特許出願に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前を優先日とする日本語特許出願であって、その優先日後に国際公開がされた日本語特許出願(特願2017-518467号、甲B-2-2に係る日本語特許出願)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその優先日前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)ものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由3は申立理由B3とおおむね同旨である。
第6 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(甲A-1-2に係る日本語特許出願に基づく拡大先願)について
(1)甲A-1-2に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された事項等
ア 甲A-1-2に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された事項
甲A-1-2に係る日本語特許出願(特願2018-501135号)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「甲A-1-2当初明細書等」という。)には、「水溶性フィルム、水溶性フィルムを用いるバケット、ならびにそれらの作製及び使用方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。
・「【請求項26】
水溶性ポリビニルアルコールと、グリセロール、ソルビトール、及びトリメチロールプロパンを含む可塑剤ブレンドとの混合物を含む、水溶性フィルムであって、
(i)前記可塑剤ブレンドが、30PHR超であり、45PHR未満の量で存在するか、または
(ii)前記可塑剤ブレンドが、約40PHR~50PHRの量で存在し、かつ個々の成分が、
22.5PHR<グリセロール<23.3PHR、
10.3PHR<ソルビトール<15.0PHR、及び
7.5PHR<トリメチロールプロパン<10.2PHRである、水溶性フィルム。
・・・(略)・・・
【請求項31】
前記水溶性ポリビニルアルコール樹脂が、アニオン性基で変性されたポリビニルアルコールを含む、請求項26~30のいずれか1項に記載の水溶性フィルム。
・・・(略)・・・
【請求項47】
請求項26~46のいずれか1項に記載のフィルムを含む、容器。
【請求項48】
前記容器の中に液体洗剤をさらに含み、前記容器が20℃のバルク水に浸漬されたとき、前記液体洗剤を少なくとも30秒間放出しない、請求項47に記載の容器。」
・「【0077】
残留水分
水溶性フィルムは、カールフィッシャー滴定によって測定される、少なくとも4重量%、例えば、約4~約10重量%の範囲内の残留含水量をさらに有し得る。」
・「【0112】
試験溶液
放出のためのパウチ試験の前にパウチに充填するための試験溶液(試料洗濯洗剤)を、以下の表1に記載する。本明細書の開示を考慮して、パウチを形成し、充填し、密封することは、十分当業者の手段の範囲内である。
【表1】
[図:0001386130000001.jpg]
」
・「【0167】
有用な組成物のpHは、約2~約12、約4~約12、約5.5~約9.5、約6~約8.5、または約6.5~約8.2であり得る。洗濯洗剤組成物は、約6~約10、約6.5~約8.5、約7~約7.5、または約8~約10のpHを有し得る。」
イ 甲A-1-2当初明細書等に記載された発明
甲A-1-2当初明細書等に記載された事項を、請求項26、31、47及び48並びに【0077】、【0112】及び【0167】に関して整理すると、甲A-1-2当初明細書等には次の発明(以下、「甲A-1-2発明」という。)が記載されていると認める。
「アニオン性基で変性されたポリビニルアルコールを含む水溶性ポリビニルアルコールと、グリセロール、ソルビトール、及びトリメチロールプロパンを含む可塑剤ブレンドとの混合物を含む、【表1】に記載されたpH約6~約10の液体洗剤をその中に含む容器用の水溶性フィルムであって、
前記可塑剤ブレンドが、
(i)前記可塑剤ブレンドが、30PHR超であり、45PHR未満の量で存在するか、または
(ii)前記可塑剤ブレンドが、約40PHR~50PHRの量で存在し、かつ個々の成分が、
22.5PHR<グリセロール<23.3PHR、
10.3PHR<ソルビトール<15.0PHR、及び
7.5PHR<トリメチロールプロパン<10.2PHRであり、
約4~約10重量%の範囲内の残留含水量をさらに有する水溶性フィルム。」(当審注:【表1】については上記ア参照。)
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲A-1-2発明を対比する。
甲A-1-2発明における「アニオン性基で変性されたポリビニルアルコールを含む水溶性ポリビニルアルコール」は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」に相当する。
甲A-1-2発明における「グリセロール」は本件特許発明1における「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」に相当する。
甲A-1-2発明における「ソルビトール」は本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」に相当する。
甲A-1-2発明における「トリメチロールプロパン」は、甲A-2によると、融点は59℃であり、本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」及び「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」の何れにも相当しない。
甲A-1-2発明における「グリセロール、ソルビトール、及びトリメチロールプロパンを含む可塑剤ブレンド」は本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」と、「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」という限りにおいて一致する。
甲A-1-2発明における「【表1】に記載されたpH約6~約10の液体洗剤」は多価アルコールであるプロピレングリコール及びジエチレングリコールを含有し、甲A-1-2発明における「容器」は内容物を包装する包装体といえるから、甲A-1-2発明における「【表1】に記載されたpH約6~約10の液体洗剤をその中に含む容器用の水溶性フィルム」は本件特許発明1における「多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルム」に相当する。
甲A-1-2発明における「【表1】に記載されたpH約6~約10の液体洗剤」は、プロピレングリコール及びジエチレングリコールをそれぞれ9.52重量%含むことから、多価アルコールの含有割合は19.04重量%となるが、甲A-1-2発明においては「(i)前記可塑剤ブレンドが、30PHR超であり、45PHR未満の量で存在するか、または(ii)前記可塑剤ブレンドが、約40PHR~50PHRの量で存在」するから、甲A-1-2発明は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに下記式(1)を満足する」(当審注:下記式(1)は「x≧y」である。以下、「x≧y」の摘記を省略することがある。)という条件を満足する。
したがって、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、かつ、ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する液体洗剤包装用水溶性フィルム。
x≧y ・・・(1)」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点A-1-2-1>
「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」に関して、本件特許発明1においては「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり」と特定されているのに対し、甲A-1-2発明においては「グリセロール、ソルビトール、及びトリメチロールプロパンを含む可塑剤ブレンド」と特定されている点。
そこで、検討するに、相違点A-1-2-1は実質的な相違点である。
また、甲A-1-2発明の「可塑剤ブレンド」において、「トリメチロールプロパン」は必須の成分であるから、「トリメチロールプロパン」を除いて、「グリセロール」と「ソルビトール」のみからなるようにすることは課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないので、両者は実質同一であるともいえない。
したがって、両者は同一であるとはいえない。
なお、特許異議申立人Bは、令和4年1月27日に提出された意見書の第6ページ末行ないし第7ページ第19行において、甲A-1-2の請求項49で「水溶性ポリビニルアルコール、可塑剤、ブロッキング防止充填剤、及び放出調整剤の混合物を含む、水溶性フィルム」と可塑剤が抽象的に記載されていること、請求項1で「水溶性ポリビニルアルコールと、グリセロール、ソルビトール、及び2-メチル-1,3-プロパンジオールを含む可塑剤ブレンドとの混合物を含む水溶性フィルム」と記載されていることから、甲A-1-2に開示された発明は、トリメチロールプロパンを用いることを必須の解決手段とするものではなく、トリメチロールプロパンを含まない態様が実質的に記載されており、本件特許発明1と甲A-1-2に開示された発明は実質的に同一の発明である旨主張する。
そこで、検討するに、上記請求項49及び請求項1には、「グリセロール」と「ソルビトール」のみからなるとは記載されていない。そもそも、上記請求項49及び請求項1は、甲A-1-2発明の認定の根拠となった記載ではない。
したがって、本件特許発明1と甲A-1-2発明が実質的に同一の発明であるとはいえず、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
なお、そもそも、特許異議申立人Bは、特許異議申立書Bにおいて、甲A-1-2に基づく理由を主張しておらず、上記主張は特許異議申立書Bに記載された特許異議の申立ての理由に対して、実質的に新たな内容を含むものであると認められるので、採用できない。
(3)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A-1-2発明と同一であるとはいえない。
(4)本件特許発明7及び8について
本件特許発明7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A-1-2当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
(5)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、取消理由1によっては取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲B-1に基づく進歩性)について
(1)甲B-1に記載された事項等
ア 甲B-1に記載された事項
甲B-1には、「洗剤添加剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「[実施例]
以下に実施例を示し、本発明の洗剤添加剤の組成および製法を説明する。
実施例1
C14~C15オキソアルコール+エチレンオキシド7モル1.35kgを抑泡シリコーン油0.077kgと加熱しながら混合した。1,2-プロピレングリコール0.483kg、グリセリン0.483kgおよびオレイル/セチルアルコール+エチレンオキシド2モル0.133kgを生成混合物に加え、続いて60℃に加熱した。均一化の後、ポリエチレングリコール(分子量約4000)0.720kgを固形で加え、混合物に溶解した。次いで、エチレンジアミンテトラメチレンホスホネートのヘキサナトリウム塩0.315kgを50重量%水溶液の形態で加えた。テトラデシルトリメチルアンモニウムプロマイド0.483kg、テトラアセチルエチレンジアミン1.253kg、高分散シリカ0.238kgおよび硫酸ナトリウム1.463kgを溶解ディスクによって液体混合物中に懸濁し、生成懸濁液を歯付コロイドミルで湿潤破砕した。30~35℃に冷却した後、密度1.29g/ccおよび粘度(DIN 114に従って、コントラブズ回転式粘度計により)65,000mPas(剪断勾配D=5.6/秒)または6200mPas(剪断勾配D=500/秒)を有するペーストを得た。
このペースト35.9gを厚さ65μmのバッグ(エッジ長7.5×7.5cm)に導入した。バッグはポリビニルアルコール(分子量約10,000、加水分解度88%)71重量%、グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%、水残部からなっていた。バッグは熱封止によって封止した。
製造したバッグについて溶解挙動および洗浄性向上を求めた。
溶解挙動を試験するため、バッグを布とともに自動洗濯機(ミーレ・デラックス W433)に導入し、30℃で洗濯し、5分、10分および15分後に、洗剤添加剤のいずれかの残留物が洗濯液に接触する洗濯機の部分に存在するかを確認した。この試験を25回繰り返した。残留物は19例において5分後のみにおいて見られず、24例において合計15分後に見られなかった。洗濯添加剤は全ての例において完全に溶解した。」(第5ページ右下欄第6行ないし第6ページ右上欄第10行)
・「実施例2
更にソルビトール0.720kgを含有するか、高分散シリカまたは硫酸ナトリウムを含有しない以外は実施例1と同様の活性成分のペーストを製造した。実施例1の湿潤破砕工程は実施しなかった。」(第5ページ左下欄第6ないし11行)
イ 甲B-1に記載された発明
甲B-1に記載された事項を、特に実施例1及び2に関して整理すると、甲B-1には次の発明(以下、順に「甲B-1実施例1発明」及び「甲B-1実施例2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B-1実施例1発明>
「ポリビニルアルコール(分子量約10,000、加水分解度88%)71重量%、グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%、水残部からなるものであって、C14~C15オキソアルコール+エチレンオキシド7モル1.35kgを抑泡シリコーン油0.077kgと加熱しながら混合し、1,2-プロピレングリコール0.483kg、グリセリン0.483kgおよびオレイル/セチルアルコール+エチレンオキシド2モル0.133kgを生成混合物に加え、続いて60℃に加熱し、均一化の後、ポリエチレングリコール(分子量約4000)0.720kgを固形で加え、混合物に溶解し、次いで、エチレンジアミンテトラメチレンホスホネートのヘキサナトリウム塩0.315kgを50重量%水溶液の形態で加え、テトラデシルトリメチルアンモニウムプロマイド0.483kg、テトラアセチルエチレンジアミン1.253kg、高分散シリカ0.238kgおよび硫酸ナトリウム1.463kgを溶解ディスクによって液体混合物中に懸濁し、生成懸濁液を歯付コロイドミルで湿潤破砕し、30~35℃に冷却した後、得たペースト35.9gが導入される厚さ65μmのバッグを構成するもの。」
<甲B-1実施例2発明>
「甲B-1実施例1発明において、更にソルビトール0.720kgを含有するか、高分散シリカまたは硫酸ナトリウムを含有しない以外は甲B-1実施例1発明のペーストと同様の活性成分のペーストを用い、湿潤破砕工程は実施しなかったもの。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲B-1実施例1発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲B-1実施例1発明を対比する。
甲B-1実施例1発明における「ポリビニルアルコール(分子量約10,000、加水分解度88%)71重量%」は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」に相当する。
甲B-1実施例1発明における「グリセリン6重量%」は本件特許発明1における「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」に相当する。
甲B-1実施例1発明における「トリメチロールプロパン6重量%」は、甲B-5によると、融点は56-58℃であり、本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」及び「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」の何れにも相当しない。
甲B-1実施例1発明における「ソルビトール7.5重量%」は本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」に相当する。
甲B-1実施例1発明における「グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%」は本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」と、「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」という限りにおいて一致する。
甲B-1実施例1発明における「C14~C15オキソアルコール+エチレンオキシド7モル1.35kgを抑泡シリコーン油0.077kgと加熱しながら混合し、1,2-プロピレングリコール0.483kg、グリセリン0.483kgおよびオレイル/セチルアルコール+エチレンオキシド2モル0.133kgを生成混合物に加え、続いて60℃に加熱し、均一化の後、ポリエチレングリコール(分子量約4000)0.720kgを固形で加え、混合物に溶解し、次いで、エチレンジアミンテトラメチレンホスホネートのヘキサナトリウム塩0.315kgを50重量%水溶液の形態で加え、テトラデシルトリメチルアンモニウムプロマイド0.483kg、テトラアセチルエチレンジアミン1.253kg、高分散シリカ0.238kgおよび硫酸ナトリウム1.463kgを溶解ディスクによって液体混合物中に懸濁し、生成懸濁液を歯付コロイドミルで湿潤破砕し、30~35℃に冷却した後、得たペースト」は、多価アルコールである1,2-プロピレングリコールとグリセリンを含有することから、本件特許発明1における「多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤」に相当する。
甲B-1実施例1発明における「ポリビニルアルコール(分子量約10,000、加水分解度88%)71重量%、グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%、水残部からなるもの」は、「厚さ65μmのバッグを構成するもの」であり、溶解挙動の試験を25回繰り返し、残留物は19例において5分後のみにおいて見られず、24例において合計15分後に見られなかったものであるから、本件特許発明1における「水溶性フィルム」に相当する。
甲B-1実施例1発明における「ポリビニルアルコール(分子量約10,000、加水分解度88%)71重量%、グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%、水残部からなるものであって、C14~C15オキソアルコール+エチレンオキシド7モル1.35kgを抑泡シリコーン油0.077kgと加熱しながら混合し、1,2-プロピレングリコール0.483kg、グリセリン0.483kgおよびオレイル/セチルアルコール+エチレンオキシド2モル0.133kgを生成混合物に加え、続いて60℃に加熱し、均一化の後、ポリエチレングリコール(分子量約4000)0.720kgを固形で加え、混合物に溶解し、次いで、エチレンジアミンテトラメチレンホスホネートのヘキサナトリウム塩0.315kgを50重量%水溶液の形態で加え、テトラデシルトリメチルアンモニウムプロマイド0.483kg、テトラアセチルエチレンジアミン1.253kg、高分散シリカ0.238kgおよび硫酸ナトリウム1.463kgを溶解ディスクによって液体混合物中に懸濁し、生成懸濁液を歯付コロイドミルで湿潤破砕し、30~35℃に冷却した後、得たペースト35.9g」は、1,2-プロピレングリコール及びグリセリンの合計の含有割合が13.2(=(0.483+0.483)÷(1.35+0.077+0.483+0.133+0.720+0.315×2+0.483+1.253+0.238+1.463)×100=0.966÷7.313×100)重量%となるが、「グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%」の「ポリビニルアルコール(分子量約10,000、加水分解度88%)71重量%」に対する含有割合は27.5(=(6+6+7.5)÷71×100)重量%となり、13.2重量%より大きいことから、甲B-1実施例1発明は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに下記式(1)を満足する」という条件を満足する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、かつ、ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する液体洗剤包装用水溶性フィルム。
x≧y ・・・(1)」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B-1-1>
「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」に関して、本件特許発明1においては「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり」と特定されているのに対し、甲B-1実施例1発明においては「グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%」と特定されている点。
(イ)判断
そこで、検討する。
甲B―1実施例1発明において、「トリメチロールプロパン」は必須の成分であるし、甲B-1実施例1発明において、「トリメチロールプロパン」を除いて、「グリセリン」と「ソルビトール」のみからなるようにすることの動機付けとなる記載は甲B-1を含め他の証拠にも記載されていないから、甲B-1実施例1発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点B-1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「優れた水溶性を有するとともに、液体洗剤を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る」(本件特許明細書の【0012】)という効果は甲B-1実施例1発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
なお、特許異議申立人Bは、令和4年1月27日に提出された意見書の第8ページ第10行ないし第10ページ第16行において、甲B-1で引用される甲B-11の記載から、甲B-1に記載のグリセリン、トリメチロールプロパン及びソルビトールのうち、ソルビトールは必須の構成成分として位置付けられているのに対し、トリメチロールプロパンについては必須の成分と位置付けられている訳ではないことが理解でき、また、本件特許明細書の実施例は極めて信憑性に乏しく、本件特許発明に基づく顕著な作用効果は、本件特許明細書によって示されているとはいえないことから、多価アルコールの種類をソルビトール及びグリセリンの2成分のみとする明確な動機付けがある旨主張する。
そこで、検討するに、甲B-1には、「グリセロール」と「ソルビトール」のみからなるようにすることを示す記載はないし、仮に、本件特許明細書の実施例の信憑性が乏しく、本件特許明細書に本件特許発明1の作用効果が示されているといえないとしても、そのことと動機付けの有無とは全く関係がないから、甲B-1実施例1発明において、多価アルコールの種類をソルビトール及びグリセリンの2成分のみとする動機付けがあるとはいえない。
したがって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
イ 甲B-1実施例2発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲B-1実施例2発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲B-1実施例1発明と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、かつ、ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する液体洗剤包装用水溶性フィルム。
x≧y ・・・(1)」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B-1-2>
「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」に関して、本件特許発明1においては「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり」と特定されているのに対し、甲B-1実施例2発明においては「グリセリン6重量%、トリメチロールプロパン6重量%、ソルビトール7.5重量%」と特定され、さらに「ソルビトール0.720kgを含有する」ことが選択肢として特定されている点。
(イ)判断
相違点B-1-2の判断は、相違点B-1-1の判断と同じである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲B-1実施例1発明又は甲B-1実施例2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲B-1実施例1発明又は甲B-1実施例2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明7及び8について
本件特許発明7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲B-1に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲B-1に基づく特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、取消理由2によっては取り消すことはできない。
3 取消理由3(甲B-2-2に係る日本語特許出願に基づく拡大先願)について
(1)甲B-2-2に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された事項等
ア 甲B-2-2に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された事項
甲B-2-2に係る日本語特許出願(特願2017-518467号)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「甲B-2-2当初明細書等」という。)には、「可塑剤のブレンドを含んだ水溶性ポリビニルアルコールフィルムを含む物品、及び関連する方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
物品であって、
a.水溶性フィルムであって、
ポリビニルアルコール(PVOH)ポリマーと、
第1の可塑剤としてのジプロピレングリコールと、
第2の可塑剤としての糖アルコールと、
前記第1の可塑剤及び前記第2の可塑剤と異なる第3の可塑剤としてのポリオールと、を含む、水溶性フィルムと、
b.家庭用ケア組成物と、を含み、好ましくは前記家庭用ケア組成物が前記水溶性フィルムと接触する、物品。
【請求項2】
前記糖アルコールが、イソマルト、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、アドニトール、ズルシトール、ペンタエリスリトール、及びマンニトールからなる群から選択され、好ましくは前記糖アルコールがソルビトールである、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記ポリオールが、グリセリン、ジグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、及びポリエーテルポリオールからなる群から選択され、好ましくは前記ポリマーがグリセリンである、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項4】
前記水溶性フィルムが、
前記ポリビニルアルコール(PVOH)ポリマーと、
前記第1の可塑剤としてのジプロピレングリコールと、
前記第2の可塑剤としてのソルビトールと、
前記第3の可塑剤としてのグリセリンと、を含み、
前記水溶性フィルム中において、前記第1、第2、及び第3の可塑剤が、前記水溶性フィルム中の全樹脂100部に対し(phr)、約5部~約50部の範囲の全可塑剤の合計量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の物品。」
・「【0064】
水溶性フィルムは、カールフィッシャー滴定法により測定した場合に、少なくとも4重量%、例えば、又は約4~約10重量%の範囲の残留含水量を更に有してもよい。」
・「【実施例】
【0144】
実施例1:可塑剤のブレンドシリーズ1
実施例1は、PVOHホモポリマーのブレンドと、グリセリン、ソルビトール、及び一連の異なるポリオール可塑剤から選択される1つを含む3種類の異なる可塑剤とに基づいた一連の水溶性フィルムを表す。PVOHホモポリマーのブレンドは、13cPの4%溶液粘度を有する第1の部分加水分解PVOHホモポリマーと、23cPの4%溶液粘度を有する第2の部分加水分解PVOHホモポリマーとの50重量%/50重量%のブレンドである。各フィルムは、(i)それぞれのPVOHホモポリマー樹脂(樹脂100重量部に対し(phr)、100重量部)、(ii)グリセリン可塑剤(21.7phr)、(iii)ソルビトール可塑剤(5.7phr)、(iv)ポリオール可塑剤(11phr)、(v)加工デンプン充填剤(約2~4phr)、(vi)界面活性剤及び他の加工助剤(約5~7phr)、並びに(vii)残部の水を含んでいた。ポリオール可塑剤は、プロピレングリコール(PG)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(2M-1,3-PD)、ジエチレングリコール(DEG)、トリメチロールプロパン(TMP)、ジプロピレングリコール(DPG)、トリエチレングリコール(TEG)、又はジグリセリン(DG)を変えて用いた。可塑剤の総添加量は38.4phrであった。前述の水性組成物を流延して76.2±3.8μm(又は3.0±0.15ミル)のフィルム試料を形成し、これらのフィルム試料を、上記の方法により、それらのATS値及びSST値について試験した。表1に、実施例1のポリオール可塑剤のモル体積(MVol;ml/mol)を含む、フィルム特性をまとめて示す。
【0145】
【表1】
[図:0001386130000002.jpg]
」
・「【0160】
実施例6:例示的組成物
表6~14に、本明細書に述べられる物品を構成することができる例示的な組成物を示す。例えば、非限定的な例であることを意図した以下の組成物は、本明細書に述べられる水溶性フィルム、例えばパウチ内に封入することができる。」
・「【0165】
液体洗濯用洗剤は、表8に示される成分を含むことができる。
【0166】
【表8】
[図:0001386130000003.jpg]
1好ましいLASは、直鎖構造中に約9~約15個の炭素原子を有するアルキル基も含む。」
イ 甲B-2-2当初明細書等に記載された発明
甲B-2-2当初明細書等に記載された事項を、実施例1のフィルム4に関して整理すると、甲B-2-2当初明細書等には次の発明(以下、「甲B-2-2発明」という。)が記載されていると認める。
「(i)それぞれのPVOHホモポリマー樹脂(樹脂100重量部に対し(phr)、100重量部)、(ii)グリセリン可塑剤(21.7phr)、(iii)ソルビトール可塑剤(5.7phr)、(iv)トリメチロールプロパン(11phr)、(v)加工デンプン充填剤(約2~4phr)、(vi)界面活性剤及び他の加工助剤(約5~7phr)、並びに(vii)残部の水を含んでいる水溶性フィルムであって、該水溶性フィルムのパウチ内に【表8】に示される成分を含むpH約6~約10の液体洗濯用洗剤HないしMを封入するための約4~約10重量%の範囲の残留含水量を有する液体洗濯用洗剤封入用水溶性フィルム。」(当審注:「それぞれのPVOHホモポリマー樹脂」及び【表8】については、上記ア参照。)
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲B-2-2発明を対比する。
甲B-2-2発明における「(i)それぞれのPVOHホモポリマー樹脂」は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」に相当する。
甲B-2-2発明における「(ii)グリセリン可塑剤(21.7phr)」は本件特許発明1における「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」に相当する。
甲B-2-2発明における「(iii)ソルビトール可塑剤(5.7phr)」は本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」に相当する。
甲B-2-2発明における「(iv)トリメチロールプロパン(11phr)」は、甲B-5によると、融点は56-58℃であり、本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)」及び「融点が50℃以下である多価アルコール(X2)」の何れにも相当しない。
甲B-2-2発明における「(ii)グリセリン可塑剤(21.7phr)、(iii)ソルビトール可塑剤(5.7phr)、(iv)トリメチロールプロパン(11phr)」は本件特許発明1における「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」と、「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」という限りにおいて一致する。
甲B-2-2発明における「【表8】に示される成分を含むpH約6~約10の液体洗濯用洗剤HないしM」は多価アルコールであるグリセロールと1,2プロパンジオールを含有し、甲B-2-2発明における「パウチ」は内容物を包装するものといえるから、甲B-2-2発明における「該水溶性フィルムのパウチ内に【表8】に示される成分を含むpH約6~約10の液体洗濯用洗剤HないしMを封入するための約4~約10重量%の範囲の残留含水量を有する液体洗濯用洗剤封入用水溶性フィルム」は本件特許発明1における「多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルム」に相当する。
甲B-2-2発明における「【表8】に示される成分を含むpH約6~約10の液体洗濯用洗剤HないしM」は、グリセロール及び1,2プロパンジオールの合計の含有割合が、「液体洗濯用洗剤H」は19重量%、「液体洗濯用洗剤I」は19重量%、「液体洗濯用洗剤J」は22重量%、「液体洗濯用洗剤K」は0.6重量%、「液体洗濯用洗剤L」は17.8重量%、「液体洗濯用洗剤M」は17.8重量%となるが、「(ii)グリセリン可塑剤(21.7phr)」、「(iii)ソルビトール可塑剤(5.7phr)」及び「(iv)トリメチロールプロパン(11phr)」の合計含有量は38.4phr、すなわち38.4重量%となり、「【表8】に示される成分を含むpH約6~約10の液体洗濯用洗剤」のグリセロール及び1,2プロパンジオールの合計の含有割合より大きいことから、甲B-2-2発明は本件特許発明1における「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに下記式(1)を満足する」という条件を満足する。
したがって、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり、かつ、ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する液体洗剤包装用水溶性フィルム。
x≧y ・・・(1)」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点B-2-2-1>
「融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)を含有し、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからな」る「多価アルコール(X)」に関して、本件特許発明1においては「上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなり」と特定されているのに対し、甲B-2-2発明においては「(ii)グリセリン可塑剤(21.7phr)、(iii)ソルビトール可塑剤(5.7phr)、(iv)トリメチロールプロパン(11phr)」である点。
そこで、検討するに、相違点B-2-2-1は実質的な相違点である。
また、甲B-2-2発明において、「トリメチロールプロパン」は必須の成分であるから、「トリメチロールプロパン」を除いて、「グリセリン可塑剤」と「ソルビトール可塑剤」のみからなるようにすることは課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえないので、両者は実質同一であるともいえない。
したがって、両者は同一であるとはいえない。
なお、特許異議申立人Bは、令和4年1月27日に提出された意見書の第11ページ第7ないし17行において、本件特許明細書の実施例は極めて信憑性に乏しく、本件特許発明に基づく顕著な作用効果は、本件特許明細書によって示されているとはいえず、そうである以上、多価アルコール(可塑剤)としてグリセロール、ソルビトールのみを用いるか、或いはトリメチロールプロパンなど他の多価アルコール(可塑剤)を配合するか否かは、単なる周知技術、慣用技術の付加、削除、転換に過ぎず、新たな効果を奏するものではないので、両発明は実質的に同一の発明である旨主張する。
そこで、検討するに、仮に、本件特許明細書の実施例の信憑性が乏しく、本件特許明細書に本件特許発明1の作用効果が示されているといえないとしても、そのことと「多価アルコール(可塑剤)としてグリセロール、ソルビトールのみを用いるか、或いはトリメチロールプロパンなど他の多価アルコール(可塑剤)を配合するか否か」が「周知技術、慣用技術の付加、削除、転換」に当たるかどうかとは全く関係がない。
したがって、本件特許発明1と甲B-2-2発明が実質的に同一の発明であるとはいえず、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲B-2-2発明と同一であるとはいえない。
(4)本件特許発明7及び8について
本件特許発明7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲B-2-2当初明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。
(5)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、取消理由3によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議の申立ての理由は、申立理由A2(甲A-3に基づく進歩性)、申立理由A3(甲A-6-1又は甲A-6-2に基づく進歩性)、申立理由A4(実施可能要件)、申立理由A5(サポート要件)、申立理由A6(明確性要件)、申立理由B1(サポート要件)及び申立理由B2(甲B-1に基づく新規性・進歩性)のうちの新規性の理由である。
以下、検討する。
1 申立理由A2(甲A-3に基づく進歩性)について
(1)甲A-3に記載された事項等
ア 甲A-3に記載された事項
甲A-3には、「ホウ酸系物質包装用フィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0017】本発明に使用するホウ酸系物質とは、ホウ酸を含有している薬剤であればよく、PVAと反応してゲル状物質を形成するホウ素化合物をいい、ホウ酸、ホウ酸エステル、ホウ砂などが挙げられる。具体例としては、ホウ酸を含有している農薬、洗剤、台所などで使用する腐敗防止剤、殺菌剤、トイレの消臭剤などが挙げられる。これらの物質は粉末状、顆粒状、球状や錠剤などの固体状であっても、場合によっては液状であってもよい。」
・「【0022】実施例1
重合度1750、けん化度88モル%のPVA100部に、ソルビトール1モルに対しエチレンオキシド2モルを付加反応して得られた化合物15部を配合した組成物の水溶液を作成し、70℃の熱ロールへ流延し、厚さ40μmのフィルムを得た。ホウ酸系物質として、モデル物質として、ホウ酸10部と珪藻土90部をブレンドした粉体を用いた。この薬剤をフィルムで包装後、40℃の恒温器で1ヶ月放置した。放置前後のフィルムの水溶性および残存可塑剤量を測定した。結果を表1に示す。本発明のフィルムは、ホウ酸を含有する物質を包装後、40℃で1ヶ月放置した後でも、水溶性が非常に優れており、可塑剤移行性も非常に小さく、柔軟でタフネスのある物性を保持していた。またフィルム表面への可塑剤のブリードアウトもなく、フィルムは透明であった。
【0023】比較例1
実施例1で用いたPVA100部に、可塑剤としてグリセリン15部を用い、40μmのフィルムを作成し、実施例1と同様にしてホウ酸系物質のモデル物質を包装後、40℃で1ヶ月放置した。放置前後のフィルムの水溶性および可塑剤量を測定した。結果を表1に示す。放置後は、フィルムが水に全く溶解せず、ゲル化が進行していた。また可塑剤移行性が非常に大きく硬く脆いフィルムに変化していた。
【0024】比較例2
実施例1で用いたPVA100部に、可塑剤としてグリセリン15部およびソルビトール10部を用い、40μmのフィルムを作成した。このフィルムは実施例1のフィルムと比較して、コシがなく、強度の小さなものであった。実施例1と同様にして、ホウ酸系物質のモデル物質を包装後、40℃で1ヶ月放置し、フィルムの水溶性および可塑剤量を測定した。結果を表1に示す。放置後のフィルムは、水に溶解するが、溶解速度がかなり低下しており、放置後のフィルムはソルビトールがフィルムの表面に移行して結晶化して白い濁ったフィルムなっていた。また比較例1と同様にフィルムに残存する可塑剤量が小さく、硬く脆いフィルムになっていた。
【0025】実施例2
酢酸ビニルと無水マレイン酸をメタノール溶媒中で共重合し、常法によりけん化反応を行い、重合度1200、けん化度96モル%、マレイン酸基からなる共重合体単位の含有量4モル%のカルボン酸ナトリウム塩基変性PVAを得た。この変性PVA100部に、ソルビトール1モルに対しエチレンオキシド3モルを付加反応して得られた化合物25部を配合した組成物の水溶液を作成し、70℃の熱ロールへ流延し、厚さ40μmのフィルムを得た。界面活性剤、珪酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウムおよびホウ酸の成分からなる食器用洗剤をホウ酸系物質のモデル物質として使用し、上記試験法に従って、この薬剤を包装後、40℃の恒温器で1ヶ月放置した。放置前後のフィルムの水溶性および残存可塑剤量を測定した。結果を表1に示す。薬剤を包装し放置後もフィルムの水溶性は全く落ちず良好であった。
【0026】比較例3
実施例2で用いたPVA100部に、可塑剤としてグリセリン25部およびソルビトール8部を用い、40μmのフィルムを作成した。このフィルムは実施例2のフィルムと比較して強度の小さいものであった。実施例2と同様にしてホウ酸系物質のモデル物質を包装後、40℃で1ヶ月間放置し、放置前後のフィルムの水溶性および残存可塑剤量を測定した。結果を表1に示す。放置後のフィルムは水には溶解するが、溶解速度はかなり低下しており、放置後のフィルムはソルビトールがフィルムの表面に移行して結晶化して白い濁ったフィルムなっていた。」
イ 甲A-3に記載された発明
甲A-3に記載された事項を、特に【0017】並びに比較例2及び3に関して整理すると、甲A-3には次の発明(以下、順に「甲A-3比較例2発明」及び「甲A-3比較例3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A-3比較例2発明>
「重合度1750、けん化度88モル%のPVA100部に、可塑剤としてグリセリン15部およびソルビトール10部を用いて作成したホウ酸10部と珪藻土90部をブレンドした粉体洗剤を包装するための40μmのフィルム。」
<甲A-3比較例3発明>
「酢酸ビニルと無水マレイン酸をメタノール溶媒中で共重合し、常法によりけん化反応を行い、得た、重合度1200、けん化度96モル%、マレイン酸基からなる共重合体単位の含有量4モル%のカルボン酸ナトリウム塩基変性PVA100部に、可塑剤としてグリセリン25部およびソルビトール8部を用いて作成したホウ酸10部と珪藻土90部をブレンドした粉体洗剤を包装するための40μmのフィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲A-3比較例2発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲A-3比較例2発明を対比すると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなる洗剤包装用水溶性フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A-3-1>
「洗剤」に関して、本件特許発明1においては「多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤」であると特定され、さらに「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する」と特定されているのに対し、甲A-3比較例2発明においては「粉体洗剤」であると特定されている点。
(イ)判断
そこで、検討するに、甲A-3の【0017】の「場合によっては液状であってもよい。」という記載は比較例2に当てはまるものではないから、甲A-3には、比較例2から認定した甲A-3比較例2発明における「粉体洗剤」を「液体洗剤」とする動機付けとなる記載があるとはいえないし、まして、「多価アルコール(Y)を含有する」ことや「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する」ことの動機付けとなる記載があるとはいえないし、他の証拠にも、そのような記載はない。
したがって、甲A-3比較例2発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A-3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「優れた水溶性を有するとともに、液体洗剤を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る」という効果は甲A-3比較例2発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
なお、特許異議申立人Aは、令和4年1月7日に提出された意見書の第4ページ第19行ないし第8ページ第26行において、甲A-4において、【請求項14】の「可塑剤」の構成を甲A-3にように多価アルコールとしてプロピレングリコールを用いずにグリセリンとソルビトールとのみにする程度のことは当業者が適宜行う最適材料の選択に過ぎず、甲A-4の「可塑剤」の構成をグリセリンとソルビトールにし、収容される組成物の多価アルコールの含有量は甲A-4の【0116】の値にして、甲A-3の発明に転用する程度のことは、当業者が適宜行う最適化に過ぎない旨主張(主張1)し、また、課題及び効果の点からも、甲A-3及び甲A-4の発明を組み合わせることは当業者が容易に想到できることであり、効果は甲A-3の発明でも当然奏する効果である旨主張(主張2)する。
そこで、検討する。
A 主張1について
主張1は、甲A-4において、【請求項14】の「可塑剤」の構成を甲A-3に記載された事項を適用してグリセリンとソルビトールとのみにし、収容される組成物の多価アルコールの含有量は甲A-4の【0116】の値とすることを当業者が適宜行う最適材料の選択として容易とした上で、その結果物を甲A-3に転用することは当業者が適宜行う最適化で容易というものであるから、いわゆる容易の容易の主張であり、主張1は採用できない。
B 主張2について
主張2は、甲A-3と甲A-4の課題が共通するとしても、上記Aのとおり、容易の容易であることには変わりはないし、甲A-3比較例2発明は、相違点A-3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有していないから、本件特許発明1の効果を当然奏するとはいえないので、主張2も採用できない。
C まとめ
したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。
イ 甲A-3比較例3発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲A-3比較例3発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲A-3比較例2発明と同様の相当関係が成り立つ。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなる洗剤包装用水溶性フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A-3-2>
「洗剤」に関して、本件特許発明1においては「多価アルコール(Y)を含有する液体洗剤」であると特定され、さらに「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する」と特定されているのに対し、甲A-3比較例3発明においては「粉体洗剤」であると特定されている点。
(イ)判断
相違点A-3-2の判断は、相違点A-3-1の判断と同じである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲A-3比較例2発明又は甲A-3比較例3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A-3比較例2発明又は甲A-3比較例3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明7及び8について
本件特許発明7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A-3に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由A2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲A-3に基づく特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、申立理由A2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由A3(甲A-6-1又は甲A-6-2に基づく進歩性)について
(1)甲A-6-1、甲A-6-2及び甲A-5に記載された事項等
ア 甲A-6-1に記載された事項
甲A-6-1には、おおむね次の事項が記載されている。
・「例えば、実施例1におけるグリセリン(B1)25重量部とトリメチロールプロパン(B2)12重量部との組み合わせを、グリセリン25重量部とソルビトール12重量部との組み合わせに変更した場合、得られた水溶性フィルムには、亜硫酸ソーダやソルビトールの析出が観察され、外観の良好なフィルムが得られませんでした。かかる結果からも、本願発明における特定可塑剤の2種(B1、B2)組み合わせに特徴があることが充分に理解できます。」(第5ページ末行ないし第6ページ第5行)
イ 甲A-6-2に記載された事項
甲A-6-2には、おおむね次の事項が記載されている。
・「審判請求書「(4)(4-3)iii)」及び「(5)(5-3)」に記載された「例えば、実施例1におけるグリセリン(B1)25重量部とトリメチロールプロパン(B2)12重量部との組み合わせを、グリセリン25重量部とソルビトール12重量部との組み合わせに変更した場合、得られた水溶性フィルムには、亜硫酸ソーダやソルビトールの析出が観察され、外観の良好なフィルムが得られませんでした」なる主張は、当初明細書の記載内容と異なるものであるが、参考文献には、(B1)グリセリン、(B2)ジグリセリン、トリメチロールプロパン、(C)亜硫酸アルカリ金属塩を特定比率とすることは具体的製造例として開示されておらず、一方、本願発明はそれにより顕著な効果を発揮するものである。」
ウ 甲A-5に記載された事項
甲A-5には、「水溶性フィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0071】
(実施例1)
4%水溶液粘度22.0mPa・s(20℃)、平均ケン化度97.2モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A)100部に、可塑剤(B)としてグリセリン25部及びトリメチロールプロパン12部、亜硫酸ソーダ(C)1.0部、界面活性剤(D)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩2部、及び水を加え、固形分濃度30%樹脂組成物の水分散液を得た。
得られた樹脂組成物の水分散液(80℃、脱泡済み)を、80~90℃に加熱したホットプレート上に流延し、その後80~90℃で、1分間乾燥して、厚さ76μmのPVA系フィルムを得た(亜硫酸ソーダ/可塑剤総量=0.03)。
得られたPVA系フィルムの着色を上記のように測定したところ、初期のb値は0.13であった。又、上記のように20℃の水に対する溶解性を測定したところ、23秒であった。
【0072】
(薬剤実包装テスト)
得られたPVA系フィルムを、12cm×10cmのサイズにカットした後、ヒートシーラーを用いて二方向をシールして袋(6cm×10cmのサイズ)を作製し、かかる袋に、pH9.0、水分量1.5%の液体洗浄剤(主成分:高級脂肪酸、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)を30g収納し、更に残りの一辺をヒートシールしてパケット状の薬剤包装体(6cm×10cmのサイズ)を作製した。」
エ 甲A-6-1に記載された発明
甲A-6-1は、甲A-5に係る特許出願の拒絶査定不服審判の審判請求書であり、甲A-6-1の「実施例1」とは甲A-5の実施例1のことであるから、甲A―5の実施例1に関する記載を踏まえて、甲A-6-1に記載された事項を整理すると、甲A-6-1には次の発明(以下、「甲A-6-1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A-6-1発明>
「4%水溶液粘度22.0mPa・s(20℃)、平均ケン化度97.2モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A)100部に、可塑剤(B)としてグリセリン25部及びソルビトール12部、亜硫酸ソーダ(C)1.0部、界面活性剤(D)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩2部、及び水を加え、固形分濃度30%樹脂組成物の水分散液を得、得られた樹脂組成物の水分散液(80℃、脱泡済み)を、80~90℃に加熱したホットプレート上に流延し、その後80~90℃で、1分間乾燥して、得たpH9.0、水分量1.5%の液体洗浄剤(主成分:高級脂肪酸、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)の包装用フィルム。」
オ 甲A-6-2に記載された発明
甲A-6-2は、甲A-5に係る特許出願の特許メモであり、甲A-6-2の「実施例1」とは甲A-5の実施例1のことであるから、甲A―5の実施例1に関する記載を踏まえて、甲A-6-2に記載された事項を整理すると、甲A-6-2には次の発明(以下、「甲A-6-2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A-6-2発明>
「4%水溶液粘度22.0mPa・s(20℃)、平均ケン化度97.2モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A)100部に、可塑剤(B)としてグリセリン25部及びソルビトール12部、亜硫酸ソーダ(C)1.0部、界面活性剤(D)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩2部、及び水を加え、固形分濃度30%樹脂組成物の水分散液を得、得られた樹脂組成物の水分散液(80℃、脱泡済み)を、80~90℃に加熱したホットプレート上に流延し、その後80~90℃で、1分間乾燥して、得たpH9.0、水分量1.5%の液体洗浄剤(主成分:高級脂肪酸、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)の包装用フィルム。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲A-6-1発明との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲A-6-1発明を対比する。
両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び多価アルコール(X)を含有してなる、液体洗剤の包装用水溶性フィルムであって、上記多価アルコール(X)が、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)と融点が50℃以下である多価アルコール(X2)のみからなり、上記多価アルコール(X1)がソルビトールのみからなり、上記多価アルコール(X2)がグリセリンのみからなる洗剤包装用水溶性フィルム。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A-6-1-1>
「液体洗剤」に関して、本件特許発明1においては「多価アルコール(Y)を含有する」と特定され、さらに「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する」と特定されているのに対し、甲A-6-1発明においてはそのようには特定されていない点。
(イ)判断
そこで、検討する。
甲A-6-1には、甲A-6-1発明において、「液体洗浄剤」を「多価アルコール(Y)を含有する」ものにし、その上で「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、下式(1)を満足する」ようにすることの動機付けとなる記載はないし、他の証拠にも、そのような記載はない。
したがって、甲A-6-1発明において、他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A-6-1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「優れた水溶性を有するとともに、液体洗剤を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る」という効果は甲A-6-1発明及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるといえる。
イ 甲A-6-2発明との対比・判断
甲A-6-2発明と甲A-6-1発明は同じであるから、本件特許発明1と甲A-6-2発明との対比・判断も本件特許発明1と甲A-6-1発明との対比・判断と同じである。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲A-6-1発明又は甲A-6-2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A-6-1発明又は甲A-6-2発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明7及び8について
本件特許発明7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲A-6-1に記載された発明又は甲A-6-2に記載された発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由A3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲A-6-1又は甲A-6-2に基づく特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、申立理由A3によっては取り消すことはできない。
3 申立理由A4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし8は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載されており、また、本件特許発明1の実施例1ないし12に係る液体洗剤包装用水溶性フィルムの作製方法及び該フィルムを用いた液体洗剤包装体の作製方法も具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、本件特許発明2ないし8についても同様であり、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2ないし8を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
(3)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの上記第4 1(4)の主張について検討する。
上記のとおり、本件特許の発明の詳細な説明に、本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載されており、また、本件特許発明1の実施例1ないし12に係る液体洗剤包装用水溶性フィルムの作製方法及び該フィルムを用いた液体洗剤包装体の作製方法も具体的に記載されている以上、ポリビニルアルコール系樹脂に様々な形態の樹脂が存在するとしても、発明の詳細な説明の記載を参考にすれば、実施例1ないし12以外にどのようなポリビニルアルコール系樹脂を用いればいいかは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく見出せるといえる。
したがって、特許異議申立人Aの上記第4 1(4)の主張は採用できない。
(4)申立理由A4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当しないので、申立理由A4によっては、取り消すことはできない。
4 申立理由A5(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
(3)判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】の記載によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題は「液体洗剤を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る液体洗剤包装用水溶性フィルム」を提供することであり、本件特許発明7及び8の解決しようとする課題は「前記水溶性フィルムで液体洗剤が包装されてなる液体洗剤包装体」を提供すること(以下、総称して「発明の課題」という。)である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0010】には「液体洗剤包装体によっては、経時において包装体を形成する水溶性フィルムの張りが失われるものがある。その原因は、液体洗剤中の成分、主に多価アルコールが水溶性フィルム中に移行することで、水溶性フィルムが伸長し、張りを失ってしまうことにあると考えたものであり、これに対して、本発明において、水溶性フィルム中の可塑剤に含まれる多価アルコールの含有割合を液体洗剤中の多価アルコールの含有割合よりも大きくすることにより、液体洗剤から水溶性フィルムへ多価アルコールが移行せず、逆に水溶性フィルムから液体洗剤へ多価アルコールが移行することとなり、水溶性フィルムが収縮し、水溶性フィルムの張りが維持できるものと推察される。」と記載され、【0111】ないし【0120】には「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、x≧yを満足する」実施例1ないし12のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、「x≧y」を満足しない比較例1及び2のポリビニルアルコール系樹脂フィルムよりも、張り評価が良好であることが示されている。
そうすると、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、x≧yを満足する」「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」は発明の課題を解決できると当業者は認識することができる。
そして、本件特許発明1は上記「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし8についても同様である。
したがって、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの上記第4 1(5)の主張について検討する。
上記のとおり、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、x≧yを満足する」「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」であれば、液体洗剤から水溶性フィルムへ多価アルコールが移行せず、水溶性フィルムの張りが維持できると推察され、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
すなわち、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」がどのようなものかは発明の課題の解決とは関係がない。
したがって、特許異議申立人Aの上記第4 1(5)の主張は採用できない。
(5)申立理由A5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当するものであるとはいえないので、申立理由A5によっては取り消すことはできない。
5 申立理由A6(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
(3)判断
本件特許の請求項1の記載は、それ自体不明確なものではないし、発明の詳細な説明の【0010】の「本発明において、水溶性フィルム中の可塑剤に含まれる多価アルコールの含有割合を液体洗剤中の多価アルコールの含有割合よりも大きくする」という記載及び【0118】の【表1】の実施例11に関する記載(水溶性フィルム中の可塑剤に含まれる多価アルコールの含有割合xと液体洗剤中の多価アルコールの含有割合yが等しくなっている。)とも整合する。
したがって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし8についても同様であり、本件特許発明2ないし8に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(4)特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの上記第4 1(6)の主張について検討する。
本件特許の請求項1の記載からみて、本件特許発明1が特定濃度の液体洗剤包装用という用途限定が付された発明であり、包装される液体洗剤と直接的な関係があることは明らかである。
また、本件特許の請求項1の「x≧y」という記載と発明の詳細な説明の【0010】の「本発明において、水溶性フィルム中の可塑剤に含まれる多価アルコールの含有割合を液体洗剤中の多価アルコールの含有割合よりも大きくする」という記載は、前者が「x=y」を含み、後者は含まないという点で、内容が一致しないものの、上記のとおり、発明の詳細な説明の【0118】の【表1】の実施例11は水溶性フィルム中の可塑剤に含まれる多価アルコールの含有割合xと液体洗剤中の多価アルコールの含有割合yが等しくなっているから、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載が矛盾しているとはいえない。
したがって、特許異議申立人Aの上記第4 1(6)の主張は採用できない。
(5)申立理由A6についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当するものであるとはいえないので、申立理由A6によっては取り消すことはできない。
6 申立理由B1(サポート要件)について
(1)判断
上記4(3)のとおり、本件特許発明1ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(2)特許異議申立人Bの主張について
特許異議申立人Bの上記第4 2(1)の主張について検討する。
本件訂正により、明細書から実施例13に関する記載は削除され、また、請求項1から「多価アルコール(X)全体に対して、融点が80℃以上である多価アルコール(X1)及び融点が50℃以下である多価アルコール(X2)の合計量が70重量%以上であり」という記載が削除されたので、削除された記載に基づくサポート要件違反の理由は理由がない。
また、上記4(3)のとおり、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する多価アルコール(X)の含有割合をx重量%とし、液体洗剤中の多価アルコール(Y)の含有割合をy重量%としたときに、x≧yを満足する」「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」であれば、液体洗剤から水溶性フィルムへ多価アルコールが移行せず、水溶性フィルムの張りが維持できると推察され、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
すなわち、「ソルビトール」と「グリセリン」の合計の配合量、「ソルビトール」と「グリセリン」の違い及び液体洗剤の違いは発明の課題の解決とは関係がない。
したがって、特許異議申立人Bの上記第4 2(1)の主張は採用できない。
(3)申立理由B1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当するものであるとはいえないので、申立理由B1によっては取り消すことはできない。
7 申立理由B2(甲B-1に基づく新規性・進歩性)のうちの新規性について
(1)本件特許発明1について
上記第6 2(2)ア(ア)のとおり、本件特許発明1と甲B-1実施例1発明の間には相違点B-1-1があり、上記第6 2(2)イ(ア)のとおり、本件特許発明1と甲B-1実施例2発明の間には相違点B-1-2があるから、本件特許発明1は甲B-1実施例1発明又は甲B-1実施例2発明であるとはいえない。
(2)本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、本件特許発明1は甲B-1実施例1発明又は甲B-1実施例2発明であるとはいえない。
(3)本件特許発明7及び8について
本件特許発明7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様の理由で、甲B-1に記載された発明であるとはいえない。
(4)申立理由B2のうちの新規性についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、申立理由B2のうちの新規性によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、取消理由、特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書Aに記載した申立ての理由及び特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書Bに記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700638