特許異議申立
2021-700602
固定子積層鉄心の製造方法及び固定子積層鉄心
- 審判番号
- 2021-700602
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-138428
- 登録番号
- 6805093
- 請求日
- 2021年06月23日
- 審決日
- 2022年03月17日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社三井ハイテック
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】石坂 泰紀
- 【権利者代理人】松澤 寿昭
- 【異議申立人】鈴木 憲治
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 田合 弘幸
- 審判官 佐々木 芳枝
- 分類
- P1651.113-YAA(H02K) / P1651.121-YAA(H02K) / P1651.537-YAA(H02K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6805093号発明「固定子積層鉄心の製造方法及び固定子積層鉄心」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6805093号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~2,8~13,16~18〕,〔14~15〕について訂正することを認める。
特許第6805093号の請求項2~13,16~18に係る特許を維持する。
特許第6805093号の請求項1,14~15に係る特許についての特許異議の申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6805093号の請求項1~15に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,平成29年7月14日(優先権主張:平成29年2月13日)に特許出願され,令和2年12月7日にその特許権の設定登録がされ,同年12月23日に特許掲載公報が発行された。本件特許についての本件特許異議の申立ての経緯は,次のとおりである。
令和3年 6月23日 : 特許異議申立人 鈴木 憲治(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年 9月29日付け: 取消理由通知書
令和3年11月12日 : 特許権者 株式会社三井ハイテック(以下「特許権者」という。)による訂正請求書及び意見書の提出
なお,令和3年11月19日付けで通知書(訂正請求があった旨の通知)を特許異議申立人に送付し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,当該期間中に特許異議申立人からは何ら応答がなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年11月12日提出の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は,特許第6805093号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1-1
本件訂正前の請求項1を削除する。
(2)訂正事項1-2
本件訂正前の請求項2に,
「 前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程を含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成する,請求項1に記載の方法。」
とあるのを,
「 複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成する,固定子積層鉄心の製造方法。」
に訂正する。
(3)訂正事項1-3
本件訂正前の請求項8に,
「・・・請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されているのを,
「・・・請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。」
に訂正する。(請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9~13も同様に訂正する。)
(4)訂正事項1-4
本件訂正前の請求項9に,
「・・・請求項2~8のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されているのを,
「・・・請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。」
に訂正する。(請求項9の記載を直接又は間接的に引用する請求項10~13も同様に訂正する。)
(5)訂正事項1-5
本件訂正前の請求項10に,
「・・・請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されているのを,
「・・・請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。」
に訂正する。(請求項10の記載を直接又は間接的に引用する請求項12及び13も同様に訂正する。)
(6)訂正事項1-6
本件訂正前の請求項11に,
「第1及び第2の位置決め部材」
と記載されているのを,
「第1及び第2の位置決め治具」
に訂正する。(請求項11の記載を直接又は間接的に引用する請求項13も同様に訂正する。)
(7)訂正事項1-7
本件訂正前の請求項11に,
「・・・請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されているのを,
「・・・請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。」
に訂正する。(請求項11の記載を直接又は間接的に引用する請求項13も同様に訂正する。)
(8)訂正事項1-8
本件訂正前の請求項12に,
「・・・請求項2~10のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されているのを,
「・・・請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。」
に訂正する。(請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)
(9)訂正事項1-9
本件訂正前の請求項13に,
「・・・請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されているのを,
「・・・請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。」
に訂正する。
(10)訂正事項1-10
本件訂正前の請求項10に,
「 前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材と前記積層体との間に電圧を印加して,前記樹脂部の絶縁性を検査する検査工程をさらに含む,請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。」
とあるうち,本件訂正前の請求項2を引用するものについて,
「 複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材と前記積層体との間に電圧を印加して,前記樹脂部の絶縁性を検査する検査工程を含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成する,固定子積層鉄心の製造方法。」
と訂正し,新たに請求項16とする。
(11)訂正事項1-11
本件訂正前の請求項11に,
「 前記中子部材挿入工程では,上方から見たときに前記スロットと略同等の大きさの外形を有する第1及び第2の位置決め部材を,複数の前記スロットのうちの第1及び第2のスロット内にそれぞれ挿入することにより,前記積層体を水平方向において位置決めしつつ,残余のスロット内に前記中子部材を挿入し,
前記樹脂部形成工程の後に,
前記第1及び第2のスロット内から前記第1及び第2の位置決め治具を抜去して,前記第1及び第2のスロット内に前記中子部材をそれぞれ挿入することと,
前記第1のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間,及び,前記第2のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成することとを行う,請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。」
とあるうち,本件訂正前の請求項2を引用するものについて,
「 複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記中子部材挿入工程では,上方から見たときに前記スロットと略同等の大きさの外形を有する第1及び第2の位置決め治具を,複数の前記スロットのうちの第1及び第2のスロット内にそれぞれ挿入することにより,前記積層体を水平方向において位置決めしつつ,残余のスロット内に前記中子部材を挿入し,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成し,
前記樹脂部形成工程の後に,
前記第1及び第2のスロット内から前記第1及び第2の位置決め治具を抜去して,前記第1及び第2のスロット内に前記中子部材をそれぞれ挿入することと,
前記第1のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間,及び,前記第2のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成することとを行う,固定子積層鉄心の製造方法。」
と訂正し,新たに請求項17とする。
(12)訂正事項1-12
本件訂正前の請求項13に,
「 前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記周方向に沿って並び且つ前記ヨーク部の内側に配置する拡径部材配置工程と,
前記拡径部材配置工程の後に,前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記各拡径部材の外周面を前記ティース部の内周面に当接させることにより,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する拡径工程とをさらに含む,請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。」
とあるうち,本件訂正前の請求項1を引用するものについて,
「 複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間であるスロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記周方向に沿って並び且つ前記ヨーク部の内側に配置する拡径部材配置工程と,
前記拡径部材配置工程の後に,前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記各拡径部材の外周面を前記ティース部の内周面に当接させることにより,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する拡径工程とを含む,固定子積層鉄心の製造方法。」
と訂正し,新たに請求項18とする。
(13)訂正事項2-1
本件訂正前の請求項14を削除する。
(14)訂正事項2-2
本件訂正前の請求項15を削除する。
2 訂正の適否について
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は,本件訂正前の請求項1を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は,本件訂正前の請求項2について,本件訂正前の請求項1と重複する記載を削除し,かつ,本件訂正前の請求項1との引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めるとともに,本件訂正前の請求項2における「中子部材挿入工程」について,「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており」との事項を付加して限定する訂正であるから,明瞭でない記載の釈明,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること,及び特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3には,「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており」との記載があるから,訂正事項1-2は,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)訂正事項1-3~1-5について
訂正事項1-3~1-5は,本件訂正前の請求項8~10について,本件訂正前の請求項2の引用を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(4)訂正事項1-6について
訂正事項1-6は,本件訂正前の請求項11に「第1及び第2の位置決め部材」と記載されているのを,「第1及び第2の位置決め治具」にする訂正である。
本件訂正前の請求項11には,積層体の位置決めのために積層体のスロット内への挿入と抜去が行われる部材に関して,「第1及び第2の位置決め部材」と「第1及び第2の位置決め治具」という異なる用語が用いられており,用語が統一されていないため,これらの用語に誤りがあることが把握できる。
本件特許の明細書には,積層体の位置決めのために積層体のスロット内への挿入と抜去が行われる部材に関して,「位置決め部材500」(段落【0246】~【0250】)と記載されているが,この「位置決め部材500」に対応する部材について,段落【0044】及び【0094】では,「位置決め治具」と記載されている。
すると,本件補正前の請求項11における「第1及び第2の位置決め部材」は,それ自体で,又は本件特許の明細書の記載との関係で,誤りであることが明らかであり,「第1及び第2の位置決め治具」を意味するものと認めることができる。したがって,訂正事項1-6は,誤記の訂正を目的とする訂正である。
また,願書に最初に添付した明細書にも,積層体の位置決めのために積層体のスロット内への挿入と抜去が行われる部材に関して,本件特許の明細書と同様に記載されている(段落【0044】,【0094】及び【0246】~【0250】)から,訂正事項1-6は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また,上記のとおり,本件訂正前の請求項11における「第1及び第2の位置決め部材」との記載は,それ自体で,又は本件特許の明細書の記載との関係で,誤りであることが明らかであり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面の記載から,正しい記載が「第1及び第2の位置決め治具」であることが自明な事項として定まるから,訂正事項1-6は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5)訂正事項1-7及び1-8について
訂正事項1-7及び1-8は,本件訂正前の請求項11及び12について,本件訂正前の請求項2の引用を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(6)訂正事項1-9について
訂正事項1-9は,本件訂正前の請求項13について,本件訂正前の請求項1及び2の引用を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(7)訂正事項1-10について
訂正事項1-10は,本件訂正前の請求項10のうち本件訂正前の請求項2を直接引用するものについて,本件訂正前の請求項1と重複する記載を削除し,かつ,本件訂正前の請求項1及び2との引用関係を解消して独立形式の請求項へ改める訂正であるから,明瞭でない記載の釈明,及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(8)訂正事項1-11について
訂正事項1-11は,本件訂正前の請求項11のうち本件訂正前の請求項2を直接引用するものについて,本件訂正前の請求項1と重複する記載を削除し,かつ,本件訂正前の請求項1及び2との引用関係を解消して独立形式の請求項へ改める訂正であるから,明瞭でない記載の釈明,及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(9)訂正事項1-12について
訂正事項1-12は,本件訂正前の請求項13のうち本件訂正前の請求項1を直接引用するものについて,本件訂正前の請求項1との引用関係を解消して独立形式の請求項へ改める訂正であるから,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(10)訂正事項2-1及び2-2について
訂正事項2-1及び2-2は,本件訂正前の請求項14及び15を削除する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり,本件特許の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものに該当しないことは明らかである。
(11)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては,本件訂正前の全ての請求項についてされているから,本件訂正について,特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(12)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~2,8~13は,請求項1と,直接又は間接的に請求項1を引用する請求項2,8~13からなるものであって,訂正事項1-1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,本件訂正前の請求項1~2,8~13に対応する本件訂正後の請求項〔1~2,8~13,16~18〕は,特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
本件訂正前の請求項14~15は,請求項14と,請求項14を引用する請求項15からなるものであって,訂正事項2-1によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。したがって,本件訂正前の請求項14~15に対応する本件訂正後の請求項〔14~15〕は,特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
さらに,特許権者から,本件訂正後の請求項〔1~2,8~13,16~18〕について,当該請求項についての訂正が認められる場合,又は本件訂正後の請求項〔14~15〕について,当該請求項についての訂正が認められる場合には,一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として扱われることの求めがあった。
3 小括
以上のとおりであるから,本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第4号に掲げる事項を目的とするものであって,同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1~2,8~13,16~18〕,〔14~15〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1~18に係る発明は,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って,「本件特許発明1」などという。
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成する,固定子積層鉄心の製造方法。
【請求項3】
複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含む積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して,前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置している,固定子積層鉄心の製造方法。
【請求項4】
前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,前記積層体をその積層方向から一対の挟持プレートで挟み込む挟持工程をさらに含み,
前記一対の挟持プレートには,前記充填空間に対向する領域に,前記充填空間と連通する補助空間が設けられており,
前記樹脂部形成工程では,前記充填空間及び前記補助空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成する,請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,一対の挟持プレートと共に又は前記一対の挟持プレートに代えて,前記積層体をその積層方向から上型及び下型で挟み込む挟持工程をさらに含み,
前記中子部材は,前記挟持プレート,前記上型又は前記下型と一体化されている,請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記中子部材挿入工程では,前記積層体が載置された搬送部材が,前記中子部材が上方に向けて突出するように設けられたベース部材上に積み重ねられることにより,前記搬送部材に載置されている前記積層体の前記スロット内にそれぞれ前記中子部材が挿入される,請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記搬送部材には,複数の位置決めピンが前記搬送部材の表面から上方に向けて突出するように設けられており,
前記積層体の外周面には,前記積層体の積層方向において延びる複数の凹溝が形成されており,
前記中子部材挿入工程において,前記積層体が前記搬送部材上に載置されるときに,前記各位置決めピンがそれぞれ,対応する前記各凹溝と係合することにより,前記積層体が前記搬送部材に対して位置決めされる,請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記中子部材の熱膨張率は前記積層体の熱膨張率よりも高い,請求項3~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材に設けられた流路に冷媒を流通させることにより,前記中子部材を前記スロット内から抜去する抜去工程をさらに含む,請求項3~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材と前記積層体との間に電圧を印加して,前記樹脂部の絶縁性を検査する検査工程をさらに含む,請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記中子部材挿入工程では,上方から見たときに前記スロットと略同等の大きさの外形を有する第1及び第2の位置決め治具を,複数の前記スロットのうちの第1及び第2のスロット内にそれぞれ挿入することにより,前記積層体を水平方向において位置決めしつつ,残余のスロット内に前記中子部材を挿入し,
前記樹脂部形成工程の後に,
前記第1及び第2のスロット内から前記第1及び第2の位置決め治具を抜去して,前記第1及び第2のスロット内に前記中子部材をそれぞれ挿入することと,
前記第1のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間,及び,前記第2のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成することとを行う,請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂部形成工程で前記充填空間に充填される溶融状態の樹脂は異方性フィラーを含有している,請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記周方向に沿って並び且つ前記ヨーク部の内側に配置する拡径部材配置工程と,
前記拡径部材配置工程の後に,前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記各拡径部材の外周面を前記ティース部の内周面に当接させることにより,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する拡径工程とをさらに含む,請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(削除)
【請求項15】
(削除)
【請求項16】
複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材と前記積層体との間に電圧を印加して,前記樹脂部の絶縁性を検査する検査工程を含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成する,固定子積層鉄心の製造方法。
【請求項17】
複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記中子部材挿入工程では,上方から見たときに前記スロットと略同等の大きさの外形を有する第1及び第2の位置決め治具を,複数の前記スロットのうちの第1及び第2のスロット内にそれぞれ挿入することにより,前記積層体を水平方向において位置決めしつつ,残余のスロット内に前記中子部材を挿入し,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成し,
前記樹脂部形成工程の後に,
前記第1及び第2のスロット内から前記第1及び第2の位置決め治具を抜去して,前記第1及び第2のスロット内に前記中子部材をそれぞれ挿入することと,
前記第1のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間,及び,前記第2のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成することとを行う,固定子積層鉄心の製造方法。
【請求項18】
複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間であるスロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記周方向に沿って並び且つ前記ヨーク部の内側に配置する拡径部材配置工程と,
前記拡径部材配置工程の後に,前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記各拡径部材の外周面を前記ティース部の内周面に当接させることにより,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する拡径工程とを含む,固定子積層鉄心の製造方法。
第4 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。
1 取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1~2,14に係る発明は,本件特許に係る出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された甲第3号証に記載された発明であって,特許法第29条第1項第3号に該当するから,その発明に係る特許は,特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~2,8~9,12,14~15に係る発明は,本件特許に係る出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された甲第3号証に記載された発明,及び甲第5号証,甲第6号証,甲第8号証に示される周知技術に基いて,本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,その発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 取消理由3(明確性)
本件特許は,特許請求の範囲の請求項11,13の記載が,「前記第1及び第2の位置決め治具」が何を指し示すのかが不明な点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
甲号証一覧:
甲第3号証 特開2003-324913号公報
甲第1号証 特開2015-73406号公報
甲第2号証 特開平7-222413号公報
甲第5号証 特開昭61-150638号公報
甲第6号証 特許第3400031号公報
甲第8号証 特開2016-37581号公報
(以下,各甲号証を証拠番号に従って,「甲3」などという。)
第5 甲号証の記載事項
1 甲3
(1)本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲3(特開2003-324913号公報)には,図面とともに,以下の事項が記載されている(下線は,理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)。
ア 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ステータ等のコアにマグネットコイルを巻付けて構成される回転電機(モータ及びジェネレータを含む)における,上記コイルを絶縁する絶縁部材を備えたコアの製造方法及び該製造方法にて製造されたコアに係り,詳しくは合成樹脂により一体成形されたコア絶縁部材及びそのモールドによる成形方法に関する。」
イ 「【0038】上記ステータコア20は,環状のヨーク21と,該ヨークから内径方向に等間隔で多数突出するティース22とを一体に形成して有しており,これら多数のティースの間で,開口部23aが内部より狭い多数のスロット23が形成されている。前記ティース22は,その幅方向の中心線がステータコア20の中心点に向うように延びていると共に,その両側が中心線と平行に延びており,従ってティース22は,同一幅からなり,かつ上記スロット23は,開口部分(入口)23aから奥側に向って幅方向が広くなっている。また,該スロットの開口部23aは,狭くなるようにティース先端22aが膨出しており,これらスロットにコイルを装着した後,スロットウェッジ26(図7(c)等参照)を上記開口部23aに差込み,コイルをスロット内に固定する。
【0039】上記ステータコア20は,ケイ素鋼板等の多数の薄鋼板(厚さ約0.2[mm])からなり,プレスにより所定形状に打抜いた該薄鋼板を所定数積層して,カシメ,溶接又はクランパにより固定されて形成される。本ステータコア20は,ハイブリッド車用駆動装置に適用して好適であり,大径からなると共に,上記ティース22及びスロット23は,72個等の多数個形成されている。
【0040】該スロット23の両側面23b,23b及び底面23c並びにコアの両端面20a,20aには,一体成形された電気絶縁部材25が装着されている。即ち,絶縁部材25は,電気絶縁性の合成樹脂により一体成形されており,スロット23部分に接合するスロット部25a及びコア端面20a部分,即ちティース22の側端面及びヨーク21の側端面の内径部分に接合する端面部25bを有する。詳しくは,図2に示すように,絶縁部材スロット部25aは,開口部23aを含めてスロット23の略々全面を覆うように構成され,また端面部25aは,ティース22の先端部22aを含めて該ティースの側面の略々全面を覆うと共に,ヨークの外周部分21aを一部露出する長さからなる。
【0041】そして,上記絶縁部材25は,ステータコア20を金型の一部として射出成形により成形される。図3は,上記射出成形装置の各金型をセットした状態を示す概略側断面図であり,前記ステータコア20を受け入れる可動金型30と,該可動金型を蓋すると共に射出ゲート31を有する固定金型32と,前記ステータコアの中心部分に位置して前記スロット23に入り込む多数の突部33を有する中子金型35と,前記各金型30,32,35を位置決めする金型軸36と,を有する。更に,上記可動金型30を貫通して前記ステータコア20の下側端面20a1の所定箇所に当接する複数のエジェクタピン37と,これら各ピンを植設すると共に軸方向に駆動されるエジェクタプレート39と,を有する。
【0042】可動金型30内に,前記ステータコア20及び中子金型35を受け入れた状態で,金型軸36により位置決めしつつ,該可動金型を固定金型32に押付けて型締する。そして,射出装置から可塑化した所定樹脂材料を射出路38及び射出ゲート31を介してキャビティ内に射出して,該射出された可塑化樹脂はキャビティ内を流れて,前述したステータコア20の周囲に絶縁部材25を一体に成形する。該絶縁部材25を一体成形されたステータコア20は,上記可動金型30を固定金型32から離した型開状態で,エジェクタプレート39を可動金型30に対して相対的に固定金型方向に移動することにより,エジェクタピン37が突出し,上記ステータコア20を,可動金型30及び中子金型35から抜き出す(離型)。
【0043】上記キャビティは,ステータコア20の上側端面20a1と固定金型32との間に形成された上側端面部用キャビティ40a,ステータコア20の下側端面20a2と可動金型30との間に形成された下側端面部用キャビティ40bと,スロット23と中子金型35の突部33との間に形成されたスロット部用キャビティ40c(図4,図5…参照)とを有しており,上記両端面部用キャビティ40a,40bにより上記絶縁部材端面部25b,25bを形成し,上記スロット部用キャビティ40cにより上記絶縁部材スロット部25aを形成する。
【0044】ところで,上記絶縁部材スロット部25aは,0.5[mm]以下の薄い形状,特に両側面部分t1は,約0.25[mm]の薄い形状(奥側部分t2は,約0.5[mm])からなり,かつステータコア20は大径からなり,そのスロット23も多数(例えば72個)形成されており,従って前記スロット部用キャビティ40cも高い精度で管理する必要がある。そのためには,片持ち梁形状のティース22の先端部を上記中子金型35と連結して,該ティース22を両持ち支持にすると共に,ティース22と中子金型35との位置決め精度を高める必要がある。」
ウ 「【0049】図6は,第3の実施例を示す図で,ティース22の先端の膨出部22dにより狭まったスロット開口部23aと中子金型35の突部33の根本部33aが丁度嵌合するように形成する。即ち,スロット開口部23aと突部33の根本部33aとが略々同じ幅Tとなるように(正確には嵌合公差分だけスロット開口部が広い)設定し,該膨出部22dと根本部33aとが直接嵌合接触する(a参照)。これにより,ティース22の先端部22aを,該ティースの左右の突部根本部33aに挟むことにより位置決め部Iが形成され,ティース22は,両持ち支持状態となり,かつスロット23と突部33との関係も上記嵌合する開口部23a及び根本部33aにより周方向に位置決めされて,左右のキャビティ40c,40cの幅t1を均等に保持する。
【0050】従って,上記両キャビティ40c,40cに流入した樹脂により成形される絶縁部材スロット部25aは,左右側部が均等な幅t1からなる薄い樹脂膜により形成される。本実施例にあっては,図7(a)(b)に示すように,スロット開口部23a部分のティース先端部22aは,上記金型35が直接接触してキャビティが形成されていない関係上,絶縁部材25が成形されておらず,ティース22の薄鋼板24(金属部)が露出している。即ち,スロット開口部23aに直接接触するティースの先端膨出部22dは,ティースの金属が露出した状態となる。該露出部(接触部)aは,スロット23にコイル束が装着された状態にあっては,図7(c)に示すように,スロットウェッジ26が差込まれて,コイルと仕切られた状態にあって,絶縁を必ずしも必要としないが,コイル束をスロット23に挿入する際,上記露出した金属がコイル束を傷付ける虞れがある。」
エ 「【0060】ついで,図3,図16ないし図20に沿って,ステータコアを軸方向の保持について説明する。ステータコア20は,約0.2[mm]の多数の薄鋼板24l~21nを積層して構成されており,射出成形時の成形圧力によりメクれる等の軸方向変位を生じることがあり,これによる絶縁部材端面部25bの肉厚が不均等になり,更には欠肉を生じる虞れがある。特開2000-125524号公報には,そのために,可動金型30のステータコア20の一端面20a2に接する部分に支持部を設けている。
【0061】本実施の形態においては,エジェクタピン37により,射出成形時にティース22部分を押圧して薄鋼板24…のメクレ等を防止している。図17ないし図19に詳示するように,可動金型30に形成された貫通孔30aがティース22の先端部分中心に対応するように多数形成されており,これら貫通孔30aにエジェクタピン37がそれぞれ摺動自在に嵌挿されている。一方,固定金型32における上記エジェクタピンと対抗する部位には,キャビティ40aから円筒状の支え部32aが突出している。
【0062】従って,図17に示すように,ステータコア20が,可動金型30及び固定金型32(なお中子金型35は可動金型に一体に形成されている)により型締された状態において,各エジェクタピン37が貫通孔30aを摺動してキャビティ40b内に突出し,該ピン37は,図16に示すように,コア20のティース22の一端面20a2における先端部中央部分を押圧する。これにより,コア20を構成する各薄鋼板24l~24nは,その一端面20a2を上記エジェクタピン37により押圧されると共に他端面20a1が固定金型32の支え部32aにて受けられ,挟持された状態に保持される。この状態で,射出円形がなされ,ゲート31(図3参照)から可塑化樹脂が流入して,各キャビティ内を流れて,前述したように絶縁部材25…が成形されるが,この際射出圧力により,各薄鋼板24l~24n,特に片持ち状のティース22先端部がメクレ上がるような力が作用しても,上述したように,ティース22は,エジェクタピン37及び支え部32aにより直接挟持されて,変形することはなく,各キャビティ40…内に可塑化樹脂が正確に流れ,特に両端面用キャビティ40a,40bは,正確な幅が保持されて,正確な肉厚からなる絶縁部材端面部25bが形成される。なお,上記エジェクタピン37及び支え部32aに接する絶縁部材端面部は,絶縁部材25が形成されず,凹状の金属露出部25f,25gとなるが,この部分は,凹状からなりかつティース先端部分に形成されるため,コイルの絶縁不良となることはない。」
オ 「【0065】なお,上記図16ないし図20に示す実施例は,第3の実施例,即ちティース膨出部22dを金属露出部とした実施例にて示しているが,これは,第4の実施例又は第5の実施例に適用してもよく,また第1又は第2の実施例に適用してもよいことは勿論である。」
(2)上記ア~オの記載事項,及び図面の図示内容から,甲3には,以下の事項が記載されていることが理解できる。
カ 上記ア及び上記イの【0039】~【0043】の記載から,絶縁部材を備えたステータコアの製造方法は,ステータコア20を得るステータコア形成工程と,ステータコア20の多数のスロット23に中子金型35の多数の突部33を入り込ませる中子金型入込工程と,絶縁部材スロット部25aをステータコア20に形成する絶縁部材射出成形工程とを含むことが理解できる。
キ 上記イの【0038】及び【0039】の記載から,ステータコア20は,薄鋼板を所定数積層して,カシメ,溶接又はクランパにより固定されて形成されており,環状のヨーク21と,幅方向の中心線がステータコア20の中心点に向うようにヨーク21から内径方向に多数突出するティース22とを一体に形成して有していることが理解できる。
ク 上記イの【0038】及び【0040】~【0043】並びに上記ウの【0049】の記載から,中子金型入込工程では,ヨーク21から内径方向に多数突出するティース22の間で形成されている多数のスロット23に,ステータコア20の中心部分に位置する中子金型35の多数の突部33を入り込ませ,中子金型35の突部33とスロット23の両側面23b,23b及び底面23cとの間に,スロット部用キャビティ40cが形成されると共に,中子金型35の突部33の根本部33aがスロット23のスロット開口部23aと丁度嵌合することが理解できる。
ケ 上記イの【0041】~【0043】及び上記ウの【0050】の記載から,絶縁部材射出成形工程では,スロット23の両側面23b,23b及び底面23cと中子金型35の突部33との間に形成されたスロット部用キャビティ40cに,可塑化した所定樹脂材料を流入することで,スロット23の両側面23b,23b及び底面23cを覆うように形成され,スロット23のスロット開口部23aのティース22の先端膨出部22dには形成されていない,絶縁部材スロット部25aを形成することが理解できる。
コ 上記ウの【0044】の記載及び図4~6の図示内容から,スロット部用キャビティ40cは,突部33の根本部33a以外の部分とスロット23の両側面23b,23bとの間で幅t1,突部33の根本部33a以外の部分とスロット23の底面23cとの間で幅t2となるように管理されたキャビティであることが理解できる。
(3)上記ア~オの記載事項,及び上記カ~コの事項によれば,甲3には,第3の実施例として,次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
(甲3発明)
「薄鋼板を所定数積層して,カシメ,溶接又はクランパにより固定されて形成されており,環状のヨーク21と,幅方向の中心線がステータコア20の中心点に向うように前記ヨーク21から内径方向に多数突出するティース22とを一体に形成して有しているステータコア20を得るステータコア形成工程と,
前記ヨーク21から内径方向に多数突出する前記ティース22の間で形成されている多数のスロット23に,前記ステータコア20の中心部分に位置する中子金型35の多数の突部33を入り込ませる中子金型入込工程と,
前記スロット23の両側面23b,23b及び底面23cを覆うように形成され,前記スロット23のスロット開口部23aの前記ティース22の先端膨出部22dには形成されていない絶縁部材スロット部25aを形成する絶縁部材射出成形工程とを含み,
前記中子金型入込工程では,前記中子金型35の前記突部33と前記スロット23の前記両側面23b,23b及び前記底面23cとの間に,前記突部33の根本部33a以外の部分と前記スロット23の前記両側面23b,23bとの間で幅t1,前記突部33の前記根本部33a以外の部分と前記スロット23の前記底面23cとの間で幅t2となるように管理されたスロット部用キャビティ40cが形成されると共に,前記中子金型35の前記突部33の根本部33aが前記スロット23の前記スロット開口部23aと丁度嵌合し,
前記絶縁部材射出成形工程では,前記スロット23の前記両側面23b,23b及び前記底面23cと前記中子金型35の前記突部33との間に形成された前記スロット部用キャビティ40cに,可塑化した所定樹脂材料を流入して前記絶縁部材スロット部25aを形成する,絶縁部材を備えたステータコアの製造方法。」
2 甲1
(1)本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲1(特開2015-73406号公報)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「【背景技術】
【0002】
回転電機用ステータをモールド成形するに際しては,まず上金型及び下金型を型締めし
たときに内部に形成されるキャビティに,ワーク(スロットにコイルが装着されたステー
タコア)を収納すると共にステータコアの内周に中子部材を配置する。そして,樹脂充填
工程で上記のキャビティに熱硬化性の樹脂を射出する。この場合に,樹脂がステータコア
の内周に流入してくるという問題がある。これに対して,上記ステータコアの内周に配置
する中子部材をゴム等の弾性体部材により形成するものがある(特許文献1参照)。この
ものでは,弾性体部材の外形寸法をステータコアの内径寸法より若干大きくしておくこと
により,中子部材としての弾性体部材の挿入時に弾性体部材が弾性変形することでステー
タコアの内周に密着する。これによって,樹脂がステータコアの内周に流入してくるのを
防止することができる。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,上記特許文献1の技術では,中子部材としての弾性体部材をステータコアの内周に圧入しているので,弾性体部材のうちステータコアの内周に密着する側が摩耗する。ステータコアの内周に密着する側が摩耗した状態の弾性体部材を配置したのでは,弾性体部材がステータコアの内周に確実に密着できなくなる。すると,樹脂充填工程で樹脂がステータコアの内周に流入してくる。弾性体部材の圧入は繰り返しの利用が難しく,メンテナンスや交換頻度が上がり,量産に適さずコストも増加してしまうのである。
【0005】
そこで本発明は,弾性体部材を用いていても弾性体部材を摩耗させることのないモールド成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,内周に複数のスロットを形成し,隣り合う2つのスロットの間をティースとする薄板円板状鋼板を積層して形成されるステータコアを備えたステータのモールド成形方法である。・・・」
ウ 「【0011】
本実施形態では,ステータ1のモールド成形工程を,前工程#1,中子部材挿入工程#2,型締め工程#3,樹脂充填工程#4,型開き工程#5で構成する。図1(B)は前工程#1を,図2,図3(B)は中子部材挿入工程#2を,図4は樹脂充填工程#4を示している。詳細には,図2は中子部材挿入工程#2のうちの円柱状中子部材61の挿入途中の,図3(B)は円柱状中子部材61の挿入終了の状態を示している。なお,図1(B)には上金型31及び樹脂射出部51を示していない。
【0012】
ステータ1は,大きくはステータコア2とコイル11から構成される。ステータコア2は,電磁鋼板で形成される薄板円板状鋼板3を鋼板3の厚さ方向に積層した鋼板積層体である。各薄板円板状鋼板3の内周に空間としてのスロット4を複数形成し,この複数の各スロット4にコイル11をそれぞれ巻回している。コイル11は全体としてステータコア2の軸方向の外側にはみ出しているが,このステータコア2の軸方向の外側にはみ出した
コイル部分がコイルエンド12といわれる。」
エ 「【0024】
モールド成型装置21には,さらに,円筒状の弾性体部材61,軸方向に1つの分断面を有する円筒状の保持部材71,円柱状の中子部材81を備える。上記円筒状の弾性体部材61は,後述する樹脂充填工程#3において,キャビティC内に流動してくる樹脂53がステータコア2の内周2aと弾性体部材61との間に流入するのを防止するための部材である。このため,円筒状の弾性体部材61は,ステータコア2の内径とほぼ同等の外径かステータコア2の内径よりわずかに大きい外径を有している。
【0025】
・・・
【0026】
・・・また,円筒状の保持部材71は弾性体部材61よりは硬くかつ中子部材81よりは柔らかい金属やプラスチックで形成する。
【0027】
この場合,円筒状の保持部材71を弾性体部材61より硬い金属やプラスチックで形成すると,弾性体部材61のようには容易に変形できない。このため,弾性体部材61より硬い金属やプラスチックの円筒状保持部材71であっても容易に変形し得るように,軸方向の分断面71a(図1(A)参照)を1つ有するようにしておく。
【0028】
保持部材71に設ける軸方向の分断面は1つに限られるものでなく,2つ以上あってもかまわない。ただし,軸方向の分断面が例えば2つあることは,保持部材71が2つの部材に分割されることを意味するので,取り扱いの点で紛失しやすい等の問題がある。一方,軸方向の分断面が1つだけあれば,保持部材71は複数の部材に分割されることがないので,取り扱いが容易となる。」
オ 「【0029】
図1(B)に示したように前工程#1で,ステータコア2の内周2aに弾性体部材61を当接させて配置した後に,弾性体部材61の内周61aに円筒状の保持部材71を取り付ける。これによって前工程#1が終了するので,次には中子部材挿入工程#2に移る。
【0030】
・・・図2に示したように中子部材挿入工程#2で,ワークWを設置してある下金型41を鉛直上方に向かって移動させることにより,中子部材81が円筒状保持部材71の内周71bに嵌り込む。この場合,中子部材81が円筒状保持部材71の内周71bに嵌り込むことによって,円筒状保持部材71が分断面71aから周方向に広がるように,中子部材81の外径を円筒状の保持部材71の内径よりわずかに大きい外径としておく。
【0031】
中子部材81を円筒状保持部材71の内周71bに挿入したとき,円筒状保持部材71は分断面71aが周方向に開くことで,円筒状保持部材71が径方向外側に容易に変形し(拡径し),弾性体部材61を径方向外側に押圧する。・・・」
カ 「【0035】
中子部材挿入工程#2が終了した後には,型締め工程#3で上下の金型31,41を数十トンの力を加えて締め,型締め状態とする。この型締め工程#3は従来と同様であり,特に説明するまでもないので,図3(B)に示したように中子部材挿入工程#2に含めている。
【0036】
この後には型締め状態で樹脂充填工程#4を実行する。すなわち,樹脂充填工程#4では,ハウジング15,上金型31,下金型41,中子部材81によって形成されているキャビティCに樹脂53を充填(供給)することとなる。
【0037】
・・・
【0038】
次に,樹脂射出部51の加圧機でプランジャ54を鉛直下方に駆動することにより,ポット52内の樹脂53を加圧すると,樹脂53はスプール35から鉛直下方に吐出する。スプール35から鉛直下方に吐出された樹脂53は円盤状の隙間からなるランナ36を通って,360度の全方向に向かい,ゲート37からキャビティCの上部領域に侵入する(図4の矢印参照)。・・・
【0039】
ゲート37を通過した樹脂53は,図4に示すように,キャビティCの上部領域のうち,当該領域に存在するコイルエンド12の内周側の部位にまず流入する。また,コイルエンド12と上金型31との隙間を通ってコイルエンド12の外周側の部位にも流入する。
【0040】
コイルエンド12の内周側,外周側の部位を満たした樹脂53はその後,ステータコア2の内部の部位に侵入する。これについて図5を参照して説明すると,図5は図3(A)のX-X線断面(スロット4を含んだ断面)の拡大図で,樹脂充填工程#4での様子をモデルで示している。
【0041】
図5に示したように,中子部材81が円筒状保持部材71を介して円筒状の弾性体部材61を径方向外側に向けて押圧している。中子部材81により弾性体部材61が径方向外側への圧力を受けるとき,各薄板円板状鋼板3は硬いため,各薄板円板状鋼板3の内周3aを径方向外側へと変形させることはできない。しかしながら,鉛直方向に隣接している2つの薄板円板状鋼板3の間にわずかな隙間8があるときには,その隙間8へと弾性体部材61の外周側が変形して嵌り込む。
【0042】
また,スロット4の内部には,絶縁シート14に包まれた複数のコイル線材13が収納されている。そして,絶縁シート14とスロット4の周縁との間に空間が存在する。このため,図5に示したように樹脂充填工程#4でコイルエンド12の周囲を満たした樹脂53は,スロット4内に流入する。つまり,樹脂53は絶縁シート14とスロット4の周縁との間を鉛直下方に向かって流入する(図5の矢印参照)。流入する途中に鉛直方向に隣接している2つの薄板円板状鋼板3の間にわずかな隙間8があれば,その隙間8を伝い薄板円板状鋼板3の内周3aに向かって流れ込んでいく。このとき,本実施形態では,各隙間8に弾性体部材61の外周側が食い込んでいることから,樹脂53が薄板円板状鋼板3の内周3aと弾性体部材61の間に入り込むことがない。すなわち,弾性体部材61によってスロット4内をステータコア2の軸方向に流入してくる樹脂53がステータコア2の内周2aに流入することがないようにシールできている。」
キ 「【0046】
・・・図9は本実施形態の場合のワークWをステータコア2の軸方向に直交する面で切断した断面図のうちの一部拡大図である。
【0047】
第1実施形態では,図9に示したように,円筒状保持部材71の有する一対の分断面71a,71aの位置を,複数あるティース5のうち任意のティース5の先端(ステータコア2の径方向内側端)の位置に対向させている。かつ一対の分断面71a,71aの幅w1が当該分断面に対向するティース5の幅w2以下となるようにしている。」
(2)上記ア~キの記載事項,及び図面の図示内容から,甲1には,以下の事項が記載されていることが理解できる。
ク 上記ウの【0012】の記載,上記カの【0041】~【0042】の記載,上記キの【0047】の記載,及び図9の図示内容から,ステータコア2は,複数の薄板円板状鋼板3を鋼板3の厚さ方向に積層した鋼板積層体からなり,環状の外周部と,環状の外周部から径方向内向きに延びる複数のティース5とを含み,鉛直方向に隣接している2つの薄板円板状鋼板3の間に隙間8があること,及び,ステータコア2を備えたステータ1のモールド成形の前に,ステータコアの形成が行われることが理解できる。
ケ 上記カの【0036】,【0040】~【0042】の記載,及び図5の図示内容から,樹脂充填工程#4では,ステータコア2のスロット4の内部に収納されている複数のコイル線材13を包む絶縁シート14とスロット4の周縁との間を鉛直下方に向かって樹脂53が流入し,各隙間8に弾性体部材61の外周側が食い込むことでステータコア2の内周2aに樹脂53が流入することがないようにシールされて,樹脂53の充填が行われること,及び,スロット4の周縁と絶縁シート14との間の空間に樹脂53の充填が行われることが理解できる。
(3)上記ア~キの記載事項,及び上記ク~ケの事項によれば,甲1には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(甲1発明)
「複数の薄板円板状鋼板3を鋼板3の厚さ方向に積層した鋼板積層体からなり,環状の外周部と,前記環状の外周部から径方向内向きに延びる複数のティース5とを含み,鉛直方向に隣接している2つの薄板円板状鋼板3の間に隙間8があるステータコア2を形成するステータコア形成工程と,
前記ステータコア2の内周2aに弾性体部材61を当接させて配置し,前記弾性体部材61の内周61aに軸方向に1つの分断面71aを有する円筒状保持部材71を取り付ける前工程#1と,
中子部材81を前記円筒状保持部材71の内周71bに挿入して,前記円筒状保持部材71を拡径して前記弾性体部材61を径方向外側に押圧する中子部材挿入工程#2と,
前記ステータコア2のスロット4の内部に収納されている複数のコイル線材13を包む絶縁シート14と前記スロット4の周縁との間を鉛直下方に向かって樹脂53が流入し,前記各隙間8に前記弾性体部材61の外周側が食い込むことで前記ステータコア2の内周2aに樹脂53が流入することがないようにシールされて,樹脂53の充填が行われる樹脂充填工程#4とを含み,
前記樹脂充填工程#4では,前記スロット4の周縁と前記絶縁シート14との間の空間に樹脂53の充填が行われる,ステータの製造方法。」
3 甲2
(1)本件特許に係る出願の優先権主張の日前に頒布された甲2(特開平7-222413号公報)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】ステータコアに絶縁材料をコーテイングするステータコアコーテイング方法であって,ステータコアの積層体を形成する積層体形成工程と,該積層体を予め絶縁材料を溶融した溶融絶縁材料浴内へ漬ける絶縁材料被覆工程と,溶融絶縁材料浴から取り出したステータコアの積層体を遠心分離器に入れ所定の回転数をかけることによって余分な絶縁材料を取り除く余剰材料除去工程と,該ステータコアの積層体を加熱し絶縁材料をステータコアへ焼き付ける焼付工程と,水洗いする水洗浄工程と,から成ることを特徴とするステータコアコーテイング方法。」
イ 「【0010】【実施例】以下において本発明の好ましい実施例について述べる。ここに述べる方法は単なる1実施例であり,本発明がこれによって限定されるものではない。まず初めに,これまでの方法と同様に,ステータコアを公知のスタンピングその他の方法によって形成する(積層体形成工程)。こうして形成された複数枚のステータコアを積層して上下方向から押圧して積層状態のステータコアを形成し,最後にカシメ手段によってカシメ結合する。次にこの積層状態のステータコアを針金,紐その他の手段によって吊下げ,予め準備してある,所定のエポキシ樹脂を溶融した容器内へステータコア全体を浸ける(絶縁材料被覆工程)。この容器は好ましくは一度に多数のステータコアをどぶ浸け出来る程の大きさがあれば,その作業性はさらに向上する。
【0011】こうしてどぶ浸けされたステータコアは,容器から引き上げられた後,遠心分離器に移される。そこで該遠心分離器を回転して余分なエポキシ樹脂を分離する(余剰材料除去工程)。遠心分離器の回転速度は形成するエポキシ樹脂層の厚み,使用するエポキシ樹脂の粘度等を考慮して決定され,好ましくは一般には1000rpm程度である。このように遠心分離器を使用することは,スプレーによる付与と異なり,ステータコアの中心孔を含むステータコアの外表面全体にエポキシ樹脂を万遍無く均一に分与しかつ余分なエポキシ樹脂を完全に除去することが出来,品質的に常に一定した薄い絶縁被覆を有するステータコアを生産することが出来ると共にエポキシ樹脂の使用量を最小限に押さえることが出来るという効果が有る。
【0012】・・・通常,ステータコアの複数のコアプレートはどぶ浸け前にカシメ手段によってカシメ結合されているが,これらのコアプレートは完全に隙間のない一体物となっているのではなく,しばしばコアプレート積層面の一部に空隙が存在することがある。このためモータ組付後にコイルに電流を流したときこの空隙のために磁気的振動が発生し,この磁気的振動のためにコアプレートが振動して比較的大きい騒音を生じることがある。しかしてステータコアの外表面層を形成しており予熱により幾分柔らかくなった樹脂は,もし積層しているステータコアの積層間にこのような空隙が存在する場合にはその空隙部分内へ浸入し,またもしステータコアの外表面層の一部に樹脂層の剥がれ又は付着不良部分があればその部分へ迅速に浸入し,こうしてステータコアの積層空隙又は外表面全体を完全にエポキシ樹脂が覆う作用をする。この結果,上記のような騒音の発生が防止され,隙間のないコーテイング材の付着が可能となるのである。」
(2)上記ア~イの記載事項,及び図面の図示内容から,甲2には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(甲2発明)
「複数枚のステータコアを積層してカシメ結合して,ステータコアの積層間に空隙が存在する積層状態のステータコアを形成する積層状態ステータコア形成工程と,
所定のエポキシ樹脂を溶融した容器内へ積層状態のステータコア全体を漬ける絶縁材料被覆工程とを含む,ステータコアコーテイング方法。」
第6 取消理由通知に記載した理由に対する当審の判断
1 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(1)本件特許発明1,14~15について
本件訂正の訂正事項1-1,訂正事項2-1及び2-2により,本件訂正前の請求項1,14~15は削除されたため,本件特許発明1,14~15に係る特許についての取消理由1及び取消理由2は,その対象となる特許が存在しないものとなった。
(2)本件特許発明2について(甲3に基づく新規性,進歩性の検討)
ア 対比
(ア)本件特許発明2と甲3発明とを対比すると,甲3発明における「薄鋼板」は,本件特許発明2における「鉄心部材」に相当し,以下同様に,「薄鋼板を所定数積層して,カシメ,溶接又はクランパにより固定されて形成されており」との事項は「複数の鉄心部材が積層されて構成されており」との事項に,「ヨーク21」は「ヨーク部」に,「ティース22」は「ティース部」に,「幅方向の中心線がステータコア20の中心点に向うように」との事項は「前記ヨーク部に交差する交差方向に」との事項に,「前記ヨーク21から内径方向に多数突出するティース22」との事項は「前記ヨーク部から延びる複数のティース部」との事項に,「一体に形成して有している」との事項は「含み」との事項に,「ステータコア20」は「積層体」に,「ステータコア形成工程」は「積層体形成工程」に,それぞれ相当する。
(イ)甲3発明における「スロット23」は,本件特許発明2における「スロット」に相当し,以下同様に,「中子金型35」は「中子部材」に,「前記ヨーク21から内径方向に多数突出する前記ティース22の間で形成されている多数のスロット23に,前記ステータコア20の中心部分に位置する中子金型35の多数の突部33を入り込ませる」との事項は「前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する」との事項に,「中子金型入込工程」は「中子部材挿入工程」に,それぞれ相当する。
(ウ)甲3発明における「両側面23b,23b及び底面23c」は,本件特許発明2における「内壁面」に相当し,以下同様に,「覆うように形成され」との事項は「覆うように設けられ」との事項に,「前記スロット23のスロット開口部23aの前記ティース22の先端膨出部22dには形成されていない」との事項は「前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない」との事項に,「絶縁部材スロット部25a」は「樹脂部」に,「絶縁部材射出成形工程」は「樹脂部形成工程」に,それぞれ相当する。
(エ)甲3発明における「前記中子金型35の前記突部33と前記スロット23の前記両側面23b,23b及び前記底面23cとの間に,前記突部33の根本部33a以外の部分と前記スロット23の前記両側面23b,23bとの間で幅t1,前記突部33の前記根本部33a以外の部分と前記スロット23の前記底面23cとの間で幅t2となるように管理されたスロット部用キャビティ40cが形成される」との事項は,中子金型35の突部33の根本部33a以外の部分が,スロット23の両側面23b,23bと幅t1だけ離間し,スロット23の底面23cと幅t2だけ離間するような大きさであること,すなわち,中子金型35の突部33の根本部33a以外の部分について,その外形がスロット23の外形と略同じように延び,且つスロット23の内壁面と離間していることを意味するから,本件特許発明2における「前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間している」との事項と,「前記中子部材の前記スロットに挿入される部位が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間している」との事項である限りにおいて一致する。
(オ)甲3発明における「前記中子金型35の前記突部33の根本部33aが前記スロット23の前記スロット開口部23aと丁度嵌合し」との事項と,本件特許発明2における「前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており」との事項とは,「前記中子部材のうち前記スロットに挿入される部位に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており」との事項である限りにおいて一致する。
(カ)甲3発明における「前記スロット23の前記両側面23b,23b及び前記底面23cと前記中子金型35の前記突部33との間に形成された前記スロット部用キャビティ40c」は,本件特許発明2における「前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間」に相当し,以下同様に,「可塑化した所定樹脂材料を流入して」との事項は「溶融状態の樹脂を充填して」との事項に,「絶縁部材を備えたステータコアの製造方法」は「固定子積層鉄心の製造方法」に,それぞれ相当する。
そうすると,本件特許発明2と甲3発明とは,
「複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含む,積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の前記スロットに挿入される部位が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記スロットに挿入される部位に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,
前記樹脂部形成工程では,前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して前記樹脂部を形成する,固定子積層鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点3-1)
本件特許発明2は,積層体が「前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有」し,樹脂部形成工程で形成される樹脂部が「前記隙間の前記スロット側を塞ぐ」のに対して,
甲3発明は,ステータコア20(積層体)が薄鋼板(鉄心部材)の積層方向の隙間を有するのか否かが不明である点。
(相違点3-2)
中子部材挿入工程でスロット内に挿入される中子部材の「スロットに挿入される部位」について,
本件特許発明2では,「中子部材の本体部」であり,「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置して」いるのに対して,
甲3発明では,中子金型35の突部33であり,中子金型35がステータコア20の中心部分にも位置している点。
イ 判断
事案に鑑みて,相違点3-2から検討する。
甲3発明において,上方から見たときに中子部材の全体がスロット23の内側にのみ位置するようにするためには,単一の中子金型35をそれぞれがスロット23に入り込む多数の中子金型に変更しなければならないが,甲3では,甲3発明(第3の実施例)以外の実施例においても,多数の突部33を有し,ステータコア20の中心部分に位置する単一の中子金型35が使用されており,単一の中子金型35をそれぞれがスロット23に入り込む多数の中子金型に変更することについての記載や示唆はない。
また,甲3には,「片持ち梁状のティース22の先端部を中子金型35と連結してティース22を両持ち支持にすると共に,ティース22と中子金型35との位置決め精度を高める必要がある」(上記「第5」の1(1)イの【0044】を参照)との記載があることから,甲3発明は,ティース22の先端部22aの両側面及び内周面を,中子金型35の突部33及び突部33間の外周面と連結することによりティース22を両持ち支持にすると共に,ティース22と中子金型35との位置決め精度を高めるために単一の中子金型35を採用しているのであり,単一の中子金型35を多数の中子金型に変更すると,ティース22の先端部22aの内周面が中子金型と連結されなくなることで,ティース22の両持ち支持が良好にできないおそれがあるから,甲3発明において,単一の中子金型35を,それぞれがスロット23に入り込む多数の中子金型に変更する積極的な動機付けがあるとはいえない。
さらに,甲1発明及び甲2発明のいずれも,相違点3-2に係る本件特許発明2の発明特定事項に相当する構成を備えておらず,甲1及び甲2には,そのような構成を示唆する記載もない。
よって,相違点3-2に係る本件特許発明2の発明特定事項は,当業者といえども,甲3発明と,甲1発明及び甲2発明とに基づき,容易に想到できたものではない。
ウ 小括
以上のとおり,相違点3-2に係る本件特許発明2の発明特定事項は,当業者といえども,甲3発明と,甲1発明及び甲2発明とに基づき,容易に想到できたものではないから,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明2は,甲3発明ではなく,甲3発明と,甲1発明及び甲2発明とに基づき,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件特許発明8~9,12について
取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)は,請求項3に係る特許を対象としておらず,また,本件訂正により,請求項3は訂正されていない。
そして,本件訂正により,請求項8~9,12がいずれの請求項を引用する場合であっても,本件特許発明8~9,12は,本件特許発明3の発明特定事項を全て含むものとなったため,本件特許発明8~9,12に係る特許についての取消理由2(進歩性)は解消した。
2 取消理由3(明確性)について
本件訂正の訂正事項1-6により,本件訂正前の請求項11に記載された「第1及び第2の位置決め部材」が「第1及び第2の位置決め治具」に訂正されたことにより,「前記第1及び第2の位置決め治具」が何を指し示すのかが明確となったため,請求項11及び請求項11を引用する請求項13に係る特許についての取消理由3は解消した。
3 取消理由通知に記載した理由に対する当審の判断についてのまとめ
以上のことから,取消理由通知に記載した取消理由1~3によって,本件特許発明2~13,16~18に係る特許を取り消すことはできない。
また,本件訂正により,本件特許発明1,14~15に係る特許についての取消理由1,2は,その対象となる特許が存在しないものとなった。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲3に基づく本件特許発明3の新規性,進歩性について
(1)対比
本件特許発明3と甲3発明とを対比する。
ア 甲3発明における「薄鋼板」は,本件特許発明3における「鉄心部材」に相当し,以下同様に,「薄鋼板を所定数積層して,カシメ,溶接又はクランパにより固定されて形成されており」との事項は「複数の鉄心部材が積層されて構成されており」との事項に,「ヨーク21」は「ヨーク部」に,「ティース22」は「ティース部」に,「幅方向の中心線がステータコア20の中心点に向うように」との事項は「前記ヨーク部に交差する交差方向に」との事項に,「前記ヨーク21から内径方向に多数突出するティース22」との事項は「前記ヨーク部から延びる複数のティース部」との事項に,「一体に形成して有している」との事項は「含む」との事項に,「ステータコア20」は「積層体」に,「ステータコア形成工程」は「積層体形成工程」に,それぞれ相当する。
イ 甲3発明における「スロット23」は,本件特許発明3における「スロット」に相当し,以下同様に,「中子金型35」は「中子部材」に,「前記ヨーク21から内径方向に多数突出する前記ティース22の間で形成されている多数のスロット23に,前記ステータコア20の中心部分に位置する中子金型35の多数の突部33を入り込ませる」との事項は「前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する」との事項に,「中子金型入込工程」は「中子部材挿入工程」に,それぞれ相当する。
ウ 甲3発明における「両側面23b,23b及び底面23c」は,本件特許発明3における「内壁面」に相当し,以下同様に,「前記スロット23の前記両側面23b,23b及び前記底面23cと前記中子金型35の前記突部33との間に形成された前記スロット部用キャビティ40c」は「前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間」に,「可塑化した所定樹脂材料を流入して」との事項は「溶融状態の樹脂を充填して」との事項に,「絶縁部材スロット部25a」は「樹脂部」に,「絶縁部材射出成形工程」は「樹脂部形成工程」に,それぞれ相当する。
エ 甲3発明における「前記中子金型35の前記突部33と前記スロット23の前記両側面23b,23b及び前記底面23cとの間に,前記突部33の根本部33a以外の部分と前記スロット23の前記両側面23b,23bとの間で幅t1,前記突部33の前記根本部33a以外の部分と前記スロット23の前記底面23cとの間で幅t2となるように管理されたスロット部用キャビティ40cが形成される」との事項は,中子金型35の突部33の根本部33a以外の部分が,スロット23の両側面23b,23bと幅t1だけ離間し,スロット23の底面23cと幅t2だけ離間するような大きさであること,すなわち,中子金型35の突部33の根本部33a以外の部分について,その外形がスロット23の外形と略同じように延び,且つスロット23の内壁面と離間していることを意味するから,本件特許発明3における「前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間している」との事項と,「前記中子部材の前記スロットに挿入される部位が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間している」との事項である限りにおいて一致する。
オ 甲3発明における「前記中子金型35の前記突部33の根本部33aが前記スロット23の前記スロット開口部23aと丁度嵌合し」との事項と,本件特許発明3における「前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており」との事項とは,「前記中子部材のうち前記スロットに挿入される部位に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており」との事項である限りにおいて一致する。
カ 甲3発明における「絶縁部材を備えたステータコアの製造方法」は本件特許発明3における「固定子積層鉄心の製造方法」に相当する。
そうすると,本件特許発明3と甲3発明とは,
「複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含む積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して,前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含み,
前記中子部材挿入工程では,前記中子部材の前記スロットに挿入される部位が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記スロットに挿入される部位に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞している,固定子積層鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点3-3)
中子部材挿入工程でスロット内に挿入される中子部材の「スロットに挿入される部位」について,
本件特許発明3では,「中子部材の本体部」であり,「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置して」いるのに対して,
甲3発明では,中子金型35の突部33であり,中子金型35がステータコア20の中心部分にも位置している点。
(2)判断
相違点3-3は,上記「第6」の1(2)アの相違点3-2と実質的に同じであるから,その判断も,上記「第6」の1(2)イのとおりである。
(3)小括
以上のとおり,相違点3-3に係る本件特許発明3の発明特定事項は,当業者といえども,甲3発明に基づき,容易に想到できたものではないから,本件特許発明3は,甲3発明ではなく,甲3発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 甲1を主引用例とした場合の新規性,進歩性について
事案に鑑みて,本件特許発明3~13について先に検討する。
(1)本件特許発明3~13について
ア 対比
(ア)本件特許発明3と甲1発明とを対比すると,甲1発明における「薄板円板状鋼板3」は,本件特許発明3における「鉄心部材」に相当し,以下同様に,「複数の薄板円板状鋼板3を鋼板3の厚さ方向に積層した鋼板積層体からなり」との事項は「複数の鉄心部材が積層されて構成されており」との事項に,「外周部」は「ヨーク部」に,「環状の外周部から径方向内向きに延びる」との事項は「前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる」との事項に,「ティース5」は「ティース部」に,「ステータコア2を形成する」は「積層体を得る」に,「ステータコア形成工程」は「積層体形成工程」に,それぞれ相当する。
(イ)甲1発明における「中子部材81を前記円筒状保持部材71の内周71bに挿入して,前記円筒状保持部材71を拡径して前記弾性体部材61を径方向外側に押圧する中子部材挿入工程#2」と,本件特許発明3における「前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程」とは,「中子部材を挿入する中子部材挿入工程」である限りにおいて一致する。
(ウ)甲1発明における「スロット4」は,本件特許発明3における「スロット」に相当し,以下同様に,「周縁」は「内壁面」に,「前記各隙間8に前記弾性体部材61の外周側が食い込むことで前記ステータコア2の内周2aに樹脂53が流入することがないようにシールされて」との事項は「前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない」との事項に,「樹脂53の充填が行われる」との事項は「樹脂部を形成する」との事項に,「樹脂充填工程#4」は「樹脂部形成工程」に,それぞれ相当する。
(エ)甲1発明における「スロット4の周縁と前記絶縁シート14との間の空間に樹脂53の充填が行われる」との事項と,本件特許発明3における「スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して」との事項は,「スロットの内壁面と前記スロット内に挿入される部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して」との事項である限りにおいて一致する。
(オ)甲1発明における「ステータの製造方法」は,ステータの製造の際,ステータコア2の製造も行っているといえるから,本件特許発明3における「固定子積層鉄心の製造方法」に相当する。
そうすると,本件特許発明3と甲1発明とは,
「複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含む積層体を得る積層体形成工程と,
中子部材を挿入する中子部材挿入工程と,
スロットの内壁面と前記スロット内に挿入される部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して,前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含む,固定子積層鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点1-1)
中子部材挿入工程及び樹脂部形成工程に関して,
本件特許発明3は,中子部材挿入工程では,「前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入」し,「前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置して」おり,樹脂部形成工程では,スロットの内壁面と「中子部材の外周面」との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成するのに対して,
甲1発明は,中子部材挿入工程#2では,中子部材81を円筒状保持部材71の内周71bに挿入して,円筒状保持部材71を拡径して弾性体部材61を径方向外側に押圧し,樹脂充填工程#4では,スロット4の周縁と絶縁シート14との間の空間に樹脂53の充填が行われる点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲3発明は,上記「第5」の1(3)のとおり,「多数のスロット23に,前記ステータコア20の中心部分に位置する中子金型35の多数の突部33を入り込ませる」という構成を備えている。
これに対し,甲1発明は,ステータコア2の各スロット4にコイル線材14が巻回された状態で(上記「第5」の2(1)ア~ウを参照),スロット4の周縁とコイル線材13を包む絶縁シート14との間の空間に樹脂53を充填するものであり,コイルが巻回されていない状態でスロット23に絶縁部材スロット部25aを形成する甲3発明とは,製造工程や使用する中子部材の形状が大きく異なるから,当業者といえども,甲1発明に甲3発明を適用し得ないというべきである。
また,仮に甲1発明に,甲3発明の上記構成を適用しようとしても,甲1発明では各スロット4の内部にコイル線材13が収納されているため,甲1発明のスロット4に甲3発明の中子金型35の突部33を入り込ませるようにすることは困難であるから,その適用を阻害する要因があるといえる。
さらに,仮に甲1発明に,甲3発明の上記構成が適用できたとしても,甲3発明と本件特許発明3とは中子部材に関して,上記1(1)の相違点3-3で相違しており,相違点1-1における,中子部材に係る「本体部」の構成や「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置して」いる構成には至らない。また,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,相違点1-1における上記構成についての開示や示唆はない。
よって,相違点1-1に係る本件特許発明3の発明特定事項は,当業者といえども,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,容易に想到できたものではない。
ウ 小括
以上のとおり,本件特許発明3は,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,本件特許発明4~13は,本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,さらに構成を付加して限定した発明であるから,本件特許発明3と同様に,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は,実質的に,本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,さらに積層体が「前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有」し,樹脂部が「前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐ」という構成を付加して限定した発明であるから,上記(1)に示した本件特許発明3についての判断と同様に,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明16について
本件特許発明16は,実質的に,本件特許発明2から「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており」という発明特定事項を取り除いた発明に,さらに「前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材と前記積層体との間に電圧を印加して,前記樹脂部の絶縁性を検査する検査工程」を含むとの事項(以下「事項A」という。)を付加して限定した発明である。
そして,本件特許発明16は,本件特許発明2及び本件特許発明3と同様に,「複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入」するという構成を備えるものであるところ,上記(1)イのとおり,甲1発明と甲3発明とは,製造工程や使用する中子部材の形状が大きく異なるから,当業者といえども,甲1発明に甲3発明を適用し得ないというべきであり,仮に甲1発明に,甲3発明の上記構成を適用しようとしても,甲1発明では各スロット4の内部にコイル線材13が収納されているため,甲1発明のスロット4に甲3発明の中子金型35の突部33を入り込ませるようにすることは困難であるから,その適用を阻害する要因があるといえる。
また,甲7には,ステータコアを絶縁性樹脂材料にて一体絶縁成形を行う電動機の製造方法において,バリ処理をステータの絶縁検査における耐電圧試験の工程に組み込む技術的事項(段落【0057】を参照)が記載されているが,本件発明16の事項Aについての記載や示唆はない。
さらに,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,本件特許発明16の事項Aについての開示や示唆はない。
よって,本件特許発明16は,甲1発明,甲3発明及び甲7に記載された技術的事項に基づき,さらには甲2,甲4~甲6及び甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明17について
本件特許発明17は,実質的に,本件特許発明2から「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており」という発明特定事項を取り除いた発明に,さらに「前記中子部材挿入工程では,上方から見たときに前記スロットと略同等の大きさの外形を有する第1及び第2の位置決め治具を,複数の前記スロットのうちの第1及び第2のスロット内にそれぞれ挿入することにより,前記積層体を水平方向において位置決めしつつ,残余のスロット内に前記中子部材を挿入し」,「前記樹脂部形成工程の後に,前記第1及び第2のスロット内から前記第1及び第2の位置決め治具を抜去して,前記第1及び第2のスロット内に前記中子部材をそれぞれ挿入することと,前記第1のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間,及び,前記第2のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成することとを行う」との事項(以下「事項B」という。)を付加して限定した発明である。
そして,本件特許発明17は,本件特許発明2及び本件特許発明3と同様に,「複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入」するという構成を備えるものであるところ,上記(1)イのとおり,甲1発明と甲3発明とは,製造工程や使用する中子部材の形状が大きく異なるから,当業者といえども,甲1発明に甲3発明を適用し得ないというべきであり,仮に甲1発明に,甲3発明の上記構成を適用しようとしても,甲1発明では各スロット4の内部にコイル線材13が収納されているため,甲1発明のスロット4に甲3発明の中子金型35の突部33を入り込ませるようにすることは困難であるから,その適用を阻害する要因があるといえる。
また,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,本件特許発明17の事項Bについての開示や示唆はない。
よって,本件特許発明17は,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件特許発明18について
ア 対比
(ア)本件特許発明18と甲1発明とを対比すると,甲1発明における「薄板円板状鋼板3」は,本件特許発明18における「鉄心部材」に相当し,以下同様に,「複数の薄板円板状鋼板3を鋼板3の厚さ方向に積層した鋼板積層体からなり」との事項は「複数の鉄心部材が積層されて構成されており」との事項に,「外周部」は「ヨーク部」に,「前記環状の外周部から径方向内向きに延びる」との事項は「前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる」との事項に,「ティース5」は「ティース部」に,「隙間8」は「隙間」に,「鉛直方向に隣接している2つの薄板円板状鋼板3の間に隙間8がある」との事項は「前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する」との事項に,「ステータコア2を形成する」との事項は「積層体を得る」との事項に,「ステータコア形成工程」は「積層体形成工程」に,それぞれ相当する。
(イ)甲1発明における「スロット4」は,本件特許発明18における「スロット」に相当し,以下同様に,「周縁」は「内壁面」に,「前記ステータコア2のスロット4の内部に収納されている複数のコイル線材13を包む絶縁シート14と前記スロット4の周縁との間を鉛直下方に向かって樹脂53が流入し」との事項は「前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間であるスロットの内壁面を覆うように設けられ」との事項に,「前記各隙間8に前記弾性体部材61の外周側が食い込むことで前記ステータコア2の内周2aに樹脂53が流入することがないようにシールされて」との事項は「前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない」との事項に,「樹脂53の充填が行われる」との事項は「樹脂部を形成する」との事項に,「樹脂充填工程#4」は「樹脂部形成工程」に,それぞれ相当する。
(ウ)甲1発明における「弾性体部材61」及び「円筒状保持部材71」は,本件特許発明18における「複数の拡径部材」に相当し,甲1発明における「前工程#1」は,「ステータコア形成工程」の後で且つ「樹脂充填工程#4」の前に実施されるから,本件特許発明18における「前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に」実施される「拡径部材配置工程」に相当する。
(エ)甲1発明における「前記ステータコア2の内周2aに弾性体部材61を当接させて配置し,前記弾性体部材61の内周61aに軸方向に1つの分断面71aを有する円筒状保持部材71を取り付ける」との事項と,本件特許発明18における「前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記周方向に沿って並び且つ前記ヨーク部の内側に配置する」との事項とは,「前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記ヨーク部の内側に配置する」との事項である限りにおいて一致する。
(オ)甲1発明における「中子部材81を前記円筒状保持部材71の内周71bに挿入して,前記円筒状保持部材71を拡径して前記弾性体部材61を径方向外側に押圧する」との事項と,本件特許発明18における「前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記各拡径部材の外周面を前記ティース部の内周面に当接させることにより,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する」との事項は,「前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する」との事項である限りにおいて一致する。
(カ)甲1発明における「中子部材挿入工程#2」は,「前工程#1」の後に実施されるから,本件特許発明18における「前記拡径部材配置工程の後に」実施される「拡径工程」に相当し,甲1発明における「ステータの製造方法」は,ステータの製造の際,ステータコア2の製造も行っているといえるから,本件特許発明18における「固定子積層鉄心の製造方法」に相当する。
そうすると,本件特許発明18と甲1発明とは,
「複数の鉄心部材が積層されて構成されており,環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含み,前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有する積層体を得る積層体形成工程と,
前記複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間であるスロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐと共に前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程と,
前記積層体形成工程の後で且つ前記樹脂部形成工程の前に,前記交差方向に移動可能に構成された複数の拡径部材を,前記ヨーク部の内側に配置する拡径部材配置工程と,
前記拡径部材配置工程の後に,前記各拡径部材を前記ティース部に向けて移動させ,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与する拡径工程とを含む,固定子積層鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点1-2)
拡径部材配置工程及び拡径工程に関して,
本件特許発明18は,複数の拡径部材を「前記周方向に沿って並」べてヨーク部の内側に配置し,「前記各拡径部材の外周面を前記ティース部の内周面に当接させることにより」,前記交差方向の外向きの力を前記積層体に対して付与するのに対して,
甲1発明では,弾性体部材61をステータコア2の内周2aに当接させて配置し,前記弾性体部材61の内周61aに軸方向に1つの分断面71aを有する円筒状保持部材71を取り付けた後,中子部材81を前記円筒状保持部材71の内周71bに挿入して,前記円筒状保持部材71を拡径して前記弾性体部材61を径方向外側に押圧する点。
イ 判断
相違点1-2について検討する。
甲1発明において,ステータコア2の内周2aに当接するのは弾性体部材61であり,この弾性体部材61は,中子部材81の挿入により拡張した円筒状保持部材71により径方向外側に押圧され,その外周側が,鉛直方向に隣接している2つの薄板円板状鋼板3の間の隙間8に食い込むことで,ステータコア2の内周2aに樹脂53が流入することがないようにシールする作用を発揮するものである。
甲1には,弾性体部材61の内周71bに挿入される円筒状保持部材71について,周方向に分割された複数の部材から構成し得ることが示唆されているが(「第5」の2(1)エを参照),弾性体部材61についてそのような示唆はなく,また,仮に弾性体部材61を周方向に分割された複数の部材で構成した場合,ステータコア2の内周2aに当接させて配置することが困難となるばかりでなく,ステータコア2の内周2aとの密着性も低下することにより,上記のシール作用の発揮が妨げられることとなるから,そのような構成の置換は,甲1発明における弾性体部材61の採用意義に反するものである。
また,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,相違点1-2に係る本件特許発明18の発明特定事項についての開示や示唆はない。
よって,相違点1-2に係る本件特許発明18の発明特定事項は,当業者といえども,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,容易に想到できたものではない。
ウ 小括
以上のとおり,本件特許発明18は,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 甲2を主引用例とした場合の新規性,進歩性について
事案に鑑みて,本件特許発明3~13について先に検討する。
(1)本件特許発明3~13について
ア 対比
(ア)本件特許発明3と甲2発明とを対比すると,甲2発明における「ステータコア」は,本件特許発明3における「鉄心部材」に相当し,以下同様に,「複数枚のステータコアを積層してカシメ結合して」との事項は「複数の鉄心部材が積層されて構成されており」との事項に,「積層状態のステータコアを形成する」との事項は「積層体を得る」との事項に,「積層状態ステータコア形成工程」は「積層体形成工程」に,それぞれ相当する。
(イ)甲2発明における「所定のエポキシ樹脂を溶融した容器内へ積層状態のステータコア全体を漬ける絶縁材料被覆工程」と,本件特許発明3における「前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して,前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する樹脂部形成工程」とは,「樹脂部を形成する樹脂部形成工程」である限りにおいて一致する。
(ウ)甲2発明における「ステータコアコーテイング方法」は本件特許発明3における「固定子積層鉄心の製造方法」に相当する。
そうすると,本件特許発明3と甲2発明とは,
「複数の鉄心部材が積層されて構成されている積層体を得る積層体形成工程と,
樹脂部を形成する樹脂部形成工程とを含む,固定子積層鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。
(相違点2-1)
本件特許発明3は,積層体が「環状のヨーク部と,前記ヨーク部に交差する交差方向に前記ヨーク部から延びる複数のティース部とを含」むのに対して,
甲2発明は,積層状態のステータコアの具体的な形状が明らかでない点。
(相違点2-2)
本件特許発明3は,「複数のティース部のうち前記ヨーク部の周方向において隣り合うティース部の間の空間である複数のスロット内にそれぞれ中子部材を挿入する中子部材挿入工程」を含み,「中子部材挿入工程」では,「前記中子部材の本体部が前記スロットの延在方向に沿って延び且つ前記スロットの内壁面と離間していると共に,前記中子部材のうち前記本体部に接続された閉塞部が前記スロットのスロット開口側に位置し且つ前記スロットのうち前記スロット開口側の開放端部を閉塞しており,上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置して」おり,樹脂部形成工程では,「前記スロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して,前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない」のに対して,
甲2発明は,中子部材を使用せず,所定のエポキシ樹脂を溶融した容器内へ積層状態のステータコア全体を漬けて絶縁材料を被覆する点。
イ 判断
事案に鑑みて,相違点2-2から検討する。
甲3発明は,上記「第5」の1(3)のとおり,「多数のスロット23に,前記ステータコア20の中心部分に位置する中子金型35の多数の突部33を入り込ませる」という構成(以下「甲3構成A」という。),及び「前記スロット23の両側面23b,23b及び底面23cを覆うように形成され,前記スロット23のスロット開口部23aの前記ティース22の先端膨出部22dには形成されていない絶縁部材スロット部25aを形成する」という構成(以下「甲3構成B」という。)を備えている。
これに対し,甲2発明は,所定のエポキシ樹脂を溶融した容器内へ積層状態のステータコア全体を漬けて絶縁材料を被覆するもの(「第5」の3(1)イを参照)であり,中子金型35によりスロット23に絶縁部材スロット部25aを形成する甲3発明とは,ステータコアを樹脂で被覆するための設備や方法が大きく異なるから,当業者といえども,中子部材を用いない甲2発明に甲3発明を適用し得ないというべきである。
また,仮に甲2発明に,甲3発明の上記構成を適用しようとしても,甲2発明では,ステータコアを被覆した絶縁材料は,続く余剰材料除去工程にて,遠心分離器によりステータコアの中心孔を含むステータコアの外表面全体にエポキシ樹脂を万遍無く均一に分与するようにされる(「第5」の3(1)イを参照)ため,余剰材料除去工程に先だってスロットの内部のみをエポキシ樹脂で被覆することの必然性は認められず,甲2発明において,甲3構成B(ステータコアの外表面の一部のみを絶縁材料で被覆する構成)をあえて採用する動機を見いだすことはできない。
さらに,仮に甲2発明に,甲3構成A及び甲3構成Bが適用できたとしても,甲3発明と本件特許発明3とは中子部材に関して,上記1(1)の相違点3-3で相違しており,相違点2-2における,中子部材に係る「本体部」の構成や「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置して」いる構成には至らない。また,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,相違点2-2における上記構成についての開示や示唆はない。
よって,相違点2-2に係る本件特許発明3の発明特定事項は,当業者といえども,甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲1及び甲4~甲8の記載を考慮しても,容易に想到できたものではない。
ウ 小括
以上のとおり,相違点2-2に係る本件特許発明3の発明特定事項は,当業者といえども,甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,容易に想到できたものではないから,他の相違点について検討するまでもなく,本件特許発明3は,甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また,本件特許発明4~13は,本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,さらに構成を付加して限定した発明であるから,本件特許発明3と同様に,甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲1及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は,実質的に,本件特許発明3の発明特定事項を全て含み,さらに積層体が「前記複数の鉄心部材のうち積層方向に隣り合う鉄心部材の間に隙間を有」し,樹脂部が「前記スロットの内壁面を覆うように設けられ,前記隙間の前記スロット側を塞ぐ」という構成を付加して限定した発明であるから,上記(1)に示した本件特許発明3についての判断と同様に,甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲1及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件特許発明16について
本件特許発明16は,実質的に,本件特許発明2から「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており」という発明特定事項を取り除いた発明に,さらに「前記樹脂部形成工程の後に,前記中子部材と前記積層体との間に電圧を印加して,前記樹脂部の絶縁性を検査する検査工程」を含むとの事項Aを付加して限定した発明である。
そして,本件特許発明16は,本件特許発明2及び本件特許発明3と同様に,「前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する」という構成を備えるものであるところ,上記(1)イのとおり,甲2発明と甲3発明とは,ステータコアを樹脂で被覆するための設備や方法が大きく異なるから,当業者といえども,中子部材を用いない甲2発明に甲3発明を適用し得ないというべきであり,仮に甲2発明に,甲3発明の上記構成を適用しようとしても,甲2発明において,余剰材料除去工程に先だってスロットの内部のみをエポキシ樹脂で被覆することの必然性は認められず,甲2発明において,甲3発明の上記構成(ステータコアの外表面の一部のみを絶縁材料で被覆する構成)をあえて採用する動機を見いだすことはできない。
また,甲7には,ステータコアを絶縁性樹脂材料にて一体絶縁成形を行う電動機の製造方法において,バリ処理をステータの絶縁検査における耐電圧試験の工程に組み込む技術的事項(段落【0057】を参照)が記載されているが,本件特許発明16の事項Aについての記載や示唆はない。
さらに,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,本件特許発明16の事項Aについての開示や示唆はない。
よって,本件特許発明16は,甲2発明,甲3発明及び甲7に記載された技術的事項に基づき,さらには甲1,甲4~甲6及び甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件特許発明17について
本件特許発明17は,実質的に,本件特許発明2から「上方から見たときに前記中子部材の全体が前記スロットの内側にのみ位置しており」という発明特定事項を取り除いた発明に,さらに「前記中子部材挿入工程では,上方から見たときに前記スロットと略同等の大きさの外形を有する第1及び第2の位置決め治具を,複数の前記スロットのうちの第1及び第2のスロット内にそれぞれ挿入することにより,前記積層体を水平方向において位置決めしつつ,残余のスロット内に前記中子部材を挿入し」,「前記樹脂部形成工程の後に,前記第1及び第2のスロット内から前記第1及び第2の位置決め治具を抜去して,前記第1及び第2のスロット内に前記中子部材をそれぞれ挿入することと,前記第1のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間,及び,前記第2のスロットの内壁面と前記中子部材の外周面との間の充填空間に溶融状態の樹脂を充填して樹脂部を形成することとを行う」との事項Bを付加して限定した発明である。
そして,本件特許発明17は,本件特許発明2及び本件特許発明3と同様に,「前記スロットのうちスロット開口側の開放端部を閉塞しない樹脂部を形成する」という構成を備えるものであるところ,上記(1)イのとおり,甲2発明と甲3発明とは,ステータコアを樹脂で被覆するための設備や方法が大きく異なるから,当業者といえども,中子部材を用いない甲2発明に甲3発明を適用し得ないというべきであり,甲2発明に,甲3発明の上記構成を適用しようとしても,甲2発明において,余剰材料除去工程に先だってスロットの内部のみをエポキシ樹脂で被覆することの必然性は認められず,甲2発明において,甲3発明の上記構成(ステータコアの外表面の一部のみを絶縁材料で被覆する構成)をあえて採用する動機を見いだすことはできない。
また,特許異議申立人が示したいずれの甲号証にも,本件特許発明17の事項Bについての開示や示唆はない。
よって,本件特許発明17は,甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲1及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についてのまとめ
以上のことから,本件特許発明3は,甲3発明ではなく,甲3発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものでもなく,また,本件特許発明2~13,16~17は,甲1発明及び甲3発明,もしくは甲2発明及び甲3発明に基づき,さらには甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件特許発明18は,甲1発明及び甲3発明に基づき,さらには甲2及び甲4~甲8の記載を考慮しても,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,特許異議申立理由によって,本件特許発明2~13,16~18に係る特許を取り消すことはできない。
また,本件訂正により,本件特許発明1,14~15に係る特許についての特許異議申立理由は,その対象となる特許が存在しないものとなった。
第8 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件特許発明2~13,16~18に係る特許を取り消すことができない。
また,他に本件特許発明2~13,16~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1,14~15は,本件訂正により削除されたため,特許異議申立人による請求項1,14~15に係る特許についての特許異議の申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったので,特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって,結論のとおり決定する。
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2021-700602