特許異議申立
2021-700513
二重壁容器
- 審判番号
- 2021-700513
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-218445
- 登録番号
- 6792540
- 請求日
- 2021年05月25日
- 審決日
- 2022年03月30日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】象印マホービン株式会社
- 【権利者代理人】山田 卓二
- 【権利者代理人】前堀 義之
- 【権利者代理人】大塚 雅晴
- 【権利者代理人】中嶋 隆宣
- 【異議申立人】赤松 智信
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 平野 崇
- 審判官 井上 茂夫
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D) / P1651.537-YAA(B65D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6792540号発明「二重壁容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6792540号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~5〕、〔6~8〕について訂正することを認める。
特許第6792540号の請求項2~8に係る特許を維持する。
特許第6792540号の請求項1に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6792540号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成29年11月13日に出願され、令和2年11月10日にその特許権の設定登録がされ、同年11月25日に特許掲載公報が発行された。
本件特許についての異議申立の経緯は、次のとおりである。
令和3年5月25日 :特許異議申立人赤松智信(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て
同年9月22日付け :取消理由通知書
同年11月25日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)
令和4年1月12日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6792540号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし請求項8について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径している、請求項1記載の二重壁容器。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、
内容器は、外容器よりも薄肉に構成されていて、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、
内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結され、
上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径している、二重壁容器。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい、請求項1または2記載の二重壁容器。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、
内容器は、外容器よりも薄肉に構成されていて、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、
内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結され、
上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい、二重壁容器。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の「請求項3記載の二重容器。」を「請求項3記載の二重壁容器。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1~4記載のいずれか1つに記載のいずれか1つに記載の二重壁容器。」を「請求項2~4記載のいずれか1つに記載のいずれか1つの請求項に記載の二重壁容器。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に
「上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい、請求項1または2記載の二重壁容器。」とあるうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、
「内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、
内容器は、外容器よりも薄肉に構成されていて、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、
内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結され、
上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径し、
上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい、二重壁容器。」と記載し、新たに請求項6とする。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に
「上記外容器は、少なくとも、最大胴径部を含む外周壁から上端開口周縁部に至る部分が、接合部の無い一体物で構成されている、請求項3記載の二重容器。」とあるのを、請求項3のうちの請求項2を引用するものについて、
「上記外容器は、少なくとも、最大胴径部を含む外周壁から上端開口周縁部に至る部分が、接合部の無い一体物で構成されている、請求項6記載の二重容器。」と訂正し、新たに請求項7とする。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項5に
「上記外容器に、二重壁容器の蓋部材に形成されたネジ係合部と係合するネジ係合部が形成されている、請求項1~4記載のいずれか1つに記載の二重壁容器。」とあるのを、請求項3のうちの請求項2を引用するものと、請求項4のうちの請求項2を引用するものとについて、
「上記外容器に、二重壁容器の蓋部材に形成されたネジ係合部と係合するネジ係合部が形成されている、請求項6または7記載の二重壁容器。」と訂正し、新たに請求項8とする。
(9)一群の請求項、別の訂正単位とする求め
訂正前の請求項2~5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。
また、特許権者は、訂正後の請求項2~8については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものであり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、請求項を削除するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用するものであるところ、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改めるものであって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、引用関係がある請求項の記載を、その内容変更することなく、当該請求の記載を引用しない形へ書き替えたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(3)訂正事項3、6について
訂正事項3、6は、訂正前の請求項3が請求項1または2の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項1を直接的に引用するもの(訂正事項3)と、請求項1を引用する請求項2を引用するもの(訂正事項6)について、請求項間の引用関係を解消して独立形式に改め、請求項1を引用する請求項2を引用するものについては新たに項番を付したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3、6は、引用関係がある請求項の記載を、その内容変更することなく、当該請求の記載を引用しない形へ書き替えたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下、「当初明細書等」という。)の請求項4が引用する請求項1及び3のいずれも「二重壁容器」と記載されていること、当初明細書等の段落【0010】に「・・・さらにこの場合、接合部の無い一体物で構成されていることが好ましい。これにより、二重壁容器を構成する部品点数が増加するのを抑えて、製造コストを低減することができる。」ことが記載されていることから、本来、「二重壁容器」と記載されるべきところを、「二重容器」と記載されているのを、訂正しようとするものであるから、誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、上記のとおり、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1~4の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されたことに伴い、請求項5が引用する請求項の数を減らすものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項5は、請求項が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(6)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項4が請求項3の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で間接的に引用する請求項1が削除され、かつ、訂正事項3及び6により、訂正前の請求項3が請求項1を直接的に引用するものと、請求項1を引用する請求項2を引用するものの2つに分かれたことに伴い、このうち、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、新たに項番を付したものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項7は、間接的な引用関係がある請求項の記載を、その内容を変更することなく、新たに項番を付したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(7)訂正事項8について
訂正前の請求項5が請求項1~4の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で間接的に引用する請求項1が削除され、訂正事項3及び6により、訂正前の請求項3が請求項1を直接的に引用するものと、請求項1を引用する請求項2を引用するものの2つに分かれ、このうち、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3について、訂正事項6、7により、この請求項3と、請求項3を引用する請求項4に、それぞれ請求項6、請求項7と項番を付したことから、訂正事項8は、請求項3と請求項4を引用する請求項5について、新たな項番を付したものであって、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項8は、間接的な引用関係がある請求項の記載を、その内容を変更することなく、新たに項番を付したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、〔2~5〕、〔6~8〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項2~8に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明2」等という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、
内容器は、外容器よりも薄肉に構成されていて、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、
内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結され、
上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径している、二重壁容器。
【請求項3】
内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、
内容器は、外容器よりも薄肉に構成されていて、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、
内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結され、
上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい、二重壁容器。
【請求項4】
上記外容器は、少なくとも、最大胴径部を含む外周壁から上端開口周縁部に至る部分が、接合部の無い一体物で構成されている、請求項3記載の二重壁容器。
【請求項5】
上記外容器に、二重壁容器の蓋部材に形成されたネジ係合部と係合するネジ係合部が形成されている、請求項2~4記載のいずれか1つに記載のいずれか1つに記載の二重壁容器。
【請求項6】
内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、
内容器は、外容器よりも薄肉に構成されていて、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、
内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結され、
上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径し、
上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい、二重壁容器。
【請求項7】
上記外容器は、少なくとも、最大胴径部を含む外周壁から上端開口周縁部に至る部分が、接合部の無い一体物で構成されている、請求項6記載の二重容器。
【請求項8】
上記外容器に、二重壁容器の蓋部材に形成されたネジ係合部と係合するネジ係合部が形成されている、請求項6または7記載の二重壁容器。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1、5に係る特許に対して、当審が令和3年9月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第10号証に記載された技術的事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。(なお、「甲第1号証」等を、以下「甲1」等とする。)
甲1:特開2016-116628号公報
甲3:特開昭63-127723号公報
甲4:特開2004-313612号公報
甲5:特開2007-268001号公報
甲10:特許第3602764号公報
2 甲号証の記載
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0016】
(1)容器本体
容器本体110は、いわゆる真空二重容器であって、図2に示されるように、主に、有底の内筒111および有底の外筒112から形成されている。具体的には、内筒111と外筒112との間に空間SPが形成されるように内筒111の湾曲折返し部(詳しくは図3の符号111d参照)と外筒112の上端壁部(詳しくは図3の符号112d参照)とが接合された後、空間SPが真空状態とされることにより容器本体110が形成される。
【0017】
内筒111は、SUS316L、SUS316およびSUS304L等の鋼材やチタニウム等の金属材から形成されている部材であって、図2に示されるように、主に、内筒側壁部111a、内筒底壁部111b、上壁部111c、湾曲折返し部111dおよび段部111eから形成されている。内筒側壁部111aは、図2に示されるように、円筒形状を呈している。内筒底壁部111bは、中央部CTが開口側に向かって球面状に盛り上がっており、隅部CRが凹円弧状を呈している。そして、中央部CTの球面の径は、隅部CRの円弧の径よりも大きくされている。上壁部111cは略円筒形状を呈しており、その開口径は内筒側壁部111aの開口径よりも大きくなっている。また、この上壁部111cは、段部111eを介して内筒側壁部111aに連続している。湾曲折返し部111dは、図3に示されるように、カーリング加工(本実施形態では縦断面を逆Uの字型にするカーリング加工)されて形成された部位であって、上壁部111cの上端から外側に向かって湾曲しながら折り返されている。段部111eは、逆切頭円錐筒形状(逆円錐台筒形状)の部位であって、上述の通り、内筒側壁部111aと上壁部111cとの間に位置し、内筒側壁部111aと上壁部111cとを繋いでいる。なお、この段部111eは、蓋体120が容器本体110に装着されたときに蓋体120に装着されているパッキンPKに当接するように、位置決めされている(図1参照)。
【0018】
外筒112は、SUS316L、SUS316およびSUS304L等の鋼材やチタニウム等の金属材から形成されている部材であって、図2に示されるように、主に、外筒側壁部112a、外筒底壁部112b、雄ネジ部112cおよび上端壁部112dから形成されている。外筒側壁部112aは、主として、逆切頭円錐筒形状(逆円錐台筒形状)を呈しているが、図2および図4に示されるように、下端部112eが湾曲しながら内側に向かって延びている。すなわち、この外筒側壁部112aの側面には継ぎ目が存在しない。外筒底壁部112bは、略円盤形状を呈しており、図4に示されるように外筒側壁部112aの内周縁(図4の符号MCの箇所)で溶接されている。雄ネジ部112cは、外筒側壁部112aの上部に形成されており、蓋体120の雌ネジ部123c(後述)に螺合することができる。上端壁部112dは、図2および図3に示されるように、外筒112の上端部分に位置する部位であって、内筒111の湾曲折返し部111dの外側壁部の内周面に内側から接するように設計されており、湾曲折返し部111dと接合されている。」
イ 「【図2】
[図:0001385173000001.jpg]
」
ウ 「【図3】
[図:0001385173000002.jpg]
」
エ 甲1の、カーリング加工されて形成された部位であって、上端部111cの上端から外側に向かって湾曲しながら折り返されている「湾曲折返し部111d」は、図3より、容器軸方向の断面が、円弧状であることが看取できる。
オ 「【0025】
挿入工程では、図5に示されるように、内筒底壁部111bが下を向いた状態で内筒111が、外筒底壁部112bが溶接される前の外筒(以下「外筒部品」という。)P12または外筒112の上から外筒部品P12または外筒112に挿入される。なお、本実施の形態に係る容器本体110において、内筒111の湾曲折返し部111dの外径は、外筒部品P12または外筒112の下端の開口OPの内径よりも大きく、内筒111の下端の外径は、外筒部品P12または外筒112の上端壁部112dの内径よりも小さい。したがって、本発明の実施の形態に係る容器本体110を組み立てるためには、内筒111を外筒部品P12または外筒112の下から挿入することはできず、内筒111を外筒部品P12または外筒112の上から挿入せざるを得ない。・・・」
上記したアの記載、イ及びウの図示、エの認定事項から、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されているといえる。
「内筒111と外筒112との間に空間SPを備えてなる真空二重容器であって、
外筒112は、主に、外筒側壁部112a、外筒底壁部112b、雄ネジ部112cおよび上端壁部112dから形成され、
内筒111は、カーリング加工されて形成され、上端が外側に向かって湾曲しながら折り返されている容器軸方向の断面が円弧状の湾曲折返し部111dを備えており、
外筒112の上端壁部112dが、内筒111の湾曲折返し部111dの半径方向内側に接触し、当該接触箇所において、内筒111と外筒112が溶接により連結されている、
真空二重容器。」
(2)甲10の記載事項
甲10には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0027】
(実施の形態1)
本実施の形態1において、図1~図7に示す金属製の保温容器では、金属製の内容器1と、この内容器1との間に空間Sを形成した外装体をなす金属製の外容器2とにより本体容器3を構成し、内容器1の開口縁4に外方に折り曲げて垂下した垂下部6を形成して、この垂下部6に外容器2の開口縁7を高さ方向に所定幅を有して重ね合わせ、この重ね合わせ部8の外側に位置される重ね合わせ端部6aを溶接9して内外容器1、2の開口縁4、7を溶着することにより本体容器3の開口縁3aを形成している。」
イ 「【0035】
この容器本体3は、その開口縁3aを形成する場合、内容器1の開口縁4に外フランジ5を形成して、この外フランジ5の端縁を垂下して前記垂下部6を形成している。
【0036】
このように、内容器1の開口縁4に外フランジ5を形成することで、この外フランジ5により形成される本体容器3の開口縁3aの頂面に平滑面が形成されることになり、この開口縁3aに載置される蓋体12との面接触による接触面積が大きくなって、蓋体12との気密性が良好となって保温性が向上され、それと共に蓋体12の載置状態が安定したものとなる。」
ウ 「【0039】
この本体容器3においては、内容器1の開口縁4に形成された垂下部6と重ね合わされる外容器2の開口縁7の下方近傍に外側回りの下向きの環状段部10を形成している。この下向きの環状段部10を形成したことで、外容器2の開口寸法が安定したものとなって、内容器1の垂下部6との重ね合わせが容易となり組み立て作業性が向上され、かつこの下向きの環状段部10の形成で外容器2の開口縁7が補強され重ね合わせ溶接と共により堅牢な本体容器3の開口縁3aを形成するようにしている。」
エ 「【0045】
また、図5および図6の(c)に示すように、前記図5および図6の(a)、(b)に示す重ね合わせ部8とは逆に、外容器2の開口縁7を内容器1の垂下部6の外側に位置させて、この外容器2の開口縁7の端縁をなす重ね合わせ端部7aと垂下部6とを溶接9して、本体容器3の開口縁3aを形成するようにしてもよい。この構成であれば、溶接端7aが上方に位置されるので本体容器3の正立姿勢で溶接することができ、溶接作業性の向上が図られる。この構成でも重ね合わせ端部7aと垂下部6との溶接部9を内容器1の外フランジ5に連続する連続面として形成することで溶接端面処理が均一にきれいに仕上るようにしている。・・・」
オ 「【図5】(C)
[図:0001385173000003.jpg]
」
カ 「【図6】(C)
[図:0001385173000004.jpg]
」
キ 上記摘記事項ウ、オ及びカの図示から、「外容器2の開口縁7」は、その下方近傍に外側回りの下向きの環状段部10が形成され、容器上方に向かうにつれて拡径していることが看取できる。
3 当審の判断
(1)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明を対比すると、甲1発明の「内筒111」、「外筒112」、「空間SP」、「真空二重容器」、「カーリング加工されて形成され、上端が外側に向かって湾曲しながら折り返されている容器軸方向の断面が円弧状の湾曲折返し部111d」、「上端壁部112d」は、本件発明2の「内容器」、「外容器」、「空間」、「二重壁容器」、「上側が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部」、「上端開口周縁部」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「外筒112の上端壁部112dが、内筒111の湾曲折返し部111dの半径方向内側に接触し、当該接触箇所において、内筒111と外筒112が溶接により連結されている」ことと、本件に発明2の「内容器よりも厚肉に構成された外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の半径方向外側に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結されている」こととは、「外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結されている」という限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明2と甲1発明とは、「内容器と外容器との間に空間を備えてなる二重壁容器であって、内容器は、上端が外側に向かって湾曲するとともにカールしながら下方に折り返す断面円弧状の湾曲折返部を備えており、外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結されている、二重壁容器。」で一致し、以下の相違点1~3で相違する。
≪相違点1≫
本件発明2は、内容器と外容器の厚さにつき、内容器が外容器よりも薄いものであるのに対し、甲1発明は、内筒と外筒の厚さについて限定がなされていない点。
≪相違点2≫
「外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部に接触し、当該接触箇所において、内容器と外容器が溶接により連結されている」ことについて、本件発明2は、外容器の上端開口周縁部が、内容器の湾曲折返部の「半径方向外側」に接触しているのに対し、甲1発明は、「湾曲折り返し部111」の「半径方向内側」に接触している点。
≪相違点3≫
本件発明2は、「上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径している」のに対し、甲1発明は、外筒112の上端壁部112dと、湾曲折返し部111dのいずれも、容器上方に向かうにつれて縮径することは記載されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3から検討する。
甲10に記載された「外容器2の開口縁7」は、その下方近傍に外側回りの下向きの環状段部10が形成され、容器上方に向かうにつれて拡径している(上記2(2)認定事項キ)。
そうすると、甲1発明の内筒111と外筒112を溶接するにあたり、甲10に記載された事項を適用したとしても、外筒112の上端壁部112dが、容器上方に向かうにつれて拡径した構成となるから、甲1発明において、相違点3に係る本件発明2の構成を備えたものには到達し得ない。
したがって、本件発明2は、甲1発明及び甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(2)本件発明3について
本件発明3と甲1発明を対比すると、両者は、上記(1)に示した点で一致し、相違点1、2に加えて以下の点で相違する。
≪相違点4≫
本件発明3は、「上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい」のに対し、甲1発明は、内筒の最大胴径と、外筒の上端壁部の開口径について限定がなされていない点。
上記相違点4について検討する。
甲1には、上記2(1)ア、オに摘記したように、「上壁部111cは略円筒形状を呈しており、その開口径は内筒側壁部111aの開口径よりも大きくなって」おり、「本発明の実施の形態に係る容器本体110を組み立てるためには、内筒111を外筒部品P12または外筒112の下から挿入することはできず、内筒111を外筒部品P12または外筒112の上から挿入せざるを得ない。」ことが記載されている。
甲10には、「下向きの環状段部10を形成したことで、外容器2の開口寸法が安定したものとなって、内容器1の垂下部6との重ね合わせが容易となり組み立て作業性が向上され」(上記2(2)摘記事項ウ)ることが記載されており、「外容器2の開口縁7」は、その下方近傍に外側回りの下向きの環状段部10が形成され、容器上方に向かうにつれて拡径している(上記2(2)認定事項キ)ものである。
そうすると、甲1発明及び甲10に記載された事項は、いずれも内容器を外容器の上から挿入することを前提とし、内容器の最大胴径を、外容器の開口径よりも大きくすると、外容器の上から内容器を挿入することができなくなるから、甲1発明及び甲10に記載された事項の双方において、相違点4に係る本件発明3の発明特定事項を採用することには、動機付けがあるとはいえず、むしろ阻害要因がある。
したがって、相違点3に係る本件発明2の発明特定事項は、甲1発明及び甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(3)本件発明4~8について
本件発明4、5は、いずれも、本件発明2又は3の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものであり、本件発明6~8は、相違点3に係る本件発明2の発明特定事項及び相違点4に係る本件発明3の発明特定事項を含んだものである。
そうすると、本件発明4~8を甲1発明と対比すると、両者の間には、少なくとも、本件発明2又は3と甲1発明を対比した際の上記相違点3又は4の少なくとも1つが存在することになり、そして、その相違点3又は4についての判断は、既に述べたとおりである。
したがって、本件発明4~8は、いずれも、甲1発明及び甲10に記載された事項に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。
(4)申立人の意見について
ア 申立人は、令和4年1月12日に提出した意見書において、次の主張をしている。
(ア)訂正後の請求項2、6の「湾曲折返部の外周壁部」が「容器上方に向かうにつれて縮径している」という構成は、その断面が直線状であるから、「断面円弧状の湾曲折返部」という構成と矛盾しており、明確性要件に違反する。
(イ)訂正後の請求項2、6の「上記外容器の上端開口周縁部と、当該上端開口周縁部が接触する湾曲折返部の外周壁部と、の少なくとも一方が、容器上方に向かうにつれて縮径している」という構成は、周知慣用技術である。
(ウ)訂正後の請求項3、6の「上記内容器の最大胴径は、外容器の上端開口周縁部の開口径よりも大きい」という構成は、周知慣用技術である。
イ 上記主張について検討する。
主張(ア)について、本件発明2に係る「湾曲折返部」は、本件明細書の段落【0015】の「湾曲折返部21は、半径方向外側に向かってカールしながら下方へと折り返すカール部21と、カール部21aから下方に延在する外周壁部21bと、で構成されている。」との記載、段落【0021】の「内容器20の湾曲折返部21の外周壁部21bと、外容器30の上端開口周縁部31とが、上方に向かうにつれて縮径している。」との記載、及び図1(b)からみて、「断面円弧状」という構成は、「湾曲折返部」のうち、「カール部21a」が、「容器上方に向かうにつれて縮径している」という構成は、「湾曲折返部」のうち「外周壁部21b」が備える構成であって、本件発明2の「湾曲折返部」が2つの構成を備えたものであることは、明らかである。
[図:0001385173000005.jpg]
主張(イ)及び(ウ)について、「外容器の上端が縮径すること」や、「内容器の最大胴径を外容器の開口径よりも大きくすること」について、申立人が周知技術の根拠として示した証拠は、いずれも内容器を外容器の下から挿入することを前提とするものである。そして、甲1発明及び甲10に記載された事項は、いずれも内容器を外容器の上から挿入するものであるから、甲1発明及び甲10に記載された事項に対して、当該周知技術を適用することには阻害要因がある。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
特許異議申立理由中、取消理由に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。
(1)(甲1に基づく進歩性)本件訂正前の請求項2~4は、甲1に記載された発明に、甲10に記載された事項及び出願当時の周知技術等を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)(甲10に基づく進歩性)本件訂正前の請求項1~5は、甲10に記載された発明に、甲1記載事項及び出願当時の周知技術等を組み合わせることで、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)(明確性)本件訂正前の請求項1~5は、「断面円弧状の湾曲折返部」が何を意味するのか不明であり、明確性要件を充たさない。
(4)(サポート要件)本件明細書には、カール部について断面円弧状であることは記載されているが、湾曲折返部について断面円弧状であることは記載されておらず、本件訂正前の請求項1~5は、サポート要件を充たさない。
2 判断
(1)甲1に基づく進歩性について
甲1に記載された事項及び甲1発明は、上記第4 2(1)に記載したとおりである。
そして、訂正後の請求項2~4は、訂正前の請求項2、3の発明特定事項を含んだものであって、訂正後の請求項2~4と甲1発明を対比すると、両者の間には、上記第4 3(1)及び(2)に挙げた相違点3又は4が少なくとも存在することになり、そして、その相違点3又は4についての判断は、既に述べたとおりである。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
(2)甲10に基づく進歩性について
甲10に記載された事項は、上記第4 2(2)に記載したとおりであり、訂正前の請求項1と対比すると、両者は少なくとも、訂正前の請求項1の「湾曲折返部」は「断面円弧状」であるのに対し、甲10の「垂下部6」を含む「外フランジ5」は、「内容器1の開口縁4に外フランジ5を形成して、この外フランジ5の端縁を垂下して前記垂下部6を形成し」、「この外フランジ5により形成される本体容器3の開口縁3aに平滑面が形成」(上記第4 2(2)摘記事項イ)されるものであって、断面形状が異なる点で相違する。
そして、甲10の「本体容器3の開口縁3aに平滑面が形成」される構成は、「この開口縁3aに載置される蓋体12との面接触による接触面積が大きくなって、蓋体12との気密性が良好となって保温性が向上され、それと共に蓋体12の載置状態が安定したものとなる」(上記第4 2(2)摘記事項イ)という効果を発揮するものであるから、当該構成を、断面円弧状に変更する動機付けがない。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
(3)明確性及びサポート要件について
本件明細書の段落【0015】には「湾曲折返部21は、半径方向外側に向かってカールしながら下方へと折り返すカール部21aと、カール部21aから下方に延在する外周壁部21bと、で構成されている。」ことが記載されており、湾曲折返部がその構成の一部として、断面円弧状のカール部を有していることは明らかであり、本件発明2~5は明確であり、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項2~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項1に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることが出来ないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定より却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700513