2021-700460
化粧シート及びこれを用いた成型品
- 審判番号
- 2021-700460
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-189191外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6805683
- 請求日
- 2021年05月14日
- 審決日
- 2021年11月24日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】藤下 万実
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 21項目
第1 手続の経緯
特許第6805683号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成28年9月28日の出願であって、令和2年12月8日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年5月14日に特許異議申立人藤下万実(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第6805683号の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】基材シート上に、少なくとも表面保護層を有する化粧シートであって、(1)前記表面保護層の表面の20°グロスが40未満であり、(2)前記表面保護層の表面のオレイン酸の接触角が12°以上であり、続きを表示(全16行)(3)前記表面保護層の表面の動摩擦係数が0.5以下であり、(4)前記化粧シートの厚みが50~250μmであり(5)前記化粧シートは、クラック発生伸度が20~300%であり、(6)前記表面保護層の厚みが1~5μmであり、(7)前記表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含む、ことを特徴とする化粧シート。【請求項2】2%モジュラスが5~25N/15mmである、請求項1に記載の化粧シート。【請求項3】前記基材シートの裏面に、更に裏面プライマー層を有する、請求項1又は2に記載の化粧シート。【請求項4】被着材上に、請求項1~3のいずれかに記載の化粧シートを有する成型品。」
第3 申立理由の概要
申立人は、以下に示す甲第1~8号証(以下「甲1」等という。)を提出し、請求項1~4に係る特許は、以下の理由により、取り消されるべきものである旨を主張する。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1及び4は、甲1に記載された発明であるから、それらに係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~4は、甲1~6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらに係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載が、次の点で、当業者が本件発明1~4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、それらに係る特許は、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)発明の詳細な説明には、実施例2~9、比較例1~7の化粧シートの具体的な製造方法が記載されていないため、当業者が本件発明1~4の実施をすることができない。
(2)本件特許の明細書の【0103】及び【0104】に記載された実施例1と、【0123】【表1】に記載された実施例1とが整合していないため、当業者が本件発明1~4の実施をすることができない。
4 申立理由4(サポート要件)
本件発明1~4が、次の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、それらに係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・発明が解決しようとする課題を解決している実施例は実施例1~9であるが、原料と製法が具体的に記載されているのは実施例1のみであり、当該記載から、本件発明1~4の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
[引用文献等一覧]
第4 引用文献の記載
1 甲1
(1)甲1には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】【請求項1】基材上に、少なくとも表面保護層を積層してなる化粧シートであって、表面保護層が平均分子量100~3000の単官能シリコーン(メタ)アクリレートを含有する電離放射線硬化性樹脂組成物を架橋硬化した層であり、かつ表面の静摩擦係数が0.2μS以下であることを特徴とする化粧シート。」
「【背景技術】【0002】家具、建具等の建材の表面装飾材料として用いられる化粧シートは、通常、絵柄が施され、その上に耐汚染性、耐摩耗性、耐擦傷性を付与するために、表面保護層が設けられる。これらのうち、耐汚染性を向上させるために、シリコーンを表面保護層に添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ところで、キッチン等の水周りにおいては、水系汚染物の飛散による汚染が考えられ、上記性能に加え、撥水性能が重要であり、特許文献1に開示される化粧材のさらなる改良が望まれていた。」
「【発明が解決しようとする課題】【0004】化粧シートに撥水性能を付与するためには、通常、表面張力が低いシリコーン樹脂やフッ素樹脂をトップコート層に添加する方法がとられるが、単に添加するのみでは、これらの樹脂が固定化されないため、耐久性に劣るという問題がある。すなわち、水周りの化粧シートにおいては、水系汚染物をタオル等で乾拭きすることが多いため、繰り返しの乾拭き等によって、添加されたシリコーン樹脂やフッ素樹脂の効果が低下し、長期間にわたって撥水性能を維持することが課題とされていた。本発明は、このような状況下、耐汚染性及び撥水性能に優れ、かつ、経時的に撥水性能が低下しない化粧シートを提供することを目的とする。」
「【0015】図1に示される絵柄層4は基材2に装飾性を与えるものであり、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。模様としては、各種木材板の表面を模した木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様等があり、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、および黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色のインキと版を用意して行う、いわゆる「特色」による多色印刷等によっても形成される。この絵柄層4は厚さ1~20μm程度が好ましい。」
「【0023】表面保護層6に用いる電離放射線硬化性樹脂としては、従来公知の化合物を適宜使用すれば良く、従来電離放射線硬化性樹脂組成物として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマーないしはプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。」
「【0024】次に、重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系などが挙げられる。」
「【0028】上記無機フィラーのうち、特にシリカを含有することが好ましい。シリカは屈折率が電離放射線硬化性樹脂組成物と近く、1.2程度であるため、透明性を維持しながら艶の制御を行うことができる。ここで用いられるシリカは、通常、平均粒径が1~30μmのものである。平均粒径の選択は表面保護層の硬化後の膜厚に対して0.1~1μm程度大きいものを選択することが好ましく、このことにより、シリカが一部表面に露出し、艶の制御を効果的に行うことができる。」
「【実施例】【0038】次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。(評価方法)続きを表示(全50行)各実施例及び比較例で得られた化粧シートについて、以下の方法で評価した。(1)塗工時の面性化粧シートの表面を目視にて観察し、判定基準を以下のようにして評価した。◎;塗工面が目視で平滑な状態となっており、かつ安定性が極めて高い○;塗工面が目視で平滑な状態となっている×;塗工面が目視で荒れており、レベリング性が不良である(2)耐汚染性(2-1)はじき性JIS K-6902に準拠して、汚染物質として油性マジックインキ(寺西化学工業(株)製、No.500)を化粧シートに付着させて、はじき性を以下の判定基準で評価した。○ インキが液滴となった× インキをはじかずぬれた状態となった(2-2)油性マジック消去性上記化粧シートに付着させた油性マジックインキを24時間後(以下「初期」という)に柔らかい布(ガーゼ)で乾拭きを行い、汚染物の残存度の評価を目視にて行った。また、以下に示す摺動試験を行った後に、油性マジックインキを化粧シートに付着させ、柔らかい布(ガーゼ)で乾拭きを行い、汚染物の残存度の評価を目視にて行った。判定基準を以下のようにして評価した。○ 汚染物質を完全に拭取ることができる△ 汚染物質がわずかに残る× 汚染物質の残りが著しい(3)耐水性(3-1)対水接触角協和界面化学(株)製自動接触角計「CA-V型」を用いて測定した。(3-2)すべり角東洋精機製作所製「摩擦測定機AN型」を用いて測定した。傾斜速度は1度/秒とした。(4)摺動試験ラビング試験機のラビング面にタオルを固定し、化粧シートの表面を10000往復回擦った。擦る際のラビング面の摩擦速度は300mm/sec、タオルと化粧シートの表面との接触面積は50mm×43mm、荷重は500gとした。(5)静摩擦係数東洋精機製作所製「摩擦測定機AN型」を用いて測定した。【0039】実施例1基材2として、ポリプロピレン系樹脂フィルム(厚さ60μm、透過率10%)を用い、該基材の表面にコロナ放電処理を施した後、表面に絵柄層4として木目柄をグラビア印刷により形成した。次いで、絵柄層4の上に2液硬化型ウレタン樹脂からなる塗工液を塗工して得た接着剤層(厚さ3μm)を介し、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体からなるポリプロピレン系熱可塑性エラストマーをTダイで溶融押し出し塗工することによって、透明樹脂層5(厚さ80μm)を形成した。該透明樹脂層5の上に、アクリル-ウレタンブロック重合体(主剤)と、ヘキサメチレンジイソシアネート(硬化剤)とからなる2液硬化型ウレタン系樹脂を塗工し、プライマー層(厚さ2μm)を形成した。次に、第1表に示す成分からなる組成物を塗工して塗膜を形成した後、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して上記塗膜を架橋硬化させることにより、表面保護層6(厚さ5μm)を形成し、化粧シートを得た。上記評価方法にて評価した結果を第1表に示す。【0040】実施例2及び比較例1~3第1表に示す成分からなる組成物を用いて表面保護層6を形成したこと以外は実施例1と同様にして化粧シートを得た。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。【0041】【表1】[図:0001380943000001.jpg]【0042】*1 ウレタンオリゴマーA;1分子中に少なくとも2個のラジカル重合性不飽和基を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー*2 ウレタンオリゴマーB;1分子中に3~15個のラジカル重合性不飽和基を有する脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー*3 シリコーンアクリレートA;単官能シリコーンアクリレート、平均分子量2000*4 シリコーンアクリレートB;3官能シリコーンアクリレート、平均分子量2000*5 シリコーンアクリレートC;3官能シリコーンアクリレート、平均分子量6000*6 無機フィラー;炭酸カルシウム、平均粒径5μm*7 シリカ;平均粒径7μm*8 耐候剤;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール」
「【図1】[図:0001380943000002.jpg]」
(2)上記1に摘記、あるいは図示した事項から、特に実施例1に着目して総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリプロピレン系樹脂フィルム(厚さ60μm)を用いた基材の表面に絵柄層を形成し、絵柄層の上に接着剤層(厚さ3μm)を介し、透明樹脂層(厚さ80μm)を形成し、透明樹脂層の上にプライマー層(厚さ2μm)を形成し、次に、表面保護層(厚さ5μm)を形成して得た化粧シートであって、表面保護層は、樹脂として、ウレタンオリゴマーA(1分子中に少なくとも2個のラジカル重合性不飽和基を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)及びウレタンオリゴマーB(1分子中に3~15個のラジカル重合性不飽和基を有する脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)を含む組成物を塗工して塗膜を形成した後、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して架橋硬化させたものである、化粧シート。」
2 甲2
甲2には、次の事項が記載されている。
「【0099】第3の本発明の化粧シート及び第4の本発明の装飾粘着シートは、その伸度2%におけるモジュラスが2~40N/10mmであることが好ましい。2N/10mm未満であると、柔らかくなりすぎるため施工時に直線的な施工が困難となるばかりか、数枚のシートを突き合わせ施工する際に目隙が出来やすくなることから実用には適さないことがあり、40N/10mmを超えると、三次曲面等に対する追従性が悪くなり施工性を悪化させることがある。より好ましくは5~30N/10mmである。」
「【0133】(9)2%モジュラス及び(10)破断点伸度JIS K 6734「硬質塩化ビニルシート及びフィルム試験方法」に準拠してシート状成形体の2%伸長時の応力及び破断点伸度を測定した。」
3 甲3
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0113】(8)2%モジュラスJIS K 6734「硬質塩化ビニルシート及びフィルム試験方法」に準拠して化粧シートの2%伸長時の応力を測定した。【0114】【表1】続きを表示(全12行)[図:0001380943000003.jpg]【0115】【表2】[図:0001380943000004.jpg]【0116】【表3】[図:0001380943000005.jpg]」
4 甲4
甲4には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0078】裏面プライマー層基材シートの裏面(絵柄模様層が積層される面と反対側の面)には、必要に応じて、裏面プライマー層を設けてもよい。例えば、当該化粧シートと被着材とを積層して化粧板を作製する際に効果的である。」
「【符号の説明】【0118】1. 化粧シート2. 裏面プライマー層続きを表示(全11行)3. 基材シート4. 絵柄模様層5. 接着剤層6. 透明性樹脂層7. プライマー層8. 表面保護層9. エンボス模様(木目板導管溝)」
「【図1】[図:0001380943000006.jpg]」
5 甲5
甲5には、次の事項が記載されている。
「【0068】(裏面プライマー層)裏面プライマー層(図示せず)は、基材2と各種の被着材との接着性を向上させる目的で好ましく設けられる層であり、基材2の表面保護層5を設ける側の面とは反対側の面(裏面)に設けられる。裏面プライマー層の形成に用いられる材料としては特に限定されず、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂などが好ましく挙げられ、被着材によって、適宜選択すればよい。また、裏面プライマー層の厚さは、1~5μm程度であることが好ましく、より好ましくは1~3μmである。厚さが上記範囲内であると、効率よく、プライマー層としての優れた性能を得ることができる。」
6 甲6
甲6には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0037】本発明の化粧シート1は、各種基板に貼着して化粧板として使用することができる。従って、化粧シート1と各種基板との接着を強固にするため、所望により基材2の裏面にプライマー層8が設けられる。このプライマー層8は、公知のプライマー剤を塗布することにより形成できる。プライマー剤としては、例えば、アクリル変性ウレタン樹脂等からなるウレタン樹脂系プライマー剤、ウレタン?セルロース系樹脂(例えば、ウレタンと硝化綿の混合物にヘキサメチレンジイソシアネートを添加してなる樹脂)からなるプライマー剤等が挙げられる。プライマー層の厚さは特に限定されないが、通常0.01~10μm、好ましくは0.5~5μm程度である。」
「【符号の説明】【0056】1 化粧シート2 基材3 隠蔽層4 絵柄層5 中間層6 表面保護層7、7a、7b 接着層8 プライマー層」
「【図1】[図:0001380943000007.jpg]」
7 甲7
甲7には、次の事項が記載されている。
「まさつけいすう 摩擦係数 ・・・動摩擦係数は静摩擦係数より小さく,・・・」(855ページ右欄3~13行)
8 甲8
甲8には、次の事項が記載されている。
「2.引用規格 次の規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。・・・JIS K 7127 プラスチック-引張特性の試験方法-第3部:フィルム及びシートの試験条件」
第5 当審の判断
1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「基材」は本件発明1の「基材シート」に相当し、以下同様に、「表面保護層」は「表面保護層」に、「化粧シート」は「化粧シート」に相当する。
甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂フィルム(厚さ60μm)を用いた基材の表面に絵柄層を形成し、絵柄層の上に接着剤層(厚さ3μm)を介し、透明樹脂層(厚さ80μm)を形成し、透明樹脂層の上にプライマー層(厚さ2μm)を形成し、次に、表面保護層(厚さ5μm)を形成」したことは、本件発明1の「基材シート上に、少なくとも表面保護層を有する」ことに相当する。
甲1発明の「表面保護層(厚さ5μm)」は、本件発明1の「(6)前記表面保護層の厚みが1~5μmであ」ることに相当する。
甲1発明の「表面保護層は、樹脂として、ウレタンオリゴマーA(1分子中に少なくとも2個のラジカル重合性不飽和基を有するウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)及びウレタンオリゴマーB(1分子中に3~15個のラジカル重合性不飽和基を有する脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー)を含む組成物を塗工して塗膜を形成した後、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して架橋硬化させたものである」ことは、本件発明1の「(7)前記表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含む」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、かつ、相違する。
[一致点]
「基材シート上に、少なくとも表面保護層を有する化粧シートであって、(6)前記表面保護層の厚みが1~5μmであり、(7)前記表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含む、化粧シート。」
[相違点1]
本件発明1は「(1)前記表面保護層の表面の20°グロスが40未満であ」るのに対して、甲1発明はその点が不明である点。
[相違点2]
本件発明1は「(2)前記表面保護層の表面のオレイン酸の接触角が12°以上であ」るのに対して、甲1発明はその点が不明である点。
[相違点3]
本件発明1は「(3)前記表面保護層の表面の動摩擦係数が0.5以下であ」るのに対して、甲1発明はその点が不明である点。
[相違点4]
本件発明1は「(4)前記化粧シートの厚みが50~250μmであ」るのに対して、甲1発明は「ポリプロピレン系樹脂フィルム(厚さ60μm)を用いた基材の表面に絵柄層を形成し、絵柄層の上に接着剤層(厚さ3μm)を介し、透明樹脂層(厚さ80μm)を形成し、透明樹脂層の上にプライマー層(厚さ2μm)を形成し、次に、表面保護層(厚さ5μm)を形成して得た」ものである点。
[相違点5]
本件発明1は「(5)前記化粧シートは、クラック発生伸度が20~300%であ」るのに対して、甲1発明はその点が不明である点。
イ 判断
(ア)新規性について
事案に鑑み、相違点5について検討する。
「クラック発生伸度」に関して、本件特許の明細書には、「本発明の化粧シートの上記クラック発生伸度の調整は、・・・例えば、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物に含まれる電離放射線硬化性樹脂の官能基数、分子量等を調整することにより行うことができる。電離放射線硬化性樹脂の官能基数を増やすと樹脂が硬くなり、クラック発生伸度が小さくなり、官能基数を減らすと樹脂が柔らかくなり、クラック発生伸度が大きくなる傾向がある。電離放射線硬化性樹脂の分子量を小さくすると樹脂が硬くなり、クラック発生伸度が小さくなり、電離放射線硬化性樹脂の分子量を大きくすると樹脂が柔らかくなり、クラック発生伸度が大きくなる傾向がある。」と記載されている。
すなわち、樹脂組成物の「クラック発生伸度」は、「表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物に含まれる電離放射線硬化性樹脂の官能基数、分子量等」によって変化する。
そうすると、甲1発明が、本件特許の明細書の実施例1とほぼ同じ電離放射線硬化性樹脂とシリカを同じ質量部で用いて、同じ方法で、ほぼ同じ厚みの表面保護層を形成するものであったとしても、「表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物に含まれる電離放射線硬化性樹脂の官能基数、分子量等」が特定されない甲1発明の「クラック発生伸度」を特定することができない。
したがって、相違点5は実質的な相違点であるから、相違点1~4について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。
(イ)進歩性について
事案に鑑み、相違点5について検討する。
甲1発明の課題は、「水周りの化粧シート」において「耐汚染性及び撥水性能に優れ、かつ、経時的に撥水性能が低下しない化粧シートを提供すること」(上記第4の1(1)の【0004】)である。
一方で、本件発明1が解決しようとする課題は、「自動車用内外装部品等の部材は、様々な形状を有しており、化粧シートにはこれらの部材の表面に貼り合わせる際に、追従性や、スプリングバック、クラックの発生の抑制等の、いわゆる成型加工性が要求される」ところ、「耐汚染性に優れ、且つ、優れた成型加工性を示し、意匠性に優れたマットタイプの化粧シートを提供すること」である。
「成型加工性」に関して、「自動車用内外装部品等の部材」に貼り合わされる「化粧シート」として用いられる本件発明1は、「様々な形状を有し」た部材への追従性が要求されるものであるのに対して、甲1発明のような「水周りの化粧シート」は、一般に、「様々な形状を有し」た部材への追従性は要求されるものではない。
そうすると、甲1発明において、「優れた成型加工性を示」すようにする動機付けはないから、甲1発明において、「クラック発生伸度が20~300%」のものとすることは、当業者が適宜なし得たことではない。
また、相違点5に係る本件発明1の構成とすることについては、甲1~6に記載されておらず、また、本件特許の出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明において、相違点5に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1~4を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~3について
本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イ(ア)で検討したのと同じ理由により、本件発明4は甲1発明ではなく、また、上記(1)イ(イ)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~4は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
2 申立理由3(実施可能要件)について
(1)本件特許の発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
ア 化粧シートのクラック発生伸度の調整
「【0025】本発明の化粧シートの上記クラック発生伸度の調整は、表面保護層の硬さを調整することにより行うことができる。具体的には、例えば、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物に含まれる電離放射線硬化性樹脂の官能基数、分子量等を調整することにより行うことができる。電離放射線硬化性樹脂の官能基数を増やすと樹脂が硬くなり、クラック発生伸度が小さくなり、官能基数を減らすと樹脂が柔らかくなり、クラック発生伸度が大きくなる傾向がある。電離放射線硬化性樹脂の分子量を小さくすると樹脂が硬くなり、クラック発生伸度が小さくなり、電離放射線硬化性樹脂の分子量を大きくすると樹脂が柔らかくなり、クラック発生伸度が大きくなる傾向がある。また、化粧シートのクラック発生伸度の調整は、表面保護層を形成する際の電離放射線の照射強度を調整することによっても行うことができる。電離放射線の照射強度を強くすると表面保護層が硬くなり、クラック発生伸度が小さくなる。一方、電離放射線の照射強度を弱くすると表面保護層が柔らかくなり、クラック発生伸度が大きくなる。【0026】更に、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂を複数混合し、配合比を適宜調整して表面保護層の硬さを調整することによっても化粧シートのクラック発生伸度を調整することができる。【0027】また、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物の塗布量を適宜調整することによっても化粧シートのクラック発生伸度を調整することができる。塗布量を多くするとクラック発生伸度が小さくなり、塗布量を少なくするとクラック発生伸度が大きくなる。」
イ 化粧シートの2%モジュラスの調整
「【0030】
本発明の化粧シートの上記2%モジュラスの調整は、基材シートを形成する樹脂の種類又は配合、基材シートの厚み等を調整することにより行うことができる。具体的には、例えば、基材シートを形成するポリオレフィン系樹脂を複数混合し、配合比を適宜調整して基材シートの硬さを調整することにより化粧シートの2%モジュラスを調整することができる。また、基材シートの厚みを薄くすると2%モジュラスが小さくなり、基材シートの厚みを厚くすると2%モジュラスが大きくなる。
【0031】
また、化粧シートの2%モジュラスの調整は、表面保護層の物性を調整することにより行うこともできる。具体的には、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物の塗布量を適宜調整することにより行うことができる。塗布量を多くすると2%モジュラスが大きくなり、塗布量を少なくすると2%モジュラスが小さくなる。あるいは、表面保護層を形成する際の電離放射線の照射強度を調整することによっても行うことができる。電離放射線の照射強度を強くすると表面保護層が硬くなり、2%モジュラスが大きくなる。一方、電離放射線の照射強度を弱くすると表面保護層が柔らかくなり、2%モジュラスが小さくなる。さらに、表面保護層を形成する電離放射線硬化性樹脂を複数混合し、配合比を適宜調整して表面保護層の硬さを調整することによっても化粧シートの2%モジュラスを調整することができる。
ウ 表面保護層の表面の20°グロスの調整
「【0035】上記20°グロスの調整は、表面保護層の膜厚や表面保護層中のマット剤の添加量や粒径を調整することにより行うことができる。膜厚を薄くすると20°グロスが小さくなり、膜厚を厚くすると20°グロスが大きくなる。また、マット剤の粒径を大きくすると20°グロスが小さくなり、マット剤の粒径を小さくすると20°グロスが大きくなる。」
エ 表面保護層の表面のオレイン酸の接触角の調整
「【0038】上記オレイン酸の接触角の調整は、表面保護層の表面張力を調整することにより行うことができる。具体的には、例えば、表面保護層にシリコーンやフッ素添加剤等の撥油成分を適宜選択して添加し、また、当該撥油性分の添加量を適宜調整することにより行うことができる。」
オ 表面保護層の表面の動摩擦係数の調整
「【0041】上記表面保護層の表面の動摩擦係数は、表面保護層の表面張力を調整することにより行うことができる。具体的には、例えば、表面保護層にシリコーンやフッ素添加剤等の撥油成分やその添加量を適宜調整することにより行うことができる。」
カ 化粧シートの製造方法
「【0084】2.化粧シートの製造方法本発明の化粧シートの製造方法としては特に限定されず、例えば、(1)基材シートを形成する工程1、(2)該基材シートにプライマー層及び/又は裏面プライマー層を形成する工程2、(3)該基材シート又はプライマー層上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、架橋硬化させて表面保護層を形成する工程3を順に経ることにより製造することができる。【0085】続きを表示(全24行)工程1は、基材シートを形成する工程である。基材シートは、樹脂材料に所望により着色剤やその他添加剤を添加した樹脂組成物を、例えば、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ押し出し法などの方法によりシート化して得る。ここで、必要に応じて、2軸延伸してもよい。【0086】得られた基材シートは、接する層との密着性を向上させる観点から、その表面に所望によりコロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン-紫外線処理法などの酸化法や、サンドブラスト法、溶剤処理法などの凹凸化法といった物理的または化学的表面処理を施して易接着層を設けてもよい。【0087】工程2は、基材シートにプライマー層及び/又は裏面プライマー層を形成する工程であり、好ましく有する工程である。プライマー層及び裏面プライマー層は、これらの層を形成する樹脂組成物を、グラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法などの公知の塗布方法により塗布して形成すればよい。また、プライマー層及び裏面プライマー層の両方を設ける場合、いずれの層を先に形成してもよい。【0088】工程3は、基材シート又は好ましくは該基材シート上に好ましく設けられるプライマー層上に、電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、架橋硬化させて表面保護層を形成する工程である。【0089】電離放射線硬化性樹脂組成物の塗布は、好ましくは硬化後の厚さが1~5μmとなるような厚さで、基材シート、又は所望に応じて設けられたプライマー層の表面にグラビア印刷法、バーコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、コンマコート法などの公知の方式、好ましくはグラビア印刷法により行う。電離放射線硬化性樹脂組成物の粘度は、基材シートあるいはプライマー層の表面に電離放射線硬化性樹脂組成物の未硬化樹脂層を形成し得る粘度であればよく、特に制限はない。【0090】次いで、電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布して形成した未硬化樹脂層に、電子線、紫外線などの電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させて、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物である表面保護層が形成される。電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70~300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。【0091】電子線の照射においては、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、基材層として電子線により劣化する素材を使用する場合には、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材シートへの余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材層の劣化を最小限にとどめることができる。照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5~300kGy(0.5~30Mrad)、好ましくは10~100kGy(1~10Mrad)、さらに好ましくは30~70kGy(3~7Mrad)の範囲で選定される。また、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。【0092】電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190~380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。【0093】このようにして得られる、本発明の化粧シートは高い意匠性を示すマットタイプの化粧シートであり、耐汚染性に優れ、且つ、優れた成型加工性を示す。この特徴を活かし、本発明の化粧シートは、被着材と貼り合わせて、意匠性、耐汚染性を示す成型品として、自動車用内外装部品、建築物の内外装、建材、家具、もしくは家電製品用などの様々な部材に好適に用いることができる。」
キ 成型品
「【0094】3.成型品本発明の成型品は、被着材上に、本発明の化粧シートを有する。このような成型品としては、被着材、接着剤層、及び本発明の化粧シートを順に有する成型品が挙げられる。【0095】続きを表示(全17行)本発明の成型品に用いられる被着材としては、特に限定されず、例えば、自動車部品等のプラスチック成型品等が挙げられる。プラスチック成型品としては、各種の合成樹脂からなるものを用いることができる。合成樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。【0096】また、プラスチック成型品と化粧シートとの密着性を向上させるために、所望により、その片面または両面に、コロナ放電処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン-紫外線処理法などの酸化法や、サンドブラスト法、溶剤処理法などの凹凸化法といった物理的または化学的表面処理を施すことができる。【0097】被着材と化粧シートとを接着するための接着剤層に用いられる接着剤としては特に限定されず、感熱接着剤や感圧接着剤(粘着剤)などが挙げられる。この接着剤層を構成する接着剤に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合樹脂、スチレン-アクリル系共重合樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などの中から選ばれる少なくとも1種の樹脂が使用される。また、イソシアネートなどを硬化剤とするアクリル系接着剤、二液硬化型ポリウレタン系接着剤又はポリエステル系接着剤も適用し得る。【0098】接着剤層は、上記の樹脂を溶液、あるいはエマルジョンなど塗布可能な形にしたものを、化粧シートの裏面又は被着材の表面に、グラビア印刷法、スクリーン印刷法またはグラビア版を用いたリバースコーティング法などの手段により塗布、乾燥して形成することができる。【0099】また、接着剤層は、上記の樹脂を溶液、あるいはエマルジョンなど塗布可能な形にしたものを、バーコーターによる塗布方法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法またはグラビア版を用いたリバースコーティング法などの手段により剥離層(ライナー)上に塗布、乾燥し、一旦剥離層上に形成してもよい。剥離層上に形成した接着剤層を、被着材又は化粧シートの表面保護層とは反対側の面に貼り合わせ、剥離層を剥離することで、接着剤層を形成することができる。【0100】剥離層としては特に限定されず、従来公知の剥離層として用いられているフィルムを用いることができ、例えば、シリコーン処理されたポリエステルフィルム等が挙げられる。【0101】接着剤層の厚さは特に制限はないが、通常、1~100μmの範囲である。この範囲とすることで、被着材と、化粧シートとの接着性をより向上させることができる。」
ク 実施例1の製造方法
「【0103】実施例1着色ポリプロピレン樹脂シート(「アートプライ(商品名)」,三菱樹脂株式会社製,厚さ:110μm)を基材シートとして用意し、その一方の面にポリエステル樹脂組成物(二液熱硬化型樹脂タイプ)を塗布してプライマー層(厚さ:2μm)を形成し、他方の面にポリエステル-ウレタン樹脂組成物を塗布して裏面プライマー層(厚さ:2μm)を形成した。【0104】続きを表示(全11行)次いで、プライマー層上に、電離放射線硬化性樹脂組成物(ウレタンアクリレートオリゴマー(官能基数:2、重量平均分子量:3000)とウレタンアクリレートオリゴマー(官能基数:2、重量平均分子量:4000)との混合物(混合比(モル比)5:5)を100質量部、シリカを15質量部含有)をグラビア印刷によって塗布量10g/m2で塗布して、塗膜を形成した。次いで、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して上記塗膜を架橋硬化させ、表面保護層(厚み:10μm)を形成し、化粧シートを得た。【0105】次いで、接着剤層を形成するための接着剤として、アクリル系感圧接着剤(三洋化成工業株式会社製、商品名:ポリシック470-S)を用意した。この接着剤を、剥離層(ライナー)上にバーコータを用いて塗布し、90℃で乾燥して、剥離層上に20μmの接着剤層を形成した。剥離層としては、シリコーン処理を施したポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製 商品名:クリスパーK2372)を用いた。【0106】次いで、得られた化粧シートの裏面プライマー層側の面に剥離層上の接着剤層を貼り合わせ、化粧シートの裏面に接着剤層を形成した。【0107】接着剤層が形成された化粧シートを、ABS樹脂製の1Rの凸部を有する被着材に貼り合わせることができるよう、最適な寸法及び形状で打ち抜き加工を行った。」
ケ 実施例の評価結果
「【0108】最後に、打ち抜き加工後の化粧シート裏面の接着剤層上の剥離層を剥離し、上記被着材の表面にスキージを用いて貼付し、成型品を製造した。貼付の際の、端部を凸部の裏側に巻き込むように折り返す作業において、巻き込み幅は、10mmとした。」
「【0122】評価結果を表1に示す。【0123】【表1】[図:0001380943000008.jpg]」
(2)本件発明1~3について
発明の詳細な説明の上記(1)カには、本件特許に係る化粧シートの製造方法が記載されており、上記(1)クには当該製造方法の具体的な実施例が記載されている。
また、本件発明1~3では、「表面保護層の表面の20°グロス」、「表面保護層の表面のオレイン酸の接触角」、「表面保護層の表面の動摩擦係数」、「化粧シートの厚み」、「化粧シート」の「クラック発生伸度」、「表面保護層の厚み」、及び「化粧シート」の「2%モジュラス」の数値範囲が特定されている。
ここで、「表面保護層の表面の20°グロス」、「表面保護層の表面のオレイン酸の接触角」、「表面保護層の表面の動摩擦係数」、「化粧シート」の「クラック発生伸度」、及び「化粧シート」の「2%モジュラス」の調整については、発明の詳細な説明の上記(1)ア~オに記載されており、当業者であれば、当該記載を参照して、これらの数値を適宜調整して、本件発明1~3で特定された数値範囲とすることができる。
「表面保護層の厚み」については、「電離放射線硬化樹脂」の組成物の塗布量により調整し得ること、「化粧シートの厚み」については、化粧シートを構成する「基材シート」及び「表面保護層」の厚みにより調整し得ることは明らかである。
また、発明の詳細な説明の上記ケによれば、実施例1に係る化粧シートは、本件発明1~3の発明特定事項を満たすものである。
そうすると、本件発明1~3に係る化粧シートは、発明の詳細な説明の上記(1)ア~カ、ク、ケの記載を参照することにより、製造することができる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)本件発明4について
発明の詳細な説明の上記(1)キの記載を参照し、被着材上に、本件発明1~3の化粧シートを有するようにして製造された成型品は、本件発明4の発明特定事項を満たしている。
そうすると、本件発明4は、発明の詳細な説明の上記(1)ア~ケの記載を参照することにより、当業者が実施をすることができる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(4)申立人の主張について
ア 上記第3の3(1)について
実施例2~9、比較例1~7の具体的な製造方法が記載されていないとしても、上記(2)及び(3)で示したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、申立人の上記第3の3(1)の主張は採用することができない。
イ 上記第3の3(2)について
発明の詳細な説明の上記(1)ク(【0103】及び【0104】)に記載された実施例1と、上記(1)ケ(【0123】【表1】)に記載された実施例1とが整合していないとしても、上記(2)及び(3)で示したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、申立人の上記第3の3(2)の主張は採用することができない。
(5)まとめ
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~4の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
3 申立理由4(サポート要件)について
(1)発明が解決しようとする課題について
本件発明1~4は、「耐汚染性に優れ、且つ、優れた成型加工性を示し、意匠性に優れたマットタイプの化粧シートを提供すること」(【0010】)を課題としている。
(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。
「【0019】本発明の化粧シートは、厚みが50~250μmである。厚みが50μm未満であると、耐白化性が低下して成型加工性に劣り、また、下地の不陸を十分に吸収できない。厚みが250μmを超えると、被着材上に積層して成型品とした際にスプリングバックを生じ、成型加工性に劣る。・・・【0020】本発明の化粧シートは、クラック発生伸度が20~300%である。クラック発生伸度が20%未満であると、耐白化性が低下し、成型加工性に劣る。クラック発生伸度が300%を超えると、耐汚染性に劣る。・・・」
「【0033】表面保護層の表面の20°グロスは40未満である。表面保護層の表面の20°グロスが40未満であることにより、本発明の化粧シートにマット感を付与し、優れた意匠性を示すことができる。・・・表面保護層の表面の20°グロスが上記範囲であることにより、本発明の化粧シートがより優れたマット感を示し、より意匠性が向上する。」
「【0036】表面保護層の表面のオレイン酸の接触角は12°以上である。オレイン酸の接触角が12°未満であると、化粧シートの耐汚染性が劣る。・・・表面保護層の表面のオレイン酸の接触角が上記範囲であることにより、本発明の化粧シートがより優れた耐汚染性を示す。」
「【0039】表面保護層の表面の動摩擦係数は、0.5以下である。動摩擦係数が0.5を超えると、成型加工性時(成型品へのシート貼り付け等)においての治具やスキージのすべり性が低下し、折り曲げ部等に局所的に負荷がかかり、また、マット剤がクラックのきっかけとなる現象と相まって、表面保護層の耐白化性が著しく低下する。・・・また、本発明の化粧シートにおいて、上記オレイン酸の接触角が大きくなると、上記動摩擦係数が低くなる傾向にあり、優れた成型加工性や耐汚染性を示すことができる。」
「【0049】表面保護層の厚みは、1~5μmが好ましく、・・・。表面保護層の厚みを上記範囲とすることにより、表面保護層の20°グロスを40未満に調整することが容易になるとともに、本発明の化粧シートがより優れた成型加工性を示すことができる。」
(3)判断
発明の詳細な説明の上記2(1)ケによると、実施例1~9は、本件発明1の発明特定事項を満たし、かつ、上記(1)に示した課題を解決することができるものである。
また、発明の詳細な説明の上記(2)の記載を参照すると、本件発明1~4に係る「化粧シート」について、「20°グロス」、「オレイン酸の接触角(°)」、「総厚み(μm)」、「クラック発生伸度(%)」、「表面保護層の厚み(μm)」及び「動摩擦係数」と、本件発明1~4に係る「化粧シート」の「耐汚染性」及び「成型加工性」との関係を理解することができる。
そうすると、発明の詳細な説明に開示された実施例1~9の内容を、本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるといえる。
(4)申立人の主張について
申立人は、「実施例1~9はこの課題を解決しているが、原料と製法が具体的に記載されているのは実施例1だけである。実施例1で製造された化粧シートの材料や構成は限定されていて、実施例1から請求項1~4に記載の広い範囲まで発明を拡張ないし一般化できない。」(申立書27ページ1~4行)と主張している。
しかしながら、実施例2~9、比較例1~7の具体的な製造方法が記載されていないとしても、本件発明1~3に係る化粧シート、及び本件発明4に係る成型品は、発明の詳細な説明の上記(1)ア~ケの記載を参照することにより、製造することができることは上記2(4)アに示したとおりである。
また、発明の詳細な説明に開示された実施例1~9の内容を、本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できることは上記(3)に示したとおりである。
(5)まとめ
よって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第6 むすび
以上のとおり、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700460