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特許異議申立

2021-700456

繊維処理用組成物及び当該組成物で処理された繊維製品

審判番号
2021-700456
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-077360
登録番号
特許第6789563号(P6789563)
請求日
2021年05月14日
審決日
2021年09月30日
公報発行日
2021年11月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】明成化学工業株式会社
  • 【権利者代理人】特許業務法人みのり特許事務所
  • 【異議申立人】新井 晶代
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 石井 孝明
  • 審判官 村山 達也
分類
P1651.113-Y (D06M) / P1651.537-Y (D06M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6789563号発明「繊維処理用組成物及び当該組成物で処理された繊維製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6789563号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6789563号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成28年4月7日に出願され、令和2年11月6日にその特許権の設定登録がされ、令和2年11月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年5月14日に特許異議申立人新井晶代(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立て(以下「本件異議申立」という。)を行った。 第2 本件発明 特許第6789563号の請求項1~7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)下記式(1)~(4)のいずれかの構造を有する第4級アンモニウム塩の少なくとも一種類と、 【化1】 [式(1)中、R1は炭素数4~9のアルキル基又はシクロアルキル基、R2~R4はメチル基又はエチル基、X-はフッ素以外のハロゲン化物イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、n-プロピル硫酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、メチルリン酸イオン、エチルリン酸イオンから選択される少なくとも一種の1価のアニオンを示す。] 【化2】 [式(2)中、R5は炭素数4~9のアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基、R6は水素、メチル基又はエチル基を示す。X-はフッ素以外のハロゲン化物イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、n-プロピル硫酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、メチルリン酸イオン、エチルリン酸イオンから選択される少なくとも一種の1価のアニオンを示す] 【化3】 [式(3)中、R7は炭素数4~9のアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基、R8はメチル基又はエチル基を示す。X-は1価のアニオンを示す] 【化4】 [式(4)中、R9は炭素数4~9のアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基、R10はメチル基又はエチル基、Yは炭素数3~9のアルキレン基又は-H2CH2OCH2CH2-を示す。X-は1価のアニオンを示す](B)フッ素を含まないはっ水剤と、を含有する繊維処理用組成物。 【請求項2】 前記R1、R5、R7及びR9の炭素数が6~8である、請求項1に記載の繊維処理用組成物。 【請求項3】 前記(B)フッ素を含まないはっ水剤が、炭素数12以上の長鎖アルキル基を持つ(メタ)アクリレートを60重量%以上含むアクリル系共重合体、パラフィンワックス、メラミンワックス、高級脂肪酸エステル系化合物、高級脂肪酸アミド系化合物、アルキレン尿素系化合物、ジルコニウム系化合物及びシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の繊維処理用組成物。 【請求項4】 前記(B)フッ素を含まないはっ水剤が、炭素数12以上の長鎖アルキル基を持つ(メタ)アクリレートを60重量%以上含むアクリル系共重合体、パラフィンワックス、高級脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の繊維処理用組成物。 【請求項5】 前記X-が、フッ素以外のハロゲン化物イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンである請求項1~4のいずれか1項に記載の繊維処理用組成物。 【請求項6】 (a)請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維処理用組成物で繊維を処理する工程と、 (b)前記工程の後、100℃以上の温度で熱処理する工程と、を含む、繊維製品のはっ水加工方法。 【請求項7】 請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維処理用組成物で処理された、はっ水性を付与された繊維製品。」 第3 異議申立理由の概要 申立人は、概ね次の申立理由1~3のとおり主張をしている。 1.申立理由1 主たる証拠として甲第1号証(以下「甲1」という。)及び従たる証拠として甲第2号証(以下「甲2」という。)を提出し、甲2に記載された事項を参考とした上で、本件特許の請求項1-2、5に係る発明は、甲1に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、本件特許の請求項1、2及び5に係る特許は取り消すべきものである。 甲第1号証:特開昭61-089371号公報 甲第2号証:特開平7-279047号公報 2.申立理由2 本件特許の明細書の実施例の記載をみても、親水性が高いと考えられる本発明の式(1)~(4)のいずれの構造を有する第4級アンモニウム塩と、実施例に具体的に示されたアクリル系共重合体(B-1)、パラフィンワックス系(B-2)、パラフィンワックス系と脂肪酸エステル系配合(B-3)、シリコーン系(B-4)の4種類以外の極めて多くの種類の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」との、組み合わせの全てが、実施例に記載された繊維処理用組成物と同様に、はっ水性を損なうことなく良好な帯電防止性をも付与することができ、安定性にも問題無いことを、当業者であっても直ちに理解することはできず、本件特許の発明が解決しようとする課題を解決できるとはいえず、また、そのような出願時の技術常識があるとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消すべきものである。 3.申立理由3 本件特許の請求項1に係る発明の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」には、どの程度のはっ水性能を有する、どのような物質が含まれ、どのような物質が含まれないのか、本件特許の明細書には明確な定義が記載されておらず、当該技術分野において、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」に含まれる物質群について、当業者が明確に認識しているとまではいえないから、本件特許の請求項1、2、5~7に係る発明は明確とはいえず、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本件特許の請求項1、2、5~7に係る特許は取り消すべきものである。 第4 申立理由1について 1.甲1及び甲2の記載 (1)甲1について 甲1には、次の事項が記載されている。以下、下線は、理解の便宜のため、当審が付した。 「2.特許請求の範囲 1 ステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩を50~95重量%及び下記成分Aを5~20重量%含有することを特徴とするポリエステル系繊維用紡績油剤。 成分A:次の一般式(I)又は(II)で示される第4級アンモニウム塩又は一般式(III)で示されるポリオキシアルキレンアルキル(又はアルケニル)アミノエーテルから選ばれる化合物。 一般式(I): 一般式(II): 一般式(III): 」 「<従来の技術、その問題点> 従来一般に、油剤として平滑剤、制電剤及び集束剤を配合したものが使用されており、具体的にはアルキルリン酸(又は硫酸)エステルアルカリ金属塩のようなアニオン活性剤、第4級アンモニウム塩のようなカチオン活性剤、更には非イオン活性剤等が使用されている。ところが、アルキルリン酸(又は硫酸)エステルアルカリ金属塩は平滑性がよく、カード通過性もよくて、繊維のゴムローラーへの捲付きやその脱落も少ない利点を有する反面、集束性不足によるコイリングの不良、冬場すなわち低湿度下における制電性の不足という欠点がある。またカチオン活性剤は制電性がよく、非イオン活性剤は集束性がよい利点をそれぞれ有する反面、これらはカード通過性が悪く、繊維のゴムローラーへの捲付きが多くて、それ自体やオリゴマー等の脱落も多いという欠点がある。 そこで従来、高能率化や省力化に比較的遠した特性を有するアルキルリン酸(又は硫酸)エステルアルカリ金属塩を利用し、その前述したような欠点をカチオン活性剤と非イオン活性剤を配合することにより補うことを試みた油剤が提案されている。例えば、セチルリン酸エステルアルカリ金属塩にカチオン活性剤及び非イオン活性剤を配合した油剤等である(特開昭59-66575号公報)。 しかし、実際のところこの種の従来油剤では、充分な所期総合的効果が発揮されないため、前述したような現状の要請に全体として応えることができず、とりわけ未処理ゴムローラーに対する効果が殆んど得られないという問題点がある。 <発明が解決しようとする問題点、その解決手段> 本発明は、叙上の如き従来油剤の問題点を解決し、前述の要請に全体として応え、とりわけ未処理ゴムローラの使用をも可能にする油剤を提供するものである。 本発明者らは、以上の観点で鋭意研究した結果、アルキルリン酸(又は硫酸)エステルアルカリ金属塩の中で炭素数18のアルキル基を有するステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩だけが特長的性能を持ち、これと特定のカチオン又は非イオン活性剤とを所定割合で配合した油剤が好適であることを見出した。」(2ページ右上欄9行~右下欄12行) 「本発明において、ステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩の代わりに、炭素数が18より少ないアルキル基(例えばセチル基、ラウリル基、オクチル基)を有するアルキルリン酸エステルアルカリ金属塩を使用すると特に未処理ゴムローラーへの繊維の捲付きが多くなり、まだ炭素数が18より多いアルキル基(例えばベヘニル基)を有するアルキルリン酸エステルアルカリ金属塩を使用すると水溶性が悪くなって実用が困難になる。該ステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等があるが、その制電性の点でカリウム塩が好ましい。かかるステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩は例えば、原料アルコール(ステアリルアルコールを所定量以上含有する天然アルコールや合成アルコール等)2~3モルと無水リン酸1モルとを常法で反応させ、生成するステアリルリン酸エステルを苛性アルカリで中和することによって得られる。 また本発明において、前記成分Aの具体例を挙げると、一般式(I)に属するものとしてN-エチル-N-ジメチル-N-ラウリルアンモニウム・エトサルフェートやN-トリメチル-N-オクチルアンモニウム・ジメチルホスフェート、一般式(II)に属するものとしてN-ヒドロキシエチル-N-ジメチル-N-ステアロイルアミドプロピルアンモニウム・硝酸塩、一般式(III)に属するものとしてポリオキシエチレン(8モル)ラウリルアミノエーテル、以上のような化合物がある。 本発明に係る油剤は、以上説明したステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩と成分Aとを含有するものであるが、双方の油剤中配合比率は、前者が50~95重量%、後者が5~20重量%である。この配合比率によってのみ所期の総合的効果が得られ且つ未処理ゴムローラの使用も可能となる。ステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩の油剤中配合比率が95重量%を超える場合すなわち成分Aの油剤中配合比率が5重量未満の場合は該油剤の制電性が劣る。また、ステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩の油剤中配合比率が50重量%未満の場合や成分Aの油剤中配合比率が20重量%を超える場合は、処理又は未処理を問わずゴムローラーへの繊維の捲付きが多くなり、ゴムローラーへの該油剤やオリゴマー等の、脱落が多くなる。」(3ページ右上欄3行~右下欄7行) 「<実施例> 以下、比較例とともに本発明の実施例を挙げて、本発明の構成及び効果を一層具体的にする。 ポリエステルステープルファイバー(1.4デニールX38mm)に対し、第1表又は第2表に記載の成分からなる各油剤(実施例1~14、比較例1~15)をそれぞれスプレー法にて0.15重量%付着させ、第3表又は第4表記載の温湿度にて24時間放置したものを試料綿として、次の各項目で評価した。・・・ 注)第1表及び第2表を通じて、SPE-1はステアリルリン酸エステルカリウム塩で、実施例14を除きその他の各例は、純度95%のステアリルアルコール/無水リン酸=3/1(モル比)の反応物を中和したもの、実施例14は該モル比を2.5/1としたもの。SPE-2はステアリルリン酸エステルナトリウム塩で、その内容はSPE-1の場合と同じ。CPEはセチルリン酸エステルカリウム塩で、純度95%のセチルアルコール/無水リン酸=3/1(モル比)の反応物を中和したもの。LPEはラウリルリン酸エステルカリウム塩で、その内容はCPEの場合に準じる。 A-1はN-エチル-N-ジメチル-N-ラウリルアンモニウムエトサルフェート。A-2はPOE(10モル)ラウリルアミノエーテル。A-3はN-トリメチルオクチルアンモニウムジメチルホスフェート。A-4はN-1リメチルラウリルアミドプロビルアンモニウムメトサルフェート。A’-1はN-エチル-N-ジメチル-N-ヘキシルアンモニウムエトサルフェート。A′-2はN-トリメチル-N-ペヘノイルアミドグロビルメトサルフェート。A′-3はPOE(4モル)オレイルアミノエーテル。 *1はPOE(10モル)オレイルエーテル。*2はPOE(10モル)ステアリン酸エステル。*3はオクチルパルミテート。」(4ページ左上欄14行~5ページ右上欄4行) 以上の記載事項、特に、成分Aとして一般式(I)で示される第4級アンモニウム塩に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「ステアリルリン酸エステルアルカリ金属塩を50~95重量%及び次の一般式(I)で示される第4級アンモニウム塩を5~20重量%含有することを特徴とするポリエステル系繊維用紡績油剤。 一般式(I): 但し、R1は炭素数8~18の、アルキル基又はアルケニル基。R2、R3、R4は炭素数1~3のアルキル基。 」 (2)甲2について 甲2には、次の事項が記載されている。 「【請求項1】 ポリオレフィン繊維もしくはポリエステル繊維の表面に、アルキル基の炭素数が6以下であるアルキルリン酸エステルカリウム塩を主成分とする表面改質材が0.1~1.0重量%付着していることを特徴とする繊維。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、繊維の状態での加工性(帯電防止性)と、この繊維を加工した不織布の撥水性の両方を同時に満足させる繊維を提供する事にある。」 「【0007】このような表面改質剤の繊維表面への付着量は、0.1~1.0重量%、好ましくは0.2~0.8重量%である。付着量が0.1%未満では、帯電防止性が不良となり、1.0%を越すと撥水性の低下、カード工程でのウェブ切れ等の問題が生じる。繊維に表面改質剤を付着させる方法には特別な制限はなく、紡糸工程、延伸工程でのオイリングロール、スプレーあるいはディッピングにより付着させる方法等の公知の方法が適用できる。」 「【0008】本発明の繊維は、非常に水となじみ易い炭素数6以下のアルキルリン酸エステルカリウム塩を主成分とする表面改質剤が表面に付着しているため、これが優れた帯電防止剤として働き、加工時に静電気が発生する事を抑制する。また、不織布等に加工した状態(繊維状、ウェブ状でも同様)で水に接触すると、繊維表面の表面改質剤は瞬時に水に溶け出し、ポリオレフィン繊維やポリエステル繊維の地肌がむき出しとなり、本来の疎水性に基づく高度の撥水性を発揮する。」 以上の記載事項を綜合すると、甲2には次の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されている。 「ポリオレフィン繊維もしくはポリエステル繊維の表面に、0.1~1.0重量%付着させるアルキル基の炭素数が6以下であるアルキルリン酸エステルカリウム塩を主成分とする表面改質材であり、これが優れた帯電防止剤として働き、不織布等に加工した状態(繊維状、ウェブ状でも同様)で水に接触すると、繊維表面の表面改質剤は瞬時に水に溶け出し、ポリオレフィン繊維やポリエステル繊維の地肌がむき出しとなり、本来の疎水性に基づく高度の撥水性を発揮すること。」 2.当審の判断 (1)請求項1に係る発明について ア.対比 甲1発明の「R1は炭素数8~18の、アルキル基又はアルケニル基」のうち、R1が炭素数8~9のアルキル基のものは、本件特許の請求項1に係る発明の「R1は炭素数4~9のアルキル基」に一致し、甲1発明の「R2、R3、R4は炭素数1~3のアルキル基」のうち、R2、R3、R4が炭素数1~2のアルキル基のものは、特許の請求項1に係る発明の「R2~R4はメチル基又はエチル基」に一致し、甲1発明のCH3SO4(○に-)、C2H5SO4-(○に-)及びNO3(○に-)は、それぞれ、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン及び硝酸イオンであるから、甲1発明の「下記一般式(I)で示される第4級アンモニウム塩」は、本件特許の請求項1に係る発明の「下記式(1)の構造を有する第4級アンモニウム塩」に相当する。 甲1発明の「ポリエステル系繊維用紡績油剤」は、本件特許の請求項1に係る発明の「繊維処理用組成物」に相当する。 そうすると、本件特許の請求項1に係る発明と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 [一致点] 「(A)下記式(1)~(4)のいずれかの構造を有する第4級アンモニウム塩の少なくとも一種類と、 【化1】 [式(1)中、R1は炭素数8~9のアルキル基、R2~R4はメチル基又はエチル基、X(○にー)は、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、硝酸イオンを示す。]」 [相違点] 本件発明は「(B)フッ素を含まないはっ水剤と、を含有する」ものであるのに対し、甲1発明は、そのようなものではない点。 イ.判断 上記相違点は実質的な相違点であるから、本件特許の請求項1に係る発明は、甲1発明ではない。 また、甲1には、はっ水剤について記載も示唆もされておらず、かつ、「フッ素を含まないはっ水剤」はフッ素を含むはっ水剤と比較して、はっ水性能が劣ることが技術常識なのであるから、あえて甲1発明に、「フッ素を含まないはっ水剤」を含有させる動機付けはなく、本件特許の請求項1に係る発明は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明できたものでもない。 ウ.申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。 「(ii)相違点1についての検討 ・・・ また、甲第2号証記載の発明における、ステアリルフォスフェートK塩(ステアリルリン酸エステルカリウム塩)とオクチルフォスフェートK塩を含有する比較例1は、撥水性(耐水圧)に優れていることからも、ステアリルリン酸エステルカリウム塩が撥水剤としての機能を有することが理解できます。 そうすると、甲第1号証記載の発明におけるステアリルフォスフェートK塩(ステアリルリン酸エステルカリウム塩)は、本願明細書の段落0039に記載されている、(B)フッ素を含まないはっ水剤の説明である「分子の構造中にフッ素原子を含まず、かつ繊維に付与した際に撥水性を発揮するもの」に相当するものであるといえます。 すなわち、甲第1号証記載の発明には、ステアリルフォスフェ-トK塩(ステアリルリン酸エステルカリウム塩)がはっ水剤であることが明示されていないだけであり、ステアリルフォスフェートK塩(ステアリルリン酸エステルカリウム塩)の固有の性質の1つが、はっ水剤としての機能であることは明らかです。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではなく、両発明は組成の点において差異はありません。」(13ページ18行~14ページ12行) しかし、上記1.(2)のとおり、甲2に記載された「アルキル基の炭素数が6以下であるアルキルリン酸エステルカリウム塩を主成分とする表面改質材」は、帯電防止剤であり、撥水性については、表面改質剤が水に溶け出し、ポリオレフィン繊維やポリエステル繊維の地肌がむき出しとなった結果、ポリオレフィン繊維やポリエステル繊維本来の疎水性に基づいて発揮されるものである。 したがって、甲2に記載された「アルキル基の炭素数が6以下であるアルキルリン酸エステルカリウム塩」が撥水剤としての機能・作用を奏するとはいえないから、申立人の前記主張には理由がない。 (2)請求項2及び5に係る発明について 請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明に対して、さらに「前記R1、R5、R7及びR9の炭素数が6~8である」という技術的事項を追加したものであり、請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明又は請求項2に係る発明に対して、さらに「前記X-が、フッ素以外のハロゲン化物イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンである」という技術的事項を追加したものである。 よって、上記(1)イ.に示した理由と同様の理由により、本件特許の請求項2及び5に係る発明は、甲1発明ではなく、当業者が甲1発明に基いて容易に発明できたものでもない。 第5 申立理由2について 1.判断 本件特許の発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明に「【0010】そこで、本発明は、フッ素を含まないはっ水剤と併用した場合にも、はっ水性能を阻害することなく帯電防止性能が得られ、はっ水性と帯電防止性を得ることが可能で、かつ、加工時の安定性にも優れたはっ水剤と帯電防止剤とを含有する繊維処理用組成物を提供することを課題とする。」と記載されているとおりである。 そして、当該課題の解決については、本件特許の発明の詳細な説明には、「【0011】発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を重ねる中で、第4級アンモニウム塩の中でも、最も炭素数が多い置換基(アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基)の炭素数を4~9という特定範囲に限定すれば、フッ素を含まないはっ水剤と併用した時にも、はっ水性を損なうことなく帯電防止性を付与することが可能で、加工時の安定性にも優れたはっ水帯電防止加工用の組成物が得られることを見出し、本発明に至った。・・・」及び「【0033】式(1)~式(4)に示した第4級アンモニウム塩に共通することは、最も炭素数が多いアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基でも炭素数が4~9であることである。すべてのアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基の炭素数が3以下の第4級アンモニウム塩ははっ水性への影響は小さいものの帯電防止性が不十分である。一方、炭素数が10以上のアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基を持つ第4級アンモニウム塩は、帯電防止性は良好であるが、はっ水性への悪影響が大きいためはっ水加工には適さない。」と記載されており、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基の炭素数を特定範囲に限定することで課題を解決することでき、また、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基の炭素数が特定範囲を超えるとはっ水性への悪影響が大きくなることが理解できる。 また、本件特許の発明の詳細な説明には、「フッ素を含まないはっ水剤」として、「非フッ素系はっ水剤B-1(長鎖アルキル基を持つアクリル系共重合体)」(【0079】)、「非フッ素系はっ水剤B-2(パラフィンワックス系)」(【0080】)、「非フッ素系はっ水剤B-3(パラフィンワックス系/脂肪酸エステル系化合物配合)」(【0081】)及び「非フッ素系はっ水剤B-4(シリコーン系樹脂)」(【0082】)の4種類が記載されており、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基の炭素数が4~9であるものと、前記4種類の「フッ素を含まないはっ水剤」を含有させた実施例について、「はっ水性」、「摩擦耐電圧」及び「安定性」が検証され、「はっ水性と帯電防止性を得ることが可能で、かつ、加工時の安定性にも優れた」ものである結果も記載されている。 そうすると、本件特許の請求項1~7に係る発明には、本件特許の発明の詳細な説明に記載された「発明が解決しようとする課題」を解決する手段が反映されている。また、はっ水性への影響は、専らアルキル基、シクロアルキル基又はアリール基の炭素数にあることから、本件特許の請求項1~7に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された上記内容を拡張ないし一般化できる。 したがって、本件特許の請求項1~7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 2.申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。 「一方、本願明細書の表2~5には、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」として、アクリル系共重合体(B-1)、パラフィンワックス系(B-2)、パラフィンワックス系と脂肪酸エステル系配合(B-3)、シリコーン系(B-4)の4種類のフッ素を含まないはっ水剤を含有する繊維処理用組成物の具体例が示されているのみです。 しかも、例えば、表2のアクリル系共重合体(B-1)を含有する実施例2~4と、表3のパラフィンワックス系(B-2)を含有する実施例9~11は、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」の種類のみが相違する具体例ですが、そのはっ水性(HL-0)の評価は大きく相違し、アクリル系共重合体(B-1)とパラフィンワックス系(B-2)のはっ水剤の性能は大きく異なることが理解できます。 ・・・ そうすると、本願明細書の実施例の記載をみても、親水性が高いと考えられる本発明の式(1)~(4)のいずれの構造を有する第4級アンモニウム塩と、実施例に具体的に示されたアクリル系共重合体(B-1)、パラフィンワックス系(B-2)、パラフィンワックス系と脂肪酸エステル系配合(B-3)、シリコーン系(B-4)の4種類以外の極めて多くの種類の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」との、組み合わせの全てが、実施例に記載された繊維処理用組成物と同様に、はっ水性を損なうことなく良好な帯電防止性をも付与することができ、安定性にも問題無いことを、当業者であっても直ちに理解することはできず、上記(4)(ア)(ii)に記載した本発明の課題を解決できるとはいえませんし、そのような出願時の技術常識があるとはいえません。」(特許異議申立書15ページ11行~16ページ8行) まず、本件特許の発明の詳細な説明には、「【0090】表2に示されるとおり、各実施例と比較例10(帯電防止剤を用いない例)とを比較すると、実施例の組成物は優れたはっ水性を保持していた。また、はっ水性の洗濯耐久性、帯電防止性、加工液の安定性についても良好な結果が得られた。 実施例に対して、炭素数が小さいアルキル基や芳香環を有する第4級アンモニウム塩を用いた例(比較例1~4、7)は帯電防止性が十分でなかった。炭素数が大きいアルキル基を有する第4級アンモニウム塩を用いた例(比較例5、6)ははっ水性を大きく阻害した。第4級アンモニウム塩以外の帯電防止剤を用いた例(比較例8、9)ははっ水性が十分でなく、加工液の安定性が不良であった。」及び「【0094】表3に示されるとおり、各実施例と比較例16(帯電防止剤を用いない例)とを比較すると、実施例の組成物は優れたはっ水性を保持していた。また、帯電防止性、加工液の安定性についても良好な結果が得られた。実施例に対して、炭素数が小さいアルキル基や芳香環を有する第4級アンモニウム塩を用いた例(比較例11~13)は帯電防止性が十分でなかった。炭素数が大きいアルキル基を有する第4級アンモニウム塩を用いた例(比較例14)ははっ水性を大きく阻害した。第4級アンモニウム塩以外の帯電防止剤を用いた例(比較例15)ははっ水性が十分でなく、加工液の安定性が不良であった。」と記載されているから、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」の種類が異なっていたとしても、アルキル基の炭素数が大きくなるとはっ水性を阻害することが理解できる。 そうすると、アクリル系共重合体(B-1)とパラフィンワックス系(B-2)のはっ水性が異なることを根拠にして、アルキル基、シクロアルキル基又はアリール基の炭素数が4~9である「第4級アンモニウム塩」と、アクリル系共重合体(B-1)、パラフィンワックス系(B-2)、パラフィンワックス系と脂肪酸エステル系配合(B-3)、シリコーン系(B-4)の4種類以外の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」とを組み合わせた場合に、当業者が上記「発明が解決しようとする課題」を解決することができることを理解できないとはいえないから、申立人の前記主張には理由がない。 第6 申立理由3について 1.判断 本件特許の請求項1には、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」と記載されているから、本件特許の請求項1に係る発明は、その字句どおり、「はっ水剤」として「フッ素を含まない」ものであり、「はっ水」とは「水をはじくこと」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)を意味するから、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」の意味は明確である。 2.申立人の主張について 申立人は、特許異議申立書において、次のように主張している。 「本発明は、本願請求項1に「(B)フッ素を含まないはっ水剤」とだけ特定されており、上記(4)(ア)(ii)(本願明細書の段落0039)に記載したとおり、本発明におけるフッ素を含まないはっ水剤として、分子の構造中にフッ素原子を含まず、かつ繊維に付与した時にはっ水性を発揮するものであれば特に制限されないと記載されています。 しかしながら、本願請求項1の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」には、どの程度のはっ水性能を有する、どのような物質が含まれ、どのような物質が含まれないのか、本願明細書には明確な定義が記載されていませんし、当該技術分野において、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」に含まれる物質群について、当業者が明確に認識しているとまではいえません。 しかも、上記4.(ウ)(ii)に記載したとおり、撥水性と加工性の両方を満足させる目的で、炭素数10~30のアルキルリン酸エステル塩を用いることは、従来公知の技術であり、本願請求項1の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」に相当する物質であると考えますが、本願明細書の段落0035には、「・・アルキルリン酸等の公知の帯電防止剤を併用することもできる。」と記載されていることからも、本願請求項1の「(B)フッ素を含まないはっ水剤」に含まれる物質群が、より不明確なものとなっています。」(16ページ13行~17ページ5行) しかし、「(B)フッ素を含まないはっ水剤」については、上記1.のとおりであり、第三者に不測の不利益を生じるほどの不明確さはなく、本件特許の請求項1、2、5~7に係る発明は明確であるから、申立人の前記主張には理由がない。 第7 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700456

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