特許異議申立
2021-700288
金属/繊維強化樹脂複合構造体および金属/繊維強化樹脂複合構造体の製造方法
- 審判番号
- 2021-700288
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-167721外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6757628
- 請求日
- 2021年03月18日
- 審決日
- 2022年01月19日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三井化学株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 分類
- P1651.537-YAA(B32B) / P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6757628号発明「金属/繊維強化樹脂複合構造体および金属/繊維強化樹脂複合構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6757628号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4、5について訂正することを認める。
特許第6757628号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6757628号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年8月30日に出願され、令和2年9月2日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和3年3月18日に特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年5月31日付けで期間を指定して取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年8月6日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和3年9月24日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和3年8月6日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正」という)は、特許第6757628号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「金属部材と、シートモールディングコンパウンド(SMC)部材およびバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」を、「金属部材と、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4の「金属部材と、シートモールディングコンパウンド(SMC)部材およびバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」を、「金属部材と、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5の「金属部材と、シートモールディングコンパウンド(SMC)部材およびバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」を、「金属部材と、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」に訂正する。
(4)一群の請求項
本件訂正前の請求項1~3は、請求項2~3が、本件訂正の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「シートモールディングコンパウンド(SMC)部材」及び「バルクモールディングコンパウンド(BMC)部材」について、「不飽和ポリエステル樹脂組成物」を用いるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
SMC部材及びBMC部材が「不飽和ポリエステル樹脂を用いてなる」ことに関して、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)には、「【0021】SMC部材とは、後述するSMCシートを所定の形状に裁断・加工した部材である。ここで、SMCシートとは不飽和ポリエステル樹脂を含む不飽和ポリエステル樹脂組成物を繊維補強材に含浸させてなるシート状の半硬化状態の成形材料である。また、BMC部材とは、後述するBMC成形品を所定の形状に裁断・加工した部材である。ここで、BMC成形品とは、不飽和ポリエステル樹脂組成物と繊維補強材とを混練機等で混合して得られる塊状のバルクモールディングコンパウンド(BMC)を所定の形状に成形して得られる半硬化状態の成形材料である。」ことが記載されているから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1は、既に述べたとおり特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないこと明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、いずれも訂正事項1と同様に「シートモールディングコンパウンド(SMC)部材」及び「バルクモールディングコンパウンド(BMC)部材」について、選択される樹脂材料を「不飽和ポリエステル樹脂組成物」に限定するものであるから、上記(1)のア~ウに示したのと同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、訂正事項1~3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4、5について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1~5を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
金属部材と、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材と、が接合してなる金属/繊維強化樹脂複合構造体であって、
前記金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部(ただし、前記6直線部における各直線間の垂直距離は、2~5mmである。)について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)、(2)および(4)を同時に満たす金属/繊維強化樹脂複合構造体。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満である
【請求項2】
請求項1に記載の金属/繊維強化樹脂複合構造体において、
前記金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部(ただし、前記6直線部における各直線間の垂直距離は、2~5mmである。)について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす金属/繊維強化樹脂複合構造体。
(3)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を1直線部以上含む
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属/繊維強化樹脂複合構造体において、
前記金属部材を構成する金属材料がアルミニウムおよびアルミニウム合金から選択される一種または二種以上の金属を含む金属/繊維強化樹脂複合構造体。
【請求項4】
金属部材と、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材と、が接合してなる金属/繊維強化樹脂複合構造体であって、
前記金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部(ただし、前記6直線部における各直線間の垂直距離は、2~5mmである。)について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たし、
前記金属部材を構成する金属材料がアルミニウムおよびアルミニウム合金から選択される一種または二種以上の金属を含む金属/繊維強化樹脂複合構造体。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
【請求項5】
金属部材と、不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材と、が接合してなる金属/繊維強化樹脂複合構造体を製造するための製造方法であって、
前記繊維強化樹脂部材との接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部(ただし、前記6直線部における各直線間の垂直距離は、2~5mmである。)について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす前記金属部材を準備する工程と、
前記金属部材の前記接合部表面と前記繊維強化樹脂部材の少なくとも一部とが接するように前記金属部材と前記繊維強化樹脂部材とを重ねて、加熱下で加圧成形する工程と、
を含む金属/繊維強化樹脂複合構造体の製造方法。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して、当審が令和3年5月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(サポート要件)本件特許は、請求項1~5に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)(進歩性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~5号証に例示される周知技術に基いて(以下、各甲号証を「甲1」等ともいう。)、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2016-27189号公報
甲第2号証:特開2016-2654号公報
甲第3号証:特開2013-83005号公報
甲第4号証:特開2006-116002号公報
甲第5号証:特開2010-274600号公報
2 当審の判断
(1)サポート要件について
ア 当審で通知したサポート要件についての取消理由は、本件訂正前の請求項1~5に記載された「SMC部材」及び「BMC部材」とは、一般的に、SMC法及びBMC法により成形された繊維強化プラスチック(FRP)と解され、SMC法及びBMC法が適用される樹脂は不飽和ポリエステル樹脂組成物以外の樹脂であってもよい(例えば、フェノール樹脂)ところ、本件特許には「不飽和ポリエステル樹脂組成物」を用いて作製したSMC部材やBMC部材がアンカー効果を発現可能な金属部材の接合部表面の表面粗さの要件しか記載されておらず、「不飽和ポリエステル樹脂組成物以外の樹脂」を用いて作製したSMC部材やBMC部材であっても、同様の効果を発現し得るかどうかは、いかに当業者であっても、発明の詳細な説明からは把握することができない点で、本件訂正前の請求項1~5の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない、というものである。
イ 本件訂正により、請求項1、4、5の記載において、SMC部材及びBMC部材が「不飽和ポリエステル樹脂を用いてなる」ものに限定されたから、当該理由は解消した。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1~5は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
したがって、本件請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
(2)進歩性について
ア 甲1~5の記載
(ア)甲1について
甲1には、次の事項が記載されている。また、下線は理解の便宜のため、当審が付した。
「【請求項1】
金属部材と、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材とが接合してなる金属/樹脂複合構造体であって、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす金属/樹脂複合構造体。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
【請求項2】
請求項1に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(3)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を1直線部以上含む
(中略)
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(4)をさらに満たす金属/樹脂複合構造体。
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満である
(中略)
【請求項8】
請求項1乃至7いずれか一項に記載の金属/樹脂複合構造体において、
前記金属部材はアルミニウムおよびアルミニウム合金から選択される一種または二種以上の金属を含む金属材料からなるものである金属/樹脂複合構造体。」
「【発明が解決しようとする課題】
(中略)
【0013】 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、金属部材と、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材とを、樹脂の変性等を伴うことなく、直接接合することができ、かつ金属部材と樹脂部材との接合強度に優れた金属/樹脂複合構造体を提供するものである。
【0014】 また、本発明は、金属表面への塗膜密着性が著しく向上した金属/樹脂複合構造体を提供するものである。さらに本発明は、金属表面に形成される樹脂塗膜が、水性塗料からなる場合であっても塗膜密着性が高い金属/樹脂複合構造体を提供するものである。」
「【0025】
金属部材103の表面110には、金属部材103と樹脂部材105との間の接合強度向上に適した凹凸形状が形成されているため、接着剤を使用せずに金属部材103と樹脂部材105との間の接合性確保が可能となる。
具体的には上記要件(1)および(2)を同時に満たす金属部材の表面110の凹凸形状の中に熱可塑性樹脂組成物(P)が侵入することによって、金属部材103と樹脂部材105との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、通常では接合が困難な金属部材103と熱可塑性樹脂組成物(P)からなる樹脂部材105とを強固に接合することが可能になったものと考えられる。」
「【0028】
図3は、金属部材の表面110上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部を説明するための模式図である。
上記6直線部は、例えば、図3に示すような6直線部B1~B6を選択することができる。まず、基準線として、金属部材103の接合部表面104の中心部Aを通る中心線B1を選択する。次いで、中心線B1と平行関係にある直線B2およびB3を選択する。次いで、中心線B1と直交する中心線B4を選択し、中心線B1と直交し、中心線B4と並行関係にある直線B5およびB6を選択する。ここで、各直線間の垂直距離D1~D4は、例えば、2~5mmである。
なお、通常、金属部材の表面110中の接合部表面104だけでなく、金属部材の表面110全体に対し、表面粗化処理が施されているため、例えば、図4に示すように、金属部材103の接合部表面104と同一面で、接合部表面104以外の箇所から6直線部を選択してもよい。」
「【図3】
[図:0001384089000001.jpg]
」
「【0134】
[実施例1A]
日本製鋼所社製のJ85AD110Hに小型ダンベル金属インサート金型102を装着し、金型102内に調製例1Aによって調製されたアルミニウム板(金属部材103)を設置した。次いで、その金型102内に熱可塑性樹脂組成物(P)として、ガラス繊維強化ポリプロピレン(プライムポリマー社製V7100、ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg荷重):18g/10min)80質量部、ガラス繊維20質量部)を、シリンダー温度250℃、金型温度120℃、射出速度25mm/sec、保圧80MPa、保圧時間10秒の条件にて射出成形を行い、金属/樹脂複合構造体106を得た。接合強度の評価結果を表3Aに示す。」
そうすると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「アルミニウムおよびアルミニウム合金から選択される一種または二種以上の金属を含む金属材料からなる金属部材と、射出成形されたガラス繊維強化ポリプロピレンを含む熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材と、が接合してなる金属/樹脂複合構造体であって、
前記金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部(ただし、前記6直線部における各直線間の垂直距離は、2~5mmである。)について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)~(4)を同時に満たす金属/樹脂複合構造体。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
(3)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を1直線部以上含む
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満である」
(イ)甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
表面が粗化処理された金属部材と、
前記金属部材における粗化処理された表面に接触し、かつ、熱硬化性樹脂と前記熱硬化性樹脂の内部に分散する粒状フィラー及び板状フィラーとを含有する樹脂体と、
を備え、
前記樹脂体の内部において、前記板状フィラーは前記粒状フィラーよりも前記金属部材側に偏在している樹脂-金属複合体。
(中略)
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂及びエポキシ樹脂の少なくとも一方を含有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の樹脂?金属複合体。
「【0103】
(熱硬化性樹脂)
エポキシ系アクリレート樹脂(日本ユピカ株式会社製「ネオポール(登録商標)8250H」)
不飽和ポリエステル樹脂(昭和高分子株式会社製「M?640LS」)
(熱可塑性樹脂)
ポリスチレン樹脂(日油株式会社製「モディパー(登録商標)SV10B」)
(中略)
(ガラス繊維)
BMC成形材料強化材用チョップドストランド(日東紡績株式会社製「CS3E-227」)
【0104】
【表1】
[図:0001384089000002.jpg]
【0105】
まず、上述の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、希釈剤、重合禁止剤、粘度調整剤、硬化触媒、離型剤を表1の配合量で混合した。次に、加圧ニーダー(株式会社トーシン製「TD3-10MDX」)を用い、加圧蓋を開放した状態でこれらの混合物を攪拌することにより、樹脂溶液を作製した。なお、熱硬化性樹脂は、事前に希釈剤に溶解し、溶液状態で混合した。
【0106】
次に得られた樹脂溶液に、表1の配合量の無機フィラー及び難燃剤を投入し、50~60℃で20分間混練りした。さらに、表1の配合量のガラス繊維を投入し、20℃で5分間混練りした。これにより、ユニット本体の原料であるコンパウンドを作製した。
【0107】
得られたコンパウンドを用い、次のようにして試験サンプルを作製した。まず、成形装置として低圧封止用トランスファー成形機(株式会社神藤金属工業所製「ETA?30D」)を使用し、金型へ上述のように表面処理したアルミニウム板を固定した。次に、金型を165℃に加熱し、金型へコンパウンドを充填した。これにより、コンパウンド中の熱硬化性樹脂が加熱により溶融・軟化して所定の形状に変形し、次いで硬化することで、図10に示すような、円錐台状の樹脂体10をアルミニウム板上に接着させた。なお、円錐台状の樹脂体における上底の直径は9mmであり、下底の直径は11mmであり、高さは10mmである。」
(ウ)甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0091】
第4の方法は、アルミニウム合金部材(金属基体1と金属化合物皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を含む)に樹脂からなる接着剤(樹脂4)を塗布し、この接着剤上に接着しようとする別の物品を配置した後、所定の荷重を付与して、室温に放置するかオーブン内で加熱硬化することでアルミニウム合金物品と樹脂4を接合するのと同時に樹脂4と別の物品との間を接着する方法である。
接着剤(樹脂4)は、ガラス繊維、セラミック粉体、カーボン繊維等の強化材を含んでもよい。また、熱硬化樹脂に充填剤を配合し、強化繊維に含浸してシート状にした未硬化材料のシート・モールディング・コンパウンド(SMC)またはプレプリグや熱硬化性樹脂に充填剤とガラス繊維などをミキサーで混合してバルク状にしたバルク・モールディング・コンパウンド(BMC)でもよい。室温で接着する場合は、接着剤が室温で反応硬化するものである必要がある。」
「【0095】
また、樹脂4として接着剤を用いる場合、接着剤の種類は特に限定されるものではないが、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤、ポリエステル系接着剤、フェノール系接着剤、ポリイミド系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エラストマー系接着剤、ホットメルト系接着剤などの工業的に利用される接着剤を使用できる。シート・モールディング・コンパウンド(SMC)としては、不飽和ポリエステル樹脂に炭酸カルシウムを配合し、ガラス繊維に含浸してシート状にしたもの、バルク・モールディング・コンパウンド(BMC)としては、不飽和ポリエステル樹脂に炭酸カルシウム、ガラス繊維短繊維を混合したものを使用できる。」
(エ)甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0025】
このゴルフクラブヘッド1は金属体10と、繊維強化樹脂体(以下、FRP体という。)30とからなる。」
「【0040】
このFRP体30を成形し且つ金属体10と一体化するには、ゴルフクラブヘッドの外形形状を有した金型を用意し、直交2方向に繊維を配向させた第1のプリプレグシート(未硬化の樹脂繊維複合シート)を該金型の内面に沿って配設する。この第1のプリプレグシートは、FRP体30の全外面の他に、さらに前記溝部17aを覆う位置に配置される。
(中略)
【0043】
この際、金属体10のうち金属クラウン部15等のプリプレグシートと重なる部分に、粘着性を有した樹脂(例えばエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等を有機溶剤に溶解させた粘稠液)を付着させておく。なお、この樹脂は120~150℃の温度にて3~15分で硬化する熱硬化性樹脂が好適である。
【0044】
次に、この金属体10の金属ソール部13(ただし、溝部17aよりも後部側。また、環状部18を除く。)の内面に第3のプリプレグシートを重ねる。その後、環状部18の開口を通して内部にガス圧を加えた状態で加熱し、樹脂を硬化させる。この際、ゴルフクラブヘッド内にナイロン等の樹脂袋を配置しておき、この袋内にガスを供給して膨らませ、プリプレグシートを圧迫して金型内面に密着させてもよい。
【0045】
これにより、第8図のようにFRP体30が成形されると共に、FRP体30の周縁部が金属体10に密着する。また、樹脂プレート21は第1のプリプレグシートの硬化物よりなるFRP層22で覆われる。成形終了後、脱型し、必要に応じゴルフクラブヘッドの内面に振動吸収層や打球音調整層を形成する。例えば、ポリイソブチレン等よりなる粘着剤を層状に形成することにより、ゴルフクラブヘッドのカラ鳴りが防止される。」
「【0057】
FRP体30等を成形するためのプリプレグとしては、クロス繊維プリプレグ、一方向繊維プリプレグ等のいずれでもよい。このプリプレグとしてSMCプリプレグを使用した場合には、肉薄のFRP体30を容易に形成することができる。」
(オ)甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
金属合金と熱硬化性樹脂組成物の成形品の複合体であって、
前記金属合金表面は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.8~10μm、最大高さ(Rz)が0.2~5μmであるミクロンオーダーの粗度を有し、且つ、その粗度を有する面内には5~500nm周期の超微細凹凸が形成され、且つ、表層が金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であり、
前記熱硬化性樹脂組成物が前記超微細凹凸に侵入した状態で硬化していることにより、前記金属合金と前記成形品とが接着剤を介在することなく接合されていることを特徴とする前記複合体。
(中略)
【請求項5】
請求項4に記載した金属合金と熱硬化性樹脂組成物の成形品の複合体であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、湿式のBMC(Bulk molding compound)を主として含むことを特徴とする前記複合体。」
「【0004】
特許文献1及び2における射出接合の原理を以下に示す。アルミニウム合金を水溶性アミン系化合物の希薄水溶液に浸漬させ、アルミニウム合金を水溶液の弱い塩基性によって微細エッチングする。この浸漬処理では、アルミニウム合金表面に超微細凹凸が形成されると共に、アルミニウム合金表面へのアミン系化合物分子の吸着が同時に起こる。この表面処理がなされたアルミニウム合金を射出成形金型にインサートし、溶融した熱可塑性樹脂を高圧で射出させる。このとき、熱可塑性樹脂と、アルミニウム合金表面に吸着していたアミン系化合物分子が遭遇することで化学反応する。この化学反応は、この熱可塑性樹脂が低温の金型温度に保たれたアルミニウム合金に接して急冷されて結晶化し固化せんとする物理反応を抑制する。その結果、樹脂は、結晶化や固化が遅れ、その間にアルミニウム合金表面の超微細凹凸に浸入する。このことにより、熱可塑性樹脂は外力を受けてもアルミニウム合金表面から剥がれ難くなる。即ち、アルミニウム合金と形成された樹脂成形品は強固に接合する。別の言い方で、化学反応と物理反応が競争反応の関係になり、この場合は化学反応が優先されるため強固な射出接合が生じると言える。実際、アミン系化合物と化学反応できるPBTやPPSがこのアルミニウム合金と射出接合ができることを確認している。この射出接合のメカニズムを発明者らは「NMT(Nano molding technologyの略)」と称した。」
「【0007】
[新NMT理論での金属合金側の条件]
第1の条件は、金属合金表面が、化学エッチング手法によって1~10μm周期の凹凸で、その凹凸高低差がその周期の半分程度まで、即ち0.5~5μmまでの粗い粗面になっていることである。ただし、実際には、前記粗面で正確に全表面を覆うことはバラツキがあり、一定しない化学反応では難しく、具体的には、粗度計で見た場合に0.2~20μm範囲の不定期な周期の凹凸で、且つその最大高低差が0.2~5μmの範囲である粗度曲線が描けることを要する。また、最新型のダイナミックモード型の走査型プローブ顕微鏡で金属合金表面を走査したときには、RSmが0.8~10μmであり、Rzが0.2~5μmである粗度面であれば前述した粗度条件を実質的に満たしたものとしている。ここでRSmは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される輪郭曲線要素の平均長さであり、Rzは、日本工業規格(JIS B 0601:2001, ISO 4287:1997)に規定される最大高さである。本発明者等は、理想とする粗面の凹凸周期が前述したように、ほぼ1~10μmであるので、分かり易い言葉として「ミクロンオーダーの粗度を有する表面」と称した。
【0008】
第2の条件は、上記ミクロンオーダーの粗度を有する金属合金表面に、さらに5nm周期以上の超微細凹凸が形成されていることである。言い換えると、ミクロの目で見てザラザラ面であることを要する。当該条件を具備するために、上記金属合金表面に、微細エッチングを行い、前述のミクロンオーダーの粗度をなす凹部内壁面に5~500nm、好ましくは10~300nm、より好ましくは30~100nm(最適値は50~70nm)周期の超微細凹凸を形成する。
【0009】
この超微細凹凸について述べると、その凹凸周期が10nm以下の周期であると樹脂分の進入が明らかに難しくなる。また、この場合には通常、凹凸高低差も小さくなるので、樹脂側から見て円滑面となる。その結果、スパイクの役目を為さなくなる。又、周期が300~500nm程度又はこれよりよりも大きな周期なら(その場合、ミクロンオーダーの粗度をなす凹部の直径や周期は10μm近くになると推定される)、ミクロンオーダーの凹部内でのスパイクの数が激減するので効果が効き難くなる。よって、原則としては、超微細凹凸の周期が10~300nmの範囲であることを要する。しかしながら、超微細凹凸の形状によっては、5nm~10nm周期のものでも、樹脂がその間に侵入する場合がある。例えば、5~10nm直径の棒状結晶が錯綜している場合等がこれに該当する。また、300nm~500nm周期のものでも、超微細凹凸の形状がアンカー効果を生じやすい場合がある。例えば、高さ及び奥行きが数十~500nmで、幅が数百~数千nmの階段が無限に連続したパーライト構造のような形状がこれに該当する。このような場合も含め、要求される超微細凹凸の周期を5nm~500nmと規定した。
【0010】
ここで、従来は上記第1の条件に関して、RSmの範囲を1~10μm、Rzの範囲を0.5~5μmと規定していたが、RSmが0.8~1μm、Rzが0.2~0.5μmの範囲であっても、超微細凹凸の凹凸周期が、特に好ましい範囲(概ね30~100nm)に有れば、接合力が高く維持できる。それ故に、RSmの範囲を小さい方にやや広げることとした。即ち、RSmが0.8~10μm、Rzが0.2~5μmの範囲とした。
【0011】
さらに、第3の条件は、上記金属合金の表層がセラミック質であることである。具体的には、元来耐食性のある金属合金種に関しては、その表層が自然酸化層レベルかそれ以上の厚さの金属酸化物層であることを要し、耐食性が比較的低い金属合金種(例えばマグネシウム合金や一般鋼材等)では、その表層が化成処理等によって生成した金属酸化物又は金属リン酸化物の薄層であることが第3の条件となる。」
「【0028】
金属合金部品を射出成形金型にインサートし、これに熱硬化性樹脂を射出接合して金属合金部品と熱硬化性樹脂成形品を強固に一体化することができれば、得られる複合体は耐熱性及び耐候性に優れるから広い分野で利用可能である。また、当該複合体の生産において射出成形機又はBMC成形機という量産性に優れた生産機械を使用できるという利点がある。そこで、本発明者らは、新NMTに基づく射出接合を熱硬化性樹脂組成物にも応用すべく、上記「射出成形機」及び「BMC成形機」を使用して多種の試験を行った。しかしながら、熱硬化性樹脂組成物を金属合金表面(新NMTで示す3条件を具備する)に射出しても、両者は全く接合しなかった。」
「【0099】
ここでBMCについて詳述する。BMCは、(1)不飽和ポリエステル樹脂及び/又はビニルエステル樹脂、(2)スチレン系モノマー、(3)無機充填材、(4)ガラス短繊維、及び(5)硬化剤の有機過酸化物等を含んでいる。乾式BMCとは粉末状であり、組成は前記(1)~(5)を含む。ここで湿式BMCと比較した場合、低粘度液状物である(2)スチレン系モノマーが少なめであって、(4)ガラス短繊維も繊維長が湿式BMCに使用するものより短く、且つ充填量も少ない。その組成の違いによって粉末状になったものである。一方、湿式BMCは粘性があり、その外観はガラス繊維を含んだ粘土状の樹脂である。乾式BMCよりも明らかに(2)スチレン系モノマーの含有量が多く、(4)ガラス短繊維の含有量も20質量%に近い。
【0100】
これらBMCの射出成形で得られた成形品は原料にガラス繊維が含まれるのでガラス繊維強化プラスチック(以下「GFRP(Glass fiber reinforced plasticsの略)」という)の一種と言える。GFRPの製造方法として、ガラス繊維の束、織物、又は不織布を強化繊維として、これに樹脂をハケやローラー等で含浸させ、脱泡しながら所定の厚さまで積層するハンドレイアップ法があり、ボートや小型漁船等の大型品の製造に用いられている。また、他の製造方法として、比較的長い切断繊維を大量に含むSMC(Sheet molding compoundの略)というシート状原料をSMC金型に入れて圧縮成型するSMCプレス法があり、浴槽や汚水処理槽等の大型の工場製品の製造に用いられている。本発明の射出接合によって得られる製品は一般に小型部品が多く、上述したような大型GFRP製品とはいえないが、ガラス繊維を含むのでGFRP製品である。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「金属部材」は、本件発明の「金属部材」に相当する。
甲1発明の「射出成形されたガラス繊維強化ポリプロピレンを含む熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材」は、「繊維強化樹脂部材」の限りで、本件発明1の「不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」に一致する。
甲1発明の「金属/樹脂複合構造体」は、「金属部材」と「繊維強化樹脂部材」からなることから、本件発明1の「金属/繊維強化樹脂複合構造体」に相当する。
また、甲1発明における金属部材の接合部表面上の表面粗さの測定方法及び表面粗さの要件(1)、(2)、(4)は、本件発明における金属部材の接合部表面上の表面粗さの測定方法及び表面粗さの要件と同一である。
したがって、本件発明1と甲1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「金属部材と、繊維強化樹脂部材と、が接合してなる金属/繊維強化樹脂複合構造体であって、
前記金属部材の接合部表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部(ただし、前記6直線部における各直線間の垂直距離は、2~5mmである。)について、JIS B0601(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)、(2)および(4)を同時に満たす金属/繊維強化樹脂複合構造体。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rz)が2μmを超える
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満である」
<相違点1>
繊維強化樹脂に関して、本件発明1は「不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」であるのに対し、甲1発明は「射出成形されたガラス繊維強化ポリプロピレンを含む熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材」である点。
相違点1について検討する。
甲2には、金属部材と不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるBMC部材とが接合してなる複合体が、甲3には、金属部材と別の物品と接着するための接着剤として、不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるSMC部材またはBMC部材を使用することが、甲4には、金属部材とSMC部材とが接合してなる複合体が、甲5には、金属部材と不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるBMC部材またはSMC部材とが接合してなる複合体が記載されており、金属部材と、SMC部材又はBMC部材とが接合してなる金属/繊維強化樹脂複合構造体は、本願出願前に周知である。しかしながら、甲1発明は、樹脂部材として熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、金属部材の表面の凹凸形状の中に熱可塑性樹脂組成物が侵入することによって、金属部材と樹脂部材との間に物理的な抵抗力(アンカー効果)が効果的に発現し、金属部材と熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材とを強固に接合させる(甲1の【0025】)ものであるのに対し、甲2は、熱硬化性樹脂の内部に含有される「板状フィラーが粒状フィラーよりも金属部材側に偏在している」ことで金属と樹脂との接着力を高めるものであって、甲1発明とは接着力を高めるための原理を異とするものであり、甲3は、金属部材と別の物品とを接着するための接着剤に関するものであって、甲1発明とは接合対象及び接合手法を異とするものであり、甲4は、粘着性を有した樹脂を介して金属体(金属部材)とプリプレグシート(樹脂)とを一体化させるものであって、甲1発明とは接合対象及び接合手法を異とするものである。
また、甲5は、背景技術として、金属合金と熱可塑性樹脂を射出接合によって強固に接合できる条件を発見し、この条件に基づく射出接合のメカニズムを「新NMT」と称したこと、しかしながら、新NMTで示す3条件を具備する金属合金表面に、熱硬化性樹脂組成物を射出しても両者は全く接合しなかったことが記載されている。
そうすると、仮に、甲1発明に対して、甲2~5の記載に基づき、樹脂部材を熱可塑性樹脂組成物に代えて不飽和ポリエステル樹脂、すなわち、熱硬化性樹脂組成物に変更することができたとしても、甲1発明は熱可塑性樹脂組成物を射出接合した場合に好適な金属部材表面の条件を示したにすぎず、熱硬化性樹脂を射出接合した場合に、熱可塑性樹脂と同様に金属部材の表面の凹凸形状の中に樹脂を侵入させることは困難であるから、この点阻害要因があるといえる。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~5に例示される周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明2~3について
本件発明2~3は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含み他の発明特定事項を付加したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明4について
本件発明4と甲1発明を対比すると、少なくとも、繊維強化樹脂に関して、本件発明4は「不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」であるのに対し、甲1発明は「射出成形されたガラス繊維強化ポリプロピレンを含む熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材」である点で相違している(以下、「相違点2」という)。
相違点2は、上記(ア)で示した相違点1と実質的に同じであるから、上記(ア)で判断した理由により、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明5について
本件発明5と引用文献1に記載された事項を対比すると、少なくとも、繊維強化樹脂に関して、本件発明5は「不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)部材および不飽和ポリエステル樹脂を用いてなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)部材から選択される少なくとも一種である繊維強化樹脂部材」であるのに対し、甲1発明は「射出成形されたガラス繊維強化ポリプロピレンを含む熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材」である点で相違している(以下、「相違点3」という)。
相違点3は、上記(ア)で示した相違点1と実質的に同じであるから、上記(ア)で判断した理由により、甲1発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載の発明である旨を主張する。
しかしながら、上記第4 2(2)に示したとおり、本件発明1は甲第1号証に記載の発明ではない。
本件発明2~5についても同様である。
したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700288