特許異議申立
2024-700094
加飾シート、及び加飾シートの成形方法
- 審判番号
- 2024-700094
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-191838
- 登録番号
- 7322375
- 請求日
- 2024年02月05日
- 審決日
- 2025年07月04日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】宮坂 徹
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 岩谷 一臣
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.55 -YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7322375号発明「加飾シート、及び加飾シートの成形方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7322375号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7322375号の請求項1、2に係る特許を維持する。
特許第7322375号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7322375号の請求項1~3に係る特許は、平成30年10月10日の出願であって、令和5年7月31日にその特許権の設定登録がされ、同年8月8日に特許掲載公報が発行されたものである。その後の手続は、概略以下のとおりである。
令和6年 2月 5日 :特許異議申立人藤江桂子(以下「申立人」という。)による請求項1~3に係る特許に対する特許異議の申立て
3月12日 :異議申立書に対する手続補正(申立人)
5月 1日付け:取消理由通知書
7月 5日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
11月 6日付け:訂正拒絶理由通知書
12月11日 :意見書及び訂正請求書に対する手続補正(特許権者)
なお、申立人に対し、訂正請求書及び訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲の写しを送付し意見書を提出する機会を与えたが、申立人から提出はなされなかった。
第2 令和6年12月11日の手続補正の許否
令和6年7月5日の訂正請求により、願書に添付された特許請求の範囲について訂正が請求されたところ、この手続補正により、訂正請求書による訂正は、以下のとおり補正された。
なお、下線は、手続補正による補正事項の理解のため、当審において付与した。
1 手続補正前の訂正請求に添付された特許請求の範囲
「【請求項1】
単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみ、若しくは前記基材層、前記原反層、及び前記基材層と前記原反層との間に設けられた中間層のみを備え、IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法を用いて被着体に積層される加飾シートであって、
前記中間層は、絵柄模様層及び接着剤層の少なくとも一方であり、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記原反層は、アクリルフィルムであり、
前記基材層及び前記原反層の総厚が275μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:2.7であること、又は前記基材層及び前記原反層の総厚が505μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:3.0であることを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみ、若しくは前記基材層、前記原反層、及び前記基材層と前記原反層との間に設けられた中間層のみを備え、IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法を用いて被着体に積層される加飾シートであって、
前記中間層は、絵柄模様層及び接着剤層の少なくとも一方であり、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記原反層は、ポリプロピレンフィルムであり、
前記基材層及び前記原反層の総厚が、470μmであり、
前記原反層と前記基材層との厚さの比率が、1:4.2であることを特徴とする加飾シート。
【請求項3】(削除)」
2 手続補正後の訂正請求書に添付された特許請求の範囲
「【請求項1】
単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備え、IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法を用いて被着体に積層される加飾シートであって、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記原反層は、アクリルフィルムであり、
前記加飾シートの総厚が275μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:2.7であること、又は前記加飾シートの総厚が505μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:3.0であることを特徴とする加飾シート。
【請求項2】
単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備え、IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法を用いて被着体に積層される加飾シートであって、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記原反層は、ポリプロピレンフィルムであり、
前記加飾シートの総厚が、470μmであり、
前記原反層と前記基材層との厚さの比率が、1:4.2であることを特徴とする加飾シート。
【請求項3】(削除)」
3 手続補正の内容
この手続補正により、請求項1、2に関する補正前の訂正事項のうち、「加飾シート」に関し付加された「前記基材層、前記原反層、及び前記基材層と前記原反層との間に設けられた中間層のみを備え」という事項、及び「前記中間層は、絵柄模様層及び接着剤層の少なくとも一方であり」という事項を削除するとともに、「総厚」に関する訂正事項を削除し、訂正前の記載に戻す補正を行ったものである。
そうすると、この手続補正による訂正請求書の補正は、いずれも訂正事項の削除であって、訂正請求書の要旨変更には当たらない。
4 手続補正の許否についてのまとめ
以上のとおり、この手続補正による訂正請求書の補正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第131条の2第1項の規定に適合するものであるから、この手続補正を認めることとする。
第3 訂正の許否
1 訂正の内容
令和6年12月11日の手続補正により補正された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
なお、下線は訂正箇所の理解のため、当審において付与した。
(1)訂正事項1-1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「基材層と、前記基材層の表面側に設けられた原反層と、を備えた加飾シートであって、」という記載を、「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備え、IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法を用いて被着体に積層される加飾シートであって、」と訂正する。
(2)訂正事項1-2
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「前記原反層は、アクリルフィルム原反であり、前記加飾シートの総厚が、275μm以上505μm以下であり、前記原反層と前記基材層との厚さの比率が、1:2.5~1:4.5である」という記載を、「前記原反層は、アクリルフィルムであり、前記加飾シートの総厚が275μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:2.7であること、又は前記加飾シートの総厚が505μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:3.0である」と訂正する。
(3)訂正事項2-1
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に記載の「基材層と、前記基材層の表面側に設けられた原反層と、を備えた加飾シートであって、」という記載を、「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備え、IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法を用いて被着体に積層される加飾シートであって、」と訂正する。
(4)訂正事項2-2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に記載の「前記原反層は、ポリプロピレンフィルム原反であり、前記加飾シートの総厚が、275μm以上505μm以下であり、前記原反層と前記基材層との厚さの比率が、1:2.5~1:4.5である」という記載を、「前記原反層は、ポリプロピレンフィルムであり、前記加飾シートの総厚が、470μmであり、前記原反層と前記基材層との厚さの比率が、1:4.2である」と訂正する。
(5)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。
2 一群の請求項
訂正前の請求項1~3について、請求項3は独立請求項である請求項1、2を引用しているところ、当該請求項1、2は訂正の対象となっているから、請求項1~3は、一群の請求項である。よって、本件訂正は、一群の請求項〔1~3〕に対して請求されたものである。
3 訂正の目的、新規事項追加の有無等
(1)訂正事項1-1、2-1について
これらの訂正事項は、「基材層」及び「原反層」がそれぞれ単層であることを特定するとともに、「IML成型法、射出成形同時積層法又はTOM成型法」によって積層されることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、当該訂正事項は、願書に添付した明細書の【0010】の「基材層1は、単層でもよく、複層でもよい。」という記載、同【0011】の「また、原反層2は、単層でもよく、複層でもよい。」という記載、及び同【0014】の「成形品の製造方法としては、例えば、IML(Insert Molding Laminate)成型法、射出成形同時積層法、TOM(Three dimension Overlay Method)成型法を用いることができる。」という記載に基づくものであり、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
(2)訂正事項1-2について
当該訂正事項のうち、加飾シートの総厚及び原反層と基材層との厚さの比率をさらに特定する点は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、「アクリルフィルム原反」を「アクリルフィルム」とする訂正に関し、アクリルフィルムを原反のまま加飾シートに積層することは技術的に不可能であるところ、令和6年5月1日付けで当審において通知した取消理由通知書における明確性要件違反に対しこれを明確化したものであると理解できるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
さらに、当該訂正事項は、願書に添付した明細書の【0017】、【0018】に記載された実施例1、2に基づくものであり、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
(3)訂正事項2-2について
当該訂正事項の目的は、上記(2)と同様に、特許請求の範囲の減縮とともに、明瞭でない記載の釈明に該当する。
また、当該訂正は、願書に添付した明細書の【0018】に記載された実施例3に基づくものであり、新規事項の追加ではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。
(4)訂正事項3について
当該訂正事項は、請求項3を削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、新規事項の追加に当たらないことは明らかであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもないことも同様である。
4 訂正請求に関するまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に合致する。
よって、特許請求の範囲を本件訂正のとおり訂正することを認める。
第4 訂正後の本件発明
本件訂正による請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、上記第2、2のとおりである。
第5 取消理由通知書における取消理由の概要
令和6年5月1日付けの取消理由通知書で通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。
1 理由1)令和5年5月18日付け手続補正書でした補正は、以下の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものである。
請求項3において、「加飾シートの各部の温度のバラつきを±10℃以内に収まるようにする」ことを特定した令和5年5月18日の手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができない。
2 理由2)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)(明確性要件)請求項1、2に記載された「原反層」、「アクリルフィルム原反」、「ポリプロピレン原反」は、多義的に解釈されるため明確でないか、「物」の発明について製造方法によって特定するものと解釈されるため、明確ではない。
(2)(サポート要件1)請求項1、2に記載された「加飾シートの総厚」及び「原反層」と「基材層」との厚さの比率の設定は、本件発明の課題を解決し得るものとは認められない。
(3)(サポート要件2)請求項1、2に記載された「加飾シート」は、「原反層」、「基材層」以外の層も含み得るため、発明の詳細な説明に記載された各実施例と同様の効果が得られるとは限らず、本件発明の課題を解決し得るものとは認められない。
(4)(サポート要件3)請求項1、2に記載された「ABS樹脂」、「アクリルフィルム原反」、「ポリプロピレン原反」は、それらを構成する樹脂がどのようなものか特定されていないため、発明の詳細な説明に記載された各実施例と同様の効果が得られるとは限らず、本件発明の課題を解決し得るものとは認められない。
(5)(実施可能要件1)請求項3には「加飾シートの各部の温度のバラつきを±10℃以内に収まるようにする」と特定されている一方、発明の詳細な説明では、成形機の温度設定をを±10℃にすることしか記載されておらず、「加飾シートの各部」における温度のばらつきを±10℃以内に収めることについて、その実施が可能なように明確かつ十分に記載されていない。
(6)(実施可能要件2)発明の詳細な説明の記載では、試験片のどの部位を測定しているのか、また、どのように測定しているのか不明であり、その実施が可能なように明確かつ十分に記載されていない。
3 理由3)請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
4 理由4)請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用刊行物>
甲第2号証:特開平11-91041号公報
甲第3号証:特開2013-78957号公報
甲第4号証:特開2008-238426号公報
甲第5号証:国際公開第2018/062257号
甲第6号証:国際公開第2016/103714号
甲第7号証:特開2005-262447号公報
甲第8号証:特開2007-118350号公報
甲第9号証:特開2008-87303号公報
甲第10号証:特開2017-177728号公報
甲第11号証:特開2002-273830号公報
甲第12号証:特開2007-301903号公報
甲第13号証:特開2005-127124号公報
甲第14号証:特開2003-239517号公報
甲第15号証:特開2005-46342号公報
甲第16号証:特開2001-277447号公報
甲第17号証:特開2009-132145号公報
甲第18号証:特開2014-93284号公報
甲第19号証:特開平5-337954号公報
甲第20号証:特開2010-274579号公報
甲第21号証:特開2000-158469号公報
甲第22号証:特開2002-192605号公報
以下、各引用刊行物を「甲2」等という。
第6 当審における判断
1 理由1(新規事項の追加)について
当該取消理由は、本件訂正により請求項3が削除されたため、その理由が解消した。
2 理由2について
(1)明確性要件違反
本件訂正により、請求項1の「アクリルフィルム原反」、請求項2の「ポリプロピレン原反」は、それれぞれ「アクリルフィルム」、「ポリプロピレンフィルム」と訂正された。そのため、加飾シートは、これらのフィルムによって構成されていると理解され、上記明確性要件に関する取消理由は解消した。
(2)サポート要件1
本件訂正により、加飾シートの総厚と原反層及び基材層の厚さの比率が特定のものに特定された。そして、発明の詳細な説明に記載された実施例1~3を勘案するに、当該特定の総厚及び厚さの比率により、成形品におけるシート厚の安定性、外観試験において優良であることが理解でき、本件発明の課題を解決できることが明らかになった。
これにより、上記サポート要件1に関する取消理由は解消した。
(3)サポート要件2
本件訂正により、加飾シートが単層の基材層及び同原反層のみを備えることが特定されたため、サポート要件2に関する取消理由は解消した。
(4)サポート要件3
本件訂正により、請求項1、2におけるABS樹脂、アクリルフィルム、ポリプロピレンフィルムは、それぞれ熱成形性が必要であることが理解されるところ、技術常識からみて、それらは広く用いられている材質であれば足り、ことさら特定の成分ないし成分比率を用いたものではないものと理解される。そして、発明の詳細な説明の記載(【0010】、【0011】、【0014】、【0017】、【0018】)を見ても同様に、これら一般的な樹脂を用いることで課題を解決しているものと認められる。
そうすると、当該サポート要件3に関する取消理由は解消した。
(5)実施可能要件1
当該取消理由は、本件訂正により請求項3が削除されたため、その理由が解消した。
(6)実施可能要件2
発明の詳細な説明に記載された実施例によれば、「加飾シート10」をTOM成形機で圧空成型を行い(【0017】)、図2において「1R」、「4R」と図示される角部を有する側面視L字の成形品を作成していることが理解される。また、【0024】、【0025】の記載からみて、「(第1厚さ試験)」とし、「上面(平坦部)」と「角部(湾曲部)」の厚さを測定し、その比較を行っていることが理解され、また、【0026】の記載からみて、「(第2の厚さ試験)」として「1R」と「4R」の厚さを比較していることが理解される。
そうすると、当業者であれば、当該記載を基に試験片に対する厚さの試験を行うことが可能であり、当該実施可能要件2に関する取消理由は、解消した。
3 理由3、4について
(1)本件発明1について
ア 甲2を主引用例とした場合
(ア)甲2に記載の発明
甲2には、特に、【0035】、実施例2に着目すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「厚さ80μmのアクリルフィルムに、黄橙色の木目導管柄および透明下地色アクリル樹脂系インキを用いて木目導管柄の図柄層を形成し、
黄色パール顔料を含むアクリル樹脂系インキを用いて光輝性顔料層の図柄層を形成し、
茶色の弁柄顔料を含むアクリル樹脂系インキを用いて木目下地柄の図柄層を兼ねる接着インキ層を形成し、
ブタジエン含有38重量%、厚さ300μmのアクリロニトリルブタジエンスチレンフィルムを積層して得た、絵付インサートフィルム。」
(イ)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、以下のとおりである。
・甲2発明の「アクリロニトリルブタジエンスチレンフィルム」は、ABS樹脂を含むことは明らかであり、本件発明1の「ABS樹脂を含」む「単層の基材層」に相当する。
・甲2発明の「アクリルフィルム」は、本件発明1の「単層の原反層」ないし「アクリルフィルム」に相当する。
・甲2発明の「絵付インサートフィルム」は、「自動車の内装などに好適なアクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂成形品の立体表面に絵付けする」(甲2の【0001】)ものであり、「加飾シート」といえるものである。また、甲2発明は、「アクリルフィルム」と「アクリロニトリルブタジエンスチレンフィルム」を積層するものであるところ、甲2の【0032】に「絵付インサートフィルムは、アクリルフィルム側から凸引きにより真空成形して立体加工した後、プレス金型により所望の形状に打ち抜いた。」と記載されていることからみて、「アクリルフィルム」が「アクリロニトリルブタジエンスチレンフィルム」よりも表面側に位置するといえる。そうすると、甲2発明の「絵付インサートフィルム」は、本件発明1の「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備え」との関係において、「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層を備え」に限り一致する。
(ウ)一致点
上記(イ)より、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致する。
《一致点1》
「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備えた加飾シートであって、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記原反層は、アクリルフィルムである、
加飾シート。」
(エ)相違点
一方、本件発明1と甲2発明は、少なくとも以下の相違点を含むものである。
《相違点1》
本件発明1では、「前記加飾シートの総厚が275μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:2.7であること、又は前記加飾シートの総厚が505μmであり前記原反層と前記基材層との厚さの比率が1:3.0であること」とされているのに対して、甲2発明の「絵付インサートフィルム」は、「厚さ80μmのアクリルフィルム」に、「厚さ300μmのアクリロニトリルブタジエンスチレンフィルムを積層」している点。
(オ)相違点の検討
上記相違点1について検討するに、甲2発明の「絵付けインサートフィルム」の総厚は、380μm(80μm+300μm)であり、また、「アクリルフィルム」と「アクリロニトリルブタジエンスチレンフィルム」との比は、1:3.75(80μm:300μm)である。そして、甲2には、総厚を275μmにし、「アクリルフィルム」と「アクリロニトリルブタジエンスチレンフィルム」との比を1:2.7とすること、又は同505μm、1:3.0とすることについては、記載がない。
そして、総厚や各フィルムの厚さは、求められる機能や特性等に応じて当業者が適宜設定すべき事項であったとしても、甲2発明において、当該相違点1に係る特定の厚さと比率に調整しようという動機付けがない。
してみれば、当該相違点1は実質的なものであり、また、甲2発明において当該値に設定することは、当業者にとって容易に想到し得たものではない。
(カ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 甲3~甲11を主引用例とした場合
本件発明1と甲3~甲11に記載の発明とを対比すると、いずれの場合でも少なくとも上記ア(エ)の点で相違する。そして、これに対する判断は、同(オ)のとおりである。
よって、本件発明1は、甲3~8、11に記載の発明ではないし、甲3~甲11に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2について
ア 甲16を主引用例とした場合
(ア)甲16に記載の発明
甲16には、特に、【0053】、実施例3に着目すると、次の発明(以下「甲16発明」という。)が記載されていると認められる。
「厚み100μmのポリプロピレン系熱可塑性エラストマー樹脂フィルムの表面側にグラビア印刷で木目柄を印刷し、
このフィルムの印刷面と反対の面にポリウレタン系樹脂プライマーを厚み1μm(乾燥時)に塗工し、更にヒートシール層として塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系プライマーを厚み2μm(乾燥時)に塗工し、印刷ポリオレフィンシートを形成し、
印刷ポリオレフィンシートの印刷面に、厚み100μmの透明アクリル樹脂シートを重ね、反対側に厚み300μmのABS樹脂シートを重ね、三層を熱圧ラミネートで貼り合わせた、
加飾シート。」
(イ)対比
本件発明2と甲16発明を対比すると、以下のとおりである。
・甲16発明の「ABS樹脂シート」は、本件発明2の「ABS樹脂を含」む「単層の基材層」に相当する。
・甲16発明の「ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー樹脂フィルム」は、本件発明2の「単層の原反層」ないし「ポリプロピレンフィルム」に相当する。
・甲16発明の「加飾シート」は、本件発明2の「加飾シート」に相当する。
・甲16発明の「印刷ポリオレフィンシート」は、「印刷面」に「透明アクリル樹脂シートを重ね」、「反対側」に「ABS樹脂シートを重ね」たものである。そうすると、「印刷ポリオレフィンシート」を構成する「ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー樹脂フィルム」は、「ABS樹脂シート」の表側に設けられているものにほかならない。してみれば、甲16発明の「加飾シート」は、本件発明2の「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層のみを備え」との関係において、「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層を備え」に限り一致する。
(ウ)一致点
上記(イ)より、本件発明2と甲16発明とは、以下の点で一致する。
「単層の基材層、及び前記基材層の表面側に設けられた単層の原反層を備えた加飾シートであって、
前記基材層は、ABS樹脂を含み、
前記原反層は、ポリプロピレンフィルムである、
加飾シート。」
(エ)相違点
一方、本件発明2と甲16発明は、少なくとも以下の相違点を含むものである。
《相違点2》
本件発明2では、「前記加飾シートの総厚が、470μmであり、前記原反層と前記基材層との厚さの比率が、1:4.2である」とされているのに対して、甲16発明の「加飾シート」は、「厚み100μmのポリプロピレン系熱可塑性エラストマー樹脂フィルム」、「厚み300μmのABS樹脂シート」、「厚み100μmの透明アクリル樹脂シート」を有する点。
(オ)相違点の検討
上記相違点2について検討するに、甲16発明は、そもそも3層構造であることに加え、仮にこの点を置くとしても「ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー樹脂フィルム」と「ABS樹脂シート」との合計は400μm(100μm+300μm)であり、その比は1:3.0(100μm:300μm)である。そして、甲16には、これらの合計を470μm、比を1:4.2とすることについては、記載がない。
そして、各フィルムの厚さやその合計は、求められる機能や特性等に応じて当業者が適宜設定すべき事項であったとしても、甲16発明において、当該相違点2に係る特定の厚さと比率に調整しようという動機付けがない。
してみれば、当該相違点2は実質的なものであり、また、甲16発明において当該値に設定することは、当業者にとって容易に想到し得たものではない。
(カ)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は甲16発明ではなく、また、甲16発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 甲12~甲15、甲17を主引用例とした場合
本件発明2と甲12~甲15、甲17に記載の発明とを対比すると、いずれの場合でも少なくとも上記ア(エ)の点で相違する。そして、これに対する判断は、同(オ)のとおりである。
よって、本件発明2は、甲12~15記載の発明ではないし、甲12~甲15、甲17に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
4 取消理由についてのまとめ
以上のとおり、取消理由通知書で通知した取消理由1~4は、いずれもその理由がない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立理由のうち、上記第5に記載した取消理由に採用しなかったものは、概略以下のとおりである。
(明確性要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・請求項1に記載された原反層は、アクリルフィルム原反のみからなるのか、(メタ)アクリル樹脂も含め、アクリル樹脂を含んでいるものであれば良いのか不明である。また、請求項2に記載されたポリプロピレンも同様である。
しかし、当該点については、本件訂正により請求項1、2とも「単層の原反層のみを備え」と訂正され、さらに、当該原反層が請求項1においてはアクリルフィルムであること、請求項2ではポリプロピレンフィルムであることが特定されたことにより解消された。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項3に係る特許に対する特許異議申立は、本件訂正により削除されたため却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700094