特許異議申立
2023-700499
化粧板
- 審判番号
- 2023-700499
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-035245
- 登録番号
- 7202215
- 請求日
- 2023年05月15日
- 審決日
- 2023年09月29日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】アイカテック建材株式会社
- 【権利者代理人】清水 貴光
- 【異議申立人】井関 勝守
- 審判長/審判官
- 審判長 山崎 勝司
- 審判官 武市 匡紘
- 審判官 久保 克彦
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B) / P1651.55 -Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7202215号発明「化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7202215号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7202215号(以下「本件特許」という。)の請求項1~2に係る特許についての出願は、平成31年2月28日の出願であって、令和4年12月27日にその特許権の設定登録がされ、令和5年1月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年5月15日に特許異議申立人井関勝守(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許
特許第7202215号の請求項1~2の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面が平滑に形成されて繊維強化セメント板から成る押出成形セメント板上に、プライマー層、下地層及びパール層が下からこの順で積層され、
前記パール層のパール添加量は、0.5~1.0重量%に設定されていることを特徴とする化粧板。
【請求項2】
前記パール層上に、上塗層が積層されていることを特徴とする請求項1記載の化粧板。」
第3 申立理由の概要
申立人は、本件特許異議申立書に添付して、以下の甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」等という。)を提出して、大要、次の取消理由を主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1は、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)であるから、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の甲1及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 申立理由3(新規事項)
令和4年3月17日提出の手続補正書に係る補正(以下「補正1」という。)、及び、令和4年9月1日提出の手続補正書に係る補正(以下「補正2」という。)は、それぞれ以下の(1)及び(2)の事項について補正するものであるところ、当該事項は、いずれも、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、新規事項の追加に該当するものである。
(1)補正1について
当初明細書等には、主剤中のパール添加量についての記載はあるが、パール層中のパール添加量については記載されていないため、令和4年3月17日提出の手続補正書に係る補正は、新規事項の追加に該当するものである。
(2)補正2について
当初明細書等には、パール添加量として「%」の記載はあるが、「重量%」と明示的に記載されておらず、令和4年9月1日提出の手続補正書に係る補正は、新規事項の追加に該当するものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の欄の記載は、以下の(1)及び(2)の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)発明の詳細な説明には、パール添加量のパールについて具体例が記載されておらず、当業者が本件発明1~2の効果を得られる化粧板を製造するためには、過度の試行錯誤が必要であり、発明の詳細な説明には、本件発明に係る化粧板が作れるようには記載されていない。
(2)発明の詳細な説明には、無機質系基材の表面をどの程度平滑に形成するか数値基準が記載されておらず、発明の詳細な説明に基いて当業者が本件発明に係る化粧板が作れるようには記載されていない。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下の(1)及び(2)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)本件特許の明細書には、主剤中のパール添加量についての記載はあるが、パール層中のパール添加量については記載されていないため、当該パール層中のパール添加量についての特許請求の範囲における記載は、明細書に記載された事項を超えるものである。
(2)本件特許の明細書には、パール添加量として「%」の記載はあるが、「重量%」と明示的に記載されておらず、当該事項は明細書に記載された事項を超えるものである。
[証拠方法]
甲第1号証:特許第5189610号公報
甲第2号証:特開2019-18363号公報
甲第3号証:国際公開第2019/004063号
甲第4号証:特開2010-46954号公報
甲第5号証:特開2001-287328号公報
甲第6号証:特開2007-98849号公報
甲第7号証:特開2017-185437号公報
甲第8号証:特開平9-215960号公報
甲第9号証:特開2023-6532号公報
第4 当審の判断
1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項・発明
ア 甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与し、「・・・」は記載の省略を表す。
・「【請求項1】
建築用の基材と、この基材の表面上にインクジェットプリンターにより水系インクを吐出して形成された印刷層と、この印刷層の上に結合剤と感熱ゲル化剤を含む水系クリヤー塗料を塗装して形成されたクリヤー層を有することを特徴とする意匠性建材。
・・・
【請求項3】
水系クリヤー塗料が、固形分換算で、結合剤100質量部に対して、光輝性顔料を0.1~10.0質量部の範囲で含む請求項1又は2に記載の意匠性建材。
【請求項4】
基材の表面には下塗り塗料を塗装して下塗り層が形成されており、印刷層がこの下塗り層を介して基材上に設けられている請求項1~3のいずれかに記載の意匠性建材。」
・「【0001】
この発明は、建築内装材や建築外装材等の分野において利用される化粧板等の意匠性建材及びその製造方法に係り、・・・意匠性に優れた意匠性建材及びその製造方法に関する。」
・「【0027】
[基材について]
本発明において、意匠性建材を製造するために用いられる基材としては、・・・、例えば、フレキシブルボード、ケイ酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、ALC板、石膏ボード等の無機質材料や、・・・を例示することができる。これらの基材については、その表面が平滑なものであっても、また、比較的細かな凹凸形状及び/又は比較的大きな凹凸形状を有するものであってもよい。」
・「【0030】
ここで、このような下塗り層を形成するための下塗り塗料については、結合剤と有機溶剤主体の溶媒からなる溶剤系下塗り塗料(水を実質的に含まない親水性溶剤のみが用いられる下塗り塗料と、溶剤を全く用いない粉体下塗り塗料も含まれる。)と、結合剤と水主体の溶媒からなる水系下塗り塗料(溶剤を実質的に含まない水溶性樹脂からなる下塗り塗料も含まれる。)とが存在し、これらの下塗り塗料には、必要に応じて、充填剤や各種の添加剤が配合される。ここで、前記結合剤としては、従来から下塗り塗料に用いられてきた、結合剤であれば水系、溶剤系を問わず各種の結合剤を用いることが可能であり、代表的なものとしては、例えば、エポキシ樹脂や、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、無機系樹脂、アクリルシリコン樹脂、アルキド樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。・・・」
・「【0052】
[印刷層について]
本発明においては、上記の下塗り層に対して、あるいは、受理層に対してインクジェットプリンターにより水系インクを吐出することにより、種々の着色模様や、例えば自然石模様、大理石模様、タイル模様、木目模様等の種々の柄模様(模様)をその画像データに基づいて印刷し、印刷層を形成する。・・・」
・「【0072】
本発明の水系クリヤー塗料に必要により添加される光輝性顔料としては、通常のノンリーフィングタイプのアルミニウム顔料、アルミニウムペースト等のアルミ粉、白色~銀色に濁った色を示すホワイトマイカ又はシルバーマイカと称される顔料、及び光干渉作用により各種の色調を示す光干渉顔料等があり、前者のホワイトマイカ又はシルバーマイカ顔料は燐片状雲母粉末の表面を酸化チタンで被覆したものであり、一般にその長手方向直径が5~60μm、特に5~25μm、厚さが0.25~1.5μm、特に0.5~1μmで、ホワイトパール調又はシルバーパール調に仕上げるために、酸化チタンの被覆厚さが、光学的厚さを基準にして90~160nm、そして幾何学的厚さを基準にして40~70nmであることが好ましい。一方、光干渉顔料として、シリカフレーク、アルミナフレーク、雲母フレーク、酸化チタンや酸化鉄等で被覆した雲母フレーク(これらの被覆厚さは上記のホワイトマイカ又はシルバーマイカ顔料の場合乗りも厚い)等を挙げることができ、これらの長手方向が5~60μm、特に5~25μm、厚さが0.25~1.5μmであることが好ましい。更に必要に応じて、銀メッキガラスフレーク、チタンコートグラファイト、金属チタンフレーク、板状酸化鉄、フタロシアニンフレーク等を配合することができる。光輝性顔料の配合量は、厳密に制限されるものではないが、通常、樹脂成分の合計固形分100質量部当り3~20質量部、特に7~13質量部の範囲内が好ましい。」
・「【0089】
<水系クリヤー塗料>
表3に示す各成分を表3に示す組成となるように配合し、ディスパー混合することによりクリヤー塗料を調製した。
【0090】
【表3】
[図:0001402796000001.jpg]
【0091】
表3中の「結合剤」は、アクリル樹脂ワニスであって、日本触媒社製の商品名「アクリセットEX40」で加熱残分43%のものである。また、「感熱ゲル化剤 1)」は、曇点が約30℃のノニオン性界面活性剤であって、アデカ社製の商品名「アデカプラノンMPC-800」であり、また、「感熱ゲル化剤 2)」は、曇点が約50℃のノニオン性界面活性剤であって、アデカ社製の商品名「アデカプラノンMPC-810」である。更に、「光輝性顔料」は、無機パール顔料であって、メルク社製の商品名「Iriodin 163」であり、天然マイカの表面が酸化チタンで被覆された安定した無機パール顔料(酸化チタンの被覆率14%)である。・・・
【0092】
[実施例1~10及び比較例1]
表1に示す組成の下塗り塗料の粘度をフォードカップ#4で9秒となるように調整し、縦30cm×横30cm×厚さ1.6cmの石膏スラグバーライト板(基材)に対してエアースプレーにて乾燥質量で28g/m2となるように塗装した。下塗り塗装後に120℃×5分間の乾燥を行い、基材の表面に下塗り層を形成した。
【0093】
表2に示す製造例で調製した被印刷面形成用塗料A~Dの各々について、粘度をフォードカップ#4で13秒となるように調整し、上記で下塗り塗装した石膏スラグバーライト板に対してエアレススプレーにて乾燥質量で38g/m2となるように塗装した。各被印刷面形成用塗料の塗装後に120℃×5分間の乾燥を行い、下塗り層の上に受理層を形成した。
【0094】
上記した水系インクの赤系インク、黄系インク、青系インク及び黒系インクを用い、上記の各被印刷面形成用塗料A~Dで塗装した石膏スラグバーライト板(板温度:55℃)に対して、ピエゾ式インクジェットプリンター(フルカラーインクジェットプリンター:ミマキ社製GP‐604)にて各インクを吐出して模様付けを行い、受理層に御影石擬似模様の印刷層を形成させた。その後、100℃×30秒間乾燥させた。
【0095】
表3に示す実施例又は比較例のクリヤー塗料を用い、上記で御影石擬似模様の印刷層を形成した石膏スラグバーライト板(基材)に対してエアレススプレーにて乾燥質量で32g/m2となるように塗装した。塗装後に120℃×15分間乾燥させ、印刷層の上にクリヤー層を形成し、実施例1~10及び比較例1の意匠性建材を得た。」
イ 甲1に記載された発明
以上より、特に請求項1、3、4(特に請求項1を引用する請求項3を引用する請求項4に着目する。)及びクリヤー塗料の組成「ト」、実施例10に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「建築用の基材と、この基材の表面上にインクジェットプリンターにより水系インクを吐出して形成された印刷層と、この印刷層の上に結合剤と感熱ゲル化剤を含む水系クリヤー塗料を塗装して形成されたクリヤー層を有し、
基材の表面には下塗り塗料を塗装して下塗り層が形成されており、印刷層がこの下塗り層を介して基材上に設けられており、
水系クリヤー塗料が、固形分換算で、結合剤100質量部に対して、光輝性顔料を0.1~10.0質量部の範囲で含み、
光輝性顔料として、天然マイカの表面が酸化チタンで被覆されて安定した無機パール顔料(メルク社製の商品名「Iriodin 163」)を、クリヤー塗料の組成中1.5質量%(固形分換算での結合材100質量部に対する質量部割合5.13質量%)で含有する意匠性建材。」
(2)本件発明1について
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・甲1発明の「下塗り層」は、本件発明1の「プライマー層」に相当する。
・甲1発明の「意匠性建材」は、甲1の段落【0001】を参酌すると、建築内装材や建築外装材等の分野において利用される化粧板等であることから、甲1発明の「意匠性建材」は、本件発明1の「化粧板」に相当する。
・甲1発明の「建築用の基材」は、甲1の段落【0027】を参酌すると、木片セメント板、プレキャストコンクリート板等の無機質材料を用いることが記載されていることから、甲1発明の「建築用の基材」と、本件発明1の「表面が平滑に形成されて繊維強化セメント板からなる押出成形セメント板」とは、「板」の限りで一致する。
・甲1発明の「印刷層」は、甲1の段落【0052】を参酌すると、種々の着色模様や種々の柄模様(模様)をその画像データに基づいて印刷したものであり、他方、本件特許の段落【0028】には、下地層4は調色された下地塗料を塗布して形成されることが記載されていることから、甲1発明の「印刷層」は、本件発明1の「下地層」に相当する。
・甲1発明の「クリヤー層」は「光輝性顔料」である「無機パール顔料」を含み、ホワイトパール調又はシルバーパール調を示す(甲1の段落【0072】)ものであるのに対し、本件特許の段落【0031】を参酌すると、本件発明1の「パール添加量」が設定された「パール層」はパールパウダーを含み、パール特有の光沢感を示す(段落【0034】)ものであることから、甲1発明の「クリヤー層」と、本件発明1の「パール層」とは、「パール調を示す層」の限りで一致する。
・甲1発明の「意匠性建材」は、「建築用の基材」、「下塗り層」、「印刷層」、「クリヤー層」の順で積層されていることから、甲1発明の「意匠性建材」の積層態様と、本件発明1の「化粧板」の「押出成形セメント板上に、プライマー層、下地層及びパール層が下からこの順で積層され」る態様とは、「化粧板」の「板上に、プライマー層、下地層及びパール調を示す層が下からこの順で積層され」る態様の限りで一致する。
以上のことから、本件発明1と、甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「板上に、プライマー層、下地層及びパール調を示す層が下からこの順で積層された化粧板。」
[相違点1]
「板」に関し、本件発明1は「表面が平滑に形成されて繊維強化セメント板から成る押出成形セメント板」であるのに対し、甲1発明は建築用基材である点。
[相違点2]
「板上に、プライマー層、下地層及びパール調を示す層が下からこの順で積層され」ることに関し、本件発明1は、パール調を示す層が、「パール添加量は、0.5~1.0重量%に設定されている」「パール層」であるのに対し、甲1発明は、パール調を示す層が、「光輝性顔料として、天然マイカの表面が酸化チタンで被覆されて安定した無機パール顔料(メルク社製の商品名「Iriodin 163」)を、クリヤー塗料の組成中1.5質量%(固形分換算での結合材100質量部に対する質量部割合5.13質量%)で含有する」「クリヤー層」である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
(ア)甲1には、実施例10として、クリヤー層における光輝性顔料を1.5質量%含むこと(段落【0090】、【表3】)、及びその評価結果が全て○であること(段落【0103】、【表4】)が記載されている。
しかしながら、上記甲1の記載に接した当業者が、甲1発明において評価結果が全て○であり、「クリヤー塗料の組成中1.5質量%(固形分換算での結合材100質量部に対する質量部割合5.13質量%)で含有する」としている光輝性顔料の含有割合を、より少ない範囲である0.5~1.0質量%とする動機はない。
また、甲2~甲4にも、層中の光輝性顔料を0.5~1.0重量%の範囲で含むことを示唆する記載はない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)なお、申立人は、「パール含有量の数値範囲が甲1発明よりも本件発明1が狭くなっている。甲第2号証では基材上の積層構造が一致しかつ、パール含有量の下限の1.0重量%が重複し、甲第3号証に光輝顔料と共に用いる第二着色顔料の含有率の上限を1.0質量%とする点が記載され、甲第4号証にパール顔料を0.5質量%とする点が記載されている。」(異議申立書第10ページ第3行~第7行)、「本件発明1のパール添加量上限を1.0%とすることは、1.0%を超える添加量に対して優れた効果を発揮させるものではない。」、「パール含有量を少なくすれば、光沢感が減少するのは当然であり、パール含有量に所要の下限を設けることで光沢感を維持することは技術常識である。」(異議申立書第10ページ第23行~第11ページ第1行)と主張する。
これらの主張について、以下に検討する。
a 甲2の段落【0021】には、「最表面光沢層中の酸化チタン被覆雲母の含有量は、パール光沢の付与及び不燃性確保の観点から、1質量%以上15質量%以下が好まし」いことが記載されているものの、実施例では、酸化チタン被覆雲母含有量が7質量%の光沢層塗料A(段落【0034】参照)が記載されているのみである。
すなわち、甲2には、酸化チタン被覆雲母を7質量%含有する実施例が記載されており、甲1発明と甲2に記載された事項を組み合わせても、光輝性顔料を0.5~1.0重量%の範囲で含むようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
b 甲3には、「第二被覆層に、光沢を有する光輝顔料を含めてもよい。この場合、第二被覆層は、第二着色顔料と光輝顔料を含む有色透明の合成樹脂製となる。」こと(段落[0062]参照)、「第二着色顔料の含有率は、0.1~1.0質量%の範囲内の所定値とするとよい。」こと(段落[0019参照])、実施例では、第一被膜層の光輝顔料として16質量%含有すること(段落[0035]、[表1]参照)が記載されている。
しかしながら、甲3では、第二被覆層が光輝顔料をどの程度含むか記載されていない。
すなわち、甲1発明と甲3に記載された事項を組み合わせても、光輝性顔料を0.5~1.0重量%の範囲で含むようにすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
c 甲4には、「基材フィルム層と表面フィルム層との間に配置される硬化塗膜層を有する」化粧シートにおいて(【請求項1】参照)、実施例1では、電子線硬化性樹脂がパール顔料を0.5質量%含有すること(段落【0035】参照)が記載されている。
甲1発明では建築用の基材として、無機質材料や金属材料、有機質材料が挙げられている(段落【0027】参照)。一方、甲4では「基材フィルム層」としてフィルムが記載されている(段落【0016】参照)。すると、甲1発明の基材と甲4における基材(フィルム)では、材質や形状、厚み等が異なるものである。そのため、甲1発明に甲4に記載された事項を組み合わせる動機付けはない。
d 上記a~cのように、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項からは、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、上記申立人の主張は採用できない。
(ウ)以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記「(2)」で検討したものと同じ理由により、本件発明2は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1、申立理由2についてのむすび
以上のとおりであるから、申立理由1、申立理由2には理由がない。
2 申立理由3(新規事項)、申立理由5(サポート要件)について
(1)補正1について
当初明細書等には、以下の事項が記載されている。
「・主剤:ボンフロン5200パールA(AGCコーテック(株)製、フッ素系樹脂)、パール添加量1.0%
・硬化剤:ボンフロン5200パールA硬化剤(AGCコーテック(株)製、イソシアネート系)
・混合比: 主剤:硬化剤=13:1」(段落【0042】)
「実施例3に係る化粧板1は、実施例1のパール添加量を0.5%に設定したものであり、それ以外は実施例1と同様に実施した。」(段落【0045】)
「具体的には、上述したパール層の成分において、パール添加量が0.2%まで低下するとパール特有の光沢感が乏しくなり、一方で、パール添加量が15%まで増大するとパール層内で過剰なパール沈降して(原文ママ)塗装不良が生じる。」(段落【0060】)
そうすると、パール添加量は、パール層の成分における数値であること(段落【0060】)、また、パール添加量は、適宜設定できるものであること(段落【0045】)が記載されている。
そして、当初明細書等の段落【0057】、【表1】を踏まえると、上記段落【0060】の記載は比較例3、4におけるパール添加量0.2%、比較例5、6におけるパール添加量15.0%を示しており、【表1】のパール添加量は、パール層の成分における数値であることがわかる。
すると、当初明細書等の段落【0042】における実施例1の「パール添加量1.0%」は、【表1】におけるパール添加量の1.0%を意味し、「パール層の成分」における「パール添加量」を意味しているといえる。
すると、令和4年3月17日提出の手続補正書による補正1は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものである。
(2)補正2について
当初明細書等には、パール層におけるパール添加量として「%」としか記載されていない。
しかしながら、申立人が主張するように、「%」には「顔料重量濃度(重量%)」と「顔料体積濃度(体積%)」の2種類の配合割合が存在することが一般的であったとしても(異議申立書第14ページ第20行~第16ページ第4行)、物質の「体積」は、温度や圧力等により変化することは技術常識であり、当初明細書等に、パール層の製造時の温度や圧力等が記載されていないことを踏まえると、当初明細書等では、温度や圧力等に依存しない「重量」に基いて、パール添加量の配合割合を「%」で記載していると、当業者は理解できる。
すると、令和4年9月1日提出の手続補正書による「%」を「重量%」とする補正2は、当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものである。
(3)申立理由3、申立理由5についてのむすび
以上のとおりであるから、申立理由3、申立理由5には理由がない。
3 申立理由4(実施可能要件)について
(1)本件発明1~2は、パール層の「パール」添加量を0.5~1.0重量%に設定することで、パール特有の光沢感を化粧板に付与することができること(段落【0007】)が記載されている。そして、発明の詳細な説明には、パール層に添加する「パール」として、「パールパウダー」を配合することが記載されている(段落【0031】)。
また、発明の詳細な説明の段落【0017】~【0024】には、無機質系材料の具体例や製造方法について記載されている。
これらの記載を参酌することで、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明には、発明の構成等の記載があることは明らかである。
(2)なお、申立人は「パールパウダーについて、例えばパール顔料、パール粉と呼ばれるものが相当すると考えられるが、これは光の反射により光沢を発する粒子とされる。パール顔料等として、鉱材、金属、ガラス、樹脂からなる天然物、人工物の粒子、若しくはそれらの粒子を高低の屈折率を有する多様な被覆材で被覆した粒子が存在する。」と主張している(異議申立書第17ページ第25行~第29行)。
また、申立人は「当業者はそれらの方法を用いて表面研磨するための数値基準を必要とするが、発明の詳細な説明には平滑の程度を表す具体的な数値が記載されていない。」と主張している(異議申立書第18ページ第23行~第25行)。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明を参酌すると、「パールパウダー」は「パール」の「パウダー」すなわち「パール粉」を用いることが記載されており、申立人の上記主張は採用できない。
また、発明の詳細な説明の段落【0024】に記載されているように、サンドブラスト、ショットブラスト、ダイヤロール、サンドペーパーなどを用いて表面を研磨することは一般的な技術であり、発明の詳細な説明に平滑の程度を表す具体的な数値が記載されていなくとも、当業者は無機質系材料の表面を平滑化することはできるといえるから、申立人の上記主張は採用できない。
(3)申立理由4についてのむすび
以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件発明1~2は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものでなく、及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
また、令和4年3月17日及び令和4年9月1日提出の手続補正書による請求項1~2に係る補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たすものである。
そして、本件特許は、特許法第36条第4項第1号、及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人が提出した特許異議の申立の理由及び証拠によっては、請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700499