2021-700048
粉末油脂及び飲食品
- 審判番号
- 2021-700048
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-047422外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年01月15日
- 審決日
- 2021年03月19日
- 公報発行日
- 2021年05月28日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (A23D) / P1651.536-Y (A23D) / P1651.537-Y (A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 20項目
第1 手続の経緯
特許第6725272号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年3月10日に出願され、令和2年6月29日にその特許権の設定登録がされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年1月15日に特許異議申立人神谷高伸(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
特許第6725272号の請求項1~5に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」等という。また、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)。
【請求項1】
構成脂肪酸中の炭素数12超の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸中の炭素数12以下の脂肪酸の含有量に対して質量比で0.1以上4.0以下であり、かつ、構成脂肪酸中の炭素数12の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体の質量に対して20質量%以上である油脂を含む粉末油脂であって、
前記油脂が、ヤシ油、及びヤシ硬化油からなる群から選択される1種以上を含み、
構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルを前記油脂全体の質量に対して2.0質量%以上7.3質量%以下含み、
前記脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、及び有機酸グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上を含み、
前記油脂を、粉末油脂全体の質量に対して40質量%超含む、粉末油脂。
【請求項2】
前記油脂を、粉末油脂全体の質量に対して60質量%以上80質量%以下含む、請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
リン脂質をさらに含む、請求項1又は2に記載の粉末油脂。
【請求項4】
構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルを前記油脂全体の質量に対して6.0質量%以下含む、請求項1から3のいずれかに記載の粉末油脂。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載された粉末油脂が配合された飲食品。
第3 申立理由の概要及び証拠
異議申立人の申立理由の概要及び証拠方法は、次のとおりである。
1.申立理由の概要
(1)申立理由1(進歩性)
本件特許発明1~5は、甲第1号証の記載に、甲第2号証乃至甲第9号証の記載及び本件出願時の技術常識を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定に基づき取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許発明1~5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許発明1~5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものである。
記
本件特許明細書に記載されている比較例1~5は、全て油脂含有量が70質量%であるから、本件特許明細書の実施例の記載からは、油脂含有量が70質量%よりも少ない場合に、本件特許発明1に規定される特定の脂肪酸エステルを乳化剤として使用することにより、他の乳化剤を使用した場合よりも、フリーファット量が低減できること、すなわち、本件特許発明の効果が得られるとは、当業者には理解できない。
このため、油脂含有量が70質量%未満である粉末油脂の態様を含む本件特許発明1~5は、本件特許明細書の記載からは、本件特許発明1の特定の脂肪酸エステルを用いることによるフリーファット量の低減効果が奏されるか理解できない態様を含むから、特許法第36条第6項第1号、及び特許法第36条第4項第1号の規定に違反している。
2.証拠方法
sland Foods Kievit社、2005年8月1日
食品部農林水産・食品課、「食品添加物規制調査 EU」、20
16年2月
和54年12月30日、第50~57頁
和54年12月30日、第88~100頁
品化学新聞社、平成8年3月20日、第239~240頁
用乳化剤の現況と動向」、油化学、公益社団法人日本油化学会、
1981年12月20日、第30巻、第12号、第823~83
6頁
におよぼす脂肪酸残基の種類とエステル化度の影響」、栄養と食
糧、社団法人日本栄養・食糧学会、1974年、第27巻、第9
号、第455~459頁
」、日本食品工学会誌、一般社団法人日本食品工学会、2015
年、第16巻、第2号、第171~175頁
imitation coffee whiteners”, International Journal of
Dairy Technology, 1999, Vol.52, No.3, pp107-113
第4 証拠の記載事項
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1.甲第1号証(以下、「甲1」という。)の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。(訳文で示す。)
(1-1)「説明
コーヒークリーマー
組成
安定剤(E340 / 452) : 4%
乳化剤(E471) : 21/2%
固化防止剤(E341) : 1/2%
分析
化学的特性(平均)
タンパク質 (N×6.38) : 41/2%
・・・
物性
色 : 白/クリーミィ
乾燥粉末(ADPI) : ディスクA」(左欄第1行~下から4行)
2.甲第2号証(以下、「甲2」という。)の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「32品目(カッコ内はE番号):キノリンイエローWS(E104)、・・・、脂肪酸のモノおよびジ・グリセリド(E471)、・・・、クエン酸トリエチル(E1505)」(第9頁脚注8)
3.甲第3号証(以下、「甲3」という。)の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「
」(第53頁右欄)
(3-2)「原料油脂又は脂肪酸を変えれば各種モノグリセライドを作りうるが,実際市販品は大半はステアリン酸を主体とする固体モノグリセライドである。」(第54頁、左欄第15~18行)
4.甲第4号証(以下、「甲4」という。)の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(4-1)「(1)乳化剤として
コーヒー牛乳,カスタードクリーム等いわゆる油を水に乳化させるために,ステアリン酸モノエステルが使用される。
添加量は0.2~0.4%位であるが,ソルビタンエステル単品が添加されるよりも,レシチン,ショ糖エステルとの併用が多い。この場合も添加量は,両者併せて0.3%前後である。」(第98頁左欄第10~18行)
(4-2)「ホイップクリーム用,コーヒークリーム用共にレシチン,ショ糖エステル,ソルビタンエステルの3者が併用される場合が多く,グリセリンエステルを配合することもある。」(第98頁左欄第20~23行)
(4-3)「ホイップクリーム用はレシチンを主成分に,コーヒークリーム用はショ糖エステルを主成分にし,ステアリン酸モノエステルが10~30%配合される。」(第98頁左欄第28~31行)
(4-4)「粉末ココア,粉末カレー等油脂を含有する粉末食品は,水や湯に分散しにくい。
親水性の乳化剤を0.02~0.05%均一に混合すると分散性を改善する。
ソルビタンモノステアリン酸エステルの他に,ソルビタンモノラウリン酸エステルが使用される場合がある。
ラウリン酸は独特の味があるため,味の点で充分注意する必要がある。」(第98頁右欄第26行~第99頁左欄第1行)
5.甲第5号証(以下、「甲5」という。)の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
(5-1)「
」(第239頁)
(5-2)「
」(第239頁)
(5-3)「
」(第240頁)
(5-4)「
」(第240頁)
6.甲第6号証(以下、「甲6」という。)の記載事項
甲6には、以下の事項が記載されている。
(6-1)「モノグリセリド(MG)はモノエステル含量90%以上の蒸留モノグリセリド(DMG)と,同40~50%のモノ・ジグリセリド(M・DG)があり,10年前両者比率は約50%ずつであったが,現在はDMG約80%であり,これは高品質高性能を指向する日本人の考えに合ったためと考えられる。」(第824頁左欄第19~24行)
(6-2)「解乳化の程度は乳化剤の種類で異なり,ポリソルベートなどではHLBの高い方が効果的である。しかし実際は低いHLBのMGが用いられるのは,より強固にタンパク質と複合体を作るので脂肪球は凝集しても合一せず,よりち密な連鎖となり組織を形成するためである。MGは脂肪酸の鎖長の短い程,ヨウ素価の高い程解乳化は大となるが,適度のヨウ素価のMGが最も良いアイスクリームとなり,要求される品質により,使い分けられている。」(第830頁左欄第10~18行)
7.甲第7号証(以下,「甲7」という。)の記載事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
(7-1)「2. 脂肪酸残基の鎖長,不飽和度の影響
o/w型エマルジョンの乳化安定能におよぼすショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸残基の鎖長,不飽和度の影響を検討するために,カプリル酸,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸およびリノール酸を脂肪酸残基とするショ糖脂肪酸エステルを用いて,o/w比が60/40~40/60のエマルジョンを調製し,乳化安定能を測定した。その結果をTable 3に示す。
カプリル酸を脂肪酸残基とするショ糖脂肪酸エステルでは,その水溶性が著しく高いために,もはや油を乳化することができず,連続相である水が泡立ってo/w型エマルジョンを調製することができなかったが,他のショ糖脂肪酸エステルでは,o/w型エマルジョンを調製することができた。しかし,ステアリン酸を脂肪酸残基とするものを除いては,ショ糖脂肪酸エステルの乳化安定能は,その脂肪酸残基の鎖長の影響をあまりうけなかった。なお,ステアリン酸を脂肪酸残基とするショ糖脂肪酸エステルの乳化安定能が高いのは,ショ糖脂肪酸エステル水溶液の粘度が,鎖長が長くなると増加することによるものと考えられる。
一方,脂肪酸残基に不飽和結合を有するショ糖脂肪酸エステルの乳化安定能は低下した。これは親油基である脂肪酸残基が二重結合により直線的に配向せず,分散相に対して強い吸着膜を形成することができないためであると考えられる。」(第458頁左欄第27行~右欄第19行)
8.甲第8号証(以下、「甲8」という。)の記載事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
(8-1)「2.2 ポーションクリーム
ポーションクリームは家庭用製品においては100日間前後の賞味期限設定をされている商品が多く,長期常温保存安定性が求められる.またコーヒーへ加えた後は温度が高くpHが低いためオイルオフや乳蛋白凝集浮遊(フェザーリング)が発生しないようにする必要がある.要求品質は以下のとおりである.
<1>クリーム製造時のO/W乳化が容易
<2>長期乳化安定性保持
<3>コーヒーへの分散性向上
<4>オイルオフ,フェザーリング防止
これらに対し好適とされる乳化剤は,<1>・<3>・<4>に対してはHLBの高い乳化剤(ポリグリセリン脂肪酸エステル,シュガーエステル),<1>・<2>・<4>ではグリセリン有機酸脂肪酸エステル,<2>に関してはレシチンやモノグリセリド,ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられ,多くの場合複数種類の乳化剤を併用して用いられている.」(審決注:丸数字は表記できないので<1>のように示した。)(第171頁右欄第24行~第172頁左欄第8行)
(8-2)「
」(第173頁右欄)
(8-3)「長鎖のC18~22飽和脂肪酸モノグリセリドでは乳化安定作用やオーバーラン向上効果が見られ,中鎖であるラウリン酸モノグリセリドやオレイン酸モノグリセリドでは解乳化作用を示すことが確認された.」(第173頁右欄第6~9行)
9.甲第9号証(以下、「甲9」という。)の記載事項
甲9には、以下の事項が記載されている。(訳文で示す。)
(9-1)「乳化剤には、ショ糖エステル:Sisterna SP70(Sisterna NV、オランダ);モノ/ジグリセリド:Dimodan PV及びPanodan 165(Danisco、デンマーク);レシチン(Stern、ロンドン)、Tween 60及びステアロイル乳酸ナトリウム(Chemcon Ltd、ダブリン)が含まれていた。」(第107頁右欄下から第6行~最下行)
(9-2)「
」(第108~109頁表)
第5 当審の判断
1.申立理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1には、コーヒークリーマーの組成として、精製されたヤシ硬化油を58%、乳化剤(E471)を21/2%含むものが記載され、その物性は、乾燥粉末であることが記載されているから(摘記(1-1))、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
(甲1発明)
「精製されたヤシ硬化油を58%、乳化剤(E471)を21/2%含む粉末状のコーヒークリーマー」
(2)本件特許発明1
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「粉末状のコーヒークリーマー」は、「粉末」であって、精製されたヤシ硬化油、すなわち「油脂」を含有するから、本件特許発明1の「粉末油脂」に相当する。
そして、本件特許明細書【0020】には、「構成脂肪酸中の炭素数12超の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸中の炭素数12以下の脂肪酸の含有量に対して質量比で0.1以上4.0以下であり、かつ、構成脂肪酸中の炭素数12の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体の質量に対して20質量%以上である油脂」を「ラウリン酸含有油脂」と略称する場合があること、同【0023】には、「ラウリン酸含有油脂」として、「ラウリン系油脂」が挙げられ、「ラウリン系油脂」として、「例えば、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等」が挙げられることが記載され、本件特許発明の具体例である実施例では、ヤシ硬化油を使用していることから(【0067】~【0099】、特に、【0068】~【0069】、【表3】、【表4】)、甲1発明の「精製されたヤシ硬化油」は、本件特許発明1の「構成脂肪酸中の炭素数12超の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸中の炭素数12以下の脂肪酸の含有量に対して質量比で0.1以上4.0以下であり、かつ、構成脂肪酸中の炭素数12の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体の質量に対して20質量%以上である油脂」及び「前記油脂が、ヤシ油、及びヤシ硬化油からなる群から選択される1種以上を含み」に相当する。
そうすると、甲1発明は、上記「油脂」である精製されたヤシ硬化油を58%含むから、本件特許発明1の「前記油脂を、粉末油脂全体の質量に対して40質量%超含む」粉末油脂に相当する。
また、甲1発明の「乳化剤(E471)」は、甲2によれば、「脂肪酸のモノ及びジグリセリド」(摘記(2-1))、すなわち、「脂肪酸エステル」であるから、甲1発明は、脂肪酸エステルを21/2%含み、精製されたヤシ硬化油58%に対する量で換算すると約4.3質量%(21/2÷58×100)であるから、本件特許発明1の「脂肪酸エステルを前記油脂全体の質量に対して2.0質量%以上7.3質量%以下」含むものに相当する。
そして、上記「脂肪酸のモノ及びジグリセリド」は、「モノグリセリン脂肪酸エステル」を含むから、甲1発明の「乳化剤(E471)」は、「モノグリセリン脂肪酸エステル」を含むものであって、本件特許発明1の「脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、及び有機酸グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上」を含むものに相当する。
以上によれば、本件特許発明1と甲1発明は、
「構成脂肪酸中の炭素数12超の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸中の炭素数12以下の脂肪酸の含有量に対して質量比で0.1以上4.0以下であり、かつ、構成脂肪酸中の炭素数12の脂肪酸の含有量が構成脂肪酸全体の質量に対して20質量%以上である油脂を含む粉末油脂であって、前記油脂が、ヤシ油、及びヤシ硬化油からなる群から選択される1種以上を含み、脂肪酸エステルを前記油脂全体の質量に対して2.0質量%以上7.3質量%以下含み、前記脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、及び有機酸グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される1種以上を含み、前記油脂を、粉末油脂全体の質量に対して40質量%超含む、粉末油脂。」
の点で一致し、以下の点で相違する(以下、「相違点」という。)。
(相違点)
脂肪酸エステルが、本件特許発明1は、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」であるのに対し、甲1発明は、脂肪酸エステルの構成脂肪酸が不明な点。
イ 相違点の判断
甲1には、甲1発明の脂肪酸エステルである乳化剤(E471)の構成脂肪酸がどのようなものであるか記載されておらず、甲2にも、E471は「脂肪酸のモノおよびジ・グリセリド」であると記載されているだけで、その構成脂肪酸は明らかでない。
そして、甲3には、市販されているモノグリセライドの大半はステアリン酸を主体とするものであると記載され(摘記(3-1)、(3-2))、甲4には、コーヒー牛乳、カスタードクリームなどを乳化させるためにステアリン酸モノエステルが使用され、コーヒークリーム用にはステアリン酸モノエステルが配合され、粉末ココア、粉末カレーなどにはソルビタンモノステアリン酸エステルが使用される場合があると記載され(摘記(4-1)~(4-4))、甲5には、コーヒーホワイトナーや粉末食品に用いられる乳化剤としてソルビタンモノパルミテートを含む製剤やコーヒーホワイトナーに用いられる乳化剤としてソルビタンモノステアレートを含む製剤が記載され(摘記(5-3)、(5-4))、甲8には、ホイップクリームの目的別乳化剤の種類として、良好な乳化安定性を持たせるタイプにはステアリン酸モノグリセリドやソルビタンモノステアリン酸エステルが含まれ、オーバーランを向上させるタイプにはステアリン酸モノグリセリドが含まれることが記載されている(摘記(8-2))。
これらの記載によれば、パルミチン酸とステアリン酸は、乳化剤である脂肪酸エステルの構成脂肪酸として、それぞれ知られたものであると理解できるが、甲1~9の記載全体を検討しても、パルミチン酸とステアリン酸の両方を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルは記載されておらず、当業者であれば、脂肪酸エステルの構成脂肪酸として、パルミチン酸とステアリン酸の両方を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量を50質量%以上とするといえる理由も見出せない。
そうすると、甲1発明における脂肪酸エステルを、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」とすることが、当業者が容易に行うことであるということはできない。
そして、本件特許明細書の【0008】には、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が所定量の脂肪酸エステルを、油脂全体の質量に対して2.0質量%以上含むことで、ラウリン系油脂を多く含んでいてもフリーファットの量を低減できることを見出したと記載され、同【0016】には、発明の効果として、フリーファットの量が低減された粉末油脂を提供することができると記載され、同【0094】~【0096】には、本件特許発明の具体例である実施例は、フリーファット量の評価が○か◎であったのに対し、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」を2.0質量%以上7.3質量%以下含むものではない比較例は、フリーファット量の評価が×であったことが記載されているから、これら実施例と比較例を対比することにより、本件特許発明1は、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」を2.0質量%以上7.3質量%以下含むことで、フリーファットの量が低減できるという、甲1~9の記載からは予測できない優れた効果を奏するものである。
したがって、上記相違点は、当業者が容易に想到することができたものではない。
ウ 本件特許発明1について小括
以上のとおり、上記相違点は、当業者が容易に想到することができたものではないから、本件特許発明1は、甲1~9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 異議申立人の主張
異議申立人は、概略、以下の(i)~(iii)の点を挙げて、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している(特許異議申立書第18頁第17行~第20頁第4行、第21頁第1行~第22頁第16行)。
(i)モノグリセライドの市販品は、大半がステアリン酸を主体とする固体モノグリセライドであるから、甲1発明のグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸はステアリン酸である可能性が高い。
(ii)鎖長が長い飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルは乳化安定化能が高いことは、本件特許出願時の技術常識であり、実際に鎖長が長い飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルは、コーヒークリーマーやココア粉末などの他の粉末油脂において、乳化安定性改善のために、本件特許出願時には広く使用されていた。したがって、甲1発明において、使用する乳化剤を、「構成脂肪酸がステアリン酸やパルミチン酸である、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル」とすることは、当業者が容易になし得ることに過ぎず、また、この際に、使用する乳化剤として、ステアリン酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルと、ステアリン酸と同様に長鎖飽和脂肪酸であるパルミチン酸(16:0)を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルを併用することも、当業者が容易になし得ることである。
(iii)本件特許発明の効果は、ラウリン系油脂を含む粉末油脂において、フリーファット量を低減することであるが、これは言いかえると、乳化安定性を改善することである。
そして、脂肪酸エステルでは、構成脂肪酸が鎖長の長い飽和脂肪酸である方が、不飽和脂肪酸であったり、短鎖飽和脂肪酸であるよりも、乳化安定性の改善効果が高いことは、本件特許出願時の技術常識であるから、長鎖飽和脂肪酸であるステアリン酸やパルミチン酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルを使用することにより、不飽和脂肪酸やより短鎖の飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルを使用した場合よりも、乳化安定性が改善されてフリーファット量が低減できることは、当業者が予測できる効果に過ぎない。
また、本件特許明細書記載の比較例2~5は、いずれも、ステアリン酸やパルミチン酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルの量が実施例よりも少なく、代わりに、これらよりも乳化安定化能が低いラウリン酸、オレイン酸、リノール酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルの量が増えている。乳化安定化能の高い乳化剤を、乳化安定化能の低い乳化剤に置き換えたのであるから、比較例2~5が実施例よりも乳化安定性が低くなることは、当然である。
さらに、本件特許明細書には、構成脂肪酸がパルミチン酸のみである脂肪酸エステルや構成脂肪酸がステアリン酸のみである脂肪酸エステルを使用した例はない。このため、本件特許明細書の記載からは、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含む脂肪酸エステル」を用いることにより、「構成脂肪酸がパルミチン酸のみである脂肪酸エステル」や「構成脂肪酸がステアリン酸のみである脂肪酸エステル」を用いた場合に対して、当業者が予測できないほど顕著な効果があるとは理解できない。
したがって、本件特許発明1が、当業者が予測し得ないような優れた効果を奏するものとはいえない。
そこで、上記異議申立人の主張(i)~(iii)について検討する。
(ア)主張(i)について
甲3には、モノグリセライドの市販品は、大半がステアリン酸を主体とするものであると記載され(摘記(3-2))、甲1発明のグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸がステアリン酸である可能性があるとしても、本件特許発明1における構成脂肪酸は、ステアリン酸ではなく、パルミチン酸とステアリン酸の両方を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上であるから、上記主張(i)によって、本件特許発明1が、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、上記主張(i)は、採用することができない。
(イ)主張(ii)について
鎖長の長い飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルの乳化安定化能が高いことが、本件特許出願時の技術常識であり、実際に鎖長が長い飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルが、乳化安定性改善のために広く使用されていたとしても、長鎖飽和脂肪酸の中から特に、パルミチン酸とステアリン酸を選択して、パルミチン酸とステアリン酸の両方を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量を50質量%以上とすることを当業者が容易に行うことであるといえる理由は、甲1~9の記載を検討しても見出せない。
また、異議申立人は、ステアリン酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルと、パルミチン酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルを併用することも、当業者が容易になし得ることと主張するが、本件特許明細書の【0029】に、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」とは、単独で構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルを指すと記載されているように、本件特許発明1の脂肪酸エステルは、単独の脂肪酸エステルの構成脂肪酸中に、パルミチン酸とステアリン酸を両方含む脂肪酸エステルであるから、仮に、ステアリン酸を構成脂肪酸と脂肪酸エステルと、パルミチン酸を構成脂肪酸とする脂肪酸エステルを併用したとしても、本件特許発明1の脂肪酸エステルにはならないといえる。
したがって、上記主張(ii)は、採用することができない。
(ウ)主張(iii)について
異議申立人は、フリーファット量の低減は、言いかえると、乳化安定性を改善することであると主張している。
しかし、本件特許明細書の【0005】では、粉末油脂の表面に存在する油脂をフリーファットと記載しており、同【0075】では、実施例・比較例のフリーファット量として、粉末油脂にエーテル溶液を加え、エーテル溶液に回収される油脂の量を算出しているから、本件特許発明1におけるフリーファット量の低減とは、粉末油脂の表面に存在する油脂の量の低減であると理解できる。
一方、異議申立人提出の証拠における乳化安定性とは、例えば、コーヒー牛乳などの油を水に乳化させるための乳化安定性や(摘記(4-1))、粉末ココアなどの粉末食品が水に分散しにくいことを改善するための乳化安定性(摘記(4-4))、O/W型エマルジョンの乳化安定性(摘記(7-1))、ホイップクリームの乳化安定性(摘記(8-2))などであり、粉末油脂自体の安定性ではなく、油脂を水などに乳化した乳化物の安定性を指しているから、これらの乳化安定性の改善は、粉末油脂の表面に存在する油脂であるフリーファットの低減とは異なると認められる。
そして、油脂を水などに乳化した乳化物の安定性が高い脂肪酸を選択すれば、粉末油脂の表面に存在する油脂の量が低減し、フリーファット量が低減すると予測できるといえる理由も見当たらない。
したがって、乳化安定性について検討しても、本件特許発明1の効果が、当業者に予測できる程度のものということはできない。
さらに、本件特許明細書に、構成脂肪酸がパルミチン酸のみである脂肪酸エステルや構成脂肪酸がステアリン酸のみである脂肪酸エステルを使用した比較例が記載されていなくとも、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」を2.0質量%以上7.3質量%以下含むものではない比較例が記載されており、この比較例と実施例を対比することで、本件特許発明1が、甲1~9の記載からは予測できない優れた効果を奏するものであると理解できることは、上記イで述べたとおりである。
したがって、上記主張(iii)は、採用することができない。
以上のとおりであるから、異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。
(3)本件特許発明2~5
上記(2)のとおり、本件特許発明1は、甲1~9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1を引用して限定する本件特許発明2~5も、同様の理由により、甲1~9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由1(進歩性)について小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1~5は、甲1~9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立理由1によっては、本件特許発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
2.申立理由2(サポート要件)
(1)本件特許発明1~5の特許請求の範囲の記載
本件特許発明1~5の特許請求の範囲の記載は、上記第2で述べたとおりである。
(2)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
(a)「【技術分野】【0001】本発明は、粉末油脂及び飲食品に関する。」
(b)「【発明が解決しようとする課題】【0005】粉末油脂を構成する油脂のうち、例えば、ラウリン系油脂等の炭素数12の脂肪酸の含有量が多い油脂を用いる場合、粉末油脂の表面に存在する油脂、いわゆるフリーファットの量が多くなってしまう。【0006】粉末油脂においては、フリーファットの量が多いと、保存安定性が低下し、風味の劣化を引き起こす恐れがあるため、フリーファットの量を低減することが求められる場合があるところ、特許文献1に記載された粉末油脂は、フリーファットの量が多く、長期保存に適していないという問題があった。【0007】本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、フリーファットの量が低減された粉末油脂、及びこのような粉末油脂が配合された飲食品を提供することを目的とする。」
(c)「【課題を解決するための手段】【0008】本発明者らは、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が所定量の脂肪酸エステルを、油脂全体の質量に対して2.0質量%以上含むことで、ラウリン系油脂を多く含んでいてもフリーファットの量を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(d)「【発明の効果】【0016】本発明によれば、フリーファットの量が低減された粉末油脂、及びこのような粉末油脂が配合された飲食品を提供することができる。」
(e)「【0024】本発明の粉末油脂において、ラウリン酸含有油脂の含有量は粉末油脂全体の質量に対して40質量%超であれば特に限定されないが、フリーファットの量を低減することにより適していて、風味(コク味等)、食感、喉ごし、白濁感が向上するため、粉末油脂全体の質量に対して45質量%以上90質量%以下であることが好ましく、50質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましい。」
(f)「【0029】(脂肪酸エステル)本発明の粉末油脂は、構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルを、油脂全体の質量に対して2.0質量%以上含む。・・・また、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」とは、単独で構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルを指し、例えば、後述の実施例における「モノグリセリン脂肪酸エステル-1」、「モノグリセリン脂肪酸エステル-2」等の脂肪酸エステルは、それぞれが1単位の「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」である。」
(g)「【0054】<粉末油脂の製造方法>本発明の粉末油脂は、従来の公知の方法で製造できる、例えば、油脂、粉末化基材、水、乳化剤、及び必要に応じて他の成分を配合して水中油型に乳化後(乳化工程)、乳化液をホモジナイザー等で均質化し(微細化工程)、水中油型乳化物を乾燥粉末化することによって(乾燥粉末化工程)製造することができる。乾燥後の本発明の粉末油脂は、油脂が粉末化基材で覆われた形状である。」
(h)「【実施例】【0067】<粉末油脂の製造>後述する表3、4に記載の各油脂に、表3、4に記載の配合となるように、各乳化剤を添加し、70℃に調温し、これを油相とした。・・・得られた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより粉末化し、実施例1~23、比較例1~5に係る粉末油脂を製造した(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。」
(i)「【0070】(乳化剤)上記実施例及び比較例の粉末油脂の作製に用いた乳化剤を後述する表2に示す。・・・【0071】また、各乳化剤(脂肪酸エステル)の構成脂肪酸中のパルミチン酸の含有量(表2中の「P」)、ステアリン酸の含有量(表2中の「S」)、パルミチン酸とステアリン酸との合計含量(表2中の「P+S」)、ステアリン酸の含有量に対するパルミチン酸の含有量の比(表2中の「P/S」)を、以下の表2に示す。また、表2中、「La」はラウリン酸、「O」はオレイン酸、「L」はリノール酸を指す。【0072】【表2】」
(j)「【0074】<評価>実施例、比較例の粉末油脂について、フリーファット量、再溶解時の乳化安定性、風味について評価を行った。その評価方法を以下に示す。【0075】続きを表示(全16行)[フリーファット量]粉末油脂10gをガラスろ過器に入れ、そこにジエチルエーテルと石油エーテルを等量配合した混合溶液50mlを加えた。次にガラス棒で30秒間撹拌し、吸引濾過によりナスフラスコに溶液を回収した。さらに、ガラスろ過器内に同混合溶液25mlを加え、ガラス棒で30秒攪拌し、吸引ろ過を行った。ロータリーエバポレーターを用いて、回収した溶液から溶媒を蒸発させ、残った油脂を105℃のオーブンで2時間以上乾燥させ、回収油量を測定した。下記の式に従い、フリーファット量を算出した。フリーファット量(%)=回収油(g)/粉末油脂(g)×100算出された数値を用いて、以下の基準で評価を行った。なお、下記の「コントロール」とは、比較例1に係る粉末油脂のフリーファット量を指す。◎:(コントロールのフリーファット量)-(各実施例または比較例のフリーファット量)が8以上○:(コントロールのフリーファット量)-(各実施例または比較例のフリーファット量)が3以上8未満×:(コントロールのフリーファット量)-(各実施例または比較例のフリーファット量)が3未満」
(k)「【0093】<評価結果>各成分の配合割合及び上記の評価結果を、下記の表3、4に示す。表3、4中の各数値の単位は質量%である。なお、表中の「乳化剤(脂肪酸エステル)/油」の欄は、「油脂全体の質量」に対する、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルの質量比(%)」を意味し、この「乳化剤」には、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%未満の脂肪酸エステルは含まれない。「脂肪酸エステル全体のP+S」の欄は、「脂肪酸エステル全体の構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量」を指す。「脂肪酸エステル(P+S)」の欄は、「油脂組成物全体の質量」に対する「1分子当たりの構成脂肪酸として少なくともパルミチン酸及び/又はステアリン酸を有する脂肪酸エステルの質量(質量%)」を指す。「脂肪酸エステル(P+S)/油」の欄は、「油脂全体の質量」に対する、「1分子当たりの構成脂肪酸として少なくともパルミチン酸及び/又はステアリン酸を有する脂肪酸エステルの質量比(%)」を指す。【0094】【表3】【0095】【表4】」
(l)「【0096】表3、4に示すように、実施例1~25に係る粉末油脂は、全てフリーファット量の評価が「○」又は「◎」であるのに対し、比較例1~5に係る粉末油脂は、フリーファット量の評価が「×」であった。この結果より、ラウリン酸含有油脂において、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が多い脂肪酸エステルを油脂全体の質量に対して2.0質量%以上含むことによって、フリーファットの量を低減できることがわかった。」
(3)本件特許発明1~5の解決しようとする課題
本件特許明細書の【0007】によれば、本件特許発明1~5の解決しようとする課題は、「フリーファットの量が低減された粉末油脂、及びこのような粉末油脂が配合された飲食品の提供」であるといえる(摘記b)。
(4)本件特許発明1について
本件特許明細書の【0008】には、上記課題を解決するための手段として、「構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が所定量の脂肪酸エステル」を、油脂全体の質量に対して2.0質量%以上含むことで、ラウリン系油脂を多く含んでいてもフリーファットの量を低減できることを見出したと記載され(摘記c)、同【0029】には、上記所定量は50質量%以上であること、また、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」とは、単独で構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステルを指し、例えば、後述の実施例における「モノグリセリン脂肪酸エステル-1」、「モノグリセリン脂肪酸エステル-2」等の脂肪酸エステルは、それぞれが1単位の「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」であることが記載されている(摘記f)。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「構成脂肪酸中に少なくともパルミチン酸及びステアリン酸を含み、かつ、構成脂肪酸中のパルミチン酸とステアリン酸との合計含量が50質量%以上である脂肪酸エステル」を、油脂全体の質量に対して2.0質量%以上含むものである本件特許発明1の粉末油脂が、フリーファットの量を低減し、本件特許発明1の解決しようとする課題を解決できるものであることが記載されているといえる。
さらに、本件特許明細書には、【表2】に示される乳化剤(摘記i)を用いた実施例及び比較例が記載されているところ、実施例1~15、18、19、21~25の粉末油脂は本件特許発明1の具体例であり、これらは全てフリーファットの評価が「○」又は「◎」であって、本件特許発明1が、本件特許発明1の解決しようとする課題を解決できることが具体的に裏付けられている(摘記j~l)。
以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1が、本件特許発明1の課題を解決できることが記載され、その具体的な裏付けも記載されているから、発明の詳細な説明は、本件特許発明1が課題を解決できるものであると当業者が認識できるように記載されているといえる。
(5)本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、本件特許発明1を引用して限定した発明であるから、本件特許発明1と同様に、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明2~5が、本件特許発明2~5の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されているといえる。
(6)異議申立人の主張
異議申立人は、「ある乳化剤を使用した場合に、他の乳化剤を使用した場合には得られない優れたフリーファット量低減効果が得られること」が理解できるためには、油脂含有量を揃えた比較データと比較する必要があるのに対して、本件特許明細書記載の比較例は全て油脂含有量が70質量%であるから、本件特許明細書の実施例の記載からは、油脂含有量が70質量%よりも少ない場合に、本件特許発明の特定の脂肪酸エステルを乳化剤として使用することにより、他の乳化剤を使用した場合よりも、フリーファット量が低減でき、本件特許発明の効果が得られると当業者に理解できないこと、例えば、実施例12の油脂量は41質量%、実施例13の油脂量は60質量%であり、これらはフリーファット量の評価が「◎」であるが、これらが比較例よりもフリーファット量が低減されていたのは、使用した乳化剤の種類によるのか、単に油脂含有量が少ないからか、当業者には理解できないことを挙げて、油脂含有量が70質量%未満である粉末油脂の態様を含む本件特許発明1~5は、本件特許明細書の記載からは、本件特許発明の特定の脂肪酸エステルを用いることによるフリーファット量の低減効果が奏されるか理解できる範囲のものではないと主張している。(特許異議申立書第22頁下から9行~第23頁第21行)
しかし、本件特許明細書の【0024】には、油脂の含有量について、「粉末油脂全体の質量に対して40質量%超であれば特に限定されない」と記載され(摘記e)、その他、本件特許明細書全体の記載をみても、油脂の含有量が70質量%よりも少ない場合に、フリーファット量を低減できず、本件特許発明の解決しようとする課題を解決できないことは記載されていない。
そして、本件特許明細書には、油脂含有量が41質量%、60質量%、すなわち、70質量%未満である実施例12、13が、フリーファット量の評価が「◎」であって、本件特許発明の解決しようとする課題を解決できることが具体的に記載されているから(摘記j~l)、油脂含有量を揃えた比較例の有無にかかわらず、本件特許発明は、油脂の含有量が70質量%未満である場合も、本件特許発明の解決しようとする課題を解決できるものであることが記載されているといえる。
したがって、異議申立人の主張は、採用することができない。
(7)申立理由2(サポート要件)について小括
以上のとおり、本件特許発明1~5は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって、申立理由2によっては、本件特許発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
3.申立理由3(実施可能要件)
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、上記2.(2)の事項が記載されている。
(2)本件特許発明1~5について
本件特許明細書の【0054】には、「本発明の粉末油脂は、従来の公知の方法で製造できる」と記載され(摘記g)、実施例として具体的に本件特許発明1~5の粉末油脂及び飲食品を製造した例も記載されているから(摘記h~k)、当業者であれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明1~5の粉末油脂及び飲食品を製造することができ、使用することができるといえる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)異議申立人の主張
異議申立人は、上記2.(6)と同様の理由を挙げて、本件特許明細書に記載されている比較例は、全て油脂含有量が70質量%であるから、油脂含有量が70質量%未満である粉末油脂の態様を含む本件特許発明1~5は、本件特許明細書の記載からは、本件特許発明の特定の脂肪酸エステルを用いることによるフリーファット量の低減効果が奏されるか理解できず、発明の詳細な説明は、本件特許発明1~5を当業者が実施できるように記載されていないと主張している。(特許異議申立書第22頁下から9行~第23頁第21行)
しかし、本件特許発明1~5を実施することができるというためには、本件特許発明1~5の粉末油脂及び飲食品を製造し、使用することができれば足りるところ、当業者であれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明1~5の粉末油脂及び飲食品を製造することができ、使用することができるといえることは、上記(2)のとおりである。
そして、比較例の油脂含有量が全て70質量%であることによって、本件特許発明1~5の粉末油脂及び飲食品を製造することができないといえる理由はなく、使用することができないともいえる理由もない。
したがって、異議申立人の主張は、採用することができない。
(4)申立理由3(実施可能要件)について小括
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
したがって、申立理由3によっては、本件特許発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700048