特許異議申立
2021-700709
トンネル地山探査方法
- 審判番号
- 2021-700709
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-063572
- 登録番号
- 6820505
- 請求日
- 2021年07月21日
- 審決日
- 2022年06月27日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】清水建設株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】川渕 健一
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】志賀 正武
- 【権利者代理人】高橋 詔男
- 【権利者代理人】佐伯 義文
- 【異議申立人】岩崎 精孝
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 真一
- 審判官 土屋 真理子
- 審判官 森次 顕
- 分類
- P1651.121-YAA(E21D) / P1651.537-YAA(E21D) / P1651.536-YAA(E21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6820505号発明「トンネル地山探査方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6820505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第6820505号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6820505号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成28年3月28日に出願され、令和3年1月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。
令和3年 7月21日 特許異議申立人岩崎 精孝(以下「申立人」
という。)による請求項1、2に係る発明の
特許に対する特許異議の申立て
同年10月 1日付け 取消理由通知
同年12月 3日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
令和4年 1月13日 意見書の提出(申立人)
同年 2月 4日付け 取消理由通知
同年 4月14日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
なお、令和4年4月14日にされた訂正の請求について、申立人に対して訂正請求があった旨の通知をし、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、期間内に応答はなかった。
また、令和4年4月14日に訂正の請求がされたことにより、令和3年12月3日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年4月14日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「穿孔掘削機で地山を穿孔掘削するとともに、前記穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システムによって穿孔位置データと前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データを自動的に取得し、
前記穿孔位置データと前記機械データから切羽前方地山の状況を予測し、
前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる切羽前方地山全体の状況の予測に反映させ、
前記ロックボルト施工における穿孔データと前記前方探査の穿孔データを合わせる3次元コンピュータグラフィックス処理を行うことにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を全体で評価し、
前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させることを特徴とするトンネル地山探査方法。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を、
「請求項1に記載のトンネル地山探査方法において、
前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報・トンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによる地質予測及びトンネル変位量予測に反映させることを特徴とするトンネル地山探査方法。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正について
便宜上、訂正事項1による訂正を以下の訂正事項1Aないし1Cに分け、項目ごとに検討する。
訂正事項1A
請求項1の「前記穿孔位置データと前記機械データから地山の状況を予測し、」を、「前記穿孔位置データと前記機械データから切羽前方地山の状況を予測し、」に訂正する。
訂正事項1B
請求項1の「前記前方探査の穿孔データによる地山状況の予測に反映させ、」を、「前記前方探査の穿孔データによる切羽前方地山全体の状況の予測に反映させ、」に訂正する。
訂正事項1C
請求項1に、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」を追加する。
イ 訂正事項1Aについて
(ア)訂正の目的
訂正事項1Aに係る訂正は、状況を予測する「地山」が特定されておらず、発明が不明確となっていたところ、「地山」が「切羽前方地山」であることを特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1Aは、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0003】の「また、山岳トンネル工事では、切羽(掘削面)前方の地質状況を事前に把握するために、既往の穿孔機械で切羽前方を30m程度穿孔し、得られた穿孔エネルギー分布状況から前方地山の地質分布状況を予測するようにしている。」との記載から、「前方地山」が「切羽前方地山」であることは明らかであるから、訂正事項1Aに係る訂正は、本件明細書の段落【0017】の「そして、地質情報・トンネル計測結果と比較することにより、この自動的に取得・転送・データ保存した穿孔作業の機械データを分析し、前方探査としての穿孔時の機械データに反映する。これにより、前方地山の予測精度を向上させる。」との記載に基づくものといえる。
したがって、訂正事項1Aに係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 訂正事項1Bについて
(ア)訂正の目的
訂正事項1Bに係る訂正は、「予測」が「地山状況の予測」であって「地山」が特定されておらず、発明が不明確となっていたところ、「地山」が「切羽前方地山」であり、「予測」が「切羽前方地山全体の状況の予測」であることを特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1Bは、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項1Bに係る訂正は、本件明細書の段落【0028】、【0029】の「また、本実施形態のトンネル地山探査方法においては、ロックボルト施工における穿孔データと前方探査の穿孔データを合わせる3次元コンピュータグラフィックス処理(レンダリング)を行うことにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を全体で評価することができ、前方探査として穿孔した箇所だけでなく前方地山全体を予測し、前方に出現する切羽全体を予測することが可能になる。」、「また、穿孔機械データによるトンネル変位量予測や支保選定指標としての活用が可能になることで、前方探査穿孔時の機械データから切羽全体を予測して適正な支保選定が可能になる。」との記載に基づくものといえる。
したがって、訂正事項1Bに係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
エ 訂正事項1Cについて
(ア)訂正の目的
訂正事項1Cに係る訂正は、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」との発明特定事項を付加して、訂正前の記載の「自動的に取得」した「穿孔エネルギー値の機械データ」をどのように分析に用いるのかを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1Cは、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項1Cに係る訂正は、本件明細書の段落【0011】の「また、本発明のトンネル地山探査方法においては、前記自動的に取得した穿孔位置データと前記穿孔機械データと地質情報・トンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記穿孔機械データによる地山状況の予測(地質予測、トンネル変位量予測等の地山状況の予測)に反映させることがさらに望ましい。」との記載及び、本件明細書の段落【0026】の「そして、本実施形態のトンネル地山探査方法によって蓄積された莫大な穿孔機械データと切羽評価点、地山強度、トンネル変位量との相関関係を分析することで、これまでは行ってこなかった穿孔機械データによる地質予測、トンネル変位量予測等の地山状況の予測を行うことができる。」との記載に基づくものといえる。
したがって、訂正事項1Cに係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2による訂正について
便宜上、訂正事項2による訂正を以下の訂正事項2A及び2Bに分け、項目ごとに検討する。
訂正事項2A
請求項2の「前記穿孔機械データ」を「前記機械データ」に訂正する。
訂正事項2B
請求項2の「地山状況の予測」を、「地質予測及びトンネル変位量予測」に訂正する。
イ 訂正事項2Aについて
(ア)訂正の目的
訂正事項2Aに係る訂正は、「前記穿孔機械データ」との記載以前に「穿孔機械データ」についての記載がなく、発明が不明確となっていたところ、訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載の「前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データ」を指すことを明確にしたものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2Aは、上記(ア)のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)上記(ア)のとおり、訂正後の「前記機械データ」は、訂正前の請求項1において「前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データ」と記載していたものであるから、訂正事項2Aに係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 訂正事項2Bについて
(ア)訂正の目的
訂正事項2Bに係る訂正は、「地山状況の予測」を「地質予測及びトンネル変位量予測」に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2Bは、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項2Bに係る訂正は、本件明細書の段落【0011】の「また、本発明のトンネル地山探査方法においては、前記自動的に取得した穿孔位置データと前記穿孔機械データと地質情報・トンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記穿孔機械データによる地山状況の予測(地質予測、トンネル変位量予測等の地山状況の予測)に反映させることがさらに望ましい。」との記載に基づく。
したがって、訂正事項2Bに係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2は、請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1、2に対応する訂正後の請求項1、2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。
4 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」及び「本件訂正発明2」といい、これらを併せて「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
穿孔掘削機で地山を穿孔掘削するとともに、前記穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システムによって穿孔位置データと前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データを自動的に取得し、
前記穿孔位置データと前記機械データから切羽前方地山の状況を予測し、
前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる切羽前方地山全体の状況の予測に反映させ、
前記ロックボルト施工における穿孔データと前記前方探査の穿孔データを合わせる3次元コンピュータグラフィックス処理を行うことにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を全体で評価し、
前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させることを特徴とするトンネル地山探査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のトンネル地山探査方法において、
前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報・トンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによる地質予測及びトンネル変位量予測に反映させることを特徴とするトンネル地山探査方法。
第4 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、これらを併せて「本件発明」という。)に対して、証拠として下記甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、次の特許異議申立理由を申し立てている。
(1)(進歩性)本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証の1、甲第3号証、甲第4号証から把握される周知技術及び甲第5号証、甲第6号証から把握される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)(サポート要件)本件発明1の「前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる地山状況の予測に反映させ」という発明特定事項は、本件明細書に記載されていない。したがって、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3)(明確性要件)本件発明1は、「穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサー」により穿孔位置データを取得するものである。そして、本件発明1の「穿孔位置データ」は、例えば三次元グラフィックス処理に用いられると解され、少なくとも空間座標(三次元座標)を含む必要があるところ、穿孔角度センサーから得られる情報(穿孔掘削機それ自体、あるいは穿孔掘削機のブームやアームの方向)だけでは、通常は空間座標を特定できないから、発明特定事項が不足している。したがって、本件発明は明確ではない。
(4)(実施可能要件)本件発明1の「穿孔位置データ」との記載は、例えば三次元グラフィックス処理に用いられると解され、少なくとも空間座標(三次元座標)を含む必要がある。しかし、発明の詳細な説明を見ても、穿孔角度センサーを使用することのみが記載されており、穿孔角度センサーからどのように穿孔位置データ(空間座標)を特定しているのかについて当業者が実施できる程度に具体的に開示されていない。したがって、本件発明は、明細書に当業者が実施可能な程度に記載されたものではない。
甲第1号証 :山田文孝、外3名、「削孔検層システムを用いたトンネ
ル全長にわたる地山評価」、社団法人土木学会、
平成17年12月1日、トンネル工学報告集、
第15巻、第121-128ページ
甲第2号証の1:若林宏彰、「全断面追尾式穿孔誘導システム「ドリル
NAVI」の開発、-山岳トンネル工事における
穿孔誘導技術及び地山診断技術-」、
平成27年度近畿地方整備局研究発表会 論文集、
新技術・新工法部門:第1日目6月29日No.13、
[online]、令和3年4月15日出力、
<URL:https://www.kkr.mlit.go.jp/plan/happyou/
thesises/2015/pdf05/13.pdf>
及び当該論文のリンク元の「平成27年度近畿地方整局
備研究発表会 過去の論文集」のページ
<URL:https://www.kkr.mlit.go.jp/plan/happyou/
thesises/2015/05.html>
甲第2号証の2:「鴻池組技術研究報告」[online]、
(令和3年4月15日出力)、<URL:
https://www.konoike.co.jp/solution/thesises/>
及びそれにリンクされた「2016年社外発表論文一覧
」、<URL:https://www.konoike.co.jp/solution/
thesises/2016/07/25/2016_ronbunlist.pdf>
甲第3号証 :特開2015-230189号公報
甲第4号証 :松下智昭、外3名、
「トンネル切羽の定量評価による掘削の合理化」、
第44回岩盤力学に関するシンポジウム講演集(CD- ROM)、公益社団法人土木学会、2016年1月
講演番号39、第217-221ページ
甲第5号証 :武田宣孝、外2名、「地下空洞掘削における情報化施工
への穿孔検層の適用性」、
一般社団法人電力土木技術協会、
平成24年5月5日、電力土木No.359、
第9-16ページ
甲第6号証 :「ロックボルトの削孔データによってトンネル周辺の地
質状況を三次元的に評価 南久保山トンネル(宮崎県延
岡市)において適用」、[online]、
2015年4月7日掲載、
<URL:https://www.kajima.co.jp/news/press/
201504/pdf/7c1-j.pdf>
2 令和3年10月1日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
本件発明1及び2に対して、当審が上記取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、申立人は、上記取消理由に関連して令和4年1月13日に提出した意見書において、甲第1号証の図-10と同じ図が、当該文献の図-4にカラーで掲載されているとして、甲第7号証を提出している。
甲第7号証 :山田文孝、外2名、
「削孔検層システムを用いたトンネル周辺地山評価」、
社団法人土木学会、平成17年8月20日、
第60回年次学術講演会講演梗概集(CD-ROM)、
6-005、第9-10ページ
3 令和4年2月4日付け取消理由通知で通知した取消理由の概要
令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に対して、当審が令和4年2月4日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(明確性要件)
(1)令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記穿孔機械データ」との記載により、発明が不明確となっている。
(2)令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「地山状況(地質とトンネル変位量)」との記載により、発明が多義的に解釈されるため、発明が不明確となっている。
(3)令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「地山の状況を予測」及び「地山状況の予測」との記載により、発明が不明確となっている。
第5 令和4年2月4日付け取消理由通知で通知した取消理由についての当審の判断
1 「前記穿孔機械データ」との記載について
令和4年4月14日にされた本件訂正により、令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「前記穿孔機械データ」は、「前記機械データ」と訂正され、「前記穿孔機械データ」と記載されなくなった。また、請求項2において「前記機械データ」と訂正され、「機械データ」が、前記された「前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データ」であることが明確となった。
したがって、本件訂正発明1及び2は、「前記穿孔機械データ」との記載により、発明が不明確となっているものではない。
2 「地山状況(地質とトンネル変位量)」との記載について
令和4年4月14日にされた本件訂正により、令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「地山状況(地質とトンネル変位量)」との記載は、請求項1においては「トンネル変位量予測」と訂正され、請求項2においては、「地質予測及びトンネル変位量予測」と訂正され、発明が多義的に解釈されるものではなくなった。
したがって、本件訂正発明1及び2は、「地山状況(地質とトンネル変位量)」との記載により、発明が不明確となっているものではない。
3 「地山の状況を予測」及び「地山状況の予測」について
令和4年4月14日にされた本件訂正により、令和3年12月3日に訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された「地山の状況を予測」は、「切羽前方地山の状況を予測」と訂正され、同「地山状況の予測」は「切羽前方地山全体の状況の予測」と訂正された。これら訂正により、予測される地山はトンネル周辺地山ではなく切羽前方地山であり、前方探査として穿孔した箇所だけでなく前方地山全体を予測するものであるものとなった。
したがって、本件訂正発明1及び2は、「地山の状況を予測」及び「地山状況の予測」との記載により、発明が不明確となっているものではない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び2は明確である。
第6 令和3年10月1日付け取消理由通知で通知した取消理由についての当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。他の証拠についても同じ。)。
ア「削孔検層システムを用いたトンネル全長にわたる地山評価」
(タイトル)
イ「1.はじめに
近年,土木分野における情報化施工技術の発展は目覚しく,施工の自動化,省力化に大きな成果を挙げている1).
山岳トンネル工事においては,昭和50年代のNATM導入にともない切羽観察や変位・応力計測結果を実施設計にフィードバックさせる手法が一般化され,大きな意味での情報化施工は既に標準的な施工法となっていると言ってよい2).ところが近年の自動化・省力化を旨とした情報化施工技術は他工種と比較して導入が遅れている.これは,山岳トンネル工事では刻々と変化する地山性状に臨機応変に対応することが求められること,複雑な地質状況を定量的に評価するのが困難なこと,実際に地山に触れた技術者の総合的な判断が重要視されること,などが原因であると考えられる.
NATMの導入以来,山岳トンネルにおける合理化の主眼は地山性状を迅速かつ的確に評価し合理的な支保構造を適用することにある.従来この評価・判断は技術者の勘と経験に負うところが大きかったが,近年の情報化施工技術の発展により,より多くの客観的な判断材料が提供されるようになってきた.たとえば自動計測技術,弾性波による切羽前方探査技術3)などはいずれもこの目的に沿ったものである.
さて,このような情報化施工技術の一環として開発され一部で実用化されているものに削孔検層(穿孔探査・削孔探査とも呼ばれる)がある4)~10).この技術は山岳トンネル施工に不可欠な油圧削岩機の作動状況から地質性状を推定するもので,切羽前方地山を確認するために実施する切羽前方探査に利用されている.
一方,油圧削岩機はロックボルト孔や発破孔の削孔に日常的に利用されており,これらの削孔データを切羽前方探査と同じように記録・解析することができれば,トンネル周辺の地山性状を評価するための判断材料を提供することができる.さらに切羽前方探査と組み合わせることで,切羽周辺の地山性状をトータルに評価して設計・施工にフィードバックすることが可能となる.
筆者らは,あらゆる削孔データを用いて切羽前方を含めたトンネル周辺地山性状の評価が可能な削孔検層システムを開発した.また当該システムを実トンネル施工に本格的に導入してシステムの実用性と信頼性を検証した.」
(第121ページ左欄第1行~右欄最終行)
ウ「2.削孔検層システム
(1)削孔検層システムの特徴
従来の削孔検層は,山岳トンネルでは切羽前方探査の際に削孔データを採取,地山性状評価を行うものであった.これに対し今回開発した削孔検層システムは,切羽前方探査時の削孔データに加え,ロックボルト孔や発破孔といった施工サイクルに組み込まれた削孔のデータ(以下日常削孔データと呼ぶ)も利用することを意図した.
日常削孔データを採取・解析することで以下のような評価が可能となる.
○1(当審注;「○数字」は、○の中に数字を示す。以下同じ。)ロックボルト孔削孔データの空間分布を示すことでトンネル壁面近傍地山の性状を評価し,切羽観察と合わせて地質をより広範に把握できる.またゆるみ領域を特定できる可能性があり,支保構造の妥当性検証に利用できる.
○2日常削孔データのトンネル縦断方向分布を示し支保パターンと比較することで,既施工区間の支保の妥当性を検証できる.また変状などの問題が生じた場合,切羽観察・計測結果などとともに原因究明の基礎資料となる.
○3上記の既施工区間縦断方向分布と切羽前方探査結果を比較することで,支保パターンと直結する定量的な地山性状の予測が可能となる.
このように,日常削孔データを利用することによる利点は非常に大きいものの,データ量が膨大であることから効率的なデータ処理が必須となる.そのためデータ採取から表示までを可能なかぎり自動化したシステムを開発した.
今回開発した削孔検層システムの概要を図-1に示す.システムはドリルジャンボ搭載部分およびデータサーバーに分かれる.両者を無線LANで結ぶことで,データ採取を自動化している.」
(第122頁左欄)
エ「(2)削孔データの採取機構
当該システムでは,油圧削岩機の打撃圧・回転圧・フィード圧の各油圧を圧力センサーにより測定する.また削孔長を求めるためにフィードシリンダー中を流れる作動油の流量を常にモニターし,ガイドシェルとドリフタ間の相対位置を決定する.削孔中はフィードの前後運動が生じるため,両方向の流量が測定できる機器を選定している.
測定データはドリルジャンボに搭載したデータロガーにより記録する.128MBメモリーカードにより,通常作業で約一週間分のデータを記録できる.
データ記録開始/停止操作を人間の手に委ねることは切羽作業の煩雑化を招き,オペレータの注意力を損なううえ,データ取り忘れなどの不具合が生じる恐れがある.そこで搭載油圧モータのオン/オフと連動する完全自動型のデータ採取機構を構築した.
データロガーにより記録された測定データは,現場内に構築した無線LAN網を通じて現場事務所内のデータサーバーに転送されるシステムとした.これにより切羽近傍のドリルジャンボ上でのメモリーカード交換という危険作業を省略することができる.現場内無線LAN網は既存の物を利用できる.」
(第122頁右欄第1~22行)
オ「(3)削孔データの処理方法
a)評価指標
旧来の油圧削岩機による前方探査(さぐり削孔)では削孔速度,スライムの状態およびオペレータの感触により地山性状を判断することが多かった.しかしこの場合,油圧削岩機の設定やオペレータの技量によって結果が左右され,客観的な評価とは必ずしも言えない面があった.この欠点を補うために開発された削孔検層では,削孔エネルギーという評価指標が導入された.削孔エネルギーとは一定体積の岩盤を破砕するために要した油圧エネルギーである.
(中略)
今回は主に削孔エネルギーを地山性状の評価指標とし,削孔速度を参考とした.また岩盤の破砕状況や粘土化の状態を把握するために,トルク抵抗という指標を新たに導入した.これは削岩機のフィード圧と回転圧の比であり,地層境界や亀裂を評価できる可能性がある.各指標は以下の式により計算した.なお,これらの評価指標と測定された油圧データを合わせて機械量と呼ぶこととする.
[図:0001388368000001.jpg]
ここに,
Vd :削孔速度(m/min)
Ed :削孔エネルギー(MJ/m3)
Td :トルク抵抗
(中略)
b)地山の不均質性と評価指標の影響因子
トンネルが対象とする地山は不均質である場合が多く,切羽観察に基づく評点化などでは,定量化し難いそれらの不均質性がトンネル技術者の知識と経験によって処理されているものと考えられる.削孔検層データを蓄積することで期待されるのは,地山の不均質性を定量的に評価し得ることである.
ところが削孔効率には,フィード圧の操作などを含むオペレータの癖,個々の油圧削岩機が持つ機械的なバラツキ,上向き削孔か下向き削孔かの違い,削孔長の差,ビットの種類などいくつもの因子が影響を及ぼしている.削孔検層で得られる機械量には,これらの影響が全て含まれているものと考えなければならない.
これら因子の影響をひとつひとつ分離して補正することが理想的であり,前方探査時のフィード圧補正を行っている例もある11).しかしながら,減少が非常に複雑であるうえ,不確定要素も多い.そこで今回は,各因子の影響を平均化するために多数のデータを取得し統計的に処理することとした.そのうえで,なお残るバラツキが地山の持つ不均質性を表現しているものと捉える.もちろん,機械量は直接地山の力学特性や地質を評価するパラメータではないが,これらに大きく支配されるため,その統計量は地山の統計量と共通することが考えられる.
c)機械量の統計処理
当該システムでは,削孔データを10Hzという高頻度で取得し,削孔長5cm毎に平均して一箇所のデータとした.前方探査およびロックボルト孔削孔の場合は各々に空間座標を付与している.これは削孔速度2m/minの削孔であれば,1mの削孔中に取得した300個の生データを15個ごとに平均して20個の平均化データを得るということである.また,たとえば1断面で3mのロックボルト孔を16本,1.1mの発破孔を100本掘削した場合,1断面あたりの
平均化データ数はロックボルト孔削孔データ960個,発破孔削孔データ2,200個と膨大な量になる.
これら機械量は断面毎に正規度数分布をとり,最大値,最小値,平均値,標準偏差,流行値等の基本統計量を求める.この統計量ならびに度数分布の形状そのものを検討することで,断面内に存在する不均一性を評価する.また断面ごとに比較することで,トンネル縦断方向の地山性状の差異を検討する.
さらに機械量の空間分布を描画し統計量と比較検討することで,機械量のバラツキが地山の不均質性を表現しているものか否かを検証することとした.」
(第122頁右欄下から11行~第123頁右欄第34行)
カ「(4)削孔データの表示・分析
以下に機械量の表示方法の概要を述べる.当該システムでは以下の三種類の表示方法を用意した.
a)ロックボルト孔削孔データの表示
パソコン上で表示したい断面を指定すると二次元分布および度数分布,統計諸量が表示される.さらに次章に示すように図化処理ソフトウェアにより二次元および三次元のカラーコンターを表示できる12).
これまでにも大規模地下空洞周辺において機械量の平面分布により地山評価を行った例はあるが4),山岳トンネルにおいて日常的に得られるこれらの図は,ロックボルト孔の削孔状況を画面上で再現したものと考えることができ,切羽において各人が行なう観察を機械量の分布によって代替しようとするものである.
b)前方探査データの三次元立体表示
油圧削岩機による切羽前方探査結果は機械量をグラフ表示することが一般的であるが,当該システムでは図-2のように三次元の立体図として表示可能とした.複数孔で前方探査を実施することで地質構造を視覚的に評価できる.
c)機械量の縦断方向比較・分析
図-3の画面左側には,横軸に距離程をとり日常掘削データおよび前方探査データを,実施支保パターンとともに表示した.日常削孔データはロックボルト孔・発破孔別に各断面の平均値・標準偏差・流行値を,前方探査データはグラフとして表示した.画面右側には表示範囲に含まれる各断面の度数分布を示した.表示範囲は自由に設定可能である.
これにより,実施支保パターンと機械量の関係が明瞭になり,既施工区間の支保パターンの妥当性を検証できる.また日常削孔データと前方探査データを容易に比較することができ,支保パターンも含めて直感的な前方予測が可能となる.」
(第123頁右欄下から12行~第124頁左欄最終行)
キ「3.実現場への導入
(1)これまでの実績
(中略)
(2)対象トンネルの概要
これまでの成果を踏まえた形で,今回延長1.085mの東九州自動車道津久見トンネル工事において当該システムを掘削当初から導入し,全線にわたって削孔検層による地山評価を実施した.
(中略)
(3)導入システムの概要
当該トンネルでは,硬岩対応の3ブームドリルジャンボを使用した.データ採取はこのうち左右の2ブームを対象とした.ロックボルト孔削孔は左右の油圧削岩機を用いて削孔する範囲が広いため,2ブーム対応とすることで主要な削孔データの大部分を取得することができると判断した.
取得したデータは現場内に構築した無線LAN網を通じ切羽から事務所まで転送した.スライドセントルや現場-事務所間で無線を中継する必要が生じたが,工事全期間を通じて良好な通信環境を維持することができた.
また施工中,機器の故障によるトラブルは皆無であり,継続してデータを採取することができた.
(4)ロックボルト孔削孔データによる周辺地山評価
以下に示すように,ロックボルト孔削孔データの空間分布を示すことで,トンネル付近の地山状況を視覚的にわかりやすく表現することができた.
図-4にSTA.11+1.0断面におけるロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)の断面コンターを示す.支保パターンはDI-b,ロックボルト長は4.0mであり,コンターは坑壁から4mの範囲を示している.坑壁近傍から天端よりやや左の地山内にかけて削孔エネルギーの小さい領域が広がっている.この岩盤強度低下領域は,掘削によるゆるみが生じた領域であると考えられる.4.0mのロックボルトは,最大で2~3mのゆるみ領域を余裕を持って支保している.したがってロックボルト長は適切であったと判断できる.
また天端右肩および左側壁付近には,直径1m~2mで局所的に岩盤強度の高い領域が存在する.周辺の地質状況から判断すると,石灰岩または砂岩の硬質ブロックが分布するものと評価できる.
図-5,図-6にトンネル前半の120m区間におけるロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)空間分布を示す.図-5は断面コンターを重ねた図である.図-6は同区間の三次元コンターであり,200MJ/m3以上の領域のみを示している。
切羽観察によると,STA.11+00付近までは破砕を受けた粘板岩中に砂岩や石灰岩の硬質ブロックが点在する地層状況であり,以降は比較的硬質な砂岩・粘板岩互層であった.支保パターンもSTA.11+00付近まではDI-bであり,その後DI-aパターンを挟んでCIIパターンに移行した.
図をみると,STA.11+00付近を境に削孔エネルギーの低い区間とそれ以降の高い区間に明瞭に区分できる.また前半においては,STA.10+30~10+40をはじめとして軟質な岩盤中に硬質な部分がブロック状に点在する状況が表現されており,切羽で確認された地質状況が削孔エネルギー分布にも明瞭に示されている.さらに硬質ブロックは掘進方向に向かって左手前から右奥に配列しているように見える.これは周辺の地層の走向方向と調和的であり,トンネル周辺の大局的な地質構造が示されていると見てよい.
(5)切羽前方探査
図-7はSTA.11+66において実施した切羽前方探査結果である.削孔エネルギーおよびトルク抵抗を縦断方向にグラフ化している.また図には前方探査結果とともに既施工区間のロックボルト孔削孔データも表示し,両者を比較できるようにしている.切羽前方探査の削孔エネルギーが約3mサイクルでリズミカルに変動することから,ブロック状の砂岩と砂岩周辺の破砕を受けた粘板岩が交互に現れる互層を予想した.直近の既施工区間も同様の地質状況であり,また既施工区間の削孔エネルギーもほぼ同レベルの値を示すことから,少なくとも今後25m区間はこれまでとおおむね同じ地層状況が続くものと判断した.実際の切羽地質も予想通りであった.
(中略)
(6)削孔エネルギー度数分布と地質の関係
図-9に,削孔エネルギー度数分布を示す.(B)以外はロックボルト孔削孔データであり,各々20m区間の複数断面で集計している.
さて(B)の前方探査データは前節図-7で取り上げた切羽前方探査の度数分布である.これを直前の施工区間のロックボルト孔削孔データ(A)と比較すると,その形状が類似していることがわかる.すなわち,大局的には300~400MJ/m3を中心とした正規分布を示すが,100MJ/m3付近に別のピークが存在し両者を重ね合わせた形状を示す.この図からは,約300~400MJ/m3の硬さを持つ岩盤が主体であるが局所的に比較的軟質な部分を挟在する地
山状況が推定される.これは前節で述べた地質状況と一致する.
(中略)
(7)支保パターンとの対比
津久見トンネルでは全線で削孔検層を実施したことから,縦断方向に連続したデータを得ることができた.図-10に切羽評価点17)と削孔エネルギー平均値の縦断分布を,図-11に両者の関係を示す.当該トンネルでは両者間にきわめて強い相関関係が認められた.また支保パターンとの対応も良好であった.
○1STA.11付近までの断層破砕帯影響区間,○2STA15+50付近までの混在岩主体の区間,○3それ以降の石灰岩分布域と砂岩頁岩互層主体の区間でそれぞれ特徴的なグラフ形状が得られている.○1では削孔エネルギー平均値が200MJ/m3程度で一定している.パターンはDI.○2では400~500MJ/m3で若干の上下変動がある.パターンはCII-b主体.○3では互層の影響と考えられる振幅30~50mの上下動が確認される.パターンはCII-b~CI-aである.
削孔エネルギーは地山の硬軟を表すと考えられ,地山の総合的な評価指標である切羽評価点とは必ずしも一致しない.しかし両者の相関関係,支保パターンとの対応が良好であるという事実は重要である.
図-11の四角形は,各パターンに対応する切羽評価点および削孔エネルギー平均値の範囲を示したものである.削孔エネルギー平均値も切羽評価点と同様に支保パターンと対応することがわかる.したがって両者を用いて支保パターン選定を行なうことで,信頼性・妥当性が向上するものと考える.
また,切羽前方探査より得た削孔エネルギーを図-11と比較し,さらに前節のように度数分布による検討を加味することで,支保パターンに直結する定量的な前方地山評価ができる可能性がある.」
(第124頁右欄第1行~第128頁左欄第10行)
ク「4.まとめ
日常のロックボルト孔・発破孔削孔データを利用する削孔検層システムの開発と現場適用を通じ,以下の知見を得た.
○1延長約1kmのトンネル工事において当該システムを掘削当初から導入し,全期間にわたって運用することで,システム自体の信頼性を確立することができた.
○2ロックボルト孔削孔データの三次元分布を評価することで,トンネル周辺の地山状況を評価できることがわかった.
○3日常削孔データより求めた削孔エネルギーの度数分布を示すことで,トンネル周辺地山の地質を詳細に評価できること,また支保変更の際の参考データとなり得ることがわかった.
○4日常削孔データより求めた削孔エネルギーと切羽評価点・支保パターンとの間に相関関係が認められた.日常削孔データと切羽前方探査を対比することで,支保パターンに直結する定量的な前方地山評価が実施できる可能性が示された.
現在他の3トンネルにおいて同様の削孔検層を実施している.今後は基礎データを蓄積するとともに,対象地質を拡大し,検証を続けていく所存である.」
(第128ページ左欄第11~34行)
ケ 図-2、図-4、図―6、図―7、図-10及び図-11は以下のとおり。
[図:0001388368000002.jpg]
[図:0001388368000003.jpg]
[図:0001388368000004.jpg]
[図:0001388368000005.jpg]
[図:0001388368000006.jpg]
コ 上記オないしキの記載を踏まえると、上記ケの「図-10 削孔エネルギーの縦断方向分布」は、横軸の距離程に対して、縦軸に削孔エネルギー平均値とともに切羽評価点や水平内空変位の天端沈下などが示された図であることが看取される。また、同「図-11 削孔エネルギーと実施パターンの関係」は、横軸に削孔エネルギー平均値、縦軸に切羽評価点をとり、削孔エネルギー平均値と切羽評価点との関係を、実施パターンを判別可能にプロットした分布図であることが看取される。
サ 上記アないしコからみて、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「削孔検層システムを用いたトンネル全長にわたる地山評価であって、
a)削孔検層システムは、
切羽前方探査時の削孔データに加え、ロックボルト孔や発破孔といった施工サイクルに組み込まれた削孔のデータ(以下「日常削孔データ」という。)も利用し、採取・解析することで、ロックボルト孔削孔データの空間分布を示すことでトンネル壁面近傍地山の性状を評価し、切羽観察と合わせて地質をより広範に把握でき、
日常削孔データのトンネル縦断方向分布を示し支保パターンと比較することで、既施工区間の支保の妥当性を検証でき、また変状などの問題が生じた場合、切羽観察・計測結果などとともに原因究明の基礎資料となり、
上記既施工区間縦断方向分布と切羽前方探査結果を比較することで、支保パターンと直結する定量的な地山性状の予測が可能となるものであり、
b)削孔データの採取機構は、
油圧削岩機の打撃圧・回転圧・フィード圧の各油圧を圧力センサーにより測定し、削孔長を求めるためにフィードシリンダー中を流れる作動油の流量を常にモニターし、ガイドシェルとドリフタ間の相対位置を決定し、
測定データはドリルジャンボに搭載したデータロガーにより記録し、
データ記録開始/停止操作が搭載油圧モータのオン/オフと連動する完全自動型であり、データロガーにより記録された測定データは、現場内に構築した無線LAN網を通じて現場事務所内のデータサーバーに転送されるシステムとし、
c)削孔データの処理方法について、
一定体積の岩盤を破砕するために要した油圧エネルギーである削孔エネルギーを主に地山性状の評価指標とし、機械量は評価指標と測定された油圧データを合わせたものであり、
削孔データを10Hzという高頻度で取得し、削孔長5cm毎に平均して一箇所のデータとし、前方探査およびロックボルト孔削孔の場合は各々に空間座標を付与し、
ロックボルト孔削孔データ、発破孔削孔データの機械量は断面毎に正規度数分布をとり、最大値、最小値、平均値、標準偏差、流行値等の基本統計量を求め、統計量ならびに度数分布の形状を検討することで、断面内に存在する不均一性を評価し、また断面ごとに比較することで、トンネル縦断方向の地山性状の差異を検討し、
さらに機械量の空間分布を描画し統計量と比較することで、機械量のバラツキが地山の不均質性を表現しているか否かを検証するものであり、
d)削孔データの表示・分析について、
ロックボルト孔削孔データは、二次元および三次元のカラーコンターとして表示でき、ロックボルト孔の削孔状況を画面上で再現したものとして、切羽において各人が行う観察を機械量の分布によって代替するものであり、
e)前方探査データについて、
油圧削岩機による切羽前方探査結果は三次元の立体図として表示可能とし、複数孔で前方探査を実施することで地質構造を視覚的に評価できるものであり、
横軸に距離程をとり日常掘削データおよび前方探査データを、実施支保パターンとともに表示し、これにより、実施支保パターンと機械量の関係が明瞭になり、既施工区間の支保パターンの妥当性を検証でき、また日常削孔データと前方探査データを容易に比較することができ、支保パターンも含めて直感的な前方予測が可能となり、
f)実現場のトンネル工事において当該システムを導入し、全線にわたって実施した削孔検層による地山評価において、
ロックボルト孔削孔データによる周辺地山評価について、ロックボルト孔削孔データの空間分布を示すことで、トンネル付近の地山状況を視覚的に表現することができ、
STA.11+1.0断面におけるロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)の断面コンター(図-4)において、坑壁近傍から天端よりやや左の地山内にかけて削孔エネルギーの小さい領域が広がっていて、この岩盤強度低下領域は、掘削によるゆるみが生じた領域であると考えられ、また天端右肩および左側壁付近には、直径1m~2mで局所的に岩盤強度の高い領域が存在し、周辺の地質状況から判断すると、石灰岩または砂岩の硬質ブロックが分布するものと評価でき、
g)トンネル前半の120m区間におけるロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)空間分布を示すものであって、200MJ/m3以上の領域のみを示している三次元コンター(図-6)において、切羽観察によると、STA.11+00付近までは破砕を受けた粘板岩中に砂岩や石灰岩の硬質ブロックが点在する地層状況であり、以降は比較的硬質な砂岩・粘板岩互層であったところ、三次元コンター(図-6)をみると、STA.11+00付近を境に削孔エネルギーの低い区間とそれ以降の高い区間に明瞭に区分でき、また前半においては、軟質な岩盤中に硬質な部分がブロック状に点在する状況が表現され、切羽で確認された地質状況が削孔エネルギー分布にも明瞭に示されており、
h)STA.11+66において実施した切羽前方探査結果であって、削孔エネルギーを縦断方向にグラフ化し、切羽前方探査結果とともに既施工区間のロックボルト孔削孔データも表示し、両者を比較できるようにしたもの(図-7)において、切羽前方探査の削孔エネルギーが約3mサイクルでリズミカルに変動することから、ブロック状の砂岩と砂岩周辺の破砕を受けた粘板岩が交互に現れる互層を予想し、直近の既施工区間も同様の地質状況であり、また既施工区間の削孔エネルギーもほぼ同レベルの値を示すことから、少なくとも今後25m区間はこれまでとおおむね同じ地層状況が続くものと判断し、
i)横軸の距離程に対して、縦軸に削孔エネルギー平均値とともに切羽評価点や水平内空変位の天端沈下などが示された図(図-10)と、横軸に削孔エネルギー平均値、縦軸に切羽評価点をとり、削孔エネルギー平均値と切羽評価点との関係を、実施パターンを判別可能にプロットした分布図(図-11)とを用い、
切羽評価点と削孔エネルギー平均値は、当該トンネルでは両者間にきわめて強い相関関係が認められ、
切羽前方探査より得た削孔エネルギーを分布図(図-11)と比較し、さらに度数分布による検討を加味することで、支保パターンに直結する定量的な前方地山評価ができる可能性がある、
削孔検層システムを用いたトンネル全長にわたる地山評価。」
(2)甲第2号証の1
甲第2号証の1(以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
ア「今回開発した全断面追尾式穿孔誘導システム「ドリルNAVI」は,山岳トンネルで標準的に使用するドリルジャンボに,まる1自動追尾式トータルステーションと位置検知用センサーにより削岩機の穿孔位置を把握し,ガイダンス用モニターにしたがって予め計画した穿孔位置へ誘導する穿孔誘導技術と,まる2定期的な切羽前方探査と日常 の穿孔作業で取得した位置情報を持った穿孔データを活用した地山診断技術を搭載することで,山岳トンネル工事における品質や安全性の確保,コスト縮減や工程確保を可能としたものである(図-1).
本報告は,全断面追尾式穿孔誘導システム「ドリルNAVI」のシステム概要と,九州新幹線(西九州)新長崎トンネル(東)他工事における本システムの導入効果について紹介したものである.」
(第1ページ左欄下から14行~最下行)
イ「(2)地山診断技術の概要
穿孔中の油圧データ(打撃圧,フィード圧,穿孔速度,打撃数等)を取得できる穿孔探査器(図-6)を全削岩機に搭載し,得られた油圧データから地山状況の定量的な指標となる穿孔エネルギーを算出する.本機能と穿孔誘導技術で取得した穿孔位置データとを統合することで,位置情報を持った穿孔エネルギーを穿孔データとして取得,利用できる.
本機能により,余掘り測定結果と実穿孔記録(図-7)とを比較して最適な発破パターンを設定できるとともに,切羽前方探査で得られる長尺の穿孔データと,日常の発破孔やロックボルト等の穿孔作業で得られる短尺かつ複数の穿孔データを活用することで,切羽前方,切羽全面,トンネル周辺を含むトンネル全長について高精度かつリアルタイムに地山診断を行うことができる(図-8).」
(第2ページ右欄下から15行~最下行)
ウ「b) 地山評価
図-16に支保パターン毎の穿孔エネルギー分布状況を,図-17に切羽観察記録と穿孔エネルギーの関係を,図-18に穿孔エネルギーと岩盤強度の関係を示す.
図-16より,平均穿孔エネルギーは,INパターンで100 未満~300J/cm3(平均159J/cm3),IINパターンで100~400J/cm3(平均283J/cm3)の範囲に分布していることがわかった.
図-17より,切羽での肌落ちや崩落箇所が,穿孔エネルギーの低い箇所と概ね一致していることがわかった.
図-18より,切羽前方探査(L=30m×1本)で取得した穿孔エネルギーよりも,日常の穿孔作業で取得した平均穿孔エネルギーの方が,切羽における原位置での岩盤強度との相関性が高いことがわかった.このことから,切羽前方探査は,長尺かつ単数の穿孔エネルギーで地山評価するため,発破や掘削による緩みや切羽全体の地山状況を適切に把握できないこと,一方で,日常の穿孔作業で取得した穿孔エネルギーは,短尺かつ複数の穿孔エネルギーを平均化して評価するため,切羽全体の地山状況を面的かつ定量的に把握できることがわかった.
以上より,定期的な切羽前方探査で前方地山の概要を把握し、日常の穿孔作業で取得した穿孔エネルギーで直近切羽の地山状況を詳細に把握することで,トンネル全長にわたって高精度な地山診断が行え,最適な支保パターンや補助工法の選定に活用できることがわかった.」
(第6ページ左欄)
エ 図-17、図-18は以下のとおり。
[図:0001388368000007.jpg]
[図:0001388368000008.jpg]
2 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「ドリルジャンボ」は「油圧削岩機」の製品名であり、「ドリルジャンボ(油圧削岩機)」が「地山を穿孔掘削する」作業機であることは技術常識であるから、甲1発明の「ドリルジャンボ」及び「油圧削岩機」は、いずれも、本件訂正発明1の「穿孔掘削機」に相当する。
イ 甲1発明は、「削孔データの採取機構」が「油圧削岩機の打撃圧・回転圧・フィード圧の各油圧を圧力センサーにより測定し、また削孔長を求めるためにフィードシリンダー中を流れる作動油の流量を常にモニターし、ガイドシェルとドリフタ間の相対位置を決定し」、「測定データ」を「ドリルジャンボに搭載したデータロガーにより記録」する「完全自動型」のデータ採取機構として構築され、得られた「削孔データ」のうち「前方探査およびロックボルト孔削孔」には「各々に空間座標」が「付与」され、「ロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)空間分布を示す」「三次元コンター」や「油圧削岩機による切羽前方探査結果」が「三次元の立体図」として表示可能とされるものである。すなわち、甲1発明は、「削孔データの採取機構」によって、「削孔データ(削孔エネルギー)」の空間分布を示すための、「油圧削岩機」の「各油圧」の測定値や空間分布に関するデータを「完全自動型」で取得するものである。
そして、甲1発明が削孔エネルギーの「空間分布」を表示するためには「穿孔角度」が必要であるから、甲1発明が、本件訂正発明1における「穿孔掘削機」に設けられた「穿孔角度センサー」に相当する構成を有しており、これにより得た「穿孔角度」にも基づいて、空間分布を表示するための「穿孔位置」に関するデータを取得するようにしていることは自明である。
甲1発明の「削孔エネルギー」は、「一定体積の岩盤を破砕するために要した油圧エネルギーである削孔エネルギー」であり、「削孔エネルギー」の算定に必要な「破砕した岩盤の体積」や「油圧エネルギー」は、「データ採取機構」が取得する「圧力センサー」の測定値や「削孔長」に基づいて取得できるものであるから、甲1発明の「削孔データの採取機構」によって取得される「削孔データ」は、本件訂正発明1の「穿孔データ取得システム」によって取得される「穿孔エネルギー値の機械データ」に相当するといえる。
甲1発明において「削孔データ」が「ドリルジャンボ(油圧削岩機)」で「地山を穿孔掘削するとともに」取得されることは自明である。
そうすると、甲1発明の「削孔データの採取機構」が、「ロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)空間分布」等が「三次元コンター」等として表示可能となるような「油圧削岩機の打撃圧・回転圧・フィード圧の各油圧」や「削孔長を求めるため」のデータを「完全自動型」で取得することは、本件訂正発明1の「穿孔掘削機で地山を穿孔掘削するとともに、前記穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システムによって穿孔位置データと前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データを自動的に取得し、」に相当するといえる。
ウ 甲1発明が、「切羽前方探査結果とともに既施工区間のロックボルト孔削孔データも表示し、両者を比較できるようにしたもの(図-7)」から、「切羽前方探査の削孔エネルギーが約3mサイクルでリズミカルに変動することから、ブロック状の砂岩と砂岩周辺の破砕を受けた粘板岩が交互に現れる互層を予想し」たことは、「切羽前方探査結果」の結果を表示、分析する際に、「位置データ」も用いていることは明らかであるから、本件訂正発明1の「前記穿孔位置データと前記機械データから切羽前方地山の状況を予測し、」に相当するといえる。
エ 甲1発明が、「切羽前方探査結果とともに既施工区間のロックボルト孔削孔データも表示し、両者を比較できるようにしたもの(図-7)」から、「切羽前方探査の削孔エネルギーが約3mサイクルでリズミカルに変動することから、ブロック状の砂岩と砂岩周辺の破砕を受けた粘板岩が交互に現れる互層を予想し」、また、「直近の既施工区間も同様の地質状況であり、また既施工区間の削孔エネルギーもほぼ同レベルの値を示すことから、少なくとも今後25m区間はこれまでとおおむね同じ地層状況が続くものと判断」していることは、本件訂正発明1の「前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる切羽前方地山状況の予測に反映させ、」に相当するといえる。
オ 甲1発明は、実現場における「ロックボルト孔削孔データによる周辺地山評価」について、「STA.11+1.0断面におけるロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)の断面コンター(図-4)」を示し、当該断面コンターから、「坑壁近傍から天端よりやや左の地山内にかけて削孔エネルギーの小さい領域が広がっていて、この岩盤強度低下領域は、掘削によるゆるみが生じた領域である」、「天端右肩および左側壁付近には、直径1m~2mで局所的に岩盤強度の高い領域が存在し、周辺の地質状況から判断すると、石灰岩または砂岩の硬質ブロックが分布する」と「評価」している。さらに、「トンネル前半の120m区間におけるロックボルト孔削孔データ(削孔エネルギー)空間分布を示す三次元コンター(図-6)」を示し、当該三次元コンターから「切羽観察によると、STA.11+00付近までは破砕を受けた粘板岩中に砂岩や石灰岩の硬質ブロックが点在する地層状況であり、以降は比較的硬質な砂岩・粘板岩互層であったところ、図-6をみると、STA.11+00付近を境に削孔エネルギーの低い区間とそれ以降の高い区間に明瞭に区分でき、また前半においては、軟質な岩盤中に硬質な部分がブロック状に点在する状況が表現されており、切羽で確認された地質状況が削孔エネルギー分布にも明瞭に示されている」としている。
以上を踏まえると、甲1発明は、「ロックボルト孔削孔データの空間分布」を「断面コンター」や「三次元コンター」として「示す」ことにより「トンネル壁面近傍地山の性状を評価」するものであるといえる。
そして、甲1発明が、「ロックボルト孔削孔データの空間分布」を「断面コンター」や「三次元コンター」として表示する際に「穿孔位置データとロックボルト施工における穿孔データ」を用いていることは自明である。
また、甲1発明の「削孔検層システム」は、「前方探査データについて、油圧削岩機による切羽前方探査結果は三次元の立体図として表示可能とし、複数孔で前方探査を実施することで地質構造を視覚的に評価できる」ものであるところ、前方探査データによって表示される三次元の立体図が、「3次元コンピュータグラフィックス処理を行う」ことにより表示可能に取得される「切羽前方地山」の三次元の立体図であることは自明である。
そうすると、本件訂正発明1の「前記ロックボルト施工における穿孔データと前記前方探査の穿孔データを合わせる3次元コンピュータグラフィックス処理を行うことにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を全体で評価する」ことと甲1発明の「ロックボルト孔削孔データの空間分布」を「断面コンター」や「三次元コンター」として「示す」ことにより「トンネル壁面近傍地山の性状を評価」すること及び「前方探査データについて、油圧削岩機による切羽前方探査結果は三次元の立体図として表示可能とし、複数孔で前方探査を実施することで地質構造を視覚的に評価できる」ものであることとは、「前記ロックボルト施工における穿孔データと前記前方探査の穿孔データを、3次元コンピュータグラフィックス処理を行うことにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を評価する」ことで共通する。
カ 甲1発明が「横軸の距離程に対して、縦軸に削孔エネルギー平均値とともに切羽評価点や水平内空変位の天端沈下などが示された図(図-10)」を描画するにあたり、「削孔データ」のうちの「削孔エネルギー」のデータとともにどの距離程に施工されたものであるかを示す「位置データ」を用いていることは明らかである。そうすると、甲1発明が「削孔エネルギー平均値」と「切羽評価点」と「水平内空変位の天端沈下」をともに一つの図として表したことは、本件訂正発明1の「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、」に相当するといえる。
キ 甲1発明の「削孔検層システムを用いたトンネル全長にわたる地山評価」は、本件訂正発明1の「トンネル地山探査方法」に相当する。
ク そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「穿孔掘削機で地山を穿孔掘削するとともに、前記穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システムによって穿孔位置データと前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データを自動的に取得し、
前記穿孔位置データと前記機械データから切羽前方地山の状況を予測し、
前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる切羽前方地山全体の状況の予測に反映させ、
前記ロックボルト施工における穿孔データと前記前方探査の穿孔データを、3次元コンピュータグラフィックス処理を行うことにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を評価し、
前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析する、
トンネル地山探査方法。」
(相違点1)
本件訂正発明1は、前記ロックボルト施工における穿孔データと前記前方探査の穿孔データを「合わせる」3次元コンピュータグラフィックス処理を行い、それにより、トンネル周辺地山と切羽前方地山を「全体で」評価するのに対して、甲1発明は、本件訂正発明1のように特定されていない点。
(相違点2)
本件訂正発明1は、(前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析した)「その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」のに対し、甲1発明は、「前記機械データによるトンネル変位量予測」を行うものではなく、したがって、「その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」ものでもない点。
(2)判断
ア 事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
(ア)甲2には、位置情報を持った穿孔データにより地山状況を評価することが記載されているが、穿孔データによるトンネル変位量予測について記載も示唆もされておらず、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」ことについて記載も示唆もされていない。
(イ)甲第3号証、甲第4号証は、摘記は省略するが、甲2とともに削孔位置情報や穿孔情報を容易かつ正確に取得可能な穿孔掘削機が山岳トンネルの技術分野において周知技術であることを示す文献であり、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」について記載も示唆もされていない。
(ウ)甲第5号証及び甲第6号証は、摘記は省略するが、削孔データに対して3次元コンピュータグラフィックス処理を施すことがトンネル地山探査の技術分野において周知慣用の事項であることを示すために提示された文献であり、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」ことについて記載も示唆もされていない。
(エ)申立人が意見書とともに提出した甲第7号証は、甲1と略同様の内容であって、削孔データによるトンネル変位量予測については記載も示唆もされておらず、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」ことについて記載も示唆もされていない。
(オ)(ア)ないし(エ)で検討したように、甲第2号証ないし甲第7号証のいずれにも、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」ことは記載されておらず、甲1発明において相違点2に係る構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の意見
ア 申立人の意見の概要
申立人は、令和4年1月13日に提出した意見書において、上記相違点2に関し、概略以下の主張をする。(意見書第1ページ第3行~第2頁第25行)
「トンネル変位量」は、トンネルの施工管理や支保選定において欠くことのできない重要かつ基本的な指標の一つであり、また、トンネル変位量の大小が地質と相関することは本件明細書段落【0023】の記載からも明らかなようにトンネル分野における技術常識である。一方、削孔エネルギーは地山の硬軟を表すと考えられ、さらに、甲第1号証・図-10においても、削孔エネルギーと地山状況(地質とトンネル変位量)との間に相関関係がある様子を看取できるから、トンネル変位量の予測に関する考察が甲第1号証に具体的に記載されていないとしても、削孔位置データ、削孔エネルギーの計測結果、地質情報、トンネル変位量の相関関係を分析し、その分析結果を前方探査時の削孔エネルギーによる地山状況(地質とトンネル変位量)の予測に反映させることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮に過ぎない。「削孔エネルギーが大きい地山は、地質が硬質でトンネル変位量が小さくなる傾向にある」、「削孔エネルギーが小さい地山は、地質が軟質でトンネル変位量が大きくなる傾向にある」という事実(分析結果)は、当業者にとって自明の事実であり、甲第1号証に実質的に記載されていると言えるから、これを削孔エネルギーによる地山状況(地質とトンネル変位量)の予測に反映させることは、単なる設計事項に過ぎない。
イ 申立人の意見の検討
(ア)甲1発明は、前方地山の予測については、図-7(STA.11+66において実施した切羽前方探査結果であって、削孔エネルギーを縦断方向にグラフ化し、切羽前方探査結果とともに既施工区間のロックボルト孔削孔データも表示し、両者を比較できるようにしたもの)の分析において、「切羽前方探査の削孔エネルギーが約3mサイクルでリズミカルに変動することから、ブロック状の砂岩と砂岩周辺の破砕を受けた粘板岩が交互に現れる互層を予想し、直近の既施工区間も同様の地質状況であり、また既施工区間の削孔エネルギーもほぼ同レベルの値を示すことから、少なくとも今後25m区間はこれまでとおおむね同じ地層状況が続くものと判断し」たと「削孔エネルギー」によって「地質(地層状況)」を予測したもので、「トンネル変位量」を予測したものではない。
また、申立人が主張するように「削孔エネルギー」に基づいて地山の硬軟等の「地質」を予測することが仮にトンネル施工の技術分野における周知技術であるとしても、「削孔エネルギー」に基づいて「トンネル変位量」を予測することは、上記(2)で検討したように、甲1発明にも、甲第2号証ないし甲第7号証のいずれにも記載も示唆も無く、周知の技術であると認めるに足りる証拠はない。
そうすると、当業者が「削孔エネルギー」に基づいて「トンネル変位量」を予測することを容易に想到し得たとはいえない。
(イ)申立人は、トンネル変位量の大小が地質と相関することは本件明細書の段落【0023】の記載からも明らかなようにトンネル分野における技術常識である旨主張する。しかし、「トンネル変位量」は、地質の硬軟以外にも、発破等のトンネル工事の状況やその他の要因によっても影響を受けるものと考えられる。
例えば、甲1発明は、削孔検層によって得られた縦断方向に連続したデータを、削孔エネルギーと水平内空変位、天端沈下、切羽評価点等との関係が理解できるようにグラフにしており(図-10)、距離程10+00~11+00付近の削孔エネルギーが200MJ/m3程度の範囲は、距離程12+00~19+00付近の削孔エネルギーが400MJ/m3以上の範囲よりも水平内空変位や天端沈下が大きいものとなっている。しかし、距離程11+00~12+00付近の削孔エネルギーが400MJ/m3程度の範囲においても、距離程10+00~11+00付近の削孔エネルギーが200MJ/m3程度の範囲と同様、水平内空変位や天端沈下が大きい範囲が見受けられる。
そうすると、「地質の硬軟」が「トンネル変位量」の大小を決定する一つの要素であることが技術常識であり、甲1発明において「横軸の距離程に対して、縦軸に削孔エネルギー平均値とともに切羽評価点や水平内空変位の天端沈下などが示された図(図-10)」が示されているとしても、そのことのみをもって当業者が「削孔エネルギー」に基づいて「トンネル変位量を予測する」ことが容易であると直ちにいえるものではない。
(ウ)以上検討したように、削孔エネルギー(機械データ)によってトンネル変位量を予測することは、技術常識や甲第1号証・図-10を考慮しても当業者が容易になし得たこととはいえず、「前記自動的に取得した穿孔位置データと前記機械データと地質情報及びトンネル計測結果との相関関係を分析し、その分析結果を前記機械データによるトンネル変位量予測に反映させる」ことは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
3 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1を引用するものであり、本件訂正発明1の構成をすべて含んでいるところ、上記2で検討したとおり、本件訂正発明1が、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明2も甲1発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び2は甲1発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
申立人は、本件明細書の段落【0016】には、「施工時に穿孔掘削機による穿孔作業の機械データを自動的に取得・転送・データ保存する」ことが記載されており、段落【0017】には、「地質情報・トンネル計測結果と比較することにより、この自動的に取得・転送・データ保存した穿孔作業の機械データを分析し、前方探査としての穿孔時の機械データに反映する」ことが記載されているものの、「施工時に穿孔掘削機による穿孔作業の機械データ」と「地質情報・トンネル計測結果」とを比較することのみが記載されており、「前方探査の穿孔データ」と「ロックボルト施工における穿孔データ」とを比較することは何ら記載されていないから、本件発明1の「前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる地山状況の予測に反映させ」という発明特定事項は、本件明細書に記載されていないと主張する。(申立書第20ページ第9行~最下行)
しかし、本件明細書の段落【0008】には、「前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる地山状況の予測に反映させ、」と記載されている。
そして、本件訂正発明1は「穿孔掘削機で地山を穿孔掘削するとともに、前記穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システムによって穿孔位置データと前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データを自動的に取得」するものであり、「前方探査の穿孔データ」及び「ロックボルト施工における穿孔データ」は、ともに、「穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システム」によって「自動的に取得」される「穿孔位置データと前記穿孔掘削機の穿孔作業時の少なくとも穿孔エネルギー値の機械データ」であって比較可能なものと認められるから、本件訂正発明1の「前方探査の穿孔データとロックボルト施工における穿孔データとを比較して、前記前方探査の穿孔データによる地山状況の予測に反映させ」という発明特定事項は、本件明細書に記載されている。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2も同様である。
2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
申立人は、本件発明1は、「穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサー」により穿孔位置データを取得するものである。そして、本件発明1の「穿孔位置データ」は、例えば三次元グラフィックス処理に用いられると解され、少なくとも空間座標(三次元座標)を含む必要があるところ、穿孔角度センサーから得られる情報(穿孔掘削機それ自体、あるいは穿孔掘削機のブームやアームの方向)だけでは、通常は空間座標を特定できないから、発明特定事項が不足している。したがって、本件特許発明は明確ではないと主張する。(申立書第21ページ第2~9行)
しかし、本件訂正発明1は、「穿孔位置データ」の取得を「前記穿孔掘削機に設けた穿孔角度センサーと穿孔データ取得システムによって」行うものであり、穿孔角度センサーのみによって行うものではない。
そして、本件訂正発明1の「穿孔角度センサー」及び「穿孔データ取得システム」は、本件訂正発明1のトンネル地山探査方法に必要な「穿孔位置データ」を取得するものであるから、発明特定事項が不足している等の事情は無く、本件訂正発明1は明確である。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2も同様である。
3 特許法第36条第4項第1号について
申立人は、本件発明1の「穿孔位置データ」との記載は、例えば三次元グラフィックス処理に用いられると解され、少なくとも空間座標(三次元座標)を含む必要がある。しかし、発明の詳細な説明を見ても、穿孔角度センサーを使用することのみが記載されており、穿孔角度センサーからどのように穿孔位置データ(空間座標)を特定しているのかについて当業者が実施できる程度に具体的に開示されていない、と主張する。(申立書第21ページ第10~15行)
しかし、本件明細書の段落【0019】には、「このとき、穿孔角度センサー2、穿孔データ取得システムをドリルジャンボなどの穿孔掘削機1に設けておき、穿孔作業時の穿孔位置データと機械データを施工中に完全自動取得する。」と記載されている。すなわち、「穿孔位置データ」が「穿孔角度センサー2、穿孔データ取得システム」によって取得されることが記載されている。
そして、位置情報の取得は例を挙げるまでもなく周知の技術であり、本件訂正発明1に接した当業者であれば、「穿孔掘削機1」に設ける「穿孔角度センサー2」及び「穿孔データ取得システム」を適宜構成して、本件訂正発明1のトンネル地山探査方法に必要な「穿孔位置データ」を取得するものとすることができる。
よって、本件明細書は、本件訂正発明1を実施できる程度に記載されている。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2も同様である。
第8 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件訂正発明1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700709