2021-005728
ラパマイシン誘導体の精製
- 審判番号
- 2021-005728
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-041615外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年05月06日
- 審決日
- 2022年11月14日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】バイオセンサーズ インターナショナル グループ、リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人浅村特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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本願は、2014年(平成26年)3月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2013年3月15日 (US)米国)を国際出願日とする出願の一部を平成31年3月7日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
同年 同月17日 :手続補正書の提出
同年 9月24日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月17日 :手続補正書(方式)(審判請求書の補正書)の提出
第2 本願発明について
本願の請求項1~4に係る発明は、令和2年9月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】結晶性40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシンを含む薬物コーティングを有する医療機器であって、該結晶性40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシンのX線粉末回折パターンが、5.00°、7.06°、9.22°、10.07°、10.50°、11.94°、12.71°、13.15°、14.73°、16.33°、16.80°、17.07°、18.01°、18.57°、19.42°、19.81°、20.16°、20.44°、20.93°、21.55°、22.29°、22.58°、23.92°、24.26°、24.83°、25.17°、26.32°、27.48°、28.60°及び32.28°からなる群から選択される角度(2θ)で、10個以上の回折ピークを示す、上記医療機器。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1~4に係る発明は、その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1又は2に記載された発明及び引用文献3~5の記載事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1.CHRISTIANSEN, E. H. et al., Lancet, 2013, Vol. 381, p.661-669
2.米国特許出願公開第2010/0055145号明細書
3.LEVY, Y. et al., Langmuir, 2012, Vol. 28, p.6207-6210
4.FARAH, S. et al., International Journal of Pharmaceutics, 2013, Vol. 445, p.20-28
5.特開2005-281296号公報
第4 当審の判断
当審は、本願発明は、以下の刊行物1に記載された発明、刊行物14及び15に記載された事項並びにこの出願の優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
理由は以下のとおりである。
1 刊行物
なお、刊行物2~13は、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。
2 刊行物に記載された事項(「・・・」は記載の省略を表し、英文の場合、訳文にて示す。)
(1) 刊行物1
(1a) 「請求の範囲
1.経皮的冠動脈介入のステント留置(STPCI)の方法であって、金属むき出しのステントが血管閉塞の部位に配置されるSTPCI方法において観察されるものと比較して、遅発性再狭窄の程度を有意に抑制することの達成に効果的であり、4年までのステント血栓症の同時増加を伴わない、次に示すステント留置方法。
ベースライン狭窄が50%以上、左主閉塞が50%以下、及び少なくとも30%の左心室駆出率(LVEF)のいずれかの冠状動脈閉塞状態の個体に対する方法として選択されたものであり、
血管閉塞部位へのステントの注入にあたり、金属体の外側表面が生分解性ポリマーコーティングの接着性を高めるように処理され、そして、ポリ乳酸(PLA)ポリマーに大環状トリエンの抗再狭窄薬を少なくとも40重量%含むように処方された薬物/ポリマーコーティングで外部表面が処理されている薬物溶出ステントであって、6~12か月間にわたってステント本体から薬物及びコーティングの両方が完全に放出されるように処理された外表面コーティングの厚さのものである。
・・・
3.リムス薬物は、ラパマイシン、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムスA9、ノボリムス、RAPALOG#AP23573からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
4.リムス薬物が、バイオリムスA9である請求項3に記載の方法。」
(1b) 「[0001] 本発明の装置及び方法は、遅発性ステント血栓症を低減するためのものであって、薬物溶出ステント及びコーティングに関するものである。」
(1c) 「[0129] 2. 薬物
[0130] 薬物は、好ましくはマクロライドトリエンラクトン又は「リムス」薬物、すなわち、ラパマイシン又はその誘導体などである。このような誘導体は、シロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、ノボリムス、タクロリムス、ABT 578(Abbott Pharmaceuticals)、Rapalog#AP23573(Ariad Pharmaceuticals)、バイオリムスA9(Biosensors International)、及び抗細胞増殖活性、抗再狭窄活性、及び/又は抗血栓活性を有する他の化学的に関連する化合物が含まれるが、これらに限定されるものではない。
[0131] 薬物/ポリマーマトリックスの調製に使用するための例示的なリムス薬物は、バイオリムスA9(CAS-851536-75-9)であって、これは、「バイオリムス」、「バイオリムス薬物」又は「BA-9」とも称される。
[0132] バイオリムスA9は、半合成マクロライド系トリエンラクトンであり、特徴的な31員環を含有するラパマイシンの42-O-アルコキシアルキル誘導体であり、その31員環はシロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、ノボリムス、及びAriad Pharmaceuticals のRapalog#AP23573にも存在している。特に、バイオリムスA9は高い親油性を示し、42-O位の水素をアルコキシアルキル基で置換した半合成のシロリムスの類縁体である12。バイオリムスA9は、シロリムス又はエベロリムスよりも約10倍親油性であり、7.63(pH 7.40)と推察される分配係数(log P)を有する。バイオリムスA9は、平滑筋細胞の増殖を防止するために、冠状動脈ステントからのインビボにおける放出のために開発された。
[0133] バイオリムスA9の化学構造は図3に示されている。物理的及び化学的特性の概要は、表5に示す。その薬物は、例えば、米国特許第7220755号明細書に詳細に記載されており、本明細書に援用される。
表5
バイオリムスA9の物理-化学的特性
外観 白色粉末状
分子量 986.29
分子式 C55H87NO14
分配係数(E log Poct): log Pn-octanol=7.63
逆相HPLCにより測定
立体化学 2つの各相互変換
可能な配座異性体
と互変異性体
結晶形態 非晶質
溶解性:
メタノール 非常に可溶性
エタノール 非常に可溶性
酢酸エチル 非常に可溶性
水(pH無関係) 実質的に不溶性
25%エタノール水溶液 実質的に不溶性
[0134] シロリムス及びエベロリムスのように、バイオリムスA9は組織に急速に吸収され、生きている細胞内で見つかるイムノフィリン(細胞質タンパク質)に可逆的に結合することができる。バイオリムスA9分子に存在する普遍的なラパマイシン環構造に基づくと、BA9は、細胞内のFKBP-12(ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)に結合し、それと複合体を形成するG1期からS期への平滑筋細胞の増殖といった細胞周期の移行を可逆的に阻害するもの)と複合体を形成する。バイオリムスA9は、シロリムスと類似した効力を培養物中で有し、増殖している動物及びヒトの平滑筋細胞の増殖を阻害することが示された。
[0135] バイオリムスA9は、図4に示すように2段階の工程を経て合成され、実施例3にて詳細が述べられている。プロセスの第1工程において、2-エトキシエタノールは、ジクロロメタン中のトリフルオロメタンスルホン酸無水物と2,6-ルチジンとの反応を経て、中間体(2-エトキシエタノールトリフラート)として修飾される。生成した中間体である2-エトキシエタノールトリフラートは、続いて、蒸留により精製され、市販されているラパマイシン、ジイソプロピルエチルアミン及びジクロロメタンと混合し、バイオリムスA9を得て、クロマトグラフィーにより精製し、更にメタノール-水混合溶液からの蒸発によって固化される。
[0136] ステント上にバイオリムスA9/ポリマーマトリックスをコーティングするために、ポリマー(例えば、D,L-PLA)は、適切な溶媒(例えばアセトン)に溶解され、バイオリムスA9は、ステント表面にコーティングするための溶媒中に、薬物/ポリマーマトリックスを生成するために添加される。ある実施形態では、PLAとバイオリムスA9がほぼ等しい重量(すなわち、1:1(重量/重量)で、マトリックス生成のため使用される。ステントの表面は、予めパラ-キシリレンポリマー等の接着組成物で被覆したり、洗浄したり、アルゴンや水素プラズマなどによって活性化されてもよい。ステントへの塗布と溶媒の蒸発に続いて、薄いバイオリムスA9/D,L-PLAポリマーコーティングは、ステントの長さに対して約15.6μg/mmの乾燥固形重量を有してもよい。ただし、他のコーティング量は、許容可能な結果を生成する範囲である。薬物/ポリマー層の厚さは、約3ミクロン~約30ミクロンが好ましい。」
(1d) 「[0178]・・・
実施例3
42-O-(2-エトキシルエチル)-ラパマイシン(バイオリムスA9)の調製
[0179] A.2-エトキシエタノールトリフラートの合成
[0180] 4.28gの2-エトキシエタノール(Aldrich Chemical)と160mLのCH2Cl2中に10.14gの2,6-ルチジンを含む冷却(0℃)された溶液を撹拌しながら、19.74gのトリフルオロメタンスルホン酸(トリフル酸)無水物を窒素雰囲気下でゆっくりと添加した。その混合物を200mLの食塩水で4回洗浄し、有機溶液相を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過・濃縮した。残渣は、シリカゲル、200-400メッシュ(75:25ヘキサン-エチルエーテル(v/v))のフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、2-エトキシエタノールトリフラート(淡黄色液体、TLC Rf=0.47(ヘキサン-エチルエーテル75:25(v/v)を使用))を生成した。
[0181] B.ラパマイシンと2-エトエタノールトリフラートの反応
[0182] 60℃に保持された14.65mLのトルエン中に1gのラパマイシン及び7.66gの2,6-ルチジンを含む撹拌された溶液に対して、5.81gの2-エトキシエタノールトリフラートを添加した。撹拌は90分間継続され、その後、50mLの酢酸エチルを反応液に加え、その溶液を50mLの1MのHClで洗浄した。その有機材料は、洗浄溶液のpHが中性になるまで、蒸留脱イオン水で洗浄した。その有機溶液は、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過・濃縮した。残渣は、シリカゲル、200-400メッシュ(40:60ヘキサン-酢酸エチル(v/v))のフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、42-O-(2-エトキシルエチル)-ラパマイシン(TLC Rf=0.41(ヘキサン-酢酸エチル40:60(v/v)を使用))を生成した。MS(ESI)m/z 1008.5 C55H87NNaO14。
[0183] 42-O-(2エトキシエチル)ラパマイシンの化学構造は、質量分光分析タンデム四重極装置(CAD実験、衝突活性化解離)により確認した。これらの研究は、Thermo Finniganのエレクトロスプレーイオン化源を備えたLCQ Advantage四重極イオントラップ質量分析計で実施した。メタノール中の試料の直接注入は、注射器から2.5μL/分の流速で実施した。CAD実験は、最大の信号強度を取得した後に行った。衝突ガスとしてヘリウムを用いた。衝突エネルギーは、フラグメントの全範囲を得るために、MS/MS実験にわたり調整した。フラグメントパターンは、1008.5→417.5というイオン対の存在を意味している。これらの結果は、42-O-(2エトキシエチル)ラパマイシンの化学構造と一致している。
[0184] 生成物の純度は、HPLCにより決定した。ZorbaxのSB-C18 HPLCシステムを、4.6mm ID×250mm(5μm)のカラムとともに使用した。段階的グラジエント溶媒系は、100%(10%メタノール-水)1分間、50%(10%メタノール-水)/50%メタノール1分間、25%(10%メタノール-水)/75%メタノール1分間、100%メタノールを使用した。1.0mLの流速を使用した。カラム温度は55℃であった。42-O-(2エトキシエチル)ラパマイシンの2.0μgを、容積20μLのメタノールでカラムに注入した。278nmでのUV光により検出。純度は98.7%であった(3回の実験の平均;SD=0.2)。」
(1e) 「
[図:0001395618000001.jpg]
図4」
(2) 刊行物2
(2a) 「結晶の多形現象は,医薬だけでなく,固体の物質科学の中で一般的に観測されている現象であるが,医薬品においては有効性,安全性,品質の観点から考慮すべき極めて重要な項目の一つになっている。すなわち,固体状態における結晶多形や疑似多形,結晶化度の違い,水や賦形剤との相互作用などの分子状態の差は,水や水溶液に対する溶解度や溶解速度,また,融解温度,融解熱や格子エネルギー等の物理的及び化学的諸性質に影響する。例えば,多形転移に基づく結晶成長のために,剤形破壊や適用性の低下が起こり得るし,また,分子レベルの観点から考えた場合には,結晶中の分子間,または原子間距離の違いによって,多形間で化学反応性に差異が生じ,原薬および製剤の保存等において化学的安定性が異なることも考えられる。したがって,このような医薬品研究のマテリアルサイエンスに従事する人々においては,医薬品の多形現象などの結晶物性について,熟知しておくことは当然必要なことである。
まず,医薬品における結晶多形とは何か,ということから話を進めることとする。医薬品は複雑な化学構造を持っているために,固体の医薬原薬の70%が結晶多形を示すと言われている。」(3頁9~20行)
(2b) 「原薬の塩・結晶形は,溶解度,固体安定性,分散性,固液分離特性(精製効率)などに大きく影響する。特に経口薬では,その溶解性がバイオアベイラビリティーに影響を及ぼす事から,医薬品の開発研究において極めて重要な検討項目の一つである。」(14頁下から6~4行)
(3) 刊行物3
(3a) 「1.医薬品の結晶
固体医薬品の大部分は結晶であり,X線による回折を示す.結晶は構成要素である原子あるいは分子の空間における結合の形式によって,イオン結晶,金属結晶,共有結合結晶,分子性結晶に分類される.医薬品は有機化合物が多く分子性結晶としての性質をもつ.
結晶薬品を考えるとき2つの立場がある.その第1は結晶自身について考える立場であって結晶構造,結晶多形および結晶性などの問題があり,第2は結晶粒子の集合体を取り扱う領域で,散剤や錠剤などの製造上の問題が含まれる.第1の領域はX線結晶学 X-ray crystallography として,第2の領域は粉体工学 micromeritics として他領域においても広く取り扱われている.
結晶自身についてはつぎに述べるように,多形 polymorphism と結晶性の問題がある.」(102頁2~13行)
(3b) 「2.多形
多形とは同じ化学組成をもちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象またはその現象を示すものをいう.すなわち結晶中の原子あるいは分子の空間的な配列の違いによって多形がおこるので,融解したり溶解した場合には区別はできない.
多形を示す物質としては無機物では炭素(graphite と diamond),炭酸カルシウム(calcite と aragonite)など多くのものが知られている.医薬品では酢酸コルチゾン,プロゲステロン,プレドニゾロン,バルビタール,フェノバルビタールなどがあり,とくに最近では多くの薬品に多形の存在が見出されている.
多形は結晶中での分子や原子の配列が異なるので,その存在はX線回折法,密度測定法,偏光顕微鏡法,赤外吸収スペクトル法により知ることができる.また熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形はそれぞれの融点や溶解度をもつ.ある薬品に多形があるとき,一般に融点の高い方が安定形であり溶解度は低い.融点の低い方の準安定形は安定形よりも高い溶解度をもっているが実際には測定中に安定形結晶が生じ易く,このときは溶解度は安定形結晶によって決められて準安定形の溶解度は得られない.
・・・
製剤上で多形が問題となるのは,それによって異なる溶解速度が与えられるからである.パルミチン酸クロラムフェニコールの例のように安定形と準安定形との間に著しい溶解速度に差がみられる.パルミチン酸クロラムフェニコールの安定形の結晶は非常にとけにくく製剤の原料として使用することはできない.」(102頁14行~103頁22行)
(4) 刊行物4
(4a) 「1.2.4 結晶多形
薬物には,2つ以上の結晶形を有するものが多く,無晶形をも含めて結晶形が異なると,溶解速度,融点,密度,硬さ,結晶形状,光学的および電気的性質,蒸気圧,安定性などの物性が異なってくることが知られている。結晶多形に関しては,幾多の文献に報告されており,とくに溶解速度が異なることによるバイオアベイラビリティに差のある例として,クロラムフェニコールパルミテートが有名である2)。
薬物に結晶多形が存在するかどうかを検知することは,Preformulationのこの段階における重要な課題である。存在の有無を検出するための簡便な方法のいくつかを以下に紹介する。」(12頁18~25行)
(4b) 「(1)溶融法
少量の薬物をスライドグラス上で完全に溶融し,自然冷却中に結晶転移が起これば,少なくとも2つ以上の結晶形が存在する可能性がある。ホットステージで検体を加熱し,加熱中に固体から固体への転移が起こるかどうかを観察する(ホットステージ法)。」(12頁26行~13頁1行)
(4c) 「(2)昇華法
少量の薬物を昇華させ,ついで昇華物のもとの検体と,いずれか一方の飽和溶液1滴中で混和することにより,転移を起こさせる。もとの薬物結晶形と昇華物結晶形とが多形である場合には,より安定な方がより溶解しにくく,より溶解しやすい安定性の悪い結晶形を犠牲にして成長する。このプロセスは,安定性の比較的悪い結晶形が,完全に安定な結晶形に転移し終るまで継続する。多形が無い場合には,片方は溶解するが,もう一方は成長しない。両者が同じ結晶形なら何も起こらない。
結晶多形が存在することがわかれば,異なった多形結晶を同定し,分離するための方法が必要になってくる。以下にいくつかの方法をあげたが,単独で用いるよりも,2つ以上の方法を併用することがすすめられる。
○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)顕微鏡法(ホットステージ法を含む)
○2 赤外吸収スペクトル
○3 粉末X線回折
○4 熱分析(差動走査熱量計による)
○5 体積膨張測定(Dilatometry)
方法の詳細はしかるべき成書にゆずって,ここには割愛することとする。」(13頁2~17行)
(5) 刊行物5
(5a) 「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質を保ち,安全性が確保されることが強く要求されている.したがって,ICH(International Conference on Harmonisation of Thechnical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use:日米EU医薬品規制調和国際会議)のガイドラインなどで結晶多形・溶媒和物の取り扱いに関するディシジョンツリーが提示されている.
医薬品の結晶化は通常,溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし1,2),医薬品の品質を保証することが重要である3).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(57頁3行~58頁末行)
(5b) 「4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相関はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある4,5).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられている Furosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである4).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表4.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(59頁2行~60頁末行)
(5c) 「
[図:0001395618000002.jpg]
[図:0001395618000003.jpg]
」(59~60頁表4.1)
(6) 刊行物6
(6a) 「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のRf値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には,蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい1).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値EΤ;ε,δ,EΤは数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行~186頁末行)
(6b) 「
[図:0001395618000004.jpg]
」(186頁)
(7) 刊行物7
(7a) 「再結晶 [英 recrystallization・・・][1]結晶性物質を溶媒に溶解し,適当な方法でふたたび結晶として析出させる操作をいう.そのためには,温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却するとか,溶媒を蒸発させて濃縮するとか,溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させるなどの方法が取られる.共存する不純物は多くの場合溶液中に残るので,精製の方法としてよく使われる.」(504頁右欄43~51行)
(8) 刊行物8
(8a) 「おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ(原文はさんずいに戸)過性・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.」(178頁左欄22~27行)
(8b) 「(iv)多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶が擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.」(178頁右欄3~7行)
(8c) 「晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・
(ii)貧溶媒晶析 目的物質の溶液に,その溶媒とは容易に混合しあうが目的物質との親和性は低い溶媒(貧溶媒)を添加する,あるいはその逆の操作で結晶を析出させるものであり,医薬品中間体などの製造に多用される.」(178頁右欄25~35行)
(9) 刊行物9
(9a) 「【請求項1】 結晶状態の下記式
【化1】
[図:0001395618000005.jpg]
で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。
【請求項2】 非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°~+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」
(9b) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドの結晶形、その製造方法及び薬品におけるその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】
【化2】
[図:0001395618000006.jpg]
【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(9c) 「【0007】
【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。
【0008】
【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」
(10) 刊行物10
(10a) 「【請求項1】 L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を水溶媒下で結晶化させることを特徴とする結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法。」
(10b) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、化粧品、食品および動物飼料などに有用なL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶(以下、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩と称する。)の製造法に関する。
【0002】
【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。 L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶化の例としては、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の水溶液にメタノールを加え、得られた沈澱物を水-メタノールから再結晶する方法[ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、17、381(1969)およびケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、30、1024(1982)]、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を含有する水溶液にアルコール類またはアセトンなどを添加して該結晶を得る方法(特開昭59-51293号)が知られているが、これらの方法は結晶の純度、安定性、結晶化の簡便性などの点で十分とは言えない。」
(10c) 「【0023】・・・
実施例1
非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩20gに1リットルの水を加え2W/V%とし、50~60℃に加温溶解した。得られた溶液をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮し、80mlの溶液を得た。得られた溶液のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の濃度[析出したAPMgと水に溶けているAPMgの合計重量(g)/水の体積(ml)]×100(%)は25W/V%であった。その後、室温まで冷却し、結晶を析出させて目的の結晶を得た。得られた結晶についてDSCチャートにより確認した結果、全て結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩であることが判明した。
・・・
【0028】試験例1
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について密閉容器中、60℃下での残存率を測定し、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較することによりその安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
[図:0001395618000007.jpg]
【0030】表1から明らかなように、本発明による結晶は優れた安定性を有する。」
(11) 刊行物11
(11a) 「1 親水性溶媒と水からなる含水溶媒中で、アンピシリンまたはその塩類、シリル誘導体に、水酸化ナトリウムまたはナトリウム塩を作用させてアンピシリンナトリウム塩を生成させ、含水溶媒系から晶出させることを特徴とするアンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法。」(4頁、特許請求の範囲)
(11b) 「本発明は、アンピシリンナトリウム塩の製造法に関するものである。
半合成ペニシリンの1つであるアンピシリンは、グラム陽性およびグラム陰性菌によつて引き起される種々の感染症に対して有効であるため、広く繁用されている。現在アンピシリンは、一般に遊離型とナトリウム塩が用いられている。このうち遊離型のものには、結晶形の無水物(特公昭41-8349)およびトリハイドレート(米国特許3157640)があり、これらはその無晶形のものに比し、安定であることが知られているが、ナトリウム塩の結晶性と安定性については充分研究されていない。」(1頁1欄27行~2欄2行)
(11c) 「本発明方法によればアンピシリンナトリウム塩は、安定な結晶形(I型と称する)として得ることができる。このI型結晶は、たとえばアンピシリンナトリウム塩の水溶液を凍結乾燥して得られる無晶型のものと比較すると、たとえば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率および吸湿平衡は、第4図および第5図に示すごとく、I型結晶が顕著にすぐれている・・・。」(2頁3欄31~40行)
(11d) 「
[図:0001395618000008.jpg]
」(7頁、第4図)
(11e) 「
[図:0001395618000009.jpg]
」(7頁、第5図)
(12) 刊行物12
(12a) 「1.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-3-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレ-トであるセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水相物または3水和物。
2.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートであるセフアロスポリン誘導体の無定形物を、水性有機溶媒に溶解し、得られる溶液を有機溶媒に加え、もしくは冷却し、次いで必要に応じて乾燥することを特徴とするセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水和物または3水和物の製造法。」(1頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(12b) 「〈背景技術〉
7-位に2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド基を有するセフアロスポリン誘導体が、強力な抗菌活性を有する抗生物質として知られている。
例えば、下記式
[図:0001395618000010.jpg]
で表される(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートは、ベタイン構造を有し、各種のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有するセフアロスポリン誘導体(特開昭59-239292号公報)である。
これらのセフアロスポリン誘導体は、分子中に有するβ-ラクタム環の加水分解が起り易く、通常化学的に不安定である。」(2頁左上欄14行~右上欄下から4行)
(12c) 「したがつて、かかるセフアロスポリン誘導体を医薬として用いる場合、安定な形態で使用することが非常に重要である。
〈発明の開示〉
本発明の目的は、(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド)-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたはその誘導体の安定化された結晶性化合物を提供することにある。」(2頁右上欄下から3行~左下欄8行)
(12d) 「(2) 3水和物,1水和物,0.5水和物,無水物を褐色バイアルに熔封後85℃で保存し、高速液体クロマドグラフイーで分析した。結果を下表に示す。(残存率,%)
[図:0001395618000011.jpg]
」(8頁右上欄下から4行~左下欄)
(13) 刊行物13
(13a) 「【請求項1】 粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの結晶。
【請求項2】 (+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの良溶媒溶液に、該良溶媒と混和性の貧溶媒を添加、撹拌し、30℃以下に冷却して、粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルの結晶を得ることを特徴とする該結晶の製造方法。
【請求項3】 請求項1記載の結晶を含有することを特徴とする抗菌剤。」
(13b) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は医薬用の抗菌化合物として有用なペネム化合物の結晶およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術および課題】特開昭62-263183号には、ある種の2-ピリジル-ペネム化合物が開示されており、そのうち、特に、式:
【化1】
[図:0001395618000012.jpg]
で表される(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルは、特に、経口投与によりグラム陰性菌のみならずグラム陽性菌にも優れた抗菌活性を有する有用なペネム化合物であり、その実用化が検討されている。しかし、該ペネム化合物は、優れた抗菌活性を示す一方、これまで無晶形でしか得られておらず、この無晶形の固体は安定性が不十分で、通常の条件下で長時間保存すると変色し、製剤化に際し、有効成分の含量低下を来す問題がある。また、無晶形の固体を実質的に純粋なものとするには、煩雑な精製工程を要する問題がある。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決するために、優れた抗菌活性を示す該ペネム化合物を保存安定性の良い形状として得るべく鋭意検討の結果、該ペネム化合物が安定な結晶として得られること、結晶化により容易に精製できること、さらに、結晶の残留溶媒の面から、医薬として有利な水-エタノール系より結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(13c) 「【0010】実施例1
前記参考例で得られた(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アサビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの無晶形の粉末19.5gをエタノール98ミリリットルに溶解した。この溶液を31℃に加温し、32℃に加温した水146ミリリットルを加え、活性炭(白サギP、武田薬品工業(株)製)0.98gを加えて10分間撹拌した。ついで、活性炭を濾去し、エタノール20ミリリットルと水29ミリリットルの混液で洗浄した。濾液を25~30℃で1時間撹拌した後、10℃で冷却し、さらに1時間撹拌した。晶出した結晶を濾取し、エタノール20ミリリットルと水39ミリリットルの混液および水120ミリリットルで順次洗浄し、減圧下35℃で約5時間乾燥すると白色の粉末として該エステルの結晶16.6gが得られた。融点:95~96℃
・・・
【0014】実験例
本発明の方法で製造したエステルの結晶形粉末および参考例により製造した無晶形粉末のそれぞれを60℃の温度で密栓容器中暗所に保存し、残存率を調べた。
[図:0001395618000013.jpg]
」
(14) 刊行物14
(14a) 「温度誘起プロセスを使用したステント上におけるラパマイシンの表面結晶化」(6207頁タイトル)
(14b) 「一般に、結晶性薬物の溶解速度は、その非晶質形態とはかなり異なる11。これは、薬物放出プロファイルを制御するために使用できる重要な特徴である。結晶化された薬物の化学的安定性は、非晶質相の薬物が準安定状態(高エネルギーレベル)にあるため、非晶質形態よりも優れている12,13。」(6207頁左欄21~26行)
(14c) 「インビトロにおける放出は生理学的条件で行われ、得られた結晶性コーティングは、最小限の突発放出で、数週間にわたって徐々に薬物を放出しているが、非晶質のラパマイシンは48時間未満で完全に溶出したことが観察された(図4)。」(6209頁左欄下から10~5行)
(14d) 「
[図:0001395618000014.jpg]
図4. 結晶(□)及び非晶質(■)ラパマイシンコーティングの累積薬物放出プロファイル」(6209頁)
(14e) 「結論
ラパマイシンで金属ステントをコーティングするための新しい表面付着制御放出結晶化方法論が発展された。プロセスの制御性により、種々の形態、物理的状態、及び厚さの形成が可能であり、幅広い結晶化システムの研究に非常に有用である。」(6209頁左欄下から4行~右欄3行)
(15) 刊行物15
(15a) 「ステントへのラパマイシンの結晶コーティング:プロセス開発と特性評価」(20頁タイトル)
(15b) 「これを考慮して、現在の貢献の目的は、金属ステントへのラパマイシン(RM)のコーティングのために、新規な表面結晶化手法を発展させることである。結晶化の物理化学的原理と重要なプロセスパラメーターは、ステントの支持体への制御可能で均一な結晶性コーティングを作製するために広く研究された。」(20頁要約4~7行)
(15c) 「3.5. インビトロでのステントからのRM放出
150μgまでのRMを充填した市販されているCypherステントと比較して、プロセスIによって得られた100μgまでのRMを充填した開発したRM結晶化ステント、100μgまでのRMを充填した非晶質ステントに関して、放出研究を行った。Cypherステントにおいて、RMは、2つの非侵食性ポリマー(ポリエチレン-酢酸ビニル共重合体(PEVA)及びポリn-ブチルメタクリレート(PBMA))及びパリレンCでコーティングされたステントに組み込まれる。水、PBS及びNSIP中でのRMの飽和溶解度を特定の温度で決定した。25℃における、水、PBS及びNSIP中のRMの溶解度は、それぞれ、2.97、13.35及び44.76μg/mlであることが見出されたが、37℃では、それぞれ4.97、40.42及び45.60μg/mlであった。
放出研究を、37℃のPBS中で90日間、各タイプから3つのステントで行った。約60μgのRMが、放出期間を通して絶えず放出され、これは、120μgまでのRMがこの期間中に放出されたCypherステントと比較して有意に遅くなった。特に最初の数日間の有意に速い放出が、非晶質RMコーティングステントについて見出された(図6)。非晶質コーティングは、RMのエタノール溶液のスプレーコーティングによって調製され、結果として、ほとんど非晶質の薬物層となるが、乾燥時及び放出プロセスにおいて、ある程度の量のRM結晶化が生じることに留意すべきである。この形成された結晶相は、非晶質コーティングからの最初の数日の急激な放出(図6)の後、RMの遅い放出を説明する。放出の30及び90日後に実施した質量分析(ステント上に残った薬物を溶解・分析)は、薬物のほぼ完全な回収を示しており、結晶質(30日-100.00%、90日-89.59%)、非晶質(30日-99.00%、90日-96.00%)及びCypher(30日-96.77%、90日-95.28%)であった。」(25頁右欄22行~26頁左欄4行)
(15d) 「
[図:0001395618000015.jpg]
図6 薬物充填の割合(%)に基づいて計算した累積ラパマイシン放出量。結晶化コーティングステント(15mm, ~100μgRM充填)、非晶質コーティングステント(15mm, 70mm2~100μgRM)及びCypherステント(18mm,~85mm2, 150μgRM)は、2mlのPBS(pH7.4, 37℃, n=3)に入れた。放出データは、薬物量と表面積で正規化した。」(26頁)
(15e) 「4.結論
金属ステントに対するキャリアフリーDES(薬物溶出ステント)を製造するための新規な表面結晶化方法が、モデル薬物としてRMを使って開発された。定義された形態であるRM結晶と対象の薬物充填は、異なる手順により施された。種結晶工程を十分に制御された後のRMの結晶化は、このキャリアフリーDESの調製に対して最も適した工程であることが分かった。得られたRM結晶コーティングは、均一、連続的、統一的で、制御が簡便であり、高い結晶性で調製されることが分かった。RMは90日にわたり絶えず放出され、Cypherステントより2倍のゆっくりとした放出プロファイルを示している。RM結晶化のステントコーティングは、高い安定性と耐久性を示した。開発された結晶化プロセスは、広範囲の応用があり、特に、効果的な局所部位への薬物デリバリーや移植デバイスのコーティングのように、種々の他の薬物に対する更なる適用があり得るものである。」(27頁左欄下から6行~右欄9行)
3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、ステントの金属体表面にマクロライドトリエンラクトンであるリムス薬物及びポリマーマトリックスを用いてコーティング処理した薬物溶出ステントに関する特許文献であって(摘示(1a)~(1c))、当該「リムス薬物」としての「バイオリムスA9」の使用にあたり、その化合物の合成例及び特性並びに薬物溶出ステントへの具体的な適用例が記載されている(摘示(1c)~(1e))。
すなわち、摘示(1d)の実施例3において、バイオリムスA9の合成の具体例があり、摘示(1c)に、「バイオリムスA9は、図4に示すように2段階の工程を経て合成され、実施例3にて詳細が述べられ・・・プロセスの第1工程において、2-エトキシエタノールは、ジクロロメタン中のトリフルオロメタンスルホン酸無水物と2,6-ルチジンとの反応を経て、中間体(2-エトキシエタノールトリフラート)として修飾され・・・中間体である2-エトキシエタノールトリフラートは、続いて、蒸留により精製され、市販されているラパマイシン、ジイソプロピルエチルアミン及びジクロロメタンと混合し、バイオリムスA9を得て、クロマトグラフィーにより精製し、更にメタノール-水混合溶液からの蒸発によって固化され・・・ステント上にバイオリムスA9/ポリマーマトリックスをコーティングするために、ポリマー(例えば、D,L-PLA)は、適切な溶媒(例えばアセトン)に溶解され、バイオリムスA9は、ステント表面にコーティングするための溶媒中に、薬物/ポリマーマトリックスを生成するために添加される。」との記載があり、表5には、バイオリムスA9の物理化学的特性が記載され、非晶質の白色粉末であることが示されている。
したがって、以下の発明が認定できるといえる。
「非晶質の白色粉末状のバイオリムスA9及びポリマーマトリックスをステントにコーティングした薬物溶出ステント。」の発明(以下「引用発明」といい、バイオリムスA9を「引用化合物」という。)
4 対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用化合物である「バイオリムスA9」は、「リムス薬物」であって、本願発明の「40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシン」と、同じ化合物である(以下、この化合物を「化合物A」という。)。また、引用発明の薬物溶出ステントは冠動脈等に留置されるものであるから、医療機器といえ、化合物A及びポリマーマトリックスによるコーティングは化合物Aを含むコーティングであって、当該コーティングは薬物を溶出するものであるから、薬物コーティングといえる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「化合物Aを含む薬物コーティングを有する医療機器。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明においては、化合物Aについて「X線粉末回折パターンが、5.00°、7.06°、9.22°、10.07°、10.50°、11.94°、12.71°、13.15°、14.73°、16.33°、16.80°、17.07°、18.01°、18.57°、19.42°、19.81°、20.16°、20.44°、20.93°、21.55°、22.29°、22.58°、23.92°、24.26°、24.83°、25.17°、26.32°、27.48°、28.60°及び32.28°から成る群から選択される角度(2θ)で、10個以上の回折ピークを示す」、「結晶性40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシン」という、特有のX線粉末回折パターンを示す結晶であることが特定されているのに対し、引用発明においては、化合物Aをポリマーマトリックスとともにコーティングしたものであって、化合物Aは非晶質の白色粉末状であるとされている点
(2) 相違点についての検討
ア 相違点の判断の前提
「医薬化合物の結晶に関する発明の相違点の判断」については、医薬化合物を結晶化することについての強い動機付けがあることを前提に、結晶を得るための手段の困難性(溶媒や析出条件等)、得られた結晶の効果の予測性及び顕著性という観点から、本願発明において結果として得られたものを検討することが相当である。
上記前提に沿った裁判例を例示として、以下に示す。
知財高裁平成24年12月5日判決(平成23年(行ケ)第10445号)、知財高裁平成29年2月14日判決(平成28年(行ケ)10112号)、知財高裁平成30年11月21日判決(平成29年(行ケ)第10196号)
以下、上記前提に従って判断する。
イ 結晶化することについての動機付けの具体的技術背景について
上記アの前提のとおり、この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、非結晶性の物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められるところ、そのような文献を以下に示しておく。
刊行物9は、結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドに係る文献であるところ、同文献には、非結晶状態のアセトアミドは、固形薬品の製造において重大な欠点を有しており、結晶性のアセトアミドは、非結晶状態のアセトアミドと比較して、物理的安定性に優れている旨が記載されている(摘示(9a)~(9c))。
刊行物10は、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に係る文献であるところ、同文献には、非晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は、保存時において吸湿しやすく、実用面で支障が生じやすいため、安定な結晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が望ましい旨が記載されている(摘示(10a)~(10c))。
刊行物11は、アンピシリンナトリウムの製造法に係る文献であるところ、同文献には、アンピシリンナトリウムのI型結晶は、無晶型のものと比較すると、例えば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率及び吸湿平衡が顕著に優れている旨が記載されており(摘示(11a)(11c)~(11e))、アンピシリン遊離型も、結晶形の無水物及びトリハイドレートが無晶形のものに比し安定である旨が記載されている(摘示(11b))。
刊行物12は、セフアロスポリン誘導体に係る文献であるところ、同文献には、セフアロスポリン誘導体は、加水分解が起こり易く化学的に不安定であり、無定形物は85℃10日後に残存率0であるのに対し、結晶性無水物、0.5水和物、1水和物及び3水和物は残存率96.1%以上と安定である旨が記載されている(摘示(12a)~(12d))。
刊行物13は、ペネム化合物の結晶、その製造方法及び抗菌剤に係る文献であるところ、同文献には、ペネム化合物の無晶形の固体は安定性が不十分で製剤化に際し有効成分の含量低下を来す問題があり、該化合物の結晶形粉末は保存安定性が良い旨が記載されている(摘示(13a)~(13c))。
また、結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることもよく知られており、特に医薬品の開発研究においては、結晶多形の検討が重要であることが広く認識されている(摘示(2a)~(2b)(3a)~(3b)(4a)~(4c)(5a)~(5c))。
そして、化合物Aは、マクロライド系抗生物質であるラパマイシンの誘導体であって医薬用途を意図した化合物であるといえる。
さらに、ラパマイシンとラパマイシン誘導体である化合物Aは、分子構造の基本骨格が同一でかつ官能基(極性基)もほぼ同一であるだけでなく、リムス薬物として抗血栓活性等について同様に薬剤特性を発揮することが知られているところ(摘示(1c)(1e))、マクロライド系抗生物質であるラパマイシン自体を、医療機器であるステント表面のコーティングに使用した文献に関し、刊行物14及び15には、次のように記載されている。
刊行物14は、ステント上のラパマイシンの結晶化に係る文献であるところ(摘示(14a)(14e))、同文献には、結晶性薬物の溶出速度が非晶性薬物に対して、突発的ではなく、長期間徐々に溶出する点で優れていることが記載されている(摘示(14b)~(14d))。
刊行物15は、ステントへのラパマイシン(RM)の結晶コーティングに係る文献であるところ(摘示(15a)(15b))、同文献には、RM結晶化のステントコーティングは、高い安定性と耐久性を示し、RM非晶質ステントや市販のCypherステントと比較して、有意にゆっくりとした放出プロファイルが得られることが記載されている(摘示(15c)~(15e))。
そうすると、上記のとおり、医薬化合物を結晶化することには強い動機付けがあると認められるから、化合物Aについて、結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができるだけでなく、ステント等の医療機器の薬物コーティングに適用する薬物であるラパマイシンの誘導体である化合物Aについても(本願明細書においても、ラパマイシンの誘導体である化合物Aという医薬化合物の薬理作用(冠状動脈ステントの被覆薬として開発されたことが述べられているだけである。)に基づく適用個所について、その薬理作用のとおりステント表面であったという背景技術の記載があったにすぎない。)、安定性や徐放性に改善の余地があるとされる非晶質のものに対して、優れた溶出プロファイルを得るために、結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、強い動機付けを認めることができる。
ウ 化合物Aの結晶の製造及び分析について
(ア) 結晶析出の一般的方法及び析出溶媒
結晶を得るために、溶液から結晶化する方法は、化学物質の製造全般に広く用いられているものであり、結晶化の操作としては、
1)温度による溶解度の相違を利用して高温の飽和溶液を冷却する冷却法、
2)溶媒を蒸発して濃縮する濃縮法、
3)溶液に他の適当な溶媒を加えて溶解度を減少させる貧溶媒法
が代表的である(摘示(7a)(8c))。
また、結晶化に用いる溶媒については、6~10数種類程度の溶媒がよく知られており(摘示(6a))、摘示(6a)によると、一般に、水素結合性、極性を考慮すれば、ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチル、アセトン、エタノール、水の6種の溶媒の中から選択すればよく、さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には、2種の溶媒を混合したり、他の溶媒を選択することが検討されている。
(イ) 本願発明の結晶の析出方法及び溶媒について
本願発明の結晶を得るための方法について検討するに、この出願の明細書及び特許請求の範囲(以下「本願明細書等」という。)には、「BA9は、・・・構造は、ラパマイシン31員マクロライドトリエンラクトン環からなり、40位がエトキシエチル化されている。」(【0004】)と記載されているから、「BA9」は「40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシン」に相当し、【0077】の【表4】のBA9のI型のXRPDデータが本願発明のXRPDの回折ピークと一致していることから、I型結晶が本願発明の結晶である。
本願明細書等には、I型結晶の析出方法及び溶媒に関して、以下の記載がある。
a 「【0069】(例1)BA9の精製・・・【0070】続きを表示(全11行)4.6gのBA9を含有する粘性粗物質のロットBに、n-ヘキサン(490g)を室温で添加した。混合物を激しく撹拌しながら、30分以内で加熱還流(約70℃)させた。粘性物質は、約56℃で容易に撹拌される再懸濁した粉末となり、還流下で約5分間撹拌した後、透明な溶液となった。システムを20分間還流し、次いで、3時間以内で室温に冷却した。冷却により、白色固体が析出した。懸濁液をさらに2時間、25~15℃で撹拌した。次いで、懸濁液を濾過し、単離固体をフィルタ上でn-ヘキサン50gで洗浄した。次いで、固体を、真空下で乾燥させ、一定の重量にした(収率=3.4g、BA9の74%回収率)。・・・【0074】(例2)BA9の固体形態の調製及び特性決定バッチプロファイリング及び多形スクリーニング方法。BA9ロット2A及び2Bを上述のようにn-ヘキサンからの析出を使用して精製した。・・・ロット2Aは、XRPDによる評価で非晶質であることが分かった。ロット2Bの結晶形態は、XRPDによって評価されるように、結晶と分かり、この結晶形態をI型と名付けた。」
b 「【0075】BA9ロット2AのEtOAc及びアセトン中の2種の原液を調製した。これらの溶液をガラスバイアルに分配し、真空オーブン下に置いて蒸発乾固させた。乾燥後に得られた固体を、異なる溶媒/溶媒混合物に溶解し、一晩撹拌した。溶解再結晶プロセス後に得られた任意の固体を、XRPDによって湿性ケークとして分析した。【0076】貧溶媒結晶化実験は、6種の異なる有機溶媒にロット2Aを溶解することにより実施した。ヘキサンを貧溶媒として加えた。固体が観察されなかった場合、溶液を室温で撹拌させた。続きを表示(全17行)【0077】・・・ロット2Aは、XRPDによる評価で非晶質である。ロット2BはXRPDによる評価で結晶であり、I型と名付けた。I型についての回折角(2θ)を表4に列挙する。【表4】[図:0001395618000016.jpg]・・・【0079】多形スクリーニング。BA9ロット2A(100mg/ml)の酢酸エチル溶液(表4(審決注:「表5」の誤記と認められる。)の原液A)及びアセトン溶液(表4(審決注:「表5」の誤記と認められる。)の原液B)の2種の原液を、約380mgの物質を3.8mlの各溶媒に溶解することによって調製した。これらの溶液を22個のガラスバイアルに分配して(各バイアルについて0.4ml、1つの原液当たり11個のバイアル)室温で真空オーブン下に置いて蒸発乾固させた。2日間乾燥後、約40mgの物質を、割れ目のあるゲルとして各バイアル中で得た。【0080】11種の様々な溶媒/溶媒混合物をバイアル(各160μl)に添加し、得られた溶液を室温で撹拌した。一晩撹拌した後、固体が析出していた場合は、スラリーを濾過し、得られた固体を湿性ケークとしてXRPDで分析した。これらの実験の結果を表5に示す。図10に、再結晶実験で得られたXRPDパターンとI型の参照パターンとを重ね合わせて示す。【表5】[図:0001395618000017.jpg]」
c 「【0081】貧溶媒結晶化実験は、6つの異なる有機溶媒にロット2Aをそれぞれ約40mg溶かすことにより実施した(各200μl)。ヘキサンを貧溶媒として固体物が析出するまで200μlずつ添加し、1.6mlのヘキサンを添加した。固体が観察されなかった場合、溶液を室温で撹拌した。これらの実験の結果を表6に示す。図11に貧溶媒結晶化実験で得られたXRPDパターンとI型の参照パターンとを重ね合わせて示す。【表6】[図:0001395618000018.jpg]」
上記aの方法は、結晶化操作として上記の(ア)の1)の方法を用い、溶媒として上記6種の溶媒のうちのヘキサンを用いた方法に相当し、上記bの方法は、蒸発を伴うヘキサン等の貧溶媒を用いる通常の再結晶化方法であり、上記cの方法は、上記の(ア)の3)の方法を用い、酢酸エチル等の溶液に貧溶媒としてヘキサンを用いた方法に相当し、いずれの方法も上記代表的な6種の貧溶媒の中で最も極性が低く多用されるヘキサンを貧溶媒とする手法を含むものであるから、当該手法は結晶を得るために当業者が通常行う範囲内の手法であるといえる。
そうすると、本願明細書等に記載される上記製造方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、本願発明の結晶は、当業者が通常試みる化合物の結晶化によるものであって、通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物であるといえる。
(ウ) 得られた結晶の分析について
結晶多形の同定のために、XRPD測定を行うことで結晶を分析し、結果物として示すことは通常のことであるから(摘示(3a)(4c)(8b))、相違点に係る、特定の2θ値で回折ピークを特定している点は、得られた結晶を分析するにあたり、当業者が通常用いるXRPD測定を行った結果を提示したにすぎないものである。
エ 以上のことから、引用発明において、結晶を得るための条件や手法を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えた結晶に至ることは、当業者が通常試みる結晶化を行った結果、得られたにすぎない物の特性を通常の分析手法で提示しただけのものであるから、当業者が容易に想到し得る技術的事項である。
オ 発明の効果について
(ア) 本願明細書には、本願発明の効果に関連して次のとおり記載されている。
a 「【背景技術】【0002】本発明は、40-O-ラパマイシン誘導体を、その合成中に生ずる類似の極性を有する不要な副生成物から精製するための、経済的及び効果的な手段を提供する。ラパマイシンは、シロリムス(CAS[53123-88-9])としても知られており、ストレプトマイセス・ハイグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)によって合成される商業的に利用可能なマクロライド系天然産物である。好ましい誘導体である40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシン、ウミロリムス(INN/USAN)、バイオリムスA9(商標)[BA9(商標)としても知られる]は、平滑筋細胞増殖及び再狭窄を防ぐための冠状動脈ステントの被覆薬として開発された有効医薬成分である。」
b 「【0023】温度を低下させることによる単純な固体化により、不要な40-O誘導体不純物及び非-40-O誘導体から40-O誘導体を非常に明瞭に分離できるという発見は、驚くべき及び予期できないことであった。経済的にも有益であるが、その理由は、不要な副生成物は、所望の生成物とは類似の極性を有することが多く、大規模なクロマトグラフィー技術を使用して分離することは難しいためである。本方法を使用して、優れた安定性を示すBA9の結晶形態を調製することができる。」
c 「【0082】(例3)結晶BA9は優れた安定性を示す。光分解試験を非晶質及び結晶のBA9(つまりI型)に対して行なった。ICH Q1B当たり、最小120万ルクス時間及び200W・時/m2以上曝露させた後、結晶及び非晶質BA9の両方で同様の保持時間を有する化合物の分解に有意な増加が示された。ただし、表7に示されるように、結晶BA9の光分解は、HPLCで測定される主要分解物が全体的に少なかった。さらに、純度分析測定により、光分解後、結晶BA9の純度は70.2%と分析され、この純度は、非晶質BA9の16.3%と分析された純度よりも実質的に高かった。【0083】結晶BA9の安定性が非晶質BA9と比較して改善していることは、暗所対照(Dark Control)の比較によってさらに支持される。暗所対照とは、試験期間中に光に曝されなかったことを除き、試験試料と同じ条件下で標準的な実験室温度で維持された試料を指す。結晶暗所対照(分析値98.0%)を非晶質暗所対照(88.2%)と比較しても改善された安定性が示された。したがって、結晶BA9は、光分解下及び実験室条件下での貯蔵において、非晶質BA9よりも著しく安定していることが示された。【表7】[図:0001395618000019.jpg]」
d 「【0084】酸化試験を、非晶質及び結晶BA9に対して行なった。30%H2O2に3時間曝露した後、結晶及び非晶質BA9は共に、同様のHPLC保持時間を有する化合物の分解の増加が示された。ただし、結晶BA9の酸化分解では、主要分解物が全体的により低いレベルとなった。さらに、分析測定結果において、酸化分解後、結晶BA9の重量減少は3.4%(対照試料と比較)であり、非晶質BA9によって示される6.5%の重量減少より実質的に低いことが示された。したがって、非晶質BA9の方が酸化分解を受け易いことは明白である。」
e 「【0085】結晶BA9の優れた光安定性及び化学的安定性により、保存中及び被覆医療機器の作製中に貴重な物質の喪失を防ぐことができる。新たな結晶形態並びに経済性及び驚くべき単純性を備えた結晶形態の調製方法の利点は、薬物被覆製品の完全性を維持する一方で、その製造におけるコストと複雑さを低減させることに役立つ。」
(イ) 上記(ア)b~eより、化合物Aの具体的な効果は、化合物Aの結晶を提供できること、及び、化合物Aの結晶が、化合物Aの非晶質のものよりも、光分解下及び実験室条件下での貯蔵において安定性を有し、また酸化分解を受け難く、保存中及び被覆医療機器の作製中に貴重な物質の喪失を防ぐことができる、ということであると認められる。
しかしながら、化合物A自体の効果は、以下に示すように、格別の効果であるとはいえない。
a まず、上記ア~エに述べたとおり、化合物Aの結晶は、当業者が容易に得ることができたものであるから、化合物Aの結晶を提供できるという効果は、格別のものであるとすることはできない。
b さらに、安定性の効果についても、上記イのとおり、結晶が非晶質よりも安定性を有することは、当業者の技術常識であるということができるから(摘示(9a)~(9c)(10a)~(10c)(11a)~(11e)(12a)~(12d)(13a)~(13c)(14a)~(14e)(15a)~(15e))、上記(ア)c~dに示された実験データを考慮したとしても、その絶対値の相違は、非晶質と結晶の差異の技術常識の範囲であり、当業者の予測を超えた顕著なものとはいえない。
そして、光分解下及び実験室条件下での貯蔵における安定性や酸化分解を受け難いこと、保存中及び被覆医療機器の作製中に貴重な物質の喪失を防ぐことができるという効果は、結局は、化合物Aの結晶の安定性の効果に起因しているものにすぎない。
(ウ) 医療機器の薬物コーティングについては、上記(ア)aにおいて、「バイオリムスA9」が、「冠状動脈ステントの被覆薬として開発された有効医薬成分である。」という背景技術が示され、上記(ア)eにおいて、「保存中及び被覆医療機器の作製中に貴重な物質の喪失を防ぐことができる」こと、及び「薬物被覆製品の完全性を維持する一方で、その製造におけるコストと複雑さを低減させることに役立つ」という用途に関する抽象的かつ形式的な示唆が本願明細書等には記載されているのみであって、具体的に薬物コーティングしたものや医療機器に適用した例の記載はなく(コーティング状態での具体的実験結果は示されていない。)、化合物A自体以外の効果、特に薬物コーティング又は医療機器として使用した場合の特有の効果については特段の記載はない。
(3) 請求人の主張について
ア 審判請求人は、審判請求書において以下の主張をしている。
(ア) 「当業者であれば、非晶質に対する結晶形の安定性はケースバイケースで考える必要があり、「安定性の改善は結晶多形スクリーニングにおいて通常得られる効果の1つにすぎない」一般化することはできないことを、当業者は当然に認識しています。この点は、結晶形の化学的安定性がその非晶質形よりも劣る物質の例を示す添付の提出物件1~3からも明らかです。」(審判請求書の手続補正書(方式)1~2頁)として本願発明の進歩性を主張している(以下「主張(ア)」という。)。
(イ) 「引例3-4はいずれもラパマイシンを含むコーティングの物理的安定性に関する文献であり、化学的安定性に関するデータは開示していません。・・・すなわち、本願発明に係る医療機器中の結晶性40-O-(2-エトキシエチル)ラパマイシン(BA9)の改善された化学的安定性は、引例に記載の発明から当然に予期されるものではありません。」(審判請求書の手続補正書(方式)2~3頁)として本願発明の進歩性を主張している(以下「主張(イ)」という。)。
(ウ) 「さらに添付の提出物件4(Dr. Pan Yuanhangによる宣言書(実験成績証明書))に示されるように、結晶性BA9の化学的安定性の向上は、結晶性BA9でコーティングされたバルーンカテーテルの機能の向上(すなわち、コーティング剤として使用した場合の効果)にもつながります。・・・すなわち、提出物件4のデータは、結晶性BA9よりも非晶質BA9の方が分解速度がはるかに速く、水性環境では結晶性BA9が非晶質BA9よりもはるかに安定していることを示しています。そしてこの結晶性BA9が有する利点は、血管形成術治療を受けている患者の動脈からバルーンカテーテルを取り外した後の薬剤の適切な薬効発揮にとって特に重要です。」(審判請求書の手続補正書(方式)3頁)として本願発明の進歩性を主張している(以下「主張(ウ)」という。)。
イ しかしながら、上記主張(ア)~(ウ)は、以下に示すように採用することはできない。
(ア) 主張(ア)について
上記(2)ア及びイに述べたとおり、医薬化合物を結晶化することについては強い動機付けがあるだけでなく、ステント等の医療機器の薬物コーティングに適用する薬物であるラパマイシン誘導体である化合物Aについても同様に、結晶化することに対する強い動機付けを認めることができるから、非晶質に対する結晶形の安定性に関して、一般論に従わない例外事例があるとしても、上記技術常識等を考慮すると、本願発明の結晶が非晶質の場合より安定であったことの効果が、当業者の予測を超える顕著な効果ということはできない。
よって、上記主張(ア)は採用することができない。
(また、請求人は、非晶質と結晶の反応性や安定性に関して、提出物件1~3を提出して、非晶質と結晶の安定性等の関係が一般化できない旨も主張している点について、念のため述べると、提出物件1及び2は、そもそも保存時又はコーティング時の安定性ではなく、ラジカル反応又は転位反応時の反応性に関する相の影響を述べている文献であって、評価の対象が全く異なる系に関するものであり、提出物件3は、高分子量のヘリックス構造を有するペプチドホルモンであるインスリンに関するものであり、いずれもBA9又はラパマイシンの保存安定性と著しく異なる概念及び化合物構造の例にすぎない。)
(イ) 主張(イ)について
上記(2)オ(イ)でも述べたとおり、医療機器の薬物コーティングに適用する化合物Aの結晶の安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。
また、刊行物14(原査定で引用された引用文献3)には、「結晶化された薬物の化学的安定性は、・・・非晶質形態よりも優れている」と記載され(摘示(14b))、刊行物15(原査定で引用された引用文献4)には、「結晶化の物理化学的原理」について検討していることが記載されているのであるから(摘示(15a))、本願発明の化学的安定性に関しても、引用発明及び技術常識から当業者の予測を超える顕著な効果であるとはいえない。
したがって、上記主張(イ)を採用することはできない。
(ウ) 主張(ウ)について
本願明細書等には、水中における化合物Aの分解速度やバルーンカテーテルの治療結果の改善に関する記載や示唆は一切ないところ、提出物件4の水中における化合物Aの分解速度についての効果に関し、明細書の記載の補足と認められる範囲に限り検討すると、既に上述したとおり、化合物Aの水中での安定は、技術常識(摘示(9a)~(9c)(10a)~(10c)(11a)~(11e)(12a)~(12d)(13a)~(13c)(14a)~(14e)(15a)~(15e))から当業者が予測できない、顕著な効果とまでいうことはできない。
さらに、本願明細書等には、一切記載のない「この結晶性BA9が有する利点は、血管形成術治療を受けている患者の動脈からバルーンカテーテルを取り外した後の薬剤の適切な薬効発揮にとって特に重要です。」との治療後の結果に関して述べた主張に関しては、本願明細書等の記載に基づかない主張であるといわざるを得ない。
したがって、上記主張(ウ)を採用することはできない。
5 まとめ
したがって、本願発明は、この出願の優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明、刊行物14及び15に記載された事項並びにこの出願の優先日当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-005728