2020-700923
メタルマスク材料及びその製造方法とメタルマスク
- 審判番号
- 2020-700923
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-559127外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年11月30日
- 審決日
- 2021年08月16日
- 公報発行日
- 2021年11月26日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.537-YAA(C22C) / P1651.536-YAA(C22C) / P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
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結論
理由
目次 ▾ 17項目
第1 手続の経緯
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特許第6704540号(請求項の数14。以下,「本件特許」という。)は,2019年(令和1年)9月27日(優先権主張:平成30年9月27日,6件)を国際出願日とする特許出願(特願2019-559127号)に係るものであって,令和2年5月14日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,令和2年6月3日である。)。
その後,令和2年11月30日に,本件特許の請求項1~14に係る特許に対して,特許異議申立人である遠藤楓実(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は,以下のとおりである。
令和2年11月30日 特許異議申立書
令和3年 2月15日付け 取消理由通知書
4月16日 意見書,訂正請求書
4月19日 上申書(申立人)
5月12日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
6月14日 意見書(申立人)
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和3年4月16日提出の訂正請求書による訂正(以下,「本件訂正」という。)の請求は,本件特許の明細書及び図面を上記訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり,訂正後の請求項6,7及び10~14について訂正することを求めるものであり,その内容は,以下のとおりである。下線は,訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
明細書の【0083】に「Hw111の式」と記載されているのを,「Hillの式」に訂正する。
(2)訂正事項2
図面の図9にグラフ縦軸の名称として「rmax」と記載されているのを,「r」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【0096】の表5
を,以下のとおり訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0162】の表15
を,以下のとおり訂正する。
(5)訂正事項5
図面の図11
を,以下のとおり訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正事項1~5に係る訂正は,いずれも願書に添付した明細書又は図面を訂正するものであるが,このうち,訂正事項1,2は,本件訂正前の請求項6に関係する訂正であり,また,訂正事項3~5は,本件訂正前の請求項7に関係する訂正である。
そして,本件訂正前の請求項6,7及び10~14について,請求項10~14はいずれも,請求項6,7を引用する関係にあるから,請求項6,7及び10~14は一群の請求項である。
よって,訂正事項1~5に係る訂正は,本件訂正前の請求項6,7及び10~14に関係する訂正であって,本件訂正は,明細書又は図面の訂正に係る請求項を含む上記一群の請求項の全てについて行われている。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は,訂正前の明細書の【0083】における「Hw111の式」との記載を,「Hillの式」とするものである。
訂正前の明細書の【0083】における「Hw111の式」との記載については,本件特許の国際出願日における国際出願の明細書,請求の範囲又は図面(以下,「出願当初明細書等」という。)の【0083】に,「Hillの式」と記載されていたところ,令和2年4月2日提出の手続補正書により補正する際に,「Hillの式」との記載を,誤って「Hw111の式」と補正したものである。
この訂正は,このようにして誤って補正された「Hw111の式」との記載を,単に,元々の記載である「Hillの式」に戻すものであるから,誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また,出願当初明細書等には,上記のとおり,【0083】に「Hillの式」と記載されているから,この訂正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は,訂正前の図面の図9におけるグラフ縦軸の名称について,「rmax」との記載を,「r」とするものである。
訂正前の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「訂正前の明細書等」という。)には,「【図9】各製造例に関し,メタルマスク材料の表面から7.0μmまでの深さと,{200}面の積分強度I200に対する{111}面の積分強度I111の比r(r=I111/I200)との関係を示すグラフである。」(【0016】)との記載があり,当該記載によれば,訂正前の図面の図9におけるグラフ縦軸の名称である「rmax」との記載は,訂正前の明細書等の記載との関係で誤りであることが明らかである。
そして,上記で訂正前の明細書等の記載について検討したところによれば,訂正前の図面の図9におけるグラフ縦軸の名称については,訂正前の明細書等の記載全体から,「r」との正しい記載が自明な事項として定まるといえる。
以上のとおりであるから,訂正前の図面の図9におけるグラフ縦軸の名称について,「rmax」との記載が誤りで訂正後の「r」との記載が正しいことが,訂正前の明細書等の記載又は当業者の技術常識から明らかで,当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえる。
したがって,訂正事項2に係る訂正は,誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また,出願当初明細書等には,上記で指摘した記載(【0016】)と同じ記載(【0016】)があるから,この訂正は,出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3に係る訂正は,明細書の【0096】の表5における,試料No.a~dのr(1),r(2),r(3)の各数値と,試料No.eのr(1),r(2)の各数値について,小数点第4位以下又は第3位以下を四捨五入した数値とし,また,試料No.eのr(3)の「1.099269」との数値を,「0.95」とするものである。
イ 上記アの訂正のうち,前者の訂正については,訂正前の明細書の【0095】,【0097】に記載される,r(1),r(2),r(3)をそれぞれ含む,(4-1)式,(4-2)式,(4-3)式の有効数字を考慮して,小数点第4位以下又は第3位以下を四捨五入した数値とするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
ウ また,上記アの訂正のうち,後者の訂正については,試料No.eのr(3)は,「r(3)={I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}」で表されるものであるから,1を超える「1.099269」との数値は,それ自体で誤りであることが明らかである。
そして,特許権者が保有し,出願当初明細書等及び訂正前の明細書等の記載の根拠とされたと解される,試料No.eのI111,I200,I220,I311の実測データ(この実測データは,同明細書等に記載された試料No.eのr(1),r(2)の各数値と整合する。)に基づいて,r(3)を正しく計算すると,「0.95」(小数点第3位以下を四捨五入)となる。
以上によれば,上記アの訂正のうち,後者の訂正については,試料No.eのr(3)に関し,「1.099269」との誤った数値を,特許権者が保有し,出願当初明細書等及び訂正前の明細書等の記載の根拠とされたと解される,試料No.eの実測データに基づいて正しく計算した「0.95」(小数点第3位以下を四捨五入)とするものであるから,誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
エ また,上記アの訂正は,上記ウの事情を考慮すると,出願当初明細書等又は訂正前の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4に係る訂正は,明細書の【0162】の表15における,試料No.1~6のr(1),r(2)の各数値について,小数点第4位以下又は第3位以下を四捨五入した数値とし,また,試料No.1~6のr(3)の「0.890803」,「1.126192」,「1.12740」,「1.12783」,「1.128332」,「1.128636」との数値を,それぞれ,「0.91」,「0.93」,「0.94」,「0.95」,「0.96」,「0.96」とするものである。
イ 上記アの訂正のうち,前者の訂正については,訂正前の明細書の【0095】,【0097】に記載される,r(1),r(2)をそれぞれ含む,(4-1)式,(4-2)式の有効数字を考慮して,小数点第4位以下又は第3位以下を四捨五入した数値とするものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
ウ また,上記アの訂正のうち,後者の訂正については,試料No.2~6のr(3)は,「r(3)={I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}」で表されるものであるから,1を超える「1.126192」,「1.12740」,「1.12783」,「1.128332」,「1.128636」との数値は,いずれも,それ自体で誤りであることが明らかである。
そして,特許権者が保有し,出願当初明細書等及び訂正前の明細書等の記載の根拠とされたと解される,試料No.1~6のI111,I200,I220,I311の実測データ(これらの実測データは,同明細書等に記載された試料No.1~6のr(1),r(2)の各数値と整合する。)に基づいて,r(3)が1以下である試料No.1も含めて,改めてr(3)を正しく計算すると,それぞれ,「0.91」,「0.93」,「0.94」,「0.95」,「0.96」,「0.96」(いずれも,小数点第3位以下を四捨五入)となる。
以上によれば,上記アの訂正のうち,後者の訂正については,試料No.1~6のr(3)に関し,それぞれ,「0.890803」,「1.126192」,「1.12740」,「1.12783」,「1.128332」,「1.128636」との誤った数値を,特許権者が保有し,出願当初明細書等及び訂正前の明細書等の記載の根拠とされたと解される,試料No.1~6の実測データに基づいてそれぞれ正しく計算した「0.91」,「0.93」,「0.94」,「0.95」,「0.96」,「0.96」(小数点第3位以下を四捨五入)とするものであるから,誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
エ また,上記アの訂正は,上記ウの事情を考慮すると,出願当初明細書等又は訂正前の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(5)訂正事項5について
訂正事項5に係る訂正は,訂正前の図面の図11(C)について,表5に示される試料No.dと試料No.eのプロット位置を変更するものである。
この訂正は,訂正事項3に係る訂正に伴い,試料No.dと試料No.eのプロット位置を正しい位置に変更するものであるから,誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また,この訂正は,訂正事項3に係る訂正と同様,出願当初明細書等又は訂正前の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
(6)独立特許要件について
本件においては,訂正前の全ての請求項1~14について特許異議の申立てがされているので,特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
上記2のとおり,各訂正事項に係る訂正は,特許法120条の5第2項ただし書2号及び3号に掲げる事項を目的とするものに該当し,同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから,結論のとおり,本件訂正を認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり,本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1~14に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料であって,
一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下であることを特徴とするメタルマスク材料。
【請求項2】
【請求項3】
【請求項4】
表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔が下記(1-1)式および(1-2)式を満足することを特徴とする,請求項1~3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
ΔD≦0.00030・・・(1-1)
ΔD=|DM-DL|・・・(1-2)
但し,上記式中のDM及びDLの定義は,下記の通りである。
【請求項5】
下記(2-1)式を満足することを特徴とする,請求項1~3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【数1】
但し,上記式中のHW111は,斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅であり,tはメタルマスク材料の板厚(μm)である。
【請求項6】
下記(3-1)式又は(3-2)式のいずれかを満足することを特徴とする,請求項1~3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
rmax<9.5・・・(3-1)
rmax≧20 ・・・(3-2)
r=I111/I200・・(3-3)
但し,I111は,斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度;
I200は,斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{200}面の積分強度;
rmaxは,(3-3)式で定義される積分強度比の最大値である。
【請求項7】
下記(4-1)式~(4-3)式を満足することを特徴とする,請求項1~3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
0.385≦I200/{I111+I200+I220+I311}・・・(4-1)
I311/{I111+I200+I220+I311}≦0.08・・・(4-2)
0.93≦{I220+I200}/{I111+I200+I220+I311}・・・(4-3)
但し,上記式中のI200は,集中法X線回折によって得られる{200}面の回折強度であり,I111は{111}面の回折強度であり,I220は{220}面の回折強度であり,I311は前記{311}面の回折強度である。
【請求項8】
X線応力測定法を用いて残留応力を測定した際に算出される誤差が,下記(5-1)式を満足することを特徴とする,請求項1~3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
σ≦α+β×R+γ×R2・・・(5-1)
但し,α=211.1;β=5.355;γ=0.034886;上記式中のRは,前記X線応力測定法を用いて測定された残留応力値であり,σは前記X線応力測定法を用いて残留応力値を測定した際に算出される誤差である。
【請求項9】
X線応力測定法を用いて応力を測定した時に,前記メタルマスク材料の面法線と{220}面法線との成す角度(Ψ(deg))と,前記角度Ψにおける{220}面の回折ピーク位置(2θ(deg))との関係が下記(6-5)式で表され,且つ前記(6-5)式の係数であるb,c,d,eが下記(6-1)式~(6-4)式を満たすことを特徴とする,請求項1~3のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
b/I≦0.09・・・(6-1)
0.02≦|c|・・・(6-2)
d/I≦12・・・(6-3)
2≧|e|/I・・・(6-4)
2θ=a+b×sin2Ψ+c×sin(d×sin2Ψ+e)・・・(6-5)
但し,I=(z×t3)/12
t:板厚(μm)
z:0.000768
【請求項10】
オージェ電子分光法により測定された酸化皮膜厚が4.5nm以下であることを特徴とする,請求項4~9のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【請求項11】
0.2%耐力が330MPa以上850MPa以下であることを特徴とする,請求項4~10のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【請求項12】
圧延方向と直角方向の平均算術表面粗さRaが0.02μm以上0.10μm以下であることを特徴とする,請求項4~11のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料。
【請求項13】
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の組成を有する合金を溶製する工程と,
前記溶製された合金から鋼片を得る工程と,
前記鋼片を熱間圧延して巻取ることにより熱間圧延板を得る巻取工程と,
前記巻取工程後に前記熱間圧延板に対して冷間圧延と焼鈍とを少なくとも1回ずつ交互に行うことによって板厚5.00~50.00μmの鋼箔を得る工程と,
テンションアニール工程とを含み,
前記テンションアニール工程は最終圧延工程後に行われ,最終圧延工程での圧下率は30.0%以上95.0%以下であって,前記テンションアニール工程は焼鈍温度が300~900℃であって,還元雰囲気で行われることを特徴とする,請求項1~12のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のうちいずれか1項に記載のメタルマスク材料を用いたことを特徴とする,メタルマスク。
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
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1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由
本件特許の請求項1~14に係る特許は,下記(1)~(9)のとおり,特許法113条2号及び4号に該当する。証拠方法は,下記(10)の甲第1号証~甲第13号証(以下,単に「甲1」等という。)である。
(1)申立理由1(明確性要件)
本件発明1~14については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~14に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(2)申立理由2(実施可能要件)
本件発明1~14については,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~14に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明1~14については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではないから,本件特許の請求項1~14に係る特許は,同法113条4号に該当する。
(4)申立理由4-1(新規性)
本件発明1~11及び14は,甲1に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~11及び14に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(5)申立理由4-2(新規性)
本件発明1~11及び14は,甲2に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~11及び14に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(6)申立理由4-3(新規性)
本件発明1~12及び14は,甲3に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~12及び14に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(7)申立理由5-1(進歩性)
本件発明1~14は,甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された事項に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~14に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(8)申立理由5-2(進歩性)
本件発明1~14は,甲2に記載された発明並びに甲1及び3~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~14に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(9)申立理由5-3(進歩性)
本件発明1~14は,甲3に記載された発明並びに甲1,2及び4~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本件特許の請求項1~14に係る特許は,同法113条2号に該当する。
(10)証拠方法
・甲1 特許第5382257号公報
・甲2 特開平7-62495号公報
・甲3 国際公開第2018/043641号
・甲4 特開2016-148111号公報
・甲5 特開平5-214492号公報
・甲6 'Structural modifications of thin magnetic Permalloy films induced by ion implantation and thermal annealing: A comparison', Acta Materialia, 2014, vol.74, p.278-284
・甲7 特開2003-183774号公報
・甲8 特開2010-214447号公報
・甲9 特開2002-194577号公報
・甲10 'THERMAL EXPANSION MEASUREMENTS IN Fe-BASE INVAR ALLOYS', Physica B+C EUROPHYSICS JOURNAL, 1983, Vol.119B, p.78-83
・甲11 「カリティ新版X線回折要論」,株式会社アグネ,1980年6月20日,p.256-294
・甲12 「蛍光X線元素分析装置」,公益財団法人南信州・飯田産業センター,[2020年11月17日検索],インターネット<URL:https://www.isilip.com/itc/guide/zsx_primus_ii/>
・甲13 特開2014-101543号公報
2 上申書(申立人),意見書(申立人)とともに提出された証拠方法
・甲14 特開2004-58601号公報
・甲15 社団法人日本金属学会,「改訂4版 金属データブック」,丸善株式会社,平成16年2月29日,p.334-335
・甲16 「カリティ新版X線回折要論」,株式会社アグネ,1980年6月20日,p.98-132
3 取消理由通知書に記載した取消理由
(1)取消理由1(明確性要件)
上記1の申立理由1(明確性要件)(うち,「Hw111の式」に関するもの,{111}面の平均格子面間隔に関するもの,入射角と入射深さとの関係に関するもの,各結晶面の回折強度に関するもの)と同旨
(2)取消理由2(実施可能要件)
上記1の申立理由2(実施可能要件)(うち,{111}面の平均格子面間隔に関するもの,入射角と入射深さとの関係に関するもの)と同旨
第5 当審の判断
以下に述べるように,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
なお,申立理由1(明確性要件),申立理由2(実施可能要件),申立理由3(サポート要件)については,特許異議申立書に記載の各「申立理由」に付された番号を枝番として使用する。
(例えば,申立理由1(明確性要件)については,特許異議申立書38~46頁に記載の「(4-2)申立理由1 請求項4の記載について」に付された番号である「1」を枝番として使用し,申立理由1-1(明確性要件)と表記する。)
1 取消理由1(明確性要件),取消理由2(実施可能要件)
(1)「Hw111の式」に関するもの(申立理由1-4(明確性要件))
ア 令和3年2月15日付けの取消理由通知書では,図10は,rmaxと反り量の関係を示すものであり,請求項6における(3-1)式及び(3-2)式で表されるrmaxの範囲を導出するのに用いられたものであるところ,本件明細書には,図10について,「試料a,b,c,dのrmax値と反り量との関係をHw111の式で近似した」(【0083】)と記載されているが,Hw111は,「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅」(【0066】)であり,関数や曲線ではないから,「Hw111の式で近似した」とは,どのような意味であるのか不明であり,そのような「Hw111の式で近似」することにより得られた図10を用いて導出された,請求項6における(3-1)式及び(3-2)式で表されるrmaxの範囲は,その意味が不明であるから,本件発明6及び10~14は明確ではない旨,指摘した。
イ これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,明細書の【0083】における「Hw111の式」との記載が,「Hillの式」とされた結果,その意味が明確にされたから,本件発明6及び10~14について,上記の点に関する明確性要件違反は解消した。
ウ 申立人は,「Hillの式」がどのような式であるのか不明であると主張する(意見書(申立人)6頁)。
しかしながら,「Hillの式」が,主に生化学で用いられる式であり,ヘモグロビンへの酸素の結合に関する協同効果を説明する経験式として導入された式であって,材料の技術分野においても適用できるものであることは,当業者に広く知られたことである。
よって,申立人の主張は採用できない。
(2){111}面の平均格子面間隔に関するもの(申立理由1-5(明確性要件),申立理由2-5(実施可能要件))
ア 上記取消理由通知書では,請求項4には,メタルマスク材料における「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」について記載されているところ,請求項4が引用する請求項1には,メタルマスク材料の「板厚が5.00μm以上50.00μm以下である」と記載されているため,少なくとも,板厚が5.00μm以上7.11μm未満の場合には,「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」を算出することはできないから,請求項4において,「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」について特定することの意味が不明であり,本件発明4及び10~14は明確ではない旨,指摘した。
また,上記取消理由通知書では,請求項1を引用する請求項5における「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅」,同請求項6における「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度」,同「{200}面の積分強度」についても同様であり,本件発明5,6及び10~14は明確ではない旨,指摘した。
さらに,上記取消理由通知書では,本件発明4~6及び10~14において,少なくとも,メタルマスク材料の板厚が5.00μm以上7.11μm未満の場合については,上記と同様の理由により,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない旨,指摘した。
以下,検討する。
イ 本件発明1に係るメタルマスク材料は,「板厚が5.00μm以上50.00μm以下」のものであるが,本件発明1を引用する本件発明4においては,「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」について特定されていることから,本件発明4に係るメタルマスク材料は,「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」について特定することが可能な程度の「板厚」を有するものに限定されていると解される。
また,本件発明5における「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅」,本件発明6における「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度」,同「{200}面の積分強度」についても,同様である。
よって,本件発明4~6及び10~14は,明確である。
以上によれば,本件発明4~6及び10~14について,上記の点に関する明確性要件違反は解消した。
ウ 特許権者は,請求項4に記載される「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」とは,表面下1.45μmから深くても7.11μmまでの領域であれば,どの範囲で{111}面の平均格子面間隔を測定してもよいという意味であると主張する(意見書7頁)。
しかしながら,請求項4に,「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」と明記されている以上,そのように理解することは困難である。
よって,特許権者の主張は採用できない。
エ また,本件発明4~6及び10~14について,上記イと同様の理由により,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
以上によれば,本件発明4~6及び10~14について,上記の点に関する実施可能要件違反は解消した。
(3)入射角と入射深さとの関係に関するもの(申立理由1-6(明確性要件),申立理由2-6(実施可能要件))
ア 上記取消理由通知書では,本件明細書に記載されている入射角と入射深さとの関係(表2,表3)は,斜角入射X線回折法の場合の関係ではなく,集中法の場合の関係であると考える余地があるため,請求項4~6における「表面下1.45μmから7.11μmまでの」入射深さは,集中法の場合に4.0°~20.0°の入射角で実現される入射深さであると考える余地があるから,請求項4~6における「斜角入射X線回折法によって得られる」との記載と矛盾し,本件発明4~6及び10~14は明確ではない旨,指摘した。
また,上記取消理由通知書では,本件発明4~6及び10~14において,上記と同様の理由により,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない旨,指摘した。
以下,検討する。
イ(ア)本件発明4は,「斜角入射X線回折法によって得られる」「表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均格子面間隔」について特定するものであるところ,その記載自体の意味は,明確である。
(イ)また,本件明細書には,斜角入射X線回折法における,X線の試料表面に対する入射角と試料表面からの入射深さとの関係について,以下の記載がある。
「前記厚さ方向の{111}面の格子面間隔,{111}面の積分強度I111,{200}面の積分強度I200の測定は,斜角入射X線回折法により行った。尚,前記X線回折装置の対陰極はCoであり,測定時の管電圧及び電流はそれぞれ40kV及び135mAとした。また,斜角入射X線回折法は,リガク製SmartLabの平行ビーム光学系を用いて行い,入射X線の光軸が試料の表面に対して角度(θ)0.2°,0.4°,0.6°,0.8°,1.0°,2.0°,3.0°,4.0°,5.0°,6.0°,8.0°,10.0°,12.0°,15.0°,20.0°のそれぞれになるようにX線を試料の表面に入射させた際における,前記試料へのX線質量吸収係数を計算し,算出されたX線質量吸収係数を表面垂直方向の侵入深さを換算した。入射側に5.0°のソーラースリット,受光側にソーラースリット5.0°を設置し,平行スリットアナライザー(PSA)なし,受光スリット1(RS1)=受光スリット2(RS2)=1.0mmとして測定した。その結果を表3及び図9に示す。」(【0078】)
「」(表3)
上記記載によれば,本件発明4における「斜角入射X線回折法」による「表面下1.45μmから7.11μm」との入射深さは,入射角に基づいて算出されたものと解されるところ,両者の関係が表3に示されており,「1.45μm」,「7.11μm」との入射深さは,それぞれ,「4.0°」,「20.0°」との入射角に対応したものであることが理解できる。
そして,申立人の主張にかかわらず,斜角入射X線回折法による入射深さが,入射角に基づいて正しく算出されているのであれば,表3に示される斜角入射X線回折法における入射角と入射深さとの正しい関係に基づいて,本件発明4において,「斜角入射X線回折法」による「表面下1.45μmから7.11μm」との入射深さが正しく特定されていることになるから,何ら矛盾はなく,本件発明4は明確であるといえる。
また,仮に,申立人が主張するように,入射角に基づいて斜角入射X線回折法による入射深さを算出する際に,X線の試料表面に対する入射角と出射角を同一の値としている点で,誤りがあるとしても,本件発明4における「斜角入射X線回折法」による「表面下1.45μmから7.11μm」との入射深さの意味内容は,表3に示される入射角と入射深さとの特定の関係を前提としたものとして,理解することが可能であり,不明確なものとはいえない。
(ウ)以上のとおり,いずれにしろ,本件発明4における「斜角入射X線回折法」による「表面下1.45μmから7.11μm」との入射深さは,表3に示される入射角との関係で,明確に定まるものである。
(エ)また,本件発明5における「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の平均半値幅」,本件発明6における「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{111}面の積分強度」,「斜角入射X線回折法によって得られる,表面下1.45μmから7.11μmまでの{200}面の積分強度」についても,同様である。
(オ)よって,本件発明4~6及び10~14は,明確である。
以上によれば,本件発明4~6及び10~14について,上記の点に関する明確性要件違反は解消した。
ウ また,本件発明4~6及び10~14について,上記イと同様の理由により,発明の詳細な説明の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
以上によれば,本件発明4~6及び10~14について,上記の点に関する実施可能要件違反は解消した。
(4)各結晶面の回折強度に関するもの(申立理由1-7(明確性要件))
ア 上記取消理由通知書では,請求項7に記載される(4-3)式について,当該式に含まれるI111,I200,I220,I311は,いずれも,集中法X線回折によって得られる各結晶面の回折強度であるため,負の値をとることはないから,(4-3)式の右辺の値が1を超えることはないと解されるが,本件明細書の表5及び表15には,(4-3)式の右辺の値に対応する「r(3)」が1を超える場合が記載されているため,上記(4-3)式の意味が不明であるから,本件発明7及び10~14は明確ではない旨,指摘した。
イ これに対して,前記第2のとおり,本件訂正により,明細書の【0096】の表5,【0162】の表15における各試料のr(3)の数値が,正しく計算した数値とされた結果,上記(4-3)式の意味が明確にされたから,本件発明7及び10~14について,上記の点に関する明確性要件違反は解消した。
(5)したがって,取消理由1(明確性要件),取消理由2(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項4~7及び10~14に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1(明確性要件),申立理由2(実施可能要件)(上記1の取消理由1(明確性要件),取消理由2(実施可能要件)以外のもの)
(1)申立理由1-1(明確性要件),申立理由2-1(実施可能要件)
ア 申立人は,請求項4におけるDLの候補は,合計で5つ存在しているが,これらの候補が同一の値となるとはいえないから,DLの値は一義的に決まらず,また,5つの候補の各々についても,値は一義的に決まらないと主張する。
しかしながら,DLに5つの候補が存在するとしても,本件発明4において,それらのいずれかについて(1-1)式及び(1-2)式を満たせば足りるといえる。なお,DLは,{111}面の格子面間隔に関するものであり,試料が決まれば,ほぼ一定の値に決まると考えられる。
また,5つの候補の各々についても,いずれも,当業者に広く知られたものであり,本件明細書の記載及び技術常識を参酌すれば,どのような値となるかは,当業者であれば理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
イ 申立人は,DLの第1の候補({111}面の格子面間隔の基準値(単位:nm))は,異なる平均格子面間隔及び反り量を有する複数の試料が存在することを前提としているが,第三者の実施形態に係る試料が1種類の場合,図3のような近似曲線を描くことができず,DLを算出することができないと主張する。
しかしながら,DLの第1の候補については,複数の試料を用いてDLを算出すればよいことが明らかであるところ,試料が1種類の場合には,DLの第1の候補については,採用することができないというにすぎない。
よって,申立人の主張は採用できない。
ウ 申立人は,DLの第2-1の候補(Nelson-Riley関数を用いて算出された値)について,本件明細書【0050】に記載されるように,X線回折の集中法により測定した入射角度(2θ)からNelson-Riley関数の値を算出し,得られた値をx座標に,Braggの回折条件から得られた{111}面の平均格子面間隔をy座標にしてプロットし,最小二乗法によって得られる直線のy切片の値を求めることによって,{111}面の平均格子面間隔が算出されるが,本件明細書【0049】には,集中法を用いたX線回折法では,{111}面の回折パターンを直接観測できないと記載されており,X線回折の集中法によっては,{111}面の平均格子面間隔を算出できないのであれば,最小二乗法によって得られる直線のy切片の値を求めることもできないと主張する。
しかしながら,本件明細書【0049】に記載されるように,集中法を用いたX線回折法では,{111}面の回折パターンを直接観測できないからこそ,集中法を用いたX線回折法を用いて,メタルマスク材料を構成する合金のバルクの平均の格子定数を測定し,【0050】に記載の算出方法で,バルクの平均の格子定数から{111}面の平均格子面間隔を算出するとしているものと解される。そして,その内容については,本件明細書の記載及び技術常識を参酌すれば,当業者であれば理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
エ 申立人は,DLの第2-2の候補(Rietvelt法を用いて算出された値),第2-3の候補(非特許文献1等の文献値を用いて算出された値),第2-4の候補(ヴェガード則を用いて算出された値)について,いずれも,本件明細書には,その詳細について開示も示唆もないから,当業者といえども,過度な試行錯誤なく算出することはできないと主張する。
しかしながら,DLの第2-2~2-4の候補については,いずれも,当業者に広く知られたものであり,本件明細書の記載及び技術常識を参酌すれば,どのように算出すればよいかは,当業者であれば理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(2)申立理由1-2(明確性要件),申立理由2-2(実施可能要件)
申立人は,図7のとおり,{111}面におけるX線回折ピークの高さは方向に応じて変化するため,請求項5における半値幅も方向に応じて変化するところ,本件明細書には,どの方向において{111}面におけるX線回折ピークを測定するのか,開示も示唆もないと主張する。
しかしながら,当業者であれば,{111}面におけるX線回折ピークを測定するのに適した方向を適宜選択して測定できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由1-3(明確性要件),申立理由2-3(実施可能要件)
申立人は,図7のとおり,{111}面におけるX線回折ピークの高さは方向に応じて変化するため,請求項6における積分強度も方向に応じて変化するところ,本件明細書には,どの方向において{111}面におけるX線回折ピークを測定するのか,開示も示唆もないと主張する。
しかしながら,当業者であれば,{111}面におけるX線回折ピークを測定するのに適した方向を適宜選択して測定できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由1-4(明確性要件),申立理由2-4(実施可能要件)
ア 申立人は,請求項6における(3-2)式では,rmaxの上限が規定されていないと主張する。
しかしながら,rmaxは,{200}面に対する{111}面の(X線回折ピークの)積分強度比であるから,その上限は,技術常識に基づいて自ずと定まる。
よって,申立人の主張は採用できない。
イ 申立人は,請求項6における(3-1)式を満たしているのは,試料eのみであり,また,(3-1)式を満たしている試料における最小のrmaxは,72.76447(試料d), 同最大のrmaxは,78.74973(試料c)であり,本件明細書には,rmaxの値を調整するための具体的な方法について,開示も示唆もないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,「反り量が5.0mm以下」である本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法について記載されており(【0136】~【0141】),当業者であれば,過度の試行錯誤なく,本件発明1に係るメタルマスク材料を製造することができる。
そして,rmaxは,上記「反り量」と関連するものであり,rmaxを調整するには,多少の試行錯誤により,上記製造方法において,製造条件を適宜調整すればよいことは,明らかである。
この点,本件明細書に,「冷間圧延での各段(各回の圧延)の圧下率および最終圧延の圧下率及び最終焼鈍温度を前述の範囲内で調整することにより、前述した第1実施形態~第6実施形態のメタルマスク材料のうちの少なくともいずれかを製造することができる。」(【0141】)と記載されているとおりである(なお,本件発明6は,第3実施形態に対応する。)。
よって,申立人の主張は採用できない。
(5)申立理由2-7(実施可能要件)
申立人は,本件明細書【0049】には,集中法を用いたX線回折法では,{111}面の回折パターンを直接観測できないと記載されており,X線回折の集中法によっては,請求項7における{111}面の回折強度を測定できないと主張する。
しかしながら,例えば,甲2では,{111}面のX線回折強度が得られており(【0029】等),集中法を用いたX線回折法では{111}面の回折パターンを直接観測できないとしても,技術常識を参酌すれば,どのようにすれば{111}面のX線回折強度が得られるのか,当業者であれば理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(6)申立理由1-8(明確性要件),申立理由2-8(実施可能要件)
ア 申立人は,請求項8における誤差σは,測定点数nの値に応じて変化すると考えられるが,本件明細書には,測定点数nの具体的な値が記載も示唆もされていないと主張する。
しかしながら,測定点数nの値については,本件明細書の記載及び技術常識を参酌すれば,どのように設定すればよいかは,当業者であれば理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
イ 申立人は,本件明細書には,図13における,誤差σが7MPaより大きく,曲線の左下の範囲(申立書68頁の図13のハッチングの範囲)には,実施例が存在しないから,どのような方法によれば,ハッチングの範囲に含まれるものを製造することができるのか,判然としないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,「反り量が5.0mm以下」である本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法について記載されており(【0136】~【0141】),当業者であれば,過度の試行錯誤なく,本件発明1に係るメタルマスク材料を製造することができる。
そして,(5-1)式は,上記「反り量」と関連するものであり,ハッチングの範囲に含まれるものを製造するには,過度の試行錯誤なく,上記製造方法において,製造条件を適宜調整すればよいことは,明らかである。
この点,本件明細書に,「冷間圧延での各段(各回の圧延)の圧下率および最終圧延の圧下率及び最終焼鈍温度を前述の範囲内で調整することにより、前述した第1実施形態~第6実施形態のメタルマスク材料のうちの少なくともいずれかを製造することができる。」(【0141】)と記載されているとおりである(なお,本件発明8は,第5実施形態に対応する。)。
よって,申立人の主張は採用できない。
(7)申立理由1-9(明確性要件),申立理由2-9(実施可能要件)
申立人は,請求項9における(6-5)式の近似曲線のパラメータa~eを算出する方法について,本件明細書には,近似曲線は最小二乗法によって求めると記載されているのみであり(【0131】),具体的な算出方法が記載されていないと主張する。
しかしながら,近似曲線については,本件明細書の記載及び技術常識を参酌すれば,どのように算出すればよいかは,当業者であれば理解できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(8)申立理由2-10(実施可能要件)
申立人は,本件明細書には,本件発明1の範囲のうち,本件発明1の要件を満たすが,本件発明4~9の要件を満たさない範囲等については,メタルマスク材料を製造するための具体的な条件に関し,記載も示唆もないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,「反り量が5.0mm以下」である本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法について記載されており(【0136】~【0141】),当業者であれば,過度の試行錯誤なく,本件発明1に係るメタルマスク材料を製造することができる。
そして,本件発明1の範囲のうち,本件発明1の要件を満たすが,本件発明4~9の要件を満たさない範囲等に含まれるものを製造するには,過度の試行錯誤なく,上記製造方法において,製造条件を適宜調整すればよいことは,明らかである。
この点,本件明細書に,「冷間圧延での各段(各回の圧延)の圧下率および最終圧延の圧下率及び最終焼鈍温度を前述の範囲内で調整することにより、前述した第1実施形態~第6実施形態のメタルマスク材料のうちの少なくともいずれかを製造することができる。」(【0141】)と記載されているとおりである。
よって,申立人の主張は採用できない。
(9)申立理由2-11(実施可能要件)
申立人は,本件明細書には,本件発明1の範囲のうち,「5.00μm以上25.00μm未満」,「30.00μm超50.00μm以下」については,メタルマスク材料を製造するための具体的な条件に関し,記載も示唆もないと主張する。
しかしながら,本件明細書には,「反り量が5.0mm以下」である本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法について記載されており(【0136】~【0141】),当業者であれば,過度の試行錯誤なく,本件発明1に係るメタルマスク材料を製造することができる。
そして,本件発明1の範囲のうち,「5.00μm以上25.00μm未満」,「30.00μm超50.00μm以下」に含まれるものを製造するには,過度の試行錯誤なく,上記製造方法において,製造条件を適宜調整すればよいことは,明らかである。
この点,本件明細書に,「冷間圧延での各段(各回の圧延)の圧下率および最終圧延の圧下率及び最終焼鈍温度を前述の範囲内で調整することにより、前述した第1実施形態~第6実施形態のメタルマスク材料のうちの少なくともいずれかを製造することができる。」(【0141】)と記載されているとおりである。
よって,申立人の主張は採用できない。
(10)申立理由2-12(実施可能要件)
申立人は,本件発明1においては,極めて微量の不純物の含有量を規定しているが,本件明細書には,このような微量の不純物を制御する方法及び測定する方法について,開示も示唆もされていないと主張する。
しかしながら,極めて微量の不純物等の成分を含む各種の合金は,広く知られており,本件明細書に,極めて微量の不純物を制御する方法及び測定方法が明記されていないとしても,技術常識を参酌すれば,どのように制御し,測定すればよいかは,当業者であれば理解でき,通常の方法を用いて制御でき,測定できる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(11)申立理由1-13(明確性要件),申立理由2-13(実施可能要件)
申立人は,本件発明1においては,試料をどのように準備するかについて何ら規定されておらず,また,刃物を用いてメタルマスク材料を切断すると,せん断応力に起因して試料が変形し,それにより生じる反り量も測定されるところ,本件明細書には,残留応力に起因して生じる反り量のみを適切に評価する方法について,記載されていないと主張する。
しかしながら,メタルマスク材料から試料を得て,その試料の片面をエッチングし,その反り量を測定することは,普通に行われていることである(甲1,3)。本件発明1において,試料をどのように準備するか規定されておらず,また,本件明細書に,メタルマスク材料から試料を準備するための具体的な方法について明記されていないとしても,技術常識を参酌すれば,当業者は,通常の方法により,メタルマスク材料から試料を準備することができ,反り量を測定することができる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(12)申立理由1-14(明確性要件)
申立人は,本件明細書には,試料をエッチングする際の具体的な条件について,記載されていないと主張する。
しかしながら,メタルマスク材料から試料を得て,その試料の片面をエッチングし,その反り量を測定することは,普通に行われていることである(甲1,3)。
本件明細書に,試料をエッチングする際の具体的な条件について明記されていないとしても,技術常識を参酌すれば,当業者は,通常の条件により,試料をエッチングすることができる。
なお,申立人は,サンプルの一方の面をレジストで保護した状態でエッチングを行うと,側面もエッチングされ,試料の角はエッチングが大きく進行し,試料の平面形状が変化すると指摘するが,反り量の測定に実際にどの程度影響があるのかは,明らかではない。上記指摘は,単にそのような可能性があることを指摘するにとどまり,実際にそのような問題が生じることを具体的な根拠を示して主張するものではない。
よって,申立人の主張は採用できない。
(13)申立理由1-15(明確性要件),申立理由2-15(実施可能要件)
ア 申立人は,本件発明1において,試料のどの部分の板厚が2/5になるまでエッチングを行うのか,本件明細書には記載も示唆もないと主張する。
しかしながら,請求項1の記載から,試料の全域にわたって板厚2/5になるまで,通常の条件でエッチングすることは,明らかである。
よって,申立人の主張は採用できない。
イ 申立人は,試料の全域にわたって厚み方向に均一にエッチングするための具体的な方法について,本件明細書には記載も示唆もないと主張する。
しかしながら,本件発明1は,試料の全域にわたって板厚2/5になるまでエッチングするというものであり,全域をエッチングするからといって,申立人が主張するような意味で「均一に」エッチングすることまでを意味するものとはいえない。
仮に,「均一に」エッチングするとしても,程度問題であり,技術常識を参酌すれば,当業者は,通常の条件により,試料を「均一に」エッチングすることができる。
よって,申立人の主張は採用できない。
(14)申立理由2-16(実施可能要件)
申立人は,本件明細書の表1の試料No.a,bにおける焼鈍温度は,500℃,650℃であり,表11の試料No.1における焼鈍温度は,650℃であるが,これら試料においては,反り量が5.0mmを超えているため,本件発明13が規定する300~900℃の焼鈍温度のうち,300~650℃の範囲には,本件明細書の記載及び当業者の技術常識を加味しても,当業者が実施できない事情があると主張する。
しかしながら,本件明細書には,「反り量が5.0mm以下」である本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法について記載されており(【0136】~【0141】),当業者であれば,過度の試行錯誤なく,本件発明1に係るメタルマスク材料を製造することができる。この点,本件発明1を引用する本件発明13についても,同様である。
そして,本件発明13に係るメタルマスク材料の製造方法における300~900℃の焼鈍温度のうち,300~650℃の範囲の条件を採用してメタルマスク材料を製造するには,多少の試行錯誤により,上記製造方法において,メタルマスク材料の化学組成や,焼鈍温度以外の各種の製造条件を適宜調整すればよいことは,明らかである。
この点,本件明細書に,「冷間圧延での各段(各回の圧延)の圧下率および最終圧延の圧下率及び最終焼鈍温度を前述の範囲内で調整することにより、前述した第1実施形態~第6実施形態のメタルマスク材料のうちの少なくともいずれかを製造することができる。」(【0141】)と記載されているとおりである。
よって,申立人の主張は採用できない。
3 申立理由3(サポート要件)
(1)本件明細書の記載(【0002】~【0006】,【0013】)によれば,本件発明1の課題は,反り量が低減されるメタルマスク材料を提供することであると認められる。
そして,本件明細書の記載(【0014】,【0015】,【0018】~【0020】,【0028】~【0033】,【0041】~【0043】,【0145】~【0149】,【0154】,表1,10~12)によれば,上記課題は,メタルマスク材料において,「質量%にて,Ni:35.0~37.0%,Co:0.00~0.50%を含有し,残部がFe及び不純物」からなるものとし,板厚を「5.00μm以上50.00μm以下」とし,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下」とすることによって,解決できることが理解できる。
そうすると,本件明細書の記載を総合すれば,上記の各要件を備える本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~14についても,同様である。
したがって,本件発明1~14については,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものである。
(2)申立人は,本件発明1について,申立理由3-10(サポート要件)として,本件発明1が規定する範囲は広範囲であるが,本件発明1の範囲のうち,本件発明1の要件を満たすが,本件発明4~9の要件を満たさない範囲等については,実施例によってサポートされていないと主張する。
また,申立人は,本件発明1について,申立理由3-11(サポート要件)として,本件発明1において規定される「5.00μm以上50.00μm以下」という板厚の範囲のうち,「5.00μm以上25.00μm未満」,「30.00μm超50.00μm以下」については,実施例によってサポートされていないと主張する。
しかしながら,実施例の記載を含む,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは,上記(1)のとおりである。
よって,申立人の主張は,いずれも採用できない。
(3)申立人は,本件発明1について,申立理由3-12(サポート要件)として,スラブに熱間鍛造,熱間圧延,冷間圧延及び焼鈍が施されるため,メタルマスク材料の組成はスラブの組成と同一ではないこと,また,テンションアニールに還元雰囲気が利用されるため,組成が変化することを指摘して,本件発明1~3において規定されるメタルマスク材料の組成について,実施例によるサポートに関し疑義があると主張する。
しかしながら,最終製品の組成は,通常,スラブの組成とほぼ同一であるから,メタルマスク材料の組成についても,スラブの組成とほぼ同一と考えられる。申立人の指摘は,単にそのような可能性があることを指摘するにとどまり,実際にそのような問題が生じることを具体的な根拠を示して主張するものではない。
よって,申立人の主張は採用できない。
(4)申立人は,請求項1を引用する以下の各請求項の記載について,以下の申立理由として,縷々主張する。
具体的には,請求項4の記載について,申立理由3-1(サポート要件)(DLの候補に関するもの),請求項5の記載について,申立理由3-2(サポート要件)({111}面の平均半値幅に関するもの),請求項6の記載について,申立理由3-3(サポート要件)({111}面の積分強度に関するもの),申立理由3-4(サポート要件)((3-1)式,(3-2)式に関するもの),請求項7の記載について,申立理由3-7(サポート要件)((4-3)式に関するもの),請求項8の記載について,申立理由3-8(サポート要件)((5-1)式に関するもの),請求項9の記載について,申立理由3-9(サポート要件)((6-1)式~(6-4)式に関するもの),請求項4~9の記載について,申立理由3-10(サポート要件)(実施例の有無に関するもの),申立理由3-11(サポート要件)(実施例の有無に関するもの),請求項13の記載について,申立理由3-16(サポート要件)(実施例の有無に関するもの)として,主張する。
しかしながら,上記(1)で述べたとおり,本件発明4~14は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから,本件発明1と同様,上記(1)の各要件を備えるものである。
そうすると,上記の各要件を備える本件発明4~14についても,本件発明1と同様に,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものといえる。
よって,申立人の主張は,いずれも採用できない。
(5)したがって,申立理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4-1(新規性),申立理由5-1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項6,8,【0005】~【0007】,【0021】,【0048】~【0062】,【0081】~【0092】,表1)によれば,特に,請求項6,8,【0048】,【0054】の記載に着目すると,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる,鉄に36%のニッケルを加えた合金であるインバー材から構成される金属板であって,前記金属板は,20~100μmの範囲内である厚みt0を有し,かつ前記金属板は,その厚み方向に対して直交し,互いに対向する第1面および第2面を有し,前記金属板から取り出したサンプルをエッチングした場合,エッチング後のサンプルの反りの曲率kが0.008mm-1以下であり,前記曲率kは,はじめに,長さ170mm,幅30mmの前記サンプルを前記金属板から取り出し,次に,前記サンプルのうち長さ方向における両端から10mm以内にある領域を除いた長さ150mm,幅30mmの被エッチング領域の厚みが1/3×t0~2/3×t0の範囲内になるまで,前記第1面の側から,前記被エッチング領域の全域にわたって前記サンプルをエッチングし,その後,エッチングされた前記サンプルを,その側面が水平になるように所定の載置台に載置し,次に,前記サンプルの前記被エッチング領域の長さ方向における端部間距離x(mm)および前記サンプルの前記被エッチング領域の反りの深さy(mm)を測定し,その後,前記端部間距離xおよび前記深さyを,以下の式k=1/ρ,ρ=(y/2)+(x2/8y)に代入することにより求められる値である,金属板。」(以下,「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「複数の貫通孔を形成して蒸着マスクを製造するために用いられる」「金属板」は,本件発明1における「メタルマスク材料」に相当する。
本件発明1における材料の化学組成と,甲1発明におけるインバー材の化学組成とは,いずれも,Ni及びFeを含有する点で共通する。
以上によれば,本件発明1と甲1発明とは,
「Ni及びFeを含有する,メタルマスク材料。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1-1
本件発明1では,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下である」のに対して,甲1発明では,「前記金属板から取り出したサンプルをエッチングした場合,エッチング後のサンプルの反りの曲率kが0.008mm-1以下」であり,「前記曲率kは,はじめに,長さ170mm,幅30mmの前記サンプルを前記金属板から取り出し,次に,前記サンプルのうち長さ方向における両端から10mm以内にある領域を除いた長さ150mm,幅30mmの被エッチング領域の厚みが1/3×t0~2/3×t0の範囲内になるまで,前記第1面の側から,前記被エッチング領域の全域にわたって前記サンプルをエッチングし,その後,エッチングされた前記サンプルを,その側面が水平になるように所定の載置台に載置し,次に,前記サンプルの前記被エッチング領域の長さ方向における端部間距離x(mm)および前記サンプルの前記被エッチング領域の反りの深さy(mm)を測定し,その後,前記端部間距離xおよび前記深さyを,以下の式 k=1/ρ,ρ=(y/2)+(x2/8y)に代入することにより求められる値である」点。
・相違点1-2
本件発明1では,材料が,「質量%にて,Ni:35.0~37.0%,Co:0.00~0.50%を含有し,残部がFe及び不純物」からなるのに対して,甲1発明では,インバー材が,「鉄に36%のニッケルを加えた合金」である点。
・相違点1-3
本件発明1では,板厚が,「5.00μm以上50.00μm以下」であるのに対して,甲1発明では,厚みt0が,「20~100μmの範囲内」である点。
イ 相違点1-1の検討
(ア)まず,相違点1-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲1には,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値」である「反り量」については,記載されていない。
また,甲1発明に係る金属板であれば,必ず,上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは,不明である。
b 甲1発明に係る金属板は,その金属板から取り出したサンプルをエッチングした場合,エッチング後のサンプルの反りの曲率kが0.008mm-1以下となるものである。
そして,上記曲率kは,長さ170mm,幅30mmの長方形のサンプルについて,長さ方向における両端から10mm以内にある領域を除いた被エッチング領域(長さ150mm,幅30mm)の厚みが1/3×t0~2/3×t0の範囲内になるまで,被エッチング領域の全域にわたってサンプルをエッチングした後,サンプルをその側面が水平になるように所定の載置台に載置し,その状態で測定される,被エッチング領域の長さ方向における端部間距離と反りの深さから,所定の式により求められる値である。
上記サンプルは,長さ方向に長いため,幅方向には反りは生じがたく,長さ方向に反りが生じるものと解されるが,反りの深さは,サンプルの形状(長さ,幅,厚みの比)に影響を受けると考えられるから,甲1発明に係る金属板を一辺100mmの正方形の試料とした場合において,実際に上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは,不明である。
c 以上によれば,相違点1-1は実質的な相違点である。
(イ)次に,相違点1-1の容易想到性について検討する。
上記(ア)aで述べたとおり,甲1には,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値」である「反り量」については記載されておらず,また,甲1発明に係る金属板であれば,必ず,上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは不明である。
また,甲2~9にも,甲1発明において,上記「反り量」を「5.0mm以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると,甲1発明において,上記「反り量」を「5.0mm以下」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから,相違点1-2及び1-3について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~14は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~14についても同様に,甲1に記載された発明であるとはいえず,また,甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1~11及び14は,甲1に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1~14は,甲1に記載された発明及び甲2~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由4-1(新規性),申立理由5-1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由4-2(新規性),申立理由5-2(進歩性)
(1)甲2に記載された発明
甲2の記載(請求項1~4,【0001】~【0007】,【0013】,【0026】~【0033】,【0041】,【0045】~【0066】,図1~5)によれば,特に,合金符号Cを用いた材料No.21,合金符号Bを用いた材料No.24,合金符号Cを用いた材料No.25(表9,11,14)にそれぞれ着目すると,甲2には,以下の発明が記載されていると認められる。
「Ni:36.4重量%,Co:0.02重量%,H:1.0ppm,Mn:0.05重量%,Al:0.010重量%,Si:0.05重量%,Cr:0.02重量%,Ti:0.02重量%,O:0.0025重量%,N:0.0015重量%,W:0.01重量%,Nb:0.01重量%,V:0.01重量%,Cu:0.01重量%,C:0.0047重量%,B:0.0001重量%,P:0.004重量%,S:0.0018重量%,Mo:0.02重量%を含有するFe合金薄板であって,合金表面部分の{111},{100},{110},{311},{331},{210}及び{211}の各結晶面の集積度S1,S2,S3,S4,S5,S6及びS7が,それぞれ,2%,75%,6%,3%,8%,4%,2%であり,(S2+S4+S6)/(S1+S3+S5+S7)の値が4.56であり,合金薄板をフォトエッチングによりフラットマスクにし,これを水平な定盤の上に置き,測定した反り量が,1mmである,エッチング加工性に優れた電子機器用合金薄板。」(以下,「甲2発明1」という。)
「Ni:35.7重量%,Co:0.001重量%,H:0.4ppm,Mn:0.25重量%,Al:0.005重量%,Si:0.002重量%,Cr:0.01重量%,Ti:<0.01重量%,O:0.0009重量%,N:0.0007重量%,W:<0.01重量%,Nb:<0.01重量%,V:<0.01重量%,Cu:<0.01重量%,C:0.0014重量%,B:0.0001重量%,P:0.001重量%,S:0.0003重量%,Mo:<0.01重量%を含有するFe合金薄板であって,合金表面部分の{111},{100},{110},{311},{331},{210}及び{211}の各結晶面の集積度S1,S2,S3,S4,S5,S6及びS7が,それぞれ,1%,90%,3%,1%,3%,1%,1%であり,(S2+S4+S6)/(S1+S3+S5+S7)の値が11.50であり,合金薄板をフォトエッチングによりフラットマスクにし,これを水平な定盤の上に置き,測定した反り量が,2mmである,エッチング加工性に優れた電子機器用合金薄板。」(以下,「甲2発明2」という。)
「Ni:36.4重量%,Co:0.02重量%,H:1.0ppm,Mn:0.05重量%,Al:0.010重量%,Si:0.05重量%,Cr:0.02重量%,Ti:0.02重量%,O:0.0025重量%,N:0.0015重量%,W:0.01重量%,Nb:0.01重量%,V:0.01重量%,Cu:0.01重量%,C:0.0047重量%,B:0.0001重量%,P:0.004重量%,S:0.0018重量%,Mo:0.02重量%を含有するFe合金薄板であって,合金表面部分の{111},{100},{110},{311},{331},{210}及び{211}の各結晶面の集積度S1,S2,S3,S4,S5,S6及びS7が,それぞれ,0%,87%,6%,2%,1%,1%,1%であり,(S2+S4+S6)/(S1+S3+S5+S7)の値が11.50であり,合金薄板をフォトエッチングによりフラットマスクにし,これを水平な定盤の上に置き,測定した反り量が,2mmである,エッチング加工性に優れた電子機器用合金薄板。」(以下,「甲2発明3」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明1~3とを対比する。
本件発明1における「メタルマスク材料」と,甲2発明1~3における「Fe合金薄板」である「エッチング加工性に優れた電子機器用合金薄板」とは,「材料」である限りにおいて共通する。
本件発明1における材料の化学組成と,甲2発明1~3におけるFe合金の化学組成とは,いずれも,Ni,Co及びFeを含有する点で共通する。
以上によれば,本件発明1と甲2発明1~3とは,
「Ni,Co及びFeを含有する,材料。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点2-1
本件発明1では,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下である」のに対して,甲2発明1~3では,「合金薄板をフォトエッチングによりフラットマスクにし,これを水平な定盤の上に置き,測定した反り量」が,それぞれ,「1mm」,「2mm」,「2mm」である点。
・相違点2-2
本件発明1では,材料が,「質量%にて,Ni:35.0~37.0%,Co:0.00~0.50%を含有し,残部がFe及び不純物」からなるのに対して,甲2発明1~3では,Fe合金が,それぞれ所定量のNi,Coを含有するほか,それぞれ所定量のH,Mn,Al,Si,Cr,Ti,O,N,W,Nb,V,Cu,C,B,P,S,Moを含有するFe合金である点。
・相違点2-3
本件発明1では,板厚が「5.00μm以上50.00μm以下」であるのに対して,甲2発明1~3では,板厚が不明である点。
・相違点2-4
本件発明1は,「メタルマスク材料」であるのに対して,甲2発明1~3は,「Fe合金薄板」である「エッチング加工性に優れた電子機器用合金薄板」である点。
イ 相違点2-1の検討
(ア)まず,相違点2-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲2には,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値」である「反り量」については,記載されていない。
また,甲2発明1~3では,「合金薄板をフォトエッチングによりフラットマスクにし,これを水平な定盤の上に置き,測定した反り量」が,それぞれ,「1mm」,「2mm」,「2mm」であるものの,どのようなサイズ及び形状の試料を用いて,どの程度のフォトエッチングを施し,どの部分の反り量をどのように測定したかは,不明であり,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」であるかどうかは,不明である。
さらに,甲2発明1~3に係るFe合金薄板であれば,必ず,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは,不明である。
b 申立人は,甲2発明1~3に係るFe合金薄板における,合金表面部分の{111},{100}({200}と等価),{110}({220}と等価),{311},{331},{210}及び{211}の各結晶面の集積度S1~S7を,本件発明7における(4-1)式~(4-3)式に当てはめると,いずれも,(4-1)式~(4-3)式を満足するところ,本件明細書の【0095】~【0097】においては,(4-1)式~(4-3)式が,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」を満たすための条件として説明されているから,甲2発明1~3に係るFe合金薄板は,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」であると主張する(申立書144,147頁)。
しかしながら,本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法(請求項13,本件明細書【0136】~【0141】)と,甲2発明1~3に係るFe合金薄板の製造方法(甲2【0042】~【0048】)とを対比すると,前者では,圧下率が30.0%以上95.0%以下で最終圧延を行った後,焼鈍温度300~900℃,還元雰囲気でテンションアニールを行うのに対して,後者では,熱延板焼鈍後の合金板表面の各結晶面の集積度に応じて,以降の冷間圧延率,焼鈍条件を最適な条件の組合せにし,圧延条件又は焼鈍条件を変化させながら,冷間圧延及びそれに続く焼鈍を行うとされているものの,それらの具体的な条件が不明である点で,少なくとも相違する。
ここで,合金は,一般に,その組成や製造方法が異なれば,得られる合金の組織や特性等が異なることが通常であることを踏まえると,申立人が主張するように,甲2発明1~3に係るFe合金薄板における各結晶面の集積度が,いずれも,(4-1)式~(4-3)式を満足するとしても,上記のとおり,本件発明1に係るメタルマスク材料の製造方法と,甲2発明1~3に係るFe合金薄板の製造方法とが,同じものであるとはいえない以上,各結晶面の集積度以外の合金の組織や特性等についても,本件発明1に係るメタルマスク材料と同じであるとはいえないから,甲2発明1~3に係るFe合金薄板について,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」であるかどうかは,不明というほかない。
よって,申立人の主張は採用できない。
c 以上によれば,相違点2-1は実質的な相違点である。
(イ)次に,相違点2-1の容易想到性について検討する。
上記(ア)aで述べたとおり,甲2には,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値」である「反り量」については記載されておらず,また,甲2発明1~3では,「合金薄板をフォトエッチングによりフラットマスクにし,これを水平な定盤の上に置き,測定した反り量」が,それぞれ,「1mm」,「2mm」,「2mm」であるものの,どのようなサイズ及び形状の試料を用いて,どの程度のフォトエッチングを施し,どの部分の反り量をどのように測定したかは不明であり,さらに,甲2発明1~3に係るFe合金薄板であれば,必ず,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは不明である。
また,甲1及び3~9にも,甲2発明1~3において,本件発明1でいう上記「反り量」を「5.0mm以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると,甲2発明1~3において,本件発明1でいう上記「反り量」を「5.0mm以下」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから,相違点2-2~2-4について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明並びに甲1及び3~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~14は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明並びに甲1及び3~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~14についても同様に,甲2に記載された発明であるとはいえず,また,甲2に記載された発明並びに甲1及び3~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1~11及び14は,甲2に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1~14は,甲2に記載された発明並びに甲1及び3~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由4-2(新規性),申立理由5-2(進歩性)によっては,本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由4-3(新規性),申立理由5-3(進歩性)
(1)甲3に記載された発明
甲3の記載(請求項1,[0002],[0004],[0008],[0009],[0012],[0019]~[0026],表1~3)によれば,特に,請求項1のほか,表1,2に示される試料No.1([0019]~[0023])に着目すると,甲3には,以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で,C:0.003%,Si:0.023%,Mn:0.27%,Ni:35.7%を含有し,残部がFe及び不可避的不純物からなり,板厚が20μmであるメタルマスク用素材であって,前記メタルマスク用素材は,表面粗さRaが,0.11μm(幅方向),0.11μm(長手方向)であり,表面粗さRzが,0.74μm(幅方向),0.70μm(長手方向)であり,スキューネスRskが,-1.7(幅方向),-1.5(長手方向)であり,前記メタルマスク用素材の幅方向中央部から,長さ方向が圧延方向となるように,長さ150mm,幅30mmのカットサンプルを作成し,板厚の2/5となるように片側からエッチングした後,カットサンプルを垂直上盤に吊下げた際の反り量が3mmである,メタルマスク用素材。」(以下,「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「板厚が20μmであるメタルマスク用素材」は,本件発明1における「板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料」に相当する。
本件発明1におけるメタルマスク材料の化学組成と,甲3発明におけるメタルマスク用素材の化学組成とは,いずれも,Ni及びFeを含有する点で共通する。
以上によれば,本件発明1と甲3発明とは,
「Ni及びFeを含有し,板厚が5.00μm以上50.00μm以下であるメタルマスク材料。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点3-1
本件発明1では,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値である反り量が5.0mm以下である」のに対して,甲3発明では,「前記メタルマスク用素材の幅方向中央部から,長さ方向が圧延方向となるように,長さ150mm,幅30mmのカットサンプルを作成し,板厚の2/5となるように片側からエッチングした後,カットサンプルを垂直上盤に吊下げた際の反り量が3mmである」点。
・相違点3-2
本件発明1では,メタルマスク材料が,「質量%にて,Ni:35.0~37.0%,Co:0.00~0.50%を含有し,残部がFe及び不純物」からなるのに対して,甲3発明では,メタルマスク用素材が,「質量%で,C:0.003%,Si:0.023%,Mn:0.27%,Ni:35.7%を含有し,残部がFe及び不可避的不純物」からなる点。
イ 相違点3-1の検討
(ア)まず,相違点3-1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 甲3には,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値」である「反り量」については,記載されていない。
また,甲3発明に係るメタルマスク用素材であれば,必ず,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは,不明である。
b 甲3発明に係るメタルマスク用素材は,そのメタルマスク用素材の幅方向中央部から,長さ方向が圧延方向となるように,長さ150mm,幅30mmのカットサンプルを作成し,板厚の2/5となるように片側からエッチングした後,カットサンプルを垂直上盤に吊下げた際の反り量が3mmとなるものである。
上記カットサンプルは,長さ方向に長いため,幅方向には反りは生じがたく,長さ方向に反りが生じるものと解されるが,反りは,カットサンプルの形状(長さ,幅,厚みの比)に影響を受けると考えられるから,甲3発明に係るメタルマスク用素材を一辺100mmの正方形の試料とした場合において,実際に本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは,不明である。
c 以上によれば,相違点3-1は実質的な相違点である。
(イ)次に,相違点3-1の容易想到性について検討する。
上記(ア)aで述べたとおり,甲3には,「一辺が100mmの正方形の前記メタルマスク材料の試料を,当該試料の板厚が2/5になるまでその片側からエッチングをし,エッチングをした前記試料を定盤に載置した時の,前記試料の4角の浮き上がり量のうち最大値」である「反り量」については記載されておらず,また,甲3発明に係るメタルマスク用素材であれば,必ず,本件発明1でいう上記「反り量」が「5.0mm以下」となるかどうかは不明である。
また,甲1,2及び4~9にも,甲3発明において,本件発明1でいう上記「反り量」を「5.0mm以下」とすることを動機付ける記載は見当たらない。
そうすると,甲3発明において,本件発明1でいう上記「反り量」を「5.0mm以下」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
ウ 小括
以上のとおりであるから,相違点3-2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明並びに甲1,2及び4~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2~14について
本件発明2~14は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明並びに甲1,2及び4~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2~14についても同様に,甲3に記載された発明であるとはいえず,また,甲3に記載された発明並びに甲1,2及び4~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件発明1~12及び14は,甲3に記載された発明であるとはいえない。
また,本件発明1~14は,甲3に記載された発明並びに甲1,2及び4~9に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって,申立理由4-3(新規性),申立理由5-3(進歩性)によっては,本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり,取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
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2020-700923