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特許異議申立

2020-700569

モータコアの焼鈍装置

審判番号
2020-700569
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-243039外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年08月07日
審決日
2020年11月09日
公報発行日
2020年12月25日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (C21D) / P1651.121-Y (C21D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6645163号発明「モータコアの焼鈍装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6645163号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 14項目
【理 由】

第1 手続の経緯

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特許第6645163号の請求項1~5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成27年12月14日の出願(特願2015-243039号)であって、令和2年1月14日に特許権の設定登録がなされ、同年2月14日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和2年8月7日に特許異議申立人 福西雄大(以下、「申立人」という。)により全請求項に係る特許について特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明

特許第6645163号の請求項1~5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。総称して「本件発明」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】

打ち抜き後の電磁鋼板を積層して形成されるモータコアを焼鈍する装置であって、

前記モータコアの外方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の外側誘導コイルと、

前記モータコアの内方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の内側誘導コイルと、

前記外側誘導コイル及び内側誘導コイルに交流電流を印加する交流電源と、を有することを特徴とする、モータコアの焼鈍装置。

【請求項2】

前記交流電源は、前記外側誘導コイルと、及び内側誘導コイルとで囲まれる領域内に、同方向の交流磁束を発生させるように、前記外側誘導コイル及び内側誘導コイルに交流電流を印加することを特徴とする、請求項1に記載のモータコアの焼鈍装置。

【請求項3】

前記外側誘導コイルと前記内側誘導コイルは、前記交流電源に対して直列に接続されていることを特徴とする、請求項2に記載のモータコアの焼鈍装置。

【請求項4】

前記交流電源により印加される交流電流の周波数は、10kHz以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のモータコアの焼鈍装置。

【請求項5】

前記外側誘導コイルの外方を囲う焼鈍雰囲気調整用の隔壁と、

前記隔壁の外方を覆う断熱材と、をさらに有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のモータコアの焼鈍装置。

第3 特許異議申立理由の概要

申立人は、以下の申立理由により、本件発明1~5に係る特許を取り消すべきである旨を主張する。

1.申立理由1

本件発明1~3、5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項(或いはさらに、甲第3~7号証に記載された技術事項)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2.申立理由2

本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~4号証に記載された技術事項(或いはさらに、甲第5~7号証に記載された技術事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3.甲各号証

甲第1号証:特開2013-153612号公報
甲第2号証:特開2015-155559号公報
甲第3号証:特開2008-72825号公報
甲第4号証:特開2013-102622号公報
甲第5号証:特開2015-149123号公報
甲第6号証:国際公開第2013/111726号
甲第7号証:特開2015-126623号公報

以下、甲第1~7号証を「甲1」~「甲7」のように記載することがある。

第4 当審の判断

事案に鑑み、申立理由1、2をまとめて判断する。

1.甲1の記載事項

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以下に甲1の記載事項を記す。「・・・」は記載の省略を示す。

1ア 【請求項1】複数の電磁鋼板が積層されて構成される積層コアの焼鈍方法であって、ソレノイドの内周に前記積層コアを配設し、前記ソレノイドに交流電気を通電して前記積層コアを所定の温度に誘導加熱し、その後、前記積層コアを徐冷することを特徴とする積層コアの焼鈍方法。

1イ 【0002】電動機に適用される一般的な積層コアは、電磁鋼板を所定の形状に打ち抜いて積層させ、溶接やカシメなどによって接合することによって形成される。ところで、電磁鋼板を打ち抜き加工する際に、ひずみが生じることがある。電磁鋼板にひずみが生じると、鉄損が増加して電動機のエネルギー効率が低下する。このため、たとえば特許文献1~3に記載のように、打ち抜いた電磁鋼板を積層して接合した後に、ひずみを除去するために焼鈍が実施されることがある。

・・・

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

電磁鋼板により形成される積層コアの焼鈍においては、たとえば、加熱炉を用いて750℃以上に加熱し、さらに均熱化のために2時間程度にわたって加熱を継続し、その後徐冷するという方法が用いられる。このように、積層コアの焼鈍においては、積層コアを長時間にわたって加熱する必要がある。このため、積層コアの焼鈍は生産性が低いという問題点があった。そこで、生産性の向上を図るために、加熱時間を短縮したいという要請があった。・・・

【0005】

本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、積層コアの焼鈍において、加熱時間を短縮して生産性の向上を図ることを目的とする。

1ウ 【発明の効果】【0007】本発明によれば、積層コアをソレノイドの内周に収容して誘導加熱する構成であるから、積層コアの全体に誘導電流(渦電流)を流して加熱することができる。このため、このような構成によれば、短時間で断面内部まで短時間で加熱することができる。また、積層コアが、ソレノイドの内周に収容されるから、積層コアの全体が誘導加熱される。このため、積層コアの全体を短時間で加熱できる。したがって、焼鈍における加熱時間の短縮を図ることができ、積層コアの生産効率の向上を図ることができる。

1エ 【0010】・・・実施形態にかかる焼鈍方法においては、積層コア9の加熱のために、内周に積層コイルを収容可能な筒状のソレノイド1(電流励起型のコイル)が用いられる。・・・具体的には、積層コア9は、その軸線がソレノイド1の軸線に平行な姿勢または一致する姿勢で配設される。図1と図2においては、ソレノイド1と積層コア9の軸線が一致する構成を示す。・・・

【0012】実施形態によれば、積層コア9をソレノイド1の内周に収容して誘導加熱する構成であるから、積層コア9の全体に誘導電流(渦電流)を流して加熱することができる。このため、このような構成によれば、短時間で積層コア9の断面内部まで加熱することができ、「積層コア9が所定の温度に到達するまでの時間」を短縮できる。すなわち、加熱炉を用いる従来の方法においては、積層コア9に外部から熱を与えて加熱するため、積層コア9の断面内部にまで熱が伝導して所定の温度に到達するまでに相当の時間を要する。さらに、表面と断面内部とで温度差が生じることがあるため、均熱化が必要である。これに対して実施形態によれば、誘導加熱によって、積層コア9自体が断面内部も含めて発熱するため、短時間で所定の温度に到達させることができる。そして、積層コア9がソレノイド1の内周に収容されるから、積層コア9の全体が誘導加熱される。このため、積層コア9の全体を短時間で加熱できる。したがって、実施形態によれば、焼鈍における加熱時間の短縮を図ることができるから、積層コア9の生産効率の向上を図ることができる。

1オ 【0013】そして、実施形態によれば、加熱時間の短縮を図りつつ鉄損を減少させることができる。すなわち、打ち抜き加工された電磁鋼板90は、外周側はほぼ単純な円形であるのに対して、内周側は歯91が形成されるために凹凸を有する。このため、内周側は外周側に比較して切口が長く、ひずみが大きい。したがって、鉄損を減少させるためには、内周側が確実に所定の温度に到達するように加熱する必要がある。加熱炉を用いる従来の方法では、積層コア9の表面から熱を与えて内部に熱伝導させるため、肉厚の部分(=軸線方向に直角な方向で切断した場合の断面の寸法が大きい部分)の断面内部が所定の温度に到達するためには、長い時間を要する。これに対して、実施形態は、誘導加熱によって、積層コア9の全体が断面内部も含めて発熱する構成であるため、肉厚の部分の断面内部についても、短時間で所定の温度に到達するように加熱できる。したがって、積層コア9の内周側において焼鈍の効果が低下しないようにできるから、焼鈍による鉄損の減少の効果を維持できる。このように、実施形態によれば、加熱時間を短縮しつつ、鉄損の減少を図ることができる。

1カ 「本発明の実施形態にかかる積層コアの焼鈍方法を模式的に示す斜視図」(【0008】)である【図1】(6頁)を以下に示す。

2.甲2の記載事項

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以下に甲2の記載事項を記す。「・・・」は記載の省略を示す。

2ア 【0001】本発明は、誘導加熱装置及び誘導加熱方法に関する。

【背景技術】【0002】例えばモータのコア等に用いられる電磁鋼板において、プレス打ち抜きにより所定形状に加工することが行われている。薄い鋼板をプレス加工する際に塑性変形が生じるため、加工によって歪みが生じる。・・・

【発明が解決しようとする課題】【0004】電磁鋼板において、加工歪みが生じると電磁特性が低下する要因となり得る。この加工歪を抑えるために炉で焼鈍を施すと、長時間を要するため生産性が低下してしまう。このため、加工歪を防止し磁気特性を維持するとともに高い生産性を確保できる方法が望まれている。

【課題を解決するための手段】【0005】本発明の一形態に係る積層鋼板の熱処理装置は、電磁鋼板が複数積層された積層鋼板の熱処理装置であって、前記積層鋼板を積層方向に加圧する加圧部と、前記積層鋼板における被処理部に対向配置され誘導加熱処理を行う加熱導体部と、を備え、前記誘導加熱処理において前記積層鋼板を加圧する圧力は0.1~0.5MPaであることを特徴とする。・・・

【発明の効果】【0007】本発明によれば、加工歪を防止し磁気特性を維持するとともに、高い生産性を確保することが可能となる。

2イ 【0010】図1は本実施形態に係る誘導加熱装置1の全体構成を概略的に示す斜視図、図2は断面図である。誘導加熱装置1は、積層鋼板であるワークW1に高周波加熱で焼鈍を行う装置であり、ワークW1を軸方向に押さえて支持する支持部11(加圧部)と、ワークW1の被処理部Aを誘導加熱する誘導加熱コイル12と、を備えている。

【0011】図3に示すように、処理対象物の一例としてのワークW1は厚さ0.3~0.4mm程度の鋼板13が軸方向に複数枚(例えば140枚)積層された積層鋼板である。ワークW1は全体として高さ50mm程度の円筒形状を成す。

【0012】各鋼板13は、例えばモータのステータコアに用いられる電磁鋼板であり、中心に孔部14を有し複数の溝15が形成された円形の板状に打ち抜き加工されている。各電磁鋼板13は、外側直径d1=250~300mm、内側直径d2=150~200mmとした。溝15はそれぞれ各鋼板13の内側縁に径方向に沿って形成され、周方向に複数の溝15が配されている。各鋼板13の表面には絶縁層がコーティングされている。

【0013】本実施形態ではこのワークW1の内側面を被処理部Aとし、孔部14においてワークW1の内側面に対向するように誘導加熱コイル12を配した。・・・

【0020】誘導加熱コイル12は銅などの材質から例えば矩形の中空形状に形成されている。この中空部分12aは冷却液が流通する通路となる。誘導加熱コイル12の一部はワークW1の内周部分に対向配置されて加熱導体部17を構成する。誘導加熱コイル12の両端はリード線や導電板を介して電力供給手段としての高周波電源に接続されている。加熱導体部17の裏側にはコアが配置される。

2ウ 【0021】加熱導体部17はワークW1の孔部内において螺旋状に複数回巻き回され、ワークW1と同軸の円筒形を成している。なお、ワークW1の各電磁鋼板13の磁気特性に影響するのは内周側であって外周側は磁気特性への影響が少ない。一方で、加熱温度が高すぎると鋼板13の絶縁層が損傷するため、鋼板同士が接触して磁気損失が大きくなるいわゆるスティッキングの要因になる。このため、この実施形態では、加熱温度が高くなりすぎず、過加熱を防止し、かつ、磁気特性に影響する内径側を有効に熱処理するために、加熱導体部17はワークW1の内周側の被処理部Aに対向配置することとし、外周側には配置しない。被処理部Aと加熱導体部17の表面との間のギャップ寸法G1=4~6mmで所定値に維持される。

2エ 【0036】本実施形態にかかる誘導加熱装置及び誘導加熱方法によれば、以下のような効果が得られる。すなわち、低い定圧で加圧した状態で低温短時間での高周波誘導加熱焼鈍処理によって、積層鋼板の形状変化を抑えつつ、プレス打ち抜き後の磁気損失が改善できる。例えば炉では目標温度800℃で数時間の処理時間を要するが、上記本実施形態では650℃、300sec程度の誘導加熱処理で損失低減を実現可能であるため、短時間の処理で高い生産性を維持しつつ、磁気損失が少なく、変形の少ないワークを得ることができる。

2オ 本発明の第1実施形態に係る誘導加熱装置を示す断面図(【0008】)である【図2】(8頁)を以下に示す。

3.甲1に記載された発明

上記「1.甲1の記載事項」から甲1に記載された発明を認定する。

ア 摘示事項1アから、甲1には「積層コアの焼鈍方法」について記載されている。

イ 摘示事項1イ、1ウから、「電動機に適用される一般的な積層コア」は、電磁鋼板の打ち抜き時に「ひずみ」が生じ、そのままでは組み立てた「積層コア」の鉄損が増加するので「ひずみ」除去の焼鈍を行うが、従来の加熱方法では焼鈍に長時間を要するので、これを短縮することが発明の解決すべき課題であることが、甲1には記載されている。

ウ ここで、摘示事項1エから、同1カの図1においては、「筒状のソレノイド1」と「積層コア9」の軸線が一致するので、上記「焼鈍装置」において、「積層コア」と「ソレノイド」は「同心円状に配設」されているといえる。

エ 上記課題の解決手段が、摘示事項1アに「積層コアの焼鈍方法」として記載されているが、同1イから当該「積層コア」は「電動機に適用される一般的な積層コア」といえるものであり、摘示事項1カの図1を参酌して、当該焼鈍方法を実施する焼鈍装置に着目すれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数の電磁鋼板が積層されて構成される電動機に適用される一般的な積層コアの焼鈍装置であって、
筒状のソレノイドの内周に当該ソレノイドと同心円状に前記積層コアを配設し、
前記ソレノイドに交流電気を通電して
前記積層コアを所定の温度に誘導加熱し、その後、前記積層コアを徐冷する、
積層コアの焼鈍装置。」

4.本件発明1と甲1発明との対比

ア 甲1発明の「複数の電磁鋼板が積層されて構成される電動機に適用される一般的な積層コア」は、本件発明1の「打ち抜き後の電磁鋼板を積層して形成されるモータコア」に相当する。

イ 摘示事項1エにおける「筒状のソレノイド1(電流励起型のコイル)」との記載よりみて、「ソレノイド」は「誘導コイル」といえるので、甲1発明の「筒状のソレノイドの内周に当該ソレノイドと同心円状に前記積層コアを配設し」は、本件発明1の「前記モータコアの外方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の外側誘導コイル」に相当する。

ウ 甲1発明の「前記ソレノイドに交流電気を通電して」は、「内周」に「積層コア」を「同心円状に」「配設」する「ソレノイド」に「交流電気を通電」することに相当するから、甲1発明は当然に同「ソレノイド」に「交流電流を印加する交流電源」を有するものといえる。

エ そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有するといえる。

<一致点>

「打ち抜き後の電磁鋼板を積層して形成されるモータコアを焼鈍する装置であって、
前記モータコアの外方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の外側誘導コイルと、
前記外側誘導コイルに交流電流を印加する交流電源と、を有する、モータコアの焼鈍装置。」

<相違点>本件発明1は、「モータコアの内方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の内側誘導コイル」を有し、さらに「交流電源」が「外側誘導コイル」に「交流電流を印加する」だけでなく「内側誘導コイル」にも「交流電流を印加する」ものである(以下、「特定事項X」という。)のに対して、甲1発明は、それらを有するものではない点。

5.相違点についての検討

5-1.甲第2号証の参酌

甲第1号証には、「モータコアと同心円状に配置された環状の外側誘導コイル」で「モータコア」を誘導加熱することが記載されるが、「モータコアの内方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の内側誘導コイル」及び「外側誘導コイル」だけでなく「内側誘導コイル」にも「交流電流を印加する」「交流電源」による誘導加熱について明示の記載は見いだせない。

そこで、上記相違点に係る本件発明1の特定事項について、甲2の記載を参酌する。

(1)甲第2号証の技術事項

ア 甲2には、上記摘示事項2ア~2オの記載があるところ、同2アから、電磁鋼板のプレス打ち抜きの際の加工歪みによるモータコアの電磁特性の低下を防ぐために、焼鈍して加工歪みを是正するが、従来焼鈍に長時間を要していたため、これを短時間として高い生産性を獲得することを課題として、その解決手段として「積層鋼板における被処理部に対向配置され誘導加熱処理を行う」ことが記載されている。

イ そして、摘示事項2イ、2ウの記載と同2オの【図2】から、甲2には、「中心に孔部14を有し複数の溝15が形成された円形の板状に打ち抜き加工され」た「モータのステータコアに用いられる電磁鋼板」を積層した「積層鋼板であるワークW1」の「内側面を被処理部Aとし、孔部14においてワークW1の内側面に対向するように誘導コイル12を配し」て「加熱導体部17」を構成し、「誘導コイル12」は「電力供給手段としての高周波電源に接続」されており、「加熱導体部17」は「ワークW1と同軸の円筒形を成している」ことが記載されている。

ウ すなわち、上記イの解決手段として、「積層鋼板であるワークW1」(ステータコア)の「孔部14」(内側)に、「誘導コイル12」である「加熱導体部17」が、「ワークW1」の「被処理部A」である「内側面」に対向して「ワークW1と同軸の円筒形を成して」配置され、「高周波電源に接続」されて「誘導加熱処理を行う」こと(以下、「甲2の技術事項」という。)が記載されているといえる。

エ しかしながら、甲2には、「積層鋼板であるワークW1」の外側面に対向して「ワークW1と同軸の円筒形を成して」配置され、「高周波電源に接続」されて「誘導加熱処理を行う」「誘導コイル」である「加熱導体部」は存在しないから、上記「高周波電源」は、「誘導コイル12」のみへ交流電流を印加するもので、前記「誘導コイル」についても交流電流を印加するものではない。

オ すると、甲2の「積層鋼板であるワークW1」(ステータコア)は、本件発明1の「モータコア」に相当し、甲2の「誘導コイル12」である「加熱導体部17」が「ワークW1」の「被処理部A」である「内側面」に対向して「ワークW1と同軸の円筒形を成して」配置されることは、本件発明1の「モータコアの内方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の内側誘導コイル」に相当するが、「高周波電源」は「誘導コイル12」のみへ交流電流を印加するものだから、甲2の技術事項は、上記相違点に係る本件発明1の特定事項Xに相当するものとはいえない。

すなわち、仮に甲1発明に甲2の技術事項を適用できたとしても、甲1発明における「交流電源」と、「誘導コイル12」の「高周波電源」とは別々になり、両者を一つの交流電源で兼ねる必然性は見いだせない。

(2)甲1発明への甲2の技術事項の適用可能性

次に、甲1発明への甲2の技術事項の適用可能性について検討する。

(2-1)甲第1号証からみた適用可能性

ア 上記「5.5-1.(1)」でみたように、甲2の技術事項は、上記相違点に係る本件発明1の特定事項Xに相当するものとはいえないが、上記(1)の点とは独立に、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)について甲1に記載あるいは示唆されているか見てみる。

イ 甲1の摘示事項1エには、「積層コア」の「焼鈍」について、「加熱炉を用いる従来の方法」では「積層コア9に外部から熱を与えて加熱」するため、「積層コア9の断面内部にまで熱が伝導して所定の温度に到達するまでに相当の時間を要」し、「さらに、表面と断面内部とで温度差が生じることがあるため、均熱化が必要」なため、長時間を要するのに対して、「筒状のソレノイドの内周に当該ソレノイドと同心円状に前記積層コアを配設」して誘導加熱する甲1発明であれば、「積層コア9自体が断面内部も含めて発熱するため、短時間で所定の温度に到達させることができ」、「積層コア9がソレノイド1の内周に収容されるから、積層コア9の全体が誘導加熱され」、「このため、積層コア9の全体を短時間で加熱できる」ことが記載されている。

ウ また、同摘示事項1オには、「歯91が形成される」ため「ひずみが大きい」「内周側が確実に所定の温度に到達するように加熱する必要がある」ところ、「加熱炉を用いる従来の方法」では、「積層コア9の表面から熱を与えて内部に熱伝導させるため、肉厚の部分(=軸線方向に直角な方向で切断した場合の断面の寸法が大きい部分)の断面内部が所定の温度に到達するためには、長い時間を要する」のに対して、「筒状のソレノイドの内周に当該ソレノイドと同心円状に前記積層コアを配設」して誘導加熱する甲1発明であれば、「誘導加熱によって、積層コア9の全体が断面内部も含めて発熱する構成であるため、肉厚の部分の断面内部についても、短時間で所定の温度に到達するように加熱できる」ことが記載されている。

エ 上記イ、ウによれば、甲1発明は、「筒状のソレノイドの内周に当該ソレノイドと同心円状に前記積層コアを配設」することで、歪みへの対処の必要性の大きい「内周側」であっても短時間で所定の温度に到達するように加熱でき、また、「積層コア9の全体」を短時間で加熱できることが理解される。

オ そうすると、甲1発明においては、「筒状のソレノイドの内周に当該ソレノイドと同心円状に前記積層コアを配設」することで、上記「3.イ」でみた焼鈍時間の短縮という課題は十分に達成されており、さらに「モータコアの内方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の内側誘導コイル」と、同「内側誘導コイルに交流電流を印加する交流電源」を有するようにし、「交流電源」が「外側誘導コイル」に「交流電流を印加する」だけでなく「内側誘導コイル」にも「交流電流を印加する」ものであるとすることの必要性(動機付け)を認めることができない。

5-2.他の甲号証の参酌

ア さらに、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)について、他の甲号証に当該必要性(動機付け)が示唆されていないかを検討する。

イ 甲第2号証には、摘示事項2ウに、「ワークW1の各電磁鋼板13の磁気特性に影響するのは内周側であって外周側は磁気特性への影響が少ない」一方で、「加熱温度が高すぎると鋼板13の絶縁層が損傷するため、鋼板同士が接触して磁気損失が大きくなるいわゆるスティッキングの要因になる」ので、「過加熱を防止し、かつ、磁気特性に影響する内径側を有効に熱処理するために、加熱導体部17はワークW1の内周側の被処理部Aに対向配置することとし、外周側には配置しない。」ことが記載されている。

そして同2エには、当該構成により「短時間の処理で高い生産性を維持しつつ、磁気損失が少なく」できることが記載され、上記「5.5-1.(1)ア」の焼鈍時間を短時間にして高い生産性を獲得するという課題が十分に達成されていることが理解される。

ウ 甲第3号証には、「固定子コア」に「電線コイル」を装着するのに「電線コイル全体が短時間で均一に加熱される」ように(【0003】)、「前記固定子コアの中心部の内周面に対向する内径式誘導加熱コイル、または前記固定子コアの外周面に対向する外径式誘導加熱コアのうち、少なくとも1つを備える」(【0008】)ものであって、「固定子コア11の内側には、固定子コア11の中空面に沿って、内径式誘導加熱コイル14が設置され」「また、固定子コア11の外側には、固定子コア11の外周面に沿って、外径式誘導加熱コイル13が設置され」(【0017】【図1】)るようにしたことが記載されている。

【図1】を以下に示す。

エ 甲第4号証には、「永久磁石埋め込み型同期モータ等の組立工程」において、「ロータコアのスロット部」への「永久磁石の固定のために使用される樹脂層や接着剤層の熱硬化、さらにはロータコアに対するシャフトの焼きばめによる圧入を目的として、磁石埋め込み後のロータコアを加熱処理する」(【0002】)ものにおいて、「加熱時間の短縮化を図ったロータコアの加熱処理方法および加熱処理装置」を提供するために、「ロータコア1をその内周面側および外周面側からそれぞれ高周波誘導加熱にて加熱処理するために外周面側加熱手段としての外周側加熱コイル9と内周面側加熱手段としての内周側加熱コイル10を固定配置」(【0022】【図3】)することが記載されている。【図3】を以下に示す。

オ 甲第5号証には、「モ-タ」の「製造」に際し、「シャフトにロ-タコアを外嵌する必要」があり、「外嵌する方法としては焼き嵌め方法が知られている」(【0003】)ところ、「従来のロータコア加熱装置」では、「ロータコア」の「内部を確実に加熱することができず、加熱時間が必要以上に長くなり、作業効率が低下していた」(【0019】)ので、「ロータコア」の「内部を確実に加熱する」ための「加熱装置」として、「内径コイル110と、外径コイル120と、IH加熱器(図示略)」と「磁束遮蔽治具150」とを備えている「ロータコア加熱装置100」(【0037】【図2】)が記載されている。【図2】を以下に示す。

カ 甲第6号証には、「電動機に適用される一般的な積層コア」は、「電磁鋼板を所定の形状に打ち抜いて積層させ」て製造されるが、「打ち抜き加工の際に、電磁鋼板にひずみが生じ」るので、「打ち抜いた電磁鋼板を積層して接合した後に、ひずみを除去するために焼鈍が実施」されるところ(【0002】)、「積層コア9の内部空間に第1ヒーター1を挿入して加熱するとともに、積層コア9の外周側にも積層コア9の中心軸方向に沿って延在する第2ヒーター11を配設して加熱する」こと(【0022】【図7A】)が記載されている。【図7A】を以下に示す。

キ 甲第7号証には、「比較的小型の回転機等に用いられる積層コア」は、「無方向性電磁鋼鈑を所定の形状に打ち抜いて積層」して製造されるが、「一般に打ち抜きによる歪みで鉄損が増加し、回転機等のエネルギー効率が低下してしまう」ため、「歪みを除去するために積層コアを形成した後に焼鈍を行」うが、「長時間」を要するので、「焼鈍が完了するまでの時間を短くする」ことが求められている(【0002】)ところ、「積層コアを短時間で加熱する場合であっても積層コアの偏温を小さくする」こと(【0006】)ができるように、「積層コア10の空間13に配置する棒状のヒーター25は、積層コア10の中心軸Oから同距離であって中心軸Oを中心にしてそれぞれ等角度に6本配置した。また、積層コア10の外側に配置する棒状のヒーター25は、積層コア10の中心軸Oから同距離であって中心軸Oを中心にしてそれぞれ等角度に8本配置した」もの(【0026】【図5】)が記載されている。【図5】を以下に示す。

ク 以下、上記イ~キに記載した甲2~7の記載から、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)が示唆されるか検討する。

上記イに記載されるように、甲第2号証には、上記した甲2の技術事項の構成をとることにより、焼鈍時間を短時間にして高い生産性を獲得するという課題が十分に達成されており、「加熱導体部17はワークW1の内周側の被処理部Aに対向配置することとし、外周側には配置しない。」との明記があることと相俟って、「加熱導体部17」を「ワークW1」の「外周側」に「配置」すること、すなわち本件発明1の「前記モータコアの外方に、当該モータコアと同心円状に配置された環状の外側誘導コイルと、前記外側誘導コイルに交流電流を印加する交流電源と、を有する」ようにすることは甲2の技術事項は予定するものではないから、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)について甲2に記載あるいは示唆されているものとはいえない。

ケ 上記ウ、エ、オに記載されるように、甲第3~5号証には、ロータコアの内外周から電磁誘導で加熱することが記載されているが、それらはロータコア自体の製造においてコアへの電線の装着やシャフトの焼き嵌めのために短時間で加熱するための技術であり、両者には技術分野の差違がある。

また、電磁鋼板を打ち抜いた際の歪みを焼鈍して電磁的損失を減少させるという甲1発明及び甲2に記載の技術事項とは、少なくとも加熱目的の相違に基づく加熱程度に差違があり、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)についての検討に直ちに参考にできるものとはいえない。

コ 上記カ、キに記載されるように、甲第6、7号証には、電磁鋼板を打ち抜いた際の歪みを焼鈍して電磁的損失を減少させるために、ロータコアの内外周からヒーターで加熱することが記載されるが、甲1発明及び甲2に記載の技術事項は電磁誘導による加熱であるから、ヒーターによる輻射加熱とは熱の伝達機構が全く異なる。

したがって、甲第2~7号証に記載の技術事項によっても、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)について記載あるいは示唆されているものとはいえない。

5-3.相違点についてのまとめ

以上から、そもそも甲2の技術手段は相違点に係る特定事項Xに相当せず、仮に相当するとしても、甲1~7の記載を参酌しても、甲1発明に甲2の技術事項を適用する必要性(動機付け)について認めることはできない。

したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲2~甲7に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、同発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものでない。

6.本件発明2~5について

本件発明2~5はいずれも本件発明1を引用して特定するところ、本件発明2~5と本件発明1は相違点が共通しており、その判断についても共通する。

そして、本件発明1に係る特許が上記5.のように取り消されるべきものではないのであるから、本件発明1を引用して特定する本件発明2~5に係る特許についても、同様の理由により、取り消されるべきものではない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700569

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