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特許異議申立

2020-700564

化粧シート、及び化粧板

審判番号
2020-700564
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-077671
登録番号
6645026
請求日
2020年08月06日
審決日
2022年03月08日
公報発行日
2022年05月27日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】凸版印刷株式会社
  • 【権利者代理人】廣瀬 一
  • 【権利者代理人】宮坂 徹
  • 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
  • 【異議申立人】渡辺 陽子
審判長/審判官
  • 審判長 石井 孝明
  • 審判官 間中 耕治
  • 審判官 藤井 眞吾
分類
P1651.841-ZB (B32B) / P1651.854-ZB (B32B) / P1651.121-ZB (B32B) / P1651.536-ZB (B32B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項特許法36条4項1号特許法113条2号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6645026号発明「化粧シート、及び化粧板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6645026号の請求項1~3に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6645026号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成27年4月6日の出願であって、令和2年1月14日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月12日に特許掲載公報が発行された。 その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和2年8月6日 : 特許異議申立人渡辺陽子(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て 令和2年11月17日付け : 取消理由通知書 令和2年12月17日 : 特許権者による意見書の提出 令和3年3月24日付け : 取消理由通知書(決定の予告) 令和3年5月17日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」といい、この訂正請求による訂正を「本件訂正」という。) 令和3年6月25日付け : 訂正拒絶理由通知書 令和3年7月28日 : 特許権者による意見書の提出 令和3年11月10日 : 申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1.本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (訂正事項1) 請求項1の「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキとし、」とあるのを、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が40%以上となるように、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて含むインキを印刷インキとし、」に訂正する。 2.一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は、それぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項[1~3]は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3.訂正拒絶理由の概要 当審が特許権者に通知した訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 (1)訂正の目的について 訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明とはいえない。 また、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮にも該当せず、誤記の訂正又は他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることに該当しないことも明らかである。 (2)新規事項の有無 「赤外光の透過率が40%以上」との条件下であったとしても、訂正事項1は、「絵柄印刷層」における「酸化チタン」の含有量の上限を「50質量%以下」ではない不明な値とする訂正であることに変わりはなく、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正したものではないといわざるを得ない。 (3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 「赤外光の透過率が40%以上」との条件下であったとしても、訂正事項1は、訂正前の「絵柄印刷層」における「酸化チタン」の含有量である「0質量%を超えて50質量%以下の範囲内」との数値範囲を拡張するものであって、特許請求の範囲を拡張するものであるといわざるを得ない。 4.当審の判断 (1)新規事項の有無 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、絵柄印刷層における酸化チタンの含有について、以下のとおり記載されている(下線は、当審が付したものである。以下同じ。)。 ア 「【0013】 (絵柄印刷層2) 絵柄印刷層2は、意匠性を付与するための絵柄の印刷により形成された層である。・・・また、印刷インキは、例えば、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、及び酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含んでいる。これにより、印刷インキは、赤外光の透過率が40%以上となっている。それゆえ、絵柄印刷層2が赤外光を透過し、透過した赤外光を着色基材層1が反射するため、赤外光の熱による蓄熱作用が低減される。 【0014】 ここで、印刷インキの透過率の測定方法としては、厚み25μmの2軸延伸PETフィルム(東レ株式会社製ルミラーS50)に対し、重量1g/m2となるよう顔料を分散したインキで印刷し、株式会社島津製作所製分光光度計UV3600によって波長782nm以上2500nm以下の領域を2nm毎に測定点数860点の透過率を測定し、各波長の透過率(%T)の合計値を測定点数で除算した除算結果を、赤外光の透過率とする方法を用いる。即ち、式「赤外光の透過率=赤外線各波長(782nm以上2500nm以下)の測定透過率(%T)合計値÷測定点数(860)」で算出する。 また、絵柄印刷層2の厚みは5μm以上10μm以下が好ましい。さらに、絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下とすることが好ましい。」 イ 「【0027】 (2)本実施形態に係る化粧シート20では、絵柄印刷層2の印刷インキは、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、及び酸化チタンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含む。 このような構成によれば、着色基材層1、絵柄印刷層2を適切に形成できる。」 ウ 「【実施例1】 【0029】 次に、本発明に基づく実施例について説明する。 (実施例1) 実施例1では、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3質量部、紫外線吸収剤を1質量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1質量部、酸化チタン(顔料、白色)を23質量部添加した混合物を使用して着色基材層1を設けた。着色基材層1の厚みは70μmとした。続いて、着色基材層1の表面に、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂とを7:3で混合した混合物100質量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートとを2:8で混合した硬化剤を3質量部、イソインドリノン、ポリアゾ、及びフタロシアニンからなる顔料を3質量部添加したインキを使用してグラビア印刷により絵柄(木目柄)を印刷し、絵柄印刷層2を設けた。絵柄印刷層2の印刷インキの赤外光の透過率は40%とした。」 エ 「【0031】 (実施例2) 実施例2では、着色基材層1の顔料として、酸化チタン23質量部に対し、ジケトピロロピロール2質量部、キナクリドン2質量部、フタロシアニン1質量部を添加した。それ以外は、実施例1と同様の手順により、実施例2の化粧シート20を作製した。 (実施例3) 実施例3では、表面保護層5の厚みを12μmにした。それ以外は、実施例1と同様の手順により、実施例2の化粧シート20を作製した。 【0032】 (実施例4) 実施例4では、表面保護層5の厚みを15μmにした。それ以外は、実施例1と同様の手順により、実施例2の化粧シート20を作製した。」 オ 「【0036】 表1から、オーバーレイフィルム層4の少なくとも表面側(表面保護層5)がベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂から構成され、着色基材層1が酸化チタンを顔料とし、絵柄印刷層2が赤外光の透過率が40%以上であるインキを印刷インキとして、本発明の範囲を満足する実施例1~実施例4では、耐候性、遮熱性、蓄熱性ともに良好であることが分かった。即ち、耐候性に優れるとともに、太陽光による反りの発生を抑制できることが分かった。」 上記ア及びイにおいて、「酸化チタン」は、「印刷インキ」の「顔料」として例示されてはいるが、上記ウ及びエにおいて、「酸化チタン」を「印刷インキ」の「顔料」とした実施例は記載されていない。 そして、上記アには「印刷インキは、赤外光の透過率が40%以上」(段落【0013】)であること及び「絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下」(段落【0014】)であることが記載され、上記オには「・・・絵柄印刷層2が赤外光の透過率が40%以上であるインキを印刷インキとして、本発明の範囲を満足する実施例1~実施例4では、耐候性、遮熱性、蓄熱性ともに良好であることが分かった。」(段落【0036】)と記載されていることからみても、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲には、「印刷インキ」が「赤外光の透過率が40%以上」であること、「印刷インキ」の顔料として「酸化チタン」が例示されていること、「絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下」であることが記載されているのみであるといえる。 一方、本件訂正は、上記1.のとおり「赤外光の透過率が40%以上となるように」との発明特定事項が「絵柄印刷層」にかかるような文言にするとともに、印刷インキは、「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて含むインキ」とするものである。 してみると、「印刷インキ」の性状として「赤外光の透過率が40%以上」であることを削除するとともに、顔料である「酸化チタン」の含有量の上限を特定しない構成とする本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 本件訂正は、上記1.のとおり、「赤外光の透過率が40%以上となるように」との発明特定事項が「絵柄印刷層」にかかるような文言にするとともに、印刷インキは、「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて含むインキ」とするものである。 してみると、「印刷インキ」の性状として「赤外光の透過率が40%以上」であることを削除するとともに、顔料である「酸化チタン」の含有量の上限を特定しない構成とする本件訂正は、「印刷インキ」に係る発明特定事項の範囲を拡張し、結果として「絵柄印刷層」に係る発明特定事項の範囲を変更するものであるといわざるを得ない。 (3)特許権者の意見について 特許権者は、訂正請求書の7.(3)(イ)(c)において『当該「50%以下」との記載は「赤外光の透過率が40%以上」との条件を満たさない値までも含むものである一方、その上限値については公知であり明確であることから、上記に示した通りに訂正したものである。』と主張する。 また、令和3年7月28日提出の意見書の5(2)(え)及び(お)において『さらに、酸化チタンの含有量に関する「50質量%以下の範囲内」との記載を削除した場合であっても、上述したように「赤外光の透過率が40%以上となるように」化粧シートを構成するために採用し得る酸化チタンの含有量の上限値は、公知の内容であり、新規事項には該当しない。』、『しかしながら上述したように、酸化チタンの含有量は、「赤外光の透過率が40%以上となるように」絵柄印刷層の材質等の様々な条件を加味した上で決定されるものである。』、『この点に関して、当業者からすれば「赤外光の透過率が40%となるように」酸化チタンの含有量の上限を定める場合に、様々な条件を加味しても図2に示されているように「50質量%を超えて」定めることは考えられないことに鑑みれば、「50質量%以下の範囲内」との記載を削除したことがそのまま「50質量%」を超える値を包含する範囲となったことを示すものではない。』と主張する。 しかしながら、上記のとおり、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されているのは、「印刷インク」の性状として「赤外光の透過率が40%以上」であること、「印刷インキ」の顔料として「酸化チタン」が例示されていること及び「絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下」であることであって、「絵柄印刷層」の「赤外光の透過率が40%以上」であることが記載されているとはいえない。 また、絵柄印刷層の「赤外光の透過率が40%以上」との条件を満たす「酸化チタン」の含有量が刊行物に記載されており、当業者に公知又は周知であったとしても、当該事実をもって、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項として、「赤外光の透過率が40%以上」との条件を満たす「印刷インキ」の顔料としての「酸化チタン」の含有量が記載されているということはできない。 また、絵柄印刷層の赤外光の透過率は、絵柄印刷層の材質や厚み、絵柄印刷層に含まれる酸化チタン以外の顔料の有無や添加剤の有無などによって変化し得る値であって、「酸化チタン」の含有量の上限も変化し得るものであり、「赤外光の透過率が40%以上」との条件下であったとしても、「絵柄印刷層」における「酸化チタン」の含有量の上限を特定しない構成とすることになんら変わりはなく、特許権者の意見を採用することはできない。 5 まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合しないから、本件訂正は、認められない。 第3 本件特許 上記のとおり、本件訂正は、認められないから、本件特許の請求項1~請求項3に係る発明(以下、単に「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、特許請求の範囲に記載された請求項1~3により特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】 着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、 前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、 前記オーバーレイフィルム層の少なくとも表面側は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、前記アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であり、 前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキとし、 前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むことを特徴とする化粧シート。 【請求項2】 前記印刷インキは、酸化チタンの他に、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン及びフタロシアニンのいずれか、或いはこれらの混合物を顔料として含むことを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。 【請求項3】 請求項1または2に記載の化粧シートを基材に貼りあわせてなることを特徴とする化粧板。 第4 取消理由の概要 本件発明1~本件発明3に対して、当審が令和3年3月24日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。 ○理由1(サポート要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 ○理由2(明確性要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 ○理由3(実施可能要件) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 ○理由4(進歩性) 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲1発明及び甲6~甲11に記載された事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 [引用文献一覧] 甲1:特開2013-86451号公報 甲2:特許第3732504号公報 甲3:特開2010-043496号公報 甲4:特開2009-228416号公報 甲5:特開2010-089281号公報 甲6:特開2003-291278号公報 甲7:特開2008-201050号公報 甲8:特開2002-60698号公報 甲9:特許第5279437号公報 甲10:特開2009-255487号公報 甲11:特開平11-48437号公報 甲1~甲11は、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付された甲第1号証~甲第11号証であり、甲1~甲11の各々に記載された事項を各々、甲1記載事項~甲11記載事項という。 第5 当審の判断 1.理由3(実施可能要件)について (1)絵柄印刷層について ア 本件発明1は、「印刷インキ」を「赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキ」と特定しているところ、「赤外光の透過率が40%以上であり」という記載は、「インキ」が達成すべき結果によって「インキ」を特定しようとする記載である。 イ ここで、赤外光の透過率と酸化チタンの含有量との関係についてみると、酸化チタンを1.8重量%~2.9重量%含有する印刷インキの赤外光透過率は40%以上(甲2参照)となるが、5.5重量%含有する印刷インキの赤外光透過率は26.5~36.8%(甲4参照)であるから、印刷インキにおける酸化チタンの含有量が0質量%を超えて50質量%以下の全範囲において、印刷インキの赤外光の透過率を40%以上とすることはできない、ということが当業者の技術常識であるということができる。 ウ そこで、「赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキ」について、本件特許の発明の詳細な説明の記載をみると、本件特許の発明の詳細な説明には、一応「【0014】・・・さらに、絵柄印刷層2を構成する樹脂内の酸化チタンの比率は50%以下とすることが好ましい。」と記載されているものの、「印刷インキ」を「赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキ」とした実施例は記載されておらず、実施例の「印刷インキ」が「赤外光の透過率が40%以上であ」ることも記載されず、かつ、このようなインキを製造する方法について記載も示唆もされていない。 エ そうすると、当業者が、「赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキ」、例えば「赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として」「50質量%」「含むインキ」を用い本件発明1を実施しようとしても、その実施は不可能であるか、実施可能であるにせよ、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要がある。 したがって、本件発明1は、当業者が本件特許の発明の詳細な説明の記載をみても、その全部について実施をすることができないことが明らかである。 オ 特許権者は、令和2年12月17日提出の意見書の第3ページ第25行~第26行において「当業者が本願特許発明を実施するに当たっても、特段試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要もない。」と主張するが、上記のとおり、技術常識を参酌すると、「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」印刷インキは、「赤外光の透過率が40%以上」にならない数値範囲を含むことが明らかであって、例えば、酸化チタンを顔料として50質量%含む印刷インキで、赤外光の透過率を40%以上とする際に、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるといわざるを得ないから、特許権者の当該主張は的を射ないものである。 (2)着色基材層と絵柄印刷層との関係について ア 本件発明1は、「前記絵柄印刷層2は、赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキ」であるとともに「前記着色基材層1は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含む」ものである。 イ 一方、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、絵柄印刷層に用いる印刷インキに顔料として「酸化チタン」を用いることが記載されているが、「赤外光の透過率が40%以上」であり、かつ「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含む」印刷インキは、そもそも記載されていない。 ウ また、実施例1~4に記載された絵柄印刷層における「酸化チタン」を含まない印刷インキについても、その赤外光の透過率は記載されていないから、実施例1~4において、外部から入射する赤外光のうちどの程度が絵柄印刷層で反射され、絵柄印刷層を透過した赤外光のうちどの程度が着色基材層で反射され、当該反射された赤外光のうち、どの程度が絵柄印刷層を透過して外部に反射されているのか、技術常識を参酌しても当業者が理解できる程度に記載されていない。 エ してみると、本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該明細書及び図面に記載された説明と出願時の技術常識とに基いて本件発明1~3を実施しようとした場合に、どのようにすれば実施できるかを見いだすために、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要があるといわざるを得ないから、当業者が本件特許の請求項1~3に係る発明を実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 2.理由4(進歩性)について (1)引用文献の記載事項、及び引用文献に記載された発明 ア 甲1に記載の事項 甲1には次の記載がある。 (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、すなわちその課題とするところは、短納期で安価に製造可能であり、耐候性や耐摩耗性、耐水性等の各物性に優れ、かつ光線遮蔽効果を有しながら、しかも絵柄の深み等の意匠性にも優れた遮熱化粧シートを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明はこの課題を解決したものであり、すなわちその請求項1記載の発明は、着色ベースフィルム層、印刷層、オーバーレイフィルム層を少なくともこの順に積層してなる遮熱化粧シートにおいて、前記着色ベースフィルム層の着色顔料として酸化チタンを用い、前記印刷層の顔料としてイソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンの少なくとも一つ以上を用いることを特徴とする遮熱化粧シートである。」 (イ)「【発明の効果】 【0009】 太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する。本発明はその請求項1記載の発明により、着色ベースフィルム層と印刷層に特定の顔料を用いる事で、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とする。 【0010】 またその請求項2記載の発明により、オーバーレイフィルム層の樹脂を特定しさらにその表面側に特定の樹脂のコーティング層を設けることで経時の耐候性と光線遮蔽効果の維持とを可能とした。」 (ウ)「【発明を実施するための形態】 【0013】 以下、本発明を図面に基づき詳細に説明する。図1に本発明の遮熱化粧シートの一実施例の断面の形状を示す。着色ベースフィルム層1、印刷層2、オーバーレイフィルム層3からなり、適宜接着剤層4やコーティング層5を設けてなる。 【0014】 本発明における着色ベースフィルム層1としては、塩化ビニル樹脂代替として取り扱いが容易なホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好適に用いられる。また、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダートアミン系光安定剤などを適宜するのが好適である。 【0015】 本発明における着色ベースフィルム層1に用いる顔料としては、酸化チタンが用いられる。これにより、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となる。 【0016】 本発明における印刷層2としては、前記着色ベースフィルム層1に好適なインキを用いて設ければ良い。具体的には前記ベースフィルム層1がポリプロピレン樹脂であれば、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂の混合物が好適に用いられる。 【0017】 本発明における印刷層2に用いる顔料としては、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン、フタロシアニン、酸化チタンの少なくとも一つ以上を用いる。これにより、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となる。 【0018】 本発明におけるオーバーフィルム層3としては、さらにこの表面にコーティング層5を設ける場合は、前記着色ベースフィルム層1や印刷層2との層間密着を考慮して樹脂を選択すればよく、具体的には前記着色ベースフィルム層1がホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂であるなら同様のホモまたはランダムポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン樹脂が好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードアミン系光安定剤を添加するのが好適である。 一方、オーバーレイフィルム層3が表面層となる場合は、ポリメチルメタアクリル樹脂を用いるのが好ましく、紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤を添加するのが好適であり、層間密着を考慮して印刷層2との間にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂の少なくとも1つ以上からなる接着剤層4を設けるのが好ましい。 【実施例1】 【0019】 着色ベースフィルム層1として、ポリエチレン樹脂100重量部に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3重量部、紫外線吸収剤を1重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部、酸化チタンを23重量部添加して、厚み55μmに製膜した。 【0020】 前記着色ベースフィルム1の表面に印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷した。 【0021】 前記着色ベースフィルム1の印刷層2を設けた面に、オーバーレイフィルム層3として、ランダムポリプロピレン系樹脂を用い100重量部に対して紫外線吸収剤0.5重量部とヒンダードアミン系光安定剤0.3重量部を添加したものを溶融押出により設け、乾燥後の厚みが70μmとなるようにして設けた。 【0022】 最後に、前記オーバーレイフィルム層3の表面にアクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設け、遮熱化粧シートを作成した。」 (エ)「【0027】 <性能比較2> また、縦20cm横11cm厚みが0.6mmの無塗装鋼板に対して、接着剤を用いて、片面のみ遮熱化粧シートを貼り合わせたものについて、ハロゲン球を真上から15cm離したところから、遮熱化粧シートが照射面になるよう30分間照射し続け、鋼板表裏を1分毎に温度を記録し、最大値を測定した。結果を表2に示す。」 甲1の上記記載事項の【0013】、【0022】の記載からみて、【0022】で、「オーバーレイフィルム層3の表面にコーティングにより設けられたものは「コーティング層5」であるから、オーバーレイフィルム層3の表面にコーティング層が設けられていること、及びコーティング層は、アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設けたものであることが理解できる。 イ 甲1に記載された発明 上記アで摘記した事項及び認定事項のうち、特に実施例1に関する事項に着目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 (甲1発明) 「着色ベースフィルム1の表面に印刷層2として、木目柄をグラビア印刷にて印刷し、着色ベースフィルム1の表面に印刷層2を設けた面に、オーバーレイフィルム層3を設け、 着色ベースフィルム層1として、ポリエチレン樹脂100重量部に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3重量部、紫外線吸収剤を1重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部、酸化チタンを顔料として23重量部添加して、厚み55μmに製膜し、 オーバーレイフィルム層3の表面にアクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるようにして設けたものであり、 印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷した遮熱化粧シート。」 ウ 甲6に記載の事項 甲6には次の記載がある。 (ア)「【請求項1】化粧シート本体の表面に、トップコート樹脂層が形成されてなる化粧シートにおいて、前記トップコート樹脂層が、アクリル系樹脂と繊維素系樹脂との混合組成物からなることを特徴とする化粧シート。 【請求項2】前記アクリル系樹脂が、アクリルポリオール系樹脂とイソシアネート系硬化剤との反応により生成するアクリルウレタン系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。」 (イ)「【0044】しかる後、アクリルポリオール系樹脂88重量部、セルロースアセテートプロピオネート樹脂2重量部、ヘキサメチレンジイソシアネート系硬化剤10重量部の混合組成物を主成分とし、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤を添加したトップコート塗料を、グラビアコート法により全面に乾燥後の塗布量9g/m2に塗工し、乾燥養生硬化させてトップコート樹脂層を形成して、本発明の化粧シートを作製した。」 エ 甲7に記載の事項 甲7には次の記載がある。 「【0055】 透明熱可塑性樹脂層として片面易接着処理された厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、易接着処理層とは反対面にコロナ処理を行った。このコロナ処理面に、透明表面保護層としてヘキサメチレンジイソシアネート系イソシアネートを10重量部添加した、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が内添されたアクリルウレタン樹脂を、メチルエチルケトンと酢酸エチルを1:1で混合した希釈溶剤にて#4ザーンカップで15秒に調整したものを用い、これをグラビアロールコート法にて塗布し乾燥後の皮膜厚み8μmの層を得た。」 オ 甲8に記載の事項 甲8には次の記載がある。 (ア)「【0007】 【発明の実施の形態】[赤外線透過層形成用組成物]本発明の赤外線透過層形成用組成物は、樹脂成分と、波長800~1600nmの赤外線に対する吸収率が50%以下の顔料を含み、カーボンブラックの含有量が0.1重量%以下のものである。この赤外線透過層形成用組成物は、液状もしくは粉体の塗料であってもよいし、フィルム状であってもよいし、物品の表面を構成する壁材やパネル等であってもよい。本発明では、太陽光に含まれる赤外線の中で特に発熱に大きく寄与する波長800~1600nmの赤外線を強く吸収するカーボンブラックの使用量を少なく、又はゼロにすることにより、赤外線の吸収を抑制する。一方、発色剤として上記条件を満たす顔料を使用することにより、赤外線の吸収は制限しながら、さまざまな発色が可能となる。カーボンブラックの含有量が少ないほど赤外線吸収は少なく、カーボンブラックの含有量は好ましくは0.05重量%以下、より好ましくは0重量%である。」 (イ)「【0009】赤外線透過層形成用組成物に含まれる顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用可能である。無機顔料としては、酸化鉄顔料、酸化チタン顔料、複合酸化物系顔料、酸化チタン被覆雲母顔料、酸化鉄被覆雲母顔料、鱗片状アルミニウム顔料、酸化亜鉛等が使用可能である。…顔料量が多いと、赤外線が赤外線透過層を透過しにくくなって塗膜に吸収される赤外線量が増加してしまい、他方、顔料量が少ないと、十分に発色させることが困難になるからである。… 【0010】[赤外線反射体]上述した赤外線透過層形成用組成物は、波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が60%以上である赤外線反射層を被覆する目的で使用され、発色層かつ保護層としての赤外線透過層を形成する。このような2層構造を有する赤外線反射体によれば、発色層である赤外線透過層を通過した赤外線が、その下にある赤外線反射層で反射され、再び赤外線透過層を通過して外へ逃げるので、遮蔽される構造物などの温度上昇を低く抑えることができる。また、赤外線透過層の顔料として、前述した顔料から所望の色のものを選択することにより、必要な発色および意匠性を付与できる。すなわち、下層で主に赤外線反射作用を得る一方、上層により意匠性を向上する。さらに、下層である反射層を上層で保護するため、長期にわたって安定した赤外線反射機能を持続できる。前記赤外線反射層は波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が60%以上かつ透過率が25%以下であり、より好ましくは透過率は10%以下である。その透過率が25%より大であると、反射体としての反射率が低下する。なお、ここでいう反射率、透過率、吸収率は層全体として測定した数値を意味し、それらの測定は、例えば日立製作所製自動記録分光光度計「U-4000」を用いて測定することができる。反射の測定は、例えば5°正反射の条件で行うことができる。前記赤外線透過層は、波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が60%未満、吸収率が50%以下である。吸収率が50%よりも大であると、反射体としての反射率が低下する。また、透過率が30%未満であると、反射体としての反射率が低下するので透過率は30%以上であることが望ましく、50%以上であるとより好ましい。」 (ウ)「【0017】[実施例1]赤外線反射層として、ABS樹脂:60重量部と、酸化チタン「FR41」(古河鉱業社製、平均粒子径0.2μm、純度94%):40重量部とを加熱混練し、厚さ3mmの平板に成形し、図1に示す白色のABS樹脂板である赤外線反射層12を作成した。この赤外線反射層は、波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が80%、透過率が1%である。次に、以下の原料を予めミキサーで攪拌し、その後、サンドミルで均一に分散することにより、赤外線透過層形成用組成物(A)を作成した。 アクリルワニス(固形分50%):68.0重量部 ペリレンブラックS-0084(BASF製):3.0重量部 シムラファーストエロー4192(大日本インキ化学工業社製):1.0重量部 クロモフタルレッド6820(大日精化工業社製):0.2重量部 トルエン5/キシレン10混合溶液:27.8重量部 この塗料組成物の色は、マンセル記号で表すと5YR2/1.5であり、目視すると濃茶色である。また、波長800~1600nmの赤外線に対する吸収率は、樹脂成分では1%、顔料では9%である。この赤外線透過層形成用組成物(A)をスプレー可能な粘度までシンナーで希釈し、赤外線反射層12上にエアスプレーガンにて吹き付け塗装を行い、室温にて10分間乾燥後、80℃で30分間乾燥を行い、赤外線透過層として約25μmの厚みの塗装層14を形成し、濃茶色の赤外線反射体10を得た。この赤外線透過層は、波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が20%、樹脂と顔料の吸収率が10%、透過率が70%である。」 (エ)「【0025】[実施例5]下記各成分をミキサーで攪拌し、その後、サンドミルで均一に分散することにより赤外線反射層用塗料を調製した。 アクリルワニス(固形分60%):50.0重量部 酸化チタン(「FR41」古河鉱業社製、平均粒子径:0.2μm、純度:94%):25.0重量部 トルエン5/キシレン15混合溶液:25.0重量部 この赤外線反射層用塗料をスプレー粘度までシンナーで希釈し、エアスプレーガンにてアルミニウム板の表面に吹き付け塗装を行い、室温にて10分間乾燥後、80℃で30分間乾燥を行うことにより、平均25μmの膜厚の赤外線反射層を形成した。この赤外線反射層は、波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が85%、透過率が0.0%である。次に、下記各成分をミキサーで攪拌し、その後、サンドミルで均一に分散することにより、赤外線透過層形成用組成物を作成した。 アクリルワニス(固形分60%):50.0重量部 ペリレンブラックS-0084(BASF製):6.0重量部 バイフェロックス120M(Bayer製):2.0重量部 タロックスHY250(チタン工業社製):2重量部 トルエン10/キシレン15混合溶液:40重量部 この赤外線透過層形成用組成物において、波長800~1600nmの赤外線に対する吸収率は、樹脂成分では1%、顔料では14%である。この赤外線透過層形成用組成物をスプレー粘度までシンナーで希釈し、上記赤外線反射層上に、エアスプレーガンにて吹き付け塗装を行い、室温にて10分間乾燥後、80℃で30分間乾燥を行うことにより、平均20μmの膜厚の赤外線透過層を形成し、赤外線反射体を製造した。この赤外線透過層は、波長800~1600nmの赤外線に対する反射率が20%、吸収率が20%、透過率が60%である。」 カ 甲9に記載の事項 甲9には次の記載がある。 (ア)「【0032】 また、表層の赤外光吸収が低いほど熱の発生が低減できるので、表層を構成する材料の光線透過率は高いことが望ましい。 例えば、表層は、その全光線透過率が50%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である。ただし、全光線透過率は、JIS K7105(プラスチックの光学的特性試験方法)に準拠した測定法によって測定される値をいう。」 (イ)「【0040】 太陽光の中で、波長700nm~2500nmの光は赤外線と呼ばれる(近赤外線と呼ばれる場合もあるが、本発明では、波長700nm~2500nmを赤外線という)。一般に、赤外線が物質に当たると、そのエネルギーが物質を構成する分子の振動を活性化し、分子振動に伴う熱エネルギーが発生し、物質の温度を上昇させる。 上記遮熱層には、赤外線を反射する赤外線反射剤が含まれているので、表層から入射した赤外線の多くは、遮熱層において反射され、表層から外部へと出射される。このため、射熱シートの温度上昇を抑制できる。特に、赤外線反射剤は、赤外線吸収剤とは異なり、赤外線を反射するため、遮熱層が蓄熱することを防止できる。よって、本発明の射熱シートを階下に居住空間がある場所(例えば、マンションのベランダ、ルーフバルコニー及び通路、並びに、建物の屋根など)に敷設することにより、その居住空間の温度上昇を抑制できる。 【0041】 上記遮熱層を構成する合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、アクリロニトリル・スチレン、ナイロン、ポリアセタール、アクリル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、これらの共重合体、及びエポキシ樹脂などの反応型樹脂等が挙げられる。 これらの合成樹脂は、1種単独で又は2種以上を併用することもできる。 好ましくは、遮熱層の主たる合成樹脂は、ポリ塩化ビニルである。ポリ塩化ビニルは、本発明の遮熱シートの加工に適しており、更に、経済的にも有利である。 【0042】 上記赤外線反射剤としては、顔料、マイクロバルーン、ガラスビーズ等が挙げられる。中でも、700~2500nmの波長領域における日射反射率が50%以上の赤外線反射剤が好ましく、60%以上の赤外線反射剤が更に好ましい。なお、日射反射率は、JIS K 5602の「塗膜の日射反射率の求め方」に記載の日射反射率の測定方法に準じて、波長300nm~2500nmにおいて波長5nm間隔で分光反射率を測定し(測定機器:分光光度計。島津製作所製の製品名「UV-3600」)、これから計算した値である。」 キ 甲10に記載の事項 甲10には次の記載がある。 (ア)「【0015】 <表面層(A)> 本発明にかかる表面層(A)は、780~1600nmの近赤外線領域において30%未満の日射吸収率を有し、780~1600nmの近赤外線領域において50%以上の日射透過率を有し、且つ380~780nmの可視光線領域において80%以上の日射吸収率を有する着色層である。本発明にかかる表面層(A)に用いる合成樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、これらの樹脂からなる熱可塑性エラストマー系樹脂が挙げられる。これらの合成樹脂の中でも、風合い、耐光性及び加工性の観点から、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂が好ましい。また、このような表面層(A)は、密着性及びリサイクル性の観点から、後述する反射層(B)を構成する合成樹脂と同一系の合成樹脂からなることが好ましい。このように表面層(A)及び反射層(B)が同一系の合成樹脂から構成される場合には、接着剤層を設けなくとも密着性が優れたものを得ることができる。また、このように表面層(A)及び反射層(B)が同一系の合成樹脂から構成される場合には、積層したものを分離せずにリサイクルを行うことができる点で有利である。」 (イ)「【0055】 以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例においては、樹脂、顔料、充填剤及び各種添加剤としてそれぞれ以下のものを用いた。 ポリ塩化ビニル系樹脂:新第一塩ビ社製「PX-QHPN」 ウレタン系樹脂:大日精化工業社製「レザミン NE-8875」 アクリル系樹脂:溶剤型アクリル樹脂、東栄化成社製「アクリナールXC#9000」 熱可塑性エラストマー樹脂:三井化学社製「ミラストマー N-8030」 オレフィン系樹脂:LDPE、プライムポリマー社製「ウルトゼックス 2022L」 可塑剤:イソノニルフタレート、積水化学工業社製 発泡剤:ADCA系熱分解型化学発泡剤、大塚化学社製「ユニフォームAZ」 安定剤1:Ba-Zn系熱安定剤、旭電化工業社製「FL-54」 安定剤2:酸化防止剤、旭電化工業社製「AO-60」 顔料1:酸化チタン微粒子、重量平均粒子径:410nm、テイカ社製「チタニックスWP0042」 顔料2:黒色顔料、BASF AG社製「パリオゲンブラックS-0084」 顔料3:黒色顔料、レジノカラー工業社製「DPF-T-7939B」 顔料4:黒色顔料、Shepherd社製「ARCTIC Black 10C909」 顔料5:黒色顔料、Shepherd社製「ARCTIC Black 411」 顔料6:黒色顔料、東海カーボン社製「トーカブラック#8500/F」。」 (ウ)「【0071】 【表1】 [図:0001384023000001.jpg] 【0072】 【表2】 [図:0001384023000002.jpg] 」 ク 甲11に記載の事項 甲11には次の記載がある。 (ア)「【0008】着色剤としては、図4(a)~(c)の概念図或いは図5(後述)の実測データに示す如く、可視光線帯域(波長380~780nm)内の一部の波長域にのみ吸収のピークを有し且つ太陽赤外線全帯域(波長780~3000nm)で透過性を有する染料或いは顔料を使用する。また、これらの着色剤は太陽光線に曝露することが前提となるため、十分な(所望の)耐候性を有するものを選ぶ必要がある。例えば、黄鉛、チタニウムレッド、弁柄、朱、カドミウムレッド、群青、紺青、コバルトブルー、イソインドリノン、キナクリドンレッド、フタロシアニンブルー、インダスレンブルー等を挙げることができる。これらの染料或いは顔料の中から、各着色剤の吸収スペクトル帯域を全部重ね合わせることによって可視光線帯域内全域を覆うような吸収スペクトルとなる2種類以上の組合せを選ぶ。混合比率は通常各顔料を大体等分(3種類の場合、1:1:1)とすることが基本であるが、所望の暗色の色相によって、或いは着色剤の混色特性に応じて適宜増減する。混合着色剤の添加量は、通常、樹脂中に1~85重量%程度であり、具体的には太陽赤外線透過性樹脂に添加し、所定の層厚に形成した状態で、太陽赤外線の全帯域において好ましくは70%以上の透過率を有し、且つ可視光線帯域内において所望の暗色となるように添加量を加減する。着色剤自体の隠蔽性によっても添加量は依存する。」 (イ)「【0013】太陽赤外線反射性基材としては、太陽光線曝露時の温度上昇の原因となる太陽赤外線の帯域において高い反射率を有するものを用いる。鉄、ステンレス鋼、チタニウム等も用いられるが、反射率としては好ましくは太陽赤外線の全帯域で60%以上あるものを選ぶ。具体的には、アルミニウム、金、銀、銅、黄銅等の金属、或いは任意の材料の基材の表面のみにこれらの金属、二酸化チタン、硫酸バリウム、亜鉛華等の太陽赤外線反射性物質の層を形成したものでもよい。層の形成法としてはこれらの材料の箔片或いは粉末を分散せしめた塗料を塗布するか、特に金属の場合は箔の貼り合わせ、真空蒸着、スパッタリング、電解又は無電解メッキ等の薄膜形成法による。任意の基材としては、前記以外の金属、木材、陶磁器、硝子、樹脂、或いはこれらの積層体等が挙げられる。太陽赤外線反射性基材の形状としては、平板、彎曲板等の板、四角柱、円柱等の柱状体、シート、各種立体形状等任意であり、用途に応じて設計する。」 (ウ)「【0027】 【発明の効果】以上説明したように、本発明の外装用化粧材は、目視では暗色に見えるものでありながら、太陽光線に曝露しても太陽光線中の赤外線は吸収されることなく反射されるため、輻射熱により温度が上昇するのを防止できる。」 (エ)「【図2】 [図:0001384023000003.jpg] 」 (オ)「【図5】 [図:0001384023000004.jpg] 」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「着色ベースフィルム1」及び「着色ベースフィルム層1」は本件発明1の「着色基材層」に相当し、以下同様に「印刷層2」は「絵柄印刷層」に、「オーバーレイフィルム層3」は「オーバーレイフィルム層」に、「コーティング層5」は「表面保護層」に、「遮熱化粧シート」は「化粧シート」に相当する。 甲1発明の「着色ベースフィルム1の表面に印刷層2として、木目柄をグラビア印刷にて印刷し、着色ベースフィルム1の表面に印刷層2を設けた面に、オーバーレイフィルム層3を設け」たことは、本件発明1の「着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてな」ることに相当する。 「ポリエチレン樹脂」は「ポリオレフィン系樹脂」であるから、甲1発明の「着色ベースフィルム層1として、ポリエチレン樹脂100重量部に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を3重量部、紫外線吸収剤を1重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を1重量部、酸化チタンを顔料として23重量部添加して、厚み55μmに製膜」することは、本件発明1の「前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からな」り、「前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含むこと」ことに相当する。 「オーバーレイフィルム層」について、甲1発明の「アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系光安定剤5重量部を添加したもの」と、本件発明1の「ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂」とは、「紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂」の限りで一致する。 「絵柄印刷層」について、甲1発明において、「印刷層2として、ウレタン樹脂と塩化ビニル=酢酸ビニル共重合樹脂を7:3の割合で混合したもの100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートを2:8の混合からなる硬化剤を3重量部添加して、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし、木目柄をグラビア印刷にて印刷」することは、「絵柄印刷層」が「顔料を含むインキを印刷インキとし」た限りで、本件発明1において、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキとし」たことと一致する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、相違点で相違する。 [一致点] 「着色基材層の一方の面側に、印刷により形成された絵柄印刷層、及びオーバーレイフィルム層がこの順に積層されてなり、 前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂からなり、 前記オーバーレイフィルム層の表面は、紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂からなり、 前記絵柄印刷層は、顔料を含むインキを印刷インキとし、 前記着色基材層は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し、酸化チタンを顔料として23質量部以上50質量部以下の範囲内で含む化粧シート。」 [相違点1] 「表面保護層」について、本件発明1では、「前記アクリルウレタン樹脂の固形分塗布量が5g/m2以上10g/m2以下であ」るのに対して、甲1発明では、「アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダートアミン系安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるように設けたもの」であるが、その固形分塗布量が不明な点。 [相違点2] 「表面保護層」について、本件発明1では、紫外線吸収剤が「ベンゾトリアゾール系」であるのに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。 [相違点3] 「絵柄印刷層」の「印刷インキ」について、本件発明1では、「赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキ」であるのに対して、甲1発明では、「イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加」した「インキ」である点。 イ 判断 (ア)相違点1について 上記相違点1について検討する。 アクリルウレタン系樹脂の材料密度が1.0g/cm3程度であることは、当業者にとって従来周知であって、塗布量(g/m2)=材料密度(g/cm3)×厚み(μm)から甲1発明におけるアクリルウレタン系樹脂の固形分の塗布量を計算すると、1.0g/cm3×9μm=約9g/m2となる。 なお、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0030】には、実施例として「・・・続いて、オーバーレイフィルム層4上に、アクリルポリオ-ル100質量部に対し、ヘキサメチレンジイソシアネート10質量部、メチル 3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300の反応生成物を主とするベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤1質量部、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチフェニル)ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤3質量部、ヒンダートアミン系光安定剤5質量部を添加した混合物ををコーティングして表面保護層を設けて、化粧シート20を設けた。表面保護層5の厚みは9μmとした。アクリルウレタン系樹脂の固形分塗布量は5g/m2以上10g/m2以下とした。」と記載されている。 そして、甲1発明の「アクリルポリオール100重量部に対してヘキサメチレンジイソシアネート10重量部と紫外線吸収剤5重量部とヒンダードアミン系安定剤5重量部を添加したものをコーティングにより9μmとなるように設けたもの」は、本件発明1の実施例と比較しても、紫外線吸収剤の配合量が1質量部異なるだけであることから考えて、アクリルウレタン系樹脂の固形分の塗布量が「5g/m2以上10g/m2以下」である蓋然性が高いものである。 さらに、仮に甲1発明のアクリルウレタン系樹脂の固形分の塗布量が「5g/m2以上10g/m2以下」の範囲内に含まれなかったとしても、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0029】~【0032】に記載された実施例1~4及び比較例、段落【0035】の【表1】に記載された評価結果から見て、実施例1、3,4の材料密度が概ね1.0g/cm3であった場合、実施例3、4におけるアクリルウレタン系樹脂の固形分の塗布量は、10g/m2を超えるものであるから、「アクリルウレタン系樹脂の固形分の塗布量が5g/m2以上10g/m2以下」との数値限定に臨界的意義はないものといわざるを得ない。 したがって、相違点1は、実質的な相違点ではなく、仮に実質的な相違点であったとしても、その相違点に臨界的意義はないから、当業者が容易に発明をすることができたといわざるを得ない。 (イ)相違点2について 上記相違点2について検討すると、甲6、甲7の上記(1)ウ、エの記載から、耐候性を向上させるためのトップコート樹脂層としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含むアクリルウレタン系樹脂を用いることは、従来周知の技術手段といえるものであって、甲1発明の紫外線吸収剤として「ベンゾトリアゾール系」紫外線吸収剤を用いることは、当業者が容易に想到し得た周知技術の適用にすぎない。 (ウ)相違点3について 上記相違点3について検討する。 甲1によれば、「太陽光の赤外光領域の熱の吸収によって、蓄熱作用が発生し、結果として基材に伝わる事で、熱膨張が発生し、表裏の温度差によって反りが発生する」(上記(1)ア【0009】)ところ、甲1発明は「着色ベースフィルム層と印刷層に特定の顔料を用いる事で、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能となり、光線遮蔽効果を得て、反りの発生を防止することを可能とする」(上記(1)ア【0009】)ものであり、蓄熱作用の発生を抑制するために、「着色ベースフィルム層」によって反射された赤外光が「印刷層」を透過するよう構成することが必要であるから、甲1発明には、「印刷層」を赤外線が透過するように構成する動機付けがある。 そして、甲8~11の上記オ~クの記載からみて、酸化チタンを含む赤外線反射層等の上に赤外線透過率が40%以上の着色された層を設けることは、本件特許に係る出願前に周知である(以下「周知技術1」という。)。 また、甲1における着色基材層及び絵柄印刷層も赤外光の反射層及び着色された層であることから(上記(1)ア【0015】、【0016】)、甲1発明における絵柄印刷層の印刷インキの赤外光の透過率を40%以上とすることは、当業者が容易に想到し得た周知技術の適用にすぎない。 そして、甲1には、印刷層の顔料として酸化チタンを用いることが記載されていることから(上記(1)ア【0017】)、印刷層の意匠性に応じて印刷インキに、赤外光の透過率が40%未満にならない程度の微量の酸化チタンを含む顔料を採用することは、当業者が技術思想を具現化する際に選択し得た程度の選択的事項にすぎないといえる。 さらに、本件発明1の「赤外光の透過率が40%以上」という数値範囲の下限及び「酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下」という数値範囲の上下限を境にして、当業者に予測し得ない格別顕著な効果又は異質な効果を奏するとはいえない。 (ウ)小括 よって、本件発明1は、甲1発明及び甲6~甲11に記載された事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (エ)特許権者の主張について 特許権者は、令和3年5月17日提出の意見書の第5ページ第20行~第6ページ第16行において、『まず、本件発明1においては、着色基材層の上に絵柄印刷増(当審注:「絵柄印刷層」の誤記と認められる。)が設けられている構成を採用しており、着色基材層は反射層、絵柄印刷層は基本的に透過層としての役割が与えられている。 これに対して、甲1における着色ベースフィルム層に関する段落「0015」、及び、印刷層に関する段落「0017」には、いずれも『これにより、赤外光領域の反射率を一定以上に上げることが可能となる。』と記載されている。すなわち、甲1発明に記載されている遮熱化粧シートにおいては、着色ベースフィルム層及びこの上に設けられている印刷層については、いずれも反射層としての役割が与えられている。 ・・・ 一方、甲8発明ないし甲11発明については、いずれも本件発明1でいうところの、着色基材層(下層)の上に絵柄印刷層(上層)を設ける構成である。ここでは、赤外光は上層を透過し、下層において反射されることになり、上層は透過層、下層は反射層としての役割が与えられている。 このように甲1発明、及び、甲8発明ないし甲11発明については、いずれも下層において赤外光を反射させる点では同じ機能を有するものの、上層における機能は全く異なるものであり、化粧シートにおいて赤外光をどのように反射させるかに関する方法は全く異なるものである。』と主張する。 しかしながら、本件発明1は、「前記絵柄印刷層は、赤外光の透過率が40%以上であり、酸化チタンを顔料として0質量%を超えて50質量%以下の範囲内で含むインキを印刷インキ」とすることを特定しているのであって、「赤外光の透過率が40%」の「インキ」を用いたとしても、残余の60%の赤外光は、インキに反射又は吸収されるものであるから、「上層は透過層、下層は反射層としての役割が与えられている」との特許権者の主張は、的を射ないものであるといわざるを得ない。 また、甲1発明は、「着色ベースフィルム層と印刷層に特定の顔料を用いる事で、赤外光領域の反射率を一定以上に上げる事が可能とな」るものであって(上記(1)ア【0009】)、「着色ベースフィルム層に酸化チタンを23重量部添加して」いるとともに(上記(1)ア【0019】)、印刷層のインキを「イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニンからなる顔料を3重量部添加してインキとし」ているものであって(上記(1)【0020】)、着色ベースフィルム層の酸化チタンにより赤外光を反射し、着色ベースフィルムの表面に積層された印刷層では、赤外光を透過させていることが明らかである。 してみると、特許権者の主張を採用することはできない。 (3)本件発明2について 甲1の段落【0006】、【0020】には、酸化チタンの他に、イソインドリノン、ジスアゾ、ポリアゾ、ジケトピロロピロール、キイナクリドン及びフタロシアニンのいずれか、或いはこれらの混合物を印刷層の顔料とすることができることが記載されている。 よって、本件発明2は、甲1発明及び甲6~甲11に記載された事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)本件発明3について 甲1の段落【0027】には、遮熱化粧シートを無塗装鋼板に貼り合わせることが記載されている。 よって、本件発明3は、甲1発明及び甲6~甲11に記載された事項から把握される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700564

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