特許異議申立
2020-700540
マルチバー経編機による編み方法
- 審判番号
- 2020-700540
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-180010
- 登録番号
- 6641580
- 請求日
- 2020年07月30日
- 審決日
- 2022年08月31日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ティェンハイ レース カンパニー リミテッド
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】木村 一貴
- 【権利者代理人】八木 敏安
- 【異議申立人】高橋 和秀
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 柳本 幸雄
- 審判官 久保 克彦
- 分類
- P1651.113-YAA(D04B) / P1651.121-YAA(D04B) / P1651.536-YAA(D04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6641580号発明「マルチバー経編機による編み方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6641580号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第6641580号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6641580号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成29年9月20日(パリ条約による優先権主張2017年8月14日 中華人民共和国)に出願され、令和2年1月8日にその特許権の設定登録がされ、令和2年2月5日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年7月30日 特許異議申立人高橋和秀(以下、「申立人」という。)による請求項1、2に係る特許に対する本件特許異議の申立て
令和2年11月27日付け 取消理由通知書
令和3年3月2日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年4月8日 申立人による意見書の提出
令和4年2月9日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和4年5月20日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年7月4日 申立人による意見書の提出
なお、令和3年3月2日の訂正請求書による訂正の請求は、令和4年5月20日の訂正請求書による訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1. 訂正の内容
令和4年5月20日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に対し、「前記ループ形成用地ガイドバーと、前記少なくとも1本の緯糸挿入地ガイドバー又はジャカードガイドバーが地組織を形成し、前記複数の柄ガイドバーが柄模様組織を形成し、」との構成を付加し限定する。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「前記スパンデックス糸は、非スパンデックス糸と異なる前記ループ形成用地ガイドバー内に送り込まれ、」との記載を、「ステップ2において、前記スパンデックス糸と非スパンデックス糸とは、異なる前記ループ形成用地ガイドバー内に送り込まれ、前記スパンデックス糸が前記非スパンデックス糸の糸送りルートと独立した糸送りルートを有し、前記非スパンデックス糸が第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、前記スパンデックス糸が第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、」と訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項1の「ステップ3において前記ループ形成用地ガイドバーが地組織のループ形成編織を行い、」との記載を「ステップ3において前記異なるループ形成用地ガイドバーが、ともに地組織のループ形成編織を行うように、前記スパンデックス糸と前記非スパンデックス糸を同じ針フックに挿入し、」と訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項1の「前記マルチバー経編機は、地組織の編織と同時に又は編織の後」との記載を「前記マルチバー経編機は、地組織の編織と同時に」と訂正する。
(5)なお、請求項1の訂正にともなって、請求項1を引用する請求項2も訂正する。
また、訂正前の請求項1、2は、請求項2が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用し、請求項1の記載の訂正に連動して、訂正される関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1、2について請求されたものである。
2. 訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア.訂正の目的の適否
上記1.に示したように、訂正事項1は、請求項1の構成を付加し限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ.新規事項追加の有無
本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0040】
ここで、図27は、地組織を形成するためのループ形成用地ガイドバー1、柄模様組織の柄ガイドバーを形成する柄ガイドバー2及び3、地組織を形成するためのジャカードガイドバー4及び5、地組織を形成するための緯糸挿入地ガイドバー6、シンカー7、針コア8、べら針9、ノックオーバーカム10、地ガイドバーの糸ガイド針11の構造を示す。」
「【0050】
<具体的な実現方法2>
図34は、方法2におけるマルチバー経編機の編織構成概略図である。GB1(図34の1)及びGB2(図34の1’)の2本のループ形成用地ガイドバーを利用して、それぞれA非スパンデックス及びBスパンデックス糸を送り込むことにより、本発明に記載のマルチバー経編地での使用が同様に実現される。本発明に係る編み方法により、編地は、伝線防止性能及び様々な良好な特性を得ることができる。
【0051】
ループ形成用地ガイドバーGB1の工程チェーン番号は、1?0/0?1//フルセットである。
【0052】
ループ形成用地ガイドバーGB2の工程チェーン番号は、1?0/0?1//フルセットである。
【0053】
図におけるジャカードガイドバー4及び5、緯糸挿入地ガイドバー6、各柄ガイドバー3は、それぞれジャカード柄及び様々な形態を有する編織可能な組織を編織する。
【0054】
図35は、方法2におけるマルチバー経編機の編織実施状態の概略図である。糸送り装置16を経てA非スパンデックス地糸を送り出し、張力補償装置13及び糸分け装置12を順に経て地ガイドバーの糸ガイド針孔11に送り込む。糸送り装置15を介してBスパンデックス糸を送り出し、糸ガイドロッド14及び糸分け装置12’を順に経て、地ガイドバーの糸ガイド針孔11’に送り込む。このように、地糸の糸ガイド針孔11及び地ガイドバーの糸ガイド針孔11’のそれぞれには、1本のループ形成糸が送り込まれ、その一本の糸は、A非スパンデックス及びBスパンデックスである。図14に示すように、2組の糸の送り込み位置を変更してよく、送り込み位置を変更しても、マルチバー経編地の伝線防止性能に影響を与えない。これらの2本のループ形成用地ガイドバーは、同時に編織する場合、編地の外観に対する影響がほぼない。これらの2本のガイドバーの挿入編が同時でない(挿入編みの方向が異なる)場合、通常のマルチバー経編地の特性と同じであり、前後のガイドバーは、編地に上下層があるという相違点が現れる。本発明の方法は、布のニーズに応じて変更適用することができる。
【0055】
図36は、方法2の第1工程を示す。地ガイドバーの糸ガイド針は、機械の前方に位置し、針コア8及びべら針9は、最下位(ノックオーバー状態)に位置する。地ガイドバーの糸ガイド針11及び11’は、機械の前方に位置し、古い糸ループ17(スパンデックス糸ループと非スパンデックス糸ループとが重なる)がべら針9からノックオーバーカム10箇所に落ち、新しい糸ループ18(スパンデックス糸ループと非スパンデックス糸ループとが重なる)が形成される。
【0056】
図37は、方法2の第2工程を示す。べら針9は、針コア8に対して上部へ運動すると共に機械前方へ移動し、その上部の針頭部が針コア8の上部の尖部及びノックオーバーカム10から離れる。古い糸ループ17 及び新しい糸ループ18は、べら針9と共に上昇せずにループから後退状態にある。地ガイドバーの糸ガイド針11及び11’は、アンダーラッピング運動及び対応する挿入編み運動を行う。
【0057】
図38は、方法2の第3工程を示す。べら針9は、最高点まで上昇し、且つ機械の最前部まで運動する。地ガイドバーの糸ガイド針11及び11’は、オーバーラッピング運動及び挿入編み運動を行う。A、B糸がそれぞれ針フックに挿入され、糸ループ18が下部へ移動し続ける。
【0058】
図39は、方法2の第4工程を示す。べら針9は、機械の後方へ戻り且つ降下する。針コア8は、上方へ運動し且つ糸ループ18を貫通すると共に、べら針9の針フックを閉口させる。
【0059】
図40は、方法2の第5工程を示す。べら針9は、下方へ運動し続け、このときの針コア8も一緒に下方へ運動する。糸ループ18は、べら針9から離れて古い糸ループまで後退して、新しく形成された糸ループ19(Bスパンデックス及びA非スパンデックスから共に形成された糸ループ)に巻きつく。
【0060】
この方法での編織過程により、図14に示された組織も形成される。」
段落【0050】~【0060】には、本件特許明細書の実施形態としての「具体的な実現方法2」が示されている。当該方法において、特に段落【0053】に、ループ形成用地ガイドバー、緯糸挿入地ガイドバー、ジャカードガイドバーを用いることが記載されている。
同じく「具体的な実現方法1」についての説明として示される段落【0040】の記載を考慮すれば、段落【0053】に示されるループ形成用地ガイドバー、緯糸挿入地ガイドバー、ジャカードガイドバーが地組織を形成し、柄ガイドバーが柄模様組織を形成することは把握できるものと認められる。
したがって、訂正事項1は新規事項を追加するものではない。
ウ. 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加し、限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかであるから、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではない。
(2) 訂正事項2について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項1において特定される、「前記スパンデックス糸は、非スパンデックス糸と異なる前記ループ形成用地ガイドバー内に送り込まれ、」との事項がステップ2において行われるとの構成を付加し限定するとともに、「前記スパンデックス糸が前記非スパンデックス糸の糸送りルートと独立した糸送りルートを有し、前記非スパンデックス糸が第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、前記スパンデックス糸が第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、」との構成を付加し限定するものである。
したがって、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
上記(1)イ.において摘記した事項に加え、本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0041】
スパンデックス原材料と非スパンデックス原材料とが整経及び編織の過程において異なる引取を有し、また、通常のマルチバー経編機のループ形成用地ガイドバー1が通常、1組の糸送り装置しか有せないため、スパンデックスのループ形成編織の適応性を解決するために、スパンデックスの独立した糸送りルートを設計した。テストを経て、本発明は、ループ形成用地ガイドバー1のスパンデックス糸送りに、我が社及びシーメンスが独自に研究開発したアクティブ糸送り装置(具体的なマルチバー経編地によっては、当該糸送り装置を追加しなくてもよい場合がある。或いは、パッシブ糸送り装置を介して又はマルチバー経編機におけるオリジナル糸送り装置を改造して使用することにより、ループ形成用スパンデックスの糸送りを実現してもよい。)を追加した。後述の方法2においても、同様に使用される。」
「【図34】
[図:0001390533000001.jpg]
【図35】
[図:0001390533000002.jpg]
」
段落【0054】には、A非スパンデックス地糸を地ガイドバーの糸ガイド針孔11に送り込み、Bスパンデックス糸を地ガイドバーの糸ガイド針孔11’に送り込むことが記載されている。図34~35には、A非スパンデックス地糸が送り込まれるループ形成用地ガイドバーと、Bスパンデックス地糸が送り込まれるループ形成用地ガイドバーとが異なるループ形成用地ガイドバーであることが記載されている。
段落【0054】には、「糸送り装置16を経てA非スパンデックス地糸を送り出し、張力補償装置13及び糸分け装置12を順に経て地ガイドバーの糸ガイド針孔11に送り込む。糸送り装置15を介してBスパンデックス糸を送り出し、糸ガイドロッド14及び糸分け装置12’を順に経て、地ガイドバーの糸ガイド針孔11’に送り込む」ことが記載されている。
また、段落【0041】には、スパンデックス糸送りに、アクティブ糸送り装置を追加したことと、それが、段落【0050】~【0060】に示される「具体的な実現方法2」においても、同様に使用されることが記載されているから、段落【0054】に記載されたスパンデックス糸のための糸送り装置15としてアクティブ糸送り装置を用いることが記載されていたと認められる。
したがって、訂正事項2は新規事項を追加するものではない。
ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、発明特定事項を直列的に付加し、限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかであるから、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではない。
(3) 訂正事項3について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項3は、ステップ3において用いられるループ形成用地ガイドバーが、「前記異なる」ものであるとの構成を付加し限定するものであり、「前記スパンデックス糸と前記非スパンデックス糸を同じ針フックに挿入し、」するとの構成を付加し限定するものである。
したがって、訂正事項3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
上記(1)イ.及び(2)イ.において摘記した事項に加え、本件特許明細書には以下の記載がある。
「【図36】
[図:0001390533000003.jpg]
【図37】
[図:0001390533000004.jpg]
【図38】
[図:0001390533000005.jpg]
【図39】
[図:0001390533000006.jpg]
【図40】
[図:0001390533000007.jpg]
」
段落【0055】~【0059】、図36~40には、当該異なるループ形成用地ガイドバーがともにループ形成編織を行うように、スパンデックス糸と非スパンデックス糸を同じべら針に挿入することが記載されている。
したがって、訂正事項3は、新規事項を追加するものではない。
ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、発明特定事項を直列的に付加し、限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかであるから、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではない。
(4)訂正事項4について
ア.訂正の目的の適否
訂正事項4は、訂正前の請求項1の「前記マルチバー経編機は、地組織の編織と同時に又は編織の後」との記載を「前記マルチバー経編機は、地組織の編織と同時に」と訂正するものであり、選択肢とされていた発明特定事項の選択肢の一部を削除して減らすものである。
したがって、訂正事項4は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.新規事項追加の有無
上記(1)イ、(2)イ、(3)イにおいて摘記した事項に加え、本件特許明細書には以下の記載がある。
「【0029】
本発明は、マルチバー経編機において、マルチバー経編地の伝線防止特性及び様々な良好な特性を得るために、スパンデックス又はスパンデックスを含む複合糸を使用してループ形成編織を行う方法を提供する。具体的には、マルチバー経編機が編織する際に、既存の非スパンデックス地糸材料のループ形成編織と共に、同じループ形成用地ガイドバーにスパンデックス糸を送り込み、又は、異なるループ形成用地ガイドバー内にスパンデックス糸を送り込んでループ形成編織を行い、他の地ガイドバーと共に地組織を形成させ、同時に、他の柄模様組織と合わせて独特な伝線防止性能を有するマルチバー経編地を共に形成させる。或いは、スパンデックスを含む複合糸を使用してループ形成編織を行い、他の地ガイドバーと共に地組織を形成させ、同時に、他の柄模様組織と合わせて独特な伝線防止性能を有するマルチバー経編地を共に形成させる。」
段落【0050】~【0060】には「具体的な実現方法2」が示されている。当該方法において、特に段落【0053】に、ループ形成用地ガイドバー、緯糸挿入地ガイドバー、ジャカードガイドバーを用いることが記載されている。
段落【0040】の記載から、ループ形成用地ガイドバー、緯糸挿入地ガイドバー、ジャカードガイドバーが地組織を形成し、柄ガイドバーが柄模様組織を形成することは把握できるものと認められる。
そして、地組織を形成するループ形成用地ガイドバー、緯糸挿入地ガイドバー、ジャカードガイドバーと、柄模様組織を形成する柄ガイドバーとを有するマルチバー経編機が、「地組織の編織と同時に、」柄模様組織の編織を行い、柄模様組織の編織と地組織の編織とが組み合わされてマルチバー経編地を形成することは、段落【0029】の記載や経編機における技術常識から明らかである。
したがって、訂正事項4は、新規事項を追加するものではない。
ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は、選択肢とされていた発明特定事項の選択肢の一部を削除するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかであるから、特許請求の範囲の拡張・変更をするものではない。
3. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
布地ウェブを形成するループ形成用地ガイドバー、少なくとも1本の緯糸挿入地ガイドバー又はジャカードガイドバー、及び、複数の柄ガイドバーを有するマルチバー経編機による編み方法であって、
前記ループ形成用地ガイドバーと、前記少なくとも1本の緯糸挿入地ガイドバー又はジャカードガイドバーが地組織を形成し、前記複数の柄ガイドバーが柄模様組織を形成し、
原料糸を準備するステップ1と、
原料糸を前記ループ形成用地ガイドバーに送り込むステップ2と、
前記ループ形成用地ガイドバーが編織作業を開始するステップ3とを含み、
前記原料糸は、N(N≧2)本の糸から構成され、N本の糸中の少なくとも1本がスパンデックス糸であり、少なくとも1本が非スパンデックス糸であり、
ステップ2において、前記スパンデックス糸と非スパンデックス糸とは、異なる前記ループ形成用地ガイドバー内に送り込まれ、前記スパンデックス糸が前記非スパンデックス糸の糸送りルートと独立した糸送りルートを有し、前記非スパンデックス糸が第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、前記スパンデックス糸が第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、
ステップ3において前記異なるループ形成用地ガイドバーが、ともに地組織のループ形成編織を行うように、前記スパンデックス糸と前記非スパンデックス糸を同じ針フックに挿入し、
前記マルチバー経編機は、地組織の編織と同時に、柄模様組織の編織を行い、柄模様組織の編織と地組織の編織とが組み合わされてマルチバー経編地を形成することを特徴とするマルチバー経編機による編み方法。
【請求項2】
ステップ2及びステップ3において、前記ループ形成用地ガイドバーに代えて、ループ形成用ジャカードガイドバーを用いることを特徴とする請求項1に記載のマルチバー経編機による編み方法。」
第4 令和4年2月9日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1. 取消理由の概要
訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審が令和4年2月9日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
【理由1】(新規性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
【理由2】(進歩性)
本件発明1及び2は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載されたものである。また、請求項1、2に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明により、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1、2に係る特許は、第29条第1項第3号、第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消されるべきものである。
<引 用 文 献 一 覧>
以下、本件特許異議申立書に添付した甲第1号証を、以下「甲1」といい、甲1に記載された発明を、以下「甲1発明」という。
甲1: 特開2010-248661号公報
甲2: 特開2009-13554号公報
甲3: 特開2009-256829号公報
2. 当審の判断
(1)甲1には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、非弾性糸と弾性糸にて2重以上に鎖編組織を形成することで、筬の使用枚数を必要以上に増やすことなく、横渡りの入った不体裁なネット目とならず、熱融着により風合いを悪くすることなく、ほつれにくい伸縮性の経編レース地を提供するものである。」
「【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基いて説明するが、本発明は、実施例のものには限定されることはなく、特許請求範囲を逸脱しない範囲において種々の実施が可能である。本発明にかかる経編レース地は、地編組織を編成する1枚以上の地筬のほかに、ネット目や柄形成のためのジャカード筬および/または複数枚の柄筬を備えた経編機により編成される。
【0016】
本発明の経編レース地において、非弾性糸とは、弾性が全く無い糸という意味ではなく、弾性糸と比較して明らかに伸縮性が少ないという意味である。ナイロン糸やポリエステル糸やレーヨン糸や綿糸などがこれにあたる。一方、弾性糸とは、伸度が200%以上の十分な伸縮性を有する糸の意味であり、ポリウレタン糸やゴム糸がこれにあたる。
【0017】
図1は本発明の経編レース地Aの地編組織を示している。地編組織を形成する第1の地糸1である非弾性糸として、例えば22~55dtexのナイロン糸を、第2の地糸2である弾性糸として、44~78dtexのポリウレタン糸を、それぞれ別に給糸して編成するのが好ましい。図1の2重の鎖編組織部分3にて実線で示す第1の地糸1と破線で示す第2の地糸2は、同じ鎖編組織を2重に形成するため、1枚の同じ地筬に同時に導糸して編成することができる。1枚の地筬でなく2枚の地筬でそれぞれの地糸を別々に導糸しても問題は無いが、全く同じ鎖編組織を編成する場合は、編みづらいなど特段の事情がない限りは、1枚の地筬で編成する方が少ない筬枚数で編成ができ効率が良い。すなわち、従来の伸縮性の経編レース地は、鎖編組織を形成する非弾性糸とそれに編み込まれる弾性糸を導糸する2枚の筬が少なくとも必要だったが、本発明の実施例のように1枚の筬で非弾性糸と弾性糸を導糸して2重に鎖編組織を形成した方が、同じ伸縮性の経編レース地を編成するのであっても、少ない筬の使用枚数で編成でき、その分、別の用途に筬を使用できるなどのメリットが大きい。また、更に別の機能を付与するために、第3の地糸を用いて3重の鎖編組織を編成しても良い。
【0018】
通常、経編レース地に安定性を付与するため、編成後に熱セットを施すが、本発明では、その際に前記地糸が溶融して熱融着することのない温度に設定して熱セットをしなければならない。例えば、第1の地糸及び第2の地糸に通常の溶融温度の(低温融着性の糸ではない)糸を使用した場合は、熱セット温度は185℃前後が好ましい。
【0019】
本発明の経編レース地においては、図1には図示していないが、ジャカード筬にて導糸されるジャカード糸か、柄筬により導糸される柄糸の少なくともどちらかの糸を使用して経編レース地上にネット目や柄を表現するのが好ましい。また、この経編レース地は、第2の地糸に弾性糸を使用しているので伸縮性を有するが、更に強力な伸縮性を付加する目的で、第2の地糸である弾性糸以外の別の弾性糸を挿入しても良い。これらの糸を使用する場合も、どの糸も低温で融着しやすい特別な糸は使用せず、一般的な熱セット温度(およそ180℃~190℃)で熱融着してしまわないような、通常の溶融温度の糸を用いる方が望ましい。」
段落【0017】には、地筬に非弾性糸である地糸1と弾性糸である地糸2が給糸されることが記載されており、また、地糸1と地糸2とが鎖編を形成することが記載されているから、地筬は、鎖編用であるといえる。
したがって、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
「経編レース地を編成する鎖編用地筬と、少なくとも1本のジャカード筬、及び/または、複数の柄筬とを有する経編機による編み方法であって、
地筬は地編組織を形成し、
地糸を前記地筬に給糸するステップと、前記地筬が編成を開始するステップとを含み、
前記地糸は、2本の糸から構成され、2本の糸中の1本が弾性糸であり、もう1本が非弾性糸であり、
非弾性糸は弾性糸と比較して明らかに伸縮性が少なく、ナイロン糸やポリエステル糸やレーヨン糸や綿糸などがこれにあたり、
弾性糸は伸度が200%以上の十分な伸縮性を有する糸であり、ポリウレタン糸やゴム糸がこれにあたり、
前記弾性糸と、非弾性糸とは、それぞれ別に給糸して編成するのが好ましく、1枚の同じ地筬に同時に給糸されるか、または、異なる前記地筬内に給糸され、
前記地筬が編成を開始するステップにおいて、前記異なる地筬が地編組織の鎖編の編成を行い、
前記経編機は、柄筬により導糸される柄糸を使用して、柄を表現する、経編機による編み方法。」
(2)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「経編レース地」は、本件発明1の「布地ウェブ」に相当する。
甲1発明の「鎖編」は、本件発明1の「ループ形成」に相当する。
甲1発明の「地筬」は、本件発明1の「地ガイドバー」に相当する。
甲1発明の「ジャカード筬」は、本件発明1の「ジャカードガイドバー」に相当する。
甲1発明の「柄筬」は、本件発明1の「柄ガイドバー」に相当する。
スパンデックスは、ポリウレタンの弾性繊維をいうことは技術常識であるから、甲1発明の「ポリウレタン糸」などである「弾性糸」は、本件発明1の「スパンデックス糸」と、「弾性糸」である限りで一致する。
甲1発明の「非弾性糸」は、ポリウレタン糸などの弾性糸ではない糸であるから、本件発明1の「非スパンデックス糸」に相当する。
甲1発明の「地糸」は、本件発明1の「原料糸」に相当する。
甲1発明の「地編組織」は、本件発明1の「地組織」に相当する。
甲1発明の「経編機」と本件発明1の「マルチバー経編機」とは、「経編機」という限りで一致する。
すると、本件発明1と甲1発明とは、一致点で一致し、相違点1~5で相違する。
<一致点>
布地ウェブを形成するループ形成用地ガイドバーを有する経編機による編み方法であって、
ループ形成用地ガイドバーが地組織を形成し、
原料糸を前記ループ形成用地ガイドバーに送り込むステップ2と、
前記ループ形成用地ガイドバーが編織作業を開始するステップ3とを含み、
前記原料糸は、N(N≧2)本の糸から構成され、N本の糸中の少なくとも1本が弾性糸であり、少なくとも1本が非スパンデックス糸であり、
ステップ3において前記異なるループ形成用地ガイドバーが、ともに地組織のループ形成編織を行うように、前記弾性糸と前記非スパンデックス糸を同じ針フックに挿入し、
前記経編機は、地組織の編織により経編地を形成することを特徴とする経編機による編み方法。
<相違点1>
「経編機」について、本件発明1はマルチバー経編機であるのに対し、甲1発明の経編機が、マルチバー経編機であるか不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、「原料糸を準備するステップ1」を含むものであるのに対し、甲1発明が地糸を準備するステップを含むものか不明である点。
<相違点3>
本件発明1は、「少なくとも1本の緯糸挿入地ガイドバー又はジャカードガイドバー、及び、複数の柄ガイドバー」を有し、「前記ループ形成用地ガイドバーと、前記少なくとも1本の緯糸挿入地ガイドバー又はジャカードガイドバーが地組織を形成し、前記複数の柄ガイドバーが柄模様組織を形成し、」「前記マルチバー経編機は、地組織の組織と同時に又は編織の後、柄模様組織の編織を行い、柄模様組織の組織と地組織の編織とが組み合わされてマルチバー経編地を形成する」するものであるのに対し、甲1発明は、鎖編用地筬と、少なくとも1本のジャカード筬、及び/または、複数の柄筬とを有し、地筬が地編組織を形成するものの、少なくとも1本のジャカード筬及び複数の柄筬とを同時に有することは特定されておらず、ジャカード筬が地編組織を形成するか不明でありまたは地編組織を形成する緯糸挿入地ガイドバーを有さず、柄ガイドバーが柄模様組織を形成するか不明である点。
<相違点4>
弾性糸について、本件発明1は「スパンデックス糸」を用いるのに対し、甲1発明は「弾性糸」として「ポリウレタン糸」などが示されているものの(ポリウレタンの弾性糸のことである)「スパンデックス糸」には特定されていない点。
<相違点5>
本件発明1においては「ステップ2において、前記スパンデックス糸と非スパンデックス糸とは、異なる前記ループ形成用地ガイドバー内に送り込まれ、前記スパンデックス糸が前記非スパンデックス糸の糸送りルートと独立した糸送りルートを有し、前記非スパンデックス糸が第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、前記スパンデックス糸が第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ」るのに対し、甲1発明においては弾性糸であるポリウレタン糸と非弾性糸であるナイロン糸とは「それぞれ別に給糸して編成するのが好ましく、1枚の同じ地筬に同時に給糸されるか、または、異なる前記地筬内に給糸され」るものの、「それぞれ別に給糸され」、「異なる前記地筬内に導糸され」ることは特定されておらず、それぞれの糸の給糸に用いる装置は特定されていない点。
イ.相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点5について検討する。
(ア)甲1発明は、「前記弾性糸と、非弾性糸とは、1枚の同じ地筬に同時に給糸されるか、または、異なる前記地筬内に給糸され」るものではある。
しかし、甲1の段落【0017】には「1枚の地筬でなく2枚の地筬でそれぞれの地糸を別々に導糸しても問題は無いが、全く同じ鎖編組織を編成する場合は、編みづらいなど特段の事情がない限りは、1枚の地筬で編成する方が少ない筬枚数で編成ができ効率が良い。すなわち、従来の伸縮性の経編レース地は、鎖編組織を形成する非弾性糸とそれに編み込まれる弾性糸を導糸する2枚の筬が少なくとも必要だったが、本発明の実施例のように1枚の筬で非弾性糸と弾性糸を導糸して2重に鎖編組織を形成した方が、同じ伸縮性の経編レース地を編成するのであっても、少ない筬の使用枚数で編成でき、その分、別の用途に筬を使用できるなどのメリットが大きい。」と記載され、また、段落【0008】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、非弾性糸と弾性糸にて2重以上に鎖編組織を形成することで、筬の使用枚数を必要以上に増やすことなく、横渡りの入った不体裁なネット目とならず、熱融着により風合いを悪くすることなく、ほつれにくい伸縮性の経編レース地を提供するものである。」と記載されている。
つまり、甲1によれば、1枚の地筬を用いることのメリットが大きいとされ、開示されているとはいえ、甲1に接した当業者が2枚の異なる地筬を用いることを積極的に選択する理由はない。
そして、仮に、積極的に選択する理由がなくとも「2枚の地筬でそれぞれの地糸を別々に導糸しても問題は無い」(段落【0017】)ことが記載されている以上、2枚の異なる地筬へと地糸を別々に給糸することまでが容易であったとしても、2枚の異なる地筬へと地糸を別々に給糸することを容易になした上で、さらに、それぞれの糸の性状を考慮する等して、「非弾性糸」の給糸については「第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ」る事項に相当する構成を採用し、「弾性糸」の給糸については「第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ」る事項に相当する構成を採用することまでが容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)申立人の意見について
申立人は、令和4年7月4日に提出された意見書において、上記相違点5について、大要、以下の主張をしている。
スパンデックス糸を消極(パッシブ)送り出し装置で送り出そうとすると、スパンデックス糸の伸縮性に起因して、送り出し装置の動きとスパンデックス糸の張り具合との間にタイムラグが生じてしまい、スパンデックス糸の張り具合を制御できなくなる。そのため、スパンデックス糸のビームからの送り出しには、必ず積極(アクティブ)送り出し装置が使用される。
一方、非スパンデックス糸のビームからの送り出しには、消極(パッシブ)送り出し装置を使用することができる。ただし、高速で編成を行うために、非スパンデックス糸のビームからの送り出しにも積極(アクティブ)送り出し装置を使用することも多い。もちろん、このとき非スパンデックス糸の送り出しに使用する積極(アクティブ)送り出し装置は、スパンデックス糸の送り出しのための積極(アクティブ)送り出し装置とは別の、独立した装置である。
ここまで説明したことは、経編機において当然行われる従来周知の技術常識である。」(第12ページ第4行~第12ページ第17行)
「このように、相違点5について、本件特許発明1において特定されている事項は、経編機において当然行われる従来周知の技術常識に過ぎず、甲1発明において必然的に行われることに過ぎないため、甲1発明が実質的に備えていると言える。そのため、相違点5は、実質的に相違点ではない。仮に相違点であるとしても、甲1発明に相違点5についての従来周知の技術常識を適用することに困難性はない。」(第13ページ第10行~第15行)
しかしながら、令和4年7月4日に提出された意見書に添付した甲8(日本マイヤー株式会社、「経編全集」、株式会社繊維技術ジャーナル、昭和57年10月1日発行、第20、39~42ページ)を参照しても、「前記非スパンデックス糸が第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、前記スパンデックス糸が第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ」との事項に相当する構成は見いだせないし、さらにいえば、「スパンデックス糸」、「非スパンデックス糸」等の記載はなく、糸の弾性に応じて使用すべき装置、適した装置が異なるといった技術的思想を見いだすこともできない。
そうすると、「前記非スパンデックス糸が第1の糸送り装置を介して送り出され、張力補償装置及び第1の糸分け装置を順に経て第1のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ、前記スパンデックス糸が第2のアクティブ糸送り装置を介して送り出され、糸ガイドロッド及び第2の糸分け装置を順に経て、第2のループ形成用地ガイドバーの糸ガイド針孔に送り込まれ」との事項に相当する構成を、「技術的常識」であり、「必然的に行われることに過ぎない」とはいえないし、容易に想到できるものであるともいえない。
(ウ)よって、相違点5は、実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。
(エ) また、上記(ア)及び(イ)に示したように、甲1発明において、相違点5に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に為し得たものということはできないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明2について
ア.本件発明2は、「ステップ2及びステップ3において、ループ形成用地ガイドバーに代えて、ループ形成用ジャカードガイドバーを用いるもの」であり、本件発明1の構成の一部を置換するものである。
本件発明2と甲1発明とを対比すると、先に示した相違点1~5に加え、以下に示す相違点6で相違する。
<相違点6>
本件発明2は「ステップ2及びステップ3において、ループ形成用地ガイドバーに代えて、ループ形成用ジャカードガイドバーを用いる」のに対し、甲1発明は「鎖編用地筬」を有するものの、当該鎖編用地筬が、「ジャカードガイドバー」といえるか不明である点。
イ.上記(2)で示したように甲1発明と相違点1~5において相違する本件発明1が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができるものであるとはいえないから、甲1発明と相違点1~5に加え相違点6において相違する本件発明2も同様に、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
第5 令和4年2月9日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1に記載の「前記マルチバー経編機は、地組織の編織と同時に又は編織の後、柄模様組織の編織を行い、柄模様組織の編織と地組織の編織とが組み合わされてマルチバー経編地を形成することを特徴とする」との記載は地組織の編織の後に柄模様の編織を行い、柄模様組織と地組織とを組み合わせることを記載しているが、当該方法は出願時の技術常識に基づいて実施できないものであり、かつ、発明の詳細な説明にも具体的にどのようにすれば実現できるのか記載されていないから、発明の詳細な説明が当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないので特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていない旨を主張する。
しかし、地組織の編織の後に、柄模様組織の編織を行い、柄模様組織の編織と地組織の編織とが組み合わされてマルチバー経編地を形成するとの構成は訂正後の請求項1、2においては、特に訂正事項4により、削除されているから、当該異議申立理由は解消している。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700540