特許異議申立
2022-700772
融着用布帛及び該融着用布帛を含む積層体
- 審判番号
- 2022-700772
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-500973
- 登録番号
- 7024057
- 請求日
- 2022年08月05日
- 審決日
- 2023年06月21日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社クラレ
- 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【異議申立人】平居 博美
- 【異議申立人】根本 未果
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 ▲高▼橋 杏子
- 分類
- P1651.121-YAA(D04B) / P1651.536-YAA(D04B) / P1651.537-YAA(D04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7024057号発明「融着用布帛及び該融着用布帛を含む積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7024057号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7024057号の請求項1、2に係る特許を維持する。
特許第7024057号の請求項3~5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7024057号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成31年2月19日(優先権主張 平成30年2月26日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和4年2月14日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報令和4年2月22日発行)、その後、その特許について、令和4年8月5日に特許異議申立人平居博美(以下「申立人1」という。)により、令和4年8月10日に特許異議申立人根本未果(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、令和5年1月4日付けで取消理由が通知され、令和5年3月1日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和5年4月11日に申立人1から意見書が提出されたものである。
なお、申立人2からは意見書が提出されなかった。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、それぞれ訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛であって、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維が少なくとも一部に用いられ、かつ通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下であり、
前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維であることを特徴とする、融着用布帛。」と記載されているのを、
「複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛であって、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維が少なくとも一部に用いられ、かつ通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下であり、前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維であることを特徴とする、融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体において、
剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上であることを特徴とする、積層体。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、
「前記融着用布帛の目付が15g/m2以上80g/m2以下であることを特徴とする、請求項1に記載の融着用布帛。」と記載されているのを、
「前記融着用布帛の目付が15g/m2以上80g/m2以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層体。」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0009】において、
「上記の課題を解決するために検討した結果、本発明者らは、複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛であって、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維を少なくとも一部に用いており、かつ通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下である融着用布帛であれば、布帛間に挿入するだけで熱融着加工後に解れ止め効果を発揮し、かつ高い通気性を有する衣料や身体補助部材等を簡便に得られることを見出した。」と記載されているのを、
「上記の課題を解決するために検討した結果、本発明者らは、複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛であって、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維を少なくとも一部に用いており、かつ通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下であり、融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維である融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体において、剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上である積層体であれば、布帛間に挿入するだけで熱融着加工後に解れ止め効果を発揮し、かつ高い通気性を有する衣料や身体補助部材等を簡便に得られることを見出した。」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0011】において、
「また、前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維であってもよい。」と記載されているのを、
「また、前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維であることが必要である。」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0012】において、
「さらに、前記融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とを少なくとも一部に使用した積層体としてもよい。」と記載されているのを、
「さらに、前記融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とを少なくとも一部に使用した積層体であることが必要である。」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0013】において、
「前記積層体において、剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上であってもよい。」と記載されているのを、
「前記積層体において、剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上であることが必要である。」に訂正する。
(10)一群の請求項について
訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、訂正の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。また、訂正事項6~9は、一群の請求項の全てについて行われたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「溶着用布帛」が積層される積層体について、その剥離強度と通気度を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下「本件特許明細書等」という。)の段落【0026】の記載並びに請求項3及び4の記載からみて、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1により請求項1が「積層体」に係る発明に訂正されることに伴い、請求項1を引用する請求項2においても整合をとって訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
また、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3~5について
訂正事項3~5は、それぞれ訂正前の請求項3~5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3~5は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項6~9について
訂正事項6~9は、訂正事項1で請求項1が訂正されたことに伴い、関係する明細書の記載も整合をとって訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
また、訂正事項6~9は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げられた事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」等といい、また、本件発明1、2を総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、次のとおりのものである。
【請求項1】
複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛であって、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維が少なくとも一部に用いられ、かつ通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下であり、前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維であることを特徴とする、融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体において、
剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上であることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記融着用布帛の目付が15g/m2以上80g/m2以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層体。
第4 取消理由及び特許異議の申立ての理由について
1 特許権者に通知した取消理由
本件発明に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は以下のとおりである。
(1)理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~3、5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。以下、申立人1が提出した甲第1号証~甲第8号証を、甲1-1~甲1-8と、申立人2が提出した甲第1号証~甲第13号証を、甲2-1~甲2-13という。
請求項1~3、5に係る発明は、甲1-1に記載された発明及び甲1-2~甲1-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
《引用刊行物》
甲1-1:特公昭61-17261号公報
甲1-2:特開2003-334881号公報
甲1-3:特開2002-242068号公報
甲1-4:特開昭62-127017号公報
甲1-5:特開平8-127931号公報
(2)理由2(サポート要件及び明確性)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、以下の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1~3、5に係る発明の「複数の布帛同士」の「布帛」について、「革」のように通気性がない「複数の布帛同士」を通気性のある融着用布帛で熱融着しても、積層体には通気性があるとはいえず、そのような「複数の布帛同士」を融着対象とした場合に、本件特許の請求項1~3、5に係る発明は、本件発明の課題を解決することができない。
したがって、本件特許の請求項1~3、5に係る発明の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができない。
また、請求項1~3、5に係る発明の「複数の布帛同士」の「布帛」が、どのようなものなのかが明確でない。
2 取消理由についての判断
(1)理由2について
事案に鑑み、記載不備に係る理由2について、先ず検討する。
上記第3で述べたように、本件訂正請求が認められ、訂正後の請求項1において、「布帛」が、「融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体において、剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上である」を満たすものであることが特定されたことから、「布帛」は明確であり、本件発明は、「特にインナー、アウター、ブラジャー、その他布帛同士の熱融着を必要とする衣料及び身体補助部材等において、低温で熱融着性を有する繊維で構成される布帛を熱融着させる布帛間に挿入するだけで熱融着加工後に解れ止め効果を発揮し、かつ高い通気性を有し、風合いも優れた衣料や身体補助部材等を簡便に得ること」(本件特許明細書等の【0008】)という課題を解決できると認識し得るものといえる。
よって、理由2には理由がない。
(2)理由1について
ア 甲1-1に記載された事項
甲1-1には、次の事項が記載されている。
「特許請求の範囲
1 自動車用成型天井の成型基材と吸音材を有する表面材を貼付する際、基材と表面材の接合に繊維網状ホツトメルトシート接着剤を使用し、接着後接着剤層の空隙率を20~80%になるようにしたことを特徴とする吸音効果を有する自動車用成型天井の製造法。
2 繊維網状ホツトメルトシートはブレンド樹脂を溶融紡糸し、空気流を用いて延伸し繊維状にして自己接着をした特許請求の範囲1に記載の方法。
3 繊維網状ホツトメルトシートは3~50デニールの繊維状物で目付10~100g/m2であることを特徴とする特許請求の範囲1に記載の方法。」(特許請求の範囲)
「発明の詳細な説明
本発明は特殊な接着剤を使用しての成型天井の作製方法に関するものである。
・・・
成型天井の場合、本来吸音効果を考慮して設計してはいるが、さらに吸音効果を高めるため成型基材、表面にはる表面材ともにさらに吸音性の良い機材が採用されてきている。この場合、成型基材、表面材ともに通気性あるいは空隙率の大きな素材が軽量化とコストダウンに合致するために多く採用されてきている。このような状態で使用する接着剤の影響が接着力、吸音効果に更に大きな効果をもたらすのである。
現在これらの接着剤には溶剤型とホツトメルト型が使用されているが、しかしながら溶剤規制等により後者のホツトメルト型が生産性の点からも優れていて多く用いられている。しかもこれはホツトメルトフイルム(第1図ロ,2参照)の形で使用されている。
次にホツトメルトフイルムによる接着方法を詳しく説明すると、フエノール樹脂含浸有機繊維マツト、フエノール樹脂含浸硝子繊維マツトあるいは特殊なダンボールを成型機で成型して成型天井基材とする(第2図3に示す)。天井基材は凹型の形状をしている。また厚さ3m/m~5m/mの発泡体のシートの表面(第2図4参照)に表面化粧剤として伸縮可能な織物あるいは化粧塩化ビニルシート(第2図5参照)を接合したものを表面材とする。
・・・
前述のように吸音効果向上対策を素材面で採用する場合、従来のホツトメルトフイルム型接着剤は素材面で吸音効果を大巾に減少させる欠点をもつている。
すなわち、ホツトメルトフイルム層の接着後に層状に残留するために素材の通気性あるいは空隙率の増加効果を阻害することによるのである。従つて接着層にも通気性あるいは空隙性をもたらす接着方法が必要である。
・・・
本発明の要旨はホツトメルト接着剤の素材で3~50dの繊維状物(第1図イ,1′参照)を作成し、その繊維状物で目付け10~100g/m2のウエツブ状のホツトメルトシートを作り自動車成型天井の基材と表面材の接着に使用するときに接着後の接着剤層の空隙率を20~80%になるように調整したとき、吸音素材の吸音性を低下させることのない成型天井を作成し得るものである。しかしながら、繊維状物の製造法およびウエツブ状シートの製造方法についての制限はない。接着剤層の接着後の空隙率20~80%は20%以下では吸音効果の低下をもたらし80%以上では接着性が不十分である。
また、繊維状物の単繊維繊度を50dを限度にしたのは50dをこえると接着時間、温度に対する効果が消失するからである。ホツトメルト用熱可塑性高分子物質はポリオレフイン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリウレタン系等のものを使用しこれに制限はないが、自動車用成型天井の場合80℃以上72時間の耐熱テストに合格しなければならない。
以上の性能を有しかつできるだけ低温で接着可能なホツトメルト素材の例を挙げるとナイロンおよびポリエステル樹脂が一般的である。たとえばナイロン6、ナイロン66およびナイロン11あるいはナイロン12の共重合体で融点105~120℃の樹脂を選択すれば90℃、72時間以上の耐熱性能を有するホツトメルト素材を得ることができる。」(1頁1欄15行~2頁4欄30行)
「以下、実施例を挙げて説明する。
原料ホツトメルト素材はナイロン6、ナイロン66、ナイロン12の共重合体であつて、同共重合体(プラタミド005、プラ-テボン社商品名、融点115~120℃、共重合率ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、45:15:40%)、同共重合体(プラタミド105、プラ-テボン社、商品名、融点120~125℃、共重合率ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、20:50:30%)、同共重合体(プラタミドM-1059、プラ-テボン社試作品商品名、融点95~100℃、共重合率ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、40:15:45%)を30:60:10部配向した。このブレンドの見掛けの融点は105~120℃であつた。
従来のホツトメルト接着剤は以上のブレンド樹脂を90m/mの押出機にてTダイに目付30g/m2と50g/m2のホツトメルトフイルムと作成と対照例2、1とした。
一方、本発明の繊維状ホツトメルトシートは前記ブレンド樹脂を溶融紡糸し、空気流を用いて延伸して3~30d(デニール)の繊維状にしたのち130cm巾のシート状に配列し繊維間に自己接着を行つて以下に示す3種類の繊維状物のホツトメルトシートを作成した。繊維状ホツトメルトシートの構成は
単繊維繊度3~5d目付量20g/m2(実施例3)
単繊維繊度3~5d目付量40g/m2(実施例1)
単繊維繊度20~30d目付量40g/m2(実施例2)
である。
以上のホツトメルト接着剤はいずれも予め表面材(ポリ塩化ビニル化粧シートつきポリウレタンフオーム、3m/m)の裏側に仮接着した。
成型基材はフエノール樹脂含浸繊維ボード(レジンボード)である。接着はホツトアンドコールド方式で行つた。すなわち、レジンボードをオーブン中で所定温度になるように加熱し、ついでコールドプレス機に投入し、予め60℃付近に予熱したホツトメルト接着剤を仮接着した表面材を重ねてプレスした。圧力は0.3KG/cm2に一定とした。接着は接着性能が十分に得られる下限温度、下限時間で実施した。結果を下表に示す。
[図:0001401643000001.jpg]
測定方法
接着剤層の空隙率;接着後の空隙率の測定は困難なので表面材に接着剤を積層し、さらに離型紙を重ねこれに120℃にて1分間0.3KG/cm2の圧力を加える。冷却後離型紙を除去したのち写真撮影し、空隙率を測定しこれを接着時の空隙率に代行した。接着強度;接着後24時間後にT剥離強度を測定した。表面材のウレタンフオーム材破で合格とした。・・・
吸音率の測定;一定音源からの反射によるエネルギー減少を測定した。ただし、表示は接着剤層のない場合のエネルギー損失を100とし相対的な比較を行つた。
以上の表から明らかなように自動車成型天井用の接着剤にはその吸音効果を低下させないためには本発明方法による繊維状物のウエツブ状ホツトメルトシートを使用した成型天井が優れていることがわかる。
図面の簡単な説明
図面は本発明の成型天井を模型的に示したものであつて、第1図イは本発明に使用する繊維状物のウエツブ状ホツトメルトシートの拡大図の一例、ロは従来のホツトメルトフイルムを示す。第2図は本発明の自動車用成型天井の断面も含む切欠き拡大斜面図である。1は繊維ウエツブ状ホツトメルトシート、3は成型基材、4は吸音材、5は表面化粧シートを示す。」(3頁5欄5行~4頁8欄14行)
「
[図:0001401643000002.jpg]
」(図面)
イ 甲1-1に記載された発明
上記記載、特に実施例3についての記載に着目すると、甲1-1に記載の繊維状ホツトメルトシートは、予め表面材(ポリ塩化ビニル化粧シートつきポリウレタンフオーム、3m/m)の裏側に仮接着し、成型基材のフエノール樹脂含浸繊維ボード(レジンボード)と接着して、自動車成型天井用の積層体を形成するものであるから、甲1-1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
《引用発明》
「ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12の共重合体からなる見掛けの融点が105~120℃のブレンド樹脂を原料として製造された繊維をシート状に配列し、単繊維繊度3~5d、目付量20g/m2である、自動車用成型天井の製造に用いられる繊維状ホツトメルトシートが、
表面材(ポリ塩化ビニル化粧シートつきポリウレタンフオーム、3m/m)と、成型基材のフエノール樹脂含浸繊維ボード(レジンボード)とともに用いられる、自動車成型天井用の積層体。」
ウ 本件発明1について
(ア)本件発明1と引用発明を対比する。
引用発明の「ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12の共重合体からなる見掛けの融点が105~120℃のブレンド樹脂を原料として製造された繊維」は、ホツトメルトシートとして用いられるから融着用であるといえ、本件発明1の「融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維」であって、「前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維である」ことと、「融点が150℃以下である融着性繊維」という限りで一致する。
引用発明の「自動車用成型天井の製造に用いられる、繊維状ホツトメルトシート」と、本件発明1の「複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛」とは、「複数の部材同士を熱融着させるための融着用シート」という限りで一致する。
引用発明の「繊維状ホツトメルトシートが、表面材(ポリ塩化ビニル化粧シートつきポリウレタンフオーム、3m/m)と、成型基材のフエノール樹脂含浸繊維ボード(レジンボード)とともに用いられる、自動車成型天井用の積層体」と、本件発明1の「融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体」とは、「融着用シートと、熱融着させる複数の部材とが少なくとも一部に用いられる積層体」という限りで一致する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「融点が150℃以下である融着性繊維が少なくとも一部に用いられた、複数の部材同士を熱融着させるための融着用シートと、熱融着させる複数の部材とが少なくとも一部に用いられる積層体。」で一致し、
以下の相違点1~4で相違する。
《相違点1》
融点が150℃以下である融着性繊維に関し、
本件発明1が「融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維」であり、「前記融着性繊維が、変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維、または変性ポリアミド繊維である」のに対し、
引用発明は「ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12の共重合体からなる見掛けの融点が105~120℃のブレンド樹脂を原料として製造された繊維」である点。
《相違点2》
複数の部材同士を熱融着させるための融着用シートに関し、
本件発明1が「複数の布帛同士を熱融着させるための融着用布帛」であるのに対し、
引用発明は「自動車用成型天井の製造に用いられる、繊維状ホツトメルトシート」である点。
《相違点3》
本件発明1の「融着用布帛」が「通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下」であるのに対し、
引用発明の「繊維状ホツトメルトシート」は、通気度について特定されていない点。
《相違点4》
融着用シートと、熱融着させる複数の部材とが少なくとも一部に用いられる積層体に関し、
本件発明1が、「融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体」であって、「剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上である」のに対し、
引用発明は、「繊維状ホツトメルトシートが、表面材(ポリ塩化ビニル化粧シートつきポリウレタンフオーム、3m/m)と、成型基材のフエノール樹脂含浸繊維ボード(レジンボード)とともに用いられる、自動車成型天井用の積層体」であるものの、その剥離強度と通気度は特定されていない点。
(イ)事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
引用発明は、自動車成型天井に用いられる積層体であるから、本件発明1の「着用時にムレが無く、通気が確保された快適性、繰り返しの洗濯によって剥離しない剥離耐久性」のために選択された「剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上である」ことを、同時に満たすようにする動機付けはない。また、剥離強度と通気度について、これらを同時に満たす積層体を示す証拠は提出されていない。
よって、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、引用発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)以上より、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるところ、上記ウで述べたように、本件発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2も、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ よって、理由1には理由がない。
3 取消理由に採用しなかった特許異議の申立理由について
(1)申立人1、2の申立理由
ア 申立人1の申立理由
「複数の布帛」に係るサポート要件と実施可能要件
「融着用布帛」に係るサポート要件と実施可能要件
「変性」に係る明確性要件
イ 申立人2の申立理由
甲2-1(特開平11-81116号公報)を主引用例とする進歩性
甲2-2(特開2009-190269号公報)を主引用例とする進歩性
甲2-3(特開平11-107155号公報)を主引用例とする進歩性
甲2-4(特開2011-144480号公報)を主引用例とする進歩性
甲2-5(特開2015-38263号公報)を主引用例とする進歩性
甲2-6の2(細見睦、“ウェブ状ホットメルト「スパンファブ」”、コンバーテック、加工技術研究会、2009年9月、通巻438号、68~71頁)を主引用例とする進歩性
甲2-12(特開平9-180869号公報)を主引用例とする進歩性
(2)申立人1の申立理由について
ア サポート要件について
本件発明の解決しようとする課題は、「特にインナー、アウター、ブラジャー、その他布帛同士の熱融着を必要とする衣料及び身体補助部材等において、低温で熱融着性を有する繊維で構成される布帛を熱融着させる布帛間に挿入するだけで熱融着加工後に解れ止め効果を発揮し、かつ高い通気性を有し、風合いも優れた衣料や身体補助部材等を簡便に得ること」(本件特許明細書等の【0008】)である。
本件特許明細書等の記載によれば、この課題は、「融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維が少なくとも一部に用いられ、かつ通気度が1000cm3/cm2・s以上10000cm3/cm2・s以下であ」る「融着用布帛」と、「熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体において、剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上であること」により解決し得ると理解される。
そして、これらの事項は、本件発明1に発明特定事項として特定されているから、当業者は、本件発明1が、上記課題を解決し得ると認識するものといえる。
申立人1は、「複数の布帛」についてはナイロンであること、「溶着用布帛」については経編地及びショートカット糸からなる不織布であることが、それぞれ特定されるべきであると主張する。
しかし、上述のように、本件発明1は、本件発明の上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、申立人1の主張する上記特定は、サポート要件を満たすために必要であるとはいえず、採用できない。
イ 実施可能要件について
「複数の布帛」について、本件特許明細書等に、
「布帛とは、織物、編物、組物、不織布、革等を含む繊維構造体を意味する。」(【0016】)と記載され、
「溶着用布帛」については、同じく本件特許明細書等に、
「本発明の融着用布帛を構成する融着性繊維は、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維であることが重要である。このような低温にて融着処理が可能となる、融点が150℃以下または軟化点が110℃以下の樹脂を成分とする融着性繊維としては、変性ポリエステル繊維、変性ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、ポリオレフィン繊維、変性エチレンビニルアルコール共重合体(以下、「変性EVOH」と称する)繊維等が挙げられる。融着性繊維に用いられる樹脂の融点は、より好ましくは130℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。・・・前記融着性繊維の中でも、インナーや身体補助部材等にはナイロンが使われることが多いため、ナイロン布帛との接着が良好である変性ポリアミド繊維、変性EVOH繊維が特に好ましい。」(【0016】)、
「また、本発明の融着用布帛を構成する融着性繊維は、本発明の効果を損なわない限り、複数の樹脂成分で構成される複合繊維であってもよい。すなわち、融着性を有する樹脂(以下、「融着性樹脂」と称する)を1成分とし、前記融着性樹脂以外の樹脂をもう1成分又は複数成分とした複合繊維であってもよい。複合繊維の断面形状に関しては、前記融着性樹脂がわずかでも露出してさえすればよいが、その中でも特に、前記融着性樹脂が表層全面に露出した海島断面または芯鞘断面の複合繊維が適している。」(【0017】)と記載され、
さらに、実施例1~12も記載されており、当業者であれば、これらの記載をもとに、本件発明を実施することができるものといえる。
よって、申立人1の実施可能要件に係る主張は採用できない。
ウ 明確性要件について
本件発明1の「変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維」及び「変性ポリアミド繊維」の「変性」は、エチレンビニルアルコール共重合体とポリアミドの、ポリマーとしての基本構造を変えることなく、一部の分子鎖の種類または配置を変えることを意味することは、当業者にとって技術常識であるから、本件発明1の「変性エチレンビニルアルコール共重合体繊維」及び「変性ポリアミド繊維」は、それぞれ明確であり、申立人1の明確性要件に係る主張は採用できない。
(3)申立人2の申立理由について
ア 甲2-1には、繊維長3~25mmの短繊維が交差して接着された不織布であって、該不織布の機械方向(MD)と直角方向(CD)の通気度比(MD/CD)が1.0~1.5であり、かつ該不織布の機械方向(MD)と垂直方向(VD)の通気度比(MD/VD)が1.0~2.2である短繊維不織布(【請求項1】)と、熱接着性不織布を併用した積層体(【0030】)の発明が、
甲2-2には、基布層と表層の少なくとも2層からなる繊維積層体であって、基布層は平均繊維径が10μm以上の繊維からなり、かつ内部に粒状の吸着剤を保持している繊維構造体であり、表層は平均繊維径が10~1000nmの極細繊維からなる繊維構造体であることを特徴とする繊維積層体(【請求項1】)の発明が、
甲2-3には、混繊スパンボンド不織布とカ-ド不織布が積層されてなる多層構造の不織布であって、該混繊スパンボンド不織布は融点差が10℃以上ある樹脂からなる低融点長繊維10~90重量%と高融点長繊維90~10重量%が混繊され、且つ該低融点長繊維で繊維交点が熱融着されてなる不織布であり、該カ-ド不織布は捲縮を有する繊維長25~128mmの短繊維からなり、該混繊スパンボンド不織布と該カ-ド不織布が、該混繊スパンボンド不織布の低融点長繊維及びカ-ド不織布の短繊維の内の少なくとも一方の熱融着により一体化され、且つ通気度80~2000cm3/cm2/秒、比容積15~70cm3/g、である積層不織布(【請求項1】)の発明が、
甲2-4には、ポリアルキレンオキシド単位を含む熱可塑性吸水性樹脂で構成された繊維を含む不織布(【請求項1】)に、シート状基材を積層した積層体(【請求項8】)の発明が、
甲2-5には、第1織物基材、前記第1織物基材にホットメルトウェブ接着剤によって接着された多孔性基材、および前記多孔性基材にホットメルトパウダー接着剤またはホットメルトウェブ接着剤によって接着された第2織物基材を含むことを特徴とする透湿防水生地(【請求項1】)であって、ホットメルトウェブ接着剤の気孔の大きさは100~10000μm(【0094】)である発明が、
甲2-6の2には、目付24g/m2、通気性が略200cm3/cm2/s(図3)で、ポリアミド(表1)からなるスパンウェブ接着剤により、織物や編み物などの被着体を接着して得た複合材料の発明が、
甲2-12には、目付が10~40g/m2の変性ポリアミド繊維のくもの巣状ホットメルトシート(【0021】)により、ニードル不織布によって構成される表層と裏層(【0014】)を接着した電気毛布の発明が、それぞれ記載されている。
イ しかし、いずれにも、本件発明1の「融着用布帛と、熱融着させる複数の布帛とが少なくとも一部に用いられる積層体」であって、「剥離強度が10N/cm以上であり、かつ通気度が5cm3/cm2・s以上である」ことが、記載も示唆もされていない。
ウ よって、申立人2の進歩性に係る申立理由は、いずれも採用できない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、2に係る特許は、取消理由及び特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正により、請求項3~5に係る特許は削除されたため、請求項3~5に対して申立人1、2がした特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700772