特許異議申立
2020-700369
六方晶窒化ホウ素粉末
- 審判番号
- 2020-700369
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-553580
- 登録番号
- 特許第6625308号(P6625308)
- 請求日
- 2020年05月29日
- 審決日
- 2021年03月09日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】水島合金鉄株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】川原 敬祐
- 【異議申立人】山川 隆久
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 村岡 一磨
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.852-YAA(C01B) / P1651.853-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6625308号発明「六方晶窒化ホウ素粉末」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6625308号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第6625308号の請求項1~4に係る特許を維持する。
特許第6625308号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6625308号(設定登録時の請求項の数は5。以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2019年(令和1年)8月2日(優先権主張 2018年8月7日、日本国)を国際出願日とする日本語特許出願であって、令和1年12月6日にその特許権の設定登録がされ、同年12月25日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の全請求項(請求項1~5)に係る特許に対し、特許異議申立人 山川 隆久(以下、「異議申立人」という。)より、令和2年5月29日に特許異議の申立てがされたものであり、その後の経緯は次のとおりである。
令和2年 9月28日付け: 取消理由通知書
同年11月25日 : 意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
令和3年 1月 8日 : 意見書の提出(異議申立人)
第2 訂正の適否についての判断
令和2年11月25日に特許権者より請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
本件訂正は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲の訂正であって、一群の請求項1~5を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項及び同法同条第9項において準用する同法第126条第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載を次のとおり訂正する(当審注:下線は訂正箇所を示す。以下、同じ。)。当該訂正後の請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。
「【請求項1】
化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が30%以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。」
(2) 訂正事項2
明細書の【0012】の記載を次のとおり訂正する。
「【0012】
1.化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が30%以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。」
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2の記載を次のとおり訂正する。当該訂正後の請求項2の記載を引用する請求項3、4も同様に訂正する。
「【請求項2】
前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が60%以上である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」
(4) 訂正事項4
明細書の【0013】の記載を次のとおり訂正する。
「【0013】
2.前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が60%以上である、上記1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(6) 訂正事項6
明細書の段落【0016】を削除する。
(7) 訂正事項7
訂正前の明細書の【0019】、【0020】、【0021】、【0024】、【0031】、【0049】及び【0063】における、「(1,0,0)」又は「(100)」を、「(0,0,1)」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1のうち「(0,0,1)」の部分(以下、「訂正事項1-1」という。)は、誤記の訂正を目的とするものと認める。その理由は以下のとおりである。
明細書の【0002】において「六方晶窒化ホウ素(h-BN)は、ホウ素(B)および窒素(N)で構成される六角形の編目状の層が積層された、黒鉛類似の層状構造を有する化合物である。そのため、一般的な六方晶窒化ホウ素の粒子は、偏平な板状(鱗片状)の構造を有している。また、粒子内の層と層との間に共有結合は存在せず、層間に働く力は、極めて弱い力であるファンデルワールス力のみである。そのため、わずかな力で層間にすべりが生じ、その結果、六方晶窒化ホウ素粉末は極めて優れた潤滑性を有している」と記載されているように、一般的な六方晶窒化ホウ素粒子は、ホウ素(B)および窒素(N)で構成される六角形の編目状の層が積層された、黒鉛類似の層状構造に起因する、偏平な板状(鱗片状)の構造を有するものであり、当該積層方向が[001]方向、当該板状構造の最も広い主面が(0,0,1)面であることは、本件特許の優先日当時における技術常識である。
また、明細書における課題に関する記載(【0005】~【0007】)及び実施例の結果(【表1】、【表2】)から、明細書に記載された発明の六方晶窒化ホウ素粉末は優れた潤滑性や肌付着性を有するものであり、上記一般的に知られる鱗片状の六方晶窒化ホウ素粉末の化粧用途特性を備えていることが看取でき、更に、明細書の【0022】、【0023】及び図1の記載内容から、明細書に記載された発明における折れ曲がり角度は六方晶窒化ホウ素粉末の主面からの角度であることが看取できる。
これらを総合すると、明細書に記載された発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、従来一般的に知られる鱗片状の六方晶窒化ホウ素粉末同様、(0,0,1)面を主面とするものであり、折れ曲がり角度は当該(0,0,1)面からの角度であると解するのが合理的であるといえるから、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものといえる。
イ ここで、令和3年1月8日に異議申立人から提出された意見書(以下、「申立人意見書」という。)において、「従来の技術常識では最も広い主面が(0,0,1)面であるが、最も広い主面が(0,0,1)面ではない六方晶窒化ホウ素が存在しないとまでは言えない」旨の主張(第1~2頁の3-1(i)項)及び「本件特許発明は、窒化ホウ素粉末の特徴である滑らかな感触と、優れた光輝性とを兼ね備え、さらに光輝性顔料と併用した場合でも優れた光輝性を得ることができる六方晶窒化ホウ素粉末を提供することを目的」として「結晶(1,0,0)面に対し110°~160°の角度」なる技術事項を特定したのだから、当該技術事項は最も重要なものであり、他の意に解することはあり得ない旨の主張(第2~3頁の3-1(iii)項)がなされているので検討をする。
上記ア及び申立人意見書にも記載があるとおり、六方晶窒化ホウ素粉末は、例外的な特殊形状のものがあり得るとしても、一般的には(0,0,1)面が主面であることが本件特許の優先日当時の技術常識であり、また、明細書に記載された発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、従来一般的に知られる六方晶窒化ホウ素粉末の構造に由来する化粧用途特性を備えるものであるのだから、明細書に記載された発明の六方晶窒化ホウ素粉末は(0,0,1)面を主面とするものであり、明細書の【0022】、【0023】及び図1の記載内容から、折れ曲がり角度は当該(0,0,1)面からの角度であると解するのが合理的である。
したがって、当該主張は採用しない。
ウ 次に、訂正事項1のうち「化粧料用」の部分(以下、「訂正事項1-2」という。)についてみると、この訂正事項1-2は、「六方晶窒化ホウ素粉末」の用途を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
エ また、訂正事項1-1については、上記ア及びイのとおり、明細書の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識から、「(0,0,1)」面の誤記であることが明らかであり、訂正事項1-2については、明細書の【0016】、【0017】の記載に基づくものであるから、訂正事項1-1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、いずれも新規事項の追加に該当しない。
オ 更に、訂正事項1-1及び訂正事項1-2は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1による請求項1の訂正と、明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、「(1,0,0)」と書き違えたものを「(0,0,1)」に正すというものであり、上記(1)ア、イ、エ及びオの訂正事項1-1についてと同様、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項3による請求項3の訂正と、明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5) 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲を減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6) 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正事項5による請求項5の削除と、明細書の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7) 訂正事項7について
訂正事項7は、「(1,0,0)」と書き違えたものを「(0,0,1)」に正すというものであり、上記(1)ア、イ、エ及びオの訂正事項1-1についてと同様、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。
よって、標記結論のとおり、本件特許第6625308号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件発明
上記「第2」のとおり本件訂正は適法になされたものと認められるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末であって、
前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が30%以上である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が60%以上である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
変角光度計によって入射光角度:45°の条件で測定される反射率ピークの半値全幅が80°以下である、請求項1または2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
平均粒径が6~100μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
設定登録時の請求項1~5に係る発明に対して、当審が令和2年9月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1) 取消理由1(新規性欠如)
設定登録時の請求項1、3、4に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証(特開2016-216271号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、設定登録時の請求項1、3、4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2) 取消理由2(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~5に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、設定登録時の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 取消理由3(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 取消理由4(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由1(新規性欠如)及び取消理由2(進歩性欠如)についての当審の判断
(1) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開2016-216271号公報)には、以下の記載事項がある。
ア 「【請求項1】
板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有することを特徴とする六方晶窒化硼素粒子。
【請求項2】
アスペクト比が3~10である請求項1記載の六方晶窒化硼素粒子。
【請求項3】
屈曲部の角度が139±2度である請求項1又は2に記載の六方晶窒化硼素粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の六方晶窒化硼素粒子を含む窒化硼素粉末。」
イ 「【0005】
そして、このようにして得られる窒化硼素粉末は、結晶に由来する鱗片状粒子よりなる一次粒子を含み、該鱗片状粒子は熱的異方性を有している。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、凝集粒子を構成しなくとも、樹脂に充填した際、六方晶窒化硼素の板状結晶に由来する熱的異方性が低減され、且つ、凝集粒子に見られる気泡の巻き込みが抑制されて高い絶縁耐力を発揮することが可能な六方晶窒化硼素粒子並びにそれを含む六方晶窒化硼素粉末、更には、前記六方晶窒化硼素粒子を含む六方晶窒化硼素粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
・・・
【0012】
即ち、本発明によれば、板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造を有することを特徴とする六方晶窒化硼素粒子(以下、双晶h-BN粒子)が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、アスペクト比が3~10である双晶h-BN粒子が提供される。また、本発明の双晶h-BN粒子において、屈曲部の角度は、139±2度であるのが一般的である。」(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様。)
エ 「【0016】
本発明の双晶h-BN粒子は、公知の六方晶窒化硼素粒子の代表的な構造である、板状結晶が単なる平板状を成した構造に対して、六方晶の結晶形態を有する板状結晶が1つの屈曲部において連続して構成された構造を有する・・・」
オ 「【0020】
本発明の六方晶窒化ホウ素粒子は、従来の六方晶窒化硼素粒子が、鱗片状の板状結晶より構成されているのに対して、該板状結晶が前記屈曲部3において屈曲して連続する屈曲構造をとる点において大きく異なる。
【0021】
本発明の双晶h-BN粒子において、前記屈曲部の角度(θ)は、殆どが139±2度を示し、このことから、該屈曲部は、<10-10>面の対象傾角粒界により形成されているものと推定される。
・・・
【0023】
本発明の双晶h-BN粒子は、平均粒径(長軸の長さ(L)の平均値)は、5~50μm、特に、10~30μmが好ましい。」
カ 「【0026】
(六方晶窒化硼素粉末)
本発明の双晶h-BN粒子は、後述の製造方法によって得ることができるが、双晶h-BN粒子以外の六方晶窒化硼素粒子、例えば、平板状の構造を有する粒子も一部生成するため、一般には、該双晶h-BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末として得られる。
【0027】
上記六方晶窒化硼素粉末において、双晶h-BN粒子の含有率は、該粒子による効果を十分発揮するためには多いほど好ましく、20容量%以上、特に、30容量%以上が好ましい。
【0028】
勿論、篩工程での粗粒業凝集粒子の除去、乾式分級による微粉除去などにより、得られる六方晶窒化硼素粉末から、双晶h-BN粒子以外の粒子を除去して分離して含有率を上げることも可能である。」
キ 「【0029】
(窒化硼素粉末の製造方法)
本発明の窒化硼素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、代表的な製造方法を例示すれば、以下の方法が挙げられる。
【0030】
即ち、前記本発明の窒化硼素粉末は、硼素化合物、カーボン源としてカーボンブラック、及び含酸素カルシウム化合物を含有する混合物を、硼素化合物とカーボン源との割合が、元素比(B/C)換算で、1を超え、1.2以下、含酸素カルシウム化合物の割合が、硼素化合物とカーボン源との合計量(H3BO3、C換算値)100質量部に対して、CaO換算で15~30質量部となる割合で含有する混合物を窒素雰囲気下、1700℃~2200℃で加熱することを特徴とする還元窒化法により再現性良く製造することが可能である。
【0031】
上記製造方法は、硼素化合物とカーボン源との割合とCaO重量部を上記範囲に調整することが最大の特徴であり、これにより、双晶h-BN粒子を含む六方晶窒化硼素粉末を得ることができる。」
ク 「【0049】
また、本発明の窒化硼素粉末は、立法晶窒化硼素や窒化硼素成型品等の窒化硼素加工品製品の原料、エンジニアリングプラスチックへの核剤、フェーズチェンジマテリアル、固体状または液体状のサーマルインターフェイスマテリアル、溶融金属や溶融ガラス成形型の離型剤、化粧品、複合セラミックス原料等の用途にも使用することができる。」
ケ 「【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
尚、実施例において、各測定値は、以下の方法により測定した値である。
【0052】
[屈曲部の角度]
倍率10000倍のSEM観察像から異なる双晶h-BN粒子100個を無作為に選び、各粒子の板面と板面の成す角θを測定し、その平均値を屈曲部の角度とした。
・・・
【0054】
[双晶粒子含有割合(容量%)]
倍率500倍のSEM観察像10水準から双晶h-BN粒子と非双晶h-BN粒子を選別して双晶h-BN含有容量%を求めた。
【0055】
実施例1
硼酸、アセチレンブラック、酸化カルシウムを表1に示す割合(元素比)で、混合物として100gをボールミルを使用して混合した。該混合物50gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、15℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃で2時間保持することで窒化処理した。
【0056】
次いで、副生成物含有窒化硼素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化硼素の5倍量の塩酸(7重量%HCl)を加え、回転数800rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化硼素を分散させ、再度ろ過した。この操作を5回繰り返した後、150℃で6時間乾燥させた。
【0057】
乾燥後に得られた粉末を目開き90μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化硼素粉末を得た。得られた六方晶窒化硼素粉末中の双晶窒化硼素粒子の含有割合をSEM観察にて測定、双晶窒化硼素粒子のアスペクト比、長軸の長さ(L)、短軸の長さ(W)、屈曲部の角度を測定して表1に示した。
・・・
【0059】
実施例3
硼酸とアセチレンブラックの割合を、元素比(B/C)換算で1.18となるようにし、CaOを30重量部とした以外は実施例1と同様にした。各測定値を表1に示した。」
コ 「【0065】
【0066】
」
サ 「
」
シ 「
」
(2) 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
上記(1)ケ、コの記載によれば、甲第1号証の実施例3には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「六方晶窒化硼素粉末であって、
六方晶窒化硼素粉末中の双晶窒化硼素粒子をSEM観察にて測定し、双晶窒化硼素粒子の屈曲部の角度の平均値が139.8°であり、平均粒径が25μmであり、双晶窒化硼素粒子の含有割合が45容量%である六方晶窒化硼素粉末。」
(3) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「屈曲部」を有する「六方晶窒化硼素粉末中の双晶窒化硼素粒子」は、上記(1)アの【請求項1】及び同ウ~オ、サによれば「板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造」を有するものといえるので、本件発明1における「六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる」、「折れ曲がった構造を有する粒子」に相当する。
したがって、両発明は以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「六方晶窒化ホウ素粉末であって、前記六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子が、折れ曲がった構造を有する粒子を含む、六方晶窒化ホウ素粉末。」
<相違点>
相違点1:本件発明1は、「粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度」で「折れ曲がった構造を有する粒子」の「個数割合が30%以上」であるのに対し、甲1発明は「双晶窒化硼素粒子の屈曲部の角度の平均値が139.8°」であり、「双晶窒化硼素粒子の含有割合が45容量%である」点。
相違点2:本件発明1は、「化粧料用の六方晶窒化ホウ素粉末」であるのに対し、甲1発明は、「六方晶窒化ホウ素粉末」が「化粧料用」であるとの発明特定事項を有さない点。
イ 相違点1についての検討
(ア) 上記(1)イ、エ、オ(【0020】)によれば、甲1発明における双晶窒化硼素粒子」を有した粒子は、「公知の六方晶窒化硼素粒子の代表的な構造である、板状結晶が単なる平板状を成した構造に対して、六方晶の結晶形態を有する板状結晶が1つの屈曲部において連続して構成された構造」であるといえ、ここで、「公知の六方晶窒化硼素粒子の代表的な構造である、板状結晶が単なる平板状を成した構造」において、当該平板状の最も広い主面が(0,0,1)面であることは、本件特許の優先日当時において技術常識である。
そして、上記(1)オ(【0021】)のとおり「本発明の双晶h-BN粒子において、前記屈曲部の角度(θ)は、殆どが139±2度を示し、このことから、該屈曲部は、<10-10>面の対象傾角粒界により形成されているものと推定される」ので、これら事項及び上記(1)サ、シの図面から、甲1発明の「板状結晶が1つの屈曲部において連続した双晶構造」における「屈曲部の角度」(θ)とは、上記双晶構造における一方の(0,0,1)面と他方の(0,0,1)面とのなす角であることが理解できる。
そうすると、甲1発明の「双晶窒化硼素粒子の屈曲部の角度」は、本件発明1の「粒子の結晶(1,0,0)面」に対して折れ曲がった「角度」に相当するものといえる。
(イ) 次に、甲1発明の「双晶窒化硼素粒子の屈曲部の角度の平均値」が「139.8°」であることについて、上記(1)オ(【0021】)のとおり「本発明の双晶h-BN粒子において、前記屈曲部の角度(θ)は、殆どが139±2度を示し」ているとされているものの、当該「殆ど」とは定量的にどの程度であるのかは不明確であり、また、製造方法についても、甲1発明は、本件発明の製造方法(【0030】~【0042】)の特徴である、ホウ素化合物と窒素化合物と添加剤を不活性ガス中で乱層構造を形成するための第1加熱と結晶化のための第2加熱を備えるものではないところ、甲1発明の全ての双晶窒化硼素粒子が「110°~160°」の屈曲部角度を有するとの確証を得るまでには至らない。
そうすると、甲1発明における「双晶窒化硼素粒子の含有割合」が、「粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子」の「含有割合」と同一であるとまではいい難く、両者はこの点(以下、「相違点1-1」という。)において相違するものといわざるを得ない。
(ウ) また、本件発明1は、「折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が30%以上」であるのに対し、甲1発明は、「双晶窒化硼素粒子の含有割合」が「45容量%」である点(以下、「相違点1-2」という。)でも両者は相違している。この点に関し、甲第1号証には「個数割合」についての記載はなく、上記(1)ケの【0057】のとおり「篩にかけて」得たものであっても、六方晶窒化硼素粉末に含まれる窒化硼素粒子が、双晶、非双晶その他を問わず、全て体積が等しいとまでいえる証拠は見当たらないので、甲1発明の「双晶窒化硼素粒子の含有割合」が「45容量%」であることが、「双晶窒化硼素粒子」の「個数割合が30%以上」であるとまでいい難い。
(エ) 上記(イ)及び(ウ)から、相違点1は実質的な相違点といえる。
以下、相違点1-1及び1-2に関し、甲1発明において、「屈曲部の角度」が「110°~160°」である「双晶窒化硼素粒子」を「個数割合が30%以上」とすることの容易想到性について検討する。
(オ) 上記(1)カのとおり、甲第1号証には、「双晶h-BN粒子の含有率は、該粒子による効果を十分発揮するためには多いほど好まし」く、「篩工程での粗粒業凝集粒子の除去、乾式分級による微粉除去などにより、得られる六方晶窒化硼素粉末から、双晶h-BN粒子以外の粒子を除去して分離して含有率を上げることも可能」であるとの記載があるものの、「双晶窒化硼素粒子」のうち「屈曲部の角度」が「110°~160°」であるものの「個数割合」やその程度についての記載はなく、甲1発明において、「屈曲部の角度」が「110°~160°」である「双晶窒化硼素粒子」を「個数割合が30%以上」とすることの動機付けがあるとまではいい難い。
(カ) 一方、本件発明1は、折れ曲がり粒子比率に関し、【0019】において「本発明においては、六方晶窒化ホウ素粉末に含まれる六方晶窒化ホウ素粒子のうち、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合(以下、「折れ曲がり粒子比率」という)を30%以上とすることが重要である。折れ曲がり粒子比率が30%未満であると、十分な光輝性を得ることができない。そのため、折れ曲がり粒子比率は50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上とする。」と記載されているように、「粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が30%以上」とすることで、「六方晶窒化ホウ素粉末」を「化粧料」に用いた際に、「十分な光輝性」が得られるという格別な効果を奏するものである。
そして、当該効果は、甲第1号証において、窒化硼素粉末の用途として、単に「化粧品」とのみ記載(上記(1)ク参照。)され、専ら樹脂に充填した際の、熱的異方性の低減及び高い絶縁耐力の発揮を課題(上記(1)ウの【0010】、コの表2参照。)とする甲1発明及び甲第1号証の記載事項から、当業者が予測できるものとはいえない。
(キ) 以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。
(4) 本件発明2~3について
本件発明2~3は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、上記(3)の本件発明1についての検討と同様、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできない。
(5) 異議申立人の意見について
異議申立人は、申立人意見書(第3頁3-2-1項)において、「甲1号証の粒子は殆どが139.8±2°の屈曲角度を有することが明記されている(例えば、段落【0021】)。そのため、甲1号証の表1に記載の実施例3の六方晶窒化硼素の屈曲部角度139.8°は、特許権者が主張するように平均値であるが、その分布は非常に狭いもので、大部分の粒子は137°~141°の範囲内に入っている。そうすると、双晶粒子含有割合である45容量%は、139.8±2°の粒子の容量割合にほぼ等しいと言える。」及び「双晶粒子と平板粒子とで粒径が大きく異なる理由はないので、甲1号証実施例3の六方晶窒化ホウ素粉末は、(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数は45%程度であり、少なくとも30%以上である蓋然性が高いと言える。
そして、甲1号証には、甲1号証の窒化硼素粉末は化粧料用途に使用可能であることが記載されている(段落【0049】)。したがって、訂正された請求項1に係る発明は、甲1発明及び甲1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」と主張する。
しかしながら、上記(3)で述べたとおり、甲1発明において、全ての双晶窒化硼素粒子が「110°~160°」の屈曲部角度を有するとの確証を得るまでには至らず、また、六方晶窒化硼素粉末に含まれる窒化硼素粒子が、双晶、非双晶その他を問わず、全て体積が等しいとまでいえる証拠は見当たらない。その上、「屈曲部の角度」が「110°~160°」である「双晶窒化硼素粒子」を「個数割合が30%以上」とすることの動機付けがあるとまではいい難い。一方、本件発明1は「粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合が30%以上」とすることで、「六方晶窒化ホウ素粉末」を「化粧料」に用いた際に、「十分な光輝性」が得られるという、甲第1号証からは予測できない格別な効果を奏するものである。
そうすると、本件発明は、甲1発明に対して進歩性が欠如するということはできないから、当該主張は採用できない。
(6) 小括
上記(1)~(5)のとおりであるから、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明に対して新規性又は進歩性が欠如するということはできないので、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しないため、取消理由1(新規性欠如)又は取消理由2(進歩性欠如)を理由に、取り消すことはできない。
3 取消理由3(実施可能要件違反)及び取消理由4(明確性要件違反)についての当審の判断
(1) 六方晶窒化ホウ素粒子の結晶面方位について
ア 六方晶窒化ホウ素粒子の結晶面方位についての上記取消理由3及び4は、要するに、明細書及び本件特許の優先日当時における技術常識を参酌しても、設定登録時の請求項1~5に係る発明の形状及び結晶面、結晶方位、特に「粒子の結晶(1,0,0)面」の位置を明確に把握することができないから、設定登録時の請求項1~5に係る発明は明確ではなく、また、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が設定登録時の請求項1~5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないというものである。
イ しかしながら、本件訂正により、本件発明は、六方晶窒化ホウ素粉末が、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子粒子を含むものであることが特定されることとなったので、当該構造は、明細書及び本件特許の優先日当時における技術常識から明確なものであるといえ、上記取消理由3及び4は妥当しない。
(2) 折れ曲がり角度の制御について
ア 折れ曲がり角度の制御についての上記取消理由3は、要するに、明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者は、設定登録時の請求項1に係る発明の「110°~160°の角度」及び請求項2に係る発明の「110°~130°の角度」で折れ曲がった構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子を製造するための条件を理解することができないから、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が設定登録時の請求項1~5に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるべきものではないというものである。
イ ここで、特許権者の令和2年11月25日提出の意見書(以下、「特許権者意見書」という。)における主張を踏まえて再検討したところ、本件発明の明細書の【0030】~【0042】には、本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末を製造するために必要なプロセス、使用する原料、製造条件が記載されており、特に第1加熱に先立って添加剤を添加しておくこと(【0039】)や、第2加熱における平均昇温速度を20℃/分以下にすること(【0039】)が、折れ曲がり比率を高める上で重要であることを理解することができる。
そして、実施例(【0044】~【0065】)においては、実際に本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末を製造できたことが示されており、その際の製造プロセスや、使用した原料とその配合量、添加剤の種類、加熱温度、平均昇温速度も開示されている。
そうすると、当業者であれば、明細書の記載及び本件特許の優先日当時の技術常識に基づいて、本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末を製造することができると解するのが相当であるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、上記取消理由3は妥当しない。
(3) 折れ曲がった構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子の個数割合について
ア 折れ曲がった構造を有する六方晶窒化ホウ素粒子の個数割合についての上記取消理由4は、要するに、「六方晶窒化ホウ素の一次粒子において折れ曲りが生じた場合、電子顕微鏡で「折れ曲がり有」と観察される六方晶窒化ホウ素粉末は、実質的に例外なく、1次粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の折れ曲がり角度を有している。顕微鏡視野下において、粒子の側面から見て折れ曲がりが確認される粒子、および粒子の上面から見て折れ曲がり線が観察される粒子は、すべて110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子と見なすことができる」(【0049】)ことの根拠を理解することができず、そのように粒子を判別した当該個数割合と、観察像から折れ曲がり角度を実測して粒子を判別した当該個数割合とが、高い蓋然性をもって等しくなるとはいえないため、当業者は当該個数割合を一義的な値として理解することができなから、本件発明1は明確でないというものである。
イ ここで、特許権者意見書における主張を踏まえて再検討したところ、明細書の【0024】の「粒子の折れ曲りは、後述するように、(0,0,1)面における結晶成長が不純物によって阻害されることにより生じるものであり、その折れ曲がり角度は理論的に決定される。しかし工業的には種々の要因によって角度が変動するので、ここでは折れ曲がり角度を110°~160°としている」なる記載及び【0031】の「前記添加剤を用いることにより、(0,0,1)面における結晶成長が阻害された結果、折れ曲がった構造を有する窒化ホウ素粒子が生成すると考えられる」なる記載から、本件発明の折れ曲がり角度は理論的に決まる角度であること、及び、種々の要因による角度の変動を考慮して110°~160°としていることが理解でき、このような理解に基づけば、明細書に記載の製造方法により製造された本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末においては、「電子顕微鏡で「折れ曲がり有」と観察される六方晶窒化ホウ素粉末は、実質的に例外なく、1次粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の折れ曲がり角度を有している」(【0049】)ものであると解するのが合理的であるし、そもそも、本件発明1の「粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~160°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合」なる文言自体は何ら不明確なものではないから、当業者は当該個数割合を一義的な値として明確に把握することができるというべきである。
したがって、本件発明1は明確であるといえるので、上記取消理由4は妥当しない。
ウ また、本件発明2の「粒子の結晶(1,0,0)面に対し110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合」については、明細書の【0063】において「ただし、折れ曲がり粒子比率としては、粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合(第2の折れ曲がり粒子比率を測定した。前記第2の折れ曲がり粒子比率は、六方晶窒化ホウ素粉末を電子顕微鏡で観察して得た画像を、常法に従って画像解析(3次元解析)することによって求めた。」と記載されており、画像解析によって「粒子の結晶(0,0,1)面に対し110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子」の粒子の個数を測定していることが理解できるので、当業者は当該個数割合を一義的な値として明確に把握することができ、本件発明2は明確であるといえるので、上記取消理由4は妥当しない。
(4) 異議申立人の意見について
異議申立人は、申立人意見書(第4頁3-3項)において、「表1のNo.1と表2のNo.16を比較すると、製造条件が同一であるので、同じ粉体であると考えられる。しかし、No.1の110°~160°の折れ曲がり粒子比率(78%)よりも、No.16の110~130°の折れ曲がり粒子比率(82%)が多いので、同じ粉体であるとすると矛盾する。その他、No.8とNo.18、No.12とNo.20でも同じことが言える。そのため、表1と表2の粉末は何らかの作り分けをしている、つまり、表1と何らかの作り分けをしなければ、110°~130°が折れ曲がり粒子が60%以上の粉末は得られないと考えなければならない。しかし、その作り分けの方法は全く記載されていない。」と主張する。
ここで、表1を見ると、例えばNo.1と2は同じ製造条件であるが、折れ曲がり粒子比率は異なるものとなっており、したがって、No.1と2は異なる六方晶窒化ホウ素粉末であるといえ、同様に、表1のNo.1と表2のNo.16も異なる六方晶窒化ホウ素粉末であるといえる。
そして、それら粉末が異なるものであると判別する方法については、上記(3)イ及びウで述べたとおり、明細書の【0049】及び【0063】の記載から明確に把握できるものである。
そうすると、当業者であれば、明細書に記載の製造プロセス(上記(2)イ参照)及び上記判別方法、並びに、本件特許の優先日当時の技術常識に基づいて、本件発明の六方晶窒化ホウ素粉末を製造できるものといえるので、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、上記主張は妥当しない。
(5) 小括
上記(1)~(4)のとおりであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当しないため、取消理由3(実施可能要件違反)及び取消理由4(明確性要件違反)を理由に、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 採用しなかった特許異議申立理由の概要
異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
申立理由1(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項2に係る特許は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「110°~130°の角度で折れ曲がった粒子の個数割合」を測定することができないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
2 申立理由1(実施可能要件違反)についての当審の判断
異議申立書(第13~14頁の3(4)エ(ア)-2項)において、異議申立人は、「本件明細書には、「折れ曲がり粒子比率は、実施例に記載した方法で測定することができる」(段落【0019】)と記載されており、実施例の段落【0049】に、折れ曲がり比率の測定方法が具体的に記載されている。・・・これにより、請求項1の110°~160°の角度で折れ曲がった粒子の個数割合を求めることができる。
しかしながら、上記方法による顕微鏡による観察では、・・・110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子を選択的に数えることはできない。」と主張する。
しかしながら、上記「第4」3(3)ウのとおり、「110°~130°の角度で折れ曲がった構造を有する粒子の個数割合」を測定する方法は、明細書の【0063】の記載から明確に把握できるものであるから、本件発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえ、上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、本件特許の特許請求の範囲の請求項5は、本件訂正により削除され、当該請求項5に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700369