特許異議申立
2024-700657
粘着シートおよびその利用
- 審判番号
- 2024-700657
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-020095
- 登録番号
- 7412082
- 請求日
- 2024年07月12日
- 審決日
- 2024年10月29日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日東電工株式会社
- 【権利者代理人】大井 道子
- 【権利者代理人】谷 征史
- 【異議申立人】山川 隆久
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 長谷川 真一
- 審判官 渡辺 陽子
- 分類
- P1652.113-Y (C09J) / P1652.121-Y (C09J) / P1652.537-Y (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7412082号発明「粘着シートおよびその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7412082号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7412082号の請求項1~9に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成31年2月6日に出願され、令和5年12月28日に特許権の設定登録がされ、令和6年1月12日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年7月12日に特許異議申立人である山川 隆久(以下「申立人」という。)により、請求項1~7に係る特許について特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
本件特許の請求項1~9のうち、特許異議の申立ての対象である本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、請求項番号に従って「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、次のとおりのものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、オキシアルキレン構造単位を有するポリマーと、イオン性化合物とを含み、
前記ポリマー中の前記オキシアルキレン構造単位の割合は65重量%以上であり、
前記粘着剤層中の前記イオン性化合物の含有量は6重量%以上であり、
前記粘着剤層の表面抵抗値は1.0×108Ω/□以下であり、
ステンレス鋼板に対する粘着力は0.01~4.0N/20mmの範囲内である、粘着シート。
【請求項2】
ヘイズ値は50%以下である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記オキシアルキレン構造単位を有するポリマーは、前記オキシアルキレン構造単位を側鎖に有する、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤層における前記オキシアルキレン構造単位の含有割合は95重量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
基材層をさらに備え、前記粘着剤層は該基材層の少なくとも一方の面に設けられている、請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記基材層は、弾性率が50MPa以上である樹脂フィルムから構成されている、請求項5に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記基材層と前記粘着剤層との間には下塗り層が配置されている、請求項5または6に記載の粘着シート。」
2 本件明細書の記載
「【0005】
上記のような技術的限界や生産性の低下に対して、本発明者は、従来とは異なる新規な解決策に着想した。その着想とは、複数の導電性小片(例えば半導体チップ)を、導電性を有する粘着剤で固定し、同時に粘着剤に導電性小片の電極を接触させ、この粘着剤を通して各導電性小片に電流を流すことで、粘着剤上のすべての導電性小片を同時にかつ一括して検査する、というものである。この着想に基づき、複数の導電性小片の一括同時検査に適した構成の具体化につき検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、複数の導電性小片の一括同時検査に好適に用いられ得る新規な粘着シートを提供することを目的とする。本発明の他の目的は、検査済み導電性小片の製造方法を提供することである。」
「【0006】
本明細書によると、粘着剤層を備える粘着シートが提供される。前記粘着剤層の表面抵抗値は1.0×108Ω/□以下である。また、この粘着シートは、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内である。
【0007】
上記構成の粘着シートは、粘着剤層が所定以上の導電性を有するので、粘着剤層上に複数の導電性小片(例えば半導体チップ)を固定することで、粘着剤層を通して、粘着剤上に配置された複数の導電性小片の一括同時通電を行い得る。また、粘着シートの粘着力を特定の範囲とすることで、導電性小片を接着信頼性よく固定し、かつ、通電工程終了後、導電性小片を粘着剤層表面から良好に分離することができる。」
「【0027】
オキシアルキレン構造単位における(ポリ)オキシアルキレン単位のモル数(付加モル数ともいう。典型的にはオキシアルキレンの繰返し数)は、通常は1または2以上である。粘着剤層内の電子(イオンの形態であり得る。)の移動性(電子伝導性)向上の観点から、上記(ポリ)オキシアルキレン単位のモル数は、2よりも大きいことが適当であり、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上(例えば8以上)である。上記(ポリ)オキシアルキレン単位のモル数の上限は特に限定されず、オキシアルキレン構造単位を有するポリマー等の合成性(重合容易性)や取扱い性等の観点から、30未満とすることが適当であり、好ましくは20未満であり、例えば15以下でもよく、13以下でもよく、11以下(典型的には10以下)でもよい。オキシアルキレン構造単位を有するポリマー、オリゴマー等が用いられる態様において、かかるポリマー、オリゴマー等が有するオキシアルキレン構造単位における(ポリ)オキシアルキレン単位のモル数についても、上述の範囲から選択され得る。」
「【0028】
粘着剤層(粘着剤組成物の固形分でもあり得る。)におけるオキシアルキレン構造単位の含有割合は、被着体への通電性等に応じて設定されるので特定の範囲に限定されない。粘着剤層におけるオキシアルキレン構造単位の含有割合は、例えば凡そ5重量%以上とすることができ、導電性向上の観点から、凡そ10重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ20重量%以上、より好ましくは凡そ30重量%以上、さらに好ましくは凡そ40重量%以上、特に好ましくは凡そ50重量%以上(例えば凡そ60重量%以上)である。粘着剤層におけるオキシアルキレン構造単位の含有割合の上限は、接着信頼性や被着体分離除去性等を考慮して、凡そ95重量%以下とすることが適当であり、例えば凡そ85重量%以下でもよく、凡そ75重量%以下でもよく、凡そ65重量%以下(例えば凡そ55重量%以下)でもよい。」
「【0033】
オキシアルキレン構造単位含有ポリマー中のオキシアルキレン構造単位の含有量は、被着体への通電性等に応じて設定されるので特定の範囲に限定されない。ポリマー中のオキシアルキレン構造単位の割合は、例えば凡そ10重量%以上とすることができ、導電性向上の観点から、凡そ25重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ35重量%以上、より好ましくは凡そ45重量%以上、さらに好ましくは凡そ55重量%以上、特に好ましくは凡そ65重量%以上(例えば凡そ70重量%以上)である。ポリマーにおけるオキシアルキレン構造単位の割合の上限は特に限定されず、接着信頼性や被着体分離除去性等を考慮して、凡そ95重量%以下とすることが適当であり、例えば凡そ90重量%以下でもよく、凡そ85重量%以下でもよく、凡そ75重量%以下(例えば凡そ70重量%以下)でもよい。」
「【0040】
ここに開示される技術におけるオキシアルキレン構造単位含有ポリマーとしては、水酸基(-OH)を有するモノマーが共重合されたものを好ましく用いることができる。水酸基含有モノマーの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有アクリル系モノマーが挙げられる。かかる水酸基含有モノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。かかるモノマーが共重合されたポリマーによると、被着体の接着固定と分離除去とを両立した粘着剤が得られやすいので好ましい。例えば、被着体からの剥離力を低く制御することが容易となることから、被着体の分離除去性に優れた粘着剤が得られやすい。また、ポリマーにおける水酸基含有側鎖が短い方が凝集力向上等の効果が得られやすいことから、上記水酸基含有モノマーの重合性反応基(典型的には(メタ)アクリロイル基)から水酸基までの距離が短い水酸基含有モノマー(ヒドロキシ(メタ)アクリレートの場合、ヒドロキシアルキル基の炭素数が少ないモノマー)が好ましく用いられる。
【0041】
水酸基含有モノマーは、該モノマーの使用効果を十分に発揮する観点から、オキシアルキレン構造単位含有ポリマーの合成に使用するモノマー総量のうち凡そ1mol%以上の割合で用いられることが適当であり、好ましくは凡そ3mol%以上、より好ましくは凡そ5mol%以上、さらに好ましくは凡そ8mol%以上であり、凡そ12mol%以上(凡そ15mol%以上)であってもよい。また、上記ポリマーの合成に使用するモノマー総量に占める水酸基含有モノマーの量は、粘着剤の凝集性、粘着力を考慮して、凡そ40mol%以下であることが適当であり、好ましくは凡そ30mol%以下、より好ましくは凡そ20mol%以下である。」
「【0099】
粘着剤層に含まれるイオン性化合物の量は、特に限定されず、粘着剤層中(粘着剤組成物の固形分中)、凡そ1重量%以上とすることができ、導電性向上の観点から、凡そ3重量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ6重量%以上、より好ましくは凡そ9重量%以上、さらに好ましくは凡そ12重量%以上である。粘着剤層中のイオン性化合物量は、通常、凡そ40重量%以下であり、粘着特性への影響や、被着体汚染防止の観点から、凡そ30重量%以下が適当であり、好ましくは凡そ25重量%以下(例えば凡そ20重量%以下)である。」
「【0152】
[粘着剤組成物の調製]
(調製例A1)
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた四つ口フラスコに、メトキシポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレートを80/5/15のモル比で混合したものを仕込んだ。このモノマー混合物100mol%に対して、重合開始剤として2,2‘-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.15mol%と酢酸エチルとを加え、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、所定の条件で重合反応を行い、Mw38×104、Mn6.5×104のポリマーA1を得た。
【0153】
(調製例A2)
モノマーとして、メトキシポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレートのモル比が65/5/10/20のモノマー混合物を使用した。その他は調製例A1と同様にして、ポリマーA2を得た。
【0154】
(調製例A3)
モノマーとして、メトキシポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレートのモル比が45/5/10/40のモノマー混合物を使用した。その他は調製例A1と同様にして、ポリマーA3を得た。
【0155】
(調製例A4)
モノマーとして、ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレートのモル比が80/20のモノマー混合物を使用した。その他は調製例A1と同様にして、ポリマーA4を得た。
【0156】
(調製例A5)
モノマーとして、ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの平均付加モル数9)メタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メチルメタクリレートのモル比が60/20/20のモノマー混合物を使用した。その他は調製例A1と同様にして、ポリマーA5を得た。
【0157】
[基材の作製]
(製造例B1)
導電性ポリマーとしてのポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)0.5%およびポリスチレンスルホネート(数平均分子量15万)(PSS)0.8%を含む水溶液(Bytron P、H.C.Stark社製)を用意した。また、バインダとしてのポリエステル樹脂を25%含む分散液(東洋紡社製、商品名「バイナロールMD-1480」(飽和共重合ポリエステル樹脂の水分散液)を用意した。水とエタノールとの混合溶媒に、上記バインダ分散液を固形分量で100部と、上記導電性ポリマー水溶液を固形分量で50部と、メラミン系架橋剤5部とを加え、約20分間攪拌して十分に混合した。このようにして、NV約0.4%の導電性下塗り層形成用組成物を調製した。この導電性下塗り層形成用組成物を、厚さ50μmのPETフィルム(弾性率4.2GPa)の片面に塗布し、120℃で60秒間乾燥して厚さ300nmの導電性下塗り層を形成した。このようにして、導電性下塗り層付き基材フィルムB1を得た。
【0158】
(製造例B2)
基材として、PETフィルムに代えて厚さ70μmのポリ塩化ビニルフィルム(可塑剤としてテレフタル酸ジオクチル使用。弾性率250MPa)を用いた。その他は製造例B1と同様にして導電性下塗り層付き基材フィルムB2を得た。
【0159】
(製造例B3)
基材として、PETフィルムに代えて厚さ100μmのポリプロピレン/ポリエチレン・酢酸ビニル共重合体の多層強押出しフィルム(弾性率600MPa)を用いた。その他は製造例B1と同様にして導電性下塗り層付き基材フィルムB3を得た。
【0160】
(製造例B4)
基材として、PETフィルムに代えて厚さ40μmのポリプロピレン/ポリエチレンブレンドフィルム(弾性率600MPa)を用いた。その他は製造例B1と同様にして導電性下塗り層付き基材フィルムB4を得た。
【0161】
<例1>
ポリマーA1を85部、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製の「コロネートHX」)を2.5部、リチウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(三菱マテリアル電子化成製の商品名「エフトップEF-N115」)を15部、アセチルアセトン第二鉄(日本化学産業社製の「ナーセム第二鉄」)を0.016部含む粘着剤の酢酸エチル溶液を、本例に係る粘着剤組成物として調製した。この粘着剤組成物を、導電性下塗り層付き基材フィルムB1の導電性下塗り層表面に塗布し、130℃で90秒間乾燥して厚さ10μmの粘着剤層を形成した。このようにして、本例に係る片面接着性の粘着シートを得た。
【0162】
<例2~5>
ポリマーA1に代えてポリマーA2(例2)、ポリマーA3(例3)、ポリマーA4(例4)またはポリマーA5(例5)を用いた他は例1と同様にして各例に係る粘着剤組成物を調製し、その粘着剤組成物を用いた他は例1と同様にして各例に係る片面接着性の粘着シートを得た。
【0163】
<例6>
例2に係る粘着剤組成物を用意し、導電性下塗り層付き基材フィルムB2を用いた他は例2と同様にして、上記粘着剤組成物を導電性下塗り層付き基材フィルムB2の導電性下塗り層表面に塗布、乾燥し、本例に係る片面接着性の粘着シートを得た。
【0164】
<例7~8>
例1に係る粘着剤組成物を用意し、導電性下塗り層付き基材フィルムB3(例7)またはB4(例8)を用いた他は例1と同様にして、上記粘着剤組成物を導電性下塗り層付き基材フィルムの導電性下塗り層表面に塗布、乾燥し、各例に係る片面接着性の粘着シートを得た。
【0165】
<例9>
ポリエーテルポリオールA(AGC社製の「PREMINOL S 3011」、分子量10000)85部、ポリエーテルポリオールB(三洋化成社工業製の「サンニックス GP-3000」、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、数平均分子量3000)13部、ポリエーテルポリオールC(三洋化成工業社製の「サンニックス GP-1000」、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、数平均分子量1000)2部、多官能イソシアネート(東ソー社製の「コロネートHX」)18部、リチウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(三菱マテリアル電子化成製の商品名「エフトップEF-N115」)15部およびアセチルアセトン第二鉄(日本化学産業社製の「ナーセム第二鉄)0.12部を含む粘着剤の酢酸エチル溶液を、本例に係る粘着剤組成物として調製した。この粘着剤組成物を、導電性下塗り層付き基材フィルムB1の導電性下塗り層表面に塗布し、130℃、90秒の条件で硬化処理を施し、厚さ10μmの粘着剤層を形成した。このようにして、本例に係る片面接着性の粘着シートを得た。
【0166】
<例10>
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器を備えた四つ口フラスコに、2-エチルヘキシルアクリレート82部、N-ビニルピロリドン12部、4-ヒドロキシエチルアクリレート3部、アクリル酸3部、光開始剤(IGM Resins Itaria S.r.l製の「Omnirad651」)0.05部、老化防止剤(「Songnox1010」)0.1部、架橋剤(新中村化学工業社製の「NKエステルA-HD-N」)0.05部、導電性フィラー(ECKA社製の「Sil-shield Ag/glass 5/25s」)50部、導電性フィラー(Potters社製の「TP25S12」)150部からなる紫外線(UV)硬化性シロップを、本例に係る粘着剤組成物として調製した。この粘着剤組成物を、シリコーン剥離層付きポリエステルフィルムの剥離層上に塗布し、さらにシリコーン剥離層付きポリエステルフィルムを貼り合わせ、照度50mW/cm2のUVを5分間照射して硬化させた。このようにして、厚さ30μmの粘着剤層からなる基材レス両面粘着シートを得た。
【0167】
<例11>
粘着剤層の厚さを50μmに変更した他は例10と同様にして本例に係る基材レス両面粘着シートを得た。
【0168】
各例に係る粘着シートの概略構成、粘着力[N/20mm]、表面抵抗値[Ω/□]およびヘイズ値[%]の評価結果を表1に示す。
【0169】
【表1】
[図:0001416517000001.jpg]
【0170】
表1に示されるように、例1~9に係る粘着シートは、粘着剤層の表面抵抗値が108Ω/□以下であるので、粘着剤層を通して、粘着剤上に配置された複数の導電性小片(例えば半導体チップ)の一括同時通電を行い得る。また、これらの例の粘着シートは、対SUS板粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内であるので、導電性小片を接着信頼性よく固定し、かつ、通電工程終了後、導電性小片を粘着剤層表面から良好に分離することができる。一方、例10~11に係る粘着シートは、良好な導電性を有するものであったが、粘着力が4.0N/20mmを超え、例1~9と比べて被着体の分離除去性に劣ると考えられる。また、ヘイズ値も50%を超え、粘着シート越しの検査ができないか、検査性に劣ると考えられる。
上記の結果から、粘着剤層の表面抵抗値が108Ω/□以下であり、対SUS板粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内である粘着シートは、複数の導電性小片の一括同時検査に好適に用いられ得る。」
第3 異議申立ての概要及び証拠方法
1 異議申立ての概要
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明1~7は、本件特許に係る出願(以下、「本件出願」ともいう。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~7は、本件出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲1に記載された発明、及び、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件発明1~3、5~7は、粘着剤層中のオキシアルキレン構造単位の含有量の上限値、及び/又は、水酸基含有モノマーの含有量が特定されていないから、発明の課題を解決できない態様のものを含んでおり、本件発明1~3、5~7についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証を提出した。甲第1号証を、以下「甲1」ともいう。
甲第1号証:特許第5030251号公報
第4 甲1号証等の記載
甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当審により付した。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体、及び単量体単位として(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物を0.1~100重量%有する(メタ)アクリル系ポリマーを含有してなり、
前記イオン性液体が、25℃で液状を呈するものであり、
前記(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイド付加物のオキシアルキレン単位として、炭素数1~6のアルキレン基を有し、前記オキシアルキレン単位に対するオキシアルキレンユニットの付加モル数が2~30であることを特徴とする粘着剤組成物。」
「【0001】
本発明は帯電防止性を有する粘着剤組成物、並びにこれを用いてシート状やテープ状などの形態とした帯電防止性の粘着シート類及び表面保護フィルムに関するものである。本発明の帯電防止性の粘着剤組成物からなる粘着シート類は、静電気が発生しやすいプラスチック製品などに好適に用いられる。なかでも特に、電子機器など静電気を嫌う用途で用いられる帯電防止性の粘着シート及び表面保護フィルムとして有用である。」
「【0006】
本発明は、このような事情に照らし、剥離した際に帯電防止されていない被着体への帯電防止が図れ、被着体への汚染が低減された、接着信頼性に優れる粘着剤組成物、並びにこれを用いた帯電防止性の粘着シート類、及び表面保護フィルムを提供することを目的とする。」
「【0009】
本発明の粘着剤組成物によると、実施例の結果に示すように、単量体単位として(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイドを0.1~100重量%有する(メタ)アクリル系ポリマーをベースポリマーとし、更にイオン性液体を含有するため、これを架橋した粘着剤層は、被保護体への汚染性が低減され、剥離した際の帯電防止性に優れたものとなる。上記(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイドを単量体成分として用いたベースポリマーの架橋物がかかる特性を発現する理由の詳細は明らかではないが、アクリル酸アルキレンオキサイド中のエーテル基にイオン性液体が配位することでイオン性液体がブリードしにくくなり、優れた帯電防止性と低汚染性を並立して実現していると推測される。
【0010】
本発明におけるイオン性液体とは、室温(25℃)で液状を呈する溶融塩(イオン性化合物)を指す。
【0011】
本発明の粘着剤組成物は、上記のイオン性液体を帯電防止剤として用いることにより、帯電防止剤のブリードが抑制され、経時や高温下においても被着体への接着信頼性に優れたものとなる。イオン性液体を用いることによりブリードが抑制される理由は明らかでないが、界面活性剤などと比較してベースポリマーへの相溶性が高いためと推測される。また、イオン性液体はそれ自身ですぐれた導電性を示すため、被着体表面への汚染が微量でも十分な帯電防止能が得られる。
【0012】
また、上記のイオン性液体は好ましくは室温にて液状であるため、固体の塩とくらべ、粘着剤への添加及び分散又は溶解が容易に行える。さらにイオン性液体は蒸気圧がない(不揮発性)のため、経時で消失することもなく、帯電防止特性が継続して得られるものとなる。」
「【0034】
本発明に用いられるイオン性液体の具体例としては、上記カチオン成分とアニオン成分の組み合わせから適宜選択して用いられ・・・1-へキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート・・・などが挙げられる。」
「【0047】
イオン性液体の配合量としては、使用するアクリル系ポリマーとイオン性液体の相溶性により変わるため一概に定義することができないが、一般的にはベースポリマー100重量部に対して、0.01~40重量部が好ましく、0.03~20重量部がより好ましく、0.05~10重量部が最も好ましい。0.01重量部未満であると十分な帯電防止特性が得られず、40重量部を超えると被着体への汚染が増加する傾向がある。」
「【実施例】
【0141】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
・・・
【0158】
<剥離帯電圧の測定>
粘着シートを幅70mm、長さ130mmのサイズにカットし、セパレーターを剥離した後、あらかじめ除電しておいたアクリル板(厚み:1mm、幅:70mm、長さ:100mm)に貼り合わせた偏光板(日東電工社製、SEG1425EWVAGS2B、幅:70mm、長さ:100mm)表面に片方の端部が30mmはみ出すようにハンドローラーにて圧着した。
【0159】
23℃×50%RHの環境下に一日放置した後、図1に示すように所定の位置にサンプルをセットする。30mmはみ出した片方の端部を自動巻取り機に固定し、剥離角度150°、剥離速度10m/minとなるように剥離する。このときに発生する偏光板表面の電位を所定の位置に固定してある電位測定機(春日電機社製、KSD-0103)にて測定した。測定は、23℃×50%RHの環境下で行った。
・・・
【0163】
<粘着力測定>
トリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製、フジタック、厚み:90μm)を幅70mm、長さ100mmにカットし、60℃の水酸化ナトリウム水溶液(10重量%)に1分間浸漬した後、蒸留水にて洗浄し被着体を作製した。
【0164】
上記被着体を23℃×50%RHの環境下に24時間放置した後、幅25mm、長さ100mmにカットした粘着シートを上記被着体に0.25MPaの圧力でラミネートし、評価サンプルを作製した。ラミネート後、23℃×50%RHの環境下に30分間放置した後、万能引張試験機にて剥離速度10m/分、剥離角度180°で剥離したときの粘着力を測定した。測定は23℃×50%RHの環境下でおこなった。
・・・
【0166】
(アクリル系ポリマー(B))
攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート200重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート12重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、トルエン197重量部、酢酸エチル197重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー(B)の溶液(35重量%)を調製した。このアクリル系ポリマー(B)は、Tg=-68℃、重量平均分子量43万、酸価0.0であった。
・・・
【0172】
<イオン性液体(a)の調製>
攪拌羽根、温度計、冷却器を備えた四つ口フラスコに、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド(東京化成工業社製)10重量部の20重量%水溶液を添加した後、撹拌羽根を回しながらリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学社製)19重量部の20重量%水溶液を徐々に添加した。添加後、常温下(25℃)で2時間撹拌を続けた後、12時間静置し、上澄み液を除去し、液状の生成物を得た。
【0173】
得られた液状生成物を200重量部の蒸留水にて3回洗浄し、110℃の環境下で2時間乾燥させてイオン性液体(a)を20重量部得た。得られたイオン性液体(a)のNMR(1H、13C)測定、FT-IR測定、XRF測定をおこない、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることを同定・確認した。
【0174】
<イオン性液体(b)の調製>
攪拌羽根、温度計、冷却器を備えた四つ口フラスコに、1-ブチル-3-メチルピリジニウムクロライド(和光純薬工業(株)製)10重量部を蒸溜水で20重量%に希釈した溶液を添加した後、撹拌羽根を回しながらリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(キシダ化学(株)製)19重量部を蒸溜水で20重量%に希釈した溶液を徐々に添加した。添加後、25℃下で2時間撹拌を続けた後、12時間静置し、上澄み液を除去し、液状の生成物を得た。
【0175】
得られた液状生成物を200重量部の蒸留水にて3回洗浄し、110℃の温度で2時間乾燥させてイオン性液体(b)を20重量部得た。得られたイオン性液体(b)のNMR(1H、13C)測定、FT-IR測定、XRF測定をおこない、1-ブチル-3-メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることを同定・確認した。
【0176】
<帯電防止剤の調製>
〔帯電防止剤溶液(a)〕
攪拌羽根、温度計、冷却器を備えた四つ口フラスコにN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学社製、25℃下で液状)5重量部、非イオン性反応性界面活性剤(旭電化工業社製、アデカリアソープNE-10)5重量部、酢酸エチル90重量部を仕込み、フラスコ内の液温を常温(25℃)付近に保って30分間混合撹拌を行い、帯電防止剤溶液(a)(10重量%)を調製した。
【0177】
〔帯電防止剤溶液(b)〕
攪拌羽根、温度計、冷却器を備えた四つ口フラスコにN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学社製、25℃下で液状)5重量部、非イオン性反応性界面活性剤(旭電化工業社製、アデカリアソープER-10)5重量部、酢酸エチル90重量部を仕込み、フラスコ内の液温を常温(25℃)付近に保って30分間混合撹拌を行い、帯電防止剤溶液(b)(10重量%)を調製した。
・・・
【0181】
<帯電防止処理フィルムの作製>
帯電防止剤(ソルベックス社製、マイクロソルバーRMd-142、酸化スズとポリエステル樹脂を主成分とする)10重量部を、水30重量部とメタノール70重量部からなる混合溶媒で希釈することにより帯電防止剤溶液を調製した。
【0182】
得られた帯電防止剤溶液を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ38μm)上にマイヤーバーを用いて塗布し、130℃で1分間乾燥することにより溶剤を除去して帯電防止層(厚さ0.2μm)を形成し、帯電防止処理フィルムを作製した。
【0183】
〔実施例1〕
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(A)の溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(ACROS ORGANICS社製、25℃で液状)0.2重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.6重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液(1)を調製した。
【0184】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)を、上記の帯電防止処理フィルムの帯電防止処理面とは反対の面に塗布し、110℃で3分間加熱して、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。次いで、前記粘着剤層の表面に、片面にシリコーン処理を施した厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン処理面を貼合せて粘着シートを作製した。
【0185】
〔実施例2〕
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(A)の溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記イオン性液体(a)(25℃で液状)0.3重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液(2)を調製した。
【0186】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル粘着剤溶液(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0187】
〔実施例3〕
(粘着剤組成物の調製)
上記イオン性液体(a)0.3重量部に代えて、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(関東化学社製、25℃で液状)0.3重量部を用いたこと以外は、実施例2と同様にしてアクリル粘着剤溶液(3)を調製した。
【0188】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル粘着剤溶液(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0189】
〔実施例4〕
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(B)の溶液(35重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(ACROS ORGANICS社製、25℃で液状)1.2重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液(4)を調製した。
【0190】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル粘着剤溶液(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0191】
〔実施例5〕
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(A)の溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記帯電防止剤(a)溶液(10重量%)6.0重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.5重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液(5)を調製した。
【0192】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル粘着剤溶液(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0193】
〔実施例6〕
(粘着剤組成物の調製)
上記帯電防止剤(a)溶液(10重量%)6.0重量部に代えて、上記帯電防止剤(b)溶液(10重量%)6.0重量部を用いたこと以外は、実施例5と同様にしてアクリル粘着剤溶液(6)を調製した。
【0194】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル粘着剤溶液(6)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0195】
〔実施例7〕
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(A)の溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記のイオン性液体(b)(25℃で液状)0.3重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液を調製した。
【0196】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液(1)に代えて、上記アクリル粘着剤溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0197】
〔実施例8〕
(粘着剤組成物の調製)
上記アクリル系ポリマー(D)の溶液(40重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に上記のイオン性液体(b)(25℃で液状)0.2重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液を調製した。
【0198】
(粘着シートの作製)
上記アクリル粘着剤溶液を、上記の帯電防止処理フィルムの帯電防止処理面とは反対の面に塗布し、110℃で3分間加熱して、厚さ20μmの粘着剤層を形成した。次いで、前記粘着剤層の表面に、片面にシリコーン処理を施した厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン処理面を貼合せて粘着シートを作製した。
【0199】
〔実施例9〕
実施例8において、上記アクリル系ポリマー(D)の溶液(40重量%)の代わりに上記アクリル系ポリマー(E)の溶液(40重量%)を用いたこと以外は、実施例8と同じ方法によりアクリル粘着剤溶液を調製し、これを用いて実施例8と同じ方法により粘着シートを作製した。
【0200】
〔実施例10〕
実施例8において、上記アクリル系ポリマー(D)の溶液(40重量%)の代わりに上記アクリル系ポリマー(F)の溶液(35重量%)を用いたこと以外は、実施例8と同じ方法によりアクリル粘着剤溶液を調製し、これを用いて実施例8と同じ方法により粘着シートを作製した。
【0201】
〔実施例11〕
実施例8において、上記アクリル系ポリマー(D)の溶液(40重量%)の代わりに上記アクリル系ポリマー(G)の溶液(35重量%)を用いたこと以外は、実施例8と同じ方法によりアクリル粘着剤溶液を調製し、これを用いて実施例8と同じ方法により粘着シートを作製した。
・・・
【0219】
上記の実施例、比較例等で得られた粘着シートについて、上記の要領で、剥離帯電圧、汚染性、及び粘着力を評価した。その結果を表1に示す。
【0220】
【表1】
[図:0001416517000002.jpg]
上記表1の結果により、本発明にしたがって作製された粘着剤組成物を用いた場合(実施例1~11)、全実施例において偏光板への剥離帯電圧が抑制され、かつ、偏光板への汚染の発生もないことが明らかとなった。
【0221】
これに対して、(メタ)アクリルポリマーが(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイドを単量体単位として含有していない粘着剤組成物を用いた場合(比較例1~3、6)、及び帯電防止剤としてカチオン型界面活性剤を用いた比較例5及び9では、剥離帯電圧は抑制されているものの、汚染の発生が認められる結果となった。また、(メタ)アクリルポリマーが(メタ)アクリル酸アルキレンオキサイドを単量体単位として含有していない粘着剤組成物において帯電防止剤量を減量した比較例4では、汚染の発生が認められないものの、剥離帯電圧が高くなる結果となった。また、イオン性液体を使用しない比較例7~8では、剥離帯電圧が高くなる結果となった。更に、ポリエーテルポリオールとアルカリ金属塩からなる帯電防止剤を用いた比較例10では、ブリードにより汚染の発生が生じた。したがって、比較例ではいずれも、被着体である偏光板への剥離帯電圧の抑制と汚染の発生の抑制とを両立させることができない結果となった。」
「【図1】
[図:0001416517000003.jpg]
」
第5 申立理由1、2(新規性欠如、進歩性欠如)についての当審の判断
1 甲1に記載された発明
甲1に記載された粘着シートについて、甲1の段落【0189】~【0190】に記載された実施例4及びそれに関連する同段落【0158】~【0159】、【0163】~【0164】、【0166】、【0181】~【0184】、【表1】の記載に着目して整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「攪拌羽根、温度計、窒素ガス導入管、冷却器、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート200重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート12重量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4重量部、トルエン197重量部、酢酸エチル197重量部を仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入し、フラスコ内の液温を65℃付近に保って6時間重合反応を行って得られたアクリル系ポリマー(B)(Tg=-68℃、重量平均分子量43万、酸価0.0)の溶液(35重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈し、この溶液100重量部に1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(ACROS ORGANICS社製、25℃で液状)1.2重量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部、架橋触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部を加えて、常温(25℃)下で約1分間混合攪拌を行ってアクリル粘着剤溶液を調製し、帯電防止処理フィルムの帯電防止処理面とは反対の面に塗布し、110℃で3分間加熱して、厚さ20μmの粘着剤層を形成し、前記粘着剤層の表面に、片面にシリコーン処理を施した厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムのシリコーン処理面を貼合せた、剥離耐電圧が-0.4kVであり、トリアセチルセルロースフィルムに対する粘着力が0.6N/25mmである、粘着シート。」
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
甲1発明と本件発明1とを対比すると、甲1発明の「粘着剤層」、「粘着シート」は、それぞれ本件発明1の「粘着剤層」、「粘着シート」に相当する。
また、甲1発明の「エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート」は、「オキシアルキレン」である「オキシエチレン」の構造単位、すなわち、「オキシアルキレン構造単位」を分子内に3つ有するモノマーであり、甲1発明の「アクリル系ポリマー(B)」は、当該「エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート」と「2-ヒドロキシエチルアクリレート」とを重合させて得られたものであるから、本件発明1の「オキシアルキレン構造単位を有するポリマー」に相当する。
さらに、甲1の段落【0034】には、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートがイオン性液体であることが記載されているから、甲1発明の「1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート(ACROS ORGANICS社製、25℃で液状」は、本件発明1の「イオン性化合物」に相当する。
そして、甲1発明の「アクリル系ポリマー(B)」のモノマー成分の比率は、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート200重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート12重量部であるところ、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート(CH2CHCO-(OCH2CH2)3-H)の1分子中のオキシアルキレン構造単位の重量比を計算すると、約70.2(≒132÷188×100)重量%であるから、これを用いて、甲1発明の「アクリル系ポリマー(B)」に含まれるオキシアルキレン構造単位の重量比を計算すると、約66.2(≒200×70.2/100÷(200+12)×100)重量%となり、甲1発明は、本件発明1の「前記ポリマー中の前記オキシアルキレン構造単位の割合は65重量%以上であり」の発明特定事項を充足する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「粘着剤層を備える粘着シートであって、
前記粘着剤層は、オキシアルキレン構造単位を有するポリマーと、イオン性化合物とを含み、
前記ポリマー中の前記オキシアルキレン構造単位の割合は65重量%以上である、粘着シート。」
<相違点1>
本件発明1は、粘着剤層中のイオン性化合物の含有量が、6重量%以上であるのに対して、甲1発明は、粘着剤層を基準としたイオン性化合物の重量比は特定されておらず、イオン性化合物である1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート1.2重量部が、アクリル系ポリマー(B)の溶液(35重量%)を酢酸エチルで20重量%に希釈した溶液100重量部に、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)0.4重量部と、架橋触媒であるジラウリン酸ジブチルスズ(1重量%酢酸エチル溶液)0.4重量部とともに混合、塗布され、110℃で3分間加熱して形成された粘着剤層中に存在する点。
<相違点2>
粘着剤層の表面抵抗値について、本件発明1は、1.0×108Ω/□以下であるのに対して、甲1発明は、表面抵抗値の値が不明であり、剥離耐電圧が-0.4Vである点。
<相違点3>
本件発明1は、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内であるのに対して、甲1発明は、トリアセチルセルロースフィルムに対する粘着力が0.6N/25mmである点。
イ 判断
相違点1についてまず検討する。
甲1発明の粘着剤層を形成する主な成分は、「イオン性化合物」である「1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート」(1.2重量%)と、「アクリル系ポリマー(B)」(20重量%に希釈された溶液100重量部であるから、溶液中の固形分のポリマーは20重量部と認められる。)と、「ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)(0.4重量部)であると認められるところ、これらの総重量に基づいて、甲1発明の粘着剤層に含まれるイオン性化合物の重量比を計算すると、約5.6(≒1.2÷(20+1.2+0.4)×100)である。
そうすると、甲1発明の粘着剤層中のイオン化合物の含有量は、本件発明1の数値範囲を充足しないから、相違点1は実質的な相違点である。
また、相違点1についての容易想到性について検討すると、甲1の段落【0047】には、「イオン性液体の配合量としては、使用するアクリル系ポリマーとイオン性液体の相溶性により変わるため一概に定義することができないが、一般的にはベースポリマー100重量部に対して、0.01~40重量部が好ましく、0.03~20重量部がより好ましく、0.05~10重量部が最も好ましい。0.01重量部未満であると十分な帯電防止特性が得られず、40重量部を超えると被着体への汚染が増加する傾向がある。」との記載がある。
しかしながら、甲1の実施例1~11において、粘着剤層に含まれるイオン性液体の含有量が最も多いのは、甲1発明の認定に用いた実施例4(上記のとおり、約5.6重量%)であり、甲1には、具体例として、粘着剤層にイオン性液体を6重量%以上含むものは記載されていない(上記第4の摘記の段落【0172】~【0177】、【0183】~【0201】の記載を参照。特に、これらの段落における下線を付した箇所の記載を参照のこと。)。
そして、甲1の段落【0006】の記載より、粘着シートを剥離した際に、帯電防止されていない被着体への帯電防止が図れ、被着体への汚染が低減された、接着信頼性に優れる粘着剤組成物を用いた帯電防止性の粘着シートを提供することが甲1発明の課題と認められるところ、甲1の【表1】には、実施例1~11の粘着シートの剥離帯電圧が0.0kV~-0.4kV(0.0kVに近い方が、剥離帯電圧が抑制されていることを示す。)であることが示されており、イオン性液体の含有量が最も多い、実施例4の粘着シートの剥離帯電圧が-0.4kVであること、すなわち、実施例の中では最も剥離帯電圧の抑制効果が少ないことを考慮すれば、帯電防止の向上を目的とする当業者が、甲1発明において、粘着剤層中のイオン性液体の含有量をさらに増やして、6重量%以上とする動機付けはないといえる。
してみれば、甲1発明において、甲1に記載された事項に基づいて、相違点1の構成を導くことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。
次に、相違点2について検討する。
甲1発明は、剥離耐電圧が-0.4Vである粘着シートであるところ、剥離耐電圧と粘着剤層の表面抵抗値との関係については、その相関が明らかでないから、剥離耐電圧が-0.4Vのものが、表面抵抗値が、1.0×108Ω/□以下であるということはできない。
また、本件明細書の段落【0152】~【0155】には、オキシアルキレン構造単位を有する調整例A1~A5のアクリル系ポリマーとして、オキシアルキレン構造単位のエチレンオキシドの平均付加モル数が9であるものが記載され、同段落【0161】~【0164】、【表1】の例1~例8には、それらのポリマーを用いた粘着剤層の具体例として、A1~A5のアクリル系ポリマーのいずれかを85重量部、イオン性化合物であるリチウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを15重量部、イソシアネート系架橋剤2.5重量部から形成された(イオン性化合物の含有量は、約14.6(≒15/(85+15+2.5)×100)重量%)、表面抵抗値が、3.30×104Ω/□~7.95×106Ω/□であるものが記載されている。
そして、本件明細書の段落【0027】、【0099】の記載を参酌すると、オキシアルキレン構造単位のエチレンオキシドの平均付加モル数や、イオン性化合物の粘着剤層における含有量は、粘着剤層の導電性に影響を与えるパラメータ、すなわち、表面抵抗値に影響をパラメータであると認められる。
しかしながら、甲1発明の粘着剤層において、オキシアルキレン構造単位のエチレンオキシドの平均付加モル数は3であり、イオン性化合物の粘着剤層中の含有量は、約5.6重量%であり、本件明細書の例1~例8の粘着剤層と、少なくとも、エチレンオキシドの平均付加モル数と、イオン性化合物の含有量が異なるから、甲1発明の粘着剤層の成分組成から、その表面抵抗値が、1.0×108Ω/□以下であるということはできない。
そうすると、甲1発明の粘着剤層の表面抵抗値は、本件発明1の数値範囲を充足しないから、相違点2は実質的な相違点である。
また、相違点2についての容易想到性について検討すると、甲1発明の課題は、粘着シートを剥離した際に、帯電防止されていない被着体への帯電防止が図れ、被着体への汚染が低減された、接着信頼性に優れる粘着剤組成物を用いた帯電防止性の粘着シートを提供することであり、粘着シートの剥離耐電圧が小さくなるように、粘着剤層の組成を調整することはあったとしても、前述のとおり、剥離耐電圧と粘着剤層の表面抵抗値との関係については、その相関が明らかでないから、甲1において、表面抵抗値についての記載も示唆もない以上、甲1発明において、粘着剤層の表面抵抗値を1.0×108Ω/□以下にする動機付けはないといえる。
してみれば、甲1発明において、甲1に記載された事項に基づいて、相違点2の構成を導くことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第19~21頁において、以下を主張する。
(主張1)甲1発明におけるアクリル系ポリマー(B)中のエトキシ-ジエチレングリコールアクリレート(オキシアルキレン構造)の割合、及び1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの含有量は、それぞれ、本件特許発明1における、オキシアルキレン構造単位の割合、及びイオン性化合物の含有量の規定範囲内となっており、甲1発明の粘着剤組成物の構成は、本件特許発明1の粘着剤層の構成とほとんど差異がないことから、甲1発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層及び得られる粘着シートは、本件特許発明1における粘着剤層の表面抵抗値を満たすと解される。
(主張2)
甲第1号証には、一般的に抵抗値の調整に使用されるイオン性液体について、その含有量範囲について記載されているから(甲第1号証の【0047】)、甲1発明の粘着剤組成物に対して、イオン性液体の含有量を調整して表面抵抗値を調節することは当業者が容易に想到し得ることか、適宜なし得ることである。
以下、上記主張1~2について、検討する。
(1)主張1について
上記2(1)イの相違点1で検討したとおり、甲1発明の粘着剤層中の1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの含有量は、本件発明1の粘着剤層中のイオン性化合物の含有量の数値範囲を満たしていないから、「甲1発明におけるアクリル系ポリマー(B)中の・・・1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートの含有量は・・・本件特許発明1における・・・イオン性化合物の含有量の規定範囲内となって」いるとの申立人の主張は失当である。
また、上記2(1)イの相違点2で検討したとおり、甲1発明の粘着剤層の成分組成から、甲1発明の粘着剤層の表面抵抗値が、1.0×108Ω/□以下であるともいえない。
よって、上記申立人の主張1は採用できない。
(2)主張2について
甲1の段落【0047】には、イオン性液体について、その含有量範囲についての記載があり、一般的にイオン性液体が抵抗値の調整に用いられるものと解されるとしても、上記2(1)イの相違点2で検討したとおり、粘着シートの剥離耐電圧が小さくなるように、粘着剤層の組成を調整することはあったとしても、剥離耐電圧と粘着剤層の表面抵抗値との関係については、その相関が明らかでないから、甲1において、表面抵抗値についての記載も示唆もない以上、甲1発明において、粘着剤層の表面抵抗値を1.0×108Ω/□以下にすることまでの動機付けはないといえる。
よって、上記申立人の主張2は採用できない。
4 小括
以上のとおり、本件発明1~7は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
第6 申立理由3(サポート要件違反)についての当審の判断
1 判断手法について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
2 発明の課題
本件発明1の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0005】の記載を参酌すると、「複数の導電性小片の一括同時検査に好適に用いられ得る新規な粘着シートを提供すること」であると認められる。
3 判断
本件明細書の段落【0006】には、「粘着剤層の表面抵抗値は1.0×108Ω/□以下である。また、この粘着シートは、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内である。」と記載され、同段落【0007】には、「上記構成の粘着シートは、粘着剤層が所定以上の導電性を有するので、粘着剤層上に複数の導電性小片(例えば半導体チップ)を固定することで、粘着剤層を通して、粘着剤上に配置された複数の導電性小片の一括同時通電を行い得る。また、粘着シートの粘着力を特定の範囲とすることで、導電性小片を接着信頼性よく固定し、かつ、通電工程終了後、導電性小片を粘着剤層表面から良好に分離することができる。」と記載されており、当該記載を参酌すれば、粘着シートの表面抵抗値が1.0×108Ω/□以下であり、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内であれば、上記2の発明の課題を解決できることが、当業者であれば理解できる。
そして、本件発明1の粘着シートは、「粘着剤層の表面抵抗値は1.0×108Ω/□以下であり、ステンレス鋼板に対する粘着力は0.01~4.0N/20mmの範囲内である」という発明特定事項を含むものである。
さらに、本件明細書の【表1】の例1~例9には、粘着剤層の表面抵抗値が3.30×104~1.59×107Ω/□であり、ステンレス鋼板に対する粘着力が、0.02~0.43N/20mmである粘着シート、すなわち、粘着剤層の表面抵抗値が1.0×108Ω/□以下であり、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内である粘着シートが具体的に開示されており、これらの粘着シートは、所定の粘着力と抵抗値を有するとともに、少なくとも、例10及び例11の金属フィラーを用いたもの(ステンレス鋼板に対する粘着力が、12.25~14.49N/20mm)よりも、通電工程終了後、導電性小片を粘着剤層表面から良好に分離し得るものであることが理解できる。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
また、本件発明1を引用する本件発明2~3、5~7についても、同様の理由から、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。
4 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第24~25頁において、以下のとおり主張する。
本件発明の「複数の導電性小片の一括同時検査に好適に用いられ得る新規な粘着シートを提供する」という課題を解決するためには、導電性小片を接着信頼性よく固定できるだけでなく、検査時の通電工程終了後は、導電性小片を粘着剤層表面から良好に分離できることも必要であると認められる。
そして、粘着シートの接着信頼性や被着体分離除去性は、粘着剤層中の架橋構造の形成度合いに依存すること、該架橋構造の形成度合いは、オキシアルキレン構造単位の含有量、及び/又は、水酸基含有モノマーの使用量により決定されることは当該技術分野における出願時の技術常識であるところ、導電性小片を粘着剤層表面から良好に分離するためには、粘着剤層中のオキシアルキレン構造単位の含有量を所定値以下とすること、及び/又は、水酸基含有モノマーを所定量含有させることが必要と認められる。
しかしながら、本件発明1~3、5~7には、粘着剤層中のオキシアルキレン構造単位の含有量の上限値や水酸基含有モノマーを所定量含有させることが特定されていないから、本件発明1~3、5~7は、本件発明の課題を解決することができず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているといえる。
以下、上記主張について検討する。
確かに、本件発明1~3、5~7には、粘着剤層中のオキシアルキレン構造単位の含有量の上限値や水酸基含有モノマーを所定量含有させることについては特定されていない。
しかしながら、上記3で検討したように、粘着シートの表面抵抗値が1.0×108Ω/□以下であり、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内であれば、発明の課題を解決できるものと認められるところ、本件発明1~3、5~7には、これらの表面抵抗値や粘着力の数値範囲が特定されている。
そして、粘着シートの接着信頼性や被着体分離除去性は、粘着剤層中の架橋構造の形成度合いとある程度の相関があるとしても、当該技術分野の技術常識を考慮すれば、表面抵抗値が1.0×108Ω/□以下であり、ステンレス鋼板に対する粘着力が0.01~4.0N/20mmの範囲内とする場合に、オキシアルキレン構造単位の含有量を所定の値以下とすることや、ポリマーが水酸基含有モノマーを所定の値以上含む必要は必ずしもないと解される。また、申立人も、それを具体的に証明する証拠を提出していない。
よって、本件発明1~3、5~7は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、上記申立人の主張は採用できない。
5 小括
以上で検討したとおり、本件発明1~3、5~7は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700657