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特許異議申立

2018-700786

シリカ焼成体及びシリカ分散液

審判番号
2018-700786
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-178348
登録番号
特許第6305281号(P6305281)
請求日
2018年09月28日
審決日
2019年11月29日
公報発行日
2020年04月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社日本触媒
  • 【権利者代理人】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
  • 【異議申立人】水澤化学工業株式会社
  • 【異議申立人代理人】小野 尚純
  • 【異議申立人代理人】奥貫 佐知子
  • 【異議申立人】井波 実
審判長/審判官
  • 審判長 豊永 茂弘
  • 審判官 宮澤 尚之
  • 審判官 後藤 政博
分類
P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.852-YAA(C01B) / P1651.853-YAA(C01B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6305281号発明「シリカ焼成体及びシリカ分散液」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6305281号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 特許第6305281号の請求項1~5に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6305281号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成26年9月2日に特許出願され、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、平成30年9月28日付けで特許異議申立人水澤化学工業株式会社(以下、「異議申立人1」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、平成30年10月3日付けで特許異議申立人井波実(以下、「異議申立人2」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立てがされたものであり、本件特許異議の申立ての手続の経緯は、次のとおりである。 平成30年 9月28日付け:特許異議の申立て(異議申立人1) 平成30年10月 3日付け:特許異議の申立て(異議申立人2) 平成30年11月27日付け:取消理由通知 平成31年 1月25日付け:訂正の請求、意見書(特許権者) 平成31年 3月 1日付け:意見書(異議申立人2) 平成31年 4月10日付け:取消理由通知(決定の予告) 令和 1年 6月14日付け:訂正の請求、意見書(特許権者) 令和 1年 7月16日付け:特許権者に対する審尋 令和 1年 9月20日付け:回答書(特許権者) (なお、平成31年1月25日付け及び令和1年6月14日付けの訂正の請求に対する異議申立人1による意見書の提出はされなかった。また、令和1年6月14日付けの訂正の請求に対する異議申立人2による意見書の提出はされなかった。) 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和1年6月14日付けの訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。(訂正箇所に下線を付した。) なお、本件訂正請求により、平成31年1月25日付けの訂正の請求は取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が0.1以上となる範囲でシリカ焼成体の表面が被覆され」とあるのを、 「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲でシリカ焼成体の表面が被覆され」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に 「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が10以下である有機被覆シリカ」とあるのを、 「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である有機被覆シリカ」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に 「前記シリカ焼成体表面のシラノール基濃度が」とあるのを、 「前記(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で表面被覆される前のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度が」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0100】において、 「【表1】 」 とあるのを 「【表1】 」 に訂正する。 なお、訂正事項1~3の特許請求の範囲に係る訂正は、一群の請求項〔1~5〕に対して請求されたものである。また、訂正事項4の明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。 2 訂正要件の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)」を「0.1以上」から「4.5以上」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0013】には、「前記有機被覆シリカのシランカップリング剤による被覆率は、X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)で評価した場合、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.5以上である。前記C/Si比は、例えば5以下であることが好ましい。C/Si比を高くすることによって有機溶剤中での分散性を高めることができる。」と記載され、また、実施例2-1~実施例2-3には、C/Si比が4.5であることも記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)」を「10以下」から「3.5以下」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0015】には、「本発明の有機被覆シリカにおいて、前記比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)は、10以下であることが好ましく、より好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下である。」と記載され、また、実施例2-2には、累積90体積%粒子径/体積平均粒子径が3.5であることも記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、シラノール濃度を特定している「シリカ焼成体表面」がシランカップリング剤での被覆前のものであることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そして、願書に添付した明細書の段落【0009】には、「シランカップリング剤で被覆する前のシリカ焼成体を単にシリカ焼成体(焼成シリカ)と称し、シランカップリング剤で被覆した後のシリカ焼成体を有機被覆シリカという。」と記載され、また、段落【0021】に「シリカ焼成体は、前記のような有機被覆シリカの基材であり、シリカを焼成したものであるためシラノール基量が少ないものであり、具体的には、シリカ焼成体表面のシラノール基濃度は0.065mmol/m2以下である」と記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、比較例2-2、2-3のシリカ粉末について、累積90体積%粒子径/体積平均粒子径及び変動係数が「測定不可」であることは、体積平均粒子径についても測定不可であることにあたり、「測定不可」と記載すべきところ、比較例1-1と同じように「0.1」と誤って記載されたものを訂正するものであるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないし、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてされたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~5に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で、かつX線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲でシリカ焼成体の表面が被覆され、累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である有機被覆シリカ。 【請求項2】 炭素原子の割合が0.1質量%以上である請求項1に記載の有機被覆シリカ。 【請求項3】 炭素原子の割合が0.8質量%以上であり、前記(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で表面被覆される前のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下である請求項1に記載の有機被覆シリカ。 【請求項4】 有機溶剤と、この有機溶剤に分散する請求項1~3のいずれかに記載の有機被覆シリカとから構成されるシリカ分散液。 【請求項5】 請求項1~3のいずれかに記載の有機被覆シリカと有機溶剤とをメディアミルで粉砕混合するシリカ分散液の製造方法。」 2 取消理由の概要 平成30年11月27日付けで通知した取消理由、及び、平成31年4月10日付けで通知した取消理由(決定の予告)の要旨は次のとおりである。 (1)取消理由1(特許法第36条第4項第1号) 発明の詳細な説明には、実施例1-1として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで焼成シリカ粒子の表面を被覆した有機被覆シリカNo.1を得ることが具体的に記載され、さらに、表1には、実施例2-1~2-3で使用される有機被覆シリカの物性が具体的に記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明の記載からして、実施例2-1~2-3で使用される有機被覆シリカは、実施例1-1で得られた有機被覆シリカNo.1であり、同じ物性を有していると認められ、実際に、C/Si比(4.5)、炭素原子の割合(2.8%)、体積平均粒子径(0.1μm)、変動係数(10%)及び比表面積(30m2/g)については、同じ数値になっているものの、累積90体積%粒子径/体積平均粒子径だけは、それぞれ、2.4、3.5、3.4と異なる数値になっている。 しかも、段落【0087】に記載された測定方法からすると、実施例2-1~2-3の累積90体積%粒子径/体積平均粒子径も同じ数値になるといえるところ、累積90体積%粒子径/体積平均粒子径のみが異なる数値となる理由(別の測定方法により得られた数値であるか否か)は、発明の詳細な説明に記載されていない。 したがって、発明の詳細な説明の実施例における累積90体積%粒子径/体積平均粒子径は、段落【0087】に記載された測定方法による数値であるか明らかでない、つまり、これについての測定方法が特定できないから、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1~5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえない。 よって、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(平成31年4月10日付け取消理由通知書(決定の予告)の「4(1)」、平成30年11月27日付け取消理由通知書の「1」参照) (2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号) 本件発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0005】の記載からみて、シリカ焼成体粒子を有機溶剤に高濃度で分散できる技術を提供することにより解決されるものといえる。 そして、発明の詳細な説明の段落【0086】~【0101】には、実施例として、シランカップリング剤としての3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで焼成シリカ粒子の表面を被覆した有機被覆シリカであって、X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5、累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が2.4、3.5、3.4である有機被覆シリカが具体的に記載されていると共に、当該有機被覆シリカをメチルエチルケトン中に高濃度で分散できたことも記載されている。 しかしながら、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、訂正前の請求項1に記載された「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)」及び「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)」の数値範囲全体に亘って、当業者が上記課題を解決できることを認識することはできない。 したがって、請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(平成31年4月10日付け取消理由通知書(決定の予告)の「4(2)」、平成30年11月27日付け取消理由通知書の「2(1)」参照) (3)取消理由3(特許法第36条第6項第1号及び第2号) 訂正前の請求項3に記載された「前記シリカ焼成体表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下」における「前記シリカ焼成体表面」は、請求項1に記載された(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が被覆される前(焼成直後)のシリカ焼成体の表面を示しているのか、あるいは、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が被覆された後のシリカ焼成体の表面を示しているのか明らかでない。 ここで、訂正前の請求項3の「前記シリカ焼成体表面」が、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が被覆される前(焼成直後)のシリカ焼成体の表面を示していると仮定して検討すると、発明の詳細な説明の段落【0055】に記載されているように、被覆工程によってシリカ焼成体表面のシラノール基濃度は変化することから、被覆される前(焼成直後)のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度を特定することが、被覆された後の「有機被覆シリカ」の特定にならない点で、無意味なものであるといわざるを得ない。 また、訂正前の請求項3の「前記シリカ焼成体表面」が、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が被覆された後のシリカ焼成体の表面を示していると仮定して検討すると、発明の詳細な説明には、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤が被覆された後のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度は記載されていないし、当業者に自明なことでもないから、請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 したがって、請求項3~5に係る発明は、明確であるといえないし、さらに、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(平成30年11月27日付け取消理由通知書の「2(2)」参照) 3 取消理由の検討 (1)取消理由1について 本件訂正請求により訂正された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の実施例2-1~2-3で使用される有機被覆シリカは、実施例1-1で得られた有機被覆シリカNo.1であるとしても、別試料(サンプル)であることは明らかである。 そして、段落【0100】の表1では、実施例2-1~2-3で使用される有機被覆シリカの粒子径に関して、「体積平均粒子径」及び「変動係数」が同じ数値であるのに対して、「累積90体積%粒子径/体積平均粒子径」が、2.4、3.5、3.4と異なる数値になっているものの、それぞれの有効数字も考慮すると、実施例2-1、2-2、2-3ごとに評価された「累積90体積%粒子径/体積平均粒子径」の数値が異なることはあり得る(ここに矛盾はない)とみるのが妥当である。 しかも、段落【0092】~【0096】には、有機被覆シリカの具体的な製造方法が記載されており、これに基いて製造されたというべきであることからして、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 よって、取消理由1に理由はない。 (2)取消理由2について 本件発明1は、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」、「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である」に訂正された。 これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで焼成シリカ粒子の表面を被覆した有機被覆シリカであって、X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5、累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が2.4、3.5、3.4である有機被覆シリカが具体的に記載されていると共に、当該有機被覆シリカをメチルエチルケトン中に高濃度で分散できたことも記載されているところ、上記(1)で検討したとおり、実施例2-1~2-3で使用される有機被覆シリカの累積90体積%粒子径/体積平均粒子径の数値が異なることはあり得る(ここに矛盾はない)とみるのが妥当である。 そして、段落【0006】に「シリカ焼成体の凝集を防止しつつ、その表面を特定のシランカップリング剤で高濃度被覆した有機被覆シリカとすれば、シリカ焼成体を有機溶媒に高濃度に分散できる」と記載され、さらに、段落【0013】に「前記有機被覆シリカのシランカップリング剤による被覆率は、X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)で評価した・・・C/Si比を高くすることによって有機溶剤中での分散性を高めることができる。」と記載されていることからして、実施例において、有機被覆シリカのC/Si比を4.5以上にしても、実施例2-1~2-3と同様に、有機溶剤中での分散性を高められると当業者が認識できる範囲といえる。 また、段落【0006】の上記記載や、段落【0015】の「本発明の有機被覆シリカは、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で高濃度被覆されているにもかかわらず、凝集しておらず、単分散性を有する。このような単分散性(非凝集性)も、有機溶媒に分散した時の高濃度分散性に貢献する。」との記載、及び、段落【0017】の「有機被覆シリカ中、・・・粗大粒子の含有量が少ないほど、樹脂や樹脂原料に対する分散性が良好である。」との記載からして、実施例の有機被覆シリカの累積90体積%粒子径/体積平均粒子径は、粗大粒子が過剰に含まない粒子径分布を示しているといえるところ、上記C/Si比を満たしつつ、有機被覆シリカの累積90体積%粒子径/体積平均粒子径を3.5以下としても、有機溶剤中での分散性を高められると当業者が認識できる範囲といえる。 そうしてみると、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記2(2)で示した本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるものといえる。 また、本件発明1を引用する本件発明2~5についても同様である。 よって、取消理由2に理由はない。 (3)取消理由3について 本件発明3は、「前記(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で表面被覆される前のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下である」との特定事項に訂正され、シラノール基濃度を特定するシリカ焼成体表面が、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で表面被覆される前の表面であることが明らかになった。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0009】に「シリカを焼成することでシラノール基(Si-OH基)が減少し、シロキサン結合(Si-O-Si結合)が増加しているため、強度などの点で有利である」と記載され、また、段落【0021】に「シリカ焼成体は、前記のような有機被覆シリカの基材であり、シリカを焼成したものであるためシラノール基量が少ないものであり、具体的には、シリカ焼成体表面のシラノール基濃度は0.065mmol/m2以下である」と記載されていることからして、本件発明3の前記特定事項が、内部を含めたシリカ焼成体の強度を示していること(これの技術的意義)は明らかである。 よって、本件発明3~5は明確であるといえるし、発明の詳細な説明に記載された発明といえるから、取消理由3に理由はない。 4 取消理由通知において採用しなかった申立理由の検討 (1)特許法第29条に関する申立理由について ア 申立理由 (ア)異議申立人1は、証拠方法として、以下の刊行物1及び刊行物2を提出し、訂正前の請求項1~5に係る発明は、刊行物1又は刊行物2に記載された発明であるか、あるいは、刊行物1又は刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してなされたものである旨を主張している(異議申立人1の異議申立書の第6頁第23行~第12頁第7行)。 (証拠方法) ・刊行物1:特開2014-44984号公報 ・刊行物2:特開2001-24005号公報 (イ)異議申立人2は、証拠方法として、以下の刊行物3~刊行物7及び審査資料1を提出し、訂正前の請求項1~5に係る発明は、刊行物3に記載された発明であるか、あるいは、刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してなされたものである旨を主張している(異議申立人2の異議申立書の第30頁第1行~第49頁第19行)。 (証拠方法) ・刊行物3:特開2008-137854号公報 ・刊行物4:椿淳一郎、早川修、現場で役立つ粒子径計測技術、日刊工業新聞社発行、2001年10月26日、第12~20頁 ・刊行物5:特開2008-19157号公報 ・刊行物6:特開2004-10420号公報 ・刊行物7:青木恂次郎監修、カップリング剤最適利用技術、株式会社科学技術総合研究所発行、1988年2月25日、第113~114頁、第120~121頁 ・審査資料1:本件特許に係る出願の審査段階における平成30年2月8日付け意見書 イ 刊行物1~3に記載された発明 (ア)刊行物1に記載された発明 刊行物1には、 「【0086】 [実施例9] 表面処理シリカ系微粒子(9)の調製 実施例6と同様にして調製したシリカ系微粒子粉末[6]を純水に超音波を10分照射させ分散し、濃度12重量%のシリカ系微粒子分散液[6]を得た。これを陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を用いて脱イオンを行ない、そのシリカ系微粒子[6]分散液400gをビーカーに採取した。ついで、メタノール400gを加え、固形分濃度6.0重量%のシリカ系微粒子[6]水/メタノール分散液を調製した。 ついで、シリカ系微粒子[6]水/メタノール分散液に有機珪素化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製:KBM-503)を、得られる表面処理シリカ系微粒子中の有機珪素化合物がR1-SiO3/2として5.0重量%となるように添加し、5分間撹拌した。 【0087】 ついで、ロータリーエボパレーターにて、減圧度を圧力が50hPa以下になるまで徐々に下げながら、60℃で1.5時間乾燥して表面処理シリカ系微粒子[9]粉末を調製した。・・・」 と記載されており、この記載を表面処理シリカ系微粒子に注目して整理すると、刊行物1には、 「焼成シリカ系微粒子粉末の水/メタノール分散液を調製して、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、得られる表面処理シリカ系微粒子中の有機珪素化合物がR1-SiO3/2として5.0重量%となるように添加し、5分間撹拌した後、60℃で1.5時間減圧乾燥して調製された、表面処理シリカ系微粒子粉末。」 の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 (イ)刊行物2に記載された発明 刊行物2には、 「【0034】カップリング剤処理高活性球状シリカBは、珪酸ナトリウムを原料とし乳化濾過乾燥さらに800℃焼成にて製造された高活性球状シリカ100部(平均粒径4μm、CV値27%、水酸基量0.4mmol/g)に、KBM-503(信越化学工業)0.2部、水0.05部及び微量酢酸の混合物を噴霧し、更に120℃で30分加熱したものである。又、超微粒シリカは水酸基を有するシリカ(平均粒径10nm)をクロルシラン類にて表面処理したものである。」 と記載されており、この記載をカップリング剤処理高活性球状シリカに注目して整理すると、刊行物2には、 「焼成された高活性球状シリカ100部に、KBM-503(信越化学工業)0.2部、水0.05部及び微量酢酸の混合物を噴霧し、更に120℃で30分加熱した、カップリング剤処理高活性球状シリカ。」 の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 (ウ)刊行物3に記載された発明 刊行物3には、 「【0008】 上記課題を解決することができた本発明のシリカ粒子とは、平均粒子径が0.01μm~4.5μmの範囲であって、粒子径の変動係数が50%以下であり、シランカップリング剤により表面処理されているところに特徴を有する。・・・」、 「【0096】 [実施例1] ・・・ 【0099】 焼成シリカ粒子(比表面積12m2/g)5kgを、加熱ジャケットを備えた容量20Lのヘンシェルミキサ(三井鉱山株式会社製FM20J型)に仕込んだ。ヘンシェルミキサには、被混合物を入れる容器と、撹拌羽根が付いた回転軸が容器底部に備わっているとともに、壁面付着物の掻き落とし装置として、壁面に沿うように設置された板状の羽根が付いた回転軸が容器上面に設置されている。焼成シリカ粒子を撹拌しているところに、シランカップリング剤であるγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM403、最小被覆面積330m2/g)45gを、メチルアルコール90gに溶解させた溶液を滴下して混合した。なお、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン45gは、シランカップリング剤理論添加量の0.25倍に相当する。その後、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を150℃まで約1時間かけて昇温し、150℃で12時間保持して加熱処理を行った。なお、150℃の温度数値は、焼成シリカとシランカップリング剤の混合物中の温度を計測した値である。加熱処理は、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を混合撹拌しながら行った。加熱処理では、掻き落とし装置を撹拌羽根とは逆方向に常時回転させながら、壁面付着物の掻き落としを行った。また、適宜、へらを用いて壁面付着物を掻き落とすことも行った。加熱後、冷却し、ジェット粉砕分級機(日本ニューマ製IDS-2型)を用いて解砕および分級を行い、シリカ粒子を得た。」、及び、 「【0106】 [実施例3] 実施例2で得られた焼成シリカ粒子(比表面積3.5m2/g)5kgを用い、シランカップリング剤として3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM5103、最小被覆面積333m2/g)を50g、シランカップリング剤の溶媒としてメチルアルコールを100g用いた以外は、実施例1と同様の操作で焼成シリカ粒子からシリカ粒子を作製した。なお、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン50gは、シランカップリング剤理論添加量の0.95倍に相当する。樹脂組成物を作製する操作も実施例1と同様に行った。 【0107】 得られたシリカ粒子の平均粒子径は0.91μm、粒子径の変動係数は13%、20μmふるい上残留物割合は0.002質量%、吸湿率は0.04質量%であった。また、不純物含有量は鉄が1ppmであったのを除き、いずれも1ppm未満であった。」 と記載されており、これら記載を実施例3のシリカ粒子に注目して整理すると、刊行物3には、 「焼成シリカ粒子を、ヘンシェルミキサに仕込み、撹拌しているところに、シランカップリング剤理論添加量の0.95倍の相当量の3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランを、メチルアルコールに溶解させた溶液を滴下して混合し、その後、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を150℃まで約1時間かけて昇温し、150℃で12時間加熱処理を行った後、解砕及び分級した、平均粒子径が0.91μm、粒子径の変動係数が13%である、シランカップリング剤により表面処理されたシリカ粒子。」 の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているといえる。 ウ 当審の判断 (ア)引用発明1との対比、検討 本件発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「焼成シリカ系微粒子粉末」、「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は、それぞれ、本件発明1の「シリカ焼成体」、「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤」に相当し、さらに、引用発明1の「表面処理シリカ系微粒子粉末」は、本件発明1の「表面が被覆され」た「有機被覆シリカ」に相当する。 よって、本件発明1は、引用発明1と、 「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤でシリカ焼成体の表面が被覆された有機被覆シリカ」 の点で一致し、以下の相違点1-1~1-2で相違している。 (相違点1-1) シランカップリング剤の表面被覆量に関して、本件発明1では、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」であるのに対して、引用発明1では、シランカップリング剤を「得られる表面処理シリカ系微粒子中の有機珪素化合物がR1-SiO3/2として5.0重量%となるように添加」しているが、その表面被覆量は明らかでない点。 (相違点1-2) 本件発明1では、「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である」のに対して、引用発明1では、その点が明らかでない点。 まず、相違点1-1について検討する。 刊行物1には、表面処理シリカ系微粒子粉末(有機被覆シリカ)におけるシランカップリング剤の表面被覆量に関する記載はない。 また、引用発明1の表面処理シリカ系微粒子粉末は、「焼成シリカ系微粒子粉末の水/メタノール分散液を調製して、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、得られる表面処理シリカ系微粒子中の有機珪素化合物がR1-SiO3/2として5.0重量%となるように添加し、5分間撹拌した後、60℃で1.5時間減圧乾燥して調製され」たものであるのに対して、本件発明1の有機被覆シリカは、本件特許明細書の段落【0053】~【0065】の記載によれば、シランカップリング剤及び水の存在下、かつ、水の沸点未満でシリカ焼成体を加熱する第1加熱工程(前工程)と、引き続き水の沸点以上で加熱する第2加熱工程(本工程)からなる製造方法により得られるものであり、その製造方法が異なることからして、引用発明1のシランカップリング剤の添加量から、その表面被覆量が「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」となっているとはいえない。 よって、相違点1-1は実質的な相違点である。 また、相違点1-1の容易想到性について検討すると、刊行物2~7のいずれにも、有機被覆シリカの(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の表面被覆量を「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」とすることは記載も示唆もされていないし、また、審査資料1には、本件発明のシラノール基濃度の釈明が記載されているにすぎないから、刊行物2~7及び審査資料1を参酌しても、引用発明1の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の表面被覆量を「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」にすることは、当業者が容易になし得ることであるといえない。 以上のとおりであるから、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1に記載された発明といえないし、また、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 また、本件発明1を引用する本件発明2~5は、少なくとも上記相違点1-1を含むことから、刊行物1に記載された発明といえないし、また、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 異議申立人1は、相違点1-1に関して、引用発明1の「得られる表面処理シリカ系微粒子中の有機珪素化合物がR1-SiO3/2として5.0重量%となるように添加」することが、本件特許明細書の段落【0057】に「シランカップリング剤の量は、シリカ焼成体100質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.08質量部以上、さらに好ましくは0.09質量部以上である。シランカップリング剤の量が多いほどシリカ焼成体の高濃度被覆が可能であり、・・・」と記載された好ましい範囲に含まれるため、引用発明1は、シランカップリング剤の表面被覆量が、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」となっている旨を主張している。 しかしながら、上記で検討したとおり、その前提となる本件発明1と引用発明1の製造方法は異なっていることから、シランカップリング剤の添加量が同じであるとしても、シランカップリング剤の表面被覆量が同じであるとはいえない。 よって、異議申立人1の上記主張は採用できない。 (イ)引用発明2との対比、検討 本件発明1と引用発明2を対比すると、引用発明2の「焼成された高活性球状シリカ」は、本件発明1の「シリカ焼成体」に相当し、さらに、引用発明2の「カップリング剤処理高活性球状シリカ」は、本件発明1の「表面が被覆され」た「有機被覆シリカ」に相当する。 また、引用発明2の「KBM-503(信越化学工業)」は、刊行物1の段落【0086】の「3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製:KBM-503)」との記載からみて、本件発明1の「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤」に相当する。 よって、本件発明1は、引用発明2と、 「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤でシリカ焼成体の表面が被覆された有機被覆シリカ」 の点で一致し、以下の相違点2-1~2-2で相違している。 (相違点2-1) シランカップリング剤の表面被覆量に関して、本件発明1では、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」であるのに対して、引用発明2では、シランカップリング剤を、焼成された高活性球状シリカ100部に対して0.2部噴霧しているが、その表面被覆量は明らかでない点。 (相違点2-2) 本件発明1では、「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である」のに対して、引用発明2では、その点が明らかでない点。 まず、相違点2-1について検討する。 刊行物2には、表面処理シリカ系微粒子粉末(有機被覆シリカ)におけるシランカップリング剤の表面被覆量に関する記載はない。 また、引用発明2のカップリング剤処理高活性球状シリカは、「焼成された高活性球状シリカ100部に、KBM-503(信越化学工業)0.2部、水0.05部及び微量酢酸の混合物を噴霧し、更に120℃で30分加熱した」ものであって、上記(ア)で示した本件発明1の有機被覆シリカの製造方法と異なることからして、引用発明2のシランカップリング剤の噴霧量から、その表面被覆量が「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」となっているとはいえない。 よって、相違点2-1は実質的な相違点である。 また、相違点2-1の容易想到性について検討すると、上記(ア)の相違点1-1での検討と同様に、刊行物1、3~7及び審査資料1を参酌しても、引用発明2の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の表面被覆量を「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」にすることは、当業者が容易になし得ることであるといえない。 以上のとおりであるから、相違点2-2について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物2に記載された発明といえないし、また、刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 また、本件発明1を引用する本件発明2~5は、少なくとも上記相違点2-1を含むことから、刊行物2に記載された発明といえないし、また、刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 異議申立人1は、相違点2-1に関して、引用発明2のKBM-503(信越化学工業)の添加量が、焼成された高活性球状シリカ100部当たり0.2部であることが、本件特許明細書の段落【0057】に記載されたシランカップリング剤の添加量の好ましい範囲に含まれるため、引用発明2は、シランカップリング剤の表面被覆量が、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」となっている旨を主張している。 しかしながら、上記で検討したとおり、その前提となる本件発明1と引用発明2の製造方法は異なっていることから、シランカップリング剤の添加量が同じであるとしても、シランカップリング剤の表面被覆量が同じであるとはいえない。 よって、異議申立人1の上記主張は採用できない。 (ウ)引用発明3との対比、検討 本件発明1と引用発明3を対比すると、引用発明3の「焼成シリカ粒子」、「3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は、それぞれ、本件発明1の「シリカ焼成体」、「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤」に相当し、さらに、引用発明3の「表面処理されたシリカ粒子」は、本件発明1の「表面が被覆され」た「有機被覆シリカ」に相当する。 よって、本件発明1は、引用発明3と、 「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤でシリカ焼成体の表面が被覆された有機被覆シリカ」 の点で一致し、以下の相違点3-1~3-2で相違している。 (相違点3-1) シランカップリング剤の表面被覆量に関して、本件発明1では、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」であるのに対して、引用発明3では、シランカップリング剤理論添加量の0.95倍の相当量を滴下しているが、その表面被覆量は明らかでない点。 (相違点3-2) 本件発明1では、「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である」のに対して、引用発明3では、「平均粒子径が0.91μm、粒子径の変動係数が13%である」点。 まず、相違点3-1について検討する。 刊行物3には、シランカップリング剤により表面処理されたシリカ粒子(有機被覆シリカ)におけるシランカップリング剤の表面被覆量に関する記載はない。 また、引用発明3の表面処理されたシリカ粒子は、「焼成シリカ粒子を、ヘンシェルミキサに仕込み、撹拌しているところに、シランカップリング剤理論添加量の0.95倍の相当量の3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランを、メチルアルコールに溶解させた溶液を滴下して混合し、その後、焼成シリカ粒子とシランカップリング剤の混合物を150℃まで約1時間かけて昇温し、150℃で12時間加熱処理を行った後、解砕及び分級」されたものであって、上記(ア)で示した本件発明1の有機被覆シリカの製造方法と異なることからして、引用発明3のシランカップリング剤の添加量から、その表面被覆量が「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」となっているとはいえない。 よって、相違点3-1は実質的な相違点である。 また、相違点3-1の容易想到性について検討すると、上記(ア)の相違点1-1での検討と同様に、刊行物1、2、4~7及び審査資料1を参酌しても、引用発明3の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の表面被覆量を「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」にすることは、当業者が容易になし得ることであるといえない。 以上のとおりであるから、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物3に記載された発明といえないし、また、刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 また、本件発明1を引用する本件発明2~5は、少なくとも上記相違点3-1を含むことから、刊行物3に記載された発明といえないし、また、刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 異議申立人2は、相違点3-1に関して、引用発明3の「シランカップリング剤理論添加量の0.95倍の相当量の3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン」を添加することが、本件特許明細書の段落【0056】に「第1加熱工程(前工程)でシリカ焼成体を被覆するために用いられる(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤の量は、シリカ焼成体の表面を覆うのに十分な量であることが好ましい。具体的には、シリカ焼成体の表面を覆うのに必要十分な量を基準量として、シランカップリング剤は、該基準量の0.7倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.8倍、さらに好ましくは0.9倍であり、5倍以下であることが好ましく、より好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下である。」と記載された好ましい範囲に含まれるため、引用発明3は、シランカップリング剤の表面被覆量が、「X線光電子分光測定による炭素原子とケイ素原子のモル比(C/Si比)が4.5以上となる範囲」となっている旨を主張している。 しかしながら、上記で検討したとおり、その前提となる本件発明1と引用発明3の製造方法は異なっていることから、シランカップリング剤の添加量が同じであるとして、シランカップリング剤の表面被覆量が同じになっているまではいえない。 よって、異議申立人2の上記主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおりであるから、異議申立人1及び異議申立人2が主張する上記申立理由に理由はない。 (2)特許法第36条第4項第1号に関する申立理由について 異議申立人2は、訂正前の請求項3に係る発明に関して、発明の詳細な説明には、「シリカ焼成体表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下である」ことを達成する手段及び実際の濃度が具体的に記載されていないため、訂正前の請求項3に係る発明を当業者が実施できないから、請求項3~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨を主張している(異議申立人2の特許異議申立書の第49頁第20行~第50頁第16行)。 そこで検討するに、シリカ焼成体の製造方法について、本件特許明細書の実施例には、段落【0094】に「得られた乾燥シリカ粒子をルツボに入れ、昇温速度5~10℃/分で焼成温度まで昇温し、電気炉を用いて1050℃で1時間焼成した。」と記載されている。 そして、段落【0009】の「シリカ焼成体は、シリカを650℃以上、好ましくは750℃、さらに好ましくは800℃以上の焼成温度で焼成したものを意味する。なお、焼成温度の上限は特に限定されないが、焼成時の融着が起こりにくい観点から、1300℃以下が好ましく、より好ましくは1200℃以下である。シリカを焼成することでシラノール基(Si-OH基)が減少し、シロキサン結合(Si-O-Si結合)が増加している」との記載、及び、段落【0021】の「シリカ焼成体は、・・・、シリカを焼成したものであるためシラノール基量が少ないものであり、具体的には、シリカ焼成体表面のシラノール基濃度は0.065mmol/m2以下であることが好ましく」との記載を参酌すれば、実施例の上記製造方法によって、表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下であるシリカ焼成体が得られると当業者は認識できる。 よって、発明の詳細な説明には、本件発明3を当業者が実施できる程度に記載されているといえるから、異議申立人2が主張する上記申立理由に理由はない。 (3)特許法第36条第6項第2号に関する申立理由について ア 異議申立人2は、訂正前の請求項1に係る発明の「シリカ焼成体」は、発明の詳細な説明の段落【0009】によれば、シリカを650℃以上で焼成したものを意味し、製造プロセスによる特定事項であるため不明確であるし、また、訂正前の請求項3に係る発明の「シリカ焼成体表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下である」ことは、発明の詳細な説明の段落【0009】によれば、シランカップリング剤で被覆する前のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度を意味し、製造プロセスによる特定事項であるため不明確であるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨を主張している(異議申立人2の特許異議申立書の第51頁末行~第52頁第9行、第53頁第1行~第16行)。 そこで検討するに、本件発明1の「シリカ焼成体」は、単に「焼成」の結果としての「物品の状態」を示すものであるといえるため、製造プロセスによる特定事項に該当しない。 また、本件発明3の「(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤で表面被覆される前のシリカ焼成体表面のシラノール基濃度が0.065mmol/m2以下である」ことは、単に「焼成」の結果としての「(シラノール基濃度により特定される)物品の状態」を示すものであるといえるため、製造プロセスによる特定事項に該当しない。 したがって、異議申立人2の主張する上記申立理由に理由はない。 イ 異議申立人2は、訂正前の請求項1に係る発明の「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が10以下である」との特定事項に関して、実施例1-1で得られた有機被覆シリカNo.1の累積90体積%粒子径/体積平均粒子径が、実施例2-1~2-3において、1.1程度のばらつきがあるため、上記特定事項に含まれる基準が明確でないから、請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨を主張している(異議申立人2の特許異議申立書の第52頁第10行~末行、異議申立人2の意見書第4頁第3~12行)。 そこで検討するに、本件発明1の「累積90体積%粒子径と体積平均粒子径の比(累積90体積%粒子径/体積平均粒子径)が3.5以下である」ことは、上記3(2)で検討したとおり、粗大粒子が過剰に含まれない粒子径分布を示しているにすぎないし、また、上記3(1)で検討したとおり、この数値が異なることはあり得る(ここに矛盾はない)とみるのが妥当であるから、異議申立人2の主張する上記申立理由に理由はない。 5 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2018-700786

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