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特許異議申立

2020-700336

インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法、インクセット

審判番号
2020-700336
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-033764
登録番号
特許第6604001号(P6604001)
請求日
2020年05月13日
審決日
2021年06月16日
公報発行日
2021年09月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】セイコーエプソン株式会社
  • 【権利者代理人】布施 行夫
  • 【権利者代理人】大渕 美千栄
  • 【権利者代理人】川▲崎▼ 通
  • 【権利者代理人】松本 充史
  • 【権利者代理人】渡辺 和昭
  • 【権利者代理人】磯部 光宏
  • 【権利者代理人】仲井 智至
  • 【権利者代理人】松岡 宏紀
  • 【異議申立人】渡辺 陽子
審判長/審判官
  • 審判長 天野 斉
  • 審判官 瀬下 浩一
  • 審判官 門前 浩一
分類
P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6604001号発明「インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法、インクセット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6604001号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4〕〔3、5-8〕について訂正することを認める。 特許第6604001号の請求項3、5-8に係る特許を維持する。 特許第6604001号の請求項1、2及び4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6604001号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成27年2月24日に出願され、令和元年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~8に係る特許に対し、令和2年5月13日に特許異議申立人渡辺陽子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年7月14日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年9月23日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年10月13日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年11月16日に意見書を提出した。当審は、同年12月9日付けで取消理由(決定の予告)を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和3年2月15日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行った。特許権者から本件訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年3月10日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年4月14日に意見書を提出した。 なお、令和2年9月23日になされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 本件訂正は、以下の訂正事項1~5からなる。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に、「前記一般式(1)で表される溶剤であって、 引火点が70℃以下である溶剤を含む、請求項1又は2に記載の非水系インクジェットインク組成物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改めると同時に、 非水系インクジェットインク組成物が、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルを含むこと、及び、溶剤として環状エステル化合物を含むことを特定するとともに、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質量%であることを更に特定し、 特許請求の範囲の請求項1において「10質量%以上95質量%以下」と記載されていたのを、「65.5質量%以上95質量%以下」に訂正し、 特許請求の範囲の請求項1の括弧書きにおいて「一般式(2)」と誤って記載されていたのを、「一般式(1)」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~8も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する 。 (5)訂正事項5 請求項5~8の引用関係について、請求項5は請求項3を引用するものに、請求項6は請求項3又は5を引用するものに、 請求項7は請求項3、5、6の何れか一項を引用するものに、請求項8は請求項3、5、6の何れか一項又は請求項7を引用するものに、それぞれ訂正する。 (6)別の訂正単位とする求め 特許権者は、訂正後の請求項3と、訂正後の請求項3の記載を引用する訂正後の請求項5~8については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。 2 一群の請求項について 訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はそれぞれ請求項1を引用しているものであるので、訂正事項1~5によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。ただし、前記1(6)による別の訂正単位とする求めが認められるから、訂正後の請求項3、5~8は、新たな一群の請求項となって、それにより残された請求項1、2、4が一群の請求項となる。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であるといえる。 また、前記目的に加え、この訂正は、訂正前の請求項3が引用する請求項2の引用を削除し、かつ非水系インクジェットインク組成物が、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルを含むこと、及び、溶剤として環状エステル化合物を含むことを特定するとともに、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質量%であることを更に特定し、訂正前の請求項1に「10質量%以上95質量%以下」と記載されていたのを、「65.5質量%以上95質量%以下」に訂正するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」も目的とするものであるといえる。 さらに、前記目的に加え、この訂正は、訂正前の請求項1のかっこ書に「一般式(2)」と誤って記載されていた明白な誤記を、「一般式(1)」に訂正するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する「誤記の訂正」も目的とするものであるといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 願書に添付した明細書には、非水系インクジェットインク組成物に係る説明として、一般式(1)で表される化合物のうち、引火点が70℃以下の化合物を配合することが、インクジェットインク組成物の乾燥性を向上させ、形成される画像における凝集ムラ(顔料の凝集等)を生じにくくする点で一層好ましいことが記載されている(0028段落)。 また、発明の詳細な説明の実施例等には、非水系インクジェットインク組成物が、溶剤としてγ-ブチロラクトン又はδ-バレロラクトンのような環状エステル化合物を含むこと、及び、一般式(1)で表される溶剤を65.5質贔%以上95質量%以下含むことが記載されている(0105段落の表1中、組成物No.10、及び0029段落)。 また、訂正前の請求項4には、「前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。」と記載され、発明の詳細な説明には、「一般式(1)で表される化合物のうちR1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテル化合物をインクが含有する場合、(中略)、その含有量は、上記の点で2~20質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、3~10質量%が更に好ましい。」 ことが記載され(0033段落)、実施例には、組成物No.10として、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(TetraEGmBE)を15.0質量%含有する非水系インクジェットインク組成物が記載されている。 さらに、0023段落には、 「1.1.1.式(1)で表される化合物 本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、溶剤として一般式(1)で表される化合物(グリコールエーテル)である溶剤Aを含有することが好ましい。 R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6整数を表す。ただし、R1及びR3は、少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」 と記載されている。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、非水系インクジェットインク組成物が、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルを含むこと、及び、溶剤として環状エステル化合物を含むことを特定するとともに、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質量%であることを更に特定し、訂正前の請求項1に「10質量%以上95質量%以下」と記載されていたのを、「65.5質量%以上95質量%以下」に訂正するものであり、当該訂正により訂正前の請求項3に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項3に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。 また、訂正事項1は、訂正前の請求項1のかっこ書に「一般式(2)」と誤って記載されているのを、「一般式(1)」に訂正するものであり、当該訂正により訂正前の請求項3に記載された発明のカテゴリーを変更するものではなく、かつ、訂正前の請求項3に記載された発明の対象や目的を変更するものとはならない。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。 また、訂正後の請求項5~8についても同様である。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、請求項1を削除するというものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものであるといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、請求項1を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、請求項1を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する ものであるといえる。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的について 訂正事項3は、請求項2を削除するというものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項3は、請求項2を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項3は、請求項2を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する ものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的について 訂正事項4は、請求項4を削除するというものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項4は、請求項4を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項4は、請求項4を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。 (5)訂正事項5 ア 訂正の目的について 訂正事項5は、請求項5~8のそれぞれについて引用する請求項を滅縮するものであるから、当該訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものであるといえる。 イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項5は、請求項5~8のそれぞれについて引用する請求項を減縮するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は、請求項5~8のそれぞれについて引用する請求項を滅縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。 (6)小括 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許第6604001号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4〕〔3、5-8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1、2、4〕〔3、5-8〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~8に係る発明は、令和3年2月15日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明8」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種と、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として環状エステル化合物と、を含み、 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質量%であり、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、前記塩化ビニル系樹脂の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。 R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。] 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 記録媒体ヘインクジェット法によりインク組成物を付着させる工程の際の記録媒体表面温度が35℃以上である記録方法に用いるものである、請求項3に記載の非水系インクジェットインク組成物。 【請求項6】 塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、請求項3又は5に記載の非水系インクジェットインク組成物。 【請求項7】 請求項3、5、6の何れか一項に記載の前記非水系インクジェットインク組成物と、それぞれが前記一般式(1)で表される溶剤であって引火点が140℃以下である溶剤の少なくとも1種と顔料とを含む、非水系シアンインクジェットインク組成物と、非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。 【請求項8】 請求項3、5、6のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物または請求項7のインクセットを用いて、記録媒体にインクジェット法により記録を行う、インクジェット記録方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 登録時の請求項1~8に係る特許に対して、当審が令和2年7月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由1(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 本件特許発明1において「一般式(1)で表される溶剤」が記載されており、ここで一般式(1)とは「R1O-(R2O)m-R3」であることが記載されているものの、これらのRやmが何を意味するものであるのか不明確である。 さらに、本件特許発明1において「一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。」と記載されているが、「一般式(2)」が何を意味するのか不明確である。 そうすると、本件特許発明1は不明確となっている。 また、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~8も不明確である。 理由2(進歩性) 本件特許の請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証~甲第6号証及び甲第10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2014-227812号公報 甲第2号証:Organic Pigments Handbook 有機顔料ハンドブック、2006年5月初版発行、p.248、499-500 甲第3号証:特開2012-162002号公報 甲第4号証:特開2010-43149号公報 甲第5号証:特開2009-215461号公報 甲第6号証:特開2009-215460号公報 甲第10号証:日本画像学会誌、第52巻、第2号、2013年、p.147-153 理由3(サポート要件) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 本件特許発明の課題は、【0008】の記載からみて、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供することにあり、また、耐候性、発色性、画質の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供することにあると認める。 ここで、本件特許発明1~8は、溶剤として一般式(1)で表される溶剤のみを含むもの、あるいは、溶剤として一般式(1)で表される溶剤とその他のものを含むものを包含する。 しかし、発明の詳細な説明の実施例等を参酌すると、溶剤として一般式(1)で表される溶剤を45.5~80.5質量%及び環状エステル化合物を含むものが、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供できること、また、耐候性、発色性、画質の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供できることは、記載されているが、溶剤として一般式(1)で表される溶剤のみを含むもの、あるいは、溶剤として一般式(1)で表される溶剤45.5質量%未満あるいは80.5質量%を超えて含むものが、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供できることや、また、耐候性、発色性、画質の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供できることは記載されていない。 また、発明の詳細な説明に、溶剤として一般式(1)で表される溶剤のみを含むもの、あるいは、溶剤として一般式(1)で表される溶剤45.5質量%未満あるいは80.5質量%を超えて含むものが、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供できることや、また、耐候性、発色性、画質の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供できるメカニズムも記載されていないし、そのような出願時の技術常識もない。 そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明1~8のすべての範囲が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。 したがって、本件特許発明1~8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。 2 令和2年9月23日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項3~8に係る特許に対して、当審が令和2年12月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由2(進歩性) 本件特許の請求項3~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された参考文献3、甲第2号証~甲第6号証及び甲第10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 参考資料3:特開2014-237803号公報 甲第2号証:Organic Pigments Handbook 有機顔料ハンドブック、2006年5月初版発行、p.248、499-500 甲第3号証:特開2012-162002号公報 甲第4号証:特開2010-43149号公報 甲第5号証:特開2009-215461号公報 甲第6号証:特開2009-215460号公報 甲第10号証:日本画像学会誌、第52巻、第2号、2013年、p.147-153 理由3(サポート要件) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項3~8に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 本件特許明細書の表2からみて、本件特許発明である組成物No.3のインクは、本件特許発明でない組成物No.5及び6のものと比較して、凝集ムラ等が劣るものとなっていることから、本件特許発明は、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供できないものを含んでいる。 そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明3~8の範囲が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。 したがって、本件特許発明3~8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。 第5 前記第4における明確性についての判断 本件訂正前の請求項3が引用する請求項1において「一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。」と記載されていたが、本件訂正により、「一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。」と訂正されたので、本件特許発明3は明確となった。 また、本件特許発明3を引用する本件特許発明5~8も明確となった。 第6 前記第4における進歩性についての判断 1 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【0005】 本発明の目的は、ポリ塩化ビニル基材への印字に適し、印字品質、印刷安定性、印字乾燥性、インクの保存安定のいずれにも優れる油性インクセットであって、特に、色再現性、色彩度の高い画像を得ることができる油性インクセットの提供を課題とする。」 1b「【0044】 また、第1の油性インクセットには、さらにシアンインクおよび/またはブラックインクを含むことができる。シアンインクとしては、ピグメントブルー15:4を、また、ブラックインクとしては、ピグメントブラック7を挙げることができる。」 1c「【0078】 (インク1の調製) 溶媒として下記の組成とした。 ・ ジエチレングリコールジエチルエーテル      ・・・ 60.0質量部 ・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル    ・・・ 15.0質量部 ・ γ-ブチロラクトン               ・・・ 15.0質量部。 【0079】 次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントイエロー150(ランクセス社製、YELLOW PIGMENT E4GN-GT)を3.0質量部と分散剤としてルブリゾール社製「ソルスパース32000」を2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。 【0080】 得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク1(20℃での粘度4.3mPa・s)を調製した。」 1d「【0087】 (インク4の調製) 溶媒として下記の組成とした。 ・ ジエチレングリコールジエチルエーテル      ・・・ 48.0質量部 ・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル    ・・・ 18.0質量部 ・ テトラエチレングリコールモノブチルエーテル   ・・・  5.0質量部 ・ γ-バレロラクトン               ・・・ 20.0質量部。 【0088】 次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントオレンジ71(チバスペシャリティーケミカルズ社製、CROMOPHTAL(R) DPP ORANGE TR)を3.0質量部と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であっ た。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。 【0089】 得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂としてロームアンドハース社の「パラロイドB99N」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg82℃、重量平均分子量15,000)を4.0質量部とダウケミカル社「VAGC」(ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、Tg65℃、重量平均分子量24,000)を1.0質量部、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して油性インク4(20℃での粘度4.0mPa・s)を調製した。」 1e「【0093】 (インク6の調製) 溶媒として下記の組成とした。 ・ ジエチレングリコールジエチルエーテル      ・・・ 48.0質量部 ・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル    ・・・ 28.0質量部 ・ γ-ブチロラクトン               ・・・ 15.0質量部。 【0094】 次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントレッド122(大日本インキ化学工業社製、FASTGEN SUPER MAGENTA RG)を3.0質量部と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。 【0095】 得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク6(20℃での粘度4.2mPa・s)を調製した。」 1f「【0132】 (第1の油性インクセット) 下記表1に示す各油性インクを組合せて実施例1~6、比較例A、比較例1、2のインクセットとし、実施例1~6、比較例A、比較例1、2を用いて第1の油性インクセットについて説明する。 【0133】 【表1】 【0134】 セイコーエプソン社製「4色インクジェットプリンター MJ8000C」に上記で得た各油性インクを充填し、軟質ポリ塩化ビニルシート(リンテック社製、LAGマウントP-223RW)上に印字し、印字された各インクにおける反射率スペクトル、L* 値、a* 値、b* 値、色相角H°を、グレタグ社製「GRETAG Spedtrolino」(D65光源、視野角2°)で測定した。」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「 」(第248ページ) 2b「 」(第499~500ページ) (3)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「【請求項1】 特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と、被印刷媒体を搬送する搬送工程と、を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって、 前記画像を形成する工程は、 前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら、前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い、かつ、 前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクにエネルギーを与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり、 前記被印刷媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり、 前記特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する、インクジェット記録方法。」 3b「【0103】 また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7,10、及びC.I.Pigment Brawn 3,5,25,26、及びC.I.Pigment Orange 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等が挙げられる。 【0104】 本インクに顔料を用いる場合は、その平均粒径が10~200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50~150nm程度のものである。 本インクに色材を用いる場合、色材の添加量は、0.1~25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5~15質量%程度の範囲である。 本インクに顔料を用いる場合は、分散剤または界面活性剤で媒体中に分散させて得られた顔料分散液を用いることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、たとえば高分子分散剤を使用することができる。 本インクが色材を含有する場合、色材を複数含有するものであっても良い。たとえば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、グリーン、オレンジ、ブルー、ホワイトなどの特色や、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のレッド、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックを含有させることが例示できる。」 3c「【0114】 〔定着樹脂〕 実施形態の特定インクは定着樹脂を含有してもよい。この定着樹脂として、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうち少なくともいずれかから製造されるアクリル樹脂、それらとスチレンの共重合体であるスチレン-アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、繊維素系樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタンや水素添加石油樹脂が挙げられる。」 3d「【0123】 [材料] 実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。 〔顔料〕 ・C.I Pigment Violet 19(表中「PV19」と省略) ・C.I Pigment Yellow 213(表中「PY213」と省略) ・C.I Pigment Blue 15:3(表中「PB15:3」と省略) ・カーボンブラック(CB) MA77(商品名、三菱化学社製)(表中「CB MA77」と省略) 〔分散剤〕 ・ポリエステル系高分子 Solsperse32000(商品名、アビシア(Avecia)社製)(表中「Sol32000」と省略) 〔定着樹脂〕 ・塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体 UCAR Solution Vinyl VROH (商品名、日本ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製、分子量15000,Tg=65℃)(表中「P(VC-VAc)」と省略) ・ポリアクリルポリオール樹脂エマルジョン N-2043-60MEX(商品名、ハリマ化成社(Harima Chemicals, Inc.)製)(表中「AP-e」と省略) 〔界面活性剤〕 ・BYK-UV3500(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)(表中「BYK3500」と省略) 【0124】 〔各種溶剤〕 (1.グリコールエーテル系溶剤) ・プロピレングリコールジメチルエーテル(表中「PGDME」と省略) ・プロピレングリコールモノメチルエーテル(表中「PGME」と省略) ・プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(表中「PGMEA」と省略) ・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(表中「DPGDME」と省略) ・ジエチレングリコールジエチルエーテル(表中「DEGDEE」と省略) ・トリエチレングリコールジメチルエーテル(表中「GL-3」と省略) ・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(表中「EGBEA」と省略) ・ジプロピレングリコールプロピルエーテル(表中「DPGPE」と省略) ・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Tetraglyme、表中「GL-4」と省略) ・ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(表中「PEGME」と省略) (2.非プロトン極性溶剤) ・N-エチル-2-ピロリドン(表中「NEP」と省略) ・ジメチルスルホキシド(表中「DMSO」と省略) ・N-メチル-2-ピロリドン(表中「NMP」と省略) ・γ-ブチロラクトン(表中「GBL」と省略) ・1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(表中「DMI」と省略) ・2-ピロリドン(表中「ピロリドン」と省略) ・γ-ウンデカラクトン(表中「GUL」と省略) (3.その他の有機溶剤) ・メチルエチルケトン(表中「MEK」と省略) ・2-プロパノール(表中「プロパノール」と省略) ・シクロヘキサノン ・1,2-ヘキサンジオール(表中「ヘキサンジオール」と省略) ・ジプロピレングリコール(表中「DPG」と省略) ・トリエチレングリコール(表中「TEG」と省略) 【0125】 [実施例1~6、比較例1~5、参考例1~2] 〔特定インクの調製〕 まず、下記表1及び表2に示す組成で材料を混合して、インクA~Kを調製した。 なお、表1及び表2中、空欄部は無添加を意味し、数値の単位は質量%である。 【0126】 【表1】 【0127】 【表2】 【0128】 〔印刷〕 次に、下記の印刷装置を用いて、上記表1及び表2のインクA~Kを下記の被印刷媒体にそれぞれ印刷した。 (被印刷媒体) ・塩ビフィルム(ローランド社(Roland DG Corporation)製、商品名「LLEX」) ・PPフィルム(エイブリィ・デニソン社(Avery Dennison Corporation)製、商品名「BA2076」) ・PETフィルム(リンテック社(Lintec Corporation)製、商品名「K2411」) ・PEフィルム(エイブリィ・デニソン社製、商品名「BA1201」) ・印刷本紙(王子製紙社(Oji Paper Company, Limited)製、商品名「OKトップコート+」) 【0129】 (印刷装置(印刷方式)) (1.プリンター1) 図2に示すものと同様の基本構成を備える印刷装置を用いた。但し、ヘッドのノズル列におけるノズル密度は180dpiであった。ホットプラテン23に静止した被印刷媒体に対してヘッド40を所定パス数、走査させて1回の印刷動作による画像の形成を行った。 ・・・ 【0132】 【表3】 」 (4)甲第4号証(以下、「甲4」という。) 4a「【請求項5】 前記レッドインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントレッド170および/またはC.I.ピグメントレッド254であり、前記ブルーインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントブルー60であり、前記オレンジインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントオレンジ43であり、前記グリーンインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントグリーン36であることを特徴とする請求項4に記載のインクセット。」 (5)甲第5号証(以下、「甲5」という。) 5a「【請求項5】 前記有機顔料が以下に示す群から選ばれた少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1つに記載のインクジェット用インク組成物。 C.I.ピグメントオレンジ36 C.I.ピグメントバイオレット23,37、及び C.I.ピグメントグリーン7」 (6)甲第6号証(以下、「甲6」という。) 6a「【請求項7】 前記有機顔料が以下に示す群から選ばれた少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1つに記載のインクジェット用インク組成物。 C.I.ピグメントオレンジ36,38,43,71、 C.I.ピグメントバイオレット23,32,37,39、及び C.I.ピグメントグリーン7,36,37」 (7)甲第10号証(以下、「甲10」という。) 10a「 」(第150ページ左欄第29行~第151ページ左欄第9行) (8)参考文献3 13a「【請求項1】 色材と、環状エステルと、引火点が70℃以下であって下記一般式(I)で表される第1有機溶剤と、引火点が90℃以上の第2有機溶剤と、を含有し、 前記環状エステルの含有量a(質量%)が、6質量%以上30質量%以下であり、 前記環状エステルの含有量a(質量%)と、前記第1有機溶剤の含有量b(質量%)と、前記第2有機溶剤の含有量c(質量%)とが、下記式(1)および(2)の関係を満たす、インクジェット記録用インク組成物。 R1-O-(R2-O)2-R3   ・・・(I) (上記一般式(I)において、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2はエチレン基またはプロピレン基を表し、R3は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。) a<b         ・・・(1) c<(a+b)/2   ・・・(2)」 13b「【0029】 本実施形態のインク組成物は、ブラック、ホワイト、シアン、ブルー、グリーン、マゼンダ、レッド、イエロー、オレンジ、若しくはこれらの淡色若しくは濃色、若しくはこれらの混色、または光輝色のインクとすることができる。」 13c「【0031】 本実施形態のインク組成物を、オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155およびC.I.ピグメントイエロー180等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。」 13d「【0045】 引火点が70℃以下である一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(64℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(65℃)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、括弧内の数値は引火点を示す。」 13e「【0074】 <定着用樹脂> 本実施形態のインク組成物は、定着用樹脂を含有してもよい。インク組成物に含有させうる定着用樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、スチレン-(メタ)アクリル共重合樹脂、ビニルトルエン-α-メチルスチレン共重合体樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン系樹脂、石油樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレンアルキル(メタ)アクリレート樹脂、テルペン系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム、およびそれらの変性体等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。これらの定着用樹脂は、例えば、インク組成物の記録媒体上における定着性を付与するために配合することができる。」 13f「【0085】 2.インクジェット記録方法 本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、上記のインク組成物の液滴を記録ヘッドから吐出して、記録媒体に付着させる工程(以下、「工程(a)」ともいう。)を含む。これにより、記録媒体上に画像の形成された記録物が得られる。」 13g「【0088】 本実施形態に係るインクジェット記録方法において、前記工程(a)は、40℃以上50℃以下に加熱された記録媒体に対して行われることが好ましい。このように加熱された記録媒体上に上述のインク組成物を付着させることでインクの乾燥性を向上させることができ、特に高湿度環境下においてはその効果が一層発揮される。」 13h「【0105】 これらの中でも、低吸収性記録媒体としては、塩化ビニル系樹脂を含む記録面を有するものを好ましく用いることができる。上述のインク組成物には環状エステルが含まれており、この環状エステルが塩化ビニル系樹脂を含む記録面を溶解することで記録媒体の内部にインク組成物を浸透させることができる。これにより、高湿度環境下であっても塩化ビニル系樹脂を含む記録面に記録した画像や文字の耐擦性を向上させることができる。塩化ビニル系樹脂の具体例としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-ビニルエーテル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体等が挙げられる。なお、低吸収性記録媒体の厚み、形状、色、軟化温度、硬さ等の諸特性については特に制限されない。」 13i「【0106】 3.実施例 以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに説明するが、本発明は以下の例によってなんら限定されるものではない。 【0107】 3.1.インク組成物の調製 各実施例および各比較例のインク組成物を、表1に示す配合で調製した。 【0108】 表1に記載された成分において、顔料は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント社製)を用いた。 【0109】 表1に記載の化合物のうち、環状エステルとしては、γ-ブチロラクトン(関東化学株式会社製)を用いた。 【0110】 表1に記載の化合物のうち、第1有機溶剤としては、DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製)、DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製)を用いた。 【0111】 表1に記載の化合物のうち、第2有機溶剤としては、DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製)、TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、商品名「ブチセノール40」、KHネオケム株式会社製)を用いた。 【0112】 表1に記載の化合物のうち、その他の溶剤としては、DEGDEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点71℃)を用いた。 【0113】 表1中、ソルスパース37500(商品名、LUBRIZOL社製)は、分散剤である。パラペットG-1000P(株式会社クラレ製)は、アクリル樹脂(定着樹脂)である。表1中、BYK340(ビックケミー・ジャパン株式会社製)は、フッ素系界面活性剤(滑剤)である。 【0114】 表1に記載した配合で、各溶剤を各例のインク組成物毎に攪拌して混合溶剤を得た。次に、混合溶剤の一部を取り分け、ソルスパース37500を混合し、その後ピグメントブルー15:3を加えて、ホモジナイザーを用いて予備分散した後に、ビーズミルにて分散をし、顔料の平均粒径130nmの分散体を得た。別途、混合溶剤の一部を取り分け、パラペットG-1000Pを加えて撹拌し、完全に溶解させて樹脂溶液を得た。そして上記分散体に、残っていた混合溶剤と、BYK340と、上記樹脂溶液とを混ぜいれ各実施例および各比較例のインク組成物とした。 【0115】 3.2.評価試験 評価試験は、空調設備と加湿器を利用して、環境試験室の温度および湿度がそれぞれ、30℃,55%RHとなるように調整し、当該環境試験室内に設置したセイコーエプソン株式会社製プリンター「SC-S30650」を用いて行った。なお、温度および湿度は、ヒーター等のインクジェットプリンター自身の発熱の影響を受けない筐体の上に設置した温湿度センサーによって測定した。 【0116】 また、各評価試験では、プラテン及びプラテンより下流の記録媒体排出部にて、記録中及び記録後1分間、記録媒体を45℃で加熱した。 【0117】 3.2.1.印刷ムラ 上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に100%濃度で記録解像度720×720dpiのベタ印刷をした後、60分間、25℃65%RH(相対湿度)にて乾燥させ た。その後、目視および光学顕微鏡を用いて印刷面を観察し、印刷ムラの少ないものを6点として、1点まで6水準で評価し、その結果を表1に記載した。 【0118】 3.2.2.光沢 上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度でベタ印刷をした後、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。各例のベタ印刷部の20°光沢をMULTI GLOSS 268(コニカミノルタ株式会社製)にて測定し、光沢度が26未満を1点、26以上、28未満を2点とし、光沢度を2毎に刻んで光沢を点数で評価し、その結果を表1に記載した。光沢が優れる場合、特にフィルムなどの光沢性を有する記録媒体において、記録物に記録媒体自身と同様の光沢感を得ることができる利点がある。 【0119】 3.2.3.ドットサイズ 上記プリンターを用いて実施例および比較例の各インク組成物を、塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に記録解像度720×720dpiの30%濃度で1辺3cmの正方形を印刷した後、25℃65%RH(相対湿度)にて60分間乾燥させた。その後、光学顕微鏡を用いて印刷部分のドットサイズを観察してドットの直径を10μm毎に分類した。なお、にじみが大きい場合には、ドット形状が円状になっておらず、測定できなかった。また、にじみが小さくなることで真円に近くなっていたが、ドットサイズ(直径)は小さくなっていた。ドットサイズが20μm以下のものを1点として、20μmを超え30μm以下のものを2点、というように10μm毎にランク分けして、各例の点数を算出し、その結果を表1に記載した。ドットサイズが良好であるということは、インクの記録媒体上での濡れ拡がり性が良いということであり、記録媒体をインクで覆うことができることにより記録物の発色性が良くなるなどの利点がある。 【0120】 3.2.4.耐擦性 上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷した後、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。次に、JIS L 0849に基づいて、I型試験機にて乾式試験を行った。その後、試験綿布のODをスペクトロリーノ(グレタグマクベス社製)にて測定し、0.4以上を1点、0.4より小さく0.35以上のものを2点と、0.05毎に色移りに関して点数を付け、その結果を表1に記載した。 【0121】 3.2.5.表面乾燥性 セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC-S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV-G-1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて5分間乾燥させた。次に、巻き取り装置を用いて巻き取った後の印刷面のスリ痕を観察した。観察はレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、形式VK-8700 Generation2)にて表面粗さを測定することで、スリ痕のある面積の割合を算出した。スリ痕面積が印刷領域の10%以下のものを5点として、20%以下10%より多いものを4点、というように10%毎にランク分けした。6点はスリ痕面積がないものとした。その結果を表1に記載した。 【0122】 3.3.評価結果 以上の評価試験の結果を表1に示す。 【0123】 【表1】 」 2 甲号証に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 甲1にはインク4として「ジエチレングリコールジエチルエーテル48.0質量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル18.0質量部、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部、γ-バレロラクトン20.0質量部、ピグメントオレンジ71を3.0質量部、分散剤を1.0質量部、バインダー樹脂としてメチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体を4.0質量部とヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を1.0質量部含む、油性インク4。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1d参照)。 (2)甲3に記載された発明 甲3にはインクBとして「顔料としてPV19を4質量部、分散剤を2質量部、P(VC-VAc)を4質量部、界面活性剤を0.5質量部、DPGDMEを25.5質量部、EGBEAを20質量部、DPGPEを20質量部、NMPを20質量部、シクロヘキサンを4質量部含むインク。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3d参照)。 (3)参考文献3に記載された発明 参考資料3にはインク組成5として「顔料としてPB-15:3を4.0質量%、溶剤としてGBLを6.0%、DEGMEEを59.0質量%、TetraEGmBEを24.0質量%、定着樹脂としてパラペットG-1000Pを1.5質量%含むインク。」(以下、「参3発明」という。)が記載されているといえる(摘記13i参照)。 3 当審の判断 (1)甲1発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明3 (ア)甲1発明との対比 本件特許発明3と甲1発明を対比する。 甲1発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル48.0質量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル18.0質量部、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部」は、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルは、本件特許発明3の一般式(1)で表される溶剤であり、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルは、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルであるから、本件特許発明3の「一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、を含み、 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%であり、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%95質量%以下であり・・・ R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」に相当する。 甲1発明の「γ-バレロラクトン」は、本件特許発明3の「溶剤として環状エステル化合物」に相当する。 甲1発明の「ピグメントオレンジ71」は、本件特許発明3のC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、「ピグメントオレンジ顔料」の限りにおいて一致する。 甲1発明の「バインダー樹脂として・・・ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を1.0質量部」は本件特許発明3の「樹脂として塩化ビニル系樹脂と、を含み・・・前記塩化ビニル系樹脂の含有量が・・・インク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である」に相当する。 甲1発明の「油性インク」は、甲1には、実施例2としてインク4を含む油性セットが記載され、セイコーエプソン社製「4色インクジェットプリンター MJ8000C」に上記で得た各油性インクを充填したことが、記載されていることから(摘記1f参照、)本件特許発明3の「非水系インクジェットインクインク組成物」に相当する。 そうすると、本件特許発明3と甲1発明は、「一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、ピグメントオレンジ顔料と、樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として環状エステル化合物と、を含み、 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%であり、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、前記塩化ピニル系樹脂の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。 R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 顔料が、本件特許発明3ではC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)であるのに対し、甲1発明ではピグメントオレンジ71である点。 <相違点2> 本件特許発明3は、 一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種を含むと特定されているのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 <相違点1>及び<相違点2>について検討する。 甲1には、第1の油性インクセットのインク種としてオレンジインクとしてはピグメントオレンジ71が例示されているとしても(摘記1c参照)、C.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)を用いることについては記載も示唆もない。 確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知のオレンジ顔料であるといえるとしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43と一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤との組み合わせである組成物No.10は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1~甲6、甲10に記載も示唆もない。 したがって、甲1には、甲1発明において、ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用することまでも開示されているということはできないことに加えて、甲2~甲6、甲10の記載を参照しても、甲1発明において、ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用することの動機付けは見いだせない。 よって、上記相違点1及び2に係る本件特許発明3の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 (ウ)本件特許発明3の効果について 上記(イ)のとおり、本件特許発明3は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を用いることによって耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性等の特性が良好となるという、甲1発明及び甲1~6、10の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。 (エ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、本件特許発明3の溶剤組成は、参考資料1、3に記載されているように周知であるから、本件特許発明3は、依然として甲1発明から容易想到であると主張する。 確かに、本件特許発明3の溶剤組成は、参考資料1、3に記載されているかもしれないが、上記(イ)、(ウ)のとおり、本件特許発明3は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を用いることによって、甲1発明及び甲1~6、10の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (オ)まとめ 以上のとおり、本件特許発明3は、甲1発明及び甲1~6、10の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 イ 本件特許発明5~8について 本件特許発明5~8は、「PO-43」及び「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種を含む」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件特許発明3と甲1発明との相違点1及び2と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明5~8についても、甲1発明及び甲1~6、10の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (2)甲3発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明3 (ア)甲3発明との対比 甲3発明の「PV19」は、本件特許発明1の「顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」と顔料である限りにおいて一致する。 甲3発明の「P(VC-VAc)を4質量部」は、P(VC-VAc)は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であるから(摘記3d参照)、本件特許発明1の「樹脂として塩化ビニル系樹脂と、を含み・・・前記塩化ビニル系樹脂の含有量が・・・インク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である」に相当する。 甲3発明の「DPGDMEを25.5質量部・・・DPGPEを20質量部」は、DPGDMEは本件特許発明3の一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤であり、DPGPEは本件特許発明3の一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルであるから、本件特許発明3の「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種と、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、を含み・・・ R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」に相当する。 甲3発明の「インク」は、水を含まず、また、甲第3号証には甲3発明のインクをインクジェット記録方法に用いることが記載されているから(摘記3a参照)、本件特許発明3の「非水系インクジェットインク組成物」に相当する。 そうすると、本件特許発明3と甲3発明は、「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種と、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、顔料と、樹脂として塩化ビニル系樹脂と、を含み、 前記塩化ピニル系樹脂の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。 R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3> 顔料が、本件特許発明3ではC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)であるのに対し、甲3発明ではPV19である点。 <相違点4> 溶剤について、本件特許発明3は「溶剤として環状エステルを含み、 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%であり、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下である」と特定されているのに対し、甲3発明では、そのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 <相違点3>及び<相違点4>について検討する。 確かに、甲3にはマゼンタ、シアン、及びイエロー以外に使用される顔料として、C.I.ピグメントグリーン、C.I.ピグメントブラウンと並んで、C.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)等が列記されてはいるものの(摘記3b参照)、単なる例示にすぎず、また、多数列挙される選択肢の一つであり、さらに、実施例として具体的に開示されている甲3発明の顔料はバイオレット、イエロー、ブルー、ブラックのみであり、オレンジの具体例はない。 そして、確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知の顔料であるといえるとしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43と「溶剤として環状エステルを含み、 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%であり、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下である」との組み合わせである組成物No.10は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1~甲6、甲10に記載も示唆もない。 したがって、甲3発明において、PV19に代えてPO-43を採用することによって、甲1、甲2、甲4~甲6、甲10の記載を参照しても、上記の作用効果が奏されることを予測することはできない。 よって、上記相違点3及び4に係る本件特許発明3の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 (ウ)本件特許発明3の効果について 上記(イ)のとおり、本件特許発明3は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を特定の含有量で用いることによって耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性等の特性が良好となるという、甲3発明及び甲1~6、10の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。 (エ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、甲3のインクAとしてDEGDEE69.5質量%の例が開示されているし、本件特許発明3の溶剤組成は、参考資料1、3に記載されているように周知であるから、本件特許発明3は、依然として甲3発明から容易想到であると主張する。 確かに、本件特許発明3の溶剤組成は、参考資料1、3に記載されているかもしれないが、上記(イ)、(ウ)のとおり、本件特許発明3は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を特定の含有量用いることによって、甲3発明及び甲1~6、10の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (オ)まとめ 以上のとおり、本件特許発明3は、甲3発明及び甲1~6、10の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 イ 本件特許発明5~8について 本件特許発明5~8は、「PO-43」及び「溶剤として環状エステルを含み、 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%であり、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下である」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件発明3と甲3発明との相違点3及び4と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明5~8も、甲3発明及び甲1~6、10の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 (3)参3発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明3 (ア)参3発明との対比 参3発明の「GBL」は、γ―ブチロラクトンであることは明らかであるので、本件特許発明3の「環状エステル」に相当する。 参3発明の「定着樹脂としてパラペットG-1000Pを1.5質量%」は、「樹脂として・・・樹脂の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である」に相当する。 参3発明の「DEGMEEを59.0質量%、TetraEGmBEを24.0質量%」は、DEGMEE、TetraEGmBEは、それぞれ、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルであって(摘記13i参照)本件特許発明3に記載の一般式(1)の化合物であり、DEGMEEは引火点が64℃であり(摘記13d参照)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルは本件特許発明3の一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルであるから、本件特許発明3の「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種と、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、を含み・・・ 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり・・・ R1O-(R2O)m-R3・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]に相当する。 参3発明のインクは、インクジェット記録方法に使用され(摘記13f参照)、水を含有していないので(摘記13i参照)、本件特許発明3の「非水系インクジェットインク組成物」に相当する。 そうすると、本件特許発明3と参3発明は、「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種と、一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルと、顔料と、樹脂と、を含み、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、前記樹脂の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である、非水系インクジェットインク組成物。 R1O-(R2O)m-R3  ・・・(1) [一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点5> 顔料が、本件特許発明3ではC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)であるのに対し、参3発明ではPB-15:3である点。 <相違点6> 定着樹脂が、本件特許発明3では塩化ビニル系樹脂であるのに対し、参3発明ではパラペットG-1000P(アクリル樹脂)である点。 <相違点7> 前記一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、本件特許発明3では、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%であるのに対し、参3発明では、インクジェットインク組成物の全量に対して、24.0質量%である点。 (イ)相違点についての検討 事案にかんがみ、<相違点5>及び<相違点7>について検討する。 確かに、参考文献3には、実施形態のインク組成物をオレンジとする場合に使用できる顔料として、C.I.ピグメントオレンジ43が列記されているものの(摘記13c参照)、単なる例示にすぎず、また、多数列挙される選択肢の一つであり、さらに、実施例として具体的に開示されている甲3発明の顔料はブルーのみであり、オレンジの具体例はない。 そして、確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知の顔料であるといえるとしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43と「一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、本件特許発明3では、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%である」との組み合わせである組成物No.10は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1~甲6、甲10、参考文献3に記載も示唆もなく、特に、発色性が良好であるという効果は参考文献3に記載も示唆もない。 したがって、参3発明において、PB-15:3に代えてPO-43を採用することによって、甲1~甲6、甲10の記載を参照しても、上記の作用効果が奏されることを予測することはできない。 よって、上記相違点5及び7に係る本件特許発明3の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。 (ウ)本件特許発明3の効果について 上記(イ)のとおり、本件特許発明3は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を特定の含有量で用いることによって発色性の特性が良好となるという、参3発明及び甲1~甲6、甲10、参考文献3の記載からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。 (エ)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、本件特許発明3の溶剤組成はその構成上容易想到であり、本件特許発明3は参3発明と比較して顕著な効果があるとは到底言えないから、進歩性がないと主張する。 確かに、本件特許発明3の溶剤組成はその構成上容易想到であるかもしれないが、上記(イ)、(ウ)のとおり、本件特許発明3は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を特定の含有量用いることによって、発色性が良いという、参3発明からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (オ)まとめ 以上のとおり、本件特許発明3は、相違点6について検討するまでもなく、参3発明及び甲1~甲6、甲10、参考文献3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 イ 本件特許発明5~8について 本件特許発明5~8は、「PO-43」及び「一般式(1)で表される溶剤であって、R1及びR3の一方が水素であるグリコールモノエーテルの含有量が、本件特許発明3では、インクジェットインク組成物の全量に対して、2~15質最%である」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件発明3と参3発明との相違点5及び7と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明5~8も、参3発明及び甲1~甲6、甲10、参考文献3の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 第7 前記第4におけるサポート要件についての判断 本件特許発明の課題は、【0008】の記載からみて、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供することにあり、また、耐候性、発色性、画質の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供することにあると認める。 (1)本件特許発明3、5~8は、溶剤として環状エステル化合物と、を含み、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であるものを含む。 そして、発明の詳細な説明の実施例等を参酌すると、溶剤として環状エステル化合物と、を含み、 前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であるものを含むものが、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供することにあり、また、耐候性、発色性、画質の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供できることは、記載されている。 そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌すると、本件特許発明3、5~8が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえる。 したがって、本件特許発明3、5~8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲にあると認められる。 (2)また、組成物No.3のインクは、本件訂正により、本件特許発明3、5~8に含まれなくなったので、本件特許発明3、5~8は、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性、発色性、画質の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供できないものを含んでいるとはいえない。 そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌すると、本件特許発明3、5~8が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえる。 したがって、本件特許発明3、5~8は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲にあると認められる。 第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由 特許異議申立人の主張は以下のとおりである。 (1)特許法第29条第1項第3号 本件特許発明1~8は甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明である。 (2)特許法第36条第6項第1号 ア 本件の【請求項1】では、溶剤の引火点について、「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が140℃以下である溶剤の少なくとも1種と」と規定している。 そして、本件特許公報明細書の【0007】には「発明者らは、インクジェットインク組成物の総合的な性能を維持しつつ暖色系色再現領域を広げ、記録物の画質、耐候性、発色性、向上させるために、特定の顔料種と溶剤の組み合わせが重要であることを見出し本発明を為すに至った。」が記載されており、PO43と、一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が140℃以下である溶剤を含有させることで暖色系色再現領域を広げて、記録物の画質、耐候性、発色性を向上させることができることが記載されている。 しかしながら、インク組成物に含まれる溶剤の引火点を定めることによりこれらの効果を有する記録物を得ることは本件出願時の当業者の技術常識ではない。このため、本願実施例で効果が確認されている溶剤以外の引火点が140℃以下の一般式(1)で表される溶剤を含んでいる場合や本願実施例で効果が確認されている引火点が140℃以下の一般式(1)で表される溶剤とともに他の溶剤をも一定最含む場合には、本願実施例と同様に暖色系色再現領域を広げて、記録物の画質、耐候性、発色性を向上できる根拠を、本願発明の詳細な説明の記載から見いだすことができない。 したがって、本件出願時の当業者の技術常識に照らしても、本件の課題を解決できると判断できる根拠のない溶剤をも含み得る本件請求項1~8に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 イ 溶剤の含有量について本件の【請求項1】では、140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して10質量%以上95質量%以下であることが規定されている。 ここで、本件特許公報の【0105】の【表1】には、140℃以下の一般式(1)で表される化合物として、DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)、DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DEGDEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル)、DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル)、TriEGdME(トリエチレングリコールジメチルエーテル)が記載されているが、表1の実施例のNo.1~No.13での引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量はいずれも50.5~80.5質量%の範囲となっている。 例えば、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が40質量%未満のもの等について本願実施例と同様に暖色系色再現領域を広げて、記録物の画質、耐候性、発色性を向上できるという効果が立証されておらず、140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が10質量%以上40質量%未満の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 また、表1の実施例のNo.8では、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物(DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル))の含有量が80.5質量%と、γ-ブチロラクトン5.0質量%とを含むインク組成物が記載されている。ここで、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が70質量%超95質量%以下の実施例はこのNo.8のみである。 しかしながら、上述したように、引火点が64℃のDEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)を含む実施例をもってして140℃以下の一般式(1)で表される化合物の範囲にまで拡張ないし一般化することができない。また、請求項1は、他の溶剤、つまり引火点が140℃超である溶剤や一般式(1)で表される化合物ではない溶剤についても含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっていることから、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が70質量%超95質量%以下の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 ウ 本件特許公報に記載されている表1の実施例のNo.8と11の耐候性の評価は4であり、他の実施例の評価の5より劣っている。ここで、実施例のNo.8は、実施例のNo.1と比較すると、インクジェットインク組成物に含まれる溶剤(γ-ブチロラクトンとDEGMEE)の配合比率が異なっており、実施例のNo.11は、実施例のNo.1と比較すると、インクジェットインク組成物に含まれる定着樹脂(ソルバインCLとパラロイドB60)の配合比率が異なっている。これを以って、画質の耐候性が、顔料のみでなく、インクジェットインク組成物に共存する樹脂や溶媒などによっても変わり得ると仮定することもできる。 しかしながら、そのように仮定した場合、本件特許発明1では一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が140℃以下である溶剤の少なくとも1種を含むこと、一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上95質量%以下含むことが特定されているものの、他の溶剤については含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっている。 つまり、本件特許発明1では、溶剤の配合比率は特定されていないことから、本件特許発明1の全範囲において、耐候性の効果を奏するとまでは認められない。 また、本件特許発明1では、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むことは特定されているものの、他の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっている。つまり、本件特許発明1では、樹脂の配合比率は特定されていないことから、本件特許発明1の全範囲において、耐候性の効果を奏するとまでは認められない。 本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~8についても同様である。 (3)特許法第36条第4項第1号 ア 溶剤の含有量について本件の【請求項1】では、140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して10質量%以上95質量%以下であることが規定されている。 ここで、本件特許公報の【0105】の【表1】には、140℃以下の一般式(1)で表される化合物として、DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)、DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DEGDEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル)、DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル)、TriEGdME(トリエチレングリコールジメチルエーテル)が記載されているが、表1の実施例のNo.1~No.13での引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量はいずれも50.5~80.5質量%の範囲となっている。 例えば、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が40質量%未満のもの等について本願実施例と同様に暖色系色再現領域を広げて、記録物の画質、耐候性、発色性を向上できるという効果が立証されていない。 また、表1の実施例のNo.8では、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物(DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル))の含有量が80.5質量%と、γ-ブチロラクトン5.0質量%とを含むインク組成物が記載されている。ここで、引火点が140℃以下の一般式(1)で表される化合物の合計含有量が70質量%超95質量%以下の実施例はこのNo.8のみである。 しかしながら、上述したように、引火点が64℃のDEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル)を含む実施例をもってして140℃以下の一般式(1)で表される化合物の範囲にまで拡張ないし一般化することができない。また、請求項1は、他の溶剤、つまり引火点が140℃超である溶剤や一般式(1)で表される化合物ではない溶剤についても含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっている。 そうすると、本件特許公報に記載されている実施例では、本件の【請求項1】で特定されている発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~8についても同様である。 イ 本件特許公報に記載されている表1の実施例のNo.8と11の耐候性の評価は4であり、他の実施例の評価の5より劣っている。ここで、実施例のNo.8は、実施例のNo.1と比較すると、インクジェットインク組成物に含まれる溶剤(γ-ブチロラクトンとDEGMEE)の配合比率が異なっており、実施例のNo.11は、実施例のNo.1と比較すると、インクジェットインク組成物に含まれる定着樹脂(ソルバインCLとパラロイドB60)の配合比率が異なっている。これを以って、画質の耐候性が、顔料のみでなく、インクジェットインク組成物に共存する樹脂や溶媒などによっても変わり得ると仮定することもできる。 しかしながら、そのように仮定した場合、本件特許発明1では一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が140℃以下である溶剤の少なくとも1種を含むこと、一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上95質量%以下含むことが特定されているものの、他の溶剤については含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっている。 つまり、本件特許発明1では、溶剤の配合比率は特定されていないことから、本件特許発明1の全範囲において、耐候性の効果を奏するとまでは認められない。 また、本件特許発明1では、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むことは特定されているものの、他の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっている。つまり、本件特許発明1では、樹脂の配合比率は特定されていないことから、本件特許発明1の全範囲において、耐候性の効果を奏するとまでは認められない。 そうすると、本件の【請求項1】で特定されている発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 本件特許発明1及びこれを引用する本件特許発明2~8についても同様である。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断 (1)特許法第29条第1項第3号 上記第6、3(2)ア(ア)で対比検討したとおり、本件特許発明3、5~8と甲3発明には相違点3及び相違点4があり、相違点3及び相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明3、5~8は甲3に記載された発明とすることはできない。 (2)特許法第36条第6項第1号 ア 本件特許発明3では、溶剤の引火点について、「一般式(1)で表される溶剤であって、引火点が70℃以下である溶剤の少なくとも1種と」と規定している。 そして、本件特許明細書の段落【0105】の【表1】には、引火点が70℃以下の溶剤であるDEGMEEを含む組成物No.10が記載されており、段落【0027】には、「インクジェットインク組成物の乾燥性をより高くすることができる観点からは、これらの化合物のうち、引火点が140℃以下の化合物を用いることが好ましい。引火点が140℃以下の化合物を用いることにより、インクジェットインク組成物の乾燥性が高まり、形成される画像における凝集ムラ(顔料の凝集等)をより生じにくくすることができ耐擦性も優れたものとできる。」と記載されていることから、引火点温度が低い溶剤を用いることで、暖色系色再現領域を広げて、記録物の画質、耐候性、発色性を向上させることができるといえるから、本件特許発明3の範囲まで本件特許発明の範囲を拡張ないし一般化することはできないとする根拠はない。 本件特許発明5~8についても同様である。 イ 溶剤の含有量について本件特許発明3では、一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して65.5質量%以上95質量%以下であることが規定されている。 ここで、本件特許明細書の段落【0105】の【表1】には、一般式(1)で表される化合物の合計含有量が65.5質量%である組成物No.10が、記載されている。 そして、一般式(1)で表される化合物の合計含有量が65.5質量%超95質量%以下の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない事情は見当たらない。 そうすると、本件特許発明3の範囲まで本件特許発明の範囲を拡張ないし一般化することはできないとすることはできない。 本件特許発明5~8についても同様である。 ウ 本件特許明細書の段落【0105】の【表1】には、環状エステルであるγ―ブチロラクトンを20.0質量%含む組成物No.10が、記載されており、本件特許明細書【0038】には「環状エステルを配合する場合における、インクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、2質量%以上40質量%以下であり、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以上20質量%以下である。含有量が上記範囲内である場合、耐擦性、発色性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ抑制の点で一層好ましい。」と記載されており、本件特許発明3では、溶剤の配合比率は特定されていないとしても、本件特許発明3の全範囲において、耐候性の効果を奏すると認められる。 また、本件特許明細書の段落【0053】に塩化ビニル系樹脂以外の定着樹脂について列記されており、段落【0067】に定着樹脂の含有量についても記載されていることから、本件特許発明3では、樹脂の配合比率は特定されていないとしても、本件特許発明3の全範囲において、耐候性の効果を奏すると認められる。 本件特許発明5~8についても同様である。 (3)特許法第36条第4項第1号について ア 本件特許発明3は「前記一般式(1)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり」と特定されており、本件特許明細書の段落【0105】の【表1】の組成物No.10の記載からみて、そのようなインク組成物を製造し使用することができることは明らかである。 本件特許発明5~8についても同様である。 イ 本件特許発明3は「塩化ビニル系樹脂の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5質量%以上5質量%以下である」と特定されており、本件特許明細書の段落【0053】に塩化ビニル系樹脂以外の定着樹脂について列記されており、段落【0067】に定着樹脂の含有量についても記載されていることから、本件特許発明3では、樹脂の配合比率は特定されていないとしても、そのようなインク組成物を製造し使用することができることは明らかである。 本件特許発明5~8についても同様である。 第9 むすび 以上のとおりであるから、令和2年7月14日付けの取消理由通知に記載した取消理由、令和2年12月9日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3、5~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項3、5~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 訂正前の請求項1、2、4は本件訂正により削除されたため、請求項1、2、4についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700336

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    同じ当事者: セイコーエプソン株式会社、渡辺 陽子
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