特許異議申立
2020-700335
インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法
- 審判番号
- 2020-700335
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-033763
- 登録番号
- 特許第6604000号(P6604000)
- 請求日
- 2020年05月13日
- 審決日
- 2021年03月10日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セイコーエプソン株式会社
- 【権利者代理人】布施 行夫
- 【権利者代理人】大渕 美千栄
- 【権利者代理人】川▲崎▼ 通
- 【権利者代理人】松本 充史
- 【権利者代理人】渡辺 和昭
- 【権利者代理人】磯部 光宏
- 【権利者代理人】仲井 智至
- 【権利者代理人】松岡 宏紀
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 斉
- 審判官 瀬下 浩一
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第126条第4項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6604000号発明「インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6604000号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第6604000号の請求項1、2、4~9に係る特許を維持する。
特許第6604000号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6604000号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成27年2月24日に出願され、令和元年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~9に係る特許に対し、令和2年5月13日に特許異議申立人渡辺陽子により特許異議の申立てがされ、当審は、同年7月14日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年9月23日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年同月30日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、その指定期間内である同年10月29日及び11月2日に意見書を提出した。当審は、同年12月2日付けで訂正拒絶理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である令和3年1月5日に意見書及び手続補正書の提出を行った。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1~5からなる。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含」むことを特定するとともに、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であ」ること及び「前記一般式 (2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」することを特定する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、5~9も同様に訂正する)。
さらに、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」を特定する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、5~9も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を、請求項1及び請求項3を引用するものについて独立形式に改め、「一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であ」ること及び「一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」することを特定する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する)。
さらに、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」を特定する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5~9の引用関係について、次のように訂正する。
ア 請求項5について、請求項1~4のいずれか1項を引用するものから、請求項1~2、4のいずれか1項を引用するものに訂正する。
イ 請求項6について、請求項1~5のいずれか一項を引用するものから、請求項1~2、4~5のいずれか一項を引用するものに訂正する。
ウ 請求項7について、請求項1~6のいずれか一項を引用するものから、請求項1~2、4~6のいずれか一項を引用するものに訂正する。
エ 請求項8について、請求項1~7のいずれか一項を引用するものから、請求項1~2、4~7のいずれか一項を引用するものに訂正する。
オ 請求項9について、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェット組成物または請求項8に記載のインクセットを引用するものから、請求項1~2、4~7のいずれか一項に記載のインクジエットインク組成物または請求項8に記載のインクセットを引用するものに、それぞれ訂正する。
(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の0044段落に記載された「式(1)で表される化合物」を「式(2)で表される化合物」に訂正する。
(6)別の訂正単位とする求め
特許権者は、訂正後の請求項4と、訂正後の請求項4の記載を引用する訂正後の請求項5~9については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、溶剤として一般式(2)で表される化合物の1種以上を含むこと及び環状エステル化合物の具体的な成分については特定していない。
これに対して、訂正後の請求項1は、「溶剤として一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み」との記載、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であ」るとの記載、「前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」するとの記載により、訂正後の請求項1に係る発明における非水系インクジェットインク組成物に含有される成分をより具体的に特定し、更に限定するものである。
また、訂正後の請求項1は、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明における非水系インクジェットインク組成物に含有される成分をより具体的に特定し、更に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
同様に、訂正後の請求項2、5~9は、訂正後の請求項1の上記の記載を引用することにより、訂正後の請求項2、5~9に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、以下のとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて導き出される構成である。
すなわち、本件特許明細書の段落【0036】には、「溶剤として一般式(2)で表される化合物(グリコールエーテルともいう)を含有することが好ましい。」と記載されており、段落【0042】には、一般式(2)で表される化合物のインクジェットインク組成物の全量に対する合計の含有量が記載されており、下限値「65.5質量%」は実施例の数値(例えば、組成物No.13のインク)として記載されており、段落【0044】には、一般式(2)で表される化合物のうち、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有すること及びその作用効果が記載されており、段落【0029】には、環状エステルの具体例の一つとしてγ-ブチロラクトンが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2、5~9の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2、5~9の記載について何ら訂正するものではなく、訂正後の請求項2、5~9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項3を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項3の記載を引用する記載であるところ、請求項3を引用しないものとした上で、請求項1及び請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であるといえる。
また、訂正後の請求項4は、訂正前の請求項2を引用する請求項3の引用を削除するものであるから、当該訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
さらに、訂正後の請求項4は、「前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上90質量%以下であ」るとの記載、「前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有」するとの記載、「環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンであること」との記載により、訂正後の請求項4に係る発明における非水系インクジェットインク組成物に含有される成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものといえる。
同様に、訂正後の請求項5~9は、訂正後の請求項4の上記の記載を引用することにより、訂正後の請求項5~9に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであるため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものといえる。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に規定する特許請求の範囲の滅縮を目的とするものでもあるといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、以下のとおり、明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて導き出される構成である。
すなわち、本件特許明細書の段落【0042】には、一般式(2)で表される化合物のインクジェットインク組成物の全量に対する合計の含有量が記載されており、下限値「65.5質量%」は実施例の数値(例えば、組成物No.13のインク)として記載されており、段落【0044】には、一般式(2)で表される化合物のうち、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有すること及びその作用効果が記載されており、段落【0029】には、環状エステルの具体例の一つとしてγ-ブチロラクトンが記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項3は、訂正後の請求項4に係る発明における非水系インクジェットインク組成物の組成や成分をより具体的に特定し、更に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載を引用する訂正前の請求項5~9の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項4の記載は、訂正前の請求項4との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載以外に、訂正前の請求項5~9の記載について何ら訂正するものではなく、訂正後の請求項5~9に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項5~9のそれぞれについて引用する請求項数を滅縮するものであるから、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、請求項5~9のそれぞれについて 引用する請求項を減縮するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、請求項5~9のそれぞれについて引用する請求項数を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正前の本件特許明細書の段落【0036】~【0044】は式(2)で表される化合物について説明していることが明らかなので、訂正前の明細書の段落【0044】に記載された「式(1)で表される化合物」は、「式(2)で表される化合物」の誤記であることは明らかである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。
イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、明細書の段落【0036】に記載されている「式(2)で表される化合物」という正しい記載に基づいて誤記を訂正するものであることが明らかであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項5は、単に明細書中の誤記を訂正するためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものといえる。
エ 明細書又は図面の訂正と関係する請求項についての説明
訂正事項5は、誤記を訂正することを目的とするものであり、これは一群の請求項1~9に関係する訂正である。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項に適合するものといえる。
(6)一群の請求項及び別の訂正単位とする求めについての判断
訂正前の請求項1~9について、請求項2、3、5~9はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、請求項4は請求項3を引用しているものであるので、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
一方、訂正後の請求項5~9は、訂正後の請求項4を引用するとともに、訂正後の請求項1をも引用しているから、請求項1、2、4~9は一群の請求項であって、請求項4及び請求項5~9が別の訂正単位であるといえないから、別の訂正単位とする求めは認められない。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合する。
したがって、特許第6604000号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1~9について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~9に係る発明は、令和3年1月5日付けの手続補正により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明9」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。
「【請求項1】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2~40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対 して、0.5~5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R1O-(R2O)m-R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項2】
請求項1において、
前記環状エステルの総含有量に対する定着樹脂の総含有量の比が0.1~1.0である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2~40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5~5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上90質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R1O-(R2O)m-R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
【請求項5】
請求項1~2、4の何れか1項において、
前記環状エステルの含有量が5~40質量%である、非水系インクジェットインク組成物。
【請求項6】
塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、請求項1~2、4~5のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記定着樹脂が、さらに(メタ)アクリル系樹脂を含有する、請求項1~2、4~6のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物。
【請求項8】
請求項1~2、4~7のいずれか一項に記載の非水系インクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系シアンインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系マゼンタインクジェットインク組成物と、溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と顔料とを含む非水系イエローインクジェットインク組成物と、を少なくとも備えるインクセット。
【請求項9】
請求項1~2、4~7のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物または請求項8に記載のインクセットを用いて、記録媒体にインクジェット法により記録を行う、インクジェット記録方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、当審が令和2年7月14日付けで特許権者に通知した取消理由(理由1及び2)の要旨は、次のとおりである。
理由1(進歩性) 本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証~甲第7号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
理由2(サポート要件) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
甲第1号証:特開2014-227812号公報
甲第2号証:Organic Pigments Handbook 有機顔料ハンドブック、2006年5月初版発行、p.248、499-500
甲第3号証:特開2012-162002号公報
甲第4号証:特許2010-43149号公報
甲第5号証:特許2009-215461号公報
甲第6号証:特許2009-215460号公報
甲第7号証:特許2015-7206号公報
甲第9号証:特許2010-59364号公報
甲第10号証:日本画像学会誌、第52巻、第2号、2013年、p.147-153
2 甲号証の記載について
(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)
1a「【0005】
本発明の目的は、ポリ塩化ビニル基材への印字に適し、印字品質、印刷安定性、印字乾燥性、インクの保存安定のいずれにも優れる油性インクセットであって、特に、色再現性、色彩度の高い画像を得ることができる油性インクセットの提供を課題とする。」
1b「【0041】
本発明の第1の油性インクセットとしては、波長領域400~700nmにおける反射率の関係を満たすものであればよく、格別、限定されるものではないが、インク種としては・・・第2の油性インクとしてオレンジインクが例示される。・・・第2の油性インクであるオレンジインクとしては、ピグメントオレンジ64、71、ピグメントレッド254等が例示される。・・・
【0044】
また、第1の油性インクセットには、さらにシアンインクおよび/またはブラックインクを含むことができる。シアンインクとしては、ピグメントブルー15:4を、また、ブラックインクとしては、ピグメントブラック7を挙げることができる。」
1c「【0078】
(インク1の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 60.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 15.0質量部
・ γ-ブチロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0079】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントイエロー150(ランクセス社製、YELLOW PIGMENT E4GN-GT)を3.0質量部と分散剤としてルブリゾール社製「ソルスパース32000」を2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0080】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク1(20℃での粘度4.3mPa・s)を調製した。」
1d「【0087】
(インク4の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 48.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 18.0質量部
・ テトラエチレングリコールモノブチルエーテル・・・ 5.0質量部
・ γ-バレロラクトン ・・・ 20.0質量部。
【0088】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントオレンジ71(チバスペシャリティーケミカルズ社製、CROMOPHTAL(R) DPP ORANGE TR)を3.0質量部と分散剤としてルーブリゾール社製「ソルスパース32000」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0089】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂としてロームアンドハース社の「パラロイドB99N」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg82℃、重量平均分子量15,000)を4.0質量部とダウケミカル社「VAGC」(ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、Tg65℃、重量平均分子量24,000)を1.0質量部、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して油性インク4(20℃での粘度4.0mPa・s)を調製した。」
1e「【0093】
(インク6の調製)
溶媒として下記の組成とした。
・ ジエチレングリコールジエチルエーテル ・・・ 48.0質量部
・ テトラエチレングリコールジメチルエーテル ・・・ 28.0質量部
・ γ-ブチロラクトン ・・・ 15.0質量部。
【0094】
次に、上記組成の溶媒の一部に、ピグメントレッド122(大日本インキ化学工業社製、FASTGEN SUPER MAGENTA RG)を3.0質量部と分散剤として味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821」を1.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。得られる顔料粒子の平均粒径は5μm以下であった。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行い、顔料分散液を得た。この本分散で得られる顔料粒子の平均粒径は250nmであった。
【0095】
得られた顔料分散液を1,500rpmで攪拌しながら、バインダー樹脂として上記で合成した重合体1を5.0質量部と、上記で得た混合溶媒の残部とを添加して、油性インク6(20℃での粘度4.2mPa・s)を調製した。」
1f「【0132】
(第1の油性インクセット)
下記表1に示す各油性インクを組合せて実施例1~6、比較例A、比較例1、2のインクセットとし、実施例1~6、比較例A、比較例1、2を用いて第1の油性インクセットについて説明する。
【0133】
【表1】
【0134】
セイコーエプソン社製「4色インクジェットプリンター MJ8000C」に上記で得た各油性インクを充填し、軟質ポリ塩化ビニルシート(リンテック社製、LAGマウントP-223RW)上に印字し、印字された各インクにおける反射率スペクトル、L* 値、a* 値、b* 値、色相角H°を、グレタグ社製「GRETAG Spedtrolino」(D65光源、視野角2°)で測定した。」
(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)
2a「
」(第248ページ)
2b「
」(第499~500ページ)
(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
3a「【請求項1】
特定インクを吐出して印刷領域に位置する被印刷媒体に画像を形成する工程と、被印刷媒体を搬送する搬送工程と、を交互に行うことにより印刷を行うインクジェット記録方法であって、
前記画像を形成する工程は、
前記印刷領域に静止させた被印刷媒体に対してプリントヘッドを相対的に移動させながら、前記プリントヘッドから前記インクを前記被印刷媒体に吐出する走査を複数回行い、かつ、
前記被印刷媒体に吐出された前記特定インクにエネルギーを与えて前記被印刷媒体に定着させるものであり、
前記被印刷媒体が、インク非吸収性又は低吸収性の被印刷媒体であり、
前記特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する、インクジェット記録方法。」
3b「【0103】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7,10、及びC.I.Pigment Brawn 3,5,25,26、及びC.I.Pigment Orange 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等が挙げられる。
【0104】
本インクに顔料を用いる場合は、その平均粒径が10~200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50~150nm程度のものである。
本インクに色材を用いる場合、色材の添加量は、0.1~25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5~15質量%程度の範囲である。
本インクに顔料を用いる場合は、分散剤または界面活性剤で媒体中に分散させて得られた顔料分散液を用いることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、たとえば高分子分散剤を使用することができる。
本インクが色材を含有する場合、色材を複数含有するものであっても良い。たとえば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、グリーン、オレンジ、ブルー、ホワイトなどの特色や、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のレッド、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックを含有させることが例示できる。」
3c「【0114】
〔定着樹脂〕
本実施形態の特定インクは定着樹脂を含有してもよい。この定着樹脂として、特に限定されないが、例えば、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルのうち少なくともいずれかから製造されるアクリル樹脂、それらとスチレンの共重合体であるスチレン-アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、変性テルペン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、繊維素系樹脂(例えば、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリビニルブチラール、ポリアクリルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリウレタンや水素添加石油樹脂が挙げられる。」
3d「【0123】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I Pigment Violet 19(表中「PV19」と省略)
・C.I Pigment Yellow 213(表中「PY213」と省略)
・C.I Pigment Blue 15:3(表中「PB15:3」と省略)
・カーボンブラック(CB) MA77(商品名、三菱化学社製)(表中「CB MA77」と省略)
〔分散剤〕
・ポリエステル系高分子 Solsperse32000(商品名、アビシア(Avecia)社製)(表中「Sol32000」と省略)
〔定着樹脂〕
・塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体 UCAR Solution Vinyl VROH (商品名、日本ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製、分子量15000,Tg=65℃)(表中「P(VC-VAc)」と省略)
・ポリアクリルポリオール樹脂エマルジョン N-2043-60MEX(商品名、ハリマ化成社(Harima Chemicals, Inc.)製)(表中「AP-e」と省略)
〔界面活性剤〕
・BYK-UV3500(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)(表中「BYK3500」と省略)
【0124】
〔各種溶剤〕
(1.グリコールエーテル系溶剤)
・プロピレングリコールジメチルエーテル(表中「PGDME」と省略)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル(表中「PGME」と省略)
・プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(表中「PGMEA」と省略)
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(表中「DPGDME」と省略)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(表中「DEGDEE」と省略)
・トリエチレングリコールジメチルエーテル(表中「GL-3」と省略)
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(表中「EGBEA」と省略)
・ジプロピレングリコールプロピルエーテル(表中「DPGPE」と省略)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Tetraglyme、表中「GL-4」と省略)
・ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(表中「PEGME」と省略)
(2.非プロトン極性溶剤)
・N-エチル-2-ピロリドン(表中「NEP」と省略)
・ジメチルスルホキシド(表中「DMSO」と省略)
・N-メチル-2-ピロリドン(表中「NMP」と省略)
・γ-ブチロラクトン(表中「GBL」と省略)
・1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(表中「DMI」と省略)
・2-ピロリドン(表中「ピロリドン」と省略)
・γ-ウンデカラクトン(表中「GUL」と省略)
(3.その他の有機溶剤)
・メチルエチルケトン(表中「MEK」と省略)
・2-プロパノール(表中「プロパノール」と省略)
・シクロヘキサノン
・1,2-ヘキサンジオール(表中「ヘキサンジオール」と省略)
・ジプロピレングリコール(表中「DPG」と省略)
・トリエチレングリコール(表中「TEG」と省略)
【0125】
[実施例1~6、比較例1~5、参考例1~2]
〔特定インクの調製〕
まず、下記表1及び表2に示す組成で材料を混合して、インクA~Kを調製した。
なお、表1及び表2中、空欄部は無添加を意味し、数値の単位は質量%である。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
〔印刷〕
次に、下記の印刷装置を用いて、上記表1及び表2のインクA~Kを下記の被印刷媒体にそれぞれ印刷した。
(被印刷媒体)
・塩ビフィルム(ローランド社(Roland DG Corporation)製、商品名「LLEX」)
・PPフィルム(エイブリィ・デニソン社(Avery Dennison Corporation)製、商品名「BA2076」)
・PETフィルム(リンテック社(Lintec Corporation)製、商品名「K2411」)
・PEフィルム(エイブリィ・デニソン社製、商品名「BA1201」)
・印刷本紙(王子製紙社(Oji Paper Company, Limited)製、商品名「OKトップコート+」)
【0129】
(印刷装置(印刷方式))
(1.プリンター1)
図2に示すものと同様の基本構成を備える印刷装置を用いた。但し、ヘッドのノズル列におけるノズル密度は180dpiであった。ホットプラテン23に静止した被印刷媒体に対してヘッド40を所定パス数、走査させて1回の印刷動作による画像の形成を行った。」
(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
4a「【請求項5】
前記レッドインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントレッド170および/またはC.I.ピグメントレッド254であり、前記ブルーインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントブルー60であり、前記オレンジインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントオレンジ43であり、前記グリーンインク組成物の顔料が、C.I.ピグメントグリーン36であることを特徴とする請求項4に記載のインクセット。」
(5)甲第5号証(以下、「甲5」という。)
5a「【請求項5】
前記有機顔料が以下に示す群から選ばれた少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1つに記載のインクジェット用インク組成物。
C.I.ピグメントオレンジ36
C.I.ピグメントバイオレット23,37、及び
C.I.ピグメントグリーン7」
(6)甲第6号証(以下、「甲6」という。)
6a「【請求項7】
前記有機顔料が以下に示す群から選ばれた少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1つに記載のインクジェット用インク組成物。
C.I.ピグメントオレンジ36,38,43,71、
C.I.ピグメントバイオレット23,32,37,39、及び
C.I.ピグメントグリーン7,36,37」
(7)甲第7号証(以下、「甲7」という。)
7a「【0020】
本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物は、色材、溶剤及びアクリル樹脂を含有する油性インク組成物であって、必要に応じて他の成分を含有していても良いものである。
以下、構成成分について順に説明する。」
(8)甲第9号証(以下、「甲9」という。)
9a「【0021】
また、含まれる2種類以上のバインダー樹脂には、塩化ビニル系樹脂および/またはアクリル系樹脂を使用する事ができる。印刷物光沢や塗膜延伸性に優れている塩化ビニル系樹脂と、印刷物の乾燥性に優れているアクリル系樹脂を併用する事により、印刷速度の速いインクジェットプリンターでも裏写り(ブロッキング)無く優れた印刷物を得ることができる。」
(9)甲第10号証(以下、「甲10」という。)
10a「
」(第150ページ左欄第29行~第151ページ左欄第9行)
3 甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証にはインク4として「ジエチレングリコールジエチルエーテル48.0質量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル18.0質量部、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部、γ-バレロラクトン20.0質量部、ピグメントオレンジ71を3.0質量部、分散剤を1.0質量部、バインダー樹脂としてメチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体を4.0質量部とヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を1.0質量部含む、油性インク4。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。
(2)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証にはインクFとして「PY213を4質量%、分散剤を2質量%、P(VC-VAc)を4質量%、界面活性剤を0.5質量%、PGMEを10質量%、DEGDEEを50質量%、GL-3を9.5質量%、GBLを20質量%含むインク。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる(摘記3d参照)。
4 当審の判断
(1)対比・判断
ア 甲1発明を主たる引用発明とする場合
(ア)本件特許発明1
a.甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「γ-バレロラクトン20.0質量部」は本件特許発明1の「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種・・・を含み・・・前記環状エステル化合物の含有量がインク組成物の全量に対して、2~40質量%であり」に相当する。
甲1発明の「バインダー樹脂として・・・ヒドロキシアルキルアクリレート変性塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体を1.0質量部」は本件特許発明1の「定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含み・・・前記塩化ビニル系樹脂の含有量がインク組成物の全量に対して、0.5~5質量%である」に相当する。
甲1発明の「油性インク」は本件特許発明1の「非水系・・・インク組成物」に相当する。
甲1発明の「ジエチレングリコールジエチルエーテル48.0質量部、テトラエチレングリコールジメチルエーテル18.0質量部、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル5.0質量部」は、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びテトラエチレングリコールモノブチルエーテルは、いずれも、本件特許発明1の一般式(2)で表される化合物に該当し、その合計含有量は68重量部であり、そのうちテトラエチレングリコールモノブチルエーテルは一般式(2)においてR1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルに該当するから、本件特許発明1の「溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み・・・前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し・・・R1O-(R2O)m-R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
に相当する。
そうすると、本件特許発明と甲1発明とは「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2~40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5~5質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有・・・する非水系インクジェットインク組成物。
R1O-(R2O)m-R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]
」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
顔料が、本件特許発明1ではC.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)であるのに対し、甲1発明ではピグメントオレンジ71である点。
<相違点2>
インク組成物が、本件特許発明1ではインクジェットインク組成物であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。
<相違点3>
環状エステル化合物が、本件特許発明1ではγ-ブチロラクトンであるのに対し、甲1発明ではγ―バレロラクトンである点。
b.相違点についての検討
相違点1及び3について検討する。
甲1には、第1の油性インクセットのインク種としてオレンジインクが例示され、当該オレンジインクとしてはピグメントオレンジ64、71が例示されることは記載されている(摘記1b参照)としても、C.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)を用いることについては記載も示唆もない。
確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知のオレンジ顔料であるといえるにしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43とγ-ブチロラクトンを含む溶剤との組み合わせである組成物No.13は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1~甲7、甲9、甲10に記載も示唆もない。
したがって、甲1には、甲1発明において、ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用することまでも開示されているということはできないことに加えて、甲2~甲7、甲9、甲10の記載を参照しても、甲1発明において、ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用することの動機付けは見いだせない。
よって、上記相違点1及び3に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
c.本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、顔料として、PO-43を採用し、上記特定の有機溶剤を用いることによって耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性等の特性が良好となるという、甲1発明からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。
d.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において「ピグメントオレンジ71に代えて、PO-43を採用すること当業者が容易に想到し得ることである」と主張し、令和2年10月29日提出の意見書において「γ-バレロラクトンに代えて、γ―ブチロラクトンを採用することは当業者が容易に想到し得ることであり、本件特許発明1の光沢性が良好であるという効果は、甲1のインクでも得られるはずである。」と主張している。
しかし、上記(イ)のとおり、甲1には、本件特許発明1の上記のようなPO-43を含有するインク組成物は具体的には開示されておらず、そのようなインク組成物とする動機付けもないし、甲1のインクはいずれも本件特許発明1とは組成が異なるものであり、本件特許発明1の光沢性が良好であるという効果は、甲1のインクでも得られるはずであるとまではいえない。
なお、特許異議申立人は、訂正によって溶剤の種類と溶剤の含有量を限定したことにより生じた事項について、参考資料1~3に基づく、特許法第29条第2項の規定に関する新たな取消理由が採用されるべきであると主張するが、本件訂正は、訂正前の明細書の記載に基づいて、溶剤の種類を特定したものであるから、訂正によって、実質的に新たな内容を含む部分が生じたとはいえず、参考資料1~3に基づく取消理由は、新たな取消理由として採用されるべきものではない。
e.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(イ)本件特許発明2、4~9について
本件特許発明2、4~9は、「PO-43」及び「γ-ブチロラクトン」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件発明1と甲1発明との相違点1及び3と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2、4~9は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
イ 甲3発明を主たる引用発明とする場合
(ア)本件特許発明1
a.甲3発明との対比
甲3発明の「P(VC-VAc)を4質量部」は、P(VC-VAc)は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体であるから(摘記3d参照)、本件特許発明1の「定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含み・・・前記塩化ビニル系樹脂の含有量がインク組成物の全量に対して、0.5~5質量%である」に相当する。
甲3発明の「GBLを20質量部含む」は、GBLはγ-ブチロラクトンであるから、本件特許発明1の「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種・・・を含み、前記環状エステル化合物の含有量がインク組成物の全量に対して、2~40質量%であり」に相当する。
甲3発明の「PY213」は、本件特許発明1の「顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)」と顔料である限りにおいて一致する。
甲3発明の「DEGDEE」は、DEGDEEはジエチレングリコールジエチルエーテルであるから(摘記3d参照)、本件特許発明1の「溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み・・・R1O-(R2O)m-R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、 R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明は、「溶剤として環状エステル化合物の少なくとも1種と、顔料としてC.I.ピグメントオレンジ-43(PO-43)と、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂と、溶剤として下記一般式(2)で表される化合物の1種以上を含み、
前記環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して、2~40質量%であり、
前記塩化ビニル系樹脂の含有量が前記インクジェットインク組成物の全量に対して、0.5~5質量%であり、
前記環状エステル化合物が、γ-ブチロラクトンである、非水系インクジェットインク組成物。
R1O-(R2O)m-R3 ・・・(2)
[一般式(2)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2又は3のアルキレン基を表し、mは、2~6の整数を表す。ただし、R1及びR3の少なくとも何れかは炭素数1以上5以下のアルキル基である。]」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
顔料が、本件特許発明1ではC.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)であるのに対し、甲3発明ではPY213である点。
<相違点5>
インク組成物が、本件特許発明1では非水系インクジェットインク組成物であるのに対し、甲3発明ではそのような特定がない点。
<相違点6>
溶剤について、本件特許発明1は「一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、65.5質量%以上95質量%以下であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有し」と特定されているのに対し、甲3発明では、一般式(2)で表される化合物の合計含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、50質量%であり、
前記一般式(2)で表される化合物として、R1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含有していない点。
b.相違点についての検討
相違点4について検討する。
確かに、甲3にはマゼンタ、シアン、及びイエロー以外に使用される顔料として、C.I.ピグメントグリーン、C.I.ピグメントブラウンと並んで、C.I.ピグメントオレンジ43(PO-43)等が列記されてはいるものの(摘記3b参照)、単なる例示にすぎず、また、多数列挙される選択肢の一つであり、さらに、実施例として具体的に開示されている甲3発明の顔料はイエローのみであり、オレンジではないことから、甲3に、甲3発明においてPY213に代えて、PO-43を採用することまでの記載や示唆があるとはいえない。
また、確かに、甲2(摘記2a参照)、甲4(摘記4a参照)、甲5(摘記5b参照)、甲6(摘記6a参照)、甲10(摘記10a参照)に記載されるように、PO-43が周知の顔料であるといえるとしても、本件特許明細書に記載の【表1】及び【表2】の評価試験結果の記載からみて、PO-43とγ-ブチロラクトンを含む溶剤との組み合わせである組成物No.13は、この組み合わせではない組成物に比して、耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性のいずれもが良好となっており、このような作用効果は甲1~甲7、甲9、甲10に記載も示唆もない。
したがって、相違点4は実質的相違点であり、甲3に、甲3発明において、PY213に代えて、PO-43を採用することまでも開示されているということはできないし、甲1、甲2、甲4~甲7、甲9、甲10の記載を参照しても、甲3発明において、PY213に代えて、PO-43を採用すること動機付けは見いだせない。
よって、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
c.本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、顔料として、PO-43を採用し、一般式(2)においてR1及びR3の何れかが水素であるグリコールモノエーテルを含む上記特定の有機溶剤を用いることによって耐候性、吐出安定性、光沢性、凝集ムラ、耐擦性及び発色性が良好となるという、甲3発明からは予測し得ない、格別顕著な作用効果を奏するものであり、そのような作用効果は、本件明細書に記載された実施例において確認されていると認められる。
d.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書においてPY213に代えて、PO-43を採用すること当業者が容易に想到し得ることである」と主張し、令和2年10月29日提出の意見書において「本件特許発明1の光沢性が良好であるという効果は、甲3のインクでも得られるはずである。」と主張している。
しかし、上記(イ)のとおり、甲3には、本件特許発明1の上記のようなPO-43を含有するインク組成物は具体的には開示されておらず、そのようなインク組成物とする動機付けもないし、甲3のインクはいずれも本件特許発明1とは組成が異なるものであり、本件特許発明1の発色性、凝集ムラ、耐擦性、光沢性等が良好であるという効果は、甲3のインクでも得られるはずであるとまではいえない。
e.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、上記相違点5及び6について検討するまでもなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(イ)本件特許発明2、4~9について
本件特許発明2、4~9は、「PO-43」という点を発明特定事項に備えているところ、本件発明1と甲3発明と実質的に同等の相違点を有するものであるから、本件特許発明2、4~9は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
5 理由2(サポート要件)について
本件特許発明の課題は、段落【0008】の記載からみて、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供し、また、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物を提供し、また上記特性の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供することにあると認める。
ここで、本件特許発明1、2、4~9は、溶剤としてγ―ブチロラクトン及び一般式(2)で表される化合物を含むものを包含する。
そして、発明の詳細な説明の実施例等を参酌すると、溶剤としてγ―ブチロラクトン及び一般式(2)で表される化合物を含むものが、暖色系の色再現領域が広く、かつ耐候性の優れた画像を形成できるインクジェットインク組成物を提供し、また、さらに、耐擦性と発色性が優れたインクジェットインク組成物を提供し、また上記特性の優れたインクセット、インクジェット記録方法を提供できることは、記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明1、2、4~9が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえる。
したがって、本件特許発明1、2、4~9は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲にあると認められる。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由
(1)特許法第29条第1項第3号
本件特許発明1~9は甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明である。
(2)特許法第36条第6項第1号
本件特許発明1では、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むこと、及びその含有量が0.5~5質量%であることは特定されているものの、他の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっているから、本件特許発明1の範囲まで本件特許発明の範囲を拡張ないし一般化することはできない。
したがって、本件特許発明1~9は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
(3)特許法第36条第4項第1号
本件特許発明1では、環状エステル化合物の少なくとも1種を含むこと、環状エステル化合物の含有量がインクジェットインク組成物の全量に対して2~40質量%含むことが特定されているものの、他の溶剤については含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっており、また、本件特許発明1では、各溶剤の配合比率は何ら特定されておらず、さらに、本件特許発明1では、定着樹脂として塩化ビニル系樹脂を含むこと、及びその含有量が0.5~5質量%であることは特定されているものの、他の樹脂を含んでもよいし、含まなくてもよいといういわゆるオープンクレームとなっているから、発明の詳細な説明の記載は当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
(1) 特許法第29条第1項第3号
上記第4、4(1)イで対比検討したとおり、本件特許発明1~9と甲3発明には相違点4があり、相違点4は実質的な相違点であるから、本件特許発明1~9は甲3に記載された発明とすることはできない。
(2)特許法第36条第6項第1号
本件特許明細書の段落【0059】に塩化ビニル系樹脂以外の定着樹脂について列記されており、段落【0075】に定着樹脂の含有量についても記載されていることから、本件特許発明1の範囲まで本件特許発明の範囲を拡張ないし一般化することはできないとすることはできない。
(3)特許法第36条第4項第1号について
本件特許発明1は溶剤としてγ―ブチロラクトン及び一般式(2)で表される化合物を含むインク組成物であり、本件特許明細書の実施例(特に組成物No.13)の記載からみて、そのようなインク組成物を製造し使用することができることは明らかである。
また、本件特許明細書の段落【0059】に塩化ビニル系樹脂以外の定着樹脂について列記されており、段落【0075】に定着樹脂の含有量についても記載されていることから、そのようなインク組成物を製造し使用することができることは明らかである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、令和2年7月14日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
訂正前の請求項3は本件訂正により削除されたため、請求項3についての特許異議の申立ては、不適法なものであり、その補正をすることができないから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700335