特許異議申立
2020-700203
セメント組成物
- 審判番号
- 2020-700203
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-037040
- 登録番号
- 特許第6579977号(P6579977)
- 請求日
- 2020年03月24日
- 審決日
- 2020年06月16日
- 公報発行日
- 2020年08月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社デイ・シイ
- 【権利者代理人】中井 潤
- 【権利者】太平洋セメント株式会社
- 【異議申立人】浜 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 川村 裕二
- 分類
- P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6579977号発明「セメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6579977号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6579977号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年2月29日に特許出願され、令和1年9月6日にその特許権の設定登録がされ、令和1年9月25日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~5に係る特許に対して、令和2年3月24日に特許異議申立人浜俊彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5の特許に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ボーグ式により求めたC3S量が60~71%かつC2S量が1%以上かつC3SとC2Sとの合量が70~80%で、C3S/C2S量比が少なくとも5以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0~4.0重量%のエーライト高含有クリンカに石膏を添加してなるセメントに、石灰石微粉末を内割で2~10重量%添加したことを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたC2S量が1~15%のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、C3S/C2S量比が5~55のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記エーライト高含有クリンカにおいて、ボーグ式により求めたC3A量が8~12%かつC4AF量が7~10%かつC3AとC4AFの合量が18~19%で、C3A/C4AF量比が0.9~1.5のクリンカ鉱物組成を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載するセメント組成物。
【請求項5】
前記請求項1~4のいずれか一項に記載のセメント組成物であって、該セメント組成物は、前記セメントと前記石灰石微粉末の二つの原材料のみからなることを特徴とするセメント組成物。」
3 申立理由の概要
申立人は、以下の甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件特許発明1~5は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである旨を主張する。
(証拠方法)
甲第1号証 K. De Weerdt et al., Hydration mechanisms of ternary Portland cements containing limestone powder and fly ash, Cement and Concrete Research, 2011, Vol.41, p.279-291
甲第2号証 特開2012-91992号公報
4 甲号証の記載事項及び甲1発明について
(1)甲第1号証の記載事項
ア 「The effect of minor additions of limestone powder on the properties of fly ash blended cements was investigated in this study using isothermal calorimetry, thermogravimetry (TGA), X-ray diffraction (XRD), scanning electron microscopy (SEM) techniques, and pore solution analysis. The presence of limestone powder led to the formation of hemi- and monocarbonate and to a stabilisation of ettringite compared to the limestone-free cements, where a part of the ettringite converted to monosulphate. Thus, the presence of 5% of limestone led to an increase of the volume of the hydrates, as visible in the increase in chemical shrinkage, and an increase in compressive strength. This effect was amplified for the fly ash/limestone blended cements due to the additional alumina provided by the fly ash reaction.」(第279頁ABSTRACT)
(当審仮訳:この研究では、等温熱量測定、熱重量分析(TGA)、X線回折(XRD)、走査型電子顕微鏡(SEM)技術や、細孔溶液分析を使用して、フライアッシュ混合セメントに石灰石微粉末を少量添加した効果を調査した。石灰石微粉末のセメントへの添加は、無添加のセメントと比較して、ヘミ及びモノカーボネートの形成を促し、一部のエトリンガイトがモノサルフェートに変わることによりエトリンガイトを安定化させる。よって、5%の石灰石微粉末の存在は、水和量の増大をもたらし、化学収縮の増大と圧縮強度の増大となる。この効果は、フライアッシュ/石灰石微粉末を混合したセメントにおいては、フライアッシュ反応によって生じたアルミナにより増幅される。)
イ 「The aim of this paper is to find out how exactly minor additions of limestone powder affect the hydration of OPC and blended fly ash cement. In order to investigate the effect quantitatively, a multi-method approach was adopted on the four following mixes: 100% OPC, 95% OPC+5% limestone, 65% OPC+35% fly ash and 65% OPC+30% fly ash+5% limestone.」(第280頁左欄第21~26行)
(当審仮訳:本研究は、石灰石微粉末の少量添加が、OPC及びフライアッシュ混合セメントの水和にどの様な影響を及ぼすか明らかにすることを目的とする。効果を定量的に調査するために、次の4つの混合物(100%OPC、95%OPC+5%石灰石、65%OPC+35%フライアッシュ、65%OPC+35%フライアッシュ+5%石灰石)で、マルチメソッドアプローチを採用した。)
ウ 「The materials used in this study are: ordinary Portland clinker, class F siliceous fly ash (FA), limestone powder (L), natural gypsum and crystalline quartz (Q). The chemical composition determined by XRF and the physical properties of the clinker, fly ash, limestone and quartz are given in Table 1. The clinker was interground with 3.7% of natural gypsum and is further referred to as ordinary Portland cement (OPC).・・・The mineral composition of the OPC and the fly ash determined by Rietveld analysis are given in Tables 2 and 3.・・・
The experimental matrix is given in Table 4.」(第280頁左欄第28~42行)
(当審仮訳:本研究で使用された材料は、通常のポルトランドクリンカ、クラスF珪質フライアッシュ(FA)、石灰石微粉末(L)、天然石膏、結晶石英(Q)である。クリンカ、フライアッシュ、石灰石、石英のWRFで決定した化学組成と物理的特性をTable 1に示す。クリンカは、3.7%の天然石膏と粉砕され、通常のポルトランドセメント(OPC)とも呼ばれる。・・・OPCとフライアッシュの鉱物組成をリートベルト解析で測定すると、Table 2及び3のようになる。・・・ 実験マトリックスをTable 4に示す。)
エ 「
」
(第280頁左欄)
オ 「
」
(第281頁左欄)
カ 「Five percent of limestone powder can have a beneficial effect on the compressive strength of OPC [13].」(第289頁右欄下から2行~末行)
(当審仮訳:石灰石微粉末の5%添加は、OPCの圧縮強度に有益な影響を及ぼす[13]。)
(2)甲第2号証の記載事項
ア 「【0041】
ボーグ式は従来からセメントクリンカ中の主鉱物組成を算定するのに用いられている式であり、各鉱物の割合は化学組成の分析結果から算定される。得られた割合は、あくまで化学組成の分析結果に基づく算定値であるからして、セメントクリンカ中の実際の割合と合致するものではない。なお、%は質量%である。
【0042】
[ボーグ式]
C3S(%)=(4.07×CaO%)-(7.60×SiO2%)-(6.7×Al2O3%)-(1.43×Fe2O3%)-(2.85×SO3%)
C2S(%)=(2.8×SiO2%)-(0.754×C3S%)
C3A(%)=(2.65×Al2O3%)-(1.69×Fe2O3%)
C4AF(%)=3.04×Fe2O3%」
イ 「【0092】
(3)クリンカ焼成
上記配合で原料調合した各試料は、粒径30mm程度の大きさにペレット化し、このペレットを電気炉に入れて10℃/minで1450℃まで温度上昇させ、1450℃で3時間保持して焼成した。得られた試製クリンカは、電気炉から取り出した後室内に放置し急冷し、その後、250rpmボールミルで75μm篩が全通となるように粉砕した。
【0093】
各粉砕品につき、化学成分分析、ブレーン測定を行い、比率係数、ボーグ式による鉱物組成、遊離石灰量を求めた。各試製クリンカの化学分析結果を表3に、比率係数、ボーグ式による鉱物組成、遊離石灰量を表4に示す。なお、表中の%は重量%である。
・・・
【0095】
【表4】
・・・
【0097】
・・・試製1の早強セメント相当品は比較品であり、試製2~8の高活性セメントは本発明の実施品である。」
(3)甲1発明について
甲第1号証には、上記(1)イ~オによれば、実験マトリックスとして、ポルトランドセメント(OPC)95wt%と石灰石微粉末5wt%のセメント混合物が記載され、さらに、前記ポルトランドセメントは、ポルトランドクリンカと石膏を混合粉砕したものであることや、前記ポルトランドクリンカは、Table 1に記載された化学組成を有していることが記載されている。
また、甲第1号証には、上記(1)ウによれば、鉱物組成が記載されているが、当該鉱物組成はリートベルト解析で測定された値であるので、ボーグ式(例えば、上記(2)ア参照)によって求めた鉱物組成を、Table 1に記載された化学組成から算出すると、次のとおりになる。
C3S量=(4.07×60.6wt%)-(7.60×20.0wt%)
-(6.7×5.4wt%)-(1.43×3.1wt%)
-(2.85×1.5wt%)
=49.8wt%
C2S量=(2.8×20.0wt%)-(0.754×49.8wt%)
=18.5wt%
C3A量=(2.65×5.4%)-(1.69×3.1wt%)
=9.1wt%
C4AF量=3.04×3.1wt%
=9.4wt%
したがって、これら記載を総合的に勘案すると、甲第1号証には、
「ボーグ式により求めたC3S量が49.8wt%、C2S量が18.5wt%、C3A量が9.1wt%、C4AF量が9.4wt%の鉱物組成を有し、遊離石灰が1.85wt%含有するポルトランドクリンカに石膏を混合したポルトランドセメントに、当該ポルトランドセメント95wt%に対して石灰石微粉末5wt%を混合した、セメント混合物。」
の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比
甲1発明の「ポルトランドクリンカ」、「鉱物組成」、「ポルトランドセメント」、「セメント混合物」は、それぞれ、本件特許発明1の「クリンカ」、「クリンカ鉱物組成」、「セメント」、「セメント組成物」に相当する。
また、甲1発明の「C2S量が18.5wt%」、「遊離石灰が1.85wt%含有する」、「ポルトランドセメント95wt%に対して石灰石微粉末5wt%を混合した」ことは、それぞれ、本件特許発明1の「C2S量が1%以上」、「遊離石灰量が1.0~4.0重量%」、「石灰石微粉末を内割で2~10重量%添加した」ことに相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「ボーグ式により求めたC2S量が1%以上のクリンカ鉱物組成を有し、遊離石灰量が1.0~4.0重量%のクリンカに石膏を添加してなるセメントに、石灰石微粉末を内割で2~10重量%添加したセメント組成物」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1のクリンカ鉱物組成は、「C3S量が60~71%」、「C3SとC2Sとの合量が70~80%」及び「C3S/C2S量比が少なくとも5以上」であるのに対して、甲1発明のクリンカ鉱物組成は、「C3S量が49.8wt%」であり、当該C3S量とC2S量(18.5wt%)から算出されるC3SとC2Sの合量が68.3wt%(=49.8wt%+18.5wt%)、C3S/C2S量比が2.7(=49.8wt%/18.5wt%)となる点。
(相違点2)
本件特許発明1のクリンカは、「エーライト高含有クリンカ」であるのに対して、甲1発明のクリンカは、C3S量が49.8wt%であり、「エーライト高含有クリンカ」であることが明らかでない点。
イ 相違点1及び2の検討
甲第2号証には、上記4(2)イによれば、ボーグ式により求めたC3S量が69.0%、C2S量8.2%、C3A量9.4%、C4AF量が9.3%の鉱物組成を有し、遊離石灰量が2.7%である、早強セメント相当品の試製1のクリンカが記載されており、当該クリンカは、C3SとC2Sとの合量が77.2%(=69.0%+8.2%)、C3S/C2S量比が8.4(=69.0%/8.2%)になり、本件特許発明1のエーライト高含有クリンカの鉱物組成及び遊離石灰量を満足するから、甲第2号証には、本件特許発明1のエーライト高含有クリンカに相当するものが記載されているといえる。
しかしながら、甲1発明は、上記4(1)ア及びイによれば、ポルトランドセメントに石灰石微粉末を添加したときの影響を明らかにすることを目的になされたものであって、ポルトランドクリンカの鉱物組成の調整を目的とするものでなく、当該鉱物組成を変更する動機付けはないから、甲1発明のポルトランドクリンカを、鉱物組成が異なる甲第2号証に記載されたクリンカに変更することは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
加えて、本件特許発明1は、本願特許明細書の段落【0017】、【0033】、【0075】~【0086】の記載によれば、クリンカの鉱物組成と遊離石灰量を特定すると共に、石灰石微粉末の添加量を特定することによって、初期強度発現性及び強度増進性が良く、材齢28日での強度も確保できるとの顕著な効果を奏するところ、仮に、甲1発明のポルトランドクリンカを、甲第2号証に記載されたクリンカに変更した場合、その結果として、本件特許発明1の上記効果が得られることまで、当業者が予測し得たとは到底認められない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、セメントの強度を増大させることはセメント分野において普遍的な課題であって、甲1発明を出発点として、その強度を増大させるために、甲第2号証に記載されたような早強セメントのクリンカを採用して、本件特許発明1をなすことは、当業者が容易になし得たことである旨を主張している(特許異議申立書第11頁第17行~第13頁第1行)。
しかしながら、本件特許発明1が解決しようとする課題は、「初期強度発現性および強度増進性が良く材齢28日での強度も十分に確保できるセメント(セメント組成物)を提供する」(段落【0016】)ことであって、甲1発明のポルトランドクリンカとして、甲第2号証に記載された早強セメントのクリンカを採用しても、早強セメントクリンカによる早期強度発現性の向上は予測できても、強度増進性や28日強度の向上を予測できないから、申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、本件特許発明1を引用するものであって、本件特許発明1の特定事項をさらに減縮したものであるから、上記(1)に示した理由と同様の理由により、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700203