特許異議申立
2020-700168
冷凍用のケーキ生地
- 審判番号
- 2020-700168
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-242372外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年03月11日
- 審決日
- 2020年05月25日
- 公報発行日
- 2020年07月31日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.113-Y (A21D) / P1651.121-Y (A21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6573449号発明「冷凍用のケーキ生地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6573449号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1 手続の経緯
特許第6573449号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成26年11月28日に出願され、令和1年8月23日にその特許権についての設定登録がされ、令和1年9月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和2年3月10日に特許異議申立人 古山陽子 は特許異議の申立てを行った。
2 本件特許発明
特許第6573449号の請求項1~4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
澱粉質原料と、
該澱粉質原料100質量部に対し、0.1~5質量部の膨張剤と、
を含有し、冷凍前の比重が0.7~1、冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値が40~170mmである、冷凍起泡ケーキ生地(無脂肪ペストリーバッターを除く)。
【請求項2】
冷凍前のBrix値が30~50%である、請求項1に記載の冷凍起泡ケーキ生地(無脂肪ペストリーバッターを除く)。
【請求項3】
前記澱粉質原料100質量部に対し、10~55質量部の砂糖を含有する、請求項1又は2に記載の冷凍起泡ケーキ(無脂肪ペストリーバッターを除く)。
【請求項4】
解凍されてから加熱に供される、請求項1から3のいずれか一項に記載の冷凍起泡ケーキ生地(無脂肪ペストリーバッターを除く)。」
(以下、請求項1~4に係る発明を、請求項順にそれぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、…、「本件特許発明4」ともいう。)
3 申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の甲第1号証~甲第3号証を提出し、
理由ア:
請求項1及び請求項4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。
理由イ:
請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
と主張する。
甲第1号証:「NHKテレビテキスト きょうの料理」2013年4月号,第120~121頁(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:猪飼弘子 他4名,“形状の異なる計量スプーンを用いた場合の調味料の重量比較”,名古屋文理大学紀要,第5号(2005),87~97頁(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:高木節子・加田静子編「最新調理-基礎と応用-」2005年9月25日,株式会社朝倉書店,第4頁、表紙及び奥付頁(以下、「甲3」という。)
4 文献の記載
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。
記載(1-1)
「
」(第120頁)
記載(1-2)
「
」(第121頁)
記載(1-3)
「
」(第121頁)
記載(1-4)
「
」(第121頁)
ここで、記載(1-2)に記載される生地材料は、記載(1-3)及び記載(1-4)に示される手順3~6により生地とされるものであって、その生地は、記載(1-4)に示される手順7~8により焼成されて記載(1-1)に示される「パンケーキ」にされるものと認められる。また、記載(1-2)には生地をラップで包み、ポリ袋に入れて冷凍することも記載されている。
したがって、甲1には、
「以下の手順3~手順6によって得られるパンケーキ用生地を、ラップに包み、ポリ袋に入れてから冷凍して得られる冷凍パンケーキ用生地。
手順3前半:
薄力粉100g、強力粉100g、ベーキングパウダー小さじ2、重曹小さじ1/2または不使用、を合わせてボウルにふるい入れる。
手順3後半:
バター20gを耐熱容器に入れ、電子レンジ600Wに20~30秒間かけて溶かす。
手順4:
卵1コを別のボウルに割り入れて泡立て器でほぐし、きび糖または砂糖大さじ11/2、塩小さじ1/4、牛乳カップ1、プレーンヨーグルト(無糖)カップ3/4を加えて泡立てないようによく混ぜる。
手順5:
手順3前半で得られた粉類に手順4で得られたものを加え、泡立て器で少し粉っぽさが残る程度に混ぜる。
手順6:
手順5で得られたものに、手順3後半で得られた溶かしバターを加えて、4~5回混ぜる。」の発明(以下、「甲1発明」ともいう。)が記載されていると認められる。
(2)甲2の記載
甲2には以下の記載がある。
「
」(96頁表7)
(3)甲3の記載
甲3には以下の記載がある。
「
」(4頁表1.2)
5 当審の判断
(1)申立理由アについて
ア 本件特許発明1について
(ア)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(i)原料及び重量比
甲1発明における「薄力粉」及び「強力粉」はいずれも、本件特許明細書の段落0014(本件特許公報3頁44行~4頁4行)において澱粉質原料である小麦粉の例とされるものであるから、本件特許発明1における「澱粉質原料」に該当する。
また、甲1発明における「ベーキングパウダー」は、本件特許明細書の段落0015(本件特許公報4頁5~14行)において膨張剤の例とされるものであるから、本件特許発明1における「膨張剤」に該当する。
また、甲1発明における「重曹」は、本件特許明細書の段落0015(本件特許公報4頁5~14行)において膨張剤の例とされる炭酸水素ナトリウムの別称であるから、本件特許発明1における「膨張剤」に該当する。
そして、「ベーキングパウダー小さじ2」は、ベーキングパウダー5.52~8gに相当するものであると技術常識から認められ(記載(2-1)及び記載(3-1)を参照)、「重曹小さじ1/2」は、重曹1.555~2.11gに相当するものであると技術常識から認められる(記載(2-1)を参照)から、甲1発明における「薄力粉100g」及び「強力粉100g」の合計量に対する「ベーキングパウダー小さじ2」及び「重曹小さじ1/2または不使用」の合計量の質量比は、100質量部に対し2.26~5.055質量部と算出され、本件特許発明1における澱粉質原料に対する膨張剤の質量比と重複する。
(ii)起泡の有無
甲1には、手順3前半及び手順3後半について起泡に関する記載はなく、手順4については「泡立てないようによく混ぜる。」ことが明記されていることから起泡がなされているとは認められず、手順5については「泡立て器」が記載されるものの「少し粉っぽさが残る程度に混ぜる。」とされていることから起泡がなされているとは認められず、手順6については「4~5回混ぜる。」と記載されていることから起泡がなされているとは認められないことから、甲1発明は冷凍前に起泡させていないものであると認められる。
一方、本件特許発明1は「……冷凍起泡ケーキ生地(…)。」とされている(下線は当審による)。本件特許明細書の段落0020(本件特許公報4頁32~40行)に「本発明のケーキ生地は、比重が、0.7~1、好ましくは0.7以上1未満、より好ましくは0.8~0.95になるように起泡させる。」との記載があることからも、本件特許発明1における「冷凍起泡ケーキ生地」が冷凍前に起泡させたものであることは明らかである。
(iii)一致点及び相違点
以上(i)及び(ii)より、本件特許発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「澱粉質原料と、
該澱粉質原料100質量部に対し、0.1~5質量部の膨張剤と、
を含有する、冷凍ケーキ生地(無脂肪ペストリーバッターを除く)。」である点で一致し、
(相違点1)
本件特許発明1は、冷凍前に起泡されており、冷凍前の比重が0.7~1、冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値が40~170mmである一方、甲1発明は、冷凍前に起泡させていないものであって、冷凍前の比重及び冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値が不明である点で相違する。
(イ)相違点についての判断
冷凍前の比重に関して、本件特許明細書の段落0020(本件特許公報4頁32~40行)に「 本発明のケーキ生地は、比重が、0.7~1、好ましくは0.7以上1未満、より好ましくは0.8~0.95になるように起泡させる。」と記載されている。
また、冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値に関して、同段落0021(本件特許公報4頁41~50行)には「本発明のケーキ生地は、ボストウィック粘度計による粘度測定値が、40~170mm、好ましくは50~110mm、より好ましくは50~100mmになるように、材料の配合量や泡立ての程度を調整する。」と記載されている。
これらの記載から、本件特許発明1における冷凍前の比重及び冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値は、冷凍前の生地を積極的に起泡させつつ泡立ての程度を調整することで達成されるものであって、冷凍前に起泡させていない甲1発明において達成されているとは認められない。
したがって、上記相違点は実質的な相違点であるので、本件特許発明1は甲1発明ではない。
特許異議申立人は、甲1に記載の当該生地(任意成分を含まない)を調製後、冷凍前に測定した比重は0.98であり、ボストウィック粘度計による粘度測定値は115mmであったと述べて(特許異議申立書5頁17~27行)、本件特許発明1における「冷凍前の比重」及び「ボストウィック粘度計による粘度測定値」は甲1発明の生地の物性値を測定して確認しただけのものであって甲1に記載されているに等しい事項である旨を主張する。
しかし、生地の比重・粘度は、材料のみならず調製時の起泡、泡立ての程度によっても異なることは常識といえるにもかかわらず、特許異議申立人は調製時の起泡、泡立ての程度をどのようにしたかについて何ら述べていない。
しかも、甲1には冷凍前に生地を起泡させることを示す記載はないところ、上記のとおり、本件特許発明1における冷凍前の比重及び冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値は、冷凍前の生地を積極的に起泡させつつ泡立ての程度を調整することで達成されるものであって、冷凍前に起泡させていない甲1発明において達成されているとは認められないから、特許異議申立人の主張には理由がない。
イ 本件特許発明4について
上記のとおり、本件特許発明1が甲1発明ではない以上、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含む本件特許発明4もまた、甲1発明ではない。
ウ 小括
以上ア及びイに示したとおり、本件特許発明1及び本件特許発明4は、甲1発明ではない。
(2)理由イについて
ア 本件特許発明1について
当業者が、甲1発明に対し、冷凍前に起泡して、冷凍前の比重が0.7~1、冷凍前のボストウィック粘度計による粘度測定値が40~170mmであるようにする動機付けを見いだすことはできない。
そして、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載されるとおり、生地の比重が本件特許発明の範囲になるように起泡させることで、空気が多く取り込まれることにより、水分とベーキングパウダーとの接触が減って反応進行が抑制され(貯蔵安定性向上)、また、焼成後にふんわりとした外観及び食感を備えるものとなる(本件特許明細書の段落0020(本件特許公報4頁32~40行)及び同段落0011(本件特許公報3頁6~26行))とともに、生地の粘度が本件特許発明の範囲になるように材料の配合量や泡立ての程度を調整することにより、焼成時に適度に流れて広がり、形状および食感のよいケーキを形作ることができる(本件特許明細書の段落0021(本件特許公報4頁41~50行)及び同段落0011(本件特許公報3頁6~26行))という効果を奏するものであると認められ、この効果は、甲1~甲3の記載及び当業界の技術常識を参酌しても、当業者の予想し得ない顕著な効果である。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1~甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
特許異議申立人は、本件特許発明1の「冷凍および、冷蔵保存時の、貯蔵安定性に優れ、解凍して焼成するだけで、簡便に品質の良いケーキを製造できる、冷凍ケーキ生地を提供」することは、冷凍生地に係る発明において古くから内在する周知の課題である旨を主張するが、たとえ本件特許発明1の課題が周知であるとしても、その課題に対し、冷凍前の生地の起泡の有無並びに冷凍前の生地の比重及び粘度が関与することは、甲1~甲3に示されておらず、当業界の技術常識であったとも認められないので、甲1発明に対して、冷凍前の生地の起泡の有無並びに冷凍前の生地の比重及び粘度に着目して、冷凍前の生地を起泡されたものとするとともに比重及び粘度を本件特許発明1で規定する範囲にして、本件特許発明1とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。また、冷凍前の生地を起泡されたものとするとともに比重及び粘度を本件特許発明1で規定する範囲にしたことによる効果が当業者の予想し得ない顕著な効果であることは上述のとおりである。
したがって、特許異議申立人の主張には理由がない。
イ 本件特許発明2~4について
上記のとおり、本件特許発明1が、甲1発明並びに甲1~甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含む本件特許発明2~4もまた、甲1発明並びに甲1~甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 小括
以上ア及びイに示したとおり、本件特許発明1~4は、甲1発明並びに甲1~甲3の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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