特許訂正審判
2020-390031
ピリピロペン化合物の製造方法
- 審判番号
- 2020-390031
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2015-552098外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年04月20日
- 審決日
- 2020年08月21日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
- 【請求人代理人】特許業務法人平木国際特許事務所
- 分類
- P141 .852-Y (C07D) / P141 .853-Y (C07D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6328661号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第6328661号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6328661号(以下「本件特許」という。)は、2014年1月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年1月16日 米国(US)、 2013年1月16日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特願2015-552098号の請求項1~11に係る発明について、平成30年4月27日に特許権の設定登録がなされたものである。
そして、令和2年4月20日に本件訂正審判の請求がなされ、令和2年5月25日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年6月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
第2 令和2年6月25日付け手続補正書による訂正審判の審判請求書の補正及びその適否
1 訂正審判の審判請求書の補正
令和2年6月25日付け手続補正書の補正の内容のうち、訂正の要旨に関する補正は、令和2年4月20日付け審判請求書の訂正事項のうち、訂正事項2、3の一部、4、5及び6を削除し、補正前の訂正事項1、3の一部及び7をそれぞれ補正後の訂正事項1、2及び3とする補正である。
2 補正の適否
審判請求書においては、訂正事項として訂正事項1~7を請求していたところ、上記審判請求書の補正は、令和2年5月25日付け訂正拒絶理由に対応して、当該訂正事項のうちの一部の訂正事項である訂正事項2、3の一部、4、5及び6を削除する補正であるから、当該補正は、審判請求書の要旨を変更するものではなく、当該補正を認める(訂正事項の番号を修正している点は、軽微な補正であるとして認める。)。
そして、当該補正により、上記訂正拒絶理由は解消している。
第3 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第6328661号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
そして、上記第2のとおり、審判請求書の補正は認められたので、その訂正の内容は、令和2年6月25日付けの手続補正により補正された訂正事項1~3からなるものである。
[訂正事項1]特許請求の範囲の請求項1において、訂正前の「該母液またはその画分を含むピリピロペン化合物を」との記載を、「該母液またはピリピロペン化合物を含むその画分を」との記載に訂正する。
[訂正事項2]特許請求の範囲の請求項8において、訂正前の「母液またはその画分を含むピリピロペン化合物」との記載を、「母液またはピリピロペン化合物を含むその画分」との記載に訂正する。
[訂正事項3]明細書の段落【0009】、【0011】、【0012】において、訂正前の「その画分を含むピリピロペン化合物」との記載を、「ピリピロペン化合物を含むその画分」との記載に訂正し、明細書の段落【0013】において、訂正前の「画分を含むピリピロペン化合物」との記載を、「ピリピロペン化合物を含むその画分」に訂正する。
第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
審判請求人は、訂正事項1について、令和2年6月25日付けの手続補正により補正された6.請求の理由の(3)ア(ア)aにおいて、訂正事項1は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とする訂正である旨主張しているので、以下検討する。
ア 誤記の訂正について
(ア)「誤記の訂正」を目的とした訂正が認められる前提
訂正が、誤記の訂正を目的としたものとして認められるには、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。
(イ)判断
そこで、上記のことを前提として、訂正事項1について検討する。
訂正前の本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」という。)。
「【請求項1】
式I:
【化1】(当審注:式Iは省略)
で表されるピリピロペン化合物の製造方法であって、以下のステップ:
i)式IIで表されるピリピロペン化合物をアルカリ加水分解に供し、式IIIで表されるピリピロペン化合物を得るステップ、
【化2】(当審注:式II及び式IIIは省略)
ii)ステップi)で得られた式IIIのピリピロペン化合物をシクロプロパンカルボニルクロリドと反応させて、式Iのピリピロペン化合物を含む原産物を得るステップ;
iii)ステップii)の原産物を結晶化に供し、結晶性の式Iのピリピロペン化合物および母液を得るステップ;ならびに
iv)該母液またはその画分を含むピリピロペン化合物を、ステップi)のアルカリ加水分解に再利用するステップを含む、前記方法。」(当審注:下線は当審が付した。以下同様。)
ここで、本件特許発明1は、上記記載から、式IIIで表されるピリピロペン化合物が4箇所の水酸基を有する化合物であり、ステップi)やステップii)の反応が完全に進行しなかった場合等には、目的とする式Iで表されるピリピロペン化合物に加えて、エステル基の種類やエステル化された箇所が異なる様々なピリピロペン化合物が副生成物として原産物中に存在しうるところ、ステップiii)において、式Iで表されるピリピロペン化合物を結晶として得ると同時に、それ以外の部分を母液として得て、ステップiv)において「該母液またはその画分を含むピリピロペン化合物を」ステップi)に再利用するものであると解される。
そして、母液の「画分」とは母液の一部を意味する用語であるから、技術的に考えて、ステップiii)で得られる母液の中にピリピロペン化合物が含まれていることは明らかであり、その母液の一部である画分の中にピリピロペン化合物が含まれていることも明らかであって、ピリピロペン化合物が画分を含むということはあり得ない。
したがって、「該母液またはその画分を含むピリピロペン化合物を」なる記載は、それ自体で技術的な誤りを有していることが明らかであるといえる。
次に、特許がされた明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるかを検討する。
「その画分を含むピリピロペン化合物を、ステップi)のアルカリ加水分解に再利用する」との特許請求の範囲の直後の記載から正しい記載は、「ピリピロペン化合物を含むその画分を」「ステップi)のアルカリ加水分解に再利用する」との意味であることは、技術常識からみて自明であるといえる。
さらに、念のため、特許がされた明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載についても検討する。
本件特許明細書には以下の記載がある。
(1a)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、優れた収率さらにまた高純度を有する式Iの化合物を与える製造方法を提供することである。さらに、この方法は、反応時間の低減を可能とするものでなければならず、また工業規模で実施可能でなければならない。
【0008】
驚くべきことに、これらの目的およびさらなる目的は、本明細書中以降に記載される方法によって解決されることが見出された。特に、式IIIの化合物とシクロプロパンカルボニルクロリドとのアシル化反応から得られた原産物の結晶化の母液は大量のピリピロペン化合物を含み、これを鹸化して式IIIの化合物が得られることが見出された。従って、母液に含まれるピリピロペン化合物の画分は、この画分を式IIの化合物の鹸化に再利用し、それにより得られた混合物をその後のシクロプロパンカルボニルクロリドとのアシル化反応において使用することによって、式IIの化合物に加えて、式Iの化合物の製造のためのさらなる出発物質として使用することができる。驚くべきことに、母液に含まれるピリピロペン化合物の画分の再利用は、得られる式Iのピリピロペン化合物の純度および収率に関して有害ではない。むしろ、上記の再利用は、式IIIの化合物のアシル化反応においてより高い濃度およびより短い反応時間を可能とする。さらに、上記の再利用は、アシル化反応に由来する副生成物が回収されるに従って収率損失を低減する。」
(1b)「【0012】
母液またはその画分を含むピリピロペン化合物の、ステップi)の鹸化への再利用は、母液またはその画分を含むピリピロペン化合物を新たな式IIの化合物と合わせて、それにより得られた混合物を鹸化条件に供することによって達成することができる。母液の再利用またはその画分を含むピリピロペン化合物の再利用は、最初に、母液に含まれるピリピロペン化合物を鹸化/加水分解反応に供し、母液に含まれるピリピロペン化合物中に存在するエステル基の少なくとも部分的な加水分解を達成し、それにより得られた混合物に式IIの新たな化合物を加えて、鹸化/加水分解を続けて式IIIの化合物を得ることによって好ましく達成される。当然のことながら、最初に、式IIの新たな化合物を鹸化/加水分解反応に供し、そこに存在するエステル基の少なくとも部分的な加水分解を達成し、それにより得られた混合物に母液に含まれるピリピロペン化合物を加えて、鹸化/加水分解を続けて式IIIの化合物を得ることも可能である。」
(1c)「【0014】
母液に含まれるピリピロペン化合物は、通常、少なくとも1個、特に1、2または3個の基Ra、Rb、RcおよびRdがシクロプロピルカルボニルであるが、他の基Ra、Rb、RcおよびRdが水素である、少なくとも1種の式IVの化合物を含む。特に、母液に含まれるピリピロペン化合物は、2種以上の、以下から選択される式IVの化合物を含む:
a) 式IVaの1,7,11-トリ-O-シクロプロピルカルボニル化合物、すなわち、Ra=Hであり、且つRb=Rc=Rd=シクロプロピルカルボニルである式IVの化合物;
b) 式IVbの1-、7-および11-モノ-O-シクロプロピルカルボニル化合物、すなわちRa=Hであり、且つRb、RcおよびRdの1個はシクロプロピルカルボニルであるが、Rb、RcおよびRdの他の2個は水素である式IVの化合物;
c) 式IVcの1,7-、1,11-および7,11-ジ-O-シクロプロピルカルボニル化合物、すなわち、Ra=Hであり、且つRb、RcおよびRdの2個はシクロプロピルカルボニルであるが、Rb、RcおよびRdの他の1個は水素である式IVの化合物。
【0015】
母液に含まれるピリピロペン化合物は、多くの場合、少なくとも式IIの化合物と、少なくとも1個、特に1、2または3個の基Ra、Rb、RcおよびRdはシクロプロピルカルボニルであるが、他のRa、Rb、RcおよびRdは水素である少なくとも1種のさらなる式IVの化合物とを含む。母液に含まれるピリピロペン化合物は、通常、少なくとも式IIの化合物と、化合物IVa、IVbおよびIVcから選択される少なくとも1種のさらなる式IVの化合物とを含む。」
摘示(1a)には「原産物の結晶化の母液は大量のピリピロペン化合物を含み」と記載され、この「原産物の結晶化の母液」とは本件特許発明1のステップiii)の「母液」に相当し、摘示(1c)から、この「母液」には少なくとも式IIの化合物と、化合物IVa、IVb及びIVcから選択される少なくとも1種のさらなる式IVの化合物を含むピリピロペン化合物が含まれていることが理解できる。
そして、摘示(1a)には「母液に含まれるピリピロペン化合物の画分は、この画分を式IIの化合物の鹸化に再利用し」、「母液に含まれるピリピロペン化合物の画分の再利用は、」と記載されており、母液の「画分」とは、通常、母液の一部のことを意味する技術用語であることからみて、これらの記載は、「ピリピロペン化合物を含む母液の画分」を再利用することを意味していると理解される。
さらに、摘示(1b)には「母液の再利用またはその画分を含むピリピロペン化合物の再利用は」と記載されていることから、母液自体の再利用も想定されていることが理解される。
これらの記載からみて、訂正前の本件特許発明1における「該母液またはその画分を含むピリピロペン化合物を」なる記載について、当該「ピリピロペン化合物」は、母液に含まれる「ピリピロペン化合物」の画分を示していることが明らかであるから、「該母液またはピリピロペン化合物を含むその画分を」と記載することが、本件特許明細書の記載から本件特許発明1を正しく表現していると理解することが技術的にも自然であり、合理的であるといえる。
したがって、訂正事項1は特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とする訂正であると認められる。
(2)願書に最初に添付した外国語書面の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、2014年1月15日に欧州特許庁に国際特許出願(外国語書面出願)された外国語書面(WO2014/111398)のclaim 1の「the mother liquor or a pyripyropene compound containing fraction thereof」の記載に基づくものであり、また、上記(1)で検討したとおり、本件特許明細書に記載された技術的事項からみて自明な事項であるから、訂正事項1は、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては、外国語書面)」に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合する。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記(1)に示したように「誤記の訂正」を目的とするものであり、正しい記載が自明な事項として定まるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立して特許を受けることができるものであること
訂正後の請求項1~11に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらないので、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
2 訂正事項2について
訂正事項2についても、上記1において検討した訂正事項1と実質的に同じ訂正をするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項~第7項の規定に適合するものである。
3 訂正事項3について
訂正事項3についても、上記1において検討した訂正事項1と実質的に同じ訂正をするものであるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項~第7項の規定に適合するものである。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項~第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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