特許訂正審判
2022-390143
1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン誘導体およびその使用
- 審判番号
- 2022-390143
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2020-546272
- 登録番号
- 7040819
- 請求日
- 2022年08月03日
- 審決日
- 2023年03月16日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】オブシェストヴォ ス オグラニチェンノイ オトヴェトストヴェンノスチュ “イノベイティブ ファーマコロジー リサーチ”(“アイピーエイチエーアール”)
- 【請求人代理人】名古屋国際弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P141 .852-Z (C07D) / P141 .853-Z (C07D) / P141 .855-Z (C07D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7040819号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第7040819号は、2018年12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年11月24日 ロシア(RU))を国際出願日とする特願2020-546272号の請求項1~3に係る発明について、令和4年3月14日に特許権の設定登録がされたものである。
そして、令和4年8月3日に本件訂正審判の請求がされ、同年10月24日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年12月16日に意見書が提出されたものである。
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第7040819号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
第3 訂正の内容
本件訂正審判の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1のとおりである。
訂正事項1:
特許請求の範囲の請求項1に、
「【表1】
[図:0001400370000001.jpg]
」と記載されているのを、
「【表1】
[図:0001400370000002.jpg]
」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。なお、下線は、訂正特許請求の範囲の記載のとおりであり、訂正箇所を示す。)。
第4 当審合議体の判断
1 訂正の目的について
訂正事項1が、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれかに掲げる事項を目的とするものであるか否かについて検討する。
事案に鑑み、まず、誤記の訂正について、次いで、明瞭でない記載の釈明について検討し、その後、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることについて検討する。
(1)誤記の訂正について
ア 判断の前提
訂正が、誤記の訂正を目的とするものとして認められるためには、設定登録時の明細書又は特許請求の範囲中の記載に誤記が存在することが必要であって、請求項中の記載が、それ自体で、又は設定登録時の明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ設定登録時の明細書又は特許請求の範囲の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まることが必要である。
そこで、上記のことを前提として検討する。
イ 判断
(ア)請求項1の記載について
訂正前の請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
一般式Iа
【化1】
[図:0001400370000003.jpg]
の1-置換3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの誘導体であり、
R1、R2、Alk、およびR4が以下の表に示される置換基の組み合わせからなる群より選択される、誘導体。
【表1】
[図:0001400370000004.jpg]
」
上記請求項1の記載は、一般式Iaで表される1-置換3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンの誘導体(以下「ベンゾジアゼピン誘導体Ia」という。)について、【表1】を用いて可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せを特定したものであり、ベンゾジアゼピン誘導体Iaが表1に示される8個の誘導体からなる群より選択されるものであることが明確である。
そして、請求項2の記載は「鎮痛薬として使用される、請求項1に記載の誘導体。」であり、請求項3の記載は「鎮痛薬として使用され、向精神作用を有しない、請求項1又は2に記載の誘導体。」であって、請求項1に記載のベンゾジアゼピン誘導体Iaと、技術的に矛盾するところや不合理なところはない。
したがって、請求項1の記載に誤記が存在するとはいえず、請求項1の記載が、それ自体で誤りであることが明らかであるとはいえない。
なお、以下では、審決の便宜のため、訂正前の請求項1に記載の8個の誘導体について、【表1】の上から順に「誘導体A」~「誘導体H」といい、訂正後の請求項1に記載の8個の誘導体のうち、【表1】の上から5~8番目の誘導体について、順に「誘導体e」~「誘導体h」という場合もある。
(イ)明細書の記載との関係について
明細書には、ベンゾジアゼピン誘導体Iaについて、次の記載がある。
a 合成したベンゾジアゼピン誘導体Iaのリストの記載
以下に示す明細書【0046】の【表1】「表1:合成した1-置換3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オンのリスト」には、同【0018】~【0020】に記載されたNo.48の合成方法と同様の方法で合成し取得した82個のベンゾジアゼピン誘導体Iaについて、可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せと共に、融点(℃)及び収率(%)が記載されている。
そして、表1には、訂正前の請求項1に記載の誘導体が、以下のとおりの対応関係で示されている。
請求項1 表1
誘導体A No.27
誘導体B No.28
誘導体C No.29
誘導体D No.30
誘導体E No.44
誘導体F No.45
誘導体G No.46
誘導体H No.59
「【0046】
【表1】
[図:0001400370000005.jpg]
[図:0001400370000006.jpg]
[図:0001400370000007.jpg]
[図:0001400370000008.jpg]
」
上記表1は、ベンゾジアゼピン誘導体Iaの置換基のうち、R1をBr、Cl、OCF3、NO2の順に固定して、その中で、R2をH、CH2COCH3、CH2COOCH3、CH2CONHNH2の順に変化させ、次にその中で、Alkを炭素数の小さいものから順に変化させ、R4についてもF、H、Cl、Fの順に変化させており、表1中のベンゾジアゼピン誘導体IaのNo.と置換基の表示に全く不明確な点はない。
そして、下記b及びcのとおり、【表3】及び【表4】は、表1に示された82個のベンゾジアゼピン誘導体Iaのうちの一部を選択して評価したものといえる。
b ベンゾジアゼピン誘導体Iaと中枢性及び末梢性ベンゾジアゼピン受容体との親和性の記載
以下に示す明細書【0048】の【表3】「表3:3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ia)と中枢性および末梢性ベンゾジアゼピン受容体との親和性」には、同【0024】~【0025】に記載された放射性リガンドを受容体におけるその特異的結合部位から競合的置換するラジオレセプター法を用いて研究した22個のベンゾジアゼピン誘導体Iaについて、可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せと共に、中枢性及び末梢性ベンゾジアゼピン受容体との親和性のデータが記載されている。
「【0048】
【表3】
[図:0001400370000009.jpg]
[図:0001400370000010.jpg]
」
c ベンゾジアゼピン誘導体Iaの鎮痛活性の評価の記載
以下に示す明細書【0049】の【表4】「表4:3-アルコキシ-1,3-ジヒドロ-2H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピン-2-オン(Ia)の鎮痛活性」には、同【0026】~【0027】に記載された0.75%酢酸溶液により誘導された身もだえ反応を減少させる能力について対照薬ジクロフェナクナトリウムと比較することにより評価した19個のベンゾジアゼピン誘導体Iaについて、可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せと共に、鎮痛活性に関するデータが記載されている。
「【0049】
【表4】
[図:0001400370000011.jpg]
」
d 請求項1の記載と明細書の表1との関係について
上記aでみたとおり、明細書の表1には、請求項1に記載の誘導体A~Hのそれぞれとの対応関係が明確に理解できる、物性が示された誘導体が記載されている。
そうすると、請求項1の【表1】は、明細書の表1からNo.27~30、44~46及び59で示される誘導体を選択して記載したものといえる。
ここで、上記aの明細書の表1には、訂正前の請求項1に記載の誘導体E~Hと共に訂正後の請求項1に記載の誘導体e~hに対応する誘導体もNo.47~49及び62に記載されているところ、全ての誘導体について融点(℃)及び収率(%)が記載されているから、明細書の表1には、No.48の合成方法と同様の方法で合成し取得したベンゾジアゼピン誘導体Iaが正確に記載されており、請求項1の記載との関係で、明細書の表1は全体として明確に理解できる。
そして、明細書の表1に訂正後の誘導体e~hの記載が訂正前の誘導体E~Hと共にあるからといって、設定登録時に選択した誘導体E~Hである訂正前の記載が訂正後の記載の誤記であることにはならないことは当然である。
e 請求項1の記載と明細書の表3及び4との関係について
次に、請求項1の記載と明細書の表3及び4との関係を検討してみる。
上記b~cの表3及び4の誘導体の表記が正しいと理解すると、表3及び4には、請求項1に記載の誘導体E~Hはそもそも記載されていないことになり、表3及び4の記載内容が訂正前の請求項1に記載された誘導体E~Hが誤記であったことの根拠となりえないことは明らかである。
f 明細書の表1と表3及び4との関係について
明細書の表1と表3及び4との関係は、直接請求項1の記載と関係するものではないが、検討しておく。
明細書の表1には、上記aのとおり、明確な記載順序で、82個のベンゾジアゼピン誘導体Iaが記載されており、請求項1に記載の誘導体E~Hに対応する明細書の表1のNo.44~46及び59の誘導体はR2がケトン基「CH2COCH3」であるところ、表3及び4は、同じ番号の誘導体のR2がエステル基「CH2COOCH3」で表記されており、表1からいくつかの誘導体を選択した表3及び4の記載に何らかの不整合が存在する可能性は理解できる。
しかしながら、明細書全体の記載を考慮しても、不整合の原因である表3及び4の記載の誤記の箇所が、番号の部分なのか、R2の記載、すなわち、「CH2COOCH3」の部分なのか、全く理解できないから、正しい記載が自明な事項として定まらない。
また、仮に、表3及び4の誤記の箇所が、番号の部分であるとしても、番号の不整合自体と、明細書の表1に基づき明確な誘導体が選択されて記載されている請求項1の記載とは無関係である。
g 小括
そして、ほかに明細書のベンゾジアゼピン誘導体Iaに関する記載と、請求項1に記載の誘導体A~Hの記載との関係について、技術的に矛盾するところや不合理なところはない。
したがって、明細書の記載との関係について検討しても、請求項1の記載に誤記が存在するといえず、明細書の記載との関係で誤りであることが明らかであるともいえない。
上記のとおり、請求項1の記載には、誤記が存在するといえないものの、念のため、請求項1の記載それ自体又は明細書の記載との関係で、その誤記の箇所が、請求項1で表1を用いて可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せを特定したベンゾジアゼピン誘導体IaのR2の記載のうちの「CH2COCH3」であり、かつ、その正しい記載が自明な事項として訂正後のR2の記載「CH2COOCH3」であると定まるかどうかについて検討する。
可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せに関して、明細書の表1に明確に組合せとして記載されたNo.44、45、46及び59が請求項に記載されているにすぎず、訂正前の誘導体E~HのR2の箇所が誤記の部分であると考える理由がない。
また、その正しい記載として、明細書の表1には、No.1~82の正確な組合せが記載されているのであるから、正しい記載が訂正後のものであると自明なものとして一つに定まる理由も存在しない。
したがって、念のため誤記が存在することを仮定して検討しても、その誤記の箇所が、請求項1で表1を用いて可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せを特定したベンゾジアゼピン誘導体IaのR2の記載のうちの「CH2COCH3」であり、その正しい記載が自明な事項として訂正後のR2の記載「CH2COOCH3」であると定まるともいえない。
(ウ)請求人の主張について
請求人は、審判請求書及び意見書において、次の旨主張している。
a 請求人の主張の概要
明細書の表1には、請求項1に記載の誘導体E~Hが、No.44~46及び59として示されているが、合成し物性を評価した全てのベンゾジアゼピン誘導体Iaをリスト化したにすぎず、本件発明の課題である鎮痛作用及びベンゾジアゼピン受容体への低い親和性を有するベンゾジアゼピン誘導体を提供することの効果に関連する薬効を把握することはできない。
そして、明細書の表3及び4から効果を確認することができ、明細書の表1において請求項1に記載の誘導体E~Hに紐付けられたNo.44~46及び59という番号に基づいて、表3及び4をみると、誘導体E~Hに対応する誘導体の記載はないかわりに、No.44~46及び59には、訂正後の請求項1に記載の誘導体e~hに対応する誘導体がその薬効とともに記載されているから、明細書の表1と表3及び4とでは、その紐付けられた番号において矛盾(誤記)が存在することが明確に理解できる。
本件発明の課題からすれば、単に合成した化合物の全てをリスト化しただけのものである明細書の表1の記載を参照するべきではなく、特許請求の範囲を規定するうえでは、表3及び4の記載に基づく必要がある。
b 主張の検討
明細書の表1には、No.1~82の番号が付けられた82個の取得された誘導体(全て薬効を有する可能性が推測されるもの)が不合理なく記載されており、表3及び4は、その一部の誘導体について薬効を確認したものと理解できる。
また、上記(イ)で述べたとおり、請求項1に記載の誘導体E~Hが鎮痛作用及びベンゾジアゼピン受容体への低い親和性を有する化合物が示されている表3及び4に、たまたま記載されていないからといって、技術的に矛盾するところや不合理なところはない。
そして、特許請求の範囲は、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを自らの意思で選択して記載するものであり、課題を解決できることがどの程度示されているかなどということが、誤記であるかどうかや、正しい記載が何であるかの基準になるものではない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。
(エ)小括
以上のとおり、訂正事項1が、誤記の訂正を目的とする訂正であると認めることはできない。
(2)明瞭でない記載の釈明について
ア 判断の前提
訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的とするものとして認められるためには、設定登録時の明細書又は特許請求の範囲に明瞭でない記載が存在することが必要であって、設定登録時の明細書又は特許請求の範囲中のそれ自体意味の不明瞭な記載、又は、設定登録時の明細書又は特許請求の範囲中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載を正し、その本来の意味を明らかにするものであることが必要であるといえる。
そこで、上記のことを前提として検討する。
イ 判断
上記(1)イ(ア)で述べたとおり、請求項1の記載は、ベンゾジアゼピン誘導体Iaについて、表1を用いて可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せを特定したものであり、ベンゾジアゼピン誘導体Iaが請求項1の【表1】に示される8個の誘導体からなる群より選択されるものであることが明確であって、請求項1それ自体意味の不明瞭な記載があるとはいえない。
また、上記(1)イ(イ)で述べたとおり、明細書の表1には、請求項1に記載の誘導体A~Hのそれぞれとの対応関係が明確に理解できる誘導体が記載されているから、明細書の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載があるともいえない。
上記のとおり、請求項1の記載には、本来の記載として正しい誘導体E~Hが記載されているが、念のため検討する。
本来の記載が訂正前の記載どおりでないことをあえて仮定したとしても、明細書の表1、3及び4との関係から、R1がNO2であり、R2がHであって、AlkがC2H5であり、R4がClであったり、AlkがC3H7であり、R4がClであったりする可能性は十分あり、その本来の記載が訂正後の誘導体e~hであると理解する根拠はない。
したがって、念のため明瞭でない記載が存在することを仮定して検討しても、その明瞭でない記載の箇所が、請求項1で表1を用いて可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せを特定したベンゾジアゼピン誘導体IaのR2の記載のうちの「CH2COCH3」であり、その本来の記載として正しい記載が訂正後のR2の記載「CH2COOCH3」であるともいえない。
ウ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書及び意見書において、次の旨主張している。
(ア)請求人の主張の概要
a 置換基R2の構造は、一般式Iの誘導体の鎮痛活性にとって非常に重要な意味を持ち、特許権者は、明細書の表4のとおり、合成した誘導体のうち、様々な誘導体をスクリーニングした際に、R2がH又はCH2COOCH3であるベンゾジアゼピン誘導体Iaにのみ鎮痛活性が存在することを発見した。この点は、明細書に記載の一般式Ibの誘導体において、鎮痛活性が、R2がCH2COOCH3である誘導体のみで認められていることからも明らかであり、R2をCH2COCH3に置き換えると、鎮痛活性が失われた。
b 具体例を挙げると、明細書のベンゾジアゼピン誘導体Iaの中で、最も強力な鎮痛特性がみられた誘導体は、R2がCH2COOCH3である表4のNo.45の誘導体である。この誘導体の鎮痛活性はジクロフェナク及びトラマドールと同程度の効力を示したが、R2をCH2COOCH3からCH2COCH3に置換すると、鎮痛活性に影響を及ぼし得る(失われ得る)ことが特許権者により明らかにされている。
c 本件は、審査段階において、進歩性の主張において、請求項1に係る発明の鎮痛作用及びベンゾジアゼピン受容体への低い親和性に関する有利な効果について主張し、その効果が認められたことにより、特許が認められたものである。
(イ)主張の検討
aについて
明細書には、ベンゾジアゼピン誘導体Iaと共に、その3位の置換基がアルコキシ基のかわりに、アリールアミノ基である一般式Ibの誘導体が記載されており、その合成方法や合成した一般式Ibの誘導体の融点及び収率が表2に記載され、合成したもののいくつかについて、鎮痛活性などを評価したデータが表5~7に記載されている。
このように、明細書の記載は、ベンゾジアゼピン誘導体Iaと一般式Ibの誘導体とが明確に区別されているから、一般式Ibの誘導体に関する記載は、ベンゾジアゼピン誘導体Iaに関する請求項1の記載とは関係がない。
bについて
表4のNo.45の誘導体の鎮痛活性がジクロフェナク及びトラマドールと同程度の効果であることを示したところで、ジクロフェナク及びトラマドールは、ベンゾジアゼピン骨格を有さない化合物であるから、R2がCH2COCH3であるベンゾジアゼピン誘導体Iaが、効果に関して他の記載との関係で不合理を生じていることにもならない。
その他の明細書の記載を考慮しても、ベンゾジアゼピン誘導体Iaは、置換基のうちのR2の構造が鎮痛活性にとって非常に重要な意味を持ち、R2の記載の本来の意味がCH2COOCH3であると理解できるところはない。
cについて
訂正要件の判断は、審査段階の経緯に基づいてされるものではなく、設定登録時の明細書又は特許請求の範囲中の記載に基づいて行われるものである。
したがって、上記請求人の主張はいずれも採用できない。
エ 小括
以上のとおり、訂正事項1が明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であると認めることはできない。
(3)特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることについて
訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして認められるためには、請求項の記載事項を限定することにより、特許請求の範囲を減縮することが必要であるといえる。
そこで検討するに、訂正事項1は、請求項1に記載のベンゾジアゼピン誘導体Iaについて、可変置換基R2の記載を「CH2COCH3」から「CH2COOCH3」に変更するものであるから、明らかに特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正ではない。
そして、訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を訂正するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正でないことも明らかである。
(4)まとめ
以上のとおり、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれかに掲げる事項を目的とするものではない。
2 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかについて
(1)判断の前提
訂正が、実質上特許請求の範囲を変更するとは、特許請求の範囲の記載自体を訂正することによって特許請求の範囲を変更するものや、発明の対象を変更する訂正のほか、特許請求の範囲については何ら訂正することなく、ただ発明の詳細な説明の記載を訂正することによって特許請求の範囲を変更するようなものをいう。
そこで、上記のことを前提として検討する。
(2)判断
訂正事項1は、請求項1に記載のベンゾジアゼピン誘導体Iaが、表1を用いて可変置換基R1、R2、Alk及びR4の組合せを特定した8個の誘導体からなる群より選択されるとしていたものを、R2の記載が「CH2COCH3」である4個の誘導体について、その記載を「CH2COOCH3」に入れ替えるものであるから、ベンゾジアゼピン誘導体Iaの選択肢を変更することで、特許請求の範囲に特定された誘導体自体を直接変更したものであり、実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明らかである。
(3)請求人の主張について
請求人は、審判請求書及び意見書において、次の旨主張している。
ア 請求人の主張の概要
(ア)訂正事項1は、適法な誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、請求項1に記載された発明のカテゴリーや対象を変更するものではなく、且つ、新たな別の目的、作用効果を付加するものではなく、実質的に同一であるため、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(イ)具体的には、当業者であれば、本件発明の目的を理解したうえで、請求項1の内容を把握すべく、まず請求項1における表1を参照し、次に、請求項1の表1について記載されている明細書の表1を参照し、次に、その誘導体の効果を確認するために明細書の表3及び4を参照する。そして、明細書の表1と表3及び4とにおいて、化合物番号に紐づけられる誘導体において誤記が存在し、請求項1の表1における誘導体について効果が明らかではないことを認識する。このような流れで当業者は明細書を読み進め、請求項1の範囲を判断する以上、請求項1の表1についての誤記や発明の効果との関係で不明瞭な記載を理解した上で請求項1の範囲について把握する。
(ウ)そして、訂正後の請求項1に係る発明の効果は、実際に明細書の表3及び4に記載されている以上、本件訂正は、当業者及び第三者にとって不測の事態を与えるものではなく、本件訂正は特許請求の範囲を実質上拡張・変更するものではない。
イ 主張の検討
(ア)について
請求人は、請求項1のR2の記載「CH2COCH3」が「CH2COOCH3」であるとの本件訂正の目的が、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明に該当することを前提に主張を展開しているが、上記1で述べたとおり、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとはいえないので、主張は前提において成り立たない。
そして、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるこが、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更しない理由ともならない。
(イ)について
請求人は、当業者であれば、本件発明の目的を理解した上で、請求項1の内容を把握すべく、まず請求項1における表1を参照して、次に、明細書の表1を参照して、効果を確認するため表3及び4を参照して、化合物番号に紐付けられる誘導体において誤記が存在し、請求項1における誘導体について効果が明らかではないことを理解すれば、訂正後の記載を把握できるので、実質上拡張・変更にあたらないという趣旨の主張をしている。
しかしながら、請求人の主張は多くの前提や仮定をたてて、そのように解釈すれば、訂正後の記載に到達する余地もあるということを述べているにすぎず、本件訂正が、実質上特許請求の範囲を変更しない理由については具体的に述べられていない。
そして、当業者を含めた第三者が、請求人の主張するように請求項1の記載を理解する理由はないし、請求項1に特定された発明の明細書に記載された効果の記載の程度の検討に基づいて、訂正前に明確な記載をわざわざ読み替えるようなことはしない。
(ウ)について
請求項1に記載のベンゾジアゼピン誘導体Iaは、表1を用いて特定される8個の誘導体からなる群より選択されるものであることが明確であり、本件訂正によって、それとは異なる、訂正後の請求項1に記載される誘導体に変更されることは、特許請求の範囲を変更していることにほかならないことは上述のとおりである。
また、そのような変更が、特許請求の範囲の記載を信頼して、実施をしていた者又は実施を考える者を含めた第三者に不測の不利益が生じることは明らかであり、訂正後の請求項1に係る発明の効果が明細書に記載されている事情と、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更しないという訂正要件を満たすこととは、直接の関係がないものである。
したがって、上記請求人の主張はいずれも採用できない。
(4)まとめ
以上のとおり、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を変更するものであり、特許法第126条第6項に規定する要件に適合していない。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書各号のいずれかに掲げる事項を目的とするものでなく、また、同条第6項に規定する要件に適合しないから、本件訂正を認めることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-390143