特許訂正審判
2024-390045
癌の治療のためのERBBチロシンキナーゼ阻害剤としてのベンゾイミダゾール誘導体
- 審判番号
- 2024-390045
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2017-501110
- 登録番号
- 6577012
- 請求日
- 2024年05月21日
- 審決日
- 2024年08月09日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】カペラ セラピューティクス,インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】石川 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 齊藤 真由美
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P141 .851-Y (C07D) / P141 .852-Y (C07D) / P141 .853-Y (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法126条1項特許法126条5項特許法126条6項特許法126条7項特許法184条の19
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第184条の19、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第184条の4第1項、特許法第126条第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6577012号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6577012号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6577012号(以下「本件特許」という。)は、2015年(平成27年)3月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年3月20日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする外国語特許出願である特願2017-501110号(以下「本件特許に係る出願」という。)の請求項1~43に係る発明について、令和元年8月30日に特許権の設定登録がされたものである。
その後、令和6年5月21日(審判請求書は、令和6年5月20日付け、提出年月日不明、令和6年5月21日受付。)に本件訂正審判の請求がされた。
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第6577012号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
(合議体注:審判請求書における「添付した訂正明細書、特許請求の範囲」との記載は、「添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲」の意味であることは明らかである。)
第3 訂正の内容
本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)は、上記請求の趣旨からみて、特許権全体に対して請求されたものと解されるところ、その具体的な訂正の内容は、審判請求書の記載並びに審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲の記載からみて、以下の訂正事項1~6のとおりであると認める。
なお、下線は訂正による記載の変更箇所を示し、「・・・」は摘記の省略を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A1において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きを、
[図:0001418170000001.jpg]
から
[図:0001418170000002.jpg]
に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項18~43も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A2において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きを、
[図:0001418170000003.jpg]
から
[図:0001418170000004.jpg]
に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項18~43も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A3において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きを、
[図:0001418170000005.jpg]
から
[図:0001418170000006.jpg]
に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項18~43も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物D9
[図:0001418170000007.jpg]
を削除する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項18~43も同様に訂正する)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項16に記載の化合物A10において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きを、
[図:0001418170000008.jpg]
から
[図:0001418170000009.jpg]
に訂正する(請求項16の記載を直接的又は間接的に引用する請求項18~43も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0182】及び段落【0400】の構成97に記載されている化合物A1、A2、A3及びA10において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きを、下記:
「【0182】
・・・
【化90】
[図:0001418170000010.jpg]
[図:0001418170000011.jpg]
・・・
[図:0001418170000012.jpg]
・・・」
及び
「【0400】
・・・
(構成97)
下記から選択される化合物:
(化45)
[図:0001418170000013.jpg]
[図:0001418170000014.jpg]
・・・
[図:0001418170000015.jpg]
・・・」
のとおり、窒素原子から炭素原子に向かって太くなるのを、下記:
「【0182】
・・・
【化90】
[図:0001418170000016.jpg]
[図:0001418170000017.jpg]
・・・
[図:0001418170000018.jpg]
・・・」
及び
「【0400】
・・・
(構成97)
下記から選択される化合物:
(化45)
[図:0001418170000019.jpg]
[図:0001418170000020.jpg]
・・・
[図:0001418170000021.jpg]
・・・」
のとおり、炭素原子から窒素原子に向かって太くなるように訂正する。
第4 当審の判断
1 訂正事項1~3について
本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正における、本件特許の特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A1~A3は、ピペリジン環の窒素における置換基のみが異なる化合物であることから、訂正事項1~3については、以下まとめて検討する。
(1)訂正の目的について
ア 本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きが、それぞれ、
[図:0001418170000022.jpg]
[図:0001418170000023.jpg]
と記載されているのを、それぞれ、
[図:0001418170000024.jpg]
[図:0001418170000025.jpg]
に訂正するものである。
請求人は、当該訂正事項について、誤記の訂正を目的とするものである旨を主張しており、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3におけるくさび形表記の向きが誤記であり、訂正後のものが正しい旨を主張している(審判請求書5頁、7頁及び8頁)。
そこで、当該訂正事項が誤記の訂正を目的とするものであるか検討する。
イ 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、特許請求の範囲、明細書又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいうと解される。
そこで、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3における、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きの記載が明らかな誤りであって、当該記載が当然に、それぞれ、
[図:0001418170000026.jpg]
[図:0001418170000027.jpg]
の意味であるといえるか否かについて、以下検討する。
(ア)訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3におけるくさび形表記の向きの記載について、請求項8が引用する請求項2に記載の式XIaの化合物(請求項8に記載の化合物A1~A3は、請求項2に記載の式XIaの化学構造を有する化合物の具体例である。)の化学構造式をみると、請求項2には、
「【請求項2】
式XIaの構造を有する、請求項1記載の化合物・・・:
【化3】
[図:0001418170000028.jpg]
(式中、・・・。)」
と記載されており、くさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載となっている。なお、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。以下同じ。
この式XIaの記載は、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3における、くさび形表記の向きがベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載と整合していないところ、いずれの記載が技術的に正しいのか直ちに判別できないため、上記化合物A1~A3の構造を明確に理解することができない。
したがって、訂正前の上記化合物A1~A3におけるくさび形表記の向きの記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を十分に生じさせるものといえる。
そのため、当該記載の意味するところについて、本件特許の設定登録時の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の記載、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の記載、及び、本件特許の国際出願時の技術常識を参酌することとする。
(イ)a 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項2には、上記(ア)で説示したように、式XIaの化合物の化学構造式が記載されており、ここにおけるくさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載であり、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3における対応する位置のくさび形表記の向きとは逆になっている。
b(a)本件特許明細書の段落【0081】には、
「【0081】
さらに・・・式XIaの化合物・・・が本明細書に提供される:
【化21】
[図:0001418170000029.jpg]
(式中、・・・。)」
と、上記aで説示した請求項2に記載の式XIaの化合物の化学構造式と同じ記載があり、この式XIaの化合物の化学構造式の記載におけるくさび形表記の向きも、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載であって、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3における対応する位置のくさび形表記の向きとは逆になっている。
(b)さらに、本件特許明細書の実施例7及び8(【0343】~【0346】)並びに実施例10(【0356】~【0357】)には、それぞれ、
「【0343】
(実施例7)
((R)-N-(7-((1-アセチルピペリジン-4-イル)オキシ)-1-(1-アクリロイルアゼパン-3-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミドA2の合成)
(R)-N-(7-((1-アセチルピペリジン-4-イル)オキシ)-1-(1-アクリロイルアゼパン-3-イル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミドA2の合成をスキーム7に示す。
【化104】
[図:0001418170000030.jpg]
・・・
【0345】
(実施例8)
((R)-N-(1-(1-アクリロイルアゼパン-3-イル)-7-((1-アクリロイルピペリジン-4-イル)オキシ)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミドA3の合成)
((R)-N-(1-(1-アクリロイルアゼパン-3-イル)-7-((1-アクリロイルピペリジン-4-イル)オキシ)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミドA3の合成をスキーム8に示す。
・・・
【化107】
[図:0001418170000031.jpg]
・・・
【0356】
(実施例10)
(化合物A1及びA5の合成)
化合物A1及びA5を、実施例7及び8の記載の手順に従って製造した。
【0357】
(R)-N-(1-(1-アクリロイルアゼパン-3-イル)-7-((1-エチルピペリジン-4-イル)オキシ)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-2-メチルイソニコチンアミドA1:C30H38N6O3に観察されたMS(M+H+):531.4;HLPC保持時間:0.33分。」
との記載があり、化合物A2の製造実施例である実施例7におけるスキーム7、及び、化合物A3の製造実施例である実施例8におけるスキーム8に示されている、化合物A2及び化合物A3の化学構造式におけるくさび形表記の向きは、いずれもアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載である。
加えて、化合物A1の実施例である実施例10の記載より、化合物A1は実施例7及び8の記載の手順に従って製造されたものであるから、化合物A1におけるくさび形表記の向きも、化合物A2及び化合物A3と同じく、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載になると理解される。
そうすると、本件特許明細書の実施例7、8及び10には、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3における、ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載と、対応する位置のくさび形表記の向きが逆になっている化合物A1~A3の化学構造式の記載が存在するものと認められる。
c 立体異性体の図示について、本件特許の国際出願時の技術常識を検討すると、例えば、「公益社団法人 日本化学会 命名法専門委員会訳著、『有機化学命名法 IUPAC2013勧告および優先IUPAC名』、2017年4月3日第1版第1刷発行、株式会社 東京化学同人」には、以下の記載がある。
「P-91.1 立体異性体の図示
立体配置の構造式は十分に注意して書かなければならない.これを目的とした勧告が1996年に報告された(・・・).現在では,新しい勧告として“立体配置の図示法2006勧告”が報告されている(・・・).
一般に,ふつうの実線は図のほほ平面内にある結合を示す.平面の手前にある原子への結合は実線のくさび・・・で示す(図の平面内の原子がくさびの細い末端にある).実線のくさびの場合と同様な解釈で,平面の奥にある原子への結合は破線のくさび・・・で示す(図の平面内の原子がくさびの細い末端にある).」(p823下から7~2行)
この記載によれば、有機化合物の立体異性体の図示において、くさび形表記の向きは、「図の平面内の原子」(すなわち不斉原子)が「くさびの細い末端にある」ように記載することが、本件特許の国際出願時の技術常識であったといえる。
(ウ)訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3におけるくさび形表記の向きの記載と、上記(イ)で述べた、本件特許の設定登録時の請求項2に記載の式XIaの化合物におけるくさび形表記の向きの記載、本件特許明細書の段落【0081】に記載の式XIaの化合物におけるくさび形表記の向きの記載、並びに、本件特許明細書の実施例7、8及び10に記載の化合物A1~A3におけるくさび形表記の向きの記載とを対比すると、くさび形表記の向きが、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3では、ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載であるのに対し、本件特許の設定登録時の請求項2に記載の式XIaの化合物、本件特許明細書の段落【0081】に記載の式XIaの化合物、並びに、本件特許明細書の実施例7、8及び10に記載の化合物A1~A3では、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載である点で、両者のくさび形表記の向きは逆になっている。
化合物A1~A3において、不斉原子となり得るものは、化学構造上、くさびが表示されているアゼパン環の炭素原子のみであることから、有機化合物の立体異性体の図示についての本件特許の国際出願時の技術常識を踏まえると、くさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載が、技術的に正しい記載といえる。
(エ)そうすると、本件特許の設定登録時の請求項2に記載の式XIaの化合物、本件特許明細書の段落【0081】に記載の式XIaの化合物、並びに、本件特許明細書の実施例7、8及び10に記載の化合物A1~A3における、くさび形表記の向きの記載である、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載は、本件特許の国際出願時の技術常識と整合し、不斉原子がアゼパン環の炭素原子であることを意味するものと技術的に明確に理解できる。
これに対して、上記(ア)で述べたとおり、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3におけるくさび形表記の向きの記載であるベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を生じさせるものであるところ、本件特許の設定登録時の請求項2に記載の式XIaの化合物、本件特許明細書の段落【0081】に記載の式XIaの化合物、並びに、本件特許明細書の実施例7、8及び10に記載の化合物A1~A3において、対応する箇所に、くさび形表記の向きが、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載という、技術的に明確な記載があること、及び、本件特許の国際出願時の技術常識を参酌すれば、訂正前の請求項8に記載の化合物A1~A3における、ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載は明らかな誤りであり、当該くさび形表記の向きの記載は当然に、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載の意味であるといえ、当該くさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にあるように記載されるべきであったといえる。
これらのことは、請求項8の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項18~43についても同様である。
ウ したがって、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。
(2)国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記第1のとおり、本件特許に係る出願は、外国語特許出願(特許法第184条の4第1項に規定する外国語でされた国際特許出願)であるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定により、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「国際出願時明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでなければならない。
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正事項1~3に係るくさび形表記の向きはアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載という事項が導き出された根拠には、本件特許の設定登録時の請求項2に記載の式XIaの化合物、本件特許明細書の段落【0081】に記載の式XIaの化合物、並びに、本件特許明細書の実施例7、8及び10に記載の化合物A1~A3それぞれにおける、対応するくさび形表記の向きがアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載が含まれる(上記(1)イ(ア)並びに(イ)a及びb)。
そして、本件特許の国際出願日における国際出願の請求の範囲の請求項21には、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項2に対応する事項が記載され、同国際出願の明細書の段落[0081]、[00342]~[00346]及び[00355]~[00357]には、本件特許明細書の段落【0081】、【0343】~【0346】、【0356】及び【0357】にそれぞれ対応する事項が記載されており(要すれば、国際公開第2015/143148号を参照)、式XIaの化合物及び化合物A1~A3それぞれにおける、対応するくさび形表記の向きがアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載がある。
そうすると、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、本件特許の国際出願時明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許の国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正であるから、同条第7項に規定する、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件(いわゆる独立特許要件)を満たす必要があるところ、当該訂正後の請求項8及び18~43に係る発明について、見直すべき新たな事情は存在せず、当該訂正により同法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く。)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、本件訂正の訂正事項1~3に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
2 訂正事項4について
(1)訂正の目的について
本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、訂正前の本件特許の特許請求の範囲の請求項8において列記された化合物の選択肢の一つとして、化合物D9が記載されていたものを、訂正後の請求項8において、訂正前の請求項8おいて列記された化合物の選択肢から化合物D9を削除することにより、化合物の選択肢を限定するものである。
訂正前の請求項18~43は請求項8を直接的に又は間接的に引用して特定されていたことより、訂正後の請求項18~43は、訂正後の請求項8に記載されている発明特定事項を直接的に又は間接的に引用して特定されることになるから、訂正後の請求項8の訂正と同様に訂正するものであり、化合物の選択肢を限定するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(2)国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、訂正後の請求項8において、訂正前の請求項8における化合物の選択肢の一部を削除して、化合物の選択肢を限定するものであり、本件特許の国際出願時明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許の国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
このことは、請求項8の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項18~43についても同様である。
したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
前記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、訂正後の請求項8において、訂正前の請求項8における化合物の選択肢の一部を削除して、化合物の選択肢を限定するものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
このことは、請求項8の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項18~43についても同様である。
したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるから、同条第7項に規定する、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が独立特許要件を満たす必要があるところ、当該訂正後の請求項8及び18~43に係る発明について、見直すべき新たな事情は存在せず、当該訂正により同法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く。)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
3 訂正事項5について
(1)訂正の目的について
ア 本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項16に記載の化合物A10において、ベンゾイミダゾール環の窒素原子とアゼパン環の炭素原子との間の結合のくさび形表記の向きが、
[図:0001418170000032.jpg]
と記載されているのを、
[図:0001418170000033.jpg]
に訂正するものである。
請求人は、当該訂正事項について、誤記の訂正を目的とするものである旨を主張しており、訂正前の請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きが誤記であり、訂正後のものが正しい旨を主張している(審判請求書11頁)。
そこで、当該訂正事項が誤記の訂正を目的とするものであるか検討する。
イ(ア)訂正前の請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きの記載について、請求項16が引用する請求項9に記載の式XIXの化合物(請求項16に記載の化合物A10は、請求項9に記載の式XIXの化学構造を有する化合物の具体例である。)の化学構造式をみると、請求項9には、
「【請求項9】
式XIXの構造を有する、請求項1記載の化合物・・・
【化7】
[図:0001418170000034.jpg]
。」
と記載され、くさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載となっている。
この式XIXの記載は、訂正前の請求項16に記載の化合物A10における、くさび形表記の向きがベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載と整合していないところ、いずれの記載が技術的に正しいのか直ちに判別できないため、上記化合物A10の構造を明確に理解することができない。
したがって、訂正前の上記化合物A10におけるくさび形表記の向きの記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を十分に生じさせるものといえる。
そのため、当該記載の意味するところについて、本件特許明細書の記載、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の記載、及び、本件特許の国際出願時の技術常識を参酌することとする。
(イ)a 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項9には、上記(ア)で説示したように、式XIXの化合物の化学構造式が記載されており、ここにおけるくさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載であり、訂正前の請求項16に記載の化合物A10における対応する位置のくさび形表記の向きとは逆になっている。
b 本件特許明細書の段落【0104】には、
「【0104】
さらに・・・式XIXの化合物・・・が本明細書に提供される:
【化43】
[図:0001418170000035.jpg]
(式中、・・・)。」
と、上記aで説示した請求項9に記載の式XIXの化合物の化学構造式と同じ記載があり、この式XIXの化合物の化学構造式の記載におけるくさび形表記の向きも、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載であって、訂正前の請求項16に記載の化合物A10における対応する位置のくさび形表記の向きとは逆になっている。
(ウ)訂正前の請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きの記載と、上記(イ)で述べた、本件特許の設定登録時の請求項9に記載の式XIXの化合物におけるくさび形表記の向きの記載、及び、本件特許明細書の段落【0104】に記載の式XIXの化合物におけるくさび形表記の向きの記載とを対比すると、くさび形表記の向きが、訂正前の請求項16に記載の化合物A10では、ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載であるのに対し、本件特許の設定登録時の請求項9及び本件特許明細書の段落【0104】に記載の式XIXの化合物では、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載である点で、両者のくさび形表記の向きは逆になっている。
化合物A10において、不斉原子となり得るものは、化学構造上、くさびが表示されているアゼパン環の炭素原子のみであることから、有機化合物の立体異性体の図示についての本件特許の国際出願時の技術常識を踏まえると、くさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載が、技術的に正しい記載といえる。
(エ)そうすると、本件特許の設定登録時の請求項9及び本件特許明細書の段落【0104】に記載の式XIXの化合物における、くさび形表記の向きの記載である、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載は、本件特許の国際出願時の技術常識と整合し、不斉原子がアゼパン環の炭素原子であることを意味するものと技術的に明確に理解できる。
これに対して、上記(ア)で述べたとおり、訂正前の請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きの記載であるベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を生じさせるものであるところ、本件特許の設定登録時の請求項9に記載の式XIXの化合物及び本件特許明細書の段落【0104】に記載の式XIXの化合物において、対応する箇所に、くさび形表記の向きが、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載という、技術的に明確な記載があること、及び、本件特許の国際出願時の技術常識を参酌すれば、訂正前の請求項16に記載の化合物A10における、ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載は明らかな誤りであり、当該くさび形表記の向きの記載は当然に、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載の意味であるといえ、当該くさび形表記の向きは、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にあるように記載されるべきであったといえる。
これらのことは、請求項16の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項18~43についても同様である。
ウ したがって、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。
(2)国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、本件訂正の訂正事項5に係るくさび形表記の向きはアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載という事項が導き出された根拠には、本件特許の設定登録時の請求項9に記載の式XIXの化合物及び本件特許明細書の段落【0104】に記載の式XIXの化合物における、対応するくさび形表記の向きがアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載が含まれる(上記(1)イ(ア)及び(イ))。
そして、本件特許の国際出願日における国際出願の請求の範囲の請求項35には、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項9に対応する記載、及び、同国際出願の明細書の段落[00104]には、本件特許明細書の段落【0104】に対応する事項が記載されており、式XIXの化合物における、対応するくさび形表記の向きがアゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載がある。
そうすると、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、本件特許の国際出願時明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許の国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正であるから、同条第7項に規定する、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が独立特許要件を満たす必要があるところ、当該訂正後の請求項16及び18~43に係る発明について、見直すべき新たな事情は存在せず、当該訂正により同法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く。)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、本件訂正の訂正事項5に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
4 訂正事項6について
(1)訂正の目的について
訂正前の本件特許明細書の段落【0182】、及び、段落【0400】の(構成97)には、それぞれ以下の化合物A1~A3及びA10の化学構造式「
[図:0001418170000036.jpg]
[図:0001418170000037.jpg]
・・・
[図:0001418170000038.jpg]
・・・」
が記載され、化合物A1~A3及びA10におけるくさび形表記の向きは、ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載であったところ、訂正事項1~3及び5に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A1~A3及び請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きが、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載となるため、両者の向きが整合せず不明瞭な記載となっている。
本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、訂正前の本件特許明細書の段落【0182】及び段落【0400】の(構成97)に記載の化合物A1~A3及びA10におけるくさび形表記の向き(ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載)が、特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A1~A3及び請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きと整合するように、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載であることを明確化するものである。
したがって、本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(2)国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、訂正前の本件特許明細書の段落【0182】及び段落【0400】の(構成97)に記載の化合物A1~A3及びA10におけるくさび形表記の向き(ベンゾイミダゾール環の窒素原子がくさびの細い末端にある記載)が、特許請求の範囲の請求項8に記載の化合物A1~A3及び請求項16に記載の化合物A10におけるくさび形表記の向きと整合するよう、アゼパン環の炭素原子がくさびの細い末端にある記載であることを明確化するものであって、本件特許の国際出願時明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許の国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記(1)で述べたとおり、本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、本件特許明細書の記載を、本件訂正の訂正事項1~3及び5に係る訂正後の特許請求の範囲の記載と整合するように明確化するものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正の訂正事項6に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
5 一群の請求項について
本件訂正審判は、特許権全体に対して請求されたものであり、請求項ごとに請求されたものではないから、一群の請求項に関する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するか否かの検討を要しない。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1~3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項並びに同法第126条第6項及び第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-390045