特許訂正審判
2025-390010
キラルインドール化合物およびその使用
- 審判番号
- 2025-390010
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2021-560842
- 登録番号
- 7595024
- 請求日
- 2025年01月10日
- 審決日
- 2025年04月25日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】アリアジェン,インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】細田 芳徳
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 松元 麻紀子
- 審判官 小石 真弓
- 分類
- P141 .852-Y (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法126条1項特許法126条5項特許法126条6項特許法126条7項特許法184条の19
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第184条の19、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第126条第3項、特許法第184条の4第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7595024号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第7595024号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔14~21〕について訂正することを認める。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第7595024号(以下「本件特許」という。)は、2020年(令和2年)4月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2件 2019年4月15日、2019年6月13日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする外国語特許出願である特願2021-560842号(以下「本件特許に係る出願」という。)の請求項1~21に係る発明について、令和6年11月27日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、令和7年1月10日に本件訂正審判の請求がされたものである。
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、
「特許第7595024号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項14~21について訂正することを認める、との審決を求める。」
というものである。
第3 訂正の内容
本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、審判請求書の記載及び審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲の記載からみて、以下の訂正事項1及び2のとおりであると認める。
なお、下線は訂正による記載の変更箇所を示す。
また、訂正前の請求項14~21について、請求項15~21は、それぞれ請求項14の記載を直接的に又は間接的に引用しており、訂正事項1及び訂正事項2によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項14~21に対応する訂正後の請求項14~21に係る本件訂正は、特許法第126条第3項に規定する一群の請求項について請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項14に
「【化5】
[図:0001424532000001.jpg]
」
と記載されているのを、
「【化5】
[図:0001424532000002.jpg]
」
に訂正する。
請求項14の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15~21も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項14に
「【化6】
[図:0001424532000003.jpg]
」
と記載されているのを、
「【化6】
[図:0001424532000004.jpg]
」
に訂正する。
請求項14の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15~21も同様に訂正する。
第4 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
ア 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項14に記載された【化5】の化学構造式において、結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された「&1」との記載を、「(S)」に訂正し、
「
[図:0001424532000005.jpg]
」
から、
「
[図:0001424532000006.jpg]
」
に訂正するものである。
請求人は、当該訂正事項について、誤記の訂正を目的とするものである旨を主張しており、訂正前の請求項14に記載された【化5】の化学構造式における「&1」との記載は誤記であり、訂正後の「(S)」が正しい記載である旨を主張している(審判請求書4~5頁)。
そこで、当該訂正事項が誤記の訂正を目的とするものであるか検討する。
イ 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、特許請求の範囲、明細書又は図面等から明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいうと解される。
そして、特許請求の範囲の誤記の訂正は、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと、当事者その他一般第三者が理解する場合に限って許されることになり、その際、発明の詳細な説明の記載は、この点の判断の資料となる限度においてのみ斟酌されると解される。
そこで、訂正前の請求項14に記載された【化5】の化学構造式における「&1」なる記載が明らかな誤りであり、当該記載が当然に「(S)」の意味であるといえるか否かについて、以下検討する。
ウ 訂正前の請求項14に記載された【化5】の化学構造式において、結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された「&1」という記号は、当該炭素原子について如何なる技術的な特定をしているのか、当該化学構造式の記載のみからは理解できず、一般的に化学構造式中の一の原子に付された「&1」なる記号が何を意味するのか認識できるような技術常識が存在するとも認められない。
したがって、上記「&1」なる記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を十分に生じさせるものといえる。
そのため、当該記載の意味するところについて、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の記載を参酌することとする。
エ 本件明細書の【0196】には、以下の事項が記載されている。なお、摘記中の下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す(以下同様。)。
「【0196】
実施例26: (S)-(4-(1-アミノプロピル)チアゾール-2-イル)(6-フルオロ-1H-インドール-3-イル)メタノン(ARI-186)の調製
【化106】
[図:0001424532000007.jpg]
」
上記【化106】の化学構造式は、訂正前の請求項14に記載された【化5】の化学構造式と、化学構造として同じ化合物を示すものであるが、結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された記号が「&1」ではなく、「(S)」である点のみにおいて異なっている。
そして、上記【0196】には、「実施例26:」との記載に続いて、上記【化106】の化学構造式の化合物に対応する名称が記載され、その冒頭に「(S)-・・・」と記載されており、上記【化106】の化学構造式における結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子は、当該化学構造式中の唯一の不斉中心であって、その立体配置が「S」配置であると認められるから、上記【化106】の化学構造式に付されている「(S)」は、立体配置が「S」配置であることを確認的に付記したものであることが、技術的に明確に理解できる。
オ これに対して、上記ウで述べたとおり、訂正前の請求項14に記載された【化5】の化学構造式において、結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された「&1」なる記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を生じさせるものであるところ、本件明細書の【0196】において、同じ化学構造の化合物の化学構造式の対応する炭素原子に「(S)」という記号が付され、当該化合物の名称にも「(S)-・・・」と記載されており、当該「(S)」は、当該炭素の立体配置が「S」配置であることを意味することが技術的に明確に理解できることを参酌すれば、訂正前の請求項14に記載された【化5】における「&1」なる記載は明らかな誤りであり、正しくは当然に立体配置が「S」配置であることを意味する「(S)」と記載されるべきであったといえる。
これらのことは、請求項14の記載を直接的に又は間接的に引用する請求項15~21についても同様である。
カ したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」のうち、「誤記の訂正」を目的とするものである。
(2)国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記第1のとおり、本件特許に係る出願は、外国語特許出願(特許法第184条の4第1項に規定する外国語でされた国際特許出願)であるから、誤記又は誤訳の訂正を目的とする訂正事項1に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定により、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「国際出願時明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでなければならない。
そして、上記(1)で述べたとおり、訂正事項1に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正事項1に係る、【化5】の化学構造式において、結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子には、「(S)」との記号が付されるべきであることが導き出された根拠は、本件明細書の【0196】に記載された【化106】の化学構造式における対応する炭素原子に「(S)」との記号が付されていること、及び、同段落に「実施例26: (S)-(4-(1-アミノプロピル)チアゾール-2-イル)(6-フルオロ-1H-インドール-3-イル)メタノン(ARI-186)の調製」と記載されていること、である(上記(1)エ)。
そして、本件特許の国際出願日における国際出願の明細書の[00270]には、上記(1)エで認定した本件明細書の【0196】の記載事項に対応する事項が記載されており(要すれば、国際公開第2020/214740号(以下「本件国際公開」という。)の130頁を参照。)、対応する化学構造式において、対応する結合を示す実線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子には、「(S)」という記号が付され、対応する化合物の名称にも、「(S)-・・・」と記載されている。
そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の国際出願時明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許の国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記(1)で述べたとおり、訂正事項1に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
上記(1)で述べたとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正に該当するから、同条第7項に規定する、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件(いわゆる独立特許要件)を満たす必要があるところ、当該訂正後の請求項14~21に係る発明について、見直すべき新たな事情は存在せず、当該訂正により同法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く。)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
2 訂正事項2について
(1)訂正の目的について
ア 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項14に記載された【化6】の化学構造式において、結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された「&1」との記載を、「(R)」に訂正し、
「
[図:0001424532000008.jpg]
」
から、
「
[図:0001424532000009.jpg]
」
に訂正するものである。
請求人は、当該訂正事項について、誤記の訂正を目的とするものである旨を主張しており、訂正前の請求項14に記載された【化6】の化学構造式における「&1」との記載は誤記であり、訂正後の「(R)」が正しい記載である旨を主張している(審判請求書5~6頁)。
そこで、当該訂正事項が誤記の訂正を目的とするものであるか検討する。
イ 特許請求の範囲の「誤記の訂正」についての規範は、上記1(1)アで述べたとおりである。
そこで、訂正前の請求項14に記載された【化6】の化学構造式における「&1」なる記載が明らかな誤りであり、当該記載が当然に「(R)」の意味であるといえるか否かについて、以下検討する。
ウ 訂正前の請求項14に記載された【化6】の化学構造式において、結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された「&1」という記載は、当該炭素原子について如何なる技術的な特定をしているのか、当該化学構造式の記載のみからは理解できず、一般的に化学構造式中の一の原子に付された「&1」なる記号が何を意味するのか認識できるような技術常識が存在するとも認められない。
したがって、上記「&1」なる記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を十分に生じさせるものといえる。
そのため、当該記載の意味するところについて、本件明細書の記載を参酌することとする。
エ 本件明細書の【0152】には、以下の事項が記載されている。
「【0152】
実施例7: PTC17341-133A (R)-(4-(1-アミノプロピル)チアゾール-2-イル)(6-フルオロ-1H-インドール-3-イル)メタノン(PTC17341-133A; ARI-187)の調製
【化58】
[図:0001424532000010.jpg]
」
上記【化58】の化学構造式は、訂正前の請求項14に記載された【化6】の化学構造式と、化学構造として同じ化合物を示すものであるが、結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に「&1」という記載が付されていない点のみにおいて異なっている。
そして、上記【0152】には、「実施例7: PTC17341-133A」との記載に続いて、上記【化58】の化学構造式の化合物に対応する名称が記載され、その冒頭に「(R)-・・・」と記載されており、上記【化106】の化学構造式における結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子は、当該化学構造式中の唯一の不斉中心であって、その立体配置が「R」配置であると認められるから、上記【化58】の化学構造式の当該炭素原子における立体配置は「R」配置であることが、技術的に明確に理解できる。
オ これに対して、上記ウで述べたとおり、訂正前の請求項14に記載された【化6】の化学構造式において、結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子に付された「&1」なる記載は、当業者にとって技術的に正しい記載であるかどうかという疑念を生じさせるものであるところ、本件明細書の【0152】において、同じ化学構造の化合物の化学構造式が記載されており、当該化合物の名称には「(R)-・・・」と記載されており、当該「(R)」は、【化58】の化学構造式において、結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子の立体配置が「R」配置であることを意味することが技術的に明確であることを参酌すれば、訂正前の請求項14に記載された【化6】における「&1」なる記載は明らかな誤りであり、正しくは当然に立体配置が「R」配置であることを確認的に付記したことを意味する「(R)」と記載されるべきであったといえる。
これらのことは、請求項14の記載を直接的又は間接的に引用する請求項15~21についても同様である。
カ したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」のうち、「誤記の訂正」を目的とするものである。
(2)国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
上記(1)で述べたとおり、訂正事項2に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正事項2に係る、【化6】の化学構造式において、結合を示す破線のくさび形表記の細い末端にある炭素原子には、「(R)」との記号が付されるべきであることが導き出された根拠は、本件明細書の【0152】の実施例7において、【化58】に、上記【化6】の化学構造式と同じ化学構造の化合物の化学構造式が記載され、当該化合物の名称として「(R)-(4-(1-アミノプロピル)チアゾール-2-イル)(6-フルオロ-1H-インドール-3-イル)メタノン」と記載されていること、である(上記(1)エ)。
そして、本件特許の国際出願日における国際出願の明細書の[00188]には、上記(1)エで認定した本件明細書の【0152】の記載事項に対応する事項が記載されており(要すれば、本件国際公開の104~105頁を参照。)、対応する化学構造式が記載され、対応する化合物の名称にも、「(R)-・・・」と記載されている。
そうすると、訂正事項2に係る訂正は、本件特許の国際出願時明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許の国際出願時明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
上記(1)で述べたとおり、訂正事項2に係る訂正は、誤りであることが明らかな記載を、本来その意であることが明らかな記載に正すものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
上記(1)で述べたとおり、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とする訂正に該当するから、同条第7項に規定する、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件(いわゆる独立特許要件)を満たす必要があるところ、当該訂正後の請求項14~21に係る発明について、見直すべき新たな事情は存在せず、当該訂正により同法第36条第4項第1号及び第6項(第4号を除く。)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。
第5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第184条の19の規定により読み替えて適用する同法第126条第5項並びに同法第126条第6項及び第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
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