2020-016969
炎症及び疼痛の治療のための組成物及び方法
- 審判番号
- 2020-016969
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-002379外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2020年12月09日
- 審決日
- 2023年01月11日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】セリックス バイオ プライヴェート リミテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
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結論
理由
目次 ▾ 19項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成27年5月7日(パリ条約による優先権主張、2015年1月6日、インド)を国際出願日とする特願2017-553470号の一部を令和2年1月9日に新たな出願とするものであって、令和2年3月2日付けの拒絶理由の通知に対し、同年3月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月1日付けの拒絶理由の通知に対し、同年7月14日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月4日付けで補正の却下の決定及び拒絶査定がなされ、これに対して同年12月9日に審判請求書及び手続補正書が提出された。
当審において、令和4年6月28日付けの拒絶理由を通知し、これに対して同年10月4日に意見書及び手続補正書が提出された。
第2 本願発明
本願の請求項1~3に係る発明は、令和4年10月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
【請求項1】
式V:
【化1】
[図:0001397387000001.jpg]
(式中、
RHは、独立して、カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、又はオレイン酸を表す)の化合物並びにその薬学的に許容される水和物、溶媒和物、鏡像異性体及び立体異性体を含む、
炎症による疼痛を治療するために用いられる医薬であって、
前記炎症による疼痛が、口腔潰瘍、口腔炎症、口腔感染、口腔創傷、歯科手術、扁桃腺摘出術後の経過、歯口腔病学的事象、歯肉炎、口内炎、舌炎、アフタ性潰瘍、咽頭炎、又は扁桃炎により惹き起こされるものである、医薬。
第3 当審における拒絶の理由
当審における拒絶の理由のうち、特許法第29条第2項(進歩性)に係る理由は以下のとおりである。
1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1~3
・引用文献1~4
<引用文献等一覧>
1.国際公開第2009/061497号公報
2.特表2008-542295号公報
3.特開2009-1574号公報
4.秋庭 俊 外2名、歯薬療法、2013年発行、Vol.32、No.3、129~135頁
第4 引用文献
1 引用文献1に記載された事項、引用発明
引用文献1には、以下のとおり記載されている。(翻訳文及び下線は、合議体による。以下同様。)
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、以下のとおり記載されている。
ア
「1.哺乳類の外科的創傷の疼痛の緩和を改善するための方法であって、前記外科的創傷の領域に治療有効量のカイン系麻酔薬の有機酸塩粒子を投与することを含み、前記有機酸が、少なくとも6個の炭素原子からなること、前記麻酔薬は、改善された疼痛の緩和を提供することを含む方法。2.前記麻酔薬は、ロピバカイン、ブピバカイン及びリドカインからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。」(特許請求の範囲請求項1、2)
イ
「21.創傷の疼痛を緩和するために、ヒトの外科的に形成された創傷の近傍の皮膚へ局所投与するための医薬の製造における、ロピバカイン、ブピバカイン又はリドカインからなる群より選択されるカインの脂肪族有機酸塩の粒子の使用であって、前記脂肪族有機酸は、6~30個の炭素原子からなり、前記粒子が100~1200μmの範囲のメジアン径である、使用。」(特許請求の範囲請求項21)
ウ
「 疼痛軽減のための局所麻酔剤の有機塩の徐放発明の背景技術分野本発明の分野は、特に外科的に引き起こされるか、又は他の種類の創傷による、疼痛の治療である。」(1頁1~8行)
エ
「 発明の概要局所麻酔薬の「カイン」ファミリーのアミノ酸アミド及びエステルは、特に外科現場において、有機酸の塩として粒子形態で提供される。本組成物は、完全な粒子として、粉末、ゲル、気体分散体、又は、液状で存在し、外科的に露出したような露出組織、又は、腹腔鏡手術の場合には皮膚に適用できる。粒子は、所望の領域に麻酔を維持し、毒性を最小限に抑えるために、特に疼痛の期間に、長期間にわたって麻酔薬を長期放出すること等、麻酔薬の性能を強化するように設計される。その結果、一実施形態において、本発明は、哺乳動物の外科的創傷の疼痛の緩和を改善するための方法を対象とする。この方法は、外科創傷の領域に治療有効量のカイン系麻酔薬の有機酸塩粒子を投与するものであって、有機酸は、少なくとも6個の炭素原子からなり、前記麻酔薬は、改善された疼痛の緩和を提供することからなる。特定の実施形態において、麻酔薬は、ロピバカイン、ブピバカイン及びリドカインからなる群から選択される。追加の実施形態において、有機酸は、脂肪族有機酸又は芳香族有機酸であり、粒子は、有機酸の過剰当量を50%まで含む。」(5頁12行~6頁13行)
オ
「 発明を実施するための形態本発明によれば、麻酔薬粒子は、負傷特に創傷が原因の疼痛の治療のために提供され、粒子は、その主成分としてアミノ酸アミド又はエステル型の局所麻酔薬である有機酸塩を含んでいる。アミノ酸アミド及びエステル型の局所麻酔薬の例は上述したが、特に関心が高いのは、リドカイン、ブピバカイン及びロピバカインである。有機酸塩は、実質的に中性及び疎水性イオン種を形成し、個々の成分が帯電し、溶媒和及び生理学的pHでの分離が可能である。有機酸塩は、薬理学的に許容され得る酸、すなわち、大部分がカルボン酸、特に脂肪族及びスルホン酸であり、有機酸は、少なくとも約6、通常少なくとも約8個の炭素原子、等からなる。特定の対象の塩を形成する脂肪族カルボン酸は、通常、6~30個の炭素原子、より通常には6~24、しばしば8~24、特に12~24個の炭素原子からなる。これらの酸は、脂肪族飽和又は不飽和の、通常は、特にエチレン性の不飽和の3を超えない部位を有し、大部分で偶数となる。例示的なカルボン酸は、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等を含み、大部分はGRAS(一般に安全と認められる)として指定されるように選択される。脂肪酸は、置換又は非置換のいずれであってもよいが、低い水溶性を保持し、一般的に、25℃で約5重量%未満の可溶性である。」(7頁25行~8頁13行)
カ
「 粒子を分散させるために使用される液体媒体は、高揮発性又は創傷の水性環境と混和性であり、投与の条件下で速やかに蒸発又は放散される。液体は、麻酔薬塩に対して最小限に溶解性であるが、麻酔薬塩に対してほぼ非溶媒であってもよい。このようなビヒクルは、水、水と有機溶媒との混合物及び有機溶媒の混合物を含む非溶剤型の液状媒体を含む。その他の添加剤は、コラーゲン及びゼラチンなどのタンパク質系材料;シリコーン系材料;安定化剤及び懸濁剤;乳化剤;また、皮膚に投与するのに適した他の溶剤成分、並びにこれらの混合物及び当技術分野で公知のものを含む。ビヒクルは、さらに、適用される製剤の安定性又は有効性を向上させる成分、防腐剤、抗酸化剤、及び皮膚浸透促進剤を含む。このような成分の例としては、下記の参考文献参照により援用される。:・・・適切なビヒクルの選択は、製剤が達成する特定の物理的形態及び送達様式に依存する。適切な形態の例としては、液体;ゲル剤、フォーム剤、ペースト剤、クリーム剤、軟膏剤、散剤などの固体及び半固体;例えば、リポソーム、マイクロエマルジョン、微粒子等のコロイド状薬物送達;又は他の形態を含む。本発明の局所製剤は、様々な物理形態で調製され、例えば、固体粒子、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、及び液体は全て本発明で検討される。これらの形態の違いは、それらの物理的外見及び粘度であり、製剤中に存在する乳化剤、粘度調整剤の存在及び量によって制御される。特定の局所製剤は、多くの場合、様々なこれらの形態で調製できる。固体は一般に安定しており、通常、微粒子形態になる;固形物は、場合により、液、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、香料、染料/着色剤、防腐剤及び他の有効成分を含み、最終的な製品の効力を増加又は向上させる。クリーム及びローションは、多くの場合、互いに類似するが、主にその粘度が異なる;ローション及びクリームは両方とも、不透明、半透明、又は透明であってもよく、多くの場合、乳化剤、溶媒、粘度調整剤、並びに、保湿剤、皮膚軟化剤、香料、染料/着色剤、防腐剤及び他の有効成分を含有し、最終製品の効力を増加又は高める。ゲルは、粘度の範囲で調製し、濃厚又は高粘度から希薄又は低粘度とすることができる。これらの製剤は、ローション及びクリームのように、液体、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、香料、染料/着色剤、防腐剤及び他の成分を含有し、最終製品の有効性を増加又は向上させる。液体は、クリーム、ローション、又はゲルよりも希薄であり、多くの場合、乳化剤を含まない。」(9頁32行~11頁2行)
キ
「実施例カインファミリーのメンバーのいずれかについて、一般的作成工程を提供する。・・・ブピバカインパルミチン酸塩は、18.3%w/vブピバカイン遊離塩基及び16.7%w/vのパルミチン酸を溶解することによって調製した。続きを表示(全11行)[図:0001397387000002.jpg]・・・次の研究は、インビボ研究であった。ブピバカインパルミチン酸粒子がもたらす局所麻酔薬の効力及び持続時間を試験するために、オスのSprague-Dawleyラット(250-300g)の治療側及び対照側を用いた。動物をイソフルラン吸入(2.5-3%)で麻酔し、その背中を部分的に剃毛した。16gの針を中央傍脊柱背部左側の剃毛した皮膚の奥深くに導入し、左右に動かして小さな(直径1.0cm)ポケットを空けた。右側について同様の操作を行った。次いで、針は右側のポケットに試験局所麻酔薬ブピバカインパルミチン酸粒子を導入するために使用した。ラットは拘束用Decapicone内で覚醒させて載置した。拘束それ自体は内因性鎮痛効果をもたらす可能性があるため、動物(合議体注:ラット)は試験前に15分間コーン内に静かに休ませた。約0.5cm2の面積の集束投影電球からの放射熱を試験部位に向けて、両側で数回ずつ疼痛の閾値を測定した。ラットが拘束円錐内で移動しようとするまで光を照射し、この時点で光熱刺激を止めた。皮膚への恒久的な損傷や過度の不快感を回避するため、この軽い光熱刺激は20秒を超えて与えることはなかった。15分、1及び2日の処置後結果は移動前の平均秒数で表される:本発明は、特に、外科手術中とその後における、疼痛軽減のための従来の組成物および手順と比較して実質的な進歩を提供する。本発明の組成物は、外科医にとって用いやすく、有効時間が延長するように調製される。対象の組成物は、特に創傷床への導入のために適している。創傷を閉じた後、対象粒子は、長期間にわたって有効量の麻酔薬を放出し続け、疼痛を緩和し、全身鎮痛剤の必要性を軽減または回避し続ける。その成分は、安全であって、残留物を残さずに身体によって容易に代謝される。その組成物は、あるとしても、低い毒性を有し、麻酔薬の局在化を強化できる。本組成物は、調製、取り扱い、および調剤が容易で、所望される麻酔作用を提供する。本製剤は、損傷部位に麻酔作用を提供するため、麻酔薬の経皮輸送を提供することができる。」(16頁3行~20頁下から6行)
(2)以上の(1)ア~キの記載、特にイの「局所投与するための医薬の製造」の記載からみて、引用文献1には、製造された「局所投与するための医薬」が記載されているといえるから、引用文献1には以下の発明(「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「創傷の疼痛を緩和するために、ヒトの外科的に形成された創傷の近傍の皮膚へ局所投与するための医薬であって、ロピバカイン、ブピバカイン又はリドカインからなる群より選択されるカインの6~30個の炭素原子からなる脂肪族有機酸塩の粒子を含み、前記粒子は100~1200μmの範囲のメジアン径である、医薬。」
2 引用文献2に記載された事項
「【0059】(実施例16)ブピバカインのカルボン酸塩の調製ブピバカイン(576mg)を7mlの80%メタノールに溶解した。この攪拌溶液に対して316μlのカプリル酸を添加した。室温で2時間置いた後に、ロータリーエバポレーターを使用して混合物を濃縮した。得られた固体は、融点が90から96℃の範囲であった。同様にして、ヘキサン酸塩およびラウリン酸塩を調製することができる。」(段落【0059】)
3 引用文献3に記載された事項
ア
「【請求項1】粘膜付着物質と、局所麻酔薬またはその薬学上許容される塩と、オピオイドまたはその薬学上許容される塩とを含んでなる組成物を含み、粘膜付着物質がエチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロックコポリマーである、局所適用に適合した容器。【請求項5】上記局所麻酔薬が、リドカイン、テトラカイン、ブピバカイン、プリロカイン、メピバカイン、プロカイン、クロロプロカイン、ロピバカイン、ジブカイン、エチドカイン、ベンゾカイン、それらの薬学上許容される塩、ならびに、それらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の容器。」(請求項1、5)
イ
「【0001】発明の技術分野本発明は、炎症、擦過傷、潰瘍、病変、火傷、および外傷などの粘膜損傷と関連する痛みを治療する方法および組成物に関する。【背景技術】【0002】発明の背景「粘膜」という用語は、口腔、鼻腔、胃腸管、気道、結膜、膣、結腸、膀胱および尿道の湿った内膜を意味する(・・・)。正常な状態では滑らかで、湿ったピンク色の口腔粘膜は、非常に感受性が高く、炎症または潰瘍(口内粘膜炎)が激しい痛みを引き起こす。歯根管および抜歯などの歯科手術でも、口腔粘膜を著しく損傷し、激しい痛みを引き起こすことがある。さらに、口内粘膜炎および歯科手術によって、食欲不振による体重減少や脱水、炎症(細菌、真菌およびウイルス性)、熱、吐気および下痢などの二次症状が発生する可能性もある。」(段落【0001】、【0002】)
ウ
「【0015】発明の詳細な説明本明細書で用いる用語「薬学上許容される塩」とは、限定するものではないが、本発明の組成物で用いられる化合物に存在し得る酸性または塩基性基の塩を包含する。本来塩基性である本発明の組成物に含まれる化合物は、様々な無機および有機酸と非常に多様な塩を形成することができる。このような塩基性化合物の薬学上許容される酸付加塩を調製するのに用いることができる酸は、非毒性の酸付加塩、すなわち、薬理学的に許容されるアニオンを含む塩、例えば、限定するものではないが、・・・オレイン酸塩、・・・を形成するものである。」(段落【0015】)
エ
「【0020】本明細書で用いる用語「局所麻酔薬」とは、局所麻痺または無痛覚をもたらすあらゆる薬剤、あるいは、侵害受容経路(求心性および/または遠心性)の局部的遮断をもたらし、かつオピオイド受容体のアゴニストでもアンタゴニストでもないあらゆる薬剤を意味する。局所麻酔薬は、公知の、または開発されるどんな局所麻酔薬でもよい。本発明での使用に適した局所麻酔薬の例として、下記のものが挙げられる:・・・、ブピバカイン、・・・、リドカイン、・・・、ロピバカイン、・・・、あるいは、それらの製薬上許容される塩、もしくはそれらの混合物。」(段落【0020】)
4 引用文献4に記載された事項
ア
「 本研究は,術後疼痛対策として長時間作用性局所麻酔薬であるレボブピバカインを用いた下顎孔伝達麻酔の有用性について検討した.」(130頁左欄15~18行)
イ
「 手術終了直後,乱数表を用いたブロックランダム法により,I群0.25%レボブピバカイン(10名),II群0.25%ブピバカイン(10名),III群1/80,000アドレナリン添加2%リドカイン塩酸塩(10名)を2ml使用し,術者および,患者に使用薬剤が分からないように下顎孔伝達麻酔を行った.伝達麻酔薬の使用量の決定に際しては,吉野ら高杉らの報告を参考にした.注入に際しては,吉野らの方法に準じて行った.術後痛の評価には,Visual Analogue Scale(VAS)によるペインスコア,手術終了後から疼痛が発現するまでの時間(疼痛発現時間),手術終了後から鎮痛薬を服用するまでの時間(鎮痛薬服用時間),および術後鎮痛薬を服用した回数(鎮痛薬服用回数)を用いた.VASの計測は手術終了直後,30分後,60分後,90分後,120分後,180分後,240分後,300分後および360分後の時点において施行した.スケール上で左端を無痛状態,右端を想像できうる最大の痛みと仮定し,計測時点での痛みの強さをスケール上に一本の縦線で記入するよう術前に患者に対して十分な説明を行い,そのスケール上の長さをVASペインスコアとした.疼痛発現時間は,術後.自制不可能な術後痛が発現するまでの時間とした.鎮痛薬服用時間は.術後最初に服用するまでの時間とした.鎮痛薬服用回数は,自制不可能な疼痛に対する服用回数とした.なお.鎮痛薬には,ロキソプロフェンナトリウム60mg錠を選択した.」(130頁右欄6~33行)
ウ
「 伝達麻酔後のVAS値の有意な上昇は,リドカイン群では90分以後に,レボブピバカイン群では120分以後に認められたが,ブピバカイン群では測定時間内におけるVAS値の上昇は認められなかった.VAS値の上昇までに時間がかかるのは,麻酔薬の効果持続時間が長いためと推測されるので,ブピバカイン,レボブピバカイン,リドカインの順に,麻酔薬の効果持続時間は長いと推察される.疼痛発現時間は,手術終了後から疼痛を自覚するまでの時間であり,これも麻醉薬の効果持続時間の長さを表していると考えられる.レボブピバカイン群とブピバカイン群の疼痛発現時間は,リドカイン群と比較して長く,有意差が認められた.レボブピバカイン群とブピバカイン群に有意差は認められなかったが,疼痛発現時間はブピバカイン,レボブピバカイン,リドカインの順に長いという傾向があった.」(133頁左欄4~21行)
エ
「結語1.下顎埋伏智歯抜去術後の術後鎮痛に対し,下顎孔伝達麻酔を行い,VASペインスコア,疼痛発現時間,鎮痛薬服用時間,鎮痛薬服用回数から,最適な薬剤を検索した.2.VAS値は,リドカインでは90分以後,レボブピバカインでは120分以後に有意な上昇が認められた,ブピバカインでは測定中に有意な上昇は認められなかった.3.疼痛発現時間において,レボブピバカインやブピバカインは,リドカインより有意に長かった.4.鎮痛薬服用時間において,レボブピバカインはリドカインより有意に長かった.5.本研究の結果から,レボブピバカインは術後疼痛制御を目的とした下顎孔伝達麻酔に用いる麻酔薬として適当であると考えられた.」(134頁左欄24~40行)
第5 対比・判断
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「ブピバカイン」は、本願発明の式Vの中の
「[図:0001397387000003.jpg]」
の構造に相当する。(本願明細書段落【0022】~【0024】参照。)
また、引用発明の「6~30個の炭素原子からなる脂肪族有機酸」と、本願発明の「独立して、カプロン酸(合議体注:6個の炭素原子からなる脂肪族有機酸に相当)、ラウリン酸(合議体注:12個の炭素原子からなる脂肪族有機酸に相当)、ステアリン酸(合議体注:18個の炭素原子からなる脂肪族有機酸に相当)、又はオレイン酸(合議体注:18個の炭素原子からなる脂肪族有機酸に相当)を表す」「RH」とは、共に「RH」と表記できる「脂肪族有機酸」である限りにおいて一致する。
引用発明の「創傷の疼痛」と本願発明の「炎症による疼痛」とは、「疼痛」という点で一致しているから、本願発明と引用発明の医薬の用途は、「疼痛を治療するために用いられる医薬」である点で一致する。
なお、引用発明には、脂肪族有機酸塩が粒子であり、そのメジアン径が特定されているが、本願発明の「式Vの化合物」はその形状が特定されず、任意の形状を含み得るから、この点は相違するものとはいえない。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「式V:【化1】[図:0001397387000004.jpg](式中、RHは、脂肪族有機酸を表す)の化合物並びにその薬学的に許容される水和物、溶媒和物、鏡像異性体及び立体異性体を含む、疼痛を治療するために用いられる医薬。」という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
脂肪族有機酸が、本願発明は「カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、又はオレイン酸」であるのに対し、引用発明は「6~30個の炭素原子からなる脂肪族有機酸」である点。
<相違点2>
疼痛が、本願発明は「炎症による疼痛」であって、「口腔潰瘍、口腔炎症、口腔感染、口腔創傷、歯科手術、扁桃腺摘出術後の経過、歯口腔病学的事象、歯肉炎、口内炎、舌炎、アフタ性潰瘍、咽頭炎、又は扁桃炎により惹き起こされるもの」であるのに対し、引用発明は「創傷の疼痛」である点。
(2)相違点1について
引用文献1には、「6~30個の炭素原子からなる脂肪族有機酸」として、「カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等」を含み、大部分はGRAS(一般に安全と認められる)として指定されるように選択されることが記載され、実施例においては、このうちパルミチン酸(合議体注:16個の炭素原子からなる脂肪族有機酸に相当)を用いて、ブピバカインのパルミチン酸塩の粒子を製造し、ラットの背中の皮膚奥深くに導入したところ、疼痛が緩和されたことを確認している(上記第4の1(1)オ、キ)。
他方、引用文献2には、ブピバカインのカルボン酸塩である、カプリル酸塩が実際に調製されたことが記載され、ヘキサン酸(合議体注:カプロン酸に相当)塩及びラウリン酸塩は同様に調製することができること(上記第4の2)が記載されていることから、引用文献1の実施例で用いられたパルミチン酸以外にも、様々な脂肪族有機酸を用いてブピバカインとの塩を調製することは、当業者であれば適宜可能であったといえる。
したがって、引用発明における6~30個の炭素原子からなる脂肪族有機酸として、引用文献1に例示された、カプロン酸、ラウリン酸、ステアリン酸又はオレイン酸を選択することによって、本願発明の相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたものである。
(3)相違点2について
ア 引用文献3には、ブピバカインを選択し得る局所麻酔薬の薬学上許容される塩を含んでなる組成物が記載され(上記第4の3ア、エ)、薬学上許容される塩として、例えばオレイン酸塩が挙げられること(上記第4の3ウ)、「局所麻酔薬」は、局所麻痺又は無痛覚をもたらすものであって、ブピバカインが例示されること(上記第4の3エ)、上記組成物は、炎症、擦過傷、潰瘍、病変、火傷、及び外傷などの粘膜損傷と関連する痛みを治療するものであること(上記第4の3イ)が記載されている。
また、引用文献3には、「粘膜」という用語は、口腔等の湿った内膜を意味し、口腔粘膜は、非常に感受性が高く、炎症又は潰瘍(口内粘膜炎)が激しい痛みを引き起こし、歯科手術でも、口腔粘膜を著しく損傷し、激しい痛みを引き起こすものであること(上記第4の3イ)も記載されている。
さらに、引用文献4には、術後(抜歯後)の疼痛対策として、局所麻酔薬であるブピバカインは、レボブピバカイン程でないとしても、術後疼痛制御に使用できること(上記第4の4)が記載されている。
上記引用文献3及び4の記載によれば、ブピバカインは、従来から、「口腔粘膜の損傷と関連する口腔粘膜の炎症又は潰瘍(口内粘膜炎)、歯科手術等」の疼痛の制御に適用されてきたことが理解できる。
そうすると、引用発明のブピバカインの脂肪族有機酸塩は、外科的に形成された損傷の近傍の皮膚へ局所投与する、創傷の疼痛を緩和するために用いるものであるが、上記の「口腔粘膜の損傷と関連する口腔粘膜の炎症又は潰瘍(口内粘膜炎)、歯科手術等」においても、適用可能であることを、当業者であれば容易に想到し得たものといえる
イ 一方、相違点2に係る、本願発明の「炎症による疼痛」は「口腔潰瘍、口腔炎症、口腔創傷、歯科手術、口内炎、アフタ性潰瘍等」により惹き起こされるものであり、「口腔粘膜の損傷」とは明記されていないものの、これらは全て口腔に関連する症状であり、上記のとおり、「粘膜」が口腔等の湿った内膜を意味することからすれば、口腔粘膜の損傷は関連しており、上記アの従来からブビバカインが適用されてきた「口腔粘膜の損傷と関連する口腔粘膜の炎症、潰瘍(口内粘膜炎)、歯科手術等」とは区別し得ないものと認められる。
ウ したがって、引用発明において、ブピバカインの脂肪族有機酸塩を、口腔粘膜の損傷と関連する口腔粘膜の炎症、潰瘍(口内粘膜炎)、歯科手術等の疼痛の制御に用いることによって、本願発明の相違点2に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することである。
(4)本願発明の効果について
本願発明の効果は「口腔潰瘍、口腔炎症、口腔創傷、歯科手術、口内炎、アフタ性潰瘍等」により引き起こされる疼痛の治療と認められるが(本願明細書段落【0106】)、この効果は、引用文献1、3、4の記載から予測し得るものであるし、本願明細書において、実際に、疼痛の治療効果が確認されていないので、本願発明の特定の脂肪族有機酸塩を特定の炎症による疼痛を治療するために用いた効果が格別のものであるとすることはできない。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は、令和4年10月4日提出の意見書において、おおむね以下のとおり主張する。
本願発明が治療対象とする「炎症による疼痛」は、本願発明に列挙される通り、口腔潰瘍など、感染症により惹き起こされる疼痛である。よって、令和2年7月14日提出の意見書に記載の試験例は、感染症に関する疼痛に関するものであり、本願発明の「炎症による疼痛を治療する」ことを示すものであることが明らかであり、かかる試験結果を参酌して本願発明の効果の顕著性は認められるべきであり、ひいては本願発明1の進歩性は肯定されるべきである。
当該意見書に記載の試験例は、おおむね以下のとおりである。
「5.3 培養液希釈法による試験化合物(ラウリン酸ブピバカイン)、参照化合物(塩酸ブピバカイン)および(ラウリン酸)の最小発育阻止濃度(MIC)の決定このin vitro試験フェーズの目的は、塩酸ブピバカインおよびラウリン酸と比較して、口腔粘膜炎患者(放射線療法または化学療法を受けている)に蔓延している微生物に対するブピバカインラウレートの最小発育阻止濃度(MIC)を評価することである。口腔粘膜炎患者から採取した唾液サンプルは、スプレッドプレート法を使用して微生物をスクリーニングした。グレードIIIの口腔粘膜炎を伴う05頭頸部癌患者の唾液サンプルを無菌容器に採取し、微生物学アッセイで使用した。がん病院から採取された唾液のサンプルは、ドライアイスを使用して-70℃で微生物学研究室に輸送された。さらに分析するまで、サンプルを-70℃で保存した。5人の個人から採取された唾液のサンプルには、S-01、S-02、S-03、S-04、S-05のラベルが付けられた。・・・続きを表示(全11行)【表1】[図:0001397387000005.jpg]5.4 その他の脂肪酸塩の抗菌活性上記と同様に、下表に示す塩についても試験を行った。【表2】[図:0001397387000006.jpg]」
イ 請求人の主張について検討する
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まず、本願発明の「炎症による疼痛」は、必ずしも、請求人が主張する「感染症により引き起こされる疼痛」に限られるものではなく、上記(3)のとおり、従来からブビバカインが適用されてきた「口腔粘膜の損傷と関連する口腔粘膜の炎症、潰瘍(口内粘膜炎)、歯科手術等」も含み得るものである。
そして、当該意見書に記載の試験例は上記アのとおりであって、本願発明の試験化合物が、口腔粘膜炎患者から採取した唾液サンプル中の細菌に対して抗菌活性を示すというものであるが、本願明細書には、当該試験例は記載されておらず、本願発明の試験化合物が口腔粘膜の細菌に対して抗菌活性を有すること、及び、当該抗菌活性が細菌感染と関係しない疼痛治療に有用であることについても記載がなく、優先日当時にそのような事項を示す技術常識もみあたらないから、当該試験例は、本願明細書の記載に基づかない主張であり、本願発明の試験化合物が口腔粘膜の細菌に対して抗菌活性を有するという意見書の試験例に記載の効果を、本願発明の効果として参酌することはできない。
さらに、本願発明は、「感染症に関する疼痛」と特定されていないから、感染症に関する疼痛についての試験結果を参酌して、本願発明の効果の顕著性が認められるという請求人の主張は、その前提を欠くものである。また、相違点2に係る、本願発明の「炎症による疼痛」を引き起こす「口腔潰瘍、口腔炎症、口腔創傷、歯科手術、口内炎、アフタ性潰瘍等」の症状は、必ずしも感染と関係しないこと(上記(3))からみても、請求人の主張は、その前提を欠くものであることは明らかである。
したがって、請求人の主張を採用することができない。
(6)小括
よって、本願発明は、引用発明、及び、引用文献1~4の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2020-016969