審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許拒絶査定不服審判

2020-003513

耐久性反射防止物品

審判番号
2020-003513
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-567228外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年03月13日
審決日
2023年04月25日
公報発行日
2023年10月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .537-WZ (C03C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項1号特許法49条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-567228「耐久性反射防止物品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月19日国際公開、WO2015/175390、平成29年 6月15日国内公表、特表2017-515780〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)5月11日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2014年5月12日、同年6月10日、同年7月23日及び同年12月31日(2件)、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成31年4月9日付けで拒絶理由が通知され、令和1年9月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、令和2年3月13日に拒絶査定不服審判の請求がされたものであり、その後、令和3年6月29日付けで、当審からの拒絶理由が通知され、令和4年1月4日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の発明は、令和4年1月4日付けで手続補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。 「主要表面を有する基体と、 前記主要表面上に配置された0.2μm以上1μm以下の物理的厚さを有する、反射防止表面を含んでなる反射防止コーティングであって、当該反射防止コーティングは複数の層を含み、前記複数の層は前記基体の前記主要表面上に接して配置された少なくとも1つの低RI層と、少なくとも1つの高RI層を備え、前記高RI層の物理的厚さの合計が、前記反射防止コーティングの全物理的厚さの30%以上である、反射防止コーティングとを含んでなる物品において、 前記基体の前記主要表面上に接して配置された前記少なくとも1つの低RI層は、15nmから200nmの囲の光学厚さを有し、 50nm以上の押し込み深さに沿って、Berkovich Indenter Hardness Testによって測定される場合、8GPa以上の最大硬度を示し、 光学波長領域において、94%以上の平均光透過率、および 0°から60°の入射照明角において、2%以下の片面平均可視明所視反射率の一方または両方を示し、かつ 前記光学波長領域は400nmから800nmの波長範囲内であることを特徴とする、物品。」 3 当審において通知した拒絶理由の概要 当審において、令和3年6月29日付けで通知した拒絶理由は、 本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の要件に適合するものでない、という理由を含むものである。 4 当審の判断 当審は、本願は、依然として上記の理由により、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものであると判断する。 詳細は、以下のとおりである。 (1)サポート要件の判断手法について 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 (2)本願発明の課題 発明の詳細な説明の段落【0004】には、既知の反射防止コーティングについて、「カバー物品の光学的性能は、種々の反射防止コーティングを使用することによって改善することができるが、既知の反射防止コーティングは摩耗または摩擦の影響を受けやすい。」とされ、「例えば、光学フィルターは、しばしば、異なる屈折率を有する多層コーティングから製造され、そして光学的に透明な誘電材料(例えば、酸化物、窒化物およびフッ化物)から製造される。そのようなフィルターのために使用される典型的な酸化物のほとんどは・・・硬度などの必要な機械的特性を有さない。窒化物およびダイヤモンド様コーティングは、・・・必要とされる透過率を示さない。」と記載され、従来の反射防止コーティングは、耐摩擦性及び透過率が両立できなかったとされている(当審注:下線は、当審において付与した。以下、同じである。)。 これに対して、本願の発明が解決しようとする課題(以下、「本願発明の課題」という。)について、発明の詳細な説明の段落【0006】に、「したがって、耐摩擦性であり、かつ光学的特性が改善された新規カバー物品、およびそれらの製造方法が必要とされている。」と記載されていることから、本願発明の課題は、「耐摩擦性であり、かつ光学的特性が改善された物品を提供すること」であると認められる。 (3)特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記「2」に示すとおりであって、 本願発明1は、請求人がその発明を特定するために必要と認める事項(発明特定事項)を分説すると、 A 「主要表面を有する基体と、 前記主要表面上に配置された0.2μm以上1μm以下の物理的厚さを有する、反射防止表面を含んでなる反射防止コーティングであって、当該反射防止コーティングは複数の層を含み、前記複数の層は前記基体の前記主要表面上に接して配置された少なくとも1つの低RI層と、少なくとも1つの高RI層を備え、前記高RI層の物理的厚さの合計が、 前記反射防止コーティングの全物理的厚さの30%以上である、反射防止コーティングと を含んでなる」こと、 B 「前記基体の前記主要表面上に接して配置された前記少なくとも1つの低RI層は、15nmから200nmの範囲の光学厚さを有」すること、 C 「50nm以上の押し込み深さに沿って、Berkovich Indenter Hardness Testによって測定される場合、8GPa以上の最大硬度を示」すこと、 D 「光学波長領域において、94%以上の平均光透過率、および 0°から60°の入射照明角において、2%以下の片面平均可視明所視反射率の一方または両方を示し、かつ 前記光学波長領域は400nmから800nmの波長範囲内である」こと を特徴とする、「物品」に係る発明といえる(以下、A~Dをそれぞれ「発明特定事項A」~「発明特定事項D」という。)。 (4)発明の詳細な説明の記載について 発明の詳細な説明には、摘記は省略するが、発明特定事項A~Dに関して 、概略、次の事項が記載されている。 ア 反射防止コーティング及び物品の特性に関する事項 (ア)耐摩擦性に関する事項(段落【0022】~【0026】) (イ)硬度に関する事項(段落【0027】~【0033】、【0084】) (ウ)弾性率に関する事項(段落【0034】) (エ)光学的特性に関する事項(段落【0035】~【0055】、【00 90】) イ 基体に関する事項(段落【0056】~【0076】) ウ 反射防止コーティングの層構造に関する事項 (ア)物理厚さ及び光学厚さに関する事項(段落【0077】、【0085】~【0088】) (イ)反射率に関する事項(段落【0078】) (ウ)積層構造に関する事項(段落【0079】~【0083】) (エ)材料に関する事項(段落【0084】) (オ)追加の層に関する事項(段落【0091】~【0093】) エ 物品の製造方法に関する事項(段落【0094】~【0097】) オ 実施例に関する事項(【実施例】、段落【0098】~【0170】) 実施例1~10、12、13、19~21と、比較例11、14~18の反射防止物品についての記載事項。 なお、発明の詳細な説明には、「モデル実施例」や「モデル比較例」との標記も使用されているが、「実施例」や「比較例」と同じ意味で使用されていると解されるので、ここでは「実施例」、「比較例」と標記する。 (5)発明の詳細な説明の実施例に係る記載について 上記(4)オのとおり、発明の詳細な説明の【実施例】(段落【0098】~【0170】)には、実施例1~10、12、13、19~21と比較例11、14~18として、反射防止物品の具体的な実施形態が記載されているところ、本願発明1は、上記(3)のとおりの発明特定事項A~Dに分けることができることから、まず、当該発明特定事項に該当する具体例が実施例に記載されているか否かについて検討する。 ア 発明特定事項Aについて 上記実施例のうち、実施例5(段落【0114】、表8)は、主要表面を有するASガラスと、該主要表面上に配置された464nmの全コーティング厚さを有し、複数の層を含む反射防止コーティングが記載されている。そして、前記反射防止コーティングは、上記主要表面上に接して配置されたSiO2からなる低RI層と、SiuAlvOxNyからなる高RI層を備えていると認められる。 しかしながら、高RI層の物理的厚さの合計は、133nm(=81+22+14+16)と計算され、これは、反射防止コーティングの全コーティング厚さ464nmの約28%(=133mm/464mm×100)であるから、実施例5による物品は、発明特定事項Aを満足しない。 また、同様にして他の実施例をみると、実施例2、4、6、7、9、10、12、13、19~21の物品は、反射防止コーティングの全物理的厚さ、及び、当該反射防止コーティングの全物理的厚さに対する高RI層の物理的厚さの合計の割合について、発明特定事項Aの数値範囲を満たすものの、実施例1~4、6~10、12、13、19~21の物品は、高RI層が基体の主要表面上に接して配置されているため、発明特定事項Aを満足しない。 イ 発明特定事項Bについて 光学厚さは、本願明細書の段落【0085】に定義されており、層の屈折率nと、その物理的厚さとの積であるところ、上記実施例5の主要表面上に接して配置された低RI層「SiO2-a(310)」の屈折率は1.4826、物理的厚さは26nmであり、その光学厚さは、約38.5nmになるから、発明特定事項Bを満足する。 また、同様にして他の実施例をみると、上記アで検討したとおり、実施例1~4、6~10、12、13、19~21の物品は、高RI層が基体の主要表面上に接して配置されているため、発明特定事項Bを満足しない。 ウ 発明特定事項Cについて 実施例21の物品は、11.1GPaの「硬度」を有しており、段落【0084】の「いくつかの実施形態において、硬度は、Berkovitch Indenter Hardness Testによって測定される」との記載をふまえると、発明特定事項Cを満足する。 また、同様にして他の実施例をみると、実施例1~10、12、13、19、20の物品は、「Berkovitch Indenter Hardness Test」によって測定された硬度が不明であるため、発明特定事項Cを満足しない。 なお、実施例1、4(12)、6、7(13)の物品は、良好な耐摩擦性を示すことが記載され、また、実施例4、6、7の物品は、「Berkovitch Indenter Hardness Test」で測定した場合に高い硬度を有する「SiuAlvOxNy層」を有することが記載されている。 エ 発明特定事項Dについて 実施例20には、「実施例20は、0°、30°、45°および60°の入射照明角で、光学波長領域において、それぞれ、0.86%、1.04%、1.6%および3.61%の片面平均反射率(すなわち、反射防止表面122から測定された)を示した。」(段落【0147】)、及び、「実施例20は、0°、30°、45°および60°の入射照明角で、光学波長領域において、それぞれ、4.85%、3.56%、2.44%および3.77%の全平均反射率(すなわち、反射防止表面122および反対側の主要表面114から測定された)を示した。実施例20は、0°、30°、45°および60°の入射照明角で、光学波長領域において、それぞれ、95.15%、96.44%、97.56%および96.23%の片面平均透過率(すなわち、反射防止表面122から測定された)を示した。」(当審注:この記載中の「片面平均透過率」は、「全平均反射率」から算出されていることからして「全平均透過率」の誤記と認められる。)(段落【0148】)ことが記載され、発明特定事項Dの「片面平均可視明所視反射率」及び「平均光透光率」に対応する値は示されているものの、本願明細書の段落【0036】の「「光学波長領域」には、約400nm~約800nm(より具体的には、約450nm~約650nm)の波長範囲が含まれる。」との記載を参酌しても、実施例20の「片面平均反射率」、「全平均反射率」の測定波長が明らかでないため、実施例20の物品は、発明特定事項Dを満足しない。 また、実施例1~10、19、21の物品については、これらの物品の(片面)反射スペクトルが示されている(図8~11、13、16、19、22、25、27、29、30、35、38)ところ、波長が450nm未満あるいは700nmを超える範囲で反射率が2%を大幅に超えていたり、波長750nmを超える範囲の反射率が測定されていないことなどから、1~10、19、21の物品が発明特定事項Dを満足しているともいえない。 さらに、他の実施例については、反射率又は透過率が示されていないため、発明特定事項Dを満足しているともいえない。 オ 小括 以上で検討したとおり、発明の詳細な説明には、実施例として、実施例1~10、12、13、19~21の物品の開示を認めることができるが、これらは、発明特定事項A~Dの全てを満足するものといえないから、本願発明1に対応する実施例であるとはいえない。そうである以上、発明の詳細な説明の実施例の記載のみからでは、当業者において、本願発明1が本願発明の課題を解決できることを認識できない。 (6)発明の詳細な説明の全体の記載との対比 ア 上記(2)のとおり、本願発明の課題は、「耐摩擦性であり、かつ光学的特性が改善された物品を提供すること」であるところ、本願発明1においては、機械的特性を特定した発明特定事項C及び光学的特性を特定した発明特定事項Dが、この本願発明の課題に係る特性(耐摩擦性及び光学的特性)と直接関連していると認められる。 しかし、上記(5)で検討したとおり、本願発明1は、実施例に明示的に裏付けられているといえない。 他方、実施例1、4、6、7の物品は、上記(5)ウ及びエで検討したとおり、発明特定事項C及びDを満たすかは定かでないが、各実施例において、一応の耐摩擦性と光学的特性を備えていることが記載されている。 そこで、これらの各実施例を含めた発明の詳細な説明の全体の記載から、当業者において、本願発明1の発明特定事項A~Dにより、本願発明の課題を解決できると認識できるかについて検討する。 イ 発明特定事項A及びBについて 発明特定事項A及びBに関して、発明の詳細な説明((4)ウ(ア)~(エ))には、反射防止コーティングの層全体の厚さについては、段落【0077】に、低RI層と高RI層の構成については、段落【0078】~【0088】(低RI層の光学厚さについては、段落【0085】)などに記載されている。 しかし、これらの記載は、層の厚さや低RI層及び高RI層の各種材料、さらには低RI層と高RI層の広範な層構造の組み合わせを単に羅列しているにとどまり、当該記載から、本願発明の課題に係る特性(耐摩擦性・光学的特性)と特定の材料・層構造との関係性(作用機序)を理解することはできない。そうである以上、当該記載をもってしても、本願発明1に係る物品において、耐摩擦性があり、光学的特性が優れているという課題がどのような作用機序により解決できるのかは明らかでない。 そこでさらに、各「実施例」の反射防止コーティング層の構造を子細にみると、これらは低RI層と高RI層とを交互に積層したものであり、層数は5~14層程度である(実施例1~10、12、13、19~21)。ここで、当該低RI層は、SiO2であり、当該高RI層は、SiNx、TiO2、SiuAlvOxNy又はAlOxNyである(なお、SiuAlvOxNyは、SiO2より高硬度とされている(段落【0111】))。そして、最表層は、SiO2であるか、ごく薄い高硬度の層(実施例1、3)や追加のコーティングがあってもよい(実施例2)。 一方、高RI層とされるNb2O5と低RI層のSiO2からなる比較例11、14をみると、段落【0084】では、Nb2O5は、本願発明における高RI層の適切な材料の一つであることが記載されているものの、各実施例12、13と比べて光学的特性(平均反射率)に優れるが、耐摩擦性(Taber Testを受けた後の散乱光強度及び透過曇り度)に劣ることが示されている(表14、表16)。 また、比較例16、17をみると、SiO2層より高い硬度を有する高RIのSiuAlvOxNyは、単層のみでは、耐摩擦性を示すが、光学的特性に劣ることがわかる(表16)。 これらの比較例の記載は、単に、異なる屈折率を有する多層コーティングというだけでは、機械的特性を有さないことや、高い硬度による層では必要とされる透過率を示さないという段落【0004】(上記(2))の記載と合致するものであり、層全体の光学的特性及び機械的特性は、技術常識からして、高RI層と低RI層との層厚及び層数等の積層構造及び各層の硬度等の機械的特性及び屈折率等の光学的特性に影響されることは明らかである。 これらのことから、「実施例」の記載によると、反射防止コーティングを含む物品が「実施例」に開示される程度の耐摩擦性と光学的特性を備えるためには、次のような層構造が肝要であると解するのが合理的である。 ・低RI層は、SiO2であり、高RI層は、高硬度であるSiNx、TiO2、SiuAlvOxNy又はAlOxNyであって、低RI層と高RI層は、各層を所定の厚さで5~14層程度になるように交互に積層する。 ・反射防止コーティングの最表層は、低RI層であるSiO2からなるが、耐摩擦性や光学的特性に悪影響のない程度の厚さの高硬度層があってもよい。 ・上記の低RI層及び高RI層とされる特定の各材料及び基体を選択し、適切な硬度及び透過率又は反射率を備えた反射防止コーティングを含む物品が得られるように、各層厚及び層数を設定する。 しかし、本願発明1に係る物品の反射防止コーティングの層構造を特定する発明特定事項A及びBは、低RI層及び高RI層の具体的な材料や層数は不明であり、最表層が所定厚のSiO2層であることや、さらに薄い高硬度の層を備えることは把握できない。 よって、発明の詳細な説明の記載及び技術常識からでは、本願発明1が発明特定事項A及びBを具備することによって、「実施例」程度の耐摩擦性及び光学的特性を満たし、もって本願発明の課題を解決することができることを当業者は認識することができないといわざるを得ない。 ウ 発明特定事項Cについて 発明の詳細な説明の段落【0027】~【0033】、【0084】には、反射防止コーティング及び物品の硬度に関して、段落【0022】~【0026】には、反射防止コーティングの耐摩擦性に関して、それぞれ記載されているが、当該硬度と耐摩擦性との相関関係については記載されていない。 また、段落【0012】には、「耐擦傷性コーティングが含まれる場合、そのような層は反射防止コーティング上に配置され得、かつ耐擦傷性表面を形成し得る。代表的な耐擦傷性コーティングは、本明細書に定義されるBerkovitch Indenter Hardness Testによって測定する場合、約8GPa~約50GPaの範囲の硬度を示し得る。」と記載されているものの、当該記載は、耐擦傷性コーティングを含む反射防止コーティングの硬度について記載されているにすぎない。 そして、Berkovitch Indenter Hardness Testによる最大硬度は、押し込み深さを50nm以上として測定すること(段落【0027】)からして、反射防止コーティングの最表層だけでなく、押し込み深さ以上の厚さの深い範囲での層の影響を受けるものであると解される。他方、反射防止コーティングの耐摩擦性は、反射防止コーティングの最表層の機械的な強度が大きく影響されるものであるから、反射防止コーティングの最表層の機械的特性を特定せず、「Berkovitch Indenter Hardness Test」による最大硬度のみを特定しても、当業者において、これが直ちに耐摩擦性を有するものであるとは認識できない。 エ 発明特定事項Dについて 発明の詳細な説明の段落【0035】~【0055】、【0090】には、反射防止コーティング及び物品の光学的特性に関する事項が記載されており、特に、段落【0052】~【0054】には、「1つまたはそれ以上の実施形態の物品、あるいは1つまたはそれ以上の物品の反射防止表面122は、約400nm~約800nmの範囲の光学波長領域において、約95%以上(例えば、約9.5%以上、約96%以上、約96.5%以上、約97%以上、約97.5%以上、約98%以上、約98.5%以上または約99%以上)の平均光透過率を示し得る。・・・特定の実施形態において、1つまたはそれ以上の物品の反射防止表面122は(すなわち、片面測定によって反射防止表面122のみを測定する場合)、約2%以下、1.8%以下、1.5%以下、1.2%以下、1%以下、0.9%以下、0.7%以下、約0.5%以下、約0.45%以下、約0.4%以下または約0.35%以下の平均明所視反射率を示し得る。いくつかの場合、同時に、D65光源源を使用して、約5度~約60度の全入射照明角範囲において(基準照明角は直角入射である)、約5.0未満、約4.0未満、約3.0未満、約2.0未満、約1.5未満または約1.25未満の最大反射率色シフトを示しながら、上記平均明所視反射率の範囲が示される。」ことが記載されている。 そして、「平均光透過率」及び「片面平均可視明所反射率」は、光学的特性の指標であること、さらに、発明特定事項Dの波長範囲は、実施例で評価された反射率のそれよりも広く、より厳しい条件設定であることをふまえると、発明特定事項Dは、実施例で検証された光学的特性よりもさらに優れた特性を表示したものといえる。しかしながら、単なる表示(所期する特性の形式的表示)のみでは、当業者は実態のあるものとして認識しないから、どのような反射防止コーティングの構造であれば、高い蓋然性をもって当該特性を発現できるのかについてさらに検討する。 そこで、本願発明1の反射防止コーティングの構造に係る特定事項に着目すると、この事項は、発明特定事項A及びBであるということができるが、上記イの検討のとおり、発明の詳細な説明の記載及び技術常識からすると、発明特定事項A及びBを具備することにより、「実施例」程度の耐摩擦性及び光学的特性を満たすことまでは当業者といえども認識することができないため、実施例の光学的特性よりも優れた特性を表示する発明特定事項Dを実体のあるものとして認識することは到底できない。 そうしてみると、発明特定事項A及びBは、高い蓋然性をもって発明特定事項Dの特性を発現できるものとはいえず、発明特定事項Dの表示をそのまま受け入れることはできない(平成28年(行ケ)第10189号を参照した。)。 オ 小括 上記イ~エでの検討を併せ考えると、発明特定事項Dにより本願発明1に係る物品は、光学的特性に優れている物性を有することを表示するものの、本願発明1で特定する反射防止コーティングの層構造や、最大硬度により、発明の詳細な説明及び技術常識から、実体あるものとして、本願発明1が耐摩擦性であり、光学的特性が改善された物品であるということを認識することができない。 以上のことから、本願発明1は、当業者において、本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。 (7)請求人の主張についての検討 請求人は、令和4年1月4日付けの意見書において、特に、本願発明1の「発明特定事項D」並びに「発明特定事項C」に対する「発明特定事項A、B」の低RI層及び高RI層の組み合わせについて、「「400nmから800nmの波長範囲の光学波長領域において94%以上の平均光透過率」、「0°から60°の入射照明角において、2%以下の片面平均可視明所視反射率」という特徴は、本願明細書段落0052~0054の記載等に基づくものです。」(同意見書6ページ下から15行~13行)、「本願の補正後請求項1に係る発明において、物理的厚さが「0.2μm以上1μm以下 」の反射防止コーティング層を備える物品が、「50nm以上の押し込み深さに沿って、Berkovich Indenter Hardness Testによって測定される場合、8GPa以上の最大硬度」を示すよう、反射防止コーティング層を構成する低RI層と高RI層についての物理的厚さや光学的厚さの条件(補正後請求項1に明記されるもの)の下で、低RI層や高RI層の具体的な層厚、組成、層数の組み合わせが適宜選択されればよいものです。低RI層や高RI層に適した種々の組成は本願明細書において開示されているとおりであり、例示された組成や層数のうち、一部のものを本願の補正後請求項10~13で限定して記載しております。」(同意見書7ページ5行~13行)などと主張している。 しかし、発明特定事項Dに関する主張については、発明の詳細な説明に単に同様な記載があることを釈明するにとどまり、発明の詳細な説明の記載や技術常識から、当業者において、本願発明1が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることを何ら具体的に説明していない。 また、発明特定事項A及びBの低RI層及び高RI層に関する主張については、本願発明1における作用機序に関して新たな知見を与えるものではなく、上記(6)イ~オ の判断のとおり、発明特定事項A及びBを含む本願発明1が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。 したがって、請求人の主張は採用できない。 (8)まとめ 以上によれば、本願発明1は、当業者が発明の詳細な説明の記載により発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 よって、上記(1)の判断手法に従えば、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に係る規定に適合しない。 5 むすび 以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第49条第4号に該当するから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2020-003513

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決147件(コーニング インコーポレイテッド)
  • 2025-010586拒絶査定不服審判 / 2026-08-18 / 原査定取消(特許/登録すべき)車両のフロントガラス用の特有の破壊挙動を備えたガラス
    同じ当事者: コーニング インコーポレイテッド
  • 2024-018721拒絶査定不服審判 / 2026-05-19 / 原査定取消(特許/登録すべき)イオン交換可能な混合アルカリアルミノケイ酸塩ガラス
    同じ当事者: コーニング インコーポレイテッド
  • 2024-008037拒絶査定不服審判 / 2026-03-31 / 原査定取消(特許/登録すべき)キャリアウェハおよびキャリアウェハを製造する方法
    同じ当事者: コーニング インコーポレイテッド
  • 2024-009060拒絶査定不服審判 / 2026-02-25 / 請求不成立耐損傷性コーティングを有するガラス物品、並びにガラス物品をコーティングする方法
    同じ当事者: コーニング インコーポレイテッド
  • 2023-015305拒絶査定不服審判 / 2026-01-20 / 原査定取消(特許/登録すべき)細胞培養のための溶解可能な発泡足場及びその製造方法
    同じ当事者: コーニング インコーポレイテッド
検索でもっと見る →
同じ根拠条文の審決974件(特許法36条6項1号、特許法49条4号)
  • 2024-009234拒絶査定不服審判 / 2025-08-05 / 請求不成立耐破壊性が改善されたガラス系物品
    共通の条文: 特許法36条6項1号、特許法49条4号
  • 2021-016732拒絶査定不服審判 / 2023-01-31 / 請求不成立ガラス基板部分を有する、蛍光検出法で使用するための基板
    共通の条文: 特許法36条6項1号、特許法49条4号
  • 2019-003546拒絶査定不服審判 / 2021-06-29 / 請求不成立容器健全性を確保するガラス包装
    共通の条文: 特許法36条6項1号、特許法49条4号
  • 2019-011145拒絶査定不服審判 / 2021-03-30 / 請求不成立金属酸化物濃度勾配を有するガラスおよびガラスセラミック
    共通の条文: 特許法36条6項1号、特許法49条4号
  • 2024-005235拒絶査定不服審判 / 2026-03-31 / 請求不成立ディーゼルエンジンの排気ガスを処理するためのSCR触媒
    共通の条文: 特許法36条6項1号、特許法49条4号
同じ論点・分野の審決(審決分類)280件(537・C03C)
  • 2024-018907拒絶査定不服審判 / 2026-06-16 / 原査定取消(特許/登録すべき)機能被覆の上の保護層
    共通の審決分類: 537・C03C
  • 2024-014168拒絶査定不服審判 / 2026-05-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)自動車用合わせガラス
    共通の審決分類: 537・C03C
  • 2025-003465拒絶査定不服審判 / 2026-05-26 / 原査定取消(特許/登録すべき)円盤状ガラス基板
    共通の審決分類: 537・C03C
  • 2025-000060拒絶査定不服審判 / 2026-05-11 / 原査定取消(特許/登録すべき)低膨張ガラスの粉体層付加製造
    共通の審決分類: 537・C03C
  • 2024-014846拒絶査定不服審判 / 2026-05-08 / 原査定取消(特許/登録すべき)医療用ガラス製品の切断のための切断部位のダメージング加工装置及び方法
    共通の審決分類: 537・C03C

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存