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特許拒絶査定不服審判

2020-003434

長繊維を含有するスチレン組成物

審判番号
2020-003434
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2016-555601外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年03月12日
審決日
2021年11月22日
公報発行日
2022年05月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C08L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2016-555601「長繊維を含有するスチレン組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月11日国際公開、WO2015/132628、平成29年 3月16日国内公表、特表2017-507221〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 11項目
理 由

第1 手続の経緯

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本願は、平成26年3月3日を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成28年 9月 6日 :手続補正書
平成29年12月15日付け:拒絶理由通知
平成30年 7月 6日 :意見書、手続補正書
同年12月26日付け:拒絶理由通知
令和 1年 6月12日 :意見書、手続補正書
同年10月11日付け:拒絶査定
令和 2年 3月12日 :審判請求書、手続補正書

同年 3月23日付け:手続補正指令書(方式)

同年 4月13日 :手続補正書(方式)

同年 4月23日 :手続補正書(審判請求の理由補充書)

同年10月21日 :上申書の提出
同年11月18日 :上申書の提出

第2 令和2年3月12日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

令和2年3月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

令和2年3月12日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関して、補正前の、

「ポリマーマトリックスを基準にして10~40重量%の、1種以上の不飽和ニトリル化合物由来モノマー単位及び1種以上のエラストマーモノマー単位を含有する1種以上のスチレンコポリマーと、30~90重量%の1種以上のポリアミドとを含む、組成物の20~50重量%のポリマーマトリックスに分散された、組成物の50~80重量%の長さ3~30mmの長繊維を含む組成物であって、前記スチレンコポリマーが、220℃及び10kgにおいて測定される試験法ISO1133に従って求められる6以上のメルトフローレートを示す、前記組成物。」を、

補正後の、

「ポリマーマトリックスを基準にして10~40重量%の、1種以上の不飽和ニトリル化合物由来モノマー単位及び1種以上のエラストマーモノマー単位を含有する1種以上のスチレンコポリマーと、30~90重量%の1種以上のポリアミドとを含む、組成物の20~50重量%のポリマーマトリックスに分散された、組成物の50~80重量%の長さ3~30mmの長繊維を含む組成物であって、前記スチレンコポリマーが、220℃及び10kgにおいて測定される試験法ISO1133に従って求められる6以上のメルトフローレートを示し、前記1種以上のスチレンコポリマーが、5~20重量%のエラストマーモノマー単位を含有する、前記組成物。」とする補正を含むものである。

(以下、補正後の請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件補正発明」という。下線部は補正された箇所を示し、当審が下線を付与した。また、この出願の本件補正後の明細書を「本願明細書」という。)

2 補正の適否

(1)補正の目的について

本件補正は、補正前の請求項1の「エラストマーモノマー単位を含有する1種以上のスチレンコポリマー」について、補正前の請求項5に記載されていた「前記1種以上のスチレンコポリマーが、5~20重量%のエラストマーモノマー単位を含有する」と限定して、請求項1に係る発明を特定する事項を限定的に減縮するものである。そして、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について

そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について検討すると、以下の理由により、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

本件補正発明は、下記引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

ア 引用文献

引用文献1:特開2010-43204号公報

イ 引用文献の記載事項

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引用文献1には、以下の事項が記載されている。

引1a

「【請求項1】
(A)ポリアミド系樹脂を含む樹脂、(B)マレイミド系単量体単位を有する重合体及び(C)強化繊維を含有し、(C)成分の強化繊維が長さ方向に束ねられ、少なくとも(A)及び(B)成分により一体化されている強化繊維束を含む樹脂組成物であり、
(B)成分のマレイミド系単量体単位を有する重合体中のマレイミド系単量体単位の含有量が40質量%以上である、樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分のポリアミド系樹脂を含む樹脂が、(A-1)ポリアミド樹脂と(A-2)スチレン系樹脂を含むものである、請求項1記載の樹脂組成物。」

引1b

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、機械的強度及び耐熱性が高く、樹脂の吸水による寸法変化の小さい、自動車の外板部材用途に好適な成形体を得ることができる樹脂組成物を提供することを課題とする。」

引1c

「【0010】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、(C)成分の強化繊維が長さ方向に束ねられ、少なくとも(A)及び(B)成分により一体化されている強化繊維束からなるもののほか、前記強化繊維束と、熱可塑性樹脂、各種樹脂用添加剤等からなるものにすることができる。
【0011】
<(A)成分>
(A)成分は、ポリアミド系樹脂単独のほか、ポリアミド系樹脂と他の熱可塑性樹脂を組み合わせて用いることができる。前記組み合わせとしては、(A-1)ポリアミド樹脂と(A-2)スチレン系樹脂の組み合わせが好ましい。」

引1d

「【0014】
〔(A-2)スチレン系樹脂〕
(A-2)成分のスチレン系樹脂としては、スチレン及びα置換、核置換スチレン等のスチレン誘導体の重合体を挙げることができる。また、これら単量体を主として、これらとアクリロニトリル、アクリル酸並びにメタクリル酸のようなビニル化合物及び/又はブタジエン、イソプレンのような共役ジエン化合物の単量体から構成される共重合体も含まれる。例えばポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン-メタクリレート共重合体(MS樹脂)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBS樹脂)等を挙げることができる。」

引1e

「【0020】
〔(A)~(C)成分の含有割合〕
(A)成分のポリアミド系樹脂を含む樹脂の(A)及び(B)成分合計量中の含有割合は、60~99質量%が好ましく、70~98質量%がより好ましく、80~97質量%が更に好ましい。
【0021】
続きを表示(全11行)
(A)成分として、(A-1)成分と(A-2)成分を併用するときには、(A-1)成分のポリアミド系樹脂の方が、(A-2)成分のスチレン系樹脂の含有量よりも多いことが望ましいが、これに限定されるものではなく、
(A-1)成分と(A-2)成分の合計量中、(A-1)成分の含有割合は50~95質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましく、50~75質量%が更に好ましく、
(A-1)成分と(A-2)成分の合計量中、(A-2)成分の含有割合は50~5質量%が好ましく、50~20質量%がより好ましく、50~25質量%が更に好ましい。
【0022】
(B)成分のマレイミド系単量体単位を有する重合体の(A)及び(B)成分合計量中の含有割合は、1~40質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましく、3~20質量%が更に好ましい。
【0023】
(C)成分である強化繊維の組成物中の含有割合は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、8~220質量部が好ましく、20~150質量部がより好ましく、25~120質量部が更に好ましい。」

引1f

「【0030】
本発明の樹脂組成物は、自動車の外板部材用途、例えば、バンパー、ボンネット、ルーフ、フード、フロントパネル、キャノピー、トランクリッド、ドアパネル、ピラー、スポイラー、リアガーニッシュ、ラジエーターグリル、サイドパネル、バックドアインナーパネル、バックドアアウターパネル、それらに類似の外板部材として適している。」

引1g

「【実施例】
【0031】
実施例1~5、比較例1~4
表1に示す(C)成分の強化繊維からなる繊維束(約4000本の繊維の束)を、予備加熱装置による150℃の加熱を経て、クロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機,シリンダー温度290℃)から溶融状態の表1に示す樹脂を供給し、繊維束に樹脂を含浸させた。その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、ペレット状(円柱状)の強化繊維束を得た。このようにして得た強化繊維束(本発明の樹脂組成物)は、各繊維が長さ方向にほぼ平行になり、それらが樹脂で一体化されていた。」

引1h

「【0034】
次に、各繊維束を用い、ISO多目的試験片作成方法及び150角平板作成方法に従って、射出成形機(J150EII,日本製鋼所製,スクリュー:長繊維専用スクリュー)により、射出成形して得た成形体について、下記の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0035】
ISO多目的試験片作成方法
続きを表示(全29行)
金型:ISO多目的試験片(t=4)
成形温度:260℃ 金型温度:100℃(設定)
150角平板作成方法
金型:150角平板(t=3)
成形温度:260℃
金型温度:120℃(設定)
引張り試験:ISO527-1に準拠
曲げ試験:ISO178に準拠
シャルピー衝撃強度:ISO179/1eA(エッジワイズ)に準拠
荷重たわみ温度:ISO75-1(1.80MPa:フラットワイズ)に準拠
上記測定試験項目については、絶乾状態の試験片で測定した。
【0036】
吸水による寸法変化率(絶乾状態の平板寸法から吸湿状態の平板寸法に変化した寸法変化率):上記条件で射出成形した平板を用いて、図1に示す箇所の吸水による寸法変化率を求めた。吸水条件は、23℃/50%RH雰囲気下での飽和吸水状態で行った。
【0037】
【表1】
[図:0001383482000001.jpg]
【0038】
PA6:UBEナイロン1013B
ABS1:サンタックAT-05(日本A&L(株)製)
ABS2:サンタックST-55(日本A&L(株)製)
マレイミドポリマー:スチレン-Nフェニルマレイミド-無水マレイン酸共重合体(スチレン47質量%、Nフェニルマレイミド51質量%、無水マレイン酸2質量%,重量平均分子量145,000)
無水マレイン酸変性ABS:無水マレイン酸4質量%、スチレン43質量%、アクリロニトリル15質量%、ゴム38質量%)
GF1:ガラス繊維ロービング1(繊維径17μm、エポキシシラン系カップリング剤で表面処理したもの)
GF2:ガラス繊維ロービング2(繊維径17μm、アミノシラン系カップリング剤で表面処理したもの)
GF3:ガラス繊維チョップドストランド(繊維径13μm、長さ3mm、エポキシシラン系カップリング剤で表面処理したもの)」

ウ 引用文献1に記載された発明

引用文献1の【0031】には、「表1に示す(C)成分の強化繊維からなる繊維束(約4000本の繊維の束)を・・・クロスヘッドダイに通した。そのとき、クロスヘッドダイには、2軸押出機・・・から溶融状態の表1に示す樹脂を供給し、繊維束に樹脂を含浸させた。その後、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断し、ペレット状(円柱状)の強化繊維束を得た。このようにして得た強化繊維束(本発明の樹脂組成物)は、各繊維が長さ方向にほぼ平行になり、それらが樹脂で一体化されていた。」ことが記載されている(引1g)。

また、同【0037】の【表1】の実施例1には、50質量%の(A-1)PA6「UBEナイロン1013B」と、45質量%の(A-2-1)ABS1「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」と、5質量%の(B)マレイミドポリマーと、を合計100質量%含み、さらに(C)GF1「ガラス繊維ロービング1」を100質量部使用すること、組成物(強化繊維束)の長さが9mmであることが記載されている(引1h)。

ここで、請求項1~2、【0021】の記載(引1a、引1c)を踏まえると、上記(A-1)PA6「UBEナイロン1013B」は(A)成分を構成する(A-1)ポリアミド樹脂であり、上記(A-2-1)ABS1「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」は同じく(A)成分を構成する(A-2)スチレン系樹脂である。そして、【0023】の「(C)成分である強化繊維の組成物中の含有割合は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、8~220質量部が好ましく、20~150質量部がより好ましく、25~120質量部が更に好ましい。」の記載(引1e)から、実施例において、(C)成分であるガラス繊維の組成物中の含有割合である100質量部は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対する値である。

以上の記載からすると、引用文献1には、「(C)成分としてのGF1「ガラス繊維ロービング1」からなる繊維束(約4000本の繊維の束)をクロスヘッドダイに通し、そのとき、(A)成分として(A-1)ポリアミド系樹脂であるPA6「UBEナイロン1013B」50質量%及び(A-2)スチレン系樹脂であるABS1「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」45質量%と、(B)成分としてマレイミドポリマー5質量%とからなる合計100質量%の溶融状態の樹脂を、2軸押出機からクロスヘッドダイに供給し、繊維束に樹脂を含浸させ、クロスヘッドダイ出口の賦形ノズルで賦形し、整形ロールで形を整えた後、ペレタイザーにより所定長さに切断して得られる、各繊維が長さ方向にほぼ平行になり、繊維が樹脂で一体化されているペレット状(円柱状)の強化繊維束であって、(C)成分の含有割合は(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して100質量部である、長さ9mmの強化繊維束」(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

エ 本件補正発明について(ア)対比

そこで、本件補正発明と引用発明Aとを対比する。

引用発明Aの「GF1「ガラス繊維ロービング1」」について、樹脂と一体化した連続繊維が切断されて9mmの長さのペレットが得られたことを踏まえると、ペレットの長手方向とガラス繊維の方向は略一致し、ペレットにおけるガラス繊維の長さはペレット自体と同じ9mm程度と解されるから、引用発明Aの「GF1「ガラス繊維ロービング1」」は本件補正発明の「長さ3~30mmの長繊維」に相当する。

引用発明Aの「樹脂」は本件補正発明の「ポリマーマトリックス」に、引用発明Aの「(A-1)ポリアミド系樹脂であるPA6「UBEナイロン1013B」50質量%」は本件補正発明の「ポリマーマトリックスを基準にして」「30~90重量%の1種以上のポリアミド」に相当する。

引用発明Aの「(A-2)スチレン系樹脂であるABS1「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」」はABS樹脂すなわちアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体であるところ、本願明細書の【0011】における「好ましいエラストマーモノマーとして、・・・最も好ましくはブタジエンである。」との記載からみて、引用発明Aの当該樹脂は本件補正発明の「1種以上の不飽和ニトリル化合物由来モノマー単位及び1種以上のエラストマーモノマー単位を含有する1種以上のスチレンコポリマー」に相当する。

引用発明Aの「強化繊維束」は、二種以上の配合成分が混合された組成物であるから、本件補正発明の「組成物」に相当する。

引用発明Aの「(C)成分の含有割合は(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して100質量部である」は、(A)及び(B)成分からなる樹脂100質量部、(C)成分であるガラス繊維100質量部の合計200質量部を基準にして重量%に換算すると、樹脂50重量%及びガラス繊維50重量%となるから、本件補正発明の「組成物の20~50重量%のポリマーマトリックス」、「組成物の50~80重量%の」「長繊維」に相当する。

なお、引用発明Aの(B)成分である「マレイミドポリマー」や製法に関する発明特定事項は、本願明細書の【0014】、【0019】によると、本件補正発明を具体的に実施するうえで採用可能とされているものである。

そうすると、本件補正発明と引用発明Aとは、

「ポリマーマトリックスを基準にして、1種以上の不飽和ニトリル化合物由来モノマー単位及び1種以上のエラストマーモノマー単位を含有する1種以上のスチレンコポリマーと、30~90重量%の1種以上のポリアミドとを含む、組成物の20~50重量%のポリマーマトリックスに分散された、組成物の50~80重量%の長さ3~30mmの長繊維を含む組成物。」

で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)

ポリマーマトリックスを基準にしたスチレンコポリマーの含有量が、本件補正発明では「10~40重量%」であるのに対し、引用発明Aでは「45質量%」である点

(相違点2)

スチレンコポリマーについて、本件補正発明では「220℃及び10kgにおいて測定される試験法ISO1133に従って求められる6以上のメルトフローレートを示し」と特定されているのに対し、引用発明Aではメルトフローレートが特定されていない点

(相違点3)

スチレンコポリマーについて、本件補正発明では「5~20重量%のエラストマーモノマー単位を含有する」と特定されているのに対し、引用発明Aではエラストマーモノマー単位の含有量が特定されていない点

(イ)判断

a 相違点1について

引用文献1では、(A)成分として、(A-1)成分と(A-2)成分を併用するときには、(A-1)成分のポリアミド系樹脂の方が、(A-2)成分のスチレン系樹脂の含有量よりも多いことが望ましいこと、具体的に(A-1)成分と(A-2)成分の合計量中、(A-2)成分の含有割合は50~5質量%が好ましいことが記載されているから(引1e)、実施例に記載されている含有量を、ポリアミド系樹脂が多く、スチレン系樹脂が少なくなるように適宜変更し、各成分の配合割合を調整することは引用文献1において予定されているものと認められる。

そして、引用文献1の実施例1におけるスチレン系樹脂の含有量である45質量%に近接する40質量%や40質量%を若干下回る配合量の採用を阻害する事由の存在も引用文献1の記載から窺うことはできず、この採用により、組成物を用いた成形体に望まれる機械的性質や低吸水性、及び最終的な用途(引1b、引1f)に特段悪影響を及ぼすとも認められない。

そうすると、引用発明Aにおいて、(A-1)成分であるポリアミドの含有量を増やすとともに(A-2)成分であるスチレン系樹脂の含有量を減らして、相違点1として挙げた本件補正発明1の発明特定事項である「スチレンコポリマーの含有量」として「10~40重量%」に至ることは、当業者が容易に想到し得たことである。

b 相違点2及び3について

引用発明Aの「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」の製造会社が発行しているカタログによると、「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」は、220℃及び10kgにおいて測定される試験法ISO1133に従って求められるメルトフローレートが58であるとされているから(ABS樹脂 基本物性表、[平成29年12月13日検索]、インターネット<URL: http://www.n-al.co.jp/abs/abs_pdf/abs_busseihyou05.pdf>)、引用発明Aの「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」は、本件補正発明の規定する「220℃及び10kgにおいて測定される試験法ISO1133に従って求められる6以上のメルトフローレート」を満たしている。

また、「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」のエラストマーモノマー単位の含有量については、米国特許第8957144号明細書に「20%」(第5欄第13~14行参照)、国際公開第2015/122492号には「14質量%」([0107]参照)、特開2000-211403号公報には「12~13%」(【0026】参照)との記載があり、出典により数値が若干上下するものの、「20重量%以下」である点では共通している。

そうすると、令和2年11月18日付けの上申書における審判請求人による「米国特許第8,957,144号明細書には、「サンタックAT-05」はゴム量が20%であるABS樹脂であることが明確に記載されています」との主張を考慮しても、相違点2及び3として挙げた本件補正発明1の発明特定事項である「6以上のメルトフローレート」、「5~20重量%のエラストマーモノマー単位」は、いずれも、引用発明Aの「サンタックAT-05(日本A&L(株)製)」が有しているものと認められるので、当該相違点2及び3は実質的な相違点ではない。

(ウ)本件補正発明の効果について

本願明細書には、本件補正発明の「組成物」に対応する「本発明のポリマーマトリックスに分散された繊維の濃縮物」について、「改良されたペレット堅牢性及び流動性を付与」することが記載されており(【0008】)、特に、ペレット堅牢性を裏付けるものとして、実施例においてポリマーマトリックスの組成を変化させた実施例0、参考例1、実施例2~4の組成物と、各組成物を評価するための試験方法及び測定された数値(cm単位)が開示されている(【0026】~【0029】、表1~2)。

ここで、「ペレット堅牢性」について精査するに、本願明細書の【0003】によれば、繊維によって修飾されているポリマー系を開示する公知の文献を挙げて「かかる系は、かかる材料の加工を課題にするペレット堅牢性、例えば、繊維に対するポリマーマトリックスの低い付着性、及び低い流動性による問題に起因して商業的な成功に達していない。」と説明されている。そして、上記公知の文献をみても「ペレット堅牢性」の文言がないことから、「ペレット堅牢性」とは本願明細書の【0003】の記載を踏まえると、繊維に対するポリマーマトリックスの付着性が低くない、といった意味と解することが妥当である。

一方、引用発明Aは、本件補正発明と同様に、「PA6」と「ABS1」を樹脂中に含み、本願明細書の【0019】に記載されたものと同じ方法で、「各繊維が長さ方向にほぼ平行になり、繊維が樹脂で一体化されているペレット状(円柱状)の強化繊維束」が得られるものであるから、引用発明Aの「繊維が樹脂で一体化されているペレット状(円柱状)の強化繊維束」は、樹脂が繊維に対して一定程度付着したもの、すなわち、改良されたペレット堅牢性を備えたものと当業者は解することができる。

また、本願明細書の実施例において、ポリマーマトリックスに分散された繊維の濃縮物の流動性は、試験に付されていないので、本件補正発明が、如何なる程度の流動性を意図したものか判然としないが、本願明細書の【0013】には、濃縮物の流動性は、ペレット堅牢性と共に、ポリアミドを配合することにより向上することが記載されている。

しかるところ、引用発明Aの「繊維が樹脂で一体化されているペレット状(円柱状)の強化繊維束」は、本件補正発明と同様に、樹脂中にポリアミドを50質量%含むものであるところ、流動性は、樹脂を含有する組成物を成形等に供する際に通常求められる特性であるから、引用発明Aの「繊維が樹脂で一体化されているペレット状(円柱状)の強化繊維束」が、一定程度の流動性を備えることは、当業者が認識できたものと認められる。

以上のことから、引用発明Aとはスチレンコポリマーの含有量において、5質量%程度で異なるに過ぎない本件補正発明が、引用発明Aに対して、当業者の予測を超える格別顕著な効果を有しているとは認められない。

(エ)審判請求人の主張について

a 審判請求人は、令和2年11月18日に提出された上申書において、「本願発明は引用文献1にも引用文献2にも記載されていない課題を解決するもの、すなわち本願発明は改良されたペレット堅牢性及び流動性を示す組成物を提供するものでありますので、当業者が、引用文献1に記載された樹脂組成物を変更して本願請求項1に係る発明に至ることを動機づけられたとは考えられません。」と主張する。

しかしながら、そもそも本願の発明の課題とされる「ペレット堅牢性」及び「流動性」は、上記(ウ)で述べたように引用発明Aも同様に備えている性質と解され、本件補正発明が引用文献1で認識され得ない課題を解決するものではない。

そして、上記(イ)aで述べたとおり、引用文献1には、ポリアミド系樹脂とスチレン系樹脂とからなる(A)成分の樹脂において、スチレン系樹脂の比率をポリアミド系樹脂より少なく配合することが示唆されているのであるから、上記課題を認識すると否とに関わりなく、引用発明Aにおいて樹脂におけるスチレン系樹脂の比率を5質量%程度低減して本件補正発明の組成に変更することは当業者にとって容易に想到し得たというべきである。

b 審判請求人は、令和2年11月18日に提出された上申書において、「本願請求項1に規定されているとおりのエラストマーモノマー単位含有量を有するスチレンコポリマーを含む組成物により優れたペレット堅牢性が達成されることは、本願明細書の実施例に実証されています。」として、「本願請求項1~6に係る発明の新規性、進歩性をさらに明らかにする趣旨で、本願請求項1における「前記1種以上のスチレンコポリマーが、5~20重量%のエラストマーモノマー単位を含有する」の記載を・・・『前記1種以上のスチレンコポリマーが、5~15重量%のエラストマーモノマー単位を含有する』に補正する機会を与えて下さるようお願い申し上げます。」と主張して、補正案を提示している。

しかしながら、当該補正案により本件補正発明における当該エラストマーモノマー単位の含有量の上限が「20重量%」から「15重量%」に減縮されたとしても、依然として、進歩性の拒絶理由は解消しないと当審では判断する。具体的な判断の根拠について以下に述べる。

引用発明Aにおけるスチレンコポリマーのエラストマーモノマー単位の含有量は、上記(イ)bで示した出典のうち国際公開第2015/122492号又は特開2000-211403号公報を採用するならば15重量%を下回ると認められるから、上記補正案による減縮によって新たな相違点は生じない。

加えて、以下で示すとおり、15重量%以下のエラストマーモノマー含有量のABS樹脂は、本願の出願日以前において、ごく一般的なものであったと認められる。

例えば、特開2001-192489号公報には「【0023】ABS樹脂は、ポリスチレン(PS)の改質の目的で、PSをアクリロニトリル(AN)及びポリブタジエン(B)で共重合変性したもので、AN含有量が一般に20乃至40重量%、特に25乃至35重量%、及びポリブタジエンの含有量は、一般に5乃至70重量%、特に10乃至30重量%の範囲にあるのものが入手容易である。」と記載されており、また、ABS樹脂の組成と物性(1)、東洋曹達研究報告、1971年発行、第15巻、第1号、第42~48頁、[令和3年10月27日検索]、インターネット<URL: https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/71-042.pdf>において、特にTable2に市販ABS樹脂の組成が列挙され、エラストマーモノマーであるブタジエンの含有量を意味する「BT」の欄が15以下のものが多数存在することが読み取れる。

そして、引用文献1の記載(引1d)をみても使用可能なABS樹脂に特段の制限はないと解するのが自然であるから、上記のとおりの一般的なABS樹脂を引用発明Aで採用し、結果的に15重量%以下のエラストマーモノマー含有量のABS樹脂を用いた発明に至ったとしても、このことが当業者の通常の創作能力の域を出るものとは認められない。

そして、本願明細書の実施例(【0026】~【0029】、表1~2)には、樹脂組成物における配合比の変化によるペレット堅牢性への影響を試験により評価した旨が示されているものの、全てのサンプルでスチレンコポリマーとしては同一の「ABS 28MFR」のみが使用されていることから、スチレンコポリマー中のエラストマーモノマー単位の含有量が少ないことによるペレット堅牢性への影響は当該実施例から客観的にうかがい知ることができない。

以上のとおり、当該補正案によっても、本件補正発明に対する進歩性の拒絶理由は解消しないから、補正の機会を与える必要性があるとはいえない。

(3)小括

したがって、本件補正発明は、引用発明A、すなわち、本願の出願日前に、日本国内で頒布された引用文献1に記載された発明と引用文献1に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

以上のとおり、本件補正は却下されたため、本願の請求項1ないし15に係る発明は、令和1年6月12日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1において、補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項は、上記第2の2(2)イに記載したとおりである。

そして、引用文献1には、第2の2(2)ウに記載されたとおり、引用発明Aが記載されている。

4 対比及び検討

本願発明は、上記第2の2(2)エで検討した本件補正発明の「前記1種以上のスチレンコポリマーが、5~20重量%のエラストマーモノマー単位を含有する」との発明特定事項を有しないものである。

そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2の2(2)エで述べたように、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2020-003434

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