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特許拒絶査定不服審判

2025-000917

セルロース微細繊維強化ポリアミド樹脂成形体

審判番号
2025-000917
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2023-022552
請求日
2025年01月22日
審決日
2026年06月02日
公報発行日
2026年08月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】旭化成株式会社
  • 【請求人代理人】青木 篤
  • 【請求人代理人】三橋 真二
  • 【請求人代理人】中村 和広
  • 【請求人代理人】齋藤 都子
  • 【請求人代理人】三間 俊介
審判長/審判官
  • 審判長 岩田 行剛
  • 審判官 越本 秀幸
  • 審判官 藤井 勲
分類
P18 .113-Z (C08L) / P18 .121-Z (C08L) / P18 .537-Z (C08L) / P18 .538-Z (C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2023- 22552「セルロース微細繊維強化ポリアミド樹脂成形体」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 4月12日出願公開、特開2023- 53377〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和2年10月30日(優先権主張 令和1年10月30日)を国際出願日とする出願(特願2021-553739号;以下「原出願」という。)の一部を、令和5年2月16日に新たな特許出願としたもの(特願2023-22552号)であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和5年 8月23日提出:上申書、手続補正書 令和6年 6月21日付け:拒絶理由通知書 同年 8月29日提出:意見書、手続補正書 同年10月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和7年 1月22日提出:審判請求書、手続補正書 第2 本願の請求項に係る発明 本願の請求項1~5に係る発明は、令和7年1月22日提出の手続補正書により補正されたもので、補正前の請求項2、3を削除し、請求項の削除を目的とする適法な補正であり、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)ポリアミド樹脂と、 (B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、セルロース微細繊維と、 (C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000であり、親水性セグメントとしてオキシエチレンユニットを有する、分散剤と、 を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、 前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす、ポリアミド樹脂成形体。」 第3 分割要件の適否 上記第1に示したように、本願は分割出願であることから、分割要件の適否について検討する。 (1)原出願の記載事項 原出願に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面には、セルロース微細繊維強化ポリアミド樹脂成形体について、以下の事項が記載されている(なお、原出願は補正することなく特許査定されたものであって、出願当初と分割直前の特許請求の範囲、明細書及び図面は同一であるから、国際公開第2021/085630号(原出願の国際公開公報)に基づいて摘記する。)。 「[請求項1] (A)ポリアミド樹脂と、 (B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維と、 (C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である、分散剤と、 を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、 前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす、ポリアミド樹脂成形体。 ・・・ [請求項5] (C)分散剤のHLB値が0.1以上、8.0未満である、請求項1又は4に記載のポリアミド樹脂成形体。」(特許請求の範囲) 「[0002] ポリアミド樹脂は、耐熱性が高く、耐薬品性、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、摺動性、熱安定性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種無機材料をコンポジットしたものが一般的に用いられている。 [0003] ポリアミド樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等の無機充填剤である強化材料で強化した樹脂組成物は、高い機械特性と耐摩耗特性とを有するため、各種摺動部品に用いられることが多い。例えば特許文献1には、特定範囲の数平均分子量を有するポリアミド66に対して、平均繊維径4~8μmのガラス繊維を特定比率で配合したポリアミド樹脂組成物を記載する。しかし、ガラス繊維のような無機充填剤は比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。また、ガラス繊維を含むポリアミド樹脂組成物は、アブレージョン摩耗特性が悪く、摺動する相手材を摩耗させてしまう問題がある。また、射出成形後の成形収縮率、及び熱線膨張係数が大きいため、例えば樹脂製ギアで用いた場合、許容される寸法公差を超えてしまい、噛み合い時に異音が発生するという課題、及び、特定の歯の一部に大きな荷重がかかり、変形して破損するといった課題もあった。そこで近年、樹脂の新たな強化材料として、環境負荷の低く、低比重なセルロースが検討されるようになってきている。 [0004] セルロースは、その単体特性として、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数を有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な熱可塑性樹脂の補強材として使用されるガラス(密度2.4~2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。 [0005] セルロースは、樹木を原料とするもののほか、麻・綿花・ケナフ・キャッサバ等を原料とするもの等多岐にわたっている。・・・セルロースの原料となるこれらの天然資源は地球上に大量に存在し、これらの有効利用のために、樹脂中にセルロースをフィラーとして活用する技術が注目を浴びている。 [0006] セルロース微細繊維(以下、CNFと称することがある)は、パルプ等を原料とし、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等といった粉砕法により解繊することにより得られるものであり、水中において、ナノ分散と呼ばれるレベルの高度に微細な分散状態、及びネットワークを形成していることが知られている。 [0007] 樹脂中にセルロース微細繊維を配合するためには、セルロース微細繊維を乾燥し粉末化する必要があるが、セルロース微細繊維は水と分離する過程で微分散状態から強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある。この凝集力はセルロースが持つ水酸基による水素結合により発現されており、非常に強固であると言われている。 [0008] そのため、十分な性能を発現させるためには、セルロースが持つ水酸基による水素結合を緩和する必要がある。また水素結合の緩和を十分に実現できても、解繊された状態(ナノメートルサイズ(すなわち1μm未満))を樹脂中で維持することは困難である。 [0009] 特許文献2には、表面の水酸基を疎水基で置換したセルロースを用いた摺動性樹脂組成物が記載されている。また特許文献3には、ギアの表面に最小太さが1μm以上のセルロース凝集塊を含む熱可塑性樹脂からなるギア成形体が記載されている。」 「[0011] 特許文献2では、長鎖脂肪酸基に疎水変性したセルロースとポリオキシメチレン、ポリプロピレン又はポリエチレンとのコンパウンド品からなる成形体の摺動性を、比較的一般的な摺動試験であるピンオンディスク試験で評価しているが、10000回を超える往復摺動試験を行った場合は、摺動特性は不十分で、摩擦係数が悪化、摩耗量が増大する課題があった。 また、特許文献3に記載の樹脂ギアは、その成形品表面に1μmを超えるセルロース凝集体が存在するため、10000回を超える往復摺動試験、例えばピンオンディスク試験を行った場合に、往復摺動の早い段階で、ピンが凝集体を引きずり摩耗が著しく悪化する問題があった。また、セルロース微細繊維が均一に分散していないため、熱線膨張係数が大きく成形品の寸法安定性にも課題があった。 [0012] つまり従来技術では、摺動部品用途において、高い機械特性及び寸法精度に加え、低摩擦係数、低摩耗及び/又は低アブレージョン摩耗を満足するような成形体は提供されておらず、これら特性の改良が要望されていた。 本発明の一態様は、上記の課題を解決し、高い機械特性及び寸法精度と、低摩擦係数、低摩耗及び/又は低アブレージョン摩耗とを両立可能で、例えば摺動部品用として好適な、ポリアミド樹脂成形体を提供することを目的とする。」 「[0013] 本開示は以下の態様を包含する。 [1] (A)ポリアミド樹脂と、 (B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維と、 (C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である、分散剤と、 を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、 前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす、ポリアミド樹脂成形体。 [2] (A)ポリアミド樹脂と、 (B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維と、 を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、 示差走査熱量計(DSC)を用い、前記ポリアミド樹脂成形体を融点(Tm)+25℃まで10℃/分で昇温し、3分間保持した後、10℃/分で降温させたときの結晶化ピークの半値幅である降温結晶化ピーク半値幅が、6.0℃以下である、ポリアミド樹脂成形体。 [3] 前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす、上記態様2に記載のポリアミド樹脂成形体。 [4] (C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である分散剤、を更に含む、上記態様2又は3に記載のポリアミド樹脂成形体。 [5] (C)分散剤のHLB値が0.1以上、8.0未満である、上記態様1又は4に記載のポリアミド樹脂成形体。 [6] (B)化学修飾されたセルロース微細繊維の平均化学修飾度が0.3~1.2である、上記態様1~5のいずれかに記載のポリアミド樹脂成形体。 [7] (B)化学修飾されたセルロース微細繊維がエステル化セルロース微細繊維である、上記態様1~6のいずれかに記載のポリアミド樹脂成形体。 [8] (A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I、ポリアミド6,10、及びこれらの2種以上の共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記態様1~7のいずれかに記載のポリアミド樹脂成形体。 [0014] 本発明の一態様によれば、高い機械特性及び寸法精度と、低摩擦係数、低摩耗及び/又は低アブレージョン摩耗とを両立可能で、例えば摺動部品用として好適な、ポリアミド樹脂成形体が提供される。 ・・・ [0017] 本発明の一態様は、 (A)ポリアミド樹脂と、(B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維(本開示で、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維、又は(B)セルロース微細繊維ともいう。)とを含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体を提供する。一態様において、当該ポリアミド樹脂組成物は、(C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である、分散剤(本開示で、(C)分散剤ともいう。)を更に含む。 [0018] 一態様においては、ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす。本開示で、ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下で23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。一方、結晶化温度(Tc)は、同様に示差走査熱量計(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で前述の(Tm)よりも25℃高い温度まで昇温していき、その温度で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温した際に、現れる発熱ピークのピークトップ温度を指す。発熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の発熱ピークのピークトップ温度を指す。なお上記の吸熱ピーク及び発熱ピークのエンタルピーは、それぞれ、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。Tm-Tcは、ポリアミド樹脂成形体の結晶化速度を表す指標であり、Tm-Tcが大きいほど結晶化速度が遅いことを示す。Tm-Tcは、(A)ポリアミド樹脂の種類、(B)セルロース微細繊維の化学修飾、及びその置換度、(C)分散剤の種類等により制御可能である。Tm-Tc≧30℃の条件を満たすような結晶化速度によれば、成形品表面への化学修飾微細繊維の露出を低減でき、成形品の成形収縮率を抑え、且つ高弾性、低熱線膨張性、低摩擦係数及び低摩耗性の樹脂成形体を得ることができる。 [0019] Tm-Tc≧30℃であることにより、(B)セルロース微細繊維が(A)ポリアミド樹脂中に均一に分散し、且つポリアミド樹脂成形体表面への(B)セルロース微細繊維の露出が抑制され、優れた機械特性、寸法安定性、及び摺動特性が得られる。Tm-Tc≧40℃であることがより好ましく、Tm-Tc≧50℃であることが最も好ましい。また、成形加工性の観点からTm-Tc≦120℃であることが好ましく、Tm-Tc≦100℃であることがより好ましく、Tm-Tc≦80℃であることが最も好ましい。」 「[0041] ≪(B)セルロース微細繊維≫ (B)セルロース微細繊維は、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維である。 [0042] 「化学修飾されたセルロース微細繊維」(本開示で、「化学修飾微細繊維」ということもある。)とは、セルロースの骨格中の水酸基の少なくとも一部が修飾されているセルロース微細繊維を意味する。典型的な態様において、セルロース全体は化学修飾されておらず、化学修飾微細繊維は化学修飾前のセルロース微細繊維の結晶構造を保持している。例えば、化学修飾微細繊維をXRDで分析したときに、セルロースI型とセルロースII型とのいずれか又は両者の結晶構造を確認できる。 [0043] 本実施形態の化学修飾微細繊維、及び樹脂複合体中の化学修飾微細繊維の重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース微細繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでは十分な耐熱性が達成できず、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に高耐熱性のセルロース微細繊維、及びセルロース微細繊維と樹脂との樹脂複合体が得られる。一方、セルロース微細繊維の耐熱性が十分でない場合は、ポリアミド樹脂と溶融混練される際に、分解ガスが多量に発生し、セルロース微細繊維のポリアミド樹脂中の均一分散を阻害し、且つセルロースの炭化及び/又は黄変を誘発する。化学修飾微細繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、化学修飾微細繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。 ・・・ [0051] セルロース微細繊維の化学修飾のために用いる修飾化剤がアルカリ可溶多糖類との副反応で消費され、副反応物が化学修飾後のセルロース微細繊維中に残存することもあるため、セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類は少ない方が好ましい。このような観点から、セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。 ・・・ [0062] 本実施形態の化学修飾微細繊維は、一態様において結晶化度が60%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、化学修飾微細繊維自体の力学物性(特に強度及び寸法安定性)が高いため、化学修飾微細繊維を樹脂に分散してなる樹脂複合体の強度及び寸法安定性が高い傾向にある。また、結晶化度が高いことは非晶の量が少ないことを意味しており、非晶が熱による劣化の起点になりうることに鑑みれば、耐熱性の観点からも結晶化度が高い方が望ましい。 ・・・ [0068] 本実施形態の化学修飾微細繊維は、セルロース微細繊維の表面のセルロース分子の水酸基がセルロース修飾化剤により化学修飾されたものである。かかる化学修飾は、好ましくはエステル化、より好ましくはアセチル化である。 ・・・ [0070] 化学修飾微細繊維の原料となるセルロースとしては、広葉樹又は針葉樹から得られる木材パルプ、非木材種からの精製パルプ(すなわち非木材パルプ)等の天然セルロース及び再生セルロースが使用できる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ(例えば精製リンター)、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等を使用できる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプは各々、コットンリント、コットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のものが多い)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。また、天然セルロースとしては、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等を起源としたセルロース繊維集合体も使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)のカット糸等、セルロース誘導体繊維のカット糸等、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。 ・・・ [0087] 天然セルロース原料をセルロース微細繊維とするために最大繊維径を小さくする方法としては、特に制限はないが、解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)をより高効率にすることが好ましい。特に、非プロトン性溶媒を含む解繊用溶液を、セルロース原料(例えばセルロース純度が85質量%以上のセルロース原料)に含浸させることで、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけでセルロースが微細化していく。そして、解繊直後にセルロース修飾化剤を加えることにより、化学修飾微細繊維を得ることができる。この方法が、生成効率及び精製効率(すなわち化学修飾微細繊維の高セルロース純度化)、並びに樹脂複合体の物理特性の観点から好ましい。 ・・・ [0093] 化学修飾微細繊維の原料が非プロトン性溶媒中で膨潤する際、非プロトン性溶媒が原料を構成するフィブリルに素早く浸透し膨潤することでミクロフィブリル同士が微解繊状態となる。この状態を作り出した後、化学修飾を行うことで微細繊維の全体で均質にアセチル化が進行し、結果として高い耐熱性を獲得しているものと推察される。さらに、このミクロフィブリル化された化学修飾微細繊維は高い結晶化度を維持しており、樹脂と複合したときに高い機械特性、摺動特性と優れた寸法安定性(特に、線熱膨張率の著しい低下)を獲得することができる。 ・・・ [0097] 本実施形態の化学修飾微細繊維の平均化学修飾度は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾微細繊維の水酸基の平均置換度(DS)は、0.3~1.2が好ましく、より好ましくは0.5~1.1である。耐熱性の観点から、平均置換度は高い方が望ましいが、平均置換度が高すぎると、微細繊維の結晶化度が低下して微細繊維の力学的強度の低下につながり、且つ平均置換度の高いセルロースが繊維表面に析出し、接着剤のようにふるまうことで繊維の凝集を誘発し、成形品の物性及び寸法安定性が低下させるおそれがある。また、平均置換度を0.3以上とすることは、ポリアミド樹脂中に化学修飾微細繊維をより均一分散させる効果、及び、ポリアミド樹脂成形体中のポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させるとともに、球晶を均一化且つ微細化する効果を発現するため、化学修飾微細繊維の巨大凝集塊の形成を抑制すると共に成形品表面への化学修飾微細繊維の露出を抑制し、寸法安定性が高く、高弾性、低摩擦係数及び低摩耗性の成形体の提供に寄与する。 ・・・ [0107] 一態様において、ポリアミド樹脂組成物中及び樹脂成形体中の(B)化学修飾されたセルロース微細繊維の含有量は、それぞれ、好ましくは、1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、好ましくは、40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下である。」 実施例では、化学修飾度されていないセルロース微細繊維と分散剤との混合粉体1を用いた比較例1が、Tm-Tcが28℃であり、物性に劣る評価であることが示されている(表1)。 (2)原出願の優先日時の技術常識 原出願の優先日時の技術常識について、考察する(英語論文のため、当審訳による。)。 ア T. Sembaら、Themoplastic Composites of Polyamide-12 Reinforced by Cellulose Nanofibers with Cationic Surface Modification、J. Appl. Polym. Sci. 2014、131. 当該論文は、「陽イオン性表面修飾を施したセルロースナノファイバーで強化したポリアミド12の熱可塑性複合材料」と題するものであって、「INTRODUCTION(序論)」には、セルロースナノファイバー(CNF)で強化されたバイオベースのポリマー複合材料が着目されていること(1頁/全9頁、左欄16行~18行)、CNFの表面処理と高分子加工技術を組み合わせることにより、優れた機械的特性を有する軽量熱可塑性高分子複合材料の作製について検討すること(1頁/全9頁、右欄9行~13行)、凍結乾燥したCNFは数十ナノメートルから数マイクロメートルの範囲にわたる、微細でフィブリル化した構造が観察され(図2)、 このような微細構造の存在は、ポリマーと混合する際に一般に凝集を引き起こしやすいため、凝集を最小限に抑える目的で、フィラー表面の前処理が有効である場合が多いこと(3頁/全9頁、右欄11行~17行)が記載されている。 イ A. Leszczyn´skaら, Biocomposites of polyamide 4.10 and surface modified microfibrillated cellulose (MFC): influence of processing parameters on structure and thermomechanical properties, Cellusose, 2015,2251-2569 当該論文は、「表面改質ミクロフィブリル化セルロース(MFC)強化ポリアミド4.10系バイオコンポジットにおける成形加工条件が構造および熱機械特性に及ぼす影響」と題するものであって、「Introduction(序論)」には、サブミクロンおよびナノメートルサイズの天然フィラーの中でも、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)及びナノフィブリル化セルロース(NFC)は、高い補強効果と優れたバリア特性を併せ持つ材料であること、これらのフィラーは強い親水性を有するため、ポリマー/MFC複合材料においては界面接着性が不十分となる場合が多く、その結果、フィラーの良好な分散や変形時における効率的な応力伝達が達成されにくいこと、近年、MFC及びNFCの表面改質に関する多くの手法が開発されており、これらの手法はポリマー中での分散性を大きく向上させるとともに、界面接着性を強化することで、より優れた機能特性を発現させること(2552頁左欄9行~22行)が記載されている。 ウ T. Sembaら, Biocomposites Composed of Polyamide 11 and Cellulose Nanofibers Pretreated with a Cationic Reagents, Nihon Reoroji Gakkaishi, 2017, Vol.45, No.1, 39-47 当該論文は、「カチオン性試薬で前処理されたセルロースナノファイバーを含有するポリアミド11系バイオ複合材料」と題する論文であって、「1. INTRODUCTION(序論)」には、セルロースナノファイバー(CNF)は、ナノフィブリル化及び高分子との複合化の過程において克服すべき課題も存在し、植物細胞壁中では、セルロース分子が強固な分子間水素結合によって結び付けられ、複雑かつ強靭な構造を有するCNFを形成していること(39頁右欄最下行~40頁左欄5行)、PA11が本来有する耐薬品性、トライボロジー特性(摩擦・摩耗特性)、耐低温衝撃性といった有用な特性を維持しつつ、耐熱性、弾性率および強度を向上させたCNF強化PA11複合材料を開発し、これらの複合材料はバイオマテリアルから調製されており、適切なカチオン性試薬を用いた表面改質によってCNFの凝集が抑制されていること(40頁左欄22行~28行)、「2.1.2 Surface modification of CNFs(セルロースナノファイバーの表面改質)」には、CNFのカチオン性化合物による表面改質には、CNF同士の水素結合を抑制することから、ポリマーマトリックスとの混練時におけるCNFの凝集を防止する効果も有すると予測されること(40頁右欄11行~14行)が記載されている。 これらの論文から、原出願の優先日時には、セルロースナノファイバーは、そのまま使用すると水素結合により凝集してしまうため、樹脂中への均一な分散を促すことを目的に表面処理(表面改質)を行うことが技術常識であったと認められる。 (3)本願発明における分割要件の適否について 原出願から本願へ分割出願した後、令和5年8月23日提出の手続補正書により、本願発明における「(B)」「セルロース微細繊維」は、原出願の請求項1の「(B)」「化学修飾されたセルロース微細繊維」から「化学修飾された」という発明特定事項が削除されたものである。 そこで、「化学修飾された」という発明特定事項が削除されたことが、分割の実体的要件を満たすものか否か検討する。 上記(1)の摘記事項に基づくと、原出願における請求項1では、(A)ポリアミド樹脂、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維、(C)分散剤を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化速度(Tc)がTm-Tc≧30℃・・・(1)(以下「Tm-Tcの関係」という。)を満たすことが特定されている。 そして、ポリアミド樹脂は物性に優れ、多方面に広く使用されているが、樹脂単体では物性として不十分である場合があり([0002])、樹脂に強化材料として無機充填剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等)をコンポジットしたものが一般的に用いられてきたこと([0003])、無機充填材を採用したことにより物性が向上した反面、無機充填剤は比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなり、アブレージョン摩耗、射出成形後の成形収縮率や熱膨張係数が大きいなどの問題があったこと([0003])、そこで新たな強化材料として環境負荷が低く、低比重なセルロースが着目され、樹脂中にセルロースをフィラーとして活用する流れになったこと([0004])、セルロース微細繊維(CNF)は水中においてナノ分散するが、樹脂中にCNFを配合するためには、セルロース微細繊維を乾燥し粉末化する必要があり、CNFは水と分離する過程で微分散状態から強固な凝集体となってしまい、再分散しにくいといった課題があること([0007])、そのため十分な性能を発現させるために、セルロースが持つ水酸基による水素結合を緩和する必要があり、水素結合の緩和を十分に実現できても、解繊された状態を樹脂中で維持することが困難であったこと([0008])、これらを踏まえて、本願発明の解決すべき課題が、高い機械特性及び寸法精度と、低摩擦係数、低摩耗及び/又は低アブレージョン摩耗とを両立可能で、例えば摺動部品用として好適な、ポリアミド樹脂成形体を提供すること([0012])であると認められる。 そこで、上記課題を解決するために、(A)ポリアミド樹脂と、(B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維と、(C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である、分散剤と、を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1):Tm-Tc≧30℃・・・(1)の関係を満たす、ポリアミド樹脂成形体とすることによって([0013])、高い機械特性及び寸法精度と、低摩擦係数、低摩耗及び/又は低アブレージョン摩耗とを両立可能で、例えば摺動部品用として好適な、ポリアミド樹脂成形体を提供すること([0014])が理解できる。 次いで、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維を、本開示では(B)セルロース微細繊維ともいうこと([0017])、(A)ポリアミド樹脂、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維、(C)分散剤を含むポリアミド樹脂組成物から構成されたポリアミド樹脂成形体において、該ポリアミド樹脂成形体がTm-Tcの関係を満たすことにより、上記課題を解決することが理解できること([0018])、上記Tm-Tcの関係を満たすためには、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース微細繊維の化学修飾及びその置換度、(C)分散剤の種類等により制御可能であり([0018])、上記Tm-Tcの関係を満たすことで、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維が(A)ポリアミド樹脂中に均一に分散し、かつポリアミド樹脂成形体表面への(B)化学修飾されたセルロース微細繊維の露出が抑制され、優れた機械特性、寸法安定性、及び摺動特性が得られること([0019])が理解できる。 さらに、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維として、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維を用いることで([0041])、適度な化学修飾度を有するセルロース微細繊維がポリアミド樹脂中に均一に分散することが可能となり、その結果として化学修飾微細繊維の露出を抑制し、寸法安定性が高く、高弾性、低摩擦係数及び低摩耗性の成形体の提供に寄与すること([0097])が理解できる。 以上のことを勘案すれば、化学修飾されていないセルロース微細繊維は、水素結合により凝集しやすく、樹脂中に再分散しにくいが、セルロースが持つ水酸基による水素結合を緩和するために、化学修飾すれば上述の不都合を解消できることに着目して、原出願では、(B)セルロース微細繊維として、(B)化学修飾されたものを用いることが前提となっており、その前提のもとに、(A)ポリアミド樹脂の種類、(B)セルロース微細繊維の化学修飾及びその置換度、(C)分散剤の種類を調整することによって、(B)セルロース微細繊維が(A)ポリアミド樹脂中に均一に分散した状態となり、Tm-Tcが特定の関係を満たすものが原出願の発明であると認められる。 しかも、上記(2)に示した、樹脂中への均一な分散を促すことを目的にセルロース微細繊維の表面処理(表面改質)を行うという原出願の優先日時点での技術常識を加味すれば、化学修飾されていないセルロース微細繊維では樹脂中で凝集してしまい、均一な分散状態が得られずに、上記課題における諸物性及び耐摩耗性に寄与できないといえるから、原出願には、化学修飾度されていないセルロース微細繊維を含むポリアミド樹脂組成物から構成されるポリアミド樹脂成形体が記載されていたとはいえない。 このことは、原出願の実施例において、化学修飾されていないセルロース微細繊維を用いたものが比較例1として、上記Tm-Tcの関係を満たさず、諸物性及び耐摩耗性に関して劣る評価しか得られなかったことが示されていたこととも整合する。 したがって、本願発明であるポリアミド樹脂成形体は、「(A)ポリアミド樹脂」、「(B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、セルロース微細繊維」、「(C)分散液」を含むポリアミド樹脂組成物で構成されるものであるところ、上記ポリアミド樹脂組成物が、「(B)」化学修飾されていない「セルロース微細繊維」を含むことまでは、原出願に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面に記載されていない。 また、「(B)」化学修飾されていない「セルロース微細繊維」を含むポリアミド樹脂組成物は、原出願に添付された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて自明の事項でもない。 よって、本願発明は分割の実体的要件を満たさない。 (4)請求人の主張に対して 請求人は、令和7年1月22日に提出した審判請求書において、セルロース微細繊維において以下のとおりの主張をしている。 ア セルロース微細繊維を化学修飾することの技術的意義は、当該セルロース微細繊維の分散性制御にあり、本願発明(請求項1に係る発明)である成形体がTm-Tcを満たすところ、本願明細書段落0018では、Tm-Tcが、「(A)ポリアミド樹脂の種類、(B)セルロース微細繊維の化学修飾及びその置換度、(C)分散剤の種類等により制御可能」であると記載し、化学修飾がTm-Tc実現の有用な手段であっても必須とは限らないことを教示しており、化学修飾の有無それ自体が本質ではないこと(以下「主張1」という。)。 イ 化学修飾されていないセルロース微細繊維でも本願発明の課題を解決するものであり、本願発明はセルロース微細繊維が結晶性樹脂に対して結晶核剤のように作用することに着目しており、樹脂種、セルロース微細繊維の化学修飾の有無、分散剤の選択、といった手段で結晶化挙動を制御するものであって、その例示として、実施例における比較例1(化学修飾されていないセルロース微細繊維)から実施例1~5へと化学修飾度が高くなるにしたがって、Tm-Tcが大きくなる傾向にあること(表A)、ポリアミドの樹脂種を実施例3(ナイロン6)から実施例10~15のように、樹脂種の違い又はブレンド(結晶性が低い樹脂のブレンドなど)により、Tm-Tcが大きくなる傾向にあること(表B)から、化学修飾以外(樹脂種の変更等)でTm-Tcの関係を満たすことは可能であること(以下「主張2」という。)。 そこで、検討する。 ア 主張1について 上記(3)に示したように、Tm-Tcの関係を論じる前提が、「(A)ポリアミド樹脂」、「(B)化学修飾されたセルロース微細繊維」、「(C)分散剤」を含むポリアミド樹脂組成物で構成されるポリアミド樹脂成形体であるといえるから、セルロース微細繊維が化学修飾されていることは原出願の発明の本質と深く関係する技術事項であって、当該主張は採用できない。 イ 主張2について 原出願明細書の比較例1からは、化学修飾されていないセルロース微細繊維を含むポリアミド樹脂組成物では、ポリアミド樹脂、分散剤を含んでいても、ポリアミド樹脂成形体のTm-Tcの関係を満たさない態様であって、本願発明(実施例1~15)より物性が劣るものであるが、当該態様は、「化学修飾されたセルロース微細繊維」を含まないものであるから、比較例1の結果と実施例1~15の結果を対比することで、「化学修飾以外(樹脂種の変更等)でTm-Tcの関係を満た」せば、化学修飾されたセルロース微細繊維を用いた実施例1~15と同程度の物性を示すと直ちにいうことはできない。 そして、実施例1ではセルロース微細繊維の化学修飾度が0.1と低く、実施例5では化学修飾度が1.5と高いため、実施例1、5におけるポリアミド樹脂成形体の凝集物サイズ、線膨張係数、摩擦係数、摩耗深さは、実施例2~4(化学修飾度が0.3~1.2)よりも値が大きくなり、また曲げ弾性率は実施例2~4よりも値が小さくなり、実施例1、5の方が劣っていることから、化学修飾の際に最適な修飾度の程度があることを理解できる。 そうすると、化学修飾されたセルロース微細繊維において、その化学修飾の程度がポリアミド樹脂成形体の物性に影響を与えることから、セルロース微細繊維が化学修飾されてさえいればよいわけではないし、ましてや化学修飾されていないセルロース微細繊維を用いた場合には、上記(3)に示したように、ポリアミド樹脂中に均一分散することは期待できないから、ポリアミド樹脂成形体の物性は、化学修飾されたセルロース微細繊維を用いた場合と同程度であると解することができず、化学修飾されていないセルロース微細繊維は記載されていないといえる。 さらに、Tm-Tcはポリアミド樹脂成形体の結晶化速度を表す指標([0018])にすぎないから、結晶核剤のように機能するセルロース微細繊維が化学修飾されていないことで凝集し、ポリアミド樹脂中に結晶核剤(化学修飾されていないセルロース微細繊維)が均一に分散しない場合であっても、ポリアミド樹脂の樹脂種の違い又はブレンドにより、Tm-Tcの関係を満たしさえすれば、ポリアミド樹脂成形体が好適な物性を示すという技術的根拠を本願明細書に開示するものではないし、TmーTcの関係を満たす樹脂種を選択すれば、化学修飾されていないセルロース微細繊維を用いた場合であっても、ポリアミド樹脂中で均一に分散するといえる技術的根拠を開示するものでもない。その上、これらの事項について、セルロース微細繊維の化学修飾の有無にかかわらず、均一に分散することを実験によって確認してもいない。 したがって、当該主張は採用できない。 (5)本願の出願日の認定 上記(3)に示したように、本願は、分割の実体的要件を満たしておらず、出願日の遡及は認められない。 したがって、本願の出願日は、本願が実際に出願された令和5年2月16日と認める。 第4 原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、令和6年10月11日付けの拒絶査定に記載された、以下の理由1~4である。 1.(特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項 4~7 請求項4~7は、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項を含む他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項である。 よって、当該請求項の記載は、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。 そして、当該請求項に係る発明は、特許法第36条第6項第4号が委任する特許法施行規則第24条の3第5号以外の要件についての審査対象としない。 2.(新規性)この出願の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された国際公開第2021/085630号(以下「引用例」という。)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 3.(進歩性)この出願の請求項1~4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 ・請求項 1~4 拒絶理由の概要は以下のとおり。 本願の請求項1において、セルロース微細繊維は化学修飾されていないセルロース微細繊維を包含するものであり、本願明細書の比較例1では、修飾度が0のセルロース微細繊維を含むポリアミド樹脂組成物から得られる樹脂成形体のTm-Tcは28℃であるとされており、化学修飾されていないセルロース微細繊維を用いて、どのようにしてTm-Tcの関係を満たすポリアミド樹脂成形体が得られるのか、本願明細書を参照しても不明であり、本願発明のポリアミド樹脂成形体を得るには、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等が必要である。 第5 理由1(特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件)について 本願は、上記第3に示したとおり、適法な分割出願ではないから、本願の出願日は、令和5年2月16日である。 そして、令和7年1月22日付け手続補正書により、補正前の請求項2、3が削除され、補正前の請求項4~7が、補正後の請求項2~5へと補正されたが、補正後の請求項4、5は、依然として他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項を含む他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項であるから、当該請求項の記載は、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。 したがって、特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていない。 第6 理由2(新規性)及び理由3(進歩性)について 1 引用例に記載された事項及び引用例に記載された発明 原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2021/085630号(2021年(令和3年)5月6日国際公開)は、本願の原出願の国際公開公報であり、以下の記載事項及び発明が記載されている。 ア 引用例に記載された事項 引用例には、以下の事項が記載されている。 「[請求項1] (A)ポリアミド樹脂と、 (B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維と、 (C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である、分散剤と、 を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、 前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす、ポリアミド樹脂成形体。 ・・・ [請求項5] (C)分散剤のHLB値が0.1以上、8.0未満である、請求項1又は4に記載のポリアミド樹脂成形体。 [請求項6] (B)化学修飾されたセルロース微細繊維の平均化学修飾度が0.3~1.2である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂成形体。 [請求項7] (B)化学修飾されたセルロース微細繊維がエステル化セルロース微細繊維である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂成形体。 [請求項8] (A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I、ポリアミド6,10、及びこれらの2種以上の共重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂成形体。」 「[0108] ≪(C)分散剤≫ (C)分散剤は、(A)ポリアミド樹脂中での(B)セルロース微細繊維の分散性を向上させることに寄与する。(C)分散剤は、1種の物質でも2種以上の物質の混合物であってもよい。後者の場合、本開示の特性値(例えば融点、分子量、HLB値、SP値)は、当該混合物の値を意味する。(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維をより均一に分散させる観点、(A)ポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させ、(B)セルロース微細繊維の成形体表面への露出を抑制する観点、及び成形体の摩擦係数と摩耗量を低減させる観点で、(C)分散剤の融点は80℃以下であり、且つ数平均分子量は1000~50000である。(C)分散剤の効果により、(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維が均一微分散することで、(A)ポリアミド樹脂の球晶も均一微細化され、その結果、寸法安定性に優れ、高弾性、低摩擦係数、低摩耗、低アブレージョン摩耗の成形体を提供することが可能となる。また、このような分散剤は、(B)セルロース微細繊維の表面を均一にコーティングし、且つ(A)ポリアミド樹脂と相溶化する機能を有する。(C)分散剤の融点が80℃よりも高い場合、又は、数平均分子量が1000未満若しくは50000超の場合は、(B)セルロース微細繊維の周囲を分散剤が均一にコーティングすることができず、(B)セルロース微細繊維を(A)ポリアミド樹脂中で均一に分散させることが困難となる。(C)分散剤の融点は、一態様において、80℃以下、又は70℃以下であってよく、一態様において、-100℃以上、又は-50℃以上であってよい。(C)分散剤の数平均分子量は、一態様において、1000以上、又は2000以上であってよく、一態様において、50000以下、又は20000以下であってよい。 [0109] (C)分散剤は、(B)セルロース微細繊維の凝集を抑制する観点で、水溶性ポリマーであることが好ましい。本開示で、「水溶性」とは、23℃で100gの水に対して0.1g以上溶解することを意味する。更には、(C)分散剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維をより均一に分散させる観点で更に好ましい。両親媒性分子としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、及びリンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基とが化学結合したものも好ましい。親水性セグメントは、セルロースの表面との親和性が良好であり、疎水性セグメントは、親水性セグメントを介してセルロース同士の凝集を抑制し、更には(A)ポリアミド樹脂と相溶し易い特徴がある。そのため(C)分散剤において親水性セグメントと疎水性セグメントとは同一分子内に存在することが好ましい。 [0110] (C)分散剤のHLB値は、好ましくは0.1以上8.0未満である。HLB値とは、界面活性剤の疎水性と親水性とのバランスを示す値であり、1~20までの値をとり、数値が小さいほど疎水性が強く、数値が大きいほど親水性が強いことを示す。本開示で、HLB値は、以下のグリフィン法による式より求められる値である。なお下記式において、「親水基の式量の総和/分子量」とは、親水基の質量%である。 式1) グリフィン法:HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量) [0111] (C)分散剤のHLB値の下限値は、水への易溶解性の観点から、好ましくは0.1、より好ましくは0.2、最も好ましくは1である。また、当該HLB値の上限値は、(B)セルロース微細繊維の(A)ポリアミド樹脂への均一分散性の観点から、好ましくは8未満、より好ましくは7.5、最も好ましくは7である。 [0112] 典型的な態様において、親水性セグメントは、親水性構造(例えば水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基等から選ばれる1つ以上の親水性基)を含むことによって、(B)セルロース微細繊維との良好な親和性を示す部分である。親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント(すなわち複数のオキシエチレンユニットのセグメント)(PEGブロック)、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。好ましい態様において、親水性セグメントは、オキシエチレンユニットを含む。 [0113] 疎水性セグメントとしては、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、また以下のポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:・・・ [0114] 好ましい態様において、(C)分散剤は、分子内に、親水性基としてPEGブロック、及び疎水性基としてPPGブロックを有する。」 「実施例 [0147] 本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。 [0148] <分散剤の調製> ・分散剤C-1: 2Lオートクレーブ中に、グリセリン(Mn92)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn325)340質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn650)680質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、HLB6.5、融点-30℃、数平均分子量3000のC-1を得た。 ・・・ [0154]<化学修飾微細繊維と分散剤とからなる混合粉体の作製> ・・・ [0155](混合粉体2の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で15分間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:86nm)B-2の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPa まで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体2を得た。B-2とC-1の混合質量比率は10:1とした。 ・・・ [0169] <ポリアミド樹脂成形体の作製> 前述の混合粉体若しくは粉体、又は比較のガラス繊維を用いてポリアミド樹脂成形体を作製した。 [0170][比較例1] 混合粉体1を11質量部、ポリアミド樹脂A-1(ナイロン6樹脂(以下、単に、PA6と称す)(宇部興産社製 1013B))を89質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、260℃、100rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練後に、ダイスを経てφ1mmの複合樹脂組成物のストランドを得た。当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成形機にて260℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片と100mm×100mm×4mm厚の平板試験片を作製し、評価に用いた。 [0171][実施例1] 混合粉体1を混合粉体2に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 ・・・ [0214] 結果を表1及び2に示す。 [0215] [図:0001437932000001.jpg] 」 イ 引用例に記載された発明 引用例の実施例1([0170]、[0171]及び表1)に着目し、本願明細書の段落[0148]及び[0155]を参考に、ダンベル状試験片又は平板試験片をポリアミド樹脂成形体として整理すると、引用例には以下の発明が記載されていると認める。 「下記混合粉体2を11質量部、下記ポリアミド樹脂A-1を89質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、260℃、100rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練後に、ダイスを経てφ1mmの複合樹脂組成物のストランドを得、 当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成形機にて260℃で溶融してポリアミド樹脂成形体として、JIS K7127規格のダンベル状試験片又は100mm×100mm×4mm厚の平板試験片を得、 上記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)において Tm-Tc=31℃である、ポリアミド樹脂成形体。 ここで、各成分の詳細は以下のとおり。 ・A-1:ナイロン6樹脂(宇部興産社製 1013B) ・混合粉体2:タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で15分間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:86nm)B-2の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に下記分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPa まで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体2を得た。B-2とC-1の混合質量比率は10:1とした。 ・B-2の物性(表1):重量平均分子量(Mw)が380000、Mw/Mnが4.7、結晶化度が80%、アルカリ可溶多糖類平均率が3.0質量%。 ・C-1:2Lオートクレーブ中に、グリセリン(Mn92)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn325)340質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn650)680質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、HLB6.5、融点-30℃、数平均分子量3000のC-1を得た。」(以下「引用発明」という。) ウ 対比・判断 本願発明と引用発明を対比する。 (ア)引用発明の「ポリアミド樹脂:A-1(ナイロン6樹脂(宇部興産社製 1013B))」は、本願発明の「(A)ポリアミド樹脂」に相当する。 (イ)引用発明の「化学修飾微細繊維B-2」は、リンターパルプを解繊、修飾して得られたものであり、重量平均分子量(Mw)が380000、Mw/Mnが4.7、結晶化度が80%、アルカリ可溶多糖類平均率が3.0質量%であることから、本願発明の「(B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、セルロース微細繊維」に相当する。 (ウ)引用発明の「分散剤C-1」は、その製造方法からみて、グリセリンの3つの酸素原子の先にPEGブロック、PPGブロックを順に有するものである。ここで、引用例の段落[0114]には、(C)分散剤として、分子内、親水性基としてPEGブロック及び疎水性基としてPPGブロックを有するものであることが記載されていることから、上記「分散剤C-1」はPEGブロックという親水性セグメントを有するものである。 さらに、上記「分散剤C-1」は、そのHLBが6.5、融点が-30℃、数平均分子量が3000である。 そうすると、引用発明の「分散剤C-1」は、本願発明の「(C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000であり、親水性セグメントとしてオキシエチレンユニットを有する、分散剤」に相当する。 (エ)引用発明の「混合粉体2(化学修飾微細繊維B-2及び分散剤C-1)」11質量部、「ポリアミド樹脂A-1」89質量部を混練して得た複合樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物であるから、本願発明の「ポリアミド樹脂組成物」に相当する。 そして、引用発明の上記複合樹脂組成物を用いて、ペレット化した後に、射出成形機により得た「ポリアミド樹脂成形体」である「JIS K7127規格のダンベル状試験片又は100mm×100mm×4mm厚の平板試験片」は、「ポリアミド樹脂組成物」から構成されるものであって、「融点(Tm)と結晶化温度(Tc)においてTm-Tc=31℃である」から、本願発明の「ポリアミド樹脂組成物」で構成された「ポリアミド樹脂成形体」であって、「前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす」ことに相当する。 以上から、本願発明と引用発明は 「(A)ポリアミド樹脂と、 (B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、セルロース微細繊維と、 (C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000であり、親水性セグメントとしてオキシエチレンユニットを有する、分散剤と、 を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、 前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす、ポリアミド樹脂成形体。」 である点で一致し、相違しない。 仮に相違したとしても、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が適宜なしうるものである。 エ 小括 本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないか、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第7 理由4(実施可能要件)について 1 実施可能要件の判断基準 本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定されるいわゆる実施可能要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明及び出願時の技術常識に基いて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきものであり、物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることができることである。 以下、この観点に立って検討する。 2 本願明細書等の記載について 本願の発明の詳細を含む明細書及び図面には、本願発明について、次の事項が記載されている。 「【0017】 本発明の一態様は、 (A)ポリアミド樹脂と、(B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維(本開示で、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維、又は(B)セルロース微細繊維ともいう。)とを含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体を提供する。一態様において、当該ポリアミド樹脂組成物は、(C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000である、分散剤(本開示で、(C)分散剤ともいう。)を更に含む。 【0018】 一態様においては、ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1): Tm-Tc≧30℃・・・(1) の関係を満たす。本開示で、ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)とは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下で23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。一方、結晶化温度(Tc)は、同様に示差走査熱量計(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で前述の(Tm)よりも25℃高い温度まで昇温していき、その温度で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温した際に、現れる発熱ピークのピークトップ温度を指す。発熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の発熱ピークのピークトップ温度を指す。なお上記の吸熱ピーク及び発熱ピークのエンタルピーは、それぞれ、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。Tm-Tcは、ポリアミド樹脂成形体の結晶化速度を表す指標であり、Tm-Tcが大きいほど結晶化速度が遅いことを示す。Tm-Tcは、(A)ポリアミド樹脂の種類、(B)セルロース微細繊維の化学修飾、及びその置換度、(C)分散剤の種類等により制御可能である。Tm-Tc≧30℃の条件を満たすような結晶化速度によれば、成形品表面への化学修飾微細繊維の露出を低減でき、成形品の成形収縮率を抑え、且つ高弾性、低熱線膨張性、低摩擦係数及び低摩耗性の樹脂成形体を得ることができる。 【0019】 Tm-Tc≧30℃であることにより、(B)セルロース微細繊維が(A)ポリアミド樹脂中に均一に分散し、且つポリアミド樹脂成形体表面への(B)セルロース微細繊維の露出が抑制され、優れた機械特性、寸法安定性、及び摺動特性が得られる。Tm-Tc≧40℃であることがより好ましく、Tm-Tc≧50℃であることが最も好ましい。また、成形加工性の観点からTm-Tc≦120℃であることが好ましく、Tm-Tc≦100℃であることがより好ましく、Tm-Tc≦80℃であることが最も好ましい。」 「【0026】 ≪(A)ポリアミド樹脂≫ (A)ポリアミド樹脂の数平均分子量は、好ましくは、10000~150000、より好ましくは20000~150000の範囲である。なお本開示の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で測定される値である。数平均分子量の下限値は、より好ましくは22000であり、さらにより好ましくは、25000であり、最も好ましくは、30000である。また、上限値はより好ましくは120000であり、さらにより好ましくは100000であり、最も好ましくは80000である。数平均分子量は、金属に対する摩耗性向上の観点から、上記下限値以上が望ましく、射出成型時の樹脂組成物の流動性の観点から、上記上限値を超えないことが望ましい。 ・・・ 【0030】 (A)ポリアミド樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られる、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等のジアミン類と、ブタン二酸 、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等のジカルボン酸類との重合体として得られる、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらの2種以上が共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等;が挙げられる。中でも、(B)セルロース微細繊維の成形加工時の熱分解を抑制する観点から、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,Iといった非晶芳香族ポリアミド、更にはポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミド、及びこれらの2種以上が共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,6/6,I)がより好ましく用いられ、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I、ポリアミド6,10、及びこれらの2種以上が共重合された共重合体が更に好ましく用いられる。また、該ポリアミド樹脂成形体中の(A)ポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させることによって成形体表面への(B)セルロース微細繊維の露出を抑制し、該成形体の摺動特性を向上させる観点で、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I及びポリアミド6,10から選ばれる2種以上の、共重合体(一例としてポリアミド6,6/6,I)又は混合物(一例としてポリアミド6,6とポリアミド6,Iとの混合物)が最も好ましい。(B)セルロース微細繊維が成形品表面に露出している場合、相手材との摺動時に当該(B)セルロース微細繊維が脱落し易く、摩耗特性の悪化を招来する。」 「【0041】 ≪(B)セルロース微細繊維≫ (B)セルロース微細繊維は、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維である。 【0042】 「化学修飾されたセルロース微細繊維」(本開示で、「化学修飾微細繊維」ということもある。)とは、セルロースの骨格中の水酸基の少なくとも一部が修飾されているセルロース微細繊維を意味する。典型的な態様において、セルロース全体は化学修飾されておらず、化学修飾微細繊維は化学修飾前のセルロース微細繊維の結晶構造を保持している。例えば、化学修飾微細繊維をXRDで分析したときに、セルロースI型とセルロースII型とのいずれか又は両者の結晶構造を確認できる。 【0043】 本実施形態の化学修飾微細繊維、及び樹脂複合体中の化学修飾微細繊維の重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース微細繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでは十分な耐熱性が達成できず、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に高耐熱性のセルロース微細繊維、及びセルロース微細繊維と樹脂との樹脂複合体が得られる。一方、セルロース微細繊維の耐熱性が十分でない場合は、ポリアミド樹脂と溶融混練される際に、分解ガスが多量に発生し、セルロース微細繊維のポリアミド樹脂中の均一分散を阻害し、且つセルロースの炭化及び/又は黄変を誘発する。化学修飾微細繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、化学修飾微細繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。 【0044】 ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。 ・・・ 【0050】 化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、ポリアミド樹脂との溶融混練時の熱分解ガス発生抑制の観点から12質量%以下であり、好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。本開示におけるアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶多糖類の含有量は少ない方が好ましい。化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。 【0051】 セルロース微細繊維の化学修飾のために用いる修飾化剤がアルカリ可溶多糖類との副反応で消費され、副反応物が化学修飾後のセルロース微細繊維中に残存することもあるため、セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類は少ない方が好ましい。このような観点から、セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、好ましくは13質量%以下、より好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。 【0052】 アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。化学修飾微細繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、通常、化学修飾微細繊維の製造に使用したセルロース原料のアルカリ可溶多糖類平均含有率とほぼ同様である(すなわち、化学修飾の通常の条件(典型的には弱酸性~中性のpH)下ではアルカリ可溶多糖類の選択的な除去は実質的に生じないと考えてよい。一態様において、セルロース原料のアルカリ可溶多糖類平均含有率の値を化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率の値とみなしてよい。 ・・・ 【0062】 本実施形態の化学修飾微細繊維は、一態様において結晶化度が60%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、化学修飾微細繊維自体の力学物性(特に強度及び寸法安定性)が高いため、化学修飾微細繊維を樹脂に分散してなる樹脂複合体の強度及び寸法安定性が高い傾向にある。また、結晶化度が高いことは非晶の量が少ないことを意味しており、非晶が熱による劣化の起点になりうることに鑑みれば、耐熱性の観点からも結晶化度が高い方が望ましい。 【0063】 植物由来のセルロースのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、前述のアルカリ可溶多糖類、及び前述の酸不溶成分が存在する。例えば、ヘミセルロースは、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしており、またリグニンは、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。化学修飾微細繊維中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂複合体の変色を抑制する観点からも、化学修飾微細繊維の結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。 【0064】 本実施形態の化学修飾微細繊維の結晶化度は、好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、最も好ましくは80%以上である。化学修飾微細繊維の結晶化度は高いほど好ましい傾向にあるので、上限は特に限定されないが、生産上の観点から99%が好ましい上限である。 【0065】 ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。 結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100 【0066】 また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。 結晶化度(%) =h1 /h0 ×100 【0067】 セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型等が知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。化学修飾微細繊維としては、構造上の可動性が比較的高く、当該化学修飾微細繊維を樹脂に分散させることにより、線熱膨張率がより低く、引っ張り又は曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂複合体が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有する化学修飾微細繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が60%以上の化学修飾微細繊維がより好ましい。 【0068】 本実施形態の化学修飾微細繊維は、セルロース微細繊維の表面のセルロース分子の水酸基がセルロース修飾化剤により化学修飾されたものである。かかる化学修飾は、好ましくはエステル化、より好ましくはアセチル化である。 ・・・ 【0070】 化学修飾微細繊維の原料となるセルロースとしては、広葉樹又は針葉樹から得られる木材パルプ、非木材種からの精製パルプ(すなわち非木材パルプ)等の天然セルロース及び再生セルロースが使用できる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ(例えば精製リンター)、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等を使用できる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプは各々、コットンリント、コットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のものが多い)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。また、天然セルロースとしては、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、微生物産生物等を起源としたセルロース繊維集合体も使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)のカット糸等、セルロース誘導体繊維のカット糸等、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。 【0071】 前記木材パルプ、非木材種からの精製パルプ(すなわち非木材パルプ)は、アルカリ可溶多糖類(ヘミセルロース等)、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶多糖類及び硫酸不溶成分を減らしたものを用いることが望ましい。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が、適切な範囲から逸脱しない程度にコントロールされていることが重要である。 ・・・ 【0087】 天然セルロース原料をセルロース微細繊維とするために最大繊維径を小さくする方法としては、特に制限はないが、解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)をより高効率にすることが好ましい。特に、非プロトン性溶媒を含む解繊用溶液を、セルロース原料(例えばセルロース純度が85質量%以上のセルロース原料)に含浸させることで、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけでセルロースが微細化していく。そして、解繊直後にセルロース修飾化剤を加えることにより、化学修飾微細繊維を得ることができる。この方法が、生成効率及び精製効率(すなわち化学修飾微細繊維の高セルロース純度化)、並びに樹脂複合体の物理特性の観点から好ましい。 ・・・ 【0093】 化学修飾微細繊維の原料が非プロトン性溶媒中で膨潤する際、非プロトン性溶媒が原料を構成するフィブリルに素早く浸透し膨潤することでミクロフィブリル同士が微解繊状態となる。この状態を作り出した後、化学修飾を行うことで微細繊維の全体で均質にアセチル化が進行し、結果として高い耐熱性を獲得しているものと推察される。さらに、このミクロフィブリル化された化学修飾微細繊維は高い結晶化度を維持しており、樹脂と複合したときに高い機械特性、摺動特性と優れた寸法安定性(特に、線熱膨張率の著しい低下)を獲得することができる。 ・・・ 【0095】 ボールミル等の強力な機械粉砕法を用いる場合、固体状態特有のメカノケミカル反応が起こるため、セルロースの分子鎖が切断される、結晶構造が破壊される、或いは、セルロースが溶解するといったことが避けられなくなる。その結果、得られる繊維のセルロース分子の重量平均分子量の低下、重量平均分子量と数平均分子量との比の増大又は減少、結晶化度の低下、収率の低下といった好ましくない効果が表れる場合がある。したがって、ボールミル等の強力な機械粉砕法を用いる場合は、セルロース分子の重量平均分子量、重量平均分子量と数平均分子量との比、及び結晶化度が適正な範囲から逸脱しないようコントロールされていることが望ましい。 ・・・ 【0097】 本実施形態の化学修飾微細繊維の平均化学修飾度は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾微細繊維の水酸基の平均置換度(DS)は、0.3~1.2が好ましく、より好ましくは0.5~1.1である。耐熱性の観点から、平均置換度は高い方が望ましいが、平均置換度が高すぎると、微細繊維の結晶化度が低下して微細繊維の力学的強度の低下につながり、且つ平均置換度の高いセルロースが繊維表面に析出し、接着剤のようにふるまうことで繊維の凝集を誘発し、成形品の物性及び寸法安定性が低下させるおそれがある。また、平均置換度を0.3以上とすることは、ポリアミド樹脂中に化学修飾微細繊維をより均一分散させる効果、及び、ポリアミド樹脂成形体中のポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させるとともに、球晶を均一化且つ微細化する効果を発現するため、化学修飾微細繊維の巨大凝集塊の形成を抑制すると共に成形品表面への化学修飾微細繊維の露出を抑制し、寸法安定性が高く、高弾性、低摩擦係数及び低摩耗性の成形体の提供に寄与する。 【0098】 化学修飾微細繊維の減衰全反射型赤外吸収スペクトルにおいて、化学修飾基の種類により吸収バンドのピーク位置は変化する。ピーク位置の変化から、そのピークが何の吸収バンドに基づくものかは確定でき、修飾基の同定ができる。また、修飾基由来のピークとセルロース骨格由来のピークのピーク強度比から修飾化率を算出することができる。 【0099】 修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロース微細繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図2参照)。エステル化セルロース微細繊維のDSは、後述するエステル化セルロース微細繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線 置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030) を使用することで求めることができる。 【0100】 固体NMRによるエステル化セルロース微細繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロース微細繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。 DS=(Inf)×6/(Inp) たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。 用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。 装置 :Bruker Biospin Avance500WB 周波数 :125.77MHz 測定方法 :DD/MAS法 待ち時間 :75sec NMR試料管 :4mmφ 積算回数 :640回(約14Hr) MAS :14,500Hz 化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm) 【0101】 本実施形態における化学修飾微細繊維においては、繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記の平均置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)の変動係数(CV)が、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、化学修飾による耐熱性の向上及び樹脂複合時の樹脂との親和性の向上、樹脂複合体の寸法安定性の向上につながる。そして、このDS不均一比の変動係数が小さいほど、樹脂複合体の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。 【0102】 DSs及びDStのそれぞれの値は、化学修飾微細繊維の修飾度に応じて変わるが、一例として、DSsの好ましい範囲としては、0.2以上3.0以下、より好ましくは0.4以上2.8以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。また、DS不均一比(DSs/DSt)は、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と、化学修飾による耐熱性の向上及び樹脂複合時の樹脂との親和性の向上、樹脂複合体の寸法安定性の向上との両立の観点から、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上であり、化学修飾微細繊維の製造容易性の観点から、好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。 【0103】 DS不均一比の変動係数は、例えば、セルロース原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロース繊維を得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。 【0104】 DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。 DS不均一比=DSs/DSt 変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100 【0105】 DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。 DSs=(Ixf)×5/(Ixp) たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。 用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。 使用機器 :アルバックファイVersaProbeII 励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA 分析サイズ :約200μmφ 光電子取出角 :45° 取込領域 Narrow scan:C 1s、O 1s Pass Energy:23.5eV 【0106】 (A)ポリアミド樹脂100質量部に対する(B)化学修飾されたセルロース微細繊維の配合量は、良好な機械的特性、熱時剛性、寸法安定性,及び摺動特性の観点から、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、良好な成形性を得る観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。 【0107】 一態様において、ポリアミド樹脂組成物中及び樹脂成形体中の(B)化学修飾されたセルロース微細繊維の含有量は、それぞれ、好ましくは、1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、好ましくは、40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下である。」 「【0108】 ≪(C)分散剤≫ (C)分散剤は、(A)ポリアミド樹脂中での(B)セルロース微細繊維の分散性を向上させることに寄与する。(C)分散剤は、1種の物質でも2種以上の物質の混合物であってもよい。後者の場合、本開示の特性値(例えば融点、分子量、HLB値、SP値)は、当該混合物の値を意味する。(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維をより均一に分散させる観点、(A)ポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させ、(B)セルロース微細繊維の成形体表面への露出を抑制する観点、及び成形体の摩擦係数と摩耗量を低減させる観点で、(C)分散剤の融点は80℃以下であり、且つ数平均分子量は1000~50000である。(C)分散剤の効果により、(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維が均一微分散することで、(A)ポリアミド樹脂の球晶も均一微細化され、その結果、寸法安定性に優れ、高弾性、低摩擦係数、低摩耗、低アブレージョン摩耗の成形体を提供することが可能となる。また、このような分散剤は、(B)セルロース微細繊維の表面を均一にコーティングし、且つ(A)ポリアミド樹脂と相溶化する機能を有する。(C)分散剤の融点が80℃よりも高い場合、又は、数平均分子量が1000未満若しくは50000超の場合は、(B)セルロース微細繊維の周囲を分散剤が均一にコーティングすることができず、(B)セルロース微細繊維を(A)ポリアミド樹脂中で均一に分散させることが困難となる。(C)分散剤の融点は、一態様において、80℃以下、又は70℃以下であってよく、一態様において、-100℃以上、又は-50℃以上であってよい。(C)分散剤の数平均分子量は、一態様において、1000以上、又は2000以上であってよく、一態様において、50000以下、又は20000以下であってよい。 【0109】 (C)分散剤は、(B)セルロース微細繊維の凝集を抑制する観点で、水溶性ポリマーであることが好ましい。本開示で、「水溶性」とは、23℃で100gの水に対して0.1g以上溶解することを意味する。更には、(C)分散剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維をより均一に分散させる観点で更に好ましい。両親媒性分子としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、及びリンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基とが化学結合したものも好ましい。親水性セグメントは、セルロースの表面との親和性が良好であり、疎水性セグメントは、親水性セグメントを介してセルロース同士の凝集を抑制し、更には(A)ポリアミド樹脂と相溶し易い特徴がある。そのため(C)分散剤において親水性セグメントと疎水性セグメントとは同一分子内に存在することが好ましい。 【0110】 (C)分散剤のHLB値は、好ましくは0.1以上8.0未満である。HLB値とは、界面活性剤の疎水性と親水性とのバランスを示す値であり、1~20までの値をとり、数値が小さいほど疎水性が強く、数値が大きいほど親水性が強いことを示す。本開示で、HLB値は、以下のグリフィン法による式より求められる値である。なお下記式において、「親水基の式量の総和/分子量」とは、親水基の質量%である。 式1) グリフィン法:HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量) 【0111】 (C)分散剤のHLB値の下限値は、水への易溶解性の観点から、好ましくは0.1、より好ましくは0.2、最も好ましくは1である。また、当該HLB値の上限値は、(B)セルロース微細繊維の(A)ポリアミド樹脂への均一分散性の観点から、好ましくは8未満、より好ましくは7.5、最も好ましくは7である。 【0112】 典型的な態様において、親水性セグメントは、親水性構造(例えば水酸基、カルボキシ基、カルボニル基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基等から選ばれる1つ以上の親水性基)を含むことによって、(B)セルロース微細繊維との良好な親和性を示す部分である。親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント(すなわち複数のオキシエチレンユニットのセグメント)(PEGブロック)、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。好ましい態様において、親水性セグメントは、オキシエチレンユニットを含む。 【0113】 疎水性セグメントとしては、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、また以下のポリマー構造を含むセグメント等を例示できる: アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂。 【0114】 好ましい態様において、(C)分散剤は、分子内に、親水性基としてPEGブロック、及び疎水性基としてPPGブロックを有する。 【0115】 (C)分散剤は、グラフト共重合体構造、及び/又はブロック共重合体構造を有することができる。これら構造は1種単独でもよいし、2種以上でもよい。2種以上の場合は、ポリマーアロイでもよい。またこれら共重合体の部分変性体、又は末端変性体(酸変性)でも良い。 【0116】 (C)分散剤の構造は、特に限定されないが、親水性セグメントをA、疎水性セグメントをBとしたときに、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体、ABAB型ブロック共重合体、ABABA型ブロック共重合体、BABAB型共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、AとBを含む4分岐型共重合体、AとBを含む星型共重合体、AとBを含む単環状共重合体、AとBを含む多環状共重合体、AとBを含むかご型共重合体、等が挙げられる。 【0117】 (C)分散剤の構造は、好ましくはAB型ブロック共重合体、ABA型トリブロック共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、又はAとBを含む4分岐型共重合体であり、より好ましくはABA型トリブロック共重合体、3分岐構造体(すなわちAとBを含む3分岐型共重合体)、又は4分岐構造体(すなわちAとBを含む4分岐型共重合体)である。(B)セルロース微細繊維との良好な親和性を確保するために、(C)分散剤の構造は上記構造であることが望ましい。 【0118】 (C)分散剤の好適例としては、親水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリエチレングリコール)、疎水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリブタジエンジオール等)をそれぞれ1種以上用いて得られる共重合体(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロック共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのブロック共重合体)等が挙げられる。分散剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した共重合体が変性されたもの(例えば、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたもの)も用いることもできる。 【0119】 これらの中でも、耐熱性(臭気性)及び機械特性の観点から、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、ポリエチレングリコールとポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)の共重合体、及びこれらの混合物が好ましく挙げられ、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。」 「【0128】 ポリアミド樹脂成形体を作製する際の(C)分散剤の添加方法としては、特に制限はないが、 (A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース微細繊維、及び(C)分散剤をあらかじめ混合し溶融混練した後、成形加工する方法、 (A)ポリアミド樹脂にあらかじめ(C)分散剤を添加し、必要により予備混練した後、(B)セルロース微細繊維を添加して溶融混練し、成形加工する方法、 (B)セルロース微細繊維と(C)分散剤を予め混合した後、(A)ポリアミド樹脂と溶融混練し、成形加工する方法、 (B)セルロース微細繊維が水に分散している分散液中に(C)分散剤を添加し、乾燥させてセルロース乾燥体を作製した後、当該乾燥体を(A)ポリアミド樹脂に添加して溶融混練し、成形加工する方法、 (B)セルロース微細繊維が水に分散している分散液中に(C)分散剤を添加し、該水分散体を(A)ポリアミド樹脂に液添加して溶融混練し、成形加工する方法、 等が挙げられる。 【0129】 ポリアミド樹脂成形体において、(C)分散剤の量は、(B)セルロース微細繊維100質量部に対して、5~100質量部であることが(B)セルロース微細繊維をポリアミド樹脂成形体中に均一に分散させる観点で好ましく、10~70質量部であることがより好ましく、20~50質量部であることが最も好ましい。」 「【0143】 ポリアミド樹脂成形体を構成するポリアミド樹脂組成物の製造方法の具体例としては、以下の方法が挙げられる。 (1)(A)ポリアミド樹脂と、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維、(C)分散剤混合粉末とを、一括溶融混練する方法。 (2)(A)ポリアミド樹脂及び必要により(C)分散剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維粉末、及び必要により(C)分散剤を添加して、さらに溶融混練する方法。 (3)(A)ポリアミド樹脂、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維、(C)分散剤混合粉末、及び水を溶融混練した後、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維、及び水、並びに必要により(C)分散剤を混合した後、一括で溶融混練する方法。 (4)(A)ポリアミド樹脂及び必要により(C)分散剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース微細繊維、(C)分散剤混合粉末、及び水、を添加して、さらに溶融混練する方法。 (5)上記(1)~(4)を単軸又は二軸押出機を用いて任意の割合でTopとSideで分割して添加し、溶融混練する方法。 【0144】 上記ポリアミド樹脂組成物を製造する装置としては、特に限定されず、一般に実用されている混練機、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等を適用できる。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した二軸押出機が好ましい。 【0145】 ポリアミド樹脂組成物からポリアミド樹脂成形体を製造する方法の具体例としては、以下方法が挙げられる。 (1)前項で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、押出成形機で棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法。 (2)前項で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、射出成形機で成形し、該成形体を得る方法。 (3)前項で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、ブロー成形機で成形し、該成形体を得る方法。」 「【実施例】 【0147】 本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。 【0148】 <分散剤の調製> ・分散剤C-1: 2Lオートクレーブ中に、グリセリン(Mn92)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn325)340質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn650)680質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、HLB6.5、融点-30℃、数平均分子量3000のC-1を得た。 【0149】 ・分散剤C-2: 2Lオートクレーブ中に、ペンタエリスリトール(Mn136)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn450)330質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn900)660質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、HLB6.5、融点-30℃、数平均分子量5500のC-2を得た。 【0150】 ・分散剤C-3: 2Lオートクレーブ中に、ペンタエリスリトール(Mn136)100質量部と、触媒としてKOH 0.6質量部を入れ窒素置換したのちポリエチレンオキシド(Mn2000)330質量部を160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、ポリプロピレンオキシド(Mn3000)660質量部を加えて、160℃で4時間かけて逐次導入した。反応完結後、乳酸1.2質量部で中和し、HLB6.5、融点-30℃、数平均分子量18100のC-3を得た。 【0151】 ・分散剤C-4: 市販のポリエチレングリコール(HLB20、融点58℃、分子量3000)(Sigma-Aldrich社製のポリエチレングリコール3000)をC-4として用いた。 【0152】 ・分散剤C-5: 市販のアミノヘキサン酸(HLB20、融点205℃、分子量131)(東京化成工業社製のA0312)をC-5として用いた。 【0153】 なお、HLB値は、グリフィン法を用い、下記式に従って求めた。 HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量) (式中、親水基の式量は、ポリエチレンオキシドセグメントの式量である。) 【0154】 <化学修飾微細繊維と分散剤とからなる混合粉体の作製> (混合粉体1の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、化学修飾微細繊維(数平均繊維径:88nm)B-1の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体1を得た。B-1とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0155】 (混合粉体2の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で15分間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:86nm)B-2の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPa まで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体2を得た。B-2とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0156】 (混合粉体3の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で40分間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:86nm)B-3の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体3を得た。B -3とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0157】 (混合粉体4の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で2時間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:88nm)B-4の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述のB-4の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体4を得た。B-4とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0158】 (混合粉体5の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で2時間30分運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:84nm)B-5の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで -90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体5を得た。B-5とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0159】 (混合粉体6の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で3時間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:85nm)B-6の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体6を得た。B-6とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0160】 (混合粉体7の作製) タンクサイズ35Lの回転式ホモジナイジングミキサーKAPPA VITA(登録商標)に、木材パルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、回転数6000rpm、周速度29m/s、常温で4時間運転を行い、パルプを解繊した(解繊工程)。続いて、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、回転数6000rpm、周速度29m/s、60℃で2時間運転を行った(解繊・修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:83nm)B-7の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体7を得た。B-7とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0161】 (混合粉体8の作製) 一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV-1 φ125mmディゾルバー)に、リンターパルプ0.5kg、ジメチルスルホキサイド(DMSO)9.5kgを仕込み、500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM-1.5)にフィードし、DMSOのみで2時間循環運転させ、解繊スラリーを得た。循環運転の際、ビーズミルの回転数は2500rpm、周速12m/sとし、用いたビーズはジルコニア製で、φ2.0mm、充填率70%とした(ビーズミルのスリット隙間は0.6mmとした)。また、循環運転の際は、摩擦による発熱を吸収するためにチラーによりスラリー温度を40℃に温度管理した。続いて、得られた解繊スラリーを防爆型ディスパーザータンクに投入した後、重曹0.16kg、酢酸ビニル1.05kgを添加し、タンク内温度を40℃とし、1.5時間撹拌を行った(修飾工程)。得られた解繊修飾スラリーに純水10Lを加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度10Lの純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬溶媒等を除去し、最終的に得られた化学修飾微細繊維(数平均繊維径:83nm)B-8の水分散体(固形分率:10質量%)を得た。続いて、前述の水分散体に分散剤C-1を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体8を得た。B-8とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0162】 (混合粉体9の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)に分散剤C-2を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体9を得た。B-4とC-2の混合質量比率は10:1とした。 【0163】 (混合粉体10の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)に分散剤C-3を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体10を得た。B-4とC-3の混合質量比率は10:1とした。 【0164】 (混合粉体11の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)に分散剤C-4を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体11を得た。B-4とC-4の混合質量比率は10:1とした。 【0165】 (粉体12の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)をプラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維粉体12を得た。 【0166】 (混合粉体13の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)に分散剤C-5を配合し、プラネタリーミキサー(浅田鉄工株式会社製)で、ジャケット温度60℃、300rpmで撹拌しながら、真空ポンプで-90kPaまで減圧、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体13を得た。B-4とC-5の混合質量比率は10:1とした。 【0167】 (混合粉体14の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)に分散剤C-1を配合し、乾燥温度40℃の熱風乾燥機で、1週間、静置乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体14を得た。B-4とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0168】 (混合粉体15の作製) 混合粉体4の作製において前述したのと同様にして得たB-4の水分散体(固形分率:10質量%)に分散剤C-1を配合し、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製FMミキサー(型番:FM20))で、ジャケット温度80℃、撹拌羽根(500rpm)で撹拌しながら、真空ポンプで-70kPaまで減圧して、8時間乾燥して、化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体15を得た。B-4とC-1の混合質量比率は10:1とした。 【0169】 <ポリアミド樹脂成形体の作製> 前述の混合粉体若しくは粉体、又は比較のガラス繊維を用いてポリアミド樹脂成形体を作製した。 【0170】 [比較例1] 混合粉体1を11質量部、ポリアミド樹脂A-1(ナイロン6樹脂(以下、単に、PA6と称す)(宇部興産社製 1013B))を89質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、260℃、100rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練後に、ダイスを経てφ1mmの複合樹脂組成物のストランドを得た。当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成形機にて260℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片と100mm×100mm×4mm厚の平板試験片を作製し、評価に用いた。 【0171】 [実施例1] 混合粉体1を混合粉体2に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0172】 [実施例2] 混合粉体1を混合粉体3に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0173】 [実施例3] 混合粉体1を混合粉体4に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0174】 [実施例4] 混合粉体1を混合粉体5に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0175】 [実施例5] 混合粉体1を混合粉体6に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0176】 [比較例2] 混合粉体1を混合粉体7に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0177】 [比較例3] 混合粉体1を混合粉体8に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0178】 [実施例6] 混合粉体1を混合粉体9に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0179】 [実施例7] 混合粉体1を混合粉体10に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0180】 [実施例8] 混合粉体1を混合粉体11に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0181】 [比較例4] 混合粉体1を粉体12に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0182】 [比較例5] 混合粉体1を混合粉体13に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0183】 [比較例6] 混合粉体1を混合粉体14に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0184】 [実施例9] 混合粉体1を混合粉体15に変更した以外は、比較例1と同様に、樹脂複合体を得た。 【0185】 [実施例10] 混合粉体4を11質量部、ポリアミド樹脂A-2(ナイロン6,6樹脂(以下、単に、PA66と称す)(旭化成社製 レオナ1300))を89質量部加え、小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、280℃、100rpm(シアレート1570(1/s))で5分間循環混練後に、ダイスを経てφ1mmの複合樹脂組成物のストランドを得た。当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成形機にて280℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片と100mm×100mm×4mm厚の平板試験片を作製し、評価に用いた。 【0186】 [実施例11] ポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂A-1(PA6)を34質量部、ポリアミド樹脂A-2(PA66)を55質量部加え、射出成形機での溶融温度を275℃とした他は実施例10と同様にして平板試験片を作製及び評価した。 【0187】 [実施例12] ポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂A-1(PA6)を74質量部、ポリアミド樹脂A-3(ナイロン6,I樹脂(以下、単にPA6Iと称す))を15質量部加え、小型混練機での循環混練温度を270℃、射出成形機での溶融温度を270℃とした他は実施例10と同様にして平板試験片を作製及び評価した。 【0188】 [実施例13] ポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂A-2(PA66)を74質量部、ポリアミド樹脂A-3(ナイロン6,I樹脂(以下、単にPA6Iと称す))を15質量部加え、小型混練機での循環混練温度を280℃、射出成形機での溶融温度を275℃とした他は実施例10と同様にして平板試験片を作製及び評価した。 【0189】 [実施例14] ポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂A-4(ナイロン6,6/6,I(以下、単にPA66/6Iと称す))(旭化成社製 レオナ8200)を89質量部加え、小型混練機での循環混練温度を280℃、射出成形機での溶融温度を275℃とした他は実施例10と同様にして平板試験片を作製及び評価した。 【0190】 [実施例15] ポリアミド樹脂として、ポリアミド樹脂A-5(ナイロン6,10(以下、単にPA610と称す))(旭化成社製 レオナ3100)を89質量部加え、小型混練機での循環混練温度を280℃、射出成形機での溶融温度を275℃とした他は実施例10と同様にして平板試験片を作製及び評価した。 【0191】 [比較例7] 混合粉体4を混合粉体14に変更した以外は、実施例10と同様に、樹脂複合体を得た。 【0192】 [比較例8] ガラス繊維(日本電気硝子社製 T-249H)を11質量部、PA6を89質量部加え、小型混練機での循環混練温度を270℃、射出成形機での溶融温度を270℃とした他は実施例10と同様にして平板試験片を作製及び評価した。 【0193】 [比較例9] シリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)のシリンダー6に圧力コントロール型の液体注入ノズルを設置し、シリンダー1を水冷、シリンダー2を80℃、シリンダー3を150℃、シリンダー4~13及びダイスを250℃に設定した。押出機のトップからポリアミド樹脂A-1(ナイロン6樹脂(以下、単に、PA6と称す)(宇部興産社製 1013B))を89質量部フィードし、B-4の水分散体(固形分率:10質量%)を110質量部、シリンダー6の液添ノズルよりポンプで200cc/分の流量で押出機に液添、溶融混練した後、ダイスを経てφ1mmの複合樹脂組成物のストランドを得た。当該ストランドから得られた樹脂複合体ペレット(前記ストランドを1cm長さにカットしたもの)を、付属の射出成形機にて260℃で溶融し、JIS K7127規格のダンベル状試験片と100mm×100mm×4mm厚の平板試験片を作製し、評価に用いた。 【0194】 <評価方法> ・(B)セルロース微細繊維の平均繊維径 ウェットケーキをt-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、Regulus8220)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース微細繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース微細繊維の短径(D)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。 【0195】 ・(B)セルロース微細繊維の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn) 実施例1~15、比較例1~7、9で作製したポリアミド樹脂成形体をHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)に投入し、ポリアミドを溶解したのち、残ったセルロース微細繊維を水洗、乾燥後、0.88g秤量し、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。 装置 :東ソー社 HLC-8120 カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本 検出器:RI検出器 溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%) 流速:0.6mL/分 検量線:プルラン換算 【0196】 ・(B)セルロース微細繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率 実施例1~15、比較例1~7、9で作製したポリアミド樹脂成形体をHFIPに投入し、ポリアミドを溶解したのち、残ったセルロース微細繊維を水洗、乾燥して得た粉体を用いて、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで、アルカリ可溶多糖類含有率を求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。 【0197】 ・(B)セルロース微細繊維の修飾度(平均置換度:DS) 実施例1~15、比較例1~7、9で作製したポリアミド樹脂成形体をHFIPに投入し、ポリアミドを溶解したのち、残ったセルロース微細繊維を水洗後、水分散体から、抄紙法で多孔質シートを作製した。得られた多孔質シートを用いてATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定することにより評価を行った。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。 (赤外分光スペクトルの測定条件) 積算回数:64回、 波数分解能:4cm-1、 測定波数範囲:4000~600cm-1、 ATR結晶:ダイヤモンド、 入射角度:45° 得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(5)に従って算出した。 IRインデックス= H1730/H1030・・・(5) 式(5)中、H1730及びH1030は、1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。次に平均置換度(DS)をIRインデックスより下記式(6)に従って算出した。 DS=4.13×IRインデックス・・・(6) 【0198】 ・(B)セルロース微細繊維の結晶化度 実施例1~15、比較例1~7、9で作製したポリアミド樹脂成形体をHFIPに投入し、ポリアミドを溶解したのち、残ったセルロース微細繊維を水洗後、水分散体から、抄紙法で多孔質シートを作製した。得られた多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。 結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100 I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度 I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度 用いた装置と測定条件は下記である。 装置:MiniFlex(株式会社リガク製) 操作軸:2θ/θ 線源:CuKα 測定方法:連続式 電圧:40kV 電流:15mA 開始角度:2θ=5° 終了角度:2θ=30° サンプリング幅:0.020° スキャン速度:2.0°/min サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け 【0199】 ・(B)セルロース微細繊維の熱分解開始温度(Td)及び1wt%重量減少温度 実施例1~15、比較例1~7、9で作製したポリアミド樹脂成形体をHFIPに投入し、ポリアミドを溶解したのち、残ったセルロース微細繊維を水洗後、水分散体から、抄紙法で多孔質シートを作製した。得られた多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて評価した。 装置:SII社製 EXSTAR6000 サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。 サンプル量:10mg 測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、30℃になるまで冷却した。つづいて、そのまま30℃から450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。 Td算出方法:横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた。化学修飾微細繊維の150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得た。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度を熱分解開始温度(Td)とした。 1wt%重量減少温度算出方法:前記Td算出時に用いた1wt%重量減少時の温度を1wt%重量減少温度とした。 【0200】 ・(C)分散剤の分子量測定 使用した(C)分散剤の分子量が10000以上の場合はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)にて、分子量10000未満の場合はHPLC(高速液体クロマトグラフィ)にて、標準ポリメタクリル酸メチル換算及び下記の条件で測定を行った。なお標準ポリメタクリル酸メチルとしては、アジレントテクノロジー株式会社製のポリマースタンダードキット EasiVial(公称ピークトップ分子量(Mp)が500~1,500,000の12種のポリメタクリル酸メチル(公称Mp2,000、30,000、300,000、1,500,000(Red)、1,000、13,000、130,000、1,000,000(Yellow)、500、7,000、70,000、500,000(Green)を含む)を用いた。 【0201】 [GPC測定] 常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後に水へ溶解させ測定した。 装置名:HLC-8320GPC EcoSEC(東ソー株式会社製) カラム:Shodex GPC KD-802+KD-80(昭和電工株式会社製) 溶離液:0.01M LiBr in DMF 流速:1.0mL/min 検出器:RI 測定温度:50℃ 【0202】 [HPLC測定] 常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後に水へ溶解させ測定した。 装置名:HP-1260(アジレントテクノロジー株式会社製) カラム:TSKgel ODS-80Ts (東ソー株式会社製) 移動相:水/アセトニトリル移動相による溶媒グラジエント 検出器:蒸発型光散乱検出器(ELSD) 測定温度:40℃ 流速:1mL/min 試料濃度:1mg/mL 注入量:10μL 【0203】 ・(C)分散剤のHLB値 分散剤の調製に使用した材料の配合比に基づいて、疎水性セグメント(プロピレンオキシド)の分子量を親水性セグメント(エチレンオキシド)の分子量で除した値を疎水性セグメント/親水性セグメント比率とした。次にグリフィン法を用い、下記式に従ってHLB値を求めた。 HLB値=20×(親水基の式量の総和/分子量) (式中、親水基の式量は、ポリエチレンオキシドセグメントの式量である。) なお、比較例5で用いたアミノヘキサン酸については、親水性セグメントとして計算した。 【0204】 ・(C)分散剤の融点 パーキンエルマー社製示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下で-50℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度を(C)分散剤の融点とした。 【0205】 ・ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、降温結晶化ピーク半値幅 実施例1~15、比較例1~9で得られた成形体について、パーキンエルマー社製示差走査熱量計(DSC)を用いて、窒素雰囲気下で23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)とした。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークをTmとした。さらに融点+25℃まで昇温し、その温度で5分間保持した後、10℃/分の降温速度で降温した際に、現れる発熱ピークのピークトップ温度を結晶化温度(Tc)とした。発熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の発熱ピークのピークトップ温度をTcとした。また、該成形体の結晶化速度の指標としてTm-Tcを求めた。 【0206】 更に、上記発熱ピークについて、ピークよりも高温側の結晶化開始前のDSC曲線の接線と、ピークよりも低温側の結晶化終了後のDSC曲線の接線とが同一直線になるように引いた線をベースラインとし、ベースラインからピーク高さLの半値全幅を、降温結晶化ピーク半値幅とした(図3参照)。 【0207】 ・ポリアミド樹脂成形体表面の算術平均表面粗さSa値 実施例1~15、比較例1~9で得られた平板試験片について、それぞれ成形体表面の表面粗さ(算術平均表面粗さ)を、ISO25178に準拠して、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて20倍の倍率で測定した。各々の成形体に対して、5か所で表面粗さを測定し、その数平均値をSa値とした。 【0208】 ・ポリアミド樹脂成形体中の凝集物サイズ 実施例1~15、比較例1~9で得られた平板試験片について、その表面から光学顕微鏡(オリンパス社製 BX53M)で倍率20倍にて5か所観察し、観察された凝集物のサイズの数平均値を凝集物サイズとした。尚、凝集物が確認できなかったものについては、凝集物無しとした。 【0209】 ・ポリアミド樹脂成形体の曲げ弾性率 実施例1~15、比較例1~9で得られたダンベル試験片を用いて、ISO178に準拠して曲げ弾性率を求めた。 【0210】 ・ポリアミド樹脂成形体の成形収縮率 実施例1~15、比較例1~9で得られた平板試験片について、ゲートから樹脂が流れる方向をMD方向とし、MD方向の平板の金型寸法とMD方向の成形片寸法から、成形収縮率を下記式の通り求めた。なお、成形片の寸法は射出成形後、23℃、50%RHの条件下の恒温恒湿槽に24時間養生した後、測定した。 成形収縮率=成形片寸法(MD方向)/金型寸法(MD方向)×100(%) 【0211】 ・ポリアミド樹脂成形体の線膨張係数 実施例1~15、比較例1~9で得られた平板試験片について、ゲートから樹脂が流れる方向をMD方向とし、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ10mmと長さ方向がMD方向となる様に直方体サンプルを切り出し、測定温度範囲-10℃~80℃で、ISO11359-2に準拠して測定し、0℃~60℃の間でのMD方向の膨張係数を算出した。 【0212】 ・ポリアミド樹脂成形体の摩擦係数、摩耗深さ、ピン先摩耗(アブレージョン摩耗特性)評価 実施例1~15、比較例1~9で得られた平板試験片について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製AFT-15MS型)、及び相手材料としてSUS304試験片(直径5mmの球)を用いて、線速度30mm/sec、往復距離10mm、温度23℃、湿度50%で、摺動試験を実施した。摩擦係数は下記試験条件終了時の値を採用した。また摩耗量は摺動試験後のサンプルの摩耗深さを、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。摩耗深さはn=4で測定した数値の数平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。測定箇所は摩耗痕の端より5mmの位置とし、等しい間隔をあけて実施した。また摩耗深さは数値が低い方が摩耗特性に優れると評価した。ピン先摩耗については、試験終了後のSUS玉を光学顕微鏡で観察し、摺動方向に傷が入っているものは不良、入っていないものは良とした。 試験条件:荷重2kgf、往復回数10,000回 【0213】 ・ポリアミド樹脂成形体の色度(b値) 実施例1~15、比較例1~9で得られた平板試験片について、熱劣化の指標として、コニカミノルタ社製分光測色計CM-25cGでb値を計測した。b値≧25の場合は不良、b値<25の場合は良とした。 【0214】 結果を表1及び2に示す。 【0215】 【表1】 [図:0001437932000002.jpg] 【0216】 【表2】 [図:0001437932000003.jpg] 」 3 本願発明の実施可能要件の検討 (1)本願発明の構成について 本願発明は、前記第2で認定したとおりのものであり、「(A)ポリアミド樹脂と、(B)重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、セルロース微細繊維と、(C)融点が80℃以下、且つ数平均分子量が1000~50000であり、親水性セグメントとしてオキシエチレンユニットを有する、分散剤と、を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であって、前記ポリアミド樹脂成形体の融点(Tm)と結晶化温度(Tc)とが下記式(1):Tm-Tc≧30℃・・・(1)の関係を満たす」ことを特定するものである。 そして、前記1の判断基準によれば、本願が実施可能要件を満たしているというためには、当業者が、(A)ポリアミド樹脂と、(B)セルロース微細繊維と、(C)分散剤を含むポリアミド樹脂組成物で構成されるポリアミド樹脂成形体であって、ポリアミド樹脂成形のTmとTcが、式(1):Tm-Tc≧30℃を満たすものであることを、本願明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく作ることができるように、発明の詳細な説明が記載されている必要がある。 (2)発明の詳細な説明におけるポリアミド樹脂成形体の記載について ポリアミド樹脂成形体は、(A)ポリアミド樹脂と、(B)セルロース微細繊維と、(C)分散剤を含むポリアミド樹脂組成物で構成されることから、発明の詳細な説明において、各成分に関する記載事項、ポリアミド樹脂成形体の製造方法に関する記載事項、実施例の順に見ていくことにする。 ア (A)ポリアミド樹脂について (ア)(B)セルロース微細繊維の成形加工時の熱分解を抑制する観点から、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,Iといった非晶芳香族ポリアミド、更にはポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミド、及びこれらの2種以上が共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,6/6,I)がより好ましく用いられること(【0030】)。 (イ)ポリアミド樹脂成形体中の(A)ポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させることによって成形体表面への(B)セルロース微細繊維の露出を抑制し、該成形体の摺動特性を向上させる観点で、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I及びポリアミド6,10から選ばれる2種以上の、共重合体(一例としてポリアミド6,6/6,I)又は混合物(一例としてポリアミド6,6とポリアミド6,Iとの混合物)が最も好ましいこと(【0030】)。 イ (B)セルロース微細繊維について (ア)(B)化学修飾されたセルロース微細繊維を、本開示では(B)セルロース微細繊維ともいうこと(【0017】)。 (イ)セルロース微細繊維は、重量平均分子量(Mw)が100000以上、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が6以下、アルカリ可溶多糖類平均含有率が12質量パーセント以下、且つ結晶化度が60%以上である、化学修飾されたセルロース微細繊維であること(【0041】)。 (ウ)セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース微細繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでは十分な耐熱性が達成できず、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に高耐熱性のセルロース微細繊維、及びセルロース微細繊維と樹脂との樹脂複合体が得られること(【0043】)。 (エ)化学修飾微細繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、ポリアミド樹脂との溶融混練時の熱分解ガス発生抑制の観点、耐熱性の観点、修飾化剤との副反応の観点から、少ない方が好ましいこと(【0050】、【0051】)。 (オ)化学修飾微細繊維が60%以上の結晶化度を有すると、化学修飾微細繊維自体の力学特性(特に強度及び寸法安定性)が高いため、樹脂に分散してなる樹脂複合体の強度及び寸法安定性が高い傾向となること(【0062】)。 (カ)化学修飾微細繊維はセルロース微細繊維の表面のセルロース分子の水酸基がセルロース修飾化剤により化学修飾されたもの(【0068】)で、原料となるセルロースは広葉樹又は針葉樹から得られる木材パルプ、非木材パルプ、例えばコットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ(例えば精製リンター)等の天然セルロースなどであり(【0070】)、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶多糖類及び硫酸不溶成分を減らしたものを用いることが好ましいこと(【0071】)。 (キ)天然セルロース原料をセルロース微細繊維とするために最大繊維径を小さくする方法として解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)により高効率にすることが好ましく、特に非プロトン性溶媒を含む解繊用溶液をセルロース原料に含浸させるだけで、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけでセルロースが微細化していき、解繊直後にセルロース修飾化剤を加えることで化学修飾微細繊維を得ることができ、生成効率及び精製効率、並びに樹脂複合体の物理特性の観点から好ましいこと(【0087】)。 (ク)化学修飾微細繊維の原料が非プロトン性溶媒中で膨潤する際、非プロトン性溶媒が原料を構成するフィブリルに素早く浸透し膨潤することでミクロフィブリル同士が微解繊状態となり、その後、化学修飾を行うことで微細繊維の全体で均質にアセチル化が進行し、結果として高い耐熱性を獲得しているものと推察されるし、このミクロフィブリル化された化学修飾微細繊維は高い結晶化度を維持しており、樹脂と複合したときに高い機械特性、摺動特性と優れた寸法安定性(特に、線熱膨張率の著しい低下)を獲得することができること(【0093】)。 (ケ)ボールミル等の強力な機械粉砕法を用いる場合、固体状態特有のメカノケミカル反応が起こるため、セルロースの分子鎖が切断される、結晶構造が破壊される、或いは、セルロースが溶解するといったことが避けられなくなり、その結果、得られる繊維のセルロース分子の重量平均分子量の低下、重量平均分子量と数平均分子量との比の増大又は減少、結晶化度の低下、収率の低下といった好ましくない効果が表れる場合があること(【0095】)。 (コ)化学修飾微細繊維のスラリーを、制御された乾燥条件で乾燥することにより乾燥体を形成し、乾燥には、各種ミキサーを使用できるが、比較的高いずり速度での乾燥が可能である点で機械撹拌式混合造粒機が好ましく、例えば、レーディゲミキサー(例えば(株)マツボー製)及びハイスピードバキュームドライヤー(例えば(株)アーステクニカ製)のような、缶体内に撹拌羽根とチョッパ羽根とを備える装置、プラネタリーミキサー(例えば浅田鉄工株式会社製)、ヘンシェルミキサー(FMミキサー)(例えば日本コークス工業(株)製)のような、缶体内に複数の撹拌羽根(典型的には上羽根及び下羽根)を備える装置等の流動式混合機等を例示でき、乾燥条件として、ずり速度、乾燥速度、乾燥温度、及び/又は圧力(減圧度)を制御することで、乾燥時の化学修飾微細繊維の凝集を抑制すること(【0096】)。 (サ)化学修飾微細繊維の平均化学修飾度は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表され、化学修飾微細繊維の水酸基の平均置換度(DS)は、0.3~1.2が好ましく、より好ましくは0.5~1.1であり、耐熱性の観点から、平均置換度は高い方が望ましいが、平均置換度が高すぎると、微細繊維の結晶化度が低下して微細繊維の力学的強度の低下につながり、且つ平均置換度の高いセルロースが繊維表面に析出し、接着剤のようにふるまうことで繊維の凝集を誘発し、成形品の物性及び寸法安定性が低下させるおそれがあり、平均置換度を0.3以上とすることは、ポリアミド樹脂中に化学修飾微細繊維をより均一分散させる効果、及び、ポリアミド樹脂成形体中のポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させるとともに、球晶を均一化且つ微細化する効果を発現するため、化学修飾微細繊維の巨大凝集塊の形成を抑制すると共に成形品表面への化学修飾微細繊維の露出を抑制し、寸法安定性が高く、高弾性、低摩擦係数及び低摩耗性の成形体の提供に寄与すること(【0097】)。 ウ (C)分散剤について (ア)(C)分散剤は、(A)ポリアミド樹脂中での(B)セルロース微細繊維の分散性を向上させることに寄与し、(C)分散剤の効果により、(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維が均一微分散することで、(A)ポリアミド樹脂の球晶も均一微細化され、その結果、寸法安定性に優れ、高弾性、低摩擦係数、低摩耗、低アブレージョン摩耗の成形体を提供することが可能となり、このような分散剤は、(B)セルロース微細繊維の表面を均一にコーティングし、且つ(A)ポリアミド樹脂と相溶化する機能を有すること(【0108】)。 (イ)(C)分散剤は、(B)セルロース微細繊維の凝集を抑制する観点で、水溶性ポリマーであることが好ましく、(C)分散剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、(A)ポリアミド樹脂中に(B)セルロース微細繊維をより均一に分散させる観点で更に好ましいこと(【0109】)。 (ウ)(C)分散剤のHLB値は、好ましくは0.1以上8.0未満であり、HLB値の下限値は、水への易溶解性の観点から、好ましくは0.1、HLB値の上限値は、(B)セルロース微細繊維の(A)ポリアミド樹脂への均一分散性の観点から、好ましくは8未満であること(【0110】【0111】)。 エ ポリアミド樹脂成形体の製造方法について (ア)ポリアミド樹脂成形体を作製する際の(C)分散剤の添加方法として、(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース微細繊維、及び(C)分散剤をあらかじめ混合し溶融混練した後、成形加工する方法、(A)ポリアミド樹脂にあらかじめ(C)分散剤を添加し、必要により予備混練した後、(B)セルロース微細繊維を添加して溶融混練し、成形加工する方法、(B)セルロース微細繊維と(C)分散剤を予め混合した後、(A)ポリアミド樹脂と溶融混練し、成形加工する方法、(B)セルロース微細繊維が水に分散している分散液中に(C)分散剤を添加し、乾燥させてセルロース乾燥体を作製した後、当該乾燥体を(A)ポリアミド樹脂に添加して溶融混練し、成形加工する方法、(B)セルロース微細繊維が水に分散している分散液中に(C)分散剤を添加し、該水分散体を(A)ポリアミド樹脂に液添加して溶融混練し、成形加工する方法、等が挙げられること(【0128】)。 (イ)ポリアミド樹脂成形体を構成するポリアミド樹脂組成物の製造方法の具体例として、(1)(A)ポリアミド樹脂と、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維、(C)分散剤混合粉末とを、一括溶融混練する方法、(2)(A)ポリアミド樹脂及び必要により(C)分散剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維粉末、及び必要により(C)分散剤を添加して、さらに溶融混練する方法、(3)(A)ポリアミド樹脂、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維、(C)分散剤混合粉末、及び水を溶融混練した後、所望の比率で混合された(B)セルロース微細繊維、及び水、並びに必要により(C)分散剤を混合した後、一括で溶融混練する方法、(4)(A)ポリアミド樹脂及び必要により(C)分散剤を溶融混練した後、所望の比率で混合された(A)ポリアミド樹脂、(B)セルロース微細繊維、(C)分散剤混合粉末、及び水、を添加して、さらに溶融混練する方法、(5)上記(1)~(4)を単軸又は二軸押出機を用いて任意の割合でTopとSideで分割して添加し、溶融混練する方法、等が挙げられること(【0143】)。 (ウ)ポリアミド樹脂組成物からポリアミド樹脂成形体を製造する方法の具体例として、(1)前項で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、押出成形機で棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法、(2)前項で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、射出成形機で成形し、該成形体を得る方法、(3)前項で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、ブロー成形機で成形し、該成形体を得る方法、等が挙げられること(【0145】)。 オ 実施例 (ア)実施例1~5、6~8、9は、(B)セルロース微細繊維として、リンターパルプを解繊後、修飾化剤(酢酸ビニル)を用いて解繊、修飾して、化学修飾微細繊維B-2~B-6の水分散体を得た後、これのいずれかに(C)分散剤として、HLBが6.5、融点が-30℃、数平均分子量が3000~18100であるPEGブロックとPPGブロックを有するコポリマーC-1~C-3、又はHLBが20、融点が58℃、分子量が3000である市販のポリエチレングリコール(Sigma-Aldrich社製のポリエチレングルコール3000)C-4を配合し、プラネタリーミキサー又はヘンシェルミキサーで減圧乾燥して化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体を得、(A)ポリアミド樹脂として、「ポリアミド樹脂A-1(ナイロン6樹脂)(宇部興産社製 1013B)」をさらに加えて溶融混練して樹脂複合体ペレットとしてから、射出成形機にて平板試験片を作成したこと、該平板試験片中の化学修飾微細繊維を測定して、Mwが356000~380000、Mw/Mnが4.7~4.9、結晶化度が64~80%、アルカリ可溶多糖類平均率が3.6~3.7質量%、修飾度が0.1~1.5、Tm-Tcが31~36℃であることが記載されている。 そして、これら実施例は、本願発明に係る発明特定事項を全て満たしており、表1の評価を見ると、本願発明の効果として、本願明細書の段落【0014】に記載された、高い機械特性及び寸法精度と、低摩擦係数、低摩耗及び/又は低アブレージョン摩耗とを両立可能にしたものであることが理解できる。 他方、比較例1は、実施例1において、修飾化剤(酢酸ビニル)を用いない非化学修飾微細繊維B-1を含有する以外は同様に、ポリアミド樹脂成形体を作成したものであるから、セルロース微細繊維の修飾度は0であって、Tm-Tcが28℃となり、本願発明の効果を奏しないものであるが、これは本願明細書の段落【0018】、【0019】に記載されたように、セルロース微細繊維がポリアミド樹脂中に均一に分散しないためであると推察される。 (イ)実施例10~15は、(B)セルロース微細繊維として、上記化学修飾微細繊維B-4の水分散体に(C)分散剤として、HLBが6.5、融点が-30℃、数平均分子量が3000であるPEGブロックとPPGブロックを有するコポリマーC-1を配合し、プラネタリーミキサーで減圧乾燥して化学修飾微細繊維と分散剤の混合粉体を得、(A)ポリアミド樹脂として、ポリアミドA-2(PA66)、ポリアミド樹脂A-1(PA6)とポリアミド樹脂A-2(PA66)とのブレンド、ポリアミド樹脂A-1(PA6)とポリアミド樹脂A-3(ナイロン6,I樹脂)とのブレンド、ポリアミド樹脂A-2(PA66)とポリアミド樹脂A-3(ナイロン6,I樹脂)とのブレンド、ポリアミド樹脂A-4(ナイロン6,6/6,I)(旭化成社製 レオナ8200)、ポリアミド樹脂A-5(ナイロン6,10)(旭化成社製 レオナ3100)のいずれかをさらに加えて溶融混練して樹脂複合体ペレットとしてから、射出成形機にて平板試験片を作成したこと、該平板試験片中の化学修飾微細繊維を測定して、Mwが373000、Mw/Mnが4.8、結晶化度が75%、アルカリ可溶多糖類平均率が3.7質量%、修飾度が0.9、Tm-Tcが40~60℃であることが記載されている。 そして、これら実施例は、本願発明に係る発明特定事項を全て満たしており、表2の評価を見ると、本願発明の効果を奏することが理解できる。 (3)実施可能要件についての検討 上記(2)ア~エによれば、(B)セルロース微細繊維の成形加工時の熱分解を抑制する観点から、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I、ポリアミド6,10、及びこれらの2種以上が共重合された共重合体が好ましく用いられ、またポリアミド樹脂成形体中の(A)ポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させることにより成形体表面への(B)セルロース微細繊維の露出を抑制し、該成形体の摺動特性を向上させる観点で、ポリアミド6,6、ポリアミド6、ポリアミド6,I及びポリアミド6,10から選ばれる2種以上の共重合体又は混合物が好ましいこと、(B)セルロース微細繊維は化学修飾されたセルロース微細繊維であって、耐熱性のため、特定のMw、Mw/Mnを有し、アルカリ可溶多糖類は少ないことが好ましいこと、樹脂複合体の強度及び寸法安定性を高くするために、化学修飾微細繊維の結晶化度を高くし、そうすることで耐熱性にも好ましいこと、化学修飾微細繊維の原料となるセルロースとしては,アルカリ可溶多糖類や硫酸不要成分を減らしたものを用いることが好ましく、解繊する際に結晶化度の低下などを防止するために適切な条件下で機械粉砕法を用いること、耐熱性の観点から、化学修飾微細繊維の平均化学修飾度は0.3~1.2が好ましいこと、親水性セグメントを有する分散剤を用いることで、(a)ポリアミド樹脂中での(B)セルロース微細繊維の分散性を向上させ、より均一に分散させて、(A)ポリアミド樹脂の結晶化速度を遅延させて、(B)セルロース微細繊維の成形体表面への露出を抑制し、成形体の摩擦係数と摩耗量を低下させることが理解できる。 そして、上記(2)オによれば、実施例1~15に記載された、(A)ポリアミド樹脂、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維、(C)分散剤を含むポリアミド樹脂組成物で構成されたポリアミド樹脂成形体であれば、実際にその物を作れ、かつ、その物を使用できることができることは理解できる。 しかしながら、本願発明の「(B)」「セルロース微細繊維」は、化学修飾されたセルロース微細繊維も、化学修飾されていないセルロース微細繊維(以下「非化学修飾微細繊維」という。)も含むものであるところ、非化学修飾微細繊維を用いた場合には、化学修飾されたセルロース微細繊維を用いた場合と同様に、実際にその物を作れ、かつ、その物を使用できることができることを直ちに理解することができない。 例えば、実施例1~5は、(A)ポリアミド樹脂及び(C)分散剤は同じものを使用し、(B)化学修飾されたセルロース微細繊維の修飾度を変化させた場合の試験例であるところ、実施例1ではセルロース微細繊維の化学修飾度が0.1と低く、実施例5では化学修飾度が1.5と高いため、ポリアミド樹脂成形体の凝集物サイズ、線膨張係数、摩擦係数、摩耗深さが、実施例2~4(化学修飾度が0.3~1.2)よりも値は大きく、曲げ弾性率は実施例2~4よりも値は小さくなっており、セルロース微細繊維を化学修飾するにしても適度な化学修飾度があることが理解できる。 そうすると、化学修飾されたセルロース微細繊維において、その化学修飾の程度がポリアミド樹脂成形体の物性に影響を与えることから、セルロース微細繊維が化学修飾されてさえいればよいわけではないし、ましてや非化学修飾微細繊維を用いた場合には、ポリアミド樹脂中に均一分散すること(【0018】、【0019】)は期待できないから、ポリアミド樹脂成形体の物性は、化学修飾されたセルロース微細繊維を用いた場合と同程度であると解することができない。 そして、非化学修飾微細繊維を用いた場合には、本願明細書の実施例1~15と同様にポリアミド樹脂組成物を調製し、ポリアミド樹脂成形体を得たとしても、比較例1に見られるように、Tm-Tcの関係を満たさない。 さらに、本願明細書には、化学修飾されたセルロース微細繊維から非化学修飾微細繊維に変更するにあたり、Tm-Tcの関係を満たすのに必要な知見は見当たらないし、また非化学修飾微細繊維を用いた場合、ポリアミド樹脂及び分散剤の種類を適宜調整して、ポリアミド樹脂成形体のTm-Tcの関係を満たす手段が、原出願の優先日時の技術常識であったという事実もない。 してみると、非化学修飾微細繊維を用いた場合に、Tm-Tcの関係を満たすための指針は本願明細書に記載されていないし、原出願の優先日時の技術常識でもないことから、ポリアミド樹脂、非化学修飾微細繊維、分散剤を含むポリアミド樹脂組成物から構成されるポリアミド樹脂成形体を製造しては、Tm-Tcの関係を満たすか否かを確認せざるを得ず、当業者に期待しうる程度を越える試行錯誤を強いるものである。 よって、本願明細書の発明の詳細な説明には、非化学修飾微細繊維を含むポリアミド樹脂組成物から構成されるポリアミド樹脂成形体を製造するにあたって、当業者が本願発明(特にTm-Tcの関係を満たすこと)の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。 (4)請求人の主張について 請求人は、令和7年1月22日に提出した審判請求書では、上記第3(5)における主張1及び主張2により、分割要件を満たすとともに、実施可能要件を満たす旨の主張をしているが、上記第3(5)及び上記(3)に示したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲における請求項4、5の記載が、特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができない。 次いで、本願発明は、引用例(原出願)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 そして、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 さらに、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たしていないから特許を受けることができない。 したがって、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2025-000917

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