特許拒絶査定不服審判
2024-007911
射出延伸ブロー成形体、容器および射出延伸ブロー成形用組成物
- 審判番号
- 2024-007911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-038920
- 請求日
- 2024年05月13日
- 審決日
- 2025年11月20日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社プライムポリマー
- 【請求人代理人】弁理士法人エスエス国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 加藤 幹
- 審判官 越本 秀幸
- 分類
- P18 .121-Z (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第1項第4号、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020- 38920「射出延伸ブロー成形体、容器および射出延伸ブロー成形用組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月16日出願公開、特開2021-138870〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和2年3月6日の出願であって、以降の手続の経緯は次のとおりである。
令和5年10月16日付け 拒絶理由通知
同年12月13日 意見書及び手続補正書の提出
令和6年 2月 2日付け 拒絶査定
同年 5月13日 審判請求書及び手続補正書の提出
同年 8月 7日付け 前置報告
第2 令和6年5月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年5月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1の
「下記要件(a1)および(a2)を満たすエチレン系重合体(A)と、下記要件(b1)を満たすエチレン系共重合体(B)とを含む組成物からなる射出延伸ブロー成形体。
要件(a1):密度が955~970kg/m3である。
要件(a2):JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が1~15g/10分である。
要件(b1):密度が901~938kg/m3である。」
を、
「下記要件(a1)および(a2)を満たすエチレン系重合体(A)と、下記要件(b1)を満たすエチレン系共重合体(B)とを含む組成物からなる射出延伸ブロー成形体。
要件(a1):密度が955~970kg/m3である。
要件(a2):JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が5.2~15g/10分である。
要件(b1):密度が901~938kg/m3である。」(下線は補正箇所である。)
とする補正(以下「補正事項1」という。)を含むものである。
2 補正の適否
(1)補正の目的
補正事項1は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正であるから、同条第5項の規定に基づいて補正事項1の目的について検討する。
補正事項1は、補正前の請求項1において、エチレン系重合体(A)の要件(a2)のメルトフローレート(MFR)をさらに狭い範囲に限定するものである。また、補正事項1による補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)独立特許要件についての検討
補正事項1は、上記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本願補正発明が、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
ア 本願補正発明
本願補正発明は、次のとおりである。
「下記要件(a1)および(a2)を満たすエチレン系重合体(A)と、下記要件(b1)を満たすエチレン系共重合体(B)とを含む組成物からなる射出延伸ブロー成形体。
要件(a1):密度が955~970kg/m3である。
要件(a2):JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が5.2~15g/10分である。
要件(b1):密度が901~938kg/m3である。」
イ 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
(ア)引用文献1の記載事項
拒絶査定において引用文献1として引用された、本願の出願日(令和2年3月6日)前の平成10年7月28日に公知となった、特開平10-195261号公報には、以下の事項が記載されている。(下線は合議体が付した。以下同じ。)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来から知られているブロー成形用ポリエチレン系組成物は、ブロー成形において、成形性、収縮特性、延伸性、及び表面平滑性などのバランスが必ずしも優れていないことがあり、中でもブロー成形法として射出延伸ブロー方式ではポリエチレン系材料では成形が困難な場合があった。」
「【0029】本発明の(B)高密度ポリエチレンは、下記の特定範囲の物性を有しているものである(但し、前記(A)エチレン-α-オレフィン共重合体は除く)。
(B-1) 190 ℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16) =0.01~100(g/10分) 、好ましくは、 0.1~20(g/10分)
(B-2) 密度(d)≧0.940(g/cm3 )
(B-3) 分子量分布(Mw /Mn )= 4.0~30
【0030】上記の特性のうち、
(B-1)MFR2.16が上記の範囲外であると、(A)成分との相溶性が劣り、良好な表面平滑性が得られない。」
「【0037】本発明のポリエチレン組成物は、ブロー成形法に好適に用いることができる。ブロー成形(吹き込み成形)あるいは中空成形法として、各種の方法が適用できる。例えば、押出し成形と組合せた押出しブロー成形(extrusion blowing)、二軸押出しブロー成形、射出成形機と組合せたものを射出ブロー成形(injectionblowing )などが挙げられる。また、PACKIA 1995/11, 12頁に記載されているダイレクトヒートコンによる射出延伸ブロー成形機に特に好適に使用される。」
「【0039】ポリエチレン特性の測定法
(1) 密度: JIS K7112 に準拠して、 190℃での2.16kg 荷重における MFR測定時に得られるストランドを 100℃で 1時間熱処理し、 1時間かけて室温まで徐冷したサンプルを密度勾配管を用いて測定した。
(2) メルトフローレート(MFR2.16) : JIS K7210 に準拠して、メルトインデクサを用いて 190℃における2.16kg 荷重での10分間にストランド状に押し出される樹脂の重量を測定することにより求める。」
「【0040】ブロー成形性については、(株)青木固研究所製の射出延伸ブロー成形機(SB3-100LL)を用いて以下の項目を評価した。
【0041】(1) プリフォーム成形性:射出成形により、正常なプリフォームの成形可能性について、成形テストにて評価した。評価の判定として、
○:流動性が良く、プリフォームの成形が可能で、型離れが良い
△:流動性が良く、プリフォームの成形が可能であるが、型離れが悪い
×:流動性が悪く、プリフォームの成形が出来ない
を意味する。
【0042】(2) 収縮特性:成形されたプリフォームが、ブローされるまでの間に適度な収縮が得られるか目視にて評価した。評価の判定として、
○:収縮とドローダウンのバランスが取れており、形状が保持される
△:収縮とドローダウンのバランスがわずかにどちらかにかたよっており、プリフォームの形状がいびつとなる
×:過収縮もしくはドローダウンが激しく、大きく形状がくずれる
を意味する。
「【0043】(3) 延伸性と表面平滑性:ブロー工程において、プリフォームが均一に延伸され、厚薄精度のよい成形品が得られるかどうか、表面平滑性が良いかどうか目視で評価した。評価の判定として、
○:延伸後の厚薄精度が良好で、表面平滑性にすぐれる
△:延伸後の厚薄精度もしくは表面平滑性のどちらか一方がわるい
×:延伸後の厚薄精度及び表面平滑性がわるい
を意味する。
【0044】実施例1~7、比較例1~2
各実施例及び比較例で用いた重合体(A)成分及び(B)成分の特性を表1及び表2に示し、ブロー成形の評価を表3に示した。
【0045】
【表1】
[図:0001431681000001.jpg]
【0046】
【表2】
[図:0001431681000002.jpg]
【0047】
【表3】
[図:0001431681000003.jpg]
【0048】
【発明の効果】本発明により、ブロー成形品を製造に好適であり、特に、プリフォーム成形性、収縮特性、延伸性、及び表面平滑性に優れたポリエチレン組成物を提供する。」
(イ)引用文献1に記載された発明
引用文献1の実施例では、射出成形によりプリフォームとし、該プリフォームを射出延伸ブロー成形機を用いてブロー成形しており(【0040】~【0042】)、そのブロー成形して得られる成形体として実施例6に着目とすると、引用文献1には次の発明が記載されていると認める。
「密度が0.918g/cm3、メルトフローレート(MFR2.16)が4g/10min、MFR21.6/MFR2.16が17、Mw/Mnが2.8、スウェル比が1.16、ヘキセン-1含量10重量%のエチレン-ヘキセン-1共重合体であるエチレン-α-オレフィン共重合体(A-1)30重量%と、密度が0.96g/cm3、メルトフローレート(MFR2.16)が0.35g/10min、Mw/Mnが20である高密度ポリエチレン(B-2)70重量%からなるポリエチレン組成物を、射出成形によりプリフォームとし、該プリフォームを射出延伸ブロー成形機を用いてブロー成形して得られる、成形体。」(以下「引用発明」という。)
ウ 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明の「高密度ポリエチレン(B-2)」は、本願補正発明の「エチレン系重合体(A)」に相当する。
(イ)引用発明の「高密度ポリエチレン(B-2)」は、密度が0.96g/cm3で、換算すると960kg/m3であるところ、引用文献1の【0039】には「JIS K7112 に準拠して、 190℃での2.16kg 荷重における MFR測定時に得られるストランドを 100℃で 1時間熱処理し、1時間かけて室温まで徐冷したサンプルを密度勾配管を用いて測定した。」と記載されており、本願明細書の【0046】の「各重合体の密度は、JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した。」との記載からみて、引用発明の密度は本願補正発明の密度と測定方法が同じであるから、上記(ア)を踏まえると、本願補正発明の「要件(a1):密度が955~970kg/m3である。」との特定事項を満たす。
(ウ)引用発明の「メルトフローレート(MFR2.16)」について、引用文献1の【0039】には「JIS K7210 に準拠して、メルトインデクサを用いて 190℃における2.16kg 荷重での10分間にストランド状に押し出される樹脂の重量を測定することにより求める。」と記載されており、本願補正発明と測定条件が同じであるから、本願補正発明と引用発明とは「JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)」である限りにおいて一致する。
(エ)引用発明の「エチレン-α-オレフィン共重合体(A-1)」は、本願補正発明の「エチレン系共重合体(B)」に相当する。
(オ)引用発明の「エチレン-α-オレフィン共重合体(A-1)」は、密度が0.918g/cm3で、換算すると918kg/m3であるところ、上記(イ)で検討したとおり、引用発明の密度は本願補正発明の密度と測定方法が同じであるから、上記(ウ)を踏まえると、本願補正発明の「要件(b1):密度が901~938kg/m3である。」との特定事項を満たす。
(カ)引用発明の「射出成形によりプリフォームとし、該プリフォームを射出延伸ブロー成形機を用いてブロー成形して得られる、成形体」は、本願明細書の【0039】に射出延伸ブローとして記載されているコールドパリソン法により得られたものであるといえるから、本願補正発明の「射出延伸ブロー成形体」に相当する。
そうすると、両者は、
「下記要件(a1)を満たすエチレン系重合体(A)と、下記要件(b1)を満たすエチレン系共重合体(B)とを含む組成物からなる射出延伸ブロー成形体。
要件(a1):密度が955~970kg/m3である。
要件(b1):密度が901~938kg/m3である。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
エチレン系重合体(A)の要件(a2):JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)に関して、本願補正発明では「5.2~15g/10分」であるのに対して、引用発明では「0.35g/10分」である点
エ 相違点1についての判断
引用文献1の【0029】~【0030】には、(B)高密度ポリエチレンのメルトフローレート(MFR2.16)として「0.01~100g/10分、好ましくは、0.1~20g/10分」の特定範囲の物性を有しているとともに、この特定範囲外であると「(A)成分との相溶性が劣り、良好な表面平滑性が得られない」と記載されているので、引用発明において、エチレン-α-オレフィン共重合体(A-1)との相溶性及び良好な表面平滑性を考慮して、高密度ポリエチレン(B-2)のメルトフローレートを、0.35g/10分から、好ましい範囲(0.1~20g/10分)内である5.2~15g/10分に変更することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
オ 本願補正発明の効果について
本願明細書の【0010】の記載からみて、本願補正発明の効果は「成形性に優れるエチレン系重合体を含む組成物および該組成物からなる射出延伸ブロー成形体を提供すること」である。
そして、本願明細書には、成形性として「金型賦形性」(成形した容器が、金型サイズと同サイズの容器であるか否か)及び「偏肉性」(成形した容器を手で触りながら周方向の偏肉度合い(肉厚分布))が評価項目として記載されており(本願明細書【0055】)、さらに、本願補正発明の範囲内である実施例1~6の射出延伸ブロー成形体は、「金型賦形性」及び「偏肉性」の評価がともに「AA」であるのに対して、本願補正発明の範囲外である比較例1~6は、「金型賦形性」及び「偏肉性」の評価の少なくとも1つが「BB」であることから、本願補正発明の範囲内とすることで、本願補正発明の効果を奏するものである(本願明細書【0048】~【0059】)。
他方で、引用文献1には、「ブロー成形品の製造に好適であり、特に、プリフォーム成形性、収縮特性、延伸性、及び表面平滑性に優れたポリエチレン組成物を提供する」と記載されていることから(【0048】)、「プリフォーム成形性、収縮特性、延伸性、及び表面平滑性に優れたポリエチレン組成物を提供する」ことが、引用発明の効果であると解され、引用文献1には、「プリフォーム成形性」(【0041】)、「収縮特性」(【0042】)及び「延伸性と表面平滑性」(【0043】)が評価項目として記載されており、さらに、引用発明である実施例6は、「プリフォーム成形性」、「収縮特性」、「延伸性」及び「表面平滑性」がいずれも「○」であり、引用発明の効果を奏することが記載されている。
ここで、引用発明の上記「延伸性」は、延伸後の厚薄精度を評価するものであり(【0043】)、本願補正発明の「偏肉性」に相当するものといえるから、引用発明の上記「延伸性」から、本願補正発明の「偏肉性」に優れるという効果は、当業者が予測し得るものである。そして、引用発明の上記「延伸性」が、ブロー工程においてプリフォームが均一に延伸されるかどうかを評価するものであり(【0043】)、引用発明の上記「収縮特性」が、成形されたプリフォームが、ブローされるまでの間に適度な収縮が得られ、形状が保持されるかどうかを評価するものであること(【0042】)からみて、上記「延伸性」及び「収縮特性」は、ブロー成形において、プリフォームが金型サイズに同サイズになるように均一に延伸されるとともに、延伸した形状で保持されることを示す特性であるといえるから、引用発明の上記「延伸性」及び「収縮特性」から本願補正発明の「金型賦形性」に優れるという効果は、当業者が予測し得るものである。
また、本願補正発明におけるエチレン系重合体(A)のメルトフローレートに着目すると、本願明細書の【0017】には「要件(a2):JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が0.1~50g/10分である。MFRは、1~30g/10分であることが好ましく、1~15g/10分であることがより好ましい。MFRが前記範囲内であると、射出成形性に優れているため好ましい」と記載されるのみであって、特にメルトフローレートの下限を5.2g/10分とすることにより、優れた効果が奏されることは、記載されていない。さらに、実施例1と実施例6は使用するエチレン系重合体(A)以外は同じ組成物から得られる射出延伸ブロー成形体であるが、エチレン系重合体(A)としてHD-1(5.2g/10分)を使用した実施例1とHD-2(13g/10分)を使用した実施例6を比較すると、金型賦形性及び偏肉性はいずれも「AA」であり、収縮率MD及びTDはほぼ同程度の値であるから、エチレン系重合体(A)のメルトフローレートを特定の範囲に限定することによる金型賦形性、偏肉性及び収縮率についての有利な効果は確認できず、シャルピー衝撃強さは実施例1が15kJ/m2であるのに対して、実施例6は7.7kJ/m2であるが、メルトフローレートがより小さい実施例1の方がシャルピー衝撃強さが増加していることを考慮すると、エチレン系重合体(A)のメルトフローレートの下限を特定することによるシャルピー衝撃強さについての有利な効果も記載されていない。
そうすると、メルトフローレートの下限を「5.2g/10分」に特定したことによる本願補正発明の効果は、格別顕著なものとはいえない。
以上のとおりであるから、上記本願補正発明の効果は引用文献1に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。
カ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求書における主張
審判請求人は、審判請求書において、引用発明における(B)高密度ポリエチレンのメルトフローレート(MFR)について、
「引用文献1の[0029]には、本発明におけるエチレン系重合体(A)に対応する重合体である高密度ポリエチレンの密度やMFRの範囲が記載されているが、引用文献1において、実質的に記載されているのは、高密度ポリエチレン(B-1)(密度0.95g/cm3、MFR(190℃、2.16kg荷重)1.2g/10分)、および、高密度ポリエチレン(B-2)(密度0.96g/cm3、MFR(190℃、2.16kg荷重)0.35g/10分)のみであり(引用文献1の表2)、上記補正後の本発明における要件(a1)および(a2)を満たすエチレン系重合体(A)を用いることによる上記顕著な効果について、引用文献1には、一切記載も示唆もされておらず、得られる成形体の金型賦形性や偏肉性、さらにはシャルピー衝撃強さや、収縮率を向上させるために、引用文献1に記載の高密度ポリエチレンのMFRを5.2g/10分以上にする動機もない。なお、引用文献1の[0029]には、高密度ポリエチレンのMFRは、0.1~20g/10分であることが好ましいことが記載されている。しかし、引用文献1に実質的に記載されているのは、高密度ポリエチレンのMFRが1.2g/10分または0.35g/10分であり、引用文献1の[0029]に記載の好ましい範囲である0.1~20g/10分に含まれ、さらに、引用文献1の表3によれば、MFRが1.2g/10分または0.35g/10分の高密度ポリエチレンを用いることで、射出成形性に優れる成形体が得られているのだから、「射出成形性」は既に解決されているのであり、射出成形性に優れる引用文献1の実施例において、射出成形性を良くする必要は無い。また、引用文献1の[0030]には、高密度ポリエチレンのMFRが上記範囲外であると、エチレン-α-オレフィン共重合体との相溶性が劣り、良好な表面平滑性が得られないことが記載されているものの、該MFRを1g/10分以上にすることで射出成形性等が良くなることは記載されていない。」(第5頁第5行~第28行)及び
「さらに付言すると、引用文献1では、高密度ポリエチレンのMFRが0.1~20g/10分であることが好ましいと記載しているだけで、引用文献1には、高密度ポリエチレンのMFRは5.2~15g/10分が好ましいことなど一切記載されていないのだから、MFRが1.2g/10分または0.35g/10分であり、既に、引用文献1の好ましい範囲である0.1~20g/10分の範囲にある引用文献1の実施例における高密度ポリエチレンのMFRを5.2~15g/10分にしたはずであるという示唆は当然引用文献1にはない。」(第6頁第10行~第16行)
と主張する。
しかし、引用発明において、高密度ポリエチレン(B-2)のメルトフローレートを5.2~15g/10分に変更する動機付けについては、上記エ(ア)で検討したとおりである。
そして、引用発明において、高密度ポリエチレン(B-2)のメルトフローレートを特定の範囲内に変更できない特段の事情があるとはいえず、また、上記エ(イ)で検討したとおり、本願明細書の記載からは、エチレン系重合体(A)のメルトフローレートの下限を特定することによる顕著な効果を認めることができないことから、引用文献1には、(B)高密度ポリエチレンのメルトフローレートを「5.2~15g/10分」とすることが好ましいとする記載がないことのみをもって、引用発明において、高密度ポリエチレン(B-2)のメルトフローレートを特定の範囲内に変更できない特段の事情を有するともいえない。
したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。
キ 独立特許要件についてのまとめ
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、補正事項1を含む本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和6年5月13日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和5年12月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「下記要件(a1)および(a2)を満たすエチレン系重合体(A)と、下記要件(b1
)を満たすエチレン系共重合体(B)とを含む組成物からなる射出延伸ブロー成形体。
要件(a1):密度が955~970kg/m3である。
要件(a2):JIS K 7210に準拠して得られた190℃、2.16kg荷重で
のメルトフローレート(MFR)が1~15g/10分である。
要件(b1):密度が901~938kg/m3である。」
2 拒絶査定における拒絶の理由の概要
令和6年2月2日付け拒絶査定は、本願発明が、その出願日前に日本国内又は外国において公知となった引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
3 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
拒絶査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記第2の2(2)イに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明におけるエチレン系重合体(A)のメルトフローレートの数値範囲を「1~15g/10分」に拡張したものであるということができる。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は上記第2の2(2)ウで述べた相違点1と同様の点において相違する。
そして、この相違点については、上記第2の2(2)エで述べたように、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到することである。
よって、本願発明も引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきであり、したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、原査定のとおり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-007911