特許拒絶査定不服審判
2023-013000
フェノール系成型材料
- 審判番号
- 2023-013000
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-566209外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年08月03日
- 審決日
- 2025年04月25日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .113-Z (C08L) / P18 .121-Z (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第1項第4号、特許法第17条の2第5項第4号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-566209「フェノール系成型材料」拒絶査定不服審判事件〔平成30年12月6日国際公開、WO2018/220383、令和2年7月27日国内公表、特表2020-521860〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)5月31日(パリ条約に基づく優先権主張 英国(GB) 2017年(平成29年)5月31日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 5月28日提出:手続補正書
令和 4年 5月30日付け:拒絶理由通知
同年12月 6日提出:意見書、手続補正書
令和 5年 3月22日付け:拒絶査定
同年 8月 3日提出:審判請求書、手続補正書
同年10月 4日提出:手続補正書(方式)
ここで、令和5年8月3日に提出された手続補正書による補正を以下「本件補正」という。
第2 本件補正について
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、本件補正前の
「 フェノール系樹脂シートを形成するための未硬化材料であって、
-未硬化フェノール系樹脂と、
-フィラーと、
-前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の触媒と
を含み、前記フィラーが、3.5:1以上の量のフィラー対未硬化フェノール系樹脂の比で存在し、さらに前記フィラーが、遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物を2.5:1~3:1の量の金属水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比で含む、前記未硬化材料。」
から、
「 フェノール系樹脂シートを形成するための未硬化材料であって、
-未硬化フェノール系樹脂と、
-フィラーと、
-前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒と
を含み、前記フィラーが、3.5:1以上の量のフィラー対未硬化フェノール系樹脂の比で存在し、さらに前記フィラーが、遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物を2.5:1~3:1の量の金属水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比で含む、前記未硬化材料。」
とする補正を含むものである(補正された箇所に当審において下線を付与した。)。
ここで、本件補正による特許請求の範囲の請求項1についての補正を以下「本件補正事項」といい、本件補正後の請求項1に係る発明を以下「本願発明1」という。
2 本件補正事項の目的
本件補正事項は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正であるから、同条第5項の規定に基づいて本件補正事項の目的について検討する。
本件補正事項は、本件補正事項による補正前の「触媒」という事項を「未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒」とするものである。そして、これは令和4年5月30日付け拒絶理由通知及び令和5年3月22日付け拒絶査定における「触媒」がいかなる触媒を指すものであるのか明確に把握することができない旨の拒絶の理由への対応として、願書に最初に添付した明細書の段落0025の「触媒という用語は、そのようなフェノール系樹脂の硬化を触媒することが既知であり、Bステージ硬化を助けることが既知である添加剤を指すことを意図する」という記載に基づいてする補正であるといえる(なお、請求人も審判請求書(令和5年10月4日に提出された手続補正書(方式)による補正後のもの。以下同じ。)の3-1(2)2)において「請求項の記載を明りょうにするための補正」であると主張している。)。
したがって、本件補正事項は、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる事項を目的とするものである。
第3 本願発明1
本願発明1は、前記第2の1に記載したとおりのものである。
第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない」とする理由及び「本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物(引用文献1又は3)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」とする理由を含むものである。
引用文献1.特表2004-516956号公報
引用文献3.特開2002-187247号公報
第5 引用文献及び引用文献の記載
1 原査定において引用された文献
原査定において引用された文献は、前記第4に掲げたとおりである。
2 技術常識等を示すために当審で新たに引用する引用文献
引用文献A:西久保忠臣編,ベーシックマスター 高分子化学,オーム社,2011年,108-112頁,URL:https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274210006/,https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/records/11559
引用文献B:コトバンク,フェノール樹脂,2025年3月24日検索,URL:https://kotobank.jp/word/ふえのーる樹脂-3166814
引用文献C:田代文夫,フェノール樹脂,色材協会誌,64巻,11号,1991年,710-718頁,URL:https://doi.org/10.4011/shikizai1937.64.710
引用文献D:特開2010-37347号公報
引用文献E:MatWeb,Menzolit Menzolit SMC 0650 Unsaturated Polyester UP,2025年3月24日検索,URL:https://apm.matweb.com/search/datasheettext.aspx?matguid=25092025b7a347b79014874cf7e241cd
3 引用文献の記載
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、次のとおりの記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は不燃性パネル及びこれを利用した不燃性装飾パネルに関し、特に地下鉄構内壁面、お手洗壁面、室内台所の壁面、天井、床などの建築内外装材、鉄道客車床、インテリア、及び家具に用いることができる耐火性に優れており、寸法変化率の低い不燃性パネルとこれを利用した不燃性装飾パネルに関する」(段落0001)
「前記コア材層用基材に含浸されるメラミン変性樹脂またはフェノール変性樹脂の樹脂配合物はi)メラミンまたはフェノール樹脂1次縮合物3.0乃至10.0重量%(固形分基準);ii)黄土50乃至80重量%;iii)難燃剤1.0乃至5.0重量%;及びiv)溶剤(水、またはアルコール)10乃至40重量%を含む」(段落0021)
「特に、配合物内にメラミン変性樹脂またはフェノール変性樹脂が5重量%未満であり、難燃剤が4.0重量%を超えるものであれば、KS F 2271建築物の内装材料及び構造の難燃性試験の結果で難燃1級を得ることができる」(段落0022)
「本発明の無機充填剤として用いられる黄土の粒度分布は5乃至300μmが好ましく、平均粒度は10乃至50μmが好ましい。規定粒度未満のものを用いると樹脂と溶剤の吸油性が強くて粘度が非常に高くなるため含浸またはコーティング作業性が悪くなり、規定粒度を超えるものを用いると含浸またはコーティングの後、高温高圧成形時に表面に大きな粒子サイズのものがあることによりパネル表面平滑性が低くなる可能性がある」(段落0032)
「前記黄土の一部を代替すべく使用される水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウム、滑石(タルク)などの代替無機充填剤は粒度が10乃至50μmであるものを用いるのが好ましい。規定未満の粒度のものを用いると樹脂と溶剤の吸油性が強くて配合物の粘度が相乗して作業性が悪くなり、規定を超えるの粒度使用時には製品成形の後、大きな粒子サイズにより表面平滑性が低くなることがある」(段落0033)
「実施例2(コア材層用難燃性フェノール樹脂及び黄土配合物の製造)フェノール1モルに対してフォルムアルデヒド1.4モルを加えて、これらを100℃の温度及び弱アルカリ下で反応させ、可塑剤、エタノール、及び水を加えて含量を調節して初期縮合物を得た。この初期縮合物100重量部に液相難燃剤であるMelflam 131A 20重量部と固相難燃剤であるジシアンジアミド4.0重量部を投入して難燃性フェノール樹脂を製造した」(段落0045)
「実施例4(コア材層用難燃性フェノール樹脂及び黄土配合物の製造)実施例2と同一な難燃性フェノール樹脂を製造した。前記難燃性フェノール樹脂100重量部に平均粒度10乃至50μmの黄土を700重量部及び平均粒度10乃至50μmの水酸化アルミニウム200重量部を添加混合して難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物を製造した」(段落0050)
「(コア材層シートの製造)前記難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物をアクリル樹脂系バインダーで処理して単位面積当り重量110g/m2のE-ガラス繊維不織布に乾燥基準含浸率800重量%になるように含浸及び乾燥してコア材層シートを得た」(段落0051)
「(装飾層シートの製造)前記実施例1と同一な装飾層シートを製造した。(不燃性メラミン装飾パネルの製造;図5)前記で製造された各々のシートを上から下の方へ順次に装飾層1枚、コア材層シート6枚、及び装飾層1枚の順に積層し、両側にステンレス鏡面板を重ねて150℃の温度、100kgf/cm2の圧力で30分間高温プレスで熱圧し、3mm厚さの不燃性メラミン装飾パネルを製造した」(段落0052)
(2) 引用文献3の記載
引用文献3には、次のとおりの記載がある。
「【発明の属する技術分野】本発明は、燃焼後のパネル形状の維持性能に優れた難燃性パネルに関するものである」(段落0001)
「本発明は、難燃性に優れたフェノール樹脂を主たる樹脂成分とするパネルにおいて、少なくとも無機フィラーとして水酸化アルミニウムとカオリンクレイを含み、かつパネル内部に無機繊維よりなるシート基材を含有しているパネルが、防火性能に優れるばかりでなく、燃焼後のパネル形状の維持特性に優れた効果を発揮することを見出したことに基くものである」(段落0009)
「以下に、本発明について詳細に説明する。まず本発明の難燃性パネルは、少なくともフェノール樹脂、水酸化アルミニウム、カオリンクレー及び無機繊維を含有するパネルである。上記フェノール樹脂としては、レゾール系フェノール樹脂であっても、ノボラック系フェノール樹脂であっても良く、また、これらの樹脂に、必要に応じて重合度を高める目的で、レゾール型フェノール樹脂では酸触媒、ノボラック型フェノール樹脂では塩基性触媒を添加して用いても良いが、常温で液状を示すレゾール系フェノール樹脂を無触媒で用いることが、成形加工が容易にでき生産性が上げられる点から好ましい」(段落0010)
「またフェノール樹脂の含量はパネル中の樹脂量として10wt%以上、60wt%以下であることが好ましく、さらに好ましくは15wt%以上、40wt%以下が特に推奨される。フェノール樹脂の含量は、成形したパネルの耐久性の観点から10wt%以上が好ましく、防火性の観点から60wt%以下が好ましい。本発明のパネルは無機フィラーとして、水酸化アルミニウムとカオリンクレーを含んでいることが必要である。水酸化アルミニウムとカオリンクレーは200~600℃の範囲で吸熱作用を示し、パネルの燃焼時に燃焼反応を阻害する効果を有する。水酸化アルミニウムとカオリンクレイの混合比は質量比で好ましくは1:9~9:1の範囲、より好ましくは1:5~5:1の範囲、特に好ましくは1:3~3:1の範囲で効果を発現する。この水酸化アルミニウムとカオリンクレーの合計のパネル中の含有量は30wt%以上、80wt%以下が好ましく、より好ましくは40wt%以上、70wt%以下である。200~600℃の範囲で吸熱作用を示す無機物として、水酸化アルミニウムとカオリンクレイの他に水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム、ホウ酸亜鉛などがあるが、本発明においては水酸化アルミニウムとカオリンクレー以外にこれらの無機物をパネル中の含有量として20wt%以下であれば含んでいても良い。なお無機フィラーとしては、先に挙げた吸熱作用を示す無機物の他に、防火性能を損ねない範囲で炭酸カルシウム、タルク、マイクロバルーン、硫化バリウム、無水ケイ酸、けい藻土、ガラスパウダー、マイカ、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、ゾノトライト、トバモライト、ワラストナイト、けい砂、石膏等が混合されていても良い」(段落0011)
「本発明の難燃性パネルは無機繊維を含んでいることが必要である。無機繊維とはガラス繊維、金属繊維、鉱物繊維等を指し、これらを単独または混合して用いることができる」(段落0012)
「【実施例1】レゾール系フェノール樹脂(昭和高分子(株)製BRL-240)25.0質量部、増粘剤として水酸化カルシウム(関東化学(株)製 試薬特級)0.3質量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(関東化学(株)製試薬一級)1.0質量部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製ハイジライトH32)32.5質量部、カオリンクレイ(ENGELHARD社製 ASP-400P)32.5質量部、繊維長3mmのガラス繊維(日東紡績株式会社製 CS-3SK)5.0質量部をオムニミキサー(千代田技研工業(株)製OM-5)にて約1分間、混合撹拌して成形用原料を得た。180℃に加熱した加圧プレスに装着された表面クロムメッキ仕上げの鋼製金型へ、金型の形と同形に切断したシート基材としてガラス繊維不織布 (日本電気ガラス(株)製 秤量100g/m2)と、そのマット上に成形用原料を素早く所定量セットし、金型を閉めて加熱加圧(1.17×107Pa)したところ、金型内形状と同型のパネルを得た。得られたパネルの平均厚みは2mm、単位面積当たりの質量が4kg/m2であった」(段落0024)
(3)引用文献Aの記載
引用文献Aには、次のとおりの記載がある。
「5.2.1 酸性触媒下でのノボラック樹脂の生成反応
酸を触媒とした場合、付加反応(ka)より縮合反応(kb)が優先的に進行する。…この酸性触媒下で合成されるフェノール樹脂はノボラック樹脂(novolak)と呼ばれる」(109頁)
「5.2.2 塩基性触媒下でのレゾール樹脂の生成反応
塩基を触媒とした場合、先の酸性触媒下とは逆に、付加反応が優先的に進行する。…この塩基触媒下で合成されるフェノール樹脂はレゾール樹脂(resol)と呼ばれる。」(110頁)
「5.2.3 フェノール樹脂の架橋・硬化反応
酸性触媒下での反応によって生成したノボラック樹脂は、メチロール基が少ないため、加熱だけでは硬化しない。ノボラック樹脂を硬化させるためには、ヘキサメチレンテトラミンのようなアミン系硬化剤の存在下で加熱する。代表的な反応例を図5.3に示す。
…
塩基性触媒下での反応によって生成したレゾール樹脂は、加熱あるいは酸を加えることよって硬化する。その反応性を図5.4に示す。レゾール樹脂のメチロール基が脱水縮合反応することによって、三次元化し不溶不融のフェノール樹脂となる。
…
図5.3 ノボラック樹脂のヘキサメチレンテトラミンによる硬化反応
…
図5.4 加熱あるいは酸触媒を用いたレゾールの硬化反応」(111~112頁)
(4)引用文献Bの記載
引用文献Bには、次のとおりの記載がある。
「フェノール類とホルムアルデヒドを加熱して低分子量(分子量1000以下)の粉末または粘い液体の初期反応物をつくり、必要に応じてパルプや木粉などのフィラー(充填(じゅうてん)材、filler)を加えて十分に混合したのち、型の中で加熱硬化させる。フェノールとホルムアルデヒド(ホルムアルデヒドの水溶液すなわちホルマリンを使用する)との反応は、反応系が酸性か塩基性(アルカリ性)かによって初期反応生成物が異なる。
反応系が酸性の場合、初期反応生成物の一つであるノボラックnovolakは、ヘキサメチレンテトラミン(HMTA)を架橋剤として、ノボラックに対して10%ぐらい添加し、フィラーとして木粉やパルプ粉末を混練して150~160℃の加熱・加圧下で硬化させる。HMTAは115℃以上で熱分解してホルムアルデヒドとアンモニアになる。このホルムアルデヒドがノボラックを架橋し網状構造の硬化物を与える(二段法)。反応系が塩基性の場合の、初期生成物として得られるレゾールresol(ベークライトAともいう)の硬化は、架橋剤を必要とせず、多くは先述のフィラーの存在下で一段で130~200℃の加熱・加圧で硬化する。」(「日本大百科全書(ニッポニカ)「フェノール樹脂」の意味・わかりやすい解説」の「フェノール樹脂」の「製造法」の項)
「フェノール類とアルデヒド類との縮合によって得られるプラスチックの総称。…製法としては、フェノールとホルムアルデヒドから酸の作用でノボラック樹脂をつくりこれに橋かけ剤を加えて加熱して固化する方法と、アルカリの作用で生成する初期縮合物(レゾール)を加熱加圧して固化する方法、の2つがある。」(「ブリタニカ国際大百科事典小項目事典「フェノール樹脂」の意味・わかりやすい解説」の「フェノール樹脂」の項)
(5)引用文献Cの記載
引用文献Cには、次のとおりの記載がある。
「レゾール型フェノール樹脂はフェノール類にホルマリンをアルカリ触媒下で付加させ、付加反応後中和し、さらに、その付加反応物を縮合反応させて得る」(「3.2 樹脂の製造法」の項の(2))
(6)引用文献Dの記載
引用文献Dには、次のとおりの記載がある。
「レゾール型フェノール樹脂は、その製造条件によって樹脂特性を広く制御することが出来る応用範囲の広い樹脂であり、…幅広い用途に用いられている。レゾール型フェノール樹脂はこのような特長を有する一方で、それ自体色相が褐色を呈しており、加熱硬化後も色調が濃化する為に、色調を改善する手段としてレゾール型フェノール樹脂を合成した後、中和することによって硬化物の色相を淡色化する方法が知られている」(段落0002)
(7)引用文献Eの記載
引用文献Eには、次のとおりの記載がある。
「Menzolit Menzolit ○R(当審注:丸囲みのRを表す。)SMC 0650 Unsaturated Polyester UP」
第6 引用発明の認定
1 引用文献1に記載された発明
引用文献1(段落0045及び0050~0052)の実施例4に記載された不燃性メラミン装飾パネルの製造について、「実施例2と同一な難燃性フェノール樹脂」の製造方法も踏まえつつ「難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物」に着目すると、引用文献1には、
「フェノール1モルに対してフォルムアルデヒド1.4モルを加えて、これらを100℃の温度及び弱アルカリ下で反応させ、可塑剤、エタノール、及び水を加えて含量を調節して初期縮合物を得、この初期縮合物100重量部に液相難燃剤であるMelflam 131A 20重量部と固相難燃剤であるジシアンジアミド4.0重量部を投入して製造した難燃性フェノール樹脂100重量部に、平均粒度10乃至50μmの黄土を700重量部及び平均粒度10乃至50μmの水酸化アルミニウム200重量部を添加混合して製造した、以下の不燃性メラミン装飾パネルを製造するために用いられる、難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物。
(不燃性メラミン装飾パネル)
前記難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物を、アクリル樹脂系バインダーで処理して単位面積当り重量110g/m2のE-ガラス繊維不織布に乾燥基準含浸率800重量%になるように含浸及び乾燥して得たコア材層シートと、別途製造した装飾層シートとを上から下の方へ順次に装飾層1枚、コア材層シート6枚、及び装飾層1枚の順に積層し、両側にステンレス鏡面板を重ねて150℃の温度、100kgf/cm2の圧力で30分間高温プレスで熱圧して製造される、3mm厚さの不燃性メラミン装飾パネル。」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
2 引用文献3に記載された発明
引用文献3(段落0024)の実施例1に記載されたパネルの製造について、「成形用原料」に着目すると、引用文献3には、
「レゾール系フェノール樹脂(昭和高分子(株)製BRL-240)25.0質量部、増粘剤として水酸化カルシウム(関東化学(株)製 試薬特級)0.3質量部、内部離型剤としてステアリン酸亜鉛(関東化学(株)製試薬一級)1.0質量部、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製ハイジライトH32)32.5質量部、カオリンクレイ(ENGELHARD社製 ASP-400P)32.5質量部、繊維長3mmのガラス繊維(日東紡績株式会社製 CS-3SK)5.0質量部をオムニミキサー(千代田技研工業(株)製OM-5)にて約1分間、混合撹拌してなる、以下のパネルを製造するために用いられる、成形用原料。
(パネル)
180℃に加熱した加圧プレスに装着された表面クロムメッキ仕上げの鋼製金型へ、金型の形と同形に切断したシート基材としてガラス繊維不織布(日本電気ガラス(株)製 秤量100g/m2)と、そのマット上に成形用原料を素早く所定量セットし、金型を閉めて加熱加圧(1.17×107Pa)して製造されるパネル。」
の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているといえる。
第7 本願発明1についての検討
1 引用発明1に基づく新規性又は進歩性欠如
(1)対比
引用発明1を本願発明1と対比すると、両者の対応は以下のとおりとなる。
(a)フェノールとホルムアルデヒドとを水素イオンなどの酸性触媒下で反応させることで得られるフェノール樹脂はノボラックと呼ばれること、フェノールとホルムアルデヒドとを水酸化物イオンなどの塩基性触媒下で反応させることで得られるフェノール樹脂はレゾールと呼ばれること(引用文献Aの109~110頁)、こうしたレゾールやノボラックは初期反応生成物、初期生成物あるいは初期縮合物などと呼ばれること(引用文献Bの「日本大百科全書(ニッポニカ)「フェノール樹脂」の意味・わかりやすい解説」の「フェノール樹脂」の「製造法」の項及び「ブリタニカ国際大百科事典小項目事典「フェノール樹脂」の意味・わかりやすい解説」の「フェノール樹脂」の項)、は本願優先日当時の技術常識である。そうすると、引用発明1における「フェノール1モルに対してフォルムアルデヒド1.4モルを加えて、これらを100℃の温度及び弱アルカリ下で反応させ、可塑剤、エタノール、及び水を加えて含量を調節して」得た「初期縮合物」はレゾールと呼ばれるフェノール樹脂であるといえる。
そして、レゾールが加熱あるいは酸触媒を加えることによって硬化したフェノール樹脂となること(引用文献Aの111~112頁)は本願優先日当時の技術常識であるから、レゾールと呼ばれるフェノール樹脂であるといえる引用発明1における「初期縮合物」は、加熱あるいは酸触媒を加えることによって硬化したフェノール樹脂となるという意味において未硬化であるといえる。
したがって、引用発明1における難燃性フェノール樹脂が含有する「初期縮合物」は、本願発明1における「未硬化フェノール系樹脂」に相当する。
(b)一般的にフィラーとは充填剤を意味するところ、引用文献1(段落0032及び0033)には、黄土が無機充填剤であること及び水酸化アルミニウムが代替無機充填剤であることが記載されている。したがって、引用発明1における「平均粒度10乃至50μmの黄土」及び「平均粒度10乃至50μmの水酸化アルミニウム」は、本願発明1における「フィラー」に相当する。
(c)引用発明1における「コア材層シート」は、「難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物」をE-ガラス繊維不織布に含浸し乾燥することで得られるもの、すなわち難燃性フェノール樹脂を成分とするシートであるから、本願発明1における「フェノール系樹脂シート」に相当する。
(d)引用発明1における「難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物」は、この配合物の成分である難燃性フェノール樹脂が初期縮合物を含有すること、前記(a)で述べたとおり初期縮合物は未硬化であるといえること、この配合物は「コア材層シート」の形成に使用されること、前記(c)で述べたとおり引用発明1における「コア材層シート」は本願発明1における「フェノール系樹脂シート」に相当すること、から、本願発明1における「フェノール系樹脂シートを形成するための未硬化材料」に相当する。
(e)引用発明1における「液相難燃剤であるMelflam 131A」及び「固相難燃剤であるジシアンジアミド」は、本願発明1における「未硬化フェノール系樹脂」及び「フィラー」のいずれにも相当しない。
(f)本願発明1における「前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒とを含」むという構成は、本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項2の「未硬化材料がフェノール系樹脂を硬化させるための触媒を含まない場合を含め、フェノール系樹脂を硬化させるための触媒を実質的に含まない、請求項1に記載の未硬化材料」という記載からみて、未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒を含まない場合を包含するといえる。
一方、引用発明1における「難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物」の「初期縮合物」以外の成分である「液相難燃剤であるMelflam 131A」、「固相難燃剤であるジシアンジアミド」、「黄土」及び「水酸化アルミニウム」は、難燃剤、無機充填剤又は代替無機充填剤であって(引用文献1の段落0032、0033及び0045)、これらが「初期縮合物」を硬化させるための触媒であるとする根拠は見当たらない。
そうすると、引用発明1における「難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物」は、前記(a)及び(d)をも踏まえると、本願発明1における「前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒とを含」「む、前記未硬化材料」であるといえる。
(g)引用発明1における「初期縮合物100重量部に液相難燃剤…20重量部と固相難燃剤…4.0重量部を投入して製造した難燃性フェノール樹脂100重量部」中の初期縮合物の量は、
(100/(100+20+4.0))×100=80.65(重量部)
である。
そうすると、引用発明1において、黄土及び水酸化アルニミウムの配合量と初期縮合物の配合量との比は、
(700+200):80.65=11.16:1
となり、当該比は、前記(a)、(b)及び(e)を踏まえると、本願発明1における「3.5:1以上の量のフィラー対未硬化フェノール系樹脂の比」に相当する。
(h)前記(g)から、引用発明1において、水酸化アルミニウムの配合量と初期縮合物の配合量との比は、
200:80.65=2.48:1
となり、当該比は、引用発明1が遷移金属水酸化物を含んでいないこと並びに前記(a)、(b)及び(e)を踏まえると、2.48:1の量の「金属水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比」であるといえる。
(2)一致点、相違点の認定
前記(1)から、本願発明1と引用発明1とは、
「 フェノール系樹脂シートを形成するための未硬化材料であって、
-未硬化フェノール系樹脂と、
-フィラーと、
-前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒と
を含み、前記フィラーが、3.5:1以上の量のフィラー対未硬化フェノール系樹脂の比で存在し、さらに前記フィラーが、遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物を含む、前記未硬化材料。」
という点で一致し、
(相違点1-1)遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比が、本願発明1は「2.5:1~3:1」であるのに対し、引用発明1は「2.48:1」である点
で相違する。
(3)相違点1-1についての判断
本願発明1の「2.5」という数値は、一般に小数点以下2桁を四捨五入する範囲、すなわち「2.45~2.54」の数値範囲を包含するものであるから、引用発明1の「2.48」と実質同一である。したがって、相違点1-1は実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点1-1が実質的な相違点であるとしても、引用文献1には、引用文献1に記載された発明は不燃性パネルに関するものであること(段落0001)、コア材層用基材に含浸されるメラミン変性樹脂またはフェノール変性樹脂の樹脂配合物は、i)メラミンまたはフェノール樹脂1次縮合物3.0乃至10.0重量%(固形分基準)、ii)黄土50乃至80重量%、iii)難燃剤1.0乃至5.0重量%、及びiv)溶剤(水、またはアルコール)10乃至40重量%を含むこと(段落0021)、特に、配合物内にメラミン変性樹脂またはフェノール変性樹脂が5重量%未満であり、難燃剤が4.0重量%を超えるものであれば、KS F 2271建築物の内装材料及び構造の難燃性試験の結果で難燃1級を得ることができること(段落0022)が記載されている。
そして、引用発明1における「難燃性フェノール樹脂と黄土及び水酸化アルミニウムの配合物」における「初期縮合物」の配合量は、この配合物が難燃性フェノール樹脂100重量部、黄土700重量部及び水酸化アルミニウム200重量部の混合物であることと、前記(1)(g)のとおりこの難燃性フェノール樹脂100重量部中の初期縮合物の量は80.65重量部であることとから、
(80.65/(100+700+200))×100=8.1(%)
であるところ、例えばこれを「i)メラミンまたはフェノール樹脂1次縮合物3.0乃至10.0重量%(固形分基準)」の範囲内である7.0%に減らしその分を固相あるいは液相難燃剤とした場合の水酸化アルミニウムの配合量と初期縮合物の配合量との比は、
200:((100+700+200)×7.0)/100=200:70
=2.86:1
となる。
そうすると、引用発明1において、難燃性向上の観点から「初期縮合物」の配合量を減らすことにより本願発明1の相違点1-1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が引用文献1の記載に基づいて容易になし得たことである。
(4)本願発明1の効果について
相違点1-1が実質的な相違点である場合における本願発明1の効果について検討するに、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1の効果として、(a)金属水酸化物化合物を用いることで触媒を用いることなく未硬化フェノール系材料を硬化することができること(段落0018)、(b)触媒の使用に伴う硬化樹脂の変色という問題を軽減することができること(段落0020)及び(c)フェノール系樹脂複合材とした場合のフェノール系樹脂複合材のたわみが小さいこと(段落0138)、が記載されている。
しかし、そもそも、レゾールを硬化させるために、酸性触媒もフェノールとホルムアルデヒドを反応させてレゾールとする工程から持ち越される塩基性触媒も不要であることは(引用文献Cの「3.2 樹脂の製造法」の項の(2)、引用文献Dの段落0002)、本願優先日当時の技術常識である。
そして、(a)について、レゾールが加熱によって硬化したフェノール樹脂となること(引用文献Aの111~112頁)は本願優先日当時の技術常識であって、引用発明1もレゾールを硬化させるための触媒を用いずに加熱により硬化しているといえるから、触媒を用いることなく未硬化フェノール系材料を硬化することができるという効果は引用発明1と比較した有利な効果ではない。また(b)について、引用発明1もレゾールを硬化させるための触媒を用いていないから、触媒の使用に伴う硬化樹脂の変色という問題を軽減するという効果も引用発明1と比較した有利な効果ではない。さらに(c)について、そもそも本願の発明の詳細な説明にはフェノール系樹脂複合材のたわみが具体的にどの程度であるかは何ら記載されていない上、比較の対象とされているMenzolit(登録商標)SMC 0650はポリエステル系のSMC(シートモールディングコンパウンド)であってフェノール系のものではないから(引用文献E)、そのようなMenzolit(登録商標)SMC 0650と比較して本願発明1を樹脂複合材とした場合の樹脂複合材のたわみが小さいことが顕著な効果であるとはいえない。
したがって、本願発明1の効果はいずれも引用発明1及び本願優先日当時の技術常識から当業者が予測し得るものであって、格別顕著なものであるとはいえない。
(5)小括
以上から、本願発明1は、引用文献1に記載された発明であるか、あるいは当業者が引用発明1並びに引用文献1に記載された技術的事項及び本願優先日当時の技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものである。
2 引用発明3に基づく進歩性欠如
(1)対比
引用発明3を本願発明1と対比すると、両者の対応は以下のとおりとなる。
(a)引用発明3における「レゾール系フェノール樹脂」は、加熱あるいは酸触媒を加えることによって硬化したフェノール樹脂となる(引用文献Aの111~112頁)という意味において未硬化であるといえるから、本願発明1における「未硬化フェノール系樹脂」に相当する。
(b)引用文献3には、水酸化アルミニウム及びカオリンクレイが無機フィラーであることが記載されている(段落0009)。そうすると、引用発明3における「水酸化アルミニウム」及び「カオリンクレイ」は、本願発明1における「フィラー」に相当する。一方、引用発明3における「繊維長3mmのガラス繊維」は、繊維長が3mmと短いものではあるが、引用文献3における「炭酸カルシウム、タルク、マイクロバルーン、硫化バリウム、無水ケイ酸、けい藻土、ガラスパウダー、マイカ、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、ゾノトライト、トバモライト、ワラストナイト、けい砂、石膏等」(段落0011)という無機フィラーの例示に含まれていないことから、本願発明1における「フィラー」には相当しないといえる。
(c)引用発明3における「パネル」は、「シート基材」である「ガラス繊維不織布」と、「レゾール系フェノール樹脂」を成分とする「成形用原料」とを金型内にセットし、加熱加圧をして得た平均厚み2mmのもの、すなわちレゾール系フェノール樹脂を用いたシートであるから、本願発明1における「フェノール系樹脂シート」に相当する。
(d)引用発明3における「成形用原料」は、この成形用原料の成分であるレゾール系フェノール樹脂が前記(a)で述べたとおり未硬化であるといえること、この成形用原料は「パネル」の製造に使用されること、前記(c)で述べたとおり引用発明3における「パネル」は本願発明1における「フェノール系樹脂シート」に相当すること、から、本願発明1における「フェノール系樹脂シートを形成するための未硬化材料」に相当する。
(e)引用発明3における「水酸化カルシウム」及び「ステアリン酸亜鉛」は、増粘剤及び内部離型剤であって、本願発明1における「未硬化フェノール系樹脂」及び「フィラー」のいずれにも相当しない。
(f)前記1(1)(f)で述べたとおり、本願発明1における「前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒とを含」むという構成は、未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒を含まない場合を包含するといえる。
一方、引用発明3における「成形用原料」の「レゾール系フェノール樹脂」以外の成分である、「水酸化カルシウム」、「ステアリン酸亜鉛」、「水酸化アルミニウム」、「カオリンクレイ」及び「ガラス繊維」は、増粘剤、内部離型剤、無機フィラー又は無機繊維であって(引用文献3の段落0011、0012及び0024)、これらが「レゾール系フェノール樹脂」を硬化させるための触媒であるとする根拠は見当たらない。
そうすると、引用発明3における「成形用原料」は、前記(a)及び(d)をも踏まえると、本願発明1における「前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒とを含」「む、前記未硬化材料」であるといえる。
(g)引用発明3において、水酸化アルミニウム及びカオリンクレイの配合量とレゾール系フェノール樹脂の配合量との比は、
(32.5+32.5):25.0=2.6:1
となり、当該比は、前記(a)、(b)及び(e)を踏まえると、2.6:1の量の「フィラー対未硬化フェノール系樹脂の比」であるといえる。
(h)引用発明3において、水酸化アルミニウムの配合量とレゾール系フェノール樹脂の配合量との比は、
32.5:25.0=1.3:1
となり、当該比は、引用発明3が遷移金属水酸化物を含んでいないこと並びに前記(a)、(b)及び(e)を踏まえると、1.3:1の量の「金属水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比」であるといえる。
(2)一致点、相違点の認定
前記(1)から、本願発明1と引用発明3とは、
「 フェノール系樹脂シートを形成するための未硬化材料であって、
-未硬化フェノール系樹脂と、
-フィラーと、
-前記フェノール系樹脂の含有量に対して1wt.%未満の量の未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒と
を含み、さらに前記フィラーが、遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物を含む、前記未硬化材料。」
という点で一致し、
(相違点3-1)フィラー対未硬化フェノール系樹脂の比が、本願発明1は「3.5:1以上」であるのに対し、引用発明3は2.8:1である点
(相違点3-2)遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比が、本願発明1は「2.5:1~3:1」であるのに対し、引用発明3は「1.3:1」である点
で相違する。
(3)相違点3-1及び3-2についての判断
引用文献3には、引用文献3に記載された発明は難燃性パネルに関するものであること(段落0001)、フェノール樹脂の含量はパネル中の樹脂量として、成形したパネルの耐久性の観点から10wt%以上、防火性の観点から60wt%以下が好ましいこと(段落0011)が記載されている。
また、引用文献3には、水酸化アルミニウムとカオリンクレーはパネルの燃焼時に燃焼反応を阻害する効果を有すること、水酸化アルミニウムとカオリンクレーの合計のパネル中の含有量は30wt%以上、80wt%以下が好ましいこと、水酸化アルミニウムとカオリンクレイの混合比は質量比で好ましくは1:9~9:1の範囲が好ましいこと(以上、段落0011)、も記載されている。
そうすると、レゾール系フェノール樹脂、水酸化アルミニウム及びカオリンクレイの配合量の比が25.0:32.5:32.5である引用発明3において、例えばこの配合量の比を20.0:50.0:20.0とするなど、防火性の観点からレゾール系フェノール樹脂の含有量を減らし水酸化アルミニウムとカオリンクレイの合計の含有量を増やすとともにカオリンクレイの一部を水酸化アルミニウムに置き換えることにより、本願発明1の相違点3-1及び3-2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が引用文献3の記載に基づいて容易になし得たことである。
(4)本願発明1の効果について
引用発明3もレゾールを硬化させるための触媒を用いずに加熱により硬化しているといえるから、触媒を用いることなく未硬化フェノール系材料を硬化することができるという効果は引用発明3と比較した有利な効果ではない。また、引用発明3もレゾールを硬化させるための触媒を用いていないから、触媒の使用に伴う硬化樹脂の変色という問題を軽減するという効果も引用発明3と比較した有利な効果ではない。
したがって、前記1(4)で述べたのと同様に、本願発明1の効果はいずれも引用発明3及び本願優先日当時の技術常識から当業者が予測し得るものであって、格別顕著なものであるとはいえない。
(5)小括
以上から、本願発明1は、当業者が引用発明3並びに引用文献3に記載された技術的事項及び本願優先日当時の技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものである。
第8 審判請求人の主張について
1 引用発明1の「難燃性フェノール樹脂」について
請求人は、引用発明1の「難燃性フェノール樹脂」について、審判請求書の3-2-1(1)3)において「引用文献1の実施例2及び4の樹脂材料にアルカリ触媒が存在することは極めて明らかなことです。このことは、レゾール樹脂の部分硬化と初期縮合生成物の形成に必要なアルカリ条件を提供するために必要です」と主張し、審判請求書の3-2-1(1)4)において「実施例2の難燃性樹脂は未硬化ではありません。実施例2に開示されているように、フェノールとホルムアルデヒドの混合物は、「初期縮合生成物」を得るために水を加える前に、アルカリ性条件下で100℃に加熱されています。…このように、実施例4の組成物は、樹脂がすでに硬化しているため、未硬化フェノール樹脂を含む未硬化材料ではありません」と主張する。
しかし、前段の主張について、前記第7の1(1)(a)で述べたとおり、本願優先日当時の技術常識に照らし、引用発明1における「初期縮合物」は、レゾールと呼ばれるフェノール樹脂であるといえる。そして、本願発明1において「1wt.%未満」であるとされる「触媒」は、「未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒」であって、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させてレゾールとするための触媒は含まない。したがって、仮に引用発明1における「難燃性フェノール樹脂」に「弱アルカリ」の原因成分が持ち越されていたとしても、それは「未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒」に相当しない。さらに、仮に引用発明1における「弱アルカリ」の原因成分が「初期縮合物」を硬化するとしても、生成したレゾール中の塩基を中和することが一般的であるから(引用文献Cの「3.2 樹脂の製造法」の項の(2)、引用文献Dの段落0002)、持ち越された「弱アルカリ」の原因成分は「初期縮合物」の含有量に対して1wt.%未満の量であると推認される。
また、後段の主張について、引用発明1における「100℃の温度及び弱アルカリ下で反応させ」という工程は、文言上明らかにフェノールとホルムアルデヒドとを反応させて「初期縮合物」(レゾール)を得る工程であって、かつ、その「100℃」という温度は一般的なレゾールの硬化温度である130~200℃(引用文献Dの「日本大百科全書(ニッポニカ)「フェノール樹脂」の意味・わかりやすい解説」の「フェノール樹脂」の「製造法」の項)と比較して低いから、「初期縮合物」(レゾール)を硬化する工程ではないといえる。そして、前記第7の1(1)(a)で述べたとおり、引用発明1における「初期縮合物」(レゾール)は、加熱あるいは酸触媒を加えることによって硬化したフェノール樹脂となるという意味において「未硬化」であるといえるから、引用発明1における難燃性フェノール樹脂が含有する「初期縮合物」は、本願発明1における「未硬化フェノール系樹脂」に相当する。
したがって、請求人の上記主張は前記第7の1における判断を左右しない。
2 本願発明1の課題について
請求人は、本願発明1の課題について、審判請求書の3-2-1(2)2)において「本発明により解決すべき課題は、その物質の使用に伴う利点を維持しつつ、硬化時に変色が少ないフェノール系樹脂物質の形成です。本発明は、未硬化樹脂組成物に金属酸化物を含めることによりこの課題を解決し、フェノール系樹脂に従来の触媒は非常に少ない量しか(又は全く)含む必要がないことを見出し、硬化時の樹脂の変色が避けられることを見出しました。なぜなら、触媒を含めることが変色の一因であることが見出されているためです」と主張し、審判請求書の3-2-1(2)3)において「引用文献1~3のいずれも、硬化時に変色が少ない未硬化フェノール系樹脂を形成する方法を教示も、あるいは少しも示唆もしていません」と主張する。
しかし、レゾールを硬化させるために、酸性触媒もフェノールとホルムアルデヒドを反応させてレゾールとする工程から持ち越される塩基性触媒も不要であることは(引用文献Aの111~112頁、引用文献Cの「3.2 樹脂の製造法」の項の(2)、引用文献Dの段落0002)本願優先日当時の技術常識であって、引用発明1も引用発明3もレゾールを硬化させるための触媒を用いずに加熱によりレゾールを硬化しているといえる(前記第7の1(1)(f)及び第7の2(1)(f))。そうすると、レゾールを硬化させるための触媒は非常に少ない量しか(又は全く)含む必要がないことは技術常識や引用発明1、引用発明3において当業者に認識されているといえるし、仮に請求人が主張するとおりレゾールを硬化させるための触媒を非常に少ない量しか(又は全く)含んでいない場合には硬化時に変色が少ないとするならば、そのように硬化時に変色が少ないレゾールも当業者に認識されているといえるから、これらのことが格別顕著なものであるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は前記第7の1及び2における判断を左右しない。
3 引用発明1について
請求人は、引用発明1について、審判請求書の3-2-1(1)6)において「引用文献1記載の発明は、本発明1とは課題が異なる発明であり、たまたま引用文献1に記載された組成物における混合比が本発明1における比率に近いからといって、引用文献1に本発明1が明らかに記載されているとまではいえない」と主張し、審判請求書の3-2-1(2)4)において「引用文献1には、当業者に本発明1における特別な量と比率で、フェノール系樹脂組成物を、フィラーとアルミニウム金属水酸化物と共に使用することを導く教示は何もありません。…さらに引用文献1においては、樹脂を硬化するために触媒が典型的に使用されていると考えられます」と主張する。
しかし、前段の主張について、前記2で述べたとおりレゾールを硬化させるための触媒は非常に少ない量しか(又は全く)含む必要がないことは技術常識や引用発明1において当業者に認識されているといえるから、本願発明1における「フィラーが、遷移金属水酸化物及び/又はアルミニウム水酸化物を2.5:1~3:1の量の金属水酸化物対未硬化フェノール系樹脂の比で含む」という構成の「2.5:1~3:1」という数値範囲に技術上の意義があるということはできない。したがって、前記第7の1(3)において述べたとおり、引用発明1の「2.48:1」という数値は前記「2.5:1~3:1」という数値範囲に実質的に含まれるといえる。
また、後段の主張について、前記第7の1(3)において述べたとおり、引用発明1において、難燃性向上の観点から「初期縮合物」の配合量を減らして本願発明1の相違点1-1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が引用文献1の記載に基づいて容易になし得たことであるし、引用発明1が本願発明1における「未硬化フェノール系樹脂を硬化させるための触媒」を含まないことについては前記1で述べたとおりであって、そのような触媒なしにガラス繊維不織布への含浸及び乾燥によりシート状となっている(Bステージの状態となっている)ものである。
したがって、請求人の上記主張は前記第7の1における判断を左右しない。
4 引用発明3について
請求人は、引用発明3について、審判請求書の3-2-1(2)6)において「引用文献3のどこにも、当業者が理由のいかんを問わず組成物中の水酸化アルミニウムの量及びフィラーの合計量を増加させることを導く、又は促す教示はありません」と主張し、審判請求書の3-2-1(2)7)において「水酸化カルシウムは、未硬化フェノール系樹脂を硬化させるためのアルカリ触媒です(実際そのように本願明細書の段落[0022]~[0027]でも述べられています)。引用文献3の組成物は、よってフェノール系樹脂の含量に対して、フェノール系樹脂を硬化させるための1.2%の触媒を含みます」と主張する。
しかし、前段の主張について、前記第7の2(3)において述べたとおり、引用発明3において、カオリンクレイの一部を水酸化アルミニウムに置き換えるとともにパネルの防火性の観点からレゾール系フェノール樹脂の含有量を減らし水酸化アルミニウムとカオリンクレイの合計の含有量を増やすことにより、本願発明1の相違点3-1及び3-2に係る構成を備えるようにすることは、当業者が引用文献3の記載に基づいて容易になし得たことである。
また、後段の主張について、引用文献3にはレゾール型フェノール樹脂では酸触媒を添加してもよいが無触媒で用いることが好ましい旨が記載されている(段落0010)。このように引用文献3ではレゾールを硬化させるための触媒が認識されているにもかかわらず引用発明3における「水酸化カルシウム」は増粘剤として配合されているに過ぎないのであるから、引用発明3における「水酸化カルシウム」が「レゾール系フェノール樹脂」を硬化させるための触媒であるとはいえない。この点、請求人が指摘する本願の発明の詳細な説明の段落0022~0027の記載は、レゾールのみを対象とした記述ではない上、水酸化カルシウムなどの塩基性触媒がフェノールとホルムアルデヒドとを反応させてレゾールを得るための触媒であるとしても、レゾールを硬化させるための触媒であることは本願優先日当時の技術常識であるとはいえないから、この記載をもって引用発明3における「水酸化カルシウム」が「レゾール系フェノール樹脂」を硬化させるための触媒であるとすることはできない。
したがって、請求人の上記主張は前記第7の2における判断を左右しない。
第9 むすび
以上のとおり、本願発明1は、原査定のとおり、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項に該当し特許を受けることができないものであるか、あるいは当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、かつ、当業者が引用文献3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は原査定のとおり拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-013000