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特許拒絶査定不服審判

2020-002010

バイオベースポリエチレンテレフタレートポリマー、およびその作製方法

審判番号
2020-002010
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2017-203476外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年02月14日
審決日
2022年05月18日
公報発行日
2022年10月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (C08G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特願2017-203476「バイオベースポリエチレンテレフタレートポリマー、およびその作製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月10日出願公開、特開2018- 70877〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 理 由 1 手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)3月3日(パリ優先権主張 2008年3月28日、2008年9月14日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2011-501869号の一部を、2013年(平成25年)9月9日に新たな出願とした特願2013-185842号の一部を、2015年(平成27年)8月24日に新たな出願とした特願2015-164352号の一部を、2017年(平成29年)10月20日に新たな出願としたものである。 そして、本願は、平成29年11月17日に手続補正書が提出され、平成30年12月3日付けで拒絶理由が通知され、令和1年5月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和1年10月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、令和2年2月14日に拒絶査定不服審判が請求され、同年3月30日に手続補正書(方式)が提出され、令和3年7月9日付けで当審による拒絶理由が通知され、同年10月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年同月26日に手続補足書が提出されたものである。 第2 本願発明 請求項1~14に係る発明は、令和3年10月25日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)。 「【請求項1】 ポリエチレンテレフタレート(PET)ポリマー飲料ボトルであって、前記ポリマーが、 i)約25~約75重量パーセントのテレフタル酸であって、全面的に石油化学製品に由来するテレフタル酸と、 ii)約20~約50重量パーセントのエチレングリコールであって、全面的に、木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるバイオベース材料に由来するエチレングリコールと、 の反応生成物を含む、ボトル。」 なお、本願発明は、当審が通知した拒絶理由の対象となった令和1年5月30日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明のうち、エチレングリコールが「部分的に又は全面的に、木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるバイオベース材料に由来するエチレングリコール」であったものを、上記「部分的に又は」を削除して、「全面的に、木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるバイオベース材料に由来するエチレングリコール」と補正し、また、ボトルが「テレフタル酸と」「エチレングリコールと、を含む」であったものを「テレフタル酸と」「エチレングリコールと、の反応生成物を含む」と補正したものである。 第3 当審が通知した拒絶理由の概要 当審が令和3年7月9日付けで通知した拒絶理由の理由1は、以下のとおりである。 (進歩性)この出願の請求項1~14に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 1.特開2007-176873号公報(以下、「引用文献1」という。) 2.特開2007-230652号公報(以下、「引用文献2」という。) なお、上記引用文献1及び2は、本願の優先日前に公知であることは明らかである。 第4 当審の判断 当審は、令和3年10月25日提出の意見書及び手続補正書によっても、本願発明は、引用文献1に記載された発明、並びに引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。以下にその理由を述べる。 1 本願明細書の記載 (1)本願明細書に記載された事項 本願明細書には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0003】 ポリエチレンテレフタレートとそのコポリエステル(以下、あわせて「PET」またはポリエチレンテレフタレートと称する) は、透明度、機械的特性、およびガスバリア特性の絶妙な組み合わせもあって、パッケージング用物品を作製するのに広く用いられている原料である。PET製品の例としては、食品、ソフトドリンク、アルコール飲料、洗剤、化粧品、医薬品、および食用油をパッケージングするためのボトルおよび容器が挙げられるが、これらに限らない。 ・・・ 【0005】 石油化学由来のPETを代替する1つのアプローチは、トウモロコシ、米、またはその他の糖およびデンプン生成植物のようなバイオベース材料からポリ乳酸(PLA)というバイオプラスチックを製造することであった。例えば、米国特許第6,569,989号を参照されたい。米国特許第5,409,751号、および米国特許出願公開第20070187876号に記載されているように、容器を製造するために射出延伸成形法でPLA樹脂を用いる試みがなされてきた。しかし、PLAとPETとの間の特性の違いが大きいので、現在のPET製造ラインにPLAを適合させるか、または、多くの用途において満足のいく形でPETをPLAに置き換えるのは困難である場合が多い。例えば、PLAのガスバリア特性は典型的にPETよりも低く、これにより、PLA容器は、炭酸飲料または酸素の影響を受けやすい飲料のような品物を保管するのにはあまり適さなくなる。さらに、現在使われている大半のリサイクルシステムはPET用に設計されており、PLAを入れたら、混入によって悪影響を受けることになる。この問題は、PLAとPETとで別々のタイプのボトルを用いるといった、費用がかさむ解決策によって、または、好適な仕分け技術もしくは新たなリサイクル流に資金を投じることによって克服できるであろう 【0006】 以上のことから、石油由来のPETと類似の特性を有する再生可能資源に由来するPETのニーズが存在する。また、いくつかの用途では、再生可能資源由来のPETを既存のPET製造設備によって加工でき、および/または、石油由来のPETをリサイクルするためのものとして設計されたシステムによって容易にリサイクルできることが望ましい。」 イ 「【0015】 バイオベースPETポリマーを用いてバイオベース樹脂を形成してよく、射出成形および延伸ブロー成形といった方法(これらに限らない)を用いて、この樹脂をさらにバイオベース容器に加工してよい。本発明の実施形態は、上記の実施形態のバイオベースPETポリマーを含むバイオベース容器を包含する。特定の用途に適するように、容器は、動作、シェルビング、およびその他の要件に耐える特定の固有粘度を有する。本発明のより特定的な実施形態では、バイオベース容器の固有粘度は約0.45dL/g~約1.0dL/gである。 【0016】 半減期が約5,700年である炭素14(C-14)は、バイオベース材料中に存在するが、化石燃料中には存在しないことが当該技術分野において知られている。したがって、「バイオベース材料」とは、その中の炭素が化石以外の生物源に由来する有機材料を指す。バイオベース材料の例としては、糖、デンプン、トウモロコシ、天然繊維、サトウキビ、ビート、柑橘類、木本植物、セルロース、リグノセルロース、ヘミセルロース、ジャガイモ、植物油、その他の多糖類(ペクチン、キチン、レバン、およびプルランなど)、ならびに、これらの組み合わせが挙げられるが、これらに限らない。1つの特定的な実施形態によれば、当該少なくとも1種のバイオベース材料は、トウモロコシ、サトウキビ、ビート、ジャガイモ、デンプン、柑橘類、木本植物、セルロースリグニン、植物油、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせから選択する。」 ウ 「 [図:0001388589000001.jpg] 【0021】 表1に示されているように、全面的に石油に由来するサンプル(サンプル2、3、および4) は、ごく少量のC-14しか含んでおらず、サンプルの約0パーセントがバイオベース材料からできていることを示している。これに対して、部分的または全面的にバイオベース材料(トウモロコシまたは糖)に由来することが知られている材料を含むサンプルは、上記サンプルよりもかなり高いC-14レベルを示している。当該データに基づくと、約0.14dpm/gCは、サンプル中の約1パーセントのバイオベース材料に相当する。 ポリエチレンテレフタレートポリマーの作製法 【0022】 図1を参照すると、本発明の実施形態は、バイオベースPETポリマー16を製造するためのプロセスであって、エチレングリコール12aを含むジオール成分12を得る工程[工程20]、およびテレフタル酸を含むテレフタレート成分1 4 を得る工程[工程22]で、ジオール成分および/またはテレフタレート成分のうちの1つ(12、14)の少なくとも約1重量パーセントが、少なくとも1種のバイオベース材料10に由来する工程と、ジオール成分12とテレフタレート成分14とを反応させて、バイオベースPETポリマー16を形成する工程[工程24] で、バイオベースPETポリマー16が、テレフタレート成分14を約25~約75重量パーセントと、ジオール成分12を約20~約50重量パーセント含む工程とを含むプロセスも包含する。より特定的な実施形態では、反応式Iに示されているように、工程24は、エステル化反応によってジオール成分12とテレフタレート成分14とを反応させてバイオベースPETモノマー16aを形成してから、重合を行ってバイオベースPETポリマー16を形成することをさらに含む。 【0023】 【化1】 [図:0001388589000002.jpg] 反応式I 【0024】 1つの特定的な実施形態では、ジオール成分12の少なくとも約1重量パーセントが、少なくとも1種のバイオベース材料10に由来する。より特定的な実施形態では、ジオール成分12の少なくとも10重量パーセントが、少なくとも1種のバイオベース材料10に由来する。さらに特定的な実施形態では、ジオール成分12の少なくとも30重量パーセントが、少なくとも1種のバイオベース材料10に由来する。 【0025】 ジオール成分12は、どんなプロセスも用いて、部分的または全面的に少なくとも1種のバイオベース材料から得ることができる。1つの実施形態では、工程20は、少なくとも1種のバイオ材料から糖またはその誘導体を得ることと、この糖またはその誘導体を発酵させてエタノールにすることとを含む。別の実施形態では、工程20は、少なくとも1種のバイオ材料10をガス化して合成ガスを生成し、この合成ガスをエタノールに変換することを含む。より特定的な実施形態では、反応式IIによって示されているように、工程20は、エタノールを脱水してエチレンにすることと、エチレンを酸化させてエチレンオキシドにすることと、エチレンオキシドをエチレングリコールに変換することとをさらに含む。 【0026】 【化2】 [図:0001388589000003.jpg] 反応式II 」 (2)本願発明が解決しようとする課題 本願明細書には、石油化学由来のPETを代替する1つのアプローチは、バイオベース材料からポリ乳酸(PLA)を製造することであったが、PLAとPETとの間の特性の違いが大きいので、石油由来のPETと類似の特性を有する再生可能資源に由来するPETのニーズが存在することが記載されており(【0005】及び【0006】)、これらの記載と、第2で述べたとおり、本願発明はPETポリマー飲料ボトルに係るものであることから、本願発明の課題は、石油由来のPETと類似の特性を有する再生可能資源に由来するPETポリマー飲料ボトルを提供することであると解される。 (3)本願発明の具体的な態様 第2で示したとおり、本願発明のPETポリマーは、「全面的に石油化学製品に由来するテレフタル酸」と「全面的に、木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるバイオベース材料に由来するエチレングリコール」との反応生成物である。 一方、本願明細書には、本願発明の上記「バイオベース材料に由来するエチレングリコール」に関する一般的な記載として、「「バイオベース材料」とは、その中の炭素が化石以外の生物源に由来する有機材料を指す。バイオベース材料の例としては、糖、デンプン、トウモロコシ、天然繊維、サトウキビ、ビート、柑橘類、木本植物、セルロース、リグノセルロース、ヘミセルロース、ジャガイモ、植物油、その他の多糖類(ペクチン、キチン、レバン、およびプルランなど)、ならびに、これらの組み合わせが挙げられるが、これらに限らない。1つの特定的な実施形態によれば、当該少なくとも1 種のバイオベース材料は、トウモロコシ、サトウキビ、ビート、ジャガイモ、デンプン、柑橘類、木本植物、セルロースリグニン、植物油、、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせから選択する」(【0016】)と記載されており、本願発明の「バイオベース材料に由来するエチレングリコール」以外のバイオベース材料の例も記載されている。 また、本願明細書には、具体的なバイオベース由来のエチレングリコールとして、糖から変換したエタノールに由来するエチレングリコール(サンプル1)、トウモロコシに由来するエチレングリコール(サンプル2)が記載され、具体的なPETポリマーとして、サンプル1のエチレングリコールを約30重量%および石油由来のテレフタル酸を約70重量%含むPET(サンプル6)が記載され、これらについて測定したC-14含有量と、それぞれのサンプルにおけるバイオベース材料の比率(【0019】及び表1)の値が記載されている。この上で、図1を参照しながら、ジオール成分の少なくとも1重量パーセントがバイオベース材料に由来し、このジオール成分とテレフタレート成分を反応させてバイオベースPETポリマーを形成すること(【0022】、反応式I)、及び、上記ジオール成分を、エタノールからエチレン、エチレンオキシドを経て、エチレングリコールに変換することにより得ること(【0025】、【0026】及び反応式II)が記載されている。 このように、本願明細書には、バイオベース材料からエチレングリコールに変換するプロセス及びバイオベース材料を原料とするバイオベースPETポリマーの製造プロセスの一般的な技術の概要が記載されているだけであり、本願明細書には、本願発明の「木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック」からエチレングリコールを得た具体例や、本願発明のバイオベース材料に由来するエチレングリコールと石油に由来するテレフタル酸との反応生成物であるPETを得た具体例は記載されていない。 また、本願発明は、上記本願発明のバイオベース材料に由来するエチレングリコールと石油化学製品に由来するテレフタル酸の反応生成物であるPETポリマーの「飲料ボトル」であるが、本願明細書には、上記PETポリマーの物性(例えば、固有粘度、純度)や、上記PETポリマーから飲料ボトルを製造した具体例は記載されていないし、いかなるバイオベース材料に由来する原料を用いたPETから飲料ボトルを製造した具体例も記載されていない。 そして、本願発明の効果について見てみると、本願明細書には、PET製品として、ソフトドリンクやアルコール飲料などをパッケージングするためのボトルが挙げられること(【0003】)、ポリ乳酸(PLA)容器は、炭酸飲料または酸素の影響を受けやすい飲料のような品物を保管するのには適さず、また、PET用に設計されている大半のリサイクルシステムにPLA容器を混入したら悪影響を受けるといった問題があり、PLAとPETとで別々のタイプのボトルを用いたり、好適な仕分け技術や新たなリサイクルシステムを導入したりする解決策は費用がかさむこと(【0005】)が記載されている。しかしながら、本願発明であるPETポリマー飲料ボトルの効果について明示的な記載はない。 2 引用文献に記載された事項 (1)引用文献1 ア 引用文献1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 a)バイオマスを原料として製造された燃料を転化触媒と接触させてなる工程; b)前記工程a)により得られる有機化合物を含む生成物を蒸留、抽出、吸着分離及び結晶化からなる群から選ばれる少なくとも1 種の方法により分離させてなる工程; c)前記工程b)により分離された有機化合物を原料の少なくとも一部として樹脂原料を製造する工程; からなる、樹脂原料の製造方法。 ・・・ 【請求項7】 有機化合物がエチレン、プロピレン、ベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでなることを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の樹脂原料の製造方法。 ・・・ 【請求項9】 樹脂原料がエチレングリコール、アクリロニトリル、カプロラクタム、アジピン酸、ヘキサメチレンジアミン及びテレフタル酸から選ばれる少なくとも1 種を含んでなることを特徴とする請求項1~8のいずれか記載の樹脂原料の製造方法。 ・・・ 【請求項11】 請求項1~10のいずれか記載の製造方法により得られる樹脂原料を少なくとも原料の一部として用いることを特徴とする樹脂の製造方法。 【請求項12】 樹脂原料がテレフタル酸を含んでなることを特徴とする請求項11記載の樹脂の製造方法。 【請求項13】 樹脂がポリエステル樹脂を含んでなることを特徴とする請求項11または12記載の樹脂の製造方法。 【請求項14】 請求項10~13のいずれか記載の製造方法により得ることができる樹脂。」 イ 「【0007】 一方、従来の樹脂はほとんど石油資源を原料としているが、近年、植物資源を原料とする樹脂、すなわちバイオマス利用樹脂に注目が集まっている。現在、最も注目されているのはポリ乳酸である。ポリ乳酸は植物から抽出したでんぷんを発酵することにより得られる乳酸を原料とした樹脂である。しかしながら、ポリ乳酸などのバイオマス利用の生分解性樹脂は一般に力学特性、耐熱性が低く、用途が限られるため、従来の石油資源を原料とする樹脂を代替するまでには至っておらず、二酸化炭素循環による地球温暖化の抑制や資源枯渇の問題は何ら解決されていない。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、バイオマス由来のカーボンニュートラルな、かつ樹脂の力学特性、耐熱性などを損なうことのない樹脂原料の製造方法及び樹脂とその製造方法の提供を目的とするものである。」 ウ 「【0029】 まず、工程a)について説明する。工程a)とは、バイオマスを原料として製造された燃料を転化触媒と接触させてなる工程、である。 【0030】 本発明におけるバイオマスは、太陽エネルギーによって二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であれば特に制限はなく、天然林や草原のように自生のものでも、人工林、牧草地、耕地で人工的に生産されるものでもよい。例えば、栽培作物系バイオマスとしてトウモロコシ、サトウキビ、ケナフ、マメ科植物など、廃棄物系・未利用バイオマスとして麦わら、籾殻、間伐材、廃木材、生ゴミ等が挙げられ、そのでんぷん、茎などの残さも利用できることからトウモロコシや天候の影響が受けにくいサトウキビはより好ましい。 【0031】 本発明における工程a)で用いられるバイオマスを原料として製造された燃料は特に限定されるものではないが、液体燃料、気体燃料及び固体燃料が挙げられ、具体的には下記のものが挙げられる。 (1)液体燃料:エタノール、メタノール、バイオディーゼル、液化バイオマスなど (2)気体燃料:メタン、熱分解ガス(水熱気化ガス含む)、水素など (3)固体燃料:木質系(薪炭、廃木材など)、農業廃棄物(藁など)、有機系都市ごみなど 【0032】 なかでも液体燃料及び気体燃料からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、製造量の多さや取り扱い易さの点からエタノール、メタノール及びメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでなることがより好ましい。さらに、普及率の高さから安価に入手しやすいエタノールがより好ましい。 【0033】 燃料の濃度は特に限定されるものではないが、例えば、エタノールの場合95%以上であれば良く、反応効率向上や転化触媒の劣化抑制の点から97%以上が好ましい。 【0034】 上記燃料の製造方法は特に限定されるものではないが、物理的方法、化学的方法および生物的方法が挙げられ、具体的には下記のものが挙げられる。 (1)物理的方法:抽出、蒸留、分離、乾燥、破砕、高密度化など (2)化学的方法:熱分解、液化、気化、部分酸化、加水分解、触媒反応など (3)生物的方法:発酵(エタノール発酵、メタン発酵など)、酵素処理など 【0035】 なかでもプロセスが簡易であり、エネルギー効率の点で生物的方法である発酵が好ましい。 【0036】 例えば、燃料用エタノールの製造を例に説明する。燃料用エタノールの製造は、次の3つの工程に大別される。(イ)バイオマス(トウモロコシ、サトウキビ、ケナフ、マメ科植物、藁、麦わら、籾殻、間伐材、廃木材、有機系都市ごみなど)を低分子化し糖類を生成、(ロ)糖類から微生物の機能によりエタノールを生成(エタノール発酵)、(ハ)エタノール含有発酵液からエタノールの分離精製、である。 【0037】 (イ)では、バイオマスを六炭糖、五炭糖などの他の糖類、でんぷん、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを生成し、六炭糖、五炭糖などの他の糖類はそのまま(ロ)のエタノール発酵に用いられ、でんぷん、セルロース、ヘミセルロースは蒸煮、加水分解、酵素分解などからなる糖化という低分子化し単糖とする工程を経た後エタノール発酵に用いられる。 【0038】 (ロ)では、(イ)で得られた単糖類から微生物機能を利用してエタノールが生成される。用いられる微生物として酵母や大腸菌を形質変換したものが挙げられる。 【0039】 (ハ)では、固体成分と液層を分離した後、蒸留工程で蒸発と凝縮を繰り返してエタノールの濃縮を行う。また、脱水剤や分離膜を用いてさらに濃縮する方法も用いられる。」 エ 「【0061】 本発明の前記工程b)により分離された有機化合物は特に限定されるものではないが、具体的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン等の炭素数1~4の軽質ガス、炭素数5以上のパラフィン類及びオレフィン類、炭素数5 以上のナフテン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ナフタレン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、エーテル類等が挙げられる。なかでも、樹脂原料の原料となりうるオレフィン類及び芳香族化合物からなる群から選ばれる少なくとも1 種であることが好ましい。さらに、汎用樹脂であるポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ナイロン6、ナイロン66などの原料を合成できる点から、エチレン、プロピレン、ベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれる少なくとも1 種であることが好ましい。キシレンの中ではパラーキシレンが好ましい。 【0062】 本発明においては、上記有機化合物を用いて所望の樹脂原料に変換する。上記有機化合物から変換できる樹脂原料としては、例えば、エチレンからエチレングリコール、プロピレンからアクリロニトリル、ベンゼンからカプロラクタム、アジピン酸及びヘキサメチレンジアミン、パラーキシレンからテレフタル酸が挙げられる。 【0063】 本発明における樹脂原料は特に限定されるものではないが、具体的には、エチレングリコール、アクリロニトリル、カプロラクタム、アジピン酸、ヘキサメチレンジアミン及びテレフタル酸から選ばれる少なくとも1 種であることが好ましい。 【0064】 樹脂原料の製造方法は特に制限はなく、既知の方法が用いられる。例えば、石油化学工業ハンドブック 朝倉書店(1952)に記載の方法を用いることが可能である。具体的には、エチレングリコールはエチレンを原料に銀触媒を用いた空気酸化により合成したエチレンオキサイドを水和する方法により得られ(石油化学工業ハンドブック 朝倉書店(1952)p388-389参照)、アクリロニトリルはプロピレンを原料にBi-Mo-Fe触媒を用いたアンモ酸化Sohio法により得られ(同p340-343参照)、カプロラクタムはベンゼンを原料にNi触媒を用いた水素還元法でシクロヘキサンを合成し、続いて、Co系触媒を用いた空気酸化、脱水素によるシクロヘキサノン合成、ベックマン転移を経て得られ(同p548-551参照)、アジピン酸はベンゼンを原料にNi触媒を用いた水素還元法でシクロヘキサンを合成し、続いてコバルト触媒を用いた空気酸化、硝酸酸化により得られ、ヘキサメチレンジアミンはアジピン酸からニトリル化、水素還元を経て得られ(同p492-495参照)、テレフタル酸はパラーキシレンを原料にCo-Mn-Br系触媒による空気酸化法により得られる(同p534-540参照)。」 オ 「【0067】 本発明における樹脂は特に限定されるものではないが、具体的には、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど(共重合体を含む))、アルキッド樹脂など)、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコールなど)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなど)、スチレン樹脂(ポリスチレン、スチレン共重合体など)、アクリル樹脂(メタクリル酸エステル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル系炭素繊維など)、ポリアミド(ナイロン6,ナイロン66など)、ポリエーテル(ポリホルムアルデヒドなど)、ポリウレタン、ポリカーボネート、フッ素樹脂などが挙げられる。また、これら樹脂をガラス繊維、アルミナなどの無機酸化物等の充填剤、添加剤と組み合わせて樹脂組成物とすることも可能である。 【0068】 本発明における樹脂の製造方法は特に制限はなく、既知の方法が用いられる。例えば、石油化学工業ハンドブック 朝倉書店(1952)p585-664に記載の方法を用いることが可能である。具体的には、ナイロン6はカプロラクタムの開環重合により得られ(石油化学工業ハンドブック 朝倉書店(1952)p652-654参照)、ナイロン66はヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との多縮合により得られ(同p654参照)、ポリアクリロニトリルはアクリロニトリルの乳化重合法により得られ(同p655-656参照)、ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールとの直接重合法により得られる(同p657-658参照)。 【0069】 本発明で得られる樹脂は、既知の樹脂の力学特性、耐熱性などを損なうことなく、かつ二酸化炭素循環による地球温暖化の抑制や資源枯渇の問題も同時に解決でき、樹脂成型品、繊維、フィルム用途などに有用である。 カ 「【0071】 (実施例1) (触媒調製) ・・・ 【0076】 (バイオエタノール転化反応) バイオマスを原料として製造された燃料として、バイオエタノール燃料(アイオジェン社製、エタノール濃度99.8%)を用い、反応に供した。 【0077】 内径32mmの石英管の中央部の石英ウール上に、上記MFI型ゼオライト触媒10.0gをとり、窒素ガスを200ml/分で供給した。石英管を電気炉中に設置して、中心温度を375℃に加熱した(昇温時間60分)。375℃に到達した後、上記バイオエタノールを1.5ml/分で72時間供給した。 【0078】 分析はガスクロマトグラフを用いた(以下、分析Aと記す)。カラム充填剤として、ガス成分の分析には、PORAPAK P(登録商標、GLサイエンス社)、その他の分析には、SUPELCOWAX(登録商標、SUPELCO社)を用いた。 【0079】 バイオエタノールの転化率は100%であり、得られた生成物は重量比で、水36.6%、炭素数1~4の軽質ガス29.4%、炭素数5以上のパラフィン類、オレフィン類およびナフテン類13.8%、ベンゼン1.0%、トルエン3.8%、エチルベンゼン1.0%、キシレン5.3%、エチルトルエン3.6%、トリメチルベンゼン1.3%、ナフタレン類0.1%、コーク類4.1%であった。 【0080】 (パラーキシレンの分離) 上記得られた生成物のうち液状炭化水素成分2000gを用い、単一蒸留法により135~145℃留分A370gを分取した。分析Aの結果、得られた留分Aは重量比で、トルエン1.0%、エチルベンゼン15.7%、キシレン83.3%(パラーキシレン17.0%、メターキシレン49.5%、オルトーキシレン16.8%)であった。 【0081】 次に、上記得られた留分から深冷分離法によるパラーキシレン分離を行った。各成分の融点は、トルエン-95.0℃、エチルベンゼン-95.0℃、パラーキシレン13.3℃、メターキシレン-47.9℃、オルトーキシレン-25.2℃であり、パラーキシレンの分離が可能であることがわかる。上記得られた留分350gを500ml容の三角フラスコに入れ、ドライアイス-エタノール冷媒下(-72℃)で3時間冷却後、固化成分と液成分を分離した。その後、固化成分の再溶解、冷却(冷凍庫内-10℃)、固液分離を2回繰り返し、濃度99.9%のパラーキシレン40gを得た。 【0082】 (テレフタル酸の合成) 上記得られたパラーキシレン40gを用い、溶媒に対して、コバルト原子として300ppmの酢酸コバルト(シグマアルドリッチジャパン社製)、マンガン原子として200ppmの酢酸マンガン(シグマアルドリッチジャパン社製)、および臭素原子として1000ppmの臭化水素(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する酢酸(15%含水(シグマアルドリッチジャパン社製))を溶媒とし、溶媒/パラーキシレン重量比3で反応温度200℃、圧力2.0MPa、滞留時間120分、排ガス中の酸素濃度5%の条件下、液相酸化し、得られた混合物スラリーから減圧冷却後、固液分離し、テレフタル酸の結晶55gを得た。 【0083】 (ポリエチレンテレフタレートの合成) 上記得られたテレフタル酸83重量部とエチレングリコール(シグマアルドリッチジャパン社製)62重量部をスラリーとして反応槽に供給し、常法の直重方法で、エステル化反応を240℃で5時間実施した。その後、トリメチルフォスフェート(アルドリッチ社製)を0.013重量部添加(酸成分に対して15mmol%)してから高温真空条件下の重合反応に移行させた。まず、40分間で、真空度を4000Pa、重合温度280℃にまで昇温し、ついでその重合温度280℃のまま、真空度を200Paまで下げて溶融重合反応を行った。この際、真空をひきはじめてから反応終了までに要した時間は3時間であった。ポリマーは、ストランドの形で流水中に吐出され、ペレタイザによってチップ化した。そのチップを160℃において5時間乾燥後、窒素雰囲気下50Paの真空下205℃で固相重合して固有粘度0.8dl/gのポリマーを得た。なお、固有粘度はフェノール/テトラクロロエタン(成分比:3/2)溶媒を用い、35℃で測定した溶融粘度から算出した。 【0084】 ・・・」 イ 引用文献1に記載された発明 引用文献1には、化石資源への依存から脱却するため、ポリ乳酸などのバイオマス利用樹脂に注目が集まっているが、ポリ乳酸は力学特性や耐熱性が低く、従来の石油資源を原料とする樹脂を代替するまでには至っておらず、バイオマス由来のカーボンニュートラルな、かつ従来の樹脂の力学特性、耐熱性を損なうことのない樹脂の提供を課題とすることが記載されている(【0002】、【0007】及び【0008】)。これらの記載は、上記1(2)で述べた、PLAとPETとの間の特性の違いが大きいので、石油由来のPETと類似の特性を有する再生可能資源に由来するPETのニーズが存在するという本願発明の技術背景又は課題と共通するものであるといえる。 そして、引用文献1には、上記課題を解決するものとして、請求項1を引用する請求項9に係る以下の樹脂原料の製造方法が記載されている。 「a)バイオマスを原料として製造された燃料を転化触媒と接触させてなる工程; b)前記工程a)により得られる有機化合物を含む生成物を蒸留、抽出、吸着分離及び結晶化からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により分離させてなる工程; c)前記工程b)により分離された有機化合物を原料の少なくとも一部として樹脂原料を製造する工程;からなり、前記樹脂原料がエチレングリコール、アクリロニトリル、カプロラクタム、アジピン酸、ヘキサメチレンジアミン及びテレフタル酸から選ばれる少なくとも1種を含んでなる、樹脂原料の製造方法」 また、引用文献1の請求項9、請求項11、請求項13及び14には、エチレングリコールを含む上記樹脂原料を用いたポリエステル樹脂が記載され、ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートが例示され(【0061】及び【0067】)、このうち、エチレングリコールを原料に用いるのはポリエチレンテレフタレートであるから、引用文献1には、バイオマスに由来するエチレングリコールを用いたポリエチレンテレフタレートが記載されているといえる。なお、引用文献1には、バイオマス由来の原料を用いたPETが記載されている。 更に、引用文献1には、得られる樹脂が樹脂成型品、繊維、フィルム用途に有用であることが記載され(【0065】及び【0095】)、上記樹脂を繊維、フィルム以外の用途である樹脂成型品に加工することが示されている。 そうすると、引用文献1には、請求項1、請求項9、請求項11及び請求項13を引用する請求項14に係るポリエステル樹脂に着目して、ポリエステル樹脂及び用途に関する上記記載も参酌すると、以下の発明が記載されているといえる。 「a)バイオマスを原料として製造された燃料を転化触媒と接触させてなる工程; b)前記工程a)により得られる有機化合物を含む生成物を蒸留、抽出、吸着分離及び結晶化からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法により分離させてなる工程; c)前記工程b)により分離された有機化合物を原料の少なくとも一部として樹脂原料を製造する工程;からなり、前記樹脂原料がエチレングリコールを含んでなる、樹脂原料の製造方法により得られる樹脂原料を少なくとも原料の一部として用いる樹脂の製造方法により得ることができるポリエチレンテレフタレートの成型品。」(以下、「引用発明」という。) (2)引用文献2 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア 「【0002】 ポリエチレンテレフタレート製の中空容器は、透明性、表面光沢、耐衝撃性、ガスバリア製などに優れるため、各種の飲料、食品、液体洗剤、化粧品などの、主に液体を充填する容器として広く使用されている。このようなポリエチレンテレフタレート製の中空容器を製造する方法としては、ポリエチレンテレフタレートを用いて有底のプリフォームを射出成形し、得られたプリフォームを延伸可能温度まで加熱後、二軸延伸ブロー成形を行う方法が主に採用されている。」 イ 「【0025】 本発明のポリエチレンテレフタレート製中空容器は、ポリエチレンテレフタレートを主とする樹脂からなる。本発明の中空容器を構成する樹脂は、テレフタル酸とエチレングリコールのモノマー単位の合計が100モル%である、純ポリエチレンテレフタレートであるのが好ましいが、主成分であるテレフタル酸とエチレングリコールのモノマー単位の合計を100モル%とするとき、それ以外のモノマーを20モル%以下の範囲で含有しても構わない。」 ウ 「【0029】 本発明の中空容器を構成するポリエチレンテレフタレートの固有粘度(IV)は、一般に0.60~1.40dl/gが好ましく、0.65~0.90dl/gの範囲にあるのが特に好ましい。」 (3)本願優先日時点の技術水準を示す文献 参考文献1:府川伊三郎、ARCリポート(RS-978)、バイオマス化学“「石油化学」から「天然資源化学」へ”続編、25~26頁及び29頁、2014年9月 https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-978.pdf 参考文献2:特開2009-91694号公報(特願2007-264407号、2007年(平成19年)10月10日出願)、【0030】~【0033】(実施例1~3)、特に【0030】の「バイオマス由来エチレングリコールである、インディア グライコール社(インド)製のエチレングリコール」 参考文献3:湯木和男編、「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」、初版、586~592頁、1989年 ア 参考文献1に記載された事項 参考文献1には、以下の事項が記載されている。 [図:0001388589000004.jpg] [図:0001388589000005.jpg] 参考文献1には、India Glycols Ltd(インディア グライコール社、インド)は、1989年から、バイオエチレンの酸化と水和(従来法)によるエチレングリコールの商業化生産をしたことが記載されている(29頁の表11)。 イ 参考文献2に記載された事項 参考文献2には、テレフタル酸と、インディア グライコール社(インド)製のバイオマス由来エチレングリコールを1:1.6のモル比で連続的に供給して反応させて平均重合度7の低重合体を得た後、溶融重合を行って[η]=0.62のPETを得たこと、同様に[η]=0.88のPETを得たことが記載されている(【0030】~【0033】)。 ウ 参考文献3に記載された事項 参考文献3には、以下の事項が記載されている。 [図:0001388589000006.jpg] [図:0001388589000007.jpg] [図:0001388589000008.jpg] [図:0001388589000009.jpg] 参考文献3には、ボトル用PET樹脂は、メーカーによってエステル交換法(EI法)あるいは直接重合法(DE法)のいずれかで製造されていること、あらかじめ直接重合法によって得られたPETを固相重合すること、ボトル用PET樹脂の製造プロセスでは、成形性および味への影響の要求から、IV=0.7~1.0の分子量で…PETを大量に安定して製造する必要があることが記載されている(「12.2.1 製造法」及び「12.2.2 製造プロセス」)。 そして、参考文献1及び2は、本願優先日後に公知となったものであるが、参考文献1には、優先日前である1989年に、インディア グライコール社により、バイオマス由来のエチレングリコールが商業化され、生産及び販売されていたことが記載され、参考文献2には、そのバイオマス由来のエチレングリコールを入手したことが記載され、参考文献2の出願日は優先日前であるから、本願優先日前に、バイオマス由来のエチレングリコールを入手可能であったことが読み取れる。 3 本願発明と引用発明との対比及び判断 (1)対比 PETの飲料ボトルが金型を用いた二軸延伸ブロー成形により得られる成型品であることは本願優先日時点の技術常識であるから(必要があれば、引用文献2を参照)、引用発明の「ポリエチレンテレフタレートの成形品」は、PETの成型品である限りにおいて、本願発明の「ポリエチレンテレフタレート(PET)ポリマー飲料ボトル」と一致する。 また、PETは、テレフタル酸(分子量228)とエチレングリコール(分子量62)とが1:1のモル比で重縮合した生成物であり、重量比でテレフタル酸を73重量%、エチレングリコールを27重量%の重量比で含むものが基本であり、引用発明のポリエチレンテレフタレートも73重量%のテレフタル酸と27重量%のエチレングリコールとの反応生成物といえるから、引用発明は、本願発明の「i)約25~約75重量パーセントのテレフタル酸」と「ii)約20~約50重量パーセントのエチレングリコール」との「反応生成物を含む」に相当する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「ポリエチレンテレフタレート(PET)ポリマー成型品であって、前記ポリマーが、 i)約25~約75重量パーセントのテレフタル酸と、 ii)約20~約50重量パーセントのエチレングリコールと、 の反応生成物を含む、成型品。」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:本願発明は「飲料ボトル」であるのに対して、引用発明は「成型品」である点 相違点2:エチレングリコールが、本願発明は「全面的に、木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるバイオベース材料に由来する」のに対して、引用発明は「バイオマスを原料」とするものである点 相違点3:テレフタル酸が、本願発明は、「全面的に石油化学製品に由来するテレフタル酸」であるのに対して、引用発明は、そのようなものであるか不明である点 (2)相違点の検討 上記相違点について検討する。 ア 相違点1について PET製の飲料用ボトルは広く一般に利用されていたものであって、PETの成型品としての主たる代表例であったことは本願優先日時点の技術常識であり、当業者は、引用発明に係るPETの成型品として飲料ボトルを想定することから、引用発明に係るPETの成型品は飲料ボトルであって、相違点1は実質的な相違点でないか、又は、上記成型品を飲料ボトルとすることは上記技術常識から動機付けられ、当業者が容易に想到し得たことである。 イ 相違点2について 引用文献1には、引用発明において、工程a)のバイオマスがケナフ、間伐材、廃木材などであること(【0030】、【0031】及び【0036】)、工程c)における「工程b)により分離された有機化合物」は、エチレン等の炭素数1~4の軽質ガスであること(【0061】)、汎用樹脂であるポリエチレンテレフタレート等の原料を合成できる点からエチレン等が好ましいこと(【0062】)、エチレングリコールはエチレンを原料に合成したエチレンオキサイドを水和する方法により得られること(【0062】及び【0064】)、がそれぞれ記載されており、これらの記載を合わせてみれば、天然繊維であるケナフ、木本植物である間伐材及び廃木材等のバイオマスを原料に、エタノール、エチレン、エチレンオキサイドを順に経由してエチレングリコールを得ることが示されているといえる。 そうすると、引用発明において、バイオマスの原料として、天然繊維であるケナフや、木本植物である間伐材及び廃木材を用いることは動機付けられ、また、引用発明におけるポリエチレンテレフタレートの原料であるエチレングリコールとして、本願発明1の「全面的に、木本植物、天然繊維、油性木材フィードストック、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるバイオベース材料に由来するエチレングリコール」を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 ウ 相違点3について 引用文献1に「従来の樹脂はほとんど石油資源を原料としているが、近年、植物資源を原料とする樹脂、すなわちバイオマス利用樹脂に注目が集まっている。」(【0007】)と記載されるように、PETの原料として石油由来のエチレングリコール及びテレフタル酸が用いられてきたことを前提として、植物資源を原料とするバイオマス利用樹脂は本願優先日当時の技術常識である。 そして、引用文献1には、「本発明における樹脂原料は、…エチレングリコール、アクリロニトリル、カプロラクタム、アジピン酸、ヘキサメチレンジアミン及びテレフタル酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい」(【0063】)と記載され、樹脂原料としてエチレングリコール、テレフタル酸が例示されているが、上記のように、PETの原料として石油由来のテレフタル酸が用いられることが、本願優先日当時の技術常識である。 そうすると、引用発明は、石油由来のテレフタル酸をPETの樹脂原料に用いるものであって相違点3は実質的な相違点でないか、仮にこれが実質的な相違点であるとしても、上述のとおり、石油由来のテレフタル酸を用いることは本願優先日時点の技術常識であるから、当業者が容易に想到し得たことである。 (3)本願発明の効果 第4 1(3)で述べたとおり、本願発明の効果は、本願明細書に明示的に記載されていないが、念のため、上記「第4 1(3)」で述べた効果の予測性を検討する。 引用文献1には、ケナフ、間伐材、廃木材等のバイオマスから、エタノール、エチレン、エチレンオキサイドを経て、PETの原料であるエチレンテレフタレートを得ることができること、バイオマス由来のテレフタル酸とエチレングリコールから直接重合法によりPETを重合し、これを固相重合して固有粘度を高める実施例が具体的に記載されている(【0061】~【0064】、【0068】及び【0083】)。 そして、石油由来のPETとバイオマス由来のPETとは、上記C-14の含有量に違いがあるものの、いずれもエチレングリコールとテレフタル酸を主たる原料とするポリマーであり、その重合反応も得られるポリマーの構造も同じものであるから、バイオマス由来のPETを石油由来のPETと同じく飲料ボトルに使用でき、そのリサイクルでも同じシステムを使用できることは当業者に明らかである。また、ボトル用PETの多くが固相重合によって得られること(上記2(3)の参考文献3を参照)も、PETから飲料ボトルを成形する方法(引用文献2を参照)も、本願優先日時点の技術常識である。そして、PET製の飲料ボトルを回収してリサイクルすることは、本願優先日前に広く一般に行われていたことである。 そうすると、石油由来のPETポリマー飲料ボトルと同様に、バイオベース材料に由来するPETポリマー飲料ボトルにより、PLA容器の使用に伴う炭酸飲料等の保管やリサイクル等の費用に関する問題を解決できるという本願発明の一応の効果は、本願優先日時点の上記技術常識を参酌して、引用文献1に記載された事項から、当業者が予測できることにすぎないものであるといえる。 (4)小括 したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 請求人の主張について 請求人は、令和3年10月25日提出の意見書において、以下の事項を主張する。 (1)相違点2に関して、「引用文献1は、テレフタル酸がバイオ由来であり、エチレングリコールが石油由来であるバイオPETを例示しています。これは、供給源ベースのモノマーに関して、出願人のバイオPETとは逆になります。」と述べ、引用文献1には、高純度のエチレングリコール又はボトルグレードのPETを得ることができる証拠が示されていない旨、及び、バイオエチレンを提供するために、工程a)において、ケナフ又はその他のバイオベース材料をどのように適用させるか、工程b)においてバイオエチレンをどのように単離するかについて教示していない旨を主張する(意見書の(カ)~(コ))。 (2)相違点1に関して、引用文献1は、飲料ボトルを開示していないし、バイオベース材料から誘導されたPETを用いていかなる成型品を製造するのかについても教示していない旨を主張する(意見書の(サ)~(ソ))。 上記主張(1)について検討する。 引用文献1には、工程a)のバイオマスとして、ケナフ、間伐材及び廃木材を用いること(【0036】)、工程b)により、エチレン等の有機化合物が分離されること(【0061】)、樹脂原料の製造方法は既知の方法が用いられ、エチレングリコールは、エチレンを原料に銀触媒を用いた空気酸化によりエチレンオキサイドを合成及び水和して得られること(【0064】)がそれぞれ記載され、この方法を含め、エチレンからエチレングリコールを製造する方法は本願優先日前に周知の事項であるといえる。 また、引用文献1には、「本発明で得られる樹脂は、既知の樹脂の力学特性、耐熱性などを損なうことなく…樹脂成型品、繊維、フィルム用途に有用である」(【0069】)ことが記載され、従来の石油由来の樹脂と同様に、成型品、繊維及びフィルムの用途に耐えうる力学特性、耐熱性を備えた樹脂の製造を目的とすることが示されている。 そして、上記3(2)イで述べたとおり、引用文献1には、工程a)の上記バイオマスから、PETの原料であるエチレングリコールを得ることが記載されており、エチレングリコールはテレフタル酸とともにPETの主構造を構成する化合物であるから、バイオマス由来のエチレングリコールであっても、石油由来のPETと同程度の力学特性等を備えた樹脂とするために、従来の石油由来のエチレングリコールと同じく高純度とすることは、当業者が通常指向することであるといえる。そして、バイオマス由来のエチレングリコールに、従来の石油由来のエチレングリコールを高純度化するための方法を適用できない事情は見当たらない。 また、参考文献1には、India Glycols Ltd(インド)が1989年よりバイオエチレンの酸化と水和により得られるエチレングリコールを商業生産していたことが記載され、参考文献2には、テレフタル酸と、インディア グライコール社の(インド)製のバイオマス由来エチレングリコールを用いて固有粘度0.88dL/gのPETを得てボトルを製造したことが記載されており、参考文献1及び2の記載から、本願優先日前の2007年10月10日(参考文献2の出願日)当時には、PETポリマーの原料とバイオエチレンに由来するエチレングリコールを商業生産していたと推認でき、バイオベース材料からPETポリマーの原料となるエチレングリコールを得ることは、本願優先日時点の技術常識であったといえる。 更に、引用文献1には、バイオマスを原料に製造したエタノールをゼオライト触媒と接触させ、炭素数1~4の軽質ガス(エチレンを含む)等を得て、加圧下で冷却して分離することが記載され(【0055】【0056】)、このような製法は、本願優先日前に周知の事項であると解される。 そうすると、引用文献1に、エチレングリコールがバイオ由来であり、テレフタル酸が石油由来であるバイオPETを得る具体例が記載されていないことを根拠に、バイオベース材料に由来するエチレングリコールを得ることが当業者にとって容易に想到し得たことでないとはいえず、上記主張を採用することはできない。 次に、上記主張(2)について検討する。 上述のように、引用文献1には、従来の石油由来の樹脂と同様に、成型品等の用途に耐えうる力学特性と耐熱性を備えた樹脂の製造を目的とし、バイオマスから、PETの原料であるエチレングリコールを得ることが示されている。そして、PETの代表的な成型品として飲料ボトルがあること、及び、ボトルグレードのPETには0.7~1.0dL/g程度の所定の固有粘度が必要であることは、本件優先日時点の技術常識であるといえる(引用文献2の【0029】、参考文献の591頁)。 そうすると、引用文献1に、成型品が飲料ボトルであることが記載されていないことを根拠に、バイオベース材料に由来するエチレングリコールを原料としたPETを飲料ボトルに用いることが、当業者にとって容易に想到し得たことでないとはいえず、上記主張を採用することはできない。 なお、請求人の主張は、PETから飲料ボトルを得るには、適切な固有粘度のPET、高純度のエチレングリコールが必要であることを前提としており、この上で、引用文献1には、この前提を満たすPETが開示されていないから、飲料ボトルは教示されていないというものであるとも解されるが、そもそも、本願明細書には、本願発明の効果について明示的に記載されておらず、バイオエチレングリコールの純度や、得られたPETがボトルグレードであること(意見書に記載されるように固有粘度0.8dl/g以上であること)は示されていないし、得られたエチレングリコールが高純度(意見書に記載されるように99.5%超)であることや、高純度化のための方法について何ら記載されておらず、本願発明において、エチレングリコールをどのように高純度化し、ボトルグレードのPETを得るのは示されていない。また、意見書で引用された公知日が不明な上記文献には、HUNTSMAN社のエチレングリコールの純度(99.5wt%以上)等の物性や適用分野が書かれているのみであり、これがPET飲料ボトルの原料であることや、PET飲料ボトルの原料にするエチレングリコールは99.5%超の純度であることも何ら記載されていない。 そうすると、本願発明は、ただ単にバイオマス由来のPETを飲料ボトルとしただけの発明であると理解せざるを得ず、上記のような適切な固有粘度のPET、高純度のエチレングリコールを前提とした審判請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2020-002010

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