特許拒絶査定不服審判
2023-014623
バイオPET樹脂の製造方法
- 審判番号
- 2023-014623
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-175863外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年08月30日
- 審決日
- 2025年05月12日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (C08G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第1項第4号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-175863「バイオPET樹脂の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和4年1月14日出願公開、特開2022-9611〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)5月31日(優先権主張 2016年(平成28年)5月31日)を国際出願日とする特許出願の一部を令和3年10月27日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年11月26日提出:上申書
令和 4年 9月30日付け:拒絶理由通知
令和 5年 2月 3日提出:意見書
同年 5月23日付け:拒絶査定
同年 8月30日提出:審判請求書、手続補正書
同年11月15日付け:前置報告
令和 6年 2月14日提出:上申書
ここで、令和5年8月30日に提出された手続補正書による補正を以下「本件補正」という。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年8月30日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、本件補正前の
「 バイオPET樹脂の製造方法であって、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有する触媒の存在下において、バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを重合させる工程を含むことを特徴とする、方法。」
から、本件補正後の
「 ペットボトル用バイオPET樹脂の製造方法であって、前記方法が、
アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有する触媒の存在下において、バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを重合させる工程を含み、
前記アルミニウム化合物は、樹脂中のアルミニウム原子としての含有量が、1~50ppmとなるように用いられ、
前記ゲルマニウム化合物は、樹脂中のゲルマニウム原子としての含有量が、1ppm~100ppmとなるように用いられ、
前記方法において共重合成分が添加されず、前記共重合成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールであり、
前記バイオPET樹脂の固有粘度(IV)が0.7~0.85dl/gであり、
前記アルミニウム化合物が、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンアルミニウム、シュウ酸アルミニウム、酸化アルミニウムもしくはアルキルアルミニウムから選択される有機アルミニウム化合物又はその部分加水分解物、あるいはこれらの組み合せであり、
前記ゲルマニウム化合物が、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラn-ブトキシド、結晶性二酸化ゲルマニウム、非晶性二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウムもしくは亜リン酸ゲルマニウム、又はこれらの組み合せであり、
前記バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを重合させる工程が、バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを懸濁重合させることにより中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造し、これにより得られたBHET及び/又はそのオリゴマーを、前記触媒の存在下において溶融重縮合させること、及び溶融重縮合により得られたバイオPET樹脂をペレットに加工し、これを固相重合させることをさらに含む
ことを特徴とする、方法。」
とする補正を含むものである(補正された箇所に当審において下線を付与した。)。
ここで、本件補正による請求項1についての補正を以下「本件補正事項」といい、本件補正後の請求項1に係る発明を以下「本件補正発明」という。
2 本件補正事項の目的
本件補正事項は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正であるから、同条第5項の規定に基づいて本件補正事項の目的について検討する。
本件補正事項は、補正前の「バイオPET樹脂」という事項の用途を限定し、補正前の「アルミニウム化合物」という事項及び「ゲルマニウム化合物」という事項の使用態様及び種類を限定し、補正前の「重合」という事項に供する単量体を限定し、補正前の「重合させる工程」という事項を限定するものである。
また、本件補正事項による補正前の請求項1に係る発明と本件補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。
3 独立特許要件について
(1)はじめに
本件補正事項は、前記2で検討したとおり特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。そこで、同条第6項において準用する同法126条第7項の規定に基づいて本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。
(2)本件補正発明
本件補正発明は、前記1に記載したとおりのものである。
(3)引用文献
ア 審査において引用された引用文献
引用文献4.国際公開第2005/075539号(拒絶査定の引用文献4)
引用文献5.特開2005-132958号公報(拒絶査定の引用文献5)
引用文献1.特開2011-219736号公報(拒絶査定の引用文献1)
イ 技術常識を示すために当審で新たに引用する引用文献
引用文献A.株式会社旭リサーチセンター,バイオマス化学“「石油化学」から「天然資源化学」へ”続編,ARCリポート,RS-978,2014年9月,URL:https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/,https://arc.asahi-kasei.co.jp/report/arc_report/pdf/rs-978.pdf
引用文献B.Sustainable Japan,コカ・コーラ、世界初となる100%植物性由来のペットボトルを開発,2015年6月10日,URL:https://sustainablejapan.jp/2015/06/10/cocacola-plantbottle/16216
引用文献C.日系バイオテク,Coca-Cola社、100%植物由来のペットボトルをミラノ万博で展示,2015年6月20日,https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150619/185717/
引用文献D.一般社団法人環境金融研究機構,サントリー 100%植物由来原料のペットボトル開発へ。米ベンチャーと共同で。2021年には市場にお目見え(RIEF),2016年1月14日,URL:https://rief-jp.org/ct12/57699
引用文献E.湯木和男編,飽和ポリエステル樹脂ハンドブック,日刊工業新聞社,初版第1刷,1989年
引用文献F.坂本広美,金子栄廣,PETボトルとそのリサイクル製品に含まれるSbおよびGeの定量,環境化学,17巻,1号,2007年,1-6頁,URL:https://doi.org/10.5985/jec.17.1
(4)引用文献の記載
ア 引用文献4
引用文献4は、本願優先日前に頒布された公開特許公報であり、そこには以下の事項が記載されている。
「請求の範囲
[1] アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、リン化合物から選ばれる少なくとも1種からなる重縮合触媒の存在下で製造したポリエステルにおいて、ポリエステルに不溶なアルミニウム系異物が3500ppm以下であることを特徴とするポリエステル。
・・・
[4] ポリエステルがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリエステル。
・・・
[8] アルミニウム化合物およびリン化合物からなるポリエステル重合触媒であって、アルミニウム化合物およびリン化合物を溶媒中で混合してなることを特徴とするポリエステル重合触媒。
・・・
[21] 上記重合触媒の添加時期が、エステル交換反応あるいは直接エステル化反応後から重縮合反応までの間であることを特徴とする請求項8~19のいずれかに記載の重合触媒を用いたポリエステルの製造方法。
・・・」
「[0002] ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステルは、機械的特性、及び化学的特性に優れており、それぞれのポリエステルの特性に応じて、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野において使用されている。特に、ポリエチレンテレフタレートなどの飽和ポリエステルからなるボトルは、機械的強度、耐熱性、透明性およびガスバリヤー性に優れるため、ジュース、炭酸飲料、清涼飲料などの飲料充填用容器および目薬、化粧品などの容器として広く使用されている。
代表的なポリエステルである芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールを主構成成分とするポリエステルは、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)の場合には、テレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化反応もしくはエステル交換反応によってビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートなどのオリゴマー混合物を製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて液相重縮合させ、粒状化後、固相重縮合し成形用ペレットが製造される。こうして製造されたポリエステルペレットは射出成形してプリフォームを製造し、次いでこのプリフォームをブロー成形するなどして二軸延伸し、ボトル状に成形されることで製造されている。」
「[0014] 以下にアルミニウム化合物の溶解方法を例示する。
(1)塩基性酢酸アルミニウムの水溶液の調製例
塩基性酢酸アルミニウムに水を加え50℃以下、好ましくは室温で数時間以上攪拌する。攪拌時間は、3時間以上、さらには6時間以上、特には12時間以上であることが好ましい。・・・
(2)塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
上述の水溶液に対してエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で0.5~5.0倍量、さらには0.8~2.0倍量が好ましい。該溶液を攪拌することで均一な水/エチレングリコール混合溶液を得る。その後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。・・・」
「[0062] ポリエステル中のアルミニウム元素含有量は5~100ppmがより好ましく、7~80ppmがさらに好ましく、10~60ppmがよりさらに好ましい。アルミニウム元素含有量が3ppm未満では重縮合触媒活性が低下するので好ましくない。逆に、200ppmを超えた場合は、重縮合触媒活性が頭打ちになり、かつアルミニウム元素起因のポリエステルに不溶性の異物生成量が増大するので好ましくない。」
「[0069] ポリエステルの用途
本発明のポリエステルは、ミネラルウオーター、ジュース、ワインやウイスキー等の飲料容器、ほ乳瓶、瓶詰め食品容器、整髪料や化粧品等の容器、住居および食器用洗剤容器等の中空成形体として好適に用いられる。」
「[0071] 実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、評価法は以下の方法で実施した。
・・・
[0075] (15)中空成形体の成形
ポリエステルを脱湿窒素を用いた乾燥機で乾燥し、各機製作所製M-150C(DM)射出成型機により樹脂温度295℃でプリフォームを成形した。このプリフォームの口栓部を自家製の口栓部結晶化装置で加熱結晶化させた後、コーポプラスト社製LB-01E延伸ブロー成型機を用いて二軸延伸ブロー成形し、引き続き約140℃に設定した金型内で約7秒間熱固定し、1500ccの中空成形体(胴部は円形)を得た。
(16)中空成形体の透明性評価
上記(2)(当審注:(15)の誤記と認められる)の方法で成形加工して得た中空成形体の透明性評価を、次に示すような目視による3段階評価法を用いて評価した。
〇:透明性に優れている。
△:透明性にやや劣る。
×:透明性に劣る。
[0076] (アルミニウム化合物の調製例1)
塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート;Aldrich社製、水に対する不溶分量400ppm)の20g/l水溶液に対して等量(容量比)のエチレングリコールをともにフラスコに仕込み、室温で6時間攪拌した後、減圧(133Pa)下、70~90℃で数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
(リン化合物の調製例1)
リン化合物として(化39)で表されるIrganox1222(チバ・スペシャルテーケミカルズ社製)をエチレングリコールとともにフラスコに仕込み、窒素置換下攪拌しながら液温160℃で12時間加熱し、30g/lのリン化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
[0077] (アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1)
上記アルミニウム化合物の調製例1および上記リン化合物の調整例1で得られたそれぞれのエチレングリコール溶液をフラスコに仕込み、アルミニウム原子とリン原子がモル比で1:2となるように室温で混合し、1日間攪拌して触媒溶液を調製した。
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例2)
上記アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1で得たものをフラスコに仕込み、窒素置換下攪拌しながら、160℃に昇温し、そのまま30分間維持した後、約40℃まで冷却しポリエステル用重合触媒とした。
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例3)
リン化合物の調製例1の方法で調製したリン化合物の溶液にアルミニウムアセチルアセトネートをアルミニウム原子とリン原子がモル比で1:2となるようにフラスコに仕込み、窒素置換下撹拌しながら、100℃で1時間加熱して触媒溶液を調製した。
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例4)
上記アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1で得たものをフラスコに仕込み、窒素置換しないで攪拌しながら、160℃に昇温し、そのまま30分間維持した後、約40℃まで冷却しポリエステル用重合触媒とした。
[0078](実施例A-1)
攪拌機付き2リッターステンレス製オートクレーブに高純度テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを酸成分に対して0.3モル%加え、0.25MPaの加圧下250℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を行いエステル化率が約95%のビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物(以下BHET混合物という)を得た。このBHET混合物に重縮合触媒として、上記“アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1”の重合触媒を用い、ポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子およびリン原子としてそれぞれ0.014モル%および0.028モル%になるように加え、次いで、窒素雰囲気下、常圧にて250℃で10分間攪拌した。その後、60分間かけて280℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに280℃、13.3Paで重縮合反応を実施した。放圧に続き、微加圧下のレジンを冷水にストランド状に吐出して急冷し、その後20秒間冷水中で保持した後、カティングして長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得た。重縮合反応に要した時間(重合時間)と得られたポリエステルのIVを表1に示す。
溶融重合で得られたポリエステルペレットを、減圧乾燥(13.3Pa以下、80℃、12時間)した後、引き続き結晶化処理(13.3Pa以下、130℃、3時間、さらに、13.3Pa以下、160℃、3時間)を行った。放冷後のこのポリエステルペレットレを固相重合反応器内で、系内を13.3Pa以下、215℃に保ちながら固相重合を行い、IVが0.78dl/gのポリエステルペレットを得た。次いで、上記の(2)、(3)および(4)記載の方法による、中空成形体の透明性および異物の評価結果を表1に示す。
・・・
[図:0001425077000001.jpg]
・・・
[0087] 本発明により、欠点を有するアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物を触媒主成分として含まず、触媒金属成分としてアルミニウム化合物を用いた、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れ、特に異物の少なく、超微細繊維、光学用の高透明なフィルムあるいは超高透明な成型体等の分野においてその特徴を発揮することができるポリエステルが得られる。さらに、本発明により、このようなポリエステルを提供することのできる活性の高いポリエステル重合触媒、および、これを用いたポリエステルの製造方法が得られる。」
イ 引用文献5
引用文献5は、本願優先日前に頒布された公開特許公報であり、そこには以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
[A]テレフタル酸を含むジカルボン酸またはそのエステル誘導体と、エチレングリコールを含むジオールまたはそのエステル誘導体とを、重縮合触媒の存在下で加熱溶融して液相重縮合させて、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン混合溶媒中で測定される固有粘度が0.7乃至1.5dl/gであるポリエステル(a)を製造する液相重縮合工程と、[C]液相重縮合工程で得られたポリエステル(a)を超臨界流体と接触させ、含有する揮発成分が減少したポリエステル(c)を製造する超臨界抽出工程を含み、得られるポリエステル(c)のアセトアルデヒド含有量が10ppm以下であることを特徴とするポリエステルの製造方法。」
「【0002】
従来より、ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂は、優れた機械的性質及び化学的特性に加え、その優れた透明性、ガスバリア性、安全衛生性等を生かして、射出成形したプリフォームを延伸ブロー成形したボトル等として、又、押出成形したシートを熱成形したトレイやカップ等として、或いは該シートを二軸延伸したフィルム等として、特に食品包装分野において著しい伸びを示している。該ポリエステルから得られるボトル中にアセトアルデヒドが残存すると、充填される内容物の味覚が著しく低下してしまう。このためボトルを成形するポリエステル中に含まれるアセトアルデヒド含量は、出来る限り少ないことが望ましい。ボトルを形成するポリエステル中に含まれるアセトアルデヒド量を少なくするには、成形前のアセトアルデヒド含有量が少ないとともにボトル成形時にもアセトアルデヒド量が増加しにくいポリエステルが必要とされる。
【0003】
ところでポリエステルは、テレフタル酸などのジカルボン酸またはそのエステル誘導体と、エチレングリコールなどのジオールまたはそのエステル誘導体とをエステル化反応させた後、エステル化物を重縮合触媒の存在下で重縮合反応させることにより製造されている。この重縮合反応は、液相重縮合工程と固相重縮合工程とで行われており、固有粘度が高く且つアセトアルデヒド含量が低下されたポリエステルが得られている。このようなポリエステルの製造方法では、液相重縮合工程及び固相重縮合工程を行わなければならないが、この固相重縮合には長時間を要するために、製造コストの上昇を招いていた。
ところで固相重縮合工程を省略して液相重縮合により得られたポリエステルをそのままボトルなどの成形体に製造しようとすると、成形時にアセトアルデヒドが生成し、このアセトアルデヒドがポリエステル成形体中に残存してしまうという問題点がある。
このためアセトアルデヒド含有量が微量であるとともに、ボトルなどの成形時にもアセトアルデヒドが増加しにくいポリエステルを提供することが出来、しかも固相重縮合工程を省略できるようなポリエステルの製造方法の出現が望まれている。」
「【0005】
本発明は、前述の従来の技術における現状に鑑みてなされたもので、従って、本発明は、ポリエステル樹脂と超臨界流体とを接触させる処理を施すことにより、アセトアルデヒド含有量が微量であるとともに、ボトルなどの成形時にアセトアルデヒドが増加しにくいポリエステルを提供することが出来、しかも固相重縮合工程を省略出来るポリエステルの製造方法を提供することを目的とする。」
「【0008】
本発明に係るポリエステルの製造法により得られたポリエステルは、アセトアルデヒド含有量が少ないのみならず、成形時に生成するアセトアルデヒドの量が少ないため、このポリエステルから得られる飲料ボトルなどの中空成形容器は、内容物の味覚を変化させることがない。また本発明に係るポリエステルの製造方法では、ポリエステルに固相重縮合工程を省略することも出来、生産性、経済性に優れている。このように本発明に係るポリエステルの製造法により得られたポリエステルはプリフォーム、飲料ボトル用材料として好適である。」
「【0010】
本発明では、液相重縮合[A]で得られたポリエステル(a)は、[B]120℃乃至200℃の雰囲気下に、1分間乃至4時間保つ予備結晶化工程を経た後、[C]超臨界抽出工程に供給されてもよい。更に得られたポリエステル(c)を必要があれば固相重縮合工程(図示せず)に供給してもよい。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
[A]液相重縮合工程
本発明では、まず[A]液相重縮合工程において、テレフタル酸を含むジカルボン酸またはそのエステル誘導体(たとえば低級アルキルエステル、フェニルエステルなど)と、エチレングリコールを含むジオールまたはそのエステル誘導体(たとえばモノカルボン酸エステルなど)とを、重縮合触媒の存在下で加熱溶融して液相重縮合させてポリエステル(a)を製造する。本発明では、テレフタル酸とエチレングリコールとを用いてホモポリエチレンテレフタレートを製造してもよく、またテレフタル酸に加えてテレフタル酸以外のジカルボン酸を20モル%以下の量で含有するジカルボン酸および/またはエチレングリコールに加えてエチレングリコール以外のジオールを20モル%以下の量で含有するジオールを用いて共重合ポリエステルを製造することもできる。
・・・
【0013】
液相重縮合工程[A]においては、上記のようなジカルボン酸またはそのエステル誘導体(以下、単にジカルボン酸というときもある)と、ジオールまたはそのエステル誘導体(以下、単にジオールというときもある)とを重縮合させてポリエステルを製造するが、この液相重縮合工程では、通常まずジカルボン酸とジオールとをエステル化反応させ(エステル化反応工程[A-1])、ついで液相重縮合反応(重縮合反応工程[A-2])させる。具体的には、まずジカルボン酸とジオールとを含むスラリーを調製する。このようなスラリーには、ジカルボン酸1モルに対して1.02~2.0モル好ましくは1.03~1.5モルのジオールが含まれる。このスラリーは、エステル化反応工程[A-1]に連続的に供給される。エステル化反応は、たとえば2個のエステル化反応器を直列に連結した装置を用いてジオールが還流する条件下で、反応によって生成した水あるいはアルコールを精留塔で系外に除去しながら実施することができる。」
「【0017】
液相重縮合反応は、触媒の存在下に行われる。触媒としては、二酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンなどのアンチモン触媒およびチタニウムテトラ-n-ブトキシド、チタニウムテトラ-n-プロポキシド、チタニウムテトラ-イソ-プロポキシド、チタンハロゲン化物を加水分解してなる加水分解物などのチタン触媒を単独で或いは併用されて、または更に、マグネシウム、コバルト、ナトリウムなどの化合物が併用されて用いることができる。
これらの触媒のうち二酸化ゲルマニウム化合物を用いると、色相および透明性に優れたポリエステルが得られるので好ましい。また重縮合反応は、安定剤の共存下に実施されることが好ましい。」
「【0027】
[D]固相重縮合工程
この超臨界抽出工程で得られるポリエステル(c)は、所望によりさらに固相重縮合することもできる。超臨界抽出工程で処理されたポリエステルは、結晶化度が20~50%であることが望ましい。なお、この超臨界抽出工程によっては、いわゆるポリエステルの固相重縮合反応は進行せず、結晶化のみが進行する。ポリエステルの極限粘度は、液相重縮合後のポリエステルの極限粘度とほぼ同じであり、超臨界抽出処理されたポリエステルの極限粘度と予備結晶化される前のポリエステルの極限粘度との差は、通常0.06dl/g以下である。固相重縮合工程は、少なくとも1段からなり、温度が190~230℃、好ましくは195~225℃であり、圧力が0.1MPaG~10Torr、好ましくは常圧から100Torrの条件下で、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。使用する不活性ガスとしては窒素ガスが望ましい。
このようにして得られた粒状ポリエステルの極限粘度は、通常0.70~1.00dl/g、好ましくは0.75~0.95dl/gであることが望ましい。
【0028】
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例において、中空成形品の形成及びアセトアルデヒド濃度の測定は以下のようにして行った。
(成形品)得られたポリエステル樹脂チップを、除湿エア乾燥機を用いて170℃、4時間乾燥した。乾燥後の樹脂中の水分量は40ppm以下であった。乾燥したポリエステルを日精ASB機械株式会社製ASB-50を用いて、シリンダー設定温度265~275℃、成形サイクル26秒前後で成形し、プリフォームを得た。」
「【実施例1】
【0030】
テレフタル酸100重量部にエチレングリコール50.5重量部および二酸化ゲルマニウム0.026重量部を加え、常法によりエステル化反応を行った。反応終了時の液温は240℃であった。次いでトリメチルフォスフェート0.030重量部加え、重縮合反応を3段階で行った。最終段では、反応温度270℃、反応圧力1Torrで重縮合反応を行い、固有粘度0.84dl/gのポリエステルを得た。該ポリエステルチップのアセトアルデヒド濃度は28ppmであった。
【0031】
このようにして得られたポリエステル(a)を、超臨界状態の流体と接触させた。恒温槽に設置した、内径14mm、長さ300mm、容量46.16Lの耐圧容器にポリエステル(a)を充填し、昇温、昇圧された二酸化炭素を供給し耐圧容器内を流通させた。耐圧容器の出口には圧力制御バルブを設置し、脱圧した。耐圧容器手前の二酸化炭素導入管に水供給装置を設置し、流体中の水濃度が6000ppmになるようにした。
恒温槽の温度は80℃に制御し、二酸化炭素の圧力は16MPaになるようにした。この状態で2時間保持した後降温して、ポリエステル粒(チップ)を取り出した。得られたポリエステル(c)は固有粘度が0.83dl/g、アセトアルデヒド濃度は1.6ppmであった。これらの値は固相重縮合したのと同等の品質であった。また、当該チップは結晶化しており、ボトル成形などの乾燥時に融着などの懸念が無く、取り扱いが容易である。当該チップを日精ASB機械株式会社製ASB-50を用いて成形し、ボトル用プリフォームを得た。プリフォーム中のアセトアルデヒド濃度は3.5ppmであった。
・・・
【0035】・・・
[比較例1]
【0036】
実施例1に記載の、液相重縮合工程で到達する固有粘度を0.64dl/gで打ち切り、チップ状ポリエステル樹脂を得た。得られたポリエステルは超臨界流体と接触処理することなしに、窒素気流下固相重縮合を行った。重合条件は、初めに170℃で予備結晶化を行った後、215℃で固相重縮合を10時間行った。得られたポリエステルの固有粘度は0.84dl/gであり、実施例1に記載のポリエステルと同等の固有粘度であった。アセトアルデヒド含有量は1.4ppmであった。このようにして得られたポリエステルを射出成形してボトル用プリフォームを得た。プリフォーム中のアセトアルデヒド濃度は9.0ppmであった。」
「【0040】
本発明に係るポリエステルの製造法により得られたポリエステルは、アセトアルデヒド含有量が少ないのみならず、成形時に生成するアセトアルデヒドの量が少ないため、このポリエステルから得られる飲料ボトルなどの中空成形容器は、内容物の味覚を変化させることがない。また本発明に係るポリエステルの製造方法では、ポリエステルに固相重縮合工程を省略することも出来、生産性、経済性に優れている。このように本発明に係るポリエステルの製造法により得られたポリエステルはプリフォーム、飲料ボトル用材料として好適である。」
ウ 引用文献1
引用文献1は、本願優先日前に頒布された公開特許公報であり、そこには以下の事項が記載されている。
【0002】及び【0006】には、化石資源である石油は化学工業の重要な原料であるが、将来的には枯渇の懸念があるうえ、製造工程及び焼却廃棄時に大量の二酸化炭素を排出するため、地球規模での温暖化など一連の問題を招いていること、このような状況の中、再生原材料や環境負荷の低い材料の使用に大きな注目が集まっていること、本発明は、バイオ化率が高く、かつ融点が高く、広範な用途へ展開可能なバイオマス資源由来のポリアルキレンテレフタレート樹脂組成物およびそれからなる繊維を提供しようとするものであること、が記載されている。
【0067】には、バイオマス資源由来テレフタル酸ジメチルとバイオマス資源由来エチレングリコールとのエステル交換反応によりビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートを得たことが記載されており、【0074】及び【0075】には、実測バイオ化率が100%のビス(ヒドロキシエチル)テレフタレートとバイオマス資源由来テレフタル酸とバイオマス資源由来エチレングリコールとを原料としてポリエチレンテレフタレートのペレットを得たことが記載されている。
エ 引用文献A
引用文献Aは、本願優先日前に頒布された、調査会社の取りまとめによる再生可能資源からつくられるバイオ燃料、バイオ化学品及びバイオプラスチックの動向についてのレポートであり(巻頭のまとめ参照。)、そこには以下の事項が記載されている。
巻頭のまとめには、世界は石油、天然ガス、石炭、バイオマスなどの幅広い天然資源を統合的、融合的に利用する「天然資源化学」の時代になり、再生可能資源を最大限活用すべく、発酵技術はもとより従来の石油化学技術が動員され、それらを組み合わせた統合的技術体系が構築されつつあること、が記載されている。
24頁には、「モノマーのバイオベース化」として、エチレングリコールはバイオベース化していること、テレフタル酸のバイオベース化については、発酵で造ったイソブタノールを二量化し、これを脱水してパラキシレンを合成するルートなどが開発されていること、バイオエタノールに由来するエチレングリコールとバイオイソブタノールに由来するテレフタル酸から合成したPETは100%バイオのPET100になること、が記載されている。
35~37頁には、複数の化学メーカーが開発を手がけているというバイオベースのパラキシレンの開発状況や、日本の大手化学メーカーがバイオテレフタル酸を使ってPET100ができることを確認したこと、米国のバイオマス化学会社が米国の化学メーカーがゼオライト触媒を使用して従来の3倍というパラキシレンの収率を達成したこと、米国の化学メーカーが米国の大手飲料メーカーと提携しバイオPET100の開発を目指していること、などが記載されている。
42~44頁には、当初、バイオプラスチックといえば生分解性プラスチックの意味合いが強かったが、生分解性プラスチックは供給量が十分ではなく、品質的にも十分ではなく、価格も高いという欠点があったため、石油化学製ポリマーを置き換えるには至らなかったこと、バイオマス由来のプラスチックもバイオプラスチックと呼ばれるようになったこと、バイオポリエチレンやバイオPETは既存のポリエチレンやPETと同じ品質であるという意味で「ドロップ イン プロダクト」と呼ばれるがC14NMRを使えば区別がつくこと、消費者ブランド会社がボトルや包装容器などにバイオPETを続々と採用しはじめたこと、ドロップ イン プロダクトは従来品と変わらないので品質的に安心であり、従来の加工機械が使えるので便利であること、が記載されている。
47頁には、バイオPETの製造メーカーは多数であることが記載されている。
48頁には、「バイオプラスチックの市場と今後の予測」として、ドロップ イン プロダクトは従来品と同じ物性と加工性が保証されるのでメーカーにとってもユーザーにとっても安心で、研究開発の手間もいらず、しかも再生可能資源から作られたバイオポリマーとしてユーザーや消費者に評価されること、そのため今後バイオPETやバイオポリエチレンが主流となることは間違いないこと、バイオPETはバイオベースであることや通常PETと同様にリサイクルできることから環境イメージがよく、ボトルメーカー、化粧品や食品メーカーに採用され、ボトルや包装容器の使用が増えると考えられること、が記載されている。
エ 引用文献B
引用文献Bは、本願優先日前に電気通信回線を通じて配信されたニュースであって、その内容は、米国の大手飲料メーカーが、世界初となる100%植物性由来のペットボトルをイタリア・ミラノで開催された国際博覧会の中で公表したことを報じるものである。
オ 引用文献C
引用文献Cは、本願優先日前に電気通信回線を通じて配信されたニュースであって、その内容は、米国の大手飲料メーカーによる100%植物由来素材から作られたPETプラスチックボトルの世界初の実証スケール生産において、実証プラントで生産されたバイオパラキシレンが使用されたということを報じるものである。
カ 引用文献D
引用文献Dは、本願優先日前に電気通信回線を通じて配信されたニュースであって、その内容は、日本の大手飲料メーカーが、米国のバイオ化学ベンチャーと共同開発で、植物由来原料100%のペットボトルの実用化に向けて動き出すということを報じるものである。
キ 引用文献E
引用文献Eは、本願優先日前に頒布された、PETなどの飽和ポリエステル樹脂についての便覧であり、そこには以下の事項が記載されている。
引用文献Eの92頁には、「3.ポリエチレンテレフタレートの製造法」の「3.1 概説」として、PETの工業的製造方法は、テレフタル酸とエチレングリコールの直接エステル化又はジメチルテレフタレートとエチレングリコールのエステル交換によってビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレートとする第1段目の反応と、そのBHTを高温・高真空下に重縮合を進める第2段目の反応に分けて実施されること、が記載されている。また、93頁には、第1段目の反応により得られるビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレートは通常1~4量体の混合物であり、その融点は101~220℃であることが記載されている。さらに、95頁には、第2段目の重縮合反応は高温反応のため熱分解反応も生起し重合の頭打ち現象がみられるので、高重合度のPETポリマーを得るためには、溶融重縮合のみでは困難で固相重縮合法を併用することが必要となること、が記載されている。
148頁には、固相重合反応を行うと、結果としてPETの分解生成物であるアセトアルデヒドを除去することができること、アセトアルデヒドは特に炭酸飲料容器として使用されるボトル用にあっては2~3ppm以下など厳しい基準が定められており、アセトアルデヒド除去工程としても、固相重合工程は必要不可欠の工程となっていること、が記載されている。
586~587頁には、「12.2 ボトル用PET樹脂」として、エステル交換法は、ジメチルテレフタレートとエチレングリコールとからビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHT)を合成する第1段階と、BHTから脱エチレングリコールによる重縮合反応の行う第2段階から成り立つこと、第2段階の重縮合は、BHTにゲルマニウム化合物などの重縮合触媒を加えたのち、反応系を260~290℃に保ちながら徐々に圧力を低下させて行き、最終的には1~3mmHgの減圧下に撹拌して、生成するエチレングリコールを系外に留去しながら反応を進行させること、反応系の粘度によって重合度を検知し、所定の値に達したのちに系外に吐出させ、冷却後カッターでチップ化すること、が記載されている。
588~589頁には、「12.2 ボトル用PET樹脂」として、高純度テレフタル酸と直接エチレングリコールを反応させてPETを得る直接重合法は、テレフタル酸をエチレングリコールによってエステル化してBHTオリゴマーを合成する第1段階と、ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートオリゴマーからエチレングリコールを留去して重縮合を行う第2段階から成り立つこと、第1段階では、220~260℃に加熱して、1~5kg/cm2の加圧下に生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行ってビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートオリゴマーを合成すること、反応は酸であるテレフタル酸が自触媒となるので触媒は通常用いないこと、テレフタル酸はエチレングリコールにほとんど溶解しないので反応が進むまではスラリー状であること、好ましくない副生物であるジエチレングリコールの副生抑制剤としてはアミン類などの塩基性化合物が知られていること、第2段階の重縮合反応はエステル交換法の場合とまったく同様であること、が記載されている。
590~591頁には、「12.2 ボトル用PET樹脂」として、ボトル用の樹脂は多くの場合フィルム用よりも高分子量である必要があるが、液相重合によって高分子量体を得ようとするとPETを高温度に長時間さらすことになるため熱分解を起こし着色すること、熱分解による着色を回避するために、ボトル用のPET樹脂の多くは固相重合法によって製造されていること、固相重合は溶融重合に比べてはるかに低温で反応させるために、熱分解による着色が少なく色相が優れたPETボトルが得られること、固相重合を行うと分解生成物であるアセトアルデヒトがPET中から除去されること、透明で色相が優れたPETボトルを得るために、各社触媒や安定剤の選定に注意を払っていること、化粧品用のボトルなどのようにPETボトルに肉厚でガラスと同様の重厚な感触が求められる場合には、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどの第3成分を共重合したものが用いられること、ボトル用PET樹脂の製造プロセスでは、成形性および味への影響の要求からIV=0.7~1.0の分子量で、特に食品用途としてアセトアルデヒド及びオリゴマーの少ないPETを大量に安定して製造する必要があること、が記載されている。
631頁には、「12.4 ボトル物性」として、次の表がある。
[図:0001425077000002.jpg]
631~632頁には、「12.4 ボトル物性」として、PETの場合は分子量の目安として極限粘度(IV)が用いられており、分子量が大きくなるとIV値も大きくなること、IV値はPETボトルの透明性、延伸性及びボトル強度など成形物品性に深く関連を持っていること、わが国のボトル用樹脂はアンチモン触媒でなくゲルマニウム触媒を用いているところに特徴があること、が記載されている。
ク 引用文献F
引用文献Fは、本願優先日前に頒布された、PETボトルとそのリサイクル製品中のSbおよびGeの含有量を測定し、その比較を行った結果を報告するものであり、そこには以下の事項が記載されている。
2頁左欄2-9行には、ボトルに使用するPET樹脂は高い透明度が求められるため、その重合過程では主にSbあるいはGeなどの金属触媒が単独で使用されていること、これらの触媒は最終製品であるボトル中に残存する可能性があるため、Sbが0.05mg/l以下、Geが0.10mg/lという溶出基準が食品衛生法で定められていること、が記載されている。
3頁右欄1-10行には、PETボトル中の金属含有量の分析結果として、国産の飲料ボトルでは試料によってSbあるいはGeを単独で使用しており、Geが28~50μg/g(検出率:7/11検体)、Sbが130~165μg/g(検出率:4/11検体)であり、国産のしょう油等のボトルではSbが128及び140μg/g、Geが28~42μg/gであり、国産の清涼飲料用のボトルと同レベルの濃度であったことが記載されている。
(5)引用発明の認定
ア 引用文献4に記載された発明
実施例A-1において得られたポリエステルペレットを用いて、[0075]に記載された中空成形体を成形していることから、このポリエステルペレットの製造方法及び用途の観点について着目すると、引用文献4には次の発明が記載されていると認める。
「攪拌機付き2リッターステンレス製オートクレーブに高純度テレフタル酸とその2倍モル量のエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを酸成分に対して0.3モル%加え、0.25MPaの加圧下250℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を行いエステル化率が約95%のビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物(以下BHET混合物という)を得、このBHET混合物に重縮合触媒として、下記“アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1”の重合触媒を用い、ポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子およびリン原子としてそれぞれ0.014モル%および0.028モル%になるように加え、次いで、窒素雰囲気下、常圧にて250℃で10分間攪拌し、その後、60分間かけて280℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて13.3Pa(0.1Torr)として、さらに280℃、13.3Paで重縮合反応を実施し、放圧に続き、微加圧下のレジンを冷水にストランド状に吐出して急冷し、その後20秒間冷水中で保持した後、カティングして長さ約3mm、直径約2mmのシリンダー形状のペレットを得、溶融重合で得られたポリエステルペレットを、減圧乾燥(13.3Pa以下、80℃、12時間)した後、引き続き結晶化処理(13.3Pa以下、130℃、3時間、さらに、13.3Pa以下、160℃、3時間)を行い、放冷後のこのポリエステルペレットを固相重合反応器内で、系内を13.3Pa以下、215℃に保ちながら固相重合を行う、ポリエステルペレットの製造方法。
ここで、上記ポリエステルペレットは、IVが0.78dl/gであり、脱湿窒素を用いた乾燥機で乾燥し、各機製作所製M-150C(DM)射出成型機により樹脂温度295℃でプリフォームを成形し、このプリフォームの口栓部を自家製の口栓部結晶化装置で加熱結晶化させた後、コーポプラスト社製LB-01E延伸ブロー成型機を用いて二軸延伸ブロー成形し、引き続き約140℃に設定した金型内で約7秒間熱固定し、1500ccの中空成形体(胴部は円形)を得るために使用される。
また、上記「“アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1”の重合触媒」は以下の「(アルミニウム化合物の調製例1)」及び「(リン化合物の調製例1)」で得られたそれぞれのエチレングリコール溶液をフラスコに仕込み、アルミニウム原子とリン原子がモル比で1:2となるように室温で混合し、1日間攪拌して調製した触媒溶液である。
(アルミニウム化合物の調製例1)
塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート;Aldrich社製、水に対する不溶分量400ppm)の20g/l水溶液に対して等量(容量比)のエチレングリコールをともにフラスコに仕込み、室温で6時間攪拌した後、減圧(133Pa)下、70~90℃で数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
(リン化合物の調製例1)
リン化合物として(化39)で表されるIrganox1222(チバ・スペシャルテーケミカルズ社製)をエチレングリコールとともにフラスコに仕込み、窒素置換下攪拌しながら液温160℃で12時間加熱し、30g/lのリン化合物のエチレングリコール溶液を調製した。」(以下、「引用発明4」という。)
イ 引用文献5に記載された発明
引用文献5の請求項1と、段落【0010】、同【0027】の、必要に応じて設けられる固相重縮合工程に着目しつつ、さらに同【0002】における、ポリエステル樹脂を射出成形したプリフォームを延伸ブロー成形したボトル等として用いる記載、同【0008】、同【0040】における、飲料ボトル用途への適用する記載、同【0028】における、ポリエステル樹脂チップから成形してプリフォームを得る記載、実施例1における、ポリエステル粒(チップ)からボトル用プリフォームを作成した記載に着目すると、以下の発明が記載されているものと認める。
「[A]テレフタル酸を含むジカルボン酸またはそのエステル誘導体と、エチレングリコールを含むジオールまたはそのエステル誘導体とを、重縮合触媒の存在下で加熱溶融して液相重縮合させて、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン混合溶媒中で測定される固有粘度が0.7乃至1.5dl/gであるポリエステル(a)を製造する液相重縮合工程と、[C]液相重縮合工程で得られたポリエステル(a)を超臨界流体と接触させ、含有する揮発成分が減少したポリエステル(c)を製造する超臨界抽出工程を含み、さらに必要に応じて固相重縮合工程を有する、得られるポリエステル(c)のアセトアルデヒド含有量が10ppm以下であるポリエステルの製造方法によりポリエステルチップを得る方法。
ここで、上記ポリエステルチップは、射出成形して飲料ボトル用プリフォームを得、該飲料ボトル用プリフォームを延伸ブロー成形して飲料ボトルを製造するために使用される。」(以下、「引用発明5」という。)
(6)検討
ア 本件補正発明の引用発明4に基づく進歩性欠如
(ア)対比
本件補正発明と引用発明4とを対比する。ここで、本件補正発明における「エチレングルコール」は、本願明細書の段落【0017】の「バイオマス資源に由来するエチレングリコール」という記載より「エチレングリコール」の誤記であると解されるから、(6)においてこれを「エチレングリコール」と表記する。
(a)引用発明4の「ポリエステルペレット」は、「エチレングリコール」と「高純度テレフタル酸」とから形成される「ペレット」であるから、上記「ポリエステル」は、「ポリエチレンテレフタレート(英表記では「PET」、和表記では「ペット」)」である。また、引用発明4の「1500ccの中空成形体(胴部は円形)」は、引用文献4の[0002]、[0069]によると、飲料充填用容器(飲料容器)を想定していることから、本件補正発明の「ボトル」に相当する。これらのことから、引用発明4の「ポリエステルペレット」から成形された「1500ccの中空成形体(胴部は円形)」は、本件補正発明の「ペットボトル」に相当する。そうすると、引用発明4の「上記ポリエステルペレット」を「1500ccの中空成形体(胴部は円形)を得るために使用される」ことは本件補正発明の「ペットボトル用」に相当する。
(b)引用発明4の「エチレングリコール」、「高純度テレフタル酸」と、本件補正発明の「バイオマス資源に由来するエチレングリコール」、「バイオマス資源に由来するテレフタル酸」とは、それぞれ「エチレングリコール」、「テレフタル酸」である限りにおいて一致する。また、引用発明4の「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)」と、本件補正発明の「バイオPET樹脂」とは、「PET樹脂」である限りにおいて一致する。
(c)引用発明4の「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)」は、「エチレングリコール」と「高純度テレフタル酸」とから形成されるポリマーであり、それ以外の共重合成分を含まないものであるから、引用発明4の「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)」と、本件補正発明の「共重合成分が添加されず、前記共重合体成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールであ」る「バイオPET樹脂」とは、「共重合成分が添加されず、前記共重合体成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールであ」る「PET樹脂」である限りにおいて一致する。
(d)引用発明4の「“アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例1”の重合触媒」は、「アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液」が引用発明4の「(アルミニウム化合物の調製例1)」及び引用文献4の[0014]によると塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液であるといえるから、本件補正発明の「アルミニウム化合物を含有する触媒」、「前記アルミニウム化合物が、酢酸アルミニウム」に相当する。
(e)引用発明4の「ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物」はその後重縮合反応に付される点で中間体であるといえるから、引用発明4の「エチレングリコール」と「高純度テレフタル酸」との「エステル化反応を行い」、「ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物(以下BHET混合物という)を得」ることと、本件補正発明の「バイオマス資源に由来するエチレングリコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを懸濁重合させることにより中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造」することとは、「エチレングリコール」と「テレフタル酸」とを「重合させる」ことにより「中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造」する点である限りにおいて一致する。
(f)引用発明4の「このBHET混合物」に上記「重合触媒」を加え「重縮合反応を実施」することは、前記(d)と、この「重縮合反応」により得られたペレットが「溶融重合で得られた」ポリエステルペレットであること、すなわちこの「重縮合反応」が「溶融重合」であるといえることとから、本件補正発明の「これにより得られたBHET及び/又はそのオリゴマーを、前記触媒の存在下において溶融重縮合させる」ことに相当する(引用発明4における「重縮合反応」の温度が280℃であり、引用発明4における「BHET混合物」は220℃で融解状態となると解される(引用文献Eの93頁)ことからもこのようにいえる。)。
(g)引用発明4の「重縮合反応を実施し」、「ストランド状に吐出して急冷し」「カティングして」、「シリンダー形状のペレットを得」ることと、本件補正発明の「溶融重縮合により得られたバイオPET樹脂をペレットに加工」することとは、「溶融重縮合により得られたPET樹脂をペレットに加工」する点である限りにおいて一致する。
(h)引用発明4の「ポリエステルペレット」を「固相重合」していることは、本件補正発明の「固相重合させる」ことに相当する。そして、引用発明4の「固相重合」した後の「ポリエステルペレット」の「IVが0.78dl/gである」ことと、本件補正発明の「バイオPET樹脂」の「固有粘度(IV)が0.7~0.85dl/gである」こととは、「PET樹脂」の「固有粘度(IV)が0.7~0.85dl/gである」ことである限りにおいて一致する。
してみると、本件補正発明と引用発明4とは、
「 ペットボトル用PET樹脂の製造方法であって、前記方法が、
アルミニウム化合物を含有する触媒の存在下において、エチレングリコールとテレフタル酸とを重合させる工程を含み、
前記方法において共重合成分が添加されず、前記共重合成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールであり、
前記PET樹脂の固有粘度(IV)が0.7~0.85dl/gであり、
前記アルミニウム化合物が、酢酸アルミニウムであり、
前記エチレングリコールとテレフタル酸とを重合させる工程が、エチレングリコールとテレフタル酸とを重合させることにより中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造し、これにより得られたBHET及び/又はそのオリゴマーを、前記触媒の存在下において溶融重縮合させること、及び溶融重縮合により得られたPET樹脂をペレットに加工し、これを固相重合させることをさらに含む
ことを特徴とする、方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件補正発明は、エチレングリコール及びテレフタル酸が「バイオマス資源に由来する」ものであり、PET樹脂が「バイオPET樹脂」つまり「バイオマス資源に由来する」ものであるのに対し、引用発明4はエチレングリコール及びテレフタル酸並びにPET樹脂がそのようなものであるか不明である点
<相違点2>
アルミニウム化合物について、本件補正発明では「樹脂中のアルミニウム原子としての含有量が、1~50ppmとなるように用いられ」るのに対し、引用発明4ではそのようなものであるか不明である点
<相違点3>
エチレングリコールとテレフタル酸とを重合させることによりビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造する工程が、本件補正発明では「懸濁重合」であるのに対し、引用発明4ではそのようなものであるか不明である点
(イ)相違点についての判断
a はじめに
バイオマス資源由来の原料を重合したバイオPET樹脂も、石油資源由来の原料を重合したPET樹脂も、原料あるいはPET樹脂としてみた場合両者は同じ品質であることは、本願優先日当時の技術常識である(引用文献Aの42~44頁及び48頁)。
この点を踏まえて、以下、順に検討する。
b 相違点1について
石油枯渇の懸念や地球規模での温暖化の問題への対応や、発酵技術や従来の石油化学技術を組み合わせた統合的技術体系の構築という動きの中で(引用文献1の【0002】及び【0006】、引用文献Aの巻頭のまとめ)、石油枯渇の懸念や地球規模での温暖化という社会的問題に対応するという観点からエチレングリコール及びテレフタル酸というPET原料をバイオベース化することは、本願優先日当時の技術常識である(引用文献1の【0067】、【0074】及び【0075】、引用文献Aの24頁及び35~37頁、42頁~44頁、47~48頁、引用文献C~D)。
そうすると、引用発明4においてエチレングリコール及び高純度テレフタル酸をバイオマス資源由来のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、その結果として製造されるポリエステルは「バイオPET樹脂」となるといえる。
c 相違点2について
引用文献4([0062])には、ポリエステル中のアルミニウム元素含有量は重縮合触媒活性の観点やポリエステル中の不溶性異物生成の観点から5~100ppmがより好ましく、10~60ppmがよりさらに好ましく、3ppm未満では重縮合触媒活性が低下するので好ましくなく、200ppmを超えると重縮合触媒活性が頭打ちになりかつアルミニウム元素起因のポリエステルに不溶性の異物生成量が増大するので好ましくないことが記載されている。
そうすると、引用発明4において、「樹脂中のアルミニウム原子としての含有量が1~50ppm」という構成を充足するように重合触媒を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。
d 相違点3について
本願明細書【0017】には「バイオPET樹脂の重合工程は、従来公知の工程において行うことができるが、例えば、図1に示されるとおり、バイオマス資源に由来するエチレングリコール(液体)とバイオマス資源に由来するテレフタル酸(紛体)とを懸濁重合させて、中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを得た後、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有する触媒の存在下で、約270~300℃において、高真空で脱水反応を行うことにより、上記で得られたBHETを溶融重縮合させることを含む。」と記載され、本願の【図1】にはPTA(テレフタル酸)とEG(エチレングリコール)を合わせ懸濁重合をする旨が記載されている。
ここで、テレフタル酸はエチレングリコールにほとんど溶解しないため(引用文献Eの588~589頁)高純度テレフタル酸とエチレングリコールとを懸濁液状で反応させてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートやそのオリゴマーを合成する方法を本件補正発明における「懸濁重合」と表現していると解される。
一方、引用発明4における、高純度テレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、トリエチルアミンを加え、0.25MPaの加圧下250℃にて水を系外に留去しながらエステル化反応を行い、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物を得るという工程は、本願発明の上記「懸濁重合」と原料及び工程が同じであるから高純度テレフタル酸とエチレングリコールとが懸濁液状で反応しているといえ、本件補正発明における「懸濁重合」に相当するといえる。
したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。また、仮にそうでないとしても、引用発明4において本願優先日当時の技術常識(引用文献Eの92頁、586~587頁、588~589頁)に基づいて高純度テレフタル酸とエチレングリコールを懸濁させて重合してビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびオリゴマーの混合物を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)本件補正発明の効果について
本件補正発明は、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を触媒として用い、バイオマス資源に由来するエチレングリコール及びテレフタル酸を重合することにより、共重合成分としてイソフタル酸等を添加しなくても、ペットボトルとしての使用に耐えられるバイオPET樹脂を製造できるという効果を得るものである(本願明細書【0006】、【0008】)。
他方、引用文献4には、石油資源に由来する原料を用いたPET樹脂ではあるものの、実施例A-1でアルミニウム化合物を触媒として用いて重合して得た中空成形体(ペットボトル)の透明性が良好であること(表1)、触媒金属成分としてアルミニウム化合物を用いることで、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れ、異物が少なく、超微細繊維、光学用の高透明なフイルムあるいは超高透明な成型体等の分野においてその特徴を発揮することができるポリエステルが得られること(【0087】)が記載されている。
ここで、本願明細書【0014】には、「従来のPET樹脂の製造方法においては、触媒として、安価で優れた触媒活性を持つ三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物や、安全性や反応性に優れたチタン化合物が用いられている。しかしながら、アンチモン化合物やチタン化合物を用いる場合には、重合時の添加量を多くする必要があることからPET樹脂中への残渣量が増大し、結晶化速度が速くなる。それにより、透明性が損なわれたり、ボトル用途としての物性(例えば、耐熱性や耐圧性など)に適応しなくなってしまう。そのため、モノエチレングリコールやテレフタル酸といった主要な重合成分の他に、過度の結晶化を抑制する成分としてイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールといった共重合成分を添加する必要がでてくる。PET樹脂に含有されるイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールなどの共重合成分は、僅か数重量%(0.1~3重量%)程に過ぎないが、世界中で膨大な量のPET樹脂が消費されていることを鑑みれば、このような微量成分であったとしても、その製造において石油資源に由来する原料の使用を回避することができれば、地球環境に多大な貢献をもたらすことは明らかである。本発明者らは、このたび、触媒活性が比較的高いアルミニウム化合物やゲルマニウム化合物を触媒として用いることにより、バイオPET樹脂の製造において、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールなどの共重合成分の添加を回避することができるという驚くべき知見を得た。」と記載されている。この記載によると、触媒としてアンチモン化合物やチタン化合物を用いた場合、添加量が多いため、残渣量も多く、その残渣が結晶化速度を速めるため、透明性が損なわれたり、耐熱性や耐圧性などの物性がペットボトルに適さないものになり、イソフタル酸等の共重合成分を添加する必要性のあるところ、上記アンチモン化合物やチタン化合物よりも添加量が少なく(必然的に残渣量も少なく)、その残渣が結晶化速度をそれほど速めないアルミニウム化合物やゲルマニウム化合物を用いた場合には、上記共重合成分を添加せずとも、透明性に優れ、耐熱性や耐圧性などの物性がペットボトルに適するポリエステル樹脂が得られるものと解される。そして、上記「透明性に優れ、耐熱性や耐圧性などの物性がペットボトルに適すること」が、「ペットボトルとしての使用に耐えられる」という本件補正発明の効果を意味していると認められ、そのような「バイオPET樹脂」を製造できることが本件補正発明の効果であるといえる。
一方、引用文献4では、イソフタル酸等の共重合成分を含むことなく、触媒金属成分としてアルミニウム化合物を用い、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れるポリエステル樹脂からなる中空成形体が製造できることが記載されており、本件補正発明にいう、「ペットボトル」としての使用に耐えられるポリエステル樹脂を製造できることが読み取れるから、引用文献4に記載されたPET樹脂は、本件補正発明と同様の性質を示すものといえる。
してみると、バイオマス資源由来の原料を重合したバイオPET樹脂も、石油資源由来の原料を重合したPET樹脂も、品質的には何ら変わらないものであるから、原料がバイオマス資源に由来するか、あるいは石油資源に由来するかにかかわらず、作用効果に大きな差異があるとは認められないものであって、本件補正発明の効果は、引用文献4並びに引用文献4に記載された技術的事項及び技術常識から、当業者が予測可能なものである。
(エ)小括
以上から、本件補正発明は、引用発明4並びに引用文献4に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件補正発明の引用発明5に基づく進歩性欠如
(ア)対比
本件補正発明と引用発明5とを対比する。
(a)引用発明5の「ポリエステル(a)」及び「ポリエステル(c)」は、「エチレングリコールを含むジオール又はそのエステル誘導体」と「テレフタル酸を含むジカルボン酸またはそのエステル誘導体」とを原料とするものであるから、上記「ポリエステル(a)」及び「ポリエステル(c)」は、「ポリエチレンテレフタレート(英表記では「PET」、和表記では「ペット」)」である。そして、引用発明5の「飲料ボトル」は、ポリエチレンテレフタレートのボトルであるから、本件補正発明の「ペットボトル」に相当する。そうすると、引用発明5の「飲料ボトルを製造するために使用される」ことは、本件補正発明の「ペットボトル用」に相当する。
(b)引用発明5の「エチレングリコールを含むジオール又はそのエステル誘導体」、「テレフタル酸を含むジカルボン酸またはそのエステル誘導体」と、本件補正発明の「バイオマス資源に由来するエチレングリコール」、「バイオマス資源に由来するテレフタル酸」とは、それぞれ「エチレングリコール」、「テレフタル酸」である限りにおいて一致する。そして、引用発明5の「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)」と、本件補正発明の「バイオPET樹脂」とは、「PET樹脂」である限りにおいて一致する。
(c)引用発明5の「重縮合触媒の存在下で」「エチレングリコールを含むジオール又はそのエステル誘導体」と「テレフタル酸を含むジカルボン酸またはそのエステル誘導体」とを「加熱溶融して液相重縮合」させて「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)」を製造する液相重縮合工程と、本件補正発明の「アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有する触媒の存在下において」、「バイオマス資源に由来するエチレングリコール」と「バイオマス資源に由来するテレフタル酸」とを重合させて「バイオPET樹脂」を製造することとは、「エチレングリコール」と「テレフタル酸」とを、「触媒の存在下において溶融重縮合させること」を含む「重合させる工程」により「PET樹脂」を製造することである限りにおいて一致する。
(d)引用発明5の「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)チップ」は、本件補正発明の「ペレットに加工し」た「バイオPET樹脂」と、「ペレットに加工し」た「PET樹脂」である限りにおいて一致する。
(e)引用発明5の「ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)」は必要に応じて「固相重縮合工程」を施してよいものであるから、本件補正発明の「固相重合させる」とは、固相重合させうる限りにおいて一致する。
してみると、本件補正発明と引用発明5とは、
「 ペットボトルPET樹脂の製造方法であって、前記方法が、
触媒の存在下においてエチレングリコールとテレフタル酸とを重合させる工程を含み、ここで、前記触媒の存在下においてエチレングリコールとテレフタル酸とを重合させる工程は、触媒の存在下において溶融重縮合させる工程と、ペレットに加工されたPET樹脂を得る工程を含み、必要に応じて固相重合させることをさらに含む、
方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件補正発明は、エチレングリコール及びテレフタル酸が「バイオマス資源に由来する」ものであり、PET樹脂が「バイオPET樹脂」つまり「バイオマス資源に由来する」ものであるのに対し、引用発明5はエチレングリコール及びテレフタル酸並びにPET樹脂がそのようなものであるか不明である点
<相違点5>
触媒において、本件補正発明では、「アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有」し、「前記アルミニウム化合物は、樹脂中のアルミニウム原子としての含有量が、1~50ppmとなるように用いられ、前記ゲルマニウム化合物は、樹脂中のゲルマニウム原子としての含有量が、1ppm~100ppmとなるように用いられ」、「前記アルミニウム化合物が、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンアルミニウム、シュウ酸アルミニウム、酸化アルミニウムもしくはアルキルアルミニウムから選択される有機アルミニウム化合物又はその部分加水分解物、あるいはこれらの組み合せであり、前記ゲルマニウム化合物が、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラn-ブトキシド、結晶性二酸化ゲルマニウム、非晶性二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウムもしくは亜リン酸ゲルマニウム、又はこれらの組み合せであ」るのに対し、引用発明5では、そのような特定がない点
<相違点6>
本件補正発明では、共重合体成分が添加されず、前記共重合体成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールであるのに対し、引用発明5では、そのような特定がない点
<相違点7>
固相重合工程において、本件補正発明では、必ず行う工程であるのに対し、引用発明5では、必要に応じて行う工程である点
<相違点8>
PET樹脂の固有粘度(IV)において、本件補正発明では、0.7~0.85dl/gであるのに対し、引用発明5では、そのような特定がない点
<相違点9>
「エチレングリコールとテレフタル酸とを重合させる工程」が、上記相違点4~7のほか、本件補正発明では「エチレングリコールとバイテレフタル酸とを重合させる工程が、エチレングリコールとテレフタル酸とを懸濁重合させることにより中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造し、これにより得られたBHET及び/又はそのオリゴマーを、触媒の存在下において溶融重縮合させること」及び「溶融重縮合により得られたバイオPET樹脂をペレットに加工」することを含むのに対し、引用発明5では、「テレフタル酸と、エチレングリコールとを、重縮合触媒の存在下で加熱溶融して液相重縮合させて、ポリエステルを製造する液相重縮合工程」及び「ポリエステルチップを得」る工程を有する点
(イ)相違点についての判断
a はじめに
上記ア(イ)aに示したとおり、バイオマス資源由来の原料を重合したバイオPET樹脂も、石油資源由来の原料を重合したPET樹脂も、原料あるいはPET樹脂としてみた場合両者は同じ品質であることは本願優先日当時の技術常識である。
この点を踏まえて、以下、順に検討する。
b 相違点4について
上記ア(イ)bに示したのと同様に、引用発明5においてエチレングリコール及びテレフタル酸をバイオマス資源由来のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、その結果として製造されるポリエステルは「バイオPET樹脂」となるといえる。
c 相違点5について
バイオマス資源由来の原料を用いること、それらにより製造されるバイオPET樹脂については、上記bに記載のとおりである。
ここで、ボトル用PETの重合に、ゲルマニウム触媒を樹脂中のゲルマニウム含有量として数十μg/gすなわち数十ppmとなるように使用することは本願優先日当時の技術常識である(引用文献Eの632頁、引用文献Fの2頁左欄2-9行及び3頁右欄1-10行)。
また、引用文献5には、液相重縮合反応は触媒の存在下で行われ、該触媒が「二酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物」、三酸化アンチモンなどのアンチモン触媒およびチタニウムテトラ-n-ブトキシドなどのチタン触媒が用いられること、なかでも「二酸化ゲルマニウム化合物」を用いると、色相および透明性に優れたポリエスエルが得られるので好ましいこと(【0017】)が記載され、実際、実施例1では、石油資源由来の原料ではあるものの、テレフタル酸、エチレングリコールを「二酸化ゲルマニウム」の存在下でエステル化し、重縮合反応を行ってポリエステルを得ている。これらの記載によると、固相重合工程を考慮して、また色相および透明性の観点で、触媒として「ゲルマニウム化合物」を用いることが理解できるから、引用発明5において、触媒として、「ゲルマニウム化合物」を選択することが実質的に記載されているといえるし、あるいは当業者が容易に想到し得たことである。
してみると、相違点5は、実質的な相違点でないか、引用文献5に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
d 相違点6について
バイオマス資源由来の原料を用いること、それらにより製造されるバイオPET樹脂については、上記bに記載のとおりである。
ここで、炭酸飲料、醸造食品一般、酒、ソース、ジュースなどのためのPETボトルは必ずしも共重合成分を必要としないことは本願優先日当時の技術常識であると解される(引用文献Eの590~591頁及び631頁)。
そして、引用文献5には、実施例1でテレフタル酸、エチレングリコールを二酸化ゲルマニウムの存在下でエステル化し、重縮合反応を行ってポリエステルを得た後、ボトル用プリフォームを作成したことが記載されている。
上記技術常識及び上記記載によると、二酸化ゲルマニウムの存在下において、「テレフタル酸、エチレングリコール以外の他の共重合成分を含まずに」、ペットボトル用のポリエステルを重合していることが理解できるから、引用発明5が「テレフタル酸、エチレングリコール以外の他の共重合体成分を含まない」ものであることは引用文献5に記載されているに等しいといえる。
したがって、相違点6は実質的な相違点ではない。仮にそうでないとしても、引用発明5において、「テレフタル酸、エチレングリコール以外の他の共重合体成分を含まない」構成にすることは、引用文献5に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
e 相違点7及び8について
バイオマス資源由来の原料を用いること、それらにより製造されるバイオPET樹脂については、上記bに記載のとおりである。
そして、引用文献5には、ポリエステル樹脂、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂は、優れた機械的性質及び化学的特性に加え、その優れた透明性、ガスバリア性、安全衛生性等を活かして、射出成形したプリフォームを延伸ブロー成形したボトル等として、特に食品包装分野において著しい伸びを示していること、該ポリエステルから得られるボトル中にアセトアルデヒドが残存すると、充填される内容物の味覚が著しく低下するため、ボトルを形成するポリエステル中に含まれるアセトアルデヒド含量はできる限り少ないことが望ましいこと(以上、【0002】)、ポリエステルは、テレフタル酸などのジカルボン酸またはそのエステル誘導体と、エチレングリコールなどのジオールまたはそのエステル誘導体とをエステル化反応させた後、エステル化物を重縮合触媒の存在下で重縮合反応させることにより製造されているところ、この重縮合反応は、液相重縮合工程と固相重縮合工程とで行われており、固有粘度が高く且つアセトアルデヒド含量が低下されたポリエステルが得られていること、このようなポリエステルの製造方法では、液相重縮合工程及び固相重縮合工程を行わなければならないが、この固相重縮合には長時間を要するために、製造コストの上昇を招いていたこと、固相重縮合工程を省略して液相重縮合により得られたポリエステルをそのままボトルなどの成形体に製造しようとすると、成形時にアセトアルデヒドが生成し、このアセトアルデヒドがポリエステル成形体中に残存してしまうという問題点があること(以上、【0003】)が記載されている。
これらの記載によると、ボトルを形成するポリエステル中に含まれるアセトアルデヒド含量を減らすために、固相重合工程を設けることが理解できる。
また、引用文献5には、超臨界抽出工程によっては、いわゆるポリエステルの固相重縮合反応は進行せず、ポリエステルの極限粘度は液相重合後のポリエステルの極限粘度とほぼ同じこと(【0027】)、PETの超臨界抽出工程前後のIV値がほとんど又は全く変化しないこと(【0038】)が記載されている。
これらの記載によると、超臨界抽出工程によってはIV値を向上させることはできないことが理解できる。
さらに、特に炭酸飲料、酒、ジュースといった飲料用のボトル用PET樹脂について、0.70あるいは0.75~0.85というIV値、透明性や優れた色相、低いアセトアルデヒドアルデヒド含有量が課題であることは、本願優先日当時の技術常識である(引用文献Eの630頁の図12.55、590~591頁、148頁)。
そして、溶融重縮合は高分子量化(高IV値化)に寄与するがそれには限界があること、熱分解による着色やアセトアルデヒドの生成という問題を有すること(引用文献Eの631~632頁、95頁、590~591頁)、固相重合は高分子量化(高IV値化)とアセトアルデヒドの除去に寄与し(引用文献Eの630頁の図12.55、92頁、148頁、590~591頁)、また溶融重合に比べてはるかに低温で反応させるために熱分解による着色が少なく色相が優れたPETボトルが得られること(引用文献Eの590~591頁)も、本願優先日当時の技術常識である。
そうすると、飲料ボトルを製造するためのポリエステルチップを得るものである引用発明5において、0.70あるいは0.75~0.85というIV値、透明性や優れた色相、低いアセトアルデヒドアルデヒド含有量という課題と、固相重縮合工程を導入することによる製造コストの上昇とを考慮し、必要に応じて固相重縮合工程を導入することで、透明性や色相、アセトアルデヒドアルデヒド含有量及び0.70あるいは0.75~0.85というIV値を所望のバランスで達成することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、相違点7及び8に係る発明特定事項は、引用発明5並びに引用文献5に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。
f 相違点9について
本件補正発明における「懸濁重合」の解釈については、上記ア(イ)dのとおりである。
ここで、エチレングリコールとテレフタル酸とを懸濁液状で反応させてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート及びそのオリゴマーとし、これを触媒の存在下において溶融重縮合させてPETとし、次いでこれをペレットに加工することはPETの工業的製造方法として周知かつ慣用のものである(引用文献Eの92頁、586~587頁、588~589頁)。
そうすると、引用発明5における[A]工程が上記PETの工業的製造方法であることは、当業者に明らかであるか、仮にそうでないとしても当業者が上記技術常識に基づいて当然想起することである。
したがって、相違点9に係る発明特定事項は、実質的な相違点ではないか、仮にそうでないとしても引用発明5及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ)本件補正発明の効果について
本件補正発明は、バイオマス資源の原料を重合するにあたり、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を触媒として用い、バイオマス資源に由来する原料を用いたことにより、共重合成分としてイソフタル酸等を添加しなくても、ペットボトルとしての使用に耐えられるバイオPET樹脂を製造できるという効果を得るものである(【0006】、【0008】)。
他方、引用文献5には、石油資源に由来する原料を用いたPET樹脂であるものの、液相重縮合反応は触媒の存在下で行われ、該触媒が「二酸化ゲル マニウムなどのゲルマニウム化合物」などが用いられ、なかでも「二酸化ゲルマニウム化合物」を用いると、色相および透明性に優れたポリエスエルが得られるので好ましいこと(【0017】)が記載されている。
ここで、上記ア(ウ)で述べたように、本願明細書【0014】の記載から、触媒として、アンチモン化合物やチタン化合物よりも添加量が少なく、その残渣に基づいて結晶化速度をそれほど速めないアルミニウム化合物やゲルマニウム化合物を用いた場合には、上記共重合成分を添加せずとも、透明性に優れ、耐熱性や耐圧性などの物性がペットボトルに適するものと解され、本件補正発明のような発明特定事項とすることで、使用に耐えられる「ペットボトル」、つまり「透明性に優れ、耐熱性や耐圧性などの物性がペットボトルに適する」ペットボトルを製造できるという、本件補正発明の効果が得られるものといえる。
一方、引用文献5には、触媒金属成分として「二酸化ゲルマニウム化合物」を用いて、色相および透明性に優れるボトル用プリフォームが得られたことが記載されており、本件補正発明にいう、「ペットボトル」としての使用に耐えられるポリエステル樹脂を製造できるものであると認められ、引用文献5に記載されたPET樹脂は、本件補正発明と同様の性質を示すものといえる。
してみると、バイオマス資源由来の原料を重合したバイオPET樹脂も、石油資源由来の原料を重合したPET樹脂も、品質的には何ら変わらないものであるから、原料がバイオマス資源に由来するか、あるいは石油資源に由来するかにかかわらず、作用効果に大きな差異があるとは認められないものであって、本件補正発明の効果は、引用文献5及び技術常識から、当業者が予測可能なものである。
(エ)小括
以上から、本件補正発明は、引用発明5並びに引用文献5に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)審判請求人の主張について
ア 本件補正発明により解決すべき課題及びその解決手段について
審判請求人は、審判請求書において、本件補正発明により解決すべき課題及びその解決手段について、
「本発明は、「仮に、当該文献に開示されるPET製品が、エチレングルコールとテレフタル酸の両方がバイオマス資源に由来している原料を用いて製造されているとしても、無菌充填用ペットボトルなどのPET製品には、加熱に耐えられる特性を付与するため、モノエチレングリコールやテレフタル酸といった主成分の他に、通常、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールなどが共重合成分として用いられていることから、実質的に100%バイオマス資源に由来するバイオPET樹脂ということはできない。例えば、PET樹脂に含有されるイソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールといった共重合成分は、僅か数重量%(0.1~3重量%)程度に過ぎないが、世界中で膨大な量のPET樹脂が消費されていることを考慮すれば、PET樹脂中の微量成分であっても無視することはできない。このため、イソフタル酸などの共重合成分をバイオマス資源に由来する原料から製造することが考えられるが、この場合には製造コストが極めて高くなるため、現実的ではない。」という従来技術の課題を始めて解決するものであり、そのため、本発明に係る方法においては、「前記方法において共重合成分が添加されず、前記共重合成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールである」こと、そして、「アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有する触媒」を用いることを技術的特徴とするものである。」とした上で、「引用文献4及び5において、上述した本発明により解決すべき課題及びその解決手段が何ら教示も示唆もされていない以上、これらの文献は、補正後の本発明に想到するための動機付けとはなり得ず、先行技術文献としては不適当であるものと思料する。」
と主張する。
しかし、そもそも本件補正発明における「バイオPET樹脂」は実質的に100%バイオマス資源に由来するバイオPET樹脂に限られるものではないから、請求人の上記主張は前提において当を得たものではないといわざるを得ない。
また、上記(6)ア(イ)aで述べたとおり、バイオマス資源由来の原料を重合したバイオPET樹脂も石油資源由来の原料を重合したPET樹脂も、原料あるいはPET樹脂としてみた場合両者は同じ品質であることは本願優先日当時の技術常識である。したがって、PET樹脂の一の原料がバイオマス資源由来であるか否かが他の原料の使用、不使用や由来、PET樹脂の製造工程や品質と技術的な関連(相乗効果)を有するとはいえない。そして、石油資源由来の原料のすべてを不使用又はバイオマス資源由来のものに転換した場合に100%バイオマス資源に由来するバイオPET樹脂が得られることは当業者が当然認識することであって、当業者が予測する範囲の効果を超えた顕著なものであるとはいえない。
一方、引用発明4は、共重合成分を有しない点で請求人が「従来技術」であるとする技術が有する課題を有しないものであり、またアルミニウム化合物を含有する触媒を用いるものである点で請求人が「技術的特徴」であるとする特徴を含むものである。そして、上記(6)ア(ウ)で述べたとおり、引用文献4では、イソフタル酸等の共重合成分を含むことなく、触媒金属成分としてアルミニウム化合物を用い、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れるポリエステル樹脂からなる中空成形体が製造できることが記載されており、本件補正発明にいう、「ペットボトル」としての使用に耐えられるポリエステル樹脂を製造できることが読み取れるから、引用文献4に記載されたPET樹脂は、本件補正発明と同様の性質を示すものといえる。
そうすると、引用発明4についての請求人の上記主張は当を得たものではないといわざるを得ず、上記(6)アにおける判断を左右するものではない。
また、引用発明5も、共重合成分を必須とするものではなく、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を含有する触媒の使用を否定するものではない。そして、前記(6)イ(イ)c及びdで述べたとおり、飲料用PETボトルにおける共重合成分の不使用やゲルマニウム化合物を含有する触媒の使用は技術常識である。そして、上記(6)イ(ウ)で述べたとおり、引用文献5には、触媒金属成分として「二酸化ゲルマニウム化合物」を用いて、色相および透明性に優れるボトル用プリフォームが得られたことが記載されており、本件補正発明にいう、「ペットボトル」としての使用に耐えられるポリエステル樹脂を製造できるものであると認められ、引用文献5に記載されたPET樹脂は、本件補正発明と同様の性質を示すものといえる。
そうすると、引用発明5についての請求人の上記主張も当を得たものではないといわざるを得ず、上記(6)イにおける判断を左右するものではない。
イ 引用発明4について
審判請求人は、審判請求書において、引用発明4について、
「引用文献4には、段落[0069]において、飲料容器に用いられることが記載されているが、当該文献に開示される実施例及び比較例に示されるIVの値は、すべて0.70未満と低いため(表1~5)、「前記バイオPET樹脂の固有粘度(IV)が0.7~0.85dl/gである」という技術的特徴を備える補正後の本発明は、引用文献4に記載の発明とは明確に区別されるものである。
引用文献4に開示されるポリエステルの固有粘度(IV)は低すぎることから、ペットボトルの製造には適していない。ペットボトル用のPET樹脂は、その物性を確保するために、少なくとも0.7以上のIVを有している必要があり、特に耐圧ボトルなどは0.85程度のIVが必要となる。実際に、引用文献4の段落[0087]には、「本発明により、欠点をするアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物を触媒主成分として含まず、触媒金属成分としてアルミニウム化合物を用いた、色調や熱安定性に優れかつ成形品の透明性に優れ、特に異物の少なく、超微細繊維、光学用の高透明なフィルムあるいは超高透明な成型体等の分野においてその特徴を発揮することができるポリエステルが得られる。」と記載されていることから、引用文献4に開示されるPET樹脂は、ペットボトルの製造に用いることは想定されていないものと思料する。」
と主張する。
しかし、引用発明4に係る固相重合後のポリエステルペレットのIV値は0.78である(引用文献4の57頁4~5行)。たしかに引用文献4の表1(57頁)には「実施例A-1」のIV値が0.62であることが記載されているが、これは、引用発明4に係る固相重合前のポリエステルペレットのIV値である。
そうすると、引用発明4についての請求人の上記主張は、前提において当を得たものではないといわざるを得ず、上記(6)アにおける判断を左右するものではない。
ウ 引用発明5について
審判請求人は、審判請求書において、引用発明5について、
「引用文献5の段落[0005]には、引用文献5に記載される発明が解決しようとする課題が記載されているが、当該文献に記載の発明は、ポリエステル樹脂と超臨界流体とを接触させる処理を施すことにより、アセトアルデヒド含有量が微量であるとともに、ボトルなどの成形時にアセトアルデヒドが増加しにくいポリエステルを提供することが出来、しかも固相重縮合工程を省略出来るポリエステルの製造方法を提供することを目的とすることが明示されている。
これに対して、補正後の本発明に係る方法は、新請求項1に規定される「固相重合工程」を必須の技術的特徴として備えることから、引用文献5もまた、補正後の本発明に想到するための動機付けとはなり得ないことは明らかである。」
と主張する。
しかし、引用発明5は必要に応じて固相重合工程を有するものであって、上記(6)イ(イ)eで述べたとおり、引用発明5において固相重縮合工程を導入することで0.70あるいは0.75~0.85というIV値を達成することは、当業者が容易になし得たことである。
そうすると、引用発明5についての請求人の上記主張は、上記(6)イにおける判断を左右するものではない。
エ 使用する触媒について
審判請求人は、審判請求書において、使用する触媒について、
「補正後の本発明は、「アルミニウム化合物が、樹脂中のアルミニウム原子としての含有量が、1~50ppmとなるように用いられること」及び「ゲルマニウム化合物が、樹脂中のゲルマニウム原子としての含有量が、1ppm~100ppmとなるように用いられること」を技術的特徴としているが、これは、新請求項1に規定される他の技術的特徴との組み合わせにおいて、ペットボトルとして求められる機能(材料強度、成型性)を考慮・想定してなされた設計であり、これに加えて、耐熱性を持たせた上でのバイオ化に関するものであるが、引用文献1-5には、このような知見についても、まったく教示も示唆もされていない。」
と主張する。
しかし、まず上記アで述べたとおり、PET樹脂の一の原料がバイオマス資源由来であるか否かが他の原料の使用、不使用や由来、PET樹脂の製造工程や品質と技術的な関連(相乗効果)を有するとはいえないから、本件補正発明の進歩性の判断において原料の由来と使用する触媒の種類や量とを一体として検討することは適切ではなく、これらを個別に検討することが適切である。
そして、アルミニウム化合物の樹脂中のアルミニウム原子としての含有量については、上記(6)ア(イ)cで述べたとおり引用文献4に示唆されている。また、ゲルマニウム化合物の樹脂中のゲルマニウム原子としての含有量については、上記(6)イ(イ)cで述べたとおり技術常識の範疇である。さらに、引用文献4に記載されたPET樹脂及び引用文献5に記載されたPET樹脂が本件補正発明と同様の性質を示すものといえることは上記イ及びウで述べたとおりである。
そうすると、使用する触媒についての請求人の上記主張は、上記(6)ア及びイにおける判断を左右するものではない。
(8)独立特許要件についてのまとめ
よって、本件補正発明は、当業者が引用文献4に記載された発明基づいて容易に発明をすることができたものであり、かつ当業者が引用文献5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
4 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。したがって、本件補正事項を含むものである本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正である令和5年8月30日に提出された手続補正書による手続補正は前記第2[補正の却下の決定の結論]のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、第2[理由]1で認定したとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」という理由を含むものである。
引用文献4.国際公開第2005/075539号
引用文献5.特開2005-132958号公報
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4及び5は前記第2[理由]3(3)アで提示した引用文献であり、その記載事項は前記第2[理由]3(4)ア及びイに摘記したとおりである。
4 対比・判断
前記第2[理由]1で確認した本件補正事項の内容からみて、本願発明は、前記第2[理由]3で検討した本件補正発明から、バイオPET樹脂の用途を限定する事項である「ペットボトル用」を削除し、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物の使用量を限定する事項である「前記アルミニウム化合物は、樹脂中のアルミニウム原子としての含有量が、1~50ppmとなるように用いられ、前記ゲルマニウム化合物は、樹脂中のゲルマニウム原子としての含有量が、1ppm~100ppmとなるように用いられ、」を削除し、バイオPET樹脂の製造方法を限定する事項である「前記方法において共重合成分が添加されず、前記共重合成分が、イソフタル酸、シクロヘキサンジメタノール又はジエチレングリコールであり、」を削除し、バイオPET樹脂の物性を限定する事項である「前記バイオPET樹脂の固有粘度(IV)が0.7~0.85dl/gであり、」を削除し、アルミニウム化合物又はゲルマニウム化合物を限定する事項である「前記アルミニウム化合物が、酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンアルミニウム、シュウ酸アルミニウム、酸化アルミニウムもしくはアルキルアルミニウムから選択される有機アルミニウム化合物又はその部分加水分解物、あるいはこれらの組み合せであり、前記ゲルマニウム化合物が、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラn-ブトキシド、結晶性二酸化ゲルマニウム、非晶性二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、塩化ゲルマニウムもしくは亜リン酸ゲルマニウム、又はこれらの組み合せであり、」を削除し、バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを重合させる工程を限定する事項である「前記バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを重合させる工程が、バイオマス資源に由来するエチレングルコールとバイオマス資源に由来するテレフタル酸とを懸濁重合させることにより中間体としてビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)及び/又はそのオリゴマーを製造し、これにより得られたBHET及び/又はそのオリゴマーを、前記触媒の存在下において溶融重縮合させること、及び溶融重縮合により得られたバイオPET樹脂をペレットに加工し、これを固相重合させることをさらに含む」を削除するものであるといえる。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらにこれらの事項を付加することで本願発明を減縮したものである本件補正発明は、前記第2[理由]3(6)で述べたとおり、当業者が引用文献4に記載された発明基づいて容易に発明をすることができたものであり、かつ当業者が引用文献5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明も当業者が引用文献4に記載された発明基づいて容易に発明をすることができたものであり、かつ当業者が引用文献5に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
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2023-014623