特許無効審判
2019-800068
レーザ加工装置
- 審判番号
- 2019-800068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2006-069918
- 登録番号
- 3935188
- 請求日
- 2019年09月17日
- 審決日
- 2021年07月28日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 東京精密
- 【請求人代理人】丹治 彰
- 【請求人代理人】石田 良平
- 【請求人代理人】三縄 隆
- 【請求人代理人】松村 啓
- 【請求人代理人】半場 秀
- 【請求人代理人】筬島 裕斗志
- 【請求人代理人】前田 直哉
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】服部 誠
- 【請求人代理人】中村 閑
- 【請求人代理人】相田 義明
- 【請求人代理人】新井 剛
- 【被請求人】浜松ホトニクス 株式会社
- 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【被請求人代理人】小曳 満昭
- 【被請求人代理人】柴田 昌聰
- 【被請求人代理人】設樂 隆一
- 【被請求人代理人】塚原 朋一
- 【被請求人代理人】尾関 孝彰
- 【被請求人代理人】寺下 雄介
- 【被請求人代理人】今村 玲英子
- 【被請求人代理人】深沢 正志
- 【被請求人代理人】松本 直樹
- 【被請求人代理人】大澤 恒夫
- 審判長/審判官
- 審判長 見目 省二
- 審判官 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 分類
- P1113.121-YAA(B23K) / P1113.536-YAA(B23K) / P1113.537-YAA(B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第36条第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3935188号発明「レーザ加工装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第3935188号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1.特許第3935188号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成12年9月13日に出願した特願2000-278306号に基づいて優先権を主張して平成13年9月13日に出願した特願2001-278707号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成18年3月14日に新たな特許出願(特願2006-69918号)としたものであって、平成19年3月30日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
2.平成30年4月24日に訂正審判が請求され、平成30年7月3日に、「特許第3935188号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。」との審決がなされ、当該審決は平成30年7月13日に確定登録された(請求項数2)。
3.令和1年9月17日に、請求人株式会社東京精密(以下、「請求人」という。)より「特許第3935188号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との特許無効審判請求がなされた。
4.令和1年12月13日に、被請求人浜松ホトニクス株式会社(以下、「被請求人」という。)より答弁書が提出され、令和2年1月24日付けで審理事項通知がされ、令和2年2月21日に被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、令和2年2月25日に請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、令和2年3月4日付けで審理事項通知(以下、「審理事項通知(その2)」という。)がされ、令和2年3月30日に被請求人より口頭審理陳述要領書(その2)が提出され、令和2年3月31日に請求人より口頭審理陳述要領書(以下、「請求人口頭審理陳述要領書(その2)」という。)が提出され、令和2年6月24日に請求人より上申書が提出され、令和2年7月31日に口頭審尋が行われ、令和2年8月7日に請求人より上申書(以下、「令和2年8月7日付け請求人上申書」という。)が提出され、令和2年8月21日に被請求人より上申書が提出され、令和2年8月24日に請求人より上申書(以下、「令和2年8月24日付け請求人上申書」という。)が提出され、令和2年8月26日に被請求人より上申書が提出され、令和2年9月8日付けで無効理由通知(以下、「当審無効理由通知」という。)及び職権審理結果通知がされ、令和2年10月9日に被請求人より意見書が提出され、令和2年10月12日に請求人より意見書が提出され、令和2年10月27日に請求人より上申書が提出された。
5.令和3年2月4日付けで審決の予告(以下、「審決予告」という。)がされ、令和3年4月7日に被請求人より上申書及び訂正請求書が提出され、令和3年5月18日に請求人より審判事件弁駁書(以下、「弁駁書」という。)が提出され、令和3年6月25日に請求人より上申書が提出された。
第2 本件訂正請求の適否について
1.訂正請求の内容
上記令和3年4月7日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に
「前記加工対象物はシリコンウェハである」
と記載されているのを、
「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」(下線部は、訂正箇所について付したものである。)
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1が、訂正要件を満たすか検討する。
(1)訂正の目的
訂正事項1は、請求項1に係る発明の「加工対象物」である「シリコンウェハ」を、訂正により「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」に限定するものであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
(2)新規事項の有無
訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものか、すなわち、新規事項を追加するものであるか、以下に検討する。
本件明細書の段落【0025】(下記第3の3.を参照。)には、「加工対象物がシリコン単結晶構造の場合」と記載されているから、本件明細書等には、「加工対象物」である「シリコンウェハ」が「シリコン単結晶構造」で構成される場合が記載されていると認められる。
また、溝とは「細長いくぼみ。『鴨居(かもい)の溝』、『レコードの溝』」(デジタル大辞泉)の意味であるところ、本件明細書等の図1及び図3の平面図に「加工対象物1」上の「切断予定ライン5」が図示されているが、該図1及び図3のII-II線及びIV-IV線に沿った断面図である図2及び図4からは、レーザ加工中及び加工後においても、「加工対象物1」に該「切断予定ライン5」に沿った細長いくぼみである「溝」は形成されていないことが看取できる。
さらに、本件明細書の段落【0031】には、「シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。」と記載され、シリコンウェハの切断部位の形状(溝の有無)に関係なく、溶融処理領域(改質領域)を起点としてシリコンウェハは切断できるものである。
したがって、本件明細書等には、「加工対象物」である「シリコンウェハ」を、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」とすることは記載されているといえるから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、請求項1に係る発明の「加工対象物」である「シリコンウェハ」を、本件訂正により「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」に更に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
3.本件訂正に対する請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、令和3年5月18日に提出の弁駁書(特に、5ページ1行-9ページ下から3行)及び令和3年6月25日に提出の上申書(特に、2ページ2行-5ページ下から7行)において、本件訂正が訂正要件を満たさないことについて概ね以下の主張をしている。なお、請求人は、同弁駁書及び同上申書において、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明(以下、本件訂正の適否の検討では、単に「本件訂正発明」という。)が進歩性を有しない旨についても主張しているが、その点については下記第8の2.で検討する。
ア 「シリコン単結晶構造部分」について
半導体素子が形成されたシリコンウェハは、シリコン基板、その上に積層されたエピタキシャル層(結晶の向きがそろった単結晶層)、個々の半導体素子を作成するために形成した単結晶の部分などから構成されるから、シリコン基板、その上に積層された(シリコンの単結晶層を成長させた)エピタキシャル層、個々の半導体素子を作成するために形成したシリコン単結晶の部分などが「シリコン単結晶構造部分」に含まれ得ることになる(甲第12号証)ところ、本件明細書に記載された発明は、本来、「半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等」の加工対象物の切断」に共通に使用されることを意図したものであって、加工の対象を個々のシリコンウェハの結晶構造部分に着目するという発想はそもそもないし、様々なシリコンウェハについて、「シリコン単結晶構造部分」に「切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」ことは念頭に置かれていない。したがって、本件訂正は、シリコンウェハについて、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との限定を付すことにより、本件訂正発明の進歩性の存在を基礎付けようとするものであり、本件明細書に発明として記載されていなかった事項に基づいて新たな技術的意義を主張するものであるから、訂正要件を満たさない。(弁駁書5ページ2行-6ページ下から5行)
イ 「溝が形成されていない」の意味内容について
本件訂正の「溝が形成されていない」の意味内容が不明である。すなわち、シリコンウェハが「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」ものであるというだけでは、どのような状態の溝を意味するのか不明である。例えば、半導体ウェハを個々の半導体チップに切断する前に、積極的に「溝」が形成されることがないということなのか、シリコン基板上に半導体素子を形成する過程でチップとチップとの間に生じる無効領域は本件訂正発明の「溝」に該当するのかなど不明である。
本件明細書に記載された発明は、本来、「半導体材料基板、圧電材料基板やガラス基板等の加工対象物の切断」に共通に使用されるものであり、そのため、本件明細書には、溝を形成するか形成しないか、形成するとしてどこに形成するかといった観点からの記載は見当たらない。要するに、本件明細書に記載された発明は、もともと、溝の有無や場所には関心がないのである。
したがって、本件訂正は、シリコンウェハについて、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との限定を付すことにより、新たな技術的事項を導入するものとなるから、訂正要件を満たさない。(弁駁書第6ページ下から4行-9ページ2行)
ウ シリコンウェハについて
本件訂正発明は、「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置」であって、「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」とされているから、当該「内部」と「溝が形成されていないシリコンウェハ」との関係が問題となる。
また、本件訂正発明が、「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」というときに、どのようなものを「シリコンウェハ」と考えているのか不明である。仮に、エピタキシャルウェハも本件訂正発明に当たるとした場合、「溝」は、シリコン基板に形成されていないだけでは足りず、その上に成長させた単結晶層にも形成されていないものでなければならないのか、それとも、シリコン基板上に溝が形成されていなければよいのか、不明である。
したがって、本件訂正は、発明の内容を不明確にするものであるから、訂正要件を満たさない。(弁駁書第9ページ3行-下から3行)
エ 用途による限定で物の発明を特定することについて
本件訂正発明は、「レーザ加工装置」に関する発明であるところ、「加工対象物」は当該レーザ加工装置の構成要素ではない。したがって、本件訂正発明に係る構成は、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」を加工するために用いられるレーザ加工装置であると特定している程度の意味しかない。
そして、「シリコンウェハ」を加工するために用いられるレーザ加工装置と、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」を加工するために用いられるレーザ加工装置では、レーザ加工装置という物としてみた際に何ら異なる点はない。(シリコンウェハは加工可能だが、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」は加工不可能なレーザ加工装置など、想定できない。)
したがって、本件訂正は、用途を特定するものではあるものの、当該用途による限定が物を特定するための意味を有していない。(令和3年6月25日に提出の上申書2ページ2行-4ページ下から2行)
オ 訂正事項が「他のサブコンビネーション」に該当することについて
仮に、「加工対象物」が用途の特定ではなく物として重要であったとしても、「レーザ加工装置」に「加工対象物」は含まれないのであるから、本件訂正発明は、そのうちの片方である「レーザ加工装置」について特定して、権利化したものと理解される。この場合、本件訂正発明の「レーザ加工装置」は、サブコンビネーションの発明となる(特許・実用新案審査基準 第III部第2章第4節)。
そして、特許・実用新案審査基準によれば、「『他のサブコンビネーション』に関する事項が、『他のサブコンビネーション』のみを特定する事項であって、請求項に係るサブコンビネーションの発明の構造、機能等を何ら特定していない場合は、「他のサブコンビネーション」に関する事項は、請求項に係るサブコンビネーションの発明を特定するための意味を有しない、とされているところ、本件訂正発明において、「加工対象物」は「他のサブコンビネーション」に該当し、加工対象物について、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との特定をすることは、レーザ加工装置について何ら限定をするものではない以上、「他のサブコンビネーション」のみを特定する事項に該当し、本件訂正発明を特定するための意味を有しない。
したがって、本件訂正は、本件訂正発明を限定するものではないので、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条の2第1項ただし書第1号)を目的とするものでなく、訂正要件に違反している。(令和3年6月25日に提出の上申書4ページ最終行-5ページ下から7行)
(2)上記(1)の請求人の主張について検討する。
ア 上記(1)アについて検討すると、請求人は、本件訂正は、本件明細書に発明として記載されていない事項に基づくものであること、すなわち、本件訂正が新規事項を追加するものである旨を主張しているが、上記2.(2)のとおり、本件明細書の段落【0025】には、「加工対象物がシリコン単結晶構造の場合」と記載され、加工対象物であるシリコンウェハが、シリコン単結晶構造で構成されるものが記載されており、本件図面からは、「加工対象物1」に該「切断予定ライン5」に沿った細長いくぼみである「溝」は形成されていないことが看取できるのであるから、本件訂正は、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、請求人の主張は採用できない。
イ 上記(1)イについて検討すると、請求人は、本件訂正の「溝が形成されていない」の意味内容が不明であり、結局、本件訂正は、新たな技術的事項を導入するものとなり、訂正要件を満たさない旨を主張している。
しかし、上記アで説示するとおり、本件訂正は、本件明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
また、仮に、本件訂正の「溝が形成されていない」という記載の意味内容が不明であれば、新たな無効理由が生じることがあるとしても、新たな技術的事項が導入されることになるわけではないから、請求人の主張は採用できない。
なお、本件訂正に係る「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」という記載について、付言すると、当該記載を文言どおりに解釈すれば、加工対象物であるシリコンウェハのうち、シリコン単結晶構造部分には、切断予定ラインに沿った細長いくぼみが存在しない、という意味に解されるから、その意味は明確である。
ウ 上記(1)ウについて検討すると、請求人は、本件訂正に係る「シリコンウェハ」がどのようなものか不明であり、本件訂正は、発明の内容を不明確にするものであるから、訂正要件を満たさない旨を主張するが、具体的にどの訂正要件に違反するものかを明らかにしていない。
請求人は、本件訂正に係る「シリコンウェハ」が不明であることを主張していることから、本件訂正の目的が、明瞭でない記載の釈明(特許法第134条の2第1項ただし書き第3号)に該当せず、訂正要件を満たさないことを主張するものと善解しても、上記2.(1)に説示するとおり、本件訂正の目的は、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条の2第1項ただし書き第1号)に該当するから、請求人の主張は失当である。
なお、本件訂正に係る「シリコンウェハ」について、付言すると、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」という記載から、本件訂正に係る加工対象物である「シリコンウェハ」は、シリコン単結晶構造部分を有するシリコンウェハであることは明らかであるから、「シリコンウェハ」がどのようなものか不明であるなどということはない。
エ 上記(1)エについて検討すると、請求人は、「シリコンウェハ」を加工するために用いられるレーザ加工装置と、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」を加工するために用いられるレーザ加工装置は、レーザ加工装置という物としてみた際に何ら異なる点はなく、本件訂正は、用途を特定するものではあるものの、当該用途による限定が物を特定するための意味を有していない旨を主張している。
しかしながら、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第5項に、「第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定されているところ、当該「特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項」を記載する際は、物の発明を特定するために、物の結合や物の構造の表現形式を用いることができるほか、作用、機能、性質、特性、方法、用途その他の様々な表現方式を用いて記載することが許されると解される。そして、本件訂正は、請求人が自認するとおり、レーザ加工装置という物の発明を特定するために、用途に係る事項を記載し、本件訂正発明のレーザ加工装置が、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであっても切断し得る性能を有するものであることを記載するものであるから、上記特許法第36条第5項に鑑みて許容されるべきものであり、本件訂正の目的は、上記2.(1)のとおり特許請求の範囲の減縮に該当する。
したがって、請求人の主張は採用できない。
オ 上記(1)オについて検討すると、請求人は、「加工対象物」は「他のサブコンビネーション」に該当し、加工対象物について、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との特定をすることは、レーザ加工装置について何ら限定をするものではない以上、「他のサブコンビネーション」のみを特定する事項に該当し、「レーザ加工装置」についての本件訂正発明を特定するための意味を有しない旨を主張している。
しかし、請求人が「特許・実用新案審査基準 第III部第2章第4節」を根拠として主張する「他のサブコンビネーション」は、いわゆる新規性や進歩性の特許要件を検討する際に考慮されうる事項であって、訂正要件において検討するべき事項ではないから、請求人の主張は採用できない。
なお、加工対象物についての「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との特定について付言すると、上記エにも述べたとおり、本件訂正発明のレーザ加工装置が、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであっても切断し得る性能を有するものであることを記載したものということができるから、本件訂正発明を特定するために全く意味を有しないということはできない。
4.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
1.上記第2のとおり、本件訂正は認容されるから、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲に記載された発明は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件無効審判請求の対象となる請求項1及び2に係る発明は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズと、
隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備え、
前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度との少なくとも一方を調節することで、前記改質スポット間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。」
(以下、請求項1及び2に記載された発明をそれぞれ「本件発明1」及び「本件発明2」といい、合わせて「本件発明」という。)
2.本件発明が解決しようとする課題として、本件明細書には次の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
レーザ応用の一つに切断があり、レーザによる一般的な切断は次の通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し、レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。しかし、この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって、加工対象物が半導体ウェハの場合、半導体ウェハの表面に形成された半導体素子のうち、上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。
【0003】
加工対象物の表面の溶融を防止する方法として、例えば、下記の特許文献1や特許文献2に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し、そして加工対象物を冷却することにより、加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。・・・(中略)・・・
【0004】
しかし、これらの文献に開示された切断方法では、加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと、加工対象物の表面に、切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって、これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に、加工対象物が半導体ウェハ、液晶表示装置が形成されたガラス基板、電極パターンが形成されたガラス基板の場合、この不必要な割れにより半導体チップ、液晶表示装置、電極パターンが損傷することがある。また、これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので、半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
【0005】
本発明の目的は、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することである。」
3.また、加工対象物が「シリコンウェハ」である場合の実施形態として、本件明細書には以下の記載がある。
「【0025】
(2)改質領域が溶融処理領域の場合
レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。溶融処理領域とは一旦溶融後再固化した領域、溶融状態中の領域及び溶融から再固化する状態中の領域のうち少なくともいずれか一つを意味する。また、溶融処理領域は一旦溶融後再固化した領域であり、相変化した領域や結晶構造が変化した領域ということもできる。また、溶融処理領域とは単結晶構造、非晶質構造、多結晶構造において、ある構造が別の構造に変化した領域ということもできる。つまり、例えば、単結晶構造から非晶質構造に変化した領域、単結晶構造から多結晶構造に変化した領域、単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域を意味する。加工対象物がシリコン単結晶構造の場合、溶融処理領域は例えば非晶質シリコン構造である。なお、電界強度の上限値としては、例えば1×1012(W/cm2)である。パルス幅は例えば1ns~200nsが好ましい。
【0026】
本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。
【0027】
(A)加工対象物:シリコンウェハ(厚さ350μm、外径4インチ)
(B)レーザ
光源:半導体レーザ励起Nd:YAGレーザ
波長:1064nm
レーザ光スポット断面積:3.14×10-8cm2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:20μJ/パルス
レーザ光品質:TEM00
偏光特性:直線偏光
(C)集光用レンズ
倍率:50倍
NA:0.55
レーザ光波長に対する透過率:60パーセント
(D)加工対象物が載置される載置台の移動速度:100mm/秒
【0028】
図12は上記条件でのレーザ加工により切断されたシリコンウェハの一部における断面の写真を表した図である。シリコンウェハ11の内部に溶融処理領域13が形成されている。なお、上記条件により形成された溶融処理領域の厚さ方向の大きさは100μm程度である。
【0029】
溶融処理領域13が多光子吸収により形成されたことを説明する。図13は、レーザ光の波長とシリコン基板の内部の透過率との関係を示すグラフである。ただし、シリコン基板の表面側と裏面側それぞれの反射成分を除去し、内部のみの透過率を示している。シリコン基板の厚みtが50μm、100μm、200μm、500μm、1000μmの各々について上記関係を示した。
【0030】
例えば、Nd:YAGレーザの波長である1064nmにおいて、シリコン基板の厚みが500μm以下の場合、シリコン基板の内部ではレーザ光が80%以上透過することが分かる。図12に示すシリコンウェハ11の厚さは350μmであるので、多光子吸収による溶融処理領域はシリコンウェハの中心付近、つまり表面から175μmの部分に形成される。この場合の透過率は、厚さ200μmのシリコンウェハを参考にすると、90%以上なので、レーザ光がシリコンウェハ11の内部で吸収されるのは僅かであり、ほとんどが透過する。このことは、シリコンウェハ11の内部でレーザ光が吸収されて、溶融処理領域がシリコンウェハ11の内部に形成(つまりレーザ光による通常の加熱で溶融処理領域が形成)されたものではなく、溶融処理領域が多光子吸収により形成されたことを意味する。多光子吸収による溶融処理領域の形成は、例えば、溶接学会全国大会講演概要第66集(2000年4月)の第72頁~第73頁の「ピコ秒パルスレーザによるシリコンの加工特性評価」に記載されている。
【0031】
なお、シリコンウェハは、溶融処理領域を起点として断面方向に向かって割れを発生させ、その割れがシリコンウェハの表面と裏面に到達することにより、結果的に切断される。シリコンウェハの表面と裏面に到達するこの割れは自然に成長する場合もあるし、加工対象物に力が印加されることにより成長する場合もある。なお、溶融処理領域からシリコンウェハの表面と裏面に割れが自然に成長するのは、一旦溶融後再固化した状態となった領域から割れが成長する場合、溶融状態の領域から割れが成長する場合及び溶融から再固化する状態の領域から割れが成長する場合のうち少なくともいずれか一つである。いずれの場合も切断後の切断面は図12に示すように内部にのみ溶融処理領域が形成される。加工対象物の内部に溶融処理領域を形成する場合、割断時、切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくいので、割断制御が容易となる。」
4.また、「切断の起点となる改質領域」について、本件明細書には、次の記載がある。
(1)「【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係るレーザ加工方法は、多光子吸収により改質領域を形成している。多光子吸収はレーザ光の強度を非常に大きくした場合に発生する現象である。まず、多光子吸収について簡単に説明する。」
(2)「【0014】
図1及び図2に示すように、加工対象物1の表面3には切断予定ライン5がある。切断予定ライン5は直線状に延びた仮想線である。本実施形態に係るレーザ加工は、多光子吸収が生じる条件で加工対象物1の内部に集光点Pを合わせてレーザ光Lを加工対象物1に照射して改質領域7を形成する。なお、集光点とはレーザ光Lが集光した箇所のことである。
【0015】
レーザ光Lを切断予定ライン5に沿って(すなわち矢印A方向に沿って)相対的に移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させる。これにより、図3~図5に示すように改質領域7が切断予定ライン5に沿って加工対象物1の内部にのみ形成される。本実施形態に係るレーザ加工方法は、加工対象物1がレーザ光Lを吸収することにより加工対象物1を発熱させて改質領域7を形成するのではない。加工対象物1にレーザ光Lを透過させ加工対象物1の内部に多光子吸収を発生させて改質領域7を形成している。よって、加工対象物1の表面3ではレーザ光Lがほとんど吸収されないので、加工対象物1の表面3が溶融することはない。」
(3)「【0017】
なお、改質領域を起点とした加工対象物の切断は、次の二通りが考えられる。一つは、改質領域形成後、加工対象物に人為的な力が印加されることにより、改質領域を起点として加工対象物が割れ、加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが大きい場合の切断である。人為的な力が印加されるとは、例えば、加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物に曲げ応力やせん断応力を加えたり、加工対象物に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることである。他の一つは、改質領域を形成することにより、改質領域を起点として加工対象物の断面方向(厚さ方向)に向かって自然に割れ、結果的に加工対象物が切断される場合である。これは、例えば加工対象物の厚みが小さい場合、厚さ方向に改質領域が1つでも可能であり、加工対象物の厚みが大きい場合、厚さ方向に複数の改質領域を形成することで可能となる。なお、この自然に割れる場合も、切断する箇所の表面上において、改質領域が形成されていない部分まで割れが先走ることがなく、改質部を形成した部分のみを割断することができるので、割断を制御よくすることができる。近年、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあるので、このような制御性のよい割断方法は大変有効である。」
(4)「【0071】
本実施形態の効果を説明する。これによれば、多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。そして、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させている。これにより、改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)を切断予定ライン5に沿うように加工対象物1の内部に形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。よって、改質領域を起点として切断予定ライン5に沿って加工対象物1を割ることにより、比較的小さな力で加工対象物1を切断することができる。これにより、加工対象物1の表面3に切断予定ライン5から外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物1を切断することができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、加工対象物1に多光子吸収を起こさせる条件でかつ加工対象物1の内部に集光点Pを合わせて、パルスレーザ光Lを切断予定ライン5に照射している。よって、パルスレーザ光Lは加工対象物1を透過し、加工対象物1の表面3ではパルスレーザ光Lがほとんど吸収されないので、改質領域形成が原因で表面3が溶融等のダメージを受けることはない。」
(5)「【0079】
本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより、加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本発明に係るレーザ加工装置によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。なお、集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし、仮想の線でもよい。
【0080】
また、本発明に係るレーザ加工装置によれば、加工対象物の内部に局所的に多光子吸収を発生させて改質領域を形成している。よって、加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。以上のことはこれから説明するレーザ加工装置についても言えることである。」
5.本件発明が解決しようとする課題及び本件発明の技術的意義
(1)本件発明が解決しようとする課題
レーザによる一般的な切断には、加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射して、加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて切断する方法があるが、切断箇所の領域周辺も溶融されるため、加工対象物が半導体ウェハの場合、切断箇所付近の半導体素子が溶融する恐れがあった(【0002】)。このような溶融を防止する方法として、切断箇所をレーザ光により加熱した後に、加工対象物を冷却することで、切断箇所に熱衝撃を生じさせて切断する方法もあるが、熱衝撃が大きいと、切断を予定しない箇所での不必要な割れを生じることがあり、従来の切断方法では精密な切断ができなかった(【0003】、【0004】)。本件発明は、このような従来技術の課題を解決しようとするものであり、加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することを目的とする(【0005】)。
(2)本件発明の技術的意義
本件発明は、請求項1及び2に記載された事項により、上記の課題を解決するものであるが、ウェハ状の加工対象物、特にシリコンウェハの内部にパルスレーザ光を集光させて、1パルスのパルスレーザ光で加工対象物の内部に改質スポットが形成され、X軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させることにより、集光点Pを切断予定ライン5に沿って移動させて、複数の改質スポットが形成されることによって改質領域が形成され、改質領域が切断の起点となり、ウェハの内部に切断の起点が形成されることで、ウェハの表面に溶融が生じたり、切断予定ラインから外れた割れを発生させることなく切断が可能となるという技術的な意義を有するものと認められる。
第4 請求の趣旨、請求人の主張する無効理由及び証拠方法
本件審判の請求の趣旨は、「特許第3935188号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。」というものであり、請求人が審判請求書において主張する無効理由の概要は、下記1.ないし10.のとおりである。(なお、本件訂正前の各請求項に係る発明を、以下、「訂正前の本件発明1」などという。)
1.無効理由1(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明を組み合わせて、また、甲第8号証に見られる、レーザスクライブ法においてパルスレーザ光を照射するとの周知慣用技術(以下、「周知慣用技術A」という。)、レーザ加工によってシリコンウェハを切断するとの周知慣用技術及びレーザ加工によってシリコンウェハの内部に集光点を集めてマーキングをするとの周知慣用技術(以下、合わせて「周知慣用技術B」という。)を適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
2.無効理由2(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、甲第2号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された発明を組み合わせて、また、上記周知慣用技術A、上記周知慣用技術B及びウェハー状の加工対象物を移動させる際に載置台を用いるとの周知慣用技術(以下、「周知慣用技術C」という。)を適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
(予備的な主張)訂正前の本件発明1及び2は、甲第2号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明を組み合わせて、また、上記周知慣用技術A、上記周知慣用技術B及び上記周知慣用技術Cを適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
3.無効理由3(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、甲第3号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明を組み合わせて、また、上記周知慣用技術A及び上記周知慣用技術Bを適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
4.無効理由4(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、甲第4号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明を組み合わせて、上記周知慣用技術Bを適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
5.無効理由5(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、甲第5号証に記載された発明に、上記周知慣用技術Bを適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
6.無効理由6(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、レーザ加工のうち切断とマーキングは同じ除去という大分類に属する近縁の技術分野であるとの技術常識を踏まえれば、甲第6号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明を組み合わせて当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
7.無効理由7(進歩性違反)
訂正前の本件発明1及び2は、甲第7号証に記載された発明に甲第5号証に記載された発明を組み合わせて、上記周知慣用技術Cを適用することで当業者が容易に想到できるので、進歩性を有さない。
8.無効理由8(明確性違反)
訂正前の本件発明1には、「改質領域」なる用語が用いられているが、この「改質領域」の意味内容が明確でない。本件明細書を参酌すると、当該「改質領域」は多光子吸収によって形成されるものに限定して解釈されるが、訂正前の特許請求の範囲の文言からすると、そのように限定されているのか必ずしも明らかでない。よって、訂正前の本件発明1及び2は明確でない。
9.無効理由9(サポート要件違反)
本件明細書には、改質領域を多光子吸収によってのみ形成することが記載されており、他の方法で形成することについては開示されていないところ、訂正前の本件発明1の「改質領域」が多光子吸収によって形成されるものに限定されないから、訂正前の本件発明1及び2は、サポート要件に違反する。
10.無効理由10(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明には、多光子吸収によって改質領域を形成する旨が記載されているが、この多光子吸収による改質領域をどのようにして形成するのか、具体的に記載されておらず、当業者は実施することができない。本件明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の本件発明1及び2の「改質領域」の形成方法について、当業者が理解できるように記載されていないから、実施可能要件に違反する。
11.証拠方法
請求人は、証拠方法として、審判請求書に甲第1号証ないし甲第8号証を添付して提出し、請求人口頭審理陳述要領書(その2)に甲第9号証を添付して提出し、令和2年8月24日付け請求人上申書に甲第10号証及び甲第11号証を添付して提出し、令和3年5月18日付け弁駁書に甲第12号証ないし甲第26号証を添付して提出した。
甲第1号証 : 特開平11-163403号公報
甲第2号証 : 特開昭50-131458号公報
甲第3号証 : 特開昭50-64898号公報
甲第4号証 : 特開平11-71124号公報
甲第5号証 : 特開平4-111800号公報
甲第6号証 : 特開平11-138896号公報
甲第7号証 : 国際公開第00/32349号公報及び抄訳文
甲第8号証 : 特開平9-45636号公報
甲第9号証 : 特許第3449201号公報
甲第10号証: 平成30年(ワ)第28929号原告第19準備書面
甲第11号証: 特開平11-177137号公報
甲第12号証: 岡部孝夫、他著、「シリコン結晶とドーピング」、丸善株式会社、昭和61年6月25日、p.64-67
甲第13号証: 岸野正剛著、「超LSI材料・プロセスの基礎」、株式会社オーム社、昭和62年12月25日、p.12-17
甲第14号証: 特開平11-238903号公報
甲第15号証: 原央編、「ULSIプロセス技術」、株式会社培風館、1997年6月10日、p.268-275
甲第16号証: 特願2002-329878号の平成20年6月26日付け拒絶理由通知
甲第17号証: 特願2002-329878号の平成20年8月30日提出の意見書
甲第18号証: 特開平3-276662号公報
甲第19号証: 特開昭53-108276号公報
甲第20号証: 特開昭61-30049号公報
甲第21号証: 特開平11-224864号公報
甲第22号証: 特開昭53-114347号公報
甲第23号証: 特開平9-260310号公報
甲第24号証: 特開平6-120334号公報
甲第25号証: 特開平4-37492号公報
甲第26号証: 特願2011-204200号の平成25年7月29日提出の意見書
第5 答弁の趣旨、被請求人の主張の概要及び証拠方法
答弁の趣旨は、「本件審判の請求は成り立たない」というものであり、被請求人は、以下の理由から、請求人が主張する無効理由は、いずれも成り立たない、と主張している。
1.無効理由1(進歩性違反)について
甲第1号証には、請求人が主張する甲1発明は記載されておらず、甲第1号証に「半導体ウエハーといい得るもの全般を加工対象とし得るレーザ加工機」の発明が記載されているといえないし、請求人が主張する甲1発明の「加工変質層」を「分離の起点となる加工変質層」ということはできない。
また、被請求人の示す甲1発明’において被請求人の示す相違点1-A及び相違点1-Eに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲1発明’の「サファイア基板に窒化物半導体を積層させた窒化物半導体ウエハーの内部に形成される加工変質層であるスクライブ・ライン」を「シリコンウェハの内部に形成される切断の起点となる改質領域」に変更すること)、甲1発明’において被請求人の示す相違点1-Bに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲1発明’の「レーザ光源」を、「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」を出射するものに特定すること)、甲1発明’において被請求人の示す相違点1-Cに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲1発明’の「集光用レンズ」を、「レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる」ように作用するものに特定すること)及び甲1発明’において被請求人の示す相違点1-Dに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲1発明’の「制御部」を、「隣り合う改質スポット間の距離が略一定となるように加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポットによって改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる」機能を有するものに特定すること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲1発明’において被請求人の示す相違点1-Fに係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲1発明’を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
2.無効理由2(進歩性違反)について
甲第2号証に「加工対象物の内部に、分割の起点となるスクライブ溝を形成する」(構成a)という機能を有するレーザ加工装置の発明が記載されているとはいえず、甲2発明は、少なくとも構成a’(「ウェハ状の加工対象物の裏面に、分割の起点となるスクライブ溝を形成するレーザ加工装置であって、」という構成)のように特定するのが妥当である。
また、被請求人の示す甲2発明’において、被請求人の示す相違点2-0に係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲2発明’の「加工対象物の裏面に改質領域を形成」するという構成を、訂正前の本件発明1の「加工対象物の内部に改質領域を形成」するという構成に置換すること)、甲2発明’において、被請求人の示す相違点2-1に係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲2発明’の「レーザ光源」を、「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」を出射するものに特定すること)及び甲2発明’において被請求人の示す相違点2-2に係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲2発明’を、「1パルスのパルスレーザ光の照射により」、「改質スポット」を「複数」形成し、「複数の改質スポットによって」改質領域を形成するものとすること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、請求人の予備的主張について、請求人は甲第1号証の実施例1と実施例2の記載を根拠に甲第1号証に請求人のいう甲1発明Aが記載されている旨主張しているが、甲1発明Aの認定が誤っているし、甲2発明’には、「加工対象物の裏面に改質領域を形成」するという構成を「加工対象物の内部に改質領域を形成」するという構成に置換することに対する阻害要因がある。
また、甲2発明’において被請求人の示す相違点2-Aに係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲2発明’を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
3.無効理由3(進歩性違反)について
甲第3号証には、請求人が主張するような甲3発明は記載されていない。
また、被請求人の示す甲3発明’において、被請求人の示す相違点3-Aに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲3発明’における「加工対象物の表面及び裏面に、そのいずれかが分割の起点となる相互に対向する溝(15及び16)を形成する」という構成を訂正前の本件発明1の「加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する」という構成に置換すること)、甲3発明’において、被請求人の示す相違点3-Bに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲3発明’の「レーザ光源」を、「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」を出射するものに特定すること)、甲3発明’において被請求人の示す相違点3-Cに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲3発明’の「集光用レンズ」を、「レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる」ように作用するものに特定すること)及び甲3発明’において被請求人の示す相違点3-Dに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲3発明’の「制御部」を、「隣り合う改質スポット間の距離が略一定となるように加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポットによって改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる」機能を有するものに特定すること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲3発明’において被請求人の示す相違点3-Eに係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲3発明’を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
4.無効理由4(進歩性違反)について
甲第4号証は、確定した審決(無効2005-80166号、乙第4号証)において、記載されている実施例が実施不可能であるとして、引用例としての適格性が否定された文献である。
また、仮に引用例と認定できるものであるとしても、甲4発明において、請求人のいう相違点4-3に係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲4発明の加工対象物(破断開封用アンプルであるガラス物体)をシリコンウェハに置換すること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲4発明において被請求人が示す相違点4-5’に係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲4発明を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
5.無効理由5(進歩性違反)について
甲第5号証には、少なくとも、「加工対象物の内部に形成する連続的なクラックが、切断の起点となる(構成a)」旨の記載はない。
また、被請求人の示す甲5発明’において、被請求人の示す相違点5-aに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲5発明’における「厚板の合成石英ガラスの内部に、底面(レーザ光入射面とは反対側の面)から上面(レーザ光入射面)に亘って連続的なクラックを形成することによって、前記厚板の合成石英ガラスを切断する」という構成(構成a’)を訂正前の本件発明1の「シリコンウェハの内部に、切断の起点となる改質領域を形成する」という構成に置換すること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲5発明’において被請求人の示す相違点5-5’に係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲5発明’を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
6.無効理由6(進歩性違反)について
甲第6号証には、請求人が主張する甲6発明の構成のうち、少なくとも、「微小亀裂群を形成するレーザ加工装置」、「微小亀裂を形成させる集光光学系」は記載されておらず、「微小亀裂」という用語は、段落【0022】で使用されている「光学的損傷」のような用語に修正されるのが妥当である。
また、被請求人の示す甲6発明’において、被請求人の示す相違点6-aに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲6発明’における「マーキングとなる光学的損傷を形成する」という構成を訂正前の本件発明1の「切断の起点となる改質領域を形成する」という構成に置換すること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲6発明’において被請求人の示す相違点6-5’に係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲6発明’を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
7.無効理由7(進歩性違反)について
甲第7号証には、多数の発明が記載されているが、少なくとも、請求人がいう構成aと構成cと構成eと構成fとを備えた「レーザ加工装置」の発明、すなわち、「シリコンウェハの内部に切断の起点となる光学破壊群を形成するレーザ加工装置」の発明は記載されてはいない。
また、被請求人の示す甲7発明’において、被請求人の示す相違点7-aに係る訂正前の本件発明1の構成を採用すること(甲7発明’における「マーキングとなる光学的損傷を形成する」という構成を訂正前の本件発明1の「切断の起点となる改質領域を形成する」という構成に置換すること)は、当業者が容易に想到し得たことではない。
また、甲7発明’において被請求人の示す相違点7-5’に係る訂正前の本件発明2の構成を採用すること(甲7発明’を、「前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度と少なくとも一方を調整することで、前記改質スポットの間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する」という構成を有するものとすること)も、当業者が容易に想到し得たことではない。
8.無効理由8(明確性違反)について
訂正前の本件発明1、2でいう「改質領域」は、その字義からも、訂正前の特許請求の範囲の文脈からも、本件明細書の記載からも、「質が改められた領域」を指すものとして明確である。請求人は、「改質領域」が、本件明細書を参酌すると多光子吸収によって形成されるものに限定して解釈されることを前提に、訂正前の特許請求の範囲でいう「改質領域」が不明確である旨主張しているが、本件明細書に、「多光子吸収により改質領域を形成している」等の「多光子吸収」に関する記載があることは事実であるが、それらの記載における「多光子吸収」についての記載は、いずれも、加工対象物を透過する波長のレーザ光により加工対象物の内部に改質領域が形成される原理あるいはその際に発生していると考えられた現象を表す記載であると理解されるものであり、「改質領域」の定義を示すものとは理解されないものであり、本件明細書を参酌したとしても、「改質領域」を「多光子吸収によって形成されるもの」に限定して解釈すべき理由はない。
9.無効理由9(サポート要件違反)について
特許請求の範囲がサポート要件を満たしているか否かは、「請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否か」により判断されるべきものであるところ、訂正前の本件発明1、2の課題は、本件明細書の段落【0005】に記載されるように、「加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供することである。」であり、本件明細書の段落【0007】の「加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると、加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。本件発明に係るレーザ加工装置によれば、改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより、加工対象物を切断することができる。よって、比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので、加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。」という記載や、【0008】の「加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、加工対象物の表面が溶融することはない。」という記載等に照らせば、その課題が、訂正前の特許請求の範囲に記載された「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する」という構成を備えることで解決できることは、当業者が当然に認識し得ることである。
また、請求人は、「発明の詳細な説明には、『改質領域』が多光子吸収によって形成されるものに限定された発明しか記載されていない」旨主張しているが、本件明細書の上記段落【0007】、【0008】の記載等に照らせば、訂正前の本件発明1、2の課題が、訂正前の特許請求の範囲に記載された「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する」という構成を備えることで解決できることは、当業者が当然に認識し得ることであるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、「改質領域」が多光子吸収によって形成されるものに限定されない発明が記載されているということができる。
よって、訂正前の本件発明1、2は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものではなく、訂正前の本件特許発明1、2がサポート要件を満たしている。
10.無効理由10(実施可能要件違反)について
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているか否かは、「当業者が、明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、請求項に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できるか否か(請求項に係る発明が物の発明の場合には、「その物を作れ、かつ、その物を使用できるか否か)」で判断すべきであるところ、当業者が訂正前の本件発明1、2に係る発明を実施しようとした場合に、本件明細書及び図面に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、どのように実施するかを理解できない点(請求項に係るレーザ加工装置を作れない点や使用できない点)はなく、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。
請求人は「改質領域の形成方法」の実施を問題にしているが、本件明細書の段落【0025】-【0031】には、どのようにすればシリコンウェハの内部に改質領域を形成することができるかが明確に記載されており、その記載に基づけば、訂正前の本件発明1、2でいう「改質領域を形成するレーザ加工装置」を作り、かつ使用することができることは明らかである。
11.証拠方法
被請求人は、証拠方法として、答弁書に乙第1号証の1-乙第1号証の6及び乙第2号証ないし乙第6号証を添付した。
乙第1号証の1:「電子材料」2002年9月号抜粋(目次、17-21頁)
乙第1号証の2:「電子材料」2002年9月号抜粋(22-23頁)
乙第1号証の3:「レーザー学会産業賞『優秀賞』受賞」で始まる文書
乙第1号証の4:「浜松ホトニクス 透過性パルスレーザーの内部集光による切断加工システム」と題する文書
乙第1号証の5:「機械振興賞 受賞者 業績概要詳細」と題する文書
乙第1号証の6:パテントリザルト ウェブサイト「レーザー加工技術 特許総合ランキング力トップ3は浜松ホトニクス、ディスコ、三菱電機」
https://www.patentresult.co.jp/news/2018/07/laserprotech.html
乙第2号証 :ダイヤモンド・スクライブツールを利用した「スクライブ」とは「テクダイヤ」技術向上ブログ
https://tecdlab.com/2018/05/09/dictionary-%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%92%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%8C/
乙第3号証 :レーザ加工の基礎知識 | 製造/建設エンジニアの情報サイト「Tech Note」(https://www.ipros.jp/technote/basic-laser-processing/)
乙第4号証 :特許審決公報(無効2005-80166)
乙第5号証 :「半導体ウエハとガラスの切断メカニズムの説明」と題する文書
乙第6号証 :レーザ加工学会ウェブサイト「レーザAtoZ」
http://www.jlps.gr.jp/laser/atoz/2/
第6 当審無効理由通知及び審決予告の無効理由の概要
令和2年9月8日付け当審無効理由通知及び令和3年2月4日付け審決予告で通知した無効理由の概要は、次のとおりである。
訂正前の本件発明1及び2は、本件特許に係る原出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許に係る原出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献1(甲第11号証):特開平11-177137号公報
引用文献2(甲第6号証):特開平11-138896号公報
引用文献3(甲第7号証):国際公開第00/32349号公報
第7 甲第11号証の記載及び甲第1号証ないし甲第8号証の記載
甲第11号証は、当審無効理由通知及び審決予告において主引用例として提示した文献であり、甲第1号証ないし甲第7号証は、請求人が上記第4の無効理由1ないし7で、進歩性違反の根拠として提示した文献である。
1.甲第11号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である平成11年7月2日に頒布された甲第11号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子の製造方法であって、
前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し少なくとも該第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板(101)に溝部(103)を形成する工程と、
該溝部(103)にブレイク・ライン(104)をレーザー照射により形成する工程と、
前記ブレイク・ライン(104)に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。
・・・
【請求項3】前記ブレイク・ラインは基板(101)の溝部底面に形成された凹部(104)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】前記ブレイク・ラインは基板(201)内部に形成された加工変質部(204)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
・・・」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード、さらには高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり、特に、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法に関する。」
(3)「【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きく熱膨張率も異なる。また、サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質上へき開性を有していない。
さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い物質である。
【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーのみで切断することは困難であった。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導体層が部分的に剥離する場合があった。
【0007】そのため窒化物半導体ウエハーは所望のチップごとに分割する方法として特開平8-274371号などに記載されているようにダイヤモンドスクライバーやダイサーを組み合わせて使用する方法が考えられている。具体的一例として、図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子を製造する工程を示す。図5(A)は、サファイア基板501上に窒化物半導体502が形成された半導体ウエハー500を示す。図5(B)はサファイア基板501の下面側から窒化物半導体502に達しない深さでダイサー(不示図)による溝部503を形成する工程を示す。図5(C)は、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成する工程を示す。図5(D)は、スクライブ工程の後、半導体ウエハー500をチップ状510に分離する分離工程を示してある。これにより、切断面のクラック、チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、あらかじめダイサーなどで半導体ウエハー500の厚みを部分的に薄くさせた溝部503を形成し、溝部503にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成させる場合、ダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触しなければならない。
【0009】即ち、通常ダイサーの円盤幅よりもダイヤモンドスクライバーの刃先の方が大きい。そのため図6の如く、ダイヤモンドスクライバーの刃先601が半導体ウエハー500に形成された溝部503の底面に届かない場合がある。この状態でスクライバーを駆動させると半導体ウエハーの平面では図7の如き、所望のスクライブ・ライン703が形成されず歪んだスクライブ・ライン704が形成される傾向にある。これらを防止する目的でダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触するためにはダイサーで形成した溝部503の幅を広くする必要がある。溝部503が広くなると半導体ウエハーからの半導体素子の採り数が減少する。
【0010】他方、溝の幅を狭くした場合は刃先が溝の底に接触させるために溝部503の深さを浅くする必要がある。溝部503を浅くすると半導体ウエハーの分離部の厚みが厚くなり半導体ウエハーを正確に分離することが困難になる傾向がある。したがって、何れも正確により小さい窒化物半導体素子を形成することができないという問題があった。
【0011】より小さい窒化物半導体素子を正確に量産性よく形成させることが望まれる今日においては上記切断方法においては十分ではなく、優れた窒化物半導体素子の製造方法が求められている。窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性等を向上させることができる。しかも、1枚の半導体ウエハーから多くの半導体素子を得ることができるため生産性をも向上させられる。
【0012】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とする。」
(4)「【0019】
【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する場合において半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができることを見いだし本発明を成すに到った。
【0020】本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。」
(5)「【0022】本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考えられる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。以下、本発明の製造方法例について説明する。」
(6)「【0023】半導体ウエハーとして、LD(laser diode)となる構成の窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。具体的には、スピネル基板上に、GaNのバッファー層、n型GaNのコンタクト層、n型AlGaNのクラッド層、n型GaNの光ガイド層、SiをドープしInの組成を変化させた多重量子井戸構造となるInGaNの活性層、p型AlGaNのキャップ層、p型GaNの光ガイド層、p型AlGaNのクラッド層及びp型GaNのコンタクト層が積層されている。この半導体ウエハーのスピネル基板側をウエットエッチングにより半導体ウエハー表面に溝部を縦横に形成させる。CO2レーザーを溝部の底面に照射してスピネル基板内部に加工変質部としてブレイク・ラインを溝部に沿って縦横に形成させた。ブレイク・ラインに沿ってローラーによる加圧により窒化物半導体素子として分離させる。分離された窒化物半導体素子は何れも端面が綺麗に形成されている。以下、本発明の工程に用いられる装置などについて詳述する。
【0024】(窒化物半導体ウエハー)窒化物半導体ウエハーとしては、基板上に窒化物半導体層が形成されたものである。窒化物半導体の基板としては、サファイア、スピネル、炭化珪素、酸化亜鉛や窒化ガリウム単結晶など種々のものが挙げられるが量産性よく結晶性の良い窒化物半導体層を形成させるためにはサファイア基板、スピネル基板などが好適に用いられる。サファイア基板などは劈開性がなく極めて硬いため本発明が特に有効に働くこととなる。」
(7)「【0033】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる照射部が選択的に飛翔する或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質部になると考えられる。また、本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。」
(注)「マイクロ・クロック」は「マイクロ・クラック」の誤記と認める。
(8)「【0034】(レーザー加工機)本発明に用いられるレーザー加工機としては、ブレイク・ラインとなる凹部、加工変質部などが形成可能なものであればよい。具体的には、YAGレーザー、CO2レーザーやエキシマ・レーザーなどが好適に用いられる。特に、YAGレーザーは熱の変質が少なくブレイク・ラインを形成することができる。また、CO2レーザーはパワーを挙げることができるため切断能力に優れる。
【0035】レーザー加工機によって照射されるレーザーはレンズなどの光学系により所望により種々に焦点を調節させることができる。したがって、レーザー照射により半導体ウエハーの任意の焦点に窒化物半導体を損傷させることなく凹部、加工変質部などを形成させることができる。また、レーザーの照射面は、フィルターを通すことなどにより真円状、楕円状や矩形状など所望の形状に調節させることもできる。
【0036】レーザー加工機によるブレイク・ラインの形成にはレーザー照射装置自体を移動させても良いし照射されるレーザーのみミラーなどで走査して形成させることもできる。さらには、半導体ウエハーを保持するステージを上下、左右、90度回転など種々駆動させることにより所望のブレイク・ラインを形成することもできる。以下、本発明の実施例について詳述するが実施例のみに限定されるものでないことは言うまでもない。」
(注)【0034】の「パワーを挙げる」は「パワーを上げる」の誤記と認める。
(9)「【0037】
【実施例】(実施例1)厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板101としてMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成させた。窒化物半導体は基板を分割した後に発光素子110として働くよう多層膜として成膜させた。まず、510℃において原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス、TMG(トリメチルガリウム)ガス及びキャリアガスである水素ガスを流すことにより厚さ約200オングストロームのバッファー層を形成させた。
・・・
【0042】半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝部が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層が形成された半導体ウエハーを用いる。なお、エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。また、pn各半導体層には、電極120がスパッタリング法により形成されている(図1(A))。
【0043】こうして形成された窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板101を100μmまで研磨した後、半導体ウエハー100のサファイア基板面111が上になるように水平方向に自由駆動可能なテーブル上に真空チャックを用いて固定させた。ブレード回転数30,000rpm、切断速度3mm/secでステージを移動させることによりサファイア基板101の底面に幅約30μm、深さ約15μmの溝を縦横に形成し溝部103とさせる。溝部103は、窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板露出面側111から見るとエッチング面130と略平行に形成されておりそれぞれがその後に窒化物半導体素子となる300μm角の大きさに形成させてある(図1(B))。
【0044】次に、ダイサーの刃先など駆動部のみレーザー(356nm)が照射可能なYAGレーザー照射装置と入れ替えた(不示図)。窒化物半導体ウエハー100の固定は維持したままレーザーの焦点を窒化物半導体ウエハーの溝部103底面に結ばれるようレーザーの光学系を調節させる。調節したレーザー光線を16J/cm2で照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿って深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する(図1(C))。
【0045】ブレイク・ラインに沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ、窒化物半導体ウエハー100を切断分離することができる。分離された窒化物半導体素子110の端面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子を形成することができる(図1(D))。」
(10)「【0048】(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。
【0049】ブレイク・ラインの形成を溝部203底面でなく基板201内面に形成させても実施例1のLEDチップとほぼ同様の歩留りを形成することができる。」
(11)「【0062】(実施例5)実施例1のYAGレーザーの照射の代わりにエキシマ・レーザーを用いた以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離してLEDチップを形成させた。実施例1と同様、形成されたLEDチップの分離端面はいずれも発光可能でありチッピングやクラックのない綺麗な面を有している。」
上記の記載事項及び図2から、甲第11号証について、次の認定事項が理解できる。
【図2】
[図:0001396542000001.jpg]
(12)上記(10)の記載事項の「(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。」との記載から、レーザー光学系の焦点深さの調整以外の点では、実施例1と実施例2とは同じであること、すなわち、レーザー光学系の焦点深さの調整以外の点では、実施例1についての説明の記載が実施例2の説明についても当て嵌まることが理解できる。
(13)上記(9)及び(10)の記載事項及び図2(C)から、甲第11号証の実施例2では、半導体ウエハー200の基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成されるとともに、ブレイク・ライン204が溝部203の底面よりも内部側に溝部203に沿って形成されており、ブレイク・ライン204が基板201の表面に露出していないことが理解できる。
また、上記(9)の記載事項から、実施例2は、実施例1と同様に、ブレイク・ラインに沿って、ローラーにより荷重をかけて基板を切断分離するものであるから、基板201の内部側のブレイク・ライン204が、基板の切断分離に関与するものであることが理解できる。
(14)図2(A)ないし(D)から、実施例2では、半導体ウエハー200は、基板201上に島状窒化物半導体202が形成されているが、半導体ウエハー200の切断分離は、基板201上に島状窒化物半導体202がない箇所でなされていることが看取できる。すなわち、ブレイク・ライン204により、基板201のみが切断分離されていることが理解できる。
(15)図2(C)及び(D)の断面図及びブレイク・ラインの字義に照らせば、当該ブレイク・ラインは割断に関与する線状のものと解されるところ、実施例2のブレイク・ライン204は、図2(C)の断面図において、溝部203に沿って紙面垂直方向に直線的に延びていることが理解できる。また、実施例1、2についての上記(8)及び(9)の記載事項を参酌すれば、レーザー加工機は、ブレイク・ライン204に沿ってYAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線の焦点を直線的に移動させる制御部を有することが理解できるから、加工変質部についても同様に直線的に延びていることが理解できる。
(16)上記(5)の記載事項及び図2(C)から、レーザー照射によって形成されるブレイク・ラインは、溝部の幅に比べて狭いものであり、極めて細いものであることが理解できる。
2.甲第1号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である平成11年6月18日に頒布された甲第1号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子(110)の製造方法であって、
前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し該第1の主面(111)側及び/又は第2の主面(121)側からレーザーを前記半導体ウエハー(100)を介して照射し少なくとも前記基板(101)の第2の主面(121)側及び/又は前記基板(101)の第1の主面(111)側に形成された焦点にスクライブ・ライン(103)を形成する工程と、
前記スクライブ・ラインに沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。」
・・・
【請求項3】前記スクライブ・ラインは基板露出面に形成された凹部(103)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。」
・・・
【請求項4】前記スクライブ・ラインは基板内部に形成された加工変質層(206)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード、更には高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり、特に、基板上に形成された窒化物半導体素子の製造方法に関する。」
(3)「【0003】通常、GaAs、GaPやInGaAlAsなどの半導体材料が積層された半導体ウエハーは、チップ状に切り出され赤色、橙色、黄色などが発光可能なLEDチップなどの半導体素子として利用される。半導体ウエハーからチップ状に切り出す方法としては、ダイサー、やダイヤモンドスクライバーが用いられる。ダイサーとは刃先をダイヤモンドとする円盤の回転運動によりウエハーをフルカットするか、又は刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット)、外力によりカットする装置である。一方、ダイヤモンドスクライバーとは同じく先端をダイヤモンドとする針などにより半導体ウエハーに極めて細い線(スクライブ・ライン)を例えば碁盤目状に引いた後、外力によってカットする装置である。GaPやGaAs等のせん亜鉛構造の結晶は、へき開性が「110」方向にある。そのため、この性質を利用してGaAs、GaAlAs、GaPなどの半導体ウエハーを比較的簡単に所望形状に分離することができる。
【0004】しかしながら、窒化物半導体を利用した半導体素子は、GaP、GaAlAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP、GaPやInGaAlAsなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒化物半導体の単結晶膜を得るためには、MOCVD法やHDVPE法などを用いサファイアやスピネル基板など上にバッファー層を介して形成させることが行われている。サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層を所望の大きさに切断分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければならない。
【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きい。また、サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質上へき開性を有していない。さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い物質である。
【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーで切断することは困難であった。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導体層が部分的に剥離する場合があった。
【0007】窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性や効率を向上させることができる。しかも、1枚の半導体ウエハーから多くの半導体チップを得ることができるため生産性をも向上させられる。
【0008】そのため窒化物半導体ウエハーはダイヤモンドスクライバーやダイサーを組み合わせて所望のチップごとに分離することが行われている。チップごとの分離方法として特開平8-274371号などに記載されている。具体的一例として、図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子の製造方法を示す。サファイア基板(501)上に窒化物半導体層(502)が形成された半導体ウエハー(500)を図5(A)に示している。サファイア基板下面側から窒化物半導体層に達しない深さでダイサー(不示図)による溝部(509)を形成する工程を図5(B)に示している。溝部(509)にスクライブ・ライン(507)を形成する工程を図5(C)に示してある。スクライブ工程の後半導体ウエハー(500)をチップ状の半導体発光素子(510)に分離する分離工程を図5(D)に示してある。これにより、切断面のクラック、チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。」
(4)「【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、半導体ウエハーの一方のみにスクライブ・ラインなどを形成させると分離時に他方の切断面にクラック、チッピングが発生しやすい傾向にある。分離された窒化物半導体素子の一表面形状は揃えることが可能であるが、窒化物半導体素子の他方の表面形状ではバラツキが発生し、半導体ウエハーにクラックやチッピングが生じやすい。したがって、半導体ウエハーを分離するときに、スクライブ・ライン形成面側から形成されていない半導体ウエハー面側への割れかたを制御し完全に窒化物半導体素子の形状を揃えて切断することは極めて難しいという問題を有する。
【0010】他方、半導体ウエハーの両面にスクライブ・ラインを形成させ窒化物半導体ウエハーの割れ方を制御することは可能である。しかし、窒化物半導体ウエハーの両主面にスクライブ・ラインを形成するには半導体ウエハーをゴミの付着などを防止しつつ、ひっくり返し再度固定する工程が必要となり極めて量産性が悪くなる。また、サファイア基板上に形成された窒化物半導体の半導体ウエハー硬度は極めて高くダイヤモンドスクライバーのカッター刃先などの消耗、劣化が多くなり加工精度のバラツキ、刃先交換の為の製造コストが発生する。さらには、ダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ラインを形成させると刃先の磨耗に応じてダイヤモンドスクライバーの加重を変えなければならない。また、ダイヤモンドスクライバーによりスクライブ・ラインを形成させるためにはそのダイヤモンドの刃先ごとに適した角度で接触させなければならず極めて量産性が悪いという問題を有する。」
(5)「【0013】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをチップ状に分離するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留まりよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成する製造方法を提供することを目的とするものである。」
(6)「【0022】即ち、本発明の方法により窒化物半導体素子の分離ガイドとなるスクライブ・ラインを窒化物半導体層を損傷することなく窒化物半導体ウエハーを透過してレーザー照射面側以外の任意の点に形成することができる。特に、同一面側から窒化物半導体素子に悪影響を引き起こすことなく半導体ウエハーの両面を比較的簡単に加工することができる。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0023】半導体ウエハーとして、LD(laser diode)となる構成の窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。具体的には、スピネル基板上に、GaNのバッファー層、n型GaNのコンタクト層、n型AlGaNのクラッド層、n型GaNの光ガイド層、SiをドープしInの組成を変化させた多重量子井戸構造となるInGaNの活性層、p型AlGaNのキャップ層、p型GaNの光ガイド層、p型AlGaNのクラッド層及びp型GaNのコンタクト層が積層されている。この半導体ウエハーのスピネル基板側からCO2レーザーを照射して窒化物半導体層とスピネル基板の界面に加工変質層をスクライブ・ラインとして形成させた。スクライブ・ラインと略平行にダイサーによりスピネル基板上に溝を形成させる。ローラーにより溝に沿って加圧することで窒化物半導体素子を形成させた。分離された窒化物半導体素子は何れも端面が綺麗に形成されている。以下、本発明の工程に用いられる装置などについて詳述する。
」
(7)「【0024】(窒化物半導体ウエハー100、200、300、400)窒化物半導体ウエハー100、200、300、400としては、基板101上に窒化物半導体102が形成されたものである。窒化物半導体102の基板101としては、サファイア、スピネル、炭化珪素、酸化亜鉛や窒化ガリウム単結晶など種々のものが挙げられるが量産性よく結晶性の良い窒化物半導体層を形成させるためにはサファイア基板、スピネル基板などが好適に用いられる。サファイア基板などは劈開性がなく極めて硬いため本発明が特に有効に働くこととなる。窒化物半導体は基板の一方に形成させても良いし両面に形成させることもできる。」
(8)「【0030】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる照射部が選択的に飛翔した凹部103、403或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質層206、308になると考えられる。また、第1の主面側、第2の主面側とは加工分離される半導体ウエハーの総膜厚を基準として、総膜厚の半分からその第1の主面或いは第2の主面に向けての任意の位置を言う。したがって、半導体ウエハーの表面でも良いし内部でも良い。さらに、本発明は第1の主面側及び/又は第2の主面側のレーザー加工に加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。
【0031】(レーザー加工機)本発明に用いられるレーザー加工機としては、窒化物半導体ウエハーが分離可能な溝、加工変質層などが形成可能なものであればよい。具体的には、CO2レーザー、YAGレーザーやエキシマ・レーザーなどが好適に用いられる。
【0032】レーザー加工機によって照射されるレーザーはレンズなどの光学系により所望により種々に焦点を調節させることができる。したがって、同一方向からのレーザー照射により半導体ウエハーの任意の焦点に窒化物半導体を損傷させることなく溝、加工変質層などを形成させることができる。また、レーザーの照射面は、フィルターを通すことなどにより真円状、楕円状や矩形状など所望の形状に調節させることもできる。」
(注)【0030】の「マイクロ・クロック」は「マイクロ・クラック」の誤記と認める。
(9)「【0044】(実施例2)実施例1と同様にして形成させた半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層205が形成された半導体ウエハーを用いる。なお、エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。また、pn各半導体層には、電極220がスパッタリング法により形成されている(図2(A))。
【0045】この半導体ウエハー200を実施例1と同様のレーザー加工機に固定配置させた。実施例2においてもレーザー加工機からのレーザーを窒化物半導体ウエハーの窒化物半導体205側から照射し、焦点がサファイア基板201の底面から20μmのサファイア基板内部に結ばれるようにレーザー光学系を調整する。調整したレーザー光線を16J/cm2で照射させながらステージを移動させることによりサファイア基板の底面付近の基板内部に加工変質層206となるスクライブ・ラインを形成する(図2(B))。
【0046】次に、レーザー光学系(不示図)を調整し直し、焦点がエッチングにより露出されたサファイア基板201の上面(窒化物半導体の形成面側)に結ばれるように調整した。調整したレーザーを照射させながらステージを移動させることにより、半導体ウエハーに窒化物半導体層側の上面からサファイア基板に達する溝部を形成する。形成された溝部204は、加工変質層206とサファイア基板201を介して略平行に形成させてある。なお、レーザー照射により形成されたサファイア基板201上の溝部204は、溝部の底面とサファイア基板の底面との間隔が、約100μmで、ほぼ均一になるように調整してある。さらに、レーザー光学系を調節し直し、焦点がサファイア基板201に設けられた溝部底面に結ばれるよう調節した。調節したレーザーを14J/cm2で照射させながらステージを移動させることにより、窒化物半導体が形成されたサファイア基板の露出面に設けられた溝部204の底面に深さ約3μmのスクライブ・ライン207を形成する(図2(C))。
【0047】続いて、溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーによって荷重をかけ半導体ウエハーを切断し、LEDチップ210を分離させた(図2(D))。
【0048】こうして形成されたLEDチップに電力を供給したところいずれも発光可能であると共に切断端面にはチッピングが生じているものはほとんどなかった。歩留まりは98%以上であった。
【0049】実施例2では半導体ウエハーの片面側からレーザーにより基板表裏両面にスクライブ・ラインを形成することで、厚みがある窒化物半導体ウエハーでもスクライブ・ラインに沿って簡単に窒化物半導体素子を分割するることが可能となる。また、溝の形成される部分が、サファイア基板までエッチングされているため、溝形成による窒化物半導体への損傷がより少なく分離させた後の窒化物半導体素子の信頼性を向上させることが可能である。特に、スクライブ・ラインが形成されるとき、レーザーの焦点がサファイア基板内部で結ばれていることから、半導体ウエハーを固定している、テーブル若しくは粘着性シートを損傷することなく加工が実現できる。また、レーザー照射による加工くずの発生もない。なお、全てをレーザー加工でなく溝の形成をダイサーで行っても本発明と同様に量産性良く窒化物半導体素子を形成することができる。」
(10)「【0053】実施例3においてはレーザー加工機(不示図)からのレーザーを窒化物半導体ウエハー300の窒化物半導体302が形成されていないサファイア基板301面側(基板露出面側)から照射し、焦点が窒化物半導体302とサファイア基板301の界面に結ばれるようにレーザー光学系を調整しする。ステージを駆動させながらレーザーを照射することにより窒化物半導体302及び窒化物半導体と接したサファイア基板301界面近傍に加工変質層308であるスクライブ・ラインを縦横に第1のスクライブ・ラインとして形成する(図3(B))。
【0054】次に、レーザー加工機のレーザー照射部のみダイシングソー(不示図)と入れ替え窒化物半導体ウエハーの固定を維持したままダイサーによりブレード回転数30,000rpm、切断速度3mm/secで窒化物半導体が積層されていないサファイア基板底面側から窒化物半導体面に達しない溝部309を形成した。ダイサーにより形成された溝部は、縦横とも加工変質層308と略平行に設けられ溝部309の底面とサファイア基板底面との間隔が、50μmでほぼ均一になるように形成させる。さらに、ダイシングソーをレーザー加工機と入れ替えレーザーの焦点をダイサーにより形成された溝部309の底面に合わせる。レーザー照射により、サファイア基板301に形成された溝部309の底面に深さ約3μmの第2のスクライブ・ライン307を形成する(図3(C))。
【0055】第2のスクライブ・ライン307に沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ窒化物半導体ウエハーを切断分離し窒化物半導体素子310を形成させた(図3(D))。こうして形成された窒化物半導体素子の切断端面にはチッピングが生じているものはほとんどなかった。」
(11)「【0064】(実施例5)実施例1のYAGレーザーの照射の代わりにエキシマ・レーザーを用いた以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離してLEDチップを形成させた。実施例1と同様半導体ウエハーを分離させるときに半導体ウエハーを裏返すことなく分離することができる。また、形成されたLEDチップの分離端面はいずれも発光可能でありチッピングやクラックのない綺麗な面を有している。
【0065】(比較例1)レーザー加工の代わりにダイヤモンドスクライバーにより繰り返し3回スクライブした以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離させた。比較例1の分離された窒化物半導体素子は部分的にクラックが生じていた。また、割れが生じ約84%以下の歩留まりであった。なお、半導体ウエハーの両面にスクライブ・ラインやダイサーによる溝を形成させるためにひっくり返すなどの手間がかかり作業性が極めて悪く約1.5倍の時間が掛かった。
【0066】
【発明の効果】本発明の窒化物半導体素子の製造方法では、レーザー源から照射したレーザーをレンズなどの光学系で集光することにより、所望の焦点付近でエネルギーを集中させることができる。このエネルギー密度が非常に高くなった焦点でワークの加工がなされる。特に、窒化物半導体ウエハーを透過したレーザーの焦点を利用する。不要な分離部となる窒化物半導体ウエハーに光学系で調整したレーザーを照射し、必要な窒化物半導体層の損傷をすることなく窒化物半導体ウエハーのレーザー照射面に対して半導体ウエハーの反対側の面まで自由に加工を行うことが可能となる。
【0067】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーを透過した所望の焦点での加工を利用することにより、窒化物半導体ウエハーを両面側から加工する必要がなく、片側からのみの加工で窒化物半導体ウエハーの表裏両面から加工したのと同じ効果を得ることができる。したがってより歩留まりを向上させ、且つ形状にバラツキが少ない窒化物半導体素子及びその量産性の良い製造方法を提供することができる。」
(12)上記(8)ないし(11)の記載から、甲第1号証において、レンズなどのレーザー光学系で集光することにより、その集光点の位置で加工変質層206、308が形成されることが理解できる。
(13)上記(9)の段落【0047】の「続いて、溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーによって荷重をかけ半導体ウエハーを切断し、LEDチップ210を分離させた(図2(D))。」との記載及び(10)の段落【0055】の「第2のスクライブ・ライン307に沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ窒化物半導体ウエハーを切断分離し窒化物半導体素子310を形成させた(図3(D))。」との記載から、甲第1号証において、スクライブ・ラインは、半導体ウエハーを切断して分割するための切断予定ラインに沿うものであり、直線的なラインであることが理解できる。
そして、上記(9)の段落【0045】及び(10)の段落【0053】から、加工変質層206、308はスクライブ・ラインであり、ステージを駆動させながらレーザーを照射し、半導体ウエハーの分離予定ラインに沿ってレーザーの集光点を直線的に移動させて制御することで、スクライブ・ラインである加工変質層206、308を形成していることが理解できる。
3.甲第2号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である昭和50年10月17日に頒布された甲第2号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「特許請求の範囲
半導体結晶ウェーハの表面方向からレーザー光を照射し、半導体結晶ウェーハの裏面近傍に焦点を結び、半導体結晶ウェーハの裏面を加工することを特徴とする半導体ウェーハの加工法。」(第1ページ左下欄第5-9行)
(2)「本発明の目的は半導体結晶の表面・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供するものである。本発明の他の目的はレーザースクライブにおけるペレット分割の歩留りを向上させることにある。」(第1ページ右下欄第19行-第2ページ左上欄第3行)
(3)「本発明の方法はレーザー光のエネルギーよりもエネルギー禁止帯幅が大きい半導体結晶ではレーザー光がほとんど吸収されずに裏面に到達することを用い、レーザー光の焦点を半導体結晶ウェーハの裏面近傍に結ぶことにより半導体結晶ウェーハの裏面を表面からのレーザー光照射で加工することである。」(第2ページ左上欄第4-10行)
(4)「本発明の実施例に用いられた半導体結晶はGaPであり、レーザー光はYAGレーザーである。GaPのエネルギー禁止帯幅は3.1eVであり、YAGレーザーの発振波長1.06μに相当するエネルギー約1.2eVよりも充分大きく、従ってレーザー光はほとんど吸収されずGap結晶を透過する。」(第2ページ左上欄第13-18行)
(5)「(111)面GaP単結晶基板11上にN型層12およびP型層13を形成したP-N接合をもったGaP結晶ウェーハに電極として表面に150μφの金、亜鉛、ニッケルから成るオーム性電極14を0.4mmの間隔で付加し、裏面には金とシリコン(2%)から成るオーム性電極15 3000Åを付加し、その上に金16を約1μ付加してある。」(第2ページ左上欄第20行-右上欄第6行)
(6)「第2図に光学レンズ51によって焦点を結ぶときの半導体結晶ウェーハ52とレーザー光焦点53の位置が示されている。第2図(a)は従来通常行なわれている表面からの加工における焦点位置であり、焦点は半導体結晶表面の近傍にある。第2図(b)は本発明の方法におけるレーザー光焦点53の位置であり、GaPの屈折率3.3を考慮し、半導体結晶ウェーハを約400μレンズに近づけて設定した。レーザー光の出力および半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れたときの溝の形状を調べた結果を表1に示す。」(第2ページ右上欄第8-18行)
(7)「上記(a)(b)の各方法でスクライブ溝を入れたウェーハをローラー式のブレーキング装置を用い、条件を一定にしてペレットに分割したとき、連ったペレットの割合は表2のように裏面からスクライブ溝を入れた(b)で少ない。(a)の方法で連ったペレットの多くはGaP結晶は割れており、裏面電極が連っていることが認められた。」(第2ページ左下欄第5-11行)
(8)甲第2号証において、上記(4)の記載事項から、レーザー光源がレーザー光を出射するYAGレーザーであることが認められる。また、当該レーザー光を出射してウェーハを加工するためには、レーザー加工装置が存在することは明らかであり、上記(6)の「半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として」との記載から、該レーザー加工装置が、半導体結晶ウェーハを載置する載置台を有することが推認できる。
(9)上記(6)及び(7)の記載事項から、第2図(b)は、光学レンズ51によって焦点を結ぶときのレーザー光焦点53の位置を示すとともに、裏面からスクライブ溝を入れた態様を示すものであるから、甲第2号証において、レーザー光焦点53の位置でスクライブ溝が形成されることが理解できる。
(10)上記(6)の記載事項から、甲第2号証において、レーザー加工装置は、「レーザー光の出力および半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れ」る制御部を備えていることが推認できる。
4.甲第3号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である昭和50年6月2日に頒布された甲第3号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「2.特許請求の範囲
レーザ発振器と、このレーザ発振器から照射されるレーザ光線を集光し被加工体に照射する集光光学系とを有し、被加工体内でレーザ光線の集光点を移動でき、被加工体を加工し得ることを特徴とするレーザスクライブ装置。」(第1ページ左下欄第3-8行)
(2)「本発明はレーザスクライブ装置に係り、特に透明な被加工体を容易に加工し得るレーザスクライブ装置に関する。」(第1ページ左下欄第10-12行)
(3)「そこで、サフアイヤ等の半導体基板を分割するためにレーザ光線を使用して従来の方法のごとく半導体基板の表面にレーザ光線を集光して溝をつけ、つまりスクライブして半導体基板を分割する方法ではサフアイヤがレーザ光線に対して透過性を有するため、レーザ光線を透過しない被加工物に比べ溝が浅くなり、分割する場合に不規則に割れ、半導体基板上の回路・素子を破壊もしくは損傷するという欠点があつた。そこで基板に溝をより深くつけるようにスクライブすると半導体基板表面にレーザ光線を長時間照射しなくてはならず能率が悪く、また半導体基板上の回路・素子を熱等により破壊したり損傷したり、また寿命を短かくする等の悪影響をもたらす欠点があつた。
本発明の目的はこれらの欠点を除去し、被加工体例えばレーザ光線に対して透過性を有する物体をスクライブして分割するに際し容易に分割することができるレーザスクライプ装置を提供することにある。
本発明においては、これらの目的を達成するため被加工体例えばサフアイヤ等のレーザ光線に対し透過性を有する物質内でレーザ光線の焦点を移動できることに注目し、レーザ発振器と、このレーザ発振器から照射されるレーザ光線を集光し被加工体に照射する集光光学系を備えており、前記集光光学系により集光された集光点を前記被加工体内で移動して、例えば集光点を被加工体の集光光学系の面に一致させ、その後その反対側の面に合わせ、被加工体を加工し得るレーザスクライブ装置を提供する。」(第1ページ右欄第9行-第2ページ左上欄下から第3行)
(4)「以下本発明の被加工体としてサフアイヤで形成された半導体基板を用いてスクライブする装置の一実施例を図を参照しながら説明する。」(第2ページ左上欄下から第2行-右上欄第1行)
(5)「第1図は本発明の前記一実施例の一部を拡大した構成図で、レーザ発振器1のレーザ光線照射方向にレーザ光線が直角に曲るように、レーザ光線を反射し、可視光を透過するようなダイクロイツクミラー2を設ける。このダイクロイツクミラー2で反射したレーザ光線の光軸に合うように光軸を一致させ、このレーザ光線を集光させる集光光学系例えば凸レンズ3を設ける。この凸レンズ3をダイクロイツクミラー2で反射されたレーザ光線の光軸方向に移動するため光学系駆動装置4を設ける。凸レンズ3で集光されたレーザ光線の焦点が照射されるようにサフアイヤの半導体基板5を設ける。この半導体基板5は移動装置6によつて移動される。この移動装置6はテーブル7とテーブル移動装置8を有しており、テーブル7の上には半導体基板5の回路、素子等が形成されていない面(以下裏面9と呼び、形成されている面を表面10と呼ぶ)がテーブル7の面に接するように載置され、このテーブル7はテーブル移動装置8により凸レンズ3の光軸と垂直方向に移動される。」(第2ページ右上欄第1行-左下欄第1行)
(6)「その後、テーブル移動装置8によつてテーブル7を移動させ半導体基板5の表面10の所望位置に前記焦点を設定する。」(第2ページ左下欄下から第1行-右下欄第2行)
(7)「そしてテーブル7が所望方向に移動できるようにテーブル移動装置8を可動させると、第2図(a)に示した溝15が半導体基板5の表面10に形成される。その後、半導体基板5がレーザ光線を透過することを利用し、レーザ光線の集光点を半導体基板5の裏面9の前記した溝15の下の所望の位置に設定する。」(第2ページ右下欄第6-12行)
(8)「この状態でレーザ光線をレーザ発振器より照射すれば前記のように裏面9にレーザ光線が集光する。その後テーブル7をテーブル駆動装置8を駆動して所望方向に移動すると第2図(b)に示すように表面10の溝15に合わせて裏面9をスクライブすることになり、溝16は溝15の下で半導体基板5の裏面9に形成される。」(第2ページ右下欄下から第4行-第3ページ左上欄第3行)
(9)「このように半導体基板5の両面に対向してスクライブした後に分割すれば第2図(b)の点線17より割れ、その分割面は、ほぼ直線上に割れる。」(第3ページ左上欄下から第4行-下から第2行)
(10)「また被加工体面をスクライブするのに本一実施例ではテーブル駆動装置でテーブルを移動しているが、集光光学系をレーザ光線の照射方向に対して垂直に移動し、レーザ光線の集光点を移動してスクライブをしてもよい。」(第3ページ右上欄第4-8行)
(11)「また本発明の一実施例としてサフアイヤの半導体基板について述べたが、このように被加工体がレーザ光線に対し透過性を有するものに対して効果的にスクライブできるものである。」(第3ページ左下欄第6-9行)
(12)上記(5)及び(10)の記載事項及び第2図(b)から、甲第3号証のレーザスクライブ装置は、集光光学系である凸レンズ3を、レーザ光線の照射方向に対して垂直方向に移動して、レーザ光線の集光点を移動させる制御部を備えることが理解できる。
5.甲第4号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である平成11年3月16日に頒布された甲第4号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 破断領域に微小亀裂を発生させることにより、ガラス物体のガラス壁を破断するためまたはガラス板を分離するために破断点を形成する方法において、前記微小亀裂を前記ガラス壁またはガラス板の内部に形成することを特徴とする破断点を形成する方法。
【請求項2】 前記微小亀裂はレーザー照射により形成する請求項1に記載の方法。
【請求項3】 前記使用されるレーザー放射線はガラスが透明または少なくとも半透明の波長を有し、かつ、レーザーパルス時間は<1msである請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記微小亀裂の大きさは一連のレーザーパルスを備える照射により調整される請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】 前記微小亀裂の大きさはその後の熱処理により調整される請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】 前記微小亀裂の形成はガラスの標的とする元応力により制御される請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】 表面に対して垂直な微小亀裂の大きさはガラス壁の厚みの0.5倍を越えない請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、破断領域に微小亀裂を発生させることにより、ガラス物体、特に破断開封用アンプルまたは管のガラス壁を破断するため、またはガラス板を分離するために適切な破断点を形成(produce)する方法に関する。」
(3)「【0010】上記した全ての方法において、レーザースポット領域に単一パルスまたは複数パルスにより融体になるまでガラスを局所的に加熱する。溶融領域のその後の極めて急速な冷却により、微小亀裂に自然(または強制:DE 43 00 730 C1)発生的に十分な引っ張り力が生ずる。これらの微小亀裂は所定の破断点を提供する。微小亀裂が容易に生ずるように、引っ張り応力範囲は最小レベルを越さなければならず、最小容積の加熱ガラスを必要とする。この容積のガラスは、出発材料とは相違する種々の物理的及び化学的な特性を有し、それらの特性はその後のアニーリングにおいても十分に反転できない(極端な例はいわゆる再沸騰ふくれ(reboil blister)の存在である)。その結果、破断中の破断ガラスのリスクの増加または破断の非制御範囲が増加する恐れがある。」
(4)「【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、破断開封アンプルを再現できかつ安全に開口する方法で破断開封アンプルの破断領域に所定の破断点を形成することにある。特に、破断開封が困難なアンプルを開封するときに生ずる傷の発生を避け、かつ、アンプルの開封で生ずるアンプル内の医薬品の損傷を妨げることを意図する。」
(5)「【0027】さらに、ガラスの表面下に微小亀裂を形成することは有益である、というのは、一般的にガラス中に元応力(prestressing)があり、それがガラス表面に圧縮応力領域を、ガラス内部に引っ張り応力領域(通常は弱い)を与えるからである。本発明の方法が採用されるとき、引っ張り応力領域は、下記で述べるように、限定された亀裂形成に利用され、他方、表面から作用する従来技術の破断方法において、微小亀裂が圧縮応力領域において治癒することを妨げるように、表面近くの圧縮応力領域を貫通しまたは保証することが必要である。
【0028】好都合なことに、本発明に従う微小亀裂は集中レーザー照射手段により形成される;アンプルの場合、従来技術から公知であるが、アンプルの首領域で生ずる。直径<100μmのレーザービームをガラス壁の中心に収束することが有益であることが証明された。このことを実施するために、ガラスが透明でありまたは少なくとも半透明である波長を備えるレーザー放射を利用することが必要なことは明らかである。レーザーパラメーターを好適に選択することにより、当業者は、制御された方法で微小亀裂の長さや幾何学的な配列などの形成及び促進を調節することができる。これを実施するための適切なパラメーターを見つけだすことは進歩性を要求せず、これらは当業者によって、例えば適切な通常の実験に基づいて容易に決定できる。上記から明らかなように、ガラス物体(例えば、アンプル)の種々の幾何学性に関するプロセスパラメーターを採用することは容易である。微小亀裂は、約10~1000Hzの繰り返し周波数を備える単一レーザーパルスまたは一連のレーザーパルスを利用して形成できる。」
(6)「【0032】1)適切な破断点は、例えば適切な分割線に沿って周囲方向に配列した一若しくはそれ以上の微小亀裂領域によって、アンプル締め付け部の周囲の点に形成してよい。この方法(ワンポイントカット)では、破断開封するときにアンプルを配列又は調整するために適切な破断点をマークすることが必要である。
【0033】2)さらに、適切な破断点は、アンプルの首周りを走るように適切な分割線に沿って形成してよい(いわゆる破断リングアンプルに類似する方法)。この場合、アンプルは予め配列又は調整することなく破断開封できる。破断の適切な方向にマークをつける必要はない。限られた破断方法に対し、適切な破断点の角間隔は30゜を越えるべきではない。DE 42 14 159 C1およびDE35 37 434 A1に記載されたレーザー法を比較すると、本発明の方法が使用されるときの破断の性質は、適切な破断点であって破断線に沿って配列するものによる破断前面のモジュレーション又は変調がかなり減少することによりかなり改良される。これは、DE 42 14 159 C1およびDE 3537 434 A1に記載された方法のレーザースポット領域の残留応力領域が、一般的にレーザースポットの中心を通して亀裂前面の適切なラジアルコースを生じないが、むしろ各ケースの亀裂前面がセミサークルセグメント上のスポット中心の周りを走るように亀裂を誘発するからである。この性質の亀裂コースは、破断ガラスと傷害のリスクを増加する。」
(7)「【0035】使用されたレーザー放射源は、Q-スイッチまたはモードロックNdソリッドステートレーザーであることが好都合である。短焦点距離を備える適切な光システムは、必要により広いビーム断面を有するレーザービームを<0.1mmのスポット直径に収束する。大きい湾曲面を有すると、例えば、円柱または屈折の光システム(従来技術)により付加的な形状を備えるビームを提供する必要がある。非ガウスレーザービームプロファイルを用いると、破断方向に微小亀裂の付加的な配向を達成することが可能である。短いレーザーパルス時間のため、必要により、アンプル輸送の間適切な破断点を適用することができるが、これは壁の焦点位置を0.1mmよりも精度よく維持するために、多くの支出が必要である。プロセスコントロールは、例えば、プラズマ形成の光電子的観察及びレーザーパラメーターの再調整によって実施してよい。」
(8)「【0036】当然、本発明の方法は、適切な破断点をアンプルに適用するために好適であるばかりではない。この方法は、例えばガラス管を切断する等の多くの適用に対し、高品質、再現性を有する初期亀裂を得るために使用してよい。
【0037】この方法は、フラットガラスの分野において特殊な切断プロセスに用いてもよい(例えば、適切な形状(時計皿)のガラス片をガラス板から切断する)。」
(9)「【0040】図1において、適切な破断点はアンプルの首2(締め付け)の領域においてホウケイ酸ガラス製の2mlアンプル1に形成する。
【0041】締め付けは、アンプルの製造方法において二次成形用具(forming tool)を用いてタレット装置上で直径6.5mm、壁厚0.8mmに予め形成された。適切な破断点は図1で図式された更なるプロセスラインで適用され、ここで、アンプル1はチェインコンベヤーから、リフト装置3を使用してストップローラー4に対して持ち上げられる。アンプル1は、ローラー6が二次成形用具を追跡するような方法でローラー(roller table)5及び6上に置く。
【0042】パルス時間約10ns、パルスエネルギー25mJのQ-スイッチNd:YAGレーザー7を使用して適切な破断点を作る。レーザービームは、焦点距離50mmのレーザーレンズ8を使用してガラス壁の中心に収束させる:直径は約0.1mmである。適切な破断点がガラス壁の中心に形成されるように、アンプルの首2(締め付け)の直径は大きくて0.1mmの公差を有する。10Hzのレーザー繰り返し周波数を用いると、3つの適切な破断点は周囲方向に沿って1mm間隔でアンプルの首に適用される。これを達成するために必要なアンプルの回転はローラー4の駆動によって行われる。
【0043】3つの適切な破断点は顕微鏡で見ることが可能で、アンプルを明確にかつ物理的に破断できる。」
(10)上記(6)及び(9)の記載事項及び第1図から、甲第4号証の集中レーザー照射手段は、破断点の間隔が等間隔(1mm間隔)となるように、アンプルの首回りの分割線に沿って形成された複数の破断点によって微小亀裂領域を形成するために、レーザービームの収束する点をアンプルであるガラス物体のガラス壁の中心に位置させた状態で、レーザー繰り返し周波数とローラー4、5、6の回転を一定にして、前記分割線に沿ってレーザービームの収束する点を前記アンプルの首回りの周囲方向に移動させる制御部を備えることが理解できる。
6.甲第5号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である平成4年4月13日に頒布された甲第5号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「2 特許請求の範囲
(1)透明材料に吸収されない高エネルギービームを透明材料内部に焦点を結ばせて照射することを特徴とする透明材料の切断加工方法。
(2)特許請求の範囲第1項において、透明材料の下側に高エネルギービームの焦点を合せ、次に、上方に焦点を移動させる透明材料の切断加工方法。
(3)特許請求の範囲第1項ないし第2項のいずれかにおいて、透明材料は石英ガラスである透明材料の切断加工方法。
(4)特許請求の範囲第1項ないし第3項のいずれかにおいて、高エネルギービームはエキシマレーザである透明材料の切断加工方法。」(第1ページ左下欄第5行-下から第4行)
(2)「本発明は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている。」(第2ページ左上欄第2-5行)
(3)「透明材料としては、例えば、光学ガラス、石英ガラスなどの無機ガラス、アクリル樹脂などの透明樹脂等が挙げられる。」(第2ページ左上欄第12-14行)
(4)「高エネルギービームとしては、XeF(351nm),XeC1(308nm),KrF(248nm),ArF(193nm)等のエキシマレーザーや、YAGレーザ及びその高調波等が挙げられる。
透明材料の高エネルギービームに対する吸収特性に応じて、適切な高エネルギービームを選択する必要がある。
高エネルギービームは、100Hz以上の高くりかえし周波数の方が効率的である。」(第2ページ左上欄第15行-右上欄第4行)
(5)「焦点の移動は、光学的に焦点位置を移動させても、また、ワークを移動させても良く、操作しやすい方法を適宜選択できる。」(第2ページ右上欄第5-7行)
(6)「透明材料に吸収されない高エネルギービームを、レンズやミラーから構成される光学系を介して透明材料の内部に焦点を合せ、高エネルギービームを透明材料内部に照射する。すると、高エネルギービームの照射された個所に数十ミクロン以下の微小なクラックが発生する。高エネルギービームの照射位置を移動させて、透明材料に連続的なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工する。」(第2ページ右上欄下から第4行-左下欄第5行)
(7)「クラックの発生について更に詳しく説明する。
固体中では、荷電子のエネルギー準位は帯状のいわゆるバンド構造をとっている。絶縁体ではバンドギャップ以下のフォトンエネルギーのフォトン、すなわち、長波長の光は吸収しない。
しかし、バンドギャップよりも低エネルギーの光でも、レンズで集光するなどしてフォトン密度を極端に高くすると、2個あるいは、それ以上のフォトンを同時に吸収することにより、電子が充満帯(エネルギーギャップよりエネルギーの低いエネルギーバンド)から伝導帯(エネルギーギャップよりエネルギーが高く、通常の状態では電子の存在しないエネルギーバンド)に励起される。
このように、フォトンを同時に2個吸収することを2光子吸収、さらに一般に複数個吸収することを多光子吸収という。
この発明においては、多光子吸収を利用して、バンドギャップよりエネルギーが低く、本来、吸収の起こらない波長の光を透明材料に吸収させることにより、透明材料の結合ボンドを切断したり、あるいは、発熱を利用して微小なクラックを透明材料内部に発生させるのである。」(第2ページ左下欄第6行-右下欄第7行)
(8)「実施例1
透明材料として150×150×150mmの合成石英ガラス(OH 1300ppm含有)を使用し、高エネルギービームとしては、不安定共振器を用いたエキシマレーザ(KrF 248nm エネルギー密度50mJ/cm2・パルス、くり返し周波数 150Hz)を使用し、焦点距離500mmのレンズで集光し、ミラーで反射させ、上面を予め研磨したワークである厚板の合成石英ガラスの内部にエキシマレーザビームの焦点を合せエキシマレーザをワークの上面から照射し、ワークを3r.p.mの回転数で回転させながら、焦点の位置を3mm/minの速さでワーク底面より引き上げることにより、直径30mmの円筒形の孔を開けた。」(第3ページ左上欄第13行-右上欄第7行)
(9)上記(8)の記載事項から、厚板の合成石英ガラスは、3r.p.mの回転数で回転させることができるような載置台に載置されていることは明らかである。
(10)上記(8)の記載事項から、甲第5号証には、エキシマレーザビームで切断加工する際に、ワーク(厚板の合成石英ガラス)を3r・p・mの回転数で回転させながら、焦点の位置を3mm/minの速さでワーク底面より引き上げることにより、直径30mmの円筒形の孔を開けることが記載されているから、前記ワークの円筒形の切断予定ラインに沿って微細なクラックを形成し、エキシマレーザビームの焦点を前記ワークの底面より引き上げた状態で、エキシマレーザビームの繰り返し周波数及びエキシマレーザビームの焦点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってエキシマレーザビームの焦点を前記円筒形に沿って移動させる制御部を備えることが理解できる。
7.甲第6号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である平成11年5月25日に頒布された甲第6号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レーザを用いたマーキング方法及びマーキング装置に関し、特に薄板状の被加工部材にマーキングを行うのに適したマーキング方法及びマーキング装置に関する。」
(2)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述の特開平3-124486号公報に開示された方法によると、被加工部材の表面から0.5~2.5mm程度の深さの位置にマーキングを行うことができる。この方法を用いて、例えば厚さ1mm以下の薄板状の被加工部材にマーキングすると、内部に発生したクラックが表面まで到達する場合がある。表面まで達したクラックは、微細なパーティクル発生の原因になる。
【0005】本発明の目的は、薄板状の被加工部材にマーキングする際にも、表面まで達するクラックの発生を抑制することができるマーキング方法及びマーキング装置を提供することである。」
(3)「【0022】集光光学系3に対向するように、保持台4が配置されている。保持台4の上に被加工部材10が載置される。集光光学系3は、部分ビーム12Aと12Bとを、被加工部材10の内部の微小領域13に集光する。微小領域13及びその近傍においてレーザ光の密度が高くなる。このレーザ光の密度が、あるしきい値よりも高くなると、光学的非線型現象による吸収が起こると考えられる。この吸収に基づき、光学的損傷(Optical Damage)あるいは光学的絶縁破壊(Optical Breakdown) が生じ、被加工部材10の微小領域13が変質し、外部から視認し得るようになる。このようにして、被加工部材10の内部にマーキングすることができる。」
(4)「【0024】また、ビーム分割手段2と集光光学系3とを被加工部材10の表面に平行な面内で移動させることにより、面内の所望の位置にマーキングすることができる。
【0025】また、2本の部分ビーム12Aと12Bとに分割して微小領域13に集光するため、1本のレーザビーム11をそのまま集光する場合に比べて、被加工部材10の深さ方向に関するレーザ光の密度を、より微小な領域に集中させることができる。このため、変質する領域の深さ方向の長さを短くすることができ、変質領域が被加工部材10の表面まで達することを抑制することが可能になる。
【0026】被加工部材10の深さ方向に関して、より微小な領域にレーザビームを集光させるためには、集光光学系3の対物レンズとして、なるべく開口数の大きなレンズを用いることが好ましい。
【0027】なお、使用するレーザ光としては、被加工部材10との組み合わせにより適当なものを選択する。例えば、石英ガラスにマーキングする場合には、石英ガラスに対して透明な波長領域、すなわち赤外線領域、可視光線領域、もしくは紫外線領域の波長を有するレーザ光を使用することができる。また、一般的な板ガラスにマーキングする場合には、板ガラスに対して透明な波長領域、すなわち赤外線領域もしくは可視光線領域の波長を有するレーザ光を使用することができる。また、ガラス以外にも、例えばシリコン基板等にマーキングしたい場合には、シリコン基板に対して透明な波長領域のレーザ光を用いればよい。」
(5)「【0029】さらに、レーザ光源1として、パルスレーザ装置を用いることにより、被加工部材10のマーキング部近傍の温度上昇を抑制することができる。このため、温度上昇による悪影響を回避し、マーキングされる深さ方向の位置を均一に揃えることが可能になる。なお、パルス幅の短いものを使用することが好ましい。これは、熱的効果の大きさがパルス幅の平方根に比例するためである。具体的には、1ナノ秒以下のパルス幅で発振するレーザ光源を用いることが好ましい。」
(6)上記(4)の記載事項から、甲第6号証のマーキング装置は、集光光学系3を移動させて被加工部材10の内部の所望の位置にマーキングする制御部を備えることが理解できる。
8.甲第7号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である2000年6月8日に頒布された甲第7号証には、以下のとおり記載されている。括弧内に当審での翻訳文を併記する。
(1)「To the best of the applicant's knowledge, in contrast to marking or image production techniques, there does not exist any prior art which describes the use of volume optical breakdown in true material processing techniques, as used in industrial applications, such as cutting and drilling.This definition of the term "material processing", which is commonly used in industrial laser terminology (where it also includes welding) is assumed throughout this patent specification.There therefore exists a serious need for new methods for industrial and other applications of optical volume breakdown phenomena in suitable materials.」(第3ページ第11-18行)
(出願人が知る限りでは、マーキングやイメージ形成技術とは対照的に、切断や穿孔といった産業への応用に用いられている真のマテリアルプロセシング技術において、体積光学破壊を用いることを記載した先行技術はない。ここでいう「マテリアルプロセシング」という用語の定義は、産業用レーザの用語法(溶接も含む。)において通常用いられており、本特許明細書の全体にわたって前提とされている。したがって、適当な物質における、光学的な体積破壊現象を、産業その他へ応用するために、新しい方法が深刻に求められている。)
(2)「The present invention seeks to provide new methods for material processing using the volume optical breakdown phenomenon in optically transparent materials.This phenomenon occurs when the beam from a laser emitting ultra-short pulses of the order of tens of picoseconds or less, is focused into the volume of the material to be processed by means of a high quality focusing objective lens, such that a focal spot close to the diffraction limit for the laser wavelength is obtained within the material. Such short, high peak power pulses can be obtained for example, from temporally compressed backward stimulated Brillouin scattering (SBS) Nd:YAG lasers.
At such high power densities, of the order of 1013 watts/cm2 , the material undergoes optical breakdown, since the transmission limit of linear response to power is exceeded in the material, which then strongly absorbs the laser radiation. Because of the intense power density, atomic and molecular bonds of the material are broken down, and the material decomposes almost instantaneously into its most basic components, generally highly ionized component atoms.」(第3ページ第23行-第4ページ第10行)
(本発明は、光学的に透明な材料の体積光学破壊現象を利用してマテリアルプロセシングの新たな方法を提供しようとするものである。この現象は、レーザ波長の回折限界に近い集束スポットが材料内で得られるような高品質の集束対物レンズによって、10ピコ秒以下のレーザである超短パルスビームを、加工される材料の体積内に集束させたときに発生する。このような短い高ピークパワーパルスは、例えば、一時的に圧縮される後方誘導ブリユアン散乱(SBS)Nd:YAGレーザから得ることができる。
このような高パワー密度は、1013watts/cm2のオーダーであり、材料は、光学破壊を起こすが、その理由は、材料内でパワーに対する線形応答の遷移限界を超えた後、レーザ放射線が強く吸収されるからである。集中的なパワー密度のために、材料の原子及び分子の結合が破壊されると、材料は、ほぼ瞬時に分解してその最も基本的な構成要素、一般的に、高度にイオン化された構成原子に変化する。)
(3)「In accordance with yet another preferred embodiment of the present invention, there is further provided a method for ultra-fine cutting of transparent materials. The method can be similar to that described in the above mentioned drilling embodiment, but including the further step of drilling further holes closely spaced to each other such that a continuous cut channel is produced.
Alternatively and preferably, the focused laser beam is made to execute multiple traverses of the material to be cut, first of all at the surface of the material, and slowly working down through the material with a sawing motion, to produce a complete cut channel, which can extend right through the thickness of the material if desired.
In accordance with yet another preferred embodiment of the present invention, there is provided a method of performing material processing on a material substantially transparent to a laser radiation, and consisting of the steps of focusing pulses of the laser radiation into the volume of the material, the pulses being such that the material undergoes optical breakdown, and moving the focal point of the pulses of the laser radiation relative to the material according to a predetermined path.」(第6ページ第24行-第7ページ第10行)
(本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、透明材料の超微細切断のための方法が提供される。この方法は、上記穿孔の実施例で説明したのと同様であるが、連続した切断溝が製造されるように互いに近接したさらなる穴を穿孔するさらなる工程を含んでいる。
あるいは、そして好ましくは、集束されたレーザビームは、切断する材料に対して複数回横断が実行されるが、レーザビームは、まず、材料の表面、そしてゆっくりと鋸運動により材料を徐々に下がっていき、所望であれば材料の厚さ分貫通する方向に延びる完全な切断溝を生成する。
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、レーザー放射に対して実質的に透明な材料の上にマテリアルプロセシングを行う方法が提供される。その方法は、材料の体積内へレーザ放射のパルス、当該パルスは材料が光学破壊を生じるようなものであること、を収束する工程、及び所定の経路に沿って材料に対するレーザ放射のパルスの焦点を移動させる工程を含む。)
(4)「In accordance with a further preferred embodiment of the present invention, there is also provided a method as described hereinabove and wherein the material is a glass, a plastic, a gemstone, or a semiconductor.」(第7ページ第21-23行)
(本発明のさらに好ましい実施形態によれば、また、上述したように、材料は、ガラス、プラスチック、宝石、または半導体であることを特徴とする方法が提供される。)
(5)「There is even further provided in accordance with a preferred embodiment of the present invention a method as described hereinabove and wherein the moving the focal point of the pulses of the laser radiation relative to the material according to a predetermined path is synchronized in a predetermined manner with the emission of the pulses of the laser radiation.」(第7ページ第30行-第8ページ第4行)
(本発明の好ましい実施形態によれば、上述したように、所定の経路に沿った材料に対するパルスレーザ放射の焦点の移動が、パルスレーザ放射の放出と、所定の方法で同期されることを特徴とする方法がまださらに提供される。)
(6)「Furthermore, in accordance with yet another preferred embodiment of the present invention, there is provided a method of drilling a hole through a sample of material substantially transparent to a laser radiation, and consisting of the steps of focusing pulses of the laser radiation through the volume of the sample, onto a location close to the surface of the sample further from the surface on which the laser radiation impinges, the pulses being of width shorter than 100 picoseconds, such that the material of the sample undergoes optical breakdown and produces a first hole, short in length compared with the thickness of the sample, and which breaks out of the surface of sample further from the surface on which the laser radiation impinges, moving the focal point of the pulses of the laser radiation back towards the surface on which the laser radiation impinges, by a predetermined distance, such that a second hole is produced by the optical breakdown of the material, the predetermined distance being such that the second hole just enters the first hole, and repeating the previous step until the first and second holes produce a continuous hole through the complete thickness of the sample.
There is also provided in accordance with a further preferred embodiment of the present invention a method as described hereinabove and wherein the material is a glass, a plastic, a semiconductor, or a gemstone.」(第9ページ第20行-第10ページ第8行)
(また、本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば、レーザ放射に対して実質的に透明な材料のサンプルを通して穴を穿孔する方法が提供され、当該穴を穿孔する方法は、サンプルの体積内、つまり、レーザ放射が当たる表面から離れたサンプルの表面に近い場所へレーザ放射のパルスを収束する工程を含み、その工程のパルスは、100ピコ秒より短い幅であることにより、サンプルの材料は光学破壊を受け、サンプルの厚さに比べれば短い長さの1番目の孔を生成し、この穴が、レーザ放射が当たる表面から離れたサンプルの表面を破壊し、上記の穴を穿孔する方法は、レーザ放射が当たる表面に向けて、所定距離戻すようにレーザ放射のパルスの収束点を移動する工程を含み、それにより、材料の光学破壊で2番目の孔が生成され、上記の所定距離は、2番目の穴が1番目の孔にちょうど入るようなものであり、また、上記の穴を穿孔する方法は、サンプルの厚さ分の連続する孔を生成するまで前記工程を繰り返すことを含む。
上述したように、材料は、ガラス、プラスチック、半導体、又は宝石であることを特徴とする方法も本発明の別の好ましい実施形態によって提供される。)
(7)「This method is particularly useful in the semiconductor industry, where a need exists to mark silicon or gallium arsenide wafers with very high resolution identifying marks, and without doing so on the surface of the wafer, where the debris of a surface marking process would be detrimental to the level of cleanliness required in many of the wafer processing stages. Though marks can be applied by conventional microlithographic methods using photoresist and etching procedures, the internal laser marking method is vastly quicker, and is a simple one stage process, unlike the microlithographic method. Furthermore, the use of an internal marking method, such as that described in this embodiment of the present invention, leaves the surface of the wafer uncluttered with superfluous features. This advantage of this embodiment of the present invention becomes even more important when marking has to be applied at a chip level, rather than at a wafer level, since chip real estate is such a high value commodity. In the case of silicon, which is substantially transparent from about 1.1 μm to almost 5 μm, a laser emitting pulses at 1.9 μm is suitable for implementing the method of this embodiment.
A further method according to another preferred embodiment of the present invention, is that of using the volume optical breakdown effect to drill very parallel ultra-fine holes in transparent samples by means of a reverse drilling procedure. The method consists of the steps of first focusing an ultra-short pulse width laser, such as that described in the first preferred embodiment above, just inside the further surface of the sample through which the hole is to be drilled, and of firing a predetermined number of pulses. The volume optical breakdown incurred causes a narrow void or hole to be drilled, with the debris being ejected forward, in the beam direction, and away from the sample. It is known that in this method, the interaction mechanism of the laser with the material is that of optical breakdown, since a plume of plasma is seen ejected from the front end of the drilled hole. The void formed has a diameter of the same order of magnitude as the focal size of the laser drilling beam, and is typically only 1 μm in plastic materials, or 2 μm to 3 μm in more refractory materials such as glass or sapphire.
In the next step, the focal position of the laser is moved back a distance of 0.1 - 10 μm, depending on the material and another series of pulses is fired. This extends the void to join the already existent void. In this way, a complete hole is drilled through the sample by means of optical breakdown interactions. Since the hole is reverse drilled, the ejected debris, plasma and gases do not cause the hole to be widened as it is drilled, and good parallelism and high uniformity of bore size can thus be obtained.」(第12ページ第27行-第14ページ第3行)
(この方法は、半導体産業において特に有用であり、半導体産業では、シリコンまたはガリウム砒素ウェーハに、非常に高解像度の識別マーク付ける必要があるが、当該マークはウェーハの表面には付けないようにしており、それは、表面マーキングプロセスのデブリが、ウエハの処理段階の多くでは、要求される清浄度のレベルに悪影響を及ぼすからである。マークは、フォトレジスト及びエッチング法を使用して従来のマイクロリソグラフィ法によって適用することができるが、内部レーザーマーキング方法はマイクロリソグラフィ方法とは違い、非常に迅速で、簡単な1段階プロセスで、実施することができる。さらに、本発明のこの実施形態に記載されたような、内部マーキング方法を利用すれば、不必要な障害のない状態にウエハ表面を維持することとなる。本発明のこの実施形態のこの利点は、マーキングは、ウエハレベルではなくチップレベルで適用しなければならない場合に一層重要となるが、なぜなら、チップの実質の面積が非常に高価値だからである。シリコンが、約1.1μmから約5μmに対して実質的に透明の場合には、本実施形態の方法を実施するのには1.9μmのレーザパルスが適している。
本発明の別の好適な実施形態によるさらなる方法は、逆穿孔手順により、透明なサンプルに非常に平行な超微細孔を形成するために、体積光学破壊の効果を使用することである。この方法は、貫通孔が穿孔されるべきサンプルの他の面のちょうど内側に、上記第1の実施形態で記載されているような、超短パルス幅レーザを収束させる第1の工程、及び所定数のパルスを点火する工程からなる。体積光学破壊により、穿孔された狭い空隙または孔が穿孔され、ビーム方向において前方に、サンプルから離れる方に破片が射出される。この方法では、材料とレーザーとの相互作用機構は、光学破壊のことであることが知られており、なぜなら、プラズマのプルームは、あけられた孔の前端から排出されるからである。形成された空隙はレーザー穿孔ビームの焦点サイズと同程度の大きさの直径を有し、プラスチック材料では主に1μmしかなく、ガラスまたはサファイアのようなより耐熱性のある材料では、2μmから3μmとなる。
次のステップでは、レーザの焦点位置を材料に応じて0.1-10μmの距離後方へ移動させ、別の一連のパルスが発射される。このステップは、空隙を、既存の空隙に結びつくように延ばす。このようにして、完全な孔が、光学破壊の相互作用によってサンプルを貫通して穿孔される。孔が逆穿孔されるので、排出される破片、プラズマ及びガスは、穿孔される際に、孔が拡がる原因とはならず、孔の大きさの良好な平行度、高均一性が得られることとなる。)
(8)「According to another preferred embodiment of the present invention, a method of microscopic cutting of such transparent materials is provided, whereby a number of holes are drilled sufficiently closely spaced to each other, that adjacent bores run into each other, resulting in the production of a continuous cut channel according to a predetermined path.
Alternatively and preferably, the focused laser beam is made to execute multiple traverses of the material to be cut, according to a predetermined path, the first traverse being at the surface of the material, and then slowly working down through the material with a sawing motion, to produce a complete cut channel, which can extend right through the thickness of the material if desired. Alternatively, the cut can be commenced at the far surface of the sample, and the sawed channel moved up through the sample towards the laser impingement surface. These methods of cutting, according to the present invention, are particularly advantageous in diamond processing, where a minimum of material is removed, and in the semiconductor industry, where there is a need to cut extremely fine and smooth channels. The use of these methods enables a smooth cut of width less than 10 μm to be produced through a thickness of 0.2 mm. of glass.」(第14ページ第21行-第15ページ第8行)
(本発明の別の好ましい実施形態によれば、透明材料の微細切断の方法が提供され、それにより、多数の孔が相互に十分に近接して配置され、隣接する孔は互いに突き当る結果、所定の経路に沿った連続切断溝を生産することとなる。
あるいは、そして好ましくは、収束されたレーザビームは所定の経路に沿って、切断される材料を複数回横断することとなり、収束されたレーザビームの第1の横断は材料の表面において行われ、それからゆっくりと鋸運動により材料の下の方へ移動され、完全な切断溝を形成し、所望であれば材料の厚さを貫通するまで延ばすことができる。
もしくは、切断は、サンプルの遠い側の表面から開始されてもよく、その場合は、鋸引きで形成された溝がレーザ照射が行われる表面の方へ上がっていくこととなる。本発明によれば、これらの切断方法は、特にダイヤモンド加工に有益であり、なぜなら、最小の材料しか除去されないからであり。また、これらの切断方法は、半導体産業においても有益であり、なぜなら、半導体産業では、極端に微細で滑らかな切断溝が要求されるからである。これらの方法を利用すれば、0.2mmの厚さのガラスに10μm以下の切断幅を生成することが可能となる。)
(9)「CLAIMS
We claim:
1. A method of performing material processing on a material substantially transparent to a laser radiation, and comprising the steps of:
focusing pulses of said laser radiation into the volume of said material, said pulses being such that the material undergoes optical breakdown;
and
moving the focal point of said pulses of said laser radiation relative to said material according to a predetermined path.
・・・
3. The method of claim 1 and wherein said material processing is a marking process.
4. The method of claim 1 and wherein said material processing is a cutting process.
・・・
20. A method of forming images inside the volume of a material opaque to visible radiation and substantially transparent to a laser radiation, and comprising
the steps of:
focusing pulses of said laser radiation into the volume of said material, said pulses being of width shorter than 100 picoseconds, such that the material undergoes optical breakdown; and
moving the focal point of said pulses of said laser radiation relative to said material according to a predetermined path.
・・・
22. The method of claim 20 and wherein said material is selected from the group consisting of a glass, a plastic and a semiconductor..
23. The method of claim 22 and wherein said semiconductor is selected from the group consisting of silicon and gallium arsenide.
・・・
29. A method of cutting a sample of material substantially transparent to a laser beam, and comprising the steps of
a) focusing pulses of said laser beam at a first point in the surface of said sample, said pulses being of width shorter than 100 picoseconds, such that the material of said sample undergoes optical breakdown,
b) moving the focal point of said pulses laterally in the plane of said surface of said sample according to a predetermined cutting path, to produce a first channel in said material;
c) displacing said focal point by a predetermined distance into the volume of said sample ;
d) moving said focal point of said pulses laterally in a plane parallel to the plane of said first channel, according to the same predetermined cutting path, to produce a second channel in said material, wherein said predetermined distance is such that said first and said second channels are contiguous; and
e) repeating steps c) and d) until a desired cutting depth of said sample is completed.
30. The method of claim 29 and wherein said material is selected from the group consisting of a glass, a plastic, a gemstone and a semiconductor..」(第16ページ第1行-第21ページ第11行)
(特許請求の範囲
特許請求の範囲は、
1.レーザビームに対して実質的に透明な材料に対してマテリアルプロセシングを実行する方法であって、
前記レーザビームのパルスを前記材料の前記体積内に集束させるステップであって、前記パルスは、前記材料が光学破壊を受けるようなパルスであるステップと、
所定の経路に従って前記レーザビームの前記パルスの焦点を前記材料に対して移動させるステップとを含む方法。
(略)
3.前記マテリアルプロセシングはマーキングプロセスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
4.前記マテリアルプロセシングが切断プロセスである、請求項1に記載の方法。
(略)
20.可視光線に対して不透明であり、レーザビームに対して実質的に透明である材料の体積内にイメージを形成する方法であって、
前記レーザビームのパルスを前記材料の前記体積内に集束させるステップであって、前記パルスが100ピコ秒よりも短い幅であり、前記材料が光学破壊を受けるようにするステップと、
所定の経路に従って前記レーザビームの前記パルスの焦点を所定の経路に沿って移動させるステップとを含む方法。
(略)
22.前記材料が、ガラス、プラスチックおよび半導体からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
23.前記半導体は、シリコンおよびガリウムヒ素からなる群から選択される、請求項22に記載の方法。
(略)
29.レーザビームに対して実質的に透明な材料のサンプルを切断する方法であって、
a)前記サンプルの前記表面の第1点に前記レーザビームのパルスを収束させるステップであって、前記サンプルの材料が光学破壊を受けるように、前記パルスが100ピコ秒よりも短い幅とするステップ、
b)予め定められた切断経路に従って、前記パルスの焦点を前記サンプルの前記表面の平面内で横方向に移動させ、前記材料中に第1の溝を生成するステップ、
c)前記収束点を前記サンプルの内部に所定の距離だけ変位させる工程、
d)前記パルスの収束点を、前記第1の溝の平面に平行な平面内で横方向に、同じ所定の切断経路に従って移動させて、前記材料中に第2の溝を形成し、前記所定の距離は、前記第1および前記第2の溝が連続する距離とするステップ、及び、
e)ステップc)及びd)を、前記サンプルの所望の切断深さが完了するまで繰り返すステップ、を含む方法。
30.前記材料が、ガラス、プラスチック、宝石および半導体からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。)
(10)上記(2)及び(3)の記載事項等から、甲第7号証には、10ピコ秒以下の超短パルスビームを出射するレーザ光源があること、及び、材料が載置される載置台があることが理解できる。
(11)上記(2)、(3)及び(8)の記載事項から、甲第7号証では、所定の経路に沿って形成された互いに近接した穿孔によって切断溝を形成するために、所定の経路に沿って超短パルスレーザビームの集光点を前記材料の表面から鋸運動により徐々に下げて内部に移動させる制御部を備えることが理解できる。
9.甲第8号証に記載の事項
本件特許に係る原出願の優先日前である平成9年2月14日に頒布された甲第8号証には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
「【0002】
【従来の技術】ウェーハのスクライブに用いるレーザスクライブ法は、パルスモードのCO2レーザ、あるいはYAGレーザを微小スポットに集光して走査し、ミシン目状に微小穴開けを連続させる方法であるが、飛散した溶融粒子の再付着により汚染が発生しやすい。」
第8 当審の判断
1.当審無効理由通知及び審決予告で通知した無効理由についての検討
(1)本件発明1について
ア 甲11発明
上記第7の1.(1)-(16)から、甲第11号証には以下の発明(以下「甲11発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲11発明>
「基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機であって、
前記基板201が載置されるステージと、
YAGレーザー照射装置と、
前記ステージに載置された前記基板201の内部に、YAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線を集光し、そのレーザー光線の焦点の位置で微視的なマイクロ・クラックの集合を形成させるレーザーの光学系と、
前記基板201上の溝部203の内部側にあるブレイク・ライン204に沿って形成された前記微視的なマイクロ・クラックの集合である前記加工変質部を形成するために、YAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線の焦点を前記基板201の内部に位置させた状態で、前記ブレイク・ライン204に沿ってYAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線の焦点を直線的に移動させる制御部と、を備えるレーザー加工機。」
イ 甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項
甲第6号証(上記第7の7.(3)-(5))から、シリコン基板を被加工物(段落【0027】)として、パルス幅が1ナノ秒以下のパルスレーザ光(段落【0029】)を用いて集光光学系で被加工物の内部の微小領域に集光してレーザの密度を高めることで、光学的損傷又は光学的絶縁破壊を形成することができる(段落【0022】)ことが理解できる。
また、甲第7号証(上記第7の8.(9))から、シリコンの体積内に、パルス幅が100ピコ秒よりも短いパルスレーザ光を集束させると、材料が光学破壊を受ける(特許請求の範囲における、(請求項20及び22を引用する)請求項23を参照)」ことが理解できる。
したがって、上記甲第6号証及び甲第7号証から、シリコン基板の内部に100ピコ秒ないし1ナノ秒以下の超短パルスのパルスレーザ光を集光すると、1パルスのパルスレーザ光の照射により、シリコン基板の内部に光学的損傷を形成することができること(以下、「甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項」という。)が理解できる。
ウ 甲11発明との対比
本件発明1と甲11発明とを対比する。
(ア)甲11発明の「基板201の一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された半導体ウエハー200の基板201」、又は「基板201」は、本件発明1の「ウェハ状の加工対象物」又は「加工対象物」に相当し、以下同様に、「レーザー加工機」は「レーザ加工装置」に、「ステージ」は「載置台」に、「発振」は「出射」に、「焦点」は「集光点」に、「レーザーの光学系」は「集光用レンズ」に、「基板201上の溝部203の内部側にあるブレイク・ライン204」は「加工対象物の切断予定ライン」に、「(制御部が)移動させる」ことは「(制御部が)移動させる機能を有する」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の「改質領域」は、本件明細書の段落【0071】に「改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)」と記載されているなど広義に解釈できるものであり、クラック領域も改質領域に含まれるから、甲11発明の微視的なマイクロ・クラックの集合である「加工変質部」は、本件発明1の「改質領域」に相当するといえる。
また、甲11発明の「YAGレーザー照射装置」と、本件発明1の「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源」とは、「レーザ光源」である限りで共通し、同様に、甲11発明の「レーザー光線」と本件発明1の「パルスレーザ光」とは「レーザ光」である限りでは共通する。
(イ)してみると、本件発明1と、甲11発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「ウェハ状の加工対象物の内部に、改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光させる集光用レンズと、
前記改質領域を形成するために、レーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、前記切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備える
レーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、改質領域が切断の起点となるのに対し、甲11発明は、改質領域に相当する加工変質部が「基板201上の溝部203の内部側」に形成されており、当該加工変質部が切断の起点となるものかは明らかでない点。
<相違点2>
本件発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射する」ものであり、「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポット」が形成され、改質領域が、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポット」によって形成されているのに対し、甲11発明は、加工対象物が一方の表面に溝部203が形成された基板201であるとともに、YAGレーザー照射装置がパルスレーザ光を出射するものかどうかは不明であり、YAGレーザー照射装置から照射されたレーザー光線の焦点の位置で微視的なマイクロ・クラックの集合が形成され、改質領域に相当する加工変質部が、基板201上の溝部203の内部側にあるブレイク・ライン204に沿って形成された微視的なマイクロ・クラックの集合によって形成されている点。
<相違点3>
本件発明1は、「制御部」により、「パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして」レーザ光の集光点を移動させているのに対し、甲11発明は、制御部により、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にするかどうか不明な点。
エ 上記相違点2の検討
事案に鑑み、上記ウ(イ)の相違点2から検討する。
甲11発明の認定の基礎とした実施例2では、基板201の溝部203に関して、「(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。」(上記第7の1.(10)の段落【0048】)と記載され、図2(C)にも、基板201の表面に溝部203が形成されていることが看取される。
そして、甲第11号証には、該溝部に関連して、段落【0020】(上記第7の1.(4))に、「本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。」(下線部は当審で付した。)と記載され、さらに実施例2は、実施例1と同様に、ブレイク・ラインに沿って、ローラーにより荷重をかけて基板を切断分離するものであるから(上記第7の1.(13))、甲11発明において、「基板201上の溝部203の内部側」に形成された加工変質部に沿って、平坦な分離端面となるように基板を切断(分離)するためには、基板201の表面に溝部203を形成することは必要不可欠な要件と理解されるものである。
してみると、甲11発明に接した当業者が、基板201から溝部203を捨象することは想定し得ず、加工対象物として、ブレイクライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201を採用し、表面に溝が形成されていない基板201の内部側に形成された加工変質部を形成するよう改変を行う動機は存在しない。そして、このような改変にはむしろ阻害事由があるから、甲11発明から、本件発明1に至ることはない。
さらに、甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項並びにその他の証拠を参酌しても、甲11発明の基板201から溝部203を捨象して、加工対象物をブレイクライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201とした場合においても、基板201の内部側に形成された加工変質部(ブレイク・ライン204)のみによって基板が切断(分離)できると理解できるような事情は見いだせない。
オ 小括
相違点2について、甲11発明、甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、当審無効理由通知及び審決予告で通知した無効理由によって本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、本件発明1と同様の理由により、当審無効理由通知及び審決予告に示した無効理由によって本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。
(3)当審無効理由通知及び審決予告で通知した無効理由についてのむすび
よって、本件発明1及び2は、甲11発明、甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものとはいえないから、当審無効理由通知及び審決予告で通知した無効理由によってそれらの特許を無効にすることはできない。
2.請求人の主張の検討
(1)当審無効理由通知に対する請求人の主張の概要
請求人は、令和3年5月18日付け弁駁書及び同年6月25日付け上申書において、本件発明は進歩性を有しないことについて、概ね下記のとおり主張している。
ア 甲第11号証には、半導体ウェハの切断技術を、サファイア以外の材料よりなる基板を有する半導体ウェハを切断するために適用できることが記載されているところ(段落【0024】)、甲第7号証(14ページ21行-15ページ8行)には、加工対象物の内部にレーザ光を集光させて、当該加工対象物の内部に改質領域を形成する技術をシリコンに適用できる旨が記載されている。よって、甲第11号証の記載に接した当業者は、甲11発明に係る半導体ウェハの切断技術を、シリコン基板に適用できる。そして、(パルス)レーザ光を集光させて、半導体基板(単結晶のシリコンを含む)を切断(割断)することは、本件特許の優先日前に周知の技術となっており、その中には、切断予定ラインに沿って溝が形成されるものもあるし、溝が形成されないものもあるところ、シリコンウェハについては、これにレーザ光の焦点をあてて切断する場合、溝を形成していないシリコンウェハを用いることが広く知られていた、又は、溝が形成された基板を加工対象物としようとする場合には、溝を形成するための工程が必要となることから、当業者は、溝を形成しない基板を加工対象物として利用することに動機付けられる。
以上より、甲第11号証に接した当業者は、甲11発明に係る半導体ウェハの切断技術を、溝が形成されていないシリコン基板からなる半導体ウェハに適用することを容易に想到するといえ、当審無効理由通知で示す理由のとおり、本件発明1及び2は、甲11発明、甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものである。(令和3年5月18日付け弁駁書15ページ17行-16ページ9行)
イ 甲第11号証のレーザ加工装置は、実施形態において、「溝部が形成された基板」を加工することが記載されているが、当該レーザ加工装置は、当然、溝部が形成されていない基板をも加工可能なレーザ加工装置である。(溝部が形成された基板のみ加工可能であり、溝部が形成されていない基板は加工できない、というようなレーザ加工装置は観念できない。)
したがって、本件発明1のうち「構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない」との構成は、甲11発明との相違点とならないから、当審無効理由通知で示す理由のとおり、本件発明1及び2は、甲11発明、甲第6号証及び甲第7号証の技術的事項に基いて、当業者が容易になし得たものである。(令和3年6月25日付け上申書5ページ下から6行-6ページ5行)
(2)請求人の主張の検討
ア 上記(1)アを検討すると、上記1.(1)エに説示したとおり、甲11発明において、基板を切断(分離)するために、基板201の表面にブレイクラインに沿って溝部203を形成することは必要不可欠な要件であり、これを捨象することはできないものであるところ、シリコンウェハについて、溝部を設けずに、かつ、レーザ光の焦点をあてたシリコンウェハの内部の部分を起点として切断することが広く知られていたという証拠はなく、又は、そのような構成が動機付けられるわけではないから、請求人の主張は採用できない。
なお、請求人は、同弁駁書の9ページ下から2行から10ページ11行において、甲第11号証と明細書の内容がほぼ同じである同号証の分割出願(特願2002-329878号)の出願過程において、「基板に溝を形成せずに、基板上に形成された窒化物半導体のみに溝を形成することは記載されていない」との理由による拒絶理由通知(甲第16号証)を受けたのに対し、当該分割出願の出願人が、当初明細書等の開示(段落【0019】-【0022】、【0032】、【0028】、【0029】、図6)に照らし、基板に溝部を形成せずに、基板上に形成された窒化物半導体にのみ溝部を形成することは、出願当初の明細書又は図面の開示事項から当業者にとって自明な事項であるとする意見書(甲第17号証)を提出し、その後、かかる出願人の主張に沿った内容の特許請求の範囲の内容で特許査定を受けていることから(特許4244618号)、特許庁は、甲第11号証の明細書には、基板に溝を形成しない構成が開示されているか、少なくとも示唆されていることを認めていると理解できる旨の主張とともに、合わせて甲第11号証の孫出願に当たる特願2011-204200号の意見書(甲第26号証)を提出している。
しかし、請求人の主張する分割出願や孫出願は、本件特許に係る出願とは異なる出願であって、当該分割出願や孫出願における判断が、当審を拘束する法的根拠はないし、甲第16号証、甲第17号証及び甲第26号証のいずれにも、甲11発明の認定において基礎とした実施例2について、基板に溝を形成しない構成を開示又は示唆するものではないから、結論を左右するものではなく、該主張は採用できない。
イ 上記(1)イを検討すると、本件発明1及び2は、「加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであること」という用途に係る記載により、レーザ加工装置を特定し、本件発明1及び2のレーザ加工装置が、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であっても切断し得る性能を有するものであることを特定しているところ、上記1.(1)エに説示したとおり、甲11発明を前提とする以上、当業者は、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハを加工対象物とする、という用途及びシリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていない場合でも切断し得る性能を有するものとすることを想到することができないのであり、上記の記載が、甲11発明との相違点とならない旨の主張は失当である。
3.無効理由1についての検討
(1)本件発明1について
上記第7の2.(1)-(13)から、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
なお、甲第1号証の段落【0001】、【0003】-【0010】、【0013】及び【0024】には、サファイア基板は、へき開性を有しておらず、非常に硬い物質であるために、ダイヤモンドスクライバーやダイサーで切断する場合に問題があることが記載され、その解決のために甲1発明がされたことが記載されているものの、上記記載は、サファイア基板をダイヤモンドスクライバーやダイサーで切断する場合に問題が生じる基板の例として記載しているものと解され、甲1発明がサファイア基板以外の基板に適用できないというべき事情も認められないから、甲1発明はサファイア基板に限られるものではなく、甲第1号証の請求項1及び4に従い、「基板」についての発明と認定すべきものといえる。
また、甲第1号証の請求項4は、その文言からすると、「基板内部に形成された加工変質層(206)」とされているが、発明の詳細な説明及び図面の記載が上記第7の2.のとおりであることからすると、甲第1号証において、基板内部にのみスクライブ・ラインを形成することが開示されているとは認められず、溝部204及びスクライブ・ライン207を捨象して甲1発明を認定することはできない。
<甲1発明>
「基板201の表面上に窒化物半導体層205、溝部204及び溝部204の底面にスクライブ・ライン207が形成された半導体ウエハーの内部に、微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206のスクライブ・ラインを形成するレーザー加工機であって、
前記半導体ウエハーが載置されるステージと、
レーザーを照射するレーザー照射部と、
前記ステージに載置された前記半導体ウエハーの内部に、前記レーザー照射部から照射されたレーザーの焦点が結ばれるように調整し、そのレーザーの集光点の位置で加工変質層206を形成するレンズなどのレーザー光学系と、
切断予定ラインに沿って形成された前記微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206を形成するために、レーザーの集光点を前記半導体ウエハーの内部に位置させた状態で、切断予定ラインに沿ってレーザーの集光点を直線的に移動させて加工変質層206を形成し、レーザー光学系を調整し直して溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成する制御部と、を備える、
レーザー加工機。」
ア 甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「基板201の表面上に窒化物半導体層205、溝部204及び溝部204の底面にスクライブ・ライン207が形成された半導体ウエハー」又は「半導体ウエハー」は、本件発明1の「ウェハ状の加工対象物」又は「加工対象物」に相当し、以下同様に、「レーザー加工機」は「レーザ加工装置」に、「ステージ」は「載置台」に、「照射」は「出射」に、「レーザー照射部」は「レーザ光源」に、「焦点が結ばれるように調整」は「集光」に、「レンズなどのレーザー光学系」は「集光用レンズ」に、「直線的に移動させて」は「直線的に移動させる機能を有する」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の「改質領域」は、本件明細書の段落【0071】に「改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)」と記載されているなど広義に解釈できるものであり、クラック領域も改質領域に含まれるから、甲1発明の微視的なマイクロ・クラックの集合である「加工変質層206」は、本件発明1の「改質領域」に相当するといえる。
また、甲1発明の「レーザー」と、本件発明1の「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」又は「パルスレーザ光」とは、「レーザ光」である限りで共通する。
また、甲1発明の「切断予定ラインに沿って形成された前記微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206を形成するために、レーザーの集光点を前記半導体ウエハーの内部に位置させた状態で、切断予定ラインに沿ってレーザーの集光点を直線的に移動させて加工変質層206を形成し、レーザー光学系を調整し直して溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成する制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「前記改質領域を形成するために、レーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」である限りで共通する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「ウェハ状の加工対象物の内部に、改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光させる集光用レンズと、
前記改質領域を形成するために、レーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備える
レーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、改質領域が「切断の起点」となるのに対し、甲1発明は、改質領域に相当する加工変質層206が切断の起点となるのかは明らかでない点。
<相違点2>
本件発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射する」ものであり、「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポット」が形成され、改質領域が、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の改質スポット」によって形成されているのに対し、甲1発明は、加工対象物が溝部204及び溝部204の底面にスクライブ・ライン207が形成された半導体ウエハーであり、レーザ光源であるレーザー照射部が、パルスレーザ光を照射するものであるか不明であり、レーザー照射部から照射されたレーザーの焦点の位置で微視的なマイクロ・クラックの集合が形成され、改質領域に相当する加工変質層206が、半導体ウエハーの内部に切断予定ラインに沿って形成された微視的なマイクロ・クラックの集合によって形成されている点。
<相違点3>
本件発明1は、「制御部」により「パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして」レーザ光の集光点を移動させているのに対し、甲1発明は、制御部により、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にするかどうか不明な点。
イ 相違点1の判断
本件発明1は、加工対象物内部に形成された改質領域を切断の起点、すなわち切断が最初に始まる点として、厚さ方向に向かって割れを発生させるものであるところ、甲1発明には、微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206のスクライブ・ラインにおいて切断が最初に始まることの明記はない。
また、甲第1号証の段落【0047】には「溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーによって荷重をかけ半導体ウエハーを切断し」(上記第7.の2.(9))との記載があるところ、当該「溝部(スクライブ・ライン)」が、甲1発明の「溝部204の底面」の「スクライブ・ライン207」を意味することは明らかであるから、甲1発明のスクライブ・ライン207が切断の起点となるとも考えることができ、甲1発明において、微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206のスクライブ・ラインが切断の起点になるとまではいえない。
また、甲第5号証及びその他の証拠(上記第3の1.)を参照しても、甲1発明における切断の起点が、溝部204の底面に形成されたスクライブ・ライン207ではなく、半導体ウエハー内部の加工変質層206(スクライブ・ライン)であることを認めるに足る記載や示唆はない。また、上記(1)冒頭に述べたとおり、甲1発明において、溝部204及びスクライブ・ライン207を捨象することはできないものであるから、甲1発明に対して、当該溝部204及びスクライブ・ライン207を設けずに、加工変質層206を切断の起点にするという技術的事項を適用する動機があるとはいえない。
したがって、上記相違点1が甲1発明、甲第5号証に記載された事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に想到できた事項であるとはいえない。
ウ 相違点2の判断
本件発明1の加工対象物は、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるところ、甲1発明の加工対象物は、溝部204及び溝部204の底面にスクライブ・ライン207が形成された半導体ウエハーである。
そして、上述のとおり、甲1発明の半導体ウエハーにおいて、溝部204及びスクライブ・ライン207を捨象することはできないものであり、加工対象物として、切断予定ラインに沿った溝が形成されていない半導体ウエハーを採用することには阻害事由があるから、甲1発明から、本件発明1に至ることはない。
さらに、甲第5号証及びその他の証拠を参酌しても、甲1発明の半導体ウエハーから溝部204及びスクライブ・ライン207を捨象して、加工対象物を、切断予定ラインに沿った溝が形成されていないものとした場合においても、半導体ウエハーの内部側に形成された加工変質部(スクライブ・ライン206)のみによって基板が切断(分離)できると理解できるような事情は見いだせない。
エ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は甲1発明の切断の起点について、以下のように主張している。
切断の起点は1つと理解する必要はなく、複数あってもかまわないのであり、本件発明は、改質領域が厚さ方向に上下2つ形成されるものを含んでいる。
また、甲第1号証の実施例2の記載からは、スクライブ・ライン207から亀裂が必ず先に生じるという事実は何ら立証されていないから、判断の基礎とすることはできない。甲第1号証の実施例2には、スクライブ・ライン207及びスクライブ・ライン206の両方が起点となる亀裂や、スクライブ・ライン206のみが起点となる亀裂などが含まれると解するべきである。
(令和2年8月7日付け請求人上申書第10ページ第11行-第14ページ第5行)
(イ)上記(ア)の主張を検討すると、仮に本件発明の切断の起点が複数あることを許容するものとしても、本件発明1の「加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する」との記載が、加工対象物の内部に形成された改質領域から最初に切断が始まることを意味することを左右するものではなく、加工対象物の内部に形成された改質領域以外の部分、例えば溝部の底面に形成されたスクライブ・ライン207から最初に切断が始まることを許容することにはならない。
また、甲第1号証には、スクライブ・ライン207から亀裂が必ず先に生じる旨の記載はないが、加工変質層206から亀裂が必ず先に生じる旨の記載もないのであるから、結局、切断の起点がスクライブ・ライン207なのか、加工変質層206なのか不明なのであり、甲1発明において、半導体ウエハー内部に形成された微視的なマイクロ・クラックの集合である加工変質層206のスクライブ・ラインが切断の起点になるとまではいえないという当審の判断を覆すことにはならない。
したがって、請求人の上記の主張は採用できない。
オ 小括
相違点1及び2について、以上のとおりであるから、相違点3について判断するまでもなく、請求人の主張する無効理由1により、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由1により、本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。
(3)無効理由1についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由1は成立しない。
4.無効理由2についての検討
上記第7の3.(1)-(10)から、甲第2号証には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲2発明>
「半導体結晶ウェーハの裏面に、ペレットに分割するための起点となるスクライブ溝を形成するレーザ加工装置であって、
前記半導体結晶ウェーハが載置される載置台と、
レーザー光を出射するYAGレーザーと、
前記載置台に載置された前記加工対象物の裏面近傍に、前記YAGレーザーから出射されたレーザー光が焦点を結び、その焦点の位置でスクライブ溝を形成させる光学レンズ51と、
前記レーザー光の出力および前記半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れる制御部と、を備える、
レーザ加工装置。」
(1)本件発明1について
ア 甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「半導体結晶ウェーハ」は、本件発明1の「ウェハ状の加工対象物」又は「加工対象物」に相当し、以下同様に、「ペレットに分割するための起点となるスクライブ溝」は「切断の起点となる」に、「YAGレーザー」は「レーザ光源」に、「焦点を結び」は「集光し」に、「焦点」は「集光点」に、「光学レンズ51」は「集光用レンズ」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明の「スクライブ溝」と本件発明1の「改質領域」又は「改質スポット」は、「加工領域」という点で共通する。
また、甲2発明の「レーザー光」と、本件発明1の「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」又は「パルスレーザ光」とは、「レーザ光」である限りでは共通している。
また、甲2発明の「前記レーザー光の出力および前記半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れる制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「レーザ光の集光点の移動速度を略一定にする機能を有する制御部」という点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる加工領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で加工領域を形成させる集光用レンズと、
レーザ光の集光点の移動速度を略一定にする機能を有する制御部と、
を備えるレーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起点とするのに対して、甲2発明は、半導体結晶ウェーハの裏面のスクライブ溝が切断の起点である点。
<相違点2>
本件発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」を出射し、集光用レンズが「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置」で改質スポットを形成するものであるのに対し、甲2発明は、加工対象物が半導体結晶ウェーハではあるが、シリコンウェハではなく、レーザ光が、「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」であるのか不明である上に、光学レンズ51が「1パルスのパルスレーザ光の照射により」そのパルスレーザ光の集光点の位置でスクライブ溝を形成するのか不明である点。
<相違点3>
レーザ加工装置の「制御部」が、本件発明1は、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」のに対し、甲2発明の制御部は、レーザー光の出力および半導体結晶ウェーハの移動速度を一定として、スクライブ溝を入れる制御を行っている点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲2発明は、半導体結晶ウェーハの裏面近傍に光学レンズ51の焦点を位置させて、半導体結晶ウェーハの裏面を加工することでスクライブ溝を形成するものであるところ、甲第2号証に、「本発明の目的は半導体結晶の表面・電極パターンに従い裏面を加工する方法を提供するものである」(上記第7の3.(2))と記載されているように、甲2発明の目的は、半導体結晶ウェーハの裏面を、表面方向からのレーザー光の照射によって加工すること、すなわち半導体結晶ウェーハの内部ではなく、裏面にスクライブ溝を形成することであるから、甲第2号証の記載に接した当業者が、甲2発明の半導体結晶ウェーハの裏面のスクライブ溝に替えて、本件発明1のように、ウェハ状の加工対象物の内部に改質領域を設けようと試みる動機はない。
加えて、甲2発明の切断の起点は、ウェーハの裏面に設けるスクライブ溝であって、内部に設けた改質領域ではない。
そして、甲2発明の「半導体結晶ウェーハの裏面」の「スクライブ溝」に替えて、「ウェハ状の加工対象物の内部」に「改質領域」を設けるように構成し、当該内部の改質領域を切断の起点とすることは、甲第5号証、甲第7号証、甲第1号証及びその他の証拠を参酌しても、動機づけられるものとはいえない。特に、甲2発明は、ウェーハの表面方向から、裏面を加工することを目的とする発明であり、裏面を加工すること自体に技術的意義を有するのに対して、ウェーハの内部に切断の起点となる加工変質部を設けることは、甲2発明の技術的意義を損なうものであるから、このような内部を加工して加工変質部とする技術的事項を適用する動機があるとはいえない。
したがって、相違点1について、甲2発明、甲第5号証、甲第7号証、甲第1号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない
(イ)小括
相違点1について、甲2発明、甲第5号証、甲第7号証、甲第1号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、請求人の主張する無効理由2により本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
ウ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は、甲2発明の分割の起点について、おおむね以下のように主張している。
甲第2号証には、レーザ光が裏面近傍に焦点を結ぶ旨の記載があり、加工対象物の内部に焦点が結ばれていると考えるのが妥当であるから、分割の起点は加工対象物の内部に形成されると認定すべきである。(審判請求書第56ページ下から第9行-最終行)
(イ)請求人の主張を検討すると、甲2発明のレーザ光の焦点が加工対象物の内部にあるとしても、それにより、甲2発明は、半導体結晶ウェーハの裏面にスクライブ溝を形成するのであり、このスクライブ溝が分割の起点となるのであるから、甲2発明の分割の起点について、加工対象物(半導体結晶ウェーハ)の内部に形成されると認定することはできないし、上記イ(ア)のとおり、半導体結晶ウェーハの裏面ではなく内部を加工するよう改変することは甲2発明の技術的意義を損なうものであるから、請求人の当該主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由2により本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。
(3)無効理由2についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由2は成立しない。
5.無効理由3についての検討
(1)本件発明1について
上記第7の4.(1)-(12)から、甲第3号証には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲3発明>
「半導体基板5の表面10と裏面9に、分割の起点となる溝15、16を形成するレーザスクライブ装置であって、
前記半導体基板5が載置されるテーブル7と、
レーザ光線を照射するレーザ発振器1と、
前記テーブル7に載置された前記半導体基板5の表面10と裏面9に、前記レーザ発振器1から照射されたレーザ光線を集光し、その集光点の位置で溝15、16を形成させる凸レンズ3と、
凸レンズ3をレーザ光線の照射方向に対して垂直方向に移動して、レーザ光線の集光点を移動させる制御部と、を備え、るレーザスクライブ装置。」
ア 甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「半導体基板5」は、本件発明1の「ウェハ状の加工対象物」又は「加工対象物」に相当し、以下同様に、「分割の起点」は「切断の起点」に、「レーザスクライブ装置」は「レーザ加工装置」に、「テーブル7」は「載置台」に、「照射」は「出射」に、「レーザ発振器1」は「レーザ光源」に、「凸レンズ3」は「集光用レンズ」に、それぞれ相当する。
また、甲3発明の「溝15、16」と、本件発明1の「改質領域」又は「改質スポット」とは、「加工領域」である限りでは共通している。
また、甲3発明の「レーザ光線」と、本件発明1の「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」又は「パルスレーザ光」とは、「レーザ光」である限りでは共通している。
また、甲3発明の「レーザ光線の集光点を移動させる制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「レーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部」である限りでは共通している。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる加工領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光しそのレーザ光の集光点の位置で加工領域を形成させる集光用レンズと、
レーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部と、を備えるレーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、加工対象物の「内部」の「改質領域」を切断の起点とするのに対して、甲3発明は、半導体基板5の表面10と裏面9の溝15、16を切断の起点としている点。
<相違点2>
本件発明1は、加工対象物が「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、レーザ光源が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」を出射し、集光用レンズが「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置」で改質スポットを形成するものであるのに対し、甲3発明は、加工対象物が半導体基板5ではあるが、シリコンウェハではなく、レーザ光が、「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」であるのか不明である上に、凸レンズ3が、「1パルスのパルスレーザ光の照射により」そのパルスレーザ光の集光点の位置に加工領域を形成するものであるのか不明である点。
<相違点3>
レーザ加工装置の「制御部」が、本件発明1は、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」のに対し、甲3発明は、凸レンズ3をレーザ光線の照射方向に対して垂直方向に移動して、レーザ光線の集光点を移動させるように制御しているものである点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲3発明は、半導体基板がサファイヤの場合には、レーザ光線が透過性を有するため、レーザ光線が透過しない被加工体に対して溝が浅くなり、溝を深くするためにはレーザ光線を長時間照射する必要があり、能率が悪く、熱による悪影響が生じるという欠点を解決するためなされたものであり(上記第7の4.(3))、半導体基板5の表面10と裏面9に凸レンズ3でレーザ光線を集光し、半導体基板5の表面10と裏面9に溝15、16を形成することで、容易に半導体基板を分割できるものである。そして、甲第3号証に、「このように半導体基板5の両面に対向してスクライブした後に分割すれば第2図(b)の点線17より割れ、その分割面は、ほぼ直線上に割れる。」(上記第7の4.(9))と記載されているから、甲第3号証の記載に接した当業者は、切断の起点となる加工領域について、甲3発明の半導体基板5の表面10と裏面9の2カ所の溝15、16を不可欠のものと認識することは明らかであり、当業者は、甲3発明に対して、基板の表面と裏面の2カ所の溝に換えて、本件発明1のように、ウェハ状の加工対象物の内部に設けようと試みるとはいえない。
また、甲3発明の「半導体基板5の表面10と裏面9」の「溝15、16」に換えて、「加工対象物の内部」に「改質領域」を設けるように構成し、当該内部の改質領域を切断の起点とすることは、甲第5号証、甲第7号証に記載の事項及びその他の証拠を参酌しても動機づけられるものとはいえない。特に、甲3発明のように基板の表面及び裏面の2カ所に溝を設けることを不可欠の構成とする発明に対して、ウェーハの内部に切断の起点となる加工変質部を設けるという技術的事項を適用する動機があるとはいえない。
したがって、相違点1について、甲3発明、甲第5号証、甲第7号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(イ)小括
相違点1について、甲3発明、甲第5号証、甲第7号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、請求人の主張する無効理由3により本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
ウ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は、相違点1について、おおむね以下のように主張している。
甲第1号証には、レーザ照射による加工くずの発生を防止する目的で、加工対象物である半導体ウェハーの裏面にスクライブ・ラインを形成する代わりに、加工対象物の内部にスクライブ・ラインを形成することが示されており、甲3発明のように、レーザ照射によって裏面にスクライブ溝を形成すれば加工くずが発生することは、従来から課題として知られていたから、甲3発明において、レーザ照射による加工くずの発生を防止する目的で、甲第1号証に係る発明を適用することは、当業者が容易に想到できることである。(審判請求書第94ページ第2行-下から第7行)
(イ)請求人の主張を検討すると、甲第1号証に、半導体ウェハーの裏面にスクライブ・ラインを形成する代わりに、加工対象物の内部にスクライブ・ラインを形成することが示されているかどうか、加工くずの課題が従来から知られていたかどうかはおくとしても、甲3発明は、基板の表面及び裏面の2カ所に溝を設けることを不可欠の構成とするのであるから、当業者が、甲3発明の裏面の溝に代えて、内部にスクライブ・ラインを設けるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由3により本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。
(3)無効理由3についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由3は成立しない。
6.無効理由4についての検討
上記第7の5.(1)-(11)から、甲第4号証には以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲4発明>
「アンプルであるガラス物体のガラス壁の中心に、破断点を形成する集中レーザー照射手段であって、
前記アンプルが載置されるローラー4、5、6と、
パルス時間が10nsのレーザービームを照射するQ-スイッチNd:YAGレーザー7と、
前記ローラー4、5、6に載置された前記アンプルのガラス壁の中心に、前記Q-スイッチNd:YAGレーザー7から照射されたレーザービームを集光し、レーザービームの単一パルスにより、そのレーザービームの収束する点で微小亀裂領域を形成させるレーザーレンズ8と、
前記微小亀裂領域の間隔が1mm間隔となるように、前記アンプルの首回りの分割線に沿って形成された複数の前記微小亀裂領域によって前記破断点を形成するために、レーザービームの収束する点を前記アンプルのガラス壁の中心に位置させた状態で、レーザー繰り返し周波数とローラー4、5、6の回転を一定にして、前記分割線に沿ってレーザービームの収束する点を前記アンプルの首回りの周囲方向に移動させる制御部と、を備える、
集中レーザー照射手段。」
(1)本件発明1について
ア 甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「破断点」は、本件発明1の「切断の起点」又は「改質領域」に相当し、以下同様に、「微小亀裂領域」は「改質スポット」に、「集中レーザー照射手段」は「レーザ加工装置」に、「ローラー4、5、6」は「載置台」に、「パルス時間が10nsのレーザービーム」又は「レーザービーム」は「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」又は「パルスレーザ光」に、「照射」は「出射」に、「Q-スイッチNd:YAGレーザー7」は「レーザ光源」に、「レーザービームの単一パルス」は「1パルスのパルスレーザ光」に、「レーザービームの収束する点」は「パルスレーザ光の集光点」に、「レーザーレンズ8」は「集光用レンズ」に、「前記微小亀裂領域の間隔が1mm間隔となる」は「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となる」に、「分割線」は「切断予定ライン」に、「レーザー繰り返し周波数とローラー4、5、6の回転を一定にして」は「パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして」に、それぞれ相当する。
また、甲4発明の「アンプルであるガラス物体」又は「アンプル」と、本件発明1の「ウェハ状の加工対象物」又は「加工対象物」とは、「加工対象物」である限りでは共通し、甲4発明の「アンプルであるガラス物体のガラス壁の中心」と、本件発明1の「加工対象物の内部」とは「加工対象物の内部」である限りでは共通している。
また、甲4発明の「前記微小亀裂領域の間隔が1mm間隔となるように、前記アンプルの首回りの分割線に沿って形成された複数の前記微小亀裂領域によって前記破断点を形成するために、レーザービームの収束する点を前記アンプルのガラス壁の中心に位置させた状態で、レーザー繰り返し周波数とローラー4、5、6の回転を一定にして、前記分割線に沿ってレーザービームの収束する点を前記アンプルの首回りの周囲方向に移動させる制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部」である限りでは共通している。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズと、
隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部と、を備える、
レーザ加工装置。」
<相違点1>
加工対象物が、本件発明1は、「ウェハ状」であり、特に「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対して、甲4発明は、アンプルであるガラス物体であって、シリコンウェハではない点。
<相違点2>
制御部によるパルスレーザ光の集光点の移動が、本件発明1は、切断予定ラインに沿って「直線的に」移動されるのに対して、甲4発明は、アンプルの首回りの分割線に沿って、アンプルの首回りの周囲方向に移動させる点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲4発明の加工対象物は、アンプルであるガラス物体であり、シリコンウェハではない。さらに、甲4発明の課題は、「破断開封アンプルを再現できかつ安全に開口する方法で破断開封アンプルの破断領域に所定の破断点を形成することにある。特に、破断開封が困難なアンプルを開封するときに生ずる傷の発生を避け、かつ、アンプルの開封で生ずるアンプル内の医薬品の損傷を妨げることを意図する」(第7の5.(4))というもの、すなわち、ガラス製の破断開封アンプルを安全に開口することであるから、該課題を鑑みると、甲4発明を適用する加工対象物としてシリコンウェハを想定することは当業者が容易になし得るものとはいえない。
また、上記第7の5.(2)、(3)、(5)及び(8)の記載事項を参酌しても、甲4発明をガラス板やガラス管の切断に適用することについての動機は見いだせるとしても、ガラス物体と本件発明のシリコンウェハとは材料が異なり、その物性が異なるものであるから、加工対象物としての性質が異なることは、明らかである。したがって、そのような加工上の性質の異なる加工対象物に甲4発明を適用することが直ちに動機付けられるとはいえないところ、甲第4号証にはそのような動機付けとなり得る記載はなく、その他動機付けとなり得る事情も認められない。
また、甲4発明を適用する加工対象物を、「アンプルであるガラス物体」に換えて、「シリコンウェハ」、特に「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」とすることは、甲第5号証及びその他の証拠によっても動機づけられるものとはいえない。
したがって、相違点1について、甲4発明、甲第5号証及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
(イ)小括
相違点1について、甲4発明、甲第5号証及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、相違点2について検討するまでもなく、請求人の主張する無効理由4により本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
ウ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は、相違点1について、おおむね以下のように主張している。
レーザ加工によってシリコンウェハを切断することは周知慣用技術であり、本件明細書では、シリコンウェハの加工条件と、パイレックスガラスの加工条件とで、特段の差もないし、本件明細書には、加工対象物をシリコンウェハにすることの作用効果について何ら言及されていないから、加工対象物がシリコンウェハであるか否かは、設計的事項にすぎない。(審判請求書第110ページ第2行-最終行)
(イ)請求人の主張を検討すると、仮に、レーザ加工によってシリコンウェハを切断することが周知慣用技術であるとしても、甲4発明は、ガラスのアンプルを安全に開口することを目的としており、ここでいう安全は、アンプルを破断開封する際の破断縁による傷を生じさせないことやアンプル内の医薬品の損傷を生じさせないことを意味することは明らかである。これに対して、シリコンウェハは、アンプルのように、使用時に手で破断させるようなものではないし、医薬品容器でもないから、シリコンウェハの加工を行う当業者は、シリコンウェハの破断縁による傷が生じるとは考えない。また、シリコンウェハは、そもそも容器ではないから、その内容物の損傷を考慮することもないことから、甲第4号証の記載に接した当業者が、甲4発明の加工対象物をシリコンウェハに変更しようとする動機があるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由4により本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。
(3)無効理由4についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由4は成立しない。
7.無効理由5についての検討
上記第7の6.(1)-(10)から、甲第5号証には以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲5発明>
「厚板の合成石英ガラスに、連続的に微細なクラックを形成するエキシマレーザビームで切断加工する装置であって、
前記厚板の合成石英ガラスが載置される載置台と、
くり返し周波数が150Hzであるエキシマレーザビームを照射するエキシマレーザと、
前記載置台に載置された前記厚板の合成石英ガラスに、前記エキシマレーザから照射されたエキシマレーザビームの焦点を合わせて、多光子吸収により、その焦点の位置で微細なクラックを形成させるレンズと、
エキシマレーザビームのくり返し周波数及び焦点の移動速度を略一定にして、エキシマレーザビームの焦点を前記厚板の合成石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させる制御部と、を備える、
エキシマレーザビームで切断加工する装置。」
(1)本件発明1について
ア 甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「厚板の合成石英ガラス」は、本件発明1の「加工対象物」に相当し、以下同様に、「連続的に微細なクラック」は「改質領域」に、「エキシマレーザビームで切断加工する装置」は「レーザ加工装置」に、「エキシマレーザ」は「レーザ光源」に、「照射」は「出射」に、「エキシマレーザビーム」は「パルスレーザ光」に、「焦点を合わせて」は「集光し」に、「焦点」は「集光点」に、「レンズ」は「集光用レンズ」にそれぞれ相当する。
また、甲5発明の「前記エキシマレーザから照射されたエキシマレーザビームの焦点を合わせて、多光子吸収により、その焦点の位置で微細なクラックを形成させるレンズ」と本件発明1の「前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズ」とは、「前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質された箇所を形成させる集光用レンズ」である限りは共通している。
また、甲5発明の「エキシマレーザビームのくり返し周波数及び焦点の移動速度を略一定にして」は本件発明1の「パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして」に相当するから、甲5発明の「エキシマレーザビームのくり返し周波数及び焦点の移動速度を略一定にして、エキシマレーザビームの焦点を前記厚板の合成石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させる制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部」である限りでは共通している。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「加工対象物に、改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質された箇所を形成させる集光用レンズと、
パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部と、を備えるレーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、加工対象物の「内部」の改質領域を「切断の起点」とするのに対して、甲5発明は、厚板の合成石英ガラスを、円筒形の切断予定ラインに沿って連続的に微細なクラックを形成して切断するために、エキシマレーザビームの焦点を厚板の石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させて切断するものであり、その切断の起点が不明である点。
<相違点2>
本件発明1は、加工対象物が「ウェハ状の加工対象物」であって「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であり、レーザ光源が「パルス幅が1μs以下の」パルスレーザ光を出射し、集光用レンズが「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成」するものであるのに対し、甲5発明は、加工対象物が厚板の合成石英ガラスであって、シリコンウェハではないとともに、エキシマレーザビームのパルスを「パルス幅を1μs以下」として、レンズが「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成」するかどうか不明な点。
<相違点3>
「制御部」が、本件発明1は、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」のに対し、甲5発明は、厚板の合成石英ガラスを、円筒形の切断予定ラインに沿って連続的に微細なクラックを形成して切断するために、エキシマレーザビームの繰り返し周波数及び焦点の移動速度を略一定にして、エキシマレーザビームの焦点を前記厚板の石英ガラスの底面から上方向に円筒形の切断予定ラインに沿って移動させるものである点。
イ 判断
(ア)相違点2について
事案に鑑みて、相違点2から検討する。
甲5発明の加工対象物は、「光学ガラス、石英ガラスなどの無機ガラス、アクリル樹脂などの透明樹脂等」(上記第7の6.(3))の透明材料であり、実施例1では、厚板の合成石英ガラスを加工するものであり、シリコンウェハではない。
さらに、甲5発明の課題は、「本発明は、石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし、被加工物の厚味に影響を受けず、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている。」(上記第7の6.(2))というものであり、このために、連続的なクラックにより切断を行うものであるから、甲5発明を適用する加工対象物として、透明で厚板な材料や、複雑な形状を切断加工するような材料を選択することはあるとしても、シリコンウェハは、一般的に非常に薄く、複雑な切断加工を要するものではないし、ガラスよりもバンドギャップ(加工対象物の電子が遷移するためのエネルギー)が低いため、甲5発明のエキシマレーザに対して透明でない(すなわち、エキシマレーザではシリコンウェハの内部を加工できない)から、甲5発明の加工対象物をシリコンウェハとすることの動機があるとはいえない。そして甲第5号証にはそのような動機付けとなり得る記載はなく、その他動機付けとなり得る事情も認められない。
したがって、甲5発明を適用する加工対象物を、「厚板の合成石英ガラス」に替えて、「シリコンウェハ」、特に「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」とすることは、当業者が容易になし得たものではない。
(イ)小括
相違点2について、甲5発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、請求人の主張する無効理由5により本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
ウ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は、相違点2について、おおむね以下のように主張している。
レーザ加工によってシリコンウェハを切断することは周知慣用技術であり、本件明細書では、シリコンウェハの加工条件と、パイレックスガラスの加工条件とで、特段の差もないし、本件明細書には、加工対象物をシリコンウェハにすることによる作用効果について何ら言及されていないから、加工対象物がシリコンウェハであるか否かは、設計的事項にすぎない。(審判請求書第125ページ第2行-最終行)
(イ)請求人の主張を検討すると、仮に、レーザ加工によってシリコンウェハを切断することが周知慣用技術であるとしても、甲5発明は、厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的とし、連続的なクラックを形成することで切断を行っている。これに対して、シリコンウェハは、上記イ(ア)のとおり、一般的に非常に薄く、複雑な切断加工を要するものではないし、甲5発明のエキシマレーザに対して透明でないから、甲第5号証の記載に接した当業者が、甲5発明の加工対象物をシリコンウェハに変更しようとする動機があるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由5により本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。
(3)無効理由5についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由5は成立しない。
8.無効理由6についての検討
(1)本件発明1について
上記第7の7.(1)-(6)から、甲第6号証には以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲6発明>
「シリコン基板である被加工部材10の内部に、マーキングとなる光学的損傷を形成するマーキング装置であって、
前記被加工部材10が載置される保持台4と、
パルス幅が1ナノ秒以下のレーザ光を照射するレーザ光源1と、
前記保持台4に載置された前記被加工部材10の内部に、前記レーザ光源1から照射されたパルスレーザ光を集光し、パルスレーザ光により、そのパルスレーザ光の収束する位置で光学的損傷を形成させる集光光学系3と、
前記パルスレーザ光の収束する位置を前記被加工部材10の内部に位置させた状態で、前記パルスレーザ光の収束する位置を移動させる機能を有する制御部と、を備え
前記被加工部材10はシリコン基板である、
マーキング装置。」
ア 甲6発明との対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「シリコン基板である被加工部材10」、「被加工部材10」又は「前記被加工部材10はシリコン基板である」ことは、本件発明1の「ウェハ状の加工対象物」、「加工対象物」又は「加工対象物」は「シリコンウェハである」ことに相当し、以下同様に、「保持台4」は「載置台」に、「パルス幅が1ナノ秒以下のレーザ光」は「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」に、「照射」は「出射」に、「レーザ光源1」は「レーザ光源」に、「パルスレーザ光により、そのパルスレーザ光の収束する位置」は「1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置」又は「集光点」に、「集光光学系3」は「集光用レンズ」に、それぞれ相当する。
また、甲6発明の「マーキング装置」と、本件発明1の「レーザ加工装置」とは、レーザ光を用いて加工対象物に加工を行うとの機能に照らせば、「レーザ加工装置」として相当するといえる。
また、本件発明1の「改質領域」は、本件明細書の段落【0071】に「改質領域(例えばクラック領域、溶融処理領域、屈折率変化領域)」と記載されているなど広義に解釈できるものであり、光学的損傷も外部から視認可能なものであり屈折率変化領域に含まれるから、甲6発明の「マーキングとなる光学的損傷」と、本件発明1の「切断の起点となる改質領域」又は「改質スポット」は、「屈折率変化領域」という点で共通する。
また、甲6発明の「前記パルスレーザ光の収束する位置を前記被加工部材10の内部に位置させた状態で、前記パルスレーザ光の収束する位置を移動させる機能を有する制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部」である限りでは共通している。
そして、甲第6号証には、「シリコン基板である被加工部材10」について、溝を形成するかどうかの明記はないものの、図1(A)、図2(A)及び図3(A)に図示された「被加工部材10」には溝が形成されていないことに鑑みると、そのような溝が形成されていないシリコン基板を当然に含むと解されるから、甲6発明の「シリコン基板である被加工部材10」は、本件発明1の「シリコン単結晶構造部分に前記加工予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲6発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「ウェハ状の加工対象物の内部に、屈折率変化領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で屈折率変化領域を形成させる集光用レンズと、
パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部と、を備え、
加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記加工予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである
レーザ加工装置。」
<相違点1>
「屈折率変化領域」が、本件発明1は「切断の起点」となる「改質領域」(複数の改質スポット)であるのに対し、甲6発明は、マーキングとなる光学的損傷である点。
<相違点2>
制御部が、本件発明1は、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」のに対し、甲6発明は、前記パルスレーザ光の収束する位置を前記被加工部材10の内部に位置させた状態で、前記パルスレーザ光の収束する位置を移動させる機能を有する点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲6発明は光学的損傷によりマーキングを形成する発明であり、甲第6号証の段落【0005】には、「本発明の目的は、薄板状の被加工部材にマーキングする際にも、表面まで達するクラックの発生を抑制することができるマーキング方法及びマーキング装置を提供することである。」(上記第7の7.(2))と記載されているから、甲6発明は、あくまでもマーキングを目的とするものであって、切断を前提としておらず、かつ、変質領域が被加工部材の表面まで達することを避けるという、切断のような物理的な加工とは逆方向の技術的思想を有するものである。そうすると、甲6発明を主たる引用発明とし、出発点とする限り、加工対象物を切断するために甲6発明の制御を変更することは、甲6発明の技術的意義を損なうものであるから動機づけられるとはいえず、甲第5号証及びその他の証拠を参酌しても動機付けとなり得る事情は認められない。
したがって、甲6発明を、本件発明1のような切断するための技術として変更することが、甲6発明、甲第5号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者において容易想到であったとはいえない。
ウ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は、相違点1について、おおむね以下のように主張している。
レーザ加工は、除去、接合、表面改質の3つに大別され、除去という分類の下に、切断(金属、非金属の薄板切断)、及び、マーキング(工具,半導体など)が挙げられるから、切断とマーキングは、同じ除去という大分類に属しており、近縁の技術分野である。したがって、当業者にとっては、マーキングに係る発明を切断に適用することは、適宜設計可能な事項の範囲内であり、容易に想到できることである。
また、本件発明1の切断方法は、表面に不必要な割れが発生することにより、半導体チップが損傷するとの課題を解決すべく、加工対象物の内部に切断の起点を設け、表面に不必要な割れを発生しないようにするというものであるから、加工対象物の内部に設けた改質領域を、本件発明1の切断に供するか、マーキングに供するかは、当業者にとっては、設計事項の範囲内に属し、これら用途を適宜選択すれば足りることである。(審判請求書第139ページ第2行-第140ページ最終行)
(イ)請求人の主張を検討すると、仮に、切断とマーキングが、除去という同じ大分類に属しているとしても、甲第6号証には、マーキングを形成する際に、光学的損傷に基づくクラックが表面まで達することを抑制するという目的が示され、光学的損傷により外部から視認可能とするものである以上、甲第6号証の記載に接した当業者が、甲6発明を主たる引用発明として、その加工対象物をマーキングすることに代えて、切断しようと変更することはない。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。
(イ)小括
相違点1について、甲6発明、甲第5号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、請求人の主張する無効理由6により本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由6により本件発明2に係る特許を無効にすることはできない。
(3)無効理由6についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由6は成立しない。
9.無効理由7についての検討
(1)本件発明1について
上記第7の8.(1)-(11)から、甲第7号証には以下の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているものと認められる。
<甲7発明>
「ガラスに、切断溝を形成するマテリアルプロセシング装置であって、
前記ガラスが載置される載置台と、
パルスが100ピコ秒よりも短い幅の超短パルスレーザービームを出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記ガラスに、前記レーザ光源から出射された超短パルスレーザビームを集束し、1パルスの超短パルスレーザビームの照射により、その超短パルスレーザビームの焦点の位置で光学破壊を形成させるパルス集束手段と、
集束された超短パルスレーザビームは所定の経路に沿って、切断されるガラスを複数回横断することとなり、前記集束された超短パルスレーザビームの第1の横断はガラスの表面において行われ、それからゆっくりと鋸運動によりガラスの下の方へ移動させる制御部と、を備え、るマテリアルプロセシング装置。」
ア 甲7発明との対比
本件発明1と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「ガラス」は、本件発明1の「加工対象物」に相当し、以下同様に、「パルスが100ピコ秒よりも短い幅の超短パルスレーザビーム」又は「超短パルスレーザビーム」は「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」又は「パルスレーザ光」に、「集束」は「集光」に、「焦点」は「集光点」に、「光学破壊」は「改質スポット」に、「パルス集束手段」は「集光用レンズ」に、それぞれ相当する。
また、甲7発明の「切断溝」と、本件発明1の「改質領域」とは、レーザ光を用いて加工された領域であることに照らせば、「加工領域」である限りで共通している。
また、甲7発明の「マテリアルプロセシング装置」と、本件発明1の「レーザ加工装置」とは、レーザ光を用いて加工対象物に加工を行うとの機能に照らせば、「レーザ加工装置」で相当するといえる。
また、甲7発明の「集束された超短パルスレーザビームは所定の経路に沿って、切断されるガラスを複数回横断することとなり、前記集束された超短パルスレーザビームの第1の横断はガラスの表面において行われ、それからゆっくりと鋸運動によりガラスの下の方へ移動させる制御部」と、本件発明1の「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」とは、「パルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部」である限りでは共通している。
してみると、甲7発明と本件発明1とは以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「加工対象物に、加工領域を形成するレーザ加工装置であって、
前記加工対象物が載置される載置台と、
パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズと、
パルスレーザ光の集光点を移動させる機能を有する制御部と、を備え、るレーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、加工領域として、加工対象物の「内部」に、「切断の起点となる改質領域」を形成するのに対し、甲7発明は、切断溝を形成している点。
<相違点2>
本件発明1は、加工対象物が「ウェハ状の加工対象物」であり、特に「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対し、甲7発明はガラスである点。
<相違点3>
「制御部」が、本件発明1は、「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」のに対し、甲7発明は、集束された超短パルスレーザビームは所定の経路に沿って、切断されるガラスを複数回横断することとなり、前記集束された超短パルスレーザビームの第1の横断はガラスの表面において行われ、それからゆっくりと鋸運動によりガラスの下の方へ移動させる制御を行うものである点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲7発明は、ガラスの表面に切断溝を形成する発明であり、具体的には、集束された超短パルスレーザビームを鋸運動により下の方へ移動させることで、切断溝を形成しているから、切断は加工対象物の表面からなされるものであって、切断の起点は表面であると考えられるし、甲第7号証には、切断溝を材料の厚さを貫通するまで形成することが示唆されている(上記第7の8.(8))から、甲7発明の加工対象物の内部に切断の起点を形成することについては一切の記載も示唆もないところ、このように加工対象物の内部に切断の起点を形成することが当業者にとって容易想到とはいえない。
してみると、甲7発明を、本件発明1のような基板の内部を切断の起点して切断分離する技術とする動機付けは見当たらず、甲第5号証及びその他の証拠を参酌しても、動機づけられるものとはいえない。
(イ)小括
相違点1について、甲7発明、甲第5号証に記載の事項及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、請求人の主張する無効理由7によって本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。
ウ 請求人の主張に対して
(ア)請求人は、無効理由7について、甲7発明を「ウェハ状の加工対象物の内部に切断の起点となる光学破壊群を形成するレーザ加工装置」と認定すること(審判請求書153ページ6-7行)を前提として、甲7発明を主引用例とする進歩性の主張をしている。
(イ)請求人の主張を検討すると、甲第7号証において、加工対象物を切断することについては、超短パルスレーザビームを鋸運動させることの記載(上記第7の8.(8))があるだけであり、加工対象物の内部に光学破壊を生じさせることの記載(上記第7の8.(6))はあるものの、光学破壊の具体的な用途は、マーキングや貫通孔の形成(上記第7の8.(7))、又は、超短パルスレーザビームを加工対象物の裏面まで透過させて、裏面(甲第7号証でいう「サンプルの遠い側の表面」)に切断溝を形成すること(上記第7の8.(8))であるから、甲7発明について請求人の主張するように、甲7発明に「ウェハ状の加工対象物の内部に切断の起点となる光学破壊群を形成するレーザ加工装置」を含めて認定することはできず、無効理由7についての請求人の主張は、前提において誤りがある。
したがって、請求人の当該主張は採用できない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を含んでさらに限定したものに相当するため、同様の理由により、請求人の主張する無効理由7によって本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。
(3)無効理由7についてのむすび
したがって、請求人の主張する無効理由7は成立しない。
10.無効理由8(明確性違反)についての検討
ア 請求人は、本件発明1には、「改質領域」なる用語が用いられているが、この「改質領域」の意味内容が明確でなく、本件明細書を参酌すると、当該「改質領域」は多光子吸収によって形成されるものに限定して解釈されるが、そのように限定されているのか必ずしも明らかでないから、本件発明1は明確でない旨を主張している(審判請求書163ページ第8-14行)ので、以下、検討する。
イ 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
ウ 本件発明1(上記第3の1.参照。)には、「改質領域」(及び「改質スポット」)について、「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置」、「そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズ」及び「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために」と記載されているが、該記載から、「改質領域」が切断の起点となること、パルスレーザ光を集光用レンズで集光して「改質スポット」を形成すること及び複数の「改質スポット」によって「改質領域」が形成されることが明確に把握される。
また、「改質領域」及び「改質スポット」という用語について、技術常識に鑑みて字義に照らして解釈すると、「質が改められた領域」及び「質が改められたスポット(点状の部分)」を意味するから、当該領域やスポットは、加工対象物の材質であるシリコンの性質や特性から「質が改められた」ものであるといえる。
そして、シリコンの性質や特性から「質が改められた領域」が切断の起点となること、パルスレーザ光を集光用レンズで集光して「質が改められたスポット(点状の部分)」を形成すること及び複数の「質が改められたスポット(点状の部分)」によって「質が改められた領域」が形成されることを理解できるから、本件明細書の記載を参酌するまでもなく、本件発明1の記載から「改質領域」の用語は把握できるといえる。
エ また、「改質領域」についての本件明細書の記載(上記第3の3.及び4.参照。)は、上記本件発明1の記載から把握される事項と整合しているから、本件明細書の記載を参酌しても、本件発明1の「改質領域」が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとすべき理由はない。
オ これに対して、請求人は、「改質領域」は多光子吸収によって形成されるものに限定して解釈されることを前提に、「改質領域」という用語が不明確である旨を主張している(上記ア)ところ、上記ウで説示するとおり、本件発明1の記載から、「改質領域」が切断の起点となること、パルスレーザ光を集光用レンズで集光して「改質スポット」を形成すること及び複数の「改質スポット」によって「改質領域」が形成されることが明確に理解でき、「改質領域」が把握できる以上、「改質領域」(又は複数の「改質スポット」)が、「多光子吸収」によって形成されるものであることまで限定していないからといって、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確ということはできない。
したがって、請求人の主張する無効理由8は成立しない。
11.無効理由9(サポート要件違反)についての検討
ア 請求人は、本件明細書には、改質領域を多光子吸収によってのみ形成することが記載されており、他の方法で形成することについては開示されていないところ、本件発明1の「改質領域」が多光子吸収によって形成されるものに限定されないから、本件発明1及び2は、サポート要件に違反する旨を主張している(審判請求書163ページ第16-24行)ので、以下、検討する。
イ 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
ウ これを本件発明1について検討すると、本件発明1は、ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成することを特定事項とするところ、本件明細書に、当該特定事項に対応する記載があることは明らかである。また、本件発明1の課題は、「加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しないレーザ加工装置を提供すること」(上記第3の5.(1))である。
そして、当該課題は、1パルスのパルスレーザ光で加工対象物の内部に改質スポットが形成され、複数の改質スポットによって改質領域が形成され、改質領域が切断の起点となり、加工対象物の内部に切断の起点が形成されることにより解決し得ると認められ(上記第3の5.(2))、本件発明1には、「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置」、「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源」、「前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズ」及び「複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、・・・前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部」(第3の1.)が記載されているから、本件発明1により上記課題は解決できると認められる。
エ そして、上記課題は、1パルスのパルスレーザ光で加工対象物の内部に改質スポットが形成され、複数の改質スポットによって改質領域が形成され、改質領域が切断の起点となり、加工対象物の内部に切断の起点が形成されることを主な原理として解決されるのであって、「多光子吸収」との現象に因らなければ解決し得ないものとまではいえない。
そうすると、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件に適合しないということはできない。
したがって、請求人が主張する無効理由9は成立しない。
12.無効理由10(実施可能要件違反)についての検討
ア 請求人は、本件明細書の発明の詳細な説明には、多光子吸収によって改質領域を形成する旨が記載されているが、この多光子吸収による改質領域をどのようにして形成するのか、具体的に記載されておらず、当業者は実施することができないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1及び2の「改質領域」の形成方法について、当業者が理解できるように記載されていないことになり、実施可能要件に違反する旨を主張する(審判請求書163ページ下から第5行-最終行)ので、検討する。
イ 本件発明1は、レーザ加工装置という物の発明であるところ、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を充足するか否かについては、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かによるというべきである。
ウ 本件明細書の段落【0025】-【0027】(上記第3の3.)には、「改質領域が溶融処理領域の場合」について、「レーザ光を加工対象物(例えばシリコンのような半導体材料)の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×108( W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件で照射する。これにより加工対象物の内部は多光子吸収によって局所的に加熱される。この加熱により加工対象物の内部に溶融処理領域が形成される。」ことが記載されているとともに、「本発明者は、シリコンウェハの内部で溶融処理領域が形成されることを実験により確認した。実験条件は次ぎの通りである。」と記載し、段落【0027】に、シリコンウェハの内部で溶融処理領域(改質領域)が形成されるための条件が記載されている。
してみると、本件明細書に接した当業者が、シリコンウェハの内部で溶融処理領域(改質領域)を形成できるようレーザ加工装置を構成することについて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるというべきであるから、実施可能要件を充足しないとはいえない。
なお、請求人は、多光子吸収による改質領域をどのようにして形成するのか具体的に記載されていないから当業者は発明を実施することができない旨を主張しているが、本件発明1には、改質領域が多光子吸収により形成される旨の特定はないから、請求人の主張は当を得ない。
したがって、請求人の主張する無効理由10は成立しない。
第9 結論
以上のとおりであるから、当審が職権により通知した無効理由によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
また、請求人の主張及び証拠によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2019-800068