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特許無効審判

2021-800067

レーザ加工装置

審判番号
2021-800067
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2006-069936
登録番号
3990711
請求日
2021年08月06日
審決日
2023年04月03日
公報発行日
2024年07月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社 東京精密
  • 【請求人代理人】小林 浩
  • 【請求人代理人】服部 誠
  • 【請求人代理人】中村 閑
  • 【請求人代理人】柿本 祐依
  • 【請求人代理人】相田 義明
  • 【請求人代理人】山下 崇
  • 【被請求人】浜松ホトニクス 株式会社
  • 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
  • 【被請求人代理人】小曳 満昭
  • 【被請求人代理人】柴田 昌聰
  • 【被請求人代理人】河合 哲志
  • 【被請求人代理人】設樂 隆一
  • 【被請求人代理人】今村 玲英子
  • 【被請求人代理人】尾関 孝彰
  • 【被請求人代理人】松本 直樹
  • 【被請求人代理人】大澤 恒夫
審判長/審判官
  • 審判長 見目 省二
  • 審判官 刈間 宏信
  • 審判官 大山 健
分類
P1113.121-Y (B23K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第44条、特許法第169条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

上記当事者間の特許第3990711号発明「レーザ加工装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨 1 請求の趣旨 特許第3990711号に係る特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。 2 答弁の趣旨 本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。 第2 手続の経緯 1 本件特許の設定登録までの経緯の概略 本件無効審判の請求に係る特許第3990711号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成14年3月12日(以下「優先日」という。)に出願された特願2002-67348号に基づく優先権を主張して、2003年(平成15年)3月11日に国際出願された特願2003-574373号(以下「原出願」といい、その出願日を「原出願日」という。)の一部を、特許法44条1項の規定により、平成18年3月14日に新たな特許出願としたものであり、平成19年7月27日に設定登録された。 2 本件特許の手続の経緯の概略 (1)訂正審判の経緯 本件特許に係る訂正審判の手続の経緯の概略は、以下のとおりである。 平成30年4月24日 :訂正審判請求 (訂正2018-390075号) 同 年7月 3日付け:訂正審判の審決(訂正認容、確定済み) (2)本件無効審判の手続の経緯 本件無効審判における手続の経緯の概略は、以下のとおりである。 令和3年 8月 6日 :審判請求書(以下「請求書」という。) の提出 同 年11月12日 :答弁書の提出 令和4年 1月 6日付け:併合審理通知(無効2021- 800045号の審理を併合) 同 年 5月31日付け:審理事項通知 同 年 6月22日 :(請求人)上申書に添付して委任状を提出 同 年 6月27日 :(請求人)口頭審理陳述要領書(以下 「請求人要領書」という。)の提出 同 年 7月15日 :(被請求人)口頭審理陳述要領書の提出 同月25日 :(請求人)上申書の提出 同月27日 :口頭審理 同 年 8月12日 :(被請求人)上申書の提出 同月29日 :(請求人)上申書の提出 同 年 9月15日 :(被請求人)上申書の提出 同 年11月 9日付け:併合分離通知(無効2021- 800045号の審理を分離) 第3 本件発明 1 本件発明の記載 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、上記訂正審判(上記第2の2(1))により訂正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1及び2の記載を分説すると、次のとおりである。(なお、上記訂正審判における訂正箇所を示す下線は省いて記載する。) 「【請求項1】 A:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、 B:前記半導体基板が載置される載置台と、 C:レーザ光を出射するレーザ光源と、 D:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、 E:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、 F:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、 G:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、 を備え、 H:前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点及び終点が位置する、 I:ことを特徴とするレーザ加工装置。 【請求項2】 J:半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、 K:前記半導体基板が載置される載置台と、 L:レーザ光を出射するレーザ光源と、 M:前記載置台に載置された前記半導体基板の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、 N:前記改質領域を前記半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板の内部に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、 O:前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、 P:前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、 を備え、 Q:前記半導体基板はシリコン基板であり、 R:前記制御部は、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御する S:ことを特徴とするレーザ加工装置。」 (以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」という。また、分説した発明特定事項をいう場合は、「構成A」などという。) 2 本件明細書及び図面の記載 本件特許に係る明細書及び図面には、以下の記載がある。 「【背景技術】 【0002】 半導体デバイスの製造工程においては、シリコンウェハ等の半導体基板上に複数の機能素子を形成した後に、ダイヤモンドブレードにより半導体基板を機能素子毎に切断し(切削加工)、半導体チップを得るのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。 【0003】 また、上記ダイヤモンドブレードによる切断に代えて、半導体基板に対して吸収性を有するレーザ光を半導体基板に照射し、加熱溶融により半導体基板を切断することもある(加熱溶融加工)(例えば、特許文献2参照)。 ・・・ 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、上述した切削加工や加熱溶融加工による半導体基板の切断は、半導体基板上に機能素子を形成した後に行われるため、例えば切断時に発生する熱を原因として機能素子が破壊されるおそれがある。 【0005】 そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にするレーザ加工装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、半導体基板の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、半導体基板が載置される載置台と、レーザ光を出射するレーザ光源と、載置台に載置された半導体基板の内部に、レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で改質領域を形成させる集光用レンズと、改質領域を半導体基板の内部に形成するために、レーザ光の集光点を半導体基板の内部に位置させた状態で、半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、載置台に載置された半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、赤外透過照明により赤外線で照明された半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子と、を備えることを特徴とする。 【0007】 これらのレーザ加工装置によれば、レーザ光の照射により改質領域が半導体基板の内部に形成されるが、このようなレーザ光の照射においては、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないため、半導体基板の表面が溶融することはない。したがって、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止することが可能となる。さらに、これらのレーザ加工装置及びレーザ加工方法よれば、改質領域が半導体基板の内部に形成される。半導体基板の内部に改質領域が形成されると、改質領域を起点として比較的小さな力で半導体基板に割れが発生するため、切断予定ラインに沿って高い精度で半導体基板を割って切断することができる。したがって、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することが可能となる。 【発明の効果】 【0008】 本発明に係るレーザ加工装置は、例えば半導体基板上に複数の機能素子が形成されていたとしても、機能素子が破壊されるのを防止して、半導体基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にする。 ・・・ 【0027】 上述したレーザ加工方法に使用されるレーザ加工装置について、図9を参照して説明する。図9はレーザ加工装置100の概略構成図である。 ・・・ 【0029】 載置台107は、半導体基板1を赤外線で照明するために赤外線を発生する赤外透過照明116と、半導体基板1が赤外透過照明116による赤外線で照明されるよう、半導体基板1を赤外透過照明116上に支持する支持部107aとを有している。 ・・・ 【0033】 ・・・なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、後述する撮像データ処理部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部を撮像して半導体基板1の内部の撮像データを取得することもできる。 ・・・ 【0037】 [半導体基板の実施例1] ・・・ 【0048】 なお、半導体基板1を赤外透過照明116による赤外線で照明すると共に、撮像データ処理部125により結像レンズ123及び撮像素子121の観察面を半導体基板1の内部に合わせれば、半導体基板1の内部に形成された切断起点領域9a及び切断起点領域9bを撮像して撮像データを取得し、モニタ129に表示させることもできる。 ・・・ 【0052】 なお、半導体基板1の内部に溶融処理領域が形成されると、意識的に外力を印加しなくても、溶融処理領域を起点として(すなわち、切断起点領域9a及び切断起点領域9bに沿って)、半導体基板1の内部に割れが発生する場合がある。この割れが半導体基板1の表面3及び裏面17に到達するか否かは、半導体基板1の厚さ方向における溶融処理領域の位置や、半導体基板1の厚さに対する溶融処理領域の大きさ等に関係する。したがって、半導体基板1の内部に形成する溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することによって、半導体デバイスの製造工程において半導体基板1がハンドリングされたりヒートサイクルを経たりすることで、半導体基板1の表面3及び裏面17に割れが到達しないよう、或いは切断直前に半導体基板1の表面3及び裏面17に割れが到達するよう、種々の制御を行うことができる。 【0053】 [半導体基板の実施例2] ・・・ 【0054】 この半導体基板1は、外縁に沿った外縁部31(図15の2点鎖線の外側部分)を有し、この外縁部31の内側部分32(図15の2点鎖線の内側部分)の内部には、実施例1に係る半導体基板1と同様に、OF15と平行な方向に延びる複数本の切断起点領域9aと、OF15に垂直な方向に延びる複数本の切断起点領域9bとが形成されている。このように、内側部分32の内部に切断起点領域9a,9bが格子状に形成されることで、内側部分32は多数の矩形状の区画部33に仕切られる。 ・・・ 【0060】 なお、マスク36を用いずに、半導体基板1の内側部分32と外縁部31との境界付近に各切断予定ライン5の始点5a及び終点5bを位置させて、各切断予定ライン5に沿ってレーザ光の照射を行うことにより、内側部分32の内部に切断起点領域9a,9bを形成することも可能である。 ・・・ 【0062】 しかも、半導体基板1の内側部分32の内部に切断起点領域9a,9bが形成され、外縁部31には切断起点領域9a,9bが形成されていないことから、半導体基板1全体としての機械的強度が向上することになる。したがって、半導体基板1の搬送工程や機能素子形成のための加熱工程等において、半導体基板1が不測の下に切断されてしまうという事態を防止することができる。 ・・・ 【0064】 また、図18に示すように、切断起点領域9a,9bは半導体基板1の内部に収まり、外部には露出しないため、切断起点領域9a,9bを構成する溶融処理領域を形成する際にガスが発生するようなことも防止される。」 図9 「 [図:0001411616000001.jpg] 」 図15 「 [図:0001411616000002.jpg] 」 図18 「 [図:0001411616000003.jpg] 」 3 本件発明の技術的意義等 (1)従来技術及び本件発明が解決しようとする課題 上記2の記載から、従来技術及び本件発明が解決しようとする課題について、以下の事項を認めることができる。 半導体デバイスの製造工程において半導体基板を切断する方法には、ダイヤモンドブレードにより基板を機能素子毎に切断する方法や半導体基板に対して吸収性を有するレーザ光を基板に照射し、加熱溶融により基板を切断する方法があるが、これらの方法による場合には、切断時に発生する熱を原因として半導体基板上に形成された機能素子が破壊されるおそれがあるという課題があった(【0002】~【0004】)。 (2)本件発明の技術的意義 本件発明は、上記(1)の従来技術の課題を解決するため、半導体基板上に複数の機能素子が形成されていても、機能素子が破壊されるのを防止して、基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断することを可能にするレーザ加工装置を提供することを目的とするものであり、本件発明に係るレーザ加工装置は、基板の内部にレーザ光を集光させ、レーザ光の集光点を基板の内部に位置させた状態で、基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させるように制御することで、切断予定ラインに沿って基板内部に切断の起点となる改質領域を形成し、また、その基板内部における改質領域を赤外線で照明して撮像可能とするものである(【0005】、【0006】)。 本件発明に係るレーザ加工装置は、このような構成により、半導体基板の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので、基板の表面が溶融せず、基板上の機能素子が破壊されることを防止しながら、基板を切断することが可能となり、上記(1)の課題が解決される。 また、半導体基板内部における改質領域を起点として、比較的小さな力で基板に割れが発生するため、基板を切断予定ラインに沿って精度良く切断できるという技術的意義が認められる(【0007】、【0008】)。 (3)構成F、G、O及びPの技術的意義 上記2の記載から、本件発明1の構成F及びG、並びに本件発明2の構成O及びPについて、以下の技術的意義を推認できる。 本件発明に係るレーザ加工装置によって、半導体基板内部に改質領域が形成されると、外力を加えなくても、改質領域を起点として基板の内部に割れが発生する場合があるが、この割れが基板の表面や裏面に到達するか否かは、基板の厚さ方向における改質領域の位置や、基板の厚さに対する改質領域の大きさ等に関係する(【0052】)。 そこで、半導体基板を赤外透過照明による赤外線で照明する(構成F又はO、【0029】)とともに、撮像素子の観察面を基板の内部に合わせて改質領域を撮像する(構成G又はP、【0033】、【0048】)ことで、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することができ、基板の内部に形成する溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、製造工程で基板が割れることがないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うことができる(【0052】)。 (4)構成Hの技術的意義 上記2の記載から、本件発明1の構成Hについて、以下の技術的意義を認めることができる。 本件発明1に係るレーザ加工装置によって、半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に切断予定ラインの始点及び終点を位置させて(構成H)レーザ光を照射することで、基板の内側部分の内部に切断起点領域が形成され(【0060】)、外縁部には切断起点領域が形成されないことから、半導体基板全体としての機械的強度が向上し、基板の搬送工程等において、基板が不測の下に切断される事態を防止できる(【0062】)。 また、切断起点領域は半導体基板の内部に収まり、外部には露出しないため、切断起点領域を構成する改質領域を形成する際にガスが発生するようなことも防止される(【0064】)。 そして、本件発明1の「外縁部」は、半導体基板を取り囲む端の一定の幅をもった部分(【0054】、図15)をいい、「内側部分」は、半導体基板の外縁部以外の部分をいうものと理解できる。 第4 請求人の主張及び証拠方法 1 請求人の主張の概要 (1)無効理由1(甲第1号証に基づく本件発明1の進歩性欠如) 本件発明1は、国内優先権の主張の効果(以下「優先権の効果」という。)が及ばないから、新規性・進歩性は原出願日(平成15年3月11日)を基準に判断されるべきであり、本件発明1は、本件特許の原出願日前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び周知又は公知技術(甲第3の1号証~甲第3の5号証、又は甲第4号証、並びに甲第5~甲第7号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (2)無効理由2(甲第1号証に基づく本件発明2の進歩性欠如) 本件発明2は、優先権の効果が及ばないから、新規性・進歩性は原出願日を基準に判断されるべきであり、本件発明2は、本件特許の原出願日前に頒布された甲第1号証に記載された発明、及び周知又は公知技術(甲第3の1~甲第3の5号証、又は甲第4号証、並びに甲第8~甲第9号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 2 証拠方法 (1)併合審理の通知前に提出されたもの 甲第 1号証:特開昭53-114347号公報 甲第 2号証:本件特許の優先権証明書(特願2002-67348号) 甲第 3の1号証:特開2002-192370号公報 甲第 3の2号証:特開2003-1458号公報 甲第 3の3号証:特開2003-1457号公報 甲第 3の4号証:特開2003-10986号公報 甲第 3の5号証:特開2003-10992号公報 甲第 4号証:特開平11-177137号公報 甲第 5号証:特開平6-224298号公報 甲第 6号証:特開平11-224864号公報 甲第 7号証:特開2002-43254号公報 甲第 8号証:原央編、「ULSIプロセス技術」、初版、株式会社 培風館、1997年6月10日、268~275ページ 甲第 9号証:実願昭53-4082号(実開平1-108508号)の マイクロフィルム 甲第10号証:無効2019-800068号の審決の予告 (2)併合審理の通知後に提出されたもの ア 請求人要領書に添付したもの 甲第11号証:「PCT国際調査及び予備審査ガイドライン」 (2020年7月1日施行、日本語仮訳の抜粋) 甲第12号証:ボーデンハウゼン著「産業財産権に関するパリ条約」 (日本語訳の抜粋) イ 令和4年7月25日の上申書に添付したもの 甲第13号証:久野耕司、「ステルスダイシングによる微細加工技術の 変遷と展望-24時間稼働できる高スループットレーザ 加工装置-」(レーザ加工学会誌、一般社団法人レーザ 加工学会、2019、Vol.26、No.2) 甲第14号証:別件特許権侵害訴訟(平成30年(ワ)第28929号、 平成30年(ワ)第28930号)において、被請求人が 裁判所に提出した「SD加工メカニズム、SD層の実態」 と題する資料(2枚目は黒塗りとしている) 甲第15号証:請求人の技術説明資料 ウ 令和4年8月29日の上申書に添付したもの 甲第28号証:実願昭53-113004号 (実開昭55-29549号)のマイクロフィルム (以下、各甲号証を「甲1」などという。) 第5 被請求人の主張及び証拠方法 1 被請求人の主張の概要 (1)無効理由1(甲1に基づく本件発明1の進歩性欠如) 本件発明1には、優先権の効果が及ばないことは認めるが、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び周知又は公知技術(甲3の1~甲3の5、又は甲4、並びに甲5~甲7)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)無効理由2(甲1に基づく本件発明2の進歩性欠如) ア 優先権の主位的及び予備的主張 <主位的主張> 本件発明2については、その全体に優先権の効果が及ぶ。 <予備的主張> 仮に、本件発明2の全体に優先権の効果が及ぶとはいえないとしても、優先権の基礎となる出願の明細書に記載されていた部分には、優先権の効果(以下「部分優先の効果」という。)が認められる(すなわち、本件発明2の構成のうち、構成Nの「切断予定ライン」が「半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点、終点を有する切断予定ライン」を含まない部分については、部分優先の効果が認められる。)。 イ 主位的主張に基づく進歩性 本件発明2については、優先権の効果が及ぶから、甲3の1~甲3の5は優先日前に頒布された刊行物に該当せず、先行文献とはならないところ、本件発明2は、甲1に記載された発明、及び周知又は公知技術(甲4、並びに甲8~甲9)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 予備的主張に基づく進歩性 本件発明2について、部分優先の効果が認められる場合には、本件発明2の構成のうち、構成Nの「切断予定ライン」が「半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点、終点を有する切断予定ライン」であるものについては部分優先の効果が認められず、優先日前に頒布された刊行物である甲3の1~甲3の5は先行文献となるが、本件発明2は、甲1に記載された発明、及び周知又は公知技術(甲3の1~甲3の5、又は甲4、並びに甲8~甲9)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 2 証拠方法 (1)併合審理の通知前に提出されたもの 乙第1号証の1:高岡秀嗣、「極薄半導体ウェハのダイシングに最適な ステルスダイシング技術の原理と特徴」、電子材料、 工業調査会、2002年9月1日、Vol.41、 No.9、17-21ページ 乙第1号証の2:大島雅志、ほか2名、「浜松ホトニクスのステルス ダイシング技術について-開発意義を専門家に聞く-」 電子材料、工業調査会、2002年9月1日、 Vol.41、No.9、22-23ページ) 乙第1号証の3:「レーザー学会産業賞「優秀賞」受賞」と題する文書、 一般社団法人レーザー学会 乙第1号証の4:「浜松ホトニクス 透過性パルスレーザーの内部集光に よる切断加工システム」と題するウェブページ、 株式会社中日新聞社 <URL:http://www.chunichi.co.jp/info/award/ sangisho/minister_no24.html> 乙第1号証の5:「機械振興賞 受賞者 業績概要詳細」と題するウェブ ページ、 <URL:http://www.jspmi.or.jp/system/ l_cont.php?ctid=l30502&rid=1101> 乙第1号証の6:「レーザー加工技術 特許総合ランキング力トップ3は 浜松ホトニクス、ディスコ、三菱電機」と題するウェブ ページ <URL:https://www.patentresult.co.jp/news/2018/07/ laserprotech.html> (2)併合審理の通知後に提出されたもの 令和4年9月15日の上申書に添付したもの 乙第5号証:知的財産高等裁判所 令和3年(ネ)第10101号判決 第6 当審の判断 1 甲号証の記載事項 (1)甲1の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日(平成15年3月11日)前であり、かつ優先日(平成14年3月12日)前に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は、理解を容易にするために当審で付したものである。以下同じ。) 記載事項1(1ページ左下欄下から7~5行) 「本発明は、半導体装置の加工方法に係り、特にレーザ光線を用いて半透明な半導体ウエハーを微細なペレットに分割する加工方法に関する。」 記載事項2(1ページ左下欄最終行~右下欄下から4行) 「しかし、機械的手段によると歩留りが悪い為、最近レーザ光線を用いて溝を形成することが行なわれている。すなわち、レーザ発振器を用い、この発振器からのレーザ光線を集光レンズなどからなる光学系で、ウエハー上に集光させて照射する。そして、この光学系あるいはウエハーを平面的に動かして素子間に複数条の溝を形成している。そして、従来同様に圧力を加えて微細なペレットを得ている。 しかしながら、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射する為、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着し、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点がある。 本発明は、上記欠点に対処してなされたもので、レーザ光線による飛散、蒸発物が素子の表面に付着することがなく、しかも歩留りが向上する半導体装置の加工方法を得るにある。」 記載事項3(1ページ右下欄最終行~2ページ左上欄11行) 「第1図において、レーザ発振器(10)のレーザ光線(11)の放射口側には、そのレーザ光線(11)の放射方向を90°変えるダイクロイツクミラ(12)が配置されている。このミラ(12)により反射されたレーザ光線(11)は、実線で示すように前記ミラ(12)と半導体ウエハー(13)との間に配置された集光レンズ系(14)により集光される。このレンズ系(14)は、図示しない駆動機構により上下動するように構成されている。また、この半導体ウエハー(13)は、サフアイアのような可視光でかなり透明な物質で構成され、その素子(15)が形成された面(16)を下側にしてXYテーブル(17)上に載置されている。」 記載事項4(2ページ左上欄14~最終行) 「また、前記ダイクロイツクミラ(12)を挟んで前記レンズ系(14)と対向する位置には、レンズ(20)が配置されている。このレンズ(20)は、前記ウエハー(13)の素子(15)を観察する監視装置を構成するもので、前記レーザ光線(11)の光軸に同軸上に配置されている。また、このレンズ(20)の前記ミラ(12)と反対側には、結像板(21)及び接眼レンズ(22)が順に配置されている。」 記載事項5(2ページ右上欄1~9行) 「このように構成し、前記監視装置で前記半導体ウエハー(13)の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)に対応する反対側の面(18)に溝(23)を形成する。すなわち、接眼レンズ(22)からのぞきながら、前記レンズ(20)を上下動させて、前記ウエハー(13)の面(16)上に焦点を合わせる。そして、XYテーブル(17)を左右に動かし、所望位置すなわち各素子(15)間にその焦点位置が合ったときに、XYテーブル(17)の動きを停止させる。」 記載事項6(2ページ右上欄10行~左下欄6行) 「そして、前記レーザ発振器(10)を駆動して、レーザ光線(11)を放射する。このとき、レーザ光線(11)は、ウエハー(13)に溝(23)が形成される以前に、その熱などで素子(15)が破壊しない程度のエネルギー強度に選定する。この場合、レーザ光線(11)は、従来と異なり反対側の面(18)に照射するので、従来に比して大きなエネルギ強度を選定することができる。そして集光レンズ(14)を上下動して、このレーザ光線(11)を前記ウエハー(13)の反対側の面(18)上に照射する。このレーザ光線(11)の光軸と前記監視装置の光軸とは、同軸上に形成されているので、前記素子(15)間の位置に対応する反対側の面(18)上に溝(23)を形成することができる。このようにして、監視しながらレーザ光線(11)を照射し、前記XYテーブル(17)を左右に動かして、ウエハー(13)の反対側の面(18)上に複数条の溝(23)(23)’(23)’を刻設する。そして、ウエハー(13)全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する。」 記載事項7(2ページ右下欄5~11行) 「なお、前記実施例では、ウエハー材として、可視光で透視状態となるサファイアなどで形成されたウエハー(13)を加工する場合について説明したが、ウエハーが赤外線で透視状態となる場合にも、本発明は適用可能となる。この場合、ウエハーを赤外線で照射し、操作者とウエハーとの間に監視装置として赤外線イメージ変換装置を設けて観察して行なう。」 記載事項8(2ページ右下欄下から6~3行) 「本発明は、素子上に飛散物、蒸発物が付着することがなく、素子の機能を低下させることがない。また、機械的に溝を形成するものに比して、歩留りが向上するなどの効果を奏する。」 記載事項9(第1図) 「 [図:0001411616000004.jpg] 」 (2)甲3の1の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日(平成15年3月11日)前に頒布された刊行物である甲3の1には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する工程を備える、レーザ加工方法。」 「【0101】また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。」 「【0117】 【発明の効果】 【0118】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。」 (3)甲3の2の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲3の2には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に切断予定部となる改質領域を形成する工程と、 前記切断予定部となる改質領域の形成後、前記加工対象物に応力を加え、前記加工対象物の内部の改質領域を起点とするクラックを前記加工対象物の表面まで成長させて前記加工対象物を分離する工程と、を備えるレーザ加工方法。」 「【0080】また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。」 「【0103】 【発明の効果】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。」 (4)甲3の3の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲3の3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】レーザ加工装置の載置台上に加工対象物を載置する工程と、 前記レーザ加工装置の観察用光源から出射される照明光で前記加工対象物の表面を照射し、その反射光を前記レーザ加工装置の撮像手段により撮像して撮像データを取得し、前記撮像データに基づいて前記観察用光源から出射される照明光の焦点が前記加工対象物の表面上に位置するように前記載置台を移動させた後に、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように前記載置台を所定量移動させる工程と、 前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域を形成する工程と、を備えるレーザ加工方法。」 「【0080】また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。」 「【0103】 【発明の効果】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。」 (5)甲3の4の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲3の4には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域による切断予定部を形成する工程と、 前記切断予定部に沿った前記加工対象物の切断分離により発生する粉塵を吸引手段により吸引する工程と、を備えるレーザ加工方法。」 「【0079】また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。」 「【0102】 【発明の効果】 【0103】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。また、レーザ光の照射により加工対象物の内部に形成された改質領域を起点として、応力等による比較的小さな力で切断予定部に沿って加工対象物を切断することができるため、加工対象物の切断分離の際に発生する粉塵は極めて微量となる。したがって、微量の粉塵のみを対策すれば良く、粉塵吸引のような簡単な洗浄手段で済む。」 (6)甲3の5の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日前に頒布された刊行物である甲3の5には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部に改質領域による切断予定部を形成する工程と、 前記切断予定部に沿って切断分離された前記加工対象物をエアー洗浄する工程と、を備えるレーザ加工方法。」 「【0079】また、本発明に係る光透過性材料の切断方法においては、発塵粉体がほとんどないため、発塵粉体の飛散防止のための潤滑洗浄水が不要となり、切断工程でのドライプロセス化を実現することができる。」 「【0102】 【発明の効果】 【0103】本発明に係るレーザ加工方法によれば、加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく、加工対象物を切断することができる。よって、加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば、半導体チップ、圧電デバイスチップ、液晶等の表示装置)の歩留まりや生産性を向上させることができる。また、レーザ光の照射により加工対象物の内部に形成された改質領域を起点として、応力等による比較的小さな力で切断予定部に沿って加工対象物を切断することができるため、加工対象物の切断分離の際に発生する粉塵は極めて微量となる。したがって、微量の粉塵のみを対策すれば良く、エアー洗浄のような簡単な洗浄手段で済む。」 (7)甲4の記載事項 本件特許に係る出願の原出願日前かつ優先日前に頒布された刊行物である甲4には、以下の事項が記載されている。 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード、さらには高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり、特に、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法に関する。」 「【0012】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とする。」 「【0019】 【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する場合において半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができることを見いだし本発明を成すに到った。 【0020】本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。 【0021】即ち、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部は、その溝部形成時に内部応力が生ずる。特に、溝部の底面に沿ってダイヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する工程においてはスクライバーの刃先にかかる加重で溝部底以外にも広く歪みが増幅される。そのため、溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持された応力によって所望通りの端面が形成されず、より正確に窒化物半導体ウエハーが分離できないと考えられる。 【0022】本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考えられる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。以下、本発明の製造方法例について説明する。」 「【0037】 【実施例】(実施例1)厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板101としてMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成させた。・・・」 「【0042】半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝部が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層が形成された半導体ウエハーを用いる。・・・(図1(A))。 【0043】こうして形成された窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板101を100μmまで研磨した後、半導体ウエハー100のサファイア基板面111が上になるように水平方向に自由駆動可能なテーブル上に真空チャックを用いて固定させた。ブレード回転数30,000rpm、切断速度3mm/secでステージを移動させることによりサファイア基板101の底面に幅約30μm、深さ約15μmの溝を縦横に形成し溝部103とさせる。・・・(図1(B))。 【0044】次に、ダイサーの刃先など駆動部のみレーザー(356nm)が照射可能なYAGレーザー照射装置と入れ替えた(不示図)。窒化物半導体ウエハー100の固定は維持したままレーザーの焦点を窒化物半導体ウエハーの溝部103底面に結ばれるようレーザーの光学系を調節させる。調節したレーザー光線を16J/cm2で照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿って深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する(図1(C))。 【0045】ブレイク・ラインに沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ、窒化物半導体ウエハー100を切断分離することができる。分離された窒化物半導体素子110の端面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子を形成することができる(図1(D))。」 「【0048】(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。」 図1 「 [図:0001411616000005.jpg] 」 図2 「 [図:0001411616000006.jpg] 」 2 甲号証に記載された発明及び技術的事項 (1)甲1に記載された技術的事項及び甲1発明 ア 甲1に記載された技術的事項 甲1の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 (ア)甲1には、レーザ光線を用いて半透明な半導体ウエハーを微細なペレットに分割する半導体装置の加工方法が記載されており(記載事項1)、当該方法は、XYテーブル17、レーザ発振器10、集光レンズ系14(記載事項3)、及び監視装置(記載事項4)を有する装置(記載事項9)を用いて行われる。 (イ)XYテーブル17には、素子15が形成された面16を下側にして、半導体ウエハー13が載置される(記載事項3)。 (ウ)レーザ発振器10は、レーザ光線11を放射する(記載事項3)。 (エ)集光レンズ系14は、レーザ光線11を集光させ(記載事項3)、半導体ウエハー13の反対側の面18上に照射して、反対側の面18上に溝23を形成する(記載事項6)。 (オ)XYテーブル17は、半導体ウエハー13の反対側の面18上に複数条の溝23、23’を刻設するために、レーザ光線11を半導体ウエハー13の反対側の面18上に照射させた状態で、左右に動かすことができる(記載事項6)。 (カ)監視装置は、半導体ウエハー13の素子15の位置を確認することができ(記載事項5)、半導体ウエハーが赤外線で透視状態となる場合には、半導体ウエハーを赤外線で照射し、監視装置として赤外線イメージ変換装置を設けて観察する(記載事項7)。 (キ)上記(オ)の複数条の溝23、23’を刻設した後に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割するから(記載事項6)、複数条の溝23、23’が分割の起点となることは明らかである。 (ク)XYテーブル17は、左右に動かすことができる(上記(オ))から、加工方法に用いる装置が、XYテーブルの駆動を制御する制御部を有していることは自明な事項といえる。 (ケ)甲1には、監視装置で前記半導体ウエハー13の素子15の位置を確認しながら、その素子間15に対応する反対側の面18に溝23を形成することが記載されている(記載事項5)から、上記(オ)の複数条の溝23、23’は半導体ウエハー13の素子15の間に沿って形成されることは明らかである。 イ 甲1発明 上記アの技術的事項を本件発明1の分説に合わせて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。(甲1発明の分説の符号は、本件発明1の分説の符号に対応して「1a」などと記載する。) 1a 半導体ウエハー13の素子15が形成されている面16の反対側の面18に、分割の起点となる溝23、23’を形成する半導体装置の加工方法に用いる装置であって、 1b 素子15が形成された面16を下側にして前記半導体ウエハー13が載置されるXYテーブル17と、 1c レーザ光線11を放射するレーザ発振器10と、 1d 前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18に、前記レーザ発振器10から放射されたレーザ光線11を集光し、そのレーザ光線11の照射点の位置で前記溝23、23’を形成させる集光レンズ系14と、 1e 前記溝23、23’を前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18に形成するために、レーザ光線11の照射点を前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18に位置させた状態で、前記半導体ウエハー13の素子15の間に沿ってレーザ光線11の照射点を移動させるようにXYテーブル17を制御する制御部と、 1f 前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13を赤外線で照明する構成と、 1g 監視装置としての赤外線イメージ変換装置と、を備える、 1i 半導体装置の加工方法に用いる装置。 (2)甲3の1に記載された技術的事項 甲3の1の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成することで、発塵粉体がほとんどないため、切断工程でのドライプロセス化を実現すること。」 (以下「甲3の1記載の技術的事項」という。) (3)甲3の2に記載された技術的事項 甲3の2の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成することで、発塵粉体がほとんどないため、切断工程でのドライプロセス化を実現すること。」 (以下「甲3の2記載の技術的事項」という。) (4)甲3の3に記載された技術的事項 甲3の3の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成することで、発塵粉体がほとんどないため、切断工程でのドライプロセス化を実現すること。」 (以下「甲3の3記載の技術的事項」という。) (5)甲3の4に記載された技術的事項 甲3の4の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成することで、発塵粉体がほとんどないため、切断工程でのドライプロセス化を実現すること。」 (以下「甲3の4記載の技術的事項」という。) (6)甲3の5に記載された技術的事項 甲3の5の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成することで、発塵粉体がほとんどないため、切断工程でのドライプロセス化を実現すること。」 (以下「甲3の5記載の技術的事項」という。) (7)甲4に記載された技術的事項 ア 甲4に記載された技術的事項 甲4の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。 (ア)甲4には、基板上に窒化物半導体が積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法(【0001】)が記載されており、当該加工方法は、窒化物半導体ウエハーを分割する際に、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくし、歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とする(【0012】)。 (イ)上記(ア)の目的は、半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより達成される(【0019】)ところ、分離端面がブレイク・ラインに沿って平坦に形成される理由は、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部の溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生じ、その内部応力とブレイク・ラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられ(【0020】、【0021】)、ダイサーにより形成された溝部に生じる内部応力のみに依存するのではなく、レーザースクライバーにより発生する局所的な応力と相まって、分離端面を平滑にし、量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができる(【0022】)。 (ウ)実施例1は、ダイサーにより窒化物半導体ウエハーに溝部103を形成し(【0043】)、YAGレーザー照射装置のレーザーの焦点を溝部103底面に集光するようにレーザーの光学系を調節させ、レーザー光線を照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿った凹部となるように、ブレイク・ライン104を形成する(【0044】)。 (エ)実施例2は、実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は、実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させること(【0048】)で、ブレイク・ライン204は基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが、基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。 (オ)実施例2は実施例1のレーザー照射装置の焦点深さを深くした以外は実施例1と同様であるから、実施例2の基板201の上方の表面には、実施例1の溝部103と同様の溝部203が形成され、基板201の他方の表面には、島状窒化物半導体102(【0042】)と同様の島状窒化物半導体202が形成されており、ブレイク・ライン204を形成する際には、実施例1のブレイク・ライン104と同様に、YAGレーザー照射装置による照射や、レーザー光学系による集光、ステージの移動が行われている。 (カ)上記(ア)~(オ)をまとめると、甲2の実施例2について、以下の技術的事項を理解できる。 「半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法において、溝部203における基板201の内部にYAGレーザーを照射して加工変質部を形成すること。」 (以下「甲4の実施例2に係る技術的事項」という。) イ 甲4記載の技術的事項の認定に対する請求人の主張について (ア)請求人の主張の概要 a 甲4には、ダイサーにより基板に予め溝部を形成しておくと、切断面の形状に関係する内部応力を生じさせることになり、ダイヤモンドスクライバーでは正確に半導体ウエハーを分離できなくなることから、ダイサーにより生じた内部応力に依存することなく、レーザースクライバーによる基板の分割に寄与する局所的な応力を発生することによって、切断端面が綺麗であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造できることが記載されている。 b 甲4の【0022】の前段と後段との間が、「また」という接続詞で接続されているが、前段において、「端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができる」と記載されており、溝を設けない構成であっても課題を解決し効果を奏することのできる1つの発明として記載されていることを理解でき、「また」以下で記載されているのは、半導体ウエハーの厚みを薄くするために「溝」を形成することであって、内部応力を生じさせるために溝を形成することではない(十分に薄い半導体ウエハーであれば、溝を形成する必要はない)。 c 以上のとおり、甲4の実施例2に係る技術的事項において、基板に溝部203を設けることを必須の構成と捉えるのは誤りである。(請求人要領書27ページで援用する、無効2021-800045号の令和4年6月27日の口頭審理陳述要領書38~40ページ) (イ)請求人の主張の検討 a 甲4の【0020】は、「本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。」と記載しており、分離端面が平坦に形成される理由について、溝部形成に伴う内部応力と、レーザー照射により形成されるブレイク・ラインの双方が関与していることを示している。 b そして、甲4の【0020】ないし【0022】の記載は一連のものとなっており、【0020】のとおり、溝部の形成により生じた内部応力も割断に作用することを前提とした上で、ダイサーやダイヤモンドスクライバー等により溝部を形成し、溝部の底面に沿ってダイヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する場合に、溝部形成により生じ、半導体ウエハー内に保持された応力により所望どおりの端面が形成されないという問題点(【0021】)について、【0022】前段で、ダイサーによる溝部形成のために生じた内部応力のみに依存するのではなく、レーザースクライバーにより発生した局所的な応力と相まって、端面がきれいで量産性のよい窒化物半導体を製造することが記載されていると理解できる。 c そうすると、甲4の【0022】前段は、溝部を形成し、溝部にスクライブ・ラインを形成する発明を前提としてその改善を図るものであることは明らかであり、甲4記載の技術的事項において溝部を形成しないことが想定されているとはいえないから、溝部203を捨象して甲4の実施例2に係る技術的事項を認定することはできない。 d したがって、請求人の上記(ア)の主張は採用できない。 3 無効理由1(甲1に基づく本件発明1の進歩性欠如)について (1)本件発明1と甲1発明の対比 ア 本件発明1と甲1発明を対比すると、次の甲1発明の欄に記載した甲1発明の各構成は、本件発明1の欄に記載した本件発明1の構成に、それぞれ相当する。 <甲1発明> <本件発明1> (構成1a) (構成A) 半導体ウエハー13・・・・・・・・・半導体基板 分割の起点・・・・・・・・・・・・・切断の起点 半導体装置の 加工方法に用いる装置・・・・・・・・・レーザ加工装置 (構成1b) (構成B) XYテーブル17・・・・・・・・・・載置台 (構成1c) (構成C) レーザ光線11・・・・・・・・・・・レーザ光 放射する・・・・・・・・・・・・・・出射する レーザ発振器10・・・・・・・・・・レーザ光源 (構成1d) (構成D) 照射点・・・・・・・・・・・・・・・集光点 集光レンズ系14・・・・・・・・・・集光用レンズ (構成1e) (構成E) 半導体ウエハー13の 素子15の間・・・・・・・・・・・・・切断予定ライン レーザ光線11の照射点を 移動させるように XYテーブル17を制御する・・・・・・レーザ光の集光点を移動させる (構成1f) (構成F) 赤外線で照明する構成・・・・・・・・赤外線で照明する赤外透過照明 (構成1i) (構成I) 半導体装置の 加工方法に用いる装置・・・・・・・・・レーザ加工装置 イ また、甲1発明の構成1aの「半導体ウエハー13の素子15が形成されている面16の反対側の面18」と、本件発明1の構成Aの「半導体基板の内部」は、「半導体基板」という点で共通し、同様に、「分割の起点となる溝23、23’」と、「切断の起点となる改質領域」は、「切断の起点となる切断起点」という点で共通する。 ウ 上記イと同様に、甲1発明の構成1d及び1eの「前記反対側の面18」と、本件発明1の構成D及びEの「前記半導体基板の内部」は、「半導体基板」という点で共通し、甲1発明の構成1d及び1eの「前記溝23、23’」と、本件発明1の構成D及びEの「改質領域」は、「切断起点」という点で共通する。 エ また、甲1発明の構成1gの「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」と、本件発明1の構成Gの「前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子」は、「半導体基板を透過した赤外線を観察可能な素子」という点で共通する。 オ そうすると、本件発明1と甲1発明は、次の点で一致し、次の点で相違する。 <一致点> 「半導体基板に、切断の起点となる切断起点を形成するレーザ加工装置であって、 前記半導体基板が載置される載置台と、 レーザ光を出射するレーザ光源と、 前記載置台に載置された前記半導体基板に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記切断起点を形成させる集光用レンズと、 前記切断起点を前記半導体基板に形成するために、レーザ光の集光点を前記半導体基板に位置させた状態で、前記半導体基板の切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を移動させる制御部と、 前記載置台に載置された前記半導体基板を赤外線で照明する赤外透過照明と、 半導体基板を透過した赤外線を観察可能な素子と、 を備えた、 レーザ加工装置。」 <相違点1> 本件発明1は、切断起点が「半導体基板の内部」に形成された「改質領域」(構成A)であり、集光点の位置が「半導体基板の内部」(構成D及びE)であるのに対して、甲1発明は、切断起点が「半導体ウエハー13の反対側の面18」に形成された「溝23、23’」であり、集光点の位置が「前記ウエハー13の素子15が形成されている面16の反対側の面18」である点。 <相違点2> 半導体基板を透過した赤外線を観察可能な素子が、本件発明1は、「前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板における前記改質領域を撮像可能な撮像素子」(構成G)であるのに対して、甲1発明は、「監視装置としての赤外線イメージ変換装置」である点。 <相違点3> 本件発明1は、「前記切断予定ラインは、前記半導体基板の内側部分と外縁部との境界付近に始点及び終点が位置する」(構成H)のに対して、甲1発明は、切断予定ラインに相当する「半導体ウエハー13の素子15の間」の始点や終点がどの位置なのか不明な点。 (2)相違点1の判断 ア 甲1について (ア)甲1には、従来技術の欠点として、レーザ光線を用いてウエハーに溝を形成する際に、レーザ光線によりウエハー材が飛散、蒸発して、各素子の上面に付着することで、その素子の機能を低下させたり不良品とすることが記載されている(記載事項2)。 (イ)そして、甲1発明は、半導体ウエハー13を、素子15が形成された面16を下側にしてXYテーブル17上に載置し、反対側の面18にレーザ光線で溝23を形成することにより、レーザ光線で飛散物や蒸発物が生じても、素子15の上面はXYテーブル17に接していることから、素子上には飛散物や蒸発物が付着することがなく、上記(ア)の欠点に対処できることを理解できる。 (ウ)甲1のこれらの記載に接した当業者は、甲1発明について、半導体ウエハーに溝を加工することを前提として、レーザ光線で生じた飛散、蒸発物が、素子の表面に付着することを抑制するものと理解するから、レーザ光線で飛散、蒸発物が生じること、すなわち、レーザ光線で溝を形成することは、必須の事項と理解するといえる。 イ 甲3の1~甲3の5に基づく容易想到性について (ア)甲3の1~甲3の5記載の技術的事項は、いずれも「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、前記加工対象物の内部に改質領域を形成することで、発塵粉体がほとんどないため、切断工程でのドライプロセス化を実現すること。」(上記2(2)~(6))というものであり、レーザ光線で加工対象物の内部に改質領域を形成する技術(溝を形成しない技術)であるから、レーザ光線で溝を形成することを必須の事項として、生じた飛散、蒸発物が、素子の表面に付着することを抑制する甲1発明とは技術的思想が異なり、当業者が甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえない。 (イ)さらに、仮に、甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項を適用したとすると、以下に説示するように、本件発明1と甲1発明との間に新たな相違点が生じることになる。 (ウ)すなわち、上記ア(イ)で説示するとおり、甲1発明は、素子15の上面がXYテーブル17に接しているから、素子上に飛散物や蒸発物が付着せずに、上記ア(ア)の欠点に対処するものであって、素子15の上面がXYテーブル17に接するように、素子15が形成された面16を下側にしてXYテーブル17上に載置している。 そして、素子間に溝23を形成するためには、素子の位置を確認する必要があるところ、素子が形成された面16が下側であり、素子の位置を直接確認することができないから、半導体ウエハーを赤外線で照射して、赤外線イメージ変換装置により素子の位置を観察して、素子間に溝を形成することを理解できる。 (エ)これに対して、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項は、加工対象物の内部に改質領域を形成するもので、レーザ光線で飛散物や蒸発物が生じないから、素子の上面に飛散物や蒸発物が付着しないように保護する必要がないことは明らかである。 (オ)したがって、仮に、当業者が、甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項を適用することを想到したとしても、レーザ光線で飛散物や蒸発物が生じることがなく、素子の上面を飛散物や蒸着物から保護する必要がそもそもないのであるから、甲1発明の素子が形成された面16が上側となるようにXYテーブルに載置して、可視光線で(目視により直接に)素子の位置を観察して、素子間に改質領域や加工変質部を形成するのが自然である。そして、この場合においては、赤外線を照射して観察する必要がないから、本件発明1と甲1発明との間には、構成Fの赤外線透過照明に係る構成を本件発明1が有する点が、新たに相違点として生じるといわざるを得ない。 (カ)そして、甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項を適用することで新たに生じる相違点(構成Fに係る相違点)について、甲4~甲7を参照しても、当業者が容易に想到し得ると評価するに足る証拠はない。 (キ)したがって、当業者が甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえないし、仮に、当業者が、甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項を適用することを想到したとしても、新たに構成Fに係る相違点が生じ、当該相違点は容易に想到し得ないから、相違点1は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項及び甲4~甲7に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 ウ 甲4に基づく容易想到性について 甲4の実施例2に係る技術的事項を検討すると、「半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法において、溝部203における基板201の内部にYAGレーザーを照射して加工変質部を形成すること。」(上記2(7)ア(カ))というものであり、YAGレーザーの照射で溝を形成するものではないから、レーザ光線で溝を形成することを必須の事項とする甲1発明とは技術的思想が異なり、当業者が甲1発明に甲4の実施例2に係る技術的事項を適用する動機があるとはいえず、相違点1は、甲1発明及び甲4の実施例2に係る技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 エ 相違点1の容易想到性の小括 以上のとおりであるから、相違点1は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項、甲4の実施例2に係る技術的事項及び甲5~甲7に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 (3)相違点2の判断 ア 相違点2について検討すると、相違点2に係る本件発明1の構成Gの技術的意義は、改質領域を撮像素子で撮像することで、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することができ、溶融処理領域の位置や大きさ等を調節することが可能となり、その調節により、基板の表面及び裏面に割れが到達しないように制御したり、切断直前に基板の表面及び裏面に割れが到達するように制御を行うことができる、というものと認められる(上記第3の3(3))。 イ これに対して、甲1発明における赤外線の監視は、素子の位置を確認するとともに焦点を面上に合わせるためになされるもの(記載事項5)であるところ、甲1には、基板の厚さ方向における改質領域が存在しないから、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認する必要性がなく、甲1に接した当業者が、相違点2に係る構成Gを採用する動機があるとはいえない。 ウ また、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項及び甲4の実施例2に係る技術的事項は、上記2(2)~(7)に示すとおりであるところ、改質領域を撮像することや、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することについて、全く記載されていない。 エ さらに、改質領域を撮像することや、基板の厚さ方向における改質領域の位置や大きさを確認することは、甲5~甲7にも記載や示唆がない。 したがって、相違点2は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項、甲4の実施例2に係る技術的事項及び甲5~甲7に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。 (4)相違点1及び2に対する請求人の主張について ア 請求人の主張の概要 (ア)甲1発明の監視装置としての赤外線イメージ変換装置は、赤外線で照明された半導体基板の切断の起点となる領域を監視可能な撮像素子であるから、本件発明1の構成Gの「前記赤外透過照明により赤外線で照明された前記半導体基板」「を撮像可能な撮像素子」に相当する。(請求書17ページ) (イ)半導体基板を分割するに際し、半導体基板の内部にレーザ光線の集光点を位置づけてレーザを照射して、半導体基板内部に切断の起点となる改質領域を形成することは周知技術(甲3の1~甲3の5)であるところ、甲1発明と当該周知技術とは、レーザ光を用いて半導体基板を分割する技術分野として共通する。また、甲1発明の課題(レーザ光による飛散、蒸着物が付着することがなく、歩留まりを向上させること)に対して、周知技術は、発塵粉体がほとんどないことを可能として、歩留まりを向上させる点で、課題や作用・機能が共通するから、甲1発明に周知技術を適用する動機付けがある。(請求書18~19ページ) (ウ)甲1発明は、レーザ光を用いて半導体基板をペレットに分割する技術に関し、甲4もレーザ光を用いて半導体基板を分割する技術に関するから、技術分野は共通する。また、甲1発明の課題に対して、甲4記載の技術は、歩留まりを向上させる点で、課題や作用・機能が共通するから、甲1発明に甲4記載の技術を適用する動機付けがある。(請求書20ページ) (エ)甲1発明において、半導体基板の内部に切断の起点となる改質領域を形成した場合、甲1発明の赤外線イメージ変換装置は当該改質領域を撮像することになることは明らかであるから、本件発明1の構成Gに想到することは当業者にとって容易である。(請求書19~20ページ及び請求人要領書28ページ) イ 請求人の主張の検討 (ア)請求人は、甲1発明の赤外線イメージ変換装置について、半導体基板の切断の起点となる領域を監視可能な撮像素子であると主張している(上記ア(ア))が、甲1発明における、監視装置としての赤外線イメージ変換装置は、素子の位置を確認するとともに焦点を面上16に合わせるためのものであって、分割の起点となる溝23、23’を赤外線及び赤外線イメージ変換装置で監視することについては、甲1には何ら記載されていないし、仮に、溝23、23’を監視する必要があったとしても、当該溝は面上18にあり、可視光線で(目視により直接に)監視できるから、赤外線及び赤外線イメージ変換装置で監視する必要がないことは明らかである。甲1には、「ウエハー(13)の素子(15)を観察する監視装置」(記載事項4)、「監視装置で前記半導体ウエハー(13)の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)に対応する反対側の面(18)に溝(23)を形成する。すなわち、接眼レンズ(22)からのぞきながら、・・・前記ウエハー(13)の面(16)上に焦点を合わせる。そして、・・・各素子(15)間にその焦点位置が合ったときに、XYテーブル(17)の動きを停止させる」(記載事項5)との記載があることから、甲1の赤外線イメージ変換装置は、可視光線では監視できない素子15を監視するとともに、焦点を面上16に合わせるために用いられるものであって、レーザーによって加工される溝を監視するものではないと解するのが相当である。 したがって、甲1発明の赤外線イメージ変換装置が、半導体基板の切断の起点となる領域を監視可能な撮像素子である旨の主張は採用できない。 (イ)請求人は、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項や、甲4の実施例2に係る技術的事項について、甲1発明の技術分野と共通し、課題や作用機能が共通するから、甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項又は甲4の実施例2に係る技術的事項を適用する動機付けがある旨を主張している(上記ア(イ)及び(ウ))。 しかし、上記(2)ア(ウ)で説示するとおり、甲1に接した当業者は、甲1発明について、レーザ光線で溝を形成することは、必須の事項と理解するというべきところ、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項や、甲4の実施例2に係る技術的事項は、レーザ光線で溝を形成するものではないから、甲1発明に甲3の1~甲3の5記載の技術的事項又は甲4の実施例2に係る技術的事項を適用する動機があるとはいえない。 したがって、請求人の当該主張は採用できない。 (ウ)請求人は、甲1発明の赤外線イメージ変換装置が、半導体基板の切断の起点となる領域を監視可能な撮像素子であることを前提として、相違点1に係る改質領域を形成することが容易想到であれば、改質領域を監視可能とすることは当然である旨を主張している(上記ア(エ))が、上記(ア)に説示するとおり、当該主張は前提において誤っているし、仮に甲1発明の赤外線イメージ変換装置が、分割の起点となる溝23、23’を監視するものとしても、甲1には、半導体基板の内部の改質領域を監視することについては記載も示唆もなく、半導体基板の内部の改質領域を監視し得るものとすることが容易に想到し得るとはいえないから、請求人の主張は採用できない。 (5)小括 以上のとおり、相違点1及び2は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項及び甲4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5~甲7に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえないから、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項又は甲4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5~甲7に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、請求人の無効理由1により、本件発明1に係る特許を無効とすることはできない。 4 無効理由2(甲1に基づく本件発明2の進歩性欠如について) (1)本件発明2と甲1発明の対比 甲1発明の「半導体ウエハー13」は、本件発明2の構成Qの「シリコン基板」と対比すると、「半導体材料の基板」という点で共通する。 また、甲1発明の「XYテーブル17を制御する制御部」が「XYテーブル17」の移動を制御することは明らかであるから、甲1発明は、本件発明2の構成Rに相当する構成を実質的に備えているということができる。 そして、甲1発明のその他の構成は、本件発明1の対比(上記3(1))と同様に対比することができるところ、本件発明2は、本件発明1の構成A、D、E及びGと同様の構成J、M、N及びPを備えているから、本件発明2と甲1発明は、上記3(1)エに示す相違点1~2と同様の点で相違するほか、以下の点で相違する。 <相違点4> 半導体材料の基板が、本件発明2は「シリコン基板」である(構成Q)のに対して、甲1発明は「半導体ウエハー13」である点。 (2)相違点1及び2の判断 上記3(2)及び(3)に説示する理由と同様の理由により、仮に、本件発明2の全部又は一部について優先権の効果が及ばないとしても、相違点1及び2は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項及び甲4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5~甲7に基づいて、本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に想到できたものとはいえない。また、相違点1及び2に関する技術的事項は、甲8~甲9にも記載や示唆がないから、甲8~甲9に基づいて、本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に想到できたものともいえない。 (3)小括 相違点1及び2は、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項及び甲4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5~甲9に基づいて、本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に想到できたものとはいえないから、本件発明2は、仮に、本件発明2の全部又は一部について優先権の効果が及ばないとしても、甲1発明、甲3の1~甲3の5記載の技術的事項又は4の実施例2に係る技術的事項、並びに甲5~甲9に基づいて本件特許に係る出願の原出願日当時の当業者が容易に発明できたものとはいえない。 したがって、請求人の無効理由2により、本件発明2に係る特許を無効とすることはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、無効理由1及び2はいずれも理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2についての特許は、無効理由1及び2によっては、無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-800067

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    同じ出願番号
同じ当事者の審決174件(株式会社 東京精密、浜松ホトニクス 株式会社)
  • 2021-800071無効審判 / 2023-10-04 / 請求不成立レーザ加工装置
    同じ当事者: 株式会社 東京精密、浜松ホトニクス 株式会社
  • 2021-800077無効審判 / 2023-09-19 / 請求不成立レーザ加工装置
    同じ当事者: 株式会社 東京精密、浜松ホトニクス 株式会社
  • 2021-800045無効審判 / 2023-03-10 / 請求不成立レーザ加工装置
    同じ当事者: 株式会社 東京精密、浜松ホトニクス 株式会社
  • 2021-800051無効審判 / 2022-10-18 / 請求不成立レーザ加工方法及びレーザ加工装置
    同じ当事者: 株式会社 東京精密、浜松ホトニクス 株式会社
  • 2021-800050無効審判 / 2022-08-09 / 請求不成立レーザ加工方法及びレーザ加工装置
    同じ当事者: 株式会社 東京精密、浜松ホトニクス 株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)339件(121・B23K)
  • 2021-800071無効審判 / 2023-10-04 / 請求不成立レーザ加工装置
    共通の審決分類: 121・B23K
  • 2021-800077無効審判 / 2023-09-19 / 請求不成立レーザ加工装置
    共通の審決分類: 121・B23K
  • 2021-800045無効審判 / 2023-03-10 / 請求不成立レーザ加工装置
    共通の審決分類: 121・B23K
  • 2021-800051無効審判 / 2022-10-18 / 請求不成立レーザ加工方法及びレーザ加工装置
    共通の審決分類: 121・B23K
  • 2021-800050無効審判 / 2022-08-09 / 請求不成立レーザ加工方法及びレーザ加工装置
    共通の審決分類: 121・B23K

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