特許無効審判
2021-800077
レーザ加工装置
- 審判番号
- 2021-800077
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2006-069918
- 登録番号
- 3935188
- 請求日
- 2021年09月09日
- 審決日
- 2023年09月19日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 東京精密
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】服部 誠
- 【請求人代理人】中村 閑
- 【請求人代理人】柿本 祐依
- 【請求人代理人】相田 義明
- 【請求人代理人】山下 崇
- 【被請求人】浜松ホトニクス 株式会社
- 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【被請求人代理人】小曳 満昭
- 【被請求人代理人】柴田 昌聰
- 【被請求人代理人】河合 哲志
- 【被請求人代理人】設樂 隆一
- 【被請求人代理人】尾関 孝彰
- 【被請求人代理人】松本 直樹
- 【被請求人代理人】大澤 恒夫
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 大山 健
- 審判官 奥隅 隆
- 分類
- P1113.121-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3935188号発明「レーザ加工装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第3935188号に係る特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
1 本件特許の設定登録までの手続の経緯の概略
本件無効審判の請求に係る特許第3935188号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成12年9月13日(以下「原出願の優先日」という。)に出願した特願2000-278306号に基づいて優先権を主張して平成13年9月13日に出願した特願2001-278707号(以下「原出願」という。)の一部を、平成18年3月14日に新たな特許出願(特願2006-69918号)としたものであって、平成19年3月30日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
2 本件特許の手続の経緯の概略
(1)先の無効審判請求の経緯
令和1年 9月17日 :本件特許を無効とする審判請求
(無効2019-800068号。以下
「先の無効審判請求」という。)
令和3年 4月 7日 :先の無効審判請求における訂正請求書
(以下「先の無効審判請求の訂正」
という。)の提出
同 年 7月28日付け:先の無効審判請求の審決(請求項1~2に
ついて訂正することを認める、先の
無効審判請求は、成り立たない。)
同 年 9月 8日 :先の無効審判請求の審決の取消訴訟
(知財高裁令和3年(行ケ)
10111号)の提起
令和4年 6月22日付け:判決(請求棄却)
令和5年 1月18日 :上記判決の確定
同 年 2月 2日 :先の無効審判請求の審決が確定した旨の
原簿登録
これにより、先の無効審判請求の訂正に係る特許請求の範囲により特許権の設定登録がされたものとみなす(特許法第134条の2第9項で準用する同法第128条)。
(2)本件無効審判の手続の経緯
本件無効審判における手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和3年 9月 9日 :審判請求書(以下「請求書」という。)
の提出
同 年12月23日 :答弁書及び訂正請求書の提出
(以下「本件無効審判の訂正」
という。)
令和4年 3月24日付け:審尋
同 年 4月 4日 :(被請求人)回答書の提出
同 年 4月13日 :(請求人)回答書の提出
同 年 4月15日付け:請求人と審判官の電話応対の記録
同 年 4月27日 :(請求人)上申書(以下「請求人上申書」
という。)の提出
同 年 8月 9日付け:審理事項通知
同 年 9月12日 :(被請求人)口頭審理陳述要領書(以下
「被請求人要領書」という。)の提出
同 年 9月13日 :(請求人)口頭審理陳述要領書(以下
「請求人要領書」という。)の提出
同 年 9月27日 :口頭審理
同 年 9月27日 :(請求人)上申書の提出
同 年 9月28日付け:手続中止通知書
令和5年 2月14日付け:手続中止解除通知書
及び訂正拒絶理由通知書
同 年 2月27日 :(被請求人)上申書及び訂正請求取下書の
提出(以下、この上申書を、
「被請求人上申書」という。)
同 年 3月14日付け:職権審理結果通知書
同 年 3月15日付け:被請求人上申書の副本を送付
なお、合議体は、令和5年3月14日付け職権審理結果通知書において、請求人に対し、先の無効審判請求の訂正は本件無効審判の訂正と同じ内容であり、先の無効審判請求の審決が確定したことにより本件無効審判の訂正によって何ら訂正がなされていないことになったところ、本件無効審判の訂正が取り下げられたため、本件無効審判事件の審理を進めることについて、意見を求めたが、特に回答はなかった。
第3 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、上記先の無効審判請求の訂正(上記第2の2(1))により訂正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1及び2の記載を分説すると、次のとおりである。
「【請求項1】
A:ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
B:前記加工対象物が載置される載置台と、
C:パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光を出射するレーザ光源と、
D:前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたパルスレーザ光を集光し、1パルスのパルスレーザ光の照射により、そのパルスレーザ光の集光点の位置で改質スポットを形成させる集光用レンズと、
E:隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って形成された複数の前記改質スポットによって前記改質領域を形成するために、パルスレーザ光の集光点を前記加工対象物の内部に位置させた状態で、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、を備え、
F:前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであること
G:を特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
H:前記制御部は、前記パルスレーザ光の繰り返し周波数と前記パルスレーザ光の集光点の移動速度との少なくとも一方を調節することで、前記改質スポット間の距離を制御する機能を有し、前記載置台及び前記集光用レンズの少なくとも1つの移動を制御すること
I:を特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。」
(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」という。また、分説した発明特定事項をいう場合は、「構成A」などという。)
第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張する無効理由の概要
(1)無効理由1(甲第1号証に基づく本件発明1及び2の進歩性欠如)
本件発明1及び2は、本件特許の原出願の優先日前に頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術的事項、周知技術(甲第8~12号証)、及び、技術水準([甲第13~14号証]、[甲第15号証]、[甲第16号証])に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)無効理由1に関する請求人の主張
無効理由1に関する請求人の主張については、後述する(「甲1発明及び甲2の技術的事項の認定に対する請求人の主張について」(第6の2(3)ア)及び「相違点1に対する請求人の主張について」(第6の3(3)アを参照。)。
(3)撤回された無効理由
請求人は、請求書において、甲第2号証に基づく本件発明1及び2の進歩性欠如についての無効理由2を申し立てていたが、この無効理由2は令和4年4月27日に提出した上申書により撤回の申し出がされ、被請求人も撤回に同意しているから(「第1回口頭審理調書」参照。)、本審決において無効理由2は検討しない。
2 証拠方法
(1)審判請求時に提出されたもの
甲第 1号証:特開昭53-114347号公報
甲第 2号証:特開平11-177137号公報
甲第 3号証:先の無効審判請求の審決の予告
甲第 4号証:特開平8-66790号公報
甲第 5号証:特開平8-178856号公報
甲第 6号証:特開2001-1175号公報
甲第 7号証:特開2002-35985号公報
甲第 8号証:特開平11-71124号公報
甲第 9号証:特開平11-217237号公報
甲第10号証:特開平11-67700号公報
甲第11号証:特開2000-216114号公報
甲第12号証:国際公開第00/32349号
甲第13号証:特公平1-45225号公報
甲第14号証:特開平4-37492号公報
甲第15号証:原央編、「ULSIプロセス技術」、初版、株式会社
培風館、1997年6月10日、p.268~275
甲第16号証:実願昭63-4082号(実開平1-108508号)の
マイクロフィルム
甲第17号証:特開平11-138896号公報
甲第18号証:特開平5-343741号公報
甲第19号証:特開2000-331946号公報
甲第20号証:特開平11-46045号公報
(2)請求人要領書に添付したもの
甲第21号証:「意見書」と題する書面
甲第22号証の1:小林英男著、破壊力学、初版、共立出版株式会社、
1993年4月10日、p.80~83
甲第22号証の2:萩原芳彦、ほか著、よくわかる破壊力学、初版、
株式会社オーム社、平成12年6月30日、
p.36~41
甲第23号証:特開平8-274371号公報
甲第24号証:特願2002-329878号の
平成20年8月30日付け意見書
(3)令和4年9月27日の上申書に添付したもの
甲第25号証:「口頭審理 請求人説明資料」と題する書面
(以下、各甲号証を「甲1」などという。)
第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 無効理由1についての被請求人の主張の概要
(1)本件特許の優先日前には、「適正な条件でシリコンウェハ(シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ)の内部にレーザ光による改質領域を形成するだけで(甲2発明が必要としているような溝部を形成しなくても)、その改質領域が切断の起点となり、当該シリコンウェハが極めて好適に切断される」という事象自体が知られていなかったから、甲1発明で切断の起点とされている「半導体ウエハー(13)の表面(18)に位置する溝(23、23’)」を、「加工対象物の内部に位置する改質領域」に変えようとの発想はそもそも生じ得ないし、甲1発明は、半導体ウエハーの表面にレーザ光線を用いて溝を形成し、圧力を加えて微細なペレットに分割する技術を前提に、レーザ光線を従来とは反対側の面、すなわち、ウエハーの素子が形成された面とは反対側の面から入射するようにすることで、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が各素子の上面に付着することを防止したものであるから、その溝を「半導体基板の内部に位置する改質領域」に変えるということは、発明の前提を変えることを意味し、甲1の課題解決手段(レーザ光線をウエハーの素子が形成された面とは反対側の面から入射するようにするという課題解決手段)を意味のないものにするから、そのような改変は、当業者が容易に想到し得るものではない。(答弁書9~10ページ)
(2)「サファイア等の半導体基板201を分割するためのブレイク・ラインを形成するに際し、YAGレーザーを用いて、基板201の内部に、マイクロ・クラックの集合である、切断の起点となる加工変質部204を形成する技術」といった抽象的な技術は、甲2には記載されておらず、甲1発明の「切断の起点となる領域」(溝)を、「半導体基板の内部に位置する改質領域」に変更することを動機付けるものではない。また、仮に甲1発明に甲2に記載される技術を適用したとしても、相違点1に係る本件発明1の構成は導出されない。(答弁書10~12ページ)
(3)甲2には、サファイア基板等の「窒化物半導体が形成された半導体ウエハー」の切断に関する記載があるだけで、「シリコンウェハ」の切断に関する記載は存在しない。(被請求人上申書7ページ)
(4)甲2には、請求人が主張する周知の課題(甲4~甲7)を解決するものである旨の記載がないことに加え、甲2に記載の発明は、飛散物を発生すると解される構成(溝部をブレードにより形成する構成や、溝部の底面に露出したブレイク・ライン(凹部)を形成する構成)を実施例として含んでいる(甲2の実施例2においても、ブレードダイサーで溝部を形成するとされている(段落【0043】、【0048】))のであり、当業者は、甲2発明を、請求人が主張する周知の課題を解決し得るものとは理解しないから、仮に、請求人が主張する課題が周知であり、その課題が甲1発明にも存在するとしても、甲1発明に甲2発明を適用することは動機付けられない。(被請求人上申書9ページ)
(5)甲4~甲7に請求人が主張する課題が記載されていて当該課題が周知であるのであれば、当業者はその周知の課題を解決するための手段としては甲4~甲7に示される課題解決手段の採用を試みるはずであり、当該課題について全く示唆せず、当該課題を解決し得るものとは解されない甲2に記載される発明の構成を採用しようとするはずがない。(被請求人上申書9ページ)
(6)甲1発明は、「レーザ光により溝を形成する際に、飛散、蒸着物が素子の表面に付着する」という課題を解決するために「レーザ光線をウエハーの素子が形成された面とは反対側の面から入射して溝を形成するようにする」という課題解決手段を採用した発明である。仮に、甲1発明で形成される溝23、23’が溝ではない内部の亀裂であってもよいものであるとすると、甲1発明は上記課題解決手段を使用することなく上記「レーザ光による飛散、蒸着物が素子の表面に付着する」という課題を解決できることになり、甲1発明の課題解決手段が意味のないものになることは明らかである。(被請求人上申書10ページ)
(7)甲1の「ウエハーを破壊する」という記載は、「レーザ光によって半導体の内部を破壊することにより半導体の表面に溝を形成する」という一まとまりの技術的事項を表す記載のうちの一部の記載であり、ウエハーの内部のみを破壊してもよい、という技術的事項を含む記載でないことは明らかである。(被請求人上申書11ページ)
(8)甲22は、同じ長さのき裂が試験片(基板)の表面に存在する場合と内部に存在する場合の両方の場合について、計算により求めた破壊強度を相互に比較したものに過ぎず、当業者が甲1発明をどのように理解するかについての何らかの示唆を与えるものではない。(被請求人上申書11~12ページ)
(9)甲2発明は、加工対象物の表面に溝部203を形成した上で、その溝部203の底面の内部に加工変質部を形成することで加工対象物を切断する発明であるのに対し、甲1発明は加工対象物の表面に溝部203に相当するものを形成することを要する発明ではないから、甲2発明を適用する動機付けは生じ得ない。(被請求人上申書13ページ)
(10)甲2には「熱の影響がなければ板厚をあえて大きくしておく必要はない」という記載も「溝部を設けて板厚を薄くした部分を設ける必要もない」という記載もないのであり、甲2に接した当業者が甲2に「溝無し構成」が記載されていると理解し得たとは到底いえない。(被請求人上申書18ページ)
2 証拠方法
(1)答弁書とともに提出されたもの
乙第1号証の1:高岡秀嗣、「極薄半導体ウェハのダイシングに最適な
ステルスダイシング技術の原理と特徴」、電子材料、
工業調査会、2002年9月1日、Vol.41、
No.9、17~21ページ
乙第1号証の2:大島雅志、ほか2名、「浜松ホトニクスのステルス
ダイシング技術について-開発意義を専門家に聞く-」
電子材料、工業調査会、2002年9月1日、
Vol.41、No.9、22~23ページ
乙第1号証の3:「レーザー学会産業賞「優秀賞」受賞」と題する文書、
一般社団法人レーザー学会
乙第1号証の4:「浜松ホトニクス 透過性パルスレーザーの内部集光に
よる切断加工システム」と題するウェブページ、
株式会社中日新聞社
<URL:http://www.chunichi.co.jp/info/award/
sangisho/minister_no24.html>
乙第1号証の5:「機械振興賞 受賞者 業績概要詳細」と題するウェブ
ページ、
<URL:http://www.jspmi.or.jp/system/
l_cont.php?ctid=l30502&rid=1101>
乙第1号証の6:「レーザー加工技術 特許総合ランキング力トップ3は
浜松ホトニクス、ディスコ、三菱電機」と題するウェブ
ページ
<URL:https://www.patentresult.co.jp/news/2018/07/
laserprotech.html>
乙第2号証 :特許第3408805号公報
第6 当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の優先日(平成12年9月13日)前に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は、理解を容易にするために当審で付したものである。以下同じ。)
特許請求の範囲
「半導体ウエハー上に半導体素子が形成されている面の反対側の面から、上記半導体ウエハーを通して上記半導体素子を確認しながら、レーザ光線の照射する位置を決定して、上記反対側の面または上記反対側の面からウエハーを通して上記半導体素子が形成されている面の少なくともいずれか一方に、レーザ光線を照射して上記半導体素子間間隔に溝を形成することを特徴とする半導体装置の加工装置の加工方法。」
記載事項1(1ページ左下欄下から7~5行)
「本発明は、半導体装置の加工方法に係り、特にレーザ光線を用いて半透明な半導体ウエハーを微細なペレットに分割する加工方法に関する。」
記載事項2(1ページ左下欄最終行~右下欄下から4行)
「しかし、機械的手段によると歩留りが悪い為、最近レーザ光線を用いて溝を形成することが行なわれている。すなわち、レーザ発振器を用い、この発振器からのレーザ光線を集光レンズなどからなる光学系で、ウエハー上に集光させて照射する。そして、この光学系あるいはウエハーを平面的に動かして素子間に複数条の溝を形成している。そして、従来同様に圧力を加えて微細なペレットを得ている。
しかしながら、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射する為、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着し、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点がある。
本発明は、上記欠点に対処してなされたもので、レーザ光線による飛散、蒸発物が素子の表面に付着することがなく、しかも歩留りが向上する半導体装置の加工方法を得るにある。」
記載事項3(1ページ右下欄最終行~2ページ左上欄11行)
「第1図において、レーザ発振器(10)のレーザ光線(11)の放射口側には、そのレーザ光線(11)の放射方向を90°変えるダイクロイツクミラ(12)が配置されている。このミラ(12)により反射されたレーザ光線(11)は、実線で示すように前記ミラ(12)と半導体ウエハー(13)との間に配置された集光レンズ系(14)により集光される。このレンズ系(14)は、図示しない駆動機構により上下動するように構成されている。また、この半導体ウエハー(13)は、サフアイアのような可視光でかなり透明な物質で構成され、その素子(15)が形成された面(16)を下側にしてXYテーブル(17)上に載置されている。」
記載事項4(2ページ左上欄14~最終行)
「また、前記ダイクロイツクミラ(12)を挟んで前記レンズ系(14)と対向する位置には、レンズ(20)が配置されている。このレンズ(20)は、前記ウエハー(13)の素子(15)を観察する監視装置を構成するもので、前記レーザ光線(11)の光軸に同軸上に配置されている。また、このレンズ(20)の前記ミラ(12)と反対側には、結像板(21)及び接眼レンズ(22)が順に配置されている。」
記載事項5(2ページ右上欄1~9行)
「このように構成し、前記監視装置で前記半導体ウエハー(13)の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)に対応する反対側の面(18)に溝(23)を形成する。すなわち、接眼レンズ(22)からのぞきながら、前記レンズ(20)を上下動させて、前記ウエハー(13)の面(16)上に焦点を合わせる。そして、XYテーブル(17)を左右に動かし、所望位置すなわち各素子(15)間にその焦点位置が合ったときに、XYテーブル(17)の動きを停止させる。」
記載事項6(2ページ右上欄10行~左下欄6行)
「そして、前記レーザ発振器(10)を駆動して、レーザ光線(11)を放射する。このとき、レーザ光線(11)は、ウエハー(13)に溝(23)が形成される以前に、その熱などで素子(15)が破壊しない程度のエネルギー強度に選定する。この場合、レーザ光線(11)は、従来と異なり反対側の面(18)に照射するので、従来に比して大きなエネルギ強度を選定することができる。そして集光レンズ(14)を上下動して、このレーザ光線(11)を前記ウエハー(13)の反対側の面(18)上に照射する。このレーザ光線(11)の光軸と前記監視装置の光軸とは、同軸上に形成されているので、前記素子(15)間の位置に対応する反対側の面(18)上に溝(23)を形成することができる。このようにして、監視しながらレーザ光線(11)を照射し、前記XYテーブル(17)を左右に動かして、ウエハー(13)の反対側の面(18)上に複数条の溝(23)(23)’(23)’を刻設する。そして、ウエハー(13)全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する。」
記載事項7(2ページ右下欄5~11行)
「なお、前記実施例では、ウエハー材として、可視光で透視状態となるサファイアなどで形成されたウエハー(13)を加工する場合について説明したが、ウエハーが赤外線で透視状態となる場合にも、本発明は適用可能となる。この場合、ウエハーを赤外線で照射し、操作者とウエハーとの間に監視装置として赤外線イメージ変換装置を設けて観察して行なう。」
記載事項8(2ページ右下欄下から6~3行)
「本発明は、素子上に飛散物、蒸発物が付着することがなく、素子の機能を低下させることがない。また、機械的に溝を形成するものに比して、歩留りが向上するなどの効果を奏する。」
記載事項9(第1図)
「
[図:0001409472000001.jpg]
」
記載事項10(第2図)
「
[図:0001409472000002.jpg]
」
(2)甲2の記載事項
本件特許に係る出願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子の製造方法であって、
前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し少なくとも該第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板(101)に溝部(103)を形成する工程と、
該溝部(103)にブレイク・ライン(104)をレーザー照射により形成する工程と、
前記ブレイク・ライン(104)に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】前記第1の主面(121)は基板(101)上の一方にのみ窒化物半導体が形成された半導体ウエハー(100)の窒化物半導体積層側であり、前記第2の主面(111)は半導体ウエハーを介して対向する基板露出面側である請求項1記載に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】前記ブレイク・ラインは基板(101)の溝部底面に形成された凹部(104)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】前記ブレイク・ラインは基板(201)内部に形成された加工変質部(204)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】ダイヤモンドスクライバー、ダイサー、エッチング装置、レーザー加工機から選択される少なくとも1種によって前記溝部(103)を形成する請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】前記溝部(403)は第1の主面側(421)の予め基板(401)が露出された表面に形成される請求項2に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】前記溝部(103)の幅が10μm以上35μm以下であり、前記溝部(103)の深さが3.7μm以上100μm以下である請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード、さらには高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり、特に、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法に関する。」
「【0004】しかしながら、窒化物半導体を利用した半導体素子は、GaP、GaAlAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP、GaPやInGaAlAsなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒化物半導体の単結晶膜を得るためには、MOCVD法やHDVPE法などを用いサファイアやスピネル基板など上にバッファーを介して形成させることが行われている。そのため、サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層ごと所望の大きさに切断分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければならない。
【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きく熱膨張率も異なる。また、サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質上へき開性を有していない。さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い物質である。
【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーのみで切断することは困難であった。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導体層が部分的に剥離する場合があった。
【0007】そのため窒化物半導体ウエハーは所望のチップごとに分割する方法として特開平8-274371号などに記載されているようにダイヤモンドスクライバーやダイサーを組み合わせて使用する方法が考えられている。具体的一例として、図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子を製造する工程を示す。図5(A)は、サファイア基板501上に窒化物半導体502が形成された半導体ウエハー500を示す。図5(B)はサファイア基板501の下面側から窒化物半導体502に達しない深さでダイサー(不示図)による溝部503を形成する工程を示す。図5(C)は、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成する工程を示す。図5(D)は、スクライブ工程の後、半導体ウエハー500をチップ状510に分離する分離工程を示してある。これにより、切断面のクラック、チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、あらかじめダイサーなどで半導体ウエハー500の厚みを部分的に薄くさせた溝部503を形成し、溝部503にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成させる場合、ダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触しなければならない。
【0009】即ち、通常ダイサーの円盤幅よりもダイヤモンドスクライバーの刃先の方が大きい。そのため図6の如く、ダイヤモンドスクライバーの刃先601が半導体ウエハー500に形成された溝部503の底面に届かない場合がある。この状態でスクライバーを駆動させると半導体ウエハーの平面では図7の如き、所望のスクライブ・ライン703が形成されず歪んだスクライブ・ライン704が形成される傾向にある。これらを防止する目的でダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触するためにはダイサーで形成した溝部503の幅を広くする必要がある。溝部503が広くなると半導体ウエハーからの半導体素子の採り数が減少する。
【0010】他方、溝の幅を狭くした場合は刃先が溝の底に接触させるために溝部503の深さを浅くする必要がある。溝部503を浅くすると半導体ウエハーの分離部の厚みが厚くなり半導体ウエハーを正確に分離することが困難になる傾向がある。したがって、何れも正確により小さい窒化物半導体素子を形成することができないという問題があった。」
「【0012】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とする。」
「【0016】本発明の請求項4に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ブレイク・ラインが基板201内部に形成された加工変質部204である。」
「【0019】
【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する場合において半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができることを見いだし本発明を成すに到った。
【0020】本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。
【0021】即ち、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部は、その溝部形成時に内部応力が生ずる。特に、溝部の底面に沿ってダイヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する工程においてはスクライバーの刃先にかかる加重で溝部底以外にも広く歪みが増幅される。そのため、溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持された応力によって所望通りの端面が形成されず、より正確に窒化物半導体ウエハーが分離できないと考えられる。
【0022】本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考えられる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。以下、本発明の製造方法例について説明する。」
「【0032】発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハーとする場合、基板で通常200から500μmの厚みがあり、pn接合を持つ窒化物半導体層で数μmから数十μmの厚みがある。したがって、半導体ウエハーのほとんどが基板の厚みで占められることとなる。レーザーによる加工を行いやすくするために基板の厚みを研磨により薄くすることができる。このような研磨は、窒化物半導体を形成させてから薄くしても良いし薄く研磨した基板上に窒化物半導体を形成させることもできる。
【0033】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる照射部が選択的に飛翔する或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質部になると考えられる。また、本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。」
「【0037】
【実施例】(実施例1)厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板101としてMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成させた。・・・」
「【0042】半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝部が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層が形成された半導体ウエハーを用いる。・・・(図1(A))。
【0043】こうして形成された窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板101を100μmまで研磨した後、半導体ウエハー100のサファイア基板面111が上になるように水平方向に自由駆動可能なテーブル上に真空チャックを用いて固定させた。ブレード回転数30,000rpm、切断速度3mm/secでステージを移動させることによりサファイア基板101の底面に幅約30μm、深さ約15μmの溝を縦横に形成し溝部103とさせる。・・・(図1(B))。
【0044】次に、ダイサーの刃先など駆動部のみレーザー(356nm)が照射可能なYAGレーザー照射装置と入れ替えた(不示図)。窒化物半導体ウエハー100の固定は維持したままレーザーの焦点を窒化物半導体ウエハーの溝部103底面に結ばれるようレーザーの光学系を調節させる。調節したレーザー光線を16J/cm2で照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿って深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する(図1(C))。
【0045】ブレイク・ラインに沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ、窒化物半導体ウエハー100を切断分離することができる。分離された窒化物半導体素子110の端面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子を形成することができる(図1(D))。」
「【0048】(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。
【0049】ブレイク・ラインの形成を溝部203底面でなく基板201内面に形成させても実施例1のLEDチップとほぼ同様の歩留りを形成することができる。」
「【0064】
【発明の効果】本発明は半導体ウエハーの基板に達する溝部を形成し、その溝部にレーザー照射によるブレイク・ラインを形成する。これにより刃先消耗等による加工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキのない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ラインに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となる。そのため、形状の揃った製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となる。」
図1
「
[図:0001409472000003.jpg]
」
図2
「
[図:0001409472000004.jpg]
」
2 甲号証に記載された発明及び技術的事項
(1)甲1に記載された技術的事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された技術的事項
甲1の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。
(ア)甲1には、レーザ光線を用いて半導体ウエハーを微細なペレットに分割する半導体装置の加工方法が記載されており(記載事項1)、当該方法は、XYテーブル17、レーザ発振器10、集光レンズ系14(記載事項3)、を有する装置(記載事項9)を用いて行われる。
(イ)XYテーブル17には、素子15が形成された面16を下側にして、半導体ウエハー13が載置される(記載事項3)。
(ウ)レーザ発振器10は、レーザ光線11を放射する(記載事項3)。
(エ)集光レンズ系14は、レーザ光線11を集光させ(記載事項3)、半導体ウエハー13の反対側の面18上に照射して、反対側の面18上に溝23を刻設する(記載事項6)。そして、レーザ光線11が、集光レンズ系14により半導体ウエハー13の面18上に集光されて照射される点を以下「照射点」という。
(オ)XYテーブル17は、半導体ウエハー13の反対側の面18上に複数条の溝23、23’を刻設するために、レーザ光線11を半導体ウエハー13の反対側の面18上に照射させた状態で、左右に動かすことができる(記載事項6)。
(カ)上記(オ)の複数条の溝23、23’を刻設した後に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割するから(記載事項6)、複数条の溝23、23’が分割の起点となることは明らかである。
(キ)XYテーブル17は、左右に動かすことができる(上記(オ))から、加工方法に用いる装置が、XYテーブルの駆動を制御する制御部を有していることは自明な事項といえる。
(ク)甲1には、監視装置で前記半導体ウエハー13の素子15の位置を確認しながら、その素子間15に対応する反対側の面18に溝23を刻設することが記載されている(記載事項5)から、上記(オ)の複数条の溝23、23’は半導体ウエハー13の素子15の間に沿って刻設されることは明らかである。
イ 甲1発明
上記アの技術的事項を本件発明1の分説に合わせて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。(甲1発明の分説の符号は、本件発明1の分説の符号に対応して「a1」などと記載する。)
<甲1発明>
「a1:半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に、半導体ウエハー13に圧力を加えて微細なペレットに分割する起点となる溝23、23’を刻設する、レーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置であって、
b1:半導体素子15が形成された面16を下側にして前記半導体ウエハー13が載置されるXYテーブル17と、
c1:レーザ光線11を放射するレーザ発振器10と、
d1:前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18上に、前記レーザ発振器10から放射されたレーザ光線11を集光し、そのレーザ光線11の照射点の位置で前記溝23、23’を刻設させる集光レンズ系14と、
e1:前記溝23、23’を前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18上に刻設するために、レーザ光線11の照射点を前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18上に位置させた状態で、前記半導体ウエハー13の半導体素子15の間に沿ってレーザ光線11の照射点を移動させるようにXYテーブル17を制御する制御部と、を備え、
f1:加工対象物は、半導体ウエハー13である、
g1:レーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置。」
(2)甲2の技術的事項、及び甲2の実施例2に係る技術的事項
ア 甲2の技術的事項
甲2の記載事項からみて、以下の技術的事項を理解できる。
(ア)甲2には、基板上に窒化物半導体が積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法(【0001】)が記載されており、当該製造方法は、窒化物半導体ウエハーを分割する際に、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくし、歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができることを目的とする(【0012】)。
(イ)上記(ア)の目的は、半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより達成される(【0019】)ところ、分離端面がブレイク・ラインに沿って平坦に形成される理由は、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部の溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生じ、その内部応力とブレイク・ラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられ(【0020】、【0021】)、ダイサーにより形成された溝部に生じる内部応力のみに依存するのではなく、レーザースクライバーにより発生する局所的な応力と相まって、分離端面を平滑にし、量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができる(【0022】)。
(ウ)実施例1は、ダイサーにより窒化物半導体ウエハーに溝部103を形成し(【0043】)、YAGレーザー照射装置のレーザーの焦点を溝部103底面に集光するようにレーザーの光学系を調節させ、レーザー光線を照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿った凹部となるように、ブレイク・ライン104を形成する(【0044】)。
(エ)実施例2は、実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は、実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成すること(【0048】)で、ブレイク・ライン204は基板201の表面となる溝部203には形成されていないが、基板201内部に加工変質部として形成されている(【0048】、図2(C))。
(オ)実施例2は実施例1のレーザー照射装置の焦点深さを深くした以外は実施例1と同様であるから、実施例2の基板201の上方の表面には、実施例1の溝部103と同様の溝部203が形成され、基板201の他方の表面には、島状窒化物半導体102(【0042】)と同様の島状窒化物半導体202が形成されており、ブレイク・ライン204(図2(C))を形成する際には、実施例1のブレイク・ライン104と同様に、YAGレーザー照射装置による照射や、レーザー光学系による集光、ステージの移動が行われている。
イ 甲2の実施例2に係る技術的事項
上記ア及び甲2の【特許請求の範囲】、段落【0016】、段落【0020】~【0022】、【0033】、【0048】~【0049】、【0064】の記載などから、特にその実施例2について、以下の技術的事項を理解できる。(甲2の実施例2に係る技術的事項の分説の符号は、本件発明1の分説の符号に対応して「a2」などと記載する。)
「a2:荷重をかけて半導体ウエハー200を切断分離するために、一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された前記半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機であって、
b2:前記半導体ウエハー200が載置されるステージと、
c2:レーザー光線を照射するYAGレーザー照射装置と、
d2:前記ステージに載置された前記半導体ウエハー200の基板201の内部に、YAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線を集光し、そのレーザー光線の焦点の位置で加工変質部を形成させるレーザーの光学系と、
e2:レーザー光線の焦点が前記基板201上の溝部203の内部側に位置するように、前記レーザーの光学系を調整し、レーザー光線の焦点が前記基板201を切断分離するラインに沿って移動するように、前記基板201の厚さ方向と直交する方向に前記ステージを移動させる制御部とを備え、
f2:前記基板201は、前記基板201部分に切断分離するラインに沿って溝部203が形成された
g2:レーザー加工機。」
(以下「甲2の実施例2に係る技術的事項」という。)
(3)甲1発明及び甲2の技術的事項の認定に対する請求人の主張について
ア 請求人の主張についての検討
(ア)請求人の主張の概要
a 「適正な条件でシリコンウェハ(シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ)の内部にレーザ光による改質領域を形成するだけで(甲2発明が必要としているような溝部を形成しなくても)、その改質領域が切断の起点となり、当該シリコンウェハが極めて好適に切断される」という事象が知られていたことは、甲2から明らかである。(請求人要領書27ページ)
b 甲1で、実際にレーザ光線が破壊するのは、ウエハーそのものである。つまり、甲1の「半導体が形成されている面に・・・溝を形成する」とは、より具体的には、「半導体が形成されている面付近の半導体の内部に溝を形成する」ことを意味し、実質的にはレーザ光によって半導体の内部を破壊している。(請求人要領書30ページ)
c 甲2の全体を通じて、加工対象物に溝を形成する目的は、レーザによる加工を行いやすくするために厚みを薄くすることにあることが記載されている。また、甲2には、溝を形成せずに加工対象物全体の厚さを薄くする技術が開示されている(甲2【0032】)。熱の影響がなければ、基板の板厚をあえて大きくしておく必要はないし、基板に溝部を設けておく必要もないと当業者は理解する。しかも、シリコンウェハ等の半導体ウェハの厚さは薄くなる傾向にあったのであり(本件明細書【0017】)、シリコンのように、へき開性を有し、硬度が低い(硬くない)加工対象物を切断する場合であればなおさら、当業者は、コストアップに繋がる溝形成プロセスを避け、溝を設けないでレーザ照射をしようと試みる。よって、甲2から、表面に溝が形成されていない加工対象物の内部にレーザを照射して加工対象物を切断する発明を認定することができる。(請求人要領書33~38ページ)
(イ)請求人の主張の検討
a 上記(ア)aについて検討する。
甲2の記載事項及び甲2の技術的事項は、上記1(2)及び2(2)のとおりであり、甲2には、適正な条件でシリコンウェハ(シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ)の内部にレーザ光による改質領域を形成することは記載されていないし、甲2には、シリコン単結晶構造部分に切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハについて、その内部に形成した改質領域が切断の起点となることも記載されていないから、請求人の主張は採用できない。
b 上記(ア)bについて検討する。
請求人は、甲1の「半導体が形成されている面に・・・溝を形成する」とは、より具体的には、「半導体が形成されている面付近の半導体の内部に溝を形成する」ことを意味し、実質的にはレーザ光によって半導体の内部を破壊している旨を主張しているが、甲1には、「そして集光レンズ(14)を上下動して、このレーザ光線(11)を前記ウエハー(13)の反対側の面(18)上に照射する。このレーザ光線(11)の光軸と前記監視装置の光軸とは、同軸上に形成されているので、前記素子(15)間の位置に対応する反対側の面(18)上に溝(23)を形成することができる。このようにして、監視しながらレーザ光線(11)を照射し、前記XYテーブル(17)を左右に動かして、ウエハー(13)の反対側の面(18)上に複数条の溝(23)(23)’(23)’を刻設する。」(上記1(1)の記載事項6)と記載されていることに鑑みれば、甲1では、面上に溝を刻設しており、「面付近の半導体の内部」に溝を形成していないことは明らかである。
c 上記(ア)cについて検討する。
請求人は、甲2の全体を通じて、加工対象物に溝を形成する目的は、レーザーによる加工を行いやすくするために厚みを薄くすることにあることが記載されており、溝を形成せずに加工対象物全体の厚さを薄くする技術が開示されている(【0032】)から、甲2から、表面に溝が形成されていない加工対象物の内部にレーザーを照射して加工対象物を切断する発明を認定することができる旨を主張しているが、甲2の【0032】に、基板の厚さを薄くすることは記載されているとしても、基板に溝を形成しないことは記載されていない。また、甲2の技術的事項については、従前、ダイサーのみやスクライバーのみで切断することが困難であったことを背景として、両者の技術を組み合わせるべく、半導体ウエハーにダイサーで溝部を形成し、この溝部にスクライバーでラインを形成した後、半導体ウエハーに外力を加えて、チップ状の半導体素子に分離する分離工程に関し、従来、ダイヤモンドスクライバーで溝部にスクライブ・ラインを形成しようとすると、溝部幅を広くしても、狭くしても、いずれであっても、より小さい半導体素子を正確に形成することができないという問題があったことから、代わりにレーザー照射を用いてブレイク・ラインを形成しようとするものである(甲2の段落【0008】~【0010】、【0013】)。
したがって、上記分離工程の課題は、溝部にラインを形成することに伴い生じるものであって、甲2の技術的事項は、溝部を形成した上で、スクライブ・ラインに代えてブレイク・ラインを形成するためにレーザー照射を採用することに特徴のあるものであるから、甲2の技術的事項において、加工対象物である基板201は、切断予定ラインに沿った溝(ダイサーによる溝部)が形成されていることは必須であることが明らかである。
また、甲2の段落【0020】の「本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。」との甲2の技術的事項の効果を奏する理由に関する記載からも切断予定ラインに沿った溝(ダイサーによる溝部)が形成されていることは必須であることが示されている。したがって、請求人の上記(ア)cの主張は採用できない。
イ 小括
以上、上記アで検討したとおり、甲1発明及び甲2の技術的事項についての請求人の主張は採用できない。
3 無効理由1(甲1に基づく本件発明1の進歩性欠如)について
(1)本件発明1と甲1発明の対比
ア 本件発明1と甲1発明を対比すると、次の甲1発明の欄に記載した甲1発明の各構成は、本件発明1の欄に記載した本件発明1の構成に、それぞれ相当する。
<甲1発明> <本件発明1>
(構成a1) (構成A)
半導体ウエハー13・・・・・・・・・ウェハ状の加工対象物
分割する起点・・・・・・・・・・・・切断の起点
レーザ光線11を用いて
半導体ウエハー13を
微細なペレットに分割する加工装置・・・レーザ加工装置
(構成b1) (構成B)
XYテーブル17・・・・・・・・・・載置台
(構成c1) (構成C)
放射する・・・・・・・・・・・・・・出射する
レーザ発振器10・・・・・・・・・・レーザ光源
(構成d1) (構成D)
照射点・・・・・・・・・・・・・・・集光点
集光レンズ系14・・・・・・・・・・集光用レンズ
(構成e1) (構成E)
半導体ウエハー13の
半導体素子15の間・・・・・・・・・・切断予定ライン
レーザ光線11の照射点を
移動させるように レーザ光の集光点を直線的に
XYテーブル17を制御する・・・・・・移動させる機能を有する
(構成g1) (構成G)
レーザ光線11を用いて
半導体ウエハー13を
微細なペレットに分割する加工装置・・・レーザ加工装置
イ また、甲1発明の構成a1の「半導体ウエハー13の素子15が形成されている面16の反対側の面18上」と、本件発明1の構成Aの「ウェハ状の加工対象物の内部」は、「ウェハ状の加工対象物」という点で共通し、同様に、「分割する起点となる溝23、23’」と、「切断の起点となる改質領域」は、「切断の起点となる切断起点」という点で共通する。
ウ 甲1発明の構成c1の「レーザ光線11」と、本件発明1の構成Cの「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」とは、「レーザ光」という点で共通し、上記イと同様に、レーザ光を集光させる位置である、甲1発明の構成d1及びe1の「前記反対側の面18上」と、本件発明1の構成D及びEの「前記加工対象物の内部」は、「ウェハ状の加工対象物」という点で共通し、甲1発明の構成d1及びe1の「前記溝23、23’」と、本件発明1の構成D及びEの「改質スポット」及び「改質領域」は、「切断起点」という点で共通し、甲1発明の構成f1の「加工対象物は、半導体ウエハー13である」ことと、本件発明1の構成Fの「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」ことは、「前記加工対象物は、ウェハである」点で共通する。
エ そうすると、本件発明1と甲1発明は、次の点で一致し、次の点で相違する。
<一致点>
「ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる切断起点を形成するレーザ加工装置であって、
前記ウェハ状の加工対象物が載置される載置台と、
レーザ光を出射するレーザ光源と、
前記載置台に載置された前記ウェハ状の加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記切断起点を形成させる集光用レンズと、
前記切断起点を形成するために、レーザ光の集光点を前記ウェハ状の加工対象物に位置させた状態で、前記切断予定ラインに沿ってレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する制御部と、
を備え、
前記加工対象物は、ウェハである
レーザ加工装置。」
<相違点1>
本件発明1は、切断起点が、「加工対象物の内部」に形成された、複数の「改質スポット」(構成D)によりなる「改質領域」(構成A及びE)であり、集光点の位置が「加工対象物の内部」(構成D及びE)であるのに対して、甲1発明は、切断起点が「半導体ウエハー13の反対側の面18上」に刻設された「溝23、23’」であり、集光点の位置が「前記反対側の面18上」である点。
<相違点2>
本件発明1は、「レーザ光」が「パルス幅が1μs以下のパルスレーザ光」(構成C)であるのに対し、甲1発明は「レーザ光線11」である点。
<相違点3>
本件発明1は、「制御部」が「隣り合う前記改質スポット間の距離が略一定となるように前記加工対象物の切断予定ラインに沿って」「パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定にして、前記切断予定ラインに沿ってパルスレーザ光の集光点を直線的に移動させる機能を有する」(構成E)ものであるのに対し、甲1発明は、半導体ウエハー13の半導体素子15の間に沿ってレーザ光線11の照射点を移動させるようにXYテーブル17を制御するものであり、パルスレーザ光の繰り返し周波数及びパルスレーザ光の集光点の移動速度を略一定に制御するかどうかは不明な点。
<相違点4>
加工対象物が、本件発明1は、「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハである」(構成F)のに対し、甲1発明は、半導体ウエハー13である点。
(2)相違点1の判断
ア 甲1について
(ア)甲1には、従来技術の欠点として、レーザ光線を用いてウエハーに溝を刻設する際に、レーザ光線によりウエハー材が飛散、蒸発して、各素子の上面に付着することで、その素子の機能を低下させたり不良品とすることが記載されている(上記1(1)の記載事項2)。
(イ)そして、甲1発明は、半導体ウエハー13を、素子15が形成された面16を下側にしてXYテーブル17上に載置し、反対側の面18上にレーザ光線で溝23を刻設することにより、レーザ光線で飛散物や蒸発物が生じても、素子15の上面はXYテーブル17に接していることから、素子上には飛散物や蒸発物が付着することがなく、上記(ア)の欠点に対処できることを理解できる。
(ウ)甲1のこれらの記載に接した当業者は、甲1発明について、半導体ウエハーに溝を加工する際にレーザ光線で飛散、蒸発物が生じることを許容した上で、レーザ光線で生じた飛散、蒸発物が、素子の上面に付着することを抑制するものと理解するから、レーザ光線で飛散、蒸発物が生じること、すなわち、レーザ光線で溝を刻設することは、必須の事項と理解するといえる。したがって、半導体ウエハー13の面上に溝を刻設することに代えて、半導体ウエハー13の内部に改質領域を形成することを着想することが甲1に記載あるいは示唆されているものではない。
このように、甲1発明が、面上に溝を刻設することのみを想定した技術を前提とするものであって、半導体ウエハー13の内部に改質領域を形成するものではないことについては、例えば、面16を下側にしてXYテーブル17に載置された半導体ウエハー13が厚い場合に、面18に加えて、下側にした面16に溝を刻設した場合にも、レーザ光線11によりウエハー材が飛散蒸発するが、この飛散蒸発したウエハー材が、側面に付着して上面に付着しないことで問題とならないとの記載(甲1の2ページ左下欄7行~右下欄4行)からも明らかである。
イ 甲2の実施例2に係る技術的事項の適用に基づく容易想到性について
甲2の実施例2に係る技術的事項の甲1発明への適用についても検討すると、甲2の実施例2に係る技術的事項は上記2(2)イのとおりのものであり、YAGレーザーの照射で溝を形成するものではないから、レーザ光線で溝を刻設することを必須の事項とする甲1発明とは技術的思想が異なる。さらに、甲1発明の課題は、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射すると、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着して、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点に対処することである一方、甲2の技術的事項の課題は、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくすること、あるいは、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することであって、レーザ光線によるウエハー材の飛散蒸発に対処することを目的とするものではないから、両者の課題も異なる。したがって、当業者が甲1発明に甲2の実施例2に係る技術的事項を適用する動機があるとはいえない。
ウ その他の証拠に基づく容易想到性について
甲8~甲12は相違点2に対し、甲13~甲14は相違点3に対し、及び甲15~甲16は相違点4に対してそれぞれ提出された証拠であり(請求書16~20ページを参照。)、甲8~甲16を参酌しても、甲1発明に甲2の実施例2に係る技術的事項を適用することの動機付けは見いだせない。
エ 相違点1の容易想到性の小括
以上のとおりであるから、相違点1は、甲1発明、甲2の実施例2に係る技術的事項及び甲8~甲16に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。
(3)相違点1に対する請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要
(ア)甲1発明は、レーザ光を用いて半導体基板をペレット(=チップ)に分割する技術に関し、甲2も、レーザ光を用いて半導体基板を分割する技術に関するから、甲1発明と甲2に記載の技術の技術分野は共通する(技術分野の共通性)。
また、甲1発明は、レーザ光による飛散、蒸着物が素子の表面に付着することがなく、歩留まりを向上させることを目的(課題)とする発明である一方、甲2に記載の技術は、歩留まりを向上させる作用機能を有し(段落【0012】、【0019】、【0049】)、甲1発明の目的(課題)等と共通する(課題、作用・機能の共通性)。
さらに、本件特許の優先日における技術水準において、レーザ光を用いた加工技術において、加工対象物のレーザ光を照射した部分からの蒸散物(飛散物)がレンズ等に付着する課題は、当業者にとって周知の課題であった(甲4の段落【0002】、【0003】、甲5の段落【0003】、甲6の段落【0001】、及び甲7の段落【0001】)から、甲1発明においても、集光レンズ14は加工対象物である半導体ウェハー13に面していることから(図1)、半導体ウエハー13のレーザ光を照射した部分からの蒸散物(飛散物)が集光レンズ14に付着する等の当該周知の課題が依然として残ったままである。
以上を考慮すると、甲1発明において、上記周知の課題を解決するために、技術分野が共通しかつ課題、作用・機能が共通する甲2に記載の技術を適用し、「切断の起点となる領域」を「ウェハ状の加工対象物の内部」に位置する「マイクロ・クラック」(改質スポット)及び「マイクロ・クラックの集合である加工変質部」(改質領域)とすることは、レーザ光による飛散、蒸着物が素子の表面に付着することも防ぐことができ、甲1発明の目的にも合致するから、当業者は甲1発明に甲2に記載の技術を適用する動機付けがある。(請求書15~16ページ)
(イ)ウエハー材が飛散蒸発しないようにするという周知の課題(甲4~甲7)を解決するために、甲2発明を理解した当業者は、甲1発明のレーザ光線の焦点を加工対象物の内部にあてて、基板の内部に切断の起点となる改質領域を形成することを即座に想到する。(請求人要領書28ページ)
(ウ)基板の表面にき裂を設けて基板を切断するのと、基板の内部にき裂を設けて基板を切断するのとでは、後者では前者よりも強めの引張応力が必要となる(ローラーを用いる場合、ローラーによってより強めの押力をかける必要がある)点に違いがあるだけであるから(甲22の1~甲22の2)、かかる割断に関する技術常識を踏まえれば、甲2(特に段落【0019】~【0022】)に接した当業者は、自然に、ウエハーの表面に溝を形成せずにその内部にレーザの焦点をあててウエハーを割断することを理解し、半導体の内部のみを破壊するように、甲1発明に甲2発明を適用することを自然に思い付く。(請求人要領書30~31ページ)
(エ)甲1において、内部の破壊が面16に至ってしまった場合には、レーザ光線による飛散物、蒸発物が生じてしまうという周知の課題(甲4~甲7)に直面するところ、基板の表面にき裂を設けて基板を切断するのと、基板の内部にき裂を設けて基板を切断するのとでは、後者では前者よりも強めの引張応力が必要となる点に違いがあるだけであり、かかる割断に関する技術常識を踏まえれば、当業者は、ウエハーのその内部にレーザの焦点をあてる際、表面自体に溝を形成せずウエハーを割断することを自然に想到する。
かかる意味において、甲1発明には、加工対象物の表面自体に溝を形成しない発明を実質的に開示しているということができる。(請求人要領書33ページ)
イ 請求人の主張の検討
(ア)上記ア(ア)、(イ)の主張について検討する。
甲1発明に甲2の実施例2に係る技術的事項を適用する動機付けがないことは、上記(2)イ及びウで説示したとおりである。
したがって、上記ア(ア)、(イ)の主張は採用できない。
さらに、甲1発明に甲2の技術的事項を適用し、「切断の起点となる領域」を「ウェハ状の加工対象物の内部」に位置する「マイクロ・クラック」(改質スポット)及び「マイクロ・クラックの集合である加工変質部」(改質領域)とすることで、レーザ光による飛散、蒸着物が素子の表面に付着することも防ぐことができる旨の論理は、甲2に、レーザ光により飛散、蒸着物が生じるとの課題が記載されていないこと、及び甲2の実施例2に係る技術的事項は、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくし、歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができることを解決するための手段であって、レーザ光により飛散、蒸着物が生じるとの課題を解決するための手段としては認識できないことに鑑みれば、後知恵といわざるを得ないものであり、甲1発明に甲2の技術的事項を適用することは、容易になし得るものとはいえない。
また、請求人のいう周知の課題を検討しても、甲2には、甲2の実施例2に係る技術的事項により、当該周知の課題を解決できることの明記はない。
さらに、甲2の実施例2に係る技術的事項により、当該周知の課題を解決できることが、本件特許の原出願の優先日当時において自明な事項であると認めるに足る証拠はない。
したがって、仮に、甲1発明が、当該周知の課題を内在していたとしても、当業者は、甲2の実施例2に係る技術的事項を、当該課題を解決するための手段として認識することはなく、むしろ、甲4の薄膜や、甲6~甲7の保護部材の適用を試みるというべきであるから、当該周知の課題が、甲1発明に甲2の実施例2に係る技術的事項を適用する動機付けとなるとはいえない。
(イ)上記ア(ウ)、(エ)について検討する。
甲1発明は、半導体ウエハー13の面18上の溝23、23’を、必須の事項とするものであるから、基板の表面にき裂を設けて基板を切断するのと、基板の内部にき裂を設けて基板を切断するのとでは、後者では前者よりも強めの引張応力が必要となることが技術常識であったとしても、基板の表面又は内部にき裂を設けることについての技術常識が、甲1発明から半導体ウエハー13の面18上の溝23、23’を刻設することを捨象する動機付けとならないことは明らかである。
また、甲1発明は、加工対象物の表面自体に溝を刻設しない発明を実質的に開示していないことは、上記2(3)ア(イ)bで説示したとおりである。
したがって、上記ア(ウ)、(エ)の主張は採用できない。
(4)小括
以上のとおり、相違点1は、甲1発明及び甲2の実施例2に係る技術的事項、並びに甲4~甲7及び甲8~甲16に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえないから、相違点2~4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2の実施例2に係る技術的事項、及び甲4~甲16に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
また、本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、甲1発明と対比すると、少なくとも、相違点1で相違するものであり、同様の理由により、甲1発明、甲2の実施例2に係る技術的事項及び甲4~甲16に基づいて、当業者が容易に想到できた事項とはいえない。
したがって、請求人の無効理由1により、本件発明1及び2に係る特許を無効とすることはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、無効理由1は理由がないものであり、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1及び2に係る特許は、無効理由1により、無効とすることはできない。
また、無効理由2は撤回されている。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-800077