特許無効審判
2021-800071
レーザ加工装置
- 審判番号
- 2021-800071
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2006-056671
- 登録番号
- 3867108
- 請求日
- 2021年08月19日
- 審決日
- 2023年10月04日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社 東京精密
- 【請求人代理人】小林 浩
- 【請求人代理人】服部 誠
- 【請求人代理人】中村 閑
- 【請求人代理人】柿本 祐依
- 【請求人代理人】相田 義明
- 【請求人代理人】山下 崇
- 【被請求人】浜松ホトニクス 株式会社
- 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【被請求人代理人】小曳 満昭
- 【被請求人代理人】柴田 昌聰
- 【被請求人代理人】河合 哲志
- 【被請求人代理人】設樂 隆一
- 【被請求人代理人】尾関 孝彰
- 【被請求人代理人】松本 直樹
- 【被請求人代理人】大澤 恒夫
- 審判長/審判官
- 審判長 鈴木 貴雄
- 審判官 刈間 宏信
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1113.121-Y (B23K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第44条第1項、特許法第134条の2第9項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3867108号発明「レーザ加工装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨及び答弁の趣旨
1 請求の趣旨
特許第3867108号に係る特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
2 答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
1 優先権主張及び出願分割の経緯の概略
本件無効審判の請求に係る特許第3867108号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成18年3月2日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成13年9月13日(以下「本件最先出願日」という。)に出願した特願2001-278663(優先権主張 平成12年9月13日(以下「本件優先日」という。))を最先の出願とする、いわゆる第3世代の分割出願であるところ、出願の分割の経緯は、以下の(1)~(4)のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
[優先基礎]特願2000-278306(平成12年9月13日)
(1)[最先出願]特願2001-278663(平成13年9月13日)
(2)[第1世代]特願2004-318326(平成16年11月1日)
(3)[第2世代]特願2005-209073(平成17年7月19日)
(4)[本件出願]特願2006- 56671(平成18年3月 2日)
2 本件特許の出願から設定登録までの経緯
本件特許に係る出願は、本件最先出願日に出願したとみなされる特願2006-56671(上記1(4))であって、平成18年5月1日付けで拒絶理由が通知されたのに対して、同年7月10日に意見書、及び手続補正書が提出され、その後、同年9月29日付けで特許をすべき旨の査定がされ、同年10月13日にその請求項1に係る発明について特許権の設定登録がされた。なお、本件特許の特許権は、令和3年9月13日に存続期間満了となり、同年11月24日に登録を抹消する旨、特許登録原簿に記録された。
3 訂正審判の請求及び審決の確定
平成30年4月24日に、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に対して訂正審判(訂正2018-390073)の請求がされ、同年7月3日に訂正を認める審決がされ、同月13日に同審決は確定し、同月20日にその旨、特許登録原簿に記録された。
4 先の特許無効審判の請求及び審決の確定
令和元年10月10日に、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、との審決を求める特許無効審判(無効2019-800082)(以下「先の無効審判」という。)が請求された。そして、令和2年9月16日付けで無効理由が通知され、その後、令和3年3月18日付けで審決の予告がされ、指定期間内の同年5月28日に本件特許の特許請求の範囲の請求項1を訂正する旨の訂正が請求された後、同年11月18日付けでこの訂正を認めた上で、請求不成立の審決がされた。
この審決に対して、令和3年12月23日に知的財産高等裁判所に審決取消請求の訴訟(令和3年(行ケ)第10163号)が提起され、令和4年11月29日に請求棄却の判決が言い渡された後、同審決は同年12月13日に確定し、令和5年1月26日に特許登録原簿に記録された。
これにより、先の無効審判における訂正の請求により訂正された特許請求の範囲(以下「本件願書に添付した特許請求の範囲」という。)により特許権の設定の登録がされたものとみなす(特許法第134条の2第9項で準用する同法第128条)。
5 本件特許無効審判の経緯
令和3年8月19日に、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とすることを請求する審判請求書(以下「請求書」という。また、この請求書に係る特許無効審判事件を「本件無効審判」という。)が、株式会社東京精密(以下「請求人」という。)より提出された。
これに対して、令和3年12月3日に、審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)が、訂正請求書とともに、浜松ホトニクス株式会社(以下「被請求人」という。)より提出された。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和4年 1月19日 請求人より審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)の提出。
令和4年 4月27日付け 両当事者に対して書面による審尋
令和4年 5月12日 請求人より審尋に対する回答書の提出
令和4年 5月16日 被請求人より審尋に対する回答書の提出
令和4年 5月30日 請求人より上申書(以下「請求人第1上申書」という。)の提出
令和4年10月 6日付け 両当事者に対する審理事項の通知
令和4年11月11日 被請求人より口頭審理陳述要領書(以下「被請求人陳述要領書」という。)の提出
令和4年11月14日 請求人より口頭審理陳述要領書(以下「請求人陳述要領書」という。)の提出
令和4年11月21日 請求人より上申書(以下「請求人第2上申書」という。)の提出
令和4年11月29日 口頭審理
令和4年12月20日 両当事者より上申書(以下、請求人提出のものを「請求人第3上申書」、被請求人提出のものを「被請求人上申書」という。)という。)の提出
令和5年 3月23日付け 被請求人に対して訂正拒絶理由、請求人に対して職権審理結果の通知
令和5年 4月 4日 被請求人より訂正請求取下書の提出
令和5年 4月13日付け 請求人に対して訂正請求の取下げがあったことの通知
第3 本件発明
上記第2の5のとおり、令和5年4月4日に被請求人より訂正請求取下書が提出され、答弁書の提出と同日にされた訂正の請求は取り下げられたから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2の4における本件願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。(弁駁書の記載に準じて、構成要件A~Fに分説した。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
A ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成するレーザ加工装置であって、
B 前記加工対象物が載置される載置台と、
C レーザ光を出射するレーザ光源と、
D 前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズと、
E レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記加工対象物のレーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させた後、レーザ光の集光点が前記加工対象物の内部に位置するように、前記レーザ光入射面を基準として前記加工対象物の厚さ方向に第2移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備え、
F 前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置。」
第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
請求人の主張する無効理由は、請求人請求書、弁駁書、及び、請求人口頭審理陳述要領書の第1(第3ページ)の記載からみて、甲第1号証を主引用例とする進歩性欠如(特許法第29条第2項)に関するものであり、その概要は、次のとおりである(以下「無効理由1」という。)。
本件発明は、レーザ光を用いた加工技術において、加工対象物のレーザ光を照射した部分からの蒸発物(飛散物)がレンズやテーブル(載置台)等に付着するという課題が、当業者にとって周知の課題であったこと(甲第3号証~甲第7号証)、割段に関する技術常識(甲第24号証)、及び半導体ウェハとして極めて一般的なシリコンウェハは赤外線で透視状態となること(甲第8号証~甲第9号証)を考慮すれば、甲第1号証に記載の発明、及び甲第2号証に記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、弁駁書による請求の理由の補正については、令和4年11月29日の口頭審理において、補正許否の決定をもって許可された。(第1回口頭審理調書の「審判長」の1)
また、請求書に記載された甲2を主引用例とする無効理由(無効理由2)は、令和4年5月30日提出の請求人第1上申書において、撤回する旨上申するとともに、令和4年11月29日の口頭審理において撤回され、被請求人も撤回に同意した。
2 請求人の証拠方法
請求人は、請求書とともに甲第1号証~甲第14号証、弁駁書とともに甲第15号証~甲第23号証、請求人陳述要領書とともに甲第24号証の1~甲第27号証、請求人第2上申書とともに甲第28号証、及び請求人第3上申書とともに甲第29号証~甲第30号証を提出した(以下、甲第1号証を「甲1」、同様に甲第2号証~甲第30号証をそれぞれ「甲2」~「甲30」という。)。
(1)請求書とともに提出した証拠方法
甲1:特開昭53-114347号公報
甲2:特開平11-177137号公報
甲3:特開平8-66790号公報
甲4:特開平8-178856号公報
甲5:特開2001-1175号公報
甲6:特開2002-35985号公報
甲7:先の無効審判の審決の予告
甲8:原央、「アドバンストエレクトロニクスI-17 ULSIプロセス技術」、初版、株式会社培風館、1997年6月10日、第268~275ページ
甲9:実願昭63-4082号(実開平1-108508号)のマイクロフィルム
甲10:特開平5-343741号公報
甲11:特開2000-331946号公報
甲12:特開平11-46045号公報
甲13:特開平6-120334号公報
甲14:特開平3-276662号公報
(2)弁駁書とともに提出した証拠方法
甲15:先の無効審判の被請求人の意見書
甲16:SEMIスタンダート日本語翻訳版「SEMI M1-0918」「鏡面単結晶シリコンウェーハの仕様」、国際半導体製造装置材料協会、2018年9月
甲17:平成26年(行ケ)第10204号 審決取消請求事件判決
甲18:先の無効審判の審決
甲19:特開昭55-151351号公報
甲20:特開平6-283758号公報
甲21:特開平10-189498号公報
甲22:特開平11-330553号公報
甲23:特開平8-274371号公報
(3)請求人陳述要領書とともに提出した証拠方法
甲24の1:小林英男、「破壊力学」、初版、共立出版株式会社、1993年4月10日、第80~83ページ
甲24の2:萩原芳彦、外1名、「よくわかる破壊力学」、初版、株式会社オーム社、平成12年6月30日、第36~41ページ
甲25:大村悦二、外5名、「透過性パルスレーザによる極薄シリコンウェハの内部改質」、精密工学会誌、精密工学会、2008年、第74巻、第3号、第275~281ページ
甲26:前田健、「意見書」(最高裁判所宛)、令和4年9月6日
甲27:意見書(特願2002-329878)、平成20年8月30日提出
(4)請求人第2上申書とともに提出した証拠方法
甲28:「無効2021-800071(特許第3867108号)口頭審理 請求人説明資料」、2022年11月21日(作成日)、株式会社東京精密
(5)請求人第3上申書とともに提出した証拠方法
甲29:特開平11-163403号公報
甲30:意見書(特願2002-329878)、平成20年2月18日提出
第5 被請求人の主張と証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人の主張は、答弁書(特に、第3の「本件訂正発明1が、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明ではないこと(無効理由1が成り立たないこと)について」[第8~14ページ]を参照。)、及び被請求人陳述要領書に記載のとおりであり、その概要は以下のとおりである。
本件発明と甲1に記載の発明は、構成要件A、D、Eの「切断の起点となる領域」に関する相違点1、構成要件Eに規定される構成に関する相違点2、及び構成要件Fの加工対象物に関する相違点3で相違し、甲1に記載の発明においては、少なくとも相違点1、2に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない(相違点3の非容易想到性については、現段階では主張しない。)。
2 被請求人の証拠方法
被請求人は、答弁書とともに、乙第1号証の1~乙第1号証の6、被請求人陳述要領書とともに、乙第2号証を提出した(以下、乙第1号証の1を「乙1の1」といい、同様に乙第1号証の2~乙第1号証の6をそれぞれ「乙1の2」~「乙1の6」と、乙第2号証を「乙2」という。)。
(1)答弁書とともに提出した証拠方法
乙1の1:「電子材料」2002年9月号抜粋(目次、17~21ページ)
乙1の2:「電子材料」2002年9月号抜粋(22~23ページ)
乙1の3:「レーザー学会産業賞「優秀賞」受賞」で始まる文書
乙1の4:「浜松ホトニクス 透過性パルスレーザーの内部集光による切断加工システム」と題する文書
乙1の5:「機械振興賞 受賞者 業績概要詳細」と題する文書
乙1の6:パテントリザルト ウェブサイト「レーザー加工技術 特許総合ランキング力トップ3は浜松ホトニクス、ディスコ、三菱電機」https://www.patentresult.co.jp/news/2018/07/laserprotech.html
(2)被請求人陳述要領書とともに提出した証拠方法
乙2:知財高裁令和3年(行ケ)第10111号事件判決
第6 証拠の記載
請求人による主な証拠には、以下の事項がそれぞれ記載されている。
1 甲1の記載事項
(1)特許請求の範囲
「半導体ウエハー上に半導体素子が形成されている面の反対側の面から、上記半導体ウエハーを通して上記半導体素子を確認しながら、レーザ光線の照射する位置を決定して、上記反対側の面または上記反対側の面からウエハーを通して上記半導体素子が形成されている面の少くともいずれか一方に、レーザ光線を照射して上記半導体素子間間隔に溝を形成することを特徴とする半導体装置の加工方法。」(第1ページ左下欄第4~12行)
(2)発明の詳細な説明
ア 「本発明は、半導体装置の加工方法に係り、特にレーザ光線を用いて半透明な半導体ウエハーを微細なペレットに分割する加工方法に関する。
従来、ダイヤモンド針などのカッタで、半導体ウエハーの素子間に機械的に溝を形成した後、ウエハー全体に圧力を加えて、ウエハーを微細なペレットに分割している。しかし、機械的手段によると歩留りが悪い為、最近レーザ光線を用いて溝を形成することが行なわれている。すなわち、レーザ発振器を用い、この発振器からのレーザ光線を集光レンズなどからなる光学系で、ウエハー上に集光させて照射する。そして、この光学系あるいはウエハーを平面的に動かして素子間に複数条の溝を形成している。そして、従来同様に圧力を加えて微細なペレットを得ている。
しかしながら、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射する為、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着し、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点がある。
本発明は、上記欠点に対処してなされたもので、レーザ光線による飛散、蒸発物が素子の表面に付着することがなく、しかも歩留りが向上する半導体装置や加工方法を得るにある。」(第1ページ左下欄第14行~右下欄第17行)
イ 「以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
第1図において、レーザ発振器(10)のレーザ光線(11)の放射口側には、そのレーザ光線(11)の放射方向を90°変えるダイクロイックミラ(12)が配置されている。このミラ(12)により反射されたレーザ光線(11)は、実線で示すように前記ミラ(12)と半導体ウエハー(13)との間に配置された集光レンズ系(14)により集光される。このレンズ系(14)は、図示しない駆動機構により上下動するように構成されている。また、この半導体ウエハー(13)は、サファイアのような可視光でかなり透明な物質で構成され、その素子(15)が形成された面(16)を下側にしてXYテーブル(17)上に載置されている。すなわち、XYテーブル(17)の上面と素子(15)とが接触し、また、この面の反対側の面(18)は、前記集光レンズ系(14)に対向している。
また、前記ダイクロイックミラ(12)を挾んで前記レンズ系(14)と対向する位置には、レンズ(20)が配置されている。このレンズ(20)は、前記ウエハー(13)の素子(15)を観察する監視装置を構成するもので、前記レーザ光線(11)の光軸に同軸上に配置されている。また、このレンズ(20)の前記ミラ(12)と反対側には、結像板(21)及び接眼レンズ(22)が順に配置されている。」(第1ページ右下欄第18行~第2ページ左上欄第20行)
ウ 「このように構成し、前記監視装置で前記半導体ウエハー(13)の素子(15)の位置を確認しながら、その素子間(15)に対応する反対側の面(18)に溝(23)を形成する。すなわち、接眼レンズ(22)からのぞきながら、前記レンズ(20)を上下動させて、前記ウエハー(13)の面(16)上に焦点を合わせる。そして、XYテーブル(17)を左右に動かし、所望位置すなわち各素子(15)間にその焦点位置が合ったときに、XYテーブル(17)の動きを停止させる。
そして、前記レーザ発振器(10)を駆動して、レーザ光線(11)を放射する。このとき、レーザ光線(11)は、ウエハー(13)に溝(23)が形成される以前に、その熱などで素子(15)が破壊しない程度のエネルギー強度に選定する。この場合、レーザ光線(11)は、従来と異なり反対側の面(18)に照射するので、従来に比して大きなエネルギ強度を選定することができる。そして集光レンズ(14)を上下動して、このレーザ光線(11)を前記ウエハー(13)の反対側の面(18)上に照射する。このレーザ光線(11)の光軸と前記監視装置の光軸とは、同軸上に形成されているので、前記素子(15)間の位置に対応する反対側の面(18)上に溝(23)を形成することができる。このようにして、監視しながらレーザ光線(11)を照射し、前記XYテーブル(17)を左右に動かして、ウエハー(13)の反対側の面(18)上に複数条の溝(23)(23)′(23)′を刻設する。そして、ウエハー(13)全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する。」(第2ページ右上欄第1行~左下欄第6行)
エ 「なお、ウエハー(13)が厚い場合は、第2図に示すように行なえば良い。すなわち、前記監視装置により素子(15)間の位置を確認し、レンズ(14)の位置をまず、(A)の位置に合わせる。そして、レーザ光線(11)の焦点をウエハー(13)の面(16)に合わせて照射する。このとき、ウエハー(13)は、半透明材料から構成されているので、単位面積あたりのエネルギ強度を弱くすればレーザ光線(11)は面(18)側を破壊するには至らない。したがって、エネルギ強度を、そのレーザ光線(11)が集光した焦点位置でウエハー(13)を破壊するように選定すればよい。そして、面(16)側に溝(23)′を刻設した後、前記実施例同様にレンズ(14)を(B)位置に配置して溝(23)を刻設する。このようにすれば、厚いウエハーでも良好に微細なペレットに分割することが可能となる。このとき、面(16)に溝(23)′を形成するときに、レーザ光線(11)による飛散物、蒸発物が素子(15)の側面に付着するが素子(15)の上面には付着しないので問題とならない。」(第2ページ左下欄第7行~右下欄第4行)
オ 「なお、前記実施例では、ウエハー材として、可視光で透視状態となるサファイアなどで形成されたウエハー(13)を加工する場合について説明したが、ウエハーが赤外線で透視状態となる場合にも、本発明は適用可視となる。この場合、ウエハーを赤外線で照射し、操作者とウエハーとの間に監視装置として赤外線イメージ変換装置を設けて観察して行なう。また、反対側の面(18)が粗面に形成されている場合は、可視光あるいは赤外線光が透過しにくいので、液体等で濡らして光学的に平らな面とすれば良い。」(第2ページ右下欄第5~14行)
カ 本発明は、素子上に飛散物、蒸発物が付着することがなく、素子の機能を低下させることがない。また、機械的に溝を形成するものに比して、歩留りが向上するなどの効果を奏する。(第2ページ右下欄第15~18行)
(3)図面
ア 第1図
「
[図:0001410581000001.jpg]
」
イ 第2図
「
[図:0001410581000002.jpg]
」
2 甲2の記載事項
(1)特許請求の範囲
「【請求項1】基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子の製造方法であって、
前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し少なくとも該第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板(101)に溝部(103)を形成する工程と、
該溝部(103)にブレイク・ライン(104)をレーザー照射により形成する工程と、
前記ブレイク・ライン(104)に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】前記第1の主面(121)は基板(101)上の一方にのみ窒化物半導体が形成された半導体ウエハー(100)の窒化物半導体積層側であり、前記第2の主面(111)は半導体ウエハーを介して対向する基板露出面側である請求項1記載に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】前記ブレイク・ラインは基板(101)の溝部底面に形成された凹部(104)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】前記ブレイク・ラインは基板(201)内部に形成された加工変質部(204)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】ダイヤモンドスクライバー、ダイサー、エッチング装置、レーザー加工機から選択される少なくとも1種によって前記溝部(103)を形成する請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】前記溝部(403)は第1の主面側(421)の予め基板(401)が露出された表面に形成される請求項2に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】前記溝部(103)の幅が10μm以上35μm以下であり、前記溝部(103)の深さが3.7μm以上100μm以下である請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。」
(2)発明の詳細な説明
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード、さらには高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり、特に、基板上に窒化物半導体積層された半導体ウエハーから窒化物半導体素子を分割する製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】今日、高エネルギーバンドギャップを有する窒化物半導体(InXGaYAl1-X-YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を利用した半導体素子が種々開発されつつある。窒化物半導体を利用したデバイス例として、青色、緑色や紫外がそれぞれ発光可能な発光ダイオードや青紫光が発光可能な半導体レーザが報告されている。さらには高温においても安定駆動可能かつ機械的強度が高い各種半導体素子などが挙げられる。
【0003】通常、赤色、橙色、黄色などが発光可能なLEDチップなどの半導体素子として利用されるGaAs、GaPやInGaAlAsなどの半導体材料が積層された半導体ウエハーの場合は、半導体ウエハーからダイサーやダイヤモンドスクライバーによりチップ状に切り出され形成される。ダイサーとは刃先をダイヤモンドとする円盤の回転運動により半導体ウエハーをフルカットするか、又は刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット)、外力によりカットする装置である。一方、ダイヤモンドスクライバーとは同じく先端をダイヤモンドとする針により半導体ウエハーに極めて細い線(スクライブ・ライン)を例えば碁盤目状に引いた後、外力によってカットする装置である。GaPやGaAs等のせん亜鉛構造の結晶は、へき開性が「110」方向にある。そのため、この性質を利用してGaAs、GaAlAs、GaPなどの半導体ウエハーを比較的簡単に所望形状に分離することができる。
【0004】しかしながら、窒化物半導体を利用した半導体素子は、GaP、GaAlAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP、GaPやInGaAlAsなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒化物半導体の単結晶膜を得るためには、MOCVD法やHDVPE法などを用いサファイアやスピネル基板など上にバッファーを介して形成させることが行われている。そのため、サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層ごと所望の大きさに切断分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければならない。
【0005】サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きく熱膨張率も異なる。また、サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており、その性質上へき開性を有していない。さらに、サファイア、窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い物質である。
【0006】したがって、ダイヤモンドスクライバーのみで切断することは困難であった。また、ダイサーでフルカットすると、その切断面にクラック、チッピングが発生しやすく綺麗に切断できなかった。また、場合によっては基板から窒化物半導体層が部分的に剥離する場合があった。
【0007】そのため窒化物半導体ウエハーは所望のチップごとに分割する方法として特開平8-274371号などに記載されているようにダイヤモンドスクライバーやダイサーを組み合わせて使用する方法が考えられている。具体的一例として、図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子を製造する工程を示す。図5(A)は、サファイア基板501上に窒化物半導体502が形成された半導体ウエハー500を示す。図5(B)はサファイア基板501の下面側から窒化物半導体502に達しない深さでダイサー(不示図)による溝部503を形成する工程を示す。図5(C)は、溝部にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成する工程を示す。図5(D)は、スクライブ工程の後、半導体ウエハー500をチップ状510に分離する分離工程を示してある。これにより、切断面のクラック、チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、あらかじめダイサーなどで半導体ウエハー500の厚みを部分的に薄くさせた溝部503を形成し、溝部503にダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ライン504を形成させる場合、ダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触しなければならない。
【0009】即ち、通常ダイサーの円盤幅よりもダイヤモンドスクライバーの刃先の方が大きい。そのため図6の如く、ダイヤモンドスクライバーの刃先601が半導体ウエハー500に形成された溝部503の底面に届かない場合がある。この状態でスクライバーを駆動させると半導体ウエハーの平面では図7の如き、所望のスクライブ・ライン703が形成されず歪んだスクライブ・ライン704が形成される傾向にある。これらを防止する目的でダイヤモンドスクライバーの刃先が溝部503の底に接触するためにはダイサーで形成した溝部503の幅を広くする必要がある。溝部503が広くなると半導体ウエハーからの半導体素子の採り数が減少する。
【0010】他方、溝の幅を狭くした場合は刃先が溝の底に接触させるために溝部503の深さを浅くする必要がある。溝部503を浅くすると半導体ウエハーの分離部の厚みが厚くなり半導体ウエハーを正確に分離することが困難になる傾向がある。したがって、何れも正確により小さい窒化物半導体素子を形成することができないという問題があった。
【0011】より小さい窒化物半導体素子を正確に量産性よく形成させることが望まれる今日においては上記切断方法においては十分ではなく、優れた窒化物半導体素子の製造方法が求められている。窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば、半導体素子の電気特性等を向上させることができる。しかも、1枚の半導体ウエハーから多くの半導体素子を得ることができるため生産性をも向上させられる。
【0012】したがって、本発明は窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする。また、窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成することができる製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、基板101上に窒化物半導体102が形成された半導体ウエハー100を窒化物半導体素子110に分割する窒化物半導体素子の製造方法である。特に、半導体ウエハー100は第1及び第2の主面を有し少なくとも第1の主面側及び/又は第2の主面側の基板101に溝部103を形成する工程と、溝部103にブレイク・ライン104をレーザー照射により形成する工程と、ブレイク・ライン104に沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有する窒化物半導体素子の製造方法である。
【0014】本発明の請求項2に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、第1の主面121が基板101上の一方にのみ窒化物半導体が形成された半導体ウエハー100の窒化物半導体積層側であり、第2の主面111は半導体ウエハーを介して対向する基板露出面側である。
【0015】本発明の請求項3に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ブレイク・ラインが基板101の溝部底面に形成された凹部104である。
【0016】本発明の請求項4に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ブレイク・ラインが基板201内部に形成された加工変質部204である。
【0017】本発明の請求項5に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、ダイヤモンドスクライバー、ダイサー、エッチング装置、レーザー加工機から選択される少なくとも1種によって溝部103を形成するものである。
【0018】本発明の請求項6に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、溝部403は第1の主面側421の予め基板401が露出された表面に形成されたものである。本発明の請求項7に記載された窒化物半導体素子の製造方法は、溝部103の幅が10μm以上35μm以下であり、溝部103の深さが3.7μm以上100μm以下である。
【0019】
【発明の実施の形態】本発明者らは種々実験の結果、窒化物半導体素子を製造する場合において半導体ウエハーの特定箇所にレーザーを照射することにより、半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができることを見いだし本発明を成すに到った。
【0020】本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。
【0021】即ち、ダイサーやダイヤモンドスクライバーなどにより機械的に削りとられた溝部は、その溝部形成時に内部応力が生ずる。特に、溝部の底面に沿ってダイヤモンドスクライバーによるスクライブ・ラインを形成する工程においてはスクライバーの刃先にかかる加重で溝部底以外にも広く歪みが増幅される。そのため、溝部形成後にダイヤモンドスクライバーで分離させると半導体ウエハー内に保持された応力によって所望通りの端面が形成されず、より正確に窒化物半導体ウエハーが分離できないと考えられる。
【0022】本発明はダイサーにより生じた内部応力に依存することなくレーザースクライバーにより分割に寄与する局所的な応力を発生させる。これにより端面が綺麗(平滑)であり量産性の良い窒化物半導体素子を製造することができると考えられる。また、窒化物半導体素子を分離されるためには半導体ウエハーの厚みが部分的に薄い溝部を形成させる。その溝部よりも狭いブレイク・ラインをレーザー照射により形成することで、極めて細いブレイク・ラインを所望の深さまで深く形成することができ量産性の良い窒化物半導体素子を分離できるものである。以下、本発明の製造方法例について説明する。
【0023】半導体ウエハーとして、LD(laser diode) となる構成の窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。具体的には、スピネル基板上に、GaNのバッファー層、n型GaNのコンタクト層、n型AlGaNのクラッド層、n型GaNの光ガイド層、SiをドープしInの組成を変化させた多重量子井戸構造となるInGaNの活性層、p型AlGaNのキャップ層、p型GaNの光ガイド層、p型AlGaNのクラッド層及びp型GaNのコンタクト層が積層されている。この半導体ウエハーのスピネル基板側をウエットエッチングにより半導体ウエハー表面に溝部を縦横に形成させる。CO2レーザーを溝部の底面に照射してスピネル基板内部に加工変質部としてブレイク・ラインを溝部に沿って縦横に形成させた。ブレイク・ラインに沿ってローラーによる加圧により窒化物半導体素子として分離させる。分離された窒化物半導体素子は何れも端面が綺麗に形成されている。以下、本発明の工程に用いられる装置などについて詳述する。
・・・
【0027】基板の厚さとしてはレーザー加工機の加工精度や出力により種々選択することができるがレーザーにより大きい溝(深い溝)を形成させる場合はダイサーに比べて時間が掛かること及び長時間の加熱による部分的な破壊などの観点からレーザー加工による溝部などを大きく形成させすぎないことが好ましい。
【0028】また、ダイサーなどにより半導体ウエハーに形成される溝部としては、歩留りよく所望の形、サイズに量産性良く形成する観点から溝部の幅が35μm以下が好ましく30μm以下がより好ましい。更に好ましくは25μm以下である。下限については特に制限はないがダイサーで形成する場合、あまり薄くし過ぎると刃先がぶれるため溝部を細くかつ深く形成しがたい傾向にある。したがって、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。さらに、好ましくは20μm以上である。また、溝部の深さは半導体ウエハーの厚みにもよるが量産性や分離のし易さから3.7μm以上が好ましく、より好ましくは4.5μm以上である。更に好ましくは5.2μm以上である。上限値は特に制限はないが量産性を考慮して100μm以下であることが望ましい。同様に、溝部が幅35μm以下深さ5.2μm以上、より好ましくは幅30μm以下深さ4.5μm、更に好ましくは幅25μm以下深さ3.7μm以上の範囲においてはダイヤモンドスクライバーでは溝部に図6の如く半導体ウエハーの分割に寄与するスクライブ・ラインを形成することができないため本発明の効果が特に大きい。
【0029】なお、窒化物半導体ウエハーに単に溝を形成する方法としては、ウエットエッチング、ドライエッチング、ダイサー、ダイヤモンドスクライバーやレーザーの加工さらにはこれらの組合せにより形成することができる。しかしながら、ある程度の幅を持ち効率よく半導体ウエハーの厚みを部分的に薄くさせるためにはダイサーを用いることが好ましい。特に、ダイサーを用いて溝部を形成させた場合は、チップ状に分割した時の端面の綺麗さ(平滑性)の差が顕著に出る傾向にある。即ち、ダイサーを用いて溝部を形成させた後にレーザーを用いて半導体ウエハーを分離したものと、ダイサーを用いて溝部を形成させた後にダイヤモンドスクライバーにより分離させたものとをそれぞれ比較するとレーザーにより凹部を形成させたものの方が分離端面が綺麗に形成される傾向にある。このような平滑性は、透光性絶縁層であるサファイア基板を利用した光学設計をする場合には顕著な違いとなる場合がある。
【0030】窒化物半導体が積層されたサファイア基板を分離させる場合、切断端面を量産性良く切断させるために窒化物半導体ウエハーの最も薄い分離部の厚みは100μm以下が好ましい。100μm以下だとチッピングなどが少なく比較的容易に分離することができる。また、基板の厚さの下限は特に問わないが、あまり薄くすると半導体ウエハー自体が割れやすく量産性が悪くなるため30μm以上であることが好ましい。
【0031】窒化物半導体層が単一量子井戸構造や多重量子井戸構造などの薄膜を含む場合、レーザー照射による半導体接合や半導体層の損傷を防ぐ目的で予めレーザーが照射される窒化物半導体層をエッチングなどにより予め除去することもできる。
【0032】発光ダイオード用の窒化物半導体ウエハーとする場合、基板で通常200から500μmの厚みがあり、pn接合を持つ窒化物半導体層で数μmから数十μmの厚みがある。したがって、半導体ウエハーのほとんどが基板の厚みで占められることとなる。レーザーによる加工を行いやすくするために基板の厚みを研磨により薄くすることができる。このような研磨は、窒化物半導体を形成させてから薄くしても良いし薄く研磨した基板上に窒化物半導体を形成させることもできる。
【0033】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる照射部が選択的に飛翔する或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質部になると考えられる。また、本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。
・・・
【0037】
【実施例】(実施例1)厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板101としてMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成させた。窒化物半導体は基板を分割した後に発光素子110として働くよう多層膜として成膜させた。まず、510℃において原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス、TMG(トリメチルガリウム)ガス及びキャリアガスである水素ガスを流すことにより厚さ約200オングストロームのバッファー層を形成させた。
【0038】次に、TMGガスの流入を止めた後、反応装置の温度を1050℃に挙げ再びNH3(アンモニア)ガス、TMGガス、ドーパントガスとしてSiH4(シラン)ガス、キャリアガスとして水素ガスを流すことによりn型コンタクト層として働く厚さ約4μmのGaN層を形成させた。
【0039】活性層は、一旦、キャリアガスのみとさせ反応装置の温度を800℃に保持し後、原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス、TMGガス、TMI(トリメチルインジウム)及びキャリアガスとして水素ガスを流すことにより厚さ約3nmのアンドープInGaN層を堆積させた。
【0040】活性層上にクラッド層を形成させるため原料ガスの流入を停止し反応装置の温度を1050℃に保持した後、原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス、TMGガス、ドーパントガスとしてCp2Mg(シクロペンタジエルマグシウム)ガス及びキャリアガスとして、水素ガスを流しp型クラッド層として厚さ約0.1μmのGaAlN層を形成させた。
【0041】最後に、反応装置の温度を1050℃に維持し原料ガスとしてNH3(アンモニア)ガス、TMGガス、ドーパントガスとしてCp2Mgガス及びキャリアガスとして水素ガスを流しp型コンタクト層として厚さ約0.5μmのGaN層を形成させた(なお、p型窒化物半導体層は400℃以上でアニール処理してある。)。
【0042】半導体ウエハーに、RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝部が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層が形成された半導体ウエハーを用いる。なお、エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。また、pn各半導体層には、電極120がスパッタリング法により形成されている(図1(A))。
【0043】こうして形成された窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板101を100μmまで研磨した後、半導体ウエハー100のサファイア基板面111が上になるように水平方向に自由駆動可能なテーブル上に真空チャックを用いて固定させた。ブレード回転数30,000rpm、切断速度3mm/secでステージを移動させることによりサファイア基板101の底面に幅約30μm、深さ約15μmの溝を縦横に形成し溝部103とさせる。溝部103は、窒化物半導体ウエハー100のサファイア基板露出面側111から見るとエッチング面130と略平行に形成されておりそれぞれがその後に窒化物半導体素子となる300μm角の大きさに形成させてある(図1(B))。
【0044】次に、ダイサーの刃先など駆動部のみレーザー(356nm)が照射可能なYAGレーザー照射装置と入れ替えた(不示図)。窒化物半導体ウエハー100の固定は維持したままレーザーの焦点を窒化物半導体ウエハーの溝部103底面に結ばれるようレーザーの光学系を調節させる。調節したレーザー光線を16J/cm2で照射させながらステージを移動させることにより溝部103の底面に沿って深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する(図1(C))。
【0045】ブレイク・ラインに沿って、ローラー(不示図)により荷重をかけ、窒化物半導体ウエハー100を切断分離することができる。分離された窒化物半導体素子110の端面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子を形成することができる(図1(D))。
【0046】こうして形成された窒化物半導体素子であるLEDチップに電力を供給したところいずれも発光可能であると共に切断端面にはクラックやチッピングが生じているものはほとんどなかった。また、発生していたチッピングも極めて小さいものであり、歩留りは98%以上であった。
【0047】これにより、ブレイク・ラインの形成をレーザーで行うため、ダイヤモンドスクライバーを利用したものと異なりカッターの消耗、劣化による加工精度のバラツキ、刃先交換のために発生するコストを低減することができる。製造歩留りを高め、形状のバラツキが低減できる。特に、切り代を小さくし、半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。
【0048】(実施例2)実施例1のレーザー照射装置における焦点深さをレーザーの光学系を調整させて深くさせた以外は実施例1と同様にしてブレイク・ラインを形成させた。形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。
【0049】ブレイク・ラインの形成を溝部203底面でなく基板201内面に形成させても実施例1のLEDチップとほぼ同様の歩留りを形成することができる。
・・・
【0064】
【発明の効果】本発明は半導体ウエハーの基板に達する溝部を形成し、その溝部にレーザー照射によるブレイク・ラインを形成する。これにより刃先消耗等による加工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキのない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ラインに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となる。そのため、形状の揃った製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となる。
【0065】また、レーザー照射により半導体ウエハーに対して非接触でブレイク・ラインを形成することにより、従来のようなスクライブ・カッターの劣化、交換により発生していた加工コストの低減が可能となる。
【0066】さらに、半導体層面側から基板に達する溝部を、あらかじめ窒化物半導体が除去された半導体ウエハーに形成することで、溝部形成による半導体への損傷がなく信頼性の高い素子を製造することが可能となる。
【0067】窒化物半導体積層面側の凹部をレーザー照射により形成することで、より幅の狭い溝部を形成することですむ。このため半導体ウエハーからの窒化物半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。」
(3)図面
ア 図1「
[図:0001410581000003.jpg]
」
イ 図2「
[図:0001410581000004.jpg]
」
3 甲3の記載事項
「【0002】
【従来の技術】従来、光照射密度の高いレーザ光を加工試料の表面に直接に照射して、この加工試料にμmのスケールの微細パターンを加工形成するレーザ加工装置が存在する。このレーザ加工装置においては、加工試料のレーザ光による溶発現象、いわゆるアブレーションを利用しており、レーザ光が加工試料の表面に照射されるときには、この加工試料の表面から蒸散物が発生する。
【0003】ここで、上記レーザ加工装置においては、レーザ光を加工試料の表面に集光するために対物レンズを用いている。この対物レンズの作動距離は、一般的には数mm程度しかないので、上記蒸散物が対物レンズを
構成する最下面レンズのガラス面に付着し易い。従って、加工試料へのレーザ光の照射を長時間行う場合には、対物レンズのガラス面に付着物が堆積し、レーザ光透過率を著しく劣化させる。これを防止するために、対物レンズと加工試料との間にカバーガラスを設置する方法や、対物レンズの近傍を排気する方法が用いられている。」
4 甲4の記載事項
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】ウェハ上での加工を微細化しようとする場合、レーザのスポット径を小さくする必要がある。そのために対物レンズ11とウェハ12の距離が短くなる。その結果として、レーザ加工時、ウェハより飛び散るポリシリコンがレンズに付着することがあるようになった。レンズによごれが付着すると、ウェハ上に到達するレーザ光のパワーが低下する。そして、そのまま加工を行うと、パワーが不足し、切断不良が発生してしまう。本発明は、レーザ加工装置において、対物レンズ表面の汚れを検出する方法及び装置を実現することを目的としている。」
5 甲5の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、集光レンズを用いてレーザビームを加工対象物上に集光して加工を行うレーザ加工装置及び加工方法に関し、特に加工対象物からの飛散物が集光レンズに付着することを防止する保護部材を有するレーザ加工装置及び加工方法に関する。」
6 甲6の記載事項
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、集光レンズを用いてレーザビームを加工対象物上に集光して加工を行うレーザ加工装置及び加工方法に関し、特に加工対象物からの飛散物が集光レンズに付着することを防止する保護部材を有するレーザ加工装置及び加工方法に関する。」
7 甲7の記載事項
「ア.甲第15号証(当審注:本件における甲2を指す。)の実施例1では、「溝部103の底面に沿って深さ約3μmの更なる溝としての凹部104をブレイク・ラインとして形成する」(第6の1.(9)段落【0044】)として、基板の溝部の底面(表面)に形成された凹部104(溝部103の幅に比して小さい溝)を切断の起点としているのに対し、甲15発明の認定の基礎とされる甲第15号証の実施例2は、「形成されたブレイク・ラインは基板201の表面となる溝部203に凹部は形成されていないが基板201内部に加工変質部として形成されている(図2(C))。」(第6の1.(10)段落【0048】)と記載されているように、基板の溝部表面に凹部(溝部の幅に比して小さい溝)がなく、ブレイク・ラインは、基板内部の加工変質部としてのみ存在するから、図2(C)のブレイク・ライン204、すなわち加工変質部が切断の起点であると考えるほかない。
したがって、甲15発明の加工変質部も切断の起点となっているというべきである。」(第8の1(3)ア.(第63ページ))
8 甲8の記載事項
「第6章
材料プロセス技術
6.1 シリコンウェーハ
6.1.1 結晶成長
大型の高純度単結晶が他の半導体に比べ容易に製造できるシリコン(Si)はLSIの基幹材料であり,ウェーハの大口径化と高品質化によってLSIの発展を支えてきた。・・・」(第268ページ)
9 甲9の記載事項
「<従来の技術>
例えばSi,GaAs等の結晶評価の一つの手段として、従来から赤外顕微鏡が用いられている。Si等は赤外線をよく透過させ、可視光では観察できない結晶内部の状態を見ることができる。」(明細書第1ページ第18行~第2ページ第2行)
第7 当審の判断(無効理由1)
1 甲1発明及び甲2記載の技術的事項、及び甲3~甲7の記載内容
(1)甲1発明の認定
ア 甲1の記載事項の整理
(ア)第6の1(2)ウ、同(3)ア(第1図の実施例)の記載からみて、甲1には、レーザ光線11を照射し、半導体ウエハー13の半導体素子15間の位置に対応する反対側の面18上に複数条の溝23、23′、23′を刻設し、ウエハー13全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割することと、分割するための加工装置が記載されている。また、複数条の溝23、23′を刻設した後に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割するから、複数条の溝23、23′が分割の起点となることは明らかである。したがって、半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する起点となる溝23、23′を刻設する、レーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置について、記載されているといえる。
(イ)第6の1(2)イ、ウ、同(3)ア(第1図の実施例)の記載からみて、甲1記載の加工装置において、半導体ウエハー13は、その半導体素子15が形成された面16を下側にしてXYテーブル17上に載置され、XYテーブル17は左右に動かされるものであるから、甲1記載の加工装置は、半導体ウエハー13が載置されるXYテーブル17を備える。
(ウ)第6の1(2)イ、ウ、同(3)ア(第1図の実施例)の記載からみて、甲1記載の加工装置は、レーザ光線11を放射するレーザ発振器10を備える。
(エ)第6の1(2)ウ、同(3)ア(第1図の実施例)の記載からみて、甲1記載の加工装置は、XYテーブルを左右に動かして半導体素子15が形成された面16の各素子15間に対応する位置に接眼レンズ22からのぞきながらレンズ20を上下動させて焦点位置を合わせた後に、集光レンズ14系を上下動して、レーザ発振器10から放射されたレーザ光11を集光レンズ系14で集光し、反対側の面18に照射して溝23、23′を刻設するものであるから、甲1記載の加工装置は、XYテーブル17に載置された半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に、レーザ発振器10から放射されたレーザ光線11が集光されて照射され(以下、この面18上にレーザ光線11が集光されて照射される点を「照射点」という。)、溝23、23′を刻設させる集光レンズ系14を備えている。
(オ)第6の1(2)ウ、同(3)ア(第1図の実施例)の記載からみて、甲1記載の加工装置は、半導体素子15間に対応する反対側の面18上に溝23を刻設するように、レーザ光線11を照射しながらXYテーブルを左右に動かすものであるから、甲1記載の加工装置は、レーザ光線11の照射点が前記半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に合うように前記集光レンズ系14を上下動させ、レーザ光線11の照射点が半導体素子15間に対応する位置を移動するように、前記XYテーブル17を左右に動かすものであることが認められる。
(カ)第6の1(2)イ、ウ、同(3)ア(第1図の実施例)の記載からみて、甲1記載の加工装置が加工の対象とするのは、半導体ウエハー13である。
イ 甲1発明
したがって、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。(第3の本件発明の構成要件に付したA~Fの符号に対応させて、A1~F1の符号を付した。)
A1 半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて微細なペレットに分割する起点となる溝23、23′を刻設する、レーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置であって、
B1 半導体素子15が形成された面16を下側にして前記半導体ウエハー13が載置されるXYテーブル17と、
C1 レーザ光線11を放射するレーザ発振器10と、
D1 前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18上に、前記レーザ発振器10から放射されたレーザ光線11を集光し、そのレーザ光線11の照射点の位置で前記溝23、23′を刻設させる集光レンズ系14と、を備え、
E1 レーザ光線11の照射点が前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18上に合うように前記集光レンズ系14を上下動させ、レーザ光線11の照射点が半導体素子15間に対応する位置を移動するように、前記XYテーブル17を左右に動かす、
F1 半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置。
(2)甲2記載の技術的事項
甲2には、【特許請求の範囲】、段落【0016】、段落【0020】~【0022】、【0033】、【0048】~【0049】、【0064】の主に実施例2の記載(記載事項については、第6の2を参照。)からみて、以下の技術的事項(以下「甲2記載の技術的事項」という。)が記載されている。(第3の本件発明の構成要件に付したA~Fの符号に対応させて、A2~F2の符号を付した。)
「A2 荷重をかけて半導体ウエハー200を切断分離するために、一方の表面に溝部203が形成され、他方の表面に島状窒化物半導体202が形成された前記半導体ウエハー200の基板201の内部に、加工変質部を形成するレーザー加工機であって、
B2 前記半導体ウエハー200が載置されるステージと、
C2 レーザー光線を照射するYAGレーザー照射装置と、
D2 前記ステージに載置された前記半導体ウエハー200の基板201の内部に、YAGレーザー照射装置から発振されたレーザー光線を集光し、そのレーザー光線の焦点の位置で加工変質部を形成させるレーザーの光学系と、
E2 レーザー光線の焦点が前記基板201上の溝部203の内部側に位置するように、前記レーザーの光学系を調整し、レーザー光線の焦点が前記基板201を切断分離するラインに沿って移動するように、前記基板201の厚さ方向と直交する方向に前記ステージを移動させる制御部とを備え、
F2 前記基板201は、前記基板201部分に切断分離するラインに沿って溝部203が形成されたレーザー加工機。」
(3)甲3~甲7の記載内容
甲3~甲7(記載事項については、第6の3~7を参照。)には、第4の1の無効理由1における「加工対象物のレーザ光を照射した部分からの蒸発物(飛散物)がレンズやテーブル(載置台)等に付着するという課題」に関連する事項が記載されている。
2 本件発明と甲1発明との対比
(1)本件発明と甲1発明との相当関係
ア 構成要件Aに関して、甲1発明の「半導体ウエハー13」は本件発明の「ウェハ状の加工対象物」に相当し、同様に「刻設する」は「形成する」に、「レーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置」は「レーザ加工装置」に、それぞれ相当する。
そして、甲1発明の「半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて微細なペレットに分割する起点となる溝23、23′を刻設する」ことと、本件発明の「ウェハ状の加工対象物の内部に、切断の起点となる改質領域を形成する」ことを対比すると、甲1発明の「溝23、23′」と本件発明の「改質領域」は、いずれも周囲よりも、脆弱で加えられた圧力に対してクラックのきっかけとなる部位であり、切断の起点としての作用をするものであるから、両者は「ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる切断起点を形成する」点に限り一致する。
イ 構成要件Bに関して、甲1発明の「XYテーブル17」は本件発明の「載置台」に相当する。
ウ 構成要件Cに関して、甲1発明の「レーザ光線11」は本件発明の「レーザ光」に、「放射する」は「出射する」に、「レーザ発振器10」は「レーザ光源」に、それぞれ相当する。
エ 構成要件Dに関して、甲1発明の「照射点」は本件発明の「集光点」に相当する。
そして、甲1発明の「前記XYテーブル17に載置された前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18に、前記レーザ発振器10から放射されたレーザ光線11を集光し、そのレーザ光線11の照射点の位置で前記溝23、23′を刻設させる集光レンズ系14」と、本件発明の「前記載置台に載置された前記加工対象物の内部に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記改質領域を形成させる集光用レンズ」を対比すると、両者は「前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記切断起点を形成させる集光用レンズ」という点に限り一致する。
オ 構成要件Eに関して、甲1発明の「レーザ光線11の照射点が前記半導体ウエハー13の前記反対側の面18上に合うように前記集光レンズ系14を上下動させ、レーザ光線11の照射点が半導体素子15間に対応する位置を移動するように、前記XYテーブル17を左右に動かす」動作について、半導体ウエハー13の前記反対側の面18は半導体ウエハー13の部位であり、レーザ光線11の照射点がこの反対側の面18上に合うように集光レンズ系14を上下動させることは、半導体ウエハー13の厚さ方向に、照射点が合うのに必要な移動量だけ集光レンズ系14を移動させることである。そして、半導体ウエハー13の微細なペレットへの分割は半導体素子15間で起こすことを意図しているから、甲1発明に係る加工装置は、レーザ光線11の照射点が分割を予定している半導体素子15間に対応する位置を移動するように、XYテーブル17を半導体ウエハー13の厚さ方向と直交する左右の方向に動かすものである。
また、甲1発明について、制御装置を備えることの明示はないものの、集光レンズ系14を上下動する(図示しない)駆動機構、及びXYテーブルを左右に動かす機構が存在することから、これらを動作させる機能を有する制御部が存在することは自明な事項である。
したがって、甲1発明の上記の動作をさせる機能を有する制御部と、本件発明の「レーザ光の集光点が・・・前記載置台を移動させる機能を有する制御部」とを対比すると、「レーザ光の集光点が前記加工対象物に位置するように、前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部」という点では一致する。
カ 構成要件Fに関して、甲1発明の「半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置」と、本件発明の「前記加工対象物は、シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハであることを特徴とするレーザ加工装置」を対比すると、両者は「前記加工対象物は、ウェハであるレーザ加工装置」である点に限り一致する。
(2)一致点及び相違点
したがって、本件発明と甲1発明は、以下のアの点で一致し、イの点で相違する。
ア 一致点(第3の本件発明の構成要件に付したA~Fの符号に対応させて、小文字のa~fの符号を付した。)
a ウェハ状の加工対象物に、切断の起点となる切断起点を形成するレーザ加工装置であって、
b 前記加工対象物が載置される載置台と、
c レーザ光を出射するレーザ光源と、
d 前記載置台に載置された前記加工対象物に、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を集光し、そのレーザ光の集光点の位置で前記切断起点を形成させる集光用レンズと、
e レーザ光の集光点が前記加工対象物に位置するように、前記加工対象物の厚さ方向に第1移動量だけ前記集光用レンズを移動させ、レーザ光の集光点が前記加工対象物の切断予定ラインに沿って移動するように、前記加工対象物の厚さ方向と直交する方向に前記載置台を移動させる機能を有する制御部と、を備え、
f 前記加工対象物は、ウェハであるレーザ加工装置。
イ 相違点
(ア)相違点1
構成要件A、構成要件D、及び構成要件Eに関し、本件発明では、加工対象物の「内部」において、レーザ集光点の位置で「改質領域」を形成するのに対して、甲1発明では、加工対象物(半導体ウエハー13)の内部ではなく、「半導体素子15が形成されている面の反対側の面18上」において、レーザ集光点の位置で「溝」を形成する点。
(イ)相違点2
構成要件Eに関し、加工対象物の厚さ方向に集光用レンズを移動させることについて、本件発明においては、「加工対象物のレーザ光入射面を基準として」「第1移動量だけ」移動させた後、「加工対象物のレーザ光入射面を基準として」「第2移動量だけ」移動させるのに対して、甲1発明においては、「第1移動量だけ」移動させるのみで、その後、「第2移動量だけ」移動させることはなく、そのため、第1移動量及び第2移動量を設定する基準となる面が不明である点。
(ウ)相違点3
構成要件Fに関し、加工対象物が、本件発明では「シリコン単結晶構造部分に前記切断予定ラインに沿った溝が形成されていないシリコンウェハ」であるのに対して、甲1発明は、「半導体ウエハー13」である点。
3 本件発明と甲1発明の相違点の検討
(1)相違点1
ア 主引用例(甲1発明)における動機について
甲1発明は、上記1(1)イ記載の構成要件A1のとおり「半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18上に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて微細なペレットに分割する起点となる溝23、23′を刻設する、レーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置」である。
甲1(上記第6の1(2)ア)の記載によれば、上記面16上に溝を刻設するために、レーザ光線を面16側(半導体ウエハー13の素子が形成された表面側)から照射すると、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着して、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点があるが、甲1発明は、この欠点に対処することを課題とするものである。
そして、甲1発明は、この欠点に対処するために、レーザ光線を面16側から照射して面16上に溝を刻設するのに代えて、レーザ光線を面16側とは反対の面18側から照射して面18上に溝23、23′を刻設するものであることを理解できる。
すなわち、甲1発明は、面16側からレーザ光線を照射して面16上に溝を形成することによる上記の欠点に対処するために、レーザ光線を反対の面18側から照射して面18上に溝を形成するものであるから、半導体ウエハの面上に溝を形成することに代えて、半導体ウエハー13の内部に改質領域を形成することを着想することが甲1に記載あるいは示唆されているものではない。
このように、甲1発明が、面上に溝を形成することのみを想定した技術を前提とするものであって、半導体ウエハー13の内部に改質領域を形成するものではないことについては、例えば、面16を下側にしてXYテーブル17に載置された半導体ウエハ13(構成要件B1)が厚い場合に、面18に加えて、下側にした面16に溝を形成した場合にも、レーザ光線11によりウエハー材が飛散蒸発するが、この飛散蒸発したウエハー材が、側面に付着して上面に付着しないことで問題とならないことの記載(第6の1(2)エ)からも明らかである。したがって、甲1発明はレーザ光線により必ず面上に溝を形成し、ウエハー材が飛散蒸発したことに起因する上記の欠点に対処することを課題とすることが理解できる。また、この前提は、本件発明1の効果について「機械的に溝を形成するものに比して、歩留りが向上するなどの効果を奏する」(第6の1(2)カ)という記載がされ、溝を形成するもの同士を比較の前提としていることからも裏付けられる。
したがって、甲1発明が、相違点1に関し、レーザ光線11の照射点の位置を加工対象物の内部に変更することの示唆はないし、あるいはその動機があるものともいえない。
イ 主引用例(甲1発明)と副引用例(甲2記載の技術的事項)の課題について
(ア)甲1発明の課題
甲1発明は、上記アで述べたとおり、半導体ウエハーを微細なペレットに分割する手段として、歩留まりを向上するためにレーザ光線を用いて溝を形成するにあたり、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射すると、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着して、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点があるが、甲1発明は、その欠点に対処することを課題とするものである。
(イ)甲2記載の技術的事項の課題
これに対して、甲2記載の技術的事項は、段落【0012】記載の「窒化物半導体ウエハーをより小さいチップ状に分割するに際し、切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする」こと、あるいは「窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成する」ことを課題とするものである。
(ウ)甲1発明と甲2記載の技術的事項の課題の異同
上記(ア)~(イ)より、甲1発明と甲2記載の技術的事項は、いずれも半導体ウェハの分割に関するものであるが、甲1発明の課題は、レーザ光線をウエハーの素子が形成された表面側から照射すると、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材が、各素子の上面に付着して、その素子の機能を低下させたり不良品とするなどの欠点に対処することであり、甲2記載の技術的事項の課題は、「切断面のクラック、チッピングの発生をより少なくする」こと、あるいは「窒化物半導体の結晶性を損なうことなく、かつ歩留りよく所望の形、サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成する」ことであって、レーザ光線によるウエハー材の飛散蒸発に対処することを目的とするものではないから、両者の課題は異なるものと認められる。
ウ 主引用例(甲1発明)に副引用例(甲2記載の技術的事項)を適用することについて
(ア)甲2記載の技術的事項は上記1(2)のとおりであり、構成要件A2では基板の内部に加工変質部を形成するものであるが、上記アのとおり、甲1には、相違点1に関し、溝23、23′の形成位置を加工対象物の内部に変更することの示唆も動機もなく、また、甲1発明と甲2記載の技術的事項は、上記イ(ウ)のとおり課題が異なることからも、甲1発明に、分割する基板の内部に加工変質部を形成するブレイク・ラインに関する甲2記載の技術的事項を適用して本件発明に至ることが容易であるとはいえない。
(イ)また、甲2記載の技術的事項については、従前、ダイサーのみやスクライバーのみで切断することが困難であったことを背景として、両者の技術を組み合わせるべく、半導体ウエハーにダイサーで溝部を形成し、この溝部にスクライバーでラインを形成した後、半導体ウエハーに外力を加えて、チップ状の半導体素子に分離する分離工程に関し、従来、ダイヤモンドスクライバーで溝部にスクライブ・ラインを形成しようとすると、溝部幅を広くしても、狭くしても、いずれであっても、より小さい半導体素子を正確に形成することができないという問題があったことから、代わりにレーザ照射を用いてブレイク・ラインを形成しようとするものである(甲2の段落【0008】~【0010】、【0013】)。
したがって、上記分離工程の課題は、溝部にラインを形成することに伴い生じるものであって、甲2記載の技術的事項は、溝部を形成した上で、スクライブ・ラインに代えてブレイク・ラインを形成するためにレーザ照射を採用することに特徴のあるものであるから、甲2記載の技術的事項において、加工対象物である基板201は、切断予定ラインに沿った溝(ダイサーによる溝部)が形成されていることは必須であることが明らかである。
また、甲2の段落【0020】の「本発明の方法による分離端面がブレイクラインに沿って平坦に形成される理由は定かではないが溝部形成に伴って溝部近傍に内部応力が生ずること及びその内部応力とブレイクラインが切断端面形状に大きく関係していると考えられる。」との甲2記載の技術的事項の効果を奏する理由に関する記載からも切断予定ラインに沿った溝(ダイサーによる溝部)が形成されていることは必須であることが示されているといえる。
これに関しては、さらに、甲2の段落【0020】~【0022】に基板201の表面に溝部203を形成することを前提とした記載がされ、段落【0064】の「本発明は、半導体ウエハーの基板に達する溝部を形成し、その溝部にレーザー照射によるブレイク・ラインを形成することにより、刃先消耗等による加工精度の劣化を引き起こすことなく、より幅が狭くかつ深い溝部に、加工バラツキのない高精度のブレイク・ライン形成を可能にし、容易にかつ正確にブレイク・ラインに沿って窒化物半導体素子を分割することが可能となる」ため、「形状の揃った製品供給、及び製品歩留りの向上が可能となる」という効果を奏することの記載に照らすと、甲2発明において、加工対象物として、ブレイクライン(切断予定ライン)に沿った溝が形成されていない基板201を採用する動機付けがあるものと認めることはできない。そして、同様の判断は、先の無効審判の審決取消請求の訴訟である令和3年(行ケ)第10163号の判決(当該判決の第4の3(4)[第79~81ページ]:甲2は当該判決における甲15。)でも示されている。
(ウ)甲2記載の技術的事項に関する上記(イ)の事情を考慮すると、加工対象物である基板201に切断予定ラインに沿った溝(上記ダイサーによる溝部)を形成することを前提とする甲2記載の技術的事項において、そのような溝が形成されていない基板201を採用する動機付けはないから、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して、本件発明に到ることが容易であるとはいえない。
そして、上記(イ)に示すとおり、甲2記載の技術的事項は、加工対象物である基板に、切断予定ラインに沿った溝を形成することを必須とするから、仮に、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用したとしても、その加工対象物には、切断予定ラインに沿った溝も形成されたものとなり、本件発明の構成要件Fを充足しないこととなり、本件発明と甲1発明との相当関係に影響を及ぼす。このように、両発明の相当関係に影響を及ぼすような、甲2記載の技術的事項の適用が動機付けられることはない。
エ 相違点1についての判断
したがって、当業者が、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機があるとはいえないし、仮に、当業者が、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用したとしても、本件発明の構成要件Fを充足しないこととなるから、本件発明の構成に至るとはいえない。
(2)相違点2
ア 甲1の記載
(ア)甲1の第1図の実施例
甲1発明の認定の基礎となった甲1の第1図の実施例(第6の1(2)イ~ウ)は、ウエハー13の面16上の素子15間に焦点を位置決めした後、(ウエハー13の面16上の素子15間に焦点を位置決めして溝を刻設せずに、)レンズ20を上下動させて反対側の面18上に照射点を合わせて、溝23、23′を刻設するという加工動作をするものである。
(イ)甲1の第2図の実施例と甲1第2図記載の技術的事項
甲1には、甲1発明のほか、第2図の実施例(第6の1(2)エ、並びに同(3)イ)が記載されている。具体的には、ウエハー13が厚い場合に、ウエハー13の面16上の素子15間に焦点を位置決めして溝を刻設した後、レンズ20を上下動させて反対側の面18に照射点を合わせて、溝23、23′を刻設するという加工動作をするものである。
すなわち、相違点2に関して、甲1には、甲1発明とは別に、第2図の実施例を基礎とした、次の技術的事項(以下「甲1第2図記載の技術的事項」という。)が記載されていることがわかる。
「半導体ウエハー13上に半導体素子が形成されている面16の反対側の面18から、上記半導体ウエハー13を通して上記半導体素子15を確認しながら、レンズ14を(A)位置に合わせてレーザ光線の照射する位置を決定して、上記反対側の面18からウエハー13を通して上記半導体素子15が形成されている面16に、レーザ光線を照射して上記半導体素子15間に溝23′を刻設し、その後に、レンズ14の位置を(B)位置に合わせて反対側の面18に溝23を刻設すること。」
イ 甲2の記載
甲2の段落【0033】には、「・・・本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。」と記載されている。
この甲2の段落【0033】の記載事項については、溝部から若干離れて位置するブレイク・ライン204のほかに、総膜厚の中心にも加工変質部としてのブレイク・ラインがもう一つ形成されることになることから、基板の異なる厚さ位置(溝部近傍と半導体ウエハーの総膜厚の中心)をレーザー加工して複数のブレイク・ライン(加工変質部)を形成しても良いこと、すなわち上記1(2)の甲2記載の技術的事項におけるF2の「基板201を切断分離するライン」を、「基板201の厚さ方向」に複数形成しても良いことが示唆されていると認められる。
ウ 甲1発明への甲1第2図記載の技術的事項及び甲2記載の技術的事項等の適用
(ア)甲1発明は、半導体ウエハー13の半導体素子が形成されている面16の反対側の面18上に溝23、23′を刻設するものであって、集光レンズ系14を上下動させて照射点をこの面18に合わせるが、この面18は、半導体ウエハー13の表面であって照射点を合わせる際に視認できるものであり、同時に加工対象物のレーザ光入射面でもある。
そうすると、視認できない半導体ウエハーの内部に改質領域を形成するために、視認できる上記レーザ光入射面を基準として第1移動量を設定して照射点を合わせる必要がある場合とは異なり、甲1発明は、視認できるレーザ光入射面である面18に直接照射点を合わせれば良いから、当該レーザ光入射面を基準とした第1移動量を設定する必要性はない。
(イ)また、甲1第2図記載の技術的事項は、レンズ14を(A)位置に合わせて面16にレーザ光線を照射して溝23′を刻設し、その後に、レンズ14の位置を(B)位置に合わせて反対側の面18に溝23′を刻設するものであるが、面16に溝23′を刻設するときには照射する位置を面16に合わせるようにレンズ14を移動し、面18に溝23′を刻設するときには照射する位置を面18に合わせるようにレンズ14を移動させるのであって、それぞれの面に直接照射する位置を合わせるようにレンズ14を移動させるものであるから、レンズ14を(A)位置に移動し、その後(B)位置に移動するにあたり、レーザ光入射面のような特定の面を基準にした第1移動量及び第2移動量を設定する必要性はない。
(ウ)したがって、甲1発明に関し、上記(ア)よりレーザ光入射面(面18)を基準とした第1移動量を設定する動機は見出せないし、甲1第2図記載の技術的事項を契機としても上記(イ)よりレーザ光入射面(面18)を基準とした第1移動量及び第2移動量を設定する動機は見出せない。また、甲2の段落【0033】の記載により、甲2記載の技術的事項が基板の異なる厚さ位置をレーザー加工して複数のブレイク・ライン(加工変質部)を形成しても良いことが示唆されているとしても、第1移動量及び第2移動量を設定することまでが記載され、あるいは示唆されているものではない。したがって、甲1発明において、甲2記載の技術的事項を適用し、「加工対象物のレーザ光入射面を基準として」「第1移動量だけ」移動させた後、「加工対象物のレーザ光入射面を基準として」「第2移動量だけ」移動させることを、当業者が容易に想到するとはいえないし、上記(イ)のとおりレーザ光入射面のような特定の面を基準にした第1移動量及び第2移動量を設定する必要がなく、適宜選択することもないから設計的事項であるともいえない。
(エ)また、甲1発明は、レーザ光線により飛散蒸発するウエハー材に対処することを目的として半導体ウエハの片面(面18)上のみに溝を形成し、甲1第2図記載の技術的事項は、甲1発明より厚い半導体ウエハを切断することを目的として両面(面16、18)上に溝を形成するところ、甲1発明に、甲1第2図記載の技術的事項を適用して改変し、さらにこれらと課題が共通しない甲2記載の技術的事項(課題については上記(1)イ(イ)の記載を参照。)を適用して改変することは、いわゆる「多段階の改変(容易の容易)」に相当し、そのような多段階の改変が、当業者にとって容易であると評価するに足る根拠はない。
エ 相違点2についての判断
よって、相違点2に関し、甲1発明に対して、甲2記載の技術的事項を適用して、本件発明に至ることが容易であるということはできない。
4 甲8~甲9について
甲8~甲9(記載事項については、第6の8~9を参照。)は、請求書の第4の3(請求書第16~17ページ)で引用された相違点3に関するものであり、改めて検討しても、甲8は、「半導体ウェハーとしてのシリコンウェハは極めて一般的なものであること」を立証する趣旨で提出され、「シリコン(Si)はLSIの基幹材料」であることが記載されており、甲9は「シリコンは赤外線を透過するものであること」を立証する趣旨で提出され、「Si等は赤外線をよく透過させ、可視光では観察できない結晶内部の状態を見ることができる」ことが記載されているものの、相違点1、及び相違点2に関する事項は記載されていない。
5 小括
以上のとおりであるから、無効理由1について、相違点1、及び相違点2により、本件発明は、甲1発明、及び甲2記載の技術的事項、及び甲3~甲9記載の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件発明に係る特許は無効理由1には該当しないものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとは認められない。
第8 請求人の主張
以下、請求人の無効理由1に関する主張について検討する。
1 請求書及び弁駁書による主張
(1)請求人の主張内容
請求人は、請求書で本件発明と甲1発明について認定し、容易想到であるとした相違点1~相違点3(請求書の第4の3[第11~17ページ])のうち、相違点1、及び相違点2について、弁駁書においてさらに以下の主張をする。
ア 相違点1について(弁駁書第3の2(2)(2-1)[第9~15ページ])
(ア)甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機(弁駁書第3の2(2)(2-1)ア)
当業者は、蒸散物(飛散物)が「集光レンズ」に付着するとの周知の課題を解決するために、甲2に記載の技術を甲1発明に適用することに、容易に動機付けられる。
すなわち、甲1発明により、飛散・蒸発物が「素子の表面」に付着するという周知の課題(以下「第1の課題」という。)が一応解決できたとしても、飛散・蒸発物が「レンズの表面」に付着するという周知の課題(以下「第2の課題」という。)は未解決であり、甲1発明に、甲2に記載の技術を適用して、「切断の起点となる領域」を「半導体基板の内部」に位置する「加工変質部(改質領域)」とすることは、第1の課題を解決するという甲1発明の目的を維持したまま、さらに、未解決の第2の課題を解決するために、レーザ光線の集光点の位置を素子の表面から内部に移動させるだけであって、当業者の普通の創意工夫の範囲内のものである。
(イ)甲2に記載の技術(弁駁書第3の2(2)(2-1)イ)
甲2に記載の技術において基板に溝部を設けることを必須の構成と捉えるのは誤りである。
イ 相違点2について(弁駁書第3の2(2)(2-2)[第16~17ページ])
(ア)甲1(図2)の記載(弁駁書第16ページ下から9~1行)
甲1(図2)は、集光レンズ(14)の位置を変えて、半導体ウエハー(13)の厚さ方向に2つの切断の起点となる領域を切断予定ラインに沿って形成し、半導体ウエハー(13)を分割する構成を示唆しており、半導体ウエハー(13)内部の異なる厚さ位置に複数の切断の起点(加工変質部)を形成することで、切断分離がしやすくなることは自明である。
(イ)移動量の基準(弁駁書第17ページ第1~8行)
半導体ウエハー(13)の厚さ方向で第1及び第2の位置にレーザーの光学系の焦点を調整するために、第1移動量及び第2移動量だけ移動させる際に、どの面を基準として移動させるかは設計的事項である。
(2)主張に対する検討
ア 相違点1について
(ア)甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機について(上記(1)ア(ア))
上記第7の3(1)アで検討したとおり、甲1発明は、面上に溝を形成することを前提とするものであって、半導体ウエハー13の内部に改質領域を形成するものではないから、第1の課題が解決され、第2の課題が未解決であるとしても、半導体ウエハーの面上に溝を形成せずに切断予定ラインに沿って切断する着想をすることの動機は見出せない。
加えて、上記第7の3(1)イ(ウ)で検討したとおり、甲1発明と甲2記載の技術的事項の課題は異なるものであり、甲2には、第2の課題について、甲2記載の技術的事項により解決できることの記載や示唆もないから、第1の課題が解決され、第2の課題が未解決であるとしても、甲1発明を出発点として、第2の課題を解決するための手段として甲2記載の技術的事項を適用し、加工対象物(半導体ウエハー)の「内部」において、レーザ集光点の位置で「改質領域」を形成することが容易であるとはいえない。
また、第7の3(1)ウ(イ)~(ウ)で検討したとおり、甲2記載の技術的事項において、加工対象物は、切断予定ラインに沿った溝が形成されていることは必須であることから、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して、本件発明に到ることが容易であるとはいえない。そして、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用しても、加工対象物(半導体ウエハー)には、切断予定ラインに沿った溝も形成されたものとなって本件発明の構成要件Fを充足しないこととなるから、第1の課題及び第2の課題がいずれも周知の課題であり上記適用の動機付けになるとしても、あるいは甲2記載の技術的事項により、第1の課題及び第2の課題を解決できることが自明であるとしても、やはり、本件発明に至ることが容易とはいえない。
したがって、当該第2の課題が、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用する動機付けとなるとはいえないし、仮に、甲1発明が当該第2の課題を内在していたとしても本件発明を容易に想到し得ない。
(イ)甲2に記載の技術について(上記(1)ア(イ))
上記ア(イ)の主張については、上記第7の3(1)ウ(イ)で検討したとおり、甲2において加工対象物に切断予定ラインに沿った溝が形成されていることは必須であることが認められるものであるから、請求人の主張は採用することができない。
イ 相違点2について
(ア)甲1(図2)の記載について(上記(1)イ(ア))
上記(1)イ(ア)の主張については、第7の3(2)ウで検討したとおり、甲2記載の技術的事項が基板の異なる厚さ位置をレーザー加工して複数のブレイク・ライン(加工変質部)を形成しても良いことを示唆しているとしても、甲1発明において、レーザ光入射面を基準とした第1移動量及び第2移動量を設定する動機はなく、甲2記載の技術的事項もそのような設定をすることが記載され、あるいは示唆されているものではないから、甲1発明に、相違点2に関して甲2記載の技術的事項を適用して、本件発明に至ることが、当業者にとって容易であるとはいえないし、あるいは甲1第2図記載の技術的事項を契機としての甲2記載の技術的事項の適用はいわゆる「多段階の改変(容易の容易)」に相当し、そのような多段階の改変が、当業者にとって容易であると評価するに足る証拠はない。
(イ)移動量の基準について(上記(1)イ(イ))
上記(1)イ(イ)の主張については、第7の3(2)ウ(ア)~(ウ)で検討したとおり、甲1発明において、甲2記載の技術的事項を適用し、「加工対象物のレーザ光入射面を基準として」「第1移動量だけ」移動させた後、「加工対象物のレーザ光入射面を基準として」「第2移動量だけ」移動させることを、当業者が容易に想到するとはいえないし、レーザ光入射面のような特定の面を基準にした第1移動量及び第2移動量を設定する必要がなく、適宜選択することもないから設計的事項であるともいえない。
2 請求人陳述要領書による主張
(1)請求人の主張の概要
ア 甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用する動機(第2の1、第4~7ページ)
甲1発明が「半導体ウエハーの表面にレーザ光線を用いて溝を形成し、圧力を加えて微細なペレットに分割する技術」を前提としたものだとしても、当業者は、甲2に記載の半導体ウェハの内部にレーザの焦点をあててウェハを割断する技術を甲1発明に適用することに、容易に動機付けられる。
すなわち、甲1発明において、甲1第2図記載の技術的事項(第7の3(2)ア(イ)を参照。)のように、面18側から面16にレーザ光線を照射して半導体素子15間に溝を刻設すれば、実質的に半導体ウエハーの内部も破壊し、「レーザ光線による飛散物、蒸発物が生じてしまう」という「周知の課題」に直面するところ、甲24の1(「同じ長さのき裂が試験片の表面と内部に存在する場合には、表面き裂の破壊強度の方が低い」[第82ページ]等の記載を参照。)、及び甲24の2(「き裂が板の中央からずれると、左右の応力拡大係数は異なり、板縁に近いき裂の応力拡大係数の方が大きくなる」[第39ページ]等の記載を参照。)から導かれる「割断に関する技術常識」を踏まえれば、基板を切断するのに、表面のき裂と内部のき裂では、必要とする引張応力の強さが異なるだけで、内部のき裂(改質領域)も表面のき裂(溝)と同様に割断が可能であるから、当該「周知の課題」を解決するために、甲2記載の技術的事項を甲1発明に適用して、ウエハーの表面自体に溝を形成せずに、ウエハーの内部にレーザの焦点をあてて(改質領域を形成して)ウエハーを割断することをごく自然に想到する。
イ 甲1発明の認定(第2の2、第7~8ページ)
「甲1発明は、半導体ウエハーの表面にレーザ光線を用いて溝を形成し、圧力を加えて微細なペレットに分割する技術」を前提とすること自体、妥当ではない。
ウ 相違点1と相違点2の関連性(第2の3、第8ページ)
相違点1と相違点2をまとめて判断することは妥当でない。
エ 本件発明は進歩性を欠くこと(第4の2、第25~31ページ)
甲2の段落【0001】、【0005】~【0008】、【0010】~【0012】、【0022】~【0023】、【0028】~【0030】、【0032】の記載から、当業者は、甲2の加工対象物に溝部を設ける理由は、割断しやすくするために、切断する箇所の厚さを薄くするためであって、熱の影響がなければ板厚をあえて大きくしておく必要はないと理解するし、溝部を設けて板厚を薄くした部分を設ける必要もないことを理解するから、甲2から、表面に溝が形成されていない加工対象物の内部にレーザを照射して加工対象物を切断する技術を認定することができる。
したがって、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して本件発明を想到することができる。
(2)請求人陳述要領書による主張に対する検討
ア 甲1発明に甲2に記載の技術的事項を適用する動機について(上記(1)ア)
請求人は、面18側から面16にレーザ光線を照射して半導体素子15間に溝を形成すれば、実質的に半導体ウエハーの内部も破壊し、「レーザ光線による飛散物、蒸発物が生じてしまう」という「周知の課題」に直面することと、「割断に関する技術常識」を、甲2記載の技術的事項を甲1発明に適用して、ウエハーの表面自体に溝を形成せずに、ウエハーの内部にレーザの焦点をあてて(改質領域を形成して)ウエハーを割断することをごく自然に想到することの根拠とする。しかしながら、第7の3(1)アで検討したとおり、甲1発明は、半導体ウエハーの面上に溝を形成することを前提とし、その結果生じた飛散物、蒸発物による欠点に対処するものであるから、甲1発明において、ウエハーの表面自体に溝を形成せずに割断することをごく自然に想到することはなく、請求人の主張は採用することができない。
イ 甲1発明の認定について(上記(1)イ)
甲1発明は、構成要件A1の「半導体ウエハー13の半導体素子15が形成されている面16の反対側の面18に、半導体ウエハー13全体に圧力を加えて、微細なペレットに分割する起点となる溝23、23′を刻設するレーザ光線11を用いて半導体ウエハー13を微細なペレットに分割する加工装置」であるから、請求人の主張は当を得たものではない。
ウ 相違点1と相違点2の関連性について(上記イ(ウ))
上記第7においては、請求人の主張するとおり、相違点1と相違点2は分けて判断している。
エ 本件発明は進歩性を欠くことについて(上記イ(エ))
上記1(2)ア(イ)と同様に、上記第7の3(1)ウ(イ)で検討したとおり、甲2記載の技術的事項は、半導体ウエハー基板に切断予定ラインに沿った溝を形成することが必須であると認められるものであるから、請求人の主張は採用することができない。
3 請求人第2上申書(甲28)による主張
(1)請求人の主張の概要
ア 甲1発明(甲28の第18~24ページ)
割断に関する技術常識を踏まえれば、当業者は、ウエハーのその内部にレーザの焦点をあてる際、表面を破壊せずにウエハーを割断することを自然に想到し、甲1発明は加工物の表面自体に溝を形成しない発明を実質的に開示しているということができる。
イ 甲2発明(甲28の第25~30ページ)
甲2の【0019】~【0022】、【0033】、【0035】は、(少なくとも溝形成を必須としない、)半導体ウエハーの内部の任意の焦点に加工変質部を形成して割断する技術を開示している。
(2)請求人第2上申書(甲28)による主張に対する検討
ア 甲1発明について(上記(1)ア)
上記第7の3(1)アで検討したとおり、甲1発明は、面上に溝を形成することを前提とするものであって、半導体ウエハー13の内部に改質領域を形成するものではない。甲1の第2図の実施例についても、レーザ光線照射された面16からはウエハが飛散蒸発しており(上記第6の1(2)エ)、やはり溝が形成されていることは明らかであるから、面16を破壊せずにウエハーを割断するものでも、このように割断することを示唆するものでもなく、甲1発明は加工物の表面自体に溝を形成しない発明を実質的に開示しているという請求人の主張は採用できない。
イ 甲2発明について(上記(1)イ)
上記1(2)ア(イ)と同様に、上記第7の3(1)ウ(イ)で検討したとおり、甲2記載の技術的事項は、半導体ウエハー基板に切断予定ラインに沿った溝が形成されていることが必須であると認められるものであるから、請求人の主張は採用することができない。
4 請求人第3上申書による主張
(1)請求人の主張の概要
請求人は、請求人第3上申書により、甲2の記載内容から、飛散物が付着するとの課題及びそれを解決する手段が認識できることについて、甲2、甲29、及び甲30を参照して、以下の主張をする。
ア 甲2、甲29、及び甲30の記載事項(下線は請求人が付した。)
(ア)甲2の記載事項
「【0033】なお、レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは、その焦点となる照射部が選択的に飛翔する或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質部になると考えられる。また、本発明のブレイク・ラインは半導体ウエハーの溝部表面を除去しても良いし基板の溝部よりも内部側に加工変質部を形成させても良い。さらに、本発明は溝部近傍に形成されたレーザー加工によるブレイク・ラインに加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。」
(イ)甲29の記載事項
甲29は、甲2と同一出願人であり、かつ、発明の名称も同一であるとともに出願日や公開日も近接している特開平11-163403号公報である。
「【0049】実施例2では半導体ウエハーの片面側からレーザーにより基板表裏両面にスクライブ・ラインを形成することで、厚みがある窒化物半導体ウエハーでもスクライブ・ラインに沿って簡単に窒化物半導体素子を分割することが可能となる。また、溝の形成される部分が、サファイア基板までエッチングされているため、溝形成による窒化物半導体への損傷がより少なく分離させた後の窒化物半導体素子の信頼性を向上させることが可能である。特に、スクライブ・ラインが形成されるとき、レーザーの焦点がサファイア基板内部で結ばれていることから、半導体ウエハーを固定している、テーブル若しくは粘着性シートを損傷することなく加工が実現できる。また、レーザー照射による加工くずの発生もない。なお、全てをレーザー加工でなく溝の形成をダイサーで行っても本発明と同様に量産性良く窒化物半導体素子を形成することができる。」
(ウ)甲30の記載事項
甲30は、甲2の特許出願の分割出願である特願2002-329878における意見書である。
「本願発明の構成(c)(請求人注:「前記分離部内にレーザーを照射して、前記半導体ウエハー表面より内部側の該表面近傍に形成される前記レーザーの焦点にブレイク・ラインを形成する工程と、」の構成のこと)のように、レーザーの焦点を調整して、半導体ウエハーの内部を加工することにより、例えば引用文献3(請求人注:特開昭56-129340号公報のこと)や5(請求人注:特開昭50-124568号公報のこと)に記載されているようなレーザー切削加工により生じる飛抹や残渣により、半導体ウエハが汚染されることがありません。」
イ 請求人の主張の内容
請求人は、甲2に関し、甲2自体の記載から「レーザーをあてることにより飛翔物が生じる課題について、レーザをウエハーの内部に当てることで解決できることが理解できる」こと、甲29の記載から「レーザーの焦点を基板内部に結ぶことによって、レーザー照射による加工くず(飛翔物)の発生がないことが明瞭に記載されている」こと、甲30の記載から「レーザーの焦点を調整して半導体ウエハーの内部を加工する場合、レーザー切削加工により生じる飛抹や残渣により半導体ウエハーが汚染されることがない」ことを指摘する。
そして、加工対象物の内部にレーザを照射して加工対象物を切断する技術が開示されている甲2において、甲2、甲29、及び甲30の記載から「飛散物が付着するとの課題及びそれを解決する手段として、加工対象物の内部にレーザを照射して加工変質部を形成すべきことが記載されていることが理解できる」旨を説明し、甲1、甲2の記載に接した当業者であれば、甲1発明に、甲2記載の技術を適用し、本件発明の構成を想到することに動機付けられるから、本件特許は進歩性を欠き、無効であることを主張する。
(2)主張に対する検討
これに対して、既に第7の3(1)~(2)で検討したとおり、相違点1に関し、甲1発明にレーザ光線11の照射点の位置を加工対象物の内部に変更することの示唆はなく、あるいはその動機があるものともいえないし、甲1発明と甲2記載の技術的事項は、課題が異なることからも、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して本件発明に至ることが容易であるとはいえない。そして、相違点2に関し、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用することについて、その動機はなく、あるいは、甲1第2図記載の技術的事項を契機としての甲2記載の技術的事項の適用は、いわゆる「多段階の改変(容易の容易)」に相当する。
また、請求人の主張するとおり、加工対象物の内部にレーザを照射して加工対象物を切断する技術が開示されている甲2において、甲2、甲29、及び甲30の記載から「飛散物が付着するとの課題及びそれを解決する手段として、加工対象物の内部にレーザを照射して加工変質部を形成すべきことが記載されていることが理解できる」のだとしても、上記1(2)ア(ア)で説示したとおり、甲2記載の技術的事項において、加工対象物は、切断予定ラインに沿った溝が形成されていることは必須であるため、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用して、本件発明に到ることが容易であるとはいえない。そして、そして、甲1発明に甲2記載の技術的事項を適用しても、加工対象物(半導体ウエハー)には、切断予定ラインに沿った溝も形成されたものとなって本件発明の構成要件Fを充足しないこととなるから、やはり、本件発明に至ることが容易とはいえない。
5 小括
したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-800071