特許異議申立
2019-700967
カーボンナノチューブ分散液および非水電解質二次電池
- 審判番号
- 2019-700967
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-027424
- 登録番号
- 6521279
- 請求日
- 2019年11月29日
- 審決日
- 2021年10月12日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】戸田工業株式会社
- 【権利者代理人】前川 真貴子
- 【権利者代理人】安藤 順一
- 【異議申立人】小松 一枝
- 【異議申立人】前田 知子
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 日比野 隆治
- 審判官 末松 佳記
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.16 -YAA(C01B) / P1651.4 -YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第44条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第4号、特許法第29条の2、特許法第39条第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6521279号発明「カーボンナノチューブ分散液および非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6521279号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2~7〕について訂正することを認める。
特許第6521279号の請求項1、3~7に係る特許を維持する。
特許第6521279号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6521279号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成26年3月31日を出願日とする特願2014-73228号(原出願)の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づいて、平成30年2月19日に新たな特許出願としたものであって、特願2018-27424号として審査され、令和元年5月10日に特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、その全請求項(請求項1~7)に係る特許に対し、令和元年11月29日に特許異議申立人である小松一枝及び前田知子(以下、併せて「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 2年 1月31日付け:取消理由通知
同年 4月28日 :訂正請求書(方式上の補正あり)及び意見 書の提出(特許権者)
同年 7月10日 :意見書の提出(異議申立人)
同年10月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年12月 8日 :訂正請求書(方式上の補正あり)及び意見 書の提出(特許権者)
令和 3年 3月12日 :意見書の提出(異議申立人)
同年 5月11日付け:訂正拒絶理由通知
同年 6月19日 :手続補正書及び意見書の提出(特許権者)
なお、令和2年12月8日に訂正の請求がされたので、同年4月28日にした先の訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項に規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容(訂正事項)
令和2年12月8日にされた訂正の請求(その訂正請求書は令和3年6月19日に手続補正されているので、当該手続補正後の訂正を、以下、「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項2~7を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に記載された「請求項1または請求項2記載の」を、「請求項1記載の」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に記載された「請求項1~請求項3のいずれかに記載の」を、「請求項1又は請求項3記載の」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に記載された「請求項1~請求項4のいずれかに記載の」を、「請求項1又は請求項3~4のいずれかに記載の」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に記載された「請求項1~請求項4のいずれかに記載の」を、「請求項1又は請求項3~4のいずれかに記載の」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に記載された「請求項1~請求項6のいずれかに記載の」を、「請求項1又は請求項3~6のいずれかに記載の」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、単に本件訂正前の請求項2を削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、当該訂正事項1が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことも明らかであるから、同法同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
(2) 訂正事項2~6について
訂正事項2~6は、上記訂正事項1に係る請求項2の削除に伴い、請求項3~7における引用請求項の中から当該請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、当該訂正事項2~6が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことも明らかであるから、同法同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
3 小括
上記1、2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項2~7を訂正の単位として訂正するものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許権者の請求のとおり、本件訂正後の請求項〔2~7〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
上記第2のとおり、本件訂正の請求は認容し得るものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件訂正後の、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、併せて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
BET比表面積値が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値が2~110mPa・sであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
分散液中のカーボンナノチューブの長さを透過型電子顕微鏡画像から算出したカーボンナノチューブ長さd50が、0.5~2.0μmである請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
含有するカーボンナノチューブ粉末のC純度が90%以上である請求項1又は請求項3記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
分散媒が水であることを特徴とする請求項1又は請求項3~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
分散媒が非水系分散媒であることを特徴とする請求項1又は請求項3~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
請求項1又は請求項3~6のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液を用いた電極合剤を使用したことを特徴とする非水電解質二次電池。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1 取消理由の概要
令和2年1月31日及び同年10月6日付けで当審が通知した取消理由は、要するに、以下のとおりのものである。
(1) (サポート要件)設定登録時又は先の訂正後の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(特許法第113条第4号に該当)。
(2) (拡大先願)設定登録時又は先の訂正後の請求項1、4、6、7に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2012-260631号(特開2014-107191号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願に係る発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。
(3) (同日出願)設定登録時の請求項2~7に係る発明は、同一出願人が同日出願した特願2014-73228号(原出願。特許第6319564号として登録済み)に係る発明と同一と認められ、かつ、その出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、本件訂正前の請求項2~7に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものである(特許法第113条第2号に該当)。
2 取消理由(1)(サポート要件)について
(1) 具体的な指摘事項
取消理由(1)の根拠とした具体的な指摘事項は、要するに、本件発明は、(i)分散剤を必須の構成として有するものではないし、(ii)特に、本件発明1は、「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者の数値範囲のみを規定し、「カーボンナノチューブ分散液の動的光散乱法によって測定した分散粒子径d50」、「カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブ長さを透過型電子顕微鏡画像から算出したカーボンナノチューブ長さd50」及び「カーボンナノチューブ分散液中に含有されるカーボンナノチューブ粉末のC純度」の数値範囲(以下、これらの特性を、先の三者と区別するために「他の三者」ということがある。)を特定の数値範囲に規定するものではないところ、発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲は、実施例に記載されているような、分散剤を有する形態及び他の三者をも規定した形態であるというべきであるから、当該範囲を、本件発明は超えているというものである。
(2) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
以下、この観点に立って、改めてサポート要件適合性について検討をする。
(3) 発明の詳細な説明の記載について
まず、分散剤及び他の三者に着目しながら、発明の詳細な説明の記載を俯瞰してみると、当該記載から、次の事項を理解することができる。
ア リチウムイオン二次電池の電極活物質の導電助剤として、従来から使用されているアセチレンブラック等では、サイクル特性を飛躍的に向上させるほどの効果が得られていないのが現状であったため(【0003】)、カーボンナノチューブが注目され、なかでも径の細いものを使用することにより活物質間の導電経路の形成や充放電の際に起こる活物質の体積変化による容量劣化を防止する効果が期待されるものの、電極合剤中の分散が困難となるため、比較的径が太いものに限定されていたこと(【0004】)
イ 従来からカーボンナノチューブは透明導電材料として期待され、その分散液が知られていたところ(【0005】)、先行技術の分散液は、カーボンナノチューブの濃度が1%程度の低濃度であり、分散剤の添加量が非常に多量であったため、非水電解質二次電池電極活物質の導電助剤としては好ましくなかったこと(【0007】)
ウ 上記の問題点にかんがみ、本件発明は、非水電解質二次電池電極活物質の導電助剤として添加することができ、サイクル特性を飛躍的に向上させる効果を持ったカーボンナノチューブ分散液を得ることを技術的課題とすること(【0009】)
エ 上記課題を達成するために、本件発明1のように、「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者を特定の数値範囲に規定したこと(【0011】)
オ 「BET比表面積値」の数値範囲は、電極活物質に対する導電性付与効果(カーボンナノチューブ径が太すぎると導電経路の確保が不十分となることへの対処)及び分散性の観点から、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」の数値範囲は、電極活物質に対する必要十分な量の添加及び分散性の観点から、「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の数値範囲は、分散液の調製と電極作製の観点から、それぞれ規定されたものであること(【0022】~【0024】)
カ 本件発明において最も重要な点は、本件発明に係るカーボンナノチューブ分散液を非水電解質二次電池電極活物質の導電助剤として添加した場合、サイクル特性を飛躍的に向上させることができるという点であり、これは、活物質表面へのカーボンナノチューブ被覆による表面抵抗の低減、及び、充放電にともなう活物質の体積変化による容量劣化防止(活物質間の導電経路の維持確保)の効果によるものと考えられること(【0042】、【0043】)
キ 当該サイクル特性に関する作用効果は、各種実施例(いずれのカーボンナノチューブ分散液も分散剤を含有する。また、他の三者についても規定がある。)において、「1C率での充放電サイクルを60℃の恒温条件下で繰り返し、300サイクル目の放電容量値に対する初回放電容量値の割合(百分率)」(いわゆる高温サイクル特性と称される特殊な電池特性)として規定された「放電容量維持率」により評価され、その飛躍的な向上が確認されていること(【0063】~【0077】)
ク 分散剤については、「本発明において用いる分散剤は、分散媒の種類に応じて適宜選択する。水系分散媒の場合は、多糖類高分子を用いることが好ましい。」(【0031】)と説明され、さらに、分散液を得るための分散装置・分散方法について、「本発明に係るカーボンナノチューブ分散液を得るために使用可能な分散装置は、カーボンナノチューブ粉末、分散剤、および分散媒を含有する混合物を十分に混合・分散できる装置であれば特に限定されない。」(【0033】)、「上記にあげた分散装置を使用し、発振周波数、メディア粒子径、処理時間、処理流量、装置回転数、装置内圧力、処理温度などの分散条件を適宜選択することによって、本発明に係るカーボンナノチューブ分散液を得ることができる。」(【0034】)と説明されていること
ケ 他の三者については、「カーボンナノチューブ分散液の動的光散乱法によって測定した分散粒子径d50」及び「カーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブ長さを透過型電子顕微鏡画像から算出したカーボンナノチューブ長さd50」の数値範囲は、分散処理過程でカーボンナノチューブがダメージを受け、その繊維長が短くなりすぎることへの対応と、分散液中のカーボンナノチューブが大きな凝集体を形成し、分散不良となってしまうとの観点から、前者は「100~600nm」であることが好ましく(【0025】)、後者は「0.5~2.0μm」であることが好ましいこと(【0026】)、並びに、「カーボンナノチューブ分散液中に含有されるカーボンナノチューブ粉末のC純度」の数値範囲は、電極活物質に対する導電性付与効果が十分に得られなくなってしまうとの観点から、「90%以上」であることが好ましいこと(【0027】)
(4) 発明の詳細な説明の記載から、当業者において、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲について
発明の詳細な説明の記載から、上記(3)ウのとおり、本件発明は、非水電解質二次電池電極活物質の導電助剤として添加することができ、サイクル特性を飛躍的に向上させる効果を持ったカーボンナノチューブ分散液を得ることを技術的課題とするものであり、上記(3)エのとおり、当該課題を達成(解決)するためには、「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者を特定の数値範囲に規定することが重要であることを理解することができる。
そして、これら三者の数値範囲は、上記(3)オのとおり、従来の二律背反の問題点、すなわち、上記(3)イのとおり、従来の導電助剤において使用されていたカーボンナノチューブは、導電経路確保の観点からは径が細い方がよいものの、径が細いと分散性に難があるため、比較的径が太いものに限定されており、また、従来より知られているカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの濃度が低いものであったという問題点に対処し、径の細いカーボンナノチューブを高濃度で分散した分散液を得るための最適な数値範囲を規定したものであることが分かる。
さらに、上記課題に係るサイクル特性の飛躍的な向上に至る機序については、上記(3)カのとおり、活物質表面へのカーボンナノチューブ被覆による表面抵抗の低減、及び、充放電にともなう活物質の体積変化による容量劣化防止(活物質間の導電経路の維持確保)の効果によるものとおおよそ理解されるところ、前者の表面抵抗の低減は、「カーボンナノチューブの含有量」の最適化(特に下限値設定)などによりもたらされ、後者の容量劣化防止(導電経路の維持確保)は、「BET比表面積値」の最適化(特に下限値の設定)などによりもたらされるものと解することができる。また、当該課題に係るサイクル特性の飛躍的な向上の前提として、非水電解質二次電池電極活物質の導電助剤として添加することができるものでなければならないが、そのための分散性などを確保するために、上記三者の最適化が必要であったと解することができる。実際、上記(3)キのとおり、実施例の結果から、上記三者の最適化により、上記の課題が解決できることを認識することができる。
以上によれば、発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、上記三者が最適化されたカーボンナノチューブ分散液であれば、上記の課題を解決することができると認識できるというべきである。
他方、分散剤については、上記(3)クの説明に照らすと、分散の状況をみながら必要により添加すべきものと解するのが妥当であり、確かに多くの場合、これを必要とするかもしれないが、これを用いずとも分散装置や分散条件の選択によって適正に分散液を調製できると考えるのが合理的である。このような理解が正しいことは、令和2年4月28日付けの意見書に乙第1号証として添付された実験成績証明書(分散液に分散媒を添加せずとも、二次電池は良好なサイクル特性を示したことが記載されている。)や、後記3の先願明細書等の【0019】には、導電性付与剤(分散剤)が任意成分として記載されていることなどからも明らかである。そうである以上、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、当該分散媒が上記課題の解決に不可欠のものであるとは認識しないと考えるのが合理的である。
また、他の三者については、上記(3)ケの説明に照らすと、確かに本件発明の課題に影響を与える因子であるといえるものの、その程度は、本件発明1が規定する「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者ほどではないと解され、そのことは本件明細書に記載された実施例や比較例からも伺えるから(実施例4と比較例1の対比など、令和3年6月19日に特許権者が提出した意見書における釈明を斟酌した。)、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、当該他の三者についても上記課題の解決に不可欠のものであるとまでは認識しないと考えるのが合理的である。
(5) サポート要件適合性について
本件発明、すなわち、特許請求の範囲に記載された発明は、上記第3のとおりであり、上記三者が最適化されたものである。
一方、上記(4)のとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者において、上記三者が最適化されたカーボンナノチューブ分散液であれば、分散剤や他の三者に関する規定の有無にかかわらず、上記の課題が解決できると認識できるのであるから、そのように認識できる範囲内に、本件発明は存在するということができる。
したがって、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものと認められる。
(6) 小活
以上のとおりであるから、取消理由(1)(サポート要件)には、理由がない。
3 取消理由(2)(拡大先願)について
(1) 先願明細書等に記載された事項
特願2012-260631号(特開2014-107191号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の記載がある(なお、「・・・」は記載の省略を表す。以下同じ。)
ア 「【請求項1】
少なくともカーボンナノチューブ及び分散媒を含有するスラリーであって、スラリー中のカーボンナノチューブ含有量が1質量%以上20質量%以下、B形粘度計で測定する粘度が100 mPa・s以上5000mPa・s以下、グラインドゲージで測定する最大粒子径が20μm以下、かつ交流インピーダンス測定により得られる印加周波数2000Hzにおけるアドミッタンスの濃度依存性が30.0 μS/質量%以下であることを特徴とするカーボンナノチューブ分散スラリー。
・・・
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有スラリーを、少なくとも電極活物質及びバインダーと混合し、電極基板に塗布、乾燥することを特徴とするリチウムイオン二次電池の正極の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の製造方法により得られたリチウムイオン二次電池の正極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
イ 「【0018】
〔導電材〕
本発明では、導電材として、カーボンナノチューブを用いる。カーボンナノチューブは結晶子やストラクチャーが高度に発達しており導電性に優れているため、リチウムイオン電池の導電材として適しており、さらに、以下説明する本発明の所定の物性を有するスラリーとすることにより、低添加量で導電性能を発揮させることができ、電極スラリー中の活物質量を多く出来ることから性能向上が期待でき好適である。カーボンナノチューブのうち、特に直径が200nm以下、さらに多層カーボンナノチューブであるものが、上記の導電性能が特に優れたものを得るのに好適である。
【0019】
〔分散性付与剤〕
本発明のスラリーは、分散性付与剤を含有させることができる。ここで分散性付与剤とは、カーボンナノチューブが分散媒中に分散しやすくなる機能を有する物質であり、いわゆる分散剤として従来知られている物質を使用することができる。・・・
【0020】
〔カーボンナノチューブ分散スラリー〕
カーボンナノチューブを用いて本発明のスラリーを得る。なおここでスラリーとはカーボンナノチューブが液状の分散媒中に分散された状態のものをいう。分散媒としてはN-メチル-2-ピロリドンが好適である。
分散媒の含有量は、スラリーの70質量%未満では流動性に乏しく、ハンドリング性が低下する。少なくとも70質量%以上、好ましくは、80質量%以上がよい。
【0021】
〔濃度〕
スラリー中のカーボンナノチューブ含有量が1質量%以上20質量%以下、好ましくは3質量%以上15質量%以下とする。カーボンナノチューブ含有量が1質量%未満だとスラリー中の溶媒量が多くなるため塗布工程における乾燥工程に時間を要してしまう。またカーボンナノチューブ含有量が20質量%を超えるとカーボンナノチューブの分散が困難になる傾向があるということが挙げられる。
【0022】
〔スラリーの各物性間の関係〕
本発明のカーボンナノチューブ分散スラリーは、上述のように、特定の濃度範囲のカーボンナノチューブを含有する。さらに、粘度、アドミッタンスの濃度依存性という各物性を特定の範囲内とするが、これらは、スラリー中のカーボンナノチューブの分散状態を反映しており、互いに相関関係にあることが、本発明者らにより見出された。そして以下の物性の組み合わせを有するカーボンナノチューブ分散スラリーが、電池化した際に優れた性能を発揮することがわかった。
まず、第一の形態として、濃度及び粘度を特定の範囲内としたカーボンナノチューブ分散スラリーである。濃度及び炭素材料の最大粒子径を特定の範囲内としたカーボンナノチューブ分散スラリーである。さらに第三の形態として、濃度、アドミッタンスの濃度依存性を特定の範囲内としたカーボンナノチューブ分散スラリーである。以下、各物性について説明する。
【0023】
〔粘度〕
本発明のスラリーは、B形粘度計で測定する粘度が100 mPa・s以上5000mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以上3000mPa・s以下であることを特徴とする。上記の濃度範囲において、且つこの範囲の粘度となるように分散状態を調整することにより、電池化した際の性能が優れていることが見出された。また、この範囲より粘度が低い場合においては、電極板に塗布する電極ペーストの粘度が低くなりすぎるため塗布作業が困難となるという問題もある。
・・・
【0025】
〔アドミッタンスの濃度依存性〕
本発明のカーボンナノチューブ分散スラリーは、アドミッタンスの濃度依存性が30.0 μS/質量%以下、好ましくは5.0μS/質量%以下とする。炭素材料分散スラリーの性能は、炭素材料分散スラリーはリチウムイオン二次電池正極板内で均一な導電性を発揮するためには、炭素材料濃度の変化に対するアドミッタンス変化が小さいことが適していると考えられる。本発明者らの検討により、濃度依存性が30.0 μS/質量%以下、特に好ましくは5.0 μS/質量%以下で均一な導電性が発揮できることが判明した。
アドミッタンスの濃度依存性と炭素材料の分散状態との間に相関があり、上記のような好適な範囲のアドミッタンスの濃度依存性を得るには、分散状態を制御しなければならないことが判明した。すなわち、分散が十分でないと、電池性能が十分でない。これは、粗大粒子が存在するためと推測される。他方、意外にも過度に分散することによっても電池性能を阻害することが判明したのである。その理由は完全には明らかでないが、導電材であるカーボンナノチューブ同士のつながりが低下することによるものと本発明者らは推測している。
【0026】
本発明と同様に、カーボンナノチューブ等の炭素材料、ノニオン系高分子樹脂及び分散媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いたスラリーについて記載されている特許文献5、特許文献7では、配合処方及び分散方法について記述されているが、ここに記載されている条件に従うだけでは物性のコントロールが十分でなく、電池性能については予測できず、リチウムイオン電池にまで組み立てないと電池性能については分からない。これに対し、本発明で規定する分散体の状態での諸物性を測定すれば、電池性能を予測して分散状態を制御することができる。
すなわち、上記の濃度範囲で、粘度を上記の範囲としてかつ、アドミッタンスの濃度依存性を上記の範囲とすることで、電池化した際の電気特性が優れているのだと考えられる。」
ウ 「【実施例1】
【0030】
〔カーボンナノチューブ分散スラリーの製造1〕
N-メチル-2-ピロリドン95質量%に、分散性付与剤としてメチルセルロースポリマー1質量%を溶解させた。得られた溶液に、カーボンナノチューブとして「Baytubes C150P」(Bayer社製)5質量%を混合し、ビーズミルを用いて、凝集しているカーボンナノチューブを解砕しながら分散した。サンプルを取り出し、粘度測定、最大粒子径測定を行った結果、得られた粘度は280mPa・sであり、100mPa・sを超えていることを確認し、また最大粒子径は12.5μmであったため分散工程を終了した。得られたカーボンナノチューブ分散スラリーを「スラリー1」とする。
スラリー1は、最大粒子径は12.5 μm、粘度が280 mPa・sであり、最大粒子径が20μm以下、および粘度が100mPa・s以上、印加周波数2000Hzにおけるアドミッタンスの濃度依存性が30.0 μS/質量%以下の範囲に入っている。
・・・
【0034】
スラリー1~4の諸物性を表1に示す。これらの物性の評価方法は以下の通りである。
〔粘度の測定〕
粘度はJIS K7117-1に則して、B形粘度計を使用して測定した。
〔最大粒子径の測定〕
最大粒子径の測定はJIS K5600-2-5:1999に則して、グラインドゲージを使用して測定した。
【0035】
【表1】
[図:0001380918000001.jpg]
【0037】
〔アドミッタンスの測定〕
スラリー1~4を、N-メチル-2-ピロリドンで2倍希釈した炭素材料分散スラリー、4倍希釈した炭素材料分散スラリーを作製した。
これら2倍希釈スラリー、4倍希釈スラリーを用いて、これらの希釈スラリーを交流インピーダンス法により、印加周波数2000Hzにおける位相差及び、アドミッタンスを測定した。
・・・
【0044】
・・・表3は交流インピーダンス測定により得られたアドミッタンス[μS]の結果である。・・・
【0045】
【表3】
[図:0001380918000002.jpg]
」
エ 「【0046】
・・・以上から、リチウムイオン二次電池に使用し得る炭素材料スラリーの製造方法において、得られる炭素材料スラリーにおける、印加周波数が2000Hzにおけるアドミッタンスの炭素材料濃度依存性が30.0μS/質量%以下であり、かつ最大粒子径が20μm以下にするなどして、分散工程を規定することにより、得られる電池の性能を向上させ得る。また、例えばリチウムイオン二次電池に適用した場合に、繰り返し放充電時の放電容量維持率を向上させることができる。」
(2) 先願明細書等に記載された発明(先願発明1、2)
上記(1)のア~エの記載(特に【請求項1】、【0030】、【0034】、【0035】【表1】、【0045】【表3】を参酌した。)によれば、先願明細書等には、実施例1のカーボンナノチューブ分散スラリーとして、次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。
「カーボンナノチューブとしてのBaytubes C150P及び分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドンを含有するスラリーであって、前記スラリー中の前記カーボンナノチューブの含有量が5質量%であり、JIS K7117-1に則して、B形粘度計を使用して測定した粘度が280mPa・sであり、グラインドゲージで測定する最大粒子径が12.5μm 、かつ交流インピーダンス測定により得られる印加周波数2000Hzにおけるアドミッタンスの濃度依存性が4.40 μS/質量%である、カーボンナノチューブ分散スラリー。」
また、同記載(特に【請求項10】、【請求項11】を参酌した。)によれば、先願明細書等には、実施例1のカーボンナノチューブ分散スラリーを適用したリチウムイオン二次電池として、次の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されていると認められる。
「先願発明1のカーボンナノチューブ含有スラリーを、少なくとも電極活物質及びバインダーと混合し、電極基板に塗布、乾燥して得られたリチウムイオン二次電池の正極を有する、リチウムイオン二次電池。」
(3) 本件発明1について
ア 本件発明1と先願発明1との対比
本件発明1と先願発明1とを対比すると、先願発明1における「カーボンナノチューブとしてのBaytubes C150P」、「カーボンナノチューブ分散スラリー」は、それぞれ、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末」、「カーボンナノチューブ分散液」に相当するから、両者は、以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
カーボンナノチューブ粉末を含有した分散液である、カーボンナノチューブ分散液である点。
<相違点>
本件発明1は、「BET比表面積値が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値が2~110mPa・sである」という発明特定事項を備えているのに対し、先願発明1は、当該発明特定事項を備えていない点。
イ 相違点の検討
上記相違点について検討する。
(ア) まず、本件発明1において、上記相違点に係る発明特定事項、すなわち、「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者を特定の数値範囲に規定することの意義についてみる。
上記2(4)のとおり、これら三者の数値範囲は、従来の二律背反の問題点に対処し、径の細いカーボンナノチューブを高濃度で分散した分散液を得るための最適な数値範囲を規定したものであり、これにより、本件発明1に係るカーボンナノチューブ分散液を非水電解質二次電池電極活物質の導電助剤として添加した場合、サイクル特性を飛躍的に向上させることができるという作用効果をもたらすものである。
そうすると、当該相違点に係る本件発明1の発明特定事項は、上記の三者の規定を合わせ持つことに意義があり、これにより高温サイクル特性における飛躍的な向上という、顕著な作用効果を奏するものと解するのが相当である。
(イ) このような本件発明1に対し、先願発明1においては、カーボンナノチューブ粉末としてBaytubesC150Pが用いられているところ、当該カーボンナノチューブは、後記第5の2に記載した甲第7号証のTable5(p.50の右欄上段、摘記省略)によれば、比表面積210m2g-1のカーボンナノチューブとされている。この比表面積値の測定手法の詳細は不明であるが、常用のBET法により測定された値であると解するのが合理的であるから、先願発明1におけるカーボンナノチューブ粉末のBET比表面積の値は、本件発明1の規定を満足すると考えるのが相当である。
しかしながら、先願発明1に係るスラリーにおけるカーボンナノチューブ粉末の含有量は「5重量%」であって、本件発明1の規定から外れているし、粘度についてみても、先願発明1は、「JIS K7117-1に則して、B形粘度計を使用して測定した粘度が280mPa・s」であり、本件発明1の測定手法とは異なるため、本件発明1の粘度の規定を満足するものとただちに判断することはできない。
したがって、本件発明1と先願発明1が同一であるということはできない。
また、(i)先願明細書等の【0018】の導電材に関する記載をみても、カーボンナノチューブ粉末のBET比表面積に着目した記載はないし、同【0021】、【0023】に記載されたスラリー中のカーボンナノチューブ含有量及びスラリーの粘度に関する記載をみても、そこには、広範な数値範囲が記載されているにすぎないこと、及び、(ii)本件発明1は、上記(ア)のとおり、「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者すべてを所定の数値範囲に規定することにより、高温サイクル特性における飛躍的な向上という、顕著な作用効果を奏するものであることを考え合わせると、先願発明1において、本件発明1のように上記三者すべてを所定の数値範囲に規定することが、先願発明1を具体化する際の微差程度の事項であるとは言い難い。
したがって、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。
なお、上記の検討は、先願明細書等に記載された実施例1に着目したものであるが、他の実施例に着目しても同様である。
(4) 本件発明3~7について
本件発明3~6に係る分散液は、本件発明1に係る分散液の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明3~6は、先願発明1と同一であるとはいえない。
また、本件発明7に係る二次電池は、本件発明1に係る分散液を用いたものであり、他方、先願発明2に係る二次電池は、先願発明1のスラリーを用いたものであるところ、結局、本件発明7と先願発明2を対比すると、上記の相違点と同様の相違点が生じることとなるから、両者は同一であるとはいえない。
したがって、本件発明3~7についても、先願明細書等に記載された発明と同一であるということはできない。
(5) 小活
以上のとおりであるから、取消理由(2)には、理由がない。
4 取消理由(3)(同日出願)について
(1) 原出願に係る発明(同日発明)
同日出願にあたる特願2014-73228号は、本件特許に係る出願の原出願であり、既に特許第6319564号として登録されているところ、その特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(以下、各請求項に係る発明をまとめて「同日発明」という。)。
「【請求項1】
BET比表面積値が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を2~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値が2~110mPa・sであり、動的光散乱法によって測定した分散粒子径d50が100~600nmであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
分散液中のカーボンナノチューブの長さを透過型電子顕微鏡画像から算出したカーボンナノチューブ長さd50が、0.5~2.0μmである請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
含有するカーボンナノチューブ粉末のC純度が90%以上である請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
分散媒が水であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
分散媒が非水系分散媒であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液を用いた電極合剤を使用したことを特徴とする非水電解質二次電池。」
(2) 本件発明3~7ついて
上記(1)のとおり、同日発明は、「動的光散乱法によって測定した分散粒子径d50」に関する発明特定事項を有するものである。
これに対して、本件発明3~7は、当該発明特定事項を有しない。
したがって、本件発明3~7は、同日発明と同一であるとはいえない。
(3) 小活
以上のとおりであるから、取消理由(3)には、理由がない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 標記特許異議申立理由の概要
上記第4において検討した取消理由以外の特許異議申立理由は、概略、次のとおりである。
(1) 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~4及び6~7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第3~10号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第3、7、9及び10号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性欠如)
設定登録時の請求項1~4及び6~7に係る発明は、甲第3号証及び周知の技術事項(甲第4及び7号証)によれば、甲第3号証に記載された発明であり、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(甲第3号証を主たる証拠とする進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~4及び6~7に係る発明は、甲第3号証及び周知の技術事項(甲第4及び7号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5) 申立理由5(実施可能要件違反)
設定登録時の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(6) 申立理由6(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 異議申立人が提出した証拠一覧
甲第1号証:国際公開第2012/036172号
甲第2号証:特開2014-50780号公報
甲第3号証:特開2011-70908号公報
甲第4号証:Alain Peigney et.al.,“Specific surface area of
carbon Nanotubes and bundles of carbon nanotubes”,
Carbon, 2001, vol.39, pp.507-514
甲第5号証:国際公開第2013/085498号
甲第6号証:Cnano Home About News Product Market Technology
Contact
甲第7号証:Christopher M.White et.al.,“Characterisation of
Commercially CVD grown multi-walled carbon nanotubes
For paint applications”, Progress in Organic
Coatings, 90(2016), p.44-53
甲第8号証:Jing Sun et.al.,“Carbon Nanotube Transparent
Electrode”, Syntheses and Applications of Carbon
Nanotubes And Their Composites, Published: May 9th
2013, p.313-335
甲第9号証:東機産業株式会社「RE80型粘度計 取扱説明書」
甲第10号証:東機産業株式会社「R85形粘度計」
甲第11号証:特開2004-319186号公報
甲第12号証:和田徹也, 「二次電池導電剤としてのカーボンの材料
設計」, 粉砕, No.55(2012), p.58-62
なお、甲第1号証~甲第12号証を、以下では、それぞれ、「甲1」~「甲12」ということがある。
3 甲各号証の記載事項及び甲1~3発明
(1) 甲1の記載事項
ア 「[請求項1] 有機溶媒中に微細炭素繊維が分散された微細炭素繊維分散液において、下記一般式(1)・・・で表される重合体かなる高分子分散剤を含有していると共に、該分散液中に含まれ微細炭素繊維の凝集体の大きさが5μm以下であることを特徴とする微細炭素繊維分散液。
・・・
[請求項9] 0.2~100Pa・s(20℃)の粘度を有する請求項1記載の微細炭素繊維分散液。
[請求項10] リチウムイオン電池電極の形成に使用される請求項9に記載の微細炭素繊維分散液。
[請求項11] 負極又は正極用活物質が添加されている請求項10に記載の微細炭素繊維分散液。
・・・
[請求項14] 微細炭素分散液に負極又は正極用電極活物質が添加されており、0.2~100Pa・s(20℃)の粘度を有するリチウムイオン電池電極用ペースト。
・・・
[請求項17] 請求項14に記載のリチウムイオン電池電極用ペーストを塗布して得られるリチウムイオン電池用電極導電膜。
・・・
[請求項19] 請求項17に記載のリチウムイオン電池用電極導電膜を用いて得られるリチウムイオン電池。」(請求の範囲)
イ 「本発明は、有機溶媒中に微細炭素繊維が良好に分散・解繊され、かつ該分散・解繊状態が安定に維持されている微細炭素繊維分散液に関する。」([0001])
ウ 「・・・本発明の目的は、極めて高い凝集力を有し、凝集体となっている微細炭素繊維が、有機溶媒中において均一に分散・解繊されて凝集体のサイズが小さく抑制されており、かつ分散状態が安定に保持されている微細炭素繊維分散液を得ることにある。
・・・
上記課題を解決するため、発明者らは鋭意検討した結果、有機溶媒中における微細炭素繊維の凝集体を解繊し、均一に分散させるために、下記一般式(1)で表される化学構造を有する重合体が優れた微細炭素繊維用分散剤となることを見出し、本発明を完成するに至った。」([0022]~[0023])
エ 「<微細炭素繊維>
本発明において、微細炭素繊維としては、それ自体公知のものが使用される。例えば、単層、二層および多層の微細炭素繊維のいずれも、分散液の用途に応じて使用することができる。多くの用途において、多層の微細炭素繊維を用いることが好ましい。
上記のようにして種々の方法で得られる単層、二層或いは多層の微細炭素繊維の平均外径は、一般に、0.5~200nmであり、数cm程度の円相当径を有する凝集体の形で得られ、これを50~100μm程度の円相当径の凝集体にまで解砕乃至粉砕し、これを前述した高分子分散剤を用いて有機溶媒に分散せしめて、本発明の分散液を調製する。」([0046]~[0047])
オ 「実施例
・・・
<微細炭素繊維分散液の粘度測定>
微細炭素繊維分散液を、回転粘度計(MODEL RE100L、東機産業(株)製)を用い、20℃で粘度測定を行った。
・・・
また、以下の実験には、高分子分散剤、有機溶媒及び有機溶媒として、以下のものを用意した。
高分子分散剤:・・・積水化学工業(株)製エスレックB BL-S
有機溶媒:・・・N-メチル-2-ピロリドン(NMP)
・・・
<実施例1~13>
微細炭素繊維として、保土谷化学工業(株)製多層カーボンナノチューブ(NT-7K,平均繊維径40~80nm)及び(CT-12K、平均繊維径100~120nm)を用意した。
表1に示す有機溶媒A(g)に、表1に示す高分子分散剤B(g)及び界面活性剤C(g)を混合し、均一に溶解させた後、表1に示す量D(g)の上記微細炭素繊維を混合し、ビーズミル分散機を用いて分散処理を行い、微細炭素繊維を混合し、ビーズミル分散機を用いて分散処理を行い、微細炭素繊維分散液を得た。
尚、ビーズミル分散機としては、ダイノーミルMULTI LAB型((株)シンマルエンタープレイズ製)を用いた。
得られた分散液について、先に述べた方法により粘度を測定し、さらに分散性の評価及び該分散液から得られる塗膜の表面抵抗の測定を行い、その結果を表1に示した。
・・・
<比較例1~5>
高分子分散液および界面活性剤を添加せず、表1に示す条件(実施例1、3、5、7或いは9と同じ条件)で分散処理を行って微細炭素繊維分散液を調製し、実施例1~13と同様の測定を行い、その結果を表1に示した。・・・
[表1]
[図:0001380918000003.jpg]
上記の実験結果から、特定の高分子分散剤を用いて調製された本発明の微細炭素繊維分散液(実施例1~13)では、微細炭素繊維の凝集体のサイズが5μm以下の小さなレベルにまで解繊・分散されていることが判る。
・・・
さらに、微細炭素繊維の添加量が多い場合であっても、粘度が低いことが判る。
・・・
かかる高分子分散剤を使用せずに調製された微細炭素繊維分散液(比較例1~5)では、微細炭素繊維の凝集体は、5μm以下の小さなサイズにまで解繊されていない。また、分散液の粘度も本発明に比して高い。」 ([0077]~[0091])
(2) 甲1発明
ア 上記(1)イによれば、甲1には、有機溶媒中に微細炭素繊維が良好に分散・解繊され、かつ該分散・解繊状態が安定に維持されている微細炭素繊維分散液に関する発明が記載されていると認められる。
イ 当該微細炭素繊維分散液に関する発明の具体例として、例えば、上記(1)オによれば、有機溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)888gに、高分子分散剤としての積水化学工業(株)製エスレックB(BL-S)12.5gを混合し、均一に溶解させた後、微細炭素繊維としての保土谷化学工業(株)製多層カーボンナノチューブ(NT-7K、平均繊維径40~80nm)100gを混合し、ビーズミル分散機を用いて分散処理を行って得た、微細炭素繊維分散液であって、回転粘度計(MODEL RE100L、東機産業(株)製)を用いて、20℃で測定した粘度が6.4mPa・sである、実施例12の微細炭素繊維分散液が記載されていると認められる。
ウ 上記(1)アの[請求項19]などによれば、甲1には、上記微細炭素繊維分散液に負極又は正極用電極活物質が添加されたリチウムイオン電池電極用ペーストを塗布して得られるリチウムイオン電池用電極導電膜を用いて得られるリチウムイオン電池も記載されていると認められる。
エ 上記ア~ウによれば、具体例の一つである実施例12の微細炭素繊維分散液に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「有機溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)888gと、高分子分散剤としての積水化学工業(株)製エスレックB(BL-S)12.5gと、微細炭素繊維としての保土谷化学工業(株)製多層カーボンナノチューブ(NT-7K、平均繊維径40~80nm)100gとからなる、微細炭素繊維分散液であって、回転粘度計(MODEL RE100L、東機産業(株)製)を用いて、20℃で測定した粘度が6.4mPa・sである、微細炭素繊維分散液。」
また、実施例12の微細炭素繊維分散液を用いて得られるリチウムイオン電池に注目すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)も記載されていると認められる。
「甲1発明1の微細炭素繊維分散液に負極又は正極用電極活物質が添加されたリチウムイオン電池電極用ペーストを塗布して得られるリチウムイオン電池用電極導電膜を用いて得られるリチウムイオン電池。」
(3) 甲2の記載事項
ア 「【0001】
本発明は、ナノカーボン用分散剤に関する。さらに詳しくはフラーレンやカーボンナノチューブ等のナノサイズのカーボン粒子を、分散媒に均一に、かつ、容易に高濃度分散させるのに好適な分散剤に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の分散剤では分散性が十分ではなく、分散に時間を要したり、高濃度化できないという問題が発生する場合がある。すなわち、本発明の目的は、ナノカーボンを分散媒に均一、かつ、高濃度で容易に分散できる分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のナノカーボン用分散剤の特徴は、一般式(1)又は(2)で示される非イオン性界面活性剤を含有する点を要旨とする。」
ウ 「【0059】
本発明のナノカーボン用分散剤は、各種粒子の分散に適用できるが、ナノカーボンの分散に好適である。
ナノカーボンとしては、ナノサイズのカーボン粒子であれば特に限定はされず、フラーレン、CNT、ナノホーン、ナノファイバー等の炭素材料が含まれる。これらのナノカーボンは市場から容易に入手できる。
【0060】
これらのナノカーボンのうち、CNTの分散に最適である。CNTとしては、どのような製造方法(公知の製造方法としては、アーク放電法、CVD法、レーザー・アブレーション法等)で製造されたものにも最適である。CNTは、その層の構成数から、一層構造のシングルウォールカーボンナノチューブ(以下SWCNTと略す)、二層構造のダブルウォールカーボンナノチューブ(以下DWCNTと略す)、二層以上の構造のマルチウォールカーボンナノチューブ(以下MWCNT略す)等に分類されるが、本発明の分散剤はSWCNT、DWCNT、MWCNTのいずれのCNTにも適用できる。これらのうち、特にMWCNTの分散に適している。CNTは通常、直径数~数十nm、長さ1~500μmの大きさ(形状)を有しており、本発明の分散剤は上記の範囲であれば、いずれの大きさでも適用できる。」
エ 「【0075】
本発明のナノカーボン分散液は、各種用途に適用でき、たとえば、導電性を活用した電極等へ適用、強度や耐熱性の向上を目的とした各種樹脂・プラスチックやウレタンフォーム等への練り込むことへ適用、及び潤滑や耐摩耗性の向上を目的とした潤滑油等への添加による適用ができる。」
オ 「【実施例】
・・・
【0077】
<製造例1>
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、ジエチルアミン73部(1モル)及び水酸化カリウム0.07部を投入し、窒素置換後密閉して、減圧下(-0.097MPa)、攪拌しながら内容物を130℃に昇温した。内容物を撹拌下、エチレンオキサイド(EO)220部(5モル)を圧力が0.5MPa以下になるように調整しながら5時間かけて滴下した後、更に130℃で2時間攪拌(熟成)した。次いで90℃に冷却後、吸着処理剤(キョーワード600、協和化学工業(株)、「キョワード」は同社の登録商標である。)3部を投入し、90℃で1時間撹拌して水酸化カリウムを吸着処理した後、吸着処理剤をろ過により除去して、ジエチルアミン(EO)5モル付加体(b21-1)を得た。
【0078】
次いで、ジエチルアミン(EO)5モル付加体(b21-1)293部を同じ耐圧反応容器に投入し、水酸化カリウム15部を加え窒素置換後密閉し、80℃で30分撹拌混合した後、120℃に昇温し、減圧下で3時間脱水した。脱水後冷却し、攪拌下、70℃に温度を保ちながら塩化メチル51部を4時間かけて投入し、2時間攪拌(熟成)した後、減圧下120℃でさらに1時間脱気した。反応容器を常圧(大気圧)に戻した後、撹拌を続けながら100部の水を加え、80℃で撹拌したのち、水層部を除き、残りの油層にリン酸を加え中和した後、吸着処理剤(キョーワード600)3部を投入し、90℃で1時間撹拌して中和塩を吸着処理した後、吸着処理剤をろ過により除去して、ジエチルアミン(EO)5モル付加体の末端メチル化物(b11-1)を得た。
・・・
【0085】
<製造例5>
「ジエチルアミン73部(1モル)」、「水酸化カリウム0.07部」、「エチレンオキサイド(EO)220部(5モル)」及び「吸着処理剤(キョーワード600)3部」を、「ラウリルアミン93部(0.5モル)」、「水酸化カリウム0.1部」、「エチレンオキサイド(EO)616部(14モル)」及び「吸着処理剤(キョーワード600)7部」に変更したこと以外、製造例1と同様にして、ラウリルアミン(EO)28モル付加体(b22-3)を得た。
・・・
【0101】
<実施例1~34、比較例1~5>
表1~3に示した「一般式(1)又は(2)で示される非イオン性界面活性剤」及び「他の界面活性剤」を同表に示した使用量(部)で均一攪拌混合して、本発明の分散剤1~34を調製した。また、表4に示した分散剤を比較用の分散剤H1~H5とした。
そして、各分散剤と表1~4に示した使用量(部)の水とを均一混合して分散剤混合液1~34及び比較用の分散剤咬合液H1~H5を調製した後、各分散剤混合液と表1~4に示した使用量(部)のナノカーボン(CNT「NC-7000」Nanocyl社製)を均一混合して、それぞれ、予備分散液を調製した。各予備分散液をビーズミル(直径2mmのジルコニア製ビーズ、体積充填率80%、60分間、アシザワファインテック株式会社製AMR1、周速11.4m/s、35℃)にて、分散させて、それぞれ、本発明のナノカーボン分散液1~34及び比較用のナノカーボン分散液H1~H5を得た。各ナノカーボン分散液の分散状態、粘度、分散安定性について評価した結果を、表5に示した。
・・・
【0104】
【表3】
[図:0001380918000004.jpg]
・・・
【0109】
(2)粘度
分散液を25℃に温度調整した後、E型粘度計(RE80型、東機産業株式会社製)にて測定した。
・・・
【0111】
【表5】
[図:0001380918000005.jpg]
【0112】
表5から明らかなように、本発明の分散剤を用いたナノカーボン分散液は比較用の分散剤を用いたナノカーボン分散液に対して、分散性、粘度及び分散安定性に優れていた。」
(4) 甲2発明
ア 上記(3)アによれば、ナノカーボン用分散剤に関する発明が記載されていると認められる。
イ 当該ナノカーボン用分散剤に関する発明の具体例として、例えば、上記(3)オによれば、非イオン性界面活性剤b22-3(ラウリンアミン(EO)28モル付加体)10部と水75部とを均一混合して分散剤混合液を調製した後、ナノカーボン(CNT「NC-7000」Nanocyl社製)15部を均一混合して予備分散液を調製し、その予備分散液をビーズミルにて分散させて得た、ナノカーボン分散液29が実施例29として記載されており、そして、そのナノカーボン分散液29を25℃に温度調節した後、E型粘度計(RE80型、東機産業株式会社製)にて測定すると、そのナノカーボン分散液29の粘度は2900mPa・sであったとされている。
ウ 上記ナノカーボン分散液は、上記(3)エによれば、電極へ適用できるとされている。
エ 上記ア~ウの検討によれば、具体例の一つとして記載された実施例29に注目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
「非イオン性界面活性剤b22-3(ラウリンアミン(EO)28モル付加体)10部と水75部とナノカーボン(CNT「NC-7000」Nanocyl社製)15部とからなるナノカーボン分散液であって、E型粘度計(RE80型、東機産業株式会社製)にて25℃で測定した粘度が2900mPa・sであるナノカーボン分散液。」
また、実施例29のナノカーボン分散液を用いた電極に注目すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明2」という。)も記載されていると認められる。
「甲2発明1のナノカーボン分散液を用いた電極。」
(5) 甲3の記載事項
ア 「【請求項4】
導電材、分散剤および分散媒を含有し、
導電材が、平均外径が30nm以下であり、かつ、凝集せずに分散しているカーボンナノチューブであり、
前記分散剤が、非イオン性分散剤を含有することを特徴とする、導電材分散液。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの純度が、90~100%であることを特徴とする、請求項4に記載の導電材分散液。
【請求項6】
前記分散剤の溶解度パラメータと、前記分散媒の溶解度パラメータとの差が、2.0以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の導電材分散液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の導電材分散液、活物質およびバインダを含有することを特徴とする、電極ペースト。
・・・
【請求項11】
リチウムイオン電池の正極に用いられることを特徴とする、請求項7または10に記載の電極ペースト。」
イ 「【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の製造に好適である導電材分散液、電極ペーストおよび導電材被覆活物質に関する。」
ウ 「【0018】
・・・
カーボンナノチューブは、通常、略円筒形状をなした炭素結晶であり、その平均外径が、30nm以下、好ましくは、20nm以下、さらに好ましくは、15nm以下、通常、1nm以上、さらには、5nm以上である。カーボンナノチューブの平均外径が上記上限を超えると、分散性が低下する。
【0019】
そして、本発明において、カーボンナノチューブは、導電材分散液において、凝集せずに、1本ずつ独立して分散している。カーボンナノチューブが、凝集せずに1本ずつ独立して分散していないと、分散性が低下する。
さらに、カーボンナノチューブの純度は、例えば、90~100%、好ましくは、95~100%である。
【0020】
このようなカーボンナノチューブとして、具体的には、昭和電工社製VGCF-X(平均外径30nm)、ARKEMA社製C100(平均外径10-15nm)、U100(平均外径10-15nm高純度品)、Nanocyl社製NC7000(平均外径10nm)、NC2150、NC3100、BAYER社製BaytubesC150(平均外径13-16nm)、BaytubesC150P(平均外径13-16nm)、保土ヶ谷化学社製MWNT(平均外径40-90nm)などが挙げられる。」
エ 「【0035】
・・・本発明の導電材分散液および電極ペーストは、各成分を配合するのみの第1の方法と、活物質を導電材により一旦被覆し、その後、ペーストを調製する第2の方法との、2つの方法からそれぞれ調製することができる。
まず、第1の方法について詳述する。
第1の方法では、本発明の導電材分散液は、導電材、分散剤および分散媒を配合して、攪拌することにより、調製する。
・・・
【0039】
次いで、第1の方法において、電極ペーストを調製するには、上記した導電材分散液、活物質およびバインダを配合する。
各成分の配合割合は、活物質100重量部に対して、導電材分散液が、例えば、3~80重量部、好ましくは、6~40重量部である。
また、第1の方法では、電極ペーストを、導電材、分散剤、分散媒、活物質およびバインダを、同時または段階的に、配合することにより調製することもできる。」
オ 「【実施例】
【0059】
・・・実施例および比較例における各種測定値は、以下の方法から求めた。
粘度:BM型粘度計(VISCOMETER、TOKIMEC社製)を使用して、25℃にて測定した。粘度が8000mPa・s未満のものは、ローターNo.3を、粘度が8000mPa・s以上のものは、ローターNo.4を用いた。
・・・
【0060】
実施例1(第1の方法による調製)
ビーズミルに、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン17.5重量部、導電材としてのアセチレンブラック(平均一次粒子径25nm、pH9、純度99.99%)2重量部、および、分散剤としてのエチルヒドロキシエチルセルロース0.15重量部を投入し、表1に示す粘度および平均分散粒子径になるまで混練分散して、導電材分散液を調製した。
【0061】
次いで、正極活物質としてのセルシードC5H(LiCoO2、日本化学工業社製)100重量部を、導電材分散液に添加して混練分散し、さらに、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(KFポリマーL1120、クレハ社製)25重量部(純分3重量部)を添加して混練分散することにより、電極ペーストを調製した。その後、得られた電極ペーストから電極抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0062】
実施例2~8および比較例1~6(第1の方法による調製)
表1に示す配合処方に従って、実施例1と同様の方法により、実施例2~8および比較例1~6を調製し、電極抵抗を測定した。その結果を表1に示す。なお、カーボンナノチューブの混練分散では、ビーズミルを用いて、1本ずつ独立するまで分散させた。
【0063】
【表1】
[図:0001380918000006.jpg]
・・・
【0068】
なお、表1、表2中の成分の詳細は、下記の通りである。
PVP-K120:ポリビニルピロリドン、重量平均分子量300万、ISP社製
PVP-K90:ポリビニルピロリドン、重量平均分子量130万、ISP社製
・・・」
(6) 甲3発明
ア 上記(5)イによれば、甲3には、リチウムイオン電池の製造に好適である導電材分散液、電極ペースト及び導電材被覆活物質に関する発明が記載されていると認められる。
イ 上記リチウムイオン電池の製造に好適である導電材分散液に関する発明の具体例として、例えば、上記(5)オには、ビーズミルに、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン10重量部、導電剤としてのカーボンンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)1重量部、及び、分散剤としてのPVP-K120(ポリビニルピロピドン、重量平均分子量300万、ISP社製)1重量部を投入し、そのカーボンンナノチューブが1本ずつ独立するまで分散させて調製した、実施例7の導電材分散液であって、BM型粘度計(VISCOMETER、TOKIMEC社製)を使用して、25℃にて測定した粘度が7500mPa・sである、導電材分散液が記載されていると認められる。
ウ 上記(5)アによれば、上記導電材分散液、活物質及びバインダを含有する電極ペーストをリチウムイオン電池の正極に用いることも記載されていると認められる。
エ 上記ア~ウの検討によれば、具体例の一つとして記載された実施例7に注目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認められる。
「分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン10重量部、導電剤としてのカーボンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)1重量部、及び、分散剤としてのPVP-K120(ポリビニルピロピドン、重量平均分子量300万、ISP社製)1重量部からなる導電材分散液であって、BM型粘度計(VISCOMETER、TOKIMEC社製)を使用して、25℃にて測定した粘度が7500mPa・sである、導電材分散液。」
また、実施例7の導電材分散液、活物質及びバインダを含有する電極ペーストを正極に用いたリチウムイオン電池に注目すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると認められる。
「甲3発明1の導電材分散液、活物質及びバインダを含有する電極ペーストを正極に用いたリチウムイオン電池。」
(7) 甲4~12の記載事項
甲4~12には、要するに、以下の事項が記載されている。
すなわち、摘記は省略するが、甲4には、カーボンナノチューブの比表面積とそれらの直径及び層の数について示した図(図2(c)など。ただし、同図は、カーボンナノチューブは封止されているとし、その外表面のみを考慮するとか、その内径を0.7~10nmの範囲内とみなすなど、多くの仮定に基づいて計算されたもの)が、甲5~7には、シーナノテクノロジー社製、アルケマ社製、バイエル社製などの市販のカーボンナノチューブの物性が、甲8には、様々なカーボンナノチューブフィルムのシート抵抗-透過率特性曲線が、甲9、10には、東機産業株式会社製のRE80型及びRE85形粘度計の取扱説明書などが、甲11、12には、非水電解質二次電池におけるカーボンナノチューブのはたらきなどが、それぞれ記載されている。
4 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について
上記1に示した申立理由1、すなわち、本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第3~10号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の指摘について、以下検討をする。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明1との対比
甲1発明1における「微細炭素繊維としての保土谷化学工業(株)製多層カーボンナノチューブ(NT-7K、平均繊維径40~80nm)」、「微細炭素繊維分散液」は、それぞれ、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末」、「カーボンナノチューブ分散液」に相当し、また、甲1発明1における分散液は、有機溶媒888gと高分子分散剤12.5gとカーボンナノチューブ100gとからなり、カーボンナノチューブを、100/(888+12.5+100)×100≒10.0重量%含有しているため、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であ」るとの発明特定事項を備えている。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
「カーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であ」る、「カーボンナノチューブ分散液」である点。
<相違点1>
本件発明1は、「BET比表面積値が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値が2~110mPa・sである」という発明特定事項を備えているのに対し、甲1発明1は、当該発明特定事項を備えていない点。
イ 相違点1の検討
そこで、上記相違点1について検討する。
(ア) 当該相違点1に係る本件発明1の発明特定事項、すなわち、「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者の特定の数値範囲は、上記第4の3(3)イ(ア)において検討したとおり、従来の二律背反の問題点に対処し、径の細いカーボンナノチューブを高濃度で分散した分散液を得るための最適な数値範囲を規定したものであり、これら三者の規定を合わせ持つことにより、高温サイクル特性における飛躍的な向上という、顕著な作用効果を奏するものということができる。
(イ) このような本件発明1の分散液に対して、甲1発明1の分散液は、特定の高分子分散剤を用いることを特徴とするものであって、そこで使用するカーボンナノチューブ粉末のBET比表面積値に着目したものではない。もとより、甲1発明1において使用されているカーボンナノチューブ粉末「NT-7K」のBET比表面積値が本件発明1の規定を満足することを示す証拠もない(甲1に記載された他のカーボンナノチューブ粉末についても同じ。)。そのため、甲1には、当該BET比表面積値を調整することを動機付ける記載を認めることはできないから、他の証拠(例えは、市販のカーボンナノチューブの物性が記載された甲7など)に、本件発明1のBET比表面積値の規定を満足するカーボンナノチューブ粉末が存在するとしても、甲1発明1において、当該カーボンナノチューブ粉末を採用すること、その上さらに、その含有量及び分散液の粘度を本件発明1の規定値内とすることは、当業者といえども容易に想到することはできないというべきである。
そして、本件発明1は、上記(ア)のとおり、当該相違点1に係る「BET比表面積値」、「カーボンナノチューブ粉末の含有量」及び「温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値」の三者を特定の数値範囲に規定することにより、高温サイクル特性における飛躍的な向上という、顕著な作用効果を奏するものである。
ウ 以上によれば、本件発明1は、当業者が甲1発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
エ なお、上記の検討は、甲1に記載された実施例12に着目したものであるが、他の実施例に着目しても同様である。この点は、後記申立理由2~4においても同様である。
(2) 本件発明3、4、6、7について
本件発明3、4、6は、本件発明1の発明特定事項をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様の理由により、当業者が甲1発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。また、本件発明7は、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液を具備する非水電解二次電池の発明であり、甲1発明2は、甲1発明1の分散液を具備するリチウムイオン電池とであるから、本件発明7と甲1発明2を対比しても、上記の相違点1と同様の相違点が生じるから、本件発明7も、当業者が甲1発明2に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、申立理由1には、理由がない。
5 申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性欠如)について
上記1に示した申立理由2、すなわち、本件発明は、甲第2号証に記載された発明及び周知の技術事項(甲第3、7、9及び10号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の指摘について、以下検討をする。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明1との対比
甲2発明1における「ナノカーボン(CNT「NC-7000」Nanocyl社製)」、「ナノカーボン分散液」は、それぞれ、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末」、「カーボンナノチューブ分散液」に相当し、また、甲2発明1における分散液は、非イオン性界面活性剤b22-3(ラウリンアミン(EO)28モル付加体)10部と水75部とナノカーボン(CNT「NC-7000」Nanocyl社製)15部とからなり、カーボンナノチューブを、15/(10+75+15)×100=15重量%含有しているため、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であ」るとの発明特定事項を備えているものの、当該カーボンナノチューブの詳細は不明である。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
「カーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であ」る、「カーボンナノチューブ分散液」である点。
<相違点2>
本件発明1は、「BET比表面積値が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値が2~110mPa・sである」という発明特定事項を備えているのに対し、甲2発明1は、当該発明特定事項を備えていない点。
イ 相違点2の検討
当該相違点2は、申立理由1において検討した相違点1と同じ事項であるところ、甲2発明1の分散液も、特定の分散剤を用いることを特徴とするものであって、そこで使用するカーボンナノチューブ粉末のBET比表面積値に着目したものではないし、もとより、甲2発明1において使用されているカーボンナノチューブ粉末「NC-7000」のBET比表面積値が本件発明1の規定を満足することを示す証拠もないから、上記申立理由1と状況は同じである。
そうすると、上記相違点1についての検討と同様、当該相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、いずれの証拠を参酌しても容易想到の事項ということができないというほかないから、本件発明1は、当業者が甲2発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(2) 本件発明3~7について
本件発明3~7についても、上記申立理由1について検討した上記4(2)と同様、当業者が甲2発明1あるいは甲2発明2に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、申立理由1には、理由がない。
6 申立理由3、4(甲第3号証を主たる証拠とする新規性・進歩性欠如)について
上記1に示した申立理由3、4、すなわち、本件発明は、甲第3号証及び周知の技術事項(甲4及び甲7)によれば、甲第3号証に記載された発明である旨の指摘、及び、本件発明は、甲第3号証及び周知の技術事項(甲4及び甲7)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の指摘について、以下に検討をする。
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明1との対比
甲3発明1における「導電剤としてのカーボンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)」、「導電材分散液」は、それぞれ、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末」、「カーボンナノチューブ分散液」に相当し、また、甲3発明1における分散液は、分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン10重量部と導電剤としてのカーボンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)1重量部と分散剤としてのPVP-K120(ポリビニルピロピドン、重量平均分子量300万、ISP社製)1重量部からなり、カーボンナノチューブを、1/(10+1+1)×100≒8.3重量%含有しているため、本件発明1における「カーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であ」るとの発明特定事項を備えているものの、当該カーボンナノチューブの詳細は不明である。
してみると、両者は、以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
<一致点>
「カーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であ」る、「カーボンナノチューブ分散液」である点。
<相違点3>
本件発明1は、「BET比表面積値が70~250m2/gのカーボンナノチューブ粉末を5.01~15重量%含有した分散液であって、温度25℃、ずり速度 383s-1における粘度値が2~110mPa・sである」という発明特定事項を備えているのに対し、甲3発明1は、当該発明特定事項を備えていない点。
イ 相違点3の検討
当該相違点3は、申立理由1において検討した相違点1と同じ事項であるところ、甲3発明1の分散液も、特定の分散剤を用いることを特徴とするものであって、そこで使用するカーボンナノチューブ粉末のBET比表面積値に着目したものではないし、もとより、甲3発明1において使用されているカーボンナノチューブ粉末「カーボンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)」のBET比表面積値が本件発明1の規定を満足することを示す証拠もないから、上記申立理由1と状況は同じである。
そうすると、上記相違点1についての検討と同様、当該相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、いずれの証拠を参酌しても容易想到の事項ということができないというほかないから、本件発明1は、当業者が甲3発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
なお、異議申立人は、甲3発明1における上記「カーボンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)」について、甲4の図2(c)(摘記省略)からみて、BET比表面積は70~250m2/gである旨主張するが、同図における比表面積の計算は、多くの仮定を前提としたものであって(例えば、カーボンナノチューブは封止されているとし、その外表面のみを考慮するとか、その内径を0.7~10nmの範囲内とみなすなど)、カーボンナノチューブの直径と比表面積との一般的な相関関係を示すものではない。また、当該甲3発明1のカーボンナノチューブの商品名は明らかにされておらず、甲3の「このようなカーボンナノチューブとして、具体的には、昭和電工社製VGCF-X(平均外径30nm)、ARKEMA社製C100(平均外径10-15nm)、U100(平均外径10-15nm高純度品)、Nanocyl社製NC7000(平均外径10nm)、NC2150、NC3100、BAYER社製BaytubesC150(平均外径13-16nm)、BaytubesC150P(平均外径13-16nm)、保土ヶ谷化学社製MWNT(平均外径40-90nm)などが挙げられる。」(【0020】)との記載を参照しても、当該甲3発明1のカーボンナノチューブに該当し得るものは複数想定され、その商品名は特定することはできないから、結局、そのBET比表面積値を特定することもできない。それらを併せ考えると、甲3発明1における「カーボンナノチューブ(平均外径15nm、純度97%)」のBET比表面積は不明であると言わざるを得ないから、異議申立人の上記主張を採用することはできない。
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明とは認められず、また、当業者が甲3発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとも認められない。
(2) 本件発明3~7について
本件発明3~7についても同様に甲3に記載された発明であるとはいえないし、上記申立理由1について検討した上記4(2)と同様、当業者が甲3発明1あるいは甲3発明2に基づいて容易に発明をすることができたものとも認められない。
(3) 小括
以上のとおりであるから、申立理由3には、理由がない。
7 申立理由5、6(実施可能要件違反・サポート要件違反)について
異議申立人が主張する、実施可能要件違反及びサポート要件違反についての具体的な指摘事項は、おおよそ次のとおりである。
すなわち、本件発明の分散液として実施例によって裏付けられているのは、カーボンナノチューブと組み合わせる分散媒や分散剤として特定量・特定の種類のものを組み合わせ、特定の分散処理を行ったもののみであり、また、本件発明が規定するBET比表面積値及び粘度の数値範囲の一部にすぎないから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明を実施可能なように記載されていないし、当該実施例を特許請求の範囲まで拡張ないし一般化することはできない、というものである。
しかしながら、当該主張は、要するに、発明の詳細な説明に記載された実施例は、本件発明のごく一部のものにすぎない、ということのみを実施可能要件違反及びサポート要件違反違の根拠とするものであり、実施可能でないとする理由や拡張ないし一般化できないとする理由は明らかでない。また、発明の詳細な説明には、必ずしも本件発明を網羅する、子細にわたる実施例が要求されるわけでもない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例が、本件発明の一部にすぎないことのみを理由とする上記主張を採用して、ただちに実施可能要件違反及びサポート要件違反とすることはできない。
加えて、上記第4の2において検討したとおり、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本件発明が規定する上記三者の数値範囲を規定することにより、上記の課題をおおよそ解決できると認識できるのであり、このことは、特定の分散剤の存在などに左右されるわけではない。また、本件発明は分散液である以上、なにがしかの分散媒を有することは明らかであるところ、当該分散媒の含有量や種類が、上記の解決に大きく寄与するとする根拠も見当たらない。分散処理の手法についても同様である。これらに照らすと、本件発明が、実施例に供された特定の分散媒、分散剤、分散処理、BET比表面積値及び粘度とは異なるものを含むものであったとしても、それによってただちにサポート要件違反に係る不備が生じるとはいえない。
また、本件発明においては上記三者の数値設定が重要であって、分散媒の種類などのその他の事項については当業者による相応の設計変更を行っても、実施例と同等の効果を奏するものが実現可能と解するのが相当である上、特定の分散媒等によって構成された実施例を適宜変更して所望の性状のものを製造することも、当業者が普通に行い得ることであって、特段、本件発明に属する実施例以外のものが製造できないとする理由も見当たらないから、実施可能要件に係る不備が存するものとも認められない。
したがって、申立理由5、6には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、上記取消理由及び申立理由によっては、本件請求項1、3~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかにこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、本件訂正により当該請求項2は削除され、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700967