特許異議申立
2019-700949
電子レンジ加熱食品用容器
- 審判番号
- 2019-700949
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-215835
- 登録番号
- 6522714
- 請求日
- 2019年11月26日
- 審決日
- 2020年12月24日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】アテナ工業株式会社
- 【権利者代理人】後藤 憲秋
- 【権利者代理人】加藤 大輝
- 【異議申立人】豊田 敦子
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 孝明
- 審判官 井上 茂夫
- 審判官 久保 克彦
- 分類
- P1651.121-ZAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6522714号発明「電子レンジ加熱食品用容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6522714号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
特許第6522714号の請求項1に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6522714号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成27年10月28日に出願した特願2015-211834号(以下「原出願」という。)の一部を平成29年11月8日に新たな特許出願としたものであって、令和1年5月10日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報令和1年5月29日発行)、その後、その特許について、令和1年11月26日に特許異議申立人豊田敦子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和2年2月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和2年3月23日に特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、令和2年6月4日に申立人から意見書が提出され、令和2年7月21日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である令和2年9月16日に特許権者から意見書が提出され、令和2年9月24日及び同年10月16日に申立人から上申書が提出されたものである。
第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6522714号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のとおり訂正するものである(なお、訂正箇所には、下線を付した。)。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、
「複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された
「複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、
「複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の願書に添付した明細書の段落【0011】に記載された
「複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、」(2箇所)を
「複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、」に訂正し、
同じく、「前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、
「前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」に訂正し、
さらに、同じく「前記排気細孔がレーザー光線照射による穿設である」を「前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」に訂正する。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が、「異物混入防止のための」ものであると限定し、「前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」を、「前記排気細孔はレーザー光線照射孔である」と製造方法を含まない記載とするものであり、それぞれ、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0005】に、「U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部の排気効率は良好である。ところが、水蒸気の排気が良好ということは、それだけ、舌片状の開口部からの異物侵入のおそれも増す。そのために、この場合、舌片状の開口部を塞ぐ封止テープが貼付されることがある。さらには、舌片状の開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられる。」と、排気のための開口部を塞ぐ部材が異物混入防止のためであると記載されていることから、訂正事項1の「異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて」は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
また、同じく段落【0023】に、「蓋体部10の蓋面部11に排気孔群20を構成する個々の排気細孔21に際し、その貫通のための加工方法は適宜であり、例えば、針刺しやドリル等である。しかし、これらの物理的な加工方法の場合、時間を多く要することに加え、十分な加工精度が得られない等の点が挙げられる。また、孔形成に際し、微粉末の発生の問題も払拭できず、事後の洗浄の手間も必要となる。そこで、簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設するべく、レーザー光線の照射が用いられる。」と記載され、排気細孔はレーザー光線を照射して貫通した孔であるから、訂正事項1の「排気細孔はレーザー光線照射孔である」は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ また、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」について、その用途を限定し、さらに、訂正前に「前記排気細孔はレーザー光線照射により穿設されている」には、製造方法に係る「穿設」という用語が含まれていたものを、「穿設」により得られる構造として「孔」と訂正するものであるから、「物」の発明として、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2及び訂正事項3について
訂正事項2及び訂正事項3は、訂正事項1で特許請求の範囲の請求項1の記載を訂正するのに伴い、明細書の記載を、請求項1の記載と整合させるために訂正するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
3.訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められたから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって、
前記蓋体部の蓋面部に凹面部及び前記凹面部を取り囲むように蓋面上周壁部が形成されており、
前記凹面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、
前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、
前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、
前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、
かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である
ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器。」
2.取消理由の要旨
本件発明に係る特許に対して、令和2年7月21日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《引用刊行物》
甲1:特開平7-237658号公報
甲3:意匠登録第1447685号公報
甲4:意匠登録第1462433号公報
甲6:特開平11-11543号公報
甲8:特開2012-1265号公報
3.当審の判断
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 周壁の内側に被嵌合部を有する容器本体と上記被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなる合成樹脂製の食品容器において、上記蓋体上面の少なくとも一部を凹部とし、この凹部内に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けたことを特徴とする食品容器。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、弁当、惣菜その他の食品収納に好適であり、具体的には圧空、真空成形等のサーモフォーミング法により成形された蓋付きの食品容器に関する。」
「【0002】
【従来の技術】従来のこの種食品容器として、図8(A)に示す構造のものが知られている。これは、容器本体1の周壁の内側上部に、段部2とこの段部2から容器内方に傾斜して立ち上げた傾斜面3と外方へ折り返し形成された縁部4とからなる被嵌合部5を設け、この被嵌合部5に蓋体6の周縁折曲部7を密接に圧嵌し、収納した食品の液や汁の漏出が防止されるようになっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来構造の食品容器は、密封性に優れ、液漏れを効果的に防止できるものの、容器内部に空気を密封するため周縁折曲部7が被嵌合部5に嵌入し難く、また、電子レンジ等で容器を加熱したときに、密封された空気が加熱膨張して蓋体6を容器本体1から浮き上がらせてしまうことがあった。
【0004】これを解決する方法として、図8(B)に示すように、蓋体6の頂部に小孔8を穿設し、この小孔8から膨張空気や水蒸気を容器外部に排出させる方法が考えられる。しかし、この方法によると、蓋体6にラベルLを貼ったり、容器全体を塩化ビニル、ポリプロピレン等のストレッチフィルムFで包被したりしたときに、小孔8を閉塞させやすく、かかる状態で容器を加熱すると、容器に密封された膨張空気が小孔8から排出できず、容器を圧迫変形させ、蓋体6が弾けて外れ、場合によっては収納物の一部を飛散させてしまう等の欠点があった。
【0005】本発明は、従来の蓋構造及びその解決方法における上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い密封性を維持しつつ液漏れを効果的に防止できると共に、電子レンジ等による加熱時や高温に熱せられた食品収納時にも、容器内の膨張空気を効率的に排出し、容器を変形させることのない食品容器を提供することにある。」
「【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図面により説明する。図1乃至図5において、9は容器本体、10は蓋体であり、何れも圧空、真空成形等のサーモフォーミング法により、夫々の周縁が図8に示す従来例と同様な内嵌合構成で平面視略円形の嵌合部形状に成形されている。両者の嵌合は、蓋体10の周縁が容器本体9の外側に被るように嵌合する構成や、上下に重合して嵌合する構成のものでもよく、また平面視楕円状等に成形してあるものでもよい。
【0010】蓋体10の上面中央部には、当該蓋面10aに貼着される任意大きさのラベルLよりも小寸法の凹部11が、蓋面10aの頂部から適宜の深さ凹ませて形成され、この凹部11の底面には蓋体10の表裏を貫通するピンホール状の小孔12が穿設されている。小孔12は、容器内の加熱状態の空気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ、例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数形成される。この小孔12は、例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができるが、孔を空けるときに蓋内面側から外面側へ向かって空けることがより好ましい。また、凹部11及び小孔12を設ける位置は、容器が傾いても液に浸りにくい位置として蓋面10aの中央部付近が好ましいが、この範囲に限定するものではない。」
「【0017】図6はストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを貼着する場合の本発明の実施例を示しており、これは上記実施例と同様の嵌合構成を有する蓋体16の蓋面16aに星型に凹んだ凹部17を形成し、この凹部17の底部に小孔18を穿設したものである。図中、破線はラベルLを示しているが、このようにラベルLを貼ったときに凹部17の一部が容器表面に露出していれば、容器加熱時に膨張空気をここから容器外部に排出し得(同図(B)参照)、容器内部の気圧を一定に保つことができる。なお、凹部17は、当該容器に使用するラベルLよりも大きく形成し、その形状は任意である。」
「【0019】
【発明の効果】以上、本発明によれば、蓋面に凹部を形成し、この凹部の底部に蓋体の表裏を貫通する小孔若しくは切り込み片を設けるようにしたので、蓋面にラベルを貼着しても小孔や切り込み片が閉塞することはなく、容器内外を常に連通させることができる。・・・・従って、容器加熱時や高温の食品等の収納時に、容器内部で膨張した空気や水蒸気を適宜外部に排出し得、容器内部の気圧を加熱冷却状態に関わらず一定に保つことができ、容器を圧迫変形させることなく、容器本体と蓋体との確実な嵌合状態を維持することができる。」
「図6
[図:0001383213000001.jpg]
」
イ 上記記載からみて、甲1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電子レンジ等による加熱のための食品を収容する容器本体と、容器本体の周壁の内側の被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなり、蓋体の蓋面に凹部を形成し、この凹部の底部に、容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ、例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成した合成樹脂製の食品容器において、ストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを、凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した、電子レンジ等による加熱に用いる食品容器。」
(2)本件発明について
ア 本件発明と引用発明を対比すると、引用発明の「電子レンジ等による加熱のための食品」、「容器本体」、「容器本体の周壁の内側の被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体」、「合成樹脂製の食品容器」、「蓋体の蓋面」、「凹部の底部」、「電子レンジ等による加熱に用いる食品容器」は、それぞれ、本件発明の「電子レンジ加熱のための食品」、「容器本体部」、「容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部」、「蓋嵌合容器」、「蓋体部の蓋面部」、「凹面部」、「電子レンジ加熱食品用容器」に相当する。
また、引用発明の「この凹部の底部に、容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ、例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成した合成樹脂製の食品容器において、ストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを、凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した」ことと、本件発明の「前記凹面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である」こととは、引用発明の食品容器が収容する食品には、スープなどの液状の食品も想定され、そのような液状の食品からは、加熱時に水蒸気が発生することは明らかであるから、上記相当関係を踏まえ、本件発明の用語で記載すると、「凹面部」には「容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の孔が形成されている」という限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明と引用発明とは、
「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と、前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって、
前記蓋体部の蓋面部に凹面部が形成されており、
前記凹面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の孔が形成されている、
電子レンジ加熱食品用容器。」である点で一致し、以下の点で相違する。
《相違点1》
本件発明が「前記凹面部を取り囲むように蓋面上周壁部が形成」されているのに対して、引用発明は、そのような周壁部を備えていない点。
《相違点2》
本件発明の電子レンジ加熱食品用容器が、「前記凹面部には、前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が、異物混入防止のための、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに、前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり、前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり、かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm2である」のに対し、
引用発明の電子レンジ等による加熱に用いる食品容器は、「この凹部の底部に、容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ、例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成」し、「ストレッチフィルムFで容器を包被せず、ラベルLのみを、凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した」ものである点。
イ 上記相違点1について検討する。
蓋嵌合容器の蓋体部の蓋面上に周壁部を形成することは、従来より周知の技術(例えば、甲3(【使用状態を示す参考縮小斜視図】)、甲4(【使用状態を示す参考縮小斜視図】)、登録実用新案第3159788号公報(内側環状補強部24)参照。)であるから、蓋体の補強等のために、甲1発明の凹面部を囲むように周壁部を形成することは、周知技術の単なる付加にすぎず、当業者が容易に想到し得たものである。
(甲3の【使用状態を示す参考縮小斜視図】)
[図:0001383213000002.jpg]
(甲4の【使用状態を示す参考縮小斜視図】)
[図:0001383213000003.jpg]
(登録実用新案第3159788号公報の図1)
[図:0001383213000004.jpg]
ウ 上記相違点2について検討する。
(ア)引用発明の小孔は、「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ、例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数」、形成されるものであるから、容器内の内容物から発生する水蒸気の量が変われば、適切に水蒸気を逃がすためには、水蒸気を逃がす孔の大きさ(径)と個数も、それに合わせて変えることが必要であることは、当業者にとって明らかであり(例えば、甲6(「【0018】・・・・細孔12の、数及び個々の細孔12の大きさは固定されたものではなく、容器内に存在する液体の成分、粘度等により前記の範囲を逸脱したものとしてもよい。また、前記切り込みを設ける場合の切り込みの長さとその数は、蒸気の発生の量との関係を考慮して設計することができる。」)、引用発明の小孔の大きさ(径)と個数は、発生する水蒸気の量に応じて、適宜設定されるものであるといえる。
引用発明の「0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔」のうち、直径「0.5~0.59mm」の小孔は、本件発明1の「排気細孔」の直径「0.15ないし0.59mm」の範囲内であるところ、電子レンジで加熱される容器から発生する水蒸気を逃す孔として小さい孔を多数設けることは、周知技術(例えば、甲6(【0018】直径1~500μm(0.5mm)の細孔を10~1000ケ/cm2)、特開平10-218250号公報((【0025】孔径0.1~5mmの孔を1~10個/cm2。申立人が提出した甲第7号証(以下「甲7」という。))であり、引用発明の適宜個数の「0.5mm」の小孔を、発生する水蒸気の量に応じて調整し、上記相違点2に係る本件発明の構成のように、「直径は0.15ないし0.59mm」、「個数は8ないし1000個」、「開口面積の合計は0.25ないし100mm2」の排気孔群とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
その際、甲1の記載によれば、「この小孔12は、例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができる」(段落【0010】)とされており、引用発明の小孔を、食品包装容器に小孔を空ける方法として周知技術(例えば、上記甲6(【0026】)、上記甲7(【0025】)、上記甲8(【0015】))であるレーザー光線照射を用いて、レーザー光線照射孔とすることも、適宜なし得たものである。
(イ)また、引用発明の食品容器は、容器にラベルLを貼着したものであるが、ラベルよりも凹部の方が大きく形成されて膨脹空気を排出し得るようにしており、その場合、ラベルLと凹部の隙間から異物が入り得ることになるから、ラベルLは、異物が小孔から混入することを防止するために設けられた部材には該当しないものと理解できる。
そして、本件特許明細書において、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が省略されることにより、「本発明の食品用容器は、電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく、包装資材費の軽減にも貢献し得る。」(【0037】)との効果が得られるとされ、「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が存在すると、逆に「電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間が必要になる」ことを意味しているものといえるが、引用発明のものは、電子レンジ加熱又は加温時に、ラベルLを取り付けたままで調理できるものであり、このことは、引用発明のラベルLが、本件発明の「排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないという上記理解と整合する。
(ウ)よって、上記相違点2に係る本件発明の構成は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。
エ(ア)本件発明の効果について、本件特許明細書(段落【0011】)には、
「とりわけ、請求項1の発明によれば、上のように、複数の排気細孔からなる排気孔群が、当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて、前記排気細孔の直径を0.15ないし0.59mmと規定し、前記排気細孔の個数を8ないし1000個であり、かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mmと規定したものであるから、現実の市場にて流通する多くの食品の包装に対応でき、後述する実施例に示されるように、従前の水蒸気の排気構造に代わり、排気細孔群を形成するのみで、良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効果を備えることができる。さらに加えて、請求項1の発明によれば、前記排気細孔がレーザー光線照射による穿設であるため、簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設することができる。」と記載されている。
(イ)しかし、食品包装容器において、通気孔が大きいと虫等の異物が混入する可能性があり、小さい方が好ましいことは、例えば、甲7(「【0003】・・・・米穀用袋において、通気性が大き過ぎる場合には、その通気孔から虫等が侵入し、思いもしない事故を起こすことがあるものである。」)や、実願平2-106124号(実開平4-62684号)のマイクロフィルム(「孔の大きさは・・・・殊に、1mm以下の大きさとすると、虫の侵入が防止できるので好ましい。」(明細書5頁3~6行)。以下「文献1」という。)に示されるように周知技術であって、原出願前に、小さい孔は、それ自体、容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏することは、当業者にとって自明であったものといえるから、特許権者が主張する上記効果は、引用発明及び上記甲7及び上記文献1に記載された周知技術から、当業者が予測できるものである。
また、レーザー光線照射による効果についても、引用発明及び上記甲6~8に記載された周知技術から、当業者が予測できるものである。
(ウ)この点、特許権者は、令和2年9月16日の意見書(第1部7.(1))で、
「(う)周知引例(当審注:上記文献1)の孔(空気孔)は、本件発明1のような電子レンジ加熱時における高温の加熱蒸気の排出という機能を全く有しておらない。「飯」からのせいぜい人の手で触ることができる程度の湯気(水分)の通気を対象とするものである。つまり、周知技術は食品調理のために容器内の高温の加熱蒸気(気体)の排出を対象とする「電子レンジ蒸気孔」としての機能を有せず、本件発明1の細孔とは技術的意義が全く相違する。しかも、周知技術は、本件発明の細孔(蒸気孔)が有する「水蒸気を効率よく排気する」効果とともに、あわせて当該「電子レンジ蒸気孔」によって「昆虫等の異物混入を有効に抑制できる」という効果を実現できるものでもない。・・・・」、
「(お)・・・・そもそも、本件発明は、近年のコンビニエンスストアの猛烈な店舗数の拡大と電子レンジ機器の幅広い普及とあいまって、そこで取り扱われる電子レンジ加熱食品(近時の造語では「レンチン食品」)による新しい飲食形態に伴うビジネスモデル上のニーズに迫られ開発、現出されるに至ったものであって、少なくとも、20、30年ほど前には、電子レンジ加熱食品用容器の蓋部の蒸気孔に、良好な水蒸気排気を可能とし同時に異物混入抑制を実現する、被覆部材を不要とする構造などは到底考えられもしなかったニーズであったということができる。・・・・」、
「(か)そうであるとすると、引用周知技術の孔(空気穴)による「防虫効果」が、本件発明の「電子レンジ加熱容器の蓋部に設けた電子レンジ蒸気孔のみによって、(I)食品から発生する水蒸気を効率よく排気するものであるとともに、(II)昆虫等の異物混入を有効に抑制できる(従って、異物混入防止のための排気穴を被覆したり包皮したりする部材が不要となる)という、2つの課題を同時に解決できる」という(【0009】)効果を否定する根拠とはならないことは、明らかであり、また、前記のように、本件発明における、「蒸気孔」の構成のみ(被覆部材を設けることなく)によって、良好な電子レンジ排気とともに、虫等の異物混入防止を効率よく図れるという解決課題及びそれによって実現される効果は、本件発明の出願当時において、斬新なものであったから、本件発明の効果が当業者にとって自明で、甲発明及び甲6及び甲8に記載された事項等から当業者が予測できるものであるとの、本件決定の判断は、本件発明(の本質)を全く理解しておらず、その判断は誤ったものであるというほかない。」と主張する。
しかし、電子レンジで加熱する容器においても、水蒸気を排出する孔から塵埃や虫などの異物が混入する恐れがあることは、実願平2-71089号(実開平4-29977号)のマイクロフィルム(「近年、オーブン、ガスレンジおよび電子レンジ等の加熱調理機器が家庭内に普及するに至り、これに対応したインスタント食品が数々販売されるようになった。・・・・容器の蓋に孔があいていると容器内部に常に、ホコリ、虫等の異物が混入するおそれがあり、また、外気の出入を許すため、食品衛生・保存の見地からも好ましくない。」(明細書3頁13行~5頁5行))、特開2014-227185号公報(「【0002】・・・・このような食品包装用容器には、蓋をしたまま電子レンジなどで加熱できるように、蓋の天板部に孔や切込みなどからなる通気部を設け、蒸気等が抜けるようにしたものがある。」、「【0006】食品包装用容器を複数段に棚積みして陳列した場合、蓋の天板部は荷重を受けるため変形しやすくなる。従来の如く、天板部に孔や切込みなどの通気部を設けた蓋は、天板部の変形により通気部が変形して隙間が大きくなり、塵埃などが容器内に侵入するおそれがあった。」)に示されるように、原出願前に周知の課題であり、原出願の出願時において、「電子レンジ加熱食品用容器の蓋部の蒸気孔に、良好な水蒸気排気を可能とし同時に異物混入抑制を実現する、被覆部材を不要とする構造などは到底考えられもしなかったニーズであった」というものではない。
そして、本件発明の電子レンジ加熱食品用容器の排気細孔が、昆虫等の異物混入を抑制する効果を奏するのは、主に工場等で容器内に食品を収容して店舗で販売されるまでの段階であって、この段階で虫等の混入を防止する効果を奏することは、上記甲7及び上記文献1の周知技術においても同様であり、上記文献1の「孔の大きさは・・・・殊に、1mm以下の大きさとすると、虫の侵入が防止できるので好ましい。」との示唆も踏まえれば、引用発明の小孔が、電子レンジ加熱時に水蒸気を排出できるともに、虫等の異物混入の抑制に効果があることは、当業者であれば予測できるものである。
よって、特許権者の上記主張は採用できない。
オ したがって、本件発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
4.むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700949