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特許異議申立

2019-700942

セメントクリンカ及びセメント

審判番号
2019-700942
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-016089外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年11月22日
審決日
2020年06月30日
公報発行日
2020年10月30日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6517384号発明「セメントクリンカ及びセメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6517384号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第6517384号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 21項目
【理 由】

第1 手続の経緯

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特許第6517384号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成25年 9月24日を出願日とする特願2013-197151号の一部を平成30年 2月 1日に特願2018-16089号として新たな特許出願としたものであって、平成31年 4月26日にその請求項1~4に係る発明について特許権の設定登録がされ、令和 1年 5月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その全請求項に係る特許について、同年11月22日付けで特許異議申立人山田 宏基(以下、「申立人」という。)により甲第1~12号証を添付して特許異議の申立てがされ、令和 2年 2月 5日付けで当審より取消理由が通知され、取消理由通知書の指定期間内である同年 4月 2日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 5月11日付けで申立人より参考資料1を添付して意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1~3からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。

(1)訂正事項1

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に

「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が30~60質量%」

と記載されているのを、

「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%」

に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に

「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.2質量%以上、1.9質量%未満」

と記載されているのを、

「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満」

に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3

本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に

「P2O5の含有率が0.05~0.5質量%」

と記載されているのを、

「P2O5の含有率が0.05~0.3質量%」

に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。

本件訂正前の請求項2~4は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1~3によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~4は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。

そして、本件訂正は、一群の請求項の全てについて行われるものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

訂正事項1による訂正は、請求項1の「セメントクリンカ」における「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」の下限値を「30質量%」から「40質量%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書の【0007】には、

「【0007】…
本発明のセメントクリンカ中の、ボーグ式で算出されるC2Sの含有率は、30~60質量%であり、好ましくは40~60質量%である。…」(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)

と記載されており、「ボーグ式で算出されるC2Sの含有率」が「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を意味することは明らかであるので、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2による訂正は、請求項1の「セメントクリンカ」における「MgOの含有率」の下限値を「1.2質量%」から「1.7質量%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書の【0009】には、

「【0009】 本発明のセメントクリンカ中のMgOの含有率は、1.2~3.5質量%、好ましくは1.5~3.2質量%、より好ましくは1.7~3.1質量%、特に好ましくは1.9~3.0質量%である。…」

と記載されており、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)訂正事項3について

訂正事項3による訂正は、請求項1の「セメントクリンカ」における「P2O5の含有率」の上限値を「0.5質量%」から「0.3質量%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そして、本件特許明細書の【0012】には、

「【0012】 本発明のセメントクリンカ中のP2O5の含有率は、好ましくは0.05~0.5質量%、より好ましくは0.06~0.4質量%、特に好ましくは0.07~0.3質量%である。…」

と記載されており、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括

したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカであって、 該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であり、
SO3の含有率が0.4~1.2質量%であり、
P2O5の含有率が0.05~0.3質量%であることを特徴とするセメントクリンカ。
【請求項2】
上記セメントクリンカに含まれる2CaO・SiO2中の、MgOの含有率が1.0質量%以下である、請求項1に記載のセメントクリンカ。
【請求項3】
上記セメントクリンカに含まれる2CaO・SiO2中の、SO3の含有率が0.3質量%以上である、請求項1または2に記載のセメントクリンカ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物と石膏を含むセメント。」

第4 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠として甲第1号証~甲第12号証を提出し、以下の特許異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1~4に係る発明の特許は取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:近藤連一,「セメント用石膏に関する諸研究(上)」,石膏と石灰,1954巻14号,1954年,p.636-643
甲第2号証:社団法人日本セラミックス協会編,「セラミック工学ハンドブック(第2版)[応用]」,2版1刷,技報堂出版株式会社,2002年 3月31日,p.216-221
甲第3号証:特開2006-213574号公報
甲第4号証:特開2004-203662号公報
甲第5号証:特開2000-272939号公報
甲第6号証:白坂徳彦ら,「2.クリンカー構成相とセメントの水和に及ぼすリンの影響」,セメント・コンクリート論文集,社団法人セメント協会,No.50/1996,1996年12月25日,p.8-13
甲第7号証:金谷宗輝ら,「クリンカーの品質に及ぼすリンの影響」,セメント・コンクリート論文集,社団法人セメント協会,No.53/1999,2000年 2月25日,p.10-14
甲第8号証:横山滋ら,「都市ゴミ焼却灰を主原料としたセメントクリンカーの生成に及ぼすP2O5の影響」,セメント・コンクリート論文集,社団法人セメント協会,No.53/1999,2000年 2月25日,p.146-150
甲第9号証:横山滋ら,「都市ゴミ焼却灰を主原料としたセメントクリンカーに及ぼす塩素並びにリンの影響とセメント物性の研究」,セメント・コンクリート,社団法人セメント協会,No.646 12月号,平成12年12月10日

甲第10号証:Kenichi SHIMOSAKA et at.,INFLUENCE OF SULFUR OXIDE IN CLINKER ON THE PROPERTIES OF CLINKER AND CEMENT,Cement Science and Concrete Technology, 社団法人セメント協会,No.56/2002,2003年 2月10日,p.9-16

甲第11号証:後英太郎著,「新しいセメントとセメント技術」,第1版,株式会社誠文堂新光社,昭和46年 1月25日,p.8-15
甲第12号証:荒井康夫著,「改訂2版 セメントの材料化学」,改訂2版第3刷,大日本図書株式会社,1993年 4月10日,p.1-15,110-119,202-215,222-229

1 特許法第29条第2項(進歩性)について

本件訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載される発明又は甲第2号証に記載される発明と、甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

本件特許明細書の発明の詳細な説明においては、P2O5の含有率が0.08~0.09質量%という狭い範囲の場合しか、セメントの強度発現性が向上する、という発明の効果が奏されることが確認されておらず、しかも、実施例及び比較例にて同じP2O5の含有率でしか比較が行われていないので、P2O5の含有率をどのように調整すれば本件特許発明の効果が奏されるのかを、当業者は理解することができない。

よって、本件訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化することはできないから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえないので、サポート要件を充足しない。

このことは、本件訂正前の請求項1に従属する本件訂正前の請求項2~4に係る発明についても同様である。

第5 取消理由の概要

1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について

本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、本件訂正前の請求項1~3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明及び甲第12号証に記載される技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

(1)本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件特許に係る発明が、セメントクリンカ中にP2O5を含有することでセメントの強度発現性を向上させるものではなく、むしろ、セメントクリンカの原料に焼却灰等の廃棄物を利用した場合であっても、「P2O5の含有量」を、セメントの圧縮強度の低下を抑制する、という本件特許に係る発明の作用、効果に悪影響を及ぼさない範囲にとどめようとするものであることを理解できる。

(2)ところが、本件特許明細書において、本件特許に係る発明の作用、効果に悪影響を及ぼさないことが明らかとされるP2O5の含有率は、0.08~0.09質量%という狭い範囲なのであって、「P2O5の含有量」が0.5質量%の範囲まで、本件特許に係る発明の作用、効果に悪影響を及ぼさないことが明らかとされるものではない。

また、「P2O5の含有率」を0.5質量%としても、本件特許に係る発明の作用、効果に悪影響を及ぼさないことを示す技術常識は存在しない。

(3)そうすると、「P2O5の含有率」について、本件特許明細書の記載事項を本件訂正前の請求項1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化することはできないから、本件訂正前の請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

このことは、本件訂正前の請求項1に係る発明を直接的または間接的に引用する本件訂正前の請求項2~4に係る発明についても同様である。

第6 取消理由についての判断

1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について

(1)各甲号証の記載事項

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(1-1)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明

ア 甲第2号証には以下(2a)~(2b)の記載がある。

(2a)「3.4.5 セメント関連その他の化学的試験方法

…

3.4.5.2 セメントの構成化合物量の定量

セメントの構成化合物量の定量方法は顕微鏡法,X線回折方法などがある.

顕微鏡法はセメントまたはセメント硬化体をエポキシ樹脂を用いて包埋し,試料を研磨した後エッチングを施して,顕微鏡下でクリンカー鉱物を判定して鉱物の組成割合を調べる方法である.点数法では5000点以上の測定個数が必要である26)とされており,非常に多くの労力と時間を必要とするが,直接的な測定方法であるため測定結果の信頼性は高い(表3.40).

粉末X線回折試験によるセメント中のクリンカー鉱物の定量方法は,クリンカー鉱物の主要回折線の重なり,試料の配向性などにより定量性に問題があるとの指摘がある27),28).…また,配向性の問題も試料の粉末度の検討,試料の回転機構を利用するなどで避けられるようになったことで定量性は向上している.」(218ページ左欄2行~219頁左欄8行)

(2b)「

」(219ページ)

イ 前記(2b)によれば、甲第2号証には「普通ポルトランドセメントクリンカー」が記載されており、当該「普通ポルトランドセメントクリンカー」の化学組成及び鉱物組成は、鉱物組成が、Bogue式の計算値で、エーライト:42、ビーライト:34、アルミネート相:10、フェライト相:10であり、化学組成が、ig.loss:0.73、insol.:0.01、SiO2:22.93、Al2O3:5.87、Fe2O3:3.35、CaO:64.10、MgO:1.85、SO3:0.54、Na2O:0.44、K2O:0.79、f.CaO:0.08であるものである。

すると、甲第2号証には以下の発明が記載されているといえる。

「普通ポルトランドセメントクリンカーであって、
鉱物組成が、Bogue式の計算値で、エーライト:42、ビーライト:34、アルミネート相:10、フェライト相:10であり、
化学組成が、ig.loss:0.73、insol.:0.01、SiO2:22.93、Al2O3:5.87、Fe2O3:3.35、CaO:64.10、MgO:1.85、SO3:0.54、Na2O:0.44、K2O:0.79、f.CaO:0.08である、普通ポルトランドセメントクリンカー。」(以下、「甲2発明」という。)

ウ また、前記(2a)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「甲2発明の普通ポルトランドセメントクリンカーを含むセメント。」(以下、「甲2’発明」という。)

(1-2)甲第12号証の記載事項

甲第12号証には以下(12a)の記載がある。

(12a)「1・6 仕上げ工程

クーラーからでてきたセメントクリンカーは,仕上げミル(大部分が2室に区分されたチューブミル)でセッコウを3~5%加えて微粉砕され,粒径3~30μmの大きさの微粒子のポルトランドセメントとなる.」(13頁下から8行~下から5行)

(2)対比・判断

(2-1)本件発明1について

ア 対比

(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「普通ポルトランドセメントクリンカー」は、本件発明1における「セメントクリンカ」に相当する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲2発明とは、

「セメントクリンカ。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1:本件発明1は、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカであ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、「鉱物組成が、Bogue式の計算値で、エーライト:42、ビーライト:34、アルミネート相:10、フェライト相:10であ」る点。
・相違点2:本件発明1は、「セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、「セメントクリンカー」の「化学組成が」「MgO:1.85」である点。
・相違点3:本件発明1は、「セメントクリンカ中」、「SO3の含有率が0.4~1.2質量%であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、「セメントクリンカー」の「化学組成が」「SO3:0.54」である点。
・相違点4:本件発明1は、「セメントクリンカ中」、「P2O5の含有率が0.05~0.5質量%であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

イ 判断

(ア)まず、前記ア(イ)の相違点1について検討すると、「セメントクリンカ」の組成は通常質量%で表されるものであって、甲2発明において、「鉱物組成が、Bogue式の計算値で」「ビーライト:34」であることは、ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が34質量%であることといえるから、甲2発明は、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカであ」るとはいえない。

(イ)そうすると、前記相違点1は実質的な相違点であるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。

(2-2)本件発明2、3について

本件発明2、3は、いずれも、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2、3のいずれかと甲2発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点1の点で相違する。

そして、前記相違点1は実質的な相違点であることは前記(2-1)イ(イ)に記載のとおりであるので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3が甲2発明であるとはいえない。

(2-3)本件発明4について

ア 本件発明4と甲2’発明とを対比すると、甲2’発明における「普通ポルトランドセメントクリンカー」は、本件発明4の「セメントクリンカ」に相当する。

そうすると、本件発明4と甲2’発明とは、

「セメントクリンカを含むセメント。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点5:本件発明4は、「セメント」が、「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」「を含む」との発明特定事項を有するのに対して、甲2’発明は、「セメント」が、「甲2発明の普通ポルトランドセメントクリンカーを含む」ものである点。
・相違点6:本件発明4は、「セメント」が「石膏を含む」との発明特定事項を有するのに対して、甲2’発明は、前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

イ まず、前記アの相違点5から検討すると、前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件発明1~3が甲2発明であるとはいえないことは、前記(2-1)イ(イ)及び(2-2)に記載のとおりである。

そうすると、「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」が、「甲2発明の普通ポルトランドセメントクリンカー」であるとはいえないことは明らかであるから、前記相違点5もまた実質的な相違点である。

したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4が甲2’発明であるとはいえない。

ウ そこで、更に進んで、甲2’発明において、「甲2発明の普通ポルトランドセメントクリンカー」を「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」とすることを当業者が容易になし得るか否かについて検討すると、前記(1)(1-2)(12a)によれば、甲第12号証には、クーラーからでてきたセメントクリンカーは、仕上げミルでセッコウを3~5%加えて微粉砕され,粒径3~30μmの大きさの微粒子のポルトランドセメントとなることが記載されており、「セメント」が「セメントクリンカの粉砕物」を含むことは、本件特許出願の原出願である2013-197151号の出願日の時点における技術常識といえる。

ところが、前記(1)(1-1)ア(2a)~(2b)によれば、甲2発明の「セメントクリンカ」は、セメントの構成化合物量の定量方法である顕微鏡法は直接的な測定方法であるため測定結果の信頼性が高いことや、粉末X線回折試験によるセメント中のクリンカー鉱物の定量方法は定量性が向上していることをいうために、顕微鏡法やX線回折法によるクリンカー鉱物組成の実測値と計算値を開示するためのものであり、そのような「セメントクリンカ」において、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を変化させることはそもそも想定されないから、甲2発明において、「セメントクリンカ」を、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカ」とする動機付けは存在しない。

そして、甲第12号証に記載される前記技術常識及び甲第12号証のそのほかの記載をみても、甲2発明の「セメントクリンカ」において、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を変化させることはそもそも想定されないことに変わりはないから、甲2発明において、「セメントクリンカ」を、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカであ」る、との前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないのであり、更にこのことは、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~3についても同様である。

してみれば、本件発明1~3は、甲2発明及び甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ そうすると、同様の理由により、甲2’発明において、「セメントクリンカ」を「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカ」とすることを、甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るともいえないので、甲2’発明において、「セメント」を、「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」「を含む」、との前記相違点5に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとすることを、甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2’発明及び甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括

したがって、本件発明1~4は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明及び前記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、前記第5の1の取消理由(特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性))は理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

(1)本件特許明細書の記載事項

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ア 「P2O5の含有率」について、本件特許明細書には以下(a)~(c)の記載がある。

(a)「【0012】
本発明のセメントクリンカ中のP2O5の含有率は、好ましくは0.05~0.5質量%、より好ましくは0.06~0.4質量%、特に好ましくは0.07~0.3質量%である。
セメントクリンカ中のP2O5の含有率が上記数値範囲内であれば、セメントの強度発現性が向上する。
P2O5は下水汚泥等の廃棄物に多く含まれるものであり、セメントクリンカの原料としての廃棄物の有効利用の観点から、上記含有率は、好ましくは0.05質量%以上である。
上記含有率が0.5質量%以下であると、セメントの凝結時間が好適となる。」
(b)「【0017】
[実施例1~2、比較例1~8、参考例1~2]
MgOとSO3の各含有率を調整したセメントクリンカ用原料を、電気炉を用いて1450~1550℃で焼成して、セメントクリンカ1~12を製造した。MgO及びSO3の含有率の調整は、上記MgO源及びSO3源をセメントクリンカ用原料に混合することで行った。
…
なお、セメントクリンカ1~12の化学組成は、CaOが62.6~65.2質量%、…P2O5が0.08~0.09質量%、フリーライム量が0.1~0.5質量%であった。」
(c)「【0021】
セメントクリンカ1~12に、セメントクリンカ及び石膏の合計量に対して、全SO3量が2.0質量%となるように石膏を添加した後、ブレーン比表面積が3,400cm2/gとなるように粉砕し、セメント1~12を製造した。得られたセメントを用いて、「JISR 5201」に準拠したモルタルの圧縮強度試験を行った。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
実施例1~2と比較例5~6、および、参考例1~2と比較例7~8を比較すると、セメントクリンカ中のSO3の含有率を特定の数値範囲内(0.4~1.2質量%)に調整することで、材齢28日における圧縮強度の低下を抑制することができることがわかる。
また、比較例1~4から、…SO3の添加による材齢28日における圧縮強度の低下の抑制効果が見られないことがわかる。
なお、比較例1、5、7より、セメントクリンカ中のMgOの含有率が増加すると、材齢28日における圧縮強度が低下することがわかる。」

イ 前記ア(a)によれば、本件特許明細書には、本件発明に係るセメントクリンカ中の「P2O5の含有率」について、セメントクリンカ中の「P2O5の含有率」が0.05~0.5質量%の範囲内であれば、セメントの強度発現性が向上すること、セメントクリンカの原料としての廃棄物の有効利用の観点から、上記含有率は、好ましくは0.05質量%以上であり、一方前記含有率が0.5質量%以下であると、セメントの凝結時間が好適となることが記載されている。

ウ これに対して、前記ア(b)、(c)によれば、本件特許明細書に記載されるセメントクリンカ1~12の化学組成は、いずれも、「P2O5の含有率」が0.08~0.09質量%であり、セメントクリンカ1~12を用いる実施例1、2、比較例1~8、参考例1、2も、セメントクリンカの「P2O5の含有率」が0.08~0.09質量%であるものである。

(2)セメントクリンカ中のP2O5がセメントの特性に及ぼす影響について

ア ここで、セメントクリンカ中のP2O5がセメントの特性に及ぼす影響についてみると、例えば甲第3号証には以下(3a)の記載がある。

(3a)「【0004】

特に、近年、セメント業界においても、これらの焼却灰はセメント原料の粘土代替用材料として利用することが注目されており、…その需要は年々増加している。

【0005】

しかし、一般に、汚泥焼却灰中にはリン成分が含有されており、かかるリン(P2O5換算で、10~20重量%程度)成分は、得られるセメントの性状、特に初期圧縮強度の低下、凝結の遅延やセメントクリンカの易焼成性の低下等、セメントに必要とされる特性に悪影響を与えることが知られている…。

【0006】

また、通常ポルトランドセメント中のリン化合物は、P2O5換算で0.1~0.2重量%程度含有されているが、セメントクリンカ中のリン化合物がP2O5換算で0.5重量%以上含有されるようになると、上記したようなセメント特性への悪影響が生じてしまうため、リン化合物を高濃度で含有した汚泥焼却灰等の廃棄物を、大量にセメント原料として使用することは困難であった。」

また、甲第5号証には以下(5a)の記載がある。

(5a)「【0002】

【従来の技術】近年、都市ゴミの焼却灰、下水汚泥及び該汚泥の焼却灰、並びに製鋼過程で生ずるスラグなどの産業副産物(以下、これらを総称して“廃棄物”という)は、増加の一途であり、その有効利用および再資源化が社会的に注目されている。その再資源化の具体策として、廃棄物をポルトランドセメントの製造用原料に利用することが研究されている。

【0003】セメント工業において、上記廃棄物を原料として用いた場合、焼成過程において、廃棄物に多量に含有されているリン化合物(P2O5換算:0.3~30重量%)の大半は、セメントクリンカ中に残存する。そして、該クリンカ中のリン含有量が多いほど、セメントの圧縮強度の発現性に著しく悪い影響を与えることが知られている。

【0004】

【発明が解決しようとする課題】一般に、普通ポルトランドセメントクリンカのP2O5含有量は、多くても0.3重量%程度、大部分は0.1~0.2重量%程度である。この程度の含有量では、セメントの特性、特に圧縮強度への影響は殆ど無視できるものであった。

【0005】しかし、前記廃棄物を原料に使用した場合には、該クリンカ中のP2O5含有量が1.0 重量以上%に達することも稀ではなく、含有量の増大に伴い圧縮強度への影響が著しく大きくなる。例えば、上記のような高P2O5含有量のクリンカから製造されたセメントは、廃棄物を使用しない場合の材令7日の圧縮強度を基準(100%)にして比べると、P2O5含有量が0.5重量%のときの該強度は89%、…というように、圧縮強度の発現性が急激に低下する(表2、比較例2~5参照)という問題点があった。」

イ 前記ア(3a)、(5a)によれば、セメントクリンカ中にP2O5が含有されるとセメントの圧縮強度等の特性に悪影響があるものであり、特に、汚泥焼却灰等の廃棄物を原料に使用して、セメントクリンカ中のリン化合物がP2O5換算で0.5重量%以上含有されるようになると、セメント特性への悪影響が生じるのであって、例えば、廃棄物を使用しない場合の材令7日の圧縮強度を基準(100%)にして比べると、P2O5含有量が0.5重量%のときの該強度は89%となるものであるが、一般に、普通ポルトランドセメントクリンカのP2O5含有量は、多くても0.3重量%程度、大部分は0.1~0.2重量%程度であり、この程度の含有量では、セメントの特性、特に圧縮強度への影響は殆ど無視できるものである。

(3)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての検討

ア 前記(2)イの事項を踏まえて前記(1)イをみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明が、セメントクリンカ中にP2O5を含有することでセメントの強度発現性を更に向上させるものではなく、むしろ、セメントクリンカの原料に焼却灰等の廃棄物を利用した場合であっても、「P2O5の含有量」を、セメントの圧縮強度の低下を抑制する、という本件発明の作用、効果に悪影響を及ぼさない範囲にとどめようとするものであること、及び、普通ポルトランドセメントクリンカのP2O5含有量は、多くても0.3重量%程度であり、この程度の含有量であれば、セメントの特性、特に圧縮強度への影響は殆ど無視できることを理解できるものである。

イ 一方、前記第3によれば、本件発明1は「P2O5の含有率が0.05~0.3質量%である」との発明特定事項を有するものであり、このことと前記アによれば、当業者は、上限値が「0.3質量%である」本件発明1の「P2O5の含有率」が、セメントの圧縮強度の低下を抑制する、という本件発明の作用、効果に悪影響を及ぼさない範囲にあることを理解できるから、本件特許明細書に記載されるセメントクリンカ1~12の「P2O5の含有率」がいずれも0.08~0.09質量%であるとしても、本件特許明細書の記載事項を本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるものというべきである。

してみれば、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明というべきであり、更にこのことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2~4についても同様である。

(4)小括

したがって、本件発明1~4は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するので、前記第5の2の取消理由(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))は理由がない。

第7 特許異議申立理由についての判断

前記第4の2(特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について)の特許異議申立理由は前記第6の2で検討したので、以下、取消理由で採用しなかった前記第4の1(特許法第29条第2項(進歩性)について)の特許異議申立理由について検討する。

1 甲第1号証を主引用例とする場合について

(1)各甲号証の記載事項

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甲第2、3、5、12号証の記載事項は、それぞれ、前記第6の1(1)(1-1)ア、同2(2)ア、同1(1)(1-2)に記載のとおりであるので、これ以外の各甲号証の記載事項を摘記する。

(1-1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載される発明

ア 甲第1号証には、以下(1a)~(1b)の記載がある。

(1a)「II.石膏がポルトランドセメントペーストの水和と性質に及ぼす影響-W.Lerch3)

セメントの水和と硬化を適当に調節するに要する石膏の量はセメントの組成や細かさで変るであろうと考え本研究を行った。

化学組成を異にする市販セメント用クリンカー12種類を選び石膏添加量を変化させ粉末度(Wanger法)1850~2000cm2/g(Blaine法で3100~4400cm2/g程度)迄粉砕した。…供試クリンカーの組成を表1左半部に示す。

a)カロリーメーターによる測定

石膏がセメントの初期水和に及ぼす影響特に水和速度を調べるため伝熱カロリーメーターを用いた。…

…

b)抽出液相分析

4種類のSO3量を3%一定としたセメントに水量40%加えペーストとし6時間及び24時間後粉砕しペースト200gに水100cc加え10分間撹拌後吸引濾過し得た濾液を分析し表3の結果を得た。…

c)モルタルによる物理試験

セメントの石膏量の適当なところでモルタルの強サが最大,乾燥収縮は最小となり,必要な石膏量がC3Aと共に増す事はKuehl u.Lou(1935),Haegerman3)(1939)等の研究で知られていたがこれは本研究でも確められた。

…

最後にオートクレーブ膨張試験からSO3増加によって膨張を減ずる傾向が認められた。

d)結論

各クリンカーの石膏添加適量値を発熱曲線,強サ,収縮,膨張の面から推定しそれらの値中安全を見て最少のものを最適SO3量と決めた。表1右半部にこれを示す,最適SO3量は1.9~4.5%の範囲にあり,クリンカーのアルカリ量,C3A含有量高く粉末度の高いほど多くの石膏を要求する事並びに大抵のセメントで優れた性能を与えるのに規格限界値の2.0%を超す事が示された。」(638ページ左欄2行~640ページ左欄下から13行)

(1b)「

」

イ 前記(1a)によれば、甲第1号証には、化学組成を異にする市販セメント用クリンカー12種類を選び石膏添加量を変化させ粉末度(Wanger法)1850~2000cm2/g(Blaine法で3100~4400cm2/g程度)迄粉砕した「供試クリンカー」が記載されており、前記(1b)のNo.8に注目すると、前記「供試クリンカー」は、組成が、C3S:28.0%、C2S:53.5%、C3A:5.1%、C4AF:9.6%、MgO:1.3%、CaSO4:0.8%、Na2O:0.32%、K2O:0.02%であるものである。

また、前記(1b)のNo.11に注目すると、前記「供試クリンカー」は、組成が、C3S:26.0%、C2S:49.1%、C3A:6.2%、C4AF:14.0%、MgO:1.6%、CaSO4:1.1%、Na2O:1.01%、K2O:0.10%であるものである。

ウ 前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「組成が、C3S:28.0%、C2S:53.5%、C3A:5.1%、C4AF:9.6%、MgO:1.3%、CaSO4:0.8%、Na2O:0.32%、K2O:0.02%である、供試クリンカー。」(以下、「甲1-1発明」という。)、及び、

「組成が、C3S:26.0%、C2S:49.1%、C3A:6.2%、C4AF:14.0%、MgO:1.6%、CaSO4:1.1%、Na2O:1.01%、K2O:0.10%である、供試クリンカー。」(以下、「甲1-2発明」という。)

エ また、前記(1a)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「甲1-1発明の供試クリンカーを含むセメント。」(以下、「甲1-1’発明」という。)、及び、

「甲1-2発明の供試クリンカーを含むセメント。」(以下、「甲1-2’発明」という。)

(1-2)甲第4号証の記載事項

甲第4号証には、以下(4a)~(4b)の記載がある。

(4a)「【0005】本発明者らは、上記問題への対応について、含水汚泥を乾燥してセメント製造設備に大量供給する方法を検討してきた。その結果、含水汚泥の利用率を上げることによって、セメント製造設備より得られるセメントの品質にリン成分が大きな影響を及ぼすという問題があることが判明した。」

(4b)「【0041】【発明の効果】以上の説明より理解されるように、本発明によれば、含水汚泥を乾燥し、乾燥汚泥としてセメント製造設備に供給するため、該乾燥汚泥をセメント製造用燃料或いは原料として大量に供給することができる。また、該乾燥汚泥は、前記した除リン処理によってリン成分の含有量を低減されているため、これをセメント製造設備に大量に供給した場合のリン成分のセメントへの混入による悪影響を効果的に低減することが可能である。」

(1-3)甲第6号証の記載事項

甲第6号証には、以下(6a)の記載がある。

(6a)「1.はじめに

クリンカー中のリンの含有量が増加すると、セメントの種類にかかわらず、材齢1ケ月以内の強度発現が低下することが知られている1)。…本研究では、普通,早強,中庸熱品に見られる強度低下の原因を明らかにすることを目的とし、3種の組成の原料にリンをP2O5として0.13~3.10%添加したクリンカーを焼成してセメントを試製した。…

2.実験

2.1 試料

工場調合原料を、水フルイ88μm残分15%となるように粉砕した後、各種純薬を添加し、HM2.16,SM2.7,IM1.7の普通品(N)、HM2.25,SM2.7,IM2.0の早強品(H)、HM1.99,SM3.0,IM1.0の中庸熱品(M)組成の原料を調製し、これらにリンをP2O5として0.13~3.10%添加したものを原料として用いた。この原料をペレット状に成形し、高速昇温電気炉を用いて1600℃,30分間焼成した後、炉外急冷しクリンカーを得た。」(9ページ1行~22行)

(1-4)甲第7号証の記載事項

甲第7号証には、以下(7a)の記載がある。

(7a)「1.まえがき

現在、廃棄物は年々増加しており、その処理が社会問題となっている。セメント産業は、他産業から発生した大量の廃棄物・副産物(リサイクル資源)を再資源化しており、その社会的要請は年々高まりつつある。…

廃棄物利用の一環として下水汚泥の処理がある。下水汚泥はSiO2、Al2O3に富み、粘土代替として利用可能である。しかし下水汚泥はリンを多く含有するため(焼却灰でP2O5を20%前後)、クリンカーキャラクターやセメント品質へ悪影響を及ぼすことが懸念される。

…

2.実験

2.1 試料の調製

Table1に調合原料の化学分析結果を示す。Table2,Fig.1に焼成パターン及び冷却パターンをそれぞれ示す。No.1は実際に工場で使用している石灰石と粘土に少量の試薬を加えた基準となる調合原料、No.2~5はCa(H2SO4)2・2H2Oを添加して、P2O5量のみ1.0%までの範囲で変化させたもの、No.6,7はP2O5の増加に伴う鉱物組成の変化を補うためにHMを高めたものである。」(10ページ左欄1行~右欄18行)

(1-5)甲第8号証の記載事項

甲第8号証には、以下(8a)~(8b)の記載がある。

(8a)「1. まえがき

都市ゴミ焼却灰を使用して汎用性のセメントを製造する意義あるいは重要性については、別論文の「都市ゴミ焼却灰を主原料としたセメントクリンカーに及ぼすClの影響」において述べた1)。

都市ゴミ焼却灰にはCl以外にもP2O5が多量に含まれており、クリンカー製造およびセメントの品質に多大な影響を及ぼすことが予想される。ポルトランドセメントクリンカーに対するP2O5の影響に関しては、すでに数多くの研究調査が行われて来ている2,3)。」(146ページ左欄1行~10行)

(8b)「3.結果と考察

3.1 焼却灰クリンカー中のP2O5の分配

P2O5含有量の異なる焼却灰を原料としたクリンカー(以下、焼却灰クリンカーと呼ぶ)とその構成鉱物の化学組成をTable4に示す。…クリンカーの約50%がエーライト、約20%がビーライトからなることを考慮すると、クリンカー中のP2O5の大部分は珪酸塩鉱物中に存在していることになる。」(147ページ左欄16行~右欄2行)

(1-6)甲第9号証の記載事項

甲第9号証には、以下(9a)の記載がある。

(9a)「1.まえがき

近年のゴミの増加は,焼却処理による減容にもかかわらず,慢性的な埋め立て地の不足を引き起こしている。そこで,都市ゴミ焼却灰を原料としてセメントを製造する試みが行われてきた。都市ゴミ焼却灰には,セメント製造に有用な成分とともにClおよびP2O5が多量に含まれている。…

都市ゴミ焼却灰に多量に含まれるClおよびP2O5は,クリンカー生成およびセメントの物性に大きな影響を及ぼすものと考えられる。

…

2.実験方法

試薬を用い,Cl量の異なる4種の原料混合物(調合原料)を作製した。化学組成を表1に示す。これらの原料を,直径5mm程度の大きさに造粒した後,電気炉で焼成した。これを踏まえて実機クリンカーは,太平洋セメント(株)エコセメント試験所においてロータリーキルンを用いて製造した。使用した原料は,都市ゴミ焼却灰,石灰石粉末,粘土粉末および,鉄原料粉末である。実機クリンカーの化学組成を表2および表3に示した。製造したクリンカーの化学組成および微細組織を評価した。」(44ページ左欄1行~45ページ左欄10行)

(1-7)甲第10号証の記載事項

甲第10号証には、以下(10a)~(10b)の記載がある。

(10a)「ABSTRACT: Theoverall influence of sulfur oxide (SO3) in clinker on the propertiesof clinker and cement was investigated. Clinker and cement were prepared usingan electric furnace and a tube mill in laboratory. The amount of alkali in theclinker was fixed at 0.6% Na2Oeq., and gypsum amount in the cementwas varied. The burnability of clinker was not affected by SO3amount. However, the grindability decreased as the SO3 increased.The amount of alite decreased and belite and the interstitial increased.…The cement setting time was accelerated with increasing SO3amount in the clinker regardless of gypsum amount in the cement. In contrast,the compressive strength depended on both the amount of gypsum in the cementand SO3 in the clinker. Variation of the compressive strengthindicated that a portion of the SO3 included in the clinkersubstitutes the role of gypsum being present in the cement in the early stage,and subsequently the SO3 in the clinker behaves similarly to gypsum.」(9ページ8行~18行)

(当審訳:要約:クリンカ中の硫黄酸化物(SO3)がクリンカおよびセメントの特性に及ぼす影響を検討した。クリンカとセメントは実験室で電気炉とチューブミルを用いて調製した。クリンカ中のアルカリ量は0.6%Na2Oeq.に固定し、セメント中の石膏量を変化させた。クリンカの燃焼性はSO3量の影響を受けなかった。しかし、SO3量の増加に伴い粉砕性が低下した。エーライトの量は減少し、ビーライトや間隙質は増加した。…クリンカ中のSO3量の増加に伴い、セメント中の石膏量にかかわらず、セメントの硬化時間が促進された。一方、圧縮強度はセメント中の石膏量とクリンカ中のSO3量の両方に依存していた。圧縮強度の変化は、クリンカ中のSO3の一部がセメント中に存在する石膏の役割を初期段階で代替し、その後クリンカ中のSO3が石膏と同様の挙動を示すことを示した。)

(10b)「2.EXPERIMENTAL PROCEDURES

2.1 Preparation ofClinker

Raw materials from a cement factory andcommercially available reagents were used as the starting materials in thisstudy.Sulfic acid was used as a source of SO3.

…

Table1 shows an example of the chemicalcomposition of clinker containing 1.01% SO3. The chemicalcompositions of the other clinkers were almost equal to this.」(9ページ右欄12行~10ページ左欄8行)

(当審訳:2. 実験手順 2.1 クリンカの調製 本研究では、セメント工場からの原料と市販の試薬を出発原料として使用した。SO3源として硫酸を使用した。

…

表1にSO3を1.01%含有するクリンカーの化学組成の一例を示す。他のクリンカーの化学組成はこれとほぼ同等であった。)

(1-8)甲第11号証の記載事項

甲第11号証には、以下(11a)の記載がある

(11a)「2.1.2 クリンカーの性質

ポルトランドセメント クリンカーの研磨面を光学顕微鏡で観察すると(写真-1)のように4つの相が見られる.最もよく発達している柱状または六角板状のものがエーライト(alite),円形で条線のあるものがビーライト(blite),それらの間隙(げき)を満しているものが間隙質(interstitial material)で,間隙質中の暗色の部分がカルシゥム・アルミネート(Ca-aluminate)相・明色の部分がカルシゥム・フェライト(Ca-ferrite)相である.エーライト・ビーライト・アルミネートはともに固溶体で多くの成分から構成されているが,その主要成分はそれぞれ3CaO・SiO2(C3S);β-2CaO・SiO2(β-C2S);3CaO・Al2O3(C3A)であって、フェライト相の主成分は2CaO・Fe2O3-6CaO・2Al2O3・Fe2O3(C2F-C6A2F)系固溶体のある部分に属するとされている.

…

表-5にセメント鉱物の種類と性質ならびに水和性についての一覧表を掲げる.

少量成分についてはP.Terrier・H.G.Midgley・山口・高木(5.I.S.C.C.)(脚註※参照)の発表によった.この対象には耐硫酸塩クリンカーも含まれている.」(9ページ下から9行~10ページ15行)

(2)対比・判断

(2-1)本件発明1について

ア 対比

(ア)本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明における「試供クリンカー」は本件発明1における「セメントクリンカ」に相当する。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明1と甲1-1発明とは、

「セメントクリンカ。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1’:本件発明1は、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカであ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1発明は、「セメントクリンカ」の「組成が」、「C2S:49.1%」である点。
・相違点2’:本件発明1は、「セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1発明は、「セメントクリンカ」の「組成が」「MgO:1.3%」である点。
・相違点3’:本件発明1は、「セメントクリンカ中」、「SO3の含有率が0.4~1.2質量%であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1発明は、「セメントクリンカ」の「組成が」「CaSO4:0.8%」である点。
・相違点4’:本件発明1は、「セメントクリンカ中」、「P2O5の含有率が0.05~0.3質量%である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1発明は前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

イ 判断

(ア)事案に鑑み、前記ア(イ)の相違点2’から検討すると、「セメントクリンカ」の組成は通常質量%で表されるものであって、甲1-1発明において、「セメントクリンカ」の「組成が」「MgO:1.3%」であることは、MgOの含有率が1.3質量%であることといえるから、甲1-1発明は、「セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」るものとはいえないので、前記相違点2’は実質的な相違点である。

(イ)ここで、前記(1)(1-1)ア(1a)によれば、甲1-1発明の「セメントクリンカ」は、石膏がポルトランドセメントペーストの水和と性質に及ぼす影響を調べるための「試供クリンカー」であって、「セメントクリンカ」の石膏添加適量値を発熱曲線,強サ,収縮,膨張の面から推定し、最適SO3量を決めるためのものであり、そのような「セメントクリンカ」において「MgOの含有率」を変化させることはそもそも想定されないから、甲1-1発明において、「セメントクリンカ」を、「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」るものとする動機付けは存在しない。

そして、甲第3~12号証の前記記載事項及び甲第3~12号証のそのほかの記載をみても、甲1-1発明の「セメントクリンカ」において「MgOの含有率」を変化させることはそもそも想定されないことに変わりはないから、甲1-1発明において、「セメントクリンカ」を、「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」る、との前記相違点2’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明2、3について

ア 本件発明2、3は、いずれも、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであって、本件発明2、3のいずれかと甲1-1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点2’の点で相違する。

そして、前記相違点2’は実質的な相違点であって、甲1-1発明において、「セメントクリンカ」を、「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」る、との前記相違点2’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、前記(2-1)イ(ア)~(ウ)に記載のとおりである。

イ そうすると、同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2、3も、甲1-1発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件発明4について

ア 本件発明4と甲1-1’発明とを対比すると、甲1-1’発明における「試供クリンカー」は、本件発明4の「セメントクリンカ」に相当する。

そうすると、本件発明4と甲1-1’発明とは、

「セメントクリンカを含むセメント。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点5’:本件発明4は、「セメント」が、「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」「を含む」との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1’発明は、「セメント」が、「甲1-1発明の試供クリンカーを含む」ものである点。
・相違点6’:本件発明4は、「石膏を含む」との発明特定事項を有するのに対して、甲1-1’発明は、前記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。

イ まず、前記アの相違点5’から検討すると、前記相違点2’は実質的な相違点であることは前記(2-1)イ(ア)に記載のとおりであり、このことから、「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」が、「甲1-1発明の普通ポルトランドセメントクリンカー」であるとはいえないことは明らかであるから、前記相違点1-5もまた実質的な相違点である。

ウ そこで、更に進んで、甲1-1’発明において、「甲1-1発明の試供クリンカー」を「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」とすることを当業者が容易になし得るか否かについて検討すると、甲1-1発明において、「セメントクリンカ」を、「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」る、との前記相違点2’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえないことは、前記(2-1)イ(イ)に記載のとおりである。

エ そうすると、同様の理由により、甲1-1’発明において、「甲1-1発明の試供クリンカー」を「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」とすることを、甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るともいえないので、甲1-1’発明において、「セメント」を、「請求項1~3のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物」「を含む」、との前記相違点5’に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとすることを、甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。

してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1-1’発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-4)甲1-2発明及び甲1-2’発明について

ア 前記(2-1)ア(ア)、(2-2)アと同様にして本件発明1~3のいずれかと甲1-2発明とを対比した場合、甲1-2発明は、「セメントクリンカ」の「組成が」「MgO:1.6%」であるから、いずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。

・相違点2”:本件発明1は、「該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.7質量%以上、1.9質量%未満であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1-2発明は、「セメントクリンカ」の「組成が」、「MgO:1.6%」である点。

イ そして、前記アの相違点2”は、「セメントクリンカ中」の「MgOの含有率」が異なることをいう点で前記相違点2’と同様であり、前記(2-1)イ(ア)~(ウ)、(2-2)ア、イに記載したのと同様の理由により、本件発明1~3は、甲1-2発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、前記(2-3)ア~エに記載したのと同様の理由により、本件発明4は、甲1-2’発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)小括

したがって、本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 甲第2号証を主引用例とする場合について

ア 甲2発明の「セメントクリンカ」において「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を変化させることはそもそも想定されないから、甲2発明において、「セメントクリンカ」を、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカ」とする動機付けは存在しないこと、甲第12号証の記載事項をみても、甲2発明の「セメントクリンカ」において「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を変化させることはそもそも想定されないことに変わりはないこと、このため、本件発明1~3は、甲2発明及び甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないこと、更に、本件発明4は、甲2’発明及び甲第12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、前記第6の1(2)(2-3)ウ~エに記載のとおりである。

そして、甲第3~11号証の前記記載事項及び甲第3~11号証のそのほかの記載をみても、甲2発明の「セメントクリンカ」において「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を変化させることはそもそも想定されないことに変わりはなく、甲2発明において、「セメントクリンカ」を、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカ」とする動機付けは存在しない。

イ そうすると、前記第6の1(2)(2-3)ウ~エに記載したのと同様の理由により、本件発明1~4を、甲第2号証に記載される発明及び甲第3~12号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 小括

したがって、前記第4の1(特許法第29条第2項(進歩性)について)の特許異議申立理由は理由がない。

4 申立人意見書について

(1)特許法第29条第2項(進歩性)について

参考資料1:特開2010-83693号公報

ア 申立人は、申立人意見書(2ページ最終行~5ページ17行)において、

参考資料1には、普通ポルトランドセメント当の汎用セメントにおいて、モルタル等の強度発現性を損なうことなく水和熱を低減することのできる、高強度及び高耐久性を兼ね備えたセメント組成物の製造方法等が開示され、参考資料1に記載のセメント組成物において、C2S、すなわち2CaO・SiO2の含有率が5~55質量%であることが開示されていることから、当業者は、普通ポルトランドセメントにおいて2CaO・SiO2の含有率が5~55質量%であることは格別なことではなく、一般的な事項であることを理解する旨、

参考資料1の表1、表2に示されるように、普通ポルトランドセメントの鉱物組成はクリンカーの鉱物組成とほぼ一致するから、本件発明1の、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカであ」る、との発明特定事項は周知の技術である旨、

参考資料1の2CaO・SiO2の含有率である5~55質量%の下限値を適宜調整して甲第2号証に記載される発明に適用して、2CaO・SiO2の含有率を34質量%から40~55質量%とすることは、当業者にとって数値範囲の好適化に過ぎず、当業者による通常の創作能力の発揮によって適宜行い得る旨、

これらのことから、本件発明1は、甲第2号証に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、このことは、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2~4についても同様である旨を主張している。

イ そこで検討すると、参考資料1に、セメント組成物において、2CaO・SiO2の含有率が5~55質量%であることが開示されていることから、当業者は、普通ポルトランドセメントにおいて2CaO・SiO2の含有率が5~55質量%であることは一般的な事項であることを理解し、更に普通ポルトランドセメントの鉱物組成はクリンカーの鉱物組成とほぼ一致するものであるとしても、甲2発明の「セメントクリンカ」において「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率」を変化させることはそもそも想定されないことに変わりはなく、参考資料1の記載事項が、甲2発明において、「セメントクリンカ」を、「ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40~60質量%のセメントクリンカ」とする動機付けとなるものではないから、甲2発明の「セメントクリンカ」において、2CaO・SiO2の含有率を40~55質量%とすることを、前記参考資料1の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。

したがって、申立人の前記アの主張は採用できない。

(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

ア 申立人は、申立人意見書(5ページ18行~6ページ最終行)において、

本件特許明細書の【0012】には、「セメントクリンカ中のP2O5の含有率が上記数値範囲内であれば、セメントの強度発現性が向上する。」と記載されているのであって、セメントクリンカ中のP2O5の含有率が上記数値範囲内であればセメントの特性に悪影響を与えないと記載されているのではなく、本件特許明細書には、本件発明1が「P2O5の含有率が0.05~0.3質量%である」との発明特定事項を充足することによって、有利な効果がもたらされることが記載されている旨、

甲第5号証の【0004】には、消極的な効果が記載されているに過ぎず、本件特許明細書の【0012】の記載と甲第5号証の【0004】の記載とは、重複する「セメントクリンカ中のP2O5の含有率」によって奏される効果について相反する事項を記載するものであって、これらの記載内容の違いは歴然としており、「P2O5の含有率が0.05~0.3質量%である」との発明特定事項によって奏される効果は、本件特許明細書の【0012】の「セメントの強度発現性が向上する」という効果であると解されるべきであり、甲第5号証の【0004】の記載に基づいて解されるべきではない旨、

当業者は、「P2O5の含有率」をどのように調整すれば、本件特許明細書の【0012】の「セメントの強度発現性が向上する」という効果が奏されるのかを理解できない旨、

これらのことから、甲第5号証の記載を参酌しても、本件発明1はサポート要件を満たしているとはいえず、このことは、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2~4についても同様である旨を主張している。

イ そこで検討すると、前記第6の2(2)ア(3a)、(5a)によれば、セメントクリンカ中にP2O5が含有されるとセメントの圧縮強度等の特性に悪影響があるものであり、特に、汚泥焼却灰等の廃棄物を原料に使用して、セメントクリンカ中のリン化合物がP2O5換算で0.5重量%以上含有されるようになると、セメント特性への悪影響が生じてしまうものである。

更に、前記1(1-2)(4a)によれば、含水汚泥を乾燥してセメント製造設備に大量供給すると、含水汚泥の利用率を上げることによって、セメント製造設備より得られるセメントの品質にリン成分が大きな影響を及ぼす、という問題があるものであり、同(1-3)(6a)によれば、クリンカー中のリンの含有量が増加すると、セメントの種類にかかわらず、材齢1ケ月以内の強度発現が低下することが知られているものであり、同(1-4)(7a)によれば、下水汚泥はリンを多く含有するため(焼却灰でP2O5を20%前後)、クリンカーキャラクターやセメント品質へ悪影響を及ぼすことが懸念されるものであり、同(1-5)(8a)によれば、都市ゴミ焼却灰にはCl以外にもP2O5が多量に含まれており、クリンカー製造およびセメントの品質に多大な影響を及ぼすことが予想されるものであり、同(1-6)(9a)によれば、都市ゴミ焼却灰に多量に含まれるClおよびP2O5は、クリンカー生成およびセメントの物性に大きな影響を及ぼすものと考えられるものである。

そして、前記甲第3~9号証の記載事項によれば、P2O5は、セメントの強度発現性といった物性に悪影響を及ぼすものなのであって、セメントクリンカーにP2O5が含まれることにより強度発現性が更に向上するということはないのであり、このことは、本件特許出願の原出願である2013-197151号の出願日の時点における技術常識といえるものである。

ウ そして、前記イの技術常識に基づいてみれば、本件特許明細書の【0012】の記載に接した当業者は、本件発明が、セメントクリンカ中にP2O5を含有することでセメントの強度発現性を更に向上させるものではなく、セメントクリンカの原料に焼却灰等の廃棄物を利用した場合であっても、「P2O5の含有量」を、セメントの圧縮強度の低下を抑制する、という本件発明の作用、効果に悪影響を及ぼさない範囲にとどめようとするものであり、P2O5が悪影響を及ぼさないことで、「セメントの強度発現性が向上する」という有利な効果を奏するものであると理解するものである。

エ してみれば、本件特許明細書の【0012】の記載は、普通ポルトランドセメントクリンカのP2O5含有量は多くても0.3重量%程度であり、この程度の含有量では、セメントの特性、特に圧縮強度への影響は殆ど無視できることをいう甲第5号証の【0004】の記載と同旨のものといえるのであって、本件特許明細書の【0012】の記載と甲第5号証の【0004】の記載とが、重複する「セメントクリンカ中のP2O5の含有率」によって奏される効果について相反する事項を記載するものとはいえないし、本件特許明細書の【0012】の記載を、甲第5号証の【0004】の記載に基づいて解するべきではないともいえない。

そして、本件発明1~4は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)に規定する要件に適合することは前記第6の2(4)に記載のとおりであるので、申立人の前記アの主張は採用できない。

(3)小括

したがって、申立人意見書における申立人の主張はいずれも採用できない。

第8 むすび

以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。

また、ほかに本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2019-700942

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