特許異議申立
2019-700930
ポリビニルアルコール粉体およびその製造方法
- 審判番号
- 2019-700930
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-525211外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年11月21日
- 審決日
- 2020年02月12日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.536-Y (C08F) / P1651.537-Y (C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6524075号発明「ポリビニルアルコール粉体およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6524075号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6524075号の請求項1~3に係る特許についての出願は、2015年6月3日(優先権主張 平成26年6月4日 日本国(JP))に特許出願され、令和1年5月10日に特許権の設定登録がされ、令和1年6月5日にその特許公報が発行され、令和1年11月21日に、その請求項1~3に係る発明の特許に対し、渋谷都(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 特許請求の範囲の記載
特許第6524075号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径が100~2000μmであり、粒子径500~1000μmの部分における嵩比重(g/ml)が0.60を超えて0.80未満であり、かつ粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であるポリビニルアルコール粉体。
【請求項2】
粘度平均重合度が200~5000であり、けん化度が50~99.99モル%である請求項1に記載のポリビニルアルコール粉体。
【請求項3】
ポリビニルエステルおよび有機溶媒からなるけん化原料溶液が通流する流路中央部にけん化触媒を導入する導入工程と、前記けん化原料溶液と導入されたけん化触媒とをスタティックミキサーを用いてせん断速度5~90s-1にて混合する混合工程と、を有する請求項1又は2に記載のポリビニルアルコール粉体の製造方法。」
(以下、請求項1~3に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明3」という。)
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の申立ての理由を主張している。
1 申立理由1
本件発明1~3は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、概略下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
記
(1)本件発明1は、湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径が100~2000μmであること、かつ粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であることを発明特定事項として含むポリビニルアルコール粉体であるところ、平均粒子径が2000μm又は100μmである場合には、粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であるポリビニルアルコール粉体は存在し得ないのであって、本件発明1~3は発明の詳細な説明に記載されていない。
(2)本件発明3は、スタティックミキサーを用いてせん断速度5~90s-1にて混合する混合工程を発明特定事項として含む。本件発明の技術的範囲は特許請求の範囲自体の記載から解釈されるべきところ、このせん断速度とは、粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度と解釈される。しかしながら、発明の詳細な説明には、粘性液体がバッフルを通過する直前の配管内のせん断速度が記載されているだけであり、発明の詳細な説明には、本件発明3が記載されていない。
2 申立理由2
本件発明1~3について、概略下記の点について、当業者がその発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されてなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載は不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件特許は同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
記
(1)発明の詳細な説明には、湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径が100~2000μmであること、かつ粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であることを発明特定事項として含む本件発明1のポリビニルアルコール粉体の製造方法が記載されていない。
第4 特許異議申立の理由についての当審の判断
1 申立理由1について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
上記「第2」に記載したとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載された製造方法により得られるポリビニルアルコール粉体は、水溶液調整時の溶解に要する時間が長く、生産性を損なうといった問題点がある。また、当該ポリビニルアルコールの粉末は嵩比重が小さく、包装袋の体積が大きいために輸送コストが高いという問題点もある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐飛散性が良好であり、粉体形状から水溶液を調整する際の溶解性に優れ、かつ嵩比重が大きいため輸送コストを低下させることができるポリビニルアルコール粉体、および該ポリビニルアルコール粉体の製造方法を提供することを目的とする。」
(b)「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐飛散性が良好であり、溶解性に優れ、嵩比重が大きいポリビニルアルコール粉体を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、このような優れたポリビニルアルコール粉体を容易に製造することができる。」
(c)「【0011】
本発明のポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)粉体は、湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径が100~2000μmであり、粒子径500~1000μmの部分における嵩比重(g/ml)が0.60を超えて0.80未満であり、かつ粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%である。このような本発明のPVA粉体は、耐飛散性が良好であり、溶解性に優れており、かつ嵩比重が従来のPVA粉体より大きいという特徴を有しているため、単位体積あたりの充填量が多く、輸送コストを低下することができる。以下、本発明のPVA粉体およびその製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明のPVA粉体の湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径は100~2000μmである。平均粒子径が100μm未満であると、PVA微粉が飛散しやすく取扱い性が低下する。平均粒子径は300μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。一方、平均粒子径が2000μmを超える場合には、水溶性が低下し、溶液調整時に長時間を要する。平均粒子径は1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。なお、PVA粉体の平均粒子径は、デジタルマイクロスコープを用いた光学顕微鏡観察により測定された長径の値を示す。
【0013】
湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径が100~2000μmである本発明のPVA粉体を、篩い(メッシュサイズが500μmと1000μm)を用いて篩い分けた場合、粒子径500~1000μm(メッシュサイズが1000μmの篩を通過し、メッシュサイズが500μmの篩を通過しないPVA粉体)の部分の嵩比重(g/ml)は0.60を超えて0.80未満である。嵩比重が0.60未満であると、水溶性が低下するとともに、輸送コストも高くなる。嵩比重は0.61以上であることが好ましく、0.62以上であることがより好ましい。嵩比重が0.60未満であると、水溶性が低下するとともに、輸送コストも高くなる。一方、嵩比重が0.80超であるPVA粉体は製造が困難である。嵩比重は0.75以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましく、0.65以下であることが更に好ましい。なお、本発明のPVA粉体の嵩比重は、JIS K6720-2に準じた方法により測定される数値を表す。
【0014】
本発明のPVA粉体の粒子径分布は粒子径500~1000μmの部分の割合が最も多く、具体的には35~70質量%である。後述する実施例で定義されるように、粒子径500~1000μmの部分の割合は、5つに分けられた粒子径分布の合計を100質量%とした際の割合(質量%)を示す。粒子径500~1000μmの部分の割合が上記範囲にあることにより、本発明の効果がより一層奏されるとともに、空気中へのPVA微粉の飛散を抑えることができる。粒子径500~1000μmの部分の割合は、38質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。一方、粒子径500~1000μmの部分の割合は、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明に用いるPVAの粘度平均重合度は200~5000であることが好ましい。粘度平均重合度が上記範囲にあることにより、水溶性が優れることや、工業的な製造が容易となる。粘度平均重合度は250以上であることがより好ましく、400以上であることが更に好ましい。一方、粘度平均重合度は4500以下であることがより好ましく、3500以下であることが更に好ましい。なお、本発明に用いるPVAの粘度平均重合度はJIS K6726に準じて測定される。すなわち、PVAをけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:リットル/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×10000/8.29)(1/0.62)
【0016】
本発明に用いるPVAのけん化度は50~99.99モル%であることが好ましい。けん化度が上記範囲にあることにより、水溶性が優れることや、安定的に製造できる点から好ましい。けん化度は60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。一方、けん化度は99.8モル%以下であることがより好ましく、99.7モル%以下であることが更に好ましい。なお、本発明に用いるPVAのけん化度はJIS K6726に準じて測定される。」
(d)段落【0017】~【0035】には、本件発明のポリビニルアルコール粉体の製造方法が記載され、同【0023】、【0032】及び【0035】には、以下の事項が記載されている。
「【0023】
図1は本実施形態のPVA粉体の製造方法で使用するけん化装置の構成を模式的に示す図である。また、図2(a)はその触媒導入機構の構成例を示す断面図であり、図2(b)は図2(a)に示すX-X線による断面図である。本実施形態のPVA粉体の製造方法では、例えば図1、2に示すように、流路1内に重合工程で得たポリビニルエステルと有機溶媒とからなるけん化原料溶液を通流させ、その中央部にけん化触媒を含む溶液を導入する。そして、これらを、スタティックミキサー2で混合した後、その混合物を、例えばベルト上などに載置してけん化反応を進行させる。スタティックミキサー2は、内部に互いにかみ合い交差した板状のバッフルを有するエレメントで構成され、エレメント内部のバッフルによって溶液の流れが何段にも分岐されることによって溶液が混合される。その為、粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度が混合状態に大きく影響する。しかしながら、エレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度の測定やそのコントロールは困難である。その為、本願ではスタティックミキサーの配管内部において、粘性液体がバッフルを通過する直前の配管内のせん断速度を制御することでエレメント内部の混合状態を調整することとした。
・・・
【0032】
本発明の製造方法では、このようなスタティックミキサー2を用いて、けん化原料溶液と導入されたけん化触媒とをせん断速度5~90s-1にて混合する。せん断速度が5s-1未満であると、けん化原料溶液とけん化触媒とが十分に混ざり合わず、けん化反応が十分に進行しない。せん断速度は6s-1以上であることが好ましく、7s-1以上であることがより好ましい。一方、せん断速度が90s-1を超えると、得られるPVA粉体の嵩比重が小さくなる傾向がある。せん断速度は70s-1以下であることが好ましく、50s-1以下であることがより好ましい。なお、せん断速度は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。
・・・
【0035】
また、本発明のPVA粉体の製造方法においては、前述した重合工程及びけん化工程を行った後、粉砕工程と乾燥工程を行ってもよい。さらに粉砕工程は予備粉砕工程と本粉砕工程に分けて行ってもよい。けん化工程を経たPVAは、乾燥前の予備粉砕工程や乾燥後の本粉砕工程で溶媒除去後の平均粒子径が前記の範囲内となるように調製され、本発明のPVA粉体となる。本発明に用いる粉砕装置は、本発明で規定する平均粒子径および好ましい粒度分布に粉砕機の回転速度等で適宜調整できるものであれば特に限定されない。本発明のPVA粉体の製造方法においては、さらには必要に応じて酢酸ナトリウムなどの不純物を除去するための洗浄工程を行ってもよい。」
(e)「【0036】
図3(a)は実施例1のPVA粉体の予備粉砕後の表面を光学顕微鏡で観察した写真であり、(b)は比較例1のPVA粉体の予備粉砕後の表面を光学顕微鏡で観察した写真である。本実施形態のPVA粉体では、例えば実施例1の図3(a)に示すようにPVA粉体の内部および表面に気泡はほとんど存在しない。一方、従来のPVA粉体では比較例1の図3(b)に示すようにPVA粉体の内部および表面に多くの気泡が存在する。一般に、PVA粉体を水に溶解させて水溶液を調整する際には、平均粒子径が小さいほど、PVA表面付近が即座に溶解し凝集体が発生しやすい。この凝集体は内部に水を抱き込んだ状態になり、加熱しても容易に溶解せず、その後のPVA水溶液の調整が困難となる。その為、この凝集体の発生を回避するにはPVA粉体の平均粒子径は大きいことが望ましい。しかしながら、従来のPVA粉体の製造方法では図3(b)に示すようにPVA粉体の内部および表面に多くの気泡が存在する為、平均粒子径の大きいPVA粉体では嵩比重が小さくなる問題があった。一方、本実施形態のPVA粉体では、PVA粉体の内部および表面に気泡はほとんど含まない。さらには、特定範囲の平均粒子径であり、かつ特定範囲の部分における嵩比重を調整することで、粉体形状から水溶液を調整する際の溶解性に優れ、かつ嵩比重が大きいPVA粉体が得られる。」
(f)「【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。以下の実施例および比較例において「部」および「%」は、特に断りのない限り質量基準を意味する。
【0039】
[せん断速度の測定]
実施例および比較例の製造方法において、せん断速度は、ポリ酢酸ビニル(以下、「PVAc」と略記することがある)溶液のフィード量(m3/s)、スタティックミキサーの断面積(m2)およびスタティックミキサーの直径(m)から、次式により求められる。スタティックミキサーの直径を変更することによりせん断速度を制御することができる。
せん断速度(s-1)=PVAc溶液のフィード量/(スタティックミキサーの断面積×スタティックミキサーの直径)
【0040】
[PVA粉体の平均粒子径の測定]
実施例および比較例で用いられたPVA粉体を湿度65%RH、温度25℃の条件下で24時間静置した。次いで、光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープKH-7700;株式会社ハイロックス社製)を用いて写真撮影をした。その写真から任意に50個のPVA粉体を選び、それぞれ実測し、その長径の平均値を平均粒子径(μm)とした。ただし、20μm未満のPVA微粉は、写真のコントラスト斑と区別がつかないため、測定の対象外とした。
【0041】
[PVA粉体の粒度分布の測定]
実施例および比較例で用いられたPVA粉体300gについて、メッシュサイズの異なる4種類の篩い(メッシュサイズ:250μm、500μm、1000μm、1180μm)を用いて篩い分けした。得られた各粒子径を持つPVA粉体の質量を測定して、各々の質量%を計算した。
・・・
【0045】
[実施例1]
けん化原料溶液であるポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液(濃度32質量%)を4700L/h(=1.31×10-3m3/s)でフィードし、けん化触媒溶液である水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度4質量%)を図2に示す流路中央部に165L/hでフィードした。フィードされたけん化原料溶液およびけん化触媒溶液をエレメント数22個(1エレメント当たりの圧力損失は0.035MPa)のスタティックミキサーを用いて、せん断速度10.6s-1の条件で混合した。得られた混合物を、ベルト上に載置し、40℃の温度条件下で18分保持して、けん化反応を進行させた。その後、予備粉砕、乾燥、本粉砕を行い、本粉砕時の粉砕機出口で12メッシュ(JIS規格)の篩いを通し、本発明のPVA粉体を得た。得られたPVAの粘度平均重合度は2400、けん化度は88.3モル%であった。得られたPVAの分析結果を表2に示す。
【0046】
[実施例2~6および比較例1~3]
けん化反応、粉砕の製造条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~6および比較例1~3のPVA粉体をそれぞれ得た。得られたPVAの分析結果を表2に示す。
【0047】
[比較例4]
けん化反応の条件を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に実施した。その結果、不均質な混合溶液の状態で鹸化反応が起こり、均質なPVA粉体が得られなかった。
【0048】
【0049】
」
(4)本件発明の課題について
本件発明1~3の課題は、発明の詳細な説明の段落【0006】及び明細書全体の記載からみて、耐飛散性が良好であり、粉体形状から水溶液を調整する際の溶解性に優れ、かつ嵩比重が大きいため輸送コストを低下させることができるポリビニルアルコール粉体を提供すること、および、該ポリビニルアルコール粉体の製造方法を提供することであると認める。
(5)判断
ア 本件発明1及び2について
本件発明の詳細な説明には、本発明のポリビニルアルコール粉体は、湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径が100~2000μmであり、粒子径500~1000μmの部分における嵩比重(g/ml)が0.60を超えて0.80未満であり、かつ粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であることにより、耐飛散性が良好であり、溶解性に優れており、かつ嵩比重が従来のPVA粉体より大きいという特徴を有しているため、単位体積あたりの充填量が多く、輸送コストを低下することができる旨の記載がされ(摘記(c)の段落【0011】)、ポリビニルアルコール粉体の湿度65%RH、温度25℃にて光学顕微鏡観察により測定した時の平均粒子径は100~2000μmであること、平均粒子径が100μm未満であると、PVA微粉が飛散しやすく取扱い性が低下すること、一方、平均粒子径が2000μmを超える場合には、水溶性が低下し、溶液調整時に長時間を要することが記載され(摘記(c)の段落【0012】)、ポリビニルアルコール粉体の粒子径500~1000μmの部分における嵩比重(g/ml)が0.60超0.80未満であること、嵩比重が0.60未満であると、水溶性が低下するとともに、輸送コストも高くなること、一方、嵩比重が0.80超である粉体は製造が困難であることが記載され(摘記(c)の段落【0013】)、ポリビニルアルコール粉体の粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であることにより、本発明の効果がより一層奏されるとともに、空気中へのPVA微粉の飛散を抑えることができることが記載され(摘記(c)の段落【0014】)、本件発明のポリビニルアルコール粉体では、粉体の内部および表面に気泡はほとんど含まず、さらには、特定範囲の平均粒子径であり、かつ特定範囲の部分における嵩比重を調整することで、粉体形状から水溶液を調整する際の溶解性に優れ、かつ嵩比重が大きい粉体が得られることが記載されている(摘記(e))。
また、本件発明のポリビニルアルコール粉体は、前駆体となる重合体の重合工程及びけん化工程を行った後、粉砕工程を予備粉砕工程と本粉砕工程に分けて行うこと、乾燥前の予備粉砕工程や乾燥後の本粉砕工程で溶媒除去後の平均粒子径が前記の範囲内となるように調製され粉体となること、粉砕機の回転速度等で適宜調整することにより本発明で規定する平均粒子径および好ましい粒度分布に調整できることが記載されている(摘記(d)の段落【0035】)。
そして、実施例において、具体的に本件発明1の特定を満足するポリビニルアルコール粉体が製造され、本件発明1の課題が解決できたことが具体的なデータと共に記載されている(摘記(f))。
そうすると、本件の発明の詳細な説明には、本件発明1が記載されており、本件発明1の課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されており、また、本件出願時の技術常識に基づき発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
また、本件発明1を引用する本件発明2も同じ理由により発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3のうち「せん断速度」の解釈について
特許請求の範囲の請求項3には、「せん断速度」についての具体的な定義等は明示されていない。そこで発明の詳細な説明の記載をみてみると、段落【0023】には、粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度が混合状態に大きく影響するが、エレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度の測定やそのコントロールは困難であるため、本願ではスタティックミキサーの配管内部において、粘性液体がバッフルを通過する直前の配管内のせん断速度を制御することでエレメント内部の混合状態を調整することとした、という旨の記載がされ(摘記(d))、同【0032】には、「せん断速度は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。」と記載され、同【0039】には、実施例における「[せん断測定の測定]」として、「実施例および比較例の製造方法において、せん断速度は、ポリ酢酸ビニル溶液のフィード量(m3/s)、スタティックミキサーの断面積(m2)およびスタティックミキサーの直径(m)から、次式により求められる。・・・
せん断速度(s-1)=PVAc溶液のフィード量/(スタティックミキサーの断面積×スタティックミキサーの直径)」という記載がされ(摘記(d))、同【0048】の表1には、実施例及び比較例におけるせん断速度(単位はs-1)の値が記載されている(摘記(f))。
これらの発明の詳細な説明の記載からすると、特許請求の範囲の請求項3に記載された「せん断速度」は、実施例における測定法である段落【0039】に記載された「せん断速度(s-1)=PVAc溶液のフィード量/(スタティックミキサーの断面積×スタティックミキサーの直径)」であると解釈することが適切である。
(イ)判断
本件発明の詳細な説明の段落【0017】~【0035】には、ポリビニルアルコール粉体の製造方法が記載され(摘記(d)参照)、特に段落【0018】には、ビニルエステルを重合させ得られたポリビニルエステルをけん化することによりポリビニルアルコールが製造できること、同【0023】には、ポリビニルエステルと有機溶媒とからなるけん化原料溶液にけん化触媒を導入し、スタティックミキサーで混合することによりけん化反応を進行させることが記載されている(摘記(d)参照)。より詳細には、同【0027】には、混合効率を良好にするため、けん化原料が流れる流路の中央部にけん化触媒を導入することが記載され、同【0032】には、スタティックミキサーによるせん断速度は5~90s-1で混合することが記載され、せん断速度が5s-1未満であるとけん化反応が十分に進まないこと、90s-1を越えると粉体の嵩比重が小さくなる傾向があることが記載されている(摘記(d)参照)。
そして、実施例において、具体的に本件発明3の製造方法における特定を満足するポリビニルアルコール粉体が製造され、本件発明3の課題が解決できたことが具体的なデータと共に記載されている(摘記(f))。
そうすると、本件の発明の詳細な説明には、本件発明3が記載されており、本件発明3の課題が解決できることが当業者に認識できるように記載されており、また、本件出願時の技術常識に基づき発明の詳細な説明に記載や示唆がなくても当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
(6)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の中で、上記第3 1(1)及び(2)で示した主張をしているので、以下、検討する。
ア (1)の主張について
申立人は、申立人が想定したPVA粉体の粒子径分布曲線を前提として、平均粒子径が2000μm又は100μmである場合には、粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%であるポリビニルアルコール粉体は存在し得ないと主張する。
しかしながら、この主張の前提となる申立人が想定した粒子径分布曲線は、あくまで、申立人の想定にすぎず、本件発明1におけるポリビニルアルコール粉体の粒子径分布曲線であるとはいえないから、この申立人の主張は前提において誤りがあり採用できない。念のため、これらの粒子径分布曲線について検討を進め、申立人の主張のとおり粒子径500~1000μmの部分の割合が35~70質量%の範囲に含まれないとしても、これは、本件発明1の要件を満たさない例を示しているものであり、本件発明1の具体例ではないから、本件発明1のサポート要件とは関係のないことである。
よって、申立人の(1)の主張は採用できない。
イ (2)の主張について
まず、申立人は、本件発明の技術的範囲は特許請求の範囲自体の記載から解釈されるべき、と主張するので、特許請求の範囲の記載に従い「せん断速度」の意味について検討するが、「せん断速度」が「粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度」と解すべき技術常識はないから、申立人のこの主張は採用できない。
つぎに、発明の詳細な説明の記載をみてみる。
確かに、申立人が示すように、段落【0023】には、「エレメント内部のバッフルによって溶液の流れが何段にも分岐されることによって溶液が混合される」こと、「粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度が混合状態に大きく影響する」という記載はある。
これらの記載について検討すると、上記記載がある同【0023】には「スタティックミキサー2は、内部に互いにかみ合い交差した板状のバッフルを有するエレメントで構成され、エレメント内部のバッフルによって溶液の流れが何段にも分岐されることによって溶液が混合される。その為、粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度が混合状態に大きく影響する。しかしながら、エレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度の測定やそのコントロールは困難である。その為、本願ではスタティックミキサーの配管内部において、粘性液体がバッフルを通過する直前の配管内のせん断速度を制御することでエレメント内部の混合状態を調整することとした。」と記載されていることに照らせば、上記記載は、スタティックミキサーが内部に互いにかみ合い交差した板状のバッフルを有するエレメントで構成されるものであり、スタティックミキサー内で溶液が混合される状況を前提とした上で、粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度が混合状態に大きく影響するものであるとしても、エレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度を測定することは困難であることを述べているものであると解釈することが適切であるといえ、本件発明3における「せん断速度」を意味していると解釈できない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載をみても、本件発明3における「せん断速度」を、同【0023】に記載された「粘性液体がエレメント内部のバッフルを通過する際のせん断速度」であると解することはできない。
そして、上記(5)イ(ア)で述べたように、本件発明の詳細な説明には、同【0023】の記載に続いて、同【0032】には、「せん断速度は、後述する実施例に記載された方法により測定された値を示す。」と記載され、同【0039】には、実施例における「[せん断測定の測定]」として、「実施例および比較例の製造方法において、せん断速度は、ポリ酢酸ビニル溶液のフィード量(m3/s)、スタティックミキサーの断面積(m2)およびスタティックミキサーの直径(m)から、次式により求められる。・・・
せん断速度(s-1)=PVAc溶液のフィード量/(スタティックミキサーの断面積×スタティックミキサーの直径)」と記載されていることからすれば、本件発明3における「せん断速度」は、同【0039】で示される式により算出されるものであると解することが適切であるといえる。
以上のとおりであるので、申立人の(2)の主張は採用できない。
(7)特許法第36条第6項第1号についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~3が発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。
2 申立理由2について
(1)特許法第36条第4項第1号の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
また、方法の発明では、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第2」に記載したとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載について
上記「1(3)」で示した事項に加えて、以下の記載がされている。
(g)「【0050】
以上の結果から、ポリ酢酸ビニルのメタノール溶液からなるけん化原料溶液が通流する流路中央部に、けん化触媒を導入した後、スタティックミキサーを使用してせん断速度5~90s-1にてけん化原料溶液とけん化触媒とを混合することで、耐飛散性が良好であり、得られるPVA粉体が水溶性に優れ、かつ嵩比重が大きい為輸送コストを低下できることが分かる。このような本発明のPVA粉体は、各種バインダー、紙加工、繊維加工およびエマルジョン用等の安定剤や、PVA系フィルムおよびPVA系繊維等の原料として有用である。」
(4)判断
ア 本件発明1~3について
本件発明1~3に係るポリビニルアルコール粉体の製造方法は、本件の詳細な説明の段落【0017】~【0035】に記載されており、また、同【0038】~【0049】には、具体的に製造した実施例が記載されている。また、同【0050】には、このポリビニルアルコール粉体を使用することができることが記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく本件発明1~3を作り、使用することができることが記載されているといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の中で、上記第3 2(1)で示した主張をしているので、以下で検討する。
上記1(6)アで述べたとおり、申立人の主張は前提において誤りがあるから採用できない。念のため検討したとしても、申立人の主張の前提は本件発明1の具体例ではないから、本件発明1の実施可能要件とは関係ないことである。
よって、申立人の(1)の主張は採用できない。
(6)特許法第36条第4項第1号についてのまとめ
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をできる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700930